ちひろ「ここは絶対に通さないわ!」 (43)

ちひろ「うう……今日も一日疲れたなあ……」

ちひろ「プロデューサーさんやアイドルのみんなもそろそろ仕事終わる時間だと思うけど……」

ちひろ「ま、事務所で待つとしますか」

ちひろ「お疲れ様でーす」ガチャリ

凛「………………ああ」ゴゴゴゴゴゴ

美嘉「………………ちひろさん」ゴゴゴゴゴゴ

まゆ「………………お疲れ様でぇす♪」ゴゴゴゴゴゴ

ちひろ「」

ちひろ「え、えーと……みんな、どうしたのかしら?」

凛「いや、まゆと美嘉がね」

美嘉「凛とまゆがね」

まゆ「凛ちゃんと美嘉ちゃんがねぇ」

凛・美嘉・まゆ「「「プロデューサーと一番分かり合ってるのは自分だっていうの。そんなの」」」

凛「私」

美嘉「アタシ」

まゆ「まゆ」

凛・美嘉・まゆ「「「に決まってるのにね」」」

凛・美嘉・まゆ「………………………………」ゴゴゴゴゴゴ

ちひろ「………………ああ、うん、そうね、そうに決まってるよね、うん」

凛「そうだ。ねぇちひろさん、ちひろさんはどう思う……」

ちひろ「あーっ! ちょっと忘れ物してきちゃったー! とってこなきゃー!」ガチャッ

凛「えっ、ちょっと―――」バタンッ

ちひろ「………………」

ちひろ(ああ……プロデューサーさん、あのロクデナシめ……)

ちひろ(あの甲斐性無しが、天然なのか意図してなのかスルーしてばっかりだからこんなことに……)

ちひろ(……まあ、この手の問題はあの女たらしならぬアイドルたらしがどうにかすればいいや。私はもうめんどくさいのでこのまま帰らせてもらおうかしら)

ちひろ(……ん? 待てよ)

このままあの三人を放置する

プロデューサーに好意を持ってる誰かが部屋に入る

危うい均衡で保たれていた膠着状態が崩れる

ガチ修羅場勃発

事務所崩壊(人間関係的な意味で)

事務所閉鎖

ちひろは路頭に迷う

ちひろ「な、なんてこと……!」ガタガタガタ

ちひろ(ど、どうしよう、私にあの三人をどうにかできるはずもないし、このままじゃ……)

ちひろ(プロデューサーさんは今、楓さんと仕事に出ちゃってるし、あの三人はきっとアイツが帰ってくるまで待つつもりだろうし……)

ちひろ(……腹を括るしかないようね)

ちひろ(こうなったら―――)

ちひろ「プロデューサーさんが帰ってくるまで、何人たりともここは絶対に通さないわ!」

美優「あらちひろさん、お疲れ様です……」

ちひろ(早速愛がヘヴィーな方が!)

ちひろ「お、お疲れ様です美優さん」

美優「……? どうされたんですか、ドアの前で仁王立ちになって」

ちひろ「え? ああいや、これは、えっと……」

美優「? えっと、今日はそろそろ帰ろうと思うので、部屋に荷物を取りに行きたいのですが……」

ちひろ「あ、そうなんですか……」

ちひろ(どうしよう……まあ美優さんは穏やかな人だし、修羅場が悪化することもないでしょう。もしかしたら大人の対応で場を収めてくれるかも)

美優「本当はプロデューサーさんに挨拶したかったのだけど……最近あまりあの人とお話してないわ、いつも他の子ばかり構ってるから……」

ちひろ(あ、アカンわこれ。あの人とか言ってるし)

ちひろ(ここは……美優さんの奥ゆかしさを利用させてもらいましょう!)

ちひろ「えーっとですね、美優さん……今、この扉の向こうはそれはそれは悲惨な状態でですね」

美優「は、はあ……?」

ちひろ「プロデューサーさんが机の中に隠していたコレクションを、うっかり掃除の途中にぶちまけちゃいまして……ちょっとお見せできない感じなんですよ、プロデューサーさんの尊厳の保護の観点から」

美優「え……それってどういう……?」

ちひろ「皆まで言わせるつもりですか? 男性の尊厳が破壊されるようなシロモノだと言っているんですよ」

美優「えっ……ふええっ?」カァァァ

ちひろ「とにかく、少し隣の会議室で待ってもらっててもいいですか? 今から荷物取ってくるんで」

美優「は、はいぃ……」ソソクサ

―――――
ちひろ「美優さんは帰ったか……やれやれ、何とか耐えしのいだわね」

ちひろ「うう、確か今日はみんな帰るのが遅めだったはず……全員切り抜けられるかしら……」

加蓮「あれ? どうしたのちひろさん、そんな所に立って」

ちひろ(うわっ!! これはまた難しそうな子が!)

加蓮「……何? その顔」

ちひろ「え? いや、ううん、何でもないわよ?」

加蓮「ならいいけど。それより、そこ通してもらってもいい?」

ちひろ「え? いや、あの……」

加蓮「……? 何?」

ちひろ(何て言えばいいかしら……さっきと同じ手ではこの子は引かない気がするし……)

ちひろ(ここは……よし!)

ちひろ「あのね、今プロデューサーさん、今度のお休みのために、いつも以上に猛烈に仕事してるの。何でだと思う?」

加蓮「? どういうこと?」

ちひろ「ふふ、プロデューサーさんはね、今度のお休み、加蓮ちゃんと二人でお出かけしようって考えてるのよ」

加蓮「えっ……ええっ!?」

ちひろ「お休みがなくならないように、徹底的に仕事を終わらせるつもりなのよ。でもプロデューサーさん恥ずかしがり屋だから、あまりそういうところ見せたがらないの。分かってくれる?」

加蓮「……うん、分かった。今は部屋に入らないよ」

ちひろ「ありがとう。加蓮ちゃんはいい子ね。あとで荷物持っていくから、いったん隣の部屋で待っててもらえる?」

加蓮「ふふ……プロデューサーとお出かけ……凜でもまゆでも美嘉でもない、アタシと……ふふ……」

―――――
ちひろ「加蓮ちゃんも耐えたわね。何か余計色々とアレになった気もするけど、まーどうにかなるでしょ、プロデューサーさんなら」

ちひろ(やれやれ、次はもっと軽いノリの子だといいなあ)

文香「あ……ちひろさん、お疲れ様です」

ちひろ「え? ああ、文香ちゃんお疲れ様」

ちひろ(良かった、文香ちゃんはそんなにプロデューサーさんに対してヘヴィーじゃないし、この子なら必死にごまかさなくても……)

文香「あの……どうされたんですか? ドアの前に仁王立ちして……」

ちひろ「え? い、いや、何でもないのよ? それよりもえっと、文香ちゃんは今から帰るの?」

文香「ええ……お仕事が終わったので今日は……」

ちひろ「そうなの。学校の勉強や叔父さんの古本屋さんの手伝いも一緒にやるなんて大変でしょう?」

文香「いえ、そんなことは……アイドルのお仕事は確かに大変ですけど……プロデューサーさんも一緒ですから、辛いとは思いません」

ちひろ「そうなんだ、偉いわね……って、ん?」

文香「プロデューサーさんのおかげで、私は自分ひとりの世界から飛び出すことが出来ました……」

文香「あの人がいなかったら……私はきっと、いつまでも書の世界に浸ってばかりだった」

文香「プロデューサーさんは、そんな私を変えてくれた……。私を理解してくれた上で、私の知らない私に気づかせてくれた」

文香「あの人にとっては、私は担当アイドルの一人に過ぎないかもしれません……。でも私にとっては……私の人生を一変させてくれた、恩人なんです」

文香「願わくば、私の隣で……もっともっと、新しい世界を見せてほしいと……そう、思ってるんです」

ちひろ「あー……そうなんだ。うん、ステキだね。でもそれ、絶対にみんなの前で言っちゃダメだからね」

ちひろ(勘弁してよ、なんでウチの事務所こんな子ばっかりなの)

ちひろ(ていうか恋愛ネタの爆弾抱えてる子ばっかりってどういうことなの。しかも原因の9割9分9厘がプロデューサーだし)

ちひろ(それはそうとどう対処したものかしら。美優さんと同じネタってのも面白くな……じゃなくて下手打つかもだし、えーっと……そうだ!)

ちひろ「ねえ文香ちゃん、文香ちゃんは、プロデューサーさんのことどう思ってる?」

文香「……? どう、とは?」

ちひろ「プロデューサーさんはね、文香ちゃんのこと、大切なパートナーだと思ってるのよ?」

文香「…………え?」

ちひろ「今まで、プロデューサーさんは色んなアイドルの卵を発掘してきているけど……文香ちゃんはその中でも、他に類を見ないタイプの逸材だって言ってたわ」

ちひろ「ううん、それだけじゃない、あなたのその控えめだけど健気で頑張り屋な性格にも心打たれたって」

ちひろ「自分の声に応えて、今まで考えてもいなかった世界へ踏み出してくれたことにすっごく感動したって……そう言ってたわ」

ちひろ(だいぶ誇張してるけど、まあこんな感じのこと言ってたし、嘘はついてない)

ちひろ(これで文香ちゃんは恥ずかしがって、人前に出られないといって部屋に入らず帰るはず!)

文香「……ぷ、プロデューサーさんが……そんな……私、私……ッ」

文香「ふぅ、ふええっ……うううっ……」

ちひろ「!?」

ちひろ「ちょ、文香ちゃん!?」

文香「ごっ、ごめんなざっ……ひっく、私っ、誰かにそんな風に思ってもらえたの初めてで、嬉しくって……ううっ、あううっ……」

ちひろ(よ、予想以上の効果ね……)

ちひろ「と、とりあえず隣の会議室で落ち着きましょ? ね? 荷物はそっちに持っていってあげるから、ね?」

文香「は、はい……ぐすっ、ひっく」

―――――
ちひろ(何とか文香ちゃんも退けることが出来たわ……)

ちひろ(色々とヤバいネタが増えた気がするけど、気にしないでおこう)

ちひろ(ああ、そろそろ精神的に限界が……)prrrrrr

ちひろ(いや、こんなところでヘタれるわけにはいかないわ、事務所のために、何より私の未来のために!)prrrrrr

ちひろ(―――っと!?)prr...

ちひろ(ああ、携帯切れちゃった。電話……楓さんから?)

ちひろ(確か今日、楓さんは仕事でプロデューサーさんと出てて、とっくに仕事は終わってるはずで……はっ!?)

楓さんの仕事が終わる

プロデューサーさんと飲みに行く

いい感じに酔う

帰る前に一応事務所(ちひろ)に電話を入れたが、出なかった←今ここ

事務所の電話に掛ける

今現在、電話のある部屋には嫉妬に狂った三人娘がいる

三人のうち誰かが電話を取る

楓さんが空気を読まずにプロデューサーとサシで飲んだことを言う

ガチ修羅場勃発

(中略)

事務所閉鎖

ちひろは路頭に迷う

ちひろ「な、なんてこと……!」ガタガタガタ

室内

prrrr……>

まゆ「あら? 電話が……」

凛「今大事な話してるのに……プロデューサーかな?」

美嘉「仕方ないなー……じゃあアタシが出るよ」

凛「美嘉は座ってて。私が出るから」

まゆ「二人とも座ってていいわよぉ、まゆが出るからぁ♪」

凛・まゆ・美嘉「……………」ゴゴゴゴゴゴゴ

ちひろ「ッッッらぁあああああああああああ!!」ドアバターン

凛・まゆ・美嘉「ッ!?」ビクッ

ちひろ「事務所の電話の対応はァァァァァ……」ダダダダダ

凛・まゆ・美嘉「……」ポカーン

ちひろ「私の仕事だァァァァァ!!」ガチャッ

ちひろ「もしもしィ!?」

楓『ちひろさん、高垣です。すみません、先ほど携帯の方に掛けたのですが……』

ちひろ「ああ楓さん、ごめんなさい、うっかり出損ねちゃって……で、ご用件は?」

楓『いえ、先ほどまでプロデューサーさんと飲んでたんですけど、彼、酔いつぶれちゃって……事務所のほうに運ぼうか、それとも家まで送ろうかって思ってるんですけど……まだ事務所って開いてますか?』

ちひろ「ええ、まあ、開いてるって言えば開いてるんですけど……」

楓『都合が悪いようでしたら、プロデューサーさんの家まで送ろうかと思ってるんですが……ふふっ、それともこのまま、私の家に持って帰っちゃおうかしら?』

ちひろ(しめた!!)

ちひろ「ええいいですよ!! どうぞ持って帰っちゃってください!!」

楓『え? いいんですか? 私、半分冗談のつもりだったんですけど……』

ちひろ「もっちろん! むしろ絶ッ対に事務所に持ってこないでくださいね! 事務員とアイドルの約束ですよ!」

楓『はあ……そう仰るなら、持って帰っちゃいますね』

ちひろ「ええどうぞ煮るなり焼くなりお好きなよーに! ではっ!」

楓『ええ、お休みなさい』

ガチャッ

ちひろ「ふう……」

凜「ええっと、ちひろさん?」

まゆ「楓さん、何の用事で掛けてきたんですかぁ?」

美嘉「絶対持ってこないでとか何とか……いったい何の話?」

ちひろ「えっ……ああいや、楓さん、高いお酒を衝動買いしちゃったらしくって、未成年の子もいるから持って来ちゃダメですよって話を……」

凜「………………ふぅん」

美嘉「………………そうなんだ」

まゆ「………………怪しいなぁ」

ちひろ「うぐっ!?」

凜「ま、真偽の程は今から楓さんに電話で訊けば確かめられるけどね」ピッピッ

ちひろ(ま、まずい!!)

ちひろ「あっ……え、ええっとぉ、楓さん、今日は仕事で疲れたからゆっくり休みたいって言ってたなぁ~?」チラッチラッ

凜「む……」

美嘉「あ……」

まゆ「う……」

ちひろ(ふふ……この子達が本来はいい子だってことは知ってるわ。こう言っておけば、もう今日は電話しないはず……)

ちひろ(この子達が帰ってから電話で楓さんと口裏を合わせておけば、最悪の事態は回避できるはずだわ! これで私の勝ちよ!)

翌朝
ちひろ「おはようございまーす!」ガチャッ

凜「おはよ、ちひろさん」

美嘉「ちひろさんおはよー★」

まゆ「おはようございまぁす♪」

ちひろ(いやぁ、良かった良かった。三人とも一晩経って落ち着いたみたいだし。楓さんにもうまいこと言い含めることが出来たから、これで問題ないでしょ)

ちひろ「私、今日ちょっと遠出するから、プロデューサーさんによろしく言っておいてね?」

凜「ん、分かった」

ちひろ「それじゃ、行ってくるわ」


ちひろ「ふう、一段落したし、そろそろ事務所に……」prrrrrr

ちひろ「あら、プロデューサーさんから電話。もしもし?」

ちひろ「えっ? 今ピンチ? 何で? 凜ちゃんとまゆちゃんと美嘉ちゃんが問い詰めてくる?」

ちひろ(ば、馬鹿な。全部うまく誤魔化したはず……! まさか楓さんが…?)

ちひろ「……ん? 美優さんが顔を真っ赤にしながら『コレクションなんかじゃなくて、その、私の……』とか言ってきて、それをばっちり凜ちゃんに聞かれた?」

ちひろ「加蓮ちゃんが身に覚えのない約束を確認してきて、それをばっちりまゆちゃんに聞かれた? しかも加蓮ちゃんがまゆちゃんの指摘に対し勝ち誇ったような顔で答えた?」

ちひろ「文香ちゃんがプロデューサーのそばから離れようとしない? 凜ちゃんたちからのプレッシャーもなんのその?」

ちひろ「挙句の果てに、昨夜特に何も起こらなかったのに、楓さんが『昨夜はお楽しみ……ふふっ、何でもありません』って小声で言ってきたのをやっぱりばっちり美嘉ちゃんに聞かれた?」

ちひろ「……あー」

ちひろ「あーあーあー、なーるほど」

ちひろ「それは身から出たサビってヤツですね! いつまでもはっきりしないプロデューサーさんが悪いんです!」ニッコリ

ちひろ「泣いて縋ってもダメですよ♪ え? もうドアのすぐ前まで来てる? 知りませんよーそんなことー」

ちひろ「では健闘を祈ります。無事ならまた会いましょう。やみのまー♪」ピッ

ちひろ「……」

ちひろ「…………」

ちひろ「…………転職先、探そうかしら」

終わり

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