高槻「高槻やよい、22歳です。」(156)
P「え?やよいが倒れた?」
伊織『ええ。今朝弟君から連絡あってね。今、新堂と一緒に様子を見に来てるんだけど…』
伊織『かなりの高熱で、思ってたより良くないわね』
P「わ、わかった…俺もすぐにいくよ」
伊織『待ちなさい』
伊織『やよい、あの様子じゃ、きっと今週いっぱいの仕事は無理よ。先に仕事の調整して頂戴』
伊織『それは、あんたにしかできない事でしょ?』
伊織『あんたがこっちに来ても何の役にも立たないんだから。どうせ来るなら全部片付いてからにして』
P「でも…」
伊織『しつこいわね!こっちは私に任せてって言ってるの!』
P「…わかった。すまん、そっちを頼む、伊織」
伊織『ええ。…律子、そこにいる?ちょっと電話代わって』
P「みんな。ちょっと集まってくれ」
P「やよいが体調不良で倒れたそうだ。かなり症状が重いらしい…」
亜美「兄ちゃん…やよいっち、大丈夫なの?」
P「まだわからん…。伊織がとりあえず手をまわしてくれている」
響「プロデューサー。やよいのところに行ったほうがいいんじゃないか?」
P「そうしたいのは山々だが…」
P「まずは、やよいの抜けた穴を、俺たちがしっかりフォローしよう」
P「みんなの協力が必要なんだ。助けてくれるか?」
「「はい!」」
P「各自、営業、レッスンについては、悪いが今日は俺無しで対応してくれ」
P「先方から今日の仕事以外の話があった場合は、各自で判断せず、俺にまず連絡を」
P「電話がつながらなければ、メールでもいい。こういう時こそ、連携を密にしよう」
小鳥「プロデューサーさん…」
社長「音無君。」
社長「やよい君のもとへは、私が先に向かうよ」
小鳥「わかりました。プロデューサーさんにお伝えしておきます」
社長「正念場だね…。しかし、この類のアクシデントは常に起こり得るものだ」
社長「そんな時こそ、みんなの真価が発揮される。」
社長「やよい君も、頑張っていることだろう。私たちも踏ん張ろうではないか」
小鳥「はい…そうですね…」
P「よし、みんなはとりあえず仕事に向かったな…」
P「次はやよいと関係のあるクライアントへ連絡だ」
小鳥「プロデューサーさん。お手伝いします」
P「ありがとうございます。小鳥さんは、今、やよいが関わっているクライアントの洗い出しをお願いします」
小鳥「わかりました。…無理、しないでくださいね?」
P「今、無理せずに、いつ無理するんですか。大丈夫です。俺なら全然余裕ですから!」
小鳥「…わかりました。すぐにまとめます!」
P「お願いします。俺は今日明日で仕事の予定がある関係先と連絡をとりますので」
TLLL...
小鳥「はい、765プロです」
??『つ、繋がった!よかった~』
小鳥「えっと…どちら様でしょうか?」
??『はうっ、す、すいません…』
小鳥(どこかで聞いたことのあるような声…?)
??『あの!助けてもらえませんか!?』
小鳥「え!?た、助けるって…?どうすれば…」
??『もしかして、事務所って、たるき亭ビルのほうですか?』
小鳥「え、ええ…」
??『今からそっちに行きますので、お願いします!』
小鳥「い、今から…!?あの、お名前は…」
??『やよいです、高槻やよいです!』
P「え?やよいから電話!?」
小鳥「ええ、今さっき…」
小鳥「すごく元気そうでしたけど…」
P「どういうことだ…?何かあれば伊織や社長が連絡をくれるはず…」
小鳥「事務所に向かっているそうなんですけど、様子がどうも…」
P「う~ん…どういうことだ…」
P「と、とりあえず。事務所、任せてもらっていいですか?音無さん」
小鳥「え、ええ。私は大丈夫です」
P「俺、先方へ向かいます。そのあと、伊織が教えてくれた病院に行く予定ですが…」
P「状況が変わってたら、教えてください。メールでいいですので。それじゃ行ってきます!」
小鳥「あ、はい。気を付けて…」
ヴヴヴ…
P「ん、電話…春香か。もしもし春香?どうかしたか?………」
小鳥「…では、こちらから改めて折り返しいたしますので。…はい。失礼いたします」
小鳥(今のところ、事務所への問い合わせは少ないわね)
コンコン…
小鳥「ん?」
??「し、しつれいしますー…」
小鳥「はいー」
??「あ…あー!!小鳥さん!お久しぶりですー!」
??「すごいですね!全然お変わりなく…」
小鳥「!?…え、えっと…どちら様…でしょうか?」
??「あ…。そ、そうですよね…。すいません…」
小鳥「??」
??「あの!信じてもらえないかもしれませんけど…」
??「私、やよいなんです!高槻やよいです!」
小鳥「えっと、とりあえずお茶をどうぞ…」
高槻「ありがとうございますー」
小鳥(この人が…やよいちゃん??)
小鳥(律子さんみたいな、高そうなスーツ着てるし…)
小鳥(私の知ってるやよいちゃんより明らかに背が高いし…見た目がとても14歳には…)
小鳥(でも、声は似てるし、面影も、ないこともない…)
高槻「あの、小鳥さん!テレビつけてもいいですか?」
高槻「あと新聞があったりするとありがたいです!」
小鳥「あ、はい…テレビは自由に使ってもらって…。新聞は、社長の机にあったかな…」
高槻「……」
高槻「小鳥さん。今日の日付って、やっぱり…」
小鳥「2月3日ですけど…?」
高槻「いえ、年のほうです。」
小鳥「2013年…」
高槻「やっぱり…2013年…。」
小鳥「あの…あなたのこと、疑っているわけではないんですけど…」
小鳥「本当に、やよいちゃんなの?」
高槻「はい、高槻やよいです。…でも」
小鳥「でも?」
高槻「今の小鳥さんの知っているやよいとは、別のやよいなのかもしれません…」
高槻「私、今、22歳なんです。昨日の日付は2021年2月2日だったんです」
小鳥(み、未来人!?どどどどういうことだってばよ…!)
小鳥(未来人なんて、私の妄想ではレギュラー設定だけれども)
高槻「あ、名刺!名刺あればいいですか?」
ゴソゴソ
高槻「はい!お世話になります!リツコプロの高槻やよいです!」
小鳥「え、律子、ぷろ…?」
小鳥「ま、まさかそれって、もしかしなくても」
高槻「はい!秋月律子さんが社長です!」
小鳥「その未来は予想できた」
小鳥「じゃ、じゃあ、今のやよ…高槻さんは、765プロを辞めているの…?」
高槻「えっと、所属として変わってはいますけど…」
高槻「765プロとうちは、『ぎょうむてーけー』という形でつながっているんです!」
高槻「うちの会社の偉い人リストに、高木さんもいらっしゃいますよ!」
高槻「あ…今の私なら高木社長とお呼びしたほうがいいですか?」
小鳥(律子さんが社長という時点で、なぜか現実味を帯びてきているわね…)
小鳥(ドッキリにしても、この名刺よく出来ている…)
小鳥「ん?」
小鳥「『副社長 兼 営業課 高槻やよい』…」
小鳥「!!!???」
小鳥「やよいちゃ…高槻さんって、副社長なの!?」
高槻「小鳥さん。そんないいですよー、昔の通りやよいちゃんで!」
小鳥「そ、それはともかく、この肩書は…」
高槻「はい!でも、副社長と言っても別に難しいことなんてやってませんよ?」
高槻「律子さんがものすごく多忙なので、何かと代理で動けるのが便利かなーって」
小鳥(あ、今の語尾は、ちょっとやよいちゃんっぽい)
小鳥「営業まで…」
高槻「えっと、私、かれこれ4年くらいプロデューサーもやっているんです。」
小鳥「ええええ!あのやよいちゃんが?プロデューサー!!?」
高槻「はい!名刺もそのために用意しているんです!」
高槻「アイドルも楽しいんですけど、なんとなくみんなのお世話もしているうちに…」
高槻「律子さんから『やよいもプロデュース業やってみない?』って言われたんです!」
小鳥(…その未来は想定外だった)
小鳥「そっか…元気なアイドルやよいちゃんは、未来にはいないのね…ちょっと残念かな。」
高槻「えっと、私、一応芸能活動もしてますよ?」
小鳥「え」
高槻「ほら、律子さんって昔、事務員しながらアイドルもしていたじゃないですか」
高槻「それを見習って…ってのもありますし。それに、ありがたいことに、ご指名でお仕事ももらえるので」
高槻「その際は、タレントとしても頑張っているんです!」
小鳥「…なんだか、目の前のやよいちゃんが、私の想像を超えてどんどんビッグになっていく…」
小鳥「つまり、アイドル兼プロデュース兼副社長を務めている、と」
高槻「はい!そんな感じです!」
小鳥(とんだ大器がいたもんだわ…めまいがする)
小鳥「えっと、やよいちゃんの話に興味は尽きないけど…」
小鳥「そもそもどうして、やよいちゃんはここにいるの?」
高槻「それがわからないんです…」
高槻「順を追って説明しますね?」
高槻「いつもの通り、仕事で大阪のお客さん先のところに行くために、新幹線に乗ってたんです」
高槻「最近ちょっと忙しかったから、うとうととしてて…」
高槻「深く眠っていたのか、車掌さんに起されて目が覚めて」
高槻「でも、大阪に向かっていたはずなのに、なぜか東京に戻されていて」
高槻「新幹線のチケットも無効だし、クレジットカードも使えないし、電話も通じないし…」
高槻「よくよくみたら、なんだか微妙に私の知ってる東京と違っていて…」
高槻「ところどころに見る西暦が2013って書いてあって…」
高槻「…そんな感じです」
小鳥(超現象すぎるわね…)
真「たっだいま戻りましたー!」
雪歩「あの…お疲れ様ですぅ~」
小鳥「あ、真ちゃん、雪歩ちゃん!お疲れ様ー」
真「小鳥さん、やよいのこと何か変わりありました?なんだったら、ボクらも病院に行きますけど?」
高槻「え?病院?」
雪歩「きゃあ!!ど、どちら様ですか…?」オロオロ
高槻「あー真さん!雪歩さん!」
高槻「わー!二人とも懐かしい姿ですー!」
真「え?」
雪歩「???」オロオロ
真「未来の、やよい?」
雪歩「そういわれれば、やよいちゃんに似てなくもないけど…」
真「にしても、すっごい背が伸びたなー!ボクと同じくらいの高さになってるじゃないか!」
高槻「『たいきばんせー』といいますか、17歳くらいのころから一気に背が伸びたんです!」
雪歩「う、受け入れてるんだ、真ちゃん…」
真「よくわからないけど、面白いからね!」
雪歩(やよいちゃん…。私にはわかる…背だけじゃなくて…胸も…)
真「ああ、でも。肝心の、ボクらが知ってるやよいは?」
高槻「あの!そのことで私も…。病院って…?」
小鳥「あ、こっちのやよいちゃんには話してなかったわね」
小鳥「私たちの知ってるやよいちゃん、今朝から高熱を患ってて、今病院で治療しているのよ」
高槻「……!」
真「ボクと雪歩、夕方まで時間空くから、どうせならお見舞いに行こうかって話してたんだ」
雪歩「う、うん…」
真「プロデューサーからまだ連絡ないの?小鳥さん」
小鳥「やよいちゃんの元へは、社長が先に行っているんだけど、まだ連絡はないわね…」
TLLLL...
小鳥「あ、電話。もしかして社長かも」
ガチャッ
高槻「はい!お電話ありがとうございます!リツコプロ、高槻やよいです!」
小鳥「え」
高槻「はい!…はい?…あ、うあーーー!」
高槻「ご、ごめんなさい小鳥さん!いつもの癖でついつい電話取っちゃいましたー!」
小鳥「い、いいのよやよいちゃん、ありがとう。えっと、誰から?」
高槻「高木さん…じゃなくって、高木社長からですよ!」
雪歩「ま、真ちゃん…いま、『律子プロ』って…」
真「そ、そういうことなのかな…」
小鳥「やよいちゃん、インフルエンザかもって…社長から」
小鳥「気管支炎か肺炎も併発しているみたいだから、症状が重くなっているみたいだけど」
小鳥「伊織ちゃんお墨付きの病院だから、あとはもう大丈夫だそうよ!」
小鳥「ただ、インフルエンザだし、今日明日のお見舞いは厳しいかな」
高槻(もしかして、あの頃の…)
真「そっか…」
雪歩「でも、伊織ちゃんの病院なら安心だよね!落ち着いたらお見舞い、行こうよ、真ちゃん!」
真「うん!もちろん!」
雪歩「そ、それはそうとして、大きなやよいちゃんは…」
高槻「あ、はい!なんでしょう?」
真「未来から来たってことは、ボクたちの未来も知ってるってことだよね?」ニヤリ
雪歩「ま、真ちゃん…そんなこと聞いちゃって大丈夫なの…?確かに気になるけど…」オロオロ
真「ちょっと的中率の高い占いだと思えばいいんじゃないかな!」
雪歩「あ、なるほど!それはちょっと面白そうかも~」
小鳥「ま、真ちゃんに雪歩ちゃん…ほどほどにね…?」
真「それで、大きなやよい!ボクって未来だとどんな感じ?」
真「ボクもだいぶ女らしくなったし、きっとこの先可愛い路線でブレイク間違いなしだよ!」
高槻「え、えっと…真さんは、方向性的にはあんまり変わらないかなーって…」
真「がーーーん」
高槻「あ!でも、確かに今はすごく髪が長くてきれいで、カッコいい大人の女性です!大人気です!」
真「がんばろう、もっと女らしくなれるように、がんばろう…」トボトボ…
高槻「…あれ~?」
雪歩「こ、怖くて訊きたくないけど、でも訊きたい…っ!」
雪歩「あ、あの…やよ…高槻さん!私って…私ってまだ生きてますか!?」
高槻「やよいでいいですよ、雪歩さん!もちろん雪歩さんも大人気です!」
高槻「ある日どこからか見つかった雪歩さんの詩集が大好評で、現在売れっ子の作詞家としても活躍しています!」
雪歩「」ガーーン
雪歩「厳重に、南京錠で閉じておこう…」トボトボ…
高槻「…あれ~~?」
小鳥「あはは…。」
高槻「ちなみに小鳥さんはー」
小鳥「い、いやっ!止めてっ!訊かない!訊かないわよ!」
小鳥「8年後の私なんて、知りたくない知りたくない、あーあーあー」
高槻「……」
TLLL...
小鳥「はい、765プロ…あ、春香ちゃん」
小鳥「…プロデューサーさん?まだ特に連絡は…。そのまま病院に直行するって言ってたけど」
小鳥「どうしたの?私から言伝する?」
小鳥「え!?千早ちゃんが激怒!?か、帰るって言ってる!?」
小鳥「そ、そんなこと言っても…一体どうして…」
小鳥「な、なんとか時間稼げない?状況がよくわからないけど、プロデューサーさんに連絡するから…?」
トントン
小鳥「え?」
高槻「小鳥さん!ちょっと電話、代わっていただけますか?」
小鳥「え…ええ…」
高槻「お疲れ様です!」
春香『お疲れ様です…って、誰?』
高槻「やよいです!高槻やよいです!」
春香『え?やよい!?だって今朝病気で倒れたって…』
高槻「あ…。えっと…違います、間違えました!」
高槻「実は色々あって助けに駆け付けた、お助けプロデューサーです!」
春香『お助け…プロデューサーさん??』
高槻「はい!それで、どうしたんですか、春香さん?」
春香『あ、あのね、お助けプロデューサーさん。……』
高槻「そうですか。お笑い芸人さんがMCの歌番組で、無茶な振りばかりされて…」
高槻「千早さんが怒られているってことですね?」
高槻「二人とも、その番組出るの、初めてなんですか?」
春香『番組自体は知ってたけど…出演は今日が初めてかな…』
高槻「もう少し、状況訊いていいですか?収録場所はどこですか?………」
・
・
・
高槻「じゃあ、ちょっと待っててくださいね!私が行きますから!お疲れ様です!!」
ガチャン
小鳥「や、やよいちゃん…?」
高槻「小鳥さん!私、ちょっと現場に行ってきます!」
小鳥「え、ええ~!?そんなことして大丈夫なの?」
高槻「大丈夫です!私がまずは状況を把握してきます!」
高槻「今のままだと、こちら側の都合はわかりましたけど、番組側の話も聞いて…」
高槻「いわゆる『おとしどころ』を探ってきます!」
高槻「行ってきますねー!」
高槻「あ、本物のプロデューサーさんも“至急”現場に駆けつけるように連絡してください!」
小鳥「な…」
小鳥「なんという行動力…。さすが、3足の草鞋を履いているだけあるわ…」
真「…女らしく、おんならしく…」ブツブツ…
雪歩「…厳重に管理、げんじゅうにかんり…」ブツブツ…
<問題の現場>
高槻「失礼します!お疲れ様です!」
春香「え?えっと…誰?」
高槻「お助けプロデューサーです!」
春香「ああ、あなたがさっきの…。よろしくお願いします」
高槻「あれ?千早さんが見当たりませんね」
春香「あ、ちょっとお手洗い。帰ったわけじゃないよ?」
高槻「そうですか。じゃあ先に番組ディレクターさんにお話し訊きます!もうちょっと待っててくださいね!」
春香「あ、はい」
春香(初対面のはずなのに、なんだか既視感というか、妙な安心感というか…なんだろ?)
千早(そもそも歌番組にお笑いの人なんて入れるべきではないわ…)
千早(私たちは歌を歌いに来ているのに)
千早(歌や音楽に興味のない人に、歌番組なんてやってほしくない…)
高槻「時代が変わっても、こうして動き回ると仕事してるって気分で楽しいなー」
高槻「よーし、頑張るぞー…!」
高槻「うっうー!!」
千早(高槻さん!?)ピクッ
千早(病気で休んでいるはずじゃ…?)
千早「…空耳?でも、今、確かに…」
高槻「お疲れ様です!お邪魔します!」
番組D「…。えーっと、どちらさん?ここ、関係者以外立ち入り禁止なんだけど?」
高槻「765プロのプロデューサー代理です!よろしくお願いします!」
番組D「…あー、天海さんと如月さんの。困るんだよね、765さん」
番組D「今、収録が完全に止まっちゃってるんだよ。お宅のアイドルさんがご機嫌損ねて…」
番組D「最近勢いに乗っているのはいいんですけど、こういう勢いの乗り方は受け入れられないな」
高槻「はい!そのことについて、ちょっとお時間頂けますか?状況を確認したいです!」
高槻「収録した映像も用意いただけますか?番組プロデューサーもいらっしゃったらご同席を。」
番組D「…まー別に良いですけど。あまり時間取らせないでくれるかな。こっちだって暇じゃない」
高槻「お手数おかけします!あと、お電話お借りします!」
番組D「どうぞご勝手に」
ピピピ…
高槻「もしもし、お疲れ様です!高槻やよいです!」
高槻「音無さん。可能だったら、ちょっと調べてほしいんですけど。………」
千早「もう帰ろう、春香」
千早「ここにいても無意味よ」
春香「千早ちゃん…。でも、そんなことしたら」
千早「私たちは正当よ。プロデューサーも、話せば、きっとわかってくれる」
春香「でも…」
コンコン
高槻「失礼します!お疲れ様です!」
春香「あ。お助けプロデューサーさん」
千早「お助けプロデューサー…?」
高槻「番組プロデューサーさんとディレクターさんに話をつけました!」
高槻「もう大丈夫です。なので、もう一度、スタジオに戻って頂けますか?」
千早「え?でも…」
高槻「お願いします、千早さん」
千早「…?」
高槻「仕事をしていたら、面白くないことや辛いことだってあります…」
高槻「心無い行動や言動をする人も、いたりします」
高槻「でも忘れないでください。千早さんが向き合っている相手は…」
高槻「目の前の仕事相手ではなく、その先で見守ってくれている、ファンの皆さんなんです」
高槻「千早さんの姿や歌声を楽しみにしている人が沢山いるんです!」
千早「……」
高槻「仕事が沢山あるときは忘れがちになりますけど…」
高槻「限られた時間、限られた枠で、自分の姿を披露できる機会を…」
高槻「是非、ひとつひとつ、大事にして下さい!」
高槻「千早さんも、かつて、叶えたくても叶えられなかったという思い、忘れていないはずです!」
千早「で、でも!そのために私個人の気持ちを犠牲にするべきではないわ!」
高槻「大事なのは、対話です、千早さん」
千早「……!」
高槻「何かが歪んでいるときは、ちゃんと話し合って、歪みを互いで修正しましょう」
高槻「一方的に自分の主張を押し付けるだけでは、ルール違反です」
千早「……」
高槻「ごめんなさい…千早さんを責めているわけではありません」
高槻「今回の件は、そもそも、向こうがずっと悪い感じだったので…」
高槻「だから、もう大丈夫なんです。安心してスタジオに戻ってください。…どうか、私を信じて。」
春香「千早ちゃん。もう一回、いこうよ?私だってこのまま帰りたくないし」
春香「きっと大丈夫だって。ね?」
千早「……。わかったわ。私もちょっと大人げなかった。行きましょう、春香」
春香「うん!」
高槻「ふぅ…何とかなった、かな…」
番組D「…おいあんた」
高槻「はい!何ですか?」
番組D「あんた…何者だ?」
高槻「お助けプロデューサーです!」
番組D「なんだよそりゃ」
高槻「さっきは厳しいことを言ってごめんなさい」
高槻「でも、そもそもルール違反を犯したのは、そちらです」
番組D「はっ、ルール、ねえ。よくもまあ、この世界にいながら『ルール』なんて語れるな。あんた、この世界長いんだろ?」
高槻「だからこそです」
高槻「こんな世界だからこそ、守るべきルールがあるんです。なければ作り上げるべきです」
高槻「私たちや…アイドルのみんなは、お人形さんじゃないんです」
高槻「心を持った、感受性豊かで繊細な、一人の人間なんですから」
番組D「まったくもって正論だ。だが、その考えは絶望的に甘い」
番組D「あんた一人が生真面目にルールを主張しても、ほかの連中はそうとは限らない」
番組D「守られたサラリーマンじゃねえんだ。そんな生ぬるいことで、この世界じゃ一発逆転は生まれない」
高槻「一発逆転じゃダメなんです。」
高槻「私達は、彼女たちの人生を預かっているんですよ?」
高槻「彼女たちのやりたいことを、こちらの都合でつぶすことの無いように」
高槻「彼女たちのなりたい未来を支えて、組み立ててあげることが、私たちの、本当の仕事です」
高槻「かりそめの人気やお金が目当てで動いていたら、私やあなたにも、明日はないですよ?」
番組D「…平行線だな。あんたと俺は違うってことだ」
番組D「だが、面白いな、あんた。見た目若いってのに」
番組D「またどっかでお会いしましょうや。んじゃー」
高槻「………。」
高槻(あの人…こんな頃から同じようなことを繰り返してたんだ…。)
P「ゼェゼェ…」
P「す、すいません!765プロのものです!あの、ウチの天海と如月の件ですが…」
高槻「あの二人なら、大丈夫ですよ!ほら!」
P「え?」
春香「あ、プロデューサーさ~ん!」
P「おお、春香、千早。小鳥さんから、なんかトラブったって訊いてたけど。大丈夫か?」
春香「ええ!MCの芸人さんが、しつこくってさっきまで酷かったんですけど…」
春香「今度はすんなり!」
P「そうか…この仕事、俺も警戒していたんだ…悪い。余計な気苦労させたな」
千早「…それはいいんですが、プロデューサー。さっきの『お助けプロデューサー』って…」
P「お助けプロデューサー…?なんだそれ?」
春香「ほら、そこにいる…」
春香「あれ?いなくなった」
P「??」
高槻「お疲れ様です、高槻です!小鳥さんですか?」
高槻「先ほどはありがとうございました!無事、円満に進みました!」
小鳥『そ、そう…よかったわ。』
小鳥『でも、今日の仕事の話はともかくとして』
小鳥『どうして来年公開の映画の件なんて…?』
高槻「えっと…、話せば長くなるので、また今度です!」
高槻「それよりも…」
高槻「私のいる病院の場所、教えてもらえませんか?」
小鳥『え?やよいちゃんのいる病院…!?』
小鳥『い、いいけど…いや、いいのかな??』
小鳥『バック・トゥ・ザ・フューチャーでドク博士が確か……』
高槻「大丈夫です!ちょっと様子を見たらすぐ戻るつもりですから!」
小鳥『そ、そう…?それじゃあ、…』
高槻「えっと、中野の方面…地図、地図…」
高槻「って、端末使えないんだった」
高槻「もとの時代に戻れたら、私もオンプレミスの地図アプリにしよう…律子さんが便利だーって言ってたし」
・・・
高槻「困った時のコンビニー♪いつの時代も、紙の地図は大事かなーって」
『そう、俺だ!ジュピター、天ヶ瀬冬馬だ!』
『俺たちの新曲、もう聴いてくれたよな?まだの奴はショップへ急げ!』
『ジュピター「恋を始めよう」。In Store Now...』
高槻「ジュピター…」
高槻「このころの冬馬君は、随分尖ってたなぁ。」
高槻「短い間だったけど、すごい人気だったこと、今でも覚えてる」
高槻「なんで落語の道に進むことにしたんだろう…?」
高槻「あ、もしかしてあの後姿…」
高槻「お疲れ様ですー!貴音さー…。」
高槻(あ、でも今の貴音さんは私ってわからないか…)
貴音「…やよい?」
貴音「その声は、やよいではありませんか?なぜこんなところへ?」
高槻「た、貴音さん、私ってわかるんですか!?」
貴音「しかし、確か今朝、やよいは病に臥せっていると…」
貴音「それに…」
貴音「随分と背が縮んでしまったのではありませんか?」
高槻「え」
貴音「いつのまにこんなに小さく…前から思っていましたが、これではまるで本物の子供ではありませんか…」
子供「…おねえちゃんだれー?」
貴音「面妖な」
高槻「………」
高槻「あの!貴音さん!私はこっちです!」
貴音「はて…?」
高槻「あ、いえ…私ともまた違うというか…」
貴音「……?」
貴音「しかし、随分と回復が速いのですね、やよい」
貴音「プロデューサーの話しぶりだと、もっと重篤な状態かと思っていたのですが」
高槻「え、えっと…」
貴音「今日は、来月から始まるドラマの台本読み合わせがあって」
貴音「目がすっかり疲れていたといいますか、今も周りが、かなりぼんやりしており…」
貴音「まさか、やよいのことを見間違えるとは、恥ずかしい限りです」
高槻「貴音さん…。あの、私のことなんですけど」
高槻「今ここにいる私と、貴音さんの知ってるやよいは、ほんのちょっと違うんです…」
高槻「どちらかというと、私のほうが偽物…ってわけでもないですけど」
高槻「本来、ここにいちゃいけない、高槻やよいなんです」
貴音「…なるほど。」
貴音「ここにいるのは、確かにやよいですが、妙な違和感があったのはそのせいですね」
貴音「それで…あてはあるのですか?」
高槻「え?」
貴音「いつまでも、ここにいるわけにはいかないのでは?」
高槻「あ!貴音さん、まだこれからお仕事あるんですか?引き留めてごめんなさい!」
貴音「ふふ、私は、今日はこのまま事務所に戻るだけですよ?」
貴音「そういうわけではなく。やよい。あなた自身のことです」
高槻「そ、それって…?」
貴音「…奇怪な事件に巻き込まれた様子ですね」
貴音「しかし、焦りは禁物です。」
貴音「事象は、一回限りでその後二度と起こらない、ということはあり得ないのです」
貴音「どこかでまた再び同じような機会が、必ず訪れる」
貴音「いまのやよいは、心落ち着かせ、時を見定め…」
貴音「必ずや自分本来の居場所へ戻るという気構えと心積りが必要です」
貴音「今のやよいの力を、求めている人たちはたくさんいるのでしょう?」
高槻「……そうですね、そうです。」
高槻「でも、どうすればいいのか、見当がつかなくて…」
貴音「私も、心当たりは探りますが、やよいはやよいで、焦らず。」
貴音「しかし心のどこかで常に可能性を探ってほしいのです」
貴音「大事なのは、願い続けること。そうすれば、必ず次につながるのですから」
貴音「せっかくですし、今のこの状況を楽しむということも、良いかもしれません」
貴音「…などと、私から敢えて言うまでもなく、やよいは既に実践するでしょうけど」
高槻「貴音さん…」
貴音「では、また。」
高槻(…。出会った時から、貴音さんって不思議な人だと思っていたけど)
高槻(付き合う時間が長くなればなるほど、より不思議な感覚に陥る人だな…)
高槻(私の知ってるみんなは、多少なりとも今のこの時代と違う部分がいくつかあるのに)
高槻(貴音さんだけ、私の知ってる時代の貴音さんとまったく変わっていない……)
高槻(振る舞いや考え方だけじゃない、見た目そのものも)
高槻(…。まさか、ね)
高槻「ここがその病院…」
高槻(うん、なんとなく、見覚えがある。)
高槻「すいません」
看護師「はい?」
高槻「あの、今朝こちらに入院した高槻やよいって方は…」
看護師「…すいません。私のほうからはちょっと」
高槻(そっか…アイドルだし、一応秘密なんだろうな…)
高槻「えっと…あ、そうだ。私も高槻なんです!親戚関係です!」
高槻「免許証ならありますよ??」
看護師「…確かに、高槻さん。あら?名前が…」
高槻「あ、もういいですよね?いいですよね!ありがとうございます!」
高槻「よろしければ、病室を教えていただきたいのですが…」
看護師「…わかりました。受付のほうで、お待ちいただけますか?」
高槻「……」
社長「…あちらの方かね?」
看護師「ええ」
社長「やよい君?」
高槻「あ…。お久しぶりです、高木さん!」
高槻「…じゃなくて、高木社長、ですね」
社長「さきほど音無君から詳しい連絡があったものの、にわかには信じ難かったが…」
社長「しかし、今ここで、私は確信したよ」
社長「まぎれもなく、君は高槻やよい君だね。目を見てピンときた!」
社長「大きくなったね、やよい君!」
社長「いやはや、まさかこの台詞を口にするのがこんなに早くなるとは、まったく想定外だったよ」
高槻「はい!ありがとうございます!ところで、私の様子は…」
社長「点滴を受けて、今は静かに眠っているよ。熱はまだ高いようだが…」
社長「なにせ、元気で出来ているようなやよい君だ。ウイルスなんてすぐにやっつけてしまうに決まっている」
社長「そうだろう?」
高槻「ええ、そうです!病気なんかに負けないです!」
社長「未来のやよい君は、今以上に活躍の場が広がっているそうだね」
社長「どうだね。未来のやよい君は、今の仕事を楽しんでいるかね?」
高槻「はい、えっと…」
社長「ああ待った。その質問よりも、今、私が訊きたいとすれば…」
社長「この時代のやよい君は、仕事を楽しんでいただろうか?」
高槻「…え?」
社長「アイドルたちのことは、私は毎日見ているし、理解しているつもりではある」
社長「だが、彼女たちが思っている以上に、彼女たちは世間から注目され、期待されている今だ。」
社長「私は、そこが少し心配なのだよ」
高槻「……」
社長「アイドルは、その姿、生き様こそ美しく、そして充実しているものであってほしい」
社長「妙なプレッシャーや意味のない使命感で、心に負担をかけさせるつもりはないのだよ」
社長「そんなことがあれば、もちろん、私やスタッフがしっかりと支えねばならんからね」
社長「だが、やよい君はもちろん、みな気丈だ。気丈で真面目で、決して弱みを見せない」
社長「私は、真意を知りたいのだよ」
社長「君のことは他言しないし、きっと言っても信じてもらえないだろう。」
社長「だから、率直に、訊かせてはくれないか。」
高槻「…高木社長。いえ、私の立場から、高木さんと呼ばせてください」
高木「…。ああ、いいとも」
高槻「それはお答え致しかねます、高木さん。ごめんなさい」
高木「そうか。理由を教えてくれるかね?」
高槻「はい!なぜなら、高木さんが感じている、そのままだからです!私が答える必要は、無いからです!」
高木「…?どういうことかね?」
高槻「私たちは、高木さんの思っている以上に、いえ…思っているほどに複雑な人柄じゃないです」
高槻「辛い時は、辛いって言います。口に言わなくても、顔に出します」
高槻「それに、社長が質問していただければ、素直に思ったまま、答えます。隠したりなんか、しません」
高槻「私たちは、仲間…いえ、家族です。助け合いますし、助けてあげたいです」
高槻「逆に高木さんに問いますが…」
高槻「高木さんの思いと、アイドルたちの気持ちに相違があったことは、これまでありましたか?」
高木「…!なるほど…ね」
高槻「…というのも、私、プロデュースとか副社長業務を始めたころは」
高槻「何と言いましょうか、『しゃこーじれい』とか『あんもくのりょーかい』みたいなものが全然わからなくて」
高槻「すごく苦労したんです。大人の世界は難しいんだなーって」
高槻「アイドルのころは、そんなこと気付かなかったし、気にしてなかった」
高槻「必要な場面があったとしたら、きっとプロデューサーが、そういう難しいことを全部背負ってくれていたんだと思います」
高槻「だからこそ、私たちはありのままで、のびのびとアイドル活動に専念できているんです!」
高木「そうか…そうだね。いやはや、私としたことが。やよい君に一本取られてしまったよ」
高木「その返事で、私はすごく身に染みた。」
高木「アイドルたちの躍進ぶりに不安を抱いていたのは、アイドルたちではなく私自身だったのだね」
高木「もっと彼女たちを…彼女たちの実力を、信じてあげるべきだな」
高槻「あと、高木さん!私、今の仕事はとても楽しいです!」
高槻「…もちろん、いいことばかりじゃないです。難しいこと、面倒なこと、辛いこと。たくさんあります」
高槻「でも、それをぜーんぶひっくるめて、結果、楽しいんです!」
高槻「雨の日でどんよりしたり、雪の日が寒かったりしても」
高槻「また必ず晴れの日が来ます。そんな晴れの日の空気は最高に気持ちいいんです!」
高槻「それに」
高槻「雨上がりの虹はきれいだし、綿あめのように雪が絡んだ樹木は美しいです!」
高槻「今、何かに辛くても、それが巡り巡って、晴れの日に気持ちの良い姿で現してくれるんです!」
高木「…。今のやよい君は、さまざまな経験を乗り越えて今に至るんだね。」
高木「もっともっと、話を聞きたいし、アイドルたちにも聞かせてあげたいが…」
伊織「…ちょっとー!社長ー?まだ立ち話してるの?そろそろ行かないといけないんじゃないのー?」
高木「…だが、先に答えを知ってしまうのも、味気ないね」
高木「誰かの模範解答ではなく、自分自身で理解し、答えを見つけてこその、人生の糧だ」
高槻「はい!そうですね!私も、みんなも。大丈夫です!」
高木「水瀬君~!今行くよ!」
高木「じゃあ、私は失礼するよ。病院には、なんとなく話を付けておいた。」
高木「今の境遇も色々と大変だとは思うが、しばらくはうちの事務所を頼りにするといい。皆、力になるだろう」
高木「なんだったら、プロデューサーもそろそろ人員追加が必要と思っていたことだし、このまま765にいてもらっても…」
伊織「ほら社長行くわよ!長話すると本当に止まらないんだから!まるで女の子ね!」
伊織「あら、ごめんなさい。もしかしてやよいのお見舞いですか?」
伊織「今はちょっと眠ってしまってますが、私、水瀬伊織の自慢のかかりつけ医ですので、安心してくださいね」
高槻「うん。ありがとう、伊織ちゃん!」
伊織「え…!?」
高木「待たせたね、水瀬君。それじゃ行こうか」
伊織「ちょ、ちょっと待ちなさいよ社長!あの人って…!?」
高槻「またね~伊織ちゃん!」
高槻(このころの伊織ちゃんは、かわいいなぁ…)
高槻(ちょっと背伸びしてる感じが、いじらしいかなーって)
高槻(今じゃもう見た目も中身もすっかり貫禄がついて…)
高槻(伊織ちゃんにとって、向かうところ敵なしなのは、今も昔も同じかな)
高槻「病室は、ここかな」
高槻「失礼しまーす…」
やよい「スー…スー…」
高槻(眠ってる)
高槻(昔の自分と対面するなんて、不思議な気分)
高槻(このころの私も、頑張ってたな…)
高槻(さっき、高木さんには難しいこと言っちゃったけど)
高槻(このころの私なんて、ただひたすら、楽しいことだらけだった)
高槻(毎日毎日が、新鮮で、明るく輝いていて…)
高槻(いつも、あっという間に時間が過ぎていったなー…懐かしい)
高槻(もちろん、今は今で楽しいことに変わりない)
高槻(でも)
高槻(『楽しい』の定義は、時とともに、環境と共に移り行く)
高槻(今、楽しいことは、今“だから”、楽しいことなんだよ?)
高槻「だから、頑張ってね、やよい」
高槻「あなたの頑張りは必ず、未来に繋がっていくから…」
やよい「う、う~ん…」
高槻「!?」
やよい「こ、ここは…」
高槻(目、覚めちゃった?)
やよい「あなたは…だれですか…?」
高槻「……」
高槻「看護婦さんです!シフトが終わって、今から帰るんですけど」
高槻「帰る前に、やよいちゃんの様子はどうかなーって!」
やよい「かんごふさん…ありがとう…ございます…」
やよい「スー…スー…」
高槻(ほっ…びっくりした)
高槻(はー、ちょっと疲れちゃったなー。なんだかんだでお仕事こなした気分だし)
高槻(…なんだか急に眠くなってきちゃった)
高槻(ちょっとだけ、仮眠しよう、ちょっとだけ……)
高槻「すー…すー…」
ガチャ…
貴音「………。」
??「…さん!お客さん!」
高槻「むにゃ…」
??「お客さん、終点ですよ、新大阪!」
高槻「え?あれ…?おおさか…?」
車掌「どうしました?体調でも悪いんですか?」
高槻「えっと…いえ、大丈夫です…ちょっと寝入っちゃったみたいで」
高槻(あれ…?私何をして…)
高槻「…大阪!?」
高槻「あの!すいません!」
高槻「今日の日付っていつですか?」
車掌「今日?2月3日ですよ」
高槻「西暦からでお願いします!」
車掌「はあ…2020年…あれ?もう21年だっけ?」
高槻「…!ありがとうございます!!」
高槻「電話も…」
TLLL...
高槻「やった!繋がった!」
律子『はい律子ー。どしたーやよい。今日は確か大阪よね。なんかアクシデント?』
高槻「律子さん!律子さんですね!」
律子『そ、そうだけど…いきなり、どうしたのよ、やよい』
高槻「今の律子さんの所属って、どこです?」
律子『所属?おかしなこと訊くわね。』
律子『所属も何も、今はリツコプロの社長よ、社長。忘れちゃったの?』
高槻「う……」
高槻「うっうー!!元に戻ってくれましたー!!」
律子『ちょ、やよい!?』
<そのころの、2013年の765プロ>
P「みんな!やよいの熱も微熱くらいまで下がったそうだぞ!」
美希「よかったね、プロデューサー!じゃあ、やよいは明日から馬車馬のように働くの?」
P「美希お前…。やよいは、熱が下がってもしばらく安静だ。」
P「多少の疲労もあったようだし、あと3日ほど入院して、それから徐々に慣らしていくつもりだ」
あずさ「やよいちゃんがいない事務所って、ちょっと寂しかったですからね~。早く元気な姿を見たいです」
真美「やよいっちが抜けた穴は伊達じゃなかったZe…。真美も、日本全国走り回って頭を下げる毎日だったよ~」
P「真美のその設定はなんなんだ…。それはそれとして。」
P「やよいも寂しがっているようだから、お見舞いにもぜひ行ってくれ。きっと喜ぶと思う」
P「…病み上がりだから、あまり無理させない程度でな?」
真「プロデューサー!」
P「お、どうした、まこ…と…」
真「きゃるるーーん♪まこまこりんだぞぉ!」
P「……」
真「どうですプロデューサー!この服、可愛いでしょう!」
P「真は一定周期で、その持病が発生するなぁ」
真「ち、違うんですよプロデューサー!ボク、もうそろそろこの路線で固めたいんですよ!」
真「間に合わなくなっても知りませんよ!?」
P「はいはい。ほら、このあと営業に行くんだから、早く着替えてな」
真「ちょっとぉ!プロデューサー!!ボク、今度の今度こそ、本気なんですってばぁ!」
雪歩「」コソコソ…
春香「雪歩~?何やってるの?」
雪歩「!!」
雪歩「はわわわ…何でもないですぅ…」
雪歩「」スタスタ…
春香(雪歩って、いつも何を持ち歩いてるんだろう…何かの本?)
春香(何か隠しているようで、逆にやたら目立って、すごく気になる)
春香(…すんごーく、気になる。)
春香(場合によっては、○○してでも奪い取る)
<一方、2020年…>
高槻「あの!律子さん。お忙しいところ訊きたいんですけど」
律子『いいわよ。今はちょうど空き時間だし。やよいと私の仲なんだから何でもどうぞ』
高槻「えっと、あのですね…」
高槻「真さんって、今どんな感じですか?」
律子『真?どんな感じって?』
高槻「ほら、すごーくキャピキャピした、可愛い系のアイドルだったり…」
律子『あはは、まさか!』
律子『でも、あの娘は昔からそんなこと言ってたわね。今でも言っているらしいけど。』
律子『あんたも知っての通りよ。今度はエリートのキャリアウーマンという役どころで主演らしいじゃない』
律子『いい加減、あの路線なら日本一の女優だって自覚、持ってほしいんだけどねー』
高槻「ほっ…。」
高槻「あ、あともう一つ!雪歩さんって、作詞家やってます…?」
律子『また当たり前のこと訊くのね。』
律子『ああ、さっき訊いた速報値だけど、雪歩の詩集第2弾は30万部売れて再重版も決まった』
律子『最初はアイドルの副業的な批判もあったけど、今では文芸界からも注目されるくらいの評判だし』
律子『意外な才能、まさに掘り当てたって感じよね。』
律子『当の雪歩はまだ実感がないらしいけど、仕事はかなり来てるそうよ。まったく、羨ましいわ』
高槻「わーい!うっうー!!やっぱり帰ってこれたんだ!」
律子『こらやよい!もういい年なんだから『うっうー』は封印しなさいって…』
律子『…いいたいところだけど、ずいぶんご機嫌なのね。やよい。どうしたのよ?何かあった?』
高槻「はい!えっと……。」
高槻「………」
高槻「ちょっと、ぐっすり眠ってて、おかしな夢をみていたのかなって…」
律子『あー、最近ずっと忙しいからね。』
律子『ごめんねやよい。そろそろあんたにも部下をつけなきゃって思っているんだけど』
高槻「律子さん、大丈夫です!私なら全然余裕ですから!」
律子『違うのよ。実のところ、あんた指名の仕事も結構入ってきててね、今は整理しているところなの』
律子『プロデュース業は、実際のところ誠実さと、体力、ちょっとの経験があれば誰でもできるわ』
律子『でも、やよいの人柄、キャラクター。そういうのはやよいにしかできない』
律子『それなら、お金をかけてでも、やよいのバックアップを作って仕事の幅を増やす。それが私の仕事よ』
高槻「そうですかー…。」
律子『んん?タレント業はもう懲りた?』
高槻「まさか!タレントも、プロデュースも、どっちももっと、たくさんやりたいです!」
律子『そうね、そう言うと思ってたわ。でも、無理だけはしないでね?それじゃ、引き続きそっちお願い!』
高槻「…。よーし、頑張っちゃいましょー!」
高槻(結局あれは、夢だったんだろうな…すごくリアルな夢だったけど)
高槻(私の知っている未来も特に変わってないし、タイムスリップなんて非現実的かなって…)
ピロリーン
高槻「メールだ。誰かな…」
高槻「え!?」
------------------------------------
件名:よかったですね
やよい、
無事、事が運んだようでよかったです。
そちらでも、どうかご達者で。
くれぐれもお体、ご自愛くださいませ。
四条貴音
------------------------------------
<おしまい>
千早「私が巨乳の世界に連れていってください」
貴音「分かりました。ではこのロボットに乗って…」
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません