P「リセット」 (160)

一年以上前に書いたSS

P「学園都市年度末ライブ?」土御門 「そうですたい」
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早速バグってら。
外伝的なものです。
とある要素ナシ。
前作読まなくても大丈夫な構成です。
短かめにまとめるつもりです。

3月31日


今日は事務所に泊まりだ。

明日で入社してから丸20年となる。

この日記もそろそろ最初の何冊かは捨てないといけないな。

ありふれた感想だが、長いようで短かった。

小さかった765プロも今では業界最大手のプロダクションとなった。

狭かったボロビルの一室分しかスペースがなかった会社は、今や自社ビルを持つ一流企業。

一介の新人プロデューサーも、今や伝説の仕事人などともてはやされてる。

確かに、客観的に見て、そう呼ばれるだけの地位と実績と実力は身につけたと思う。

明日からまた新しい子がたくさん入ってくる。研修で2割は消えるだろうけど。

つまり、さっき終わったこの書類整理も2割は無駄になるだろう。


今の仕事に不満はない。誇りもある。

だが、過去の仕事には後悔しかない。

特に、俺が入社した1年目。

今だから分かる。あのとき、この事務所には最高のアイドルのみが集まっていた。

昔、社長が言っていた「ティンときた」という感覚がここ数年で分かるようになってきた。

IA大賞を取るアイドルにはたいていティンとくる。まあ、2〜3年に1人のモノだが。

仮にティンとこない子でも、今の俺ならノミネートアイドルくらいまでなら引っ張り上げてあげられる。

だが、大賞を取るにはどうしても天賦の才というものが必要だ。

単純に才能というわけではない。

磨きあげる価値のある塊というか……ティンとくるものとしか表せないな。

とにかく、あのときの子たちはみんなそれを持っていた。

今の俺が彼女たちをプロデュースできるなら、全員トップアイドルにできる自信がある。

それだけの逸材だった。



だが、当時の俺ときたら、どうしようもなかった。

結局、あれだけの逸材が揃っていて、誰ひとりIA大賞を取らせてあげられなかった。

それだけが後悔だ。

みんな、泣きながらここを去っていった。

あの過去があるから今の俺がある。社長や小鳥さんにはそう言われたが、納得がいかない。

長くプロデューサー業を続けられる俺と違い、あの子たちにはあの過去しかなかったんだ。

それなのに、俺の実力不足で、遭う必要のない不幸に遭わせてしまった。

もっと輝けるはずだったのに、鈍い光で終わらせてしまった。


天海春香
10年間頑張ってくれたが、Bランクアイドルで終わってしまった。
最後の方はほとんどバラエティアイドルとしての扱いだった。
夢が見れなくなったという彼女の言葉が今も耳に残っている。


如月千早
2年間765プロに在籍していたが、別の事務所に引き抜かれた。
当時の765の体力、俺の実力、千早の将来性を考慮すれば、1番いい選択だったとは思う。
今や伝説の歌姫だが、やはりアイドルとして大成させたかった。


萩原雪歩
雪歩には本当に悪いことをした。
当時の俺は即戦力の子ばかりを見ていて、何かと自信のない雪歩のことはほとんど見ていなかった。
結果、変わらない自分に絶望してしまった雪歩は事務所を去った。


三浦あずさ
ドラマで知り合った俳優との付き合い、デート現場をスキャンダルされ、そのまま引退。
竜宮小町が安定してきた頃だけに、律子が荒れに荒れていて、あずささんは精神的にかなり参っていた。
今では和解したようだが、あのときのあずささんは色んな方面で限界だったのだろう。

双海亜美・双海真美
2人とも医者を目指し勉強に専念するため、アイドルを引退。
両親と一悶着あったようだが、最終的には本人たちが決めて俺のところにきた。
まだまだ無限の可能性を秘めていただけに、後悔の念が強い。

高槻やよい
春香と一緒に10年間頑張ってくれたが、彼女も春香とほぼ一緒の結果で終わった。
トップアイドルになれなかったことを泣きながら謝ってきた彼女に対し、自分が情けなくなって一緒に泣いてしまった。
もっと多方面で活躍できたはずなのに、俺の営業方針のせいで中途半端に終わってしまった。


菊地真
ダンスの実力を買われ、別の事務所に引き抜かれた。
本人は765に残ることを希望していたが、彼女の将来性を考えれば、引き止めることはできなかった。
結果としてはそこのダンスチームで世界を制したし、間違ってはいなかったはずだが……。

星井美希
次々にいなくなっていく仲間を目の当たりにして焦りを感じ、無理なレッスンを続け、ヒザを壊した。
才能はピカイチでも、身体の基礎ができていなかったんだ。
もっと体調面をケアしてやれば、キラキラ輝けたはずだった。俺の責任だ。


水瀬伊織
竜宮小町解散と同時に水瀬財閥に半ば強引に引き取られた。
伊織自身は納得しているような顔していたが、相当悔しかったはずだ。
せめてあと1年あれば、確実にトップアイドルになれていただろう。


我那覇響
ペットを治療する資金を稼ぐために枕営業に走ろうとしたため、沖縄に帰した。
売れてきて、ペットの世話をする時間がなくなってしまい、ペットは病気にかかったのだ。
なにをやらせても完璧、または完璧に仕上げてくる努力家だっただけに、もう少しこちらでケアしてやるべきだった。


四条貴音
一族の役目を果たすと言い、事務所を去った。
それからというもの、消息不明でどこにいるのかも分からない。
勇気をください、と震えていた唇がわすれられない。


…………虚しいな。

ざっと書きつらねてみたが、こんなところか。

できることならもう一度やり直したい。

ムリだと分かっていても。

だが、俺には今の仕事もある。

また明日から新しい年度が始まる。

気合いを入れなおそう。

もう、俺の担当アイドルにあんな顔はさせない。


4月1日


何が起きた?
意味不明すぎる
とりあえず簡潔にまとめる
朝起きたら20年前の自分の机
朝起きたら20年前の自分のスーツ
朝起きたら20年前の自分の所持品
朝起きたら20年前の自分の身体
朝起きたら20年前の自分の顔



朝起きたら20年前の事務所



朝起きたら20年前の小鳥さんがテンパってる
朝起きたら20年前の律子が関心してる
朝起きたら20年前のアイドルが仰天してる



……社長だけ別人だ。順一郎でなく順ニ郎というらしい。



信じられない
タイムスリップだ。
入社したあの日に戻ってきた。
なぜか、この日記だけはあったが、他のもの は全部20年前になってる。



とりあえず、今日は20年前と同じようにみんなにあいさつして、簡単な説明や教養を受けて終わった。

正直俺もかなりテンパってたが、どうやら新入社員だから緊張しているのだろうと思われたらしい。

タイムスリップのことは言わなかった。誰も信じないだろうし、仮に言ってもキチガイが事務所にやってきたと思われる。




俺は、どうするべきだろう
元の世界に戻る方法を探すべきか?
たしかに向こうにはまだ仕事を残してあるし、待ってる人もいる
だが、イヤ、うん、違うだろう
おれはもう一度彼女たちをプロデュースする
神様がくれたプレゼントだ。
もう二度と、あんな結果は出さない
こうなれば全員まとめて、トップアイドルだ!


4月2日

人間関係も20年前と同じだ。
大学時代の友人、家族、親類縁者、電話帳、どれも同じだ。
……なんで社長だけ微妙に違うんだ。

貯金も20年前と同じなのはちょっとショックだ。
ある意味20年間頑張ってきた結果だからな。
つーか20年前の俺はこの額でよく生活していこうと思ったな。

家財道具も、学生時代のものだ。
……やはり20年ってのは長い歳月だな。色々遅いし不便すぎる。
どの道具も20年遅れの年代ものだからな。


とりあえず、今日は数人のアイドルたちと面接をした。

社長に頼んだら1発OKだった。やる気があって非常に良いとのこと。

とはいえ、俺の研修カリキュラムはすでに決まっているし、定時以降となるのだが。

となってくると、面接する人間も限られてくる。

少なくとも、中学生組は土日の日中だ。通勤時間を考えると春香も。


だから、今日は数人だけ。

具体的には千早、あずささん、真、貴音。

やっぱり、アイドルたちも20年前のままだ。

千早はまるっきり心を開いてくれなかった。あそこまでかたくなだとちょっと凹む。
あくまで注意の範囲内で指導した。抱えてるものが抱えてるものだし、根気よくやらねば。


真とあずささんは逆にすでに心を開いてくれている。ええコたちや。
正直、この2人は相当ポテンシャルが高い。前の世界(便宜上)でも、稼ぎ頭だった。
今だから分かるが、あの段階でもまだまだ潜在能力を秘めていた。
これからのプロデュースが楽しみすぎる。

真はダンスだけでなく、声も特徴的だ。もちろんいい意味で。
顔立ちも相まって、最初に売れ始めること間違いなし。むしろ売れない方がおかしい。

あずささんは歌唱力が尋常じゃない。あとは身体と性格も。だから前の世界じゃ瞬く間に運命の人に持ってかれたんだよ。
すいませんが今回はしばらくアイドルでいてもらいますよ。

今回1番のブッコミ。貴音だ。
正直ヤバかった。入社2日目にして会社を物理的に潰すかもしれなかった。
そりゃ貴音のとっぷしーくれっとを口にしたら消されかねんわなあ。
前回の世界と同じく、じいやさんがどこからともなくでてきて焦った。
前回の出来事を参考に、ヤマ勘張って初手を凌いだら手練れと勘違いされた。
おかげでこっちの話に耳を傾けてくれたが。
結果、じいやさんはしばらく旅に出ることとなった。
あの人は本当にいい人だ。
きっと、これで、貴音が一族の役目を果たすなんて馬鹿げた理由で765プロから消える未来はなくなったはずだ。


あなた様、老体のじいやにここまでさせるのです。
わたしも生半可な覚悟ではいけません。必ずや高みへと登りつめます。
力をお貸しください。


まっすぐな目で貴音は俺にこう言った。
当たり前だ。必ず高みへと登らせてやる。


最後に俺と貴音とじいやさんでラーメンを食いにいったが、じいやさんまで大食いだとは思わなかった。


4月3日

すでに分かってることをレクチャーされるのは中々面白い。

こちらもさすがに20年前の事務所の見取り図を再現できないし、20年前の様式を覚えてないから助かる。

とはいえ、飲み込みが早すぎると律子が少し動揺してたが。

あなたの後輩ではなく、ライバルになるためにここに来ましたから。と伝えたら、目がマジになってた。

正直、可愛いと思ってしまった。あと、呼び方は秋月さんではなく律子でいいと言われた。可愛いと思ってしまった。



今日は響、雪歩と面接。

響はペットの世話があるから早めにしてくれと急かされた。
彼女もやはり20年前と一緒。ペット飼いすぎた。
今はいいかもしれんが、泊まりの地方ロケとかあったらどうすんだ。
ハム蔵がなんとかするさー、って本気で言ってんのか。不安だ。
まあ、連泊じゃなければ少しくらい平気さ。今は。

雪歩、話にならず。
まず俺と狭い空間で2人きりというのがダメらしい。
本人の体調が悪くなってきたことから途中で面接打ち切り。
磨けば光るものを持っているが、果たして磨けるのか。

4月4日

とりあえず今日で教養と研修は終了。あとは事務手続きが少々残ってるか。

癖で小鳥さんを小鳥さんと呼んだとき、小鳥さんがちょっと動揺してた。
まだまだ音無さんって呼ぶべき時期だが、癖で呼んでしまった。
だが、律子も律子で呼んでるし、小鳥さんで構わないとのことだった。

ちょっと赤面してたのが可愛かった。

俺の精神はおっさんのはずなんだが……まだまだ若いな。ちょっとドキドキした。



今日は予定を繰り上げ、美希と伊織と面接。
すでに親御さんには伝えてあるとのこと。


美希は相変わらずだった。寝るな。せめてプロデューサーと呼べ。寝るな。
これからの方針は、キラキラさせてくれればなんでも良いとのこと。むちゃくちゃだ。
彼女の弱点は体力であり、地味な基礎トレをちゃんとやってくれるかどうかにかかっている。それだけに、不安だ。


伊織は逆に貪欲だった。本当に中学生かよ。
まず最初の1分半でアイドルの伊織と、それからは素の伊織と今後方向性について語った。
ぶっちゃけ、誰よりも実りのある面接だった。
キャラを演じることに苦を感じなければこのままでいいだろう。
途中から方針を変え、素のままのキャラを出して、ギャップ狙いにいくのもアリだ。


4月5日

入社して最初の土日も出勤って意識高いよな。
まあ、正直この事務所、裏方の数とアイドルの数の比率が逆だからな。

こういうとき、若いっていいな。疲れなんてないぞ。

久しぶりにスポーツでもはじめるか。


今日は春香、やよい、亜美と真美と面接だ。

春香はやはり正統派アイドルになることが本人の希望だ。大いに結構。
まだ実力不足なところもあるが、潜在能力はピカイチ。大器晩成型だな。
前の世界じゃダメだったが、今はもうそんなヘマはしない。

やよいは天使。うん天使。
伊織はキャラを演じる方向性だが、やよいはそのままでいこう。そのままがいい。たぶんキャラ演じるとか不可能だし。
舌足らずな話し方も良く分からん御辞儀もそのままでいこう。変に矯正するよりそっちの方がいいのは前の世界で実証済みだ。


亜美と真美は一緒に面接した。1人ずつだって言ってんのに聞きゃしない。
こっちは2人を双子キャラで売るつもりはない。最初にそう言ったら2人は意外そうだった。
ぶっちゃけ双子キャラの方が売り出す方は楽だが、飽きられたらそれまでだ。恐らく持って1年。
そんなことせんでも、こんだけ個性が強いんだから1人1人売り出してもなんの問題もない。


ひと通り全員を面接したが、やはり20年前のあの子たちと変わりはない。

となれば20年前のリベンジだ。正直、今、ゾクゾクしている。

この子たちをプロデュースできることにゾクゾクしている。

リベンジもそうだが、それ以上にこれだけの潜在能力を秘めたアイドルたちを育てられることにゾクゾクしている。

20年後の961プロでも765プロでも876プロでもこの布陣はあり得ない。

やってみせる。全員まとめて、トップアイドルだ!

今回はここまでです。
久々すぎて色々ヤバいです。

前作はとある魔術の禁書目録とのクロスオーバーなので、とあるもイケるという方は、どうぞ。


9月7日

以前、響に動物たちを健康診断に行かせるように指示していた。
で、どうやら今日、その結果が帰ってきたらしい。
ちょっと危ないのが何匹かいたそうだ。
響はかなりショックを受けていた。


自分は飼い主失格さー……。
みんなの体調に気づいてやれなかったなんて。
……正直な話するとね? 自分、ちょっと怠けてたんだ。
最近忙しくなってきただろ?
だから、疲れて、ちょっとだけ、怠けてたんだ。



たしかに、その点は否めない。
前の世界でもそうだったのだから。
その時は響がとんでもない行動に出たから、俺がペットごと沖縄に送り返した。
今回、ペットを健康診断に行かせたのもそのためだ。

しかし、現状を把握できても、まだ解決には至らない。
むしろ、俺の見立てでは、フェアリーは今以上に忙しくなる。
普通の人間なら家に帰ってバタンキューのところを、何匹ものペットの世話をしなければならない。

飼っているペットの数を減らすよう助言してみたが、頑として首を縦に振らない。
家族を手放せるわけがないとのこと。
どうするべきか悩んでいると、貴音が現れた。
事情を説明すると



ならば、私が響の家に住めば万事解決かと。
ちょうど、事務所から近い住まいを探していたところです。



問題はあっさり解決してしまった。
響の方は大歓迎だった。来週から貴音は響の家に住むそうだ。
多数のペットを飼うため、もともと響の家はでかかったので、スペース的には大丈夫だろう。
苦手な動物もいるのではないかと聞いてみたが、響の動物とは既に何度も面識があるとのこと。
そういえば、フェアリーはいつも早朝練習をしてるんだった。

ともあれ、とりあえずは問題解決。
響を再び沖縄に送り返すような未来が来ないようにしなければ。


9月13日

気づいてしまったか。
さすがだ、雪歩。

今日、収録中、雪歩がいわゆる菊地真改造計画を実施してしまった。
男装真はやはり女子に大ウケ。スタッフ女性陣から黄色い歓声が上がった。
さらには悪ノリした真美が宝塚ファッションをさせたら、さらに黄色い声援が。

番組ディレクターもこれは数字が取れると大絶賛。
以前の961プロとの件もあるので、さすがにこちらから無闇にNGを出すわけにもいかない。
大義もないのに好き勝手言えば、765プロは調子に乗っていると判断されかねない。
爽やかさを前面に出していた真だが、この件で女性層のファンが激増するだろう。

前の世界では、真は、あんまり進んでボーイッシュな仕事をしたがらなかった。
心底嫌っていたというわけではないのだが、さて、どうしたものか。


9月16日

ウィンキー第2の矢、射出。
いままでゆっくりとした曲調のものを中心としてきたウィンキーの次の新曲は『キラメキラリ』だ。
さらにカップリングで『乙女よ大志を抱け』。

やよい、春香はもちろん、千早も楽しく踊って楽しく歌う。
そうさ、俺は歌姫如月千早ではなく、アイドル如月千早をプロデュースしたかったのだから。
いままではオールスターライブでしか見れなかったウィンキーの元気な姿を見せる。

完全に吹っ切れた千早もノリノリだ。
それもそのはず。
なぜなら、千早は元々楽しく歌うのが好きなのだから。
オールスターライブの『READY!!』のとき、カメラ目線でウインク決めた千早を俺は忘れない。
とはいえ、どちらかと言えば、千早はダンスが苦手な方だ。
ここからは春香とやよいに千早を引っ張ってもらう。


帰りにCDショップを見てきたが、かなりいい売れ行きだ。
これは期待が持てる。


9月18日

まさか、そう来るとは。完全に計算外だった。



私の最後の切り札。
それは、私自身がアイドルになることです。



竜宮小町に不定期的に律子が参戦するようになった。
これは、俺には真似できない。
しかも、中途半端にやれば人気は下がるはずなのに、律子は完璧にやり遂げている。
さすが元765プロの稼ぎ頭。
『竜宮小町はあの秋月律子がプロデュースしている』。
という理由で、竜宮小町を応援していた、根強い律子ファンがいたことを、律子は知っていたらしい。



あなたは人気急上昇中のアイドルグループを3つも担当してるんです。
なら、私だって多少の無茶はやり遂げます。
そうじゃなきゃ、あなたには勝てませんから。



そうは言っていたが、やはり不安だ。
だが、それを払拭するように、竜宮小町が次々に口を開いた。



大丈夫ですよ。私たちがちゃんとみてますから。

律っちゃんが倒れたら亜美たちも活動できないもんね。

そういうこと。心配無用よ。それとも何? アンタそんなに律子が怖いの?



……ぶっちゃけ、怖い。
この展開は経験したことがない。どうなるかわからないぞ。


9月25日

シャイン、ウィンキー、竜宮小町がそれぞれBランクに進出。

雪歩と真美の改造により王子様の素質を見せ始めた真。
見事に復活を果たして明るい一面を見せ始めた千早。
カムバックにより既存のファンを呼び戻した律子。

それぞれが着火剤となり、グループの人気を爆発的に上げている。
特にウィンキーのやよいと春香は元々明るい曲調の方が得意なんだ。
いままで我慢してきた分、元気を爆発させている。

この結果は大変喜ばしいことだが、唯一フェアリーだけが、調子が奮わない。
というより、美希が安定しない。
調子がいい時は誰よりもいい動きを見せるが、悪いときは誰よりも悪い。



んー、眠いの。



最近の美希の口癖だ。
やはり、体力のなさが表れてきたか。
前の世界では、美希は焦りすぎてヒザを壊した。
そのことを考えると、一概にもっと頑張れとは言えない。
そもそも、他の3グループが異常なだけで、わずか半年足らずでCランクという成果は上出来すぎる。

焦りは禁物だ。長期的な目で見ていこう。


9月28日

美希を怒らせてしまった。
やってしまった。というより、言葉を選べなかった。
俺はフェアリーを長期的に育てていくということを伝えたかった。
しかし、美希は切り捨てられたと勘違いした。
俺の話を最後まで聞かず、美希は会議室を飛び出して行った。
響と貴音はちゃんと最後まで聞いてくれたが、納得はしていない。
響は睨んでくるし、貴音は凝視の領域だ。



プロデューサー、明日の朝、ちょっと早く出てきて。

どうやら、さすがのあなた様も完全には目が届かない様子ですので。



なんだと言うのだろう。
よく分からないが、とりあえず行ってみようと思う。


9月29日

早朝、まだ家を出る前に、響からメールが来た。



前に会った公園に来て。



以前、早朝に出勤したときに、貴音と響に会った、あの公園のことだ。
行ってみたら、響の監督のもと、美希が1人で練習していた。
レッスン嫌いの美希が、なんのイベントもないのに。

声をかけようとしたら、ふと、貴音が背後から現れた。
心臓が飛び出すかと思った。
貴音曰く、ここ最近は欠かさずここに来て練習しているとのこと。
雨が降ってもやろうとしたので、止めるのに一苦労したとのこと。
今は、社長に頼んで朝でもレッスンスタジオを使えるように交渉してもらっているとのこと。



あなた様が感じておられたように、美希はここ最近不安定でした。
慣れない早起きをしての早朝レッスン。睡眠時間の長い美希には厳しかったでしょう。
そも、美希は一時期挫折しておりました。
961プロから圧力を受けたことを境に、ここでは何をしても無駄なのだと悟ったのです。
ですが、自分よりも圧力を受けた千早は見事逆境を乗り越え、復活を果たしました。
以来、美希はひたむきにレッスンに取り組み始めました。
いつかかならず、自分も輝いてみせる、と。
そんな折、あなた様からあのような話を聞かされれば、ショックも受けるというもの。



知らなかった。全員を見ていたつもりだったが、俺もまだまだだ。
いてもたってもいられず、俺は飛び出した。
驚いてる美希に一方的に約束した。

絶対にフェアリーをトップアイドルにする、と。

美希は、別に怒っていたわけではなかった。
ただ、ひたすらにショックを受けていただけだった。



ううん。悪いのはミキなの。
アイドルの世界は弱肉キョーショク、だっけ?
結果が出ないなら、キラキラできるステージなんて出られないの。
でもね? ミキも諦めるつもりはないよ?
プロデューサーがミキのこと認めてくれるまで、ミキ、がんばるの。



……あれだけ気分屋の美希が、ここまで覚悟を決めているとは思わなかった。
元々才能は一級品だ。努力すれば必ず輝ける。

だが、心配なのはやはり体力。
無茶だけはするなと念を押したが、心配ご無用と得意げに話していた。



ちゃんと響が見てくれるから問題ないの!
それに貴音からもアドバイスしてもらったから大丈夫! ホラこれ!



そう言って、置いてあったトートバッグの中からおにぎりを取り出した。
曰く、よく食べてよく動いてよく寝れば傷病など恐るるに足らず、とのこと。
間違ってはいないが……

とにかく、フェアリーの努力はわかった。
本人たちのチカラは他のグループにも決して劣っていない。
こちらとしても、最大限のサポートをしてあげよう。


10月3日

美希の切り替えの早さに驚かされっぱなしだ。
早朝レッスンを継続しているせいか、美希の昼寝の時間が増えている。
ぶっちゃけ、本番ギリギリまで寝てることが多い。
なのに、本番になればきっちり仕事をこなす。
この切り替えの早さも才能だろう。

今日、新しくジムと契約した。
レッスンではなく、マッサージのトレーナーだ。
きっかけは美希だが、なにも美希のためだけに契約したわけではない。
そろそろアイドルたちの身体に疲労が溜まり始めている。
若いとはいえ、スケジュールが詰まってきている。
身体を壊してしまっては元も子もない。
これからは、レッスンやライブ後にはかならず入念に身体をケアしてもらう。

前の世界では金が無くてこのシステムに移るまで大分時間がかかったもんだ。
だが、今の765の資金力ならなんとかなる。
っていうか、信用ならなんとかなる、か。
また銀行から融資もらったけど、早めに返そう。


10月10日

フェアリー3連勝!
Bランク昇格も近いだろう。
段々と美希が安定してきた。
貴音と響も早朝練習の甲斐あって高いレベルで安定している。
もはやフェアリーはCランクにいるべきアイドルではない。



ふふ、なんだかとっても嬉しいの!
ミキね? 今まであんまりいっぱい頑張るってことしなかったの。
でもね、頑張って頑張って、その分だけキラキラできるって、とっても嬉しいの!



これは大きな収穫だ。努力する喜びを知った天才ほど強い存在はない。
正直言って、ほんの2〜3週間努力しただけでここまで成果を出せる人間は紛れもなく天才だ。

だが、美希ほどの才能がある人間で、美希くらいの年齢の子は、大抵伸びない。
なんでもできる子はなんでもできるが故に本気で努力をしない。
幼少期から努力するクセをつけるように教育された子なんかはまた話が別だが。
とはいえ、今の美希なら努力を怠ることを心配する必要はない。
どこまででも努力して成長してくれるはずだ。

専門職のマッサージ効果か、ここ最近は765プロ全体の動きがいい。
さりげなく小鳥さんが行ってるのも知ってるが、それで仕事の効率が上がってるから目をつぶってる。
……俺も行こうかな。


10月15日

フェアリーBランク昇格。当然だ。
元々潜在能力抜群の3人だ。ひたむきに努力すれば必ず結果に結びつく。
もはやBランクでも敵なしだろう。

今日、また嬉しいことがあった。
番組収録後、フェアリーが着替えに行ってた時のことだ。
中々帰ってこないので、様子を見に行ったところ、3人が絡まれていた。
あろうことか、黒井社長に。

いままでのこともあって、カッとしてしまった。
ウチのアイドルになんの用だと、ケンカ腰で突っかかってしまった。

途端に、3人が笑い始めた。



な? だから自分たちは961プロには行かないぞ。

ここまで私たちを見てくれる方は他におりませんので。

むしろ、そっちも自分のアイドルをちゃんと見てあげるべきだと思うな。行こ、ハニー。




美希に腕を引っ張られ、その場を後にした。
後で話を聞いたら、なんと961プロにスカウトされていたらしい。
ウチよりも破格の待遇、充実した設備、きらめくライブ。
ハリウッドのステージを用意してやるとまで豪語していたらしい。
だが、3人は765プロに残ってくれた。



んー、自分、今は765プロでフェアリーやってるのが楽しいからなー。

じいやを説得したのは紛れもなくあなた様。ここで高みを目指す以外、私の望みはありません。

ミキのことをちゃんと見てくれるのはハニーだけなの。あっちはなんにも見てないの。そんなの、や。



なんというか、本当に、プロデューサー冥利に尽きる。
また泣きそうだった。


落ち着いてからハニーってなんのことか美希に聞いてみた。



あんなにタイミング良く、カッコよく出てくるんだもん。
あずさ風に言うなら運命の人ってカンジ。
だから、これからもよろしくね、ハニー。



……前の世界でもそう呼ばれていたから、別段驚きはしないが。
それでもやはり、なんかこう、くすぐったい。

今回はここまで。
中々全員に満遍なくとはいかないな。


レスありがとうございます。
褒められると泣きそう。


なんか今年は雪少ないですね。
こっちだけかな?


10月18日

最近、律子の機嫌がいい。調子もいい。
元気な挨拶で、声にも張りがある。
なにかいいことでもあったのかと聞いてみた。



いいこと、っていうか……。
アイドルに復帰してから笑顔を心がけるようにしましたから。
亜美じゃないですけど、やっぱりアイドルが元気じゃないとファンも元気にならないですし。
それに、やっぱり声出して踊るとストレス解消にもなりますし。
それからファンレターもらうとやる気も出ますね。
プロデューサー業で不特定多数から応援されることなんかないですから。
あと、ライブで盛り上がったりした週なんかはずっとテンション上がりっぱなしですねー。
それにそれに……



……やっぱり律子はアイドルなんだと思った。
デスクの上に『新ジャンル! プロデューサー系アイドル!』という表題の企画書が置いてあったのが目に入った。
しっかり自分を売り込もうとしているあたり、やはりプロデューサーなんだとも思った。


10月20日

やよいの元気が凄まじい。
今日のトーク番組の収録中、876プロの日高愛ちゃんとひな壇で大声合戦を繰り広げていた。
司会が上手いこと天丼として扱ってくれたおかげで滞りなく収録はすすんだが。
アレは多分天丼じゃなくて天然だ。



最近、お給料が増えたのでご飯が美味しいんです!
この間なんてもやし祭りと焼き肉祭りが同時開催できました!
もやし祭りと焼き肉祭りで大騒ぎでホットプレートがうっうーー!!
いっつもお腹いっぱい食べられるので元気もいっぱいです!!



……やよいのテンションに押されてスルーしたが、ホットプレートがうっうーー、ってどういう状況だ。

なんにせよ、テンションが高いことは、やよいのアイドルとしての方向性としてはいいことだ。
最近のウィンキーはかなりアップテンポな曲も出来るようになり幅が広がっている。
今後の成長も期待できる。
今後の売行きも期待できる。



こ、これ以上お給料が増えるんですか!?
うっううううううううううううううううう!



甲子園のサイレンか。
まあ、本人は貯蓄も考えてるみたいだし、収入以上に散財するような真似はしないだろう。


10月22日

ここの所、真美がファッション雑誌で引っ張りダコになっている。
顔や性格のわりに身長はある方なので、プレティーン向けの雑誌では重宝されている。
意外にもカリスマ性を発揮しており、時々可愛らしい文字で真美を崇拝している様子のファンレターが届く。
雑誌では毎回CDやライブの告知もやらせてもらえるので、いい宣伝にもなっている。

真や雪歩も雑誌では人気がある。こっちは主にグラビアだが。
グラビアと言っても、水着ではなく、それぞれに合うシチュエーションで撮られることが多い。

それぞれのマーケットもかぶってないため、シャインは様々な層に人気がある。



ねえねえ、兄ちゃん。あのときの話覚えてる?
一緒に竜宮小町をぶっ倒そうってヤツ。
まだ竜宮小町を倒したわけじゃないけどさ、真美いますっごく楽しいんだ。
ゆきぴょんやまこちんとライブやったり、色んな服着て雑誌に載ったり。
亜美とも時々共演できるしね。
テレビで一緒に映るのはあんまりできないけど。売り出し方の問題? だっけ?
でも、亜美も頑張ってるから真美はもっともっとがんばるよ。
じゃないと、竜宮小町は倒せないかんね!



実際、竜宮小町には勝ってないが、負けてもいない。
今のところライブバトルの戦績はほぼ優劣がない。
この間リリースした『ポジティブ!』は竜宮小町の『七彩ボタン』とほぼ互角の売上げだ。
いつか竜宮小町を負かし、律子をぶったまげさせてやろう。


10月25日

貴音の集中力が尋常じゃない。
原因はおそらくアレだろう
先日、事務所に妙な封筒が来た。
なんと、ロシアからのエアメールだ。しかも俺宛てに。

ネット配信を見たファンとかで、外国からアイドル宛てにファンレターが来ることはあるが、俺宛てには初めてだ。
さすがにロシア進出は考えてなかったからロシアにパイプなどない。

送り主の名前は書かれているが、知らない名前だった。
いったいなんだろうと思って封筒を開けたところ、なんと貴音のじいやさんからだった。
そういえば、ちゃんとした名前は聞いてなかった。じいやさんとしか認識していなかった。

中身は俺宛ての依頼の手紙と、貴音宛ての手紙が入った封筒。
俺宛ての手紙には、貴音宛ての手紙を貴音に渡してほしいという旨が書かれていた。
どうやら、1度貴音宛てに送った手紙が届かなかったようだ。

手紙を渡した際に貴音に確認したところ、響の家に引っ越したことを伝えていなかったらしい。
伝えていなかったというよりも、じいやさんが世界中を飛び回っていて連絡がつかないようだ。

早速手紙を読みはじめた貴音は、ころころと表情を変えながら読んでいた。
そして、読み終えると、いきなりぽろぽろと泣き始めた。
いきなりことだったので、かなり狼狽したことを覚えている。



申し訳ありません、取り乱してしまいました。
ふふ、あなた様、私は果報者です。
私は、これほどまでに人に恵まれた。上司に、友に、仲間に、一族に。
……じいやに情けない顔は見せられません。
高みまであと少し。あなた様、今後もご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。



以来、仕事に対する集中力、そして圧倒的なオーラが尋常じゃない。
しかも、貴音の話では近々じいやさんが一族を集めてライブの応援に来るそうな。
貴音の一族、もの凄く気になる。


10月29日

竜宮小町、フェアリー、ウィンキー、シャイン、同時にAランク昇格!
更に765プロ主体のレギュラー番組『生っすか!?』放送決定!
更に更に765プロオールスターライブin X'm@s開催決定!


……本格的な活動を始めて早半年。
よくもまあ半年でここまで……。
我ながら恐ろしいな。
正直、前の世界だったらできる気がしない。
どんなユニットを組んでも不可能だろう。
前の世界の20年間の内、今の時代以外の765プロ所属アイドルから最高の13人を選抜したってムリだ。
社長の ティンときた! ってのが凄すぎる。
ホント、どっから見つけてきたんだこの逸材たち。
この分だと、全グループIA大賞にノミネートされるかもな。

で、上記3つのイベントが重なると、当分はデスマーチなわけで。
『生っすか!?』は番組編成等、局の都合があるため、放送開始は年が明けてから。
のはずだったのだが、どうも年明けを待たずに、11月下旬には放送するらしい。
こちらとしては、クリスマスライブもあるので、広報面だけで言えば渡りに船なのだが。

こういうときこそ、この事務所の素晴らしさが表れる。
全員参加の番組だライブだと伝えたときの嬉しそうな顔ときたら。
自分たちがAランクに昇格したと伝えたときより嬉しそうだった。

アレを見ただけで、もっと頑張ろうって思える。
アイドルっていいなぁ。
勤続20年目ながら、しみじみ思った。


11月10日

しばらく日が空いた。
ちょっと前まではどんなに忙しくとも、週に一度は書いていたのだが。
最近は尋常じゃない忙しさだ。
社長も大車輪の活躍だ。
もう少し人材を増やしてほしいが、ぶっちゃけ今新入りが来てもかまってやることができない。
たぶんいない方がマシだろう。というより、入っていきなりこの仕事量はできないだろう。
どっかでヘッドハンティングでもできればいいが。

ここにきて961プロの圧力が強まってきた。
黙っているわけがないとは思っていたが、なかなか露骨な手を使ってくる。
やはり根回しは向こうの方が上だ。パイプの数が違う。
営業妨害とは言えないが、やはり出る杭は打たれるか。
765プロの勢いを快く思わない人間も相当数いるだろう。

そもそも、961プロは地力が違う。看板級のアイドルグループが何組もある。
それぞれが765プロと同格だ。
中でもJUPITERはかなり手強い。
何回かライブバトルをしているが、未だ勝てない。
ウィンキーと竜宮小町が引き分けに持ち込んだことはあったが、アレは変化球で攻めた結果。
要はJUPITERのファン層とまったく別のファン層を呼び込んで勝負した結果だ。
真正面から戦ったシャインとフェアリーは勝てていない。

この壁を乗り越えてほしいが、そう簡単にはいかないだろう。


11月13日

業界に激震が走った。



JUPITER、961プロを脱退!!
新レーベル立ち上げか!?



今日の新聞の一面だ。
どういうことだ。
20年前の世界じゃ、JUPITERは常に961プロに所属し、伝説のアイドルとして君臨していたはずだ。
よくよく記事を読んで、要点をまとめると


活動方針の違いが原因。
前々から溝はできてたが、ここ最近、それが顕著になった。
黒井社長に恩義は感じているし、感謝もしている。
だが、それを踏まえても、今の黒井社長にはついていけない。
具体的な内容は言えない。
しかし、こちらにはいつでも発表できる準備がある。
これからの活動方針は未定だが、自力で活動していくことにも興味がある。


ざっとこんなものか。
新聞社によってはこの今後活動方針について色々な解釈がある。
主な解釈としては、961プロからさらに何グループか引き抜いて、会社を立ち上げるつもりだと解釈しているようだ。

こんなことをして、彼らは大丈夫なのか?
干されたりしないだろうか?
いくらスーパーアイドルとはいえ、ここまでやって業界で生きていけるのか?
ライバルとはいえ、いや、だからこそ気がかりだ。


11月15日

なんと事務所にJUPITERが来た。
シャインの営業を終え、帰社したところ、事務所のソファーに3人が座っていた。
3人の用件は、とにかく765プロに謝罪がしたかったとのこと。



如月千早の記事の件、ちょっと前からの露骨な圧力、全部情報は入手した。
ホントに悪かった。
俺らは961プロを抜けちまったから、961プロからの謝罪、とはならねえが、さすがに申し訳ないからな。



要はそういうことらしい。
今回の961プロ脱退の件も、それが原因だそうだ。



社長に恩義は感じてるけどよ、さすがにやり過ぎだ。
何より許せねえのは、俺たちのライブに茶々いれようとしたんだ。
駒として見られてんのも納得いかねえのに、信用すらしてねえって言われれば頭にも来る。

クロちゃんのことも嫌いじゃないんだけどねー。
今のクロちゃんは頭に血がのぼりすぎだよ。

社長はあなた方を敵視するあまりに、自分の会社のアイドル、社員、環境すら見えていないんです。
だから僕たちなんかにまんまと情報を取られ、してやられた。



……とんでもなくたくましい子たちだ。
961プロで揉まれてきただけはある。

しかし、こんなことをして、この先この業界で生きていけるのだろうか?



ま、今まで通りとはいかねえだろうな。
それでも、一通り情報は握ってるから不当な真似はできねえだろ。


ボクたちはこれから自分たちの力だけでやってくつもりなんだ。
961プロを抜けたボクたちがどれだけやれるのか興味あるしね。

実力がなくこの業界を去るか、自分たちの力で生き残るか。
圧力に対する自衛の力は持ってますし、純粋な実力勝負です。



自信と実力があるのは知っているが、組織に頼らないというのは思っているより厳しい。
だが、本人たちが望むのなら、それもまたいいだろう。
なんとなく、彼らならやれる気もする。

とりあえず、今回のことに関しては765プロにとって追い風になる。
これ以上961プロが不穏な動きをすれば、JUPITERは自分たちの得た情報を公開するつもりだという。
その旨も既に向こうに伝えてあるそうだ。
感謝の念しかない。



よしてくれ。俺らは今の961プロが嫌だと思っただけだ。
765プロのためにやったんじゃねえ。
……社長もこれで少しはあたま冷やしてくれればいいが……


そうだね。それに、765プロとも対等にいたいんだ。
まだ竜宮小町やウィンキーと決着ついてないしね。


この件で1度アイドルランクが下がると思いますが、すぐに戻します。
今度はこちらがチャレンジャーです。首を洗って待っていてください。


そう言って、3人は爽やかに去っていった。
さすが伝説のアイドル。男ながらにかっこいいと思ってしまった。

今回はここまで。
時間が足りない。


レスありがとうございます。
一応今回は禁書抜きなんで、ていとくんは出ません。
その後は……まあご想像にお任せしますということで。


思った以上に時間が取れなさそうなので、もしかしたら2月中に完結しないかもです。


11月19日

竜宮小町、フェアリー、ウィンキー、シャイン、全グループIA大賞ノミネート決定!

会社設立1年目でIA大賞ノミネートは、大賞始まって以来史上初。
所属アイドル全員がノミネートというのも史上初。
プロデューサー歴1年目がノミネートアイドルを輩出するのも史上初。
兼業アイドルがノミネートされるのも史上初。
何もかも史上初。

これは本当に大賞も狙えてきた。
前の騒動のせいでJUPITERはノミネートされていない。
残りは961プロ所属アイドルが数名、876プロの3人、こだまプロの新幹少女。
いずれもまごう事なきトップアイドルたちだが、話題性でいえば圧倒的にウチのアイドルが1番だ。



にひひっ♪ どう? プロデューサー。
ま、このスーパーアイドル伊織ちゃんにかかればこんなの当然よね。
今度のクリスマスライブも私に任せれば完璧よ。
絶対成功させてあげるから感謝なさい。にひひひひっ♪



さすがにIA大賞ノミネートともなると伊織も満面の笑みだ。
この間、伊織のお父様とお母様、お兄様方、そして伊織が久々に一堂に会する晩餐会があったそうだ。
伊織の活躍が話題に上がり、話し合いの結果、今度のクリスマスライブには家族総出で来るらしい。
それならば、ということで関係者席のチケットでも送ろうとしたが、伊織に断られた。



そんなのいらないわよ。
ちゃんと各自自力でチケット取れるわ。
だって、ふふ、お父様もお母様もお兄様も、竜宮小町のファンクラブ会員なのよ。
私も知らなかったけど、たまの休みに変装してライブバトルに来たこともあったみたい。
それならそうと言ってくださればよかったのに、もう……



とかなんとか言いながら、もうずっと笑顔だった。
伊織がずっと目指していた『家族に認められる』という目標が達成できたんだ。
あれだけ嬉しそうな伊織は初めて見た。
月並みな言葉だけど、よかったな伊織。



11月23日

『生っすか!?』初放送!
初回視聴率は20%超!

上出来だ。
さすがにこの数字を維持するのは無理だろうが、このご時世にこれだけ取れれば十分すぎる。
俺も番組を見ていたが、贔屓目なしに面白いと思う。
響や貴音、あずささんなんかは1人のコーナーということで緊張もあっただろうが、見事にやり遂げてくれた。

しかし、1番楽しみながら撮影に臨んでいたのは、やっぱり亜美と真美だ。
念願の2人揃っての番組出演、それも自分たちの名前入りのコーナーとくれば、テンションMAXだ。



兄ちゃん兄ちゃん兄ちゃーん!!
どうだった!? 亜美たちのハイセンスギャグの数々は!
超面白かったっしょ!?
やっぱり真美がいると違うZE!



たしかに面白かった。
正直、2人揃うと画面に収まりきらないんじゃないかと思うくらい賑やかだ。
これまでは2人の売り出し方として、基本的に2人セットでやらせることはなかった。
だが、せっかくのレギュラー番組だ。
すでに2人ともトップアイドルの領域だし、多少は問題ないだろう。
ただし、あまりやりすぎるのは得策ではない。
今後も『生っすか!?』以外で2人同時にテレビに出すつもりはない。
そのことを亜美に伝えたが、ケロっとしていた。



そ→ゆ→のは竜宮小町ができたときに散々やったからね。ちかたないよ。
ぶっちゃけ、竜宮小町ができたときの亜美ってチョ→わがままだったんだ。
ほとんど毎日、真美と一緒にアイドルしたいー! って言ってさ。
でも、そしたら律っちゃんが倒れちゃったんだ。
おまけに倒れた律っちゃんに、真美と一緒にアイドルさせてあげられなくてゴメンね、なんて謝られたんだよ?
もー、あん時は亜美もめちゃくちゃ泣いちゃったよねー。
だから、それからはもうわがままはあんまり言わないようにしてるYO!
結局、今は真美ともアイドルできてるし!
迷わずに進めよ行けば分かるのさ! ってね!



……知らない間に、亜美も成長していたようだ。
イヤ、この半年で成長しなかった者なんていないか。
とにかく、これからも亜美と真美はそれぞれの方向で活動させる方針だ。
本人たちの我慢の甲斐もあって、今では亜美と真美のそれぞれに固有のファンが大勢ついている。
俺の売り出し方は間違っていなかった。
これなら2人も長くアイドルとして輝けるだろう。


12月8日

早くもクリスマスライブのチケットが完売した。
都内一のドームでの開催だというのに、あっと言う間の完売だ。
正直、8月にやったライブの方が宣伝面では100倍苦労した。
今回は765プロの知名度もあって、スポンサーもどんどん名乗り出てくれた。
だから、今回はむしろそれらの調整で大忙しだ。
おまけに年末年始の特番収録のためにあちこちに行かなければならずてんやわんや。
さらには番組改編期に伴い、1月から始まる各局の新番組の収録も始まるためにそちらもてんやわんや。
レギュラーポジションを得た人間が多く、挨拶回りだけでも一苦労だ。
やっぱり裏方の人数が少なすぎる。

今日は雪歩のドラマの撮影に同行した。
メインヒロインではないが、主人公を支えるかなり重要な役だ。
少し前まではセリフすらもらえない役柄の仕事しかなかったというのに。
男性恐怖症持ちでここまでのし上がるとは大したものだ。
あの頃より症状は軽くなったとはいえ、まだ少し怯えている節がある。
それすらも、いざ撮影だとなれば途端にスイッチが切り替わるのだが。



えへへ、プロデューサー。私、スゴく変われた気がします。
前までは男の人と話すことすら、それこそ、プロデューサーともまともに話せなかったのに。
今は、男の人も女の人もいっぱいいる中に飛び込んで、憧れだったお芝居に打ち込んでる。
あんなにダメダメだった私でも、こんなに変われました。
プロデューサーのおかげです。
まだまだ半人前ですけど、ちんちくりんですけど、男の人も犬も怖いけど、それでも、これからもよろしくお願いします! プロデューサー!



……休憩中にいきなり言われたからびっくりした。
反則だ。いきなり泣きそうなこと言うのは。
それにも増して、収録に戻る直前に、ちょっと涙目になって、顔赤くして



……えへへ、やっと言えましたぁ……



とか小声で呟くのは反則だろが!!


12月13日

時間が取れない。
寝る。小鳥さん、あのドリンク、一時的に体力全回復とか、どこで手に入れたんですか。
アレもうドーピングですよ。


12月20日

竜宮小町、16連勝。
フェアリー、17連勝。
ウィンキー、15連勝。
シャイン、16連勝。

向かうところ敵なしだ。
このままIA大賞へ!
クリスマスライブまであと4日!
年末年始の収録がすべて終わるまであと6日!


12月24日

いよいよ明日はクリスマスライブ。
8月のライブとは比べものにならない規模だ。
今回も場内アナウンス等々は小鳥さん。
実を言うと、たまーにライブバトルのときにも同じようなことをやってもらうことがある。
なので、ある程度経験値を積んでいるせいか、今回は本人もまんざらではない。



なんだかんだでハマっちゃいましたね、この役。
プロデューサーさんの無茶振りをこなしていたら、いつの間にか私用のインカムまであるし。
あれ、本当に緊張するんですよ?
……まあでも、あの子たちのステージに役立つなら、喜んでやりますよ!



なんて言いながら、数日前にこの仕事を引き受けてくれた。
最近じゃ、なぜかインカムが標準装備になってる。
なんでもブルートゥース代わりにもなるとかなんとか。

そして、今回も社長室には大量のサイリウム入り段ボールが。
社長はもう今月の頭からずっとウキウキしてる。
よっぽど楽しみらしい。



ハッハッハ、イヤなに、今回はスポンサーのお偉方も大勢来るからね。
さすがに要職に就くような方々は歳が歳だ。ライブなんて初参戦だろう。
だから私が手取り足取り教えてやろうと思ってね。
各アイドルのサイリウムを関係者分揃えればこのくらいの量になるさ。ハッハッハ!



社長室に山積みになってる段ボールを背景に、社長は笑っていた。
前回の数倍はある。ちなみに前回のライブのときの社長の接待は好評だったらしい。
俺も精神年齢がおっさんだから分かるが、この歳になると何もかも忘れてアイドルを応援するのは、精神内の色々なものが邪魔する。
だから、かなり強引に引っ張ってくれる人がいた方がいい。そのストッパーをぶっ壊してくれるくらいに。



それと、ここだけの話、明日はアイドルたちの関係者が大勢来る。
四条くんのところなんかは一族総出だし、萩原くんのところは一家揃ってだ。
我那覇くんのところなんてほとんど町ぐるみで東京に出てくるというしね。
だからどうというわけでもないが……ちょっとやり過ぎだよキミィ。



……アイドルの子たちに頼まれて招待状を出していたのがバレた。
自分でいうのもなんだが、こんな大人気アイドルたちのライブを普通に購入するのなんてまず不可能だ。
水瀬家みたいにファンクラブ会員ならまだしも。
だから、友人家族親類縁者を呼びたいと申し出た子には招待状を作成して送っていた。
1年足らずでここまで成長してくれた彼女たちに、すこしでも何かしてあげたくてやった結果だが……。
ま、まあ、お咎めなしだから大丈夫だろう。……多分。

なんにせよ、明日は最大級のクリスマスライブ。
とっとと寝て明日に備えよう。
正直、社長以上に俺が楽しみだ。
最近のみんなの調子なら、きっとものすごいライブになる。
実力も勢いも、どこのアイドルにも負けちゃいない。
765プロの真髄を見せてくれ!


12月25日

泣いた。
自分で企画しといて泣いた。

『READY!!』に始まり『M@STER PIECE』に終わったライブ。
ここまで感情が爆発したのは久しぶりだ。
それほどまでに完璧だった。
ライブが終わった今だからこそ、冷静に評価できるが、ライブの最中は完全にのめり込んでいた。

途中まではちゃんと仕事として一歩引いたところで裏方に徹していたんだ。
だが、残り数曲になってからのめり込み、『M@STER PIECE』の最中には色々な感情が込み上げてきて爆発した。

前の世界では誰1人として輝かせてあげることができなかった。
誰1人として才能のない者なんていなかった。
俺の実力不足のせいで、夢を諦め、絶望し、バラバラになっていった。
その彼女たちが、あんなにキラキラと輝いている。
大舞台に怖じ気も迷いもなく、ただひたすらに自分を、そして仲間を輝かせている。


よくぞここまでーーーー


そう思ったら、涙が止まらなかった。
戻ってきたみんなに心配された。
情けない姿を見せてしまった。
だが、それでも良かった。
俺が見たかった光景が、あのライブに詰まっていた。



もう、びっくりしましたよ。一体なにがあったのかと。
ふふ、でも、プロデューサーさんにもそんなことあるんですね。
それとも、私たちがプロデューサーさんを泣かせるほど成長したってことですかね。
だって、これでもトップアイドルですよ、トップアイドル! そのくらいちょちょいのちょいです!
……私も、最後ちょっと泣きそうでした。
ちっちゃいころに憧れたアイドルになって、歌って、踊って、みんなを笑顔にして。
夢みたいな時間でした。
もっともっと、今日みたいなライブがしたいです!
みんなでみんなを笑顔にしたいです!
これからも一緒に頑張りましょう! プロデューサーさん!



そう言って春香が手を出してきた。
俺は迷わずその手を握った。
そしたら亜美と真美が左右からタックルしてきて、美希が後ろから抱きついてきて、みんな集まってきて。
もみくちゃにされたと思ったら胴上げされていた。


俺は絶対に忘れない。今日のライブを。今日の感情を。そして、この1年を。

今回はここまで。

次回、最終回。

訂正、まだ最終回ちゃう
次次回が最終回や
やっぱり2月じゃ終わらない。


1月29日

いよいよIA大賞が決定されるまであと2ヶ月を切った。
ここから先は更にハードな戦いになるだろう。
どの事務所もスパートをかけてきている。
正直、ウチは一歩出遅れた感じだ。


961プロ勢力はJUPITERが戻ってきたことで気合いが漲っている。
事務所の看板グループである上にあのカリスマ性。
恐らく所属のアイドルは全員焚きつけられているだろう。
先日のライブバトルではウィンキーが961プロ所属のアイドルに負けてしまった。

876プロは一か八かの賭けに勝った。
秋月涼くんが「実は男なんです」の爆弾発言でまさかの大ブレイク。
『男の娘アイドル』というカテゴリの先駆けとなった。
おかげで真が巻き添えを食らって若干落ち込んでいる。
だから真は正真正銘女だっつーの。

こだまプロは鉄道会社とタイアップして波に乗った。
新しく開通した新幹線のイメージソングとして出した新曲で2週連続オリコン1位に輝いた。
さすがに国家戦略クラスのインフラ事業でコケる訳にはいかないから各業界が宣伝に必死になっている。
フェアリーも同時期に『Next Life』を出していたが、オリコンチャートは2位止まりだった。


IA大賞に向けた終盤戦。
どこの事務所も死に物狂いだ。
だが、負けてはいられない。
IA大賞は必ずウチがいただく。


2月10日

765プロ特別企画バレンタイン・ラブソング大賞をフェアリーが制した。
同時に『ふるふるフューチャー』がオリコン1位にランクイン。

バレンタイン特別企画として、竜宮小町、フェアリー、ウィンキー、シャインが同時にラブソングを出した。
バレンタインのイメージソングになれるよう、がっつり恋愛を意識できるようなものをそれぞれに作曲。
それをリリースし、ファン投票でどれが1番かを決めてもらうという企画だ。

結果、『ふるふるフューチャー』が他を制して1位となった。
この曲、なんと既に出来上がっていた曲を聞いた美希が我流でアレンジしたものである。
作詞家さんも作曲家さんも驚いていた。



バレンタインのための歌だから、ハニーのこと考えて歌おうって前から思ってたの。
でも、最初の歌だとそんな感じじゃなかったの。
誰か1人に向けたラブソングよりもどっかの誰かに向けたラブソングってカンジ?
ミキ、そんな歌を歌う気分じゃなかったから、勝手に変えちゃった。アハッ☆
でも、みんないいって言ってくれたし、オッケーだよね?



自分のワガママを実力で納得させるところが天才らしいというか美希らしいというか。
つーか、俺に向けたラブソングが日本中で流れてるって意識するとめちゃくちゃ恥ずかしい。
美希ワールドに響と貴音も取り込まれたが、それもそれでいい味を出している。
恋する乙女は無敵、か。
さすが美希だ。



そんな訳だから、バレンタインは期待してていいよ。
ミキ、春香にも負けないようなとびきりのチョコレートをハニーにプレゼントするの!



……バレンタイン、否が応でも期待してしまう。


2月14日

合計14個のチョコレート。
デスクの端から端まで並べてみると壮観だな。
正直期待はしていたが、やっぱり嬉しい。
……嬉しい。
スマホで写真撮ってロックもかけた。
なんだろ、今スゴい幸せ。
世間一般からしたら、俺ってスゴい勝ち組なんだろうな。
さすがに1日じゃ食えないから、何日かに分けていただこう。
やっぱり1番最初は美希のからいただこうかな。言うだけあってラッピングからして凝っている。
小鳥さん斡旋の怪しい栄養ドリンクより体力回復しそうだ。



追記
美希のチョコレートを食べようとしたら、手紙が添えられていた。
内容はとても恥ずかしくて文面には起こせない。
たぶん俺いますっごく気持ち悪い笑顔してると思う。


2月25日

数日前、ウィンキーのライブバトルが終わった直後、千早がふと姿を消した。

心配になって探していると、困惑した表情の千早を見つけた。
込み入った話なので事務所に戻ったらちゃんと話をする、とのことだったのでひとまず全員で事務所に帰った。
とりあえず俺と2人で話たいと言ったので、社長室を借りて2人で話した。



父と母が会場に来てました。
その、私がアイドルとして活動しているのを知ってから、時々来ていたらしくて……。
それで、会場でお互いが出会い……ヨリを戻した、と。
私は、その、複雑というか……。
2人が仲直りしてくれて嬉しいのと、ここまでないがしろにされて怒っているのと、どっちの感情もあるんです。



千早の気持ちも聞いてみればよく分かる。
今まで千早がどんな気持ちだったのか、千早がどれだけ苦しい思いをしてきたと思っているのか。
ご両親に問い質したいところだ。
だが、それをいきなり俺がするのは少々筋が通らない。
まずは千早にやらせるべきだ。
千早のやりたいように、千早が自分の気持ちのままに動けばいい。
ここまで苦労してきたんだ。千早にはその権利がある。

そう伝えたら、今日、千早のご両親が菓子折り持って訪ねてきた。
2人とも頬に真っ赤なモミジをつけて。



いやぁ、たくましく育てていただいたみたいで……。

お恥ずかしい話です。申し訳ありませんでした。



……何をどうしたのか、千早に聞いてみた。



その、一発ビンタしてから抱きついて泣きました。
今まで溜まっていた鬱憤を晴らしたら、色々と止まらなくなってしまって……。



そう言った千早の顔には照れと泣いたあとがあった。
とりあえず、想定外ではあったがこれはこれで良かったのだろう。
ご両親は2度と千早に辛い思いはさせないと俺に約束して帰っていった。



……プロデューサー、ありがとうございました。
あなたのおかげで、私はここまで……。
私の夢も、家族への願いも、あなたはすべて叶えてくれた。
今、ここで死んだって悔いはない。そんな気分です。
……すいません、縁起でもないですね。
これからもプロデュース、よろしくお願いします!



そう言って、千早は笑ってくれた。
俺のおかげというより千早の実力なのだが。
ともあれ、こんなにも円満に終わってよかった。
これでまた、千早はより輝ける。



3月2日

見たか世間よ。
これぞ菊地真の本気だ。

先日、真の写真集が発売された。
やはり、真のお姫様カットは撮って正解だった。
口コミとネットでどんどん真のお姫様カットの評判は広がり、発売から1週間経った今でも増版されている。



見てくださいプロデューサー!
男の人からのファンレターがこんなに!
それに、みんなボクのこと、か、カワイイって!!



前々から男性ファンの人気はあったんだ。
最初は爽やかさを推して売り出していたからな。最近は女性ファンの王子さま熱が強かったが。
だが、ここに来て男性ファンからの人気が爆発。
王子さまカットの方も女性に評判がよく、写真集なのにベストセラーになりそうな勢いだ。

もう真はめちゃくちゃニヨニヨしてた。
だから言ったんだ。真は可愛いって。



へへへっ、やーりぃ!! ありがとうございます!!
うわー、どうしよう!
やっぱり女の子はフリフリだよね!
明日からもっとフリフリの服着ようかなぁ!


……イヤ、ちょっと待て。それは話が別だ。
あの写真は周りの雰囲気というか、それまでの写真の流れもあったから違和感なく撮れた訳で。
私服であれ着たらさすがに浮くぞ。
と、いうわけで一応忠告しておいた。



えーっ、ダメなんですか?
そりゃ言われてから町中見回したときに、実際フリフリの服着てる人はいなかったけど……。
で、でもホラ、変装の一種としてなら!



逆に目立つから却下。
というか、フリフリの服着て人気出たんだからすぐ気づかれるだろ。
そう言ってもまだちょっと不満気にしていたが、とりあえず納得してくれた。
普段の私服のセンスもいいんだからそのままでいいと思うんだが……。

とにかく、秋月涼くんの騒動に巻き込まれて拗ねていた真が上機嫌になってよかった。
ここからの真は強いぞ。


3月10日

シャインがなんとライブバトル30戦無敗を達成!
特にここ10戦は圧勝だ。真のキレがスゴい。

今までも十分クオリティの高いパフォーマンスを見せていたのだが、今は更にスゴい。
何かが吹っ切れたようで、見ているこっちが清々しい。
いわゆる『王子さま』の仕事だろうがなんだろうが、求められてるクオリティ以上のものを出してくれる。



へへっ、なんていうか、自信がついたんですよ。あの写真集のおかげで。
ボクはみんなから認められる女の子のアイドルなんだ、って。
高ランクに上がってからは、ボクは王子さまとしてしかこのランクいられないんじゃないかって思ったこともありましたし。
でも、あの写真集のおかげで、女の子としても立派にアイドルとしてやっていけるって分かりました。
そうだと分かったら、もう怖いものなんてありませんよ!
どんな仕事もじゃんじゃんバリバリ! なんだってかかってこい!



やはり真には笑顔がよく似合う。
なんというか、最初のころよりも清涼感が増した気がする。
写真集効果で女の子らしい仕事も増えた。
前の世界では見れなかった真の可能性を目の当たりにしてる気がしている。
まだまだ真は成長してくれるはずだ。これからが楽しみだな。


3月14日

本日はホワイトデー。
お返しは1人頭約7000円・・14人の予算でそれぞれ揃えたので約10万円の出費。

普通の社会人1年目なら目玉がぶっ飛ぶ出費だが、こちとらとっくの昔に普通の域なんて超えてる。
先月の給料なぞ、恐らく社会人1年目の平均月収の倍をはるかに超えている。
まあ、これというのもアイドルのみんなが売れまくって残業代まで稼いでくれてるからなんだけど。
4月の頃から残業時間はちゃんと記録しておけという指示が社長から出ていたが、まさかホントに後から払ってくれるとは。
まあ、金はあっても使うヒマがないけどな。

そんな訳で、仕事の合間を縫って10日間かけて買い揃えた。
一応、1人1人のコトを考えたモノを買ってきたので、なんとか満足してもらえたようだ。

……美希をはじめ、それぞれ想いのこもったチョコをもらったんだが……。
いかんせん、優劣をつけるわけにはいかない。確実に事務所が崩壊する。
金額の大小が優劣というわけではないのは重々承知だが、ひとつの指標であることには変わりがない。
その点も含めて満足、もとい納得してもらえた。はずだ。
そんなわけで、いよいよIA大賞まであと2週間。
死力を振り絞るべし!


3月27日


いよいよもって、明日はIA大賞発表及び授賞式。
ここまで長いようで短いようでクッソ短かった。
いろいろあったな。本当に。
嘘みたいなコトが起きて嘘みたいなコトができた。
辛いこともあったが、その100倍楽しかった。当然だけどな、ここまで成功してれば。
明日がどのよう結果であろうと、受け入れるし、俺は765プロでプロデューサーを続けていく所存だ。
今さらこの時代のハリウッドなど興味がない。
それよりも、765プロで仕事をすることが俺の今の生き甲斐だ。
4月以降の予定もガッツリ決まってる。
こんないい職場なんて他にはない。

とはいえ、みんなこの1年、ここを目指して頑張ってきたんだ。
その集大成、粛々と受け止めよう。


3月28日

IA大賞が発表された。

ノミネートされているアイドルたちが一堂に会する。
ここまで豪華な顔触れもそうそうない。
その半数近くをウチのアイドルが占めてるとなると鼻が高い。

式は始まり、前置きもそこそこに、受賞者が発表される。
それぞれのIA部門賞の受賞者、そしてIA大賞はーーーー







SNOW WHITE ー シャイン

FOREST GREEN ー 竜宮小町

PHOENIX RED ー フェアリー

BLACK PEARL ー ウィンキー

OCEAN BULE ー 竜宮小町











IA大賞 ー 竜宮小町








会場が爆発した。
竜宮小町が宙を舞った。
律子が今まで見たことないほど泣いていた。
最終的に竜宮小町メンバーが全員大号泣していた。
あそこまでインタビューで何も答えられなかったIA大賞受賞者も今までいなかっただろう。
見ていたこっちもつられて泣いてしまった。
特に律子は、精神的には俺の何倍も苦労していたはずだ。
張り詰めていたモノが全部溢れ出したのだろう。


俺はといえば、特に悔いはない。
事務所の仲間がIA大賞を受賞し、部門賞は765プロが総ナメだ。
むしろ我ながら感服した。
大賞を獲れなかった原因を挙げるとすれば、さすがに9人同時はムリがあったってとこか。当たり前だ。
このメンバーじゃなきゃノミネートすらされていないだろう。
あとは、律子を含めて竜宮小町が優秀すぎたことくらいだろう。

ともあれ、おめでとう竜宮小町。
ライバルとして、仲間として、心から祝福するよ。


3月29日

律子が765プロに残留することが決定した。
ハリウッド研修を見送るという。

はじめはなにを馬鹿なコトを言ってんのかと思った。
まだまだ伸び代のある律子がチャンスを棒に振ってどうする。
ハリウッド研修というのは、ハリウッドにパイプを作るチャンスでもあるのだ。
ゆくゆくは世界を股にかけて仕事ができる可能性だってあるというのに。



もちろんIA大賞はありがたくいただきますが、まだ日本で1番のプロデューサーになったつもりはありません。
あなたはトップアイドルグループを3組同時にプロデュースしてたし、JUPITERだってノミネートされていなかった。
それに、私がアイドル活動をしていたときは、社長が私の代わりにプロデューサー業をやってくれてたんです。
だから、これでハリウッド研修に行くというのはフェアじゃないですよ。
それに、ハリウッドなんか行く前にあなたから盗まなきゃいけない仕事が山ほどあるんだから。



そうは言っても、こんなチャンスはそうそう巡ってくるものではない。
なんとか説得しようとしたが



じゃあ、IA大賞総ナメしたトップアイドルグループ全部、あなたがプロデュースしますか?
加えて、私の代わりに竜宮小町でアイドル活動もしてもらえますか?



前者はともかく、後者は逆立ちしたってムリだ。
それに、俺自身が律子と一緒にまだまだ仕事をしたいと思ってしまってる。
折れてはいけなかったであろうところで折れてしまい、律子が765プロに残留することが決定した。
反省しなきゃいけないとこだが、ホッとしてしまってる自分がいる。

あーちくしょう、嬉しいと思うな俺!
来年度もよろしくな、律子!


3月31日

早いもので、あの日から1年の月日が経とうとしている。
この日記帳もこのページで最後だ。
新しい日記帳買ってこなきゃな。

ここまでいろいろあったが、明日も明後日も来週も来月も来年も、まだまだいろいろなコトが待っている。
楽しみで仕方がない。
この子たちをこの事務所で、自分の力でプロデュースできることが楽しくて仕方がない。
この1年は俺の中で最高の1年だったと断言できる。

また、激動の日々が始まる。
だが、なにが来たって今の765プロなら乗り越えられる。

輝きの向こう側、その景色を見に行こう。


ー3月31日、21:42 東京都765プロ事務所



小鳥「ふぃー、もういい時間ですね。プロデューサーさん」

P「ええ、俺ももう上がります」ガーバリバリバリ

小鳥「アレ? それさっきノートから切り離してたページですよね? シュレッダーかけちゃうんですか?」

P「あー……まあ、メモ紙として書いてたページだったんで」

P(……学園都市に関するコトを書いた日記を全部シュレッダーかけたんだけど……
  なんでですか? って聞かれたら答えられないしな……。恐らくアレを口外したら消される)

小鳥「ふぅん……?」

P「と、ところで、まだ帰らないんですか? よかったらこのあと一杯……」

小鳥「うわー、とっても嬉しいお誘いですが、ちょっとまだ残業が……」

P「あ、そうなんですか? 手伝いますよ?」

小鳥「いえ、悪いですよ! それに人事的な書類作成ですし……」

P「え? 人事?」

小鳥「はい。私もさっき聞いたんですけど、どうも明日新入社員が来るらしくて」

P「はい!? 聞いてませんよ!?」

小鳥「あ、やっぱり」

P「やっぱりって! あーもー、これだからウチの社長は!」

小鳥「ふふふ、でも、プロデューサーさんのときもこんな感じでしたよ?」

P「……マジですか?」

小鳥「マジです」

P「……はあ、じゃあメシにしますか。たるき亭ならやってますよね」

小鳥「ええ、そのお誘いなら喜んで!」

P「それにしても新入社員か……どんなヤツが来るのか、楽しみだな」

小鳥「そうですね〜、プロデューサーさんみたいにガンガン仕事ができる人だといいなあ」

P「俺みたいな、ですか? ハハ、それならお互い大分休み取れますね」

小鳥「ですよね〜。まあ、そんな人中々いないですけどね」

P小鳥「「あははははははは!!」」







翌日、スーパーコンピューター並の頭脳を持った同一人物がおよそ5人、765プロに加入する。

およそ5人という数え方は、この人物が時折0〜15人程度に消滅・分裂をするのからであるのだが。

これにより、弱点であった裏方の体力を克服した765プロがさらなる躍進を遂げるが、それはまた別の話である 。






P「リセット」




これにて完結。




このSSはここまでです。
今までありがとうございました。


社会の荒波に揉まれて厳しさを知り、ストレス解消に爽快感のあるSSを書きたくなって書きました。
最後のヤツがなにを言ってるのか分からなかったら、>>1のリンク先へどうぞ。
このSSの元となった、>>1の過去作となります。


短い割に時間かかってすいませんでした。仕事が忙しくて。
自演行為について指摘をうけましたが、その、すいません、出来心です。
こんな作者で申し訳ありません。
今後SSを書くかは分かりませんが、次回はこのようなコトをしないよう、心がけます。
それでは、またいつか。

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