男「きっと、報われないから」 (20)

ブウウウウウウウン・・・
電車が通り過ぎてゆく。
都会の喧騒は、心を落ち着かせてくれる。
男「・・・さて。」
このホームから飛び降りて、未知の世界へ飛び立とう。
変えてやる、この世界を。
ーーー僕のいない世界に。

今から30年前。僕は親の離婚によって、父と二人暮らしをしていた。
父はエリートサラリーマン。そこそこ裕福な生活を送っていた。
彼はいつだって仕事を愛していた。
母はそんな父にほとほと愛想を尽くしたのだろうーーー
愛されず、期待されず。
それは僕にとっていい環境だった。

いつも暇な僕は、金には、金にだけは満たされていた。
よく電車に乗って、東京の繁華街を歩いたものだ。
警察「君、どうしたの?」
こんなのも御馴染みの展開だった。
あの老いぼれ警察官は、もう死んでしまっただろう。
時間は待ってはくれない。

高校はとても退屈だった・・・
集団主義の、群れることしか知らない排他的な級友は、きっと平凡でつまらぬ生活を送っているだろう。
事なかれ主義の、僕の「恩師」達はもう定年だろうか。
公務員なんていいご身分だ。最近は親もうるさくなって、彼らも苦労しているらしいが。
結局、楽な仕事なんて無いのだろう。
そもそも、失業者が溢れる現代に仕事を持っているというのは幸せな事だ。
まあ、ブラック企業は、まず法律を守るべきだが。

今、仕事につけていない僕は何処で間違ったのか。
生まれるタイミング?生まれる家?性別?顔?才能?
それらは結局、変えようの無い物であり、それらが原因だと言うのはただの逃げと言う物だ。
だったら、努力。それに尽きるのだろう。
僕が落ちぶれたのは、努力しなかったからーーー
ああ、これが自業自得というものか。

高校を卒業して大学に行った。
東京の私立大学、行った意味はなかった。
強いてあげるなら、四年間を無為に過ごせた事。
辛くて非情で欺瞞に満ちた世界から逃げて、唯一人でいる事は楽しかった。
大学では、青春をこれでもかと満喫する学生達がいた。
それは悪いことではなく、人生をきっといい物にする思い出だ。
今の僕にはなにも無い。金があったあの頃は、今に比べればまだよかった。

就活は、氷河期の中で必死にやった。
今はニートだが、前はコンビニバイトに精を出していた。
親戚から、親から見離され、僕はいつでも孤独だった。

親を殺したら遺産で生活できるな、なんてのは不謹慎にも程がある。
寂しい、ただそれだけなんだ。
構って欲しくて、僕は自殺をする。

さよなら、退屈な世界。
こんにちは、未知の世界。
男「きっと、報われないから」
男「僕は自殺をするんだ」
キイイイイイイイインーーー








こんにちは、無の世界。
さようなら、現実の世界。

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