男「歌霊は語る」(11)

歌霊……それは歌の霊のようなもの

昔、不思議な力を持つ霊が現れ人間に紛れて生活していた

その存在に気付いた人間は、その存在を怖がった

そこで、霊を歌に封じ込めることで災いを避けてきた

それから何十年が経ち……

人間の手によって、
楽譜に封印された彼らが今解き放たれる……


男「楽譜か……使わないし捨てるか」ビリビリッ


彼もまた、封印を解いた一人である


青いパレットに白い水玉が散りばめられたような朝の空。
都会か田舎かで分ければ、田舎であるA市に住む高校2年生の男。
電車の窓際で、そんなスッキリしない空を眺めながら電車に揺られる彼の黒髪。
肩につくかつかないか、揺れる様子は彼の迷いが乗り移ったようだった。

(なんでせっかくの休日なのに、わざわざ朝早くから電車に乗らなきゃならないんだ……)

彼は学校に通っていて、部活動はコンピュータ部に所属している。
日曜日は休みだが、土曜日は朝9時から夕方4時30分まで部活動があり、やや多忙な生活を送っている。
だから彼にとっては日曜日の休みが貴重なのだ。
しかし、電車で約1時間の都会の町に住む彼の叔母さんが、どうしても渡したいものがあるということで仕方なくここにいる次第だ。

「お兄ちゃん!」

突然声をかけられて、今自分がここにいることに対して文句を並べていた俺は驚いた。
見ると、小学4年生くらいの背の低い男の子がこちらを見ていた。
茶色の瞳はどこまでも真っ直ぐで、どこまでも透き通っていた。

「向かいの席、座っていい?」

そう聞いておきながら、俺の返事も聞かずに向かいの席に座った。
まあ別に構わない。
この男の子の瞳がどこか懐かしくて、もう少し見ていたかった。

「お兄ちゃんはどこからきたの?」

そう聞いている割りには、なんとなく男の子は俺に興味がなさそうだった。
どうやらこいつは、目の前の俺より電車の窓の外が気になっているらしい。

「田舎だよ。お前は?」

「へえ、どんなところ?」

俺の質問を軽く無視したが、こいつは俺が田舎から来たのを聞いて興味を持ったみたいだ。
さっきまで外の景色を気にしていた瞳が、ほんの少し俺の方に向いている。

「んー、どんなところって言われても別に……あ、ほら見えるだろ?あそこらへん」

そう言って、俺は電車の窓から遠くに見える町を指差した。
男の子はその指の先を見ると、さっきまで様々なものへ行き来させていた視線を町に集中させた。

「お兄ちゃん、あの町に住んでるの?」

視線は動かなかった。

「ああ、まあ何もないけどな」

俺は薄く笑いながら答える。
しかし対照的に男の子は寂しそうな顔をした。

「そんなこと、ないと思うよ」

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