女 「祓い屋ぁ?」 男 「はい」(34)

男 「ちょっと僕にお祓いさせてくれません?」

女 「いや、突然そんなこと言われてもね」

男 「お姉さんの近くから臭ってくるんですよねぇ。怪しい匂いがぷんぷんと」

女 「あんたのがよっぽど怪しいわよ」

男 「怪しくないですって。あの子は怪しくない子やって、ご近所でも有名ですから」

女 「そんな風に噂されてる地点で怪しいわよ」

男 「えー、そんなことないですよぉ」

女 「ともかく、そういうのは間に合ってますから」

男 「ま、間に合ってないですって!」

男 「なにかあってからじゃ遅いんですよ?」

女 「なにかって、なによ?」

男 「そりゃあまぁ、怪異に魅せられたりとかですけど」

女 「怪異? 魅せられる?」

女 「ちょっと、漫画の読みすぎじゃない?」

男 「漫画って、そんな簡単な話じゃあないんですって」

女 「はぁ、アホらしい。宗教の勧誘とかなら、もうちょっとうまくやりなさいよね」

男 「宗教勧誘じゃないんですよぉ! もう、困ったなぁ……」

女 「困ったのはこっちよ、全く……」

男 「とにかく、あなたの近くに怪異が迫ってるんですって」

男 「気をつけんと、これからの人生棒に振っちゃうことになりますよ?」

女 「あんたのせいで青春の楽しい放課後を浪費しっぱなしよ」

男 「ま、まぁそういうことを言われると弱っちゃうんですけど……」

女 「もういいから、もう私には構わないでよね」

男 「あぁもう、どう言ったらわかってもらえるかなぁ」

女 「わかりたくもないし、わかる気もさらさらないから」

男 「そんなぁ」

女 「宗教勧誘なら、もっと浮世離れしてる子とかに声をかけるようにするべきね」

男 「あぁっ、ちょっ、言っちゃった……」

翌日

女「ってことがあったのよ」

友 「あはは、大変だったね、女ちゃん」

女 「最近の宗教勧誘はあの手この手ですり寄ってくるのね。気をつけないと」

友 「でも祓い屋さんかぁ。どんなことする人なんだろうね?」

女 「甘い言葉で事務所に連れ込んで入信させるんでしょ?」

友 「いや、そういうことじゃなくてね?」

先生 「はーい、お前ら席つけー」

先生 「今日はこのクラスの新しいお友達をご紹介しまーす」

先生 「女どもー、あと一部の男ども喜べー。イケメンだぞー、ショタっぽいぞー」

友 「へぇ、転校生かぁ」

女 「おかしな時期に入ってくるのね」

男 「どうもー」

女 「」

男 「男っていいます。みなさんよろしくお願いします」

先生 「はーいよろしく。お前友の隣なー」

男 「はーい」

男 「よろしくお願いしますね」

友 「よろしくね~」

女 「ちょ、ちょっとちょっと!」

男 「あれ、昨日の。奇遇ですね」

女 「奇遇じゃないわよ宗教屋!」

友 「お友達?」

女 「友達もなにも、さっき話した宗教屋よ宗教屋!」

男 「嫌だなぁ、祓い屋ですよ祓い屋」

友 「あぁ、噂の祓い屋さんか!」

男 「はい、怪しくないで有名な祓い屋ですよ」

女 「怪しいわよあほんだら! 一体何しにきたの?」

男 「なにしにもなにも、転校してきたんですけど」

友 「まぁそうだよね」

男 「ね」

女 「仲良くなるな!」

男 「そんな怒らなくてもいいじゃないですか」

友 「女ちゃんあの日?」

女 「アホ! 友はちょっと黙ってて!」

友 「はぁい」

女 「あんたなに? クラス全員を新興宗教に引き入れる気?」

女 「新興宗教クラスでも作りたいの?」

男 「もう、そんなんじゃないですって。それにほら……」

女 「あぁん?」

先生 「へぇ、転校生いびりとは元気がいいな、女」

女 「あ、その……」

先生 「廊下に立っとけ」

昼休み 屋上

女 「説明してもらいましょうか、えぇ?」

男 「落ち着いてください女さん、ちゃんと話しますから」

友 「男くんの話も聞いてあげよ?」

女 「……友が言うなら」

男 「ありがとうございます、女さん、友さん」

男 「お二人とも、僕が祓い屋ってのは知っていただけてると思うんですけど」

男 「まぁ僕は言うなれば流浪人ってやつでして」

男 「全国各地を津々浦々としながら、悪鬼羅刹を退治して回ってるんですよ」

友 「へぇー、凄いね!」

女 「アホらし」

男 「まぁまぁそう言わんといてください」

男 「今回はこの辺に怪異がいるような気がしてふらっと立ち寄ったんですけど。どうやらこれがあたりだったみたいで、ちょっとの間居座ることにしたんです」

友 「じゃあ、この学校に入学したのは?」

男 「ほんの偶然ですよ。高校を拠点にするのも面白いかなと思っただけです」

女 「じゃあ私に声をかけたのは?」

男 「女さんから悪い気を感じ取っただけで、またも偶然です」

友 「じゃあ同んなじクラスになったのも?」

男 「これまた偶然。もしかしたら運命かもしれませんねぇ」

女 「はぁ、あっほらし。まぁあんたが祓い屋だとかどうとかはもういいから。面倒なことは起こさないでよね」

男 「勿論ですよ、そんなご迷惑はおかけしませんから」

友 「ねぇねぇ男くん、私たちでもお化けとか見れるの?」

男 「えぇ、見れますよ。でもまぁ、霊感の強くない人たちが見えるようになったら、だいぶまずいって印なんですけどね」

友 「だってよ女ちゃん!」

女 「なぜ私に振る」

男 「まぁ、そんな悪い妖怪なんてそう滅多にいませんから。大丈夫ですよ」

友 「ほぇぇ、そうなんだぁ」

女 「あー、頭痛くなってくるわ。帰りましょ、友」

友 「もう暗くなってきてるねぇ。あ、男くんこれから暇?」

男 「どうしてです?」

友 「もしよかったら、町のこと案内してあげようと思って」

女 「いいわよ、こんなやつに構わなくたって」

友 「もう、女ちゃんったら」

男 「お気持ちはありがたいんですけど、今日はこれから職員室に用があって……」

友 「そうなんだぁ」

男 「また、明日にでもお願いできますか?」

友 「もちろんいいよ! ね、女ちゃん!」

女 「だからなんで私に振るのよ」

友 「じゃあまた明日ねー!」

友 「じゃあまた明日ねー!」

女 「……ばいばい」

男 「はい、さよならー」

ガチャバタン

男 「……どうです、あの2人?」

? 「まだなんとも。君がもう少し妖力を増やしてくれれば、神通力も思い通りに使えるのだがな」

男 「あはは、精進するっす」

? 「まぁ、あの2人から大きな妖気は感じなかったよ。ただ、小さいのはこの街に入った時からちらほらと」

男 「なんでこの街、こんなに妖気が集まってるんでしょうね?」

? 「さぁな。まぁ、大事が起こった時には手伝ってやるさ」

男 「そこまでの大事は起こらないでほしいですけどね」

? 「まったくだな」

夜道

女 「ったく、もうこんな時間じゃない」

女 「えぇい、近道しよう」

女 「この道、こんなに雑草伸びてたのね。まるで茂みみたい」ガサガサ

? 「…………よん」

女 「ん?」

? 「おばりよん!」ガバッ

女 「きゃっ!」

女 「へっ!? なに? って重たぁ!!」

? 「おばりよん!」

女 (ちょ、なにこれ。変なのが背中にひっついてて、どんどん重くなってる!?)

? 「おばりよん!」

女 「いあっ、ちょ、重たいって……」ドサッ

女 (やだ、立てない。なによこれぇ!)

男 「女さん。顔、動かさないでくださいね」

女 「へ?」

男 「よっ」キック

? 「ギョエッ!?」

女 「へ? へぇ?」オドオド

男 「まったく、妖気を感じて来てみれば女さんが大騒ぎしてるから。何事かと思いましたよ」

女 「お、男……?」

男 「はい、流浪人の男です」

男 「もう大丈夫ですよ。立てますか?」

女 「あ、ありがとう……」

? 「いってぇな! なにしやがんだよてめぇ!」

男 「それはこっちのセリフです」

女 「な、なんなのよこいつ……」

? 「おうおうおう、俺を知らねぇだとぉ?」

男 「こいつはオバリヨン。おんぶおばけという方が馴染み深いでしょうか」

男 「まぁ、そんなに悪い妖怪ではないですよ」

女 「おば、りよん……?」

オバリヨン 「そう、俺の名前はオバリヨン! 覚えとけそこの女!」

女 「ひっ」

男 「おとなしくしないと撃ちますよ?」チャキッ

女 「ひいっ!?」

オバリヨン 「ギョッ! な、なんだよ旦那、陰陽師ならそうと最初から言ってくれよ」

男 「そんな高尚なものとは違いますよ。あ、安心してください女さん。弾とかは入ってませんから」

女 「へ、いやでも」

男 「ちょっと特殊でして、怪異にだけ効果のあるものになってるんです」

オバリヨン 「だ、旦那。もうイタズラしねぇから、その銃は降ろしてくれよ」

男 「まぁいいですけど。そうだ、折角だから質問していいですか?」

オバリヨン 「お、おう。なんでもこい!」

男 「最近、この街で変わったこととか起こってませんか?」

オバリヨン 「変わったことかい? そうだな……」

オバリヨン 「あぁ、そういえば。最近現代妖怪がよくいるような気がするな。あとは西洋のやつらとか」

男 「現代妖怪……なるほど、ありがとうございます」

オバリヨン 「へへっ、お安い御用でさぁ陰陽師サマ」

男 「だからそんなんじゃなくて、僕はしがない祓い屋ですよ」

オバリヨン 「祓い屋の旦那っすね! よろしくお願いします!」

男 「えぇ。困ったことがあればいつでも言いに来てくださいね。あとはイタズラはほどほどに」

オバリヨン 「すんません……そこの嬢ちゃんも、ごめんな」

女 「へ?あぁうん……?」

男 「はぁ。あのくらいできゃあきゃあ騒がんでくださいよ」

女 「あのぐらいって、びっくりしたんだからね!」

男 「へたり込むほど重くもなかったでしょうに」

女 「気が動転してたの!」

男 「まぁ、そこはいいですよ。祓い屋のこと、妖怪のこと。信じてもらえましたか?」

女 「ま、まぁあんな目にあっちゃったらね……」

男 「だったらいいですよ。これからもご贔屓にお願いしますね」

女 「もうこりごりよ……」

男 「ほんのお遊びだったじゃないですか」

女 「びっくりしたんだってば!」

男 「はいはい、今日は送ってあげますから」

男 (妖気を感じたから来てみましたけど。ハズレでしたか……)

男 (しかし、現代妖怪ですか……)

翌日

女 「男」

男 「あ、おはようございます。なんです?」

女 「教えなさいよ、あれのこと」

男 「あれ、ってなんです?」

友 「私もわっかんない」

女 「あれよ、昨日のあれ。お、おば……」

男 「あぁ、オバリヨン」

女 「そう、それ。オバリヨン」

友 「おばりよん?」

男 「おんぶおばけって知ってますか?」

友 「あ、知ってるよ!」

男 「俗に言うあれですね。それに昨日の女さんが出会ったんですよ」

友 「ええー! いいなー女ちゃん!」

女 「よくあるかアホ! 死ぬかと思ったんだから」

友 「えっ、おばりよんってそんなに怖い妖怪なの?」

男 「いいえ、オバリヨンはどちらかと言えば良い部類の妖怪ですよ。昨日のも、ただのイタズラ好きでしたし」

友 「なぁんだ。だってよ女ちゃん」

女 「知らないわよ。まぁもう昨日の私の話しはいいの」

男 「えぇ、じゃあなんの話するんです?」

友 「さぁ……」

女 「妖怪について話聞かせろって言ってんでしょ」

男 「あ、そうでしたね。そんなにわなわなしないでください女さん」

友 「カルシウム不足なの? いりこ食べる?」

女 (こいつら……)

男 「妖怪についてですが……まぁ早い話が人の生み出したものですね」

女 「人ぉ?」

男 「えぇ。妖怪は、人の畏れに実態を持たせたものです」

男 「昔の人たちは、病気や災害などの災厄を畏れ、それらを何か超自然的な者たちが起こしたのではないか、と想像しました」

男 「その畏れそのものが、人々が生み出した絵などのイメージから、妖怪という実態をつけていった」

男 「今の日本にある妖怪の殆どが、こうやって生まれています」

友 「ほぇー」

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