第一話「復習」
<個人塾>
塾講師「いいか、復習を忘れるなよ! 復習が大事なんだからな!」
塾講師「俺は一回きりの説明で、お前らに全て覚えさせられるほど」
塾講師「教え方は上手くねえし」
塾講師「お前らも一度聞いただけで忘れないでいられるような」
塾講師「出来のいい頭はしてねえだろうからな!」
弱気「先生……またですか」
そばかす娘「いっつもいっつも、最後にそれいってますよね~」
球児「これだけいわれりゃ、絶対復習するって!」
塾講師「よし! じゃあ夜も遅いから、気をつけて帰るんだぞ!」
サスケェ…復讐は何も生まないってばよお…
塾講師(本業のかたわら、ほとんど趣味で始めてみた個人塾だったが──)
塾講師(案外面白いもんだな)
塾講師(この塾に入った頃は、どこの大学にも受かりそうもなかったアイツらも)
塾講師(まぁ……それなりの大学なら入れるくらいの頭にはなってくれたしな)
塾講師(さぁ~て、俺も今日やった授業を振り返りながら)
塾講師(次、なにやるか考えるとするか……)
塾講師(復習、復習、っと……)
数日後──
塾講師「よぉ~し、こないだやったとこだが……弱気、これ答えてみろ」
弱気「あ、あの……」
塾講師「……どうした?」
弱気「すみません……分かりません……」
塾講師「ん、お前……さては復習しなかったな?」
弱気「すみません……!」
塾講師「俺に謝っても仕方ないだろ」
塾講師「復習はしっかりしろよ~? じゃ、もう一回教えてやるから、聞いとけよ」
弱気「はい……」
そばかす娘(珍しいわね……)
球児(いつも三人の中で一番マジメに復習してくるやつなのに……)
塾講師(弱気のヤツ、あれ以来ろくに復習してこなくなっちまったな)
塾講師(塾なんて、復習しなきゃほとんど金をドブに捨てるようなもんだってのに)
塾講師(なんか、復習する暇もなくなるほどハマるものができたんだろうか?)
塾講師(アイツならインドアな……例えば漫画とかゲームあたりか?)
塾講師(あるいは彼女? ……いや、まさかな)
塾講師(まぁ……たかが一講師が生徒のプライベートにまで立ち入れねえし)
塾講師(マジメな奴だから、そのうち元に戻るだろう)
しかし、弱気が元に戻ることはなかった。
そして──
弱気「…………」
塾講師「おい授業始まるぞ、テキスト出せよ」
弱気「すみません……」
塾講師「もしかして忘れたのか? しょうがねえな~」
弱気「いえ、なくしました」
塾講師「なくした?」
弱気「す、すみません……!」
塾講師「まぁ、俺もよく物は失くすけどさ」
塾講師「一度免許証を失くした時は、人生の終わりってぐらい焦ったもんよ」
塾講師「けど、あんなちゃちいテキストでも、お前たちのために作ったテキストなんだ」
塾講師「大切に扱ってくれよ? あとで新しいの刷ってやるから」
弱気「すみません……!」
球児「じゃあ、今日は俺のを見せてやるよ」パサッ
弱気「ごめん、ありがとう……」
塾講師「…………」
塾講師「いいか、復習を忘れるなよ! 復習が大事なんだからな!」
塾講師「俺は一回きりの説明で、お前らに全て覚えさせられるほど」
塾講師「教え方は上手くねえし」
塾講師「お前らも一度聞いただけで忘れないでいられるような」
塾講師「出来のいい頭はしてねえだろうからな!」
そばかす娘「は~い」
球児「さいなら~!」
塾講師「じゃあお前は新しいの刷ってやるから、ちょっとここで待ってろ」
弱気「はい……」
塾講師「じゃあ、コピー機を準備して、と」ピラッ
弱気「本当にすみません……」
塾講師「だが、その前に──」
弱気「え?」
塾講師「お前のカバン、ちょっと開けてみせろ」
塾講師「テキスト一式失くしたわりには、妙に中身が詰まってるのが気になる」
弱気「えっ……でも……」
塾講師「いいから、開けろ」
弱気「は、はい……!」
講師「お前…このテキスト、他の予備校のもんじゃねえか…」ワナワナ
講師「歯ぁ食いしばれ」
弱気のカバンの中には、ボロボロに破られた教科書やノートが入っていた。
むろん、塾講師お手製のテキストも──
塾講師「…………」
弱気「すみません、せっかく作って下さったのに……!」
塾講師「悪かったな」
弱気「え!?」
塾講師「こんなになるまで、気づいてやれなくて……」
塾講師「そりゃ、復習なんかできる精神状態じゃないわな」
弱気「…………!」グスッ
塾講師「俺が力になれることなんてないかもしれないけど」
塾講師「話すと楽になるってのは、まちがいなくある」
塾講師「今、この部屋は二人きりだ」
塾講師「全部ぶちまけてみろ」
弱気「は、はい……」
弱気「ボク、こんな性格で、勉強やスポーツもできなくて……」
弱気「学校でも最初のうちは……イジメというより、イジられていたんです」
弱気「だけど……この塾に入って成績が上がってから」
弱気「一部の人の態度が変わったんです」
塾講師(完全に下に見て、バカにしながらも可愛がってた奴が)
塾講師(実力をつけたとたん、うとましくなる……よくある話だな)
弱気「無視されたり、机に落書きされたり、持ち物を隠されたり……」
弱気「そして今日……」
弱気「バカのくせに塾通いなんかナマイキだ! って、教科書や塾のテキストを……」グスッ
塾講師「そうだったのか……」
塾講師「……ま、とにかく新しいテキストだ」バサッ
塾講師「今日は復習はいいから、とりあえずゆっくり寝るようにな」
弱気「はい。先生に聞いてもらったら、少し楽になりました……」
弱気「ありがとうございます……!」
弱気が出て行った後、電話をかける塾講師。
塾講師「…………」ピッピッ
電話『はい!?』
塾講師「よう、俺だ」
電話『旦那!』
塾講師「悪いな、こんな時間に」
電話『なにをおっしゃる! 旦那なら、24時間いつでもオッケーっすよ!』
塾講師「さっそくだが、お前の腕を見込んで、調べて欲しいことがあるんだ」
電話『旦那にはいっつも助けてもらってますからねぇ~、なんでもやりますよ!』
塾講師「実は──……」
翌日の夜──
ピリリリリリ……!
電話『旦那!』
塾講師「おう、さすがに早いな」
電話『俺ぁ、マフィアのアジトにだって忍び込める男っすよ!?』
電話『高校に忍び込むくらい、ラクショーっすよ~!』
電話『もっとも俺の潜入技術なんざ、本気を出した時の旦那にゃかないませんがね』
電話『旦那が本気出せばホワイトハウスにだって──』
塾講師「できるわけねえだろ」
塾講師「……で、どうだった?」
電話『旦那のおっしゃったとおり、イジメはありますね』
電話『一人、主犯格がいて、そいつに先導されてみんな……ってパターンっすね』
塾講師「だったら……そいつをどうにかすりゃ、なんとかなりそうだな」
電話『主犯のデータや、イジメの証拠写真はあとで送っておきます』
塾講師「ありがとよ」
塾講師「金はいつものところに振り込んでおくよ」
電話『いや、いいっすよ! こんな息をするより簡単な仕事で──』
塾講師「金払った方が俺の気が済むんだ。人助けと思って受け取っておいてくれ」
電話『は、はい』
塾講師(イジメは事実だった……)
塾講師(となれば──)
塾講師(復讐だ)
塾講師(復讐は大事だからな)
イジメの主犯格は、学年でも成績上位の優等生だった。
インテリ(あ~今日も、アイツをイジメてスカッとしたよ)
インテリ(まさか中間テストであんなヤツに、世界史で負けちゃうなんてね)
インテリ(イジられるしか能がない間抜けの分際でナマイキな……)
インテリ(ま、他の教科はまだまだボクが上だけどさ)
インテリ(教師もアイツはイジられキャラっていう認識だから)
インテリ(ボクが罰せられる要素はないし)
インテリ(明日からもアイツでストレス解消して、受験勉強頑張ろうっと)ガチャッ…
帰宅し、自分の部屋に入るインテリ。
インテリ「!?」
インテリ「な、なんだこれは!?」
インテリの部屋の本が、全てボロボロに破られていた。
インテリ(なんだ!?)
インテリ(空き巣!? いや、だったらママが気づくはずだ!)
インテリ(ボクの参考書や漫画、小説が全部破られ──)
インテリ(いや全部じゃない! 無事なのがある!)サッ
手がつけられていない漫画雑誌を手に取るインテリ。
インテリ(これは友だちから借りてるヤツだ……)
インテリ(他にも“ボクのじゃない本”だけは無事だ!)
インテリ「だ、だれがこんなことを……」ガタガタ…
ピリリリリ……
インテリ(電話!?)ビクッ
インテリ(非通知……! まさか……!)ゴクッ
インテリ「だ、だれだ!?」
電話『やあ、どうもどうも』
電話『お部屋を少し片付けましたが、気に入っていただけましたか?』
インテリ「お前がやったのか!」
電話『あ、天井裏のエロ本もちゃ~んとやっときましたんで、ご心配なく』
電話『巨乳好きなんですねぇ、あなた』
インテリ「ふっ、ふざけるな!」
インテリ「なぜだ!? なぜ、こんなことをする!?」
電話『復讐ですよ』
インテリ「復讐だと!? ボクは復讐されるようなことはしちゃいないぞ!」
電話『これはおかしなことをおっしゃる』
電話『あなたのおかげで復習できなかった人がいる』
電話『これだけで復讐する理由には十分すぎる』
インテリ「な、なにを──」
インテリ(まさかアイツが!? いやあの間抜けに、こんなマネできるはずが……)
インテリ(さっきまで一緒に学校にいたわけだし……)
電話『おやおや、なにかお心当たりがあるようですねえ』
インテリ「!」ギクッ
電話『私の要求はささやかなものです』
電話『心当たりがあるのなら、すぐにやめなさい。また周囲にもやめさせなさい』
電話『私は本日、あなたの母親にも気づかれず、あなたの部屋に忍び込み』
電話『あなたの本だけを器用に選んで、全て破かせていただきました』
電話『賢いあなたなら、これがどういうことかお分かりでしょう?』
インテリ「!」
インテリ(コイツはボクを調べ尽くしている……)
インテリ(しかも……ボクをいつだってどうにでもできるってことだ……!)
インテリ「わ、分かったよ……やめるよ!」
インテリ「だから……許して下さいっ!」
電話『……分かりました。ただし──』
電話『もし約束を破れば、次は本を破るぐらいじゃ済まさねえ』
電話『次こそは死んだ方がマシなぐらいな目に合わせてみせる』
電話『どんな手を使っても、お前がどこに逃げても、どれだけ偉くなろうとも、な』
インテリ「は、はい……っ!」
電話『では引き続き、快適なスクールライフをお楽しみください』
電話『さようなら』プッ…
ツー…… ツー……
インテリ「うぅ……っ!」ガクッ
ちんかす娘「お仕事いっちょ終わり♪」
塾講師「──ま、こんだけ脅しとけば大丈夫だろ」
塾講師「これでアイツもちゃんと復習するようになればいいんだが……」
塾講師「あと、今日はもう一仕事こなさなきゃな」
塾講師(ひき逃げして、子供に重傷負わせときながらも)
塾講師(親父の権力で不起訴になったっていうバカ息子……)
塾講師(ヤツの調査でコイツが真犯人なのは確定したし)
塾講師(せめて同じ目に合わせてやらなきゃな)
塾講師(復讐は大事だからな……)
球児「やべぇ!人敷いちまった!」
数日後──
<個人塾>
塾講師「お、今日はバッチリ復習してきたな!」
弱気「はい、バッチリです!」
塾講師(この様子じゃ、どうやらイジメは解決したみたいだな)
塾講師「しつこいようだが、復習を忘れるなよ! 復習が大事なんだからな!」
弱気「はいっ!」
そばかす娘「は~い」
球児「うっす」
~ 第一話 おわり ~
第二話「失恋」
<個人塾>
球児「へぇ~彼氏できたのかぁ!」
弱気「おめでとう……」
そばかす娘「ありがと!」
そばかす娘「私なんか不釣り合いなくらい、かっこよくて……夢みたい!」
ガチャッ
塾講師「私語タイム終了~」
塾講師「恋愛もいいが、勉強も忘れんなよ」
塾講師「さ、授業を始めるぞ」
そばかす娘「はぁ~い」
授業が終わり、いつものフレーズを口にする塾講師。
塾講師「いいか、復習を忘れるなよ! 復習が大事なんだからな!」
塾講師「俺は一回きりの説明で、お前らに全て覚えさせられるほど」
塾講師「教え方は上手くねえし」
塾講師「お前らも一度聞いただけで忘れないでいられるような」
塾講師「出来のいい頭はしてねえだろうからな!」
弱気「もちろんですよ」
そばかす娘「はいはぁ~い!」
球児「うっす!」
塾講師「じゃあ、気をつけて帰れよ!」
塾講師「…………」
塾講師(アイツ、彼氏できたのかぁ……)
しかし、一週間後──
塾講師「……あれ? アイツはどうした?」
弱気「今日は来てないですね」
球児「俺も見てないぜ」
塾講師「休みだったら、必ず連絡してくるんだけどな」
球児「彼氏できたっていってたし、デートじゃねえの?」
塾講師「……まあ、連絡なしなのは感心しないが、もう時間だ」
塾講師「授業を始めるぞ」
弱気「はい」
球児「うっす!」
弱気「さようなら、先生」
球児「んじゃ、また来週!」
塾講師「しつこいけど、復習忘れんなよ!」
バタン……
塾講師(遅刻して来るかな、と思ったけど結局来なかったな)
塾講師(まあ、今日の分は別に時間取って軽くレクチャーしてやるとするか)
塾講師「…………」グゥゥ…
塾講師「腹減ったな……コンビニにカップ麺でも買いに行くか」
塾講師「ふん、ふ~ん」
塾講師(さぁ~て、帰ったら湯をかけて食うとするか)
塾講師「ん……?」
グスッ…… シクシク……
塾講師「公園の中から声……?」
すると──
塾講師「お、お前……!」
そばかす娘「あ、先生……!」グスッ
そばかす娘「ご、ごめ、なさい……塾……サボっちゃって……」グスッ
塾講師「んなことはいいが、どうしたんだ?」
塾講師「こんな夜中に未成年が一人、こんなとこいたら、補導されるのがオチだ」
塾講師「とりあえず、塾に来い」
そばかす娘「うん……」グシュッ
<個人塾>
カップ麺を差し出す塾講師。
塾講師「泣いたら腹が減るからな、食えよ」
そばかす娘「え……でも、これ先生のじゃないの?」
塾講師「そうめんと間違えて買っちまったんだ」
塾講師「捨てようと思ってたとこだ」
そばかす娘(間違えるわけないじゃん……)
そばかす娘「ありがとう、先生……」ズルズル…
塾講師「──で、なにがあったんだ?」
塾講師「着飾ってるが、もしかして例の彼氏と……」
そばかす娘「うん……実は今日デートで──」
~ 回想 ~
イケメン「今日は楽しかったね」
そばかす娘「うん、ありがとう!」
イケメン「さてと、最後にとっておきの場所を紹介したいと思うんだ」
そばかす娘「え、どこどこ?」
イケメン「ここさ」ニィッ
ギィィ……
イケメンが扉を開くと──
大きな看板が待ち受けていた。
『調子こいちゃったね、ドブスちゃん!!!』
そばかす娘「え……っ」
ギャハハハハハハッ! ワッハッハッハッハッハッ!
「え……っ、だってよ!」 「すげぇおもしれぇわ~!」 「サイコー!」
DQN「いい写真が撮れたぜ~! ギャハハハハハッ!」
ビッチ「アンタみたいなそばかす女、イケメン君が相手するわけないっしょ~!」
茶髪「…………」
イケメン「いやぁ、期待通りのいいリアクションだったよ~!」
そばかす娘「え、あの」
イケメン「じゃ、これから俺、彼らとパーティーだからさ。もう帰っていいよ」
そばかす娘「あ……」
イケメン「君みたいなブスが、俺と付き合えると思ったわけ?」
イケメン「いい夢見れただろ? じゃ、さよなら~!」
バタンッ!
塾講師「…………」
そばかす娘「うぅっ……ぐっ……うっ!」グシュッ
そばかす娘「おかしいとは、思ってたんです……」
そばかす娘「あの人が……私みたいなブス、相手にするなんて……」グスッ
そばかす娘「でも……もしかしたら、って……」グスッ
そばかす娘「ハハ……私みたいな女に、彼氏なんて一生できるわけないですよね」
塾講師「そんなことねえって」
そばかす娘「気休めいわないで下さい!」
そばかす娘「私みたいなそばかすまみれの女、どんな男の人だって──」
塾講師「なぁ……」
塾講師「俺と付き合ってくれないか?」
そばかす娘「え……」
そばかす娘「冗談で励まそうったって──」
塾講師「冗談なわけがあるか」
塾講師「俺はお前がこの塾に入った瞬間から、お前に惚れ込んでいた」
塾講師「いや……欲情さえしていた」
そばかす娘「よ、欲情って……そんな素振りなかったじゃないですか」
塾講師「当たり前だ、俺ももういい大人だ」
塾講師「セクハラ塾講師逮捕! なんて記事になるのはゴメンだしな」
塾講師「だが、こんなチャンスを逃すほど大人でもない」
そばかす娘「だったら先生は……私のどこがいいっていうんです!?」
塾講師「オドオドしつつも透き通った瞳、まっすぐな鼻、吸いつきたくなる唇」
塾講師「お前が気にしてるそばかすも、白い肌と合わさって実にいい味出してる」
塾講師「こなれてないお洒落や、ほのかに匂う香水も高ポイント」
塾講師「今時珍しい、守ってやりたくなる性格してるしな」
塾講師「そして見たことはないが、おそらく体も俺好みだって分かる」
そばかす娘「せ、先生……ちょっと……!」
塾講師「お前は高校生、俺はこないだ30になった……多少年が離れちゃいるが」
塾講師「芸能人とか、もっと年の離れたカップルなんていくらでもいるしな」
塾講師「これでも俺は生活力はあるし、絶対お前を幸せにしてみせる!」
塾講師「どうだ、俺と付き合ってくれないか!?」
そばかす娘「…………」プッ
そばかす娘「ふふっ、ふふふっ……ふふっ」
そばかす娘「ありがとう、先生……」ポロッ
そばかす娘「大丈夫。私、先生のおかげでなんとか立ち直れそう」
そばかす娘「今のでビックリして、さっきのイヤな記憶が上書きされちゃったもん」
塾講師「そ、そうか……」
そばかす娘「次からは、塾サボらず来るから、またいつもどおりよろしくね」スクッ
塾講師「おお、任せておけって! 復習を忘れんなよ!」
そして──
塾講師「よう、ちょっと頼まれてくれねえか」
電話『旦那の頼みとあらば!』
<繁華街>
DQN「いやぁ~こないだのそばかすブスは最高だったな!」
ビッチ「キャハハハ、次はだれターゲットにするぅ?」
イケメン「今度は散々貢がせて捨てるってのも面白いかもね」
DQN「──にしても、あの野郎、俺たちのグループから抜けるなんてな」
DQN「ま、めいっぱいボコってやったがよ」
イケメン「いいさ、いいさ。しょせんアイツは俺らについてこれなかっただけのことさ」
すると──
サングラス「こんばんは」
イケメン「ん?」
ビッチ「なにぃ?」
DQN「だれだぁ、オッサン」
サングラス「真ん中の君、たしかに女にモテそうなツラしてるな」
サングラス「調査させた写真より、生で見ると余計そう感じるよ」
イケメン「……おじさん、俺になにか用かい?」
DQN「オッサン、俺のダチにちょっかい出すってんならボコっちまうぞ?」ザッ
イケメン「相変わらず喧嘩早いな、君は……。ま、その方が手っ取り早いけど」
ビッチ「キャ~、やっちゃってぇ~!」パチパチ…
DQN「俺はボクシングやってんだぜ、オラァッ!」
ブオンッ! ブンッ! ビュッ!
DQN(あ、当たらねえ……!)
サングラス「なにがボクシングだ……脇の締め方、腰の切り方、全然なってねえ」
サングラス「勉強と同じく、格闘技も復習が大事なんだ」
サングラス「もっと復習してから出直してこい」ヒュッ
ボゴォッ!
サングラスの左ストレート一発で、DQNはあっさり沈没した。
ビッチ「ひぃぃ……!」ガタガタ…
イケメン「ウ、ウソだ……彼は喧嘩で負けたことがないのに……」
サングラス「さてと、お前はこれぐらいじゃ済ませられねえな」
ガシィッ!
サングラスの左手が、イケメンの顔面をわしづかみにする。
サングラス「見れば見るほど、いいツラしてんなぁ」グッ…
イケメン「い、いだだっ!」ミシッ…
サングラス「この恵まれたツラと腐った中身で、ずいぶん女を泣かしてきたんだろ……」
サングラス「たかだか福笑いで恵まれたぐらいで、調子に乗りやがって……」ググッ…
メキメキ……
イケメン「いだだだだだっ!」ミシミシ…
サングラス「不細工をハンサムにするのは金と手間がかかるが、逆は簡単なんだ」
サングラス「この場でお前を日本一の不細工に変形させてやろうか」
イケメン「あがががががっ!」メキメキ…
サングラス「鼻折り曲げて、頬削ぎ取って、歯ぁ全部叩き割って……」
サングラス「髪も全部毛根からむしり取って、耳もジャマだから切り取っちまうか」
イケメン「~~~~~っ!」ジョボボ…
サングラス「まあ、今日はバリカンぐらいで勘弁してやるけどな」ビィィィン…
サングラス「だがもし、今後また女をオモチャにするようなことがあったら──」
サングラス「さっきの整形手術を現実のものにしてやる」
サングラス「絶対やる、必ずやる、何が起きてもやる」
サングラス「分かったな」
イケメン「は、はひ……」
ビィィィ……ン! バリバリバリ……!
同時刻──
そばかす娘(先生の言葉……どう考えてもお世辞だったんだろうけど、嬉しかったな)
そばかす娘(おかげで失恋のショックからも立ち直れたし……)
そばかす娘(とりあえず、勉強頑張ろうっと!)
茶髪「あ、あの……」
そばかす娘「!?」
そばかす娘「あ、あなた……あの時パーティー会場にいた……」
そばかす娘「で、でも、なんでそんなにボロボロなの!?」
茶髪「じ、実は俺……君に謝りたくて……」
茶髪「お、俺……あいつらのグループにいると……」
茶髪「自分も人気者になれた気分で……安心してたんだけど……」
茶髪「やっぱり、あんなひどいこと……もうしたくなくて……さっき抜けてきた」
茶髪「……で、調子いいかもしれないけど……あの時、俺君に一目ぼれしたんだ」
茶髪「付き合って……くれないかな……?」
そばかす娘「!」
数日後──
<個人塾>
球児「へぇ~失恋して、またすぐ彼氏ができたって? 忙しいヤツだな~」
弱気「おめでとう……でいいのかな?」
そばかす娘「ありがと!」
ガチャッ
塾講師「さぁ~て、授業始めんぞ!」
塾講師「お前はこないだ休んだんだから、特に集中して授業聞けよ!」
そばかす娘「はぁ~い」
塾講師「でも、お前また彼氏ができたのか!」
塾講師「よかったな!」
そばかす娘「うん……今度の人は大丈夫! ありがとう、先生……!」
塾講師「よし、じゃあ今日はテキストの108ページからだったな!」
塾講師「…………」
塾講師(そうか、彼氏できちゃったか……)
弱気「ん?」
弱気「今、だれか舌打ちしなかった?」
球児「俺はしてないぜ」
そばかす娘「私もしてないわよ?」
~ 第二話 おわり ~
第三話「復讐」
<球児の高校>
この日、野球部では、紅白戦が行われていた。
坊主「うおおおおっ!」ダダダッ
球児「させるかっ!」バシッ
ランナーは坊主、キャッチャーは球児。
この時、事故は起こってしまう。
ドガァッ!
球児「ぐああああ……っ!」
球児「左目が・・・・疼く・・・・!!」
ザワザワ…… ドヨドヨ……
坊主「だ、大丈夫か……!?」
球児「ぐぅぅっ……!」
部員A「ひでぇな、こりゃ」
部員B「折れてるぜ」
部員C「変な当たり方したからな……」
坊主「ご、ごめんよ……! 俺のせいで……!」
球児(俺の右腕……)
球児(ちくしょう、ちくしょう……!)
<個人塾>
弱気「うわっ……!?」
そばかす娘「ちょっと、その腕どうしたの!?」
球児「いやぁ~部活で怪我しちゃってさ」
球児「ま、名誉の負傷ってやつさ」
弱気「すごいなぁ、ボクは骨折したら塾なんか来れないよ」
そばかす娘「やっぱりスポーツやってると、根性がちがうのねぇ」
球児「ハハハ、まぁな~」
ガチャッ
塾講師「よ~し、授業始めるぞ~!」
塾講師「いいか、ここは色んな赤本で出てくるから要注意だぞ~!」
球児(くっ……)プルプル…
球児(右腕はろくに動かない……)
球児(かといって左手じゃ、まともな字は書けない……)
弱気「ね、ねぇ……」
弱気「あとでボクのノートコピーするから、無理に手を動かさない方がいいんじゃ……」
球児「!」ビクッ
球児「大丈夫だって! これぐらいへっちゃらだよ!」
弱気(球児君はすごいなぁ……)
弱気(ボクにもこれぐらいの精神力があれば、イジメなんか跳ね返せたのかも)
そばかす娘(私も彼みたいに強ければ、だまされても平気でいられたかも)
塾講師「…………」
坊主「これで邪魔者は消えた・・」
塾講師「いいか、復習を忘れるなよ! 復習が大事なんだからな!」
塾講師「俺は一回きりの説明で、お前らに全て覚えさせられるほど」
塾講師「教え方は上手くねえし」
塾講師「お前らも一度聞いただけで忘れないでいられるような」
塾講師「出来のいい頭はしてねえだろうからな!」
弱気「分かってますよ……」
そばかす娘「先生、いつもこれだけは必ずいうもんねぇ~」
そばかす娘「たまに前の授業でどこまでやったか忘れてますけど」
塾講師「うっ、うるさい!」
ハッハッハ……!
球児「くっ……」
球児(ろくに字は書けねえし、包帯がうっとうしい……)
球児(こんな腕で復習なんかできるかよ……)
そして──
<球児の高校>
監督「キャッチャーは交代だね」
監督「あの怪我じゃ、大会まで練習は無理だろうからね」
キャプテン「そうですね……残念ですが」
部員A「…………」
部員A「ま、まぁ……ウチの野球部は頑張ってもせいぜい三回戦までだし」
部員A「よかったんじゃねえの?」
部員B「だ、だよな~、気にすんなって!」
部員C「塾通いもしてるんだし、そっちに専念できるじゃん! う、うん!」
球児「そうだな……」
坊主「ホントごめんよ……」シュン…
球児「いいって……」
球児(ウチの野球部は弱いから、レギュラー落ちしても気にすんな、だぁ?)
球児(塾通いに専念できる、だぁ?)
球児(俺は野球が好きだし……勉強も頑張りたかったんだよ!)
球児(だから、練習も休まず、塾にだって休まず通った……)
球児(なのに、右腕がこれじゃ、もうどっちもダメだ……!)
球児(くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!)
球児(ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!)
球児(これというのも──)
球児(これというのも、全部アイツのせいだ!)
<個人塾>
塾講師「今日はここまで! 復習を忘れんなよ!」
弱気「はい!」スクッ
そばかす娘「さようなら~」スクッ
しかし、球児は一人だけ席を立たない。
球児「…………」
塾講師「……ん?」
塾講師「どうした、授業は終わったぞ」
球児「先生……」
球児「俺、今日で塾辞めるよ!」
塾講師「!」
塾講師「……まぁ」
塾講師「辞めるってんなら、俺に引き止める術はない」
塾講師「だけど、どうしてだ?」
塾講師「一年前から通い始めて、ずいぶん成績を上げたじゃんか」
塾講師「しかも、部活と両立してな」
塾講師「なかなかできることじゃないと思うぞ、俺は」
球児「俺……もうダメなんだよ!」
球児「右腕折ってから……野球部じゃレギュラーから外されるし」
球児「学校や塾じゃノートも満足に取れないし……」
塾講師「だから辞める、か?」
球児「…………」
塾講師「……どうやらそれだけじゃなさそうだな?」
球児「!」ギクッ
球児「──そ、そうだよ!」
球児「俺はイラついちまって、しょうがないんだ!」
球児「右腕が折れたことに対してじゃない!」
球児「俺に怪我をさせた坊主は、もう俺に何度も謝った!」
球児「なのに、俺はアイツが憎くてしょうがないんだよ!」
球児「アイツはわざと右腕を狙ったとか……ずっと考えちまってるんだ!」
球児「なのに、塾では他の二人に平気なフリしてさ……」
球児「こんなドクズなんだよ、俺は!」
球児「だからもう、野球も塾もやめてやるんだ!」
球児「──そうだ、いっそのこと、とことんクズになってやろうか!」
球児「この手でアイツに復しゅ──」
パシッ!
球児の口を手で押さえる塾講師。
球児「…………!」モゴモゴ…
塾講師「バカなこと、口にするもんじゃない」
塾講師「いいか……」
塾講師「復讐なんて、やらないに越したこたぁない」
塾講師「あんなもんは最後の最後にとっておけ」
塾講師「もし、本当にやらなきゃならない時が来たとしても──」
塾講師「どうしても許せなくなっちまったとしても──」
塾講師「世の中、そういうのを生業にしてるバカヤロウがいる」
塾講師「そういうヤツらに、任せりゃあいい」
塾講師「そして……お前はまだそんな段階じゃない」
塾講師「お前だって自分で分かってるんだろ?」
球児「先生……」
球児「じゃあ俺、どうすりゃいいんだよ……!」
塾講師「予習をしろ」
塾講師「分からん」
球児「ちぇっ……なんだよ」
塾講師「だから、せめて俺もお前に付き合おう」
球児「付き合うって? どう付き合うってんだよ!」
球児「まさか、俺みたいに右腕を折ってくれるっていうのかよ!」
塾講師「おお、よく分かったな。やっぱお前、頭よくなってるよ」
球児「え」
塾講師「ふんっ!」
ブオンッ! ベキィッ!
壁に右腕を叩きつける塾講師。
球児「!?」
塾講師「どうだ? お揃いだな」プラーン
球児「な、なにやってんだよぉっ!」
塾講師「なにって……右腕を折ったんだよ。けっこう痛いな、ちょっと後悔してる」
球児「これじゃ、もう授業なんかできないだろ!」
塾講師「オイオイ、俺をあまりナメるなよ」
塾講師「右腕が使えなくても、左腕も口もある。お前らの授業くらいラクショーだぜ」
塾講師「さてと、お前はどうだ?」
塾講師「たかが右腕が折れたぐらいで、腐っちまうか?」
球児「…………」ゴクッ…
球児「お、俺……やるよっ!」
球児「左腕だけで部活も……勉強も!」
塾講師「お~よかったぁ」
塾講師「ここで奮起してくんなきゃ、本物の骨折り損だからな」
塾講師「ハハハハハッ!」
山本太郎なみにイカれてるな・・
球児「でも、なんでだよ……?」
球児「なんで俺なんかに、ここまでしてくれるんだよ……!?」
塾講師「決まってんだろ」
塾講師「お前が塾辞めたら、俺の収入減っちゃうじゃん」
球児「…………」プッ
球児「ハハハハハッ!」
塾講師「ハハハハハッ!」
球児(他の塾よりずっと安い月謝でやってるくせによ……)
球児(でも……先生っていったいなにで生活してるんだ? 塾だけじゃ無理だよな)
球児(昼間はちゃんとした塾で働いてんのか?)
球児(意外に普通のサラリーマンとか? それともパチプロとかだったり?)
塾講師『復讐なんて、やらないに越したこたぁない』
塾講師『世の中、そういうのを生業にしてるバカヤロウがいる』
球児(──っていってたけど、もしかして先生って……)
球児(いや、まさかな……)
<球児の高校>
球児「よっしゃーっ!」
球児「いいぞ、いいぞーっ!」
部員A「あいつ、レギュラー落ちしたってのに声出しすげえな」
部員B「……アイツのためにも、俺らも頑張らないとな」
部員C「そうだな」
坊主「……ホントごめん」
球児「気にすんな、右腕が折れたって部活はできるからな!」
球児(ありがとう、やってけそうだよ……先生)
<個人塾>
黒板に字を書く塾講師。
そばかす娘「あれ、先生まで腕折っちゃったの!?」
塾講師「ああ、こないだちょっとコケちまってな」カリカリ…
弱気「えぇ~……次はボクかなぁ、イヤだなぁ」ドキドキ…
そばかす娘「でもさすが先生ね、左手でもいつもと字が同じだもん!」
弱気「いや、むしろいつもよりキレイかも」
塾講師「なんたって、猛特訓したからな!」カリカリ…
球児(すげぇなぁ……右腕が治るまでは、俺も先生みたいに左手で頑張るぞ!)
塾講師「…………」カリカリ…
塾講師(悪いな……実は俺、左利きなんだ……)カリカリ…
~ 第三話 おわり ~
復習ならぬ復讐講師
おわり
ありがとうございました
茶髪「乙」
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