古泉「涼宮さんはああ見えて普通の女の子です」キョン「マジか」(215)

古泉「涼宮さんには願望を実現する能力がある。それでも世界がこのように安定しているのは、偏に涼宮さんが普通の女の子であるからなのです」

キョン「言っちゃあなんだが、普通の女の子が自己紹介のとき「ただの人間には興味ありませんっ」なんて奇抜なことを声を張って言わないだろ」

古泉「そのとき、涼宮さんの顔をよくごらんになりましたか?」

キョン「見たといえば見たと思うが」

古泉「耳が真っ赤になっていませんでした?」

キョン「そこまでは……。それってどういうことだ?」

古泉「簡単です。涼宮さんは勇気を振り絞ってあのような発言をしたのです」

キョン「何故そんなことをする必要がある?黙ってれば可愛いのに」

古泉「涼宮さんはこう考えているのですよ。不思議と遭遇するためには自分が普通のままではいけない、と。だから、普段はエキセントリックな自分を無理して演じているわけです」

キョン「悪いが俺には信じられないぜ、そんなこと」

古泉「んふっ。貴方には信じてもらいたいのですが」

キョン「普通の女の子がパソコンを強奪したりはしないからな」

古泉「あれも演技ですよ」

キョン「演技だぁ?あれが演技っていうならコンピ研の部長氏もグルだったことになるぞ?」

古泉「その通りです」

キョン「意味がわからないな」

古泉「貴方は知っているはずです。涼宮さんが全ての部活、同好会に仮入部していたことは」

キョン「……」

古泉「そのとき部長氏と涼宮さんは友好的な関係を結んでいた。なので、突然のパソコン譲渡要求にも応じたわけです」

キョン「待て。お前の言い分が正しいとしよう。それならハルヒはあんなことせずとパソコンくださいって言えば良いだけだったことになるぞ」

古泉「普通にもらってしまうとそこで普通の人間になってしまう。涼宮さんはそれを最も嫌うのですよ」

キョン「普通に貰いたくないから強奪の形をとったわけか」

古泉「部長氏には話を通していたのでしょう。最新のパソコンを奪って問題にならないはずがないですからね。まぁ、涼宮さんの力があればなかったことにもできますが、本人は自覚していませんし」

キョン「事前に交渉してたのか……」

古泉「それとSOS団の発足についても、彼女がずっと温めていたことです」

キョン「なんだと?」

古泉「あの涼宮さんですよ?無いなら作るという発想を持たないはずがありません」

キョン「ずっとSOS団は作りたかったって言うのかよ」

古泉「はい。ただ、作る勇気がなかったのです」

キョン「んなわけあるか。長門や朝比奈さん、そしてお前を無理やり入部させるような奴が部活動の設立にしり込みするわけねーだろ」

古泉「SOS団の設立申請は誰が行いましたか?」

キョン「俺だが」

古泉「んふ。涼宮さんはあくまでも部員を集めたに過ぎません。教員に直接書類を提出するのがもっとも恥ずかしいと彼女は考えたのでしょう」

キョン「面倒だからだろ」

古泉「その要因もありますが、提出するだけならそこまで面倒な作業ではないですし、貴方が思い描く涼宮さんなら威風堂々と教員に提出書類を叩きつけると思いませんか?」

キョン「……」

古泉「涼宮さんは本当は照れ屋なのですよ。それでもできるだけ普通でいたくないという想いが彼女を突き動かしている」

キョン「いやいや、信じられないぜ。普通の女の子がバニー姿でビラまいたりしないからな。しかも朝比奈さんにまで強要させて」

古泉「それも涼宮さんなりの照れ隠しですよ。バニー姿でビラをまくということを思いついたまでは良いのですが、流石に一人でやるには恥ずかしい」

キョン「それで朝比奈さんに強要させたってのか。その時点で普通じゃないね」

古泉「確かにそうですが、問題ははたしてバニー姿になることを朝比奈みくるが本当に嫌がっていたかどうかです」

キョン「朝比奈さんは泣いていたぞ。嫌がってたに決まってるだろ」

古泉「そうですか?愚直なまでに部室では様々なコスチュームを着こなす彼女を見ていると、そういう趣味があるとしか思えないですが」

キョン「あれはハルヒに無理やり」

古泉「それに。心の底から嫌なのであれば、その役目を長門有希に振ってもいいはずです」

キョン「あの朝比奈さんがハルヒに対して意見できるわけないだろうが」

古泉「でも、言えばすんなり通ると思いますよ。普段の言動からは分かりませんが涼宮さんは聞き分けのいい人ですから」

キョン「……」

古泉「信用できないという顔ですね」

キョン「当然だ。あいつの傍若無人ぶりを傍で見てきたんだからな」

古泉「いいでしょう。なら、一つ証拠をお見せしましょう」

キョン「証拠だと?」

古泉「見せるというよりは、実証してみるということになりますが」

キョン「実証?どうするんだ?」

古泉「簡単です。いいですか?涼宮さんは普通の女子高生です。いえ、周囲の高校生よりは若干精神年齢は低く、また恥ずかしがり屋さんですね」

キョン「それで?」

古泉「故に我侭をいう時もあります。女の子らしく恋心を抱くときもある」

キョン「あいつは中学時代、男をとっかえひっかえだったって聞くぞ。しかも告白は必ずオーケーするとか」

古泉「断れない性格なのですよ。いるでしょう?なんでも反射的に「はい」と答えてしまう人。それが涼宮さんです」

キョン「告白されて5分後に破局はどう説明する?」

古泉「思わず「はい」と言ってしまったがために断るまで5分を要しただけでしょう」

キョン「本当に普通なのか……」

古泉「ええ。では、今度涼宮さんが何か我侭を言い始めたとき、おもむろに手を握ってみてください。彼女がどれほど普通なのか分かるはずです」

キョン「手を握るって……」

古泉「ギュッと握ってあげてください。指を絡めると流石に殴ってくるかもしれませんので、握るだけでお願いします」

キョン「……」

ハルヒ「ではSOS団ミーティングを開始します!!」

朝比奈「わー」

古泉「今回はどのような議題ですか?」

ハルヒ「今度の不思議探索でちょっとやりたいことがあるのよねぇ」

朝比奈「やりたいこと、ですか?」

ハルヒ「そう。みくるちゃん、協力してくれるわね?」

朝比奈「ひっ」

キョン「ハルヒ。まず何をするか言え、話はそれからだろ」

ハルヒ「SOS団のことを学校外にも広める為に宣伝活動をするのよ。みくるちゃんにはそのときバニーなりメイドなりになってもらうから」

朝比奈「え、えぇ!?そ、そんなのできません!!」

ハルヒ「やるのよ。あたしもバニーぐらいにはなってあげるから安心して」

朝比奈「安心できません!!お願いです!!外であんな格好はしたくないです!!」

ハルヒ「ダーメ!!やるったらやるの!!はい、決定」

朝比奈「そ、そんな……私……私……」

キョン「ハルヒ。朝比奈さんが嫌がってるだろ、やめてやれよ。普通に制服でビラでもくばれないいだろ」

ハルヒ「嫌よ。そんな普通の方法じゃ、不思議が集まってこないわ」

キョン「なら、長門にやらせてみたらどうだ?

長門「……」

ハルヒ「有希でもいいけど、衣装を着て絵になるのはみくるちゃんだもん」

朝比奈「ひぃ……」

古泉「おやおや」

キョン「だから、その朝比奈さんが嫌がってるから言ってるんだろ」

ハルヒ「いや!!あたしもコスプレするんだし、文句は言わせないわよ!!」

キョン「あのなぁ」

ハルヒ「やるったらやるの!!平団員のくせに生意気よ、キョン!!あたしの言うことを聞きなさい!!!」

キョン「……」

朝比奈「あ、あの……私は大丈夫ですから……」

古泉「(チャンスですよ)」

キョン「(本当に上手くいくんだろうな、おい。殴られる予感しかしねえぞ)」

ハルヒ「いいわね、みくるちゃん?サービスで生着替えもしちゃうんだから」

朝比奈「いやですぅ……やめてくださぁい……」

ハルヒ「大丈夫。一応、覗かれないようにするから」

朝比奈「い、いいい一応ってなんですかぁ」

ハルヒ「事故はあるかもねぇ」

朝比奈「ひぇぇ……」

キョン「……」ガタッ

ハルヒ「ん?なによ、キョン?」

キョン「いい加減にしろ。そんなこと朝比奈さんに要求するな。涙目になってんだろ」

ハルヒ「団員は団長の指示に従うものでしょ?」

キョン「まだいうか」

ハルヒ「言うわよ!!黙ってあたしの言うことをききな―――」

キョン「……」ギュッ

ハルヒ「お……」

キョン「まだ言うか、ハルヒ?」

ハルヒ「……」

キョン「……」

ハルヒ「……あの……なんのつもり……?」

キョン「まだ言うのかって言ってるんだ」

ハルヒ「……」

キョン「どうなんだ、ハルヒ?」

ハルヒ「……いわないから、手、はなして……」

キョン「本当だな?」

ハルヒ「……うん」

キョン「よし」パッ

ハルヒ「……」

古泉「(んふっ。成功ですね)」

キョン「(確かに大人しくなったが、一時的なものだろ?)」

古泉「(それはまあそうかもしれませんが、とにかく普通の女の子の反応でしょう?)」

キョン「(それはどうだろうな……)」

朝比奈「キョンくん、お茶です」

キョン「どうも」

古泉「おや、ここも裏返ってしまうのですか。痛手ですね」

キョン「中央の白が効いてるからな」

長門「……」

キョン「……」チラッ

ハルヒ「……」

キョン「(おい、古泉。ハルヒが机であぐらかいたまま動かないがいいのか?)」

古泉「(動揺しているのですよ)」

キョン「(にしても、もう10分以上あのままだぞ?なんか逆に不安になってきた)」

古泉「(問題ありません。今はただ胸の鼓動を落ち着かせているだけですから)」

キョン「(本当かよ……)」

朝比奈「涼宮さん、お茶……」

ハルヒ「……」

朝比奈「お、置いておきますね……」

キョン「お、もうこんな時間か」

古泉「それでは失礼します」

長門「……」

朝比奈「涼宮さん、下校の時間ですよぉ?」

ハルヒ「……」

キョン「おい、ハルヒ。鍵閉めるから」

ハルヒ「……ミーティングできなかったじゃない」

キョン「お前が途中で黙るからだろ?」

ハルヒ「あ?ミーティングの途中で手を握ってきたのは誰よ?!」

キョン「そんなに驚いたのか?」

ハルヒ「非常識でしょうがぁ!!」

キョン「お前に非常識って言われてもな……」

ハルヒ「ああ!!もう!!!キョンのせいよ!!明日はミーティングするからね!!!」

キョン「お、おう」

ハルヒ「ったく……!!」

古泉「やはり効果覿面ですね」

キョン「最後はいつものハルヒに戻ってたぞ?」

古泉「精神が落ち着いたから気丈に振舞えたのでしょう。机に座っているときに追い討ちで手を握っていればもっと面白いものが見れていたはずです」

キョン「例えば?」

古泉「そうですね。顔を真っ赤にして部室を飛び出していったと思いますよ?」

キョン「なんつーか、普通の高校生って感じじゃねーな。あいつ、男に免疫がないのかよ」

古泉「そうではないですか?」

キョン「でもよ、あいつは体育の時間、男子がいるのに着替え始めたこともあったぜ?」

古泉「それも涼宮さんなりの不思議へのアプローチです。自分は普通の人間ではない。故に羞恥心などもってはならない。まぁ、涼宮さん人生最大の大冒険だったのでしょうけど」

キョン「そこまでするか」

古泉「そこまでしないと不思議には出会えない。彼女はそう考えているのです」

キョン「……まあ、確かにあの一件以来、そういうことはしてないが……」

古泉「ちなみにその日以来、涼宮さんはそのことを思い出す度に閉鎖空間を生み出しています。よほど恥ずかしかったのでしょう」

キョン「やっぱ、普通じゃねえな」

朝比奈「あの、キョンくぅん……。涼宮さんは一体……?」

キョン「朝比奈さんは気にしなくて良いですよ。ハルヒの対処方法を研究している最中ですから」

朝比奈「はぁ……」

古泉「ともかく、これで実証はできたはずです。彼女が如何に普通であるか」

キョン「いや、あいつの裏側はそうであっても表面上はやっぱり変人奇人の類だろ、ありゃ」

古泉「ええ、その通りです。でも、普通の女の子らしく、彼女は貴方の言うことを聞いた。違いますか?」

キョン「違わないが」

古泉「んふっ。それでは今後も涼宮さんに対してはああいう対処をお願いします。物理的な暴力はもちろん、言葉の暴力も厳禁です。涼宮さんは繊細なので」

キョン「それはツッコミを入れさせてもらうぞ。あいつのどこが繊細なんだ」

古泉「でしたら、試しに心にもない言葉で涼宮さんを罵ってみてください。即座に涙目で罵声を飛ばし、帰るはずですから。そのあと一週間は口を利いてくれませんし、閉鎖空間も発生し続けるでしょうけど」

キョン「……それはやめとく」

古泉「助かります」

長門「……」

朝比奈「私、不思議探索でバニーにならなくていいんでしょうかぁ……」オロオロ

翌日 

ハルヒ「ミーティングを開始します!!!」

朝比奈「わー」

古泉「昨日と同じ議題ですか?」

ハルヒ「甘いわね、古泉くん。同じことを議論するなんて普通のことだもの。別の議題を用意したわ」

キョン「今度はなんだ?」

ハルヒ「今度の不思議探索でみくるちゃんが着るコスチュームを決めます!!」

朝比奈「ひぃ」

キョン「一緒じゃねーか」

ハルヒ「なに言ってるのよ。昨日は不思議探索でどの服装でビラを配るかだったでしょ。今日はみくるちゃんにどのコスチュームを着せるかを決めるの。ほら、全然違うじゃない」

キョン「言い方を変えただけだろうが」

ハルヒ「うっさいわね!!誰の所為でこうなったと思ってるのよ?!」

キョン「お前が黙るからだろうが」

ハルヒ「黙れ!!キョンが悪いんだからね!!!」

キョン「ああ、もういい。さっさと始めてくれ」

ハルヒ「で、みくるちゃんには商店街を歩くときにバニーになってもらうから」

朝比奈「人がいっぱいするのにですかぁ?!」

ハルヒ「いっぱいいるからよ。人目も惹くし宣伝になるでしょ?」

朝比奈「ふぇぇ……」

キョン「めちゃくちゃだな」

古泉「(いいですか?)」

キョン「(顔が近いぞ。なんだ?)」

古泉「(ここは一つ、あなたが議論の主導権を握ってみてはどうでしょうか?)」

キョン「(どうやってだ?)」

古泉「(徐々に話の方向を涼宮さんが何を着るかにもっていきましょう)」

キョン「(そんな芸道できるかよ。相手はハルヒだぞ?)」

古泉「(僕もそれとなくお手伝いします)」

キョン「(どうしてそこまです?)」

古泉「(涼宮さんがどれほど普通なのか、この際貴方に見せておきたいのですよ。奇人変人を相手にしていると思って欲しくはないので)」

キョン「……」

ハルヒ「で、駅前はではナース服を着てもらうからね!!」

朝比奈「そんなぁ!」

キョン「ハルヒ、ちょっといいか?」

ハルヒ「なによ?手を握る気?お生憎様、今日のあたしはキョンが近づいてきたら腕を組むって決めてるの!!無駄よ!!」

キョン「そんなことしねえよ。意見があるんだが、聞いてくれないか?」

ハルヒ「聞くだけなら聞いてあげてもいいけど?」

キョン「それは助かる。朝比奈さんがナース服になるのはいいとしてだな」

朝比奈「よよ、よくありませぇん!!」

キョン「長門はどうする?」

長門「……」

ハルヒ「有希はそのままでいいわ」

キョン「何故だ?」

ハルヒ「有希はそのままがいいとおもうの。あと、有希は体が小さいからサイズがないのよ」

長門「……」

キョン(サイズの問題だったのか)

古泉「そうなのですか?朝比奈さんに合うものがあるのなら長門さんに合うサイズもあると思いますが」

ハルヒ「服のサイズの問題じゃないのよ」

キョン「なら、どこだ?」

ハルヒ「胸よ、胸」

長門「……」

キョン「お、おい……ハルヒ……」

ハルヒ「詰めればいいかもしれないけど、それだとなんか味気ないし。傍から見たらすぐにわかっちゃうし」

長門「……」

キョン「長門、気にするな。ハルヒはああいう奴だ」

長門「知ってる」

ハルヒ「というわけで、有希はそのままでいいの!」

キョン「ハルヒ。長門になんてこといいやがる」

ハルヒ「でも、ホントのことだもーん」

キョン「なら、お前は何か着るんだよな?昨日、バニーになるとか言ってたし。朝比奈さん一人に恥ずかしい思いをさせるわけじゃねえよな?」

ハルヒ「当然でしょ。あたしも着るわよ。あたしはメイド服で不思議探索するから」

朝比奈「えぇ……露出がすくないような……」

ハルヒ「あたしはメイド服なの!!」

キョン「……ハルヒ。朝比奈さんは途中で着替えるんだよな。お前は着替えないのかよ」

ハルヒ「どうして?あたしはメイド服だけで十分でしょ?」

キョン「それは不公平じゃないか?」

ハルヒ「なにがよ?」

キョン「お前も着替えるべきだ」

ハルヒ「嫌よ。面倒じゃないの」

キョン「面倒だぁ?本当は恥ずかしいだけじゃないのか?」

ハルヒ「はぁ?何言ってるのよ。宣伝活動に羞恥心なんて持ち込まないわ。すべてはSOS団発展のためなんだもの」

キョン「なら、お前もバニーになれ」

ハルヒ「いやよ」

キョン「理由を言え」

ハルヒ「………………ウサミミがうざったいのよ」

キョン「今考えただろ、それ」

ハルヒ「なによ!!!団長の決定に文句あるわけぇ?!」

キョン「お前がメイド服で宣伝するなら、朝比奈さんもメイド服だけでいいだろって言ってるんだよ」

ハルヒ「ダメよ!!みくるちゃんは色んな服を着せるの!!」

キョン「我侭言ってるんじゃねえよ」ガタッ

ハルヒ「おっと!!ハルヒバリアー!!!」バッ

キョン「……」

ハルヒ「腕さえ組んでればあたしは無敵よ!!」

キョン「小学生か」

ハルヒ「あたしの決定は絶対なの!!」

キョン「よし、分かった。朝比奈さんに三回着替えさせるなら、お前も三回着替えろ」

ハルヒ「はぁ?」

キョン「それなら文句ないだろ?」

ハルヒ「三回って?私服、制服、メイド服ってこと?いいわよ」

キョン「違うに決まってるだろ。どんな服にするか今から決めるんだよ」

ハルヒ「残念ね。コスチュームには限りがあるの。他の服をあんたが自己負担で用意するっていうなら別だけどぉ?」

キョン「いいだろう。用意してやる」

ハルヒ「え?」

古泉「いいですね。色々な涼宮さんが見ることが叶うなら、僕も微力ながらお手伝いさせていただきます」

ハルヒ「ちょっと」

長門「……私も資金提供する」

朝比奈「わ、私も簡単なお裁縫ならできますよ?」

ハルヒ「ま、待ちなさい!!団長を無視して勝手にすすめんなぁ!!」

キョン「用意したら、着るんだろ?今、そういったよなぁ、ハルヒ?」

ハルヒ「い、言ったけど……」

キョン「なら、いいじゃねーか」

ハルヒ「ふ、服はどうするのよ?センスのないやつは着ないからね!!」

キョン「そうだな、古泉よ。コスプレの定番と言えばなんだ?」

古泉「そうですね……。あまり詳しくはないですが、スクール水着はどうでしょうか」

ハルヒ「?!」

キョン「いいな。それなら安価で手に入りそうだ」

ハルヒ「ちょっと、キョン。どこの世界に街中をスクール水着で歩く女子高生がいるのよ?」

キョン「バニーになって街中を歩く女子高生もいねーよ」

ハルヒ「そうだけど」

キョン「長門、何かあるか?」

長門「ランドセル」

キョン「おお。また良い意見だな。俺の妹に借りてくるか」

古泉「スクール水着にランドセルですか」

ハルヒ「なんで複合してんのよ?!着替えをするんでしょ?!」

キョン「朝比奈さんは何かありますか?」

朝比奈「え、えっと……それならぁ……」

ハルヒ「みくるちゃん、変な意見出したらどうなるか、わかってるんでしょうねぇ……?」

朝比奈「ひぃ……わ、わかりましたぁ……。えっと……えっと……た、体操服とかぁ……?」

ハルヒ「……まあ、それならいいか」

キョン「スクール水着を着て、体操服を上着とランドセルか……こりゃマニアックだ」

ハルヒ「キョン!!どうしてそれで一つなのよぉ!!!」

キョン「なんだ、文句でもあるのか?」

ハルヒ「あるわよ!!こんなの見て喜ぶのはロリコンの変態親父だけでしょ?!」

キョン「なら、朝比奈さんにバニーの格好をさせるのはよせ」

ハルヒ「それだと普通の宣伝しかできないじゃないの!!」

キョン「普通の何がいけないんだよ?」

ハルヒ「普通のことをしたって普通じゃないものはこないの!!!」

キョン「不思議探索も普通に歩いてるだけじゃねーか」

ハルヒ「……!!な、なら、今度から逆立ちしながら探してやるわ!!」

キョン「そこまでするな、アホか」

ハルヒ「何よ!!普通のどこが楽しいっていうの!!言ってみなさいよ!!」

キョン「そこまで普通じゃないことに拘るならスク水体操着にランドセルスタイルで出歩けよ」

ハルヒ「普通じゃないおっさんが寄ってきたらどうするのよ?!そういう異常はいらないの!!もっと楽しい異常がいいの!!」

キョン「我侭はやつだ……」

ハルヒ「もう話しにならない!!!今日は帰るっ!!!」

キョン「あ、おい」

キョン「やりすぎたか」

古泉「まあ、少し追い詰めすぎましたね。反論できなくて臍を曲げた感じです」

キョン「はぁ……。追いかけてくる」

古泉「そうしてください。涼宮さんもそれを望んでいるはずです」

キョン「あいつ、変な漫画の見すぎなんじゃねえか?」

古泉「否定はしませんが、女性は多かれ少なかれ漫画的、映画的ドラマチックな展開を妄想するものです」

キョン「男もそうだけどな」

古泉「んふ」

朝比奈「キョンくぅん、涼宮さんをおいかけてください。あと、ごめんなさいって伝えてください……」

キョン「分かりました。長門もなにか伝言はあるか?」

長門「謝罪しておいてくれると助かる」

キョン「分かった」

古泉「お願いしますね」

キョン「したくてするんじゃないからな」

キョン「どこまで行きやがった……。お、いたいた。ハルヒ!」

ハルヒ「な、なによ!?」

キョン「一緒に帰るか」

ハルヒ「嫌よ。一人で帰りなさいよ」

キョン「そういうなよ。方向は一緒じゃねえか」

ハルヒ「あたしはスクール水着なんて着ないからね!!!」

キョン「わかったよ。着なくて良い」

ハルヒ「ふんっ」

キョン「朝比奈さんと長門がごめんなさいだってよ」

ハルヒ「あっそ」

キョン「機嫌直せよ」

ハルヒ「……あんたは嫌じゃないの?」

キョン「何がだ?」

ハルヒ「今の普通がよ」

キョン「普通じゃないお前と一緒にいるからな。最近は非日常と日常が逆転しつつある」

ハルヒ「……あたしが普通じゃないですって?」

キョン「ああ、お前は普通じゃねえよ」

ハルヒ「どこ見て言ってるの?」

キョン「え?」

ハルヒ「身長?胸?容姿?学力?言動?どれなの?」

キョン「いや、まあ……言動だな」

ハルヒ「普通よ……全部ね……」

キョン「お前な。一度、お前の1日をドキュメンタリーで撮影したいぜ。それを見ればお前が如何に普通じゃないかって自覚できる」

ハルヒ「普通なの!!こんなの!!!」

キョン「違うって言ってるだろ」

ハルヒ「勇気を振り絞れば誰にでもできることでしょ、こんなの」

キョン「は?」

ハルヒ「みんなと違うことをするなんて、別に特別じゃない。耐えればいいだけだし」

キョン「一般人には耐えられんぞ」

ハルヒ「……あんた、思い出しただけで死にたくなる思い出とかある?あたしはある」

キョン「そりゃ、誰にだってあるだろうよ。唐突にフラッシュバックして大声出したくなったり、鬱になったりはな」

ハルヒ「フラッシュバックするまで忘れていられるだけ、幸せじゃない」

キョン「お前は違うのか?」

ハルヒ「……」コクッ

キョン「あれか?体育の時間に男子の前で着替えたことか?」

ハルヒ「いうな!!!」

キョン「わ、悪い……」

ハルヒ「動揺しない人間がいるかもしれないから、やってみたけど。ハズレだった……」

キョン「あれ、宇宙人や異世界人探しの一環だったのかよ」

ハルヒ「それ以外に脱ぐ理由なんてないでしょうがぁ!!」

キョン(確かに長門や殺し屋モードの朝倉なら男が脱いだところで動揺しないだろうな……)

ハルヒ「もういや……誰かが私を見て笑ってるだけで早退したくなるんだから……」

キョン「毎日、そんな極限状態でいたのかよ」

ハルヒ「やってみたらわかるわよ!!!人前で脱ぐのがどれほど辛いかって!!!」

キョン「露出狂でもないのにやらねえよ」

ハルヒ「とにかく、あたしは普通なの……わかった?」

キョン「そうだな」

ハルヒ「普通なあたしじゃ不思議は見つけられない。だから、普通でいるわけにはいかないの。それが表面上のことでしかなくてもね」

キョン「お前、普段から普通じゃないことしてるのか?」

ハルヒ「まあ、ね」

キョン「例えば?」

ハルヒ「は、歯磨きに20分費やしたり……」

キョン「ああ、普通じゃないな」

ハルヒ「コーヒーはブラックで飲んだり……」

キョン「それは好みだろ」

ハルヒ「はぁ!?普通はミルクとか砂糖とかいれるでしょ!?」

キョン「他には何をしてるんだ?」

ハルヒ「夜の9時には寝たり……」

キョン「ただの良い子じゃねーか。普通の高校生じゃねーけど」

ハルヒ「うっさいわね!!一人でやることに関しては他に思いつかないんだから仕方ないでしょ!!!」

キョン「だが、お前の情熱は分かった」

ハルヒ「ふんっ」

キョン「でも、そうだな。お前の思い付く事はあくまでも一般人の範疇だな」

ハルヒ「そうよ。でも、普通ではないから、やるしかないの」

キョン「思いついても実行までには至らないことをお前はやっているわけだ」

ハルヒ「そういうこと」

キョン「ハルヒ」ギュッ

ハルヒ「お……」

キョン「ハルヒ、少しの間、普通にしてみたらどうだ?」

ハルヒ「て……はなして……」

キョン「普通じゃないことをしすぎて、もうそれがお前の中で当たり前の行動になっちまってるんだ。それは日常と変わらん」

ハルヒ「わ、わかったから……手……はなしてよ……」

キョン「明日、1日ぐらいいつもと違うお前……つまり、素の自分で過ごしてみろよ。もしかしたら不思議のほうが驚いて顔を出すかもしれないぞ?」

ハルヒ「ほんと……?」

キョン「いや、可能性だが」

ハルヒ「あんたが……そういうなら……」

キョン「そうか」

ハルヒ「手……いいかげん、はなして……」

キョン「悪い、悪い」

ハルヒ「……帰るっ!!!」タタタッ

キョン「あ、おい!!ハルヒ!!」

キョン「……行っちまったか」

キョン「勢いでテキトーなこと言っちまったけど、まぁ、別に間違ってはいないと思うんだよな……」

キョン「普通のハルヒか……」

キョン「どんな感じになるんだろうか……」

キョン「気になるな」

キョン「古泉や長門に怒られる自体にはならないことを願うか」

キョン「さ、かえろ」

翌日 教室

キョン「おーっす」

国木田「おはよう、キョン」

谷口「キョン、ちょっとこい」

キョン「どうした?アホが脳まで回って、天才になっちまったか?」

谷口「それは涼宮に言え」

キョン「ハルヒがどうかしたのか?」

国木田「あっち、見てよ」

キョン「ん?」


ハルヒ「昨日のドラマ、見た?」

女生徒「見たよ、いいよね」

ハルヒ「面白いわよね。ああ言う王道展開って」


谷口「なんで、あのハルヒが普通の女子みたいな会話してんだよ!!キョン!!あれか?!世界改変でも起こっちまったのか?!」

キョン「……」

キョン「……ハルヒ」

ハルヒ「あ、キョン。おはよう。今日も良い天気ね」

キョン「おう……」

ハルヒ「どうかしたの?」

キョン「いや……別に……。違和感があるなと思ってよ」

ハルヒ「変なキョンね。あんたがこうしろって言ったんでしょ?」

キョン「それはそうだが。そうすんなり採用されるとは思ってなくてな」

ハルヒ「そう」

キョン「まぁ、今日一日はそうしてろ」

ハルヒ「うん」

キョン「……」

ハルヒ「キョン、きちんと課題やってきた?あんたはいつもやってこないからね」

キョン「ああ、そういえばそんなのもあったなぁ……」

ハルヒ「ん。丸写しはダメよ」

キョン「サンキュ」

昼休み

キョン「ハルヒ、一緒に食べるか?」

ハルヒ「や、やめてよ!!別にあんたとはそういう関係じゃないでしょ?!」

キョン「……」

ハルヒ「ふんっ」

キョン「そうか……」

ハルヒ「一緒にたべましょー」

女生徒「今日の涼宮さんいつもと違うけど、なにかあったの?」

ハルヒ「いつまでも宇宙人とか言ってられないことに気がついて」

キョン「……」

谷口「キョンがあのハルヒを更生させたのか?」

キョン「どうなんだろうな」

国木田「ああしていると涼宮さんって本当に可愛いよね」

谷口「普通にしてたらそらな。あいつは文句なしでランクで言えばA+だし」

キョン「そうだったのか」

放課後 部室

古泉「そうですか。涼宮さんが」

キョン「ああ。正直、気持ち悪いな、あれは。別人だ」

古泉「貴方が望んでいたことではないのですか?常軌を逸した行動をとらない涼宮さんは」

キョン「そうだけどな……」

古泉「しかし、そのような状態の涼宮さんはモテるでしょうね」

キョン「そうだな」

古泉「今日一日といわず、一週間ほど続ければおそらく引く手数多でしょう。学校のマドンナになる日も近いかもしれません」

キョン「ハルヒがか?今までの噂もあるし、それないだろ」

古泉「お忘れですか?涼宮さんは全ての部活動に仮入部していた」

キョン「それがなんだ?」

古泉「コンピ研の部長氏のこともあります。涼宮さんの本性、つまり一般人として振舞う涼宮さんを知っている人は割りと多いはずです」

キョン「それって……」

古泉「奇抜な行動をしていても、隠れ涼宮さんファンはかなり多いはず。涼宮さんがただの美少女になったと分かれば、狼は一斉に飛び掛るでしょう」

キョン「ないない。何か裏があるって思うのが普通だろうよ」

古泉「涼宮さんが一般の生徒として振舞っていた時期を普通としてみるか、尋常でない行動を繰り返していた時期を普通と見るか、それは個人によって違うでしょう」

キョン「……」

古泉「僕も貴方も、涼宮さんの『普通』を知ってしまっている。普段の突拍子もない発言の裏で彼女が羞恥の念に耐えていることも」

キョン「それは……」

古泉「そんな彼女が落ち着いたと知ったなら、世間の目も甘くなる。落ち着きのない涼宮さんに交際を申し込むには気後れしますが、毒が抜けたあとなら一歩踏み込むのも容易です」

キョン「そうか?でも、あいつの中ではまだ不思議に拘っているわけで、普通の男とは付き合わないだろ」

古泉「涼宮さんは来るものを拒めない性格であることも話しましたよね?」

キョン「……!」

古泉「告白されればとりあえずオーケーを出す。それが涼宮さんのスタイルです」

キョン「だから、なんだ?」

古泉「『普通』でいることを受け入れてしまえば、普通の男性となんの変哲もない恋愛をし、普遍的な生涯を送るでしょうね」

キョン「そこまであいつが我慢できるか?」

古泉「元々は恥ずかしがりやで教員に部の設立願いも出せない人です。安寧を求めてしまえば抜け出せなくなるでしょう」

キョン「ハルヒが……?信じられないね」

古泉「僕としましてもそれでいいと思います。閉鎖空間が発生する危険性もないわけですし」

キョン「……長門はどう思う?」

長門「……別に」

キョン「そうか」

長門「ただ、現状を継続するのならば、情報統合思念体は観察対象としての価値はなくなると判断する」

キョン「そうなるとどうなる?」

長門「この星にいる全ての対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースは退去することになる」

キョン「長門もか」

長門「そう」

古泉「僕も超能力者としての力は失うでしょうね」

キョン「朝比奈さんもか」

古泉「無論、この時間平面において問題がなくなるわけですから、元の時間軸へと帰ることになるでしょう」

キョン「……」

古泉「それが『普通』ですから」

キョン「確かにそうだな……」

キョン「……」

古泉「それではそろそろ失礼させていただきます」

キョン「おっと、もうそんな時間か……」

長門「……」

キョン「朝比奈さんとハルヒ、来なかったな……」

古泉「寂しいですか?」

キョン「朝比奈さんのお茶が飲めないのは寂しいね」

古泉「んふっ」

キョン「なんだ?」

古泉「いえ。なんでもありません。それではまた、明日」

キョン「……」

キョン「普通か……」

キョン(ハルヒが普通に生活するなら、きっと俺もハルヒと出会う前の生活に戻るな)

キョン「宇宙人も未来人も超能力者もいるって分かっているだけでももうけもんか……」

キョン「ふんふふーん……」

鶴屋「やぁやぁ、キョンくん!!元気かい!!」

キョン「鶴屋さん、どうしたんですか?」

鶴屋「いやぁ、みくる探してんだけどさぁ、どこにもいなくって。部室も鍵しまちゃってたし」

キョン「朝比奈さんは部室にも顔を出してませんでしたけど」

鶴屋「ありゃ?!そうなのかい?!おっかしいなぁ」

キョン「何か?」

鶴屋「いや、みくるがハルにゃんに捕まるところは見たんだけどね」

キョン「な……。あいつ、朝比奈さんに何かさせようとしてるんじゃ……」

鶴屋「まだ学校の中にはいると思うんだけどね」

キョン「探しましょう。ハルヒのことです。朝比奈さんに何かよくないことをしているに決まってます」

鶴屋「おっ。いいの?たすかるっさ!んじゃ、いこ!!」

キョン「はいっ」

鶴屋「なんか嬉しそうだけど、なんかあるにょろ?」

キョン「え?そ、そうですか?そんなことないですよ。朝比奈さんの一大事ですしね」

鶴屋「みくるー?」カパッ

キョン「ポリバケツに居たら、ハルヒを締め上げますよ」

鶴屋「でも、みくるが膝抱えて詰め込まれてたら、似合いそうだよねー!!はははは!!」

キョン「全く、どこに……」

鶴屋「んー……あ、そーだ。あっちかも」

キョン「どこですか?」

鶴屋「いくにょろ」

キョン「鶴屋さん?どこに行くんですか?」

鶴屋「ハルにゃんがみくるを連れて行くとき、裁縫がどうのこうのって言ってたっさ」

キョン「家庭科室ですか」

鶴屋「その可能性はたっかいね」

キョン「分かりました、行きましょう」

鶴屋「おー!!!」

鶴屋「みっくるー!!」ガラッ

朝比奈「あ、鶴屋さん。と、キョンくん!?」

キョン「何を驚いているんですか?」

朝比奈「あ、ええっと……これは……!!」オロオロ

鶴屋「なんか作ってたのー?」

朝比奈「あ、あの……これはぁ……!!」

キョン「服、ですか?」

鶴屋「エプロン?」

朝比奈「は、はぃ……」

キョン「どうしてエプロンなんかを?」

朝比奈「これは……」

ハルヒ「あー、スッキリした。みくるちゃん、おまたせ―――って、キョン?!なにしてるのよ?!」

キョン「お前こそ、朝比奈さんになにしてんだよ」

ハルヒ「何ってお裁縫を手伝ってもらってたのよ。見たらわかるでしょ?」

キョン「裁縫?なんでだ?」

ハルヒ「女の子の嗜みだからよ」

キョン「……!」

ハルヒ「それに料理もしようと思ってたから、エプロンを―――」

キョン「そうなのか」

ハルヒ「そうよ?」

鶴屋「いいね!!ハルにゃん、料理も裁縫もするのかい?!」

ハルヒ「まあ、人並みにはね」

鶴屋「いいお嫁さんになれるよー。うんうん」

ハルヒ「ありがと、鶴屋さん」

朝比奈「涼宮さん……」

キョン「……ハルヒ、まだ普通でいるのか?」

ハルヒ「え?まぁ、別に悪くないでしょ?」

キョン「そうだな。普通のお前は美人だもんな」

ハルヒ「ちょっと、まるで普段はモンスターって言いたいわけ?つか、面と向かって美人とか言うなっ」

鶴屋「ん?ハルにゃん、なんかあったの?いつもと雰囲気違うね」

ハルヒ「普通でいるって決めただけなの。もうね、未来人とか馬鹿なことはやめたの」

朝比奈「……」

鶴屋「へぇー……」

キョン「……」

ハルヒ「な、なによ?みんなして不思議なものでも見るみたいに」

朝比奈「い、いえ……」

ハルヒ「さ、みくるちゃん!あと少しだし、やっちゃうわよ!!」

朝比奈「は、はい」

ハルヒ「ふんふふーん♪」

朝比奈「えっとぉ……えっとぉ……」オロオロ

ハルヒ「みるくちゃん、そこはそうじゃないわ。この線にそって縫えば大丈夫よ?」

朝比奈「どうも……」

鶴屋「んー、なんか新鮮にょろ」

キョン「俺はここで失礼します」

鶴屋「ん?キョンくん?もう帰っちゃうのかい?」

キョン「居ても見てるだけになりますし」

鶴屋「見てるだけじゃ不満かい?」

キョン「え?」

鶴屋「あたしは見てるだけで大満足だけどねー!!あははははは!!!」

キョン「そうですか」

鶴屋「どしたの?……やっぱり当事者じゃなきゃいや?」

キョン「どういう意味ですか?」

鶴屋「気持ちはわかるけどねー。望んだ結果がイメージしてたのと違うとき、そのギャップに苦しむもんっさ」

キョン「鶴屋さん……」

鶴屋「嫌だったら嫌ってはっきり言ったほうがいいよ?」

キョン「俺は別に何が嫌だとかないですから」

鶴屋「ハルにゃんみたいにできる人は少ないからっさ、大切にしたほうがいいよ!」

キョン「……」

鶴屋「んじゃね!!キョンくんっ!!バイバイにょろ~」

キョン「は、はい」

キョンの部屋

キョン「ふぅ……」

キョン(望んだ結果と違う……か)

キョン(俺は何を望んでた……?)

キョン(決して『普通』を望んでたわけじゃない)

キョン(無理難題奇問難問吹っかけてくるようなハルヒじゃなく、女の子らしいハルヒが見たくて……)

キョン(でも、そのハルヒは今まで通り、宇宙人や未来人や超能力者や異世界人にも興味津々で)

キョン(休日には不思議探索するような活動的なハルヒを望んでたのか……)

キョン「……」

キョン「って、なんで俺がこんなことを考えなきゃならんのか。バカバカしい。ハルヒが品行方正で生徒の鑑になるならいいじゃないか」

妹「らんらーん」ガチャ

キョン「こら!!ノックして入ってきなさい!!」

妹「キョンくん、こわぃ」

キョン「……」

キョン「もう寝るか」

翌日 学校

キョン「おーっす」

谷口「よっ、キョン」

国木田「おはよう」

ハルヒ「……」

キョン(誰とも話してないな)

キョン「おはよ、ハルヒ」

ハルヒ「おはよう、キョン」

キョン「もうやめたんだな。普通でいるの。勿体無いね」

ハルヒ「あんたはあたしに普通でいろっていうの?」

キョン「そのほうが平和だからな」

ハルヒ「そう……。なら、そうしてみようかなぁ」

キョン「え?」

ハルヒ「普通の中にもそれなりに楽しいことはありそうだしね」

キョン「……ああ、その通りだ」

昼休み

女生徒「涼宮さーん、ごはんたべよー」

ハルヒ「いいわよー」テテテッ

キョン「……」

谷口「涼宮のやつ、ホントに人が変わったな」

国木田「そうだね。何かあったのかな」

谷口「牙を抜かれた獅子だな、ありゃ」

国木田「あはは、それじゃあ猫だね」

谷口「ちがいねえ」

キョン「……」ガタッ

谷口「キョン、どうした?」

キョン「ちょっと便所」

国木田「顔色悪いよ?どうしたの?」

谷口「下痢か?」

キョン「飯時にそんなこというんじゃねえよ」

古泉「どうも」

キョン「どうした?」

古泉「朗報があります」

キョン「朗報だと?」

古泉「僕の力が先ほど、消失しました」

キョン「な……?!」

古泉「涼宮さんの中で何かがあったのでしょう。恐らくもう閉鎖空間が発生することもないと思われます」

キョン「それって……」

古泉「涼宮さんは内も外も普通の女の子になった、と考えるべきでしょうね」

キョン「……」

古泉「神の消失により、機関のほうでも大騒ぎですよ。ですが、これでよかったのでないかという意見も少なくありません」

キョン「世界が滅亡することはないからな」

古泉「いえ。我々の知っている世界はもうありません。何せ、神がいなくなったわけですから、新世界が生まれたといえるでしょう」

キョン「それじゃあ、もう……長門や朝比奈さんは……」

古泉「お役御免、ですね」

部室

キョン「長門!!」ガチャ

長門「……」

キョン「いたか……」

長門「……」

キョン「行っちまうのか?」

長門「……」

キョン「他の奴らが去るにしてもだ、長門だけは地球に残れないのか?」

長門「それはできない」

キョン「どうしてだ」

長門「この星にとってのイレギュラーは私だから」

キョン「……」

長門「私だけが留まることはできない」

キョン「それはボスに言ってもだめなのか」

長門「不可能」

廊下

キョン「あ、朝比奈さん!!」

朝比奈「ひゃ!?キョンくん?!」

鶴屋「どうしたの、血相変えてー」

キョン「朝比奈さん……」

朝比奈「は、はい……なんでしょうか……?」

鶴屋「あ。あたし、お邪魔みたいだねー、それじゃ、みくる!先にいってるねー!!」

朝比奈「あ、鶴屋さぁん」

キョン「朝比奈さん……あのですね……」

朝比奈「はい……?」

キョン「卒業までは居てくれますよね?」

朝比奈「へ?」

キョン「せめて、卒業までは……いれるんですよね?この時代に」

朝比奈「それは……禁則事項です……」

キョン「ど、どうしてですか?居れるか居れないかぐらい答えてくれても……」

朝比奈「私は末端の末端だから……帰れといわれたら帰ります……」

キョン「そんな……たとえ帰れと言われても滞在時間を延ばすことぐらいは……」

朝比奈「無理です。私にそこまでの権限はないから」

キョン「……」

朝比奈「キョンくん……」

キョン「長門も居なくなるって……言っているんです……」

朝比奈「長門さんが……?」

キョン「ハルヒも……もう……普通になっちゃったんです……」

朝比奈「それは……」

キョン「これでよかったって思いますか?」

朝比奈「よくわからないけど、キョンくんはどう思っているの?」

キョン「え?」

朝比奈「さっきも言ったけど、私にはなにも権限がないから……。だから、キョンくんや涼宮さんに任せるしかないんです」

キョン「朝比奈さんは普通の女の子になれないんですね……」

朝比奈「この時間に生まれていれば、普通のこともできたと思うけど……。ごめんなさい、キョンくん」

教室

キョン「……」

国木田「遅かったね、キョン」

谷口「保健室に行ってたのか?」

キョン「ハルヒは?」

国木田「涼宮さんなら、数人の女子と出て行ったけど」

谷口「最近のファッションはどーのこーの言ってたよな」

国木田「うん。オカルト話ではないことは確かだね」

谷口「白装束とか言ってたらあやしかったけどなぁ」

キョン「そうか……」

谷口「どうしたよ?」

キョン「いや……なんでもない」

国木田「そうだ、キョン。昨日、始まった番組で面白いのがあったんだよ」

谷口「それあれだろ?夜の9時からやってるやつ」

国木田「そーそー、それ。あれ、いいよね」

放課後

ハルヒ「ねえ、ねえ、さっき言ってた服だけど、どこに売ってるわけ?」

女生徒「それはなら北口駅近くのショッピングモールにあるよ」

ハルヒ「あー、あそこね。はいはい。わかったわ、ありがと」

女生徒「どういたしまして」

キョン「……」

キョン(なんだろうな……。ハルヒが『普通』になったことですげー遠くにいる気がする……)

キョン(普通は逆なんだろうけどなぁ……。ハルヒらしいといえばらしいか)

ハルヒ「ふんふふーん」

キョン「ハルヒ、部室には行くのか?」

ハルヒ「ああ、今日もいけないから、休みでいいわよ?」

キョン「な……」

ハルヒ「バイバイ、キョン」

キョン「まっ……!!」

キョン「……ふざけんな……暇でしょうがねえよ……」

部室

キョン「……」ガチャ

古泉「どうも」

キョン「お前だけか」

古泉「そのようです」

キョン「長門は?」

古泉「いません」

キョン「朝比奈さんは?」

古泉「いません」

キョン「そうか……」

古泉「今日は涼宮さんから休みでいいと連絡がありました」

キョン「……」

古泉「しかし、何分やることがなくて。んふ、困ったものです」

キョン「……オセロでもするか?」

古泉「ええ、喜んで」

キョン「……」

古泉「おや、勝ってしまいましたか。珍しいこともあるものですね」

キョン「古泉。本当にこれでいいと思ってるのか?」

古泉「それは僕の台詞ですね」

キョン「なんだと?」

古泉「僕は涼宮さんが平穏に一生を送ることができればそれでいいと最初から思っていました。今の状況はまさに理想といえますね」

キョン「……」

古泉「世界から神が消えましたが、世界はそのまま残っている。時間も記憶も断絶することなく続いている。これは喜ばしいことです」

古泉「涼宮さんの匙加減一つで世界が終わることはもうないのですから。安心です」

キョン「そうかよ」

古泉「貴方はご不満ですか?この安住の世界に」

キョン「別に」

古泉「しかし、SOS団も自然消滅するでしょうね。こうしてあなたとボードゲームに興じることもあと数回と言ったところですか」

キョン「そうだな」

古泉「名残惜しいですね。あなたとするボードゲームは大変面白かったですから」

キョン「……そうかい」

古泉「不満があるとすれば、そこだけです」

キョン「……」

古泉「もう一勝負、しますか?」

キョン「……」

古泉「残念っ。それでは僕はこの辺で失礼します。日常に戻ったといえども学生の本分は全うしなければなりませんので。むしろ疎かになっても言い訳ができないので辛いところですね」

キョン「……明日も来るか?」

古泉「……いえ。もう来ることはないでしょう」

キョン「そうか。暇つぶしができなくなるな」

古泉「ただ……」

キョン「なんだよ?」

古泉「涼宮さんがもう一度、僕たちを必要としてくれるなら……どんな状況でもこの部室に来ますが」

キョン「そんなことが、あればいいな」

古泉「んふっ、さようなら」

キョン「おう」

キョン「……」

『下校時間となりました。校内に残っている生徒は下校を始めてください』

キョン「……本当に来ないんだな、ハルヒ」

キョン「俺が書類作って……提出してやったことも忘れたのかよ……」

キョン「やっぱり、お前は普通じゃねえぜ……」

キョン「ホントに……」

ガチャ

キョン「ハル―――」

鶴屋「ありゃ、ここでもないかぁー」

キョン「……鶴屋さん?どうしたんですか?」

鶴屋「みくる知らない?放課後、急にいなくなってさぁー。折角、部活帰りにあまーいもの食べようって言ってたのに」

キョン「……っ」

鶴屋「電話にもでないし、参ったねー」

キョン「……」

鶴屋「キョンくん?どったの?元気ないぞー!!若者がそんな暗い顔してどーするにょろ?!」

鶴屋「はい、キョンくん。お茶いれたよん」

キョン「どうも……」

鶴屋「で、どうかした?」

キョン「……SOS団は無くなるみたいで」

鶴屋「なくなる?なんでー?こんな面白いとこないのに。勿体無い」

キョン「でも、部員がいないんですよ」

鶴屋「部員がいない?」

キョン「長門も……古泉も……朝比奈さんも……ハルヒも……」

鶴屋「そっか」

キョン「……だから」

鶴屋「でも、キョンくんがいる」

キョン「……え?」

鶴屋「まだ、廃部になってないっさ」

キョン「俺一人じゃ……なにも……」

鶴屋「んー、そっか。ハルにゃん居てのSOS団ってことあるしねー」

キョン「……」

鶴屋「いやなんでしょ?」

キョン「……はい」

鶴屋「なら、集めなよ。部員」

キョン「どうやって?」

鶴屋「団長さんはどうやって集めてたかな?」

キョン「……俺にはあんな真似……」

鶴屋「できる!」

キョン「鶴屋さん?」

鶴屋「あの恥ずかしがりやのハルにゃんができたのに、キョンくんができないわけないにょろ」

キョン「そうでしょうか……」

鶴屋「やってごらんよ。後悔するのも恥ずかしがるのも、やってからにしろ!!これ、あたしの座右の銘!!」

キョン「……」

鶴屋「どこにいるか、知ってる?」

キョン「……北口駅のショッピングモール。まだ、いるかどうか分からないですけど」

シュッピングモール

キョン「はぁ……はぁ……」

キョン(そうだ……なくなるなら作り直せば良いじゃねえか)

キョン(元通りじゃなくてもいい。レプリカでもいい。おれは……)

キョン「ハルヒ!!!」

ハルヒ「んぁ?あれ、キョン?どうしたのよ?」

キョン(俺は宇宙人や未来人や超能力者や異世界人を探しているお前が羨ましくて……そんな真っ直ぐなお前がいる部活が楽しくて……!!)

ハルヒ「なによ、肩で息しちゃって」

キョン(『普通』なお前は確かに可愛かった。『普通』のお前がいるSOS団も見たかった)

キョン(でも、『普通』になったら失うものが多すぎるんだよ……ハルヒ……)

ハルヒ「キョン?大丈夫?」

キョン(俺は『普通』じゃないお前に居てほしかったんだ……。だから……)

キョン「―――好きだ!!ハルヒ!!!」

ハルヒ「は……?」

キョン「俺はお前が勢いよく扉をあけて、満面の笑みでおかしな事件を持ってくるようなSOS団が好きなんだ!!!」

ハルヒ「……」

キョン「だから、無くなるなんて我慢できない!!お前には団長でいてほしいんだ!!」

ハルヒ「……」

キョン「長門も朝比奈さんも古泉も……全員に俺は居てほしいんだよ!!」

キョン「あの『普通』さが俺は欲しい。今の普通なんて退屈なだけだ」

ハルヒ「……」

キョン「ハルヒ!!一からでもいい。もう一回……部室探しからやろうぜ……?」

ハルヒ「……」

キョン「おい!ハルヒ!!聞いてるのか!?ハルヒよ!!」

ハルヒ「……」

朝比奈「あれ、キョンくん。こんなところでどうしたんですか?」

キョン「え?」

長門「……」

キョン「長門……!?」

朝比奈「さっき、好きだ、ハルヒ!って聞こえましたけど……」

長門「……」

キョン「あ、いや……違うんです!!これは……!!って、長門!!消えたんじゃないのか?!」

長門「私は消えない」

キョン「いや、だって……宇宙人が全員消えるときは……消えるんだろ?」

長門「まだ、時期ではない」

キョン「……」

朝比奈「涼宮さん、どうしたんですか?涼宮さん?」

ハルヒ「キョンが……すきって……」

長門「意識の途絶が見られる」

朝比奈「ひぇぇ……!!そんなぁ!!しっかりしてぇ!!」

キョン「な、長門……ちょっとこい……」

長門「なに?」

キョン「ハルヒは力を失ってないのか?」

長門「ない」

キョン「古泉のやろう……!!!騙しやがったのか!!!」

ハルヒ「はっ……!?ちょ、ちょっとキョン!!」

キョン「なんだ?」

ハルヒ「人の往来でなんてこと言ってんのよ!!!」

キョン「え?」

ハルヒ「告白するならもっとムードとかタイミングを考えなさいよね!!!」

キョン「告白って……俺は……」

長門「あなたは「好きだ。ハルヒ」と叫んでいる」

キョン「違う!!ハルヒが好きってわけじゃなくてだな―――」

ハルヒ「なんですって?!」

朝比奈「キョンくん、それは酷いです!」

キョン「えぇ!?」

ハルヒ「あんたはあたしが好きなの?!あたしがあんたを好きなの?!はっきりしなさいよね!!!」

キョン「まて、意味が分からない……!!」

ハルヒ「このアホキョン!!!ちゃんといえー!!!」

駅前

ハルヒ「はぁー、良い買い物したわね。みくるちゃん」

朝比奈「はい……でもぉ……」

キョン「今月の小遣いパーだ……」

朝比奈「ご、ごめんなさい、キョンくん……」

キョン「いいんですよ……ははは……」

長門「……」

ハルヒ「全く。とんだ恥をかいたわ。ほんとキョンは常識がないのね」

キョン「なあ、ハルヒよ」

ハルヒ「なに?」

キョン「SOS団はなくならないよな?」

ハルヒ「当然でしょ?何言ってるのよ?」

キョン「そっか……ならいいんだ……」

ハルヒ「ホント、バカなんだから……ふんっ」

キョン「……そうだな。バカだな、俺。何当たり前のこと聞いてるんだか……」

ハルヒ「あたしは帰るけど?」

キョン「俺は……ちょっと、まだ用事があるから」

ハルヒ「あっそ。それじゃあね、キョン。また、明日」

キョン「おう」

長門「……」

朝比奈「キョンくぅん?なにがどうなっているんですかぁ?」

キョン「長門、理解できるように説明してくれるか?」

長門「情報改変が行われた。急激なものではなく、酷く緩やかに行われた」

キョン「少しずつ変わっていってたのか」

長門「貴方がこの3日間で接触した涼宮ハルヒは厳密には別人」

キョン「通りで違和感があるわけだ」

長門「1日目は我々が認知している涼宮ハルヒ。2日目は友人として交友のある涼宮ハルヒ。3日目はクラスメイトとしての涼宮ハルヒだった」

キョン「遠くに感じたのもそれが理由か……。でも、ハルヒは俺のことも知っていたし、昨日の会話のことも覚えていたぜ?」

長門「異次元同位体とは別の概念。涼宮ハルヒ本人が無意識下で能力を行使し、貴方の望む涼宮ハルヒに変化していったためそのような概念が生まれた」

キョン「『普通』であろうとしたからか……」

長門「そう」

朝比奈「涼宮さんの力が無くなってしまったわけではないんですね?」

長門「恐らく、12時間ほど貴方の説得が遅れていれば涼宮ハルヒの力は失われ、私も朝比奈みくるも古泉一樹も無価値なものとなっていた」

キョン「……」

長門「礼を言う」

キョン「よしてくれ。今回は何も分かってなかった。寧ろ、世界の平和を崩壊させちまったんだぜ?俺は悪役だろうよ」

朝比奈「そ、そんなことありません!!わ、私はきっと何も知らされないまま……未来に帰っていたと思いますし……」

キョン「朝比奈さん……」

長門「私という個体もここにいれたことに安堵している」

キョン「違うんだ……。これは俺の我侭なんだよ」

朝比奈「え?」

キョン「もっと長門や朝比奈さんや古泉、そしてハルヒと遊んでいたいっていう、ただの我侭なんです。もう俺はハルヒのことを叱れませんね……」

朝比奈「その我侭のおかげで私はここに居れますから。だから、お礼をさせてください。ありがとう、キョンくん」

長門「……」コクッ

キョン「……どうも」

キョン「……」

古泉「どうも。まだ駅前に居てくださって助かりました」

キョン「どうせ、来ると思ったからな。帰りか?」

古泉「ええ。閉鎖空間が現れました」

キョン「そうか……」

古泉「おや、随分と嬉しそうですね。僕は仕事が増えて困っているのですが」

キョン「悪いな……。嬉しいんだから、仕方がない」

古泉「実は僕もです。ここに居られることができて、本当にほっとしています。また僕は涼宮さんに必要とされていることに喜びを感じています」

キョン「そうか」

古泉「また、部室でゲームができますね」

キョン「そうだな」

古泉「んふっ、それはまた明日」

キョン「古泉。やっぱりツッコミを入れておくぜ」

古泉「はい?」

キョン「ハルヒは普通じゃない。普通だったら俺があいつを心底羨ましいって思うことはまずないからな」

キョンの部屋

キョン「ふぅ……」

キョン「……」

キョン(俺……今日……なにしてたっけか……)

キョン(確か……好きだとか……なんとか……)

キョン「……っ」

キョン「あー!!!俺はなにを口走ったんだぁ!!!!」

キョン「ぐぁぁぁ!!!!もっと言葉を選べよぉ!!」

妹「キョンくん、うるさいよー?どうしたのー?」

キョン「勝手に入ってくるんじゃありません!!」

妹「んー?キョンくん、たのしそう!!まぜてー!!」

キョン「全然、楽しくないんだよ!!こっちは心の傷が増えて……あぁー!!!」

妹「きゃははは!!キョンくん、へんなのー」

キョン「うるさい!!」

妹「あぁー!!だって!!」

翌日 学校

キョン「……」

ハルヒ「あら、キョン。おはよう」

キョン「ハルヒ……」

ハルヒ「なによ?」

キョン「お前の気持ちがよくわかった……これ、つらいな……」

ハルヒ「はぁ?なにが?」

キョン「お前の顔を見るたびに……鮮明に蘇るぜ……昨日のことが……」

ハルヒ「なっ?!いうな!!こっちも思い出すでしょうがぁ!!」

キョン「……」

ハルヒ「こ、こっちみんな……」

キョン「……ハルヒ」

ハルヒ「なによ?」

キョン「おはよう」

ハルヒ「ふんっ」

放課後 部室

キョン「衣装ですか?」

朝比奈「はい。涼宮さんに今度の不思議探索で着る衣装を買おうって誘われて」

キョン「なるほど。でも、無かったから普通のショッピングになったと」

朝比奈「はい」

キョン「鶴屋さんが探してましたよ?」

朝比奈「今日、謝っておきました。ああいう時に限って携帯電話の充電ってきれちゃうんですよね」

キョン「あー、ありますねー」

古泉「ところで、衣装のほうは結局どうなったんですか?」

朝比奈「さぁ……それがよく……」

ハルヒ「はぁーい!!おまちどぉー!!!」

キョン「ふっ……」

ハルヒ「何笑ってんのよ?」

キョン「いや、随分と懐かしいなって思って」

ハルヒ「はぁ?たかが3日ほど休みになっただけで大げさね。それよりみくるちゃーん、衣装できたわよー?」

朝比奈「どんな感じですかぁ?」

ハルヒ「じゃじゃじゃじゃーん!!このエプロンと白のスクール水着着てね!!」

朝比奈「ひぇぇぇ!?!なななな、なんでですかぁ?!メイド服はどうなったんですかぁ?!そのエプロンメイド服用だっていったじゃないですかぁ!!」

ハルヒ「メイド服つくってたらスクール水着になったのよね」

キョン「そんなことあるわけねーだろ!!それどうみてもただの白いスクール水着じゃねーか!!通販で買ったんだろ!?」

ハルヒ「だって、私がスクール水着に体操服のランドセルだと、これぐらいしてもらわないと釣り合いとれないじゃないの」

キョン「なんだと?!」

ハルヒ「あと、有希にも着て欲しいものを用意したのよねー」

キョン「長門にもか?!」

ハルヒ「有希は……はい、これ」

長門「……?」

キョン「これ男性用のワイシャツじゃねーか。長門には大きすぎるぞ」

ハルヒ「ちっちっち、裸ワイシャツの破壊力を知らないわけ?」

キョン「てめえ!!そんな格好で街中を歩かせるつもりなのかよ?!」

長門「裸ワイシャツ」

ハルヒ「これでビラを配りまくるわよ!!」

キョン「てめえ!!変態オヤジがどうのこうの言ってたじゃねーかよ!!」

ハルヒ「あんたが着ろっていうから用意したんでしょ?!あ、妹ちゃんからランドセル借りておいてね。赤いわよね?」

キョン「……」

古泉「どうやら貴方の要望に答えるために考えた苦肉の策のようですね」

キョン「どういうことだ?」

古泉「自分が恥ずかしい格好をするなら周りにもっと恥ずかしい格好をしてる人を置けば、なんとかなるだろう。そう考えたわけですよ」

キョン「普通じゃねえな」

古泉「健気じゃないですか。貴方が見たいといったから涼宮さんは着る努力をしたわけです」

キョン「他人巻き込んだ時点で評価できねえな」

古泉「なら、手を握ってみたらどうですか?言うこと聞いてくれますよ?」

キョン「……」ガタッ

ハルヒ「ハルヒバリアー!!」

キョン「……」

ハルヒ「何度も同じ手は通用しないんだからね!!」

キョン「ハルヒ」

ハルヒ「なによ?」

キョン「その格好はやっぱりダメだ。せめて部室の中だけにしろ」

ハルヒ「なんでよ?普通にビラまいてもつまんないでしょ?」

キョン「衆目には晒したくない。そういう姿は俺だけのものにしときたい」

ハルヒ「……な」

朝比奈「キョ、キョンくぅん……」モジモジ

長門「わかった」

ハルヒ「ふ、ふんっ。独占欲が強い男ね!!そういうのは最近流行らないわよ!!」

キョン「頼む、ハルヒ。ビラは普通に配ろうぜ。というか、このビラの内容が普通じゃないから大丈夫だって」

ハルヒ「そう?」

古泉「来たれ!!宇宙人、未来人、超能力者、異世界人!!私のところまで!!!―――ですからね」

キョン「こんなに煽ったら、ほら……きっと来るって、な?」

ハルヒ「……嘘ついたらハリセンボン飲ますからね」

キョン「魚のほうか……。分かった、練習しとく」

くぅ~疲れましたw これにて完結です!
実は、ネタレスしたら代行の話を持ちかけられたのが始まりでした
本当は話のネタなかったのですが←
ご厚意を無駄にするわけには行かないので流行りのネタで挑んでみた所存ですw
以下、まどか達のみんなへのメッセジをどぞ

まどか「みんな、見てくれてありがとう
ちょっと腹黒なところも見えちゃったけど・・・気にしないでね!」

さやか「いやーありがと!
私のかわいさは二十分に伝わったかな?」

マミ「見てくれたのは嬉しいけどちょっと恥ずかしいわね・・・」

京子「見てくれありがとな!
正直、作中で言った私の気持ちは本当だよ!」

ほむら「・・・ありがと」ファサ

では、

まどか、さやか、マミ、京子、ほむら、俺「皆さんありがとうございました!」



まどか、さやか、マミ、京子、ほむら「って、なんで俺くんが!?
改めまして、ありがとうございました!」

本当の本当に終わり

古泉「ナイス、フォローですね」

キョン「半分は本音だ」

古泉「んふっ、そうですか」

ハルヒ「えーっと、エロキョンの所為で普通の服でビラ配りをすることになったけど、ま、これはどうでもいいわ」

ハルヒ「それじゃ、明日、駅前にいつも通り集合ね!!遅刻したら罰金だから!!いいわね!!」

朝比奈「はぁーい」

長門「……」コクッ

ハルヒ「ガンガンビラをまいて!!不思議をよびこもー!!!」

朝比奈「お、お~」

長門「……」

古泉「ええ、わかりました」

キョン「やれやれ……」

―――そのとき俺は気がついた。どうしてハルヒが魅力的に映るのかを。

それは何かを発言するたびに耳を真っ赤にさせる『普通のハルヒ』が見え隠れしているからに違いなかった。


END

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