P「どしゃ降りの雨、ドアの前に春香」(269)

P「それも俺の自宅の」

春香「………」

P「帰ってきたら誰かが迎えてくれるっていうのはいいものだけど」

P「そんな外で座り込まれてたら、俺が中に入れないよ」

春香「………」

P「何よりお前がびしょ濡れだし、風邪をひく」

春香「………」

P「何があったんだ、話くらいは聞くから」

P「中、入れって」

バタン


春香「……風邪、引いちゃってもいいです」

P「しゃべれる元気はあるみたいだけど内容が支離滅裂だぞ」

P「もう引いちゃってるかもしれない、ああもう、こんなに濡れてお前は」

春香「プロデューサーさんの使ってるタオルとか本当にいりませんから」

P「よかった、こんな時のための新品だ」

ゴシゴシ

春香「………」

P「何でそんな不満そうな顔なんだ」

春香「不満だからです、とても」

P「あんまり困らせないでくれっ」

春香「……じゃあ、帰ります、今すぐ」

P「長らく家の前で体育座りしてた女の子の言うことじゃないぞ」

P「だいたい今何時だまったく」

春香「だいたい九時十七分くらいじゃ」

P「……俺が帰ってくるまで何度時計を確認してたんだろうな」

春香「どうでしょうか、覚えてません」

P「いつからこんなトリッキーな女の子になったんだ、昔は素直ないい子だったのに」

春香「……」

P「ほら、だいたい拭けたから。次は風呂入って芯からあったまってこい」

春香「私……やっぱり帰ります」

P「もう終電終わってるぞ」

春香「まだバリバリ動いてますよね」

P「は、春香は知らないかもしれないが、こんなド田舎だと電車の本数も少ないんだ」

春香「………」

P「そんなここまで来る途中に何軒もコンビニを見たような顔はやめよう」

P「……わかってるだろうに。俺の家に来たのが運の尽きだって」

P「いや、ある意味お前は幸運かもしれないな」

P「俺が今日早上がりじゃなかったらもっと待つ羽目になっていたかもしれない」

P「ハイエナのような悪徳記者がいたらすでにフラッシュを焚かれてるはずだ」

P「さっきも入る時は周り確認したけど……もう無駄かもしれないけど」

春香「最悪ですね、私」

P「そうでもないさ」

P「『どうせならもっとお世話になっちゃえ!』と考えればいい」

春香「……プロデューサーさんこそ、変なしゃべり方をするようになりました」

P「片方が口数少ないとこうなるんだ、たぶん」

春香「もしかして、困ってますか?」

P「……」

春香「プロデューサーさん?」

P「さ、察してくれよっ、困るんだよっ」

春香「え……?」

P「さっきから、そのっ、目のやり場に」

P「ほら、雨で……透けて……っ」

春香「あ……」

P「……」

春香「……プロデューサーさん」

春香「困ってますか?」

P「今度は何でそんなうれしそうな顔なんだ! ああもう!」

――――――――――……



春香「……あの」

P「ん? ああ」

春香「いいお湯でした。ありがとうございました」

P「どういたしまして。狭い風呂だろ? 文句は社長に言ってくれな」

春香「プロデューサーさん」

P「ん?」

春香「……今日……雨、降ってたんですね」

P「重症だなこれは」

春香「わあ、いい匂い」

P「しがないチャーハンで申し訳ないが。料理の得意なお前に出すのは気が引けるが」

春香「私だって基本はスイーツ専ですよ。普段の料理はちょっと作るくらいで」

P「その『ちょっと作るくらい』がメチャメチャうまいのを俺は知ってるけど」

春香「本当ですか? いつ食べましたっけ?」

P「………」

春香「あ、カニが入ってる~」

P「喜んでくれたか。ストックのカニ缶を開けようか最後まで迷って」

春香「私の胃袋をつかみたいんですかっ?」

P「カニチャーハンが食べたいって言ってただろ、昨日」

春香「………言いましたっけ?」

P「昼飯のときに。『どうせなら』って」

P「結局作ってやれなかったから今作ったよ。餞別代わりに受け取るがいいさ」

春香「……餞別、ですか」

P「そりゃそうだよ」

春香「……」

P「それで、今日はどうしたんだ?」

春香「………」

P「どうしてここに来た」

春香「小鳥さんにっ、住所を教えてもらいまして!」

P「今はそういうのはいい」

春香「……」

P「聞かせてくれないか」

春香「どうしてここに……ですか」

P「……」

春香「……私」

春香「すっごく好きだった人に、振られちゃったんです」

P「………」

P「……そうだったか」

春香「もうこの人としか恋はしないだろうなっていうくらい、好きだったんです」

春香「振られてすごくショックで、そんなわけないのに、世界が終わっちゃったみたいに感じて」

春香「とにかくどこかにすがりつきたくて、自分でもわけもわからないまま」

春香「気がついたら、ここにいて」

P「……春香」

P「俺の記憶が間違ってなければ、風呂に入る前は制服を着てたよな」

P「それと今日は学校に行くって、お前言ってたよな」

P「そしてちゃんと自宅に帰るとも言っていた。だから鍵は渡さなかった」

春香「……」

P「そこで今、ナチュラルに自分に合った俺の服を着てるようなお前に聞きたい」

P「何でまた舞い戻ってきた?」

P「これでもう三日目だ」

P「どうしてこんな家に戻ってきたんだ」

 /   , ,ィ ハ i、 、     !   /''⌒ヽ-─‐- 、     、ー'´         \ .イ   , ,ィ ハ i 、 .   |
 /イ  ,ィ/l/ |/ リuヽlヽト、 |   ゝ ,、.___,  \  >       ,       !  | ,ィ/l/ l/ uハlヽトiヽ. |
  イ /r >r;ヘj=:r‐=r;<ヽ│  「 ./       u \  |  ≧  , ,ィ/ハヽ\   |   |/゙>r;ヘ '-‐ァr;j<`K
  r、H   ┴'rj h ‘┴ }'|ト、  |./        ヽ |  1 イ/./ ! lvヾ,.ゞ、 ! .ry   ┴ 〉   └'‐ :|rリ
  !t||u`ー-‐ベ!` ` ー-‐' ルリ r|´゙>n-、ヽ-rj='^vヽ _レ「゙f.:jヽ ーT'f.:j'7`h |t|.   ヾi丶     u レ'
  ヾl.     fニニニヽ  u/‐'  :|r|  ー "j `ー ′ h゙リ {t|!v ̄" }  ` ̄  !リ ヾl u  iニニニヽ   /|  !!
    ト、  ヽ.   ノ u,イl.    ヾ! v  ヾ__ v イ‐' ヾl   ヾ_  v ./'    ト、  、__丿u ,イ ト、
   ,.| : \  `ニ´ / ; ト、    ト.、u L_ フ , ' |.    ト、u ヾー `> /.|.   ,| ::\     / ; / \
-‐''7 {' ::   ` ー '  ,; ゝ:l`ー- ⊥:`ヽ. __ / ,' |    | :\   ̄ /,' ト、_ /〈 ::  ` ー '   ,'/   「
  /  \ ::       , '/  :|     `'''ー- 、 , ' '>-,、.._ノ ::  `ー '   /,.イ   \::     /      |
 /     \    /     |        | ヽ-‐'´ _,.ヘ<  _::   _,. イ/ |     ,.へ、 /´\       |

春香「っ」

春香「だから……好きだった人に、振られちゃったから」

P「質問の答えになってない」

春香「なってます……多分」

P「それは一昨日の話だろう」

春香「そうですね、振られた当人が振った男の人の家に転がり込んだのが一昨日、今日で三日目」

P「……」

P「どうかしてるよな。来るほうも、入れるほうも」

春香「そうですね……でも強いて言うなら、その場の空気ってやつじゃないでしょうか」

P「……なるほど」

春香「その割には、お、男の人の方は何もしませんでしたけど」

P「それはそうだ。振ったのはその男だろう。できるはずない」

P「そんな状況で手を出すほうが間違ってるよ」

P「それと個人的な事情と社会的な通念上、無理だったんだ」

春香「……よくわからないです、私には」

P「……そんなに」

P「そんなにその男のことが好きだったのか」

春香「……」

春香「はい……とっても」

P「その男は本当に、お前にそこまで好きになってもらうのに値する男だったのか」

P「純粋で尊い好意を無下にするしかできないダメ野郎じゃなかったか」

春香「……確かにその男の人は鈍感で」

春香「鈍感すぎるほど鈍感で、告白するまで何度やきもきさせられたかわかりませんけど」

P「じゃあダメ野郎だな」

春香「私の告白を断る時、それまで見たこともないくらい苦しそうな顔をしていて」

春香「ああ、この人は本当に私のことを考えてくれてるんだなあって」

春香「振られちゃったはずなのに、恨むでも後悔するでもなく」

春香「ますます……好きになっちゃって……」

P「……春香」

春香「私は今でもその時のその人の顔がまぶたに焼き付いていて」

春香「だから、私はまだっ……」

P「春香」

春香「っ!」

P「いつの間にか春香の話になって」

春香「~~~っごめんなさい! ごめんなさい!」

P「いやっ……」

春香「ごめんなさい……っ」

P「ごめん、俺にも責任があることはわかってるんだ、でもな春香」

春香「私っ、自分でもわかってるんです! どれだけ厚かましいことしてるかって!」

春香「うっとうしい……いつまでもずるずるひきずって」

春香「プロデューサーさんの優しさにつけこんでるだけなんです」

春香「本当はこんなことしてちゃいけないって気づいてるんです! なのにっ」

P「俺はそんな出来た人間じゃない!」

春香「私……病んじゃってるのかも」

P「そんなこと軽々しく口にするな」

春香「じゃあ、プロデューサーさんも、自分を卑下するのはやめてください」

春香「私がいやですから……」

P「わかったよ、悪かった」

P「……」

P「何なんだろうな……俺たちは」

P「春香…すまない!俺には、もうこいつがいるんだ…」

はるかさんa「ヴぁーい」のそのそ

春香「!?」

はるかさんb「かっかー」

ミミ:::;,!      u       `゙"~´   ヾ彡::l/VvVw、 ,yvヾNヽ  ゞヾ  ,. ,. ,. 、、ヾゝヽr=ヾ
ミ::::;/   ゙̄`ー-.、     u  ;,,;   j   ヾk'! ' l / 'レ ^ヽヘ\   ,r゙ゞ゙-"、ノ / l! !ヽ 、、 |
ミ/    J   ゙`ー、   " ;, ;;; ,;; ゙  u ヾi    ,,./ , ,、ヾヾ   | '-- 、..,,ヽ  j  ! | Nヾ|
'"       _,,.. -─ゝ.、   ;, " ;;   _,,..._ゞイ__//〃 i.! ilヾゞヽ  | 、  .r. ヾ-、;;ノ,.:-一'"i
  j    /   ,.- 、  ヾヽ、 ;; ;; _,-<  //_,,\' "' !| :l ゙i !_,,ヽ.l `ー─--  エィ' (. 7 /
      :    ' ・丿   ̄≠Ξイ´,-、 ヽ /イ´ r. `ー-'メ ,.-´、  i     u  ヾ``ー' イ
       \_    _,,......::   ´゙i、 `¨ / i ヽ.__,,... '  u ゙l´.i・j.冫,イ゙l  / ``-、..- ノ :u l
   u      ̄ ̄  彡"   、ヾ ̄``ミ::.l  u   j  i、`ー' .i / /、._    `'y   /
              u      `ヽ  ゙:l   ,.::- 、,, ,. ノ ゙ u ! /_   ̄ ー/ u /
           _,,..,,_    ,.ィ、  /   |  /__   ``- 、_    l l  ``ーt、_ /  /
  ゙   u  ,./´ "  ``- 、_J r'´  u 丿 .l,... `ー一''/   ノ  ト 、,,_____ ゙/ /
        ./__        ー7    /、 l   '゙ ヽ/  ,. '"  \`ー--- ",.::く、
       /;;;''"  ̄ ̄ ───/  ゙  ,::'  \ヾニ==='"/ `- 、   ゙ー┬ '´ / \..,,__
、      .i:⌒`─-、_,....    l   /     `ー┬一'      ヽ    :l  /  , ' `ソヽ
ヾヽ     l      `  `ヽ、 l  ./  ヽ      l         )  ,; /   ,'    '^i

春香「プロデューサーさんにすごい迷惑をかけているのはわかってます……」

P「……そろそろどうやってお前の親御さんに顔を合わせればいいかは考えてる」

P「それとお前が外で待ってる間、近所の目はどこを向いてたのかっていうのが」

春香「前者についてはホテルに泊まってることになってるはずです」

P「それでも俺が耐えられないんだ。俺個人の誠意の問題だ」

P「それで、後者は?」

春香「………」

P「はぁ……」

P「なあ、春香」

P「今日も、何かあったんじゃないのか」

春香「え……」

P「学校行ったんだろ。学校で何かあったんじゃないのか」

春香「……」

P「話してくれないならお前のチャーハンのカニを全部いただいてしまおう」

春香「ふふっ。それは……いやですね」

P「話せば気も楽になるぞ」

春香「……私」

春香「今日、絶交されちゃったんです」

P「――絶交って」

春香「仲の良かった……私はそう思っていた女の子に」

春香「何度も遊ぶ約束をしてて、でもやっぱり、私いそがしくて」

春香「きっとそれだけじゃない、小さなすれ違いはいっぱいあったはずで」

春香「そうしたら言われちゃったんです――『それなら最初から、誰にでもいい顔するな』って」

P「逆恨みだな。気にするな」

春香「『みんなに好かれたがるようなマネなんかするな』」

春香「『そのせいで傷つく人間がいることをお前はわかってない』」

春香「『アイドルなんてただの自己満足だろ』」

P「そんな台詞いちいち覚えててどうする」

春香「私……そんな風にしてたつもりないんです……」

春香「もう一人の友達がかばってくれたのは覚えてて」

春香「でも、みんなから好かれることは心の奥で望んでいたんだと思います」

P「誰だってそうだよ、人間なら」

春香「アイドルになって、たくさんのスポットライトを浴びて」

春香「たくさんの人に私の歌と笑顔を届けて」

春香「みんなに笑顔になってもらおうって思っていたから」

春香「でも……わからなくなったんです」

P「……春香」

春香「みんなから好かれることはうれしかったはずなのに」

春香「その子に言われたら、何だか途端に自分が醜いものに思えてきて」

春香「本当に、ただの自己満足だったのかなって……」

P「そんなわけない。春香は皆を笑顔にしていた。俺が保証する」

春香「逆恨みが間違ってる保証はなくて!」

P「それでも気にする必要がないから逆恨みだ」

春香「皆に笑顔になってもらうためには好きになってもらわなきゃいけなくて」

春香「それすらも正しいのかよくわからなくて、段々イヤになってる自分がいて!」

春香「本当に好きになってもらいたい人にも、うまくいかなくて……っ!」

P「春香……」

春香「ごめんなさいっ、また私っ」

春香「もうわからないんです……プロデューサーさんっ……!!」

春香「私たち……」

春香「付き合えないんですよね……?」

P「……ああ」

春香「それは、どうして」

P「……」

P「プロデューサーと、アイドルだからだ」

春香「……」

春香「そう……一昨日も言ってましたよね」

P「……」

春香「はぁ……」

春香「全然おいしくなかったです、カニチャーハン」

P「そりゃ昨日の昼も俺の作ったチャーハンだったからな」

P「恨むなよ。オフの日の昼はチャーハンと決めててさ」

P「恨むならそんな時に居合わせた自分を恨めよ」

春香「いさせてくれたのはプロデューサーさんじゃないですか……」ボソッ

P「ぐっ」

春香「……あの」

春香「わがままだって……厚かましいって、わかってるんですけど……」

春香「一つだけ、訊いてもいいですか……?」

春香「私のこと、嫌いになってませんか……」

P「……」

P「……嫌いになんか、なるはずない」

春香「――!」

春香「ん……ふふっ」

春香「えへへ」

春香「だいすきです……プロデューサーさん」

P「っ!?」

春香「あ、ごっ、ごめんなさい、ごめんなさい! 今のは違うんですっ!」

春香「好きだったけど、今は全然っ、好きなんかじゃ……でも!」

P「春香……」

春香「今のはその、社交辞令で」

P「いいって。大丈夫だ」

春香「プロデューサー、さん……」

P「……」

春香「……」

P「春香……今何時だ」

春香「ああっ!」

春香「あ、あわっわっ、えと、今何時~~え~~23時40分!」

P「……」

春香「終電、は……どうでしたっ、け……」

P「最近の俺は、知っての通りチャーハンばっか食ってるような気がしてさ」

春香「え……はい……え?」

P「明日の朝」

P「春香の作った朝食が食べたい」

春香「あ……」

P「よろしく頼むぞ。俺はもう寝るから」

春香「――」

春香「は、はいっっ!!」

P「ああもう、あんまり大きな声だすな。深夜なんだから」

春香「あの、ごめんなさいっ、ありがとうございます!」

P「落ち着けって」

春香「餞別じゃなくていいんですよねっ」

春香「このチャーハン……」

P「今のところな」

春香「はい、今のところ」

P「おやすみ」

春香「はいっ、おやすみなさい!」

春香「ふふっ……えへへ……」

P「……」

――――――――――……



春香「……ねぇ、プロデューサーさん」

P「………」

春香「さっき話してるあいだずっと、あんまり私の方を見てくれませんでしたけど」

春香「湯上りの私、色っぽかったですか」

P「………」

春香「私が大好きって言った時も、真っ赤になってましたよね」

P「………」

春香「困ってますか~プロデューサーさん?」

P「もう寝ろこのリボン女!」

春香「もう外してますよ~だ、ふふっ」

――――――――――……



P「……ただいま」

春香「お帰りなさい、プロデューサーさんっ」

P「や、やっぱりいるよな。今日も事務所来なかったし」

春香「だって今朝、おうちの鍵くれませんでしたよね」

P「………」

春香「そんな『やっちまった』みたいな顔しなくても」

P「いや何でもない……情けないな俺」

春香「世界が終わるわけじゃないんだから大丈夫ですよぅ」

P「黙ってたな……メールの返信も寄越さなかったし……」

春香「あ、ねえねえプロデューサーさんっ」

春香「お風呂にしますか? それともご飯?」

P「………」

春香「どうして上を向いて涙をこらえてるような感じなんですか?」

P「複雑なんだ……嬉しいやら情けないやら。なあ春香」

春香「はいっ、あ、お風呂――」

P「事務所のみんなが会いたがってたぞ」

春香「………」

P「いや……それだけだ」

春香「プロデューサーさんは、どうして私なんかを……」

春香「いえ……なんでも」

P「う、うまそうだなご飯。あったかいうちにいただこう」

春香「はいっ、よ、用意しますね」

P「うん美味しい。うまいうまい。俺の母親より全然美味しいなどうなってるんだ」

春香「ふふ、ありがとうございます」

P「いやあ、こんなに料理上手な奥さんがいたらしあわ――」

春香「………」

P「な、なあ!? どうやったらこんなに美味しく作れるんだ? 参考にさせてほしい!」

春香「お、美味しくですか~?」

春香「えへへ、それは愛情がたっぷりつまっ――」

P「………」

春香「……たような雰囲気をかもし出したポーズ的そぶりが秘訣で」

P「……今日さ、春香の家に行ってきたよ」

春香「え――」

P「色々あって、今は責任をもって預かってるって言った」

P「プロデューサーさんなら安心して任せられます、って言ってくれた」

春香「……」

P「喜んでいいのか複雑だった。俺は自分の後ろ暗さを清算しに行ったはずなのに」

P「余計に呵責を背負い込んだような気がして」

春香「プロデューサーさんは……」

春香「私を……」

――――――――――……



春香「う~ん、プロデューサーさぁん……むにゃむにゃ」

P「……」

春香「そっちはえっちな場所ですよぅ……もぉう! えへへっ」

P「寝言があざとい」

P「本当に寝てるんだろうなこいつ」

春香「プロデューサーさぁん……」

P「………」

春香「ぷろ、でゅーさぁ……さんっ」

春香「うっ……ううぅ、わたしを……ぁあっ……」

P「……」

春香「おいてかないで……いやだ……」

春香「ぐすっ、うぅう……うううぅ……」


P「出てけって……さっさと言ってやればいいのにな」

P「何が『責任をもって預かってる』だ。この子を縛りつけて」

P「最低だ……」

P「でも、こんな俺を好きになってくれた子を裏切ることだけはしちゃいけない」

P「もう少しだけ時間をくれ、春香……」

――――――――――……


ピンポーン


春香「……あれ」

春香「私……どれくらい寝て」


ピンポーン ピンポーン

春香「あっつつ、頭痛いよ、ずっと泣いてたみたいにガンガンする……」

春香「……私、泣いてた?」


ピンポピンポピンポーン!!

春香「わぁあっ、今出ます今出ます!」ガチャッ


「春香!!」


春香「え……」

――――――――――……



春香「………」

春香「なんか、だるいな……」

春香「でも、何かしなきゃ。何か手伝えること」

春香「こんな最低な私を置いてくれてるんだもん……報いなきゃ」


春香「うわー、このあいだ洗濯したのにもうこんなにたまってる」

春香「しょうがないなあ、プロデューサーさんは」

春香「あれ……これって……」

  クンクン

春香「うう……何やってるの私」

春香「こんな変態みたいなこと……」

  クンクン

春香「でも、プロデューサーさんのYシャツ……」

春香「優しいにおいがするよぅ……」

  クンクン

春香「………」

春香「好き……」

春香「だいすき……」

――――――――――……
 


春香「あむあむ」

春香「プロデューサーさんのチャーハン、美味しいな」

春香「作り置きなのに美味しいってもう一種の才能だよ。全然飽きないし」

春香「いそがしいはずなのに……」

春香「……」

春香「テレビでも、見ようかな」


ピッ


『人気急上昇中、765プロの正統派アイドル天海春香が活動休止!?』

『人気アイドルの天海春香が活動を急遽キャンセルしている』

『スポーツ紙の取材、芸能関係者からの情報によれば体調不良が理由とのこと』

『またその休止期間も正式には発表されていないため、ファンからは心配の声も』


春香「………」


『アイドルとはいえ一人の女の子ですからね~、まあ、休むことも必要でしょう』

『恋愛関係という噂もあるようですが』『真相はわかりませんよ』

『飛ぶ鳥を落とす勢いだっただけに、今回のことがどう影響するか――』

『また羽ばたいてほしいものですが――』

春香「……ご飯、食べ終わったら」

春香「掃除、しなきゃ」



ガーガー


春香「おとめよーたいしをいだーけ」

春香「こいーしーてきれいにーなれー」

春香「たーちあがれ、おんなしょくん……」


ガガッ


春香「これは……」

春香「プロデューサーさんの、ノート……?」

『天海春香 10/21』

『ダンスレッスン――おおむねOK。ステップ要修正。歌との兼ね合い。ハードめもアリ?』

『歌――後半のノビが足りない。ディレクターと調整か。ボイトレ参照→p.26』

『85点。いつもの春香。指導によってプラス10点』


春香「………」


『追記』

『今日という日を俺は忘れない』

『一人のアイドルを、プロデューサーの俺が傷つけてしまった』

『いや、一人の女の子を』

『自分の罪を棚上げするつもりはない』

『彼女が助けを必要とするなら、いつでもそばにいてやる。どんな苦しみだって背負う』

『俺にできることなら何だってする』

『天海春香はこんなところで立ち止まる女の子じゃない』

『世界中の人間が彼女を見捨てても、俺だけは彼女を信じる。それが役目だ』

『また大空に向かって羽ばたけると信じているから』

春香「……っう」

春香「うううぅっ……ぁああっ……ぁううううう!!」

春香「なにやってるの……わたし」

春香「なにやってるのよぉっ……!!」

春香「最低、だ……」

――――――――――……


 
P「ただいま……?」

P「春香……いるんだよな?」


「うぇっへへへぇ~~~プロデューサーさぁ~~ん」


P「!? あっ、おまっ!!??」

春香「遅かったじゃないですか~~待ちくたびれましたよもぉ~~」

P「あああ、どこ、これどこにあったっ! 一体何本開けて、ビール!」

春香「えぇ? 冷蔵庫ですよぉ~」

P「しまった……」

P「監督不行届だ……」

春香「ささ、ぷろりゅーさーさんも~」

P「……未成年の飲酒は犯罪」

春香「じゃあ共犯ですねぇ、うふふ」

P「俺は未成年じゃないって!」

春香「共犯ですよ、共犯! あっそうだぁ」

春香「今日ですね、お昼に高校の友達がきてですねぇっ」

P「え……」

春香「かばってくれた子の方です。場所がどうしてわかったのか不思議なんですけどねぇ」

春香「聞いても教えてくれなくて、しまいには『尾けた』とか言うんですもん」

春香「まあとにかく、学校に来なよって心配されちゃいましたぁ~」

春香「それで、うちの高校はもうすぐ文化祭が近くてですねぇ」

P「そうか……」

春香「あっ! プロデューサーさん」

P「な、なんだ」

春香「……プロデューサーさんはぁ、高校のとき彼女とかいたんですかぁ?」

P「うぇっ!?」

春香「………」

P「いや、その」

春香「あーいいです! やっぱり聞きたくないです、泣きそうですっ」

P「春香……」

春香「ほらぁ! プロデューサーさんものんで下さいよぅ!」

春香「ぷろりゅーさーさん、わたしはですねぇ」

P「おう、なんだぁ?」

春香「私たちがプロデューサーとアイドルじゃなかったらって、いつも考えちゃうんですよぅ」

春香「わたし、何のためにアイドルになったんれすかねー」

P「それは春香自身が見つけなきゃなあ」

春香「ぷろりゅーさーとアイドルってどうして付き合っちゃいけないんですかっ」

P「世間が許さないからなぁ」

春香「なんですか世間ってぇ」

P「わからん」

春香「じゃあ付き合ってくださいよぅ」

P「……だめだ」

春香「んぅ~~~じゃあっ、私決めました!」

春香「私……アイドルやめます」

P「………」

P「そうか」

P「アイドルをやめて、何になるんだ?」

春香「うーん、そうですねぇ……とりあえず高校に通って、大学にも行って」

春香「普通にOLさんになったりして、結婚して、お嫁さんになって」

春香「それで……」

春香「わたし……」

春香「どうするんだろ……あはは……」

春香「わかんないや……もう」

春香「わかんないですよ……プロデューサーさんっ……」

P「………」

――――――――――……



P「………」

春香「プロデューサーさん、眠っちゃいました?」

P「………」

春香「ねちゃい、ましたか」

P「………」

春香「ふふ、寝顔だぁ……」

春香「こんなに近いのにな」

春香「どうして届かないんだろ……」

春香「……」

春香「起きない、よね」

春香「ん……」

P「やっぱり演技だったか」

春香「え――」

春香「プロっ、プロデューサーさん!?」

P「お前あれだけの量をどうやって飲まずに処理したんだ、流しに捨てたのか?」

P「くぅうう……ただでさえウチの財政は逼迫してるのに、よくもお前ぇっ」

春香「え、ええっ、何でっ、どうして」

P「演技は素晴らしかったけど顔が赤くなってないぞ」

春香「だって私っ」

P「チークを入れてもそうは見えないって。春香の化粧は見飽きるくらい見てるから」

P「というかそれ、俺じゃなくても見抜けるよ」

春香「あ……うぅ」

P「春香」

春香「………」

P「キス、するのか」

春香「は……い?」

P「ちょっと待ってくれ、心の準備が必要だ。必要なんだ」

P「よし、いいぞ」

春香「………」

春香「なんですか、それ」

P「……」

春香「冗談……ですよね?」

P「……」

春香「……」

春香「……~~っ」

P「……」

春香「……んで……か」

P「春香?」


春香「――何ですかそれっ!!!」

春香「何ですか、なんなんですかプロデューサーさんはっ!」

春香「どうしてっ……」

春香「どうして怒らないんですか!!」

P「……」

春香「もしかして私のことをバカにしてるんですか……!?」

春香「滑稽だって! 心の中で笑ってるんですか!?」

P「春香――」

春香「アイドルが何てことしてるんだって叱ってくださいよ!!」

春香「冗談でも『やめる』なんて口にするなって、怒鳴ってくださいよ!!」

P「アイドルだって恋をする権利くらいある」

春香「ふざけないでください! さっきと言ってることが違うっ!!」

P「違わないよ」

春香「付き合うことはできないって言ったじゃないですか! あなたがプロデューサーだから!!」

春香「あなたが……プロデューサーだからっ……!!」

P「……」

春香「出会わなければ……」

春香「プロデューサーさんと出会わなければよかったんでしょうか……」

春香「あなたに恋なんてしなければよかったんでしょうか」

春香「何で、プロデューサーさんはプロデューサーさんでっ」

春香「私はあなたにっ……!」

春香「いや、いやぁっ、ごめんなさいっ、もうっ」

春香「こんな悪い子になりたくないよぉっ……!!」

P「っ」

春香「これ以上あなたの前で最低になりたくないっ!」

春香「追い出してくれればいいのに! お前なんか見たくないって言ってくれればいいのにっ!」

春香「最初のあの日に、私を部屋に入れてくれなければよかったのに!!」

P「俺は春香がしたいようにさせてやるって決めた」

P「お前がそばにいてほしいって望んでくれるなら俺はそばにいる」

春香「そんなの間違ってる! プロデューサーさんのすることじゃない!!」

春香「どうしてそんなに優しくするんですか!!」

P「……共犯だから」

春香「……共犯?」

P「俺もお前と同じだからだ」

春香「何がですか」

P「俺に全部言わせる気かよ」

春香「何ですかキザったらしい!!」


P「お前のことが好きだからだよ!!!」


春香「―――」

P「俺だってお前のことが好きだからっ、一人の女性として愛してしまったから!」

P「わ、わかってないなら言ってやるぞ! いいか!? お前が最初に泊まった日!」

P「俺がどれだけ無防備なお前に我慢してたか知ってるのか!!」

春香「ええぇっ!?」

P「個人的事情と社会通念で襲えなかったって俺は言ったよな!?」

P「個人的事情はそのっ――俺が!」

P「じょ、女性と付き合ったことなかったから!!」

春香「え……ええっ!?」

P「どうしていいかわかんなくて襲えなかったんだよわかったかバーカ!」

春香「なんですかそれ!!」

メインヒロインしてんなぁはるるん

P「う、うるさいな! それでもお前なら、振られたってトップアイドルになれるって!」

P「羽ばたけるって信じてたんだよ!!」

春香「自分勝手すぎます! そ、それなら好きだって言ってくれればよかったじゃないですか!」

P「言えるかバカ! 襲えるかバカ!」

春香「じゃあ何ですか! さっきみたいに私から襲うのはアリだったんですか!?」

P「俺からそそのかすわけにいかないだろ!」

春香「全部『私が私が』って、あなたの意思はどこにあるの!?」

P「俺はっ、その」

春香「プロデューサーさんは、私に期待しすぎです……」

春香「わたしには……無理……」

小鳥「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~~んっ☆ 『美少女事務員』音無小鳥だぴよ~~っ!!」


P「………」

春香「………」

P「………」

春香「………」


小鳥「………」

うわぁ…

小鳥「りりりり律子さぁ~~~んっ! 当初の予定と違いますこの空気ぃ~~っ!」

律子「外からも分かるくらいの痴話喧嘩にどうして入っていこうとするんですかあなたは……」


春香「え……え……?」


真美「まあそのおかげで強行突破できたんだしラッキーっしょー!」

亜美「おっはよーはるるんっ! あれ、こんばんはかな?」

伊織「なんだか犬小屋みたいね、味があっていいじゃない」

真「また伊織はそういうことをっ」

雪歩「ま、真ちゃん、褒めてるんだよきっと!」

響「ここがプロデューサーの住んでる部屋かー!」


春香「なに……何が起きてるの……?」

真美「ノンノンひびきん、ここはただの部屋じゃなくってぇ」

亜美「はるるんと兄ちゃんの愛の巣だよね~?」

春香「ええぇっ!?」

やよい「愛の巣ってなんでしょうかー?」

千早「えぇと、その……」

美希「ハニーのお部屋っ、ハニーのお部屋っ」

あずさ「あらあら~、にぎやかでいいわね~」

貴音「真、今宵は月も美しく」


春香「ま、待って待ってストーーーーーップ!!」

春香「なんで……? どうしてみんながっ」

P「その、俺が呼んでたから」

>>1です
ID被りとか初めてだし何で途中で変わったのかわかんないし焦ってますが、
とりあえず投下していきます

春香「呼んでたって、プロデューサーさん……?」

P「さすがに13人いっぺんはキツイな。部屋がパンパンだなぁ、ははっ」

律子「笑いごとじゃありませんっ。ご近所とか大丈夫なんですか?」

春香「あ、あはは……」

伊織「まったく情けないわね春香は。男一人くらいのことでメソメソしてるんじゃないわよ」

美希「でこちゃんの言う通りなの。だらだらしてたらミキがハニーとっちゃうよ?」

伊織「でこちゃん言うな!」

春香「伊織……美希……」

あずさ「プロデューサーさ~ん、お酒はどこでしょうか~」

小鳥「右に同じ~~!」

貴音「らぁめんは」

P「だぁああっ、ちょっとはしゃぎすぎだお前たち!」

春香「あははっ……ふふっ……」

やよい「はわっ、春香さん? 大丈夫ですかー?」

春香「え……?」

やよい「だって、泣いて……」

春香「……ううん、大丈夫、だよ」

春香「久しぶりにみんなに会えたからかな……なんだか涙が出てきちゃって」

真「春香……」

真美「そ・れ・よ・り~、はるるん聞かせてくれたまえよー、兄ちゃんとのらぶらぶ話!」

春香「はぇっ!? あの、プロデューサーさんっ!?」

P「すまん春香、まずは説明しないといけないよな、何で皆を呼んだのか」

P「ええと、あのな。全員に説明してあるっていうか、言ったんだ」

春香「何を……?」

P「俺が春香を好きだってこと」

春香「―――」

春香「うわわわわぁああ!!??」

伊織「まあアンタたちのそういう感じなんてとっくの昔に気づいてたけど」

真「プロデューサーの家にいるって聞いた時点でねえ?」

雪歩「わかりやすかったよね……」

春香「ううぅ……」

伊織「回りくどい男よね、フった時に言えばいいじゃない。全員に言うまで待ってくれって」

P「悪かったと思ってるよ! でもまず飛び立てる準備をして、そこから春香が選んで」

伊織「私はあんたに聞いてるのよっ」

亜美「まーまー。そーゆう不器用なところも兄ちゃんらしいじゃん」

P「で、だ! 何故みんなをここに呼んだかというと」

あずさ「あの~、プロデューサーさん、お酒が……」

律子「あずささんっ」

あずさ「そ、そうではなくて、ここに空き缶がたくさんあるので」

春香「あ……」

P「アクシデントで空けてしまいまして!」

あずさ「それは仕方ないですね~……それにやっぱり」

律子「未成年の方が多いんですし今日はアルコール抜きですよ」

小鳥「ぶーぶー!」

律子「記事にでもされたらどうするんですか! ただでさえこんな……」ブツブツ

P「というわけで、今日はパーティなんだ、春香」

P「前々々々々々夜祭くらいか? 春香に襲われそうになったのは計算外だったけどさ、はは」

春香「え……あの、そのっ」

春香「何の、ですか?」

P「ライブだよ」

春香「らっ、ライブって!?」

P「765プロの次のライブは――」


P「春香の高校の文化祭だ」


春香「―――」

春香「……へ……わ……わたし、の、高校? ライブ……?」

響「うん、この反応が当然だなー……」

春香「――私の高校っっ!? ライブっっ!!??」
 
P「もちろん春香にも参加してもらうぞ」

春香「そういうことじゃなくって!!」

P「春香の高校の友達がここに来たって言ってただろ」

春香「え……あの」

P「いい友達を持ったな、大事にしろよ? あの子は最初事務所の方に電話してきたんだ」

P「春香はどうして休んでるんですか、何があったんですかって、すごい剣幕だった」

P「どこにいるのか聞かれて、誠実で口が堅そうだったしウチの住所を教えてしまって」

律子「……」

P「は、はは、本当にここに来たんだな。びっくりしたよ」

春香「そんな……」

P「それで話の途中で聞いたんだが、春香の高校で文化祭があるっていうじゃないか」

P「ティンときた」

春香「そんなぁっ!!」

律子「ホント呆れますよプロデューサー殿には。二言目にはそこでライブをやろう、ですから」

P「急遽お願いさせてもらってな。ありがたいことに快諾してもらえた」

P「ハコとしては物足りないかもしれないが、丁度いいと思ったんだ」

P「マスコミもお客さんも知らない、765プロオールスターズの完全ゲリラライブ」

P「そして、アイドル天海春香の復活記念コンサート」

春香「そんな、勝手な……」

P「勝手に進めてしまったことは謝る。すまなかった」

P「でも少しでもいいから、考えてみてくれないか?」

春香「………」

P「春香を大好きでいてくれる人たちと一緒に」

P「春香を大好きでいてくれる人たちのために、ライブをするんだ」

P「そこはきっと、プロデューサーとかアイドルとか関係なく、歌いたいから歌える場所だと思う」

P「応援したいから応援できる場所だと思う」

P「純粋に春香が輝ける場所だと思う」

P「春香のリスタートは、まずはそこからでいい」

春香「私、は……」

千早「春香」

春香「千早ちゃん……」

千早「私はやるべきだと思うわ、春香自身のためにも」

千早「失った自分を取り戻すのは簡単なことではないけれど」

千早「でも、あなたにはみんながついてるわ」

美希「ミキだって同じ気持ちだよ。春香にはそんな姿は似合わないって思うな」

美希「ミキと同じくらいキラキラしててもらわないと、ライバルとして困っちゃうの!」

春香「美希……」

P「俺は、春香がしたいようにさせてやる」

P「春香がもう一度トップを目指す覚悟があるなら、全力でその手助けをする」

P「春香がその……まだ俺を好きでいてくれるなら、それも頑張る」

春香「……っ」

P「アイドルとプロデューサーは結ばれない? 世間が許さないから?」

P「だったら認めさせればいい。アイドルだって恋をする権利はある」

P「世間なんてわけのわからないもの、ブチ壊してやればいい」

P「あのままじゃ無理だと思ったから、俺はみんなの力を借りた」

P「でも今、春香がそうしたいと願ってくれるなら、俺だって俺自身のすべてを賭けれる」

P「ちなみに俺は……そうしたい」


P「だって俺は、春香をっ――愛してるから!!」


一同「「「…………」」」

すまんちょっと飯。30分以内には戻る

ってまたID変わってるし……

そろそろ30分だな

P「…………」


小鳥「……すごいものを見た気がするわ」

律子「ええ……同感です」

貴音「ですが、真、情趣溢れる……」

やよい「とってもかっこいいかなーって!」

真「ボクもそう思っ……どうだろう」

雪歩「ちょ、ちょっとわからないかも」

響「自分はなんだか恥ずかしくなってきたぞ……」

美希「ハニー、情熱的なの」

真美「結局アイドルとかプロデューサーとか言ってんじゃーん」

千早「何でもいいですけれど」

あずさ「ロマンチックね~」

P「………ぐ、お前たち」

亜美「あれ、肝心のはるるんはー?」


春香「うわぁあああああんっっ!!!」


亜美「めっちゃ号泣してるーーー!?」

春香「わ、わたしっ、わたしぃいっ」

千早「あぁもう春香、そんなに泣いたら」

真美「はるるんのツボがわかんないよー!」

美希「あふぅ……眠くなってきたの」

真「ここで寝ちゃったらマズいって!」

あずさ「お酒とジュース、買ってきちゃいました~」

貴音「今宵は、宴ですね」

律子「ちょっとアンタたち静かにしなさーーいっっ!!」

P「はははっ、ははっ!」

春香「プロデューサー、さん……」

P「春香、ごめんな突然」

春香「いえ、その……」

春香「私がドアの前で待ってた時はすごい周りの目を気にしてたのになーって」

P「うぐっ!? それはっ、もうこれしかないと思って、春香の姿を見てられなくて……」

春香「ふふっ、冗談ですよ、冗談」

春香「私……やってみます」

P「ああ。やれることは全部やって、全力でやって……失敗したら、またその時だ」

春香「え~? もう失敗した時のことですか?」

P「そんなの全然怖くないさ。お前は何度だって立ち上がれるんだ」

P「みんながついてる」

P「俺も……ついてる」

春香「……はいっ」

P「いろいろごめんな、そして、ありがとう」

春香「いえ……こちらこそ、です」

春香「ライブまで、よろしくお願いしますね? プロデューサーさんっ!」

――――――――――……



ガヤガヤ


P「よーし、照明いいか!?」

P「音響は回線の最終チェックとケーブル整理を頼む!」

P「暗くなってるしコード類に気をつけろよ! ビニールテープの文字も太めにな!」

「「は、はいっ!!」」

小鳥「余裕のある人は台本を見て、自分の仕事と流れを照らし合わせておいてね!」

小鳥「これをやっておくだけでだいぶ違うから!」

P「ミスがあった場合のセットリスト変動も台本を確認すること!」

「「わかりました!」」

P「舞台に立つのはプロのアイドルだ、ミスしてもフォローはしてくれるさ、気楽にいこう!」

真美「またアイドルとか言うしー……」

亜美「うあうあー! プレッシャーがハンパないよー!」


真「亜美、真美、どうだった?」

亜美「すごい人だった……文化祭ってこういうのだっけ」

真美「ウチらが来るって本当に知らないんだよねー!?」

律子「当たり前でしょうが。知られてたら超満員じゃ済まされないわ、マスコミも大騒ぎ」

伊織「それにしても贅沢よね、伊織ちゃんを筆頭にスーパーアイドルが勢ぞろいなんだから」

雪歩「うぅ、なんかいつもの緊張とは違うっていうか、余計に緊張するっていうか……」

真「はは、なんかわかる気がするよ」

貴音「これも高みに立つための一歩……」

美希「あんまり気にする必要ないって思うな」

亜美「ミキミキ?」

美希「できることを全力でやりきるだけだよ。ミキはキラキラしたいからするの」

美希「ハニーの言ってた通りだよ?」

あずさ「そうね~……難しいことは考えずに、楽しんじゃいましょうか?」

やよい「うっうー! 頑張りますー!」

響「全力で楽しめばなんくるないさー!」


春香「………」

千早「……春香?」

千早「その、大丈夫? 震えているわ……」

春香「どうしよう千早ちゃん……」

千早「え?」

春香「私、今すっごくワクワクしてる――」

春香「こんなの初めてだよ……武者震いってやつじゃないかなこれ!」

千早「春香……」

春香「心配しないで。私は平気。平気すぎて怖いくらいだよ」

春香「千早ちゃんこそ、きれいな声がちゃんと出るかチェックしておかないと、ねっ?」

千早「ふふっ、言ってくれるじゃない春香」

春香「えへへ」

亜美「はるるん!」

春香「え……?」

亜美「ほら、いつものアレよろしく頼むよキミィ!」

――――――――――……



春香「……私ね、いつも思うんだ」

春香「こうしてみんなで手を重ねるのは、ライブの前のちょっとの間だけだけど」

春香「この温もりはいつまでも私の中で続いていく」

春香「でも私、それをちょっと忘れかけてたみたいで」

春香「ごめんね、みんな。迷惑かけて」

春香「本当にごめんなさい!!」


 「「「………」」」


貴音「謝られることなど何もありませんよ、春香」

貴音「わたくしたちの誰一人として、貴方を迷惑などとは思っていません」

響「そうだぞ春香! 誰だってくじけたりすることはあるけど」

響「でも春香は、こうしてここに戻ってきてくれたんだ! それだけで十分さー!」

春香「貴音さん……響ちゃん……」

雪歩「そうだよ、私たちは信じてただけ」

真「春香ならきっと戻ってきてくれるってね!」

春香「うん……うんっ……!!」

律子「さぁみんな! あんまり辛気臭いのはナシよ?」

律子「私たちは会場がどこだって手を抜いたりしない!」

美希「そんなの当たり前なの!」

やよい「お祭りなんですからー!」

あずさ「みなさんをあっと驚かせちゃいましょうね~」

春香「よーし! みんな行くよー!?」

春香「765プロー! ファイトーーーっ!!」



 「「「「「おおーーーーーーっっっ!!!」」」」」

春香『みなさーん! こんにちはーーー!!』

春香『756プロのアイドル兼、この高校の二年生、天海春香ですっ!』


ワァアアアーーーー!!


春香『突然ですみませんっ、今日この時間は私たちが舞台をお借りしちゃいますね?』

春香『ええと、さっそく曲紹介に行きたいところなんですけど』

春香『その前に一つだけ、私にお話をさせてください』


P「春香……?」


春香『みなさんも気になってることだと思いますが』

春香『私がなぜ休んでいたか、どうして今ここに立っているかという話です』

春香『――私、失恋してました!!』


律子「ゲェッッ!!??」


春香『一人の男の人を好きになって、無理だって言われて、へこんじゃってて』

春香『あ、こういうのってネットとかに書き込まれちゃうのかな……まあいっか!』

P「いやよくないだろ!!」

春香『私はみなさんを信じてますから!』

春香『それでですね、私は今でもその人のことが好きで――』


律子「どうしますっ、止めに入りますか!?」

P「……いや」

P「春香を、信じよう」

春香『でも私は、その人が好きだからアイドルをやめるとか、ふさぎこんでしまうんじゃなくて』

春香『好きだからこそ、この舞台に立つことに決めました』

春香『そうしなければきっと、私は私でなくなってしまうと思ったから』


P「……」


春香『その人のことだけではありません』

春香『今からこの舞台で、私と一緒に歌ってくれるみんなのことも大好き』

春香『いたずら好きの亜美が好き。ちょっとませてる真美が好き』

春香『おっとりお姉さんなあずささんも、ミステリアスな貴音さんも』

春香『元気いっぱいのやよい、太陽みたいな響ちゃん、透き通るようにかわいい雪歩』

春香『可愛い物好きの真も、素直になれない伊織も』

春香『ビシバシ指導する女性プロデューサーさんに、仲良しのお姉さんみたいな事務員さん!』 


小鳥「春香ちゃん……」


春香『大勢の人を魅了できる千早ちゃんや、まぶしいくらいキラキラしてる美希』

春香『そして今、この会場に足を運んでくれて、私たちをたくさんの声で迎えてくれる』

春香『あなたたちのことが大好きです』

春香『みんなが、好き』

春香『私のこの気持ちをみんなに届けたい』

春香『私とみんなのたくさんの笑顔で、この会場をいっぱいにしたい!』

P「そうだ、春香」

P「春香にしかできないこと、ここにいる皆じゃなきゃできないこと」

P「だから俺は、みんなに俺の気持ちを伝えて、あの日家に呼んだんだ」


春香『だから私は、歌います』

春香『ずっとずぅーーっと、アイドルでいたいと思います!』


P「笑顔になってもらうため、よりも」

P「笑顔になってもらうには好きになってもらう、なんかよりも」

P「お前が笑顔でいれば、みんなが笑顔になれるんだ」

P「お前が心の底から楽しめば、みんなだって楽しくなれるんだ!」

P「それが天海春香というアイドルなんだよ」

P「お前の一番の、誰にも負けない魅力なんだ!!」


春香『それじゃあみんなっ? そろそろ退屈してるよねー?』

春香『お呼びいたしましょうっ、夢中になっちゃっても知らないよー!?』


P「行ってこい春香!!」

P「全力で輝け――」


春香『最初の曲は! 765プロオールスターズで――』

――――――――――……



「………」

「………」

「………」


春香「胸がすっきりするくらいの、冴え冴えとした月夜」

P「………」

春香「ドアの前には……私?」

P「私? じゃない!」

P「どうして俺の家にいるんだ今日も今日とて!」

春香「『俺の家』じゃありません、ドアの前です」

P「いつからそんな屁理屈を言う女の子に……」

春香「大丈夫ですよ、今日は中に入りませんから」

P「いや……」

P「……」

春香「……えっと、ですね」

春香「あのお祭りのあとは、結局いろいろとゴタゴタしちゃって」

春香「プロデューサーさんにまだちゃんとお礼を言えてなかったなって」

P「春香……」

春香「プロデューサーさん、ありがとうございました」

春香「私はあなたのおかげで、あんなに素敵な舞台に立つことができました」

P「まあ、大盛況だったもんな」

春香「はいっ! たくさんの人に『とってもよかった』って言ってもらえて!」

P「でも俺は何もしてないよ。春香自身が生み出した成果だ」

春香「そう言われると思いまして」

P「え?」

春香「ちょっとしたエピソードをご用意してきました」

P「……う、うん」

春香「私、あのお祭りのあとに、あの子と会えたんです」

P「あ……」

春香「プロデューサーさんにお話しした、絶交しちゃってた女の子」

春香「私たちのライブを見てくれてたみたいで……」

P「っ」

春香「まず真っ先にこの間のことを謝られちゃって、私がとまどってたら」

春香「『応援するよ』って、言ってくれました」

春香「『あんなアイドルが友達なら、私も誇らしいかな』って」

P「……そうか……見て、くれてたのか……」

P「春香はすごいな……」


ビシッ


P「いてっ!? え、な、なんだ春香!?」

春香「それで、私は聞いたんです。『どうして見にきてくれたの?』って」

春香「そうしたらその女の子は」

春香「『なんか自称関係者の変なオッサンにやたら必死に勧められたから』と」

P「だ、誰がオッサンだ! 俺はまだ若――」

春香「………」

P「………」

春香「まあ、その人が誰なのかはここでは深く追及しませんけど」

P「は、はは……」

春香「私、プロデューサーさんに助けられてばっかりで、何も返せてない」

P「そんなこと……」

春香「それでふと思ったんです。プロデューサーさんは、一度も否定しなかったなって」

P「否定……?」

春香「私の恋は否定してたかもしれないけど」

春香「プロデューサーさんを好きでいる私自身のことは、一度も否定してなかった」


『アイドルとプロデューサーは結ばれない?』

『だったら認めさせればいい』


春香「今は無理でも、きっといつかって」

春香「私のことを信じてくれてたんですよね」

P「……俺の力なんてのは微々たるもんで、それくらいしかできないから」

P「今回だって、春香を奮い立たせたのはみんなの力だと思ってる」

P「これからも俺と春香が一緒にいるには、みんなの助けが必要だと思う」

春香「もちろんそれもそうですけど……」

春香「プロデューサーさんの力だって、私の胸に一番奥に、響いてるんですからね?」

P「……ありがとう」

春香「ねえ見てください、プロデューサーさん……」

春香「月が、とってもきれい」

P「……そうだな」

春香「……もうっ」

P「え? 今のもしかして」

春香「大好きです、プロデューサーさん」

P「……あ」

春香「ん~?」

P「……」

P「俺も、好きだ」

P「春香のことが好きだ」

春香「私がずっと大好きでいたら、プロデューサーさんは好きでいてくれますか?」

P「ああ、もちろん」

春香「えへへ」

春香「……あの日は、雨がふってたんですよね」

P「どしゃぶりの雨だったな。でも、今はもう晴れてるよ」

P「雨は、止んだんだ」

春香「………」

春香「……ねえ、プロデューサーさん」

春香「私たち、付き合えないんですよね」

P「……ああ」

春香「それは、どうして?」

P「プロデューサーと、アイドルだから」

春香「……」

春香「……でも、いつか」

P「ああ。いつか――」

春香「プロデューサーさんにもらったもの、みんながくれたもの、全部お返しして」

春香「私自身が一番楽しんで、笑顔を忘れずにいて」

春香「そうやってアイドルでいられたら、いつか、きっと」

春香「あの文化祭の舞台で言えたみたいに……」

春香「今度は、悲しい報告じゃなくて」

P「いつか、できたらいいな」

春香「……はい」

春香「プロデューサーさん」

春香「大好きです……」

P「……ああ」

P「俺も」


「春香のことが好きだよ」





                                            おわり

なんかすごいID変わってグダグダでしたが終われてよかったです
支援してくださった方ありがとうございました

   /.   ノ、i.|i     、、         ヽ
  i    | ミ.\ヾヽ、___ヾヽヾ        |
  |   i 、ヽ_ヽ、_i  , / `__,;―'彡-i     |
  i  ,'i/ `,ニ=ミ`-、ヾ三''―-―' /    .|

   iイ | |' ;'((   ,;/ '~ ゛   ̄`;)" c ミ     i.
   .i i.| ' ,||  i| ._ _-i    ||:i   | r-、  ヽ、   /    /   /  | _|_ ― // ̄7l l _|_
   丿 `| ((  _゛_i__`'    (( ;   ノ// i |ヽi. _/|  _/|    /   |  |  ― / \/    |  ―――
  /    i ||  i` - -、` i    ノノ  'i /ヽ | ヽ     |    |  /    |   丿 _/  /     丿
  'ノ  .. i ))  '--、_`7   ((   , 'i ノノ  ヽ
 ノ     Y  `--  "    ))  ノ ""i    ヽ
      ノヽ、       ノノ  _/   i     \
     /ヽ ヽヽ、___,;//--'";;"  ,/ヽ、    ヾヽ


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