エルフ「……妾を見るな」(126)
荷馬車に揺られながら、僕はついさっき買った芸術品を見ていた。
「……妾を見るなと言っただろう。汚らわしい」
腰まで伸びる真っ直ぐで美しい金の髪。エメラルドのような色をした、いかにも気の強そうな目。スッと筋の通った鼻。桜色の唇。滑らかで真っ白な肌。特徴的な長い耳。
そう、僕の買った芸術品とは、エルフのことである。罵詈雑言ですら、この美しい声にかかれば芸術品である。
こんな汚れきった世の中に、こんな美しい物があるなんて、世の中も捨てたものじゃないな、なんて思ってしまい、僕は思わず微笑んだ。
「……なんて気持ちの悪い笑み。鳥肌が立つわ」
この芸術品は、服を一切身につけていない。まだ膨らみかけの胸に、ほっそりとした手足、どこにも産毛すら生えていない美しい身体。まるで少女の彫刻のようだ。
それは、僕の対角で、膝を抱いて座って、こう言った。
「……妾は貴様を許さぬ」
それで結構。お前がどう思おうと、もう僕の物なんだからね。
そう言うと、悔しげに顔を歪め、下を向いた。
悔しがる表情まで完璧とは、本当に僕は良い買い物をした。
荷馬車が止まった。屋敷に着いたようだ。僕が布をかけようとすると、
「触るな!貴様のような下郎に触られるのを許す程、妾は落ちぶれてなどいない!」
僕は抵抗するそれの肩を布を持ったまま押さえつけ、耳に口を近づけた。そうして、もうお前は僕の所有物なんだ、今更抵抗しても遅いんだよ、そう囁いた。
すると、抵抗をやめて大人しくなった。それでいい。
僕はそれの肩を抱きながら、屋敷へと入っていった。
僕はまず自室へと向かった
鍵を開け、中に入り、部屋を施錠した。
まず「それ」は施錠音に驚いた後、僕の顔を睨み、そうして部屋のベッドを見ると、蒼白になって崩れ落ちた。
本当に良い反応をしてくれる。実に良い。
お前は今から僕の女だ、そう良いながら頭を撫でると、手を振り払ってこう叫んだ。
「獣!死ね!死ね!呪い殺してやる!」
どうしたんだ、そんなに興奮して。処女の癖に、これからの行為を想像して濡れているのか?笑いながらそう言うと、
「……うぅっ……お父様、お母様……助けて下さい……妾を助けてぇ……」
と、泣き出した。泣き声に快感を覚えながら、勘違いさせておくのも面白いなと思った。
芸術品を汚すなど、僕がするわけないのだから。
僕は力の入らなくなった彼女の腰に手を当て、優しく立ち上がらせた。
案の定、僕が触れると振り払おうとしたが、もう諦めたのだろうか、手を所在なさげにさまよわせた後、力なく下げた。
「せめて……せめて優しくしてくれ……えぐっ……」
さぁ、どうしようか。お前の対応次第だね。そう囁くと、身体を震わせ、屈辱に耐えるように唇を噛み締めた。
僕は、抱いている方の手とは反対の手で、彼女の唇に触れ、綺麗な口が傷つくからやめろ、そう言った。
「くっ……今からお前が汚すくせに……」
どうやら、彼女は性の知識は豊富らしい。勘違いとも気付かずどんどん妄想が加速しているようだ。
彼女から布を剥ぎ取り、ベッドに優しく横たえる。
必死に胸と股関を抑える彼女に、力を抜け。手で隠すな。そう命じると、少し迷った後、その通りにした。
一糸纏わぬ彼女は、本当に美しかった。控えめな胸についた、ぷっくらと尖った桃色の乳首が、これまで見たどんな芸術品よりも美しく、そして扇情的であった。
滑らかな肌を下っていくと、毛の生えていない恥部が目に入った。見られているのを意識してか、肉付きの良い太ももをすり合わせているのが、僕を誘っているようで、また一層僕の性欲を煽った。
「やるなら、早くしろ……そんな舐め回すように見るな……」
彼女の言葉で僕は我に返る。そうだな、それじゃあまずは、自慰をしてくれ。僕がそう静かにつげると、彼女は少し意外そうな表情を一旦見せた後、すぐに悲しそうな表情をし、それからゆっくりと頷いた。
ちょっと風呂入ってきます
書きためないから遅いけどごめんなさい
彼女は、右手を恥部にあてがうと、ゆっくりと指を動かし始めた。快感を探るようにして、手を動かす彼女の表情は、恥辱のあまり赤くなっていて、それがまた良かった。
さっき、意外そうな顔をしていたけれど、期待していたのか?唐突にそう尋ねると、彼女は身体を少し奮わせた。
「な、にを、んっ、言っている、っ…そんなわけっ、ないだろうっ」
彼女が答えると同時、彼女の恥部と手の間から、水音がし始めた。
ならば、僕が聞いた途端に、何故水音がし始めたんだろうね?さっき君がしていた、僕に犯される妄想を、また思い出して濡れてしまったんだろう?彼女を責めるように、僕は囁く。
「っ……」
淫らな音を部屋に響かせながら、恥辱の中で必死に快感を貪る彼女は、たまらなく美しく、僕を興奮させた。
彼女の手が徐々に激しさを増す。左手は胸にあてがわれ、より多くの快楽を求めて動いている。
僕に買われて、そしてその前で自慰をしている。しかも、僕に無理やり犯され、処女を失う妄想で、ね。そんなに美しいのに、お前はなんて淫らなんだろうねぇ。今も必死に手を動かして、そんなに気持ちいいのかい?
「あぁんっ……はぁっ、んぅっ!」
どうやら彼女は、自分の右手から送られてくる快感に夢中で、僕の声など聞こえていないようだ。
性的快感の中に、逃げているのだ。到底受け入れることの出来ないであろう、この現実から。
「あ、あ、い、っっっ~!」
どうやら、絶頂を迎えたようだ。強く目をつむり、絶頂で声をあげないよう、必死に我慢している。愛液に濡れた未熟な秘部が、ぬらぬらと光る右手が、僕の劣情を誘った。
どう、気持ちよかった?僕は偽りの笑みを浮かべて、彼女の頭に手を伸ばし、こう言う。
「はぁ、はぁ……頭を、触るな……」
絶頂の余韻で息を荒くし、脱力した彼女の頭を、優しく撫でる。
彼女の目を見つめると、その美しいエメラルドの瞳には、戸惑いと、恐怖が浮かんでいた。
しばらくそうしていると、恐怖に耐えきれなくなったのか、唐突に彼女は呟いた。
「これから、私を犯すのだろう……?」
震える声で、私の目を見つめながら言う彼女に、僕は何も答えず、微笑みながら、頭を優しく撫でる。
「……覚悟は出来た。だから、早く終わらせてくれ」
彼女がそう言うと、僕は手を引っ込め、微笑みを消し、立ち上がった。
お前が何を想像していたか知らないが、僕は最初から君を犯す気なんて無い。だって、君は芸術品なのだから。
僕が冷たく言い放つと、彼女は放心したように僕を見つめ、それから僕を睨んだ。
「妾を……妾を、弄んだな……?」
じゃあなんだ?本当に犯されたかったのか?
重ねてこう言うと、彼女は黙り、そして静かに泣き出した。
僕は静かに振り向くと、扉の前へ歩いていって、自室の鍵を開け、外へと出た。
僕の耳に、彼女の最後の泣き声がこびりついて、離れなかった。
僕は、使用人達に僕と彼女の分の食事を作るように命令した後、庭へと出た。
庭に置いてある鉄製の椅子に腰掛け、空を見る。夕暮れの空に、僕の心は少しも動かない。彼女を見た後では、何もかもが色褪せたように感じてしまう。
そして、今更になって、ただの芸術品を彼女と呼び始めていた自分に気づいた。
なのに、それを悪くないと思っている自分が、ただの芸術品を女として見ている自分が、たまらなく憎かった。
これでは、この汚い世界の薄汚いあいつら共と、一緒ではないか。そう呟いた。
使用人達から、夕食の準備が出来たとの報告を受け、僕は自室へと向かった。
自室の扉を開けようとすると、鍵が掛かっていたので、ノックをした。自室をノックしている自分に苦笑していると、鍵の開く音がして、彼女が顔を出した。
「……相変わらず気持ちの悪い笑みだな」
お前は買われた分際なのに、偉く生意気じゃないか。どうしてくれようか。僕が真顔でそう言うと、
「妾は芸術品なのだろう?貴様は我に傷をつけないのだろう?ならば、どう振る舞ってもよいではないか」
愛らしい顔で皮肉っぽく笑いながらそう言う彼女は、さっきまでの弱さなど、微塵も感じさせなかった。案外、図太いらしい。
まぁいい。夕飯だ。付いて来い。そう言うと、一瞬目を輝かせて喜んだ後、顔を赤らめ、先程とはうって変わり、弱々しい声でこう言った。
「ふ……服を着せてもらえぬだろうか?」
使用人に頼んで、服を持ってきてもらったところ、なんとドレスだった。何故ドレスなんだ、と問い詰めると、あんな美しいお嬢さんが貧相な格好をしているのは勿体無い、などと言ってきた。
僕は溜め息をつきながら、仕方なくそれを受け取った。
「素敵なドレスだ……」
彼女は目を輝かせながらそう言った。ちなみに、この時彼女は裸であった。
何故、と問い詰めると、
「あんなところをまじまじと見られたのだ。もう恥ずかしい所など無い」
……本当に図太いな、こいつ。
もういいから早く着ろ。そう言うと、顔を赤くし、上目遣いに僕を見ながら、
「……ひ、1人では着れない」
何故俺が使用人のようなことをしないといけないんだ。
そう言いつつ手伝ってしまったのは、早く夕食が食べたかったからで、早くも彼女に甘くなってきたわけではない。
食堂に行き、席につく。彼女は僕の目の前にいる。
赤いドレスは彼女によく似合っていたし、何より彼女自身が美しかった。
買われた時の暗い瞳はなりを潜め、次々に運ばれてくる料理に目を輝かせる彼女に、僕は目を奪われ、フォークを何度か手に突き刺しかけた。
「ここの料理は凄いな。妾はこんな美味しい料理を食べたのは初めてだ」
彼女が誉めると、使用人が皆デレデレし始めた。もう誰も僕が彼女を買い、彼女は芸術品に過ぎないのだ、ということを覚えてないらしい。また溜め息が出た。
毎日こんなに豪華な訳ではない。お前が来たから使用人達が気合いを入れただけだ。そう言おうとしたが、これを言ってしまうと、僕も彼女を認めてしまった様で癪だったので、何も言わずに黙々と手を進めた。
「非常に美味だった。みんな、ありがとう。礼を言う」
食事が終わり、彼女が満面の笑みで使用人達にこう言うと、僕が見たことの無いほどの笑顔で笑いやがった。あいつらいつか僕を裏切りそうな予感しかしない。
不機嫌になり、早足で自室に戻ろうとする僕に、彼女は弾んだ調子でこう言った。
「食後の運動に散歩などは出来ないのか?」
僕は今日何度目かわからない溜め息をつき、彼女に、付いて来い、と言った。
使用人から羽織る物を受け取り、屋敷の外に出る。ひんやりとした空気が心地いい。月の光が淡く僕を照らした。
ふと振り返って彼女を見る。 彼女は月を眺めていた。そして、静かに、一筋の涙を流していた。真っ白い彼女の肌は、淡く青に輝いていて、妖精のようだった。澄んだ瞳の中で、緑と青が複雑に混じり合い、僕の目を捉えて離さなかった。
僕がしばらく彼女に見とれていると、彼女は僕を見て、微笑んだ。僕は、その笑みを直視できずに、視線を地面へと落とした。
……何故、僕に向かって笑えるんだ。お前を僕は買って、物扱いしていて、あれだけのことをして、今も泣いていたじゃないか、なのに。
僕は吐き出すように、一気に言った。
しばらくして、彼女はぽつりと一言言った。
「妾も、な、わからんのだ、自分の気持ちが」
「妾は、一国の姫だった。お父様もお母様も、尊敬出来る素晴らしい方だった」
彼女は、ぽつり、ぽつりと話していく。僕は、彼女の言葉に耳を傾けながら、彼女の影しか見ることが出来なかった。
「妾は散歩が好きでな。夜中にお忍びで、散歩に行くのが好きだった」
楽しい思い出なのだろう、彼女の声は弾んでいる。だが、次第に、彼女の声は萎んでいく。
「妾がいつものように散歩していると、何者かが私の後ろにいてな、そうして意識を失った」
僕は、無意識に心臓の位置を押さえていた。その事に気付いて、やっと心の疼きを自覚した。
「目が覚めると、貴様と妾が荷馬車に乗っていた」
「まだ思考の働かない妾に、貴様は次々と事実を突きつけていった」
「妾は絶望した。神を呪った」
「知らない人間の男に妾を好きにされるのだと思うと、耐えきれなかった。だから、全てを諦めたつもりだった」
なのに何故。
「……何故、だろうな。お前が私を傷つけないことが、わかったからかもしれない」
そうか。そう僕は呟いた。そうして、今日は冷えそうだ。散歩はまた日を改めよう。と続けて、屋敷へと早足に帰った。
結局、彼女の顔を見ることが、出来ないままだった。
自室に戻ると、僕はベッドに倒れ込んだ。
決めたはずのことを、僕はもう破りそうになっている。そんな自分の弱さに腹が立った。
父と母に頼まれた事を守らなければならないのに、僕がこんなでは、僕を信じて逝った両親に顔向けが出来ない。
……彼女の両親からの約束は、必ず守り通す。
僕はそう決意し、微睡みのなかへと落ちていった。
「起きろ。朝だ。使用人が起こしにきているぞ」
ノックの音と、誰かの声。
体を揺さぶっている。
「起きろ。起きろ」
あぁ、お前か……?
「使用人。起きたようだ」
徐々に思考が覚醒してくる。そうして、この異常事態に気付いた。
……何で、お前が俺の隣にいるんだ。すると、さも当然と言うような表情でこう言った。
「仕方ないだろう。知ってる部屋はここしかないのだから、ここで寝るしかない」
僕は今日一回目の溜め息をつき、そして床にある赤い布の塊を見て、更にもう一回溜め息を付いた。彼女はばつの悪そうな顔をして、
「……悪い。一人で脱ぐのが難しく、少々破れた……」
一体どうすればドレスが破れるんだ…?唖然としながら僕が言う。
「勝手に破けるのだ。妾もわからぬ」
戸惑い顔で言う彼女に、……わかった。とりあえず服の着方を学ぼうか。と言い、使用人を呼ぶ。その間に、裸の彼女に布を巻いた。
僕は、僕の芸術品を独り占めにしたいのだ。使用人にだって見せる気は無い。そう、こいつは女ではなく芸術品だ!自分にそう言い聞かせながら、布を巻く。
僕が彼女に布を巻いている間、不思議そうに僕を眺めているのが印象的だった。
少しして使用人が到着し、服の着方講座が始まった。
ラーメン食うのでちょっとペース落ちます
皆さん支援ありがとうございます
その講座が終わったのは夕方だった。使用人は、服の着方を教えるのに、こんなに手間がかかるのはお嬢さん位でしょうね……なんせ一瞬でも目を離すと布一枚になってますから……と疲れ顔で言っていた。
彼女が笑顔でありがとうと言ったらそんな疲れは吹き飛んだようだったが。
そうして夕飯を食べ、その日僕は講座の疲れで寝てしまった。
寝る時に、彼女が不満そうな顔で僕を見ていた気がするが、何かあったのだろうか。
ちなみに、彼女は自室では裸になるそうで、服が着れるようになった今でも、自室(結局、彼女は僕の部屋を自室とした)では裸である。エルフは、みんなこうなのだろうか…疑問だ。
彼女が来て三日目。
「起きろ。使用人がノックしているぞ」
……おはよう。寝ぼけ眼でそう言う。
「おはよう。使用人、起きたからもういいぞ」
使用人の奴、お嬢さんが付いてるから、朝は起こさなくていいかしら、うふふ。とか言いやがった。後で減給を盾に脅してやる、と僕が呟くと、
「妾は朝の目覚めがいいからな。お前を起こすことなど朝飯前だ。だから使用人に頼む必要は無いぞ」
と言った。そういう問題じゃなく、使用人が僕達を冷やかしたことに問題があるのだが。それを言うのも気恥ずかしく、僕は、お前は裸で寝てるから早く目が覚めるのかもな、と言った。遠回しに服を着て寝ろ、と言ったつもりだったのだが、
「ならばお前も裸で寝るか?」
と、満面の笑みで言われ、僕は今日もまた朝から溜め息をついた。
僕の一日は、特に何もすることはない。
あえて言うなら、僕の仕事はたまに貴族連中から正体されるパーティーへ出席することだ。ただ、僕は貴族という奴が大嫌いなので、かなりの苦痛だ。
そして、そのパーティーという奴はかなり悪趣味なのである。僕がこの世で最も嫌悪する物だと言っても良い。
この世界には、エルフや人間の他にも、多様な種族が存在する。それぞれの種族がコミュニティを持ち、お互いに極力干渉しない。そういう暗黙の了解がある。
ただ、貴族というのは、大抵が自分は特別だ、などと思っていて、ルールは何でも破ろうとする。
そんな貴族の集まりであるパーティーは、つまるところ他種族の者が見せ物にされるのだ。残虐かつ冷酷な方法で。
今日は昼間から、そのパーティーをやるらしい。僕にも以前に招待状が来ていた。
僕は、彼女が自室にいる間に、使用人にその旨を伝えた。彼女には、僕は仕事で出かけたと言っておいてくれ、そう言って、僕は荷馬車に乗って出かけた。
しばらくして、荷馬車が止まる。降りると、かなり大きな屋敷が見えた。
ようこそいらっしゃいました、どうぞ中へ。入り口の前に立っていた、やたら香水をつけまくった厚化粧の女が、僕を案内する。
扉を空けると、中にいた二十人ばかりの人々が皆僕を見て、僕の方へ我先にと早足にやって来た。
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