穏乃「私はニワカになりたい」(138)
穏乃「最初にその人に出会ったのはいつかのコンビニで……」カタカタ
穏乃「棚からパンを取るその人の指先がやけに印象的で、思わず惚けてしまった。私のマメだらけの指とは違う白牌のような綺麗な指先で……」カタカタ
穏乃「見惚れる私にその人はどしたーって悪戯っぽく微笑んでくれたっけ……」カタカタ
穏乃「今思えば私の恋はそこから始まってたのかもしれない……っと」カタカタターン
穏乃「ふぅ……」
憧「しずー?また携帯弄って……何してんの?」
穏乃「えっと……ちょっと、ね……」アセアセ
憧「ふぅん……」
穏乃「憧はさ……好きな人がどこか遠くに行っちゃったらさ……どうする?」
憧「えっ?」
憧「……私はその人を追いかけるかな?だって、好きで好きで仕様がないならさ、離ればなれになるのなんて嫌じゃん」
穏乃「……それが出来たらどれだけ楽か」ボソッ
憧「え……?」
穏乃「や、何でもない」
穏乃「じゃあさ、その人にもしもついてくるなーって言われたら?」
憧「そうねぇ……それでも私はついていくよ」
穏乃「ホントに……?」
憧「うん……好きなんだもん。例え嫌われたって傍にいたい。いさせて欲しいよ」
穏乃「そっか……」
憧「しず……?」
穏乃「憧、実はね……私、恋しちゃってるみたい」
憧「知ってるよ」
穏乃「えっ?」
憧「アンタとどれだけの付き合いだと思ってんの?友達だもん、何となく気づいてたよ」
憧「んで?相手は?しずってば2年になってから元気なかったから卒業生かな?」
穏乃「……当り。憧に隠し事は出来そうにないね」ハハ
憧「卒業生かぁ~もしかして宥姉?」
穏乃「違うよ」
憧「宥姉じゃないとすると他には……」
穏乃「……やえさん」
憧「……誰?」
穏乃「晩成高校の小走やえさん」
なんかやけに重いんだが……
憧「晩成高校……?うちらが去年県予選1回戦で戦った?」
穏乃「そそ」
憧「そこの先鋒がしずとなんか接点あったっけ?」
穏乃「憧はさ、県予選前に晩成の子と会ったの覚えてない?」
憧「あぁ、あの時ね」
穏乃「そこで私が一目惚れ」
憧「流石の私でもそれには気づかんかったわ……」
穏乃「えへへ」
穏乃「でね、うちらが晩成に勝った後、廊下で偶然見かけてね」
憧「しずがトイレに行った時かな?私が知らんのも無理ないや」
穏乃「やえさんは泣きじゃくる後輩の子を優しく抱き締めてたんだぁ。当の本人は最後の大会だっていうのにだよ?」
穏乃「そんなの見てたらなんか気になっちゃってね、思わずやえさんが一人になるのを窺ってたの。なんか話がしてみたくなって」
憧「戻ってくるのが遅いと思ってたらそんなことしてたんか……」
穏乃「しばらくしてやえさんが一人でトイレに行ったから後をつけたの。そしたらね……」
穏乃「後ろから声かけられたの!どしたーって。後ろからつけてたはずなのに」
憧「何者だよその人……」
穏乃「え……えぇ!?」
やえ「驚くなよ……君は私に用があってつけてたんだろ?」
穏乃「バ、バレてたんですか……」
やえ「そりゃあね……私の風上に立ってた、足音を殺してない、気配も殺してない……満貫だよニワカが」
穏乃「……って、私のことに気づいてくれたんだぁ」
憧「なにそれ格好いい」
穏乃「やえさんは私に怒ることなく笑ってくれたんだけどね……」
やえ「君、確か阿知賀の子だろ?」
穏乃「どうしてそれを……」
やえ「どうしてって……ついさっき戦ったばかりじゃないか」
穏乃「あはは……それもそうでした」
やえ「それにね……」
穏乃「それに?」
やえ「君の指はよく覚えてるよ。ほら、このマメ……麻雀を愛してる証拠だ」
穏乃「……って、私の手を握ってくれたの!」
憧「ぐぬぬ」
穏乃「やえさんに手を握られて恥ずかしくなっちゃってね、思わず逃げちゃったの」
憧「なんというやり手」
穏乃「その次に会ったのはインハイ後だったかな?インハイお疲れ様でした~ってことで憧と遊びに行ったじゃん?あの時」
憧「あの時か!しずが待ち合わせに1時間遅れたあの時か!私は1時間前から待ってたのに……」
穏乃「待ち合わせの場所に走ってたら、偶然曲がり角でやえさんとぶつかっちゃって……」
穏乃「うわうわ……やばいやばい……憧との待ち合わせに完全に遅刻だよ~」ドンッ
穏乃「わっ……」
やえ「っと、気を付けなよニワカが」
穏乃「やえさんってば倒れそうになった私を優しく抱き止めてくれたの!」
憧(か、勝てる気がしない……)
穏乃「あぅ……すみません……」ドキドキ
やえ「君は……阿知賀の……」
穏乃「って、やえさん!?」
やえ「ふふ、偶然だね」
穏乃「それからかな?ちょくちょくやえさんと会うようになったのは」
憧「店の手伝いあるから、って部室に顔出さなくなったんじゃなかったの!?」
穏乃「えへへ」
やえ「また来たの?」
穏乃「えへへ……だってやえさんといたら麻雀強くなれそうで」
やえ「ニワカにしては殊勝な心掛けだな。おねえさんは気に入った!」
穏乃「やえさん……」
やえ「ニワカには見えん地平もある……私がお前をニワカから卒業させてやろう。ついてくるか?高鴨」
穏乃「はいっ!」
穏乃「そう言ってやえさんは私に手を差し伸べてくれたの」
憧「くっ……無駄に格好いいのが腹立つな」
穏乃「ニワカを正してやるのが王者としての使命だ、ってやえさんと全国各地にいるニワカと会いに行ってね」
穏乃「ホント、色んな人と会ってきたな……長野のぐう畜を懲らしめてきたり、鹿児島のニワカ巫女を懲らしめてきたり、大阪のニワカに会いに行ったら色んな意味で力尽きたり、長野にもう一度行ったら力尽きたり……」
憧「や、後半なんかおかしいけど」
穏乃「気にするなよ。これだからニワカは」
憧「」
やえ「長野に槓を多用するニワカがいると聞いて」
やえ「長野に槓を多用するニワカがいると聞いて」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1343460332/)
やえ「鹿児島に対局中に居眠りするニワカがいると聞いて」
やえ「鹿児島に対局中に居眠りするニワカがいると聞いて」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1343551195/)
これか
やえ「長野に残り1巡でツモ切りリーチするニワカがいると聞いて」
hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/.../l50
これを覚えてる人は少なそう
穏乃「えっ……海外ですか?」
やえ「あぁ、この国だけじゃあない。外国にも私を待ってるニワカがいるからな」
穏乃「やえさん……」
やえ「私は卒業したら海外に留学するつもりだ。高鴨、お前はどうする?私と来るか、ここに残るか」
穏乃「私は……」
穏乃「私は何も答えられなかった。だって、海外に行ったら憧とも玄さんとも離ればなれになっちゃうんだもん」
憧「しず……」
やえ「結局、答えは出せなかったかようだな……」
穏乃「はい……」
やえ「お前とならどこまでも行けると思ったんだがな……」
穏乃「ごめん……なさい……」グスッ
やえ「泣くなよ……私まで悲しくなる」
穏乃「だって……やえさん……」
やえ「ま、心配しなさんな。約束する、4年で帰ってくるよ」
穏乃「ホント……ですか……?」
やえ「ああ!高鴨、それまでこの国はお前に任せたぞ」
穏乃「おまかせあれ!」
穏乃「でもね、やっぱり後悔してるかも……やえさんと会えなくなってから、なんか胸にぽっかり穴が開いた感じ」
穏乃「ねぇ、憧……私はどうしたらいいと思う?好きな人が遠くに行っちゃって……今すぐにでも追いかけたい。でも、その人にこの国を任されちゃって」
穏乃「私、ニワカだからどうしたらいいのか全然分かんなくて……」
穏乃「誰もがやえさんがいたことを忘れないように、って携帯小説書いてても虚しくて……」
憧「しず……」
穏乃「憧はそれでも会いに行くって言える?」
憧「……言えるよ。好きな人を追っかけて今の生活を捨てて海外へ……なーんて馬鹿らしいと思うけどさ、恋しちゃったんでしょ?少しくらい馬鹿になってもいいんじゃないかな?」
憧「それに、今のしず見てらんないもん。迷って、泣いて、落ち込んで……らしくないよ」
憧「何もしないで後悔するより、何かしてから後悔した方がしずらしいと思う」
穏乃「憧……ありがと……」
憧「いってらっしゃい……しず……」
穏乃「うんっ!」
「おまたせっ!」
穏乃「や、やえさん!?」
やえ「どしたー?」
穏乃「何で……どうして……」
やえ「あぁ、あれか?私が世界のニワカを正すのに4年もかかると本気で思っていたのか?」
穏乃「え……?」
やえ「私を誰だと思ってるんだ?4年もかかる訳がないだろ……4ヶ月でお釣りがくる」
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