やえ「長野に槓を多用するニワカがいると聞いて」(206)

やえ「それは本当の話か?」

穏乃「そうなんですよ、やえさん。インハイの決勝で私が当たった相手なんですけど……」

やえ「あーあれか。対局中に服を脱ぎ出す子か」

穏乃「空気読まずに槓を連発するわ、全裸になるわで流石の私も苦笑いでした。あれはニワカに違いないです」

やえ「そこにニワカがいるなら正してやらんとな。王者の勤めだ」

穏乃「ってことは……」

やえ「今から長野へ発つ!高鴨、30秒で支度しな」

穏乃「はいっ!」

穏乃「……でもその子、ニワカの癖にやたら強いんですよ」

やえ「まー心配しなさんな……私は小三の頃からマメすら出来ない……ニワカは相手にならんよ!」

穏乃「やえさん……///」

穏乃(あれ?マメの話と強さの話って関係なくね?)

やえ「ふふ」

穏乃「いつの間にか長野に着いちゃいましたね」

やえ「ふふ、王者の歩法は世界を縮めるからね。私にかかれば長野なんて5分で着ける」

穏乃「いつの間にか大所帯になっちゃいましたね」

やえ「王者が歩けば民が追従する……そういうもんさね」

穏乃「やえさん……///」

やえ「ふふ」


\ニワカ!/\ニワカ!/\ニワカ!/

穏乃「やえさん、ここがニワカ高校です」

やえ「へぇ、初めて来たけど中々いいとこじゃないの」

穏乃「とりあえず麻雀部に行ってみます?」

やえ「そうさね……」

穏乃(すごい……やえさんが敷地に足を踏み入れた瞬間、生徒たちがひれ伏して道が出来た……)

やえ「さぁ、行こうか」

穏乃「はいっ!」

穏乃「やえさん、どうやらここが麻雀部のようです」

やえ「ふふ、ニワカの匂いがするね」

穏乃「たのもー」

久「あら?お客さん?」

やえ「ここに槓を多用するニワカがいると聞いてね」

久「ニワカかどうかは知らないけど心当たりはあるわ。今、ちょうど打ってるところよ」

やえ「高鴨、どの子がニワカ?」

穏乃「奥の子です。名前は……」

穏乃(同い年……何て言ったっけ?……名前……確か――)

穏乃「ニワカです」

やえ「名前までニワカとはね……ふふ、確かにニワカに相応しい名だな」

久「しかしすごい人数ね……」

穏乃「やえさんが歩けば着いていかずにはいられませんからね。必然というものです」

やえ「おい、花田。お前から見て奥の子はどう見える?」

煌「すば……ニワカです」

やえ「そう、その通りだ。ふふ、あーっはっはっはぁ」

和(何なんでしょうかこの人たちは……)

まこ(迷惑じゃのぅ……)

優希(迷惑だじぇ……)

久「終わったみたいね。咲、あなたにお客さんみたい」

咲「お客さん……ですか……?」

やえ「君がニワカか。ふふ、君と打ってみたくて奈良から来たんだ」

咲「はぁ……」

やえ「どうだろうか?」

咲「いいですよ……私でよければ。でも、私と打った子は皆……」

咲「この世の終わりを向かえるような顔をするんです……」

やえ「ふふ、それは楽しみだ」

咲「面子はどうします?」

やえ「そうさね……途中でハコられても興醒めだ。おい、花田」

煌「ニワカッ!」

やえ「後一人は……」

「私が入ろう」

やえ「ほぅ……」

咲「お、お姉ちゃん!?」

咲「どうしてここに……?」

照「咲ちゃんにペロペロ出来ると聞いて」

咲「」

やえ「インハイチャンピオンを呼んだ覚えはないが……まぁいい、どうやらニワカではなさそうだ」

やえ「闘牌開始だ」


\ニワカ!/\ニワカ!/\ニワカ!/

やえ「ふふ、私が起家か……」

照「………」

咲「………」

煌「ニワカッ!」

やえ「王者らしくリーチといこうか」

穏乃「でたー!やえさんのダブリー」

やえ「サービスだ。リー棒をいつもより多めに回しておいた」

照「………」チャッ

咲「………」タンッ

煌「ニワカッ!」タンッ

やえ「ツモだ。6000通し」

やえ「一本場だ」

やえ(ふふ、またしても良形の5面張か)

やえ「お見せしよう。王者の打ち筋を!」

咲「槓……」

穏乃(親のダブリーに大明槓!?)

やえ「ニワカめ……」

煌「ニワカッ!」

咲「ツモ。嶺上開花赤3……8000です」

咲「槓……もいっこ槓!」

咲「ポン!」

咲「もいっこ槓!」

やえ「ふふ、本当に槓ばかりするんだね」

煌「ニワカッ!」

穏乃「ニワカですね」

照「………」

照「ツモドラ7。8000・4000」

穏乃(チャンピオンは確か打点を上げていくような打ち手だった……)

穏乃(つまり次は倍満以上!?)

やえ「ふふ、なるほどね」

穏乃(はっ……もしかしてあのニワカはわざとチャンピオンに槓ドラを……?)

穏乃(やえさんに直接負けたらニワカと認めるようなもの。しかし、チャンピオンの圧勝で終わったとしたら?やえさんとニワカの勝負はうやむやになってしまう……)

穏乃「汚ないなさすがニワカきたない」

照「リーチ」

穏乃(チャンピオンのリーチ……この早い巡目でもう倍満以上を仕上げたのか!?)

穏乃「やえさん……」

やえ「ふふ、心配しなさんな……私を誰だと思ってる」

\ニワカ!/\ニワカ!/\ニワカ!/

やえ「おい、ニワカ」

咲「……?」

やえ「王者の槓というものを見せてやろう」

やえ「確かにチャンピオンは高い手を張っているようだ。しかも親で」

やえ「だが、その手も和了れなければ意味がない」

やえ「槓……っ!」ゴッ

咲「……!」

照「………」

やえ「ふふ、もういっこ槓」ゴッ

やえ「これでチャンピオンの手は死んだ。純カラというやつだ」

穏乃「流石やえさん!」

\ニワカ!/\ニワカ!/\ニワカ!/

照「くっ……」

やえ「やはりチャンピオンと言えどニワカだな。槓――」

やえ「ツモ!嶺上開花三槓子ドラ4……跳満」

やえ「どうだ?これが王者だ」

やえ「ニワカには分からんと思うがな……くくっ、あーっはっはっはぁ」

咲「………」ゴゴゴ

咲「」ヌギヌギ

穏乃(ニワカが脱ぎ始めた……)

やえ「ほう……」

穏乃(ここからだ……ここから始まる。インハイ決勝の時に見た――)

照(咲ちゃんのストリップショーが!)

穏乃(嶺上開花の嵐が!)

久(小走やえって言ったかしら……あの子も運がないわね)

久(あの子は咲の領域を侵した。咲は自分以外の者が槓をするのを極端に嫌っている)

久(また潰すのね。靖子とマホちゃんが牌を持てなくなった時のように……)

やえ「ふふ、ここからが本番ということか」

咲「………」ゴゴゴ

やえ(しかしニワカには負けてやれんよ)

やえ「王者リーチ!」

咲「いいんですか?それ、生牌ですよ?」

やえ(っ……しまった――)

咲「槓……」

咲「もいっこ槓!もいっこ槓!もいっこ槓!」ゴッゴッゴッ

咲「ツモ。四槓子……32000です」

穏乃「やえさん……」

やえ「心配しなさんな。まだ南入したところだ……」

穏乃「やえさん!」

やえ「まだ親が残ってる……王者がニワカに勝つには充分すぎるさ」

咲「ところがどっこい!嶺上ツモ……8000・4000です」

やえ「なっ……」

穏乃「やえさんの最後の親が……」

穏乃(正直、これは厳しい……)

穏乃(この時点で二人の差は7万点以上……もう親が残ってないのにこの点差をひっくり返すなんてことは……)

穏乃(……でも!)

穏乃「やえさんなら……やえさんならきっと!」

「ニワカッ!」

「ニワカだし!」

「ニワカだじぇ!」

「ニワカですよー!」


\ニワカ!/\ニワカ!/\ニワカ!/


穏乃(聞こえますか?やえさん……この歓声が……)

穏乃(皆、やえさんのことが大好きなんです。だから……だから――)

穏乃「ニワカッ!ニワカッ!ニワカッ!」

やえ「ふふっ」

やえ「ふふ、まさかニワカ相手にここまで苦戦するとはね」

咲「………」

やえ「『ニワカに負けられない』、『後ろの声援に応えなければならない』ってのは王者の辛いところだな……覚悟はいいか?私は出来てる」

やえ「お見せしよう!王者の打ち筋をッ!!」

やえ「ふふ、それロンだ。3200」

咲「……!?」

咲(この局面で安手?……いや、聴牌気配すらしてなかったはずなのに、どうして?どうして直撃されたの?)

穏乃(後ろから見てた私でも分からなかった……)

穏乃(やえさんはまだ2向聴だったはずなのに……)

穏乃(一体、何をしたんだ?)

やえ「ふふっ」

やえ「リーチ……」

穏乃(なっ……ここに来てこんなことするなんて……)

穏乃(何かのミスか?いや、それとも何か別の狙いか?)

穏乃(ニワカの私には正直分からない……)

穏乃(何が目的なんだ?このノーテンリーチ……)

やえ「高鴨、心配しなさんな……晩成のツバメは――」

やえ「目にも映らぬ速さで天を舞う」

咲(安牌……)タンッ

照「………」チャッ

煌「ニワカッ!」タンッ

やえ「槓……」

咲「なっ……」

穏乃(嶺上開花じゃないのか……)

咲(安牌なしか……)チラッ

咲(槓材の北はニワカ先輩の山にいる……ならこれは通る!)

やえ「ロン!」

やえ「リーチ裏1……3900」

咲(……また直撃!?)

穏乃(やえさん、すごい!)

穏乃(あのリーチ棒の回転が生み出す上昇気流によって他家の視界をほんの一瞬奪い、その隙をついての燕返し!)

穏乃(全自動卓で、しかも局の途中で燕返しなんて常人の発想の外……っ!)

穏乃(だが、裏を返せばそっくりそのままそれは付け入る隙となる……)

穏乃(事実、あのニワカは振り込んで信じられないって顔をしている……)

穏乃(この勝負、まだ分からない!)

やえ「さぁ、オーラスだ!」

穏乃(やえさんとニワカの点差は5万点と少し……役満直撃するしかない)

穏乃(やえさん、私たちニワカに見せてやってください。王者の打ち筋を!)

やえ「………」

咲(役満直撃以外逆転はない……なら縦に伸ばすことは止めておこう)

やえ「ふふっ」

14巡目――


穏乃(あれ?やえさんの河に所々血が……)

穏乃(マメすら出来ないやえさんが対局中にどうして……?)

やえ「くっ……」ギッ

穏乃(まただ……また血が……)

穏乃(……!?よく見たらやえさんの指、血だらけじゃないか!)

咲(ニワカ先輩の指……血で染まってた……)

咲(あれは一体……)


穏乃(やえさんの狙いは国士無双……)

穏乃(けど、もう……)

穏乃(河に白と中が4枚ずつ見えている……和了れる可能性は全くない……0……絶無……っ!)

穏乃(やえさん……!)

やえ「高鴨……何度も言ってるだろ?心配しなさんな、って」

やえ「まだだ!まだ終わらんよ!」

やえ「王者リーチ!」

穏乃「やえさん!」


\ニワカ!/\ニワカ!/\ニワカ!/

咲(ここでリーチ……?)

咲(河に白と中が4枚ずつ見えてる……西は私が槓子で抱えている。国士は有り得ない……)

咲「麻雀って……楽しいよね。必死で追い上げてくる相手を絶望させるのがホント楽しいよ」

穏乃(………?)

咲「私から和了れなければ逆転はない。だから――オリる」

咲(西の槓子落とし……これで終局まで凌ぐ……!)

やえ「ロン!」

咲「えっ……?」

やえ「ふふ、有り得ないって顔してるな……」

やえ「だが、有り得ないこと理不尽なことが起こるのが麻雀。それも分からん内はまだまだニワカだ……」

やえ「国士無双!32000!」

咲(5枚目の白と中!?)

咲(まさか……っ!?)

穏乃(そう……その白と中はやえさんが自らの身体を血に染めてまで造り出したものだ)

穏乃(牌の表面を削り、字を彫り込むだけじゃやえさんの指には傷すら出来ない……しかし、それでは中は造れない)

穏乃(だから敢えて自分の指に傷をつけた……!あの綺麗な指が自慢のやえさんが指に傷をつけたんだ……ニワカがどう足掻こうが勝てるわけがない……っ!)

やえ「ふふ、終局だ」

やえ「まぁ、ニワカにしてはよく頑張ったよ。しかし、±0に縛られているようじゃまだまだニワカだ」

咲「………」

やえ「ニワカは相手にならんよ!」

穏乃「ニッワッカッ!ニッワッカッ!ニッワッカッ!」


\ニッワッカッ!/\ニッワッカッ!/\ニッワッカッ!/


やえ「もう一度言ってやろう。ニワカは相手にならんよ!」

最終的な収支

ニワカ先輩:40800(+31)
咲:30200(±0)
照:18000(-12)
すばらっ!:11000(-19)

咲「負けちゃったか……」

照「咲ちゃん……ごめんね。お姉ちゃん、途中から流れを奪われて置物になってた」

咲「ううん、お姉ちゃんの所為で負けた訳じゃないから……」

照「咲ちゃん……」

咲「そもそもお姉ちゃんには期待すらしてなかったから」ニコッ

久「咲、悔しい?」

咲「部長……居たんですか……?」

咲「悔しいかどうかは分かりませんが次があるなら――」

咲「徹底的に叩き潰したいですね」ニコッ

やえ「これであの子も勝つ為の麻雀を始めれば……」

穏乃「ニワカ卒業ですか?」

やえ「いや、ニワカのままだよ」

やえ「なぁ、高鴨……」

穏乃「何ですか?やえさん」

やえ「……次はどんなニワカを探そうか」


槓!

ニワカ先輩が途中で飛んでるってことは無いです。ニワカ先輩が役満直撃された時は1700程残ってました。
途中で7万点差以上と書きましたがあれはミスです。

どうでもいい話ですか。そうですか

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