やえ「晩成は毎年、県大会の前に修学旅行というスケジュールになっているわね」
良子「そうだな」
日菜「そのせいで麻雀部の三年生は毎年修学旅行に参加していないのよねー」
紀子「……常勝を義務付けられる宿命故に、調整が優先されるのは仕方の無いことであろう」
やえ「そう」
やえ「我々晩成に負けは許されない。だからこそ修学旅行というイベントも調整の時間に充て、結果として毎年のようにインターハイ出場を果たしてきたわけだけど」
やえ「……今年の方針は例年と違う」
良子「どういうことだ?」
やえ「結論から言うと、今年は麻雀部も修学旅行に参加する」
良子「何?」
紀子「……」
日菜「ほー」
やえ「理由は、遠隔地への移動を利用した対外試合を行うため。つまり、修学旅行を使って遠征をするということね」
良子「なんとまあ……監督も凄いこと考えたな」
紀子「……確かに、普段手合わせ出来ない強豪との試合によって調整を行うという意味では良い手法と言える」
日菜「旅行にも参加出来て一石二鳥ねー」
やえ「ということで今年の修学旅行に関しては、レギュラー補欠とも三年生は例年と違って基本的に強制参加となるので気を付けること」
良子「了解。まあ麻雀部にいながら修学旅行に参加出来るなんてそうそう無いことだしな、かつての先輩方には悪いがきっちり楽しませて貰うかね」
紀子「……かつ、対外試合で充分な調整をし手応えを得る」
良子「もちろん。本分はきっちり押さえなきゃな。しかし楽しみだぜ」
紀子「……行き先は、どこだ」
良子「ん、そういやわからないな。修学旅行には参加しないものと考えてたからなんの話も聞いてねえ……」
日菜「確か……沖縄ねー」
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やえ「そう。行き先は沖縄」
やえ「そして今回試合を了承してくれた相手は、真嘉比高校」
良子「真嘉比高校……」
やえ「昨年個人戦6位の実績がある銘苅選手のいる高校。総合力もあり、位置付けとしては強豪クラスと言えるわ」
紀子「相手にとって不足は無い、ということか……」
やえ「そうね。こちらとしても他県の強豪と打つ機会はそうそう取れないから、価値ある場になると思う」
日菜「がぜん気合いが入るねー♪」
やえ「そしてメンバーについてだけど、三年生以外からひとり、由華を連れていくことになっているわ」
良子「そうか。まあ団体戦のメンバーだし、参加した方が良いことは間違いないしな。しかし授業はどうするんだ?」
やえ「部活の遠征という名目で参加して貰うから、学校側としても問題はないそうよ」
良子「流石の麻雀部権力だな……」
やえ「といっても麻雀部が真嘉比高校に行くのは先方の授業が終わった後。それまで私達は修学旅行のスケジュールをこなすけど、由華は引率の先生とホテルで補習することになっているらしいわ」
日菜「そのあたりはしっかりしているわねー」
やえ「そうね。まあ私達と一緒に観光するわけにはいかないんでしょう。二年生だし」
日菜「そうだよねー」
日菜「……もしかして、くやしい?」
やえ「!?なっ……何が?」
日菜「なんでもー♪」
やえ「……ま、まあいいわ。とにかくこの事は私から由華に伝えるから。詳しい日程は決定したらまた連絡します。三年生のミーティングは以上!」
一同「おつかれさまでしたー」
すみません、今日はこれで止めます
続きは明日以降書きます
ーー
「おつかれさまでしたー」
「おつかれさまでしたー」
由華「お疲れ様でしたー!」
由華「……ふう。今日は良い打ち回しが出来たな……」
やえ「由華」チョイチョイ
由華「は、はいっ!」タタッ
由華「どうしたんですか?」
やえ「今度、三年生は修学旅行があるでしょう?」
由華「は、はい。そうですね」
由華(なんだろう、麻雀部は修学旅行には参加しない筈だけど……)
由華(やっぱり最後だし、やえ先輩は行くことにしたのかな)
由華(ま、まさか、お土産を買ってきてくれるとか!?)ドキドキ
やえ「実は……」
ーー
由華「……そうなんですね」
やえ「うん。下級生の全員には監督から後で話をすることになってるけど、由華には先に伝えておこうと思って」
やえ「他県の強豪と打てる良い機会だわ。先生とマンツーマンの補習は辛いかも知れないけど、頑張りましょう」
由華「そっ、そうですね!頑張りましょう」
由華「……」
由華「……先輩」
やえ「ん?」
由華「……楽しみですね」
やえ「!……あ、ああ、そうね。良い調整をしたいものね」
由華「……はい」
やえ「そ、それじゃあまた明日」ソソクサ
由華「はい。お疲れ様でした」
…………
……
…
由華「……」
由華「一緒の旅行に参加……」
由華「自由時間とか、あるかな……」
由華「へ、部屋割りとか、どうなるんだろう……」ドキドキ
由華「……」
由華「…」
由華「……よしっ」
由華「がんばる!」ゴッ
ーー
やえ「……」スタスタ
やえ「……由華ったら」
やえ「遊びに行くんじゃないんだからた、楽しみだなんて、そんな……」
やえ「そんな……」スタスタスタ
ーー
良子「おぉぉ、着いたぜ沖縄!」
日菜「陽射しが強いねー♪」
紀子「……昂る」
やえ「みんな、集まって」
一同「はい」ササッ
やえ「今日から4日間、修学旅行が始まります。ここで日程を確認しておきます」
やえ「我々麻雀部は、まず初日の水曜日から三日目の金曜日まで午前中は貸しスペースを利用して部員内での練習。それから午後過ぎ頃に真嘉比高校へ移動しての対外試合となります。試合後はホテルに戻って一般生徒と合流します」
良子「そう、この日程な。してやられたぜ」
日菜「完全に麻雀漬けの生活だものねー」
良子「試合以外は普通に観光させてくれるんじゃなかったのかよ……」
紀子「仕方あるまい。本来の目的である、ということだ」
良子「お前はけっこうやる気だな……まあもちろんそこに関しちゃ心得てるがな」
日菜「そうなると、最終日が重要よねー」
やえ「そして最終日の土曜日は一般生徒と同様、自由時間となります」
良子「この自由時間が唯一の救いだな。監督が鬼から人間になってくれた瞬間だ」
日菜「いろんなところ行きたいねー」
良子「そうだな」
日菜「のりちゃんは行ってみたいところある?」
紀子「わ、私は……」
紀子「……どのような所が楽しめるか判っていない故に、案内して欲しい……」
日菜「ふふっ、じゃあわたしがはりきっちゃおうかなー」
日菜「と言っても、わたしも沖縄は初めてなんだけどね。まあみんなで楽しみましょー」
やえ「そして二年生からひとり、由華が参加しています」
やえ「由華は初日から三日目まで我々と違い、真嘉比高校に移動するまで補習となっています」
やえ「最終日も空港へ移動するまでは補習となります」
良子「本当かわいそうだぜ……見ろよあの顔」
由華「……」
日菜「明らかにテンションが低いわねー」
良子「真嘉比に行くまでの練習くらい参加させてやりゃあいいのに」
日菜「いくら部活の遠征という名目とはいえ、由華ちゃんはわたしたちと違って本来授業を受けていなきゃいけない身だからねー……確かに可哀想だけどね」
紀子「遠征という目的は対外試合によって果たしているという言い分だ。我々晩成の厳しさが窺える」
良子「それで三日間で足りてない時間を最終日を使ってまで埋めるってか。ひどい話だ」
紀子「……しかし真嘉比高校との試合に巽も参加出来るという事は、大きな意味がある」
日菜「そうね。わたしたちでどうにかフォローしましょう」
やえ「由華は辛い立場になる。みんなでフォローしましょう」
紀子「……流石小走」
日菜「やえちゃんが考えているなら大丈夫かしらねー。まあ気にかけるのは当然かしら」
紀子「小走も内心悔しいだろう」
良子「意味深な言い方をするな……」
やえ「以上です。体調に気をつけて頑張りましょう」
一同「がんばりましょうー」
今日はここで止めます
続きは明日以降書きます
ーー
先生「それでは一日目、数学の補習を始めます。頑張りましょうね」
由華「はい。宜しくお願いします」
由華(はぁ……)
由華(そんなに高望みしたわけじゃないけど……この状況はちょっとこたえるな……)
由華(頑張るしか無いのは分かるんだけど、身が入らない……)
由華(……でも)
由華(やえ先輩のひとこと、嬉しかったな……)
由華(……)ポー
先生「ではこの問題、分かりますか?」
由華「えっ?あっ、はい!えっと……」アセアセ
ーー
やえ「ツモ」
紀子「……速い」
良子「やるな。なかなか好調じゃないか」
日菜「今日の試合は良い感じに入っていけそうねー」
やえ「……こんなところね」
やえ「そろそろ出発の準備をしましょう」
一同「はい!」ガチャガチャ
やえ「良子、私は由華を呼んでくる。暫くよろしく」
良子「ああ、任せとけ」
やえ「ありがとう」
やえ「さて……」スタスタスタ
ーー
コンコン
やえ「失礼します」ガチャ
由華(……やえ先輩!)
先生「あら、小走さん」
やえ「先生。そろそろ出発のお時間ですので、巽を迎えに来ました」
先生「そう。頑張ってらっしゃいね」
やえ「ありがとうございます」
やえ「由華、行こう」
由華「はいっ!」
やえ「」スタスタスタ
やえ「……ど、どう?補習のほうは」
由華「辛いです、先生と二人きりっていうのが息苦しくてやりにくいですね」
やえ「うん、そうよね……」
由華「……やえ先輩は、練習どうでした?」
やえ「うん、調子は良いみたい。今日は苦戦が予想されるけど、これなら気後れせずに戦えそうだわ」
由華「そうですか。良かったです!」
やえ「うん……」
やえ「……由華」
由華「はい」
やえ「真嘉比高校は、全国に行くならどこかで当たる相手のはず。大将を務める由華がこの試合に参加出来るということは、非常に大きな意味があるわ」
由華「……」
やえ「補習ばかりで、とても苦しいとは思う。でも由華は大事な戦力だから、どうか気持ちを切らすことなく試合に臨んで欲しい」
やえ「……た、頼りにしてるから」
由華「……はいっ!がんばります!」パァァァ
……
…
良子「おっ、来たか」
やえ「おまたせ」
やえ「では、真嘉比高校に出発しましょう」
一同「はいっ!」
「」ワイワイ
「あい、バスが来た!」
「あれ、今日の相手の高校やんに(じゃないか)?」
「名前なんだっけ、確か……」
「はんせい高校?」
「何を反省するから(するねん)!」
「強いとこなんでょーね(なんだよね)、大丈夫かな……」
「まあ、ひーじー(大丈夫)でしょ?メカルがいるし」
「そうでょーね(そうだよね)」
ーー
ザッ
良子「ここが真嘉比高校か」
紀子「……平日だけあって他の生徒もまだ大勢いるな」
日菜「なんだかジロジロ見られて恥ずかしいわねー」
由華「……やっぱり、緊張しますね」
やえ「そうね……」
やえ「……ん?」
??「こんにちは」ザッ
??「ようこそ真嘉比高校へ!」
やえ「こんにちは」
やえ「晩成高校の小走やえと申します……あなたは?」
銘苅「あたしは銘苅!ふつうにメカルって呼んでくれていいよー、みんなそう呼んでるし」
やえ「そっ、そうですか……」
銘苅「まあまあ同じ高校生同士なんだし固いのは抜きってことで!じゃああたしは「やーえー」って呼ぶからさ!よろしくね♪」
由華「!」
やえ「えっ?あっ、あぁ……わかったわ、これから三日間お世話になるし、固い感じは無しでいきましょう。よろしくね、メカル」
銘苅「うん!よろしくー」
由華(な、なに?このヒト……)
由華(やえ先輩をいきなり下の名前で呼ぶなんて……私はすごく苦労したのに……)
由華(それに、あっさりとこんなに仲良さげに……)ワナワナ
日菜「由華ちゃんおちついてー」
由華「へっ!?ひ、日菜先輩……」
由華「わ、私は別に、いつも通りですよ……」
日菜「まあまあー。確かにやえちゃんはみんなに好かれやすい空気みたいなものがあるけれども」
日菜「あのメカルさんは、なんだか人になつきやすい雰囲気があるわねー」
由華「合わさったら大変じゃないですか……」
日菜「だいじょうぶ、やえちゃんは由華ちゃんをないがしろになんかしないわよー」
由華「そうであれば嬉しいですが……」
銘苅「じゃあさっそくやりますか!卓はこっちだから、ついてきてー」
やえ「わかった。みんな、行こう」
一同「はいっ!」ゾロゾロ
ーー
銘苅「さてっ!早速始めますかー」
銘苅「とりあえずこっち二人、そっち二人の形式で行こうかね」
やえ「そうね」
やえ「じゃあ、最初は私と……由華、行ける?」
由華「……はいっ!」
やえ「よし」
良子「まずは頼むぜ」
日菜「がんばってー」
紀子「……」
やえ「宜しくお願いします」
由華「よろしくお願いします!」
銘苅「こちらこそー!」
カチッ
タンッ
パシッ
……
…
やえ(5順目でこの手……いける)
「ツモ!」
やえ「えっ」
銘苅「6000オール!」
やえ(これは……)
由華(速い……!)
良子「やるな……」
紀子「……流石に、昨年個人戦6位の実力者。これまで見てきた相手とは質が違うようだ」
日菜「大丈夫かしら……」
やえ(さすが全国区の選手……そう簡単には上がらせて貰えないか)
やえ(……でも)
やえ「リーチ!」
銘苅「おぉっ」
由華(やえ先輩も速い!)
チャッ
パシッ
タンッ
やえ(そう、こっちだって)チャッ
パララララッ
やえ「一発!」
やえ(負けられない!)
良子「おお、やったぜ!」
紀子「これでこそ、晩成のエースだ」
日菜「さすがやえちゃん」
日菜(銘苅さんが想像以上に強力そうだけど、これならいけるわね)
日菜(やっぱり、さすがだわ♪)
由華(やっぱりやえ先輩は凄い……)
由華(よし、私も!)
…………
……
…
ーー
やえ「ありがとうございました」
一同「ありがとうございました!」
銘苅「こちらこそ、ありがとうございましたー」
真嘉比高校一同「ありがとうございましたー!」
やえ「明日もよろしくね」
銘苅「いやー超楽しかった!県内にはこんな打ち手いないからね!ずっと打ってたいくらいだよー」
銘苅「良いよー?転校してきても」ニヤリ
やえ「いやいやいや……」
銘苅「まあとにかく嬉しいよ!大会直前にこんな充実した試合が出来て。明日もよろしくね!」
やえ「ええ。よろしく」
やえ「さてみんな、戻るわよ」
一同「はいっ!」
ーー
由華「やえ先輩」ササッ
やえ「ん」
由華「……何を話してたんですか?」
やえ「別に、良い勝負が出来て嬉しいとか、明日も宜しくとか、些細なことよ。でも……」
由華「……でも?」
やえ「なんというか、人を巻き込む力があるわ、あの子……いつのまにか相手のペースになってるというか……」
由華「……」
やえ「で、でもね由華?だからといって別にどうなるとか、そういうのは本当になくてその……」
やえ(あれ?私はなんで焦ってるんだ……?)
由華「……くすっ」
やえ「?」
由華「確かに不思議な人でしたね。掴み所がないというか。それに」
由華「麻雀も強かったです」
やえ「あれは奈良ではなかなか出会えないレベルね……でも今日は自分の打ち筋を通せた。それに」
やえ「由華の打ち回しも、素晴らしかったわ。状況に応じた最適解を出せていた」
由華「……」
やえ「あと2日、まだまだ得られるものはある。ベストを尽くしていきましょう」
由華「……はいっ!」
ーー
やえ「ツモ!」
銘苅「あぁーラス親がぁ……」
紀子「終了、か……」
やえ「ありがとうございました」
銘苅「ありがとうございましたー」
やえ「メカル、この三日間充実した試合が出来たわ。ありがとう」
銘苅「いやーこちらこそー。出来れば明日まで打ちたかったけど、うちら明日が初戦だからさー」
やえ「大会ギリギリのこのタイミングに付き合って貰って、感謝してるわ」
銘苅「いやいや、こっちのセリフだし!本番前に最高の調整ができたさ」
やえ「試合、頑張ってね」
銘苅「もちろん!」
やえ「……」
やえ「よし。みんな、引き上げるわよ」
一同「ありがとうございました!」
真嘉比高校一同「ありがとうございましたー!」
ーー
紀子「……非常に実のある遠征だった」
日菜「そうねー。たったの三日間だけど、とても力がついた気がするわー」
良子「俺は焼き鳥が多かったから不安だ……」
良子「まあ課題については帰ってミーティングだろう。それより」
日菜「そうねー。いよいよ明日は待ちに待った自由行動だものね」
良子「そっちの計画も立てるぞ!」
日菜「テンション高いわねー」
紀子「楽しめればなんでも良い……」
日菜「ツボはしっかり押さえて回りたいわねー。やえちゃんはどこか行きたいところ、ある?」
やえ「わ、私?私は……」
やえ「……特別ないから、みんなに合わせるわ」
日菜「そうー。なら主にわたしとりょうちゃんで決めてしまいましょうかねー」
良子「そう来なくちゃな」
やえ「……」
ーー
由華「……対局を重ねて徐々に銘苅さん相手にも良い打ち回しが出来るようになった。確かに良い勉強になったな」
由華「……補習も明日までか」
由華「頑張ろう……」
先生「巽さん、ちょっと」
由華「?……はい。どうしました先生」
先生「明日の補習のことなんだけど、この三日間で全教科とも目標の単元は消化出来たから、三年生の自由行動に加わって良いこととします」
由華「えっ」
先生「本当はホテルに着いてからの連絡でも良かったのだけれど、なるべく早く伝えた方が良いと思ってね」
由華「ほ……本当ですか?」
先生「もちろん。三日間予想以上の頑張りを見せたご褒美です、先輩達と楽しんで来なさい」
由華「……あっ、」
由華「ありがとうございます!」
先生「気を付けてね」
由華「はいっ」
ーー
由華「……」スタスタスタ
由華(自由行動に参加出来る……)
由華(とにかくやえ先輩に報告しないと!そしていろんな場所を回って……)
由華(あっ、でもやえ先輩は日菜先輩や紀子先輩や良子先輩と行動するんだろうな……)
由華(いや、普通に私も混ぜて貰えば良いんじゃ……)
由華(……)
由華(……でも)
由華(……やえ先輩と)
由華(やえ先輩と、二人が良い)ギュッ
ーー
やえ「以上、ミーティングを終わります。今日は休んで明日の自由行動に備えましょう」
一同「おつかれさまでした!」
良子「よし、ここから明日に向けた作戦会議だ。部屋に戻って準備が出来たら誰かの部屋に集合しよう」
日菜「わたしのところは相部屋の皆が他の部屋に遊びに行くから使えるわよー」
良子「決まりだな。じゃあ準備が出来たら日菜の部屋に集合ということで良いな」
日菜「おっけー♪」
紀子「……」コクッ
やえ「わかった」
良子「ならひとまず解散だ」
ーー
やえ「……」スタスタ
由華「やえ先輩!」
やえ「由華」
やえ(由華は明日も補習なんだ……)
やえ(……仕方ない、か)
やえ「三日間お疲れ様。補習は明日まであると思うけど、がんば……」
由華「明日、自由行動に参加出来るようになりましたっ!」
やえ「!?」
やえ「そ……そうなの?」
由華「はい!金曜までで予定分が終了したので、先生が気を利かせてくれて」
やえ「そう……」
やえ(あれ……何でドキドキしているんだ私は)
やえ「それは良かったわ。明日は私や良子達と一緒に回りましょう……」
由華「せ、先輩!」
やえ「?」
由華「あ、あの……もし良ければ……明日は、ふ、二人で……」
ーー
良子「とりあえず旨いものを食べたいぜ。パワースポットにも行きたいな」
日菜「水族館にも行きたいわねー」
紀子「……スキューバダイビングも人気のようだな」
コンコン
良子「おっ、来たか」
やえ「入るわ」ガチャ
良子「お疲れ。今候補がいろいろと上がってるところだ」
紀子「この中から候補を絞るのは困難を極めるだろう」
日菜「みんな一ヶ所ずつ候補を出しあって、そこから絞るのはどうかしらー」
良子「そうだな。紀子もなんだかんだ場所選びに乗り気だし」
紀子「……」
良子「それなら、やえも早速希望を出してくれ。被りは無しな」
日菜「来たばかりのやえちゃんに、せっかちねー」
紀子「……上田よ。心情は察するが急くな」
良子「察してはくれるのか。お前が同調するなんて珍しい」
日菜「のりちゃんも決めたくてウズウズしてるものねー」
紀子「わ、私は……」
やえ「……あの、」
日菜「?」
やえ「実は、由華も自由行動に参加出来るようになったらしいの……」
良子「本当か?良いことじゃないか。それなら五人で回ろうぜ」
やえ「……」
日菜「……やえちゃんは、それでいいの?」
紀子「……」
やえ「……」
ーー
由華「明日は、ふ、二人で……」
ーー
やえ(私は、由華のためにそうしたいの?)
やえ(それとも、私自身のため……?)
やえ(……わからない)
やえ(でも)
やえ「ごめん」
やえ「明日は、由華と二人で行動させて欲しい」
日菜「……」
日菜「うん、そうよねー。そうじゃなきゃ由華ちゃんもせっかくの自由行動に張りがないと思うわー」
紀子「……共に観光出来ないのは残念ではあるが、それほどの決意なら仕方あるまい」
良子「……」
やえ「……」
やえ「ありがとう」
ーー
良子「さっきは何も言えない雰囲気だったから黙ってしまったが……」
良子「普通にやえも混じって回りたかったな」
日菜「そうねー」
日菜「でもやえちゃんのあの様子を見てたら仕方ないと思うわー」
日菜「この遠征で大変な思いをした由華ちゃんのためというのもあるでしょうけど」
日菜「やえちゃん自身もそれを望んでいる」
日菜「わたしにはそんなふうに見えたのよねー」
紀子「……うむ」
良子「そうか……そういうことなら、仕方ないな。こっちはこっちで楽しむとしようぜ!あの二人からは後で話をたっぷり聞き出せば良いしな」ニヤリ
日菜「そうねー。根掘り葉掘り聞いちゃいましょう♪」
ーー
ーー
やえ「ふう……」
やえ「みんなには悪いことしたな……」
やえ「でも、嫌味ひとつ言わずに許してくれた」
やえ「……」
やえ「明日は由華をいっぱい楽しませなくちゃ」
やえ(そしたら私も、楽しくなるのかな……)
やえ「と、とにかく由華に伝えないと。みんなに確認するって言って返事保留してるし」
やえ「い、今から由華の部屋に……」
やえ「……」ドキドキ
やえ「……よ、夜も遅いからメールにするか」スッ
やえ「かと言ってメールは苦手なんだよな……普段携帯は通話にしか使わないし。まあでも、そうも言ってられないわね」
やえ「えー……「由華へ。明日は二人で行動出来ます。7時半頃にロビーに集合しましょう」と。こんなとこかしらね」
やえ「送信っと……」
やえ「よし。とりあえず明日の用意をしなきゃ」イソイソ
ーー
由華「明日、何着ていこうかな。自由行動出来ると思ってなかったからあんまりかわいい服ないよ……」
由華「しょうがない。有り合わせでどうにかするしかないか……」
由華「……」
由華「明日、どうなるかな……」
ピロリロン
由華「あっ、メール」
由華「……やえ先輩だ」
由華「えーと……」
「ゆかへ。あしたはふたりてできます。しちじはんにろびーへしゅうごうしましよう」
由華「全部ひらがなだ……」
由華「そういえば先輩とメールでやりとりするのは初めてだっけ。文字打つの苦手なんだろうな」
由華「きっと苦労しながら、このメールを送ったんだろうな……」
由華「……くすっ」
由華「よし。明日はふたりで行動できる!」
由華「全力で、楽しもう!」
ーー
由華「……」ドキドキ
やえ「おっ、おまたせ」ドキドキ
由華「先輩……」
やえ「……」
由華「……」
やえ「じゃ、じゃあ、行きましょうか……」
由華「……はいっ!」
ーー
やえ「水族館行きのバス停はここね……」
やえ「由華、本当にそこで良い?」
由華「はいっ。行ってみたい所だったので」
やえ「そう。良かったわ……」
由華「……」
やえ(き、緊張するな……)
由華(どうしよう、本当に旅行先で二人きりだ……)
由華(やえ先輩、いつもよりおしゃれでかわいい……)
由華(どうしよう……)
由華(どうしよう……た、楽しいっ!)
由華(日菜先輩、紀子先輩、良子先輩、ありがとうございます!)
由華(そして……)
由華「やえ先輩」
やえ「ん?」
由華「ありがとうございますっ」
やえ「い、いえ……」ドキドキ
由華「……」ドキドキ
??「おーい、おふたりさん!」パッパー
やえ「えっ」
由華「あれは……」
銘苅「はいたーい」
やえ「め、メカル?あなた免許持ってたの?」
銘苅「そうだよー、誕生日来てソッコーで取ったよ!」
由華「きょ、今日は試合なんじゃ……」
銘苅「試合自体は午後からなんだー。だから今日の集合はちょっと遅めで、その前に気分転換がてら運転の練習がてらってねー」
由華「そうですか……」
銘苅「ところでおふたりさん、お出かけかい?ひとりでドライブも退屈だから人が多いと嬉しいんだけどなー」
由華(えっ?ちょっと待って……)
銘苅「そうだ、お世話になったお礼にちょっとした案内もしたいしさ!ってなわけで乗りなよ乗りなよ」チョイチョイ
由華(そ、そんな!)
由華(せ、先輩との貴重で大事な時間なのに……)
由華(いきなり来てなんなのこのヒト……!)
やえ「そう……」
やえ「水族館に近いところなら」
由華(ああ……)ガクッ
ーー
良子「ここが有名なパワースポットのひとつか……」
日菜「すごい、岩どうしがもたれかかった隙間が道になってる……」
紀子「……向こうに行ってみよう」
……
日菜「すごーい!海きれいー」
紀子「ちょうど島が見えるな」
日菜「これは一枚撮っておくべきねー」
良子「あっ……」
日菜「どうしたのりょうちゃん?」
良子「携帯の充電するの忘れてた、写メとれねえ……」
日菜「あらあらー」
紀子「だらしない」
良子「ぐ……」
日菜「わたしので良ければあげるわよー。後で送るわね」
良子「すまん……」
ーー
やえ「ちょっと運転が荒いんじゃない?」
銘苅「そりゃまだ取り立てだからさ。でも試験は全部一発合格だし!」
やえ「凄いわね」
銘苅「教官がそれはもう厳しくてさー、そこまで言うか?って感じで怒ってくるの。まあ人によるけどねー、仏のような先生もいるよー」
やえ「そう。簡単にとれるものではないのね……」
銘苅「やーえーなら早く取れると思うよー、センス良さそうだし」
やえ「ふふっ。どうかな……」
由華(やえ先輩、楽しそう……)
由華(後部座席だと話に入りづらいし……)
由華(いったいどうしてこんな状況に……!)
銘苅「この近くに海がきれいなところがあるからさー、ちょっとそこ行こうか」
やえ「良いわね」
由華(うぅ……)
ーー
良子「ここが有名なタコス屋か」
日菜「タコスという言葉に何故か惹かれて入っちゃったわねー」
紀子「うむ……」
良子「お、どうやらタコスだけじゃなくタコライスというやつもあるみたいだな。俺はこれにするぜ」
日菜「わたしはタコスにしようかしらねー」
紀子「……私もそれにしよう」
オマタセシマシター
良子「来た来た。この赤いソースをかけるのか。まあ適当にかけるか」
日菜「割と多くかけるわねー……」
良子「よし、では」
「いただきまーす」
日菜「……ん、おいしいー」パァァァ
紀子「……うむ。これは良い……」ハムッ
良子「ん……」パクッ
良子「!」
良子「からーーーーっ!」
日菜「だ、だいじょうぶ!?」
紀子「み、水だ……」
良子「」ゴクゴクゴク
良子「う、うおお……」
紀子「……ソースをかけ過ぎだろう」
日菜「よく見たらすごい色してるものねー……」
良子「つ、ついてねえ……」
ーー
銘苅「着いたよー」
やえ「えっ、ここ、橋の途中なんだけど」
銘苅「いいから降りてみなって」バタン
やえ「ええ……」バタン
由華「……」バタン
銘苅「ほら。下、見てみて」
やえ「あっ……」
由華「わぁ……」
銘苅「どお?」
やえ「綺麗……」
由華「水が透き通ってる……」
銘苅「でしょー?地元じゃちょっとしたスポットなんだよー」
由華「……凄いですね」
やえ「……うん」
銘苅「気持ちを落ち着けたい時は、ここの海を見に来るんだ……」
銘苅「……実はさ、今日はやーえーと話したくてあそこのバス停前通ったんだ」
やえ「えっ」
銘苅「ホテルは知ってたから、朝早めにその近くをうろつけば会えると思って。それがビンゴだったわけさ」
やえ「……なんで、そこまでして」
銘苅「……」
銘苅「……今日の試合、不安なんだ」
銘苅「一応この学校は、あたしがエースということになっている。もちろんそれなりに自覚もしているつもりだけど」
銘苅「しかも、エースが副将というポジションにいる学校は、県内……おそらく全国を見てもほとんどないと思う」
銘苅「だからこそ、取りこぼしは許されない。もし本番あたしがヘマしてそれが失点に繋がったら……」
銘苅「負けに、繋がったら……」
銘苅「そう考えたら、怖くなったんだ」
やえ「……」
やえ「メカル」
銘苅「ん」
やえ「先鋒と副将という違いはあるけど、私もエースという役割を与えられて打っている」
やえ「今メカルが言ってくれた不安も、もちろん感じることもあるわ」
銘苅「……」
やえ「でもねメカル。団体戦はひとりで打つものじゃない」
やえ「仲間を、信じるの」
銘苅「仲間……」
やえ「確かにあなたの気持ちは分かるわ。エースというものはチームを背負わなきゃいけないポジションだから」
やえ「でも、だからと言ってひとりじゃない。自分がダメなときは仲間がきっと何とかしてくれる、そう思うの。これまで一緒に頑張ってきた間柄だもの。たまには頼って良いの」
由華(先輩……)
やえ「それに、試合した感触だと、メカルのチームメイトは皆信頼出来る打ち手だと思ったけど」
銘苅「みんな……」
やえ「ま、まあ私の場合はそうやって考えたら楽になったわ。参考になるかは分からないけど」
銘苅「……」
銘苅「……いや、」
銘苅「やっぱりやーえーはすごい!」ダキッ
やえ「なっ……?」
由華「ーー!」
銘苅「不安が全部取れたよ……」
銘苅「ありがとう」
やえ「ええ、それは良かった……」
やえ「良かったから、離してくれる?ちょっと恥ずかしい……」
銘苅「あっああ、ごめんごめん」パッ
やえ「……」
銘苅「……」
銘苅「……本当に、ありがとう」
やえ「ん……」
銘苅「あっ」
銘苅「やばい!そろそろ時間だ、もう行かないと間に合わない……」
やえ「だ、大丈夫?」
銘苅「水族館に行きたいって話だったよね?送ってあげたかったけど、ごめん、ちょっと無理そうだ……えと、あそこにバス停あるでしょ?あそこからバス乗れば水族館に行けるはずだから!「水族館行」って書いてあるはずだから!」
やえ「あ、ああ……」
銘苅「本当ごめん!行かなきゃ……今日は本当にありがとう!」
銘苅「勝つからね!」
やえ「うん。運転は気をつけて」
やえ「……全国で会いましょう」
銘苅「」コクッ
バタンッ
ブロロロ……
ーー
由華「あ、慌ただしい人でしたね……」
やえ「……ほんとね。最後の最後まで」
由華「……でも、不安だったんですね」
やえ「……そうね。とりあえず悩みが晴れたようで良かったわ」
やえ「なんにせよ、バス停に向かいましょう」
由華「はいっ」スタスタ
由華(あれだけの打ち手でも、悩んでた……ナーバスになってた……)
由華(そして、そんな銘苅さんをやえ先輩は勇気づけられた……)
由華(同じ気持ちを知っているから。そして……)
由華(誰をも思いやることが出来るから)
やえ「あっあれ、「水族館行」なんて書いてないじゃない……」
由華(やっぱりやえ先輩は、すごい)
やえ「し、仕方ないわね。私が携帯で調べるから、ちょっと待ってて」ササッ
由華(うん。こういう人だから……)
由華(わたしはやえ先輩が好きなんだ)
やえ「あれ、えっと、これをこうして……」アセアセ
由華「やえ先輩♪」
やえ「ん?」
由華「無理しないでください。やえ先輩、携帯いじるの苦手ですよね?昨日のメール、全部ひらがなだったから分かりますよ」
やえ「えっ?う、うそ……」
由華「私が調べるから、ちょっと待っててくださいね」サッ
やえ「ご、ごめん……」
由華「うーん、どうやらこのバス停じゃないですね。少し離れたところにもうひとつバス停があります」
やえ「そ、そう」
由華「歩ける距離なので、歩いて行きましょう」
やえ「そうね……」
スタスタスタ
由華(……)
由華(やえ先輩とふたりきりで、知らない場所を散歩……)
由華(……結局のところ、これは銘苅さんにも感謝だな)
ーー
やえ「みんな、いるわね」
一同「はいっ!」
やえ「うん」
やえ「飛行機の出発はあと一時間ほど。出発したら学校に戻って、全日程が終了です。出発までは空港で待機です。はぐれないように」
一同「はいっ!」
ーー
日菜「やえちゃーん」
やえ「日菜、みんな」
良子「お疲れさん。こっちは散々だったぜ」
紀子「散々なのは恐らくお前だけだ、上田」
良子「ぐ……確かにそうだな」
やえ「ふふっ、面白いことがあったようね」
日菜「まあねー」
やえ「みんな、今日はありがとう」
日菜「その話は帰ってから、たーっぷりと聞かせてもらうわー♪」
やえ「う……」
良子「そうだな。とりあえず今は紀子のお土産を見繕ってやろうぜ。こいつ何をお土産にして良いかわからないんだと」
紀子「し、仕方ないだろう。このように旅行するのは初めてなのだから……」
日菜「うーん、お土産ならやっぱり食べ物よ。無難に有名どころで良いと思うわー」
良子「そうだ。紅いもタルトにしようぜ。あれは間違いない」
紀子「旨い、のか……?」
良子「そりゃもう。あれ以上はなかなか……」
ワイワイ
由華「やえ先輩」チョイチョイ
やえ「ん?どしたー」
由華「これ見てください」
やえ「これは……キーホルダーね」
由華「……可愛くないですか?」
やえ「うん、そうね。なかなか……」
由華「買いましょう。ひとつずつ」
やえ「うん、良いわね……ん?それってもしかして」
由華「お揃いです♪」
やえ「お、お揃い!?」
由華「嫌、ですか……?」
やえ「……嫌、じゃない。ちょっと照れるけど……」
やえ「……」
やえ「……そ、そうね……」
やえ「……付けてみましょうか」カーッ
由華「……ありがとうございますっ♪」
カンッ
ーー
紀子「……着いたか」
日菜「帰ってきたわねー」
良子「お疲れさん。いやー楽しかった……あっ」
日菜「ど、どうしたのりょうちゃん?」
良子「紀子のお土産を選んでおいて……」
良子「自分の分、買ってねえ……」
もいっこ
カンッ
終了です
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