まどか「私を助ける」(170)

初SS注意

第01話「こうして私は、魔法少女になりました」

 空は分厚い雲に覆われ、昼間だというのに光一つ差さない。
 街を彩る近代的なビルたちは、まるで積み木のように倒され、へし折られ、宙を舞っている。

 人は、人知を超えた災害を恐れ敬い天変地異と呼ぶが、これはその中でも最上級のものだ。

「ほ、ほむらちゃん…」
「暁美ほむらはよく戦ったほうだよ。だけど相手が悪かった。史上最強の魔女、ワルプルギスの夜。彼女一人で、あの魔女は倒せない。」

 残念だけど、この場だけはインキュベーターが嘘を言っているように聞こえない。
 私を守るために戦うといってくれたほむらちゃんは、今、まさに死に直面している。

「まぁ、暁美ほむらには時間遡行能力があるからね。死ぬことは無いだろう。
だがしかし、彼女が時間を巻き戻すということは彼女という存在が、この時間から消えることを意味する。
それは、暁美ほむらにとっては生き残ることでも、周りの人間から見れば死と同じことだ」

 戦いの前、私とインキュベーターはほむらちゃんの能力を知った。
 時を操る魔法。それが彼女の固有魔法。
 盾についているスイッチを押すことで、時間を停止したり、過去に戻ったりすることが出来る。
 そうして彼女は、この2ヶ月を延々と繰り返し、何度もワルプルギスの夜に挑んできたのだ。

「時間の問題だろうね。彼女が本当に死ぬ道を選ぶとは思えない。とすれば、あと一分もしないうちに君は暁美ほむらとお別れだ。
どうする? 暁美ほむらを助けるかい?」

 ほむらちゃんを助ける。つまりは魔法少女になってワルプルギスの夜を倒す。
 私にそれが出来るということは、ほむらちゃんとインキュベーターが保障してくれてる。対立する2人が同意見なのだから、間違いなくそうなのだろう。
 でも、それは本当の意味でほむらちゃんを助けることにはならない。なぜなら、ほむらちゃんの目的は私を助けることであって、ワルプルギスの夜を倒すことは手段に過ぎなのだから。

「わ、私には……契約なんて出来ないよ……」
「そっか。ボクは契約のノルマが遠のくからすごく残念だけど、君が選ぶのなら仕方が無い。
でもね、一つ言っておくけどさ。これからほむらが何度時間を巻き戻すことになるかは分からないが、
これからもほむらの勝率はゼロに近い、いや、ゼロそのものさ」

 そう言ってインキュベーターは、ほむらちゃんの戦いを見つめる。
 それはもはや戦いでも、一方的な虐殺でもない。天地がひっくり返る災害そのものだった。
 ワルプルギスによって跳ね上げられたビルからは炎が飛び出し、空を赤く染め上げる。
 地面からはコールタールが染み出し、まるで溶岩のように辺りを黒く染め上げる。
 あの場にいる者は、もはやほむらちゃんとワルプルギス以外、何者も生存していないだろう。

「君がここで暁美ほむらを見捨てるのは構わないが、それは彼女を無間地獄へ突き落とすことを意味する。
優しい君に、それが出来るのかい?」

 で、出来るわけがないよ……
 本音を言えば、私だってほむらちゃんを助けたい。一方的に助けられるだけじゃなくて、ほむらちゃんと2人で戦いたい。


  ……ふと、私の頭をある考えがよぎった。
  まったくの思いつきだが、もしかしたら、ほむらちゃんを助けられるかもしれない。

「ね、ねぇインキュベーター。私なら、あのワルプルギスの夜にも勝てるの?」
「もちろんだよ。鹿目まどか。契約の内容にもよるけど、君なら誰よりも強い魔法少女になれるさ」
「絶対だね?」
「その事については、ボクだけじゃなくて暁美ほむらも証人さ。ほむらの言葉を疑うのかい?」
「ううん、疑わないよ」

 そうだ、この手があった。これなら『私を助ける』というほむらちゃんの願いも、ワルプルギスの夜を倒すという手段も両方叶えることが出来る。

「わかったよ、キューベー。私、契約する。契約して魔法少女になるよ!」
「本当かい? よかったぁ。それで、君はどんな願いでソウルジェムを輝かせるんだい?」
「私の願いは、ほむらちゃんと一緒に時間を巻き戻ること。ほむらちゃんに付いていって、魔法少女として過去の私を助けること!!
それが私の願いだよ、インキュベーター。さぁ叶えて!!!」

「そ、それが君の願い……うん、分かったよ。行って来るといい。ほむらと一緒に過去の見滝原へ。
だけど、鹿目まどか。1つ忠告しておくよ。過去の君自身を助けるということは、1つの時代に君が2人いなくちゃならない。
それは宇宙の条理を覆す願いだ。もしかしたら完全には叶えられないかもしれない。それも覚悟の上なんだね」
「私とほむらちゃんがいれば、乗り越えられない障害なんて無いよ」

「そうかい……。今君の願いはエントロピーを凌駕した。」

 インキュベーターがそういうと、私の胸元に光り輝く宝石が現れる。

「受け取るといい。それが君の運命、君の魂。君と暁美ほむらの願いそのものだ」


 私がほむらちゃんの魔法で時間をさかのぼったのは、ソウルジェムを手にした時とちょうど同じだった。
 この願いで私は『鹿目まどか』と暁美ほむらを救って見せる。絶対にね。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

次に目が覚めたのは見滝原病院の病室だった。
質素なたたずまいの病室に、飾り気の無い真っ白なベッド。
わたし以外を全て切り捨ててきたほむらちゃんを象徴する病室だった。

「また戻ってきたのね……」

ほむらちゃんが一人呟く。三つ編みをして、メガネをかけたほむらちゃん。
若干、目の焦点がぼんやりして見えるのは、いつもよりも視力が低いからだろうか。

ソウルジェムを取り出し、いつもの魔法少女服へと早変わりするほむらちゃん。
そして、盾からメモ帳を取り出すと、病室のカレンダー機能付き時計と見比べながら、『今日』を確認する。
さらに、胸に手を当てて魔力を注入。すると、肌に血色が戻り、目の焦点もハッキリしてきたようだ。
メガネを外し、すぐさま鏡の前で三つ編みを解くほむらちゃん。
瞬く間に彼女は、私の知っている『暁美ほむら』へと戻っていった。

「ふぅ、気のせいかしら? この病室、いつもと違うような……」
『えっと……いつもと違うっていうか、私が居るんですけど』

そうだ。さっきからリアルタイムで『ほむらちゃん変身するの巻』を実況していたが、彼女は私が居ることに気づいていないようだ。

「何が違うのかしら?」

そういって辺りを見渡すほむらちゃんの表情は、いつもの睨むような視線ではなく、少しボケっとした表情だった。

『アハッ、ほむらちゃんって誰もいないところだと、あんな表情するんだ』

ほむらちゃんの意外な一面に気づいて少し嬉しい。でもほむらちゃん、表情が変わってもすごい美人だな。
あーぁ、私もあんな美人に生まれてくれば、もっとモテてただろうに。

『ていうか、いい加減気づいて欲しいなぁ。おおい、ほむらちゃん、ここだよ。ここ』

そう思って私は手を振る……あれ? 私の手ないよ? どこにいったの?

「あれ? あんな所に……」

ツカツカと私に歩み寄るほむらちゃん。よかったぁ、気づいてくれたんだ。
ヒョイと私を持ち上げ、しげしげと見つめてくる。

  ……っていうか、何で持ち上げられてるのかな?

「こんなソウルジェム、私は見たことも無いわね……」

え、ソウルジェム? 今ソウルジェムって言ったの??

「誰のかしら? ここにあるって事は、近くに魔法少女がいるって事よね??」

近くも何も、まさに『ここ』にいますよ。

「今頃、この持ち主、意識をなくして倒れてるって所かしら?」

いいえ、今この場にいます。意識は普段どおり、いえむしろ普段以上に冴えまくりです。
というか、何とかしてほむらちゃんに気づいてもらわないと。
口で伝えることは当然として、身振り手振りも出来ない状況でほむらちゃんと意思疎通……そうだ。テレパシーだ。

『ほむらちゃん、ほむらちゃーーーん!』
「こ、この声は?」

私は生まれて初めて魔力を使う。拙いながらも、形となったそれは、テレパシーとして機能したようだった。

「まさか、このソウルジェムがまどかなの?」
『そうだよ、ほむらちゃん。私も一緒に戻ってきたんだよ?』
「ま、まどか……貴女……」

ふるふると体を震わせるほむらちゃん。
そういえば、私は何の相談もなしにほむらちゃんに着いてきた。もしかして良くなかったかな。

「貴女! 一体何を考えてるの!!!」

ほむらちゃんの怒号が病室に響き渡る。
やっぱり怒ってる。そりゃそうだ、私が魔法少女になったということは、ほむらちゃんの願いが叶わなくなったということ。
怒らないわけがない。

『大丈夫だよ、ほむらちゃん。私はこうして魔法少女になっちゃったけど、この時代にはもう一人の”鹿目まどか”がいるはず』

そう。ほむらちゃんの願いは「私を助ける」ではなく「鹿目まどかを助ける」。
であれば、私が魔法少女になっても問題ない。


「貴女、本気でいってるの。いくらまどかがもう1人いるとは言え、貴女だってまどかじゃない。それが……こんな姿になって」

ほむらちゃんの涙が零れ落ちる。うん、そうだね。私もまどかだね。
でもごめん、私には他に方法が思いつかなかったんだ。

『うん、確かに私も”鹿目まどか”だよ。でも私はほむらちゃんを助けたいと思ったんだ。そのためには、魔法少女になる以外方法が無かったんだよ』
「う、うぁーーん……」

大きな声を張り上げて泣き叫ぶほむらちゃん。私は少しだけ魔法少女になったことを後悔した。でも、これを失敗にしないためにも、私は気を強く持つ必要がある。

「というか、貴女。その姿は何? いくら魔法少女の本体がソウルジェムと言っても、私たちには肉体も与えられているはずよ?」
『うーん、その事なんだけど、私の願いは、ほむらちゃんと一緒に時間遡行して、過去の私を助けること。
でも、そうするとこの時間には2人の『鹿目まどか』がいることになっちゃう。それで、この時間に戻ってくる前に、インキュベーターから言われたんだ。
”もしかしたら完全には叶えられないかもしれない”ってね』
「そ、そんな……それで貴女はそんな姿になったと言うの?」
『うん、多分ね……

同じ時代に2人の”鹿目まどか”は存在できない。
でも、私の願いは、『過去の私を助けること』だから、同じ時代に『助けるまどか』と『助けられるまどか』の2人が必要になる。
その矛盾を無理やりにでも解決するには、私がソウルジェムになるしかない。なんとなくだけど、そういう事じゃないかな』

「そ、そんな……貴女はそれでいいの?」
『よくない、よくないけど……でも、肉体のことはおいおい考えていこうよ。多分、何とかなるって』
「いいえ、私が何とかするわ。私の願いは貴女を助けることなんですから……たとえ、どんな手段を使ったとしても、いずれね」

うん、そうだね。ほむらちゃんは、私のためなら何でもしてくれてたんだよね。
彼女の言葉、『たとえどんな手段を使っても』という所に、少しだけ怖いという気持ちを抱きながら、それでも私は本心でこう言った。

『ありがとう、ほむらちゃん。期待してるからね』



こうして私は、魔法少女になりました。
病室の窓から見える庭では、散ったはずの桜が出迎えてくれます。
過去に戻ったことを実感しながら、新米魔法少女としての決意を固めるのでした。

初SSです。どうかよろしく。
明日また続きをうpします。

感想ありがとうです。
では、12/31分の投下をしますです。

第02話「日々のたゆまぬ努力(残念ながら盗み)により支えられております」

 心臓の病気で入院していたほむらちゃんは、魔力ですぐに自分の体を治し退院した。
 元々、不治の病という訳ではなく、現代医学でも普通に治る病気で、魔法を使わずとも退院の日は遠くなかったらしい。
 だからだろうか、病院関係者も特に抵抗無くほむらちゃんの『突然の退院』を心から祝福してくれたようだった。

 そして今、ここはほむらちゃんの家。
 退院した彼女は、ソウルジェムになった私を首からぶら下げて帰宅した。
 ほむらちゃんお手製ネックレスが、今の私の住処だ。

『ほむらちゃん、これからどうしようか?』
「そうね、まずは私の家に学校の制服や、教科書なんかを移動して、転校の準備をするわ。
その後は、魔女の戦いに備えて弾薬の補給よ」

 そう言えば、ほむらちゃんは魔法で戦うのではなく、近代兵器で戦う少女だった。
 てっきり魔法で作っていると思っていたけど……


「弾薬って、あれは魔法で作ってたんじゃないんだ?」
「そうね、数や威力に拘らなければ弾薬も、魔力で作れないわけじゃないわ。
でも、私の魔力はあまり強くないから、弾薬の威力・数もそれなりのものにしかならない。
だったら、魔力の節約もかねて拝借したほうがいいってわけ」
『…………う、うん、ななるほど……』

 拝借される側からすれば、たまったものではない。

「この近くに米軍基地があるし、彼らはヤクザや警察とは比べ物にならない武器を保有しているわ。
もちろん、私が魔力で作れる武器よりよっぽど良いものを持っている」

 いっそワルプルギスも米軍に戦ってもらえばいいと思ってしまう発言です。
 あ、でも、米軍にはワルプルギスが見えないんだった。

「拝借した武器は、私の盾に入れることで魔力を帯びる。そうすれば、以降は魔女にも効くようになるわ。
あと、単純な構造の武器なら複製できなくも無いわね。でも、そういう武器はたいてい威力が低いのよ。」

『ほむらちゃんは、どうしてそんなに武器が必要なの?』
「私は近代兵器で戦う魔法少女よ。それ以外に戦闘方法が無いの」
『いや、でも、今持ってるだけで十分なんじゃ?』


 正直に言って、私はほむらちゃんが物を盗むところなんて見たくない。
 だから、出来れば止めたいのだが……

「それでワルプルギスに勝てなかったでしょう」

 やはり、そう来たか。

『でも、今度のワルプルギス戦は私がいるじゃない。だからきっと何とかなるって』
「今の貴女はただのソウルジェムでしょう?」

 あいや、すいません。そうでした。

「もしかして、まどか。貴女は私に盗みを働いて欲しくないとか、そんなこと考えてない?」
『そりゃそうだよ。ほむらちゃんが盗むところなんて……』
「でも他に方法が無いわ」

 うーん。守ってもらっている立場としては、これ以上反論するのもよくないか。
 せめて何か代案が出せれば話も変わってくるのだけど……


『あ、そーだ。私からほむらちゃんに魔力を分けることって出来ないのかな?』
「……魔力を分ける?」
『うん、だって私って最強の魔法少女なんでしょ? だったら、その魔力が使えればほむらちゃんの闘いも楽になるんじゃないかな?』
「なるほど、考えたことも無かったけど、もしかしたら……」

『私が、’エィッ’って魔力を渡すから、ほむらちゃんは’ヨィショッ’って感じで受け取ってね』
「どんな感じよ……」

 そう言いつつほむらちゃんは、胸にぶら下がったソウルジェムな私を握り締める。
 そして私は不器用ながらも、一所懸命に魔力を込める。
 すると、ぽわぁっと、ほむらちゃんの手が光った。

「魔力が流れ込んでくるわ……」

 どうやら受け渡しは成功したらしい。この力を使えば、マミさんみたいに魔力製の銃で戦うことも出来るはず。
 と思ったけど、光はすぐに消えてしまった。どうやら、ある一定量を超えると渡せなくなってしまうようだ。

「……貴女の魔力は無尽蔵でも、受け取る側の私に限度があるようね」

 なるほど、そういうことか。あくまでも『ほむらちゃんの魔力を補う』ことしか出来ないらしい。

「これじゃ、ただの電池と変わらないわね」


 もう少し表現を考えて欲しい。いやでも、確かに電池、言いえて妙だ。

「残念ながら、一度に使える魔力の総量と威力は、普段の私と同じ。戦力強化にはならなかったわね……」
『うぅぅ、役に立てなくてごめん……』
「いいのよまどか。私は貴女がいてくれるだけで百人力よ」

 こうして、結局ほむらちゃんはいつものループと同じように弾薬補給に向かうのでした。
 それが近代兵器魔法少女暁美ほむらの日常なのです。
 ほむらちゃんの火力は、日々のたゆまぬ努力(残念ながら盗み)により支えられております。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



そんなこんなで、今日はほむらちゃんの転入日。
見滝原中学への初登校なのです。

昨日まで見ていた私服姿のほむらちゃんも綺麗だけど、私は制服姿のほうがもっと好きです。
だって、皆と同じ格好をすると、それだけ『ほむらちゃんが美人』っていうのが際立つんだよね。

クリーム色の見滝原中学の制服に袖を通し、ソウルジェムな私は制服の内側に移動です。
ほむらちゃんのブラの上、制服のすぐ下。エッチな男の子なら、鼻血ものの場所へ私も転入しました。

そして、ほむらちゃんはパンにバターだけという味気ない朝食を、さくっと食べ終えて、すぐに学校へと向かいます。





「今日はみなさんに大事なお話があります。心して聞くように」


 ここは見滝原中学の校舎。いつもの教室のすぐ前。
 教室の中ではホームルームが行われており、早乙女先生の声が廊下まで響いてくる。

「目玉焼きとは、固焼きですか?それとも半熟ですか? はい、美樹さん!」

 あ、中沢君じゃないんだ。細かい所は、ループごとに微妙に違うんだね。

「え、えーーっと……、私はどっちかっていうと半熟かな?」

 うん。私も半熟が好きだよさやかちゃん。ティヒヒ。

「違う、違いますよ美樹さん。正解は”どっちでもいい”です」
「なら聞かないで下さいよ」

 まったく持ってさやかちゃんの言うとおりだ。

「いいですか、たかが卵の焼き加減ひとつで女の魅力が決まると思ったら大間違いです。
女子の皆さんはくれぐれも半熟じゃなきゃ食べられないと抜かす男とは交際しないように。」
「ダメだったんすね……」


 呆れ顔で先生を見つめるさやかちゃん。っていうか、どっちでも良いなら相手に合わせるぐらいの余裕があっても良いんじゃないかな。
 目玉焼きを作る前に、『半熟にする? それとも固焼き?』って聞けばいいじゃない。

「そして男子の皆さんは、絶対に卵の焼き加減にケチをつけるような大人にならないこと!!」

相変わらずの先生だ。でも、目玉焼きの焼き加減で別れるってのは、単に理由付けが欲しかっただけじゃないのかな。
元々何かの理由で振るつもりだったけど、ウマイ口実が浮かばず、目玉焼きを理由にしたってだけだと思うけど……

そう言えば、ほむらちゃんは転入日にいつもこんな光景見てるのかな?
早乙女先生のエキセントリックな発言に慣れている私たちは良いけど、初対面のほむらちゃんはビックリしたんじゃ……
って、ほむらちゃん、先生に興味なさすぎだよ。私をガン見してるジャン……
うん、そうだよね。ほむらちゃんは『私』にしか興味ないよね。

そんな『私』は「ダメだったんだね」と苦笑い。
そういえば、今朝お母さんから、ダメならそろそろ別れる頃だって言われてたっけ。

「はい。あとそれから今日は皆さんに転校生を紹介します。」
「って、そっちが後回しかよ」
「じゃ、暁美さんいらっしゃい」


やっと呼ばれた……目玉焼きの話、まるまる要らなかったジャン。
呼び出しに応じモデルばりのしゃんとした歩き方で、教壇の前へと向かうほむらちゃん。
ブラにはさまれた私は、若干ほむらちゃんのあばらの骨が痛い……と思うのは気のせいだろう。うん、気のせいだ。

ほむらちゃんに連れられて入る見慣れた教室。教室の後ろのほうには、私がいる。この時代の私だ。

「うぉ、すげー美人」
「はぁ……綺麗だなぁ……、でも……あの人、夢の中で……」

『私』がほむらちゃんに見とれてる。うん、そうだよね。ほむらちゃん、女の子同士でも惚れちゃうぐらい美人だよね。

「暁美ほむらです。よろしくお願いします」

そして私、鹿目まどかもいます。これから、よろしくね!

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「暁美さんって、前はどこの学校だったの?」
「東京のミッション系の学校よ」
「前は部活とかやってた? 運動系、文科系?」
「やってなかったわ」
「すっごい綺麗な髪よね、シャンプーは何を使ってるの?」

昼休み。ほむらちゃんの周りにはクラスメイトがいっぱい。
転入生なんて珍しいから、みんなはしゃいじゃってる。

それにしても美人って得だなぁ……、男の子は当然として、女の子からも注目される。
でも当のほむらちゃんは、面倒くさそうに答えている。その証拠に、顔の表情はいつもの3倍は薄い。

『ほむらちゃん、笑顔笑顔、第一印象は大事だよ!』
『分かってはいるけど、毎度のことだから面倒でね……』
『だめだよ、面倒くさがってちゃ』

「不思議な雰囲気の方ですわよね、暁美さん」
「ねぇまどか。あの子知り合い? 思いっきりガン飛ばされてなかった?」
「いや……えっと……」


隣から、さやかちゃんと仁美ちゃんの声が聞こえてくる。ちなみにガンを飛ばしていたのではなく、見つめていたのです。
ほむらちゃんは『まどか大好き人間』だから……って、自分で言ってて恥ずかしくなるよ、これ。

「ごめんなさい、何だか緊張しすぎたみたいで、ちょっと気分が。保健室に行かせてもらえるかしら?」

ついに限界といった感じで、ほむらちゃんが席を立つ。
『私』にコンタクトするため、わざと保健室に行こうというのだ。

「え? あ、じゃぁ私が案内してあげる」
「あたしも行く行く」

「いえ、お構いなく。係りの人にお願いするから。鹿目さん。貴女がこのクラスの保険係よね?」
「え、えっと……あのその……」
「連れてってもらえる? 保健室」
「あのぉ……私が保険係ってどうして??」
「早乙女先生から聞いたの」
「あ、そうなんだ……」


ほむらちゃんは、『私』を引き連れて保健室へ向かう。
いや、ほむらちゃん……『私』の前を歩いて行ったら、場所を知ってるって思われるんじゃないかな?
せめて知らない振りぐらいしようよ……

「あの……もしかして場所知ってるのかなって」

ほら『私』も不信がってる。

「あ、あの……暁美さん」
「ほむらで良いわ」

ほむらちゃん。初対面、ショ・タ・イ・メ・ン! 距離感大事にして行こうよ。

「ほむら……ちゃん?」
「何かしら?」

今、ひょっとしてほむらちゃんニヤけて無かった?

「あ、ああ、えっと……その、変わった名前だよね。
いや、……あの、だからそのね。悪い意味じゃなくて、その……カッコいいな、なんて……」


これは本心からの言葉だった。
でも、正直なことを言えば他に話題が無くて無理やり選んだ言葉でもある。

「鹿目まどか、貴女は自分の  『ストップだよ!! ほむらちゃん!!!』

ほむらちゃんが言いかけた言葉を、私は無理やり制止する。

『何かしら、邪魔をしないでほしいのだけど』

前回と同じ発言を邪魔されて、少しムッとなったほむらちゃんが私に問いかけてくる。

『あのねほむらちゃん。’私’とは初対面なんだよ。不信がられて信頼なくしたら、守るものも守れなくなっちゃうじゃない』
『それはそうだけど、ワルプルギス出現までちょっとしかないのよ。貴女を守るのに手段は選んでられないわ』
『いやだから、不信がられたら守れないって言ってるんだよ』
『そ、それは……そうだけど……』
『この後、さやかちゃんからも電波少女扱いされるんだよ。少しは自覚しようよ』
『ででも……』


これは本心からの言葉だった。
でも、正直なことを言えば他に話題が無くて無理やり選んだ言葉でもある。

「鹿目まどか、貴女は自分の  『ストップだよ!! ほむらちゃん!!!』

ほむらちゃんが言いかけた言葉を、私は無理やり制止する。

『何かしら、邪魔をしないでほしいのだけど』

前回と同じ発言を邪魔されて、少しムッとなったほむらちゃんが私に問いかけてくる。

『あのねほむらちゃん。’私’とは初対面なんだよ。不信がられて信頼なくしたら、守るものも守れなくなっちゃうじゃない』
『それはそうだけど、ワルプルギス出現までちょっとしかないのよ。貴女を守るのに手段は選んでられないわ』
『いやだから、不信がられたら守れないって言ってるんだよ』
『そ、それは……そうだけど……』
『この後、さやかちゃんからも電波少女扱いされるんだよ。少しは自覚しようよ』
『ででも……』

『私に契約するなって警告するのは、魔法少女の話が知られてからで良いんじゃないかな?』
『な、貴女! 魔法少女の話をするつもりなの?』
『私からするつもりは無いよ。でもさ、どうせキューベーやマミさんから話しは行くんだし、その後に契約を止めたほうが自然じゃない?』
『それもそうね……』

どうやら、思い止まってくれそうだ。
私だって、『私』を守るために時間をさかのぼってきたんだ。焦りたくなるほむらちゃんの気持ちも分かるけど、ここは慎重に行くべきだね。

「あ、あの……どうしたの? あけ……じゃなくて、ほむらちゃん?」
『あ、続きは後で。くれぐれも、今の’私’が不信がることは言わないでね』
『分かったわ』


「ごめんなさい、心臓の病気がまだ……とても胸が痛くて」

そんなことを言ってほむらちゃんは、保健室に着くと同時に制服のまま、ベッドに横たわる。

「大変だね、ほむらちゃん。じゃ、私は保険の先生呼んでくるから、ここでじっとしててね」

本日分、投下終了です。

次回の投下は、1/3を予定してます。ではでは

>>10で明日って言いましたけど、大晦日にいろいろと用事があることを思い出したので、ちょっと早めにうpりました。

ではでは。皆様よいお年を。

第03話「信じることしか出来なかった」

放課後、私鹿目まどかは、美樹さやかちゃん、志筑仁美ちゃんと3人でスイーツタイム。
話題はもちろん、美人な転校生、『暁美ほむら』ちゃんなのです。

「転校生さん、お綺麗な方でしたわよね……」
「うんうん、文武両道、才色兼備で都会育ちのお嬢様!! これは仁美のお嬢様キャラも危ういね」
「うふふ、私はお嬢様なんかじゃありませんわ。」
「なーに言ってんのよ。あ、そーだ、まどかはさ、あの転校生に会ったことあんの? なんか、二人とも雰囲気おかしかったよ?」

うん。そういえば、ほむらちゃんは私のことをずっと見つめていた気がする。
もしかして、そっちの気があるのかな。でも、ほむらちゃん綺麗だし……私もほむらちゃんなら……って、そんな訳無いよね。

「う、うーんと、常識的には初対面なんだけど……」
「なにそれ? 非常識なところで心当たりがあると?」
「あ、あのね……昨日あの子と、夢の中で逢った……ような」

そうなのだ、昨日の夜、私は不思議な夢を見た。
とても怖い、街が一つ崩れるような夢。そしてその中で、私は化け物に立ち向かうほむらちゃんを見た。

「あはははは、すげー、まどかまでキャラが立ち始めた」
「ひどいよぉ、私真剣に悩んでるのに」
「あーそれもう決まりだわ。前世の因果だわ。あんた達時空を超えてめぐり合った運命の仲間なんだわ!!」

常識的に考えれば、前世の因果というより私が覚えてないぐらいの昔に出会ったということだろう。
そう考えれば、ほむらちゃんの視線の理由も、夢に見た理由も説明がつく。
後は、ピッタリ昨日の今日で転校してきたことだけど、それはまぁ、偶然ということで。

「夢って、どんな夢でしたの」
「それがよく思い出せないけど、とにかく変な夢で……」

どっかん、ばっこん、瓦礫のように崩れたビルの話はちょっと物騒なので忘れたことにしておこう。

「もしかしたら、暁美さんと会った事があるのかもしれませんね。
まどかさん自身は覚えて無くても、深層心理では彼女の印象が残っていて、それが夢に出てきたのかも知れません」
「それ出来すぎてない? どんな偶然よ?」

うーん、確かに出来すぎだ。

「そうね、あらもうこんな時間。ごめんなさい、お先に失礼するわ」
「今日はピアノ? 日本舞踊?」
「お茶のお稽古ですの。もうすぐ受験だっていうのに、いつまで続けさせられるのか。」
「うわぁ、小市民に生まれてよかったわ」

そうだね。仁美ちゃんには悪いけど、そこは同意だ。

「私たちもいこっか?」
「あ、まどか帰りにCD屋よってもいい?」
「いいよ、また上条君の?」
「へへ、まぁね」

さやかちゃんは、本当に上条君の事が好きなんだなぁ……
私もさやかちゃんみたいに好きな男の子が出来るといいなぁ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

私、未来の鹿目まどかは、ほむらちゃんに連れられて魔女の結界へとやってきた。
ほむらちゃんのメモ帳には、どの場所にいつ魔女が現れるかが、事細かく記されている。
魔女の出現内容はループによって異なるらしいので、必ずしもアテには出来ないそうだが、それでもメモ帳の存在はありがたい。

今いる場所は、『私』とさやかちゃんが学校帰りによるCDショップの近く。
つまり、『私』が始めて魔法少女と魔女の存在を知ることになる場所だ。

「助けて……助けて……まどか」

弱々しいテレパシーが辺りに発信される。今の私が使っている相手を選ぶテレパシーではなく、誰にでも届くテレパシーだ。
そして発信主はもちろん、憎きインキュベーターである。

『白々しい、どうせ死ぬことなんか無い体の癖に』

テレパシーの発信元へ走りながら、ほむらちゃんが怒り顔で呟く。これには私も同感だ。
いくらでもバックアップがあるインキュベーターたちは、死ぬことなど考えられない。
それに、感情が無いと自称する彼らには、自称が正しいのだとすれば、『恐怖感』すら無いはず。
だとすれば、この弱々しさは間違いなく演技である。


『キューベーは嘘をつかない何て言うけど、これは間違いなく嘘だよね。要らない助けを求めてるんだから』
『あいつの言葉なんて考えるだけ無駄よ。何が真実で、何が嘘で、その上、何を隠しているのか分かったものじゃない』

魔力で身体能力を極限まで上げ、ほむらちゃんは全力疾走。
そのスピードは、もしかしたらオリンピック選手より速いかもしれない。

でも……

「ど、どうしたの。怪我だらけじゃない」
「た、助けてまどか……」

時すでに遅し。『私』とキューベーは出会ってしまっていた。

「そいつから離れて」
「だって、この子怪我してる」

ほむらちゃんは拳銃を片手に、『私』とキューベーを威嚇する。
『私』に警戒されたら後が厄介、なんて事今は言えない。なぜなら今この場では『私』とキューベーを引き離すことこそが最優先だからだ。


「ダメだよ、酷い事しないで」
「貴女には関係ない」

とは言え、震える『私』に対して、拳銃もほむらちゃんもあまりに無力だ。
ほむらちゃんの性格を考えれば、『私』に対して強く出られるはずも無い。

「この子。私を呼んでた。助けてって、聞こえたもの」
「そう」

表情一つ変えることなく、ほむらちゃんは拳銃を構える。
しかし、その鉄面皮の裏側に、大きな焦燥と迷いがあることを、未来の私は知っている。

「まどか、こっち!」

そして、これから発砲! というところで、さやかちゃんが現れる。
『私』はさやかちゃんに連れられて、キューベーを抱えながら逃げていった。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「何だよアイツ。今度はコスプレで通り魔かよ! つーか何それ。ぬいぐるみ……じゃないよね?」
「わかんない、わかんないけど。この子助けなきゃ」

『私』とさやかちゃんは、逃げながら気づかないうちに魔女の結界へと入っていく。

『追うわよ、魔法少女のことを知られる前にインキュベーターを倒せば、まだ間に合う』
『分かったよ。ほむらちゃん!』

私は、魔力を込め。ほむらちゃんに渡す。
すでに濁り気味だったほむらちゃんのソウルジェムは、瞬く間に輝きを取り戻し、濁りの無いそれへと変わっていく。

再び身体強化の魔法を使い、ほむらちゃんの体がきしむ。
華奢な彼女の足に、まるで陸上選手のように筋肉が盛り上がっていく。
そして、さらに使用時間の限られた『時間停止魔法』も使う。
インキュベーターと『私』が接触した以上、一刻の猶予も無いからだ。

『行くわよ!!』


まるでジェットコースターを思わせる突然の加速。
限界まで肉体を強化した魔法少女に追いつけるのは、同じ魔法少女だけだ。
これなら、絶対に『私』たちに追いつける。

そう思ったのも束の間。突然、魔女の結界が晴れた。

『こ、これって……』
『結界の主……、つまり魔女が死んだか、逃げたのよ』

ほむらちゃんはそう言って身体強化の魔法を解除する。もう意味が無いからだ。

『ってことは……つまり……』
『考えられることは一つ、巴マミが来たのよ。こんなに早いのはめったに無いのに、運が悪いわ』

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「危なかったわね、でももう大丈夫」

力なく歩く私とほむらちゃんの前に現れたのは、見滝原中学の先輩、巴マミさん。
金色の髪を縦にロールした彼女は、ほむらちゃんに匹敵するぐらいの美人さんだ。
そして、私と『私』の憧れの人でもある。

私とほむらちゃんは物陰に隠れて様子を見る。
インキュベーターは『私』が抱えてるから、狙撃で倒すことも出来ないし、接近戦を挑んだところでマミさんに止められる。
だから、身を隠してチャンスをうかがうほか無いのだ。

「あら、キューベーを助けてくれたのね。その子は私の大事な友達なの」
「私、呼ばれたんです。頭の中に直接その子の声が……」
「ふぅん、なるほどね。その制服、貴女たちも見滝原の生徒みたいね。2年生?」
「貴女は?」
「そうそう、自己紹介しないとね。でも、その前に……隠れてるんでしょう。出てきなさい!!」

どうやら、マミさんには、私たちが隠れているのがバレていたらしい。

「魔女は逃げたわよ。今から追えば、グリーフシードも手に入るわ」

「私が用があるのは……」

ほむらちゃんはグリーフシードを十分蓄えているので、特に必要としていない。
それより今はインキュベーターと『私』のほうに用がある。

「飲み込みが悪いのね、見逃してあげるって言ってるの。お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」

ここで言う『余計なトラブル』とは、魔法少女同士の縄張り争いのようなものだろうか。
しかし、ほむらちゃんも私も、そんなことには興味が無いのだ。それにトラブルというのなら、すでに最上級のトラブルに巻き込まれている。
そう、魔法少女になった時点で、私もほむらちゃんも、マミさんも既にトラブルの被害者なのだ。

「……そうね、もう。手遅れのようだし……」

ほむらちゃんは、インキュベーターを見つめながら恨めしそうに去る。
インキュベーターは、『私』の胸元が一番の安全地帯であることを知っているかのように動こうとしない。
そこから少しでも出れば、ほむらちゃんはインキュベーターを蜂の巣に出来るというのに……

私とほむらちゃんは無力感に苛まれつつ、その場を去った。
今日はまだ契約しないと思う。きっとそうだと思う。だからまだチャンスはある。
今の私たちには、そう信じることしか出来なかった。

次は1/4~1/5の間にあげます

投下終了です。
次は1/4~1/5の間にあげます。

ではまた

投下します。

第04話「魔力をよこしなさい!!」

数日後、魔女の結界。
今ここには、ほむらちゃんと私。そして、『私』たちがいる。

「分かっているの、貴女は無関係な一般人を危険に巻き込んでいる」
「彼女たちはキュウベェに選ばれたのよ。もう無関係じゃない。」

確かに無関係は言い過ぎかもしれない。しかし、だからと言って危険に巻き込んでいい訳じゃない。

「貴女は、2人を危険にさらしているのよ」
「何も知らないでいるより、マシじゃ無いかしら?」
「命の危険を冒してまで知る必要のあることとは思えないのだけれど」

その通りだと思う。きっとマミさんは、魔法少女の後輩が出来そうで嬉しいのだ。
そして、後輩の前でいい格好をしたいのだ。そんな下心があって『私』たちを連れまわしている。
もちろん、魔法少女の実態を説明しようとするマミさんの理屈も分からないでは無いのだけれども……

「知る必要があるかを判断するのは、暁美さんじゃなくて美樹さんと、鹿目さんのはずじゃない?」


口ではそんなことを言っているが、マミさんは仲間を欲しがる気持ちを隠しきれていない。
だから、キューベーに目をつけられた『私』たちを連れまわして、魔法少女体験コースなんてやってる。

そりゃ確かに『私』が承諾した以上、私が口を挟む権利は無いかもしれない。
でもマミさん。それは前提として、正しい知識が与えられての話だよ。
嘘つきのキューベーと、それに騙されているマミさん2人に促された『私』たちの判断なんて、どれぐらいの意味を持つのかな。

「貴女とは争いたくないのだけれど……」
「なら二度と会うことが無いよう努力して。話し合いだけで事がすむのは、きっと今夜が最後だろうから」


ほむらちゃんの第一優先は、『私』だ。
相手がかつての師匠マミさんとは言え、『私』が契約しそうになったら、迷い無く戦いを選ぶだろう。
でも、私の気分は複雑だ。
さっきも言ったけど、マミさんだってキューベーに騙されている被害者。
そう簡単に戦っていいのかなぁ……

こうして、私たちと、マミさんの関係は最悪なものになった。
自宅への帰り際、ほむらちゃんはいつもの無表情をより冷たいものへと変えて、私に呟く。

『巴マミとの戦いになったら、貴女の力も借りるわよ、まどか』
『へ、えぇ……?? え、ええっと……』
『大丈夫、貴女は最強の魔法少女。その気になれば、マミぐらい軽く蹴散らせるわよ』

蹴散らせたら、それはそれで困るのだけど……


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

ここは病院前。

「はぁ……よ、お待たせ!」
「あれ? 上条君、会えなかったの?」

私鹿目まどかは、さやかちゃんと待ち合わせなのです。

「なんか今日は都合悪いみたいでさ。わざわざ来てやったのに、失礼しちゃうよね」

そんな事言いつつ、さやかちゃんは嬉しさが隠せそうも無い。
たとえ一秒でも、上条君に会えると、さやかちゃんの笑顔が通常の3倍になる。
好きで好きでたまらない、それがさやかちゃんにとっての上条君だ。

と思っていると、……病院の壁に不審なものを見つけてしまった。

「ん? どうしたの?」
「あ、あそこ……」
「グリーフシードだ。孵化しかかってる」


グリーフシード。それはつまり、魔女の卵。病院なんかで孵化されたら、一体どれだけの被害が出ることか。
既に私たちは、マミさんから魔女やグリーフシードの説明を受けている。
そして、魔女が人の憎しみや悲しみと言った負の感情を糧にすることも知っている。

「嘘……なんでこんなところに」
「まずいよ、早く逃げないと、もうすぐ結界が出来上がる」
「またあの迷路が!?」

逃げたい、でも、ここで逃げたら病院の人たちが犠牲になっちゃう。
そうだ!

「は、早くマミさんに連絡しないと!!」
「マミさんの携帯聞いてる?」
「ううん、聞いてない」


しまった。聞いておくべきだった。まさかこんなすぐに魔女とご対面なんて、考えもしなかったし……

「まずったな。まどか、先行ってて、マミさんを呼んで来て。私はこいつを見張ってる」
「無茶だよ!! 中の魔女が出てくるまではまだ時間があるだろうけど、結界が閉じたら君は外に出られなくなる。マミの助けが間に合うかどうか……」
「あの迷路が出来上がったら、こいつの居場所も分からなくなるんでしょ。放っておけないよ、こんな場所で」

さやかちゃん……すごいな。私にはそんな考え浮かびもしない。
ちょっと自己嫌悪になるけど、マミさんが居ないのなら、逃げるしかないって思っちゃった。


「仕方ない。まどか、マミを呼んで来てくれ、さやかには僕がついてる。
マミが来ればテレパシーで僕の位置が分かる。最短距離で結界を抜けられるよう、マミを誘導するから」
「ありがとうキューベー」
「私、すぐにマミさんを呼んでくるから」

さやかちゃんの勇気に及ばないけど。それでも、マミさんを呼んでくるぐらいなら出来る。
待っててねさやかちゃん。すぐにマミさんを連れてくるからね。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

私は巴マミ。
鹿目まどかさんから魔女のことを聞かされた私は、その場所へと急行した。

「ここね(キューベー、状況は?)」

場所を確認すると同時に相棒へとテレパシーを送る。

(今のところ大丈夫だね。孵化する様子は無いよ)
(さやかちゃん大丈夫?)
(全然へいき。退屈で寝ちゃいそう)

どうやら、結界の中に美樹さんがいるという情報も確からしい。
出来ればすぐに逃げて欲しかったけれど、今は言うまい。

(マミ、大きな魔力で刺激すると魔女が孵化する恐れがある。急がなくて良いから、なるべく静かに来てくれ)
(分かったわ)


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

私は未来の鹿目まどか。
今日は○月×日。忘れもしない、マミさんが魔女に殺される日だ。

前回のループで魔女が孵化した周辺をパトロールしていた私とほむらちゃんは、マミさんより一手遅れて魔女の結界を見つけた。

『いつも魔女の場所が微妙にずれるのよ……』

そう愚痴をこぼすほむらちゃん。
ズレの原因は概ね推測できる、恐らくインキュベーターだろう。

インキュベーターは、魔力を感知することが出来る。既にほむらちゃんと接触した彼らは、ほむらちゃんの魔力パターンを読み取り、ほむらちゃんにバレない場所で魔女を孵化させているのだ。
そう考えると、前回と少しずれた場所で、魔女の結界が出来た理由に説明がつく。

『巴マミより先回りして、シャルロットを倒すわよ』
『さ、先回りって、どうやって?』


シャルロットとは、ほむらちゃんが付けた魔法少女の名前だろうか。それとも、人語を解さないように見える魔女たちも、条件によっては自己紹介することがあるのだろうか。
あぁ、そういえば仇敵「ワルプルギスの夜」にも名前が付いていたっけ。

少し思考が脱線したが、すぐに私は意識を『先回り』へと戻す。
結界の入り口から、シャルロットまでは一直線。
つまり、先に入った『私』とマミさんに気づかれること無く、シャルロットに到達することは出来ないはず。

『停止した時間の中を移動するわ。いつもなら長時間使えないけど、今は貴女がいる。力の補給、お願いね!』
『分かったよ、ほむらちゃん!!』

なるほど、ほむらちゃんは、入り口から中央まで、そして魔女を倒しきるまで、すべて停止した時間の中で行うつもりのようだ。
それなら、『私』たちにも、インキュベーターにも気づかれることは無い。

歯車で彩られたいつもの盾を構え、『時間停止の魔法』を発動するほむらちゃん。
私の無限に近い魔力と、時間停止魔法のコンビネーションは、恐らく無敵だろう。

時間が停止し、灰色になった世界の中をほむらちゃんは走る。
今度こそマミさんを生きたまま助けるんだ。そう決意を固めながら。


しばらく進むと、『私』とマミさんが現れる。
停止した時間の中の私は、少しの不安さとマミさんに対する信頼感をまぜこぜにした複雑な表情をしている。
でも、今は彼女たちにかまけている暇は無い。2人を助けるためにも、ここは『無視』が正しい選択。

そう思って、二人の横を駆け抜けようとすると、突然、時間の歯車が動き出した。
ほむらちゃんの『時間停止魔法』が切れたのだ。
なんで、ほむらちゃんは何もしてないのに……

「こ……これは一体……」

当のほむらちゃんも何が何だか分からないと言った表情だ。
それもそうだろう、さっきまで時間を停止していたはずなのに、突然動き出したのだから。

そして、『私』たちのすぐそばで魔法が切れたということは、すなわち……

「あ、貴女……どこから現れたの?」
「っく……巴マミ……」

マミさんは一瞬だけ驚いたような表情を見せたが、すぐにいつもの自信たっぷりの表情へと戻る。
突然現れたのは、ほむらちゃんの魔法、そう理解したのだろう。魔法少女同士、理解が早いのは良いのか悪いのか。

「言った筈よね、二度と会いたくないって」
「今回の獲物は私が狩る。貴女は手を出さないで」
「そうも行かないわ、美樹さんとキューベーを助けに行かないと」
「その2人の安全は保障するわ」
「信用すると思って?」


突然現れたマミさんのリボンに、ほむらちゃんは成す術無く拘束される。
時間操作能力を無くしたほむらちゃんは、マミさんに抗う術を持たないのだ。

「ば、ばかこんなことやってる場合じゃ。」
「もちろん、怪我をさせるつもりは無いけど、あんまり暴れると保障できないわよ」
「今度の魔女は、これまでの奴らとは訳が違う」

そう、マミさんは勝てない。私たちは、この魔女の実力をよく知っている。

「大人しくしてたら、帰りにはちゃんと解放してあげる。行きましょう鹿目さん」
「ま、まって……」

マミさんと『私』は、結界の奥へと進んでいく。
まずい……このままでは、歴史を繰り返してしまう。

『まずい事になったわ。貴女も知ってるでしょう。この結界の魔女に、巴マミは勝てない。何としてでも、この拘束を解くわよ』
『そ、そうだね……』

拘束を解きたい。でも、今の私にはほむらちゃんに魔力を渡すことしか出来ない。
そして……ほむらちゃんの力で、この拘束術は……

いや、今は何も考えないでいよう。
私は自分の全力でもってほむらちゃんに魔力を供給する。電池と揶揄された今の自分がこんなにも恨めしいなんて……


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

結局、私とほむらちゃんはマミさんの拘束魔法を解けなかった。
マミさんの象徴である真っ赤なリボンは、解けるのではなく、半透明になってフェードアウトした。

「っく……」

ほむらちゃんが悔しそうに地面を殴る。そして、一言マミさんすいません……と呟いた。
そうか、ほむらちゃんにとってもマミさんは大切な先輩だったんだ。
いつも険悪だから気づかなかったけど、最初のループでは、魔法少女の師匠だったと聞いている。

きっと私よりマミさんを好きだったのだろう。

「急ぐわよ」

しかし、ほむらちゃんに悲しんでいる時間は無い。
あそこにはまだ、『私』とさやかちゃんがいる。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「まずい事になった。まさかマミが死ぬなんて……」

私とほむらちゃんがたどり着いた結界の奥には、巨大化した魔女と、『私』たちがいた。
そして、インキュベーターは白々しく、『私』たちの前に立っている。

『私』たちから見れば、庇ってくれているように見えるだろうが、あれは演技だ。
インキュベーターたちは、決して死ぬことの無い肉体を持っている。
そして、彼らの目的を考えれば、『今、鹿目まどかに死なれる』ことは大きな損失だ。
『鹿目まどかが死ぬなら、魔女になってから』そう考えているだけに過ぎない。

「まどか、さやか、もうこうなったら、君たち2人のうちどちらかが契約するしかない。今すぐボクと契約を!!!」
「その必要は無いわ!!」

身体能力をぎりぎりまで高めたほむらちゃんが、『私』たちの前に躍り出る。
そういって前回の時間軸でも助けてくれたけど、今のほむらちゃんは時間停止魔法を失っている。
果たして、あの魔女に勝てるのだろうか。

『ほむらちゃん、勝てるの?』
『まどか、貴女の心配は分かるわ……』
『う、うん……』
『確かに私は、時間操作能力一点特化型の魔法少女。その他の力は、ベテランの巴マミに大きく劣る』
『だったら、ここは逃げたほうが……』
『ふざけないで!!』


そういったほむらちゃんの表情は、今まで見たことが無いほど怒りで歪んでいた。

『これは巴マミの弔いよ、弟子の私が逃げるなんて出来るわけがない』

そうだった。ほむらちゃんは、マミさんに冷たい態度を取っているから忘れがちだけど、最初の時間軸でマミさんの教えを受けた弟子でもあるのだ。
彼女の怒りや悲しみは、マミさんと知り合って数日しかない私には推し量れるものではなかったのだろう。

我を忘れて、ほむらちゃんは自身の拳を、魔女へと叩きつける。
近代兵器魔法少女を自称するほむらちゃんが見せる初めての肉弾戦だ。
ギリギリまで強化した筋肉は、確かに魔女にも効果がある。しかし、殴った反動で、ほむらちゃんの腕まで吹き飛んでしまう。

『魔力をよこしなさい!!』

肘から先が外れた自分の腕をすぐさま私の魔力で回復させるほむらちゃん。
殴っては、蹴っては飛び散る自身の肉片。しかし、それはすぐさま私の魔力で回復させられる。
降りかかる血は、魔女の返り血か、それともほむらちゃんの血か……
いずれにせよ、赤黒い血肉に彩られたほむらちゃんの表情は修羅のようにゆがんでいた。
そして、その表情は魔女さえも恐怖させ、怯えのままに敗走させる。

『逃がすか!!』

最後に放った背後からの一撃が、魔女の後頭部を砕き、そのまま絶命させた。

投下終了です。
次回は1/6~1/8の間にうpります。

ではでは

投下します

第05話「自分の名前も忘れちゃったんですか?」


魔女の結界が解け、病院の前に移動した私たちは、マミさんの死体を目立たない場所へと運ぶ。
魔法少女と魔女の戦いを見た『私』とさやかちゃんは、今もなお恐怖で顔をゆがめている。

「……よく覚えておきなさい、これが魔法少女になったものの末路よ」
「うそ、うそよマミさんが……」
「貴女たちも契約すればいずれこうなるわ」

いつも通りの鉄面皮ほむらちゃん。
しかしその心中は穏やかではない。自身の無力をかみ締め、なぜマミさんを助けられなかったのかと、本気で悔やんでいるはずだ。
しかしそれでも、ほむらちゃんはマミさんのことだけを考えるわけにはいかない。
マミさんの死後、さやかちゃん達が契約したら、元も子もないのだ。

「あんた、よくそんな冷静な顔していられるね!! あんたがもう少し早ければ、マミさんは死なずに済んだんだ。
あんたが殺した!! マミさんはあんたが殺したんだ」
「ち、違うよさやかちゃん。ほむらちゃんがいなかったら、私たち皆死んでたんだよ。ほむらちゃんのおかげで助かったのに……」

さやかちゃん……。今は少しだけでもほむらちゃんの気持ちを察して欲しい。
ほむらちゃんは、ここにいる誰よりマミさんが好きで、ここにいる誰より、マミさんの死を悲しんでいるのだから。



「……わ、私だって……」

悔しさと悲しさで、表情が歪みそうになるも、ぐっと堪える。

「返してよ、私たちのマミさんを返してよ!!」

無茶なこと言わないでよ、さやかちゃん……
私だって、出来るならマミさんを生き返らせたい。でも、今の私たちには無力なんだよ。

『何が最強の魔法少女だよ……私はマミさん一人助けることが出来なかったじゃない!!
そうだ、私がマミさんに魔力を渡せばよかったんだ。そうすれば、マミさんだってきっと……』
『よしなさい、いい策があっても、思いつかなかったのなら、それが私たちの実力、そして巴マミの運命だったのよ』

「マミさんはな、本当に優しい人だった。私たちのために戦ってくれた、もう一度あの人に合わせてくれよ……」

さやかちゃんの慟哭を耳に、私とほむらちゃんは何もすることが出来ない。
結局、私たちに運命を変えることなんて出来ないのではないだろうか。




「ねぇ、君たち。巴マミの肉体がおかしいよ」

インキュベーターが口を開いたのは、私たちが無力感を十分にかみ締めた後だった。

「巴マミの体が……?」

相も変わらず、マミさんの体は首からビュクビュクと血を吹く出している。
心なしか血の量が少なくなった気がするが、それは時間が経ったからだろう。

「ボクは魔法少女の死体をいくつも見てきたけど、死んでしまった彼女たちはすぐに力を失うはずさ」

空気読めこの宇宙人が!

「巴マミの体は死んでから数分経っているというのに、まだ心臓が動いている。つまり……もしかしたら、彼女はまだ生きてるんじゃないかな?」

『また、あの宇宙人がおかしなこと言ってるよ、ほむらちゃん』
さっさとインキュベーターを殺してくれ。
自分の心がこんなに大きな闇に包まれた事など、私は初めて経験した。それぐらい、今はあの白い獣が憎い。


「あいや、……でも、まさか……」
「生きてるなんて、そんなわけ無いでしょ。キューベーも悪ふざけは止めてよ!」

さやかちゃんの怒りはより大きなものへとシフトする。
しかし、どうしてだろう。ほむらちゃんの表情には若干の明るさが戻っている。まさか、インキュベーターの言葉を信じているんじゃ。

『……インキュベーターの言葉なんて信じるに値しないけど、でも、今までの時間軸で、巴マミの心臓が動き続けることなんて無かったわ』
『そ、そうなの??』

死体を見たことなんてほとんど無いけれど、言われてみれば確かにマミさんの死体はおかしい。
いつまでも力を失うことが無いようにも見える。もしかしたら、本当に……

『そうだわ、魔法少女の本体はソウルジェム。つまり、首から上が無くなったとしても、ソウルジェムが生きてるのなら』
『そ、そうか!!』

悲しむのはまだ早かったのだ。もしかしたら、マミさんは生きているのかもしれない。
私とほむらちゃんは一縷の望みにかけて、マミさんに魔力を注入する。



「そうだね。首から上が戻れば、マミは生き返ると思うよ」
「アンタ、人間をトカゲか何かだとでも思ってるの。生き返るわけ無いじゃない!! ふざけた事いわないでよ!!」

確かにさやかちゃんの言うとおりだ。常識で考えれば。
しかし、マミさんは魔法少女である。常識や条理を覆す奇跡の存在、それが魔法少女。
ならばまだ、望みはある。

「静かにしなさい美樹さやか。ソイツの言うとおり、巴マミはまだ生きている可能性があるわ」

そう言ってほむらちゃんは、魔力を注入してマミさん蘇生のために魔力を注ぎ込む。

『巴マミの体には、首から上の記憶が残っているわ。その記憶に魔力を混ぜれば、巴マミは復活するはず』
『やったことは?』
『もちろん無いわよ、喋ってる暇があるなら、魔力をもっと送りなさい!!』

そうこうしているうちに、マミさんの首にからはみ出した血管が、まるで触手のようにうごめきだす。
そして、そこから先は早かった。まるで、どこかのアニメのように、マミさんの頭が首から生えてきたのだ。



「う、うそ……本当に生き返った……」
「ま、マジ……」
「こ、こんなことって……」

ほむらちゃん、さやかちゃん、『私』の3人が一様に驚きの声を上げる。
頭を取り戻したマミさんの肉体は、傷一つ無い姿で、芝生に横たわっている。
スヤスヤと寝息まで立てて、その姿は、生きているときとまるで変わらない。

「やった、やったよ。マミさんが生き返ったんだ!!!」

喜び合い、抱き合うさやかちゃんと『私』。
しかし、2人の喜びもそこまでだった。

『ね、ねぇ……ほむらちゃん、これって……』

肉体が蘇生したのだから、すぐにでも意識を取り戻すはず。
そう思っていたのもつかの間、私とほむらちゃんは、マミさんの首にぶら下がったソウルジェムを見つけた。
それは紛れも無く、砕かれ、原形をとどめていなかったのだ。


「あれ? 巴マミが生きているかと思ったら、もう死んでるじゃないか。勘違いしてゴメン。
おかしいな、君たち魔法少女はソウルジェムが無くなったら肉体の力も失うはずなのに……」

「あ、アンタまた……さっきは生きてるって言ったり、今度は死んでるって言ったり……いい加減にしてよ!
マミさんは、どう見ても生きてるじゃないか。寝息まで立てて、もうすぐにでも起き上がりそうじゃないか!!」

さやかちゃんは、再びインキュベーターに怒りをぶつける。

「そう言ってもさぁ、さっきは生きてると思ったけど、よく確認したら死んでたってだけだよ」
「だけって、ふざけるなよ!!」

しかし、先ほどと同じく、残念ながらインキュベーターの言うことが正しい。
生きていると思われたマミさんは、残念ながら……死んでいて……

「うぅ……どうして、私たちはいつも……」

悔しさで私は涙がいっぱいになる。
魔法少女になった時点で、マミさんの人生は既に決まっていたというのだろうか。

「こんな悲しいことって無いよ……」


ソウルジェムになり、文字通り涙も枯れ果てたと思っていた私の瞳にも涙が宿る。

「うぅぅ……」

しかし、悲しみに震える私とは違い、『私』たちの表情は一転喜びに打ち震えたものになった。

「マミさん!! やっぱり生き返ったんだ!!」

え? マミさんが生き返った。うそ、ソウルジェムは砕けてたはずじゃ……

「マミさん、よかったぁ……生き返ったんだ……」

そう言って、さやかちゃんは私に抱きついてくる。
え? 私に、抱きつく? 嘘よ、だって私はソウルジェムのはずじゃ……

「こ、こんなことって……」

よく見ると、目の前にほむらちゃんがいる。私はさっきまで、ほむらちゃんの首にぶら下がっていたはずだ。
でも、今はほむらちゃんと対面している。これはどういうことだろう。


「マミさん、よかったぁ……死んだかと思っちゃったんですから……」

『私』が安どの表情で、私を見つめる。

『貴女、巴マミになってるわよ!!』

事情のつかめない私に、ほむらちゃんが、テレパシーで助け舟を出してくれる。
でも、いまだに何が起こったか理解できない。

「え……私……巴? マミ?」
「何言ってるんですか、自分の名前も忘れちゃったんですか?」

「少し記憶が混乱しているのよ。ついさっきまで頭を無くしていた訳だし……」

混乱する私に、ほむらちゃんがもう一度助け舟を出す。

「少し、休んだほうが良いわね。魔法少女によく効く薬を持ってるの。私と一緒に来てくれるかしら? 巴マミ?」
「あ、あうん……」

私、鹿目まどか。でも今はなぜか、巴マミさんになってしまいました。

投下終了です。
マミさんはマミってこそ完成すると思います。

次回は、1/10~1/13の間にあぷします。

感想ありがとうございます。本日の分を投下します。

第06話「美味く出来てるじゃない」

翌日、いまだ整理の付かない私はほむらちゃんの家で目を覚ました。

「こんなことは初めてよ。貴女が巴マミになるだなんて……」
「私も何が何だか……」

「恐らく、主を失った巴マミの肉体と、肉体を失ったソウルジェムの貴女が、引き合ってこんな奇跡を起こしたのね……
ソウルジェムだけの魔法少女なんて前例が無いから……」

「でも、この体はマミさんの……」

この肉体の持ち主はマミさん。ちょっと歩くだけで、重たいものがゆれて胸の付け根に慣れない痛みが走る体は私のものじゃない。

「ソウルジェムだけの体に戻る事は出来る?」
「う、ううん……やり方がわからないよ」

「いずれ巴マミの肉体は返さなければならない。でもそれは、鹿目まどかと美樹さやかを悲しませることになる。
それ以前に返す方法も分からないとなると……」
「しばらくはマミさんの体で過ごすほか無いよね……」

肉体を返すまでの間、私はマミさんとして過ごすことになる。
他人として過ごすなんて、今まで想像もしたこと無かったよ……


「で、でも……マミさんの真似なんて出来るかな……」
「すぐには無理でしょうね。巴マミの交友関係は、私も……そして貴女も知らないでしょ?
本人は友達が少ないように言っていたけれど、あの性格だし、本当にそうだとも思えないのよね」

確かにそうだ。明るく社交的な性格のマミさんなら、クラスメートの何人かが友達になっていると考えるのが自然。
本人の自宅ではケーキを振舞うのが通例となっているようだし……そう考えると、簡単にマミさんに成りすますことは出来そうもない。

「しばらくは風邪を引いたことにでもして、学校を休みなさい。今通っても、巴マミの同級生に怪しまれる可能性があるわ」
「う、うん。分かった」
「それから、巴マミには遠縁の親戚しか居なかったはずだから、学校への連絡は自分で入れることね……今日の連絡は、昼からでいいと思うわ」

既に午前8時近い。学校のホームルームが始まるのが8時30分だったから、今から連絡しても意味は無いだろう。

「で、でも連絡先なんて分からないよ!」
「家に帰れば、クラス担任の連絡先がどこかにあるでしょう。それを探しなさい」
「い、家……って言われても」
「制服のポケットに鍵や財布、生徒手帳が入っていると思うわ」

そう言われて、ポケットの中を探る私。中からは言われたとおりの3点セットが出てきた。

「生徒手帳に住所があるでしょ、それにマンションの鍵で帰れるはずよ。不安なら、今日は私も付いて行くわ」
「あ、ありがとう……」


「あと、休みなさいと言った手前、矛盾するようだけど、鹿目まどかと美樹さやかの前には出来る限り早く顔を出しなさい。
あの2人は、貴女のことを心配してるでしょうからね」

そう言って私はマミさんのマンションへと移動する。
マンションの場所は、記憶があいまいだったので、生徒手帳の住所を元にスマフォで調べながら進んでいった。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

家に着くと、既に9時を回っていた。

「ご、ごめんほむらちゃん……」

今日休むことにしている私はともかく、ほむらちゃんは完全に遅刻だ。

「気にしなくて良いわ。どうせ授業なんて何度聞いたか分からない話だし、連絡が遅れたことは、心臓病を言い訳にでも使うから」

……ありがとう、ほむらちゃん。こんな私のために……

「それより巴マミの連絡網でも……お、お前は!!」

言いかけたほむらちゃんの視線の先にインキュベーターが現れる。

「やぁ、巴マミ……そして、暁美ほむら、だったかな? 一日ぶりだね」

きゅっぷい、などという独特な笑い声をあげてインキュベーターは、ガラス製の机の上に飛び乗る。


「なぜお前がここにいるの?」
「その質問はむしろこっちがするべきじゃないかな、ここは巴マミの家。そして、ボクはずっと巴マミと一緒に過ごしてきた、謂わばペットとも言える存在だ」

そうだった。インキュベーターとマミさんの仲は悪くない。
2人は、マミさんが交通事故をきっかけに魔法少女になって以来、ずっと一緒に暮らしている。

「それにしても、君たち2人の魔力は実に独特だね。
暁美ほむらは、固有魔法の力を持たないみたいだし、巴マミの方は固有魔法の力が、この前までと全然違っている」
「固有魔法?」
「君たち魔法少女が、願いによって得る力のことさ。君たちには、2種類の力が与えられている。
魔法少女なら誰しも持つ共通の魔法力と、個人個人の願いに応じて異なる個別の魔法力」

『ほ、ほむらちゃんの固有能力って……』
『えぇ、時間操作能力のことでしょうね』

「共通の魔法力は、皆同じ形をしてるから、ボクにも区別がつかないけれど、固有魔法なら違いがあるので識別できる。
それによると、巴マミ。君は首がなくなる前と後で、まるで別人のように魔力の型が変わっている。一体君に何があったって言うんだい?
それにそもそも、ソウルジェムが無くなっても生きてるなんて、そんな話聞いた事ないよ」
「可笑しなことを言うわね。魔法少女は奇跡を具現化した存在よ。その程度の奇跡、起こせて当然じゃない」
「いやいやいや、暁美ほむら。奇跡って言うのは、君たち人間にも分かりやすく表現しただけの言葉だよ。
当然、その裏側には、君たち人類の知りえない科学があって、魔法少女の力は、その科学の理に則って動いているはずさ」
「なら、今回もそうなんでしょ。お前と話すことなど何も無いわ、巴マミのことが知りたければ、科学の理とやらで、推論を働かせなさい。一人で勝手にね」


インキュベーターは、目を閉じ、少しだけ頭をかきながら、困った風に答える。

「でもさ、ここはボクとマミの家なんだよね。推論を一人で働かせるのは良いけれど、一人というのなら、邪魔な君には出て行ってもらえないかな?」
「ほむらちゃんは、大切なお客さんだよ。今日はキュウベェの方が出て行ってくれないかな?」

マミさんの体を借りるということは、すなわち、インキュベーターとも付き合っていくのだ。
そのことがよく分かった。

「おいおい、どうしたんだい。突然出て行けと言われても、ボクは困るよ」
「お前たちインキュベーターが、巴マミを……いや、魔法少女たちを騙していたことを教えたわ。もう、巴マミはお前と一緒にいたくないそうよ」

そ、そうか。
ここにいるのは、インキュベーターの秘密を知る者だけ。だから、奴らが秘密にしている全ての情報を遠慮なく使えるんだ。


「魔法少女を騙している? 一体なんの事だい?」
「そうね、魔法少女には2種類の魔力があるって話とかかしら?」

あれ? その話のほうに行くの? ソウルジェムが魂の入れ物だとか、魔法少女がいずれ魔女になるとか……

「おかしなことを言うね、その話なら既にマミに説明したはずだよ」

「私の固有魔法の力が尽きたのに生きているのはなぜ?」
「それは君の理解が足りてないだけだよ。魔力が尽きたら死ぬって言うのは、両方の魔力が尽きた時のことさ」

『なるほど、シャルロットの結界で時間操作の力が使えなくなったのは、そういうことね……』

ほむらちゃんが、私にだけ通じるテレパシーで話しかけてくる。
なるほど、ここにいる3人は既にソウルジェムや魔女誕生の秘密を知っている。
だからほむらちゃんは、私たちの知らない固有魔法の理解に努めているんだ。

「固有魔法の尽きた魔法少女はどうなるの?」
「どうもならない。グリーフシードで魔力を回復させるか、2、3日休めば少しは回復するはずだよ。
でもグリーフシードを使わない限り、固有魔法と共通魔法の総量が減るけどね」

なるほど。分かりやすい。
固有魔法力がゼロになっても、共通魔法の力が残っていれば、そちらから補填される。
魔力の総量は変わらなくとも、どちらか一方が残っていれば足りない側を補う仕組みになってるんだ。


『知らない情報が手に入ったわね。もうこいつに用は無いわ』

私にだけ通じるテレパシーを送った後、ほむらちゃんは無表情でインキュベーターをベランダから蹴り飛ばした。
っていうか、今のやり取りだけを見てれば、どう見てもほむらちゃんが悪役です。どうもありがとうございます。


その後、ほむらちゃんと私は2人で、マミさんの家を捜索し、連絡網を手に入れた。
予想外に時間がかかったので、私が学校に連絡したときには、午後の1時を過ぎていた。
ほむらちゃんは、その後すぐに学校に向かったが、午後の授業から出席したのでは、早乙女先生の印象も悪くなってしまうに違いない。
本当にごめんなさい、ほむらちゃん……でも、ありがとうね。




マミさんの体にとり憑いて、家にまでお邪魔して…………、ほむらちゃんに迷惑かけて…………
私、本当に何も出来ない子だ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



巴マミが死に、鹿目まどかがその体に取り付いた翌日。私、暁美ほむらは重役出勤ならぬ重役登校をした。
早乙女先生にはこっぴどく怒られたが、元々学校での友人関係が希薄な私にとって登校時間が遅くなることなど、大した問題ではない。

それにしても、この時間軸は、鹿目まどかが一緒に戻ってきたことといい、巴マミに乗り移ったことといい、イレギュラーが多すぎる。
これでまた、青い子が契約なんかして、それもイレギュラーだったらどうしてくれようか。

「ね、ねぇ転校生。マミさん、どんな具合だった?」

そんな青い子が、ピンクの子と一緒に私の席にやってくる。

「魔法少女に効く薬ってちゃんと飲んだの?」

魔法少女に効く薬? あぁ、そう言えば昨日はそんなデマカセで逃げたのだっけ。
むろん、そんな薬などあろうはずも無く、私は適当にあしらう他なかった。


「もちろんよ。昨日は私の家に泊めたけど、今朝、自分の家に戻って行ったわ」
「よ、よかったぁ……」
「ねぇマミさんの家に、お見舞いに行ってもいいかな?」

お見舞い。うーん、あまり巴マミの姿が見えないのも怪しまれるので良くないが、さりとて、今の『マミ』と逢わせてもボロが出るだけ。
少しだけ『マミ』の演技を練習させてからのほうが良いだろうか。でも果たして、練習に何日かかることか。前例が無いことなので全く分からない。
分からないなら、金色の子に考えてもらおう。

「さぁ……お見舞いに行って良いかどうかは分からないわね。一度、携帯にかけて見たらどうかしら? 電番聞いてるわよ?」
「あ、ありがとう。ほむらちゃん」
「どういたしまして」

金色の子が電話でどんな対応をするか分からないが、青い子とピンクの子の2人は、声が聞けるだけで安心するだろう。


結局、その日。美樹さやかと鹿目まどかは、携帯電話で巴マミ(本名、鹿目まどか)と数分だけ話したようだ。
また、巴マミの調子が思ったほどよくないとのことなので、お見舞いは断られたらしい。うん、無難な展開だろう。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


放課後。学校が終わり家へと帰宅する生徒たち。
「んじゃ、またーー!!」
美樹さやかが、私に笑顔で手を振ってくれる風景は、全ループでも極めて稀な光景だ。
巴マミを復活させたプチ英雄として、彼女の信頼を十分に勝ち得ることが出来たらしい。

さて、その巴マミ……本名鹿目まどかが気になるので、今日は自宅へと帰らず、巴邸へ直行することにしよう。


巴邸に入ると、中では鹿目まどかが、料理本片手にチーズケーキを作っていたところのようだ。
昨日の今日でこの適応ぶり。私の知らないまどかの一面を垣間見た気がした。

「あ、おかえりほむらちゃん。ケーキできるからちょっと待っててね……」

ここはマミの家だから、少しは遠慮して……と言おうと思ったが、考えてみれば、いつ戻れるか分からない上、持ち主はもう居ないのだ。
なら遠慮なく使わせてもらうことこそ、正しい姿といえるだろう。

「ねぇ、ほむらちゃん。そろそろ、さやかちゃんの契約の日が近づいてるよね?」

料理本を片手に、慣れない手つきでまどかが喋る。
まどかの家では父親の料理が絶品だが、絶品過ぎて娘のまどかが料理する機会を無くしているらしい。
少しだけ、嫁の貰い手が心配になる。


「そうね……」

カレンダーを見やれば、美樹さやかが契約する日に近づいていた。
あの子の契約理由は『恋心』。私の周りで『恋』による契約はレアケースだが、実際のところ、魔法少女では一番多いのではないだろうか。

「ほむらちゃん……私たち、さやかちゃんを助けられるのかな?」
「……」
「…………ねぇ、ほむらちゃん。大丈夫だよね。さやかちゃんを魔法少女になんかさせないよね」
「今のさやかなら、私と貴女が説得すれば……あるいは、ね」
「私はさ……、正直、自分が魔法少女になれば何でも出来るって思ってた。ほむらちゃんだって、この時代の私だって、さやかちゃんだって……みんな助けられると思ってた。
でも、それって私の自惚れだったんだよね」
「まど……か?」

チーズケーキ出来たよ、と小さく呟いて私に出したそれは、かなり前衛美術的な外観をしたオブジェだった。

「昨日も今朝も、なんの実感も持てなかったけど……今になって少しずつ分かってきたの。
結局、私は…………誰も助けられないんじゃないかって」
「そんな事ないわ……マミのときは、運が悪かっただけよ」

そう言って、私は出されたケーキに口をつける。
台所を見れば、彼女がケーキと格闘した残骸が生々しく残されていた。

「でも、でも、でも……ケーキ一つうまく作れない。魔法だって、ほむらちゃんに教えてもらわなきゃ何も出来ない……
こんなんで、さやかちゃんを守れるのかな。こんなんで、ワルプルギスの夜に勝てるのかな」

「チーズケーキ、食べて御覧なさい? 見た目はあれだけど、とても美味しいわ。マミのに負けてないわよ……」
「う、うそ……」
「嘘じゃないわ。ほら」

そう言って私は、まどかにスプーンを差し出す。まどかは無言でそれを頬張った。


このチーズケーキは、まどかなりの努力の証。
最初は私は、まどかがマミのことを考えない無神経な人間だと思いそうになった。
でも、それは勘違い。彼女は自分なりに考えて、巴マミになろうとしている。
だからこそのケーキ作りなのだ。であれば、今の私にできることはそれを応援することだけ。

ならば……

「……実は、巴マミの体を治療している時に思いついたのだけど……
巴マミに施したのと同じ治療魔法を使って、上条恭介を治せると思うの」
「え……?」
「貴女にしか出来ない高度な魔法よ。何度もループしたけど、私には上条恭介の治療は出来なかった……
でも、誰より強い魔法力を持つ貴女なら、きっと出来る」
「……わ、私なら……上条君を治せるの?」
「そう。だから、貴女は無力じゃない」

私はケーキを食べ終え、付け合せの紅茶を飲む。
テーブルを見れば、まどかも自分で作ったケーキを食べ終えていた。

「っくす、ね、美味く出来てるじゃないケーキ。私は好きよ」

投下終了です。

次回は、1/14~1/16の間にうpしますです。

では。

今から投下します……投下直前に書いたのが全部消えたのは内緒です。

第08話「殺してやる」


「一部始終を見させてもらったよ。随分ヒドいことをするじゃないか?
上条恭介が一体何をしたって言うんだい?」

白い悪魔インキュベーターは、無表情な赤い瞳を丸々と輝かせて上条恭介のベッドに降り立つ。

「い、インキュベーター……」
「おや、巴マミ? 君にその名前を名乗った覚えは無いんだけどなぁ……」

ま、まずい……元々、インキュベーターは私の正体に不審を抱いている。

「暁美さんから聞いたのよ、貴方たちの正体も含めて、魔法少女の実態からね」
「魔法少女の実態。なるほどね……しかしまぁ、今はそんな話をしている場合じゃないはずだ」

そう言ってインキュベーターは病室のドアに目を配らせる。

「今は上条恭介のことが最優先。違うかい?」
「そ、それは……」
「ま、マミさん。恭介に一体何が起きたんですか。……魔法が失敗したって言うんですか?」


失敗? 失敗なのかな? ううん、わかんない。わかんないよ。
なんて答えたらいいの?

「君が大きな魔力を使って何かをしている所は見ていた。そして、その結果、上条恭介が苦しみだしたところも見た。
あの魔力量は一体なんだい? 魔女と戦うときだって、あんな力を見たことが無い」
「そ、それって……マミさんは、戦闘以上の魔力を使ってたってこと?」
「そうだね。もちろん、魔力の使用目的はボクには分からないから何とも言えないけど。治療に使うにしたって大きすぎる」
「それは、上条君の治療にはそれだけ大きな力が必要だってだけで……」
「なるほどね……。確かに、仮説としては面白いね」
「か、仮説って……」
「周りの人間には検証しようがないよ。君が彼を傷つけるために魔力を使ったという説も同じように説得力を持つ」
「ち、違うよぉ……」

「どういうことですか? マミさん、アンタ、恭介を……」
「だ、だから違うの、さやかちゃん」


まずい事になった。いや、私のことはいい。それよりも上条君。
もしも治療魔法が失敗していたのなら、なんとか続きをしないと……

「そうそう。本物の巴マミは、美樹さやかのことを『美樹』さんと呼ぶはずだよ」
「え……?」

し、しまった。一気にさやかちゃんの表情に怒りの炎が宿る。

「『本物の巴マミ』ってどういう意味さ」
「言葉通りの意味さ。詳しいことはボクも分からないけど、今の『巴マミ』は本物じゃない。
以前、病院で魔女と戦ったとき、本物のマミの首が消し飛んだとき、彼女はニセモノに摩り替わった」
「う、嘘よ。美樹さん、騙されないで!!」

まずい、まずい、まずい、まずい。

「君が本物だというのなら、その証拠を見せてもらおう。証拠といっても簡単なことだよ。
君の生年月日、血液型、死んだ両親の名前、それらを答えてくれ。本物なら淀みなく答えられるはずさ」

生年月日……、マミさんの生まれた日?
ダメだわからない。


「…………」
「マミさん……、答えられないんですか?」

「ほぅら、ボクの言ったとおりさ。君はニセモノで、いつの間にか摩り替わった。摩り替わった時期は、ボクの仮説だと『首がなくなった時』。
まぁ、今ここで、君がいつ摩り替わったか何ていう議論に意味はない。大事なのは、君が摩り替わったという結果だけさ」
「つ、つまり! アンタは私を騙してたのか!!!」
「ち、違うよぉ! 確かに私はニセモノだけど……でも、でも……」
「アンタ、恭介に一体何の恨みが!」

「だから違うって……お願い。信じてさやかちゃん……」
「あくまでも仮定の話だが、ニセモノのマミが善意で上条恭介に魔力を使い、その使用目的が治療のためだったとしよう。
しかし、結果は『失敗』。善意なら人を傷つけても構わない、なんていう詭弁が成り立たない限り、君のやったことは紛れもない『悪』だ」
「そ、それは……」
「犯人は言い逃れをする、という事実に目を瞑り、君の弁明を認めたとしても、結果だけは無視することは出来ない」

ここまで言われて、私には黙るしかないことが分かった。
あぁ、……これはとんでもない間違いをしてしまった……

「さて……特に反論がないのなら、この場は上条恭介の救出を優先しよう。」


そう言って、インキュベーターは私から目をはずし、さやかちゃんの方を向く。

「美樹さやか。今この場で、上条恭介を救えるのは君しかいない。
というより、君が彼を救うのは運命と呼ぶべきだろうね。」
「アンタと契約すれば、恭介は助かるんだね?」
「もちろんさ」
「だ、ダメだよ! 魔法少女の秘密を忘れないで!!」

上条君を助けるために、さやかちゃんが犠牲になるのは間違ってる。絶対にそれだけは……

「確かに……魔法少女になれば、その魂は宝石に閉じ込められるだろう。
ボクは多くの魔法少女を見てきたから分かるけど、あるものはソウルジェムの存在に絶望して命を絶ち、またあるものは魔女に身を変えた。
また、日々の闘いに疲れて消息をたったものも少なくない。」
「だ、だったら、魔法少女に何てならないでよ!」
「だがしかし、これら魔法少女のデメリットは、すべて女の子自身の都合でしかない。
被害を受けた上条恭介の気持ちをカケラも考えていない。もしも、美樹さやかに償いの気持ちがあるのなら、自分ではなく、彼の想いを汲んであげるべきだ」


な……、およそインキュベーターらしからぬ言動。
普段は、魔法少女のデメリットを隠した上で契約を迫る彼らだが、今回は逆。
全面的にデメリットを押し出してきている。

「つまり、私が戦い続ける宿命と、いずれ死ぬ絶望を受け入れれば、恭介は助かるって言うことだね」
「そのとおりさ!」
「分かった。契約するよ、キューベー。私、魔法少女になる」

「だ、ダメだよ。さやかちゃん……」
「ううん、止めないでまどか。私はもう決めたよ。
命を懸けて戦う宿命も、いずれ魔女になる絶望も、全部受け入れて、私は恭介を助ける。」

もう、さやかちゃんの瞳に迷いはない。

「これはきっと、アイツのことが好きな私にしか出来ないことなんだと思う。
さぁ、インキュベーター。私は恭介を治したい、私の願いを叶えて!!」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「こ、これは一体……」

私、暁美ほむらが上条恭介の病室に戻ったとき、そこに巴マミの姿はなかった。

「あぁ……戻ってきたんだ。転・校・生」
「あえと……その……」

私のことを転校生と呼ぶ美樹さやかの手にはソウルジェム。

「貴女、あれほど魔法少女になるなと念を押したのに」
「アンタ、偽者とグルになって私を騙そうとしてたでしょ。何が治療魔法よ!」
「偽者? グル? それより治療はどうなったの? 失敗したの」
「う、うん……上条君が突然苦しみだして……」

なるほど、それでか。元々難易度の高い治療だとは思っていたが、失敗してしまったということか。


「……バカな事を……」
「バカなこと? アンタ恭介を助けることのどこがバカだって言うのさ?」
「上条恭介を助けることはバカじゃない。そのために契約することがバカだというの。
いずれ魔女になる可能性を考えなかったの? 貴女は己の手で、上条恭介を殺すかもしれないのよ?」
「グリーフシードがある限り、魔女にはならないんでしょ?」
「あれはいずれ尽きるわ」
「アンタも生きてるジャン。マミさんだって、ニセモノだって魔女になってない」
「時間の問題よ。貴女がそこまで愚かだとは思わなかったわ」
「よく言うよ、自分のことを棚にあげて……転校生。アンタ、マミさんがニセモノだって知ってたの?」

なぜニセモノだとバレたかは、後でまどかマミに聞くとして、これはもう本当にバレたと考えるべきね。
それにしても、あの子は一体どこに行ったというのか。

「知ってたわ」
「知ってて騙したんだ」
「さ、さやかちゃん。ほむらちゃん達にも事情があったんだよ」


この子は……オロオロとどちらの味方をしていいのか悩んでいるみたいね。
この様子を見れば、もう一人のまどかがどれだけ慌てふためいていたのか、想像に難くないわ。

「ありがとう、まどか。私は別に騙そうとしてたわけじゃないわ。
知ってて隠したのは、説明しても信じてもらえないと思ったからよ。
そもそも、なぜ『あの子』が巴マミになったのか、私にも理由は分からないしね」
「あくまで悪気はなかったって言うんだ」
「そ、そうだと思うよ。だって、ほむらちゃんには……」「まどかは黙ってて!!」


「治療魔法が失敗する可能性については、事前に説明したわよね?」
「そうね。でも、あんなに苦しんでる恭介を見ることになるなんて説明は受けてない。
私は、アイツを助けるためにアンタ達に治療を頼んだんだ!!」

だから、失敗の可能性については触れておいたでしょうに。
とはいえ、治療魔法で悪化する可能性については考えてなかった。その点はこちらの落ち度だろう。


「腕の痛みに苦しむ恭介をこれ以上見たくなかった……あたしはさ、どこまでいってもアイツが好きなんだよ」

痛みに苦しむ? 何か違和感があるわ。
何か大きな前提を見落としているような。そもそもの大前提が狂っているような、大きな違和感。

「治療の失敗については、申し訳ないと思うわ。でも、原因を考えて冷静に対処すれば……」
「冷静に対処して、それで恭介の腕が治る可能性があったっていうの?」
「あったわ。十分すぎるほどにね」
「人を騙しといて、そんな話を信じろっての? 百歩譲って、治療魔法の失敗だけなら私も冷静になれたと思う。
でも無理。マミさんがニセモノなんて、話をされたら、アンタ達のことを信じられないよ。」

「これ以上は平行線のようね……」
「そうだね。もうこの病室から出てってくれないかな。看護婦さんも戻ってくるころだろうし……」


治療の失敗が、まさかこんな結果を生むなんて……

「分かったわ……でも美樹さやか。これだけは覚えておいて。私も、貴女がニセモノと呼ぶ彼女も、貴女に敵対する意思はない。絶対にそれだけは忘れないでほしい」
「3秒で忘れるよ。じゃーね、転校生さん」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「なんだい? 話ってさ」
「佐倉杏子、君は巴マミと親しい関係だったはずだよね?」
「ん、まー、過去形で言えばあってるかな。今は会いたくもねーってヤツだけど」
「過去形ね……。君がそう言うならあまり関係のない話かもしれないけど、伝えておかなきゃならない話がある。その巴マミが偽者になった」
「は? アンタ何言ってんのさ?」

ボクはインキュベーター。そして、目の前の赤毛の少女は佐倉杏子。
かつては巴マミの友人であり、今は袂を分かった魔法少女だ。
マミと杏子の間に何があったか、ボクも知らない。けれど、今も佐倉杏子の心の中にマミが生きていることは想像に難くない。

「言葉のとおりさ。巴マミの体がニセモノの『ナニカ』に奪われた」

「いや、だからその……ホント何言ってるわけ?」
「これは推測だけど、他人の体を奪う魔法の使い手に、マミがやられたみたいなんだ」
「……それマジ?」
「大マジさ。本人にも聞いてみた。巴マミに成りすましているようだったが、誕生日や両親の名前を聞いても答えられなかったので観念したよ」
「嘘だろ……」
「だからマジだって。少なくとも、『ナニカ』が巴マミに成りすまし、見滝原にいることは事実。
どうやって成りすましているかは、推測でしかないが、恐らくは他人の体を奪う魔法だろうね」

さっきまで齧っていたリンゴを食べ終え、今度はスナック菓子に手を伸ばす杏子。
その表情は真剣そのものだ。

「それが本当だとして、ニセマミの目的は何さ」

「分からないよ」
「大体、本物のマミはどうしたっていうんだ」
「正確には分からないが、恐らくは死んだ」
「な!! 死んだって、おい!!」
「さっきも言ったが、『正確には分からない』。真実を知りたければ、ニセマミ本人に聞くしかないね」

スナック菓子をいつもより強い力で噛み砕き、杏子の表情はいよいよ怒りを帯びていく。

「……つまり、ニセマミがマミを殺した可能性もあるってことか?」
「興味深い仮説だね。当たっている可能性も高いと思うよ」
「……つまり、ニセマミはマミを殺して、マミの生活を奪い、マミの友達と一緒に笑いながら、学校生活を楽しんでるってのか!!」
「いつの間にか断定してるよ。だが、有力な仮説だと思う」

「そんなこと、許されんのかよ!!」

手持ちの菓子をすべて平らげた彼女は、大きく「っざっけんじゃーねーよ」と叫んだ後、小さく何かをつぶやいた。
ボクの耳が間違ってなければ、あれは「殺してやる」って言ってたと思う。

感想ありがとうございますです。

本日分の投下終了です。次回は今週中にあげれたらいいなって思ってます。


ではでは

投下しますです。

第09話「逃げるんだ!!! 君に勝ち目はない!!」

「ごめん……私が失敗したばっかりに……」
「気にすることないわ。貴女はよくやったわよ」

上条恭介の腕の治療が困難であることを事前に強く説明しなかった私の落ち度だ。
どんなことにも失敗はつき物だが、そうならないように事前に計画を立てるのが常識というもの。
今回は、その計画段階でミスしていたといわざるを得ない。せめて、2・3回は模擬訓練を行うべきだったと反省している。

「やっぱり……私なんかが魔法少女になっても、何も出来ないんだ……」
「今回は経験が足りなかっただけよ。次に頑張りなさい」
「つ、次って……」

次回のループも、恐らくこのまどかは一緒についてくるはず。だから気にしないで欲しい。
私は一度や二度では済まないほどの失敗を繰り返している。貴女の失敗はまだ、数えられるほどしかないのだから。


「次……次があれば、上条君の腕も治るし、さやかちゃんも契約しないし……そんな風に上手くできるのかな?」
「出来るわ。力なら既に十分にある。後は経験だけ。そして、経験なら、私の能力でいくらでも補える。」

「経験……それさえあれば、きっと……マミさんも……」
「そうよ。だから、明日から少しだけ魔力を使う特訓をしましょう。そうすれば、貴女も時期に立派な魔法少女になれるわ……」

もっとも……まどかの場合、本気で魔力を使われると最悪な事態を引き起こしかねない。
今の今まで、考えてこなかったけど、この子は数回前のループで、魔力切れの魔女化を起している。
だから、あまり無理はさせたくない。まどかが無理をすることはすなわち、地球人類が崩壊することを意味するのだから……

「特訓か……うん、私頑張るよ。あ、あとさ……ついでみたいで悪いんだけど……」
「?」
「さやかちゃんに、ちゃんと謝ろうと思うの。私が失敗したのは事実だし、そのせいで魔法少女にさせちゃったし……
結局、散々だったからね」
「……美樹さやかには、私もヒドイことを言ったわ……病院では冷静じゃなかった」
「ほ、ほむらちゃんも?」
「えぇ……」


なぜだろう。まどかの前だと、優しくなれる私がいる。
本音を言えば、魔法少女になった美樹さやかの事など、どうでもいい。
ぶっちゃけ、もう一度やり直せば良いだけだし。しかし……

「ちゃんと謝れば許してもらえると思うし……それに、さやかちゃんも電池がなかったらいずれ魔女になっちゃう。
私が居てあげないと……」

しかし……
そうだ。もう一度やり直さなくとも、今回のループでは万能の『電池』がある。まだどの程度持つのか分からないが、
美樹さやかとの仲が戻れば、もう魔女化に怯える必要はないのだ。そう考えると、今回はまだ希望が残っているのだろう。

「そうと決まれば、明日からは特訓。ちゃんとさやかにも謝るから、放課後は2年生の教室に来なさいよ」
「う、うん分かった」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

……
……
……
……
……

「どうしてあの女は、こんな日に限って欠席するのよ!!」
「ま、まー、風邪ならしょうがないよ、ほm……じゃなくて、暁美さん」
「そうね、巴さん。風邪なら仕方ないわね!」
「な、なんか語気が荒いよ、ほ……暁美さん」

自分で言うのもなんだが、私が素直に謝ろうというのは非常に少ない。
あまり反りの合わない美樹さやか相手だと特に、だ。
だからだろうか、普段やらないことをしようとすると、神様が邪魔をしてくるに違いない。

「あ、暁美さん。何考えてるか分からないけど、多分間違ってると思うよ」


分からないのに当たるなんて、貴女はエスパーか何かなの。エスパーマミとでも名乗っておきなさい。

「まぁ……いない子に謝罪は出来ないわ。まどかに謝ってもしょうがないし……今日は特訓だけにしておきましょう」
「そ、そうだね……頑張っていってみようか」

意外と、切り替えの早い子ね。その元気がいつまで持つか、鬼教官は楽しみで仕方ないわ。


さて、やってきました。見滝原、欧風通り。
石畳の道路に南ヨーロッパを髣髴とさせるレンガ造りの建物。
統一感のある屋根を空から眺めれば、きっと世界遺産の街にも劣らない映像が撮れるだろう。
街の裏路地に迷い込めば、もしかしたら、魔女でも出てくるんじゃなかろうか。そんな感じの中世ヨーロッパ風味の町並み。
つまりは、『見滝原欧風通り(命名:ほむら)』
まぁ、魔女は実際に出てくるのだけど。

「ここね」

ひと1人やっと通れるレベルの小さな階段上の裏路地。
周囲を落書きつきの壁で挟まれたそこには、確かに魔女か、使い魔の気配を感じた。


「とにかく実践を積んで、魔力の使い方を覚えるのが一番よ。
本来は、無駄な魔力は使いたくないから、使い魔相手に戦うのは避けたいところだけど……」
「今は慣れるのが優先って事だね。」

そうこう言ってる間に、壁の落書きが変化していく。
元々、ヤンキーが描いたような落書きだったのが、一気に変化して、才能をなくしたピカソのような絵になる。
そんな中、クレヨンで書いたような飛行機の魔女……、いやあれは使い魔か。ともかく、魔の者が現れた。

「鹿目まどか、魔法少女デビュー戦。やっちゃうよ!!」

そう言って華麗に変身した姿は、懐かしいかつてのアーチャー。
桜の枝をモチーフにした弓が、彼女の武器だ。

「以前とは立場が逆になったわね。やりなさい!」
「うん、見ててね!」

どこで弓引きのフォームを身に着けたんだろう? いつもそう疑問に思うほど、綺麗な姿で、矢を射るまどか。
そのまま、クレヨン使い魔の羽を射抜き、飛行機を墜落させる。


「ごめんなさい!!  「ちょっと待ちな!!」

とどめの、一撃を射ようとした瞬間。突然赤い少女が現れて止めにかかる。
あ、そうだ。ここはこの子が来る場面だった。


「ちょっとちょっと、何やってんのさ、アンタたち」
「に、逃げちゃうよ」
「だから逃がしていいんだって。あれ使い魔だよ? グリーフシード持ってるわけないじゃん」
「いや……別に、グリーフシードが欲しいわけじゃ……」

あぁ……この子は、使い魔保護団体、会員No.1だったっけか。勘違いも甚だしい。

「あのね。私たちは、グリーフシード目当てで戦ってるんじゃなくて、今日はこの子の実践練習のため……」
「…………って、お前ら……ニセマミか!!!」

にせ? マミ?


「てんめぇー!」

突如、魔法少女となり、槍を具現化させる佐倉杏子。
その瞳には、明らかな害意が灯っている。両手に構えた槍を、まどかに向けて突進する。

「っちょ……」

とっさの反射で避けようとしたものの、避けきれず太ももを裂かれるまどか。
そのまま、杏子に蹴り上げられ、横転したところを馬乗りに。

「おい、てめー。本物のマミをどうしやがった!」
「ちょ、杏子ちゃん。どいて……」
「落ち着きなさい!!」

時を止め、杏子の背後に回り拳銃を突きつける。

「っな!! いつに間に回りこみやがった」


得体の知れない能力に戦慄したのか、杏子はまどかの上を離れ、私たちから一定の距離を置いた。

「冷静になれば会話の準備があるわ。落ち着きなさい」
「背後から、んなもん突きつけてる奴の言葉が信用できるかっつーの!!」

言い終わるより早く、杏子は再び突撃する。
だから冷静になれば、話しをするというのに。人の言うことを聞きなさい。

今度の矛先は、まどかじゃなくて私か。2対1だというのに、勝てる気でもあるのだろうか。
正直、ここまで冷静さを失った杏子を見るのは初めてだ。
本物のマミの話を隠す気はない。だがしかし、それは冷静になってからだ。

持ち前の瞬発力でもって、私へと槍を向ける杏子。
そして、隣には未だ立ち上がれないまどか。

私は盾の砂時計を止め、前傾姿勢の杏子の眉間に、拳銃を押し当てる。そして、時は動き出す!


「な!!」

勢いあまって、転倒する彼女に威嚇射撃を一発。
ほほを掠めたその一撃に、冷静さを取り戻してくれればいいが……

「落ちついて話を聞いて、マミのことなら……    「きゃーーーっっ!!」

今度は何!?
振り向くとそこには、志筑仁美。

ま、まずい、まずい。これはまずい……

私のそばには、腿を切られ出血したまどか。そして、倒れこみ顔面近くに威嚇射撃を受けた杏子。

「あ、貴女たち何をしていますの……」

まずい、どう言い訳する。この場面、怪我をした女が2人。銃器を持った犯罪者が1人。
志筑仁美は魔法少女を知らない。説明するにも言葉を選ばなくては。


どうする。
   どうする。
      どうする。
         どうする。
            どうする!!!!

突然。視界が逆転する。
一瞬だけ意識から外れた杏子が、私の上に馬乗りになる。

「本物のマミをどうした、殺したのか!!」

視界の端に映る志筑仁美が、『殺した』という言葉にいっそう青ざめる。

「志づ…… 「質問に答えろ!!」

志筑仁美への言い訳をするまもなく、顔面への一撃。
どきなさい、今はアナタが邪魔よ。杏子。
叫びながら、逃げていく志筑仁美。あれを放っておくと本当にまずいことが起きる。それは確実なのだ。


だが。

「アンタら2人が、マミを殺したのか。どうしたんだ。アイツは今どこにいるんだ!」
「それは、後で説明するから」

早く、彼女を追わなければ。走り去り、既に視界から消えた女。今すぐ追わないと本当に見失ってしまう。

「後じゃなくて、今説明しろ。マミをどうした!?」
「だから、落ち着いて  「ほむらちゃんから離れて!!」

私の努力も虚しく、新たなパニック女が現れる。
鹿目まどか。

最強の名を持つ彼女の平手が、杏子を襲う。
たった一撃で、街の壁に叩きつけられた杏子。


「本物のマミなら、こんなに強くねぇ……2対1は分が悪いか……」
「落ち着いて話を……」

もう、志筑仁美は見失った。なら、せめて杏子だけでも……

「佐倉杏子!! 逃げるんだ!!! 君に勝ち目はない!!」

そう思っていたら、今度はインキュベーター。
どこまで闖入者が溢れているのか。

「そのようだな」

インキュベーターの言葉に従い、すぐさま逃げ出す杏子。
私は盾を拾い上げ、杏子の去った方向を見やるが、既に彼女の姿はなかった。




何から何まで、今回は運が悪い。
神が私を見放したというのか……。

投下終了です。今度も今週中にあげられたらいいなぁと思ってしまいます。

一部地域の方は久しぶりの雪で大変でしょうが、頑張りましょう!

ではでは

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