右京「江戸川コナン……?」 (523)

・これは『名探偵コナン』と『相棒』のクロスオーバーSSです。

・右京「毛利探偵事務所の監視?」
右京「毛利探偵事務所の監視?」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1384442640/)

 ↑を再構成&修正した完全版です。
 そのため、上記スレのコピペ部分が一部出てきますが、ご了承下さい。

・事件現場等の描写でエロやグロが唐突に出てくる場合がありますので、ご注意下さい。

・亀更新になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

・『コナン』は原作コミック82巻まで、『相棒』はseason12の設定に準拠します。

・刑事部部長については、
 『コナン』の小田切敏郎が劇場版第4作『瞳の中の暗殺者』における息子・敏也の不祥事を理由に退き、
 後任として『相棒』の内村氏が就いているという設定でお読み下さい。
 ちなみに警視総監は白馬探の父です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1388160048

――花の里――

右京「江戸川コナン……?」

幸子「ええ! 今日の昼間、新宿へ買い物に出かけてて、そこでたまたま♪」

幸子「コナン君も保護者の方と一緒だったんで、声は掛けなかったんですけど」

幸子「あんな所でお目にかかれるなんて思わなかったから、私、もうビックリで」

甲斐「……確か、キッドキラーと呼ばれている都内の小学生でしたっけ?」

幸子「そうよ、この記事に出てる子。カワイイでしょ♪」ピラッ

幸子「コナン君って、鈴木財閥の相談役が怪盗キッドに挑戦する度に、宝石を守ってくれるじゃない?」

幸子「まだあんなに小さいのに、すごいなぁって思って。私、応援してるんですよ」

右京「この写真、確か彼が『紫紅の爪』を守った時のものですね」

甲斐「コナン君、何だか嫌そうな顔して映ってません?」

幸子「隣にいる相談役が苦手なんじゃないですか?」

幸子「そもそも、この人がキッドに挑戦する理由も馬鹿げてると思いますし」

甲斐「あぁ……そういや中森警部がボヤいてたような」

右京「人の偉業よりは、犯罪などの重大事件の方が大きく取り扱われてしまうものですからねぇ」

甲斐「っていうか、新聞記事の掲載順に一々こだわってんのが、一般人には理解しづらいですよ」

幸子「ま、今度の『赤面の人魚』も、コナン君の勝ちだと思いますけどね♪」

右京「……そうだと良いですねぇ」

――二週間後・東京都内・錦座の殺人事件現場――

コナン(小五郎声)「以上の証拠から……高坂さん、犯人は貴方以外に考えられないんですよ」

高坂「クソッ……絶対にバレないと思ったのに!」ガクッ

コナン(小五郎声)「あいにくですが、この世に完璧なトリックなど存在しません」

高坂「あいつが悪いんだ! 俺の親友を事故死に見せかけて殺した、あの男が!!」

目暮「……それ以上は、本庁で聞こう。連れて行け」

芹沢「午後8時41分。高坂元晴、殺人の容疑で逮捕します」ガチッ

高坂「……ちくしょう。こんな所で、毛利小五郎なんかに会わなければ……!」

伊丹「さ、行こうか」

コナン「…………フゥ」

小五郎「……」スピー

コナン(何とか今回も解決できたな。さすがに疲れたぜ……)

高木「あれ、コナン君?」

佐藤「毛利さんの後ろで、何やってるの?」

コナン「あ、いや……」ゴソゴソ…ヒョイ、カラーン

コナン「探偵団バッジがソファーの下に入っちゃって」

高木「ん? ……あぁ、これだね。取ってあげるよ」

佐藤「高木君、ソファーを傾けるわよ」

高木「あ、了解です」カタン

高木「……はい、コナン君。もう落としちゃダメだよ?」

コナン「ありがとー♪」

伊丹「おい、高木! 何やってんだ。早く本庁に戻るぞ!」

芹沢「佐藤さんも。急いでください」

高木・佐藤「「あ、はい!」」

高木「じゃあね、コナン君。気をつけて帰るんだよ?」

佐藤「明日、毛利さんと一緒に警視庁へ来てね」

コナン「はーい。また明日ね」バイバイ

バタン! ブロロォ……

コナン「……さてと。俺も帰るか」ピッ…prrr…prrr

コナン「あ、蘭姉ちゃん? 今、小五郎のおじさんと事件現場に居るんだけど」

コナン「おじさん、疲れて寝ちゃったみたいなんだ……うん、分かった。タクシーで帰るね」

――翌日の午後・警視庁内・鑑識課――

右京「昨夜、錦座で起きた殺人事件の証拠品は、これですね?」

米沢「ご覧になりたければ、どうぞ遠慮無く」

右京「どうも。米沢さんも、現場には行っていたんでしょう?」

米沢「えぇ。眠りの小五郎にお会いできたのは驚きでしたが」

右京「昨夜も、彼は見事な推理を披露したとか」

米沢「杉下警部並みの理路整然としたトリックの説明に、思わず聞き入ってしまいましたよ」

右京「そうですか。僕も一度、彼の推理を拝聴してみたいものです」

右京「ところで、米沢さん。この証拠品は、毛利探偵がどこで見つけた物なのでしょう?」

米沢「あぁ、それは毛利探偵ではなく、江戸川コナン君が見つけた証拠品です」

右京「……コナン君が、ですか?」

米沢「ええ。あの少年は勝手に現場へ入り込んでくるので、鑑識からすれば邪魔なんですが……」

米沢「毛利探偵といることが多いせいか、妙に現場に慣れていましてね」

米沢「その上、現場の不審な点を指摘したり、今回のようにヒョコッと証拠品を見つけてきたりするので」

米沢「目暮警部達も、彼を現場から追い出そうとしないものですから。我々も少し困ってるんです」

右京「米沢さんは、以前にもコナン君に会ったことがあるのですか?」

米沢「いえ、直接会ったのは昨日が初めてです。ただ……」

米沢「トメさんの話では、今まで彼が居合わせた現場でも、重要な証拠品を見つけることが多々あったようで」

米沢「捜査一課の中には、コナン君のことを毛利探偵並みに信頼している者もいるそうです」

右京「なるほど……それは興味深いですねぇ」

バタン!

伊丹「おい米沢。昨日頼んどいた鑑定、終わったか?」

芹沢「……って、やっぱり居た」アチャー

右京「既に事件は解決しているのですから、そこまで嫌そうな顔をしなくても良いと思いますが?」

伊丹「そうですけどね……ったく。ガキのお守りだけでもウンザリなのに、警部殿の相手までしてられませんよ」

右京「おや、迷子でも保護したのですか?」

伊丹「違いますよ。芹沢、戻るぞ」スタスタ

芹沢「はーい」チラッ

右京「何か、僕に言いたいことでも?」

芹沢「あぁいえ。大したことじゃないんですが……伊丹さん、さっきからずっと機嫌悪いんですよ」ヒソヒソ

右京「はいぃ?」

芹沢「佐藤さんと千葉さんが、午前中から他の現場に出ちゃったんで」

芹沢「伊丹さんが高木さんと一緒に、毛利さんとコナン君の調書を取ってたんです」

芹沢「でも毛利さん、記憶が一部飛んでるみたいで、肝心の推理で言ってた内容があやふやでしてね」

右京「一晩寝たぐらいで記憶が不確かになるとも思えませんが……不思議ですねぇ」

芹沢「まぁコナン君が内容をキッチリ覚えててくれたんで、調書作成は何とか終わったんですけど」

芹沢「高木さんとの雑談混じりの聴取に、伊丹さんがイラついちゃって」

右京「……伊丹さんは、そういう時に無駄話をされるのが苦手ですからね」フフッ

右京「そういえばコナン君は、重要な証拠品を見つけてきてくれたと米沢さんから聞きましたが」

芹沢「ええ……それは良いんですけど、あの子、現場をウロチョロしないでほしいですよ」

芹沢「昨夜も毛利さんが現場からつまみ出したのに、いつの間にか戻ってきてて」

芹沢「強行犯三係は誰一人、あの子のことを注意しないんですからビックリです」

芹沢「伊丹さんも怒ってましたよ。殺人現場なんて、子供に見せていいものじゃないでしょ?」

右京「ええ。しかしコナン君は、好奇心旺盛な子供なんですねぇ」

芹沢「旺盛すぎますって。あの子から直接一課へ通報が来ることも結構あるんですけど」

芹沢「正直言って、勘弁してほしいですね」

伊丹「おい、芹沢! さっさとしろ!!」

芹沢「あ、はい!」

右京「引き留めてしまってすみません。また機会があれば、昨日の事件のことを教えてください」

芹沢「ええ。それじゃ、僕はこれで」

芹沢「お待たせしました」

伊丹「お前、警部殿に妙なこと吹き込んでねぇだろーなぁ?」

芹沢「言ってませんよ……っていうか、言うほどのことなんて無かったでしょ?」

伊丹「……フン」

キィィ……バタン!

右京(江戸川コナン……中々、面白い少年のようですねぇ)

右京(まずは、彼と親しいという高木さんに話を聞いてみましょうか)

まだ序章ですが、今夜はここまでです
次は日曜に更新予定です

――捜査一課前・休憩スペース――

高木「二人とも、今日はお疲れ様でした」

小五郎「おう」

コナン「佐藤刑事、まだ帰ってこないの?」

高木「あぁ、さっき被疑者を確保したって連絡があったから大丈夫だよ」

小五郎「元刑事の俺が言うのもアレだが……こんなに事件が多いんじゃ、オメーらも大変だな」

高木「まぁ、これがボク達の仕事ですから」ハハッ

コナン「佐藤刑事と千葉刑事によろしくね」

高木「うん。また何か事件が起きたら、連絡してね」

コナン「は~い♪」

小五郎「何が『は~い♪』だ! そんな連絡が無いのが一番平和だっての。じゃあな、高木」

高木「ええ。蘭さんにもよろしく」

小五郎「おぅ」

コナン「じゃあね、高木刑事」スタスタ

高木「…………フゥ、やっと終わった~」

……カツカツカツ

佐藤「高木君」

高木「あ、佐藤さん。お帰りなさい。……もうこっちへ戻ってきても良かったんですか?」

佐藤「ええ。後は千葉君と白鳥君に任せてきたわ」

佐藤「毛利さんとコナン君、もう帰ったの?」

高木「えぇ、ついさっき」

佐藤「そう……ちょっと話したいことがあったんだけど」

佐藤「ま、いっか。今度、時間が空いた時にでも事務所に顔出すわ」

高木「佐藤さん……?」

右京「おや、一足遅かったようですねぇ」

高木「うわぁっ! ……って、杉下警部!?」

佐藤「何か、警部が動くほどの重大な事件でも?」

右京「いえ。毛利探偵にお会いして、昨日の事件のお話を伺いたかったのですが……」

右京「既に帰られたと聞いて、少々残念に思っただけですよ」

高木「警部、いきなり後ろに立たないで下さいよ。心臓が止まるかと思いました」

右京「あぁいや、僕も驚かせるつもりは無かったんですが……」

右京「そういえば、貴方方も昨日の事件現場に居たんでしたね?」

佐藤「ええ。コナン君から通報があったので、鑑識を連れて錦座まで駆けつけて」

高木「後から来た伊丹さんと芹沢さんに現場を任せて、ボク達は聞き込みに……」

右京「あの二人、貴方方がコナン君を現場から遠ざけようとしない、と随分怒っていましたよ?」

高木「え……マジっすか?」ギク

右京「ええ。米沢さんも、少々眉を顰めていましたし」

佐藤「すみません……あの子、頭の回転がすごく速いし、我々が見落としがちなことにも気付くので」

佐藤「現場に置いておいた方が有益なことが多いんです。それで、つい……」

右京「しかし、限度というものがあるのではないでしょうかねぇ?」

高木「でもコナン君、毛利さんに連れられて、色んな現場に遭遇しているせいか」

高木「ほとんど動揺した様子もないので、大丈夫かなって……あぁいや、ホントはまずいのは分かってます」

右京「……お二人の目から見て、コナン君はどういう子ですか?」

高木「一言で言えば、不思議な子です」

佐藤「確かに、現場をあちこち調べ回るのは、毛利さんもよく怒ってるんですけど」

佐藤「関係者から色んな証言を聞き出したり、凶器や証拠の隠し場所を突き止めたりしてくれるし……」

高木「それに、TVから得た知識や、工藤君から教わったことを得意げに話したりもしますよね」

右京「工藤君……と言うと、高校生探偵の工藤新一君のことでしょうか?」

高木「ええ。コナン君と工藤君は親戚同士で、結構マメに連絡を取り合ってるみたいですよ」

右京「あの二人が親戚とは、初耳ですねぇ」

高木「ボクも驚きました。工藤君の身内関係の話は、あまり聞いたことがなかったので」

高木「それに……ボクはあの一件以来、コナン君が普通の小学生とは思ってません」

右京「あの一件とは?」

高木「佐藤さんにとっては嫌な記憶ですけど」チラッ

高木「僕が東都タワーのエレベーターに閉じ込められた事件……覚えてますか?」

佐藤「…………」ピク

右京「ええ。三年前、松田刑事を殉職させた爆弾魔の起こした事件でしたね」

高木「あの時、ボクと一緒にエレベーターに乗ってたのが、コナン君だったんです」

右京「……確か、爆弾を解体したのは高木さんではなく」

高木「コナン君です。あの歳の子供なら、恐怖で泣き叫んでもおかしくない状況だったのに……」

高木「彼はそんな素振り一つ見せず、淡々と爆弾を解体してました」

高木「その様子が、あまりにも異様に思えて……僕はコナン君に尋ねたんです」

高木「『君は一体、何者なんだい?』って」

右京「……彼は、何と答えたのですか?」

高木「『――知りたいのなら教えてあげるよ。あの世でね』と」

佐藤「本当に、コナン君がそう言ったの?」

高木「ええ。結局、エレベーターを脱出できた後も色々あったので、答えは聞けないままになっちゃいましたけど」

高木「……あの時のコナン君の表情、今でも忘れられませんよ」

右京「なるほど。コナン君は、とても度胸のある小学生なんですねぇ」

右京(どうやら普通の子供でないことだけは、確かなようですし……少し、調べてみましょうか)クスッ

――特命係――

甲斐「あ、杉下さん! どこ行ってたんですか」

右京「米沢さんに頼んで、昨夜の事件の証拠品を見せてもらっていただけですよ」

甲斐「それにしちゃ、随分と遅いお戻りのようですけど。どっか外にでも出てました?」

右京「僕はずっと庁内にいましたよ? 特にこれといった事件も起きていませんでしたし」

甲斐「じゃあ、これ手伝って下さいよ。俺一人じゃ量が多すぎます」バサッ

右京「この書類の山を仕分けているのですか?」

甲斐「ええ。サイズ別に分けて、リサイクルに回す書類なんですけどね」

甲斐「捜査二課の奴がドジやらかして、マル秘文書も一緒に入れちゃったんで」

甲斐「分けるついでに文書も捜してくれって押しつけられたんです。これはA4、こいつはB5……と」ポイポイ

右京「おやおや、それは大変ですねぇ……」ガサガサ

右京「ところで、そのマル秘文書とは一体何についてのものなのでしょう?」

甲斐「今度の怪盗キッドの予告現場……『グリーン・エンペラー』展示場の警備計画書です」

甲斐「宝石そのものは、鈴木財閥が雇った最強のボディーガードとかいうのが守るらしいですけど」

甲斐「建物の周辺には警官を配置するそうですからね。それの詳細な計画が書いてあるとかで」

右京「それを誤ってリサイクル用の文書ボックスに入れてしまうとは……二課の方も迂闊ですねぇ」

甲斐「俺がこの書類の山を引き取りに行った時、中森警部はカンカンで。娘さんが必死に宥めてました」

甲斐「今からこんなんじゃ、今回もキッドの確保は期待できませんね」ハァ…

右京「キッドの狙いが鈴木財閥の所有するビッグジュエル、ということは……彼も警備に参加するのでしょうか?」

甲斐「え?」

右京「江戸川コナン君ですよ」

右京「警察や財閥の私的な警備とは別に、相談役が個人的に呼び寄せることもあるそうですからね」

甲斐「……たぶん、あの子も現場には来るんじゃないですか?」

甲斐「中森警部や茶木警視がどんなに渋面しても、相談役やお嬢様からの依頼って形なら、現場に入れざるを得ないですし」

右京「鈴木財閥のお嬢様が、警備の依頼をすることもあるのですか?」

甲斐「ええ。鈴木財閥には二人の娘がいるんですけど。下の子が、毛利探偵の娘さんと幼馴染みの大親友で」

甲斐「そのお嬢様も、コナン君のことを随分と信頼してるみたいです」

甲斐「最近じゃ、『おじ様が宝石を取られても、アンタが取り返してくれるから大丈夫』なんて言ってるそうですよ」

右京「随分と詳しいようですが、どなたから聞いたのですか?」

甲斐「二課から書類の山を引き受ける交換条件として、裏話を聞かせてもらったんですよ。色々とね♪」ニッ

右京「なるほど。他にどんな話があるのか気になりますが、先にこれを片付けてしまいましょうか」ガサガサ

甲斐「はーい」バサッ…ポイポイ

量が少なめになってしまいましたが、今回はここまでです
次の更新は大晦日か元日の予定です

あと高木の一人称は「ボク」なのですが統一できてませんでした
次回からは気をつけます、すみませんm(_ _)m

――二時間後・捜査二課前――

甲斐「そんじゃ、失礼しました~」バシーン!!

右京「カイト君。いい加減、機嫌を直したらどうですか?」

甲斐「だってマル秘文書が見つかったのは、書類の山の一番下だったんですよ?」

甲斐「あの野郎……な~にが『真ん中ぐらいに挟まってると思うんですけどぉ』だ!」

右京「まぁ良いじゃありませんか。これで他者に情報が漏れる心配もなくなったわけですし」

右京「予告日が明後日に迫っている以上、今から警備計画を練り直したのではギリギリだったでしょうからねぇ」

甲斐「確かにそうですけど……あ~もう! 今度同じことがあったら、絶対に突っぱねてやる!!」

右京「まぁまぁ……我々の仕事はこれで終わりです。後は二課に頑張ってもらいましょう」

甲斐「あ~あ。当日は現場を覗きに行くつもりだったけど、やめとこ……」

右京「……僕は、行ってみましょうかねぇ」

甲斐「ん? 杉下さんも、やっぱりキッドのことが気になるんですか?」

右京「いえ。僕が気にしているのは、江戸川コナン君の方ですよ」

右京「彼がどんな風にキッドから宝石を取り返しているのか、少し興味が湧いてきたものですから」

甲斐「言われてみれば……確かに。二課の人達に聞いても、いつの間にかヒョッコリ取り返してくるらしいですし」

右京「彼が宝石を取り返すことができるということは、キッドと接触する機会があるということ……」

右京「コナン君は、一体どういう風に怪盗キッドと接触を図っているのかと思いましてねぇ」

甲斐「どういう風にって……偶然、逃走中のキッドと出くわしたとかじゃないんですか?」

右京「確かに偶然という場合もあったでしょう。しかし、コナン君が関わった現場の数を考えれば、全てがそうとは限りません」

甲斐「……そりゃまぁ、そうですけど」

右京「今回も現場の指揮を取るのは中森警部ですから、僕は展示場には入れないでしょうが」

右京「幸子さんの付き添いがてら、外から見物してきますよ」

甲斐「あぁ……そういや幸子さん、また生でコナン君を見たいって言ってましたね~」ハハハ…

――通路脇――

捜査員A「…………行ったか」チラッ

カツカツカツカツ……



――路地裏――

捜査員A(……ここまで来れば、いいでしょう)

ベリベリッ……パサッ

ベルモット「フゥ……」

ベルモット(杉下右京……ある事件をきっかけに、特命係という窓際部署へ追いやられた男)

ベルモット(しかし、その頭脳は警視庁随一と言っても過言じゃない……そんな男がクールガイに目を付けるなんて)

ベルモット(下手にあの子のことを探られて、彼の正体に感づかれたら厄介だわ)

ベルモット(住民票はあの阿笠とかいう博士がどうにかしているようだけど、戸籍を調べられればボロが出るのは必至……)

ベルモット(…………いえ、待って。この状況を、逆に利用できないかしら?)

ベルモット(上手くすれば、クールガイにも気付かれないところで杉下を排除できるはず)

ベルモット(でも、面倒な状況であることには変わりないわね。バーボンに迂闊なことは言えないし)

ベルモット(……ここは、一番手っ取り早い方法を使いましょうか)フッ

――三日後・特命係――

甲斐「結局、今回もコナン君の勝ちですか」パラ…

右京「京極真君の活躍もあってのことですから一概には言えないでしょうが……キッドの犯行が失敗に終わったのは確かです」

甲斐「京極真? あぁ……あの400戦無敗の空手家ですか」

甲斐「柱を空手で全部へし折った上に、天窓までジャンプって……どんだけ馬鹿力なんですかね」

右京「それは僕も直接見たわけではありませんが……世界中の猛者と戦うために、腕を磨いているだけのことはあると思いますよ」

甲斐「見物はどうでした? 幸子さんと行ったんでしょ?」

右京「それが、多すぎる人の波から彼女を守るのに必死でしてね。捕り物を見られたのはほんの数十秒といったところですか」

甲斐「ありゃ……それじゃ、行かなくて正解だったかなぁ」

右京「そうかもしれませんねぇ」

芹沢「お邪魔しま~す……」

右京「おや。芹沢さんの方からここを訪ねてくるのは、珍しいじゃありませんか」

芹沢「こっちだって来たくなかったんですけど……内村刑事部長と中園参事官が呼んでますよ」

甲斐「呼び出しなら内線電話一本で済むのに、わざわざ芹沢さんに伝えさせるって……」

右京「新手の嫌がらせでしょうかねぇ?」

芹沢「とにかく、伝えましたからね。早く行って下さいよ」プイ…スタスタ

甲斐「……何か呼び出されるようなことに、心当たりはあります?」

右京「いえ、特には。カイト君の方はどうです?」

甲斐「僕も無いですよ」

右京「いささか腑に落ちませんが……行くのが遅くなるとうるさい人達ですし、さっさと行きましょうか」

甲斐「はーい……」

――内村の執務室――

右京「毛利探偵事務所の監視……それが我々の任務だと仰るのですか?」

内村「そうだ。あの事務所の関係者周辺では、やたらと事件が頻発するからな」

内村「本庁や所轄でも、不審がる声が相次いでいるんだ」

中園「我々本庁の人間も忙しくて人員を割けないのだが、暇なお前達なら適任だろうと思ってな」

甲斐「監視対象は毛利探偵ってことですか?」

中園「いや、今回の対象は彼ではない。江戸川コナンという居候の少年の方だ」

右京「はいぃ?」

甲斐「昨日のキッド関連のニュースで僕も見ましたけど、彼はまだ小学生ですよ?」

右京「家主の探偵ではなく居候の子供を監視とは、一体どういうことなのでしょう?」

中園「コレを見ろ」カタカタ

甲斐「何ですか? このサイト……『毛利小五郎の事件ファイル』?」

内村「奴が世間で名を知られ始めた頃から、これまで解決した事件についてまとめたサイトだ」

中園「問題は、この項目だ」カチッ

右京「『江戸川コナンの関わった事件の数』……ですか」

甲斐「……これ、全部そうですか?」

中園「そうだ」

中園「あの少年が毛利小五郎の元に預けられたのは、半年ほど前のことだが……何せ事件の数が多すぎてな」

内村「いくら小学生でも、それはさすがに怪しいと思わんか?」

右京「確かに。ここまで事件遭遇率の高い小学生は、見たことがありませんねぇ……」

甲斐「うわ……凄いですね。こんなデータを取ってるサイトがあるなんて、知りませんでしたよ」

右京「マスコミで報道されるのは、毛利探偵についての記事がほとんどですからね」

内村「最近では、あの子供が一課の高木や千葉と顔なじみになり、奴らをパシリにしているという噂まである」

内村「仮にも警視庁捜査一課の刑事とあろう者が、小学生に良いように使われるなど情けない」

内村「キッドキラーだか何だか知らんが、子供風情に大きな顔をされるのは不愉快だ!」

中園「と、とにかくあの少年の周囲で事件が多発するのは、何か原因があるのではないかと思ってな」

中園「明日から一週間ほど張り込みを続けて、江戸川コナンとその周囲を探ってほしい。必要であれば、多少の聞き込みも許可する」

中園「言っておくが、我々はあの少年を疑っているわけじゃないぞ?」

甲斐「……コナン君は、小田切さんと白馬警視総監のお気に入りですもんね」ボソッ

内村「何か言ったか!?」ムッ

甲斐「いえ、別に」

右京「では、失礼させて頂きます」

甲斐「失礼しました~」バタン

――翌日・毛利探偵事務所近くの路上・右京の車内――

甲斐「ったく……小学生を監視だなんて。これが警察の仕事ですか?」

甲斐「たまたま出先で事件に出くわして通報したのが積み重なって、あの数字になっただけでしょ?」

甲斐「偶然なら偶然だって、上の連中も割り切りゃいいのに。ホント、何を考えてんだか」

右京「上層部は、コナン君が事件に関わるのが余程嫌なようですねぇ」

甲斐「小学生が事件に遭遇することを喜ぶ大人なんていませんって」

右京「それは僕も異論はありませんが……」

右京「どうやらコナン君は、ただの小学生というわけではなさそうですよ」

甲斐「は?」

右京「昨日、参事官達の前を辞した後、コナン君のことを少し調べてみました」

右京「江戸川コナン君は、高校生探偵として知られる工藤新一君の親戚だと、高木さんから聞いたのですが……」

右京「工藤君の親類縁者を調べた結果、江戸川コナンなる人物は存在していなかったのですよ」

甲斐「え!?」

右京「彼は現在小学一年生で、誕生日を迎えていますから、7歳のはず」

右京「もう役所の電子化が進んだ頃に生まれている年齢です」

右京「しかし7年前、役所に出された出生届のデータを閲覧・検索しましたが、彼のデータはなかった」

右京「出生届が出されていない……つまり、コナン君は無戸籍児ということになります」

甲斐「無戸籍児?」

右京「ええ。普通はコナン君の母親が、夫との間に何らかの確執があったために」

右京「コナン君の出生届を出せないままだったと考える所でしょうが……」

甲斐「いや、普通そうでしょ。警視庁のファイルでも、父親の情報は一切ありませんでしたし」

右京「もう一つ、可能性があります」

甲斐「もう一つ……?」

右京「誰かが何らかの目的で、江戸川コナンという架空の人物を作り出した可能性です」

右京「これならコナン君の出生届が出されていない、ひいては戸籍が無いのは当たり前ですし」

右京「父親についての情報が無いことにも説明が付きます」

右京「元々存在するはずのない人物の父親など、見つかるはずもありませんからねぇ」

右京「同様に、文代さんという名の母親も実在している方なのか、かなり怪しいものです」

甲斐「え……ちょ、ちょっと待って下さいよ。杉下さんの言ってることが正しいとしたら」

甲斐「江戸川コナンと名乗って、あの探偵事務所で生活してる彼は……どこの誰なんですか?」

右京「さあ、誰でしょうねぇ」

甲斐「誰でしょうねって……杉下さん……」

甲斐「まさか、それが……参事官達がこんな監視を命じた、本当の理由ですか?」

右京「あの方々がそこまで考えているかはまだ分かりませんが、何らかの事情があるのは確かなようです」

右京「とにかく我々は命令通り、コナン君と彼の周辺について、詳しく調べてみましょう」

甲斐「は、はい……」

右京「おや、ちょうどコナン君が帰ってきたようですね」

――毛利探偵事務所前――

歩美「ねぇねぇ。今度の土曜日、みんなでまた遊園地に行こうよ!」

コナン「遊園地ぃ?」

元太「おっ、それ良いなぁ。賛成!!」

光彦「トロピカルマリンランドで、新しいアトラクションができたそうですよ」

灰原「私はパス」

歩美「え~、哀ちゃんも行こうよ~」

光彦「灰原さんも一緒じゃないと、楽しくありませんよ~」

歩美「チケットは哀ちゃんの分ももらってあるの。だからお願い、一緒に行って!」

灰原「……分かったわよ。でも小嶋君の買い食いのお金、博士は一切出さないから」

元太「ええ~!? 何でだよ!!」

灰原「自分で稼いだお金を自由に使う分には、誰も文句言わないわ」

灰原「でも、小嶋君が今まで好き勝手に飲み食いしてきたのは、他人のお金よ?」ジロッ

光彦「確かに元太君、城崎温泉に行った時も、牛丼と中華まんを食べ過ぎて……」

歩美「和葉お姉さんのお財布を空にして、怒らせちゃったもんねー」

コナン「北ノ沢村に行った時は、たこ焼きを10皿も食べて、腹を壊したんだったな」

元太「う……」

灰原「いい加減、バクバク食べ過ぎる癖を直しなさい」

灰原「このままだと健康にも良くないし、周りの人に嫌われちゃうわよ?」

元太「……わ、分かったよ」チッ

コナン(ぜってー分かってねぇな、こいつ……)

――探偵事務所近くの路上・右京の車内――

甲斐「……色々と、突っ込みどころの多い会話ですね」

右京「見たところ、あの元太という少年は肥満と言うべき体格ですし」

右京「茶髪のお嬢さんの言ったことは、もっともだと思いますよ」

甲斐「いや、それは否定しませんけど。あ、コナン君が事務所に入りましたね」

甲斐「お友達はそれぞれ帰宅……至って平和ですね」

右京「今はそうでも、これから何が起きるかは分かりません。このまま張り込みを続けましょう」


~2時間経過~

甲斐「さすがに日が落ちると、急激に冷えてきますね」ブルッ

右京「事務所に動きもないようですし、あのポアロという喫茶店で休憩といきましょうか」

甲斐「賛成でーす」

――ポアロ店内――

梓「いらっしゃいませ~。二名様ですね、こちらの席にどうぞ」

右京「どうも」

甲斐「……ここって、馴染みのお客さんが多いみたいですね」ヒソヒソ

梓「そうなんです。昔から通って下さってる方がたくさんいますよ」

甲斐「あ、聞こえてました?」ハハハ

梓「お二人は、刑事さんなんでしょう?」

右京「おや、お分かりになりましたか?」

梓「兄が事件に巻き込まれて、一課の方々が店で張り込んでたことがあったんですけど」

梓「その時、高木刑事から張り込み中の刑事さんの見分け方をこっそり聞いたんです」クスッ

甲斐(高木さん……何やってんすか)

安室「毛利探偵事務所の方を見ていたようですが、何か事件でもあったんですか?」

右京「……貴方は?」

安室「失礼、こちらでウェイターをしている安室と言います」

安室「三人の会話が聞こえてしまったもので……お気に障りましたか?」

右京「いえいえ。私達も、ずっとここで立ち話をしていましたからね」

甲斐「とりあえず、座りましょうか」ガタ

右京「では、失礼」カタン

右京「紅茶と、何かオススメのメニューを頂けますか」

甲斐「俺はコーヒーとサンドイッチのセットで」

梓「分かりました、少々お待ち下さい。安室君、お冷やをお願いね」

安室「はい」



~10分後~

梓「はい、おまちどおさま」

梓「当店自慢の、あんかけスパゲティです。こちらがサンドイッチです」

右京「これは美味しそうですねぇ」

甲斐「ホントですね、ちょっと意外……あ、失礼」

梓「いえいえ。そういうお客様の反応も、店側の楽しみの一つですから」

安室「ところで、お二人がどういう事件で張り込んでいるのかは……?」

甲斐「守秘義務がありますんで、すみません」

安室「ですよねー」ハハハ

安室(チッ……この店に来る刑事は、結構口が軽いのに)

右京「やはり、気になりますか?」

安室「ええ。僕、毛利小五郎先生に弟子入りしてる探偵でもあるんで」

安室「先生、何か深刻な事件にでも巻き込まれたのかなって……」

右京「なるほど、貴方も探偵でしたか」

右京「毛利探偵とも師弟関係というなら、少しお聞きしたいのですが」

安室「はい、何でしょう?」

安室(よしよし、何とか事情を聞き出せそうだな)ホッ

右京「最近、江戸川コナン君の周辺をうろつく、怪しい人物はいませんでしたか?」

安室「コナン君の周りを……ですか?」

右京「ええ。実は警視庁に、コナン君をつけ狙う輩がいるという情報が寄せられまして」

安室「え!?」ギクッ

甲斐(おいおい、守秘義務があるって言ったばっかなのに。一体何を喋るつもりだ?)ハラハラ

右京「コナン君はキッドキラーとして、随分と有名になったでしょう」

梓「そうですね。ウチの新規のお客さんにも、コナン君目当てで来てる方がいましたから」

右京「一部の方々がストーカーじみた行為に走っているようだと、前刑事部長の小田切さんも心配されてましてねぇ」

甲斐(うわぁ。この人、小田切さんの名前を勝手に使ってる……)

梓「えっ? それ、ホントですか!?」

右京「世の中には特殊な趣味の人もいますし、ここ最近の米花町内の不審者情報も多かったですし」

右京「周辺の警護と実態調査のために、我々が来たというわけです」

甲斐「ま、まぁ犯罪予防の一環っていうか……」ハハッ

右京「お店でいる時には、周辺の人通りなどはよく見えますよね」

右京「何か思い当たるようなことは、ありませんでしたか?」

安室「え、あぁ……いや……僕は、そういう変な人を見かけたことは無いです」

安室(強いて言うなら一人、いることはいるが……アレは手を出す危険は少ないだろうし)

右京「そうですか。梓さんはどうでしょう?」

梓「私も無いですねぇ。これからは、ちょっと気をつけて見てみます」


安室(……この刑事達、単にストーカーの調査をしに来たわけじゃないな。本当は何が目的だ? 誰を疑っている?)

安室(まさかプールバーでの殺人事件の時、僕が江戸川コナンの跡を尾けていたところを、誰かに見られたのか?)

安室(いや……もしかすると赤井の妹や、FBIの奴らの動きを日本警察が察知してのことかも……)

安室(いずれにせよ、警察の動きをもう一度確認した方が良さそうだ)

~20分後~

右京「では何か分かったことや、思い出したことがあったら、言って下さい」

甲斐「張り込みの間は、ここを贔屓にさせてもらいますんで」ニコッ

梓「はい。またお待ちしてます♪」

安室「ありがとうございましたー」



安室(確かここ一週間、ベルモットが頻繁に警視庁へ潜り込んでいたな……今日の仕事が終わったら連絡を取るか)

安室(あの女に貸しを作るのは癪だが、やむを得ん)チッ

――バーボンの潜伏先――

安室「……というわけなんだが。あの二人が動いている本当の理由について、何か知っていることはないか?」

ベルモット『私は特にこれといった話は聞いてないわ。その二人が言った通りじゃないの?』

安室「彼らの言うことに裏がないという根拠でもあるのか?」

ベルモット『根拠というか……ネット犯罪対策を強化する会議で、小田切が周囲に漏らしてたのは本当よ』

ベルモット『あの子はなるべくリスクを避けて動く一般人じゃなく、自ら危険に飛び込む探偵だから何かと心配だってね』

ベルモット『それに、あの子を隠し撮りしてるネズミがいるの、貴方も気付いてるでしょ?』

安室「あぁ。彼の登下校を覗き見している、20歳ぐらいの若い男だろう?」カタカタ…タン!

安室「ネット上にも、奴が撮った盗撮画像が数多くアップされてるな。……ダウンロード数も半端無いが」

ベルモット『まぁ。人気者なのね、彼』フフッ

安室「怪盗キッドとの対決を応援する女性達だけじゃなく、その手の趣味がある男共にもな」

ベルモット『……本人が知ったら、さぞかし驚くでしょうね』

安室「フン……しばらくは動くのを控えて、あの刑事達をやり過ごすが」

安室「正直、警察に事務所周辺をうろつかれるのはまずい」

安室「せっかくベルツリー急行でシェリーを始末できたというのに……こちらも問題ばかりだな」

ベルモット『バーボン。もしかして、こないだ言ってた確証とやらが中々掴めないから、焦ってるの?』

安室「バカを言うな。面倒事は少ないに越したことはないだろうが」ムッ

ベルモット『あら、怖い』クスクス

ベルモット『それじゃ、そっちも頑張ってね。あのお方も良い報告を期待しているわ』

安室「あぁ。警察の動きで、何か掴めたことがあれば知らせてくれ」

ベルモット『ええ。それじゃ』

ピッ

安室「さて……当分は大人しくしておくか」

――ベルモットの滞在先のホテル――

ベルモット「バーボン。悪いけど、今回は貴方にも少しピエロになってもらうわよ……」フフフ

ベルモット(杉下右京がクールガイについて探り、彼の正体を知れば、何故あの姿になったのか疑問を抱いて調べるはず)

ベルモット(それを理由にして、杉下を消せばいい。どのみち組織には邪魔な男だと思っていたし……)

ベルモット(シェリーのことは手を引いたけど、他の人達については何の約束もしてないものねぇ)ニヤリ

予定より早い更新となりましたが、今夜はここまでです
前回VIPで書いた部分のコピペが大半でしたが
修正を入れつつ書き進めていきますので、展開は少し違ったものとなります
次回は元日に更新できればと思ってます

―― 一週間後・警視庁内・特命係――

甲斐「一週間ず~っと毛利探偵事務所の前で張り付いたけど、特に事件は起きませんでしたね」

甲斐「周辺住民に聞き込んでみても、皆さん口を揃えて『コナン君は良い子だ』と言ってましたし」

甲斐「学校でも友人が多く、成績面も音楽以外は問題なし。戸籍と両親のこと以外に不審な点はありませんでした」

右京「表面的に調べただけでは、確かにそうでしょう」

右京「しかし僕の推測通り、江戸川コナンという人物が何者かによって作り出された存在であるとしたら……」

右京「ちょっとやそっとのことでは、その正体は掴めないでしょうね」

『米花町で殺人事件発生!現場は三丁目の公園近く……』

甲斐「俺らがいなくなった途端に、これですか」ゲンナリ

右京「やはりもう一度張り付いて、様子を見た方が良いかもしれませんねぇ」

甲斐「ですね……」

右京「今度は『ポアロ』の方々にも内緒にしておきましょう。特に、梓さんが不安がってしまいますからね」

甲斐「……はーい」

甲斐(あそこのコーヒー、気に入ってたのになぁ……)

――翌日・捜査一課――

高木「よし、今日の聴取はこれで終わり……っと。コナン君、もう帰って良いよ」

コナン「お疲れ様、高木刑事。佐藤刑事も」

佐藤「コナン君こそ。もう六時前だけど大丈夫?」

高木「学校が終わってすぐ来てもらったのに、時間かかっちゃったね。送っていこうか?」

コナン「平気だよ。これから帰宅ラッシュで、人が多くなる時間だからさ」

高木「そうかい? じゃあ、探偵事務所に着いたらメールか電話してね」

コナン「うん。それじゃ、ボクはこれで……」

佐藤「あ、ちょっと待って。高木君、あのこと聞いときましょ」

高木「え? あぁ……アレですか」

コナン「なぁに? 何の話?」キョトン

高木「正直、ちょっと聞きづらいんだけど……コナン君、ストーカーに悩んでるってホントかい?」

コナン「へ!?」

高木「一昨日だったかなぁ。ボク達が『ポアロ』に行った時、梓さんから聞いたんだけどね」

佐藤「コナン君、何度か新聞やニュースで報道されたことがあるじゃない?」

佐藤「それを見た一部の人が、コナン君見たさに探偵事務所の周辺をうろついてるらしいって……」

コナン「え…………ボク、知らないよ?」

コナン「そういう人がいたら、小五郎のおじさんか蘭姉ちゃんに絶対言うもん」

高木「だよねぇ。まぁ、一応心配だったからさ」ハハッ

高木「何かあったら、ボクでも佐藤さんでも良いから、ちゃんと相談してね」

コナン「うん! じゃあ、さよなら~」バイバイ

佐藤「はーい、さよなら」

高木「気をつけてね」

パタン…



コナン(……何なんだ、ストーカーって……もしかして、こないだ歩美や灰原を隠し撮りしてた男のことか?)

コナン(それとも、ここ最近、事務所前に停まってた妙な車の方か?)

――毛利探偵事務所前――

コナン(あの車だ……組織にしては目立つ行動だし、無いと思ったんだが)

コナン(念のため、おっちゃんに言っとくか)



――事務所内――

コナン「ただいま~」

小五郎「おぅ。帰ったか」

コナン「ねぇ、おじさん。事務所の前の、あの車……」

小五郎「ん~?」チラッ

コナン「ここのところ、ずっとあそこに停まってるじゃない? あれって一体……」

小五郎「あぁ、気にすること無ぇって。どっかの営業マンの車だろ」

小五郎「そんなことより、ガキは宿題でもしてこい」

コナン(ダメだな……全然取り合ってくれねぇ)

コナン(しゃーねーなぁ。心配掛けたくなかったけど、蘭に言うか)

コナン(俺はともかく、蘭に妙なことしないか気がかりだし)

――毛利家・リビング――

蘭「も~。お父さんたら、またお酒飲んで寝ちゃって!」プンプン

コナン「ねぇ、蘭姉ちゃん。ちょっと良い?」

蘭「どうしたの?」

コナン「最近、事務所の前にずっと車が停まってるの、知ってる?」

蘭「え?」

コナン「何かね、高木刑事と佐藤刑事が言ってたんだけど。この辺りで、変な人がうろついてるんだって」

蘭「あ、それ梓さんから聞いたわ。コナン君にストーカーがいるって」ハッ

蘭「そうか……もしかして、その車に乗ってる人が……」

蘭「コナン君、今日は何も変なこととか無かったわよね!?」

コナン「う、うん……」

コナン「あの車、まだ事務所の前にいるのかな?」

蘭「ちょっと待ってね。コナン君、窓から離れて」ソロ…

蘭「……今はいないみたいね。車は一台も無いわ」

コナン「ホント? 良かったぁ」

蘭「でも明日になったら、またいるかもしれないし……油断できないわね」

コナン「うん……」

蘭「ねぇコナン君。しばらくの間、学校の行き帰りや放課後は、一人にならないようにしてくれる?」

コナン「え?」

蘭「だって、どんな人に狙われてるのか、分からないじゃない?」

コナン「じゃあ放課後、みんなと遊びに行ったりするのはダメ?」

蘭「ん~……誰かと一緒なら大丈夫だとは思うけど、なるべく大人がいる場所で遊んでちょうだい」

蘭「そうなると、阿笠博士の家が一番安全かなぁ……」

蘭「結構冷え込むようになってきたし、中で遊んだ方が良いって言ったら、元太君達も納得してくれると思うわ」

コナン「分かった。じゃあ放課後は、博士の家で遊ぶようにするよ」

蘭「博士の家から帰る時は、私かお父さんが迎えに行くまで待ってて。お父さんには話しておくから」

コナン「え……だ、大丈夫だよ、そこまでしなくても。博士に頼んで、送ってもらうからさ」

蘭「そう? でも気をつけてね」

コナン「う……うん」

コナン(……蘭に話したの、失敗だったかな?)

コナン(けど、あの車の奴らが、事務所を監視するためにバーボンが呼び寄せた組織の仲間だとしたら……)

コナン(最近のバーボンの動き、中々読めねぇんだよな……)

コナン(ま、それは世良も同じだけど。あいつは敵じゃないみたいだし、ほっといても害はないだろ)

コナン(でも一応、このことは灰原や博士にも話しといた方が良さそうだな。黙ってると、またうるせーし)

――翌日・放課後・阿笠博士の家――

ピロローン……ジャジャーン!!

歩美「あ~、また元太君の勝ちかぁ……」

元太「へへ~ん♪」

光彦「もう一ラウンド残ってますから、分かりませんよ? 今度こそ!」ピコ

元太「何回やっても同じだって。今度も負けねーぞ!」

灰原「……相変わらずゲームには目がないわね、あの子達」

コナン「なぁ灰原。ちょっと……」

灰原「何よ?」

コナン「いいから。博士も」

阿笠「んー?」

灰原「どうしたの?」

コナン「いや……実は最近、視線を感じるんで、妙だとは思ってたんだけど……」ヒソヒソ

コナン「どうやら探偵事務所が、誰かに監視されてるみたいなんだ」

灰原・阿笠「「え?」」

コナン「ここ一週間、事務所の前に黒の乗用車がずっと停まっててよ」

灰原「車種は? まさか、ポルシェ356Aじゃないでしょうね」

コナン「ちげーよ、日産のフィガロだ。大体、ジンは監視なんてやらされるような下っ端じゃねーだろ?」

灰原「そ……そうね」

阿笠「何か他に気付いたことや、分かっていることはあるのか?」

コナン「関係あるかは分かんねぇんだけどな……」

コナン「高木刑事達の話だと、俺にストーカーがついてるって噂があるみたいでさ」

阿笠「新一にストーカーじゃと?」

コナン「あぁ。キッド絡みの報道を見た一部の奴らが、行きすぎた行動に出てるらしい」

コナン「蘭も『ポアロ』の梓さんから話を聞いて、神経尖らせててさ。しばらく一人になるなって言われちまって」

灰原「……そういえば、一週間ぐらい前にいたわね。貴方を隠し撮りしてたカメラ小僧」

コナン「はぁ? あいつが撮ってたのは、オメーと歩美じゃねーのか?」

コナン「どうせ『麒麟の角』の報道で、オメーら二人に目を付けた幼女趣味のヤローだろ」

灰原「違うわよ。あの男の視線は、明らかに工藤君に向いてたわ」

コナン「男の俺なんか撮って、何が楽しいんだよ。ワケ分かんねー」

灰原「…………ちょっと来なさい」ハァ…

コナン「?」


カタカタ…カタ…タン!

灰原「コレよ、このサイト。見て」

コナン「何だよ。一体何が……っ」ギョッ

阿笠「こ、これは……!」

灰原「このサイトにアップされた写真は、アングルや撮影時刻からすると、あの男が撮ったものと見て間違いないわ」

灰原「これは登下校中、こっちは放課後に公園で遊んでた時……」

灰原「先週の更新では、横の一般道から学校の中を覗いて撮影したものもあるわね」

灰原「ぜーんぶ、中央に映ってるのは工藤君……」

灰原「分かった? あの男が撮ってたのは私や吉田さんじゃなく、貴方よ」

コナン「あ……あのヤロー、ショタコンかよ……うわ、すっげぇ鳥肌立った。気持ち悪ぃ~!」

コナン「つーかオメー、何でこんなサイトがあるって知ってんだよ?」

灰原「前に博士が動画を投稿して、メガネに私が映り込んでたのを見つけたことがあったじゃない?」

灰原「あの男が撮った写真の中に、私が映ってたら削除しようと思って。それでこのサイトを突き止めたのよ」

コナン「なるほどな……けど、例の車が事務所前に居座るようになってから、あのヤローはほとんど見てねーぞ?」

阿笠「つまり、その盗撮男とは別の連中ということじゃな?」

コナン「あぁ。目的はまだ掴めてねーが、バーボンは『ポアロ』に留まったままだ」

コナン「でもバイトとしての仕事もあるから、事務所にずっと張り付けるわけじゃない」

コナン「だから奴のバイト中、事務所を監視するための仲間を呼んだのかもしれねーと思ってよ」

阿笠「まさか奴らは、まだ哀君の生存を疑っておるのか?」

コナン「いや、それならこっちの方に監視が付くさ」

コナン「黒兵衛の事件の時、バーボンは変装した状態とはいえ、灰原を見てるはずだからな」

コナン「それでもこの家の周囲に変わった様子がないってことは、灰原がまだ生きてるのに気付いてないと見ていいだろう」

灰原「じゃあ、今回のターゲットは工藤君ってこと?」

コナン「それはまだ分からねぇが……もしかしたら、また小五郎のおっちゃんに目を付けてるのかもな」

コナン「とにかく、そういうわけだからさ。そっちも用心はしといてくれ」

コナン「バーボンが次に何を仕掛けてくるか、予測が付かねぇからな」

阿笠「分かった。ここと君の家のセキュリティは任せてくれ」

コナン「頼むな、博士」

灰原「貴方も気をつけなさいよ。何かあっても、一人で突っ走ったり、抱え込んだりしないで」

コナン「わーってるって」

このスレを見て下さっている皆様、あけましておめでとうございます

今回の投下はここまでです
三が日中にもう一度更新できればと思ってます

>>66を一部訂正

× コナン「それはまだ分からねぇが……もしかしたら、また小五郎のおっちゃんに目を付けてるのかもな」

○ コナン「それもはっきりとはしてねぇが……もしかしたら、また小五郎のおっちゃんに目を付けてるのかもな」

――二日後・杯戸町四丁目――

歩美「文乃ちゃんの猫さん、見つかった?」

元太「全然だぜ……ホントにこの辺りにいるのかよ?」

光彦「誤算でしたね。結構目立つリボンをしてるって聞いたから、すぐに見つかると思ったんですけど」

灰原「日も暮れてきたし、一旦捜索は中止ね。あんまり遅くなると、おうちの人も心配するわ」

コナン「だな」

灰原「貴方は相変わらず、蘭さんから口を酸っぱくして言われてるし」

コナン「うっせーな。俺のせいじゃねーよ」


女性A「キャアアアアア!」


コナン・灰原「「!?」」

歩美「何? 今の悲鳴……」

灰原「角のところにあった喫茶店かしら?」

光彦「と、とにかく行ってみましょう!」

元太「おう!」

タタタタタタ……

――喫茶店内――

バタン!

コナン「どうしたんですか!?」

女性A「あ……あれ……」

コナン「…………」スタスタ…スッ

コナン「この人は?」

女性A「……お、お客の一人。コーヒーを飲んでたら、急に苦しみだして……」

灰原「救急車は手配したわ。あと五分ぐらいで来るって」

コナン「ダメだ……もう息はねぇ。警察も頼む」

灰原「高木刑事で良い?」

コナン「あぁ」

コナン(状況から見て、毒殺だな。まずは使われた毒物を特定してもらわねーと)

コナン(店内には、被害者を含めて客が五人と従業員が二人。この人を狙っての犯行か、それとも……)

コナン「刑事さん達が来るまで、今いる場所から動いちゃダメだよ。店内の物もいじらないで」

女性A「え……」

コナン「犯人だと疑われたくなかったら、動かないでってこと」

女性A「……坊や、一体……?」

コナン「江戸川コナン……探偵さ」キラーン


~20分後~

高木「コナン君!」

コナン「あ、高木刑事」

伊丹「……またこのガキか」

芹沢「伊丹さん、ここは現場ですからね。抑えて下さいよ」

伊丹「分かってるよ、バカ!」ゴンッ

芹沢「いてっ!」

コナン「お店の中にいた人達には、動かないでって言ってあるから」

高木「じゃあみんな、君達が悲鳴を聞いてお店に駆け込んだ時と同じ位置にいるんだね?」

コナン「うん。でも被害者の飲んでたコーヒー、倒れた拍子に零れちゃってて」

高木「あぁ……この辺のカーペットを押収すれば、毒の成分も分析できるから大丈夫だよ」

高木「米沢さん、お願いします」

米沢「分かりました。トメさん、店内の指紋は頼みますね」

トメさん「おうよ」

米沢「では、失礼……」ゴソゴソ

米沢「分析の結果は、すぐにお知らせしますので」

高木「はい」

伊丹「……んじゃ、調べるとするか」

甲斐「被害者は立花陽平(47歳)。ミツバコーポレーションの商品開発部部長……」

甲斐「免許証と名刺から分かるのは、このぐらいですね」

伊丹・芹沢「「なっ!?」」

右京「立花さんは、よくこのお店にいらっしゃるのですか?」

女性A「え、ええ……お昼や仕事中の休憩に、よく立ち寄って下さるんです」

女性A「普段は部下の松永さんという方も一緒なんですけど、今日はお一人で……」

右京「注文は、いつもコーヒーを?」

女性A「はい」

コナン「気に入った豆の種類とか、無かったの?」

女性A「いいえ。その時々に入った豆の中から、気分次第で選んでたから。今日お出ししたのは、モカ・マタリよ」

コナン「ふーん……」

コナン(立花さんを殺害するために、特定のコーヒー豆に毒を仕込むのは不可能ってことか)

コナン「立花さんは、ボク達がお店に来る直前に倒れたんだよね? 今日は何時頃に来たの?」

女性A「えっと……確か四時五十分ぐらいだったわ」

コナン「ボク達がここに来たのは、五時八分頃だったから……」

右京「被害者が来店してから倒れるまでの時間は、十八分ほどということですね」

甲斐「こら、ボク。興味があるのは分かるけど、そういうことを聞くのは俺達刑事の仕事だぞ?」

コナン「あ……ごめんなさい」アハハ…

伊丹「特命係は呼んでないはずなんですがねぇ」

芹沢「何で二人がここにいるんですか?」

右京「別件で近隣を通りかかったところ、パトカーが店の前に停まっているのが見えたものですから」

甲斐「何かあったのかな~と思って、来てみたんです」

伊丹「それなら、その別件とやらを片付けてきたらどうなんだ」

甲斐「用件はもう終わって、帰る途中だったもんで。お気遣い無く」

伊丹「……ったく」チッ

芹沢「頼むから、邪魔だけはしないで下さいよ」

右京「ご心配には及びません」

甲斐「そうそう」

芹沢「ホントかなぁ……」


~1時間後~

米沢「結果が出ました。使用された毒はストリキニーネですね」

米沢「絨毯に零れたコーヒーと、カップの中から毒が検出されています」

右京「それ以外に、毒が付着していた場所はありませんでしたか?」

米沢「今のところは、見つかってないですなぁ」

米沢「そうそう。トメさんに店内の指紋を調べてもらったのですが、そちらは僕もまだ聞いて……」

コナン「ねーねー、トメさん」

トメさん「ん? 何だ、ボウズ」

コナン「お店の中の指紋、どうだったの?」

トメさん「特に変わったところはないよ。被害者の席からも、被害者とお店の人以外の指紋は出なかったし」

コナン「被害者は、いつもこの席に座ってたんだよね?」

トメさん「あぁ。そのことは、高木がさっき店の人に聞いてたよ」

トメさん「でも常連の人なら、そこが被害者の指定席だって知ってたみたいだぞ?」

コナン「ふーん……ありがと、トメさん」

トメさん「ボウズ、探偵ごっこは程々にな」

コナン「はーい」

米沢「……あの少年は、相変わらずのようですなぁ」

甲斐「杉下さん……」ヒソ…

右京「しばらく、彼の動きを観察してみましょう」

コナン「ねぇ高木刑事、ちょっと聞きたいんだけど」

高木「何だい?」

コナン「被害者がいつもあの席に座ることを知ってた常連さんって、今日ここに来てるの?」

高木「あぁ、いるよ。一番奥の席に座ってる鈴川さんって女の人と、入口から二番目のテーブルにいる渡辺さん夫婦」

高木「でも彼らは、たまたま店で一緒になることが多くて、お互いの顔や名前、座る位置を覚えてただけだそうだからね」

高木「今のところ、立花さんと他の接点がある人も見つかっていないし、事件とは関係ないと思うよ」

コナン「……他の常連さんで、立花さんの指定席のことを知ってる人は、いないのかなぁ?」

高木「いることはいるけど、今日は午前中に来て帰ったそうだよ」

コナン「ふーん……」

伊丹「おい、高木! ガキと喋ってる暇があったら仕事に集中しろ!!」イライラ

芹沢「まぁまぁ、伊丹さん。他のお客さんもいるんですから」

高木「あ、すみません……ごめんね、コナン君。ボク、ちょっと……」

コナン「ううん、気にしないで。教えてくれてありがと、高木刑事」

コナン(店内はテーブル五つ、窓際に並べられている。それとカウンター席が五つ……)

コナン(一番奥のテーブルに鈴川さん、入口から二番目に渡辺夫婦……被害者の席は真ん中のテーブルだった)

コナン(カウンター席の奥から二番目と三番目には、近隣に下宿してる女子大生の二人)

コナン(事件発生当時、従業員の一人は、渡辺さんの奥さんにコーヒーのお代わりを持っていってて)

コナン(もう一人は、女子大生の注文を受けてハニートーストを作っていた)

コナン(毒を仕込むチャンスが最も多かったのは従業員二人だけど……他の客達も被害者の近くに座っていたから)

コナン(トイレに行ったり、雑誌を取りに行くふりをしたりすれば、被害者のカップに毒を入れることは可能だ)

コナン(しかし、それだと何らかの方法で被害者の意識をカップから逸らすか、被害者が席を立った隙を狙う必要があったはず……)

コナン(それに、コーヒーから検出された毒がストリキニーネってのも引っかかるな……)

コナン(経口摂取してから痙攣などの症状が表れるまでには三十分程度かかる毒なのに)

コナン(店の人の話だと、被害者は来店から二十分足らずで倒れている)

コナン(まさか、カップに入れたストリキニーネはフェイクで、本当は即効性のある別の毒で被害者を殺害したのか?)

コナン(もしそうだとしたら、犯人は一体どんな手を使ったんだ?)

コナン(とにかく、店に入ってからの全員の行動を聞いてみねーとな)

灰原「江戸川君、ちょっと」ヒソ…

コナン「何だよ。今は推理に集中してーんだけど」コソコソ

灰原「お店の前に停まってる、あの黒い車……」

コナン「ん? ……日産のフィガロ!」

灰原「例の車のナンバーは、記憶してる?」

コナン「あぁ。事務所前に停まってたのと、同じやつだ」

灰原「それじゃ、探偵事務所を監視してる人が、この中にいるってことよね?」

コナン「でも、この店の客は全員徒歩で来てるはずだから……あれは警察関係者の車か?」

灰原「もしかすると、奴らは警察を装って、貴方を監視してるのかもしれないわ」

コナン「……灰原。オメーはあいつらを連れて、隙を見て帰れ。博士に連絡すれば、近くで拾ってもらえるだろ」

コナン「オメーらがいないことに警察が気付いたら、親が心配して迎えに来たって言っとくから」

灰原「バカ言わないで! その後で貴方が奴らに捕まったりしたら、結局は私達にも危害が及ぶでしょうが」

歩美「二人とも、何の話してるの?」

コナン「え!? あ、いや……」

灰原「この分だと遅くなるだろうし、家に連絡して迎えに来てもらった方が良いかなって相談してただけよ」

灰原「外はすっかり暗くなっちゃったから」

歩美「あ、ホントだ~。もう真っ暗!」

光彦「とりあえず、家には電話しておきましょう。まだ捜査には時間がかかりそうですし」

元太「俺、腹減った~……」グゥゥ…

コナン(ノー天気な奴らだな……ったく)ハハハ

右京「今日皆さんがこの店に来てから、事件が発生するまでのことを、詳しくお聞きしたいのですが」

甲斐「お店に来た順を教えて頂けますか? まずは従業員のお二人、お客の四人はその後で」

女性A「私達は朝七時半頃、ほぼ同時に出勤して、朝の開店からずっと勤務していました」

女性B「特に店の外には出ていません」

甲斐「お客さんは、誰がいつ頃来たとか、分かります?」

女性A「午前中は常連の方が二人いらしたのと、モーニングを頼んだお客様が三人だけで」

女性B「ランチタイムは十人ほど来店されました。二時過ぎには一旦落ち着いて、四時過ぎから、こちらの皆さん方が来店を……」

右京「そうですか。では、貴方方の中で最初に来店されたのは、どなたでしょう?」

鈴川「私です。いつもこのぐらいの時間に、この店でコーヒーを飲みながら、本を読むのが日課でして」

右京「いつ頃だったか、覚えていらっしゃいますか?」

鈴川「四時十分過ぎだったかと思いますが……」

甲斐「次に来たのは?」

渡辺(夫)「私達です。散歩の帰りに、よくこの店で休憩して帰るので。四時半頃、ここに……」

女性A「その次にいらしたのが、立花さんでした」

右京「では、そちらのお二方はそれ以降に?」

女子大生A「は、はい……お店に入ったの、五時過ぎだったよね?」

女子大生B「うん。スマホで時間を確認したから」

右京「このお店に来るのは、今日が初めてですか?」

女子大生A「はい。同じ学部の友達から、ここのハニートーストが美味しいって聞いて、食べに来たんです」

右京「なるほど……」

伊丹「警部殿、それを聞くのは我々一課の仕事ですよ」

右京「そして五時八分頃、突然被害者が倒れ、ウェイトレスさんの悲鳴を聞いた子供達が駆けつけて通報した……ということですね」

女性A「ええ」

芹沢「全然聞いちゃいないし……」

コナン「ねーねー。お店に入ってから、席を立った人はいなかったの?」

女性A「え? 確か……渡辺さんご夫婦が来店されてすぐ、入れ替わりにトイレへ行かれたわ」

コナン「他には?」

鈴川「私もトイレを使いました。立花さんが来て、五分ぐらいした頃に」

コナン「じゃあ、四時五十五分頃だね?」

鈴川「そうよ……って、坊や。刑事さんのお仕事を邪魔しちゃダメよ」

コナン「はーい」

高木「立花さんと、このお店に来る人達との間に、何かトラブルはありませんでしたか?」

女性A「さぁ……お客様同士の個人的な付き合いに関しては、あまり……」

女性B「半月ぐらい前、渡辺さんご夫婦と言い合ったようなことはありましたが……」

渡辺(妻)「あれは店内が禁煙なのに、あの人がタバコを吸っていたのを注意しただけですよ」

渡辺(夫)「私達が言ったら、すぐに携帯灰皿でタバコを揉み消してくれましたから、言い合いというほどのことでは……」

コナン「それ以外には?」

女性B「特に思い当たることは無いわ。ねぇ?」

女性A「ええ」

右京・甲斐「「…………」」チラリ

コナン(やっぱ、あの二人から俺を観察してるような視線を感じる……事務所に張り付いてんのは奴らか)

コナン(特命係……確かにそういう窓際部署があるって話は、目暮警部から聞いたことがあるけど)

コナン(そんな部署の刑事なら、組織の奴らがすり替わって動いてても、周囲は気付きにくそうだな)

コナン(それに、上の連中の雑用係にされてるらしいって高木刑事も言ってたから)

コナン(適当な任務をでっち上げて探偵事務所に張り付いてても、庁内では何ら不審に思われない)

コナン(よりによって警察に仲間を忍び込ませ、俺やおっちゃんを監視させるとは……バーボンも考えたな)

コナン(いや……ベルモットの差し金って可能性もある)

コナン(ベルツリー急行でのバーボンの話からすると、ベルモットとバーボンの思惑は完全には一致してねぇ)

コナン(あの時、灰原を生け捕りにしようとしたバーボンと違い、ベルモットは確実に灰原を殺すつもりだった)

コナン(キッドのおかげで、バーボンや他の連中は『灰原は死んだ』と騙されてくれてるが……)

コナン(やはりベルモットは灰原の抹殺を諦めてないってことなのか)

コナン(今度こそ確実に灰原を消すための布石として、事務所に監視を置き、俺の動きを探ってるんだとしたら……)

コナン「おい、灰原……ちょっと聞きてーんだけど」ヒソヒソ

灰原「何よ?」

コナン「あのメガネの警部と、隣の若い刑事……組織の臭いとか感じねーか?」

灰原「別に。何も感じないけど……貴方を見張ってたのは、あの二人?」

コナン「確証はないが……たぶんな」

コナン「オメーが臭いを感じねーんじゃ、あの二人が組織の一員だったとしても、かなりの下っ端ってことか」

灰原「沼淵みたいな?」

コナン「あぁ。しかし参ったな……組織の奴らの前で迂闊な行動は取れねーけど、犯人を逃すわけにはいかねーし」

灰原「今回は、ヒントぐらいに留めた方が良さそうね。犯人と殺害方法はもう分かった?」

コナン「おおよその見当は付いてる。後は証拠と動機だな」

灰原「それじゃ、さっさと片付けて帰りましょう。これ以上、あの人達と一緒にいない方が良いわ」

コナン「おぅ」

今回はここまでです
次は土日のどちらかに更新予定です



作者ってリングと呪怨のコラボやってた人?

>>85
その方とは別人です
以前VIPで書いた時に質問されたのですが、古畑とのコラボも違う作者様です

>>77を一部訂正

× コナン(店内はテーブル五つ、窓際に並べられている。それとカウンター席が五つ……)

○ コナン(店内はテーブルが五つ、窓際に並べられている。それとカウンター席が五つ……)

>>82を一部訂正

× コナン(あの時、灰原を生け捕りにしようとしたバーボンと違い、ベルモットは確実に灰原を殺すつもりだった)

○ コナン(あの時、灰原を生け捕りにしようとしたバーボンと違い、ベルモットは爆弾で灰原を殺すつもりだった)

高木「立花さんにコーヒーを運んだのは、どちらでしたか?」

女性A「私です。でもコーヒーを淹れたのは、この子の方ですよ」

女性B「立花さんがいらした時は、いつも私が淹れて持っていくんですが……」

女性B「今回はハニートーストを作っていたので、彼女に持っていってもらったんです」

高木「なるほど……コーヒー豆も立花さん自身が選んだものでしたよね」

女性A「ええ」

キィィ…パタン

佐藤「杉下警部。被害者の部下の、松永涼太さんをお連れしました」

松永「……あの……部長が倒れたと聞いたのですが、今、どちらの病院に?」

伊丹「残念ですが、救急と警察が通報を受けた時には既に……」

松永「そ、そんな……!」

右京「お気持ち、お察しいたします。こんな時に何ですが、捜査のために、いくつかお聞きしたいことがありましてね」

松永「……僕に分かる範囲で良ければ、お答えしますけど」

右京「立花さんが、何らかのトラブルを抱えていた様子はありませんでしたか?」

甲斐「仕事上でもプライベートでも構いません。何か思い当たることは?」

松永「いえ……職場では、あまりプライベートな話題は出さない人なので。仕事でも、恨みを買うようなことは何も……」チラ

女性B「…………」フイ

コナン(あの二人のぎこちない態度……何かあるな)

コナン(おっと。今のうちに、トメさんに確認しておかねーと)

コナン「ねーねー、トメさん。被害者の身体から検出された毒も、ストリキニーネだったの?」

トメさん「あぁ。米沢からもらった検死結果だと、同じ毒だったそうだよ」

コナン「胃の内容物は、もう調べた?」

トメさん「もちろんさ。でも、溶け残ったカプセルの欠片が胃の中に残ってただけで、他には何も出てないぞ」

コナン「カプセル?」

トメさん「市販の風邪薬のカプセルだよ。被害者は風邪気味で、会社を出る前に、松永さんから薬をもらったらしい」

コナン「……へー」

コナン(やはりな……あの方法を使ったのか)

コナン(そしてコーヒーに毒を入れたのは、あの人だ)

コナン(証拠は荷物か自宅を調べれば出てくるだろうが……動機がまだ分からねぇ)

コナン(おそらく、あの人と被害者との間に何らかのトラブルがあったんだろうけど……それと犯人がどう繋がる?)

コナン(しかし、犯人の策略も皮肉な結果に終わったな)

コナン(あの人から疑いの目を逸らそうとして、あんな方法を使ったんだろうが……)

コナン(問題は、真相をどうやって高木刑事達に気付かせるかだ。特命係の二人がいるんじゃ、下手な動きはできねぇし)ムゥ…

甲斐「杉下さん、真相は分かりました?」ヒソヒソ

右京「僕が聞きたいことの大半は、既にコナン君が聞いてくれましたからね」クスッ


右京「ところで、今日の立花さんは体調が優れず、松永さんから風邪薬をもらったそうですね」

松永「ええ。熱っぽくて身体がだるいと言っていましたので、僕が持っていたこの薬を……」ゴソ…

右京「薬を渡した時は、どういう状況だったのでしょう?」

松永「は?」

右京「あぁ、つまり……薬を渡す時、貴方がそのブリスターパックを割って渡したのか、それとも……」

佐藤「それなら、立花さん自らが薬のパックを割って、残りを松永さんに返したと同僚の方が証言していました」

右京「なるほど……」

コナン(この警部、抜け目ねーな……もし組織のメンバーなら、バーボンみたく潜入や情報収集に長けた奴か)

コナン「ん?」

コナン(松永さんのポケットから出てるのは、携帯のストラップか? たしかあれって……)チラッ

コナン(やっぱり。あの人とお揃いのやつだ。ってことは、あの二人……)

コナン「あれれ~? 松永さんのストラップ、あのウェイトレスさんのと同じだ~」

松永「ぼ……坊や」ギョッ

コナン「もしかして、お揃い?」ニコ

女性B「ち、違うわ。たまたま同じ旅行先に行って、同じ物を買ってただけ」チラッ

女性B「後でお店で会った時、気付いてビックリだったのよ」

コナン「ふ~ん……あ、そうそう。もう一つ聞いていーい?」

女性B「なぁに?」

コナン「お姉さん、今日はお休みのはずなのに、何でお仕事に来てるの?」

女性B「え?」ドキ

コナン「さっき高木刑事が勤務表を見てた時に気づいたんだけど、お姉さんのシフト、今日はお休みのマークが付いてたよ?」

女性B「そ……それは」

女性A「今日はオーナーが体調を崩したんで、私が彼女に出勤をお願いしたのよ。他の人は都合が付かなくてね」

コナン「へー、そうだったんだぁ」

女性A「でも、坊や。探偵ごっこはそこまでにして、あっちに行ってなさい」

女性A「さっきも刑事さんに言われたでしょ?」

コナン「はーい」

コナン(なるほどな……そういうことか)

高木「しかし、釈然としませんね」

佐藤「ストリキニーネにしては、飲んでから毒の効果が表れるのが早かった点でしょう?」

伊丹「単に毒の濃度が濃かったとかじゃねーのか?」

芹沢「そんな結果は出てないみたいですけど。ホラ……」ピラ

伊丹「それを先に言え!」ゴンッ

芹沢「痛っ……自分で先走っただけじゃないですか」

コナン「あ、それは……」

右京「コーヒーに含まれていた毒も、被害者の身体から検出された毒も、同じで当然でしょうね」

右京「被害者は二度にわたって、同じ毒を飲まされたのですから」

コナン「!」

伊丹・芹沢・高木「「「二度!?」」」

右京「ええ。一度目は、松永さんが渡したカプセルの中に仕込まれていたもの」

右京「二度目は、このウェイトレスさんがコーヒーの中に入れたもの……」

伊丹「ちょっと、警部殿?」

松永「いきなり何を言い出すんですか!?」

女性B「……!」ピク

甲斐「杉下さんは、この二人が別々の手段で、立花さんを殺そうとしたって言いたいんですね?」

コナン(この警部も真相を見抜いてたのか……んじゃ、解説は任せよっと。俺も目立たなくてすむし)

佐藤「でも、松永さんと被害者の間にトラブルは見当たらなかったはずでは……」

右京「ええ。そのお二人の間には、直接のトラブルはなかったでしょう」

右京「しかし、松永さんとウェイトレスの貴方が、実は恋人同士で」

右京「貴方と立花さんとの間に何らかのトラブルがあったとしたら、どうでしょう?」

松永・女性B「「……え?」」ギク

右京「お店に入った時の松永さんの態度と、お揃いのストラップを見て、もしやと思っていました」

右京「確かにストラップ自体は、旅行先のお土産物として普通に売られている物ですが……」

右京「そのデザインは京都のあるギフトショップにおいて、期間限定で販売されていたペアの商品です」

右京「そんなものを偶然、旅先で片方ずつ買ったなどとは、とても考えにくい」

右京「貴方方が一緒に京都へ旅行に行き、その記念として買い求めたという方が自然です」

右京「二人きりで旅行するほどの仲の男女といえば、恋人同士か夫婦、不倫相手との一時の逢瀬……」

右京「いずれにせよ、深い仲だと考えるのが一般的でしょう」

右京「貴方は立花さんとのトラブルが原因で、彼から脅されていたのではありませんか?」

右京「そして困った貴方が恋人である松永さんに相談したか、もしくは、脅迫の事実を松永さんが偶然知ってしまった」

右京「おそらく貴方が立花さんの脅迫に耐えかね、彼を毒殺しようと考えているのも、その時に知ったのでしょう」

右京「貴方が入手した毒をかすめ取った松永さんは、市販の風邪薬に毒を仕込み、立花さんに飲ませるチャンスを窺った……」

右京「そして今日、会社を出ようとする彼が体調を崩していたことにかこつけ、毒入りのカプセルを飲ませた」

右京「もちろんその後、立花さんがこちらの店に立ち寄ってから帰ることを計算に入れて……」

右京「松永さんは、恋人の貴方のシフトを事前に聞き出しており、貴方が休みの日を狙ったつもりだったのでしょう」

右京「自分は『残業がある』とでも言って会社にいれば、同僚の方がアリバイの証人になってくれますから」

右京「自分も貴方も、真っ先に疑われる心配はないと踏んだ」

右京「しかし、今日はお店のオーナーが体調を崩し、貴方が急遽出勤することになってしまった」

右京「松永さんの思惑に気付いていなかった貴方は、一人で来店した立花さんを見て」

右京「『松永さんがいないこの日であれば、彼に疑いが向くことはない』と思い、立花さんのコーヒーに毒を入れた」

右京「しかしコーヒーの毒の効果が表れる前に、カプセルの毒が効力を発揮し、立花さんは亡くなってしまった……」

右京「……とまぁ、こう考えれば、この状況に説明が付きます」

女性B「しょ……証拠はあるんですか? 彼が毒入りのカプセルを用意したとか、私がコーヒーに毒を入れたって証拠は」

右京「先程松永さんに見せて頂いた風邪薬は、6錠ずつブリスターパックで包装されたもの……」

右京「その中から毒を仕込んだ物を選んで立花さんに渡すのは、非常に不自然に映るはずです」

右京「しかも同僚の方の証言から、立花さんは自分でカプセルを選んでいる……となると、松永さん」

右京「貴方は、そのパックのカプセル全てに毒を仕込み、立花さんがどれを飲んでも確実に殺せるようにしたのではありませんか?」

松永「…………!!」ビクッ

甲斐「残りのカプセル、鑑定させて頂けますね?」

右京「ウェイトレスさんが使用した毒の残りも、自宅を捜索すれば見つかるでしょう」

右京「犯行に使った程度の分量なら、お店のペーパーナプキンに包むなどすれば」

右京「持ち運びも簡単ですし、ゴミとして処分もしやすいはずです」

松永「違う、彼女はやってません! 全部僕が……!!」

女性B「もういいわ、涼太」フゥ…

女性B「ペーパーナプキンは生ゴミの中に紛れ込ませて……残りの毒は、自宅の台所に隠してあります」

松永「……全部、その警部さんの言った通りです」

松永「部長は、職場では堅実な人で通ってましたが、実際はかなり女癖が悪くて」

松永「若い女子社員へのセクハラも、結構問題になっていたんです」

松永「社長に訴えた子もいましたが、あの人は事なかれ主義でアテになりませんでした」

松永「彼女は以前ウチの会社に勤めていて、その時から僕と付き合っていたんですが……」

松永「部長は酒の席を利用して、強引に彼女と関係を持ち、それをネタに脅して金をむしり取っていたんです」

松永「彼女が会社を辞めた後も、勤め先を突き止めて、付きまとっていました……」

松永「僕も近いうちに転職し、彼女と結婚して、部長の目の届かない所へ行くつもりでした。でも……」

女性B「『お前や松永の実家に俺とのことをバラされたくなければ、手切れ金として3000万円用意しろ』と脅されて……」

右京「それで彼を毒殺しようと、ストリキニーネを手に入れたのですね?」

女性B「……はい。でもまさか、涼太もその毒を使って立花を殺そうとしていたなんて……」

松永「彼女に手を汚させるぐらいなら、僕が殺ろうと思ったんです」

松永「本当に、申し訳ありませんでした……」ペコリ

右京「詳しいお話は本庁で伺います。……伊丹さん」

伊丹「行こうか」

松永・女性B「「……はい」」

芹沢「お二人とも、今回も犯人特定にご協力頂いて、ありがとうございましたー」

甲斐「芹沢さん、すっげぇ棒読みですよ」

右京「僕達は手柄にこだわっているわけではありませんから。後のことはお願いします」

芹沢「はいはい……」

佐藤「伊丹さん、高木君。この子達の聴取、明日で構わないでしょ。私が送っていっても良いかしら?」

伊丹「あぁ、頼む」

高木「それでは調書を取りますので。皆さん、ご同行願います」

鈴川・渡辺夫妻・女性A「「「「はい」」」」

女子大生A「調書って……?」

女子大生B「今夜中には帰れるんですよね?」オドオド

芹沢「もちろん。お店に入ってから今までのことを話してもらって、それを係の警官が記録するだけだから」

女子大生B「な~んだ、それだけですか」

女子大生A「良かったぁ」ホッ

芹沢「さ、行きましょ」スタスタ

右京「……我々も引き揚げましょうか」

甲斐「そうしますか……あ、杉下さん。俺も一個だけ聞きたいんですけど」

右京「何でしょう?」

甲斐「どうして、あのストラップが期間限定販売のペアの商品だって分かったんです?」

甲斐「しかも京都で売られてたなんて」

右京「ある事件を追って、神戸君と京都へ行った時に見かけたのを覚えていただけですよ」

甲斐「そ、そうなんですか……」

甲斐(……相変わらず、信じられない記憶力だな)

灰原「江戸川君……」コソ

コナン「心配すんな。あの二人、オメーには一切興味無しみてーだから」ヒソヒソ

灰原「やっぱり、今回の狙いは貴方なのね?」

コナン「あぁ。けど、まだ不確定な要素が多すぎる。しばらくは様子見だな」

灰原「ええ」

歩美「あ~! また二人で内緒話してる~!!」

コナン・灰原「「え?」」

光彦「コナン君と灰原さん、前から時々そういう場面を見ましたけど……怪しいですね」

元太「やっぱオメーら、付き合ってんのか?」ニシシ

コナン「ちげーよ。何言ってんだ、バーロォ!」ムッ

元太「ホントかよ~?」

灰原「違うわよ」ジロッ

元太「………………ハ、ハイ」コキン

――喫茶店近く・佐藤の車の前――

右京「それでは僕達も失礼します。佐藤刑事、子供達をお願いしますね」

佐藤「はい。お疲れ様でした」

甲斐「お疲れ様でした~」

歩美「バイバイ、刑事さん」

光彦「さよなら」

元太「じゃあなぁ~」

右京「それでは、君達も気をつけて」

コナン「はーい」

ブロロォ……

佐藤「それじゃ、私達も行きましょうか」

歩美・光彦・元太「「「ほーい!」」」

コナン「オメーら、ピクニックじゃねーんだから……」

灰原「言っても無駄よ。諦めなさい」

コナン「……ったく」ハァ…

――喫茶店近くの路地裏――

男A「……ハァ……ハァ」

男A(くそ……今日もあいつらが傍にいたから、良い写真が撮れなかったじゃないか)

男A(コナン君さえ映ってれば、周りのガキ共はどうでもいい)フフフ

男A(それにしても、邪魔だな……あのオッサン達。先週からずっと事務所に張り付いて、コナン君を見張ったりして)

男A(ストーカーがどうとかいう話も聞いたけど、それって、あのオッサン達のことか?)

男A(……許せない……ボクのコナン君にストーカーなんて!)ギリッ

今回はここまでです
次回から更新は週末、余裕があれば平日にもう一度更新という形になります

――右京の車内――

甲斐「事件現場で、ずっとコナン君のことを見てましたけど……確かに普通の小学生がする表情じゃなかったですね」

右京「いくら殺人事件に遭遇することが多いとはいえ、まだ子供です」

右京「普通であれば、あの探偵団のお友達が見せたような恐怖や怯えがあっても良いものですが……」

右京「コナン君には、全くそんな様子は見られませんでした」

右京「被害者の生死を確認するだけでなく、通報と共に現場を保存し、容疑者である店の従業員と客に動かないように指示を出す……」

右京「まるで熟練した一課の刑事のように、彼の行動には無駄がありません」

右京「現場に警察が到着してからも、鑑識やお店の人達から有力な証言や情報を巧みに引き出したり」

右京「ストラップの件から、犯人の二人の関係を我々捜査関係者に気付かせたりもしていました」

右京「僕がコナン君に抱いた印象は、『鋭い観察眼で状況を把握すると同時に情報を集め、真実という名のパズルを組み立てる探偵のような少年』です」

右京「一課や鑑識の人達には、子供らしい話し方でごまかしていましたがね」

甲斐「でも探偵って、普通は浮気調査とか人捜しが主な仕事なんでしょ?」

甲斐「事件を解明する名探偵といえば、金田一耕助とか明智小五郎とか、その辺が有名ですけど」

甲斐「やっぱり世界的に名が知られているのは、シャーロック・ホームズですか」

甲斐「杉下さんは、コナン・ドイルの作品を読んだことはあります?」

右京「もちろん。昔から愛読していますよ」

甲斐「俺は大学の時に途中で挫折して、それっきりですね~。今度、ドラマで見てみようかな……」

右京「おやおや。原文で読めとまでは言いませんが、小説ならではの面白さもあるんですよ?」

甲斐「それは分かってるんですけどね。あれだけの量を読むのは時間もかかりますし」

右京「ホームズの話には短編もありますから、それから読んでみてはどうですか?」

甲斐「短編かぁ……まぁ、それならチャレンジしてもいいかもしれませんね」ハハッ

右京「…………………………」

甲斐「杉下さん、どうしました? 急に黙り込んじゃって」

右京「……ホームズ、といえば……」

甲斐「何ですか?」

右京「カイト君、送るのは最寄り駅までで構いませんか? 僕は少し調べたいことができましたので」

甲斐「え? それは別に良いですけど……ちなみに、何を調べるんです?」

右京「江戸川コナン君の正体を探る上で、鍵となるかもしれない人物についてですよ」

甲斐「鍵となる……人物?」

右京「まだ、『かもしれない』という仮定の段階ですがね。僕の推測通りなら、おそらく“彼”が関係しているはずです」

甲斐「あの……“彼”って、一体誰のことなんですか?」

右京「平成のシャーロック・ホームズと謳われる高校生探偵……工藤新一君ですよ」

甲斐「へ!?」

――翌日・捜査一課――

佐藤「はい、今日はこれでおしまい。高木君、後は私がまとめとくから」

高木「お願いします」

高木「せっかく学校の都合で早く帰れる日だったのに、わざわざゴメンね。これも仕事と言ってしまえばそれまでなんだけど……」

元太「そんなの気にしなくて良いって。まだ二時過ぎだしな」

高木「それじゃ、みんな。気をつけて帰るんだよ」

光彦「お世話になりました」ペコ

元太「帰りに、何か買って帰ろうぜ~」

コナン「オメー、本当に食い物のことばっかだな……」

歩美「哀ちゃん。歩美、喉渇いたからジュース買ってくるね」

灰原「あ、私も行くわ」

コナン「先にエレベーターの所へ行ってるぞ」

灰原「ええ。すぐに追いつくから」

――エレベーター前――

歩美「お待たせー。ハイ、元太君と光彦君の」

光彦「ありがとうございます」

元太「サンキュー!」

灰原「はい」スッ

コナン「ん?」

灰原「貴方には、ブラックコーヒーの方が良いでしょ?」

コナン「あぁ……サンキュ」

歩美「あ、そうそう。昨日の事件があったから、言うの忘れてたんだけどね。文乃ちゃんの猫さん、自分で帰ってきたって」

元太「え~、マジかよ? 探した意味無かったじゃねーか」ムゥ…

光彦「まぁまぁ。何事もないのが一番ですよ」

灰原「そうね。猫ちゃんが事故に遭ったりしなくて良かったわ」

光彦「あ、昨日の警部さんと刑事さん」

右京「こんにちは」

歩美・光彦「「こんにちは」」

甲斐「今、事情聴取が終わったところ?」

歩美「うん!」

元太「俺達、あんまりここに来る回数が多いから、もう何度目か数えるの止めちまったよ」

右京「おやおや。随分とたくさんの事件に遭遇してきたんですねぇ」

元太「でも事件に出くわすようになったのって、コナンが来てからだよな」チラッ

コナン「何だよ、俺のせいかよ」ムッ

右京・甲斐「「………………」」

光彦「違いますよ、元太君。事件の方が探偵団を呼んでるんですから」

光彦「その呼ばれる数がグンと増えた時期と、コナン君が来た時期が同じだっただけですって」

元太「そーだな!」

コナン(単純な奴……)ハハハ…

チーン!

歩美「あ、エレベーター来たよ」

光彦「それじゃ、ボク達はこれで」

甲斐「うん。さよなら」

歩美・光彦・元太「「「さよなら~」」」

ガコン…ウィィィン

甲斐「……杉下さん。昨日調べてたこと、もう分かりました?」

右京「いいえ。まだ君に話せるほどの進展状況ではありません」

甲斐「そうですか……何か手伝えることがあったら、言って下さいね」

右京「ええ、それはもちろん。ではいつものように、張り込みに行きましょうか」

甲斐「はーい」



――警視庁前――

歩美「みんな、この後はどうするの?」

コナン「俺は帰るよ。蘭姉ちゃんから、昨日の事件のこと怒られちまってさ」

光彦「博士の新作ゲームができるのも、まだかかりそうですし……たまにはおとなしく帰りましょうか」

元太「そうするかぁ」

光彦「明日も事件の依頼があると良いですね」

灰原「それでまた殺人事件に巻き込まれないと、もっと良いんだけど」

コナン「……灰原、オメーなぁ」

灰原「それじゃ、さっさと帰りましょう。特に、江戸川君は」フッ

コナン「わーってるよ。ったく……」

――毛利探偵事務所内――

キィィ…パタン

コナン「ただいま~」

コナン(……あれ? おっちゃん、いねーのか?)

コナン(机の上に書き置き……『浮気調査で留守にする。晩飯はいらない』って……)

コナン(まーたどっかで飲んだくれて帰ってくるつもりだな? あの酔いどれ親父)

コン、コン

コナン「ん?」

???「ごめんください。毛利探偵に調査を依頼したいんですが……」

コン、コン

コナン「はーい」パタパタ

ガチャ

コナン「すみません。小五郎のおじさんは今、仕事で外に……」ハッ!

コナン(こいつ……あの盗撮ヤロー!)バッ

男A「おっと」ガシッ!

男A「いきなりドアを閉めたら危ないよ?」

バチバチッ

コナン(スタンガンまで持って……)ジリジリ


キィィ…

男A「コナン君……やっと会えたね」ニッ

コナン「お兄さん、誰?」

男A「最近、怖いおじさん達が君のことを見張ってるでしょ? だから君を助けに来たんだ」

コナン「助けにって、どういうこと?」

男A「僕と一緒に、あのおじさん達がいない所へ行こう?」

コナン「やだ!」

男A「このままここにいると、もっと危なくなっちゃうよ?」

コナン「やだったら、やだ!!」

コナン(危ねーのはオメーの方だろうが!)

男A「良い子だから。さぁ、僕と一緒に行くんだ」

コナン「嫌だって言ってるのが分からないの?」

男A「仕方ないなぁ……あんまり手荒な方法は取りたくなかったんだけど」バチバチッ

コナン(奴が近付いた所を、時計型麻酔銃で……)スッ

男A「ちょっと痛いけど……我慢してね!」ダッ

コナン「おっと!」ヒョイ

コナン「よし、今の内に……って、うわっ!?」ズルッ…ドタン!

コナン「てて……な、何だ?」

コナン(潰れたビールの空き缶? おっちゃんの仕業かよ!)

男A「フフ……」ガシッ

コナン「!」ハッ

ビリビリッ

コナン「ぐ……っ」

男A「ゴメンね、コナン君。しばらく眠ってて。君を世界で一番安全な所へ連れて行ってあげる」

コナン(世界一危険な場所の間違いだろ……くそっ!)ガブッ

男A「うわぁっ!」バッ

男A「痛い……痛いよ……」ブツブツ

コナン「……た、助けて! 変な人が!」ヨロッ

コナン(『ポアロ』に行けば、誰か大人がいるはず……!)

カツン、カツン…

コナン(ちくしょう、目が霞んで……階段の段差がよく見えねぇ……)フラフラ

ズルッ

コナン「あ、ヤベ……」

――毛利探偵事務所前の路上――

世良「ん?」ピク

蘭「どうしたの? 世良さん」

世良「いや……何か、事務所から『助けて』って声が聞こえなかったか?」

蘭・園子「「え?」」

ドサッ…ガン!

コナン「う……ぐっ」

蘭・園子・世良「「「……コナン君!?」」」

コツ、コツ、コツ…

男A「おっと、大丈夫かい?」バチバチッ

園子「ヒッ!」

世良「お前……!」ザッ

コナン「蘭姉ちゃん……に、逃げて……」

蘭「貴方が例のストーカーね!? コナン君に近付かないで!」

男A「ストーカーなんて人聞きの悪いことを言わないでくれ。僕はコナン君を悪い奴らから守りに来たんだよ?」

世良「テメェ! 子供にケガさせといて、ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」

――右京の車内――

ブロロォ…

右京「思わぬ混雑に出くわしてしまいましたね」

甲斐「車が多けりゃ事故が多いのは当然ですけど。コナン君、もう帰り着いてるはずの時間ですよ」

甲斐「ん? 探偵事務所の前で、誰かが……」ハッ

甲斐「杉下さん、あれ!」

右京「君は先に行って、男を取り押さえて下さい!」

甲斐「分かりました!!」バン!



――毛利探偵事務所前の路上――

男A「さぁて。こいつの餌食になるのは、どっちのお嬢さんかなぁ?」バチバチッ

世良「……探偵事務所に立てこもった奴よりも、クレイジーな野郎だな」

…バタバタバタ

甲斐「警察だ! そこで何をしてる!!」

男A「な、何!?」ビクッ

蘭・世良「「今だ!」」ヒュオッ

ゴスッ!バキィ!

男A「ぐぁ……っ!!」

甲斐「……さっすが、空手の関東大会チャンプ……お友達も強いとは」ヒュウ♪

右京「感心している場合ではありませんよ。早く手錠をかけて下さい」

甲斐「あ、はい! ……傷害と未成年者略取未遂の現行犯で、逮捕する!」ガチッ

男A「…………う、うぅ」ピクピク

世良「コナン君!」タタッ

園子「ガキンチョ、ガキンチョ!!」ユサユサ

右京「動かさないで下さい! 頭を打ち付けているようですから」

右京「救急車は手配しました。止血したいのですが、何か清潔な布やガーゼなどはありませんか?」

蘭「あ……『ポアロ』から借りてきます!!」

タタタ…

園子「だ……大丈夫なんだよね?」

世良「あぁ。傷口がパックリ開いてるせいで出血量が少し多いけど……それだけみたいだから。そんな顔するなって」

園子「う、うん……」グスッ

タタタ…

蘭「布、持ってきました!」

コナン(蘭……)ガクッ

蘭「コナン君!?」

ピーポーピーポーピーポー…

今日はここまでです
明日も休日ですので更新します

――四時間後・緑台警察病院――

コナン「……う……ん……」

蘭「コナン君……!」

世良「気が付いたか?」

コナン「蘭姉ちゃん……世良の姉ちゃん達も」

園子「良かったぁ~」ホッ

コナン「ここは?」

小五郎「病院だ。浮気調査の尾行中に携帯が鳴るもんだから、何事かと思ったら……心配させやがって」フン

コナン「……ごめんなさい」

蘭「お父さんたら。今回のことは、コナン君のせいじゃないでしょ?」

園子「私、先生を呼んでくる」

蘭「うん、お願い」

ガラガラ…

コナン「……そういえば、今日はどうして世良の姉ちゃんや園子姉ちゃんも一緒だったの?」

世良「コナン君がストーカー被害に遭ってるって聞いて、心配でさ」

世良「それで今日の帰り、様子を見に事務所へ寄ったんだけど……ボク達もいて正解だったよ」

世良「今日は『ポアロ』も梓さん一人だったから、蘭君だけじゃスタンガンを持った男に対抗するのは難しかっただろうしな」

蘭「あ、そうそう。コナン君が眠ってる間に、小林先生と探偵団のみんなが来てくれたのよ」

コナン「え?」

小五郎「白鳥と高木が、ここへ連れてきてくれたんだ」

蘭「小林先生は緊急の職員会議があるからって、すぐに帰られたけど……みんな、コナン君のことをすごく心配してたわ」

コナン「職員会議……?」

小五郎「あのストーカー男の件を、マスコミに嗅ぎつけられちまってな」

ピッ

『今日の午後二時半頃、東京都米花市米花町で、小学生の男の子をスタンガンで襲い、誘拐しようとしたとして、22歳の男が現行犯逮捕されました』

『傷害及び未成年者略取未遂の現行犯で逮捕されたのは、隣の杯戸町に住む無職・柿谷祥悟容疑者です』

『柿谷容疑者が依頼人を装って毛利探偵事務所を訪れ、キッドキラーとして知られる帝丹小学校一年の江戸川コナン君(7歳)をスタンガンで襲い、誘拐しようとしていたところを、帰宅した毛利探偵の娘とその友人らが発見』

『彼女らと柿谷容疑者が争っているのに気付いた巡回中の警察官が、直ちに容疑者を取り押さえ、逮捕しました』

『警視庁の調べに対し、柿谷容疑者は「コナン君の登下校や学校生活を写真に収めるのが最近の日課だった」』

『「コナン君がストーカーに付きまとわれていると聞いて、守ってあげようと思った」などと供述しているということです』

『それでは、現場となった毛利探偵事務所前から中継です』

ピッ

小五郎「……とまぁ、こんな感じだ」

蘭「事務所前は報道陣や野次馬でごった返してて危ないから、今夜は園子の家で泊めてもらうことになったの」

コナン「そ、そう……」

世良「さっき高木刑事からパソコンを借りて、ネットをチェックしてみたけどさ。匿名で書き込める掲示板は、いわゆる祭り状態……」カタカタ

世良「あのストーカー野郎のサイトも特定されて、住所や顔写真、SNSのアカウントまで晒されてるよ」

コナン「……騒がれすぎじゃないかなぁ」ハァ…


コンコン…ガラ

園子「先生、来たよ」

蘭「ありがと、園子」

医師「気分はどうだい? 目まいや吐き気はしない?」

コナン「うん!」

看護師「聴診器を当てるから、シャツの前を開けてね」

コナン「はぁい」モゾモゾ

~5分経過~

医師「レントゲンや脳波の検査でも、特に異状はありませんでしたし……明日には退院できるでしょう」

医師「ただ、頭を打っていますので、倦怠感や急な吐き気を催す可能性もあります。念のため、一週間は安静に過ごすようにして下さい」

看護師「それじゃ、お大事に」

蘭「ありがとうございました」

ガラガラ…パタン

世良「ボクらも帰ろうか。そろそろ面会時間も終わりだし」

園子「じゃあ電話して迎えに来てもらうから、ちょっと待ってて」ガラ

蘭・世良「「うん」」

パタパタ…

小五郎「しかし、こんな騒ぎになるとはな。明日明後日が土日で、学校が休みってのが唯一の救いか」

コナン「蘭姉ちゃん。ボク、退院したら博士の家に行っても良い?」

蘭「どうして? 園子の家の方が、ボディーガードの人達もいて安心だよ?」

コナン「マスコミは、ボクがおじさんや蘭姉ちゃんと一緒にいると思ってるだろうからさ」

コナン「ボクは違う所でいた方が、静かに過ごせるかなって…………ダメ?」

蘭「……お父さん」

小五郎「良いだろう」フゥ

コナン「ありがとう、おじさん」

小五郎「ただし、この土日だけだぞ。念には念で、高木にも博士の家の周りで張っててもらうからな」

コナン「はーい……」

――翌朝・コナンの病室――

コナン(朝飯を食い終わったら、すぐに博士に来てもらって、退院手続きを取るか……)モグモグ

コンコン…ガラ

右京「お食事中に、失礼します」

コナン「……昨日の警部さん?」

甲斐「おはよう、コナン君。具合はどう?」

コナン「もう大丈夫だよ。助けてくれて、ありがとう」ニコ

甲斐「大したことが無くて良かったね」

コナン「うん!」

右京「……ところで、君のご両親は?」

コナン「え?」ドキ

右京「子供がケガをして入院したとなれば、親御さんが真っ先に駆けつけるのが普通でしょう?」

右京「しかし、こちらには毛利探偵事務所の関係者以外、ほとんど来ていないようでしたのでね」

コナン「……ボクの親は外国で仕事をしてるから、すぐには来られないんだ」

右京「ご両親共にですか?」

コナン「ううん、お母さん」

右京「では、お父さんは?」

コナン「……知らない。ボク、お父さんに会ったこと無いから」

甲斐「どうして?」

コナン「お父さんに迷惑が掛かるから、ボクは絶対会いに行っちゃダメって、前にお母さんが言ってた」

コナン「だから、ボクのお父さんがどこの誰なのか、全然知らないんだ……」シュン

コナン(……これで騙されてくれればいいが)

右京「なるほど……何か複雑な事情があるのかもしれませんね」

右京「不躾な質問をして、すみませんでした。それでは、我々はこれで」

甲斐「ケガ、早く治ると良いね」

コナン「うん」

右京「あ、そうそう。最後に、もう一つだけ」

コナン「なぁに?」

右京「君は、高校生探偵の工藤新一君と親戚だそうですが……彼とは、どういった関係なのでしょう?」

コナン「え……」ギク

コナン「えーと。ボクは、新一兄ちゃんのお母さんの、おじいさんのお兄さんの娘さんのイトコのおじさんの孫……だよ」

甲斐「……それ、ホントに親戚なの?」

コナン「ボクも新一兄ちゃんのお母さんが言ってたのを、そのまま言っただけだから……」アハハ…

右京「そうですか。工藤君のお母さんが……」

コナン(……やっぱ、怪しまれてる……)ドキドキ

右京「時間を取らせてしまいましたね。では、僕達は失礼します」

甲斐「じゃあね、コナン君」

ガラガラ…パタン

コナン「フゥ……」

コナン(あの二人が何のために俺を探ってるのか……それが分からねーことには、動きようがねーな)

コナン(……とりあえず、メシ食っちまおう)モグモグ

――三時間後・阿笠博士の家――

灰原「全く……アポ無しで他人の家を訪ねるのは、やめてほしいわね」コポコポ

服部「そこは堪忍してや。探偵事務所には人だかりができとって近付かれへんかったし、ここしか行くアテが無かってん」

阿笠「まぁまぁ、哀君。服部君も、新一の様子が気がかりだったんじゃろうし……」

灰原「コーヒー、ここに置いとくから」カチャ

コナン「おう、サンキュ」

灰原「地下の研究室にいるわ。何か体調の異変を感じたら、すぐ呼んで」スタスタ

コナン「あぁ」

服部「大阪でも、えらいニュースになっとったで。ホンマに大丈夫なんか?」

コナン「心配ねーよ。中々意識が戻らなかったんで、東京じゃ『意識不明の重体』なんて大げさに騒いだ局もあったがな」

服部「検査の結果は、どこも異状なしやったんやろ?」

コナン「たりめーだ」

服部「それにしても、また妙なんに目ェ付けられとったんやな」

服部「家宅捜索で押収したパソコンから、お前を隠し撮りした写真のデータがわんさか出てきよったそうやないか」

コナン「目暮警部の話だと、他の少年の写真も結構な数があったらしいぜ」

コナン「ま、これで盗撮男は捕まったんだから、そこは安心だけどよ」

服部「『そこは』って、どういうこっちゃ? 他にも何かあったんか?」

コナン「え? あ、いや……それは……」

服部「何や、歯切れ悪いのぉ」

コナン「な、何でもねーって……」

服部「おい工藤。お前、また何か隠しとるんと違うやろな?」

コナン「……分かった。誤解の無いように、オメーにも話しとく」フゥ…

コナン「実は十日ぐらい前から、探偵事務所の前に黒の乗用車が停まるようになってよ」

服部「……例の組織か?」

コナン「いや。特命係って警視庁の窓際部署の奴らが張り込んで、俺を見張ってたんだ」

服部「特命係……? それやったら、前に親父からチラッと聞いたことあるで」

コナン「平蔵さんから?」

服部「あぁ。確か……杉下右京とかいう、えらい変わりもんの警部がいてはってな」

服部「その警部の下に付いた者は、耐えれんようになって警視庁を辞めていきよるから」

服部「上の連中が辞めさせたい刑事をトバして、辞職に追い込む“人材の墓場”にされとるちゅう話や」

>>142を一部訂正

× コナン「目暮警部の話だと、他の少年の写真も結構な数があったらしいぜ」

○ コナン「退院する前、事情聴取に来た目暮警部の話だと、他の少年の写真も結構な数があったらしいぜ」

コナン「ま、まぁ……確かに変わった警部だったけどよ」

服部「会うたことあるんか?」

コナン「一昨日、杯戸町の喫茶店で起きた殺人事件でな。その辺の刑事や探偵よりも凄ぇ推理力の持ち主だったぜ」

服部「俺やお前よりも上か?」

コナン「はっきりとは断言できねぇけど、たぶんな」フッ

服部「ほんで? その特命係が、何でお前を見張っとったんや?」

コナン「それが分かんねーから困ってんだよ」

コナン「杉下警部本人は、あの盗撮男対策のために事務所前で張り込んでたって言ってたらしいが……」

コナン「組織の奴らが特命係の二人とすり替わって、俺を見張ってる可能性もあると思ってよ」

服部「何やと!?」

コナン「今回はあの二人にも助けられたけど、そう思うと気が抜けねーんだ」

コナン「今朝も病室に来たんで、少し話したんだが……特命係が俺のことを探ってるのは確かだな」

服部「もしかして、お前の正体に気付かれたんと違うか?」

コナン「いや……あれは気付いてるっていうより、江戸川コナンと工藤新一の関係を怪しんで、探りを入れてるって感じだったぜ」

服部「気付かれてはないけど、油断はできへん……か」

コナン「あぁ」

阿笠「二人とも、そう難しい顔ばかりしておらんと。哀君が淹れてくれたコーヒーが冷めてしまうぞい」

服部「あぁ、せやったな。おおきに」ズズ…

コナン「俺も今朝会ったのが四回目で、普段の杉下警部がどんな人物なのか、なんてサッパリ分からねぇ」

コナン「だから、あの人が本人なのか、組織の奴らがすり替わってるのか……今一つ掴めなくてよ」

服部「うーん……普段から接しとる人まで、完璧に騙すような変装をしてくる連中やからのぉ」

服部「本人の情報を得ようにも、特命係と接する機会のある部署なんて、俺も聞いたことあらへんし……」

コナン「高木刑事達は、杉下警部と面識あるようだったな」

コナン「他にも、何人か顔馴染みになってる一課の人もいたみてーだったから、今度その人達にでも聞いてみるか……」

服部「いや。親父も、その警部はんについては関係者の口が重うなる言うとったから」

服部「一課の連中でも、簡単には話してくれへんと思うで」

コナン「……それじゃ、調べるのは骨だな。小田切さんをつつくのもまずいし」

服部「手っ取り早く情報が得られそうな人と言うたら……お、そうや!」

服部「工藤。ロスの親父さんに聞いてみたらどうや?」

服部「親父さん、日本におった頃は警視庁に出入りしとったんやろ? その警部はんについて、何ぞ知っとるかもしれへんで」

コナン「……あのタヌキ親父に聞けってのか」ムッ

服部「あんなぁ。その杉下ちゅう警部はんがホンマに本人やったら、まだええけどな」

服部「お前の考えとる通り、組織の奴らの変装やったら、かなり厄介な状況や」

服部「お前のプライドと、自分や周りの人らの命と、どっちが大事かなんて考えるまでもないやろ」

コナン「そ、そりゃ分かってるけどよ。服部……オメー、何か怒ってねぇか?」

服部「当たり前や。俺かて、お前の正体が組織にバレたら消される奴の一人やぞ?」

服部「親父さんの手ェ借りるんは腹立つっちゅうのも分かるけどな。回避できるかもしれんリスクやったら、回避しとけ」

服部「結局は、それがお前や毛利の姉ちゃんのためにもなるんやからな」

コナン「…………わーった。この後すぐにでも、ロスに連絡取ってみるよ」

服部「せやせや。人間、素直が一番やねんて」ニカッ

服部「ほな、俺はもう帰るわ。長居してケガ人を疲れさせとうないし」

コナン「わざわざ大阪から来てくれて、サンキュな」

服部「俺も工藤の顔見て安心したわ。また何ぞあったら、遠慮無しに言うてや」

服部「相談に乗るか愚痴聞くぐらいやったら、いくらでもしてやるさかい」

コナン「あぁ」

服部「コーヒー、ごちそうさん」

阿笠「気をつけての」

服部「またな、工藤」

コナン「おう」

パタン…

今回はここまでです
次回はまた週末に更新予定です

コナン「さて、と……」ハァ…

コナン「博士。ちょっと電話借りるぞ」

博士「あぁ、構わんぞ。……しかし、今電話しても優作君は起きておるのか?」

コナン「心配ねーよ。ロスとの時差は十七時間だから、向こうは夕方の六時だ」

ピ、ピ、ピ、ピ…prrrr…prrrr…

有希子『Hello? This is Kudo’s residence.』

コナン「あ、母さん? 俺だけど」

有希子『あら、新ちゃんから電話してくるなんて珍しいじゃない。どうしたの?』

コナン「父さんにちょっと聞きてーことがあってさ。今、どこにいるんだ?」

有希子『それがねぇ。この一週間、ず~っとホテルに缶詰めで原稿を仕上げてて、今朝帰ってきたの。だからまだ部屋で寝てるわ』

コナン「またかよ……懲りねぇな、あの親父」

有希子『もう聞いてよ、新ちゃん! 優作ったらひどいのよ!』

コナン「はぁ?」

有希子『ホントは先週、優作と二人でニューヨークの舞台を観に行くはずだったの』

有希子『でも玄関を出た所で、編集の人達に連れて行かれちゃって。私のことなんて放ったらかし!』

有希子『半年前に「構想が出来上がった」って言ってたから、てっきりもう書き上げてると思ったのに』

有希子『先週まで一ページも書いてなかったなんて。もう信じらんない! どこまでマイペースなのかしら、あの男!』

コナン「……母さんだって人のこと言えねーだろ」ボソ

有希子『あら、何か言った?』ムッ

コナン「い……いや、別に!」ゾクッ

コナン「とにかく今は、母さんの愚痴に付き合ってる暇はねーんだ。父さんを叩き起こしてくれ」

有希子『もう……分かったわよ。ちょっと待ってて』


~3分経過~

優作『久しぶりだな……どうした?』

コナン「……声が思いっきり寝起きじゃねーか」

優作『いやぁ、さすがに五日完徹はきつかったよ』

コナン「計画的に執筆してくれって編集から毎度毎度怒られてんのに……まだそんなことやってんのかよ?」

優作『作品のアイディアを固めるのと、それを文章にしていく作業とは別物だからねぇ……ところで、新一』

優作『何があった? お前が連絡してくるということは、かなり危ない状況になったと見て良いのか?』

コナン「いや、父さんに泣きつく程じゃねーけど……ちょっとヤベーかも、って思ってよ」

優作『ん? お前にしては不明瞭な言い方だな』

コナン「なぁ父さん。警視庁特命係の、杉下右京って警部……知ってるか?」

優作『あぁ、もちろん。私も数回しか話したことはないが、とても印象的な人だったよ。彼がどうかしたのか?』

コナン「いや……こないだ事件で会ったんだけどさ。何か、俺のことを探ってるような感じだったから」

優作『具体的には?』

コナン「ここ十日間、事務所前に部下の刑事と一緒に張り込んで、俺を監視してるんだ」

コナン「真っ先に思いついたのは、組織の奴らが特命係に変装して、俺を見張ってるって線だったんだが……」

コナン「灰原は『組織の臭いは感じない』って言ってたし……」

コナン「あの二人が本当に本人達だとしたら、どういう意図で俺を探ってるのか、全然読めなくてさ」

優作『お前のストーカー対策ではなかったのかい?』

コナン「いや、それだけが目的とは……って、え!? 何で知ってんだよ!?」

優作『パソコンを見ながら話しているものでね。この手のニュースには、アメリカも敏感だからな』

優作『こうして電話できるぐらいだから、ケガも大したことはなかったんだろう?』

コナン「ま、まーな……母さんには言うなよ」

優作『有希子に知られるのも、時間の問題だと思うが?』フゥ…

コナン「う……とにかく言うなって! どうせ、また余計な心配して騒ぐだけなんだから」

優作『そう言ってやるものじゃないよ。子供の心配をするのは親の特権だ』

コナン「へいへい……それで、父さんはどう思う?」

優作『フム……組織の工作員が特命係に成りすましているというのは、正直考えづらいな』

コナン「何でだよ?」

優作『杉下警部に会ったのなら、お前も分かるだろう。彼は、かなり面白い性格をしている人だ』

コナン「……父さん並みにな」

優作『部下の刑事はともかく、杉下警部の性格を完璧に真似て成りすませる工作員など、そうそういるものじゃない』

コナン(スルーしやがった……)

優作『それに、特命係は警視庁でもかなり浮いた存在だからね』

優作『組織が変装するなら、もっと目立たない部署の警察官に成りすます方が得策のはずだ』

コナン「俺も名前ぐらいしか聞いたことなかったけど……特命係って、そんなに特異な部署なのか?」

優作『杉下警部は手柄を立てるよりも、真実の追究と犯人の贖罪を最優先に考える』

優作『相手が権力者の身内だろうと警察官だろうと、利害関係に囚われることなく動く人だ』

優作『だから彼と警察上層部が対立することも珍しくなくてね。そんな人がいる部署が、目立たないわけがない』

優作『庁内で特命係のことを知らない者は、配属が本庁に変わった新参ぐらいだよ』

コナン「じゃあ杉下警部も部下の刑事も、本人の可能性が高いってことか……」

優作『彼らがお前のことを探っているとしたら、考えられる可能性は二つだ』

コナン「二つ?」

優作『一つは、杉下警部が自分の好奇心からお前を探っている場合……彼は気になったことは徹底的に調べる質だ』

優作『何かのきっかけで、お前の正体に疑問を抱き、調べようとしてもおかしくはない』

コナン「まぁ、色々ボロが出そうな部分はあるからなぁ……病院で話した時も、そこを突かれたし」

優作『もう一つは……何者かによって、お前のことを探るように仕向けられている場合だ』

コナン「仕向けられている……?」

優作『言っただろう? 杉下警部は、真実の追究を最優先にすると』

優作『彼本人が自分の意志で動いているだけならいいが、もしも裏で何者かの意図が働いているとしたら……』

コナン「え……まさか!?」

優作『気付いたかい? 組織が杉下警部の性格を利用して、お前の正体を探らせているのかもしれん』

優作『だが、それこそが組織の張った罠だとしたら……危ないのはお前だけじゃないぞ』

コナン「俺の正体が工藤新一だってバレたら、俺がこの姿になった理由を、杉下警部が調べる……」

優作『あぁ。彼なら、確実に組織や薬の存在に気付くだろうな。そうなれば、おそらく……』

コナン(奴らは、組織に感づいた杉下警部を暗殺するために動く……それが本当の狙い!)

コナン「こんな計画を立てそうなのは、俺の正体を知ってるベルモットか」

コナン「眠りの小五郎のカラクリに気付き始めてるバーボンだな」

優作『仕掛けてきたのがシャロン……ベルモットだとすると、杉下警部の頭脳を脅威に感じたというところだろう』

コナン「バーボンなら、自分は『ポアロ』でのんびり働きながら、特命係が俺の正体を突き止めるのを待ってるってことか……」

優作『どちらにせよ、お前や杉下警部に危険が迫っていることに変わりはない。気をつけろよ、新一』

コナン「あぁ。悪かったな、締め切り明けで疲れてんのに」

優作『構わんさ。それより、また命を狙われるようなことがあれば……その時は日本を離れる覚悟をしておけ』

コナン「え?」

優作『危なくなったら、すぐに外国へ連れて行く――――そう約束しただろう』

コナン「……あれ、本気だったのかよ」

優作『私が冗談を言うとでも?』

コナン「……………………」ギュッ

優作『今後の捜査は、そのぐらいの覚悟で臨め。私達にも、限度というものがある』

コナン「…………分かった」

優作『有希子をそっちへ向かわせるからな』

コナン「あぁ。それじゃ……」

ピッ

――ロスの工藤邸――

優作「有希子。すぐに飛行機を手配するから、日本へ行ってくれ」

有希子「ねぇ、優作……そのまま新ちゃんを連れてきても良い?」

優作「気持ちは分かるが……転校の手続きや、解毒剤の試作品を準備してもらわなければならないし」

優作「あいつが身辺整理をする時間も必要だろう。お前に似て、頑固な奴だからな。来いと言って素直に来るとも思えん」

有希子「あら。そこは優作に似たんじゃないの?」

優作「……そうかもな」フッ

優作「私もスケジュールの調整ができ次第、日本へ向かう。それまでの間、新一のサポートを頼む」

有希子「分かった。荷物まとめてくるから」

優作「あぁ」

量が少なめになってしまいましたが、今回はここまでです。
次回はまた来週末に更新予定です。今度は右京さん&組織サイドがメインになります

――翌日・警視庁内・特命係――

甲斐「コナン君の母親の文代さんですが、戸籍も住民票も、一切見つかりませんでした」

甲斐「毛利探偵事務所に姿を見せたのは二回だけで、それからずっと音沙汰無しだとか」

右京「外国で仕事をしているということにすれば、姿を見せなくても不審に思われることはありません」

右京「そして父親についても、コナン君の言い分を聞けば、他人が深く追究することは憚られる……」

甲斐「あれを聞けば、大抵の大人は『コナン君は不倫の末に産まれた子だ』と思っちゃうでしょうね」

右京「工藤君の親戚に江戸川コナンという人物が存在しないことは、調べればすぐ分かります」

右京「それでもコナン君が『工藤君の親戚だ』と、頑なに主張しているのは……」

甲斐「工藤君と連絡を取れる理由を周囲に説明するため、ですか?」

右京「ええ。身内であれば連絡を取っても、プライベートな情報を知っていても怪しまれませんからねぇ」

右京「それに、コナン君は小学校に入学する以前、工藤邸によく遊びに来ていたと話していたそうですが」

右京「当時、あの近辺でコナン君や彼の母親を見たという証言は、一つも得られていません」

甲斐「仕事関係者でも親戚でもない子連れの女性が、有名作家の自宅に頻繁に出入りするのは、かなり目立ちますよね」

右京「ええ。下手をすれば、工藤優作氏の愛人と、その隠し子などという憶測を招きかねない……」

右京「ですが、そのような話は一切聞こえてこなかった……ということは」

右京「『工藤邸によく遊びに行っていた』というコナン君の話は、信憑性に欠けるということになります」

右京「母親の文代さんも無戸籍者であるために戸籍も住民票も無いとするならば、パスポートを取得できませんから」

右京「『文代さんは外国で仕事をしている』というコナン君の話と矛盾することになります」

右京「やはり、母親も実在しないと見て間違いないでしょうね」

甲斐「問題は、何でコナン君がそんな嘘をついてるのかってことですけど……」

右京「おそらく、それこそが彼の正体と関係しているのでしょう」

右京「コナン君が米花町に現れたのと同時期に姿を消した人物が、一人います」

甲斐「……高校生探偵の工藤新一、ですか?」

右京「ええ。毛利小五郎が『眠りの小五郎』として名を馳せたのは、工藤君が失踪し、コナン君が居候するようになった後のこと」

右京「もし工藤君が何らかの事件に巻き込まれて、コナン君になってしまったのだとしたら……」

甲斐「……高校生があんなに小っちゃくなるなんて、普通はあり得ないでしょ」

右京「僕も、彼があのような姿になった原因までは分かりませんが」

右京「何らかの理由で命の危険にさらされ、あの姿になって運良く生き延びたという可能性が高いでしょうね」

甲斐「工藤君は自ら小さくなったわけじゃない、ってことですか?」

右京「あくまで僕の推測ですがね」フッ

右京「小さくなってしまった工藤君は、周囲に危険が及ばないようにするために『江戸川コナン』と名乗って正体を隠し」

右京「幼馴染みの父親で、私立探偵でもある毛利小五郎を頼った」

右京「そして毛利さんに陰で助言するなどして探偵業を続けた結果、毛利さんは『眠りの小五郎』として有名になった」

右京「……というのが、今回の調査から導き出した僕の答えです」

右京「群馬県警の山村警部は、工藤君の母親の有希子さんがコナン君と一緒にいたと証言していましたから」

右京「アメリカのご両親も、彼の現状を知っていて協力していると考えた方が良いでしょう」

甲斐「じゃあ江戸川文代さんは、有希子さんの変装……とか?」

右京「おそらくは。結婚前は女優として活躍していた方ですし、周囲を欺くための演技も容易いはずです」

甲斐「こんな突拍子も無い話、ホントは全力で否定したいところですけど……」

甲斐「あの子が工藤君なら、事件現場に慣れてたのも頷けますね」

右京「ええ。彼は父親である工藤優作氏に連れられて、幼い頃から多くの現場に足を運んでいましたし」

右京「高校生探偵として活躍するようになってからのことは、君も知っているでしょう」

甲斐「はい……でも本当にコナン君の正体が工藤君だとしたら、一体何があって子供の姿に?」

右京「本人に聞いてみるのが、一番手っ取り早いのでしょうが」

右京「昨日お見舞いに行った時の様子からすると、我々を警戒しているようでしたからねぇ……」

甲斐「話してくれそうにはない……か」

右京「それに、僕が話したことは、あくまでも状況証拠から導き出される推論です。物的証拠は一切ありません」

甲斐「そこですよね、問題は。探偵の彼から、どうやって証拠を掴めばいいんだか……」

右京「コナン君の正体が工藤君であるという直接的な証拠はもちろんですが」

右京「まずは彼の置かれた状況を、我々が把握する必要があります」

甲斐「工藤君の置かれた状況、ですか?」

右京「ええ。彼が世間から姿を隠さなければならない事情も分からないまま」

右京「不用意に『江戸川コナン=工藤新一』と明らかにしてしまうのは非常に危険です」

右京「先程も言いましたが、彼は何らかの理由で命の危険にさらされたために、やむなく正体を隠している可能性が高い……」

右京「工藤君が『江戸川コナン』として生存していることが知られれば、再び命を狙われるでしょうからね」

右京「まずは、その理由を探るところから始めましょう」

甲斐「異論は無いですけど……そんなの、どうやって探るんです?」

右京「工藤君が関わったことが公になっている事件の中で、最後に調書が作られた一件を調べ直してみましょう」

右京「何か手がかりが得られるかもしれません」

右京「僕の記憶では、トロピカルランドのジェットコースターで起きた殺人事件だったはずです」

甲斐「分かりました。高木さんに頼んで、こっそり調書を借りてきます」

右京「お願いします」

――警視庁内・通路――

カツカツカツ…

安室(特命係が未だに事務所周辺をうろついているせいで、動きづらくて仕方ない……)

安室(ベルモットは何か掴んでいるだろうに、はぐらかしてばかり。こうなったら、自分で奴らの動きを調べてやる)

安室(あの女ほど完璧ではないが、一応捜査員に変装しているし、僕の潜入がバレる心配はないだろう)

安室(……ん? 資料室から出てきたのは特命係の刑事か?)サッ



右京「思ったより早く見つかったんですねぇ」

甲斐「ええ、高木さんが場所を覚えててくれたんで。んじゃ、早速この調書を調べ直してみますか」



安室(一体何を調べるつもりだ?)コソ…

―― 一時間後・特命係――

甲斐「とりあえず一通り目を通しましたけど……杉下さん、何か引っかかるようなこととかありました?」

右京「……この事件で、事情聴取をできていない人物が二人いるようですねぇ」

甲斐「二人?」

右京「ええ。黒ずくめの服を着た、長い銀髪の男と、サングラスをかけた男の二人組です」

右京「工藤君が事件を解決した後、調書を取るために本庁へ同行してもらおうとした時には、既に現場にはいなかった、とあります」

右京「名前や連絡先も聞けないままだったようですねぇ」

甲斐「妙ですね。普通、証人は現場から勝手に立ち去らないように目を光らせてるのに」

右京「工藤君の失踪と黒ずくめの二人組の存在が、直接関係あるかどうかは分かりませんが」

右京「彼らが何らかの事情を知っている可能性は考えられます」

甲斐「でも、行方を追おうにも名前すら分からないんじゃ……」

右京「現場となったトロピカルランドに行ってみましょう。従業員の方なら、何か覚えているかもしれません」

甲斐「……そうですね。あれこれ考えるより、動きましょうか!」

右京「ええ」

パタパタパタ…

――生活安全課――

安室(……何とか見つからずに済んだか。ここの課が捕り物に出かけていて助かったな)フゥ…

安室(工藤新一は、ジンが毒薬を飲ませて殺したはずだが……今になって、何故あの二人が彼の行方を調べている?)

安室(それに、ジン達のことが事件の調書に載っていたとは初耳だぞ)

安室(……奴らから直接話を聞いた方が良さそうだな)

安室(いや、その前に……)

――バーボンの潜伏先――

安室「……ということがあってな。思わぬ所から、警察に不審を持たれたようだ」

ベルモット『ちょっとまずいことになったわね』

ベルモット『あの坊やの肉親から捜索願は出されなかったから、行方を追う者なんていないと思ってたのに……』

安室「特命係が工藤新一の足取りを追うことで、組織の存在に感づく可能性もある」

ベルモット『そこまでたどり着く可能性は低いでしょうけど……あまり良い展開とは言えないのは確かね』

安室「ジン達を集めるぞ。奴らに直接確かめたいことがあるんだ」

ベルモット『それはいいけど……彼、たぶん機嫌最悪で来るわよ?』

安室「そんなことに構っていられるか」フン

安室「ところで……ベルモット。お前、一体何を企んでいる?」

ベルモット『あら、何のこと?』

安室「……いつまでも、はぐらかしてばかりでいられると思うなよ」

ベルモット『嫌ね、人聞きの悪い。何も企んでないし、隠してもいないわよ』クスクス

安室「今夜十時、杯戸港の空き倉庫だ。お前も来い」

ベルモット『ええ、もちろん。それじゃ、後で』

ピッ

安室「フン……女狐め」



――ベルモットの滞在先のホテル――

ベルモット(ここまでは、計画通りね)フフフ

ベルモット(後は、杉下右京の抹殺をジンやバーボンにけしかけるだけ……)

――杯戸港・空き倉庫――

ジン「いきなり呼び出しやがって、何の用だ」

安室「聞きたいことがあってな」

ジン「ん?」

キャンティ「何だい、ジン。ヘマでもやらかしたのかい?」

ウオッカ「テメェ、兄貴に何て口を!」

ジン「……黙れ」ギロッ

ウオッカ「す、すいやせん兄貴……」

キャンティ「おお、怖い」

ジン「さっさと言え、バーボン。俺も暇じゃないんだ」

安室「以前、トロピカルランドで取引をした時、殺人事件に遭遇しただろう」

ジン「覚えてねーな……」

ウオッカ「……あれはその場ですぐに解決したはずですぜ、兄貴」

安室「あの時、お前とウオッカが事件後の事情聴取に応じなかったことが、調書に載っていたんだ」

ジン「何……?」

ウオッカ「警察に潜り込んだ工作員が、いつものように調書を改竄したって聞いたが……違ったのか?」

安室「残念ながら、な。そのせいで、警察がお前達を探してる」

ジン「何のためだ?」

安室「工藤新一の失踪に、お前達が何らかの関わりがあると気付いたらしい」

ジン「工藤新一……?」

ウオッカ「兄貴が毒薬で殺した、探偵のガキか?」

キャンティ「失踪って……どういうことだい? あのガキ、死んだんじゃなかったのかい?」

コルン「データ……死亡確認だったはず」

安室「工藤新一の死亡届はまだ出されていない」

安室「学校には両親から休学届が出されている。世間的には、行方不明という扱いだ」

コルン「行方不明……?」

ベルモット「息子が蒸発したなんて、公にしたくないんじゃないの?」

ベルモット「有希子のことだから、健気に息子の帰りを待ってるんでしょうよ。既に天国にいるとも知らずにね」

キャンティ「あんた、探偵坊やの母親と知り合いなのかい?」

ベルモット「有希子は、シャロンと名乗っていた頃の女優仲間よ」

キャンティ「あぁ……そういや、そうだったね。あんたが女優だって忘れてたよ」フン

ベルモット「まぁ、ひどいわね」フフッ

安室「無駄話はいい加減にしろ」

安室「ジンとウオッカのことを探っているのは、特命係の杉下という警部と、部下の刑事だ」

ウオッカ「その二人だけか?」

安室「今のところはな」

ジン「たった二人が俺達のことを嗅ぎ回ってるってだけで、こんな所に呼び出したのか?」

ベルモット「その杉下という男、私も少し調べたことがあるんだけど。警視庁きっての切れ者でね」

ベルモット「少ない証拠や証言から、多くの情報を読み取ることに長けていて」

ベルモット「……このまま捜査を続けさせると、組織の存在に感づく可能性も十分あるわ」

コルン「その男……今の内に、消す?」

ウオッカ「なるほど。組織の障害になりそうな芽は潰しておけってことか」

ジン「気に入らねーな……」

安室「何がだ?」

ジン「そんなに杉下とかいう奴が邪魔なら、お前らが動けばいいだけの話だ。わざわざ俺に言う必要はねぇ」

ベルモット「あら。今回の件は、貴方が殺した相手の行方を、警察に探られたことがきっかけなのよ?」

ベルモット「アフターケアをきちんとしなかったのは、貴方のミスじゃなくて?」

ベルモット「あの方も、杉下の頭脳は侮れないと仰っていたわ。この際、消えてもらった方が組織のためよ」

ジン「……フン」

ベルモット「杉下は現場主義で、多くの殺人現場にも足を運んでいるわ」

ウオッカ「狙うのは簡単ってことか」

ベルモット「ええ。杉下右京を消せば、工藤新一殺害の事後処理が不十分だった件は不問に付すそうよ」

ジン「チッ……面倒くせぇが、あの方の意志なら仕方ねぇ」

ジン「目障りな狐には、とっとと消えてもらおうじゃねーか」ニィィ

今回はここまでです
次回の更新はまた週末になります

――翌日・警視庁内・特命係――

甲斐「昨日の聞き込み、行って正解でしたね」

甲斐「遊園地の従業員ってアルバイトも多いから、半年前の事件なんて覚えてる人がいるか不安だったけど」

甲斐「人の入れ替わりも少なかった上、工藤君がスピード解決したおかげで印象に残ってたって人が多かったのはラッキーですよ」

右京「ええ。例の黒ずくめの二人組について、調書以上の情報を得られなかったのは残念でしたが」

右京「トロピカルランドに駐在している警察官から、興味深い話を聞くことができましたからね」

右京「あの事件の後、頭から血を流して倒れている所を巡回中の警察官が発見し」

右京「遊園地の医務室に運び込まれたという6~7歳の少年……」

右京「少年の服装は、工藤君が失踪当日に着ていたものと特徴が一致しています」

甲斐「あの日、工藤君がトロピカルランドを出た姿は防犯カメラに写ってなかったですし」

甲斐「出入り口を担当する従業員の証言も得られてはいません」

甲斐「同様に、少年が遊園地に入る姿も確認できなかった……」

甲斐「やっぱり、その少年が工藤君でほぼ決まりですね。遊園地の中で小っちゃくなっちゃったんだな……」

右京「医務室で手当を受けた工藤君は」

右京「警察官に『拳銃密輸をしている会社社長と、それをネタに強請っている黒ずくめの男の取引現場を見てしまい』」

右京「『背後から近付いてきた、もう一人の仲間に殴られてケガをした』と話した……」

右京「その話を聞いた警察官は、『大人をからかうな』と一笑に付したようですが」

右京「それが真実だとしたら、工藤君が命を狙われる理由としては十分です」

甲斐「彼は、見ちゃいけないものを見てしまった……」

右京「ええ。目撃者を消す、あるいは『話せば命は無い』と脅すのは、裏の世界ではよくあることです」

右京「しかも、工藤君が目撃してしまった取引相手の片方は、黒ずくめの男……ということは」

甲斐「ジェットコースター殺人事件で、いつの間にか消えていた証人の一人ですね?」

右京「おそらくは。そして工藤君を殴り倒したという仲間が、もう一人の証人でしょう」

甲斐「でも、彼らの行方を追う手がかりは乏しいままか……」

甲斐「せめて拳銃密輸の件で強請られていたという社長が、どこの誰なのか分かればいいんですけどね」

角田「お! 拳銃密輸やってる会社の情報、掴んだの?」

甲斐「……いきなり声かけないで下さいよ。ビックリするじゃないですか」

角田「まぁ良いじゃねーか。教えてよ、どこの会社? ウチの課、今月は検挙数が少なくてさ~!」

右京「それが一体どこの会社なのか、分からなくて困っているんですよ」

角田「えぇ? 分かってねぇの!?」

右京「どこかの社長が拳銃密輸の件で脅されて、遊園地で取引をしていたという目撃証言は得られているんですがねぇ」

甲斐「その人の背格好も年齢も、会社の職種も、全然分からないんです」

甲斐「だから、どうしたら手がかりが掴めるのかな~って、二人で話してたんですよ」

角田「何だ……ぬか喜びさせやがって。あ、コーヒーもらうよ」コポコポ

右京「課長。ここ半年の間に、拳銃密輸で検挙したグループや会社はどのぐらいありましたか?」

角田「へ? ここ半年なら、大小あわせて十二件あったよ」

角田「特に先月挙げたのは、結構でかいグループだったな」ヘヘッ

右京「その中に、今回情報提供のあった会社と取引があった者達がいるかもしれません」

右京「検挙したグループや会社の捜査資料を、見せて頂けないでしょうか?」

角田「それは良いけど……ホシの会社の張り込みやガサ入れにも、協力してよ?」

右京「もちろん」

甲斐「俺達、それなりに暇ですからね」

角田「よし、そう来なくっちゃな!」

角田「ところで、その社長の取引相手がどんな奴だったとか、そういう情報は無いの?」

右京「今のところは、黒ずくめの服を着た二人組の男ということぐらいしか……」

角田「黒ずくめの服? ……そんな目立つ格好で取引なんて、映画の見過ぎじゃないのか?」

右京「しかし取引現場までの道中で、複数の目撃証言がありましてね」

角田「ふ~ん。変わった連中だな……」ズズ…

角田「黒ずくめの連中といえば、以前、毛利探偵事務所の周辺でも目撃されたことがあったな」

右京「毛利探偵事務所の周辺で……?」

角田「あぁ。お前らも、ここしばらく張り込んでたから分かると思うんだけど」

角田「探偵事務所の向かいには、ビルが建ってるだろ?」

角田「そこの屋上に、ライフルを構えた四、五人の男女がいたって話があってな」

角田「毛利小五郎が暴力団とか、その道の奴らの恨みでも買ったのかと思うと、組対としては黙ってられなくて」

角田「あの探偵と仲が良い一課の連中に聞いてみたんだ。けど、これが見事な取り越し苦労でよ……」

角田「どっかの大学の映研サークルが、あの辺りで無許可のロケやってただけだったんだと」

角田「黒ずくめの格好は『メン・イン・ブラック』のパロディだってさ」

角田「一課も俺らも、『まぎらわしいことすんなよ!』って呆れちまってなー」ハハハ…

右京・甲斐「「……………………」」

角田「でも、お前らが動いてるってことは、今回のタレコミは空振りじゃなさそうだ。期待してるぜ♪」ポンポン

甲斐「え? あ……は、はい」

角田「また何か新しい情報が掴めたら教えてくれよ。こっちも全面的に協力するからさ」

右京「ええ、必ず」

角田「んじゃ、ここ半年で検挙した奴らの資料を持ってくるわ。ちょっと待っててくれ」

甲斐「はーい、お願いしまーす」

パタパタ…

甲斐「……あんな約束しちゃいましたけど、良かったんですか?」

右京「いざという時に動いてもらえる人は、確保しておいた方が良いでしょう」

甲斐「相変わらず、ちゃっかりしてるなぁ……」

右京「褒め言葉として受け取っておきますよ。それより……」

甲斐「ライフルを持った、黒ずくめの集団の話でしょ?」

右京「ええ。その集団が、トロピカルランドで消えた証人達か、彼らの仲間である可能性は高いですね」

甲斐「そんな奴らが探偵事務所周辺に現れるなんて……まさか、工藤君のことを狙って?」

右京「まだそこまで断定しない方が良いでしょう」

右京「トロピカルランドでは工藤君の遺体は見つかっていませんから」

右京「彼らも工藤君が生存している可能性を考えたはずです」

右京「工藤君と親しく、彼らの情報を聞いた可能性のある人物を消そうとして、毛利探偵を狙ったか……」

右京「あるいは、毛利探偵が何らかの事件の調査中に、彼らにとっては知られたくない情報を掴んでしまったか……」

右京「どれが正解かは分かりませんが、彼らは毛利探偵の口封じに失敗した上、一般人に目撃されてしまったために」

右京「『大学の映研サークルが無許可でロケを行っていた』という記録を捏造し、警察の追究を逃れたのでしょう」

甲斐「随分と巧妙に隠れる連中ですね……」チッ

右京「ええ。おそらく警察内部にスパイや工作員が入り込んで、記録や調書を改竄したり捏造したりしているのでしょう」

右京「そうでなければ、ライフルを持った黒ずくめの集団などという目立つ格好をした者達が見過ごされるはずがありません」

右京「現に角田課長や組対も、その情報を聞いて動こうとしていましたからね」

甲斐「でも奴らは記録を捏造して、警察の介入を未然に防いだ……」

右京「その記録も、適当な大学とサークルの名前を騙ってしまえば済むことですから」

右京「今から調べたとしても、彼らに関する手がかりは何一つ得られないでしょう」

甲斐「奴らが事件に関わった痕跡は揉み消され、尻尾を掴むのも難しい……か。あ~、くそ!」ガシガシ

右京「そうした点から見ても、相手はかなりの組織力と資金源を持った集団だと考えられます」

右京「もしかすると、警察上層部の中にも彼らの協力者がいるのかもしれません」

甲斐「上層部には一切報告せずに動いた方が、奴らの邪魔が入らなくて良いってことですか」

右京「もっとも、それはいつものことですがね」フフッ

甲斐「俺ら特命係は煙たがられてますしね~」ハハハ

甲斐「あ、上層部といえば……杉下さん。内村刑事部長への報告書、どうします?」

右京「それなら当たり障りのない内容でまとめて、僕が出しておきました」

甲斐「え……何て書いて出したんですか?」

右京「『調査したものの、江戸川コナン君の周辺で事件が多発する原因については不明のままだった』と」

右京「ありのままの事実を書いただけですよ」

甲斐「確かにそれ以外に書きようがない調査結果でしたけど……怒られたりしませんよね?」

右京「我々は『江戸川コナン君や彼の周辺を調査し、その結果を報告する』という任務自体はきちんと果たしています」

右京「刑事部長が報告書の内容に不満を抱くことはあっても、我々が怒られる謂われはありませんよ」

甲斐「いや、『何だ、この内容は!』とか言って、結局俺らを怒るんじゃないかと……って、これもいつものことか」

甲斐「……そういえば毛利探偵や娘の蘭さんは、コナン君の正体が工藤君だって気付いてるんですかね?」

甲斐「調査の段階じゃ、二人とも、コナン君のことを普通の小学生だと思ってるみたいでしたけど」

右京「例のストーカーの一件や、病院での様子を見た限りでは、まだ気付いていないと思いますよ」

右京「蘭さんは工藤君の幼馴染みですから、『江戸川コナン』の正体を知った上で、彼を匿うのに協力しているのであれば」

右京「咄嗟の時や非常時には動揺を隠しきれず、本名で呼んでしまうはずです」

右京「しかしストーカーを取り押さえた時、救急車が来る直前で意識を失った工藤君に、彼女は『コナン君』と呼びかけた……」

甲斐「じゃあ彼らは何も知らないまま、工藤君と一緒に暮らしてるってことですか?」

右京「あくまで、その可能性が高いという僕の推測ですがね」

右京「今、我々がすべきことは二つ……」

甲斐「二つ?」

右京「一つは、工藤君が目撃した取引相手の社長を捜すこと」

右京「その社長から黒ずくめの集団へと繋がる手がかりが得られる可能性は高いですからね」

右京「そしてもう一つは、工藤君本人と接触し、彼を味方に引き入れる方法を考えることです」

右京「彼は探偵としては非常に優秀な能力を持った人材ですから、こちら側についてもらって損はありません」

右京「取引相手の社長同様、彼からも重要な情報が得られるでしょうし、証人の保護もできて一石二鳥です」

甲斐「そりゃ分かってますけど。社長捜しも、工藤君を味方に付けるのも、かなり骨が折れそうですよ?」

右京「そこを何とかするのが、我々の仕事ではありませんか」

右京「ただし、相手は警察にすら容易に存在を悟らせない謎の組織……対応は慎重を期するべきです」

右京「特に、工藤君に危害が及ぶような事態は避けなければなりません」

甲斐「彼は重要参考人ですからね……とにかく、工藤君には俺達への警戒を解いてもらわないと」

右京「時間は多少かかるかもしれませんが、我々が敵ではないと信用してもらう必要があります」

右京「調査の合間を縫って、工藤君と接触できる機会を窺ってみましょう」

甲斐「はい!」

今回はここまでです
次回はまた来週末に更新予定です

おつ

完結までどのくらいかかる?

―翌日・登校途中―

チチ…チュン、チュン

コナン(次にヤベーことがあったら、今度こそ国外に連れ出されちまう)

コナン(それにこれ以上、組織絡みの犠牲者を出したくない……)

コナン(何としても、杉下警部が俺のことを探るのを止めさせねーと)

コナン(でも、どうすればいい……あの人には中途半端な手は通じそうにねーし)

灰原「おはよう」

コナン「お、おう……」

灰原「体調に異状はない?」

コナン「いや、特には」

灰原「そう」

歩美「おはよう、コナン君! 哀ちゃんも」

光彦「もう大丈夫なんですか?」

コナン「あぁ。オメーら、病院に来てくれてサンキュな」

コナン「退院してから連絡しようと思ったんだけど、何かバタバタしちまって……」

コナン(ロスから帰ってきた母さんに、あっちこっち連れ回されたせいだけどな……)

歩美「ううん、気にしないで。コナン君が学校に来れるぐらい元気になって良かったぁ♪」

光彦「高木刑事から話を聞いた時は、ビックリしましたよ」

コナン「へ?」

元太「俺達、あの後コンビニに寄って『タイタン・ハンター』の攻略本を見てたんだけどな」

光彦「信号待ちしてる高木刑事の車に気付いたので、コンビニの外に出て声をかけたんです」

歩美「そしたら、コナン君がケガをして病院に運ばれたって、私達に知らせに行く途中だったって言うから……」

コナン「……そうだったのか」

灰原「私は吉田さんから電話で聞いて、すぐに緑台警察病院へ向かったのよ」

光彦「コナン君が退院した後は、博士の家にいるって灰原さんから聞いてはいたんですけど」

元太「昨日と一昨日は、『コナンのことについて何か聞いてねーのか』ってマスコミに囲まれちまうから」

元太「俺達も家の外に出られなくてよぉ……」

コナン「……そりゃ大変だったな」ハハ…

歩美「でも歩美達、何も言ってないよ。だから安心してね、コナン君♪」

光彦「家の周りにいたマスコミの人達も、警察がお引き取り願ってくれましたし」

コナン「そ、そうか……」

コナン(たぶん、目暮警部辺りが気を遣ってくれたんだな……今度会ったら、お礼言っとこ)

元太「あ、そうそう! 俺、『タイタン・ハンター』の裏技見つけたんだぜ!」

光彦「ホントですか?」

歩美「教えて、元太君!」

元太「あのな、三つ目のステージで……」ワイワイ

灰原「貴方が元気だと分かったら、すぐにゲームの話題……ホント、子供らしいわね」

コナン「あぁ。こんな平和な時間が、ずっと続いてくれれば良いんだがな……」フッ…

灰原「工藤君?」

コナン「早く行こうぜ。遅れちまうぞ」スタスタ

――帝丹小学校正門前――

小林「おはようございまーす」

光彦「おはようございます、先生」

小林「あ、江戸川君。ケガの具合はどう?」

コナン「え、あぁ……大丈夫です。今週いっぱい、体育の授業は見学するように言われただけで」

元太「えー!? じゃあ、今度のサッカーはコナン抜きでやるのかよ?」

コナン「医者から止められてんだから、しゃーねーだろ? 俺だってできるなら参加してーよ」

元太「ちえー」

キーンコーンカーンコーン…

小林「みんな、予鈴が鳴ったから教室へ入って」

小林「他の子達も江戸川君のこと心配してたから、早く顔を見せてあげなさい」

コナン「はーい……」

――帝丹小学校前の路上――

甲斐「……見た感じ、いつもと変わりない様子ですかね。工藤君は」

右京「ええ。体調面は問題無さそうですねぇ」

右京「学校にいる間は多くの人の目がありますから、彼に危害を加えられる心配はまずないでしょう」

甲斐「んじゃ、例の社長捜しに行きますか」

右京「角田課長からもらった資料で、怪しげな取引先が二、三ありましたから」

右京「まずは、そこを当たってみましょう」

甲斐「今日の一年生は五時間授業だから……ここへ戻ってくるのは、二時頃にしますか?」

右京「ええ、それぐらいの時間で良いと思います。……おやぁ?」

甲斐「どうしました? 杉下さん……」

右京「いえ。そこの角の所に、人影が見えたような気がしたものですから」

甲斐「え……誰もいませんよ?」

右京「…………では、僕の見間違いでしょうか」

甲斐「時間が惜しいですし、捜査に行きましょうよ。ここから一番遠いのは港区の会社ですよね?」

右京「ええ……そうですね」チラ



――帝丹小学校付近の路地裏――

工作員A「目標は、帝丹小学校前から移動。引き続き、特命係の動きを監視します」

ベルモット『お願いね。私はもう一度警視庁に潜入した後、バーボンのサポートに回るわ』

工作員A「了解」ピッ

――二日後・花の里――

右京「おや。その腕、どうしました?」

幸子「大丈夫ですよ。ちょっとドジっちゃって」

甲斐「いや、でも……包帯グルグル巻きですよ?」

幸子「ホントに大したことないですから。買い物の帰り、狭い道を飛ばして走ってた車に少し接触しただけ」

右京「車、ですか……」

幸子「黒のセダンだったかしら。後ろから急に来たんで、ビックリしましたよ」

甲斐「他にケガはないんですね?」

幸子「ええ。私はともかく、食材がいくつかダメになっちゃったんで、また買い直しに行ったんです」

右京「それは災難でしたねぇ」

幸子「ま、嫌な話はこれでおしまいにしましょ。おでんでも食べて、温まってくださいな」

甲斐「はぁ……」

――悦子のマンション――

悦子「あ、亨! やっと帰ってきた……!」ギュウ

甲斐「わっ……どうしたんだよ、いきなり」

悦子「私が部屋に帰ってきたのと同時に、こんなFAXが来たの」カサ

悦子「それに、お風呂から上がってリビングに来たら、無言電話がかかってきて……」

悦子「誰かに見張られてるみたいで、気味悪いのよ」

甲斐「……『今の内に手を引け』か。暴力団関係者なんかがよくやる脅迫だな」

悦子「ねぇ亨。貴方、今、何の事件の捜査してるの? その筋の人から恨みを買うようなこと、何かした?」

甲斐「大丈夫だって。こんなもん送りつけてくる連中、杉下さんや組対と一緒に片しちゃうからさ」

悦子「亨……」

甲斐「ちょっと杉下さんに電話してくる。そんな心配そうな顔すんなって」

悦子「……うん」

――右京の自宅――

ガチャ

右京「……おやおや、随分な荒らされ方ですねぇ」

右京(玄関の扉には、こじ開けた形跡はなかった)チラ

右京(家財道具がひっくり返されて、中の物が散乱している……しかし、貴重品は持ち出されていない)

右京(こんな時間に、とは思いますが……米沢さんに来て頂きましょうか)

prrrr…prrrr…ピッ

右京「杉下です」

甲斐『あ、僕です。今、電話大丈夫ですか?』

右京「ええ。どうしました?」

甲斐『いや……実は今日、悦子が帰ってきたのと同時に、不審なFAXが届いたみたいで』

右京「そのFAXには、何が書かれていましたか?」

甲斐『今の内に手を引け、と。まぁ、典型的な脅しですね』

右京「他に、何か変わったことは?」

甲斐『風呂上がりに無言電話があったそうです。丁度、悦子がリビングのドアを開けたのと同時に』

右京「なるほど……」

甲斐『杉下さんの方は、どうなんです?』

右京「僕も先程帰宅したばかりなのですが、家の中が酷い状態でしてねぇ」

甲斐『え!?』

右京「一見すると、空き巣が家中を引っかき回したように見えますが……」

甲斐『違うんですか?』

右京「どうやら彼らは、我々のような末端の警察官の動きまで、つぶさに把握しているようです」

甲斐『じゃあ、これってやっぱり奴らの……?』

右京「ええ、そう見て間違いないでしょう。幸子さんにケガを負わせた黒のセダンも、おそらくは……」

甲斐『奴らなりの警告、ですか……』

右京「我々が工藤君や取引相手の社長のことを探るのは、彼らにとって余程都合が悪いようですねぇ」

甲斐『つまり、俺らの捜査方針が間違ってないことの裏返し……ですよね?』

右京「ええ。……どうしますか?」

甲斐『どうするって……何をですか?』

右京「『今の内に手を引け』というFAXが来たということは、これ以上真実を追究しようとすれば」

右京「彼らが、我々やその周囲に危害を及ぼす可能性が極めて高いということ……」

右京「僕は引き下がるつもりはありませんが、君はどうしますか?」

右京「自分の身や悦子さんのことが心配であれば、この捜査から外れても構いませんよ」

甲斐『バカ言わないで下さい! 乗りかかった船なんですから、最後まで付き合います』

甲斐『犯罪組織の悪行を見逃すなんてできませんよ。悦子のことは、どうにかしますから』

右京「止めはしませんが、くれぐれも無理のないようにして下さい」

右京「悦子さんはもちろん、君のお父様も、ああ見えて君のことを心配しているんですから」

甲斐『…………そうですかねー』

右京「とにかく、僕は米沢さんに来てもらって、家の中を調べてもらいます」

右京「君もマンションの中をくまなく調べた方が良いと思いますよ」

右京「悦子さんの行動を監視するための盗聴器や隠しカメラが仕掛けられている可能性も十分ありますから」

甲斐『分かりました。それじゃ』

ピッ

右京「さて……米沢さんは、まだ警視庁にいるでしょうかねぇ」

ピ、ピ、ピ…prrr…prrr…

米沢『はい』

右京「杉下です。夜分に申し訳ないのですが、僕の自宅に何者かが侵入した形跡がありまして」

右京「少し調べて頂けないでしょうか」

米沢『分かりました。30分後にはそちらへ伺えるかと』

右京「お願いします」

ピッ

右京(僕の予想よりもずっと早く、彼らは動いてきた……)

右京(工藤君に接触するのを急いだ方が良いかもしれませんねぇ)

――右京の自宅近くの路地裏――

ベルモット「フフッ……こうまで思い通りに動いてくれるとはね」

ベルモット(杉下はずば抜けた推理力の持ち主である上に、疑問点を徹底的に調べなければ気が済まない性格……)

ベルモット(奴に『江戸川コナン』と『工藤新一』が同一人物だと気付かせるための手立てなんて)

ベルモット(ジェットコースターの殺人事件の調書を、改竄前の物と差し替えておくだけで良かったわ)

ベルモット(こちらの警告を無視した特命係は、抹殺の対象と見なすには十分……)

ベルモット(ジン達を動かす理由をボスへ説明するのに、何の問題もないわ)

ベルモット(後は特命係がクールガイと手を結ぶ前に、奴らを始末するだけね)ニッ

――翌日・放課後・帝丹小学校正門前――

歩美「じゃあね、コナン君。また明日」

コナン「おう」

元太「んじゃ、光彦の家で『タイタン・ハンター』やろうぜ!」

光彦「元太君。先に宿題を片付けてからにして下さいよ」

元太「分かってるよ!」

歩美「二人とも、早く早く! 置いてくよー」

光彦「あ、はい!」

元太「ちょっと待てよ、歩美-!」

タタタ…

灰原「それじゃ、私も帰るわ。気をつけてね」スタスタ

コナン「あぁ」


ブロロォ…キィッ

コナン「ん?」

ウィィン…

甲斐「こんにちは、コナン君」

コナン「……こんにちは」

右京「少し、よろしいですか?」

コナン「うん……」

――米花公園――

甲斐「はい、ブラックコーヒー」スッ

コナン「……ありがと」

右京「その後、事務所周辺で変わった様子はありませんか?」

コナン「変わった様子って?」

右京「先日捕まえた男以外で、変な人を見かけたとか、誰かに後を尾けられたとか……そういったことは?」

コナン「ううん、特にはなかったよ。一課の刑事さん達が、朝夕パトロールに来てくれるし」

右京「そうですか。何も無いに越したことはないですね」

コナン「……警部さん達、それを聞くためだけにわざわざ来たの?」

甲斐「ん? あぁ……ストーカーって、模倣犯が出たりすることもあるから心配でさ」

コナン「ふーん」ジト…

コナン(結局、俺のことを調べるのを止めさせる方法も思いつかないままなんだよなぁ……)

コナン(ホント、どうすりゃいいんだか)フゥ…

右京「ところで、コナン君は工藤君の親戚でしたね」

コナン「え? あ……うん、そうだけど」

右京「彼と連絡を取ることもできる……そうですよね?」

コナン「う、うん……一応」

右京「実は、我々はある事件を追っていまして」

コナン「へ?」

右京「既に解決した事件なのですが、調書で不審な点を発見したので調べ直しているんです」

右京「調書に書かれていた工藤君の目撃証言で、彼に直接確かめたいことがありましてねぇ」

右京「工藤君の連絡先を知っているなら、我々にも教えて頂けませんか?」

コナン「……ボクは新一兄ちゃんの携帯の番号は知らないよ。いつも非通知で電話かけてくるし」

右京「では、メールアドレスなどは?」

コナン「前のアドレスなら知ってるけど、今のは知らない」

右京「なるほど……では、以前、工藤君が高木刑事に事件の真相を教えたメールは」

右京「前のアドレスで送信されたものというわけですね?」

コナン「!」ドキ

コナン(やっぱ鋭いな……この人)

コナン(落ち着け……この人はただ、俺の言葉を元に推理したことを話してるだけだ)ドキドキ

コナン(俺が工藤新一である確実な証拠なんて、指紋やDNAの鑑定をしない限り掴めない)

コナン「ねぇ……警部さん達が新一兄ちゃんに確かめたいことって、一体何なの?」

右京「トロピカルランドのジェットコースターで起きた殺人事件の詳細と」

右京「事件の後、工藤君が園内で目撃したという、拳銃密輸の取引についてです」

コナン「!!」ギクッ

コナン(な、何で……あの取引のことを、この二人が!?)

右京「“君”が見てしまった取引の内容と、黒ずくめの男と取引をしていた社長がどこの誰なのか……」

右京「覚えている範囲で構いませんので、その二点を確認したいと、工藤君に伝えて頂けますか?」

コナン「だ……だから、ボクは新一兄ちゃんの番号も、今のメルアドも知らないって言ったじゃない」

甲斐「工藤君から連絡が来た時で良いから。……伝えてくれるよね?」

コナン「……………………分かった」ボソ

右京「それでは、我々はこれで」

甲斐「気をつけて帰ってね、コナン君」バイバイ

バタン! ブロロォ…

コナン(気付かれてる……よな。俺の正体)

コナン(あの取引のことが調書に載ってるはずはねぇ。杉下警部達がどこからか調べたんだ……)

コナン(少ない情報からパズルのピースを組み上げる推理力には敬服するけど)

コナン(……どんどんまずい方向に事態が進んでやがる)

コナン(組織の奴らが、警部達の動きをどの程度まで掴んでるのかは分かんねーが)

コナン(このままじゃあの二人が奴らの標的にされちまう。いや……既になってるかも……)

コナン(くそっ! 結局、警部達を巻き込んじまうのかよ!?)ギリッ

今回はここまでです
次回はまた週末に更新予定です

>>196
今回upした分まででの話の進み具合は45%ぐらいですかね…

――米花公園近くの路上――

安室(やはり車で買い出しに行けば良かったか……バイトのふりも楽じゃないな)フゥ

安室(ん? あれは特命係の二人と…………江戸川コナン?)

安室(荷物は一旦ここに置いて……と。この木の陰なら、向こうからは死角になるはずだ)カサ

安室(一体何を話している? 江戸川コナンの表情は、こちらから確認できないか)チッ

安室(あの二人の唇なら辛うじて読めるな。……『工藤君に……伝えてくれるよね』?)

安室(――――妙だな)

安室(普通、警察でも行方を掴めない高校生探偵への伝言を、あんな小学生に頼んだりはしない)

安室(しかし、特命係の二人が伝言を頼んだと言うことは)

安室(江戸川コナンは工藤新一の行方に関する重要な情報を持っているということ……)

安室(工藤新一が何らかの形で生き延びていて、その行方をあの少年が知っているとしたら……)

安室(江戸川コナンやその周囲を張っていれば、工藤新一が姿を現す可能性は高い)

安室(だが、少し回りくどい手にも思えるな)

安室(特命係といい、最近の江戸川コナンの様子といい、腑に落ちないことが多すぎる)

安室(……もう一度、ベルモットをつついてみるか)

――二時間後・ベルモットの滞在先のホテル――

ベルモット「特命係が、あの坊やに工藤新一への伝言を?」

安室『あぁ。あの時の杉下右京の表情からすると』

安室『江戸川コナンに言付けておけば、確実に工藤新一へ伝わるだろうという確信を持っているようだったな』

ベルモット「……あの子は工藤新一の親戚だから、彼と連絡を取れると思ってのことじゃないの?」

安室『一つ、確認しておきたいんだが』

ベルモット「あら、なぁに?」

安室『工藤新一は、本当に死んでいるんだろうな?』

ベルモット「え?」ギク

安室『こちらでも調べ直してみたが、トロピカルランドで彼の遺体は発見されなかった』

安室『試作段階だったあの薬の効力が不完全で、工藤新一を殺し損ねた可能性は無いのかと聞いてるんだ』

ベルモット「何を言ってるの? データでは、彼の死亡を確認したって……」

安室『そんなもの、いくらでもいじれるだろう』フン

安室『そもそも、そのデータを入力したのは誰なのか、お前は知っているのか?』

ベルモット「さぁ……私もそこまで関心がなかったから」

安室『組織のパソコンの使用・閲覧履歴を洗い直してみる必要がありそうだな』

安室『もしかすると、意外なことが分かるかもしれない』

ベルモット「じゃあ、それは私がやるわ。貴方は引き続き、あの坊やと特命係の動きを……」

安室『いや、僕がやる』

ベルモット「バーボン……?」

安室『江戸川コナンの監視は引き続き僕が担当するから、お前は特命係を見張れ』

ベルモット「ちょっと待って。明日、組織のアジトに報告がてら立ち寄る予定だから」

ベルモット「パソコンの使用履歴を調べるぐらいなら、私が……」

安室『明日は僕も仕事が休みで、時間があるんだ。杉下右京抹殺計画について、ジン達とも少し話したいしな』

安室『それとも、僕がパソコンの履歴を調べると、何かまずいことでもあるのか?』

ベルモット「……いえ、別に」

安室『じゃあ、特命係の監視は任せたぞ』

ベルモット「ええ」

ピッ

ベルモット(念のため、シェリーが書き換えたクールガイのデータにはフェイクを仕掛けてあるけど……)

ベルモット(バーボンには見破られてしまうかもしれない)

ベルモット(でも、これ以上細工をすれば、バーボンが私に向ける疑いを強くするだけ……)

ベルモット(クールガイ本人の力で、この局面を乗り切ってもらうしかないわね)



――バーボンの潜伏先――

安室(やはりベルモットは、工藤新一に関する何らかの情報を隠している……)

安室(パソコンの履歴は今夜中に調べてしまうか)

安室(ここ半年だけでも膨大なデータだから、骨が折れるだろうが)

安室(明日になれば、ベルモットに消されてしまうだろうからな……)

安室(あの女の動きを牽制する、良い機会だ)フッ

――同時刻・阿笠博士の家――

灰原「特命係に気付かれた……? それ、ホントなの?」

コナン「あぁ。杉下警部はトロピカルランドの取引のことまで掴んでたから、確実に……」

灰原「……組織の存在にも気付いてしまったのね。あの二人……」

有希子「新ちゃん……ねぇ、今からでもアメリカに行きましょ?」

コナン「……母さん?」

有希子「学校は、向こうの大学に飛び級で入るとか言っておけば心配ないし」

有希子「このままじゃ、蘭ちゃん達にも火の粉がかかっちゃうかもしれないわ」

コナン「バーロォ、んなことしたって意味ねーよ!」

コナン「元はといえば、俺のことを調べたのがきっかけで、組織までたどり着いちまったんだぞ」

コナン「父さんの言う通り、組織の誰かがそう仕向けたことだったとしても」

コナン「こっちが巻き込んじまったようなもんなのに……自分だけ安全な場所に逃げるなんて嫌だ」

コナン「それに俺が日本を離れても、杉下警部が組織を追うのを止めてくれるとは到底思えねーしな」

阿笠「では、一体どうするつもりじゃ? 新一……」

コナン「あそこまで情報を掴まれちまった以上、杉下警部に隠し通すのは無理だ」

コナン「いっそのこと、あの人に俺の正体を明かして、協力してもらった方が良いかもしれねぇ」

灰原「ダメよ、工藤君。危険すぎるわ!」

有希子「そうよ。それで新ちゃんまで狙われることになったら、どうするの?」

有希子「正体を明かさなくても、あの二人の暗殺を未然に防ぐことはできるでしょ?」

コナン「一度や二度なら、何とかな」フゥ

コナン「……けど、組織のやり方からすると、奴らは執拗に二人を狙うはずだ」

コナン「FBIにも事情を話して協力してもらうが、どこまで警部達を守りきれるか分からねーし」

コナン「こっちが後手に回るばかりになれば、それこそ組織の思うつぼだ」

コナン「俺達から攻めに出るなら……どのみち特命係を巻き込むことになっちまうなら」

コナン「全てを話して、特命係を味方に引っ張り込んだ方が良い」

コナン「危険な賭けだってのは承知の上さ。でも、杉下警部ならきっと戦力になってくれるはずだぜ」

有希子「新ちゃん……」

――翌日・警視庁内・内村の執務室――

コンコン

内村「入れ」

キィ…パタン

右京「お呼びと伺いましたが」

甲斐「何の用ですか?」

バサッ

内村「何だ、これは?」

右京「刑事部長が我々に命じられた、江戸川コナン君に関する調査報告書ですが……何か?」

内村「私がいつ、そんなことを命じた?」

右京「はいぃ?」

甲斐「え?」

内村「私はこの三週間、海外出張へ行っていたんだぞ? こんな調査を命じるはずがないだろうが!」

内村「小学生を追いかけ回している暇があるなら、他の課の雑用でも引き受けたらどうだ!!」

内村「この報告書は即刻破棄しておけ!!」

右京・甲斐「「……………………」」

――内村の執務室前の通路――

右京「では、失礼します」

甲斐「失礼しました~」

パタン

甲斐「……どういうことなんですかね?」

甲斐「俺達に調査を命じた記憶が無いとも思えませんでしたし」

右京「おや、参事官。どうなさいました?」

中園「……内村刑事部長の様子は、どうだった?」

甲斐「どうもこうも、機嫌最悪ですよ。それに、三週間も海外出張に行ってたなんて言われてビックリです」

中園「そうなんだよ……三週間前、刑事部長は『出張がキャンセルになった』と言って出勤してきたのを」

中園「私だけでなく他の奴らも見てるのに……一体何がどうなってるんだか、さっぱりだ」

右京「刑事部長が、本当に海外出張に行っていたのであれば」

右京「我々にコナン君の調査を命じたのは、刑事部長になりすました別人ということになりますねぇ」

中園「……お、お前達、このことは他言無用だぞ!」

中園「警察幹部に扮した不審人物が警視庁内をうろついていたなど、マスコミに嗅ぎつけられたら厄介だ」

右京「分かっています」

甲斐「無駄な仕事は増やしたくないですしねー」

中園「では、私はこれで……くれぐれも、情報漏洩には気をつけてくれよ!」

甲斐「はいはい……」

カツカツカツ…

――午後五時・特命係――

神戸「こんにちは、杉下さん」

右京「おや、神戸君ではありませんか」

甲斐「……どなたですか?」

右京「君がここに来る前、僕と一緒に捜査していた神戸尊君です」

神戸「今は警察庁の長官官房付をやってます。以後、お見知りおきを」

甲斐「甲斐亨です。よろしく」

右京「ところで、一体何の用でしょう?」

神戸「出張がてら顔を出しただけですよ。妙な話を小耳に挟みましてね」

甲斐「妙な話?」

神戸「刑事部長の偽物が出たって、警察庁の方でも噂になってたもので。その真相を確かめに」ヒソ…

神戸「杉下さんなら何か知ってるんじゃないかと思って……」

右京「おやおや、そちらの方まで話が広がっていましたか」

甲斐「参事官が俺らに口止めした意味、全然無かったですね……」

大河内「その件については、私も聞かせて頂きたいことがあります」

甲斐「うわっ! ビックリしたぁ」

神戸「……大河内さん」

大河内「神戸。お前、もう用は済ませたのか?」

神戸「ご心配なく。もう定時は過ぎてますから、帰りがけに特命係に寄っただけです」

大河内「……私が来ても驚かれないんですね、杉下警部」

右京「たぶん、おいでになるのではと思っていましたよ」フッ

右京「それで、お聞きになりたいこととは?」

大河内「内村刑事部長から、『民間人に対して不当な調査を行った特命係を取り調べるように』と言われたのですが」

大河内「ここ三週間あまりの刑事部長の行動には、どうも矛盾する点が多すぎましてね」

右京「御本人は海外出張に行っていたと仰っていましたが、それは事実なのでしょう?」

大河内「出張先に問い合わせたところ、確かに刑事部長は行っていたという返事でした」

大河内「しかしこの三週間の間、警視庁で業務をこなす刑事部長を、多くの職員が目撃しています」

大河内「もちろん、私も何度か……」

甲斐「俺らもですよ」

大河内「中園参事官は首を傾げるばかりで、埒が明かなかったもので」

大河内「二人に直接確かめに来たというわけです」

神戸「確かめに来たって、結論は同じだと思いますよ?」

大河内「念のためだ」

右京「現時点ではっきりと分かっているのは、何者かが内村刑事部長になりすまし」

右京「我々に江戸川コナン君の調査を命じたということだけ……」

神戸「どこの誰が、何の目的でそんなことを?」

甲斐「それが分かってるなら、大河内さんもわざわざ来ませんって」

神戸「そりゃそうだ」フフッ

大河内「杉下警部……何か、思い当たる節でも?」

右京「一応は。しかし、まだ確証がありません」

大河内「推測でも構いませんから、お話し頂くことはできませんか?」

右京「お話ししたいのはやまやまですが……」

大河内「……分かりました。今回は貴方方を聴取をしても無意味でしょう」

大河内「くれぐれも、無謀な行動や警察組織の規律を乱す行為はしないようにお願いしますよ」

神戸「それは分かってるけど、色々やっちゃうのが特命係なんだよね」

甲斐「ですよねー」ハハッ

大河内「……神戸」ジロッ

右京「ご心配には及びません。我々も気になることがありますので」

右京「刑事部長のなりすましの件も含めて、もう少し詳しく調べてみるつもりです」

大河内「できるだけ穏便にお願いしますよ」フゥ

大河内「あまりに大ごとになってしまうと、私でも庇いきれなくなってしまいますから」

甲斐「はーい」

右京「分かっていますよ」

今回はここまでです
次回はまた週末に更新予定です

>>229を一部訂正

× 大河内「くれぐれも、無謀な行動や警察組織の規律を乱す行為はしないようにお願いしますよ」

○ 大河内「くれぐれも、無謀な行動や警察組織の規律を乱す行為はしないようにして下さい」

――翌日・組織のアジト――

キャンティ「で? どうやって杉下って奴を殺るんだい?」

コルン「俺、早く撃ちたい……」

安室「コルン。気持ちは分かるが、まずはこっちの話を聞け」

安室「一番手っ取り早いのは、一課の刑事を装って特命係を人気のない場所に呼び出す方法だ」

ウオッカ「呼び出すだけなら、所轄の刑事のふりでも良いんじゃないのか?」

安室「いや。杉下の性格からすると、所轄からの連絡では怪しまれる可能性が高い」

安室「普段から特命係と付き合いがあり、信用している者を騙る方が確実だろう」

ジン「……それで奴がノコノコやってきたところを、俺がブチ抜いてやれば良いわけだな?」

安室「あぁ。お前なら簡単だろう?」

ジン「バーボン。誰に向かって言ってやがる」ギロッ

安室「キャンティとコルンは、ジンのサポートをしてくれ」

ジン「必要ない」

安室「念には念だ」

ジン「…………勝手にしろ。ただし、俺の邪魔だけはするんじゃねーぞ」

バタン! カツカツカツ……

キャンティ「ったく。分かってるっつーの」フン

コルン「俺達、サポートだけ……?」

キャンティ「仕方ないだろ。『杉下右京はジンが殺れ』って、あの方直々のご命令なんだからさ」


ガチャ…パタン

ベルモット「あら。ジンはもう帰ったの?」

安室「……ベルモット。遅いぞ」

キャンティ・コルン「「…………」」ムッ

ウオッカ「一体何をやってたんだ?」

ベルモット「別に。少なくとも、貴方達の邪魔になるようなことじゃないわ」

安室「だと良いがな」フン

ベルモット「……バーボン?」

安室「海外出張中だった内村氏に変装して警視庁に潜入するとは、一体どういうつもりだ?」

安室「警視庁内だけでなく警察庁でも、『内村の偽物が出た』との声が続出しているぞ」

安室「組織が始末した者が生きているように見せかけるための変装ならともかく」

安室「わざわざ杉下に怪しまれるような人物になりすまして、何がしたいんだ?」

ベルモット「杉下右京に協力する警察関係者を見つけ出すためよ」

ベルモット「特命係の協力者の大半は以前調べた時に分かってたけど」

ベルモット「杉下の部下が変わった時、新しくできた人脈もあったりするでしょ?」

ベルモット「それを確認しておきたくてね」

ベルモット「彼らにもまとめて消えてもらえば、後々の手間も省けて良いじゃない?」フフッ

安室「……本当にそれだけか?」

ベルモット「バーボン。貴方、この間から、私の何を疑ってるの?」

ベルモット「言いたいことがあるなら、ハッキリ言えば?」

安室「……………………いや、いい」フゥ

安室「杉下右京抹殺計画の実行は三日後の夜だ」

安室「お前も現場に来てもらうが、くれぐれも邪魔はするなよ」

ベルモット「ええ、もちろん」

キャンティ「こいつが来ても、やることないだろ? 何のために呼ぶんだい?」

コルン「……見張り」ボソッ

安室「そういうことだ。余計な真似をしないように、な」

ベルモット「皆から信用がないという点では、私と貴方は同じぐらいだと思ってたけど?」

キャンティ「仲間を見殺しにするあんたより、バーボンの方が信用されてるよ」ケッ

コルン「お前、秘密多すぎる……」

ベルモット「まぁ、心外ね。秘密主義はバーボンも一緒でしょ?」

安室「僕が秘密主義なのはプライベートに関してだけだ」

安室「だがお前の場合、仕事や任務でも隠し事が多すぎる」

ベルモット「……必要なことは、ちゃんと報告してるわよ」ムゥ

安室「最低限はな。しかし、それだけだろう?」

安室「もう一度言っておく。くれぐれも、僕達の邪魔はするなよ」

ベルモット「…………分かったわよ。好きにすれば?」ハァ…

――阿笠博士の家――

ピーンポーン

阿笠「はーい」

ガチャ

ジョディ「ハァイ、阿笠さん♪」

ジェイムズ「こんにちは」

阿笠「お二人とも、ようこそ。さぁ、中へ……」

パタン

コナン「ゴメンね、ジョディ先生。急に来てもらって」

ジョディ「気にしないで。これが私達の仕事だし」

ジェイムズ「君が私にも来てほしいと頼むとは、余程のことがあったんだね?」

コナン「うん……実は、組織に命を狙われる可能性が高い人達がいるんだ」

ジョディ「え?」

ジェイムズ「誰が狙われるのか、分かってるのかい?」

コナン「警視庁特命係の杉下右京警部だよ。それと、部下の甲斐亨刑事」

ジェイムズ「理由は?」

コナン「……二人が半年前のある事件の調書で不審な点を見つけて、色々調べ直してたら」

コナン「偶然、組織の裏取引の情報を掴んじゃったんだ」

ジェイムズ「裏取引?」

ジョディ「何の取引なの?」

コナン「拳銃密輸をしてた会社社長を恐喝して、口止め料をせしめてたって言ってた」

ジェイムズ「言ってたって……誰が?」

コナン「え……」ギク

コナン「すっ、杉下警部が、だよ。あ、それとね」ドギマギ

コナン「その取引を目撃した人がいるけど、行方が分からなくなっちゃったから捜してるんだって」

ジョディ「……? そう……」

ジョディ(何だか、コナン君らしくないわね。何を慌ててるのかしら?)

ジェイムズ「なるほど。その二人が命を狙われる理由としては十分だな」

ジョディ「ええ。取引相手の社長も目撃者も、組織に消されている可能性が高いですね」

コナン(……目撃者はここにいるけどな。俺のことだけ隠して伝えるって、難しいぜ)

コナン「特命係が目撃者捜しを続けていれば、奴らもそれを察知して、二人を消すために動くと思うんだ」

コナン「その機会を逃さないようにすれば、奴らの尻尾を掴めるかもしれない」

ジョディ「分かったわ。ボス、特命係の二人には監視を付けましょう」

ジェイムズ「いや。こちらが露骨に動けば、また組織に警戒され、付けいる隙が無くなってしまう」

ジョディ「それは分かっています」

ジョディ「しかし、奴らがいつ仕掛けてくるか分からないのに、護衛一つ付けないというのは……」

コナン「――――それなら、一つ提案があるんだけど」

ジョディ・ジェイムズ「「え?」」


――工藤邸・リビング――

トクトク……カラン

ジョディ『提案って、どんな?』

ジェイムズ『……子供の君に、あまり危険なことはさせたくないんだが』

コナン『大丈夫だよ。あのね……』



昴「…………」ゴク

昴(いよいよ動き出す……か)フフッ

――二日後・夕方・特命係――

角田「よ! 暇か?」

甲斐「……全然暇じゃないです」

角田「そうは見えないけどな~。あ、こないだ言ってた拳銃密輸の件、何か新しい情報は入った?」

右京「それが、別件でゴタゴタがありましてねぇ。これといった情報は、まだ……」

角田「え~、マジかよ? ……あ、ついでだからコーヒーもらうね」コポコポ

角田「それにしても、お前らが調べてて中々掴めないってことは、よっぽど面倒な連中みたいだな」

角田「ま、組対はそういう奴らを相手にする部署だし、別に良いけどよ」

角田「最近ガサ入れが無いからさ。ウチの連中、お前らからの情報を首を長くして待ってんだ」

甲斐「はぁ……それはどうも」

大木「課長、ちょっと良いですか?」

小松「泥参会の動きについて、気になる情報が入りました」

角田「おう、今行く。そんじゃ」

甲斐「は~い」


prrrr…prrrr…ピッ

右京「杉下です」

米沢『あ、米沢です。以前お約束していた落語のCDを持ってきたんですが』

米沢『ちょっと一課の方から鑑定に回されてきたものが多くて、そちらに行く暇がありませんで……』

右京「でしたら、こちらから伺います」

米沢『すみませんなぁ』

右京「いえ。そのぐらい、どうということはありませんよ」

米沢『では、お待ちしております』

ピッ

甲斐「杉下さん、今日はどうします?」

右京「もう五時半になりますし、米沢さんの所に寄ったら、そのまま失礼しますよ」

甲斐「んじゃ、俺も帰ろ……昨夜はあまり寝てなくて」フアァ…

右京「おやおや。睡眠不足は判断力を鈍らせる元ですよ」

甲斐「分かってますって」

甲斐「悦子も仕事でいないし、幸子さんのところで晩飯済ませたら、真っ直ぐ帰って寝るつもりです」

右京「それが良いでしょうね。では、僕はこれで」

甲斐「お疲れ様でーす」

カツカツカツ…



甲斐「さて……幸子さん、今夜は何作ってくれるかなぁ?」カタン…ゴソゴソ

パチン

カツ、カツ、カツ……

――同時刻・捜査一課――

高木「よし、今回の聴取はこれで終わり……と」

佐藤「コナン君、お疲れ様。はい、ジュース」

コナン「ありがとう、佐藤刑事」

高木「あ、もうこんな時間か……いつも遅くまで付き合ってもらってすまないねぇ」

佐藤「でも、珍しいわね。探偵団の皆とは別に事情聴取に来るなんて」

コナン「どうしても抜けられない用事があって……」

コナン「高木刑事や佐藤刑事は、二度手間になっちゃったでしょ? ゴメンね」

高木「そんなの気にしなくても大丈夫だよ」

コナン「……うん。それじゃ、ボク帰るね」

高木「あ、待って。送ってくよ。また前みたいなことがあったら困るから」

コナン「じゃあ、先にロビーに行って待ってるよ」

高木「うん。すぐに車を回すから」チャリ

佐藤「お願いね、高木君。調書は私がやっておくわ」

高木「はい」

コナン「さよなら、佐藤刑事」

佐藤「またね、コナン君」バイバイ

――組織犯罪対策5課――

カチャ…

コナン(確か、この奥だったな。特命係があるのは……)

コナン(組対は誰も居ないのか……ま、張り込みかガサ入れにでも行ってんだろ)

コナン(しかし今日は、大尉の飼い主の事件の聴取があって助かったぜ)

コナン(口実も無いのに警視庁へ行くなんて、蘭やおっちゃんにも怪しまれちまうからな)



――特命係――

コナン(よし、誰も入ってくる気配はねーな)

コナン(博士に改良してもらった高性能盗聴器を、ここのコンセントに仕込んで……と)カチャカチャ

コナン(あと、念のためにここにも……)カチャ…

~3分経過~

コナン(これで良い。FBIには複数のパターンの作戦を立ててもらってるし)

コナン(後は、組織の奴らが特命係に何か仕掛けてくるのを待つだけだ)

prrrr…prrrr…ピッ

コナン「もしもし?」

高木『コナン君? 高木だけど。今、どこにいるんだい?』

コナン「あ……まだトイレなんだ。すぐに行くよ」

高木『分かった。入口のドアのところで待ってるから』

ピッ

コナン「んじゃ、行くか」

パタパタパタ…

――翌日・午後七時・特命係――

右京「今日の調べ物は、僕だけでも構わないんですよ?」

甲斐「いえ、俺も手伝いますよ。ちょっとでも多くの情報を集めたいですし」

右京「そうですか? すみませんねぇ」

prrrr…prrrr…ピッ

右京「杉下です」

???『あ、すみません……急に』

右京「おや、芹沢さん? どうしました?」

???『実は殺人事件の通報を受けたんですけど、一課は別件で人手が足りなくて』

???『伊丹さんには僕から上手く言っとくんで、先に現場へ行ってもらえませんか?』

右京「分かりました。現場はどちらでしょう?」

???『杯戸公園の東屋です。けど通報者が動揺してて、どこの東屋なのか分かんなくて……』

右京「では、現地で確認します。カイト君」

甲斐「はい」カタン

???『お願いします。鑑識には、僕から連絡しておきますんで』

右京「ええ。それでは」ピッ

甲斐「行きましょう、杉下さん」

右京「あぁ、ちょっと待って下さい。……課長」

甲斐「え?」

角田「おう、何だ?」

右京「先日の件ですが、先程、取引の情報が入ってきました」

角田「ホントか!? 場所は?」

右京「杯戸公園の東屋付近だそうです。しかし、いくつかある中のどこなのかまでは……」

甲斐(……杉下さん!?)

右京「それと、彼らが銃を所持している可能性も十分考えられますので、注意して下さい」

角田「よし! 残ってる奴ら、全員集まれ! 現場へ張り込みに行くぞ!!」

大木・小松「「はい!!」」

刑事A「防弾チョッキ、人数分あるか?」

刑事B「向こうにしまってあっただろ。出してこようぜ」

ガヤガヤ…

甲斐「杉下さん……さっきの電話は、芹沢さんからの応援要請だったんでしょう?」

甲斐「どうして組対に『取引の情報だ』なんて嘘を言う必要があるんですか?」

右京「声は似せていましたが、芹沢さんとは微妙に口調や言葉のアクセントが違っていました」

右京「それに本物の芹沢さんなら、『伊丹さんには自分から言っておく』とは言いませんよ」

甲斐「確かに。『伊丹さんに内緒で』っていうなら分かりますけど」

甲斐「……じゃあさっきのは、例の組織が?」

右京「ええ。おそらく、我々を誘い出すための罠でしょうねぇ」

右京「だから、組対にもお出まし願おうというわけです」

甲斐「なるほど……」

角田「おい。約束通り、お前らにも手伝ってもらうからな!」

右京「もちろん。協力させて頂きますよ」

甲斐「そりゃもう、喜んで♪」

――警視庁近くの路上――

角田『よし、行くぞ!』

甲斐『……課長、気合い入りすぎですよ』

右京『久々の捕り物ですし、仕方ないでしょう。行きますよ、カイト君』

甲斐『はーい』



ジョディ「奴らが動いたわ。杯戸公園へ向かって!」

キャメル『了解』

ジェイムズ「杉下右京……罠を見抜いて迎え撃つとは、さすが警視庁随一の頭脳の持ち主だな」

コナン「うん。奴らが杉下警部を邪魔に感じるのも、無理はないと思うよ」

コナン「あの人が捜査を続ければ、いずれ組織の存在が明るみに出てしまうだろうからね」

コナン(でも、組織が杉下警部に罠を見抜かれることを想定してないとは思えねーな)

コナン(特に、ベルモットやバーボン辺りは……)

ジョディ「コナン君。本当に帰らなくて大丈夫なの?」

コナン「え? ……あ、うん」

コナン「博士の家に泊まるって、蘭姉ちゃんに言ってきたから」

コナン「それより、ボクらも杯戸公園へ行こう」

ジェイムズ「そうだな……少し飛ばすから、シートベルトをしっかり締めておいてくれ」

ブロロォ……

今回はここまでになります
次回はまた週末に更新予定です

――杯戸公園――

角田「大木と小松は東屋の裏手で、お前らはあっちの方で張り込みだ」

大木・小松・刑事A・刑事B「「「「はい!」」」」

バタバタバタ…

右京「さて……どこから仕掛けてきますかねぇ」

甲斐「一応防弾チョッキは着てますけど、いきなり頭を狙われたらアウトですよ」

右京「大丈夫でしょう。僕達も組対も、悪運は強い方ですから」

甲斐「いや、そういう問題じゃなくて……」

角田「全員、位置に付いたか?」

大木『はい。後はホシが来るのを待つだけです』

角田「よし。周囲に怪しい動きがあれば、すぐに知らせろ」

小松『了解』


~2時間経過~

角田「中々来ねぇな……」

甲斐「やっぱ夜だし、冷えますね~」ブルブル

角田「それが目下の悩みの種だぜ……う~、カイロ持ってくりゃ良かった」

右京(あれは……レーザーポインター!?)ハッ

右京「課長、伏せて下さい!!」

角田「おわっ!」パキュン!

チュイーン!

甲斐「早くこっちへ!」ダダッ

ガサガサ…カサ…

右京「ケガはありませんか?」

角田「おう。かすり傷程度だ」

小松『課長、どうしました!?』

角田「狙撃だ! たぶん、どっか近くのビルから狙われてる」

小松『……俺ら、偽の取引情報でおびき寄せられたんですか?』

角田「そういうことになるみたいだな……くそっ」

大木『何人かで周辺を探ってみます』

角田「気をつけろよ」

右京「すみませんねぇ、こんなことになってしまって……」

角田「ガセ情報でガッカリするのは日常茶飯事だからな。まずは、この場を切り抜けようぜ」

甲斐「ですね」

――杯戸シティホール屋上――

キャンティ『あーあ、外してやんの』

コルン『……わざと』

ジン「当たり前だ」

キャンティ『雑魚の掃除は手伝うよ。こっちからは組対の連中が丸見えだねぇ♪』

コルン『狙い放題……』

ジン「杉下と、甲斐とかいう刑事は撃つんじゃねーぞ。俺の獲物だ」

キャンティ『へいへい……』

コルン『俺……杉下を撃ちたかった』

ジン「黙れ、コルン」

コルン『……』チッ

ベルモット「ま、この三人なら、狙撃だけであぶり出せるわね」

安室「逃げ回っていられるのも、ジン達が遊んでいる間だけだろうな」

ベルモット「……ところで、バーボン。貴方、いつまで私に銃を向けてるつもり?」

安室「この作戦が終わるまでだ」ジャキッ

ベルモット「私なんかより、マークしておくべき人はいるんじゃなくて?」

ベルモット「特に、こないだ組織に戻ってきたばかりの……」

安室「黙れ」ジロッ

安室「自分がキール以上に不審な動きをしているという自覚がないようだな」

ベルモット「あら、そんなに不審だった?」

安室「あぁ。作戦行動中でも、僕やジンが直接見張らなければならないと思うぐらいには」

ベルモット「…………頑固ね」ハァ…

安室「お前もな」フン

――杯戸公園・東屋付近――

甲斐「……撃ってきませんね」

右京「油断しないで下さい。まだ狙われているはずです」

右京「撃ってこないのは、無駄に弾を消費するような真似はしないということでしょう」

甲斐「随分とありがたい心がけで……」

角田「参ったな……この時間だと暗すぎて、周辺の様子も確認できやしねぇ」

右京「!」ハッ

右京「課長!」

甲斐「避けて!」

ズキューン!

角田「複数のポイントからの狙撃か!!」

大木『課長、大丈夫ですか!?』

角田「俺達のことはいいから、自分らの身を守れ!」

小松『うわっ!!』キュイーン!

甲斐「……っと!」パァン!!

右京「カイト君、右へ飛んで!」

甲斐「くっ!!」カァン!

角田「狙撃ポイントは二ヶ所……いや、三ヶ所だな!」

パキュン!!

角田「撃たれた奴はいないか!」

大木『今のところは無事です!!』

刑事B『こっちもです!』

右京(彼らは狙撃しながら、我々がバラバラになるように仕向けている……)

右京(やはり、巧妙に仕掛けられた罠でしたか)

右京「おっと!」キィン!!

――杯戸シティホール屋上――

キャンティ『コルン。そっちへ走ってった二人組、任せるよ』

コルン『俺、杉下の横にいるメガネが良い……』

キャンティ『はいはい。そいつもあんたにあげるから、二人組も頼む』

キャンティ『あたいはあっちの木の近くにいる三人な』

コルン『分かった』

ジン「……遊びも飽きてきたし、終わりにするぞ」ニッ

キャンティ『あぁ』

コルン『人間撃つの、久々……』

ジン「キャンティはのっぽの刑事、コルンはチビの奴だ。俺は甲斐の方から狙う」

キャンティ『OK』

ジン「杉下右京。テメェの部下の死に様、目に焼き付けるが良い」ジャキン

ジン「……ま、すぐに部下の後を追わせてやるがなぁ」ニィィ

――杯戸公園・東屋付近――

パァン!

角田「左に避けろ!」

チュイーン!!

甲斐「くそっ……このままじゃ埒が明きませんよ! スナイパーを捜し出さないと!!」

右京「彼らは、こちらにそんな余裕を与えるつもりはないようですねぇ!」パキュン!

甲斐「危ねっ!」カァン!!

甲斐「!」ハッ

甲斐(このレーザーポインター、あっちのビルから……!?)

右京「カイト君!!」バッ

甲斐「わ……っ!」キィン!!

ズザザッ

カサ……

右京「どこかケガは?」

甲斐「俺は大丈夫です。ケガしてるのは、杉下さんの方じゃないですか」

右京「ご心配なく。そこの木の枝で引っかけただけですよ」ジワ…

甲斐「……なら良いんですけど」

――杯戸シティホール屋上――

ジン「チッ……」

ベルモット「珍しいじゃない。貴方が本気で狙って外すなんて」クス

ジン「うるせぇ」ギロッ

ベルモット「ところで、この作戦の後処理はどうするの?」

安室「それなら心配ない」

安室「先月組対が挙げたグループで捕まっていない者の中に、元傭兵で狙撃が得意な男がいてな」

安室「そいつが特命係と組対の刑事達を殺害した容疑者として指名手配される予定だ」

ベルモット「その男、今頃はもう天国なのかしら?」

安室「いや。この作戦が終わったら、潜伏先で始末して、遺書と共に転がしておく手筈だ」

安室「後は、明日の朝を待って、警察へ通報すればいい」

ベルモット「……そう」


……ファンファンファンファン

ジン・安室・ベルモット「「「!?」」」

コルン『……サイレン?』

ウオッカ『兄貴! 今、警察がそっちに!!』

ジン「どういうことだ。通報システムは、お前が弄ってたはずだろ」

ウオッカ『一般の通報はこっちでも、ちゃんと操作できてやしたが……』カタカタ…タン!

キャンティ『じゃあ、何で警察が来るんだい?』

ウオッカ『今やってくる連中は、一課の刑事に直接連絡がいったみてぇですぜ』

ジン「……確かなのか?」

ウオッカ『警察無線を傍受して確認しやした』

ジン「……フン」

ジン「コルン、キャンティ。一旦引くぞ」

キャンティ『やれやれ、今夜はお預けかい』

コルン『あいつの頭、まだ撃ってなかったのに……』

キャンティ『あたいだって撃ちたかったよ。次に持ち越しだ』

コルン『……』チッ

――杯戸公園・東屋付近――

…ファンファンファンファン

甲斐「あ……」

右京「……パトカーのサイレンの音ですねぇ」

角田「狙撃も止んだみたいだな。助かった……」ハァ…

キキィ! バタン!!

伊丹「警部殿!!」

佐藤「杉下警部!」

芹沢「大丈夫ですか!?」

右京「ええ」

甲斐(うわ……一課だけじゃなくて機動隊までいるし)

角田「命拾いしたぜ~。来てくれて、サンキュな」

目暮「一体、何があったんだね?」

右京「それが……偽の取引情報でおびき出され、付近のビルから狙撃されましてねぇ」

高木「ええぇ!?」

佐藤「皆さん、大丈夫なんですか?」

角田「何とかな。君らが来るのがもうちょっと遅かったら、一人や二人は撃たれてただろうけど」

右京「どうして、この現場が分かったんです?」

目暮「工藤君から『組対と特命係が、杯戸公園で何者かと銃撃戦をしている』と通報があったんだよ」

甲斐「……工藤君から?」

目暮「あぁ。通報者が工藤君であることはマスコミに伏せてほしいと言ってたから、他言は無用だ」

甲斐「あ……はい」

目暮「ところで、本当にケガ人は一人もいないのかね?」

右京「ええ。僕も含め、数人がかすり傷を負った程度で済んでいますよ」

目暮「そうか……」

右京「貴方方が来たことで、スナイパー達も逃げたようですし」

右京「機動隊にはお引き取り願っても大丈夫でしょう」

目暮「うーむ。おそらく、非常線を張っても捕まえるのは難しいな」

芹沢「目暮警部。鑑識に頼んで、この周辺の弾痕を調べてもらいますから」

目暮「あぁ、頼む。高木と佐藤、白鳥、千葉は周辺で不審人物を見なかったか聞き込みだ」

高木・佐藤・白鳥・千葉「「「「はい!!」」」」

――杯戸公園・西門近くの路上――

ジョディ「……何とか、一課の到着が間に合ったわね」

コナン「うん……」

コナン(まさか、組対ごと特命係を消そうとするとはな……)

コナン(そこまでやると、さすがに周囲にも不審がられるだろうから可能性は低いと思ってたんだが)

キャメル『ボス。奴らは現在、杯戸町を抜けて池袋方面に逃走中です』

ジェイムズ「また撒かれてしまうだろうが、可能な限り追跡を続けてくれ」

キャメル『了解』

ジェイムズ「さて……あとは連絡待ちだな」

ジョディ「でも考えたわね、クールキッド」

ジョディ「有名な高校生探偵の名前と声を使って、一課の刑事に直接通報するなんて」

コナン「一般の通報システムは、奴らが掌握してると思ったからさ」

コナン「新一兄ちゃんが通報すれば、物証が掴めてなくても、警部達は信用して動いてくれるんだ」

コナン「だから、今回はそれをちょっと利用させてもらっちゃった♪」ニコ

ジョディ(……この子、一体どこまで頭が切れるのかしら)

ジェイムズ「君の予想に違わずだよ。たった今、組織からのハッキングが解除されたようだ」カタカタ

ジェイムズ「今夜はひとまず安心だろう。奴らも、策を練り直す時間が要るはずだからな」

ジェイムズ「送っていくよ、コナン君。阿笠博士の家までで良いのかな?」

コナン「あ、ちょっと待って」

ジョディ・ジェイムズ「「?」」

コナン「ボク、杉下警部に話さなきゃいけないことがあるんだ」

ジェイムズ「私達には、聞かせてもらえないのかい?」

コナン「――――今はまだ、話せない」

ジェイムズ「……そうか」

コナン「ごめんなさい……ボクの方が協力してもらうばっかりで」

ジョディ「謝ることはないわ。以前君に知恵を貸してもらったおかげで、随分と助けられたもの」

ジェイムズ「それに、君にも何か事情があることぐらい、こちらも分かっているよ」ポンポン

ジェイムズ「その時が来たら、ちゃんと話してくれるね?」

コナン「……うん」フッ

コナン「それじゃ、ボクはこれで……」

ジョディ「ええ」

ジェイムズ「また何か動きがあれば、連絡するよ」

コナン「分かった」

ガチャ…バタン!

――杯戸公園・西門付近――

目暮「……しかし、今夜は現場検証と聞き込みで手一杯だな」

右京「我々の聴取は明日ということでしょうか?」

目暮「あぁ。疲れているところを悪いが、朝一番で構わんかね?」

甲斐「いえ。今夜じゃないだけでも、御の字です……」

角田「よし、引き揚げるか」

大木・小松「「はい」」

右京「組対の皆さんには、ご迷惑をお掛けしてしまいましたね。本当にすみませんでした」ペコ

角田「いいって。俺らも特命に手伝ってもらうことが多いんだし」

小松「課長も言ってましたけど、ガセ情報は慣れっこですよ」ハハ…

大木「次は期待してますから」ポン

角田「んじゃ、俺らも帰るわ。お疲れさん」

右京「では、我々も失礼します」

甲斐「失礼しまーす」

目暮「あぁ。気をつけてな」

芹沢「目暮警部! ちょっと……」

目暮「今行く!」タタッ…



甲斐「……杉下さん、車はどこに停めましたっけ?」

右京「あちらの駐車場ですよ」

カツ、カツ、カツ、カツ…

――杯戸公園・駐車場・右京の車の前――

…カツ、カツ、カツ…カツン

右京「おや」

コナン「こんばんは、杉下警部」

右京「……小学生が一人で出歩くには、随分と遅い時間のはずですが?」

コナン「あいにくと、見た目通りの歳じゃないもので」

甲斐「じゃあ、やっぱり“君”は――――」

コナン「そこから先は、場所を移してお話しします」シー

甲斐「……!!」

右京「乗って下さい。送っていきますから」ガチャ

コナン「ええ」

バタン! ブロロォ……

今回はここまでです
次回はまた週末に更新予定です

――阿笠博士の家――

灰原「インスタントで悪いけど、紅茶をどうぞ」カチャ

右京「どうも」

コナン「疲れてるのに、わざわざすみません」

甲斐「子供はそんなこと気にしなくていいって」ハハハ

甲斐「それより……話してくれるんだよね?」

コナン「――――確認も兼ねて聞きたいんですけど」

コナン「俺のことや奴らのこと、どこまで掴んでます?」

右京「あの組織の裏取引を“君”が目撃してしまい、彼らに命を狙われたものの」

右京「何らかの理由でその姿になって生き延びている、ということぐらいですかね」

コナン「……じゃあ、俺がこの姿になった原因は知らないんですね?」

右京「ええ。トロピカルランドに駐在する警察官から、“君”がケガを負った経緯は聞きましたが」

右京「その後、何があったんですか?」

コナン「――――毒薬を飲まされたんです」

右京・甲斐「「毒薬?」」

甲斐「……って、どんな毒なの?」

コナン「毒薬の名前はAPTX4869。例の組織が、長い年月をかけて新たに開発したもので」

コナン「遺体から毒物反応が検出されないために、完全犯罪が可能になるという代物ですよ」

コナン「でも俺が投与された時、その薬はまだ試作段階で、未完成だったんです」

右京「つまり……その毒薬の偶発的な作用で、“君”はその姿に?」

コナン「はい」コクッ

右京「なるほど……そういうことでしたか」

甲斐「小っちゃくなっちゃうのは、身体だけ?」

コナン「ええ」

コナン「神経組織を除いた、骨格、筋肉、内臓、体毛など」

コナン「全ての細胞が幼児期の頃まで後退化するそうなので」

コナン「……だよな? 灰原」

灰原「そうよ」

右京「そちらのお嬢さんも、『江戸川コナン』の正体をご存じなのですか?」

灰原「今の名前は、灰原哀。……“彼”をこんな姿にした薬を作った張本人よ」

甲斐「え!?」ギョッ

右京「では、あなたは組織の一員だったのですね?」

灰原「ええ。姉を殺されたことが原因で裏切ったけど」

甲斐「……もしかして、君も工藤君みたいに……?」

コナン「順を追って話しますよ。そうじゃないと、頭が混乱しちゃいますから」

~2時間経過~

コナン「……というわけで、FBIの協力も得ながら、奴らの尻尾を掴もうと必死になってるんです」

コナン「今は、毛利探偵の周辺をうろつくバーボンをマークしつつ」

コナン「ベルモットを始めとした、他のメンバーの動きにも注意しているといった状況ですね」

右京「そうでしたか……」

右京「まさかベルツリー急行の爆破にも彼らが関わっていたとは、驚きですねぇ」

甲斐「え……でも、ちょっと待って」

甲斐「CIAはともかく、FBIってアメリカ国外では捜査権が無いはずじゃなかったっけ?」

右京「基本的にはそうですが……」

右京「情報収集を目的としている場合であれば、国外で活動することもありますよ」

右京「しかし、聞かせて頂いた内容からすると、今回の件は明らかに違法捜査にあたるはずです」

コナン「そうまでして追いかけなきゃならない程、厄介な組織だってことですよ」フゥ

コナン「既に何人もの捜査官の命が、組織によって奪われていますから……」

甲斐「……そうだろうな。俺らだって、工藤君が通報してくれなきゃ殺されるところだったし」

コナン「…………」ギュッ

甲斐「工藤君?」

コナン「俺達のいざこざに巻き込んじゃって……ホント、すみません」

甲斐「いやいや、君が頭を下げる必要なんてないだろ」

甲斐「元はと言えば、奴らが裏世界で暗躍してるせいじゃん?」

コナン「俺は自分の好奇心から首を突っ込んだから、自業自得ですけど」

コナン「特命係のお二人は、完全にとばっちりですから」

甲斐「工藤君……」

右京「一つ、確認しておきたいのですが」

右京「ベルモットという組織のメンバー以外で、君の正体を知っているのは」

右京「あちらにいる阿笠博士、薬の開発者である灰原さん、ロスのご両親と……」

コナン「西の高校生探偵の服部平次と、怪盗キッドも知ってますよ」

甲斐「服部君は友人だって聞いてるから分かるけど、何でキッドも?」

コナン「以前、博士との電話を奴に盗聴されちまって……それでバレたんです」ハァ…

右京「なるほど。FBIの方々は、ご存じないのですか?」

コナン「まだ話してません」

コナン「まぁ……赤井さんは、何となく知ってる風でしたけど」

甲斐「でも、その人は殉職しちゃったんだろ?」

コナン「あ……はい」ソワソワ

甲斐(何か、工藤君の目が明後日の方を向いてるような……)

右京「君の家に下宿している……沖矢昴さんでしたか。我々も、彼を味方と認識して良いのですね?」

コナン「ええ。それは大丈夫です」

甲斐「……正直、ちょっと安心したよ」フッ

コナン「?」

甲斐「君のご両親は普段、海外だし。服部君だって、そう頻繁には東京に来れないだろ?」

甲斐「警察にもスパイがいて頼れない中で、たった一人、頑張ってるんじゃないかって心配だったから」

甲斐「奴らに対抗するには少ない人数かもしれないけどさ。味方がいるって分かって、ホントに良かった」

コナン「甲斐刑事……」

甲斐「カイトでいいよ。みんな、そう呼んでるし」

右京「……しかし、組織の存在を知っただけでも抹殺の対象になるというのであれば」

右京「組対や一課にも、組織のことを伏せた方が良さそうですねぇ」

コナン「ええ。組対には、以前摘発した暴力団関係者からの報復とでも思わせて」

コナン「組織の存在に目を向けさせないようにすれば、奴らも手出ししないでしょう」

コナン「一課の方は、適当な理由を付けて、捜査を打ち切るように命令が下るはずです」

コナン「もちろん、奴らの裏工作ですけどね」

甲斐「伊丹さん達は不満タラタラだろうけど、命には代えられないか……」

甲斐「でも、協力してもらったり助けてもらったりしたのに、嘘をつくのは心苦しいなぁ……」ハァ

コナン「そこはもう、割り切るしかないですよ」

コナン「今のところ、組織が本当に消したいのは杉下警部とカイトさんだけのようですし」

コナン「今夜失敗したからには、もう一度仕掛けてくるはずです」

コナン「それまでの間に、こっちも奴らに対抗する策を考えないと」

甲斐「うん、そうだね」

右京「もう遅いですから、今夜はこれでお暇しますが……」

コナン「ええ。策を考えるのは、また日を改めて。FBIとも連絡を取ってみます」

右京「お願いします」

甲斐「あ、工藤君」

甲斐「携帯の番号を教えてくれる? 念のために、“コナン君”と“工藤君”の両方を」

コナン「あ……はい」ゴソゴソ

ピコ♪

甲斐「これで良し……と。杉下さんと俺のも送信するね」

ピコリーン♪

甲斐「登録できた?」

コナン「はい」

右京「では、失礼します」

甲斐「おやすみ」

コナン「おやすみなさい」

パタン…


…カタン

有希子「新ちゃん……」

コナン「大丈夫だって。杉下警部達なら信頼できるよ。なぁ、灰原」

灰原「ええ。彼らが組織のことを口外しなければね」

有希子「……それは分かってるけど」

コナン「つーか、いるんだから挨拶ぐらいすりゃ良いのに」

有希子「だってぇ~、突然三人で帰ってくるんだもの」

有希子「こんな寝間着みたいな格好じゃ、人前に出られないわ」プンプン

コナン「何だよ、それ……」

灰原「男の貴方には分からないでしょうけど、女性は細かい部分まで気を遣うってことよ」

コナン「はぁ?」

灰原「私ももう寝るわ。おやすみなさい」スタスタ

コナン「……ったく。何なんだよ?」

阿笠「ワシも休むから、玄関の鍵は頼んだぞい」

コナン「おう」

有希子「新ちゃん、私達も隣へ帰りましょ」

コナン「先に帰ってくれ。俺、ちょっとやることあるから」

有希子「あんまり遅くならないようにしてね?」

コナン「へいへい……」

コナン(とりあえず、ジョディ先生に連絡しておかねーとな……)

ピッ…prrrr…prrrr…

コナン「あ、ジョディ先生? コナンです。ちょっと頼みたいことがあるんだけど――」

――翌日・警視庁内・内村の執務室――

バン!!

伊丹「捜査を打ち切るって、一体どういうことです!」

伊丹「警視庁の組対が、複数の狙撃犯から命を狙われたんですよ?」

芹沢「特命係もですよ、伊丹さん」ボソッ

伊丹「これは立派な殺人未遂だ! 一課が動いて何が悪いんですか!!」

中園「今、一番濃厚な線は、暴力団関係者による組対への報復だ」

中園「なら、一課ではなく組対の領分だろう。向こうに任せればいいじゃないか」

伊丹「しかしですね、参事官!」

内村「伊丹……つまりお前は」キィ…

内村「警視庁の組対が、偽の情報で容易くおびき出され、ノコノコと出向いた挙げ句」

内村「ライフルで殺されかけた無能集団だと、世間に公表しろと言いたいわけだな?」

伊丹「そんなことは言ってません! これは警察に対する挑戦でしょう!!」

伊丹「このまま狙撃犯を野放しにしておく方が、よっぽど危険じゃないですか!」

伊丹「組対はもちろん、一課も協力して動くべきだと言ってるんです!!」

佐藤「私も同感です、内村刑事部長」

佐藤「理由の説明も一切無く、ただ捜査を打ち切れというのは、納得いきません」

高木「自分もです」

内村「理由は今言った」

佐藤「では、せめて組対との合同捜査をさせて頂けないでしょうか?」

内村「ダメだ。今回の件は、組対に任せろ。お前達が動くことは許さん!」

伊丹・芹沢・佐藤・高木「「「「…………」」」」ムゥゥ…

――捜査一課――

伊丹「くそっ……!!」ゴン!

芹沢「……伊丹さん。気持ちは分かりますけど、落ち着いて下さいよ」

伊丹「うるせぇ!!」

千葉「荒れてますね、伊丹さん」

高木「あぁ……そういや、そっちはどう? 何か手がかりあった?」

千葉「いえ。さっき、押収した証拠品や捜査資料を組対に持っていかれました」

高木「えぇ、もう!?」

白鳥「組対は『自分達が捜査するから、一課は手を出すな』の一点張りで」

千葉「何が何だか、もうさっぱりですよ」ハァ…


ガチャ

目暮「朝早くから、すまんかったな」

右京「いえ。目暮警部こそ、夜通しの捜査でお疲れでしょうに」

目暮「刑事部長も『事情聴取が終わったら、特命はもう休め』と言っとったよ」

甲斐「……それって、厄介払いってやつですかね」ポツリ

右京「カイト君。本当のことを言ってはダメですよ」

甲斐「あ、すみませ~ん」ハハハ

目暮「ま、まぁ、たまにはのんびりする機会があっても良いじゃないか」ヒク…

目暮「昨日の捜査資料を見たら、帰って休んでくれ」

目暮「上にはワシが報告しておくからな」

右京「お願いします」

甲斐「お願いしまーす」

パタン…

千葉「あ……杉下警部。捜査資料は、もう組対が持っていっちゃいまして……」

右京「そうですか。では、角田課長に頼んで見せて頂くとしましょう」

ガシッ

伊丹「丁度良かった……」

右京「おや、伊丹さん。昨夜はすぐに駆けつけてくれたおかげで、助かりましたよ」

甲斐「ホント、ありがとうございました~♪」

伊丹「そんな口先だけのお礼は結構です」ジロッ

右京「はいぃ?」

伊丹「昨夜のことを、洗いざらい吐いてもらいましょうか。本当は何があったんですか?」

甲斐(うわ……伊丹さん、目がヤバい)コソ…

伊丹「こら、カイト! 逃げるんじゃねぇ!!」グイッ

芹沢「伊丹さん……! もう、特命に八つ当たりしないで下さいよ!!」

伊丹「じゃあお前は、上層部の決定に納得してんのか!」

芹沢「してませんよ! 俺だってムカついてますって!!」

芹沢「でも、『一課は動くな』って命令されたんだから仕方ないでしょ?」

芹沢「刑事部長、背けば懲戒も辞さないようなオーラ出してましたし」

右京「やはり、捜査の打ち切り命令が出されましたか」

芹沢「ええ。けど、納得できるだけの理由も説明も一切無いままで」

芹沢「俺や高木さんも一言、物申してやりたかったぐらいですよ」

芹沢「ま、俺達が言う前に、伊丹さんと佐藤さんが全部言いたいこと言ってくれてましたけどね」フン

甲斐「……伊丹さんだけじゃなくて、芹沢さんにもここまで言わせるってことは」

右京「刑事部長も、相当嫌みな言い方をしたんでしょうねぇ……」

高木「ええ、まぁ……」ハハ…

千葉「佐藤さん? どうしたんですか?」

佐藤「え? あぁ……前にも、無理矢理捜査を打ち切られたことがあったなぁって」

右京「前にも……というと、いつのことでしょう?」

佐藤「七夕の頃、東京、埼玉、神奈川、静岡、群馬、長野で起きた、広域連続殺人事件です」

白鳥「被害者の遺体発見場所や殺害現場が、地図上で北斗七星の形を描いていた事件ですね?」

佐藤「ええ。あの時、松本管理官になりすまし、捜査会議に参加していた謎の人物がいたんですが……」

佐藤「その人物について調べようとしたら、上からストップがかかったんです」

千葉「あれも本当に不可解でしたよね」

千葉「管理官を拉致監禁して、なりすましただけでなく」

千葉「犯人確保のために現場へ向かった警察官を殴り倒して、捜査を攪乱していたのに」

千葉「その人物について一切捜査するな、なんて命令が下されるなんて」

高木「東都タワー周辺に現れた、どこの所属か分からない戦闘ヘリのことも」

高木「松本管理官の件と同様に、捜査の打ち切りを言い渡されましたっけ」

白鳥「それに関しては、防衛省も首を傾げていましたね」

白鳥「本来であれば航空自衛隊にも関わってくる問題のはずなのに……」

高木「今回の一件と、何か関係があるんでしょうか?」

伊丹「おい……その話、マジか?」

千葉「え……」

白鳥「知りませんでしたか?」

高木「ボク達は、てっきり皆さんもご存じかと……」

伊丹「戦闘ヘリの捜査を強引に打ち切られたのは知ってるけどなぁ」

芹沢「松本管理官については、俺達も一切聞いてませんよ」

伊丹「どういうことだ? 高木ィ」

高木「い……いや、ボクに聞かれても……」タジタジ


『杯戸町三丁目のアパートで殺人事件発生! 現場は風呂場、被害者は20代後半~30代の男性で……』

バン!

目暮「白鳥、高木、佐藤は現場に急行してくれ! ワシも後から行く!」

白鳥・高木・佐藤「「「はい!」」」

目暮「伊丹君、芹沢君も聞き込みなどで協力してくれるとありがたいのだが……」

芹沢「了解です」

目暮「係が違うのに、すまんな」

芹沢「いえいえ。こないだは、こっちが聞き込みに協力してもらいましたからね」

伊丹「チッ……」

ワイワイガヤガヤ

右京・甲斐「「………………」」

甲斐「杉下さん……」コソ…

右京「おそらく、松本管理官の一件も彼らの仕業でしょう」ヒソヒソ

甲斐「俺達は昼から休みだし、工藤君と連絡を取って、策を練りますか?」

右京「ええ。その前に、腹ごしらえといきましょう」

甲斐「賛成です」

今回はここまでです
次回は三連休に更新予定です

細かいことが気になるから指摘するけど
芹沢の伊丹への呼び方が「伊丹さん」って不自然だよ
本編だと「伊丹先輩」って呼んでるんだが
パラレルだから「伊丹さん」なのか単に>>1が知らないだけなのかその辺ハッキリしてほしい
細かいことが(ry

>>317
芹沢の「伊丹さん」呼びはこちらの単純なミスです
ご指摘ありがとうございました。以後は気をつけますm(_ _)m


今夜はまだ次回up分の修正が済んでいないため
ご指摘に対するレスのみで失礼させて頂きます

――組織のアジト・射撃訓練場――

パシュッ!

キャンティ「チッ……狙いがズレちまった!」

コルン「今日、調子悪い……」ボソ

キャンティ「うるさいよ!!」ジロッ

ガコ…ウィィン

安室「何を言い合っている?」

キャンティ「……あんたには関係ない」

キャンティ「それより昨日の後処理、うまくいったのかい?」

安室「あぁ。容疑者の遺体発見までの筋書きを、少々変更しただけで済んだよ」ククッ

キャンティ「そうかい」フン

キャンティ「ま、あんたはジンみたいなミスはしないだろうと思ってるからねぇ」

安室「それは良かった。そこまで奴と一緒にされるのは、僕も迷惑だ」


パシュッ!!

コルン「次……キャンティの番」

キャンティ「バーボン。せっかく来たんだし、あんたもやるかい?」

安室「いや、僕は遠慮しておくよ。今日ここへ来たのは別件でね」

キャンティ「そうかい、残念だね」

コルン「次の作戦……いつ?」

キャンティ「あ、そうだよ。あの刑事達を殺るの、どうする?」

安室「それなんだが……奴らの隙を窺うためにも、時間をおいた方が良いと思ってな」

コルン「……俺、まだあいつを撃てない?」

安室「もう少しの我慢だ。辛抱してくれ」

キャンティ「……? 何だか楽しそうだね、あんた」

安室「あぁ。少々面白いことが分かったからな」

コルン「面白いこと……?」

キャンティ「何が分かったっていうんだい?」

安室「悪いが、まだ話せる段階じゃない」

キャンティ「勿体ぶらずに教えなよ。気になるじゃないか」

安室「確証が掴めていないものでね。今の状況では、向こうにシラを切られればそれまでだ」

キャンティ「フン……相変わらずだねぇ」

キャンティ「ま、いいよ。いずれ話してくれるんだろ?」

安室「あぁ、もちろん。それじゃ、僕はこれで」

ウィィン…ガコン

――組織のアジト・コンピュータールーム――

カタカタ…カタ…タン!

ベルモット(クールガイのデータは、このフォルダに入っていたはず……)

カチ

ベルモット(……データが消えてる!? そんなバカな!)

安室「お前が探しているデータなら、そこには無いぞ」

ベルモット「!!」ハッ

安室「今日はまた警視庁に潜入するはずじゃなかったのか?」

ベルモット「……その前に、確認しておきたいデータがあったのよ」

安室「工藤新一の死亡を確認したのは誰か――だろう?」

ベルモット「ええ。貴方も確認してるとは思ったけど、私も一応……」

安室「それなら僕に聞けばいいじゃないか。何故わざわざ自分の目で確認しに来た?」

ベルモット「……自分の目で見たことじゃないと信じられない。貴方にだって、そういうところはあるでしょ?」

安室「否定はしないさ。だが……これは何だ?」

バサッ

ベルモット「――――何なの、それ?」

安室「聞いているのは僕の方だ」ジャキッ

ベルモット「銃なんて向けないでくれる? 物騒だわ」

安室「お前がそれを言うとは、随分と滑稽だな」フン

安室「言わなくても分かっているだろうが、これは組織のパソコンの使用・閲覧履歴だ」

安室「このページの記録……お前にも覚えがあるだろう?」

ベルモット「…………」ギュッ

安室「この時間、このパソコンを使ったのは、ベルモット。お前だけだ」

安室「監視カメラの映像も確認済みだ。言い逃れは許さない」

安室「何の目的で、工藤新一のデータにフェイクを仕掛けた?」

ベルモット「……わざわざ貴方に言わなきゃならないことかしら?」

安室「――――あのデータを入力したのがシェリーだという事実は、お前にとって、かなり都合が悪いようだな」

ベルモット(やはり、あのぐらいのフェイクではごまかしきれなかったわね)

安室「そうまでして『工藤新一は死んだ』と思わせたいということは……やはり彼は生きているんだな?」

安室「それも、我々が思いも寄らなかったような形で……」

ベルモット「……その可能性もある、というだけの話よ」

安室「遺体が見つからなかった以上、工藤新一が生きている可能性が高いことはお前にも分かっていたはずだ」

安室「それに気付いた時点で、どうして上に報告しなかった?」

ベルモット「確かに、私がデータのことに気付いた時、あの坊やが生きている可能性は五分五分だったわ」

ベルモット「でも私なりに色々調べてみたけど、生存・死亡のどちらの確証も得られなかったのよ」

ベルモット「確証もないことを、不用意に口に出すものじゃないでしょ?」

安室「では、何故データにフェイクを?」

ベルモット「フェイクを仕掛けたのは、データを入れたのがシェリーだからじゃないわ」

ベルモット「工藤新一の自宅の調査に同行した研究員の一人に、私も目をかけているのがいてね」

ベルモット「中々あの坊やの死亡確認が取れなくて、焦ったその研究員が」

ベルモット「データの入力主を裏切り者のシェリーにしたんじゃないかと思ったのよ」

ベルモット「そうすれば、データが間違っていると分かっても、責任をシェリーになすりつけられるでしょ?」

安室「その研究員の名前は?」

ベルモット「だから、貴方にわざわざそこまで言う義理はないわよ」ムッ

安室「…………フン」チャッ

安室「まぁ良い。僕の推測とお前の言い分、どちらが正しいのかは、いずれ分かる」

ベルモット「……ところで、貴方の推測って?」

安室「言って良いのか? この部屋の会話は全て録音されているぞ」

ベルモット「!」

安室「あの方やジン達に聞かれることがあっても支障がないというなら、遠慮無く話すが?」

ベルモット「――――やめておくわ。『推測』ってことは、まだ確証が掴めてないんでしょ?」

ベルモット「そんな不確かな情報、今聞いたって仕方ないもの」

安室「……そういうことにしておいてやる。今はな」

ベルモット「バーボン。私を疑うより、杉下右京抹殺計画を練り直した方が良いんじゃなくて?」

安室「それなら既に考えてある。ジンも了承済みだ」

ベルモット「……私は聞いてないわよ」

安室「お前には今から話す。キャンティやコルンにもだ。後で射撃訓練場へ来い」

ベルモット(……ダメだわ。やはりバーボンは、私に疑いの目を向けたまま……)

ベルモット(この状態では、下手に動けない。クールガイの悪運の強さを信じるしかないわね)

量が少なめになってしまいましたが、今回はここまでです
次回は水曜か木曜に更新予定です
三月中には何とか完結できると思います

――放課後・阿笠博士の家――

有希子「今日はダージリンにしてみたわ。特命係のお二人もどうぞ♪」

右京「急に押しかけて来たというのに、すみませんねぇ」

コナン「いえ。俺も電話しようと思ってたところでしたから」

甲斐「FBIの人達は?」

コナン「もう少しで来ると思いますよ」

ピーンポーン

右京「おや。噂をすれば、いらしたようですね」

阿笠「はーい」


ガチャ

ジェイムズ「お邪魔します」

ジョディ「こんにちは、クールキッド。阿笠さん達も」

コナン「いらっしゃい、ジョディ先生」

ジェイムズ「……直接お会いするのは、初めてでしたね」

右京「初めまして。警視庁特命係の杉下右京です」

甲斐「甲斐亨です」

コナン「こっちの二人は、FBIのジェイムズ・ブラックさんと、ジョディ・スターリングさん」

ジェイムズ「よろしく」

甲斐「FBIの人達が日本にいる本当の理由は、一課も知らないんだったよね?」

コナン「ええ。目暮警部達には、『ジョディ先生が捜査中にミスを犯し、長期休暇を取らされ』」

コナン「『日本で傷心旅行中の彼女を心配して、仲間達が様子を見に来た』と説明してあります」

甲斐「……ちょっと無理のある言い訳のような気もするけど?」

灰原「そういえば、以前、高木刑事達にも突っ込まれてたわね」

コナン「そこは、まぁ……大目に見て下さい」ハハ…

甲斐「ま、仕方ないか」

右京「ところで、今後はどう動くつもりですか?」

コナン「……奴らがもう一度仕掛けてくるまで、そんなに間を空けるとは思っていません」

コナン「どんなに遅くても、一週間以内には何らかの動きがあるはずです」

甲斐「こっちからは何も仕掛けないの?」

コナン「下手に動けば、奴らに付け入る隙を与えるだけです」

甲斐「じゃあ、しばらくは様子見?」

コナン「いいえ。そこまで大人しくしてやるつもりもありませんから」ニッ

コナン「ジョディ先生。頼んどいた件、どうなった?」

ジョディ「一応コンタクトは取ってみたけど、タイミングが悪かったみたいで」

ジョディ「『かけ直す』って電話を切られちゃってね……」

ジョディ「今は、向こうからの連絡を待ってるところよ」

右京「……頼んでいた件とは?」

コナン「組織に潜入してる、カンパニーのNOCと繋ぎを取ってもらおうと思ってね」

甲斐「あぁ、昨日話してた……」

右京「水無怜奈さんですね?」

prrrr…prrrr…ピッ

ジョディ「はい」

水無『私よ。今朝はごめんなさいね』

ジョディ「いえ、気にしないで。……電話しても大丈夫なの?」

水無『ええ。何とか一人になれる時間を作れたから……』

コナン「ジョディ先生、スピーカーにしてくれる?」ヒソヒソ

ジョディ「分かったわ」

ピッ

ジョディ「特命係の暗殺に失敗した後、奴らに何か動きはあった?」

水無『詳しいことは分からないけど、バーボンがベルモットに妙な疑いを持っていてね』

ジョディ「妙な疑い?」

水無『以前、組織が暗殺した人物のリストのデータを、ベルモットがいじってたのが分かって』

水無『彼女がまた何か重要な情報を隠してるんじゃないかって、不審を抱いている様子だったわ』

水無『そのおかげで私からマークが外れ、こうして連絡を取ることができているわけだけど』

ジョディ「他に、何か分かったことは?」

水無『今度、ベルツリータワー周辺にオープンする地下街の下に、組織のアジトがあるの』

水無『私も一度行ったきりだから、内部の詳しい情報までは分からないけど』

水無『組織が新開発した毒薬の研究施設もあるわ』

コナン・灰原「「!!」」

ジョディ「毒薬……?」

水無『ええ。組織が長年進めていた、極秘プロジェクトに関わるものだそうよ』

水無『ドアの隙間から覗いた時に見えたのは、A・P・T・Xに4869というラベルがついたファイルだったわ』

水無『読み方までは分からなかったけどね……』

コナン(――――APTX4869!)

ジョディ「ベルツリータワー周辺といっても、どの辺りの地下街なの?」

水無『……!』ハッ

水無『ごめんなさい、また連絡するわ』プツッ

ツー…ツー…

ジェイムズ「――――誰かに見つかりかけたか」

ジェイムズ「しかし、かなり有力な情報は得られたな」

ジョディ「ええ……早速、アジトの位置を確認しないと」

甲斐「地下街の更に下にアジトを構えるなんて、大胆っていうか何ていうか……」

右京「後ろめたいことがあると、人は他人の目を避けようとするものですからねぇ」

右京「多くの人が集まる地下街周辺に、犯罪組織のアジトがあるなどとは中々考えません」

コナン「それに、アジトに出入りする工作員も」

コナン「地下街を訪れる客や店員、荷物を搬入する運送業者を装えば、誰も不審に思わない……」

甲斐「奴らが潜むには、うってつけってことか……」

ジェイムズ「ジョディ、集められるだけ人を集めるぞ」

ジョディ「ラジャー。キャメル達に連絡を取ってきます」

右京「では揃い次第、作戦会議といきましょうか」

コナン「ですね」

ジェイムズ「ところで……今回の件、君達はどう見る?」

コナン「ボク達も組織の詳しい内情までは分からないけど、何か揉めているのは確かだね」

ジェイムズ「ベルモットか……彼女の動きも読みづらいところはあるが」

右京「しかし……これが罠である可能性も考えなければなりません」

コナン「ええ。水無さんから連絡があったタイミングが良すぎます」

コナン「俺が杉下警部やFBIと接触するのを待っていたかのようでしたから」

コナン「しかも、あの薬の情報をこっちに伝えさせるなんて……」

有希子「コナンちゃん……」

コナン「んな顔すんなって。ここまではこっちも計算通りだ」

コナン「母さんは昴さんを呼んできてくれ。あの人にもやってもらいたいことがあるし」

有希子「……分かったわ。でもコナンちゃん」

コナン「ん?」

ギュウ…

有希子「あんまり無茶しすぎないでね……?」

コナン「母さん……」

灰原「それに関しては、私も同意見よ」

コナン「何だよ、オメーまで……」

灰原「だって貴方に死なれたら、貴重なデータが取れなくなっちゃうもの」プイッ

コナン「……オイ」

甲斐「素直じゃないんだね、灰原さん」クスクス

右京「俗に言う、ツンデレというものですか」フフッ

コナン「いや……どの辺がデレなのか、俺にはよく分からないんですけど」

有希子「哀ちゃんもコナンちゃんが心配でたまらないのよ」

コナン「何だよ、そんなに信用ねーか?」

有希子「信用してたって、心配なものは心配なの」

ジェイムズ「…………そうか、分かった」

ピッ

ジェイムズ「あと三十分程でこちらは全員揃うよ」

コナン「分かった。母さん、早く昴さんを」

有希子「はいはい」スタスタ

パタン…

コナン「……さぁて、この賭けが吉と出るか、凶と出るか」

甲斐「よく言うよ。失敗するなんて、微塵も考えてないだろ?」

コナン「あ、分かります?」

甲斐「表情で丸わかりだよ」クス

右京「ですが……その前向きさが、今の君には、何よりも必要なものですよ」

甲斐「俺達特命係も、諦めは悪い方だからね」

甲斐「凶と出たら吉に変えてみせるぐらいの気概で行かないと、やられちまうって」

コナン「ええ……そうですね」

ガチャ

有希子「コナンちゃん、連れてきたわよ」

昴「こんにちは」

ブロロォ…キキィ! バタン!

ジェイムズ「……随分と早いが、ウチのメンバーも着いたようだ」

甲斐「ホントですね。三十分どころか、五分で来ましたよ?」

コナン「――――じゃあ、早速始めようか」ニコッ

また少なめになってしまいましたが、今回はここまでです
次回は土曜日に更新予定です。次でラストまで一気に行きます

予定より大幅に更新が遅れて申し訳ないです
更新は31日の夜にずらします、本当にすみませんm(_ _)m

――組織のアジト――

工作員A『FBIの捜査員が、阿笠の家に入りました』

安室「分かった。引き続き監視を続けてくれ」

工作員A『了解』

ピッ

水無「……あれで良かったんでしょ?」

安室「あぁ。仕込みは十分だ」チャキッ

水無「銃なんて出さなくても、妙なことは言わないわよ。ベルモットじゃあるまいし」

安室「念のためだ」

水無「でも考えたわね、バーボン。私にわざとFBIと連絡を取らせるなんて」

安室「昨夜、僕達の作戦が失敗したことを受けて、こちらの内情を知るために」

安室「お前にも何らかのアプローチをしてくるだろうと踏んでいたからな」

安室「今朝のFBIからの電話は、むしろ遅かったぐらいだ」

水無「それにしても……何なの? この狭い部屋」

水無「しかも貴方という見張り付きなんて、悪趣味だわ」フゥ

水無「あの方のご命令通り、赤井を始末したっていうのに……いつまで私を疑うのかしら?」

安室「お前を奪回した時、あまりにも上手く行き過ぎたと思ったのはジンだけじゃない。僕も同じさ」

安室「お前が赤井を始末したと聞いた時、不信感を消し去るどころか、逆に強める結果になった」

安室「赤井は、お前に自分を殺させることで、お前が組織で動きやすくなるようにしたんじゃないかとな」

安室「――――自ら命を絶った、お前の父親のように」

水無「!」ハッ

安室「案の定、お前もカンパニーの犬として再び組織に潜り込まされていたようだが……」

水無「言いがかりは止めてくれない?」

水無「私は実の父親を殺した、組織の二重スパイよ?」フフッ

水無「父のおかげでカンパニーにもすんなり入れたし、情報が得やすかったのは確かだわ」

水無「……でも、それだけよ」

安室「フン……そう言えば、シラを切り通せるとでも?」

安室「ベルモットも十分怪しいが、それに関してはお前も同等だ」

水無「その私に色んな情報をペラペラと喋らせるなんて、一体何を考えてるの?」

水無「特に、組織が新たに開発した薬のことは、極秘事項と聞いてるけど?」

安室「FBIの他にも釣りたい相手がいてね。ああ言えば、必ずやってくるだろう」フッ

水無「本当は薬の現物もデータも、ここに無いとは知らずに?」

安室「いや、それは本当にあるさ」

水無「え?」

安室「餌は上等な方が良いだろう?」クックック


カツ、カツ…カツン

安室「……分かっているとは思うが、お前も餌の一つだ」ニッ

安室「ここで大人しくしてるんだな」

キィィ…バタン!

水無(……バーボン達は、特命係もろともFBIを消すつもりだわ)

水無(でもあの子なら、きっと……これが罠だと気付いてくれるはず)

水無(あんな小さな子に期待するのはおかしいかもしれないけど、彼なら信じられる)

水無(頼んだわよ、コナン君――――)

――翌日・警視庁内・組織犯罪対策5課――

伊丹「どうしてもダメですか?」

角田「俺個人としては、昨日の殺しの件は手伝ってもらいたいんだけどな……」

伊丹「なら、俺達一課にも手伝わせて下さい!」

角田「でもよぉ、あのガイシャが俺らを襲った主犯格だったから、組対が動けって命令だったろ?」

角田「悪いけど、刑事部長に睨まれるのはゴメンだ。今回は諦めてくれ」

伊丹「課長!!」

ガチャ

中園「……やっぱりこっちだったか」

芹沢「あ……中園参事官」

中園「伊丹。今は堪えてくれ」

伊丹「参事官……!」

中園「今回の件は、私も釈然とはしておらん。しかし……」

伊丹「それなら尚更です! 何で刑事部長に物申してくれないんですか!!」グイッ

中園「い、伊丹、落ち着け! 苦し……っ」

芹沢「ちょっ……伊丹先輩! 参事官相手に何やってんすか!!」

角田「おいおい、ストップ、ストップ!」

――特命係――

甲斐「……伊丹さん、今日も大荒れですねー」

右京「一課からすれば、本来は自分達の担当である殺人事件を、他の課に回されるなど」

右京「到底納得いかないという気持ちなのでしょう」

甲斐「そりゃ分かりますけど……かと言って、真相を話したくても話せないですし」ムゥ…

右京「もうしばらくは我慢して頂くしかありませんねぇ」

米沢「どうも、こんにちは」

右京「おや、米沢さん。どうしました?」

米沢「昨日の殺人事件の鑑定結果を組対に届けに来たんですが」

米沢「伊丹さんがあの様子では渡すに渡せませんので。少し避難させて頂いてもよろしいですか?」

甲斐「どうぞどうぞ」

米沢「お邪魔します」

右京「先日のCDはまだ全部聴けていないので、もう少し借りておいてもよろしいでしょうか?」

米沢「あぁいえ、そちらは大丈夫ですので。じっくり堪能して下さい」

右京「すみませんねぇ」

米沢「ところで、先程の話がチラリと聞こえてしまったのですが……」

米沢「お二人が掴んだ真相とは、何なんですか?」

甲斐「あ……いや、それはちょっと……」

右京「残念ですが、今ここでお話しするわけにはいかないものですから」

米沢「そうですか……今回もまた、結構な危険が伴うようですなぁ」

甲斐「『結構』で済むかは分かりませんけどね……」ハハ…

米沢「――――何かお力になれることがあれば、いつでも言って下さい」

甲斐「その気持ちだけで十分ですよ」

右京「普段はこちらが力になって頂くばかりですからね。米沢さんには本当に感謝しています」

米沢「……何やら、いつものお二人らしくありませんね。別れの挨拶みたいじゃありませんか」

甲斐「場合によっては、そうなるかも…………」

米沢「は?」

右京「カイト君」

甲斐「あ……すみません」

角田「よぉ。米沢、こっちに来てるか?」

右京「ええ。伊丹さんはもう一課に戻ったのですか?」

角田「あいつなら、参事官と一課の奴らに引きずっていかれたよ」

角田「やっと静かになったぜ……」ハァ…

米沢「あ、課長。こちらが今回の鑑定結果です」

角田「おう、サンキュー」

大木「課長、ちょっといいですか?」

角田「あぁ、今行く。邪魔したな」スタスタ

米沢「……では、私もこれで失礼します」

右京「明後日ぐらいには、CDをお返しできると思いますので。その時に、また……」

米沢「――――お二人とも、お気を付けて」

甲斐「そんな心配そうな顔することないですって」

右京「ええ。こちらには、最強の切り札がありますからね」

米沢「警部がそう仰るからには、さぞかし心強い味方なんでしょうなぁ」フッ

右京「もちろん。日本警察の救世主と謳われる人ですから」

米沢「……そうでしたか。確かに“彼”が警部達の味方になれば、向かうところ敵無しでしょう」

右京「他言は無用に願いますよ」

米沢「心得てますとも。それでは……」

カツカツカツ…

右京「カイト君。悦子さんのことは?」

甲斐「今夜、国際線のフライトで日本を離れて、戻ってくるのは三日後ですから。心配ありませんよ」

右京「そうですか」

甲斐「幸子さんはどうしますか?」

右京「そちらも心配は無用です」フッ

右京「たまきさんに頼んで、オーストラリアに連れ出してもらいましたのでね」

甲斐「たまきさん……?」

右京「僕の元妻で、『花の里』の前の女将だった人です」

甲斐「え!?」ギョッ

甲斐(杉下さんって、バツイチだったのか……)

右京「グレートバリアリーフで十日程、ダイビングを楽しんでくると言っていましたから」

右京「少なくともその間は、彼女達が組織に狙われる恐れはないと思いますよ」

甲斐「ありゃ……今夜も『花の里』で食べようと思ってたのになぁ」

右京「明日の大仕事が終わって落ち着いたら、二人で行きましょう」

甲斐「…………はい」

――翌日・ベルツリータワー地下街入口前の路上・FBIのワゴン車内――

コナン「午後五時……か」

右京「そろそろ、ここに来る運送業者が、地下街の店舗への搬入を始める頃ですね」

甲斐「それに紛れて、工作員が出入りしたり、薬の研究に必要なものを運び入れたりしているわけか」

ジョディ「……コナン君、本当に貴方も行くの?」

コナン「もちろん。子供のボクがアジトの中をうろつくのは、確かに危険だけど」

コナン「例の薬のデータを、絶対手に入れなきゃいけないからね」

ジェイムズ「……今回の作戦は、非常に厳しいものになる」

ジェイムズ「我々もどこまでサポートできるか分からないし、君を守りきれない可能性も高い」

ジェイムズ「それでも良いのかい?」

コナン「――――覚悟の上だよ」

ジェイムズ「分かった」

ジェイムズ「昨日の調べで見つけた入口の一つは、この写真の店の裏手だ。地図で言うとこの位置にある」

甲斐「一見すると、ごく普通の土産物屋ですね」

コナン「入口は、もう一つ見つけてあるって言ってたよね?」

ジョディ「こことは反対側の入口に程近い、ファストファッション店よ」

キャメル「そちらは工作員と思われる店員も多数いて、忍び込むのは難しいと判断したんだ」

コナン「……『こっちから入れ』って、誘い込まれてる感じだね」

右京「実際、その通りだと思いますよ」

ジェイムズ「だろうな」

コナン「おそらく、向こうの作戦を立案しているのはバーボンです」

コナン「ジンは一昨日の失敗もあって、あまり強くは出られないでしょうから」

ジェイムズ「ウオッカはジンのサポートに回るだろうし」

ジェイムズ「キャンティやコルンも、接近戦に持ち込めれば勝機はある」

右京「水無怜奈さんは、あの電話の後、アジト内部のどこかで監禁されている可能性が高いですね」

甲斐「この作戦で彼女を助け出さないと、殺されちまう……か」

右京「元人気アナウンサーを救い出すナイト役は、君にピッタリかも知れませんねぇ」フフッ

甲斐「……杉下さん、こんな時に茶化さないで下さいよ」

ジェイムズ「問題はベルモットだ。彼女の動きが、最大の不確定要素だな」

コナン「うん。ジンの奴も油断ならないし……一瞬の隙も見せられないね」

ジェイムズ「……怖くなったかい?」

コナン「ううん、全然。――――むしろ燃えてきたよ」

ジェイムズ「そうか……」フッ

ジェイムズ「全員、それぞれの役割は把握しているな?」

ジョディ・キャメル「「はい!」」

コナン「そっちは頼んだぜ、灰原。昴さんも」

灰原「……絶対、帰ってきなさいよ」

コナン「おう。そんじゃ、後でな!」

ガチャ…バタン!

灰原「江戸川君……」

昴「そんな顔をするな。彼なら大丈夫さ」フッ

灰原「…………ええ」

――同時刻・毛利探偵事務所内――

小五郎「お~い、蘭。メシ~」

蘭「お父さんたら。今、五時過ぎよ? 食事の用意をするには早いわ」

小五郎「へ……まだそんな時間なのか?」

蘭「お酒飲んで寝てばっかりだから、時間の感覚が狂っちゃうのよ。飲む量減らせば?」

小五郎「そっ、そういや、あのガキはどうした?」

蘭「もう……都合が悪くなると、すぐに話を逸らして」プンプン

蘭「コナン君なら、新一のお母さんが連れてったわ」

小五郎「有希ちゃんがぁ? 何でまた日本に?」

蘭「さぁ……新一のお父さんと喧嘩でもしたんじゃないの?」

小五郎「ふーん……んで、どこに行くって?」

蘭「久々にコナン君と一緒に遊びたいから、錦座で買い物してくるって言ってたわよ」

蘭「その後は、博士の家で新しいゲームをするから、向こうで泊まるって」

小五郎「ほー……ガキは気楽で良いよなぁ」

蘭「…………そうでもないかも」ポツリ

小五郎「あん? ……どうした、蘭。しけた顔しやがって」

蘭「え?」ハッ

蘭「な、何でもない」

蘭(何だろ……この感じ。胸の中がすごくモヤモヤしてる)

蘭(コナン君…………明日には、ちゃんと帰ってきてくれるよね?)

蘭(あいつみたいに、突然いなくなったりしないよね……?)

――地下街通路・アジト入り口前――

ジェイムズ「それでは、手筈通りに行くぞ」

ジョディ・キャメル「「ラジャー!」」

コナン「気をつけて」

ジョディ「コナン君こそ。杉下警部、甲斐刑事、彼を頼んだわよ」

甲斐「任せて下さい」

キィ…パタン

右京「……さて。こちらも行きましょうか」

コナン「ええ」ニッ

――組織のアジト・地下一階――

カツ、カツ、カツ…

ジョディ「!」ハッ

ジェイムズ「隠れろ」

カツ、カツ、カツ…カツン

安室「別に隠れなくても良いんじゃないか?」

安室「入口に仕掛けられた監視カメラに気付かないFBIでもないだろうに」

ジェイムズ「……フン。やはり、水無怜奈を囮に使った罠だったか」スッ

キャメル「ボス!」

安室「……日本に潜入しているチームのボス自ら出向くとは」

安室「こちらも相応の歓迎をしないといけないな」ジャキッ


ザザッ……チャキッ、ガチッ

ジェイムズ「……全部で十人といったところか。キャンティとコルンの姿が見えないな」

ジョディ「ボス、下がって下さい」ジャキン

ジェイムズ「ジョディ。あまり私を年寄り扱いしないでくれ」

ジョディ「……貴方のどこが年寄りですか」

パキュン!

ジョディ「く……っ!」ザッ

安室「さて……誰が最初にあの世行きになるかな?」ニィ…

――地下一階・通路――

コソ…

コナン「……大丈夫、誰もいません」

甲斐「初めて来た敵のアジトの裏道なんて、よく見つけられるね」

右京「地下街の構造から推測していたのでしょう? ここの設計図を熱心に眺めていましたし」

コナン「ええ、まぁ……でもそれは杉下警部も、でしょ?」

右京「もちろん。やはり君と組んで正解でしたよ」

コナン「そう言って頂けて光栄です」フフッ

甲斐「工藤君。中の様子を見て、薬のデータ入手と水無さん探しで二手に分かれるか」

甲斐「優先順位を決めて三人で行動するか、判断するって言ってたよね?」

コナン「こっちも内部の構造を完全に把握しきれていませんし」

コナン「どんな罠が仕掛けられているか分からない今の状況では、二手に分かれない方が良いでしょう」

甲斐「んじゃ、後者だね。どっちを先にする?」

右京「もちろん人命が最優先ですから、水無さんの捜索が先ですよ」

コナン「ええ。見張り付きの部屋に閉じ込められている可能性が高いと思います」

右京「脱走を防ぐなら、入口や非常口からは遠くにある部屋に閉じ込めるものですが」

右京「彼らにもそれが当てはまるかどうか……」

甲斐「けど、アテもなく中を歩き回って、敵と遭遇したら出たとこ勝負ってわけにもいかないでしょ?」


パァン! ズキュン!


コナン・右京・甲斐「「「!」」」

甲斐「……始まったみたいだね」

コナン「ええ。俺達も動きましょう」


カチャ…パタン

右京「地下一階は、この監視モニタールームが中心になっているようですねぇ」

コナン「……」ス…

パチン、パチン…カチャカチャ

甲斐「工藤君? 水無さんを探しに行かないの?」

コナン「その前に、昴さんがこっちのサポートをしやすくなるよう、ちょっと細工を……」

コナン「ここのパソコンは、地下二階のコンピューターとも繋がっているはずですからね」

甲斐「ふーん……?」

カチ…ウィィン

カタカタ…カタ…タン!

コナン「外部からのアクセスを……許可、と」

カチ

コナン「これで良し」ニッ

――FBIのワゴン車内――

灰原「来た!」

カタカタ…カタ…カタ…

灰原「……アクセスできたわ。これで組織のコンピューターにも侵入できる」

昴「第一段階はクリアしたようだね」

灰原「最近はケーブルを直接繋がなくても、無線LANやWi-Fiがどこでも使えるから」

灰原「例の奴も上手くいくはずよ」

昴「さて……向こうはどこまで応戦できるかな?」フフッ

――組織のアジト・地下一階――

キィン! パキュン!

工作員C「ぐぁっ!」

捜査官A「うっ!」

キャメル「大丈夫か!?」

捜査官A「かすっただけだ!」

カァン!

安室(さすがにしぶといな。あの頭数で、こちらの人数を半減させてしまうとは……)

安室(やはり赤井のいたチームだけはある)

工作員B『う……こ、こちらは動けるのがあと三人です。援護を……!』

安室「!」

安室(役立たず共め……)チッ

安室「こちらの援護に出られる人数は、何人残っている?」

工作員H『二人です』

安室「二人だと……!? 何故そんなに少ない?」

工作員H『ベルモット様からの指示で、調査や警視庁への潜入など、別の任務に人数を割いてまして』

安室「何? ……その指示、いつ受けた?」

工作員H『午後四時過ぎでしたが……ご存じありませんでしたか?』

工作員H『ベルモット様は、ご自分から話しておくから、と……』

安室「そんな話は一切聞いていない!」

安室(午後四時といえば、僕やジンも最後の作戦会議から少し席を外したタイミング……)

安室(ベルモットは直前になっての作戦変更も多い奴だから)

安室(ここの連中も、偽の指示に騙されたというわけか!)

安室「必要最小限の人数だけ残して、後はこちらに戻せ! すぐにだ!!」

工作員H『し、しかし、他の連中が向かった先は群馬方面でして。戻るにも一時間は掛かりますが』

安室「……!」

安室(ベルモットめ。表だって動いていないと思ったら、こんな搦め手を……!)ギリッ

安室(しかし、FBIはただでさえ少ない人数だというのに、敵の内部で二手に分かれるとは)

安室(随分と大胆な作戦だな……あのボスが考えたものか、それとも、“彼”が――――?)

チュイーン!

ジョディ「ボス、このままでは埒が明きません!」

ズキュン!

ジェイムズ「焦るな、ジョディ」パァン!

ジェイムズ「冷静さを失えば、奴らの思うつぼだ」

ジョディ「……イエッサー」ジャキッ



安室(これ以上人数が減れば、こちらが不利か……)

安室「キャンティ、コルン。こちらの援護に回ってくれ」

キャンティ『だーから、あたいらも最初から行くって言ったのにさぁ』

コルン『計算違い……』

安室「……雑魚が少々屈強すぎたようでな」

キャンティ『そうだね。余計なことしてた奴もいたみたいだし?』

ベルモット『人聞きの悪いこと言わないでよ。伝え忘れてただけじゃない』

キャンティ『あんたねぇ、それで済むと思ってんのかい!?』

安室「キャンティ、今は言い合っている場合じゃない」

安室「どうやら向こうは、強力なジョーカーを味方に付けているらしいぞ」

コルン『……ジョーカー?』

バキュン!

工作員D「ガッ……!」

ドサッ

安室(――これで僕を入れて、残り四人か)

安室「地下二階はジンとウオッカ、ベルモットがいれば十分だろう。急いでくれ」

キャンティ『へいへい……この貸し、高く付くよ?』

安室「分かったから、早くしろ」

キャンティ『……ま、いいや。こないだは暴れ足りなかったからね。行くよ、コルン』

コルン『おう……』

安室「……キールの監視には、一人だけ残れ。もう一人はコルンの援護を」

工作員H『了解。……お前はここを頼む』

工作員G『あぁ』

プツッ

――地下二階・コンピュータールーム――

ガチャ

ジン「状況はどうだ?」

ウオッカ「FBIのチームが二手に分かれて、こっちと銃撃戦の真っ最中です」

ジン「……バーボンの奴、何をやってやがる」

ベルモット「キャンティが加わっても、かなり手こずってるみたいね」

ウオッカ「もう一ヶ所の方は、コルンが一人でFBI四人の相手をしてますぜ」

ジン「ここのアジトの奴らは、どうも使えねーな……」

ベルモット「仕方ないんじゃない? ここは情報収集・分析目的で作られた、関東最大のアジト……」

ベルモット「潜入や調査を専門としてる工作員がほとんどで」

ベルモット「貴方達や私みたいに、実行部隊の経験がある者は少ないんだから」

ジン「チッ……じれったいったらありゃしねぇ」

ウオッカ「兄貴、俺達も行きますかい?」

ジン「いや、お前はここにいろ」

ベルモット「あら。本丸の登場ってわけ?」

ジン「俺はそんなご大層なもんじゃねーよ。邪魔なハエ共を蹴散らしにいくだけだ」

ベルモット「……行ってらっしゃい」

ジン「ベルモット。俺がいないからって妙な真似しやがったら」

ジン「その脳天に容赦なく風穴を開けてやるから覚えとけ」

ベルモット「そんなことするわけないでしょ。それより、早く行ってあげなさいよ」

ベルモット「コルンが一人で頑張ってて、可哀想だわ」

ジン「フン……」

キィィ…パタン

ベルモット「バーボンとキャンティも相手に傷を負わせてるだけで、人数を減らせてないわね」

ウオッカ「やはり侮れねーな……」

ウィィン……ピッ、ピッ

ウオッカ「……な、何だ!?」カタカタ

ベルモット「どうしたの?」

ウオッカ「外部からのハッキングだ! 一体誰が……!!」カタカタ…カチ

ベルモット「!」ハッ

ベルモット(まさか……!?)

ピッ、ピッ…

――FBIのワゴン車内――

カタカタ……カタ…カタカタ

灰原「今のところは順調?」

昴「あぁ。あとは、これに向こうが引っかかってくれれば……」クス





――地下二階・コンピュータールーム――

カタカタ…カチ、カチ…カタカタ…

ウオッカ「そっちはどうだ?」

工作員E「ダメです。向こうの侵入が速すぎて、ブロックが追いつきません!」

工作員F「こっちもです!」

ウオッカ「くそっ……」

ジン『ウオッカ、どうした?』

ウオッカ「何者かが、外部から組織のコンピューターにハッキングしてます!」

ジン『……何?』

安室『どういうことだ?』

ベルモット「そんなの、こっちが聞きたいわよ。今は話しかけないで」カタカタ

ベルモット「気になるなら、さっさとFBIの子猫ちゃん達を片付けて、戻ってきてちょうだい」

安室『……分かった』

――地下一階・通路――

安室(ハッキングだと……? 外部から組織のコンピューターにはアクセスできないはず)ハッ

安室(…………まさか!?)

パキュン!

安室「チッ!」

安室(“彼”の姿が見えないとは思っていたが――――そういうことか!!)





――地下二階・コンピュータールーム――

工作員E「うわ……何だ、これ?」

ウオッカ「どうした!?」

工作員E「ウ、ウィルスです! しかもこれは……!!」

ウオッカ「ナ……ナイトバロン!?」

工作員F「ダメです! こっちはフリーズしました!」

ベルモット「メインへの侵入は、何としても防いで! ここのデータが吹っ飛んだら大変よ!」

ウオッカ「おい。例の薬のデータは、別のアジトにも保存してあるんだろ?」

ベルモット「ええ。でも、ここに入ってるデータが最新のものなの」

ベルモット「だから何としてもメインは死守しないと……!」

ウオッカ「……くそっ!」

――地下一階・通路――

コナン(……あそこだな、水無さんの監禁場所は)

右京「見張りは一人だけのようですねぇ」

甲斐「あの見張り、どうする?」ヒソ…

コナン「近くまで行けば、時計型麻酔銃で眠ってもらえるんですけど」

右京「では、正攻法でいきましょうか」

コナン「真っ正面からですか?」

右京「それが一番手っ取り早いでしょう。……というわけで、頼みますよ。カイト君」

甲斐「えぇ!? 何で俺が!」

工作員G「誰だ!!」

コナン・右京・甲斐「「「!」」」

工作員G「……隠れてないで、出てこい」

カツ、カツ、カツ…

コナン・右京・甲斐「「「…………」」」

…カツ、カツ、カツン

工作員G「そこか!」ジャキッ

プス

工作員G「ふにゃ……」

ドサッ

甲斐「……すみません、大声出しちゃって」

右京「いえ。作戦が上手くいって何よりです」

甲斐「あれ、作戦だったんですか?」

コナン「二人とも。今の内に、水無さんを」

甲斐「あ……そうだったね」


カチャ…

甲斐「中から銃弾が飛んでくる気配は無し……と」

コナン「水無さん?」

水無「……コナン君、来てくれたのね」

コナン・右京・甲斐「「「!」」」ハッ

水無「下に置いてある箱に触っちゃダメよ。これ、全部爆弾だから」

右京「――――見たところ、作り自体は簡単ですねぇ」

コナン「ええ。数が多いので、解体に少し時間が掛かりますが」

水無・甲斐「「え?」」

右京「カイト君。見張りを頼めますか?」

甲斐「そりゃ良いですけど。くど……いや、コナン君、爆弾処理の仕方なんてどこで……?」

コナン「探偵として役に立ちそうな知識や技術は、あの道楽親父から教わってるんです」

甲斐(世界的な推理小説家を、道楽親父って……)

コナン「まず、手前のコレからいきましょうか」カチャカチャ…カパ

右京「では、僕は蓋を外していきますから。ドライバーをお借りしますよ」

コナン「どうぞ」

カチャカチャ…パチン、パチン…


~30分経過~

コナン「こいつでラスト……と」パチン!

コナン「はい、終了。水無さん、もう動いても大丈夫だよ」

水無「凄いのね、コナン君……」

甲斐「ホントにね……爆弾一個を解体するの、五分もかかってなかったし」

コナン「それじゃ、次だ。水無さん、薬のデータがどこにあるか分かる?」

水無「NOCじゃないかと疑われたままの私には、そこまで教えてくれなかったわ」

水無「でも、あるとすれば地下二階よ」

水無「そこに新薬の実験室と、都内のアジトで一番大きなコンピュータールームがあるはずだから」

右京「薬のデータも、そのコンピューターの中に保存されている可能性が高いでしょうね」

甲斐「……んじゃ、行きますか」

コナン「ええ」

水無「一応道案内はするけど、奴らに読まれている可能性が高いわよ?」

コナン「だとしても、奴らがこっちの対応に割ける人数は限られてるはずだよ」

水無「え?」

コナン「バーボン、キャンティ、コルンはFBIとの銃撃戦の真っ最中みたいだし」

コナン「残った奴らも、昴さん達のハッキングをブロックするのに必死だろうからね」

甲斐「ジンって奴は、どっちにいると思う?」

水無「たぶん『埒が明きそうにない』とか言って、銃撃戦に加わってると思うわ」

水無「一昨日の失敗で大分イライラしてたから、鬱憤を晴らしたいでしょうしね」

コナン「そう……なら、ボク達だけで地下二階へ行っても、大丈夫そうだね」

甲斐「俺達、FBIの加勢に行かなくていいの?」

右京「何のために、彼らが我々を別行動にしてくれたと思ってるんですか」

右京「我々の最大の目的は、水無さんの救出、薬の現物とデータの入手、そしてこのアジトの壊滅です」

コナン「目的の二つを達した今、残りの一つに全力を傾けないと……奴らには勝てませんよ」

甲斐「え、ちょっと待った。……二つ? まだ水無さんを助け出しただけなのに?」

右京「ええ。ここに潜入する前、一課と組対にもアジトの場所を連絡しておきましたから」

甲斐「……はいぃ?」

コナン「『先日、組対を狙った奴らの残党が潜伏しているアジトを見つけた』」

コナン「『かなりの規模なので、人数と装備を揃えて、くれぐれも相手に気取られないように来てくれ』って」

コナン「杉下警部と、“工藤新一”の名前を使って……ね」

コナン「だから、あと一時間以内には来ると思いますよ?」

甲斐「まぁ……嘘は言ってないけど」

コナン「それに、人質として監禁されている人物がいる上、特命係も内部に潜入しているとなれば」

コナン「組対や機動隊が突入する理由もできますしね」

甲斐「……はぁ」

コナン「カイトさん?」

甲斐「何つーか……コナン君って、使えるものはとことん使う主義なんだね」

コナン「今頃気付いたんですか?」ニコッ

甲斐「………………」ヒク…

――地下一階・通路――

パキュン! キィン!

キャンティ「チッ……たったあれだけの人数なのに、しつこいったら!」

ズギューン!

キャンティ「せっかく二手に分かれてたのを合流させて、まとめて始末しようと思ったのに」

キャンティ「あっちは二人動けなくなっただけかい!」

コルン「……今日、外しすぎ」

キャンティ「うるさい!」

パァン!

安室「無駄口を叩いている暇があったら、さっさと撃て!」

ドギュン!

安室「ウオッカ、そっちはどうだ!」

ウオッカ『ウィルスのメインシステムへの侵入を防ぐので精一杯だ!』

ウオッカ『兄貴やお前らを助けてる暇はねぇ!』

安室「くそ……っ!」

ベルモット『メインがやられるのも時間の問題ね。薬のデータだけでも、持ち出してくるわ』

安室「!」ハッ

ウオッカ『お……おい、ベルモット!』

ジン「構うな、ウオッカ」

ウオッカ『兄貴……』

ジン「俺が行く。お前はメインシステムを守ってろ」

ウオッカ『へ…へい』

安室「待て! 僕も行く」

ジン「……好きにしろ。止めやしねーよ」フン

キャンティ「ちょっと待ちな! せめてもう一人片付けてから行っておくれよ!!」

ジン「――――仕方ねぇな。バーボン、テメェが先に行け」

安室「分かった」タタッ

――地下二階・実験室前――

水無「……OK。誰もいないわ」

コナン「こんな大事なところに、見張りも付けないなんて……」

右京「これも何かの罠でしょうかねぇ?」

甲斐「そんだけ向こうも余裕ないってことじゃないの?」

コナン「……だと良いんですけど」

水無「ここのドアは、コードネーム持ちの幹部のカードキーで開くわ」

ピッ…プシュー

甲斐「よし……それじゃ、行こうか」

右京「いえ。君と水無さんは、ここで待機していて下さい」

甲斐「へ?」

コナン「データを入手するまでの間、中で何があるか分かりませんからね」

コナン「万が一の時は、カイトさんが彼女を連れて地上へ逃げて下さい」

甲斐「でも、それじゃ工藤君と杉下さんが……」

コナン「大丈夫。俺達も、そうやすやすと死んでやるつもりなんてありませんから」

甲斐「…………分かった。二人とも、気を付けて」

右京「そちらこそ」

コナン「それじゃ、また後で」

タタッ





――FBIのワゴン車内――

灰原「……データの転送、まだなの?」ソワソワ

昴「落ち着け。君が焦って動けば、全てが台無しになりかねない」

灰原「――――分かってるわよ」フイ

――組織のアジト・地下二階――

ベルモット(こっちの薬剤保管庫から、実験室へ回れるはず……)

カチャ…

ベルモット「!」ハッ



右京「ありましたよ。未使用のAPTX4869です」

コナン「この二つのピルケースに、分けて入れて下さい」

コナン「俺と杉下警部で、それぞれ一つずつケースを持ちましょう」

右京「分かりました。そちらの方は?」

コナン「順調です。水無さんのIDでログインできました」カチ…カチ…カタカタ

右京「やはりここのパソコンの中に、例の薬のデータがあるようですねぇ」

コナン「ええ。でもこいつだけ、パスワードでロックが掛かってて……」カタカタ

コナン「あ。これ……」

右京「どうしました?」


カチ……パッ

コナン「このファイル……組織の構成員のデータみたいですね」

右京「このアジトを中心に活動する、工作員のものでしょうか?」

ベルモット「その通りよ」

コナン・右京「「!」」

コナン「ベルモット……!」

コナン「何をしに……ってのは愚問か」

ベルモット「ええ」ジャキッ

コナン(麻酔銃は使っちまった。ボールはバウンドでパソコンを壊す恐れもあるから出せねーし)

コナン(さて……どうするか)

右京「…………」ジリ…

ズギュン!

コナン「くっ!」バッ

カァン!

右京「おっと!」


……カツ、カツ、カツ、カツン

安室「さっさと撃ち殺せばいいものを。何をグズグズやっている?」

ベルモット「あら。私も今来たところなんだけど?」

安室「声など掛けずに、引き金を引くだけで良かっただろうと言ってるんだ」ジャキン

ベルモット「この状況で、私に銃を向けてる暇あるの?」

安室「……杉下は銃は使わない主義だ。“彼”も手元に武器はない」

安室「やはり君も来てくれたね。江戸川コナン君」

安室「いや…………工藤新一君、と言った方が良いかな?」

ベルモット「!」ハッ

コナン「どっちでも好きに呼べばいいだろ?」フン

安室「驚かないんだね。僕が君の正体を知っていても」

コナン「伊豆での一件以来、あんたが俺を疑ってるのは分かってたからな」

コナン「いずれは感づかれると思ってたよ」

安室「なるほど……さすがは平成のシャーロック・ホームズだ」

右京「警察の我々が調べられることは、貴方方、組織のメンバーであれば掴める情報……」

右京「そこから、我々と同じ結論――――『江戸川コナン=工藤新一』に辿り着いたのでしょう?」

安室「そうだ」

安室「工藤君の生存を組織が今まで掴めなかったことに、何か作為的なものを感じてね」

安室「内部で怪しい動きをしている連中を、徹底的に洗い出してみたんだ」

右京「それで水無さんと彼女をマークして、ご自身でも様々な調査を行い」

右京「彼の正体を掴んだというわけですか」

安室「まぁね」フッ

安室「しかし、こちらも予想外だったよ。まさかAPTX4869に幼児化の副作用があるとはね」

コナン「けど、俺以外にその副作用が現れた奴はいねーんだろ?」

ベルモット「ええ。あの薬を投与された人物は、貴方以外の全員の死亡が確認されているから」

コナン(……ベルモットの奴。やはり、消したことになってる灰原の件は伏せたか)

安室「本来であれば、君も特命係やFBIもろとも抹殺の対象になるんだが……」

安室「幼児化という副作用に、あの方はとても興味を抱いていてね」

ベルモット「え……?」

安室「『工藤新一の幼児化が事実であれば、生け捕りにして連れ帰れ』との仰せだ」

ベルモット「――――この子のこと、ボスに話したの?」

安室「あぁ。まだジン達には言っていないがな」

安室「ボスは『シェリーの後を引き継いだ研究員達に、彼のことを詳しく調べさせたい』と乗り気だったよ」

ベルモット「!!」

コナン「生け捕り、ねぇ……アイリッシュと同じこと言いやがって」

安室「ほぉ。ではあの時、東都タワーで戦闘ヘリを撃墜したのは君だったのかい?」

コナン「あぁ。おかげで東京のド真ん中だってのに、バンジージャンプするハメになったがな」

安室「……本当に面白いねぇ、君は」クックック

コナン「あいにくと、俺は簡単に捕まってやるつもりはねーぞ?」

安室「そう来ると思った。でも、大丈夫だよ」ニコ

安室「――――『五体満足で連れて行く』とは、一言も言っていないからね」ジャキッ

コナン「!」

パァン!

安室「……ぐぁっ」ドサッ

コナン「え……?」


カラカラ…

安室「ベルモット、貴様……っ!」

ベルモット「ごめんなさいね、バーボン。この子は貴方に渡せないわ」


ドギュン! チュイン!

安室「がは……っ!」

コナン「……お、おい!」

ベルモット「大丈夫、急所は外してあるわ。動けないようにしただけ」

コナン「そういう問題かよ!」タタッ

コナン「おい、バーボン! しっかりしろ!!」

安室「う……」

右京「工藤君、応急手当は僕が。君はデータの方を」

コナン「でも……」

右京「彼女に我々を攻撃する意志は見受けられません。今の内に」

コナン「――――分かりました。バーボンを頼みます」タタッ

ベルモット「甘いのね、相変わらず」

コナン「何とでも言え。失われる命が少ないに越したことはねーだろ」フン


カタカタ…カタ…カチ

コナン(まずは、工作員のデータを転送して……と)

ピッ…ピッ…

コナン「後は……こいつだ!」



カタカタ

『 APTX4869 』


ピッ


『 PASSWORD :       』

コナン「俺達の邪魔はしなくても、ここのパスワードまで教えるつもりはねーんだろ?」

ベルモット「ええ。……と言うより、私も知らないから教えようがない……」ハッ

パァン!

ベルモット「く……っ」ザッ


ジャキッ

ジン「どういうつもりだ、ベルモット」

コナン(ジン……!)

ジン「ここの連中に妙な指示を出してた辺りから、おかしいとは思っていたが」

ジン「……まさかバーボンを撃つとはな」

ベルモット「あら、彼を心配してるの? いつもはあんなに仲が悪いのに」クス

ジン「質問に答えろ」

チラ

ジン「……お前がこんな行動に出たのは、そのガキのせいか?」

コナン「!」

ベルモット「そうじゃないって言っても……貴方は信じてくれないでしょ!?」バッ

ドギュン! カァン!

ジン「チッ……!」

ベルモット「何してるの!? 早くデータを!」

コナン「え……?」

ベルモット「貴方をここで死なせるわけにはいかないのよ……」

ズギュン! チュイーン!

ベルモット「――――貴方は私が長年待ち望んだ、シルバーブレットなんだから」

パァン!!

ベルモット「その机の陰に隠れて! そこなら、ジンからは死角になるわ!」

コナン「わ……分かった!」バッ

コナン(この小型PC、使えそうだな。上のケーブルを繋いで、と……)カチャカチャ

コナン(よし、これなら大丈夫そうだ)

カタカタ…カタ、カチ

――実験室前――

パァン! ズギュン!

水無「!」

甲斐「銃声……?」

水無「しまった、薬剤保管庫の方から回り込まれたんだわ!」

ピッ……ピピーッ!!

水無「ダメだわ。中からロックされてる」

甲斐「くそっ……杉下さん!」

――実験室内――

安室「……まさか、敵に助けられるとはな」

右京「あまり喋らない方が良いですよ。急所は外しているとはいえ、結構な出血量です」

コナン「……ダメだ。こいつも違う」カタカタ

右京「では、『ライヘンバッハ』はどうでしょう?」

カタカタ…ピピッ



『 Incorrect Password(パスワードが違います) 』



コナン「チッ……」

安室「……ぼ、僕に聞こうとしても無駄だぞ」

安室「そこのパスワードは、薬の研究に携わる者にしか教えられていない」

安室「ベルモットの言う通り、僕達も知らないんだ」

コナン「安心しろ。半死人を尋問するような真似はしねーよ」カタカタ…カタ

安室「フン……」

安室(先日のベルモットの様子からすると、背後から殴り倒そうとはするだろうと思っていたが……)

安室(まさか、僕やジンにも容赦なく撃ってくるとはな)

安室(いずれにせよ、僕の読みが甘すぎたということか……)フッ


パキュン! キィン!

ジン「テメェもしぶといな、ベルモット」

ベルモット「あら、貴方ほどじゃないわよ!」

ズギュン!

ジン「テメェ一人ならともかく……ケガ人一人と丸腰二人、いつまで庇っていられるかな?」ニィッ

コナン・右京「「!」」

ベルモット「危ない!」

パァン!

ベルモット「……ぁっ!」ズザッ

コナン「ベルモット!」

ベルモット「大丈夫、腕をかすっただけよ」

ジン「フン……強がりは止すんだな。銃を上手く握れてないじゃねーか」ジャキッ

ベルモット「…………」キッ

――実験室前――

ガァン! ゴンッ!

甲斐「……ダメだ。パイプで叩いたぐらいじゃ、ビクともしない」

水無「私も銃は取り上げられているから、強行突破もできないし……どうすれば……」

…バタバタバタ

ジョディ「遅くなってごめんなさい!」

ジェイムズ「ケガはないかね?」

甲斐「皆さん、無事でしたか」

キャメル「何とかね。敵も含め、負傷者は地上へ向かわせました」

ジョディ「キャンティとコルンには手を焼いたけど」

ジョディ「ジンとバーボンが抜けてくれたおかげで、何とか撤退には追い込んだわ」

キャメル「ウオッカも昴さんのハッキングとウィルスに手を焼いて、こっちには来れないままでしたし」

ジェイムズ「……データの入手は?」

水無「それが……警部さんとコナン君が中に入った後、奴らにこのドアをロックされてしまって」

甲斐「加勢に入りたくても、入れないんです。中からは銃声も聞こえたんで、たぶん奴らの仲間が……」

ジョディ「二人とも、退いて。キャメル」

キャメル「はい」チャッ

ズギュン! ドギュン! キュイン!

バキッ!!

甲斐「……スゲー」


パァン!

ジョディ「わ……っ」

キャメル「今避けたタイミング、ギリギリセーフでしたね」

ジェイムズ「やはりまだ終わっていなかったか」


ドギュン!

ベルモット「クールガイ、まだ解除できないの!?」

コナン「そんなすぐになんてできるかよ!!」カタカタ

キュイーン!

ジョディ「ベルモットが、どうしてコナン君を……?」

ジェイムズ「……理由は後回しだ。彼がデータを手に入れるまで、全力でサポートするぞ」

ジョディ「ラジャー!」

ズギュン! パキュン!

ジン「チッ……キャンティもコルンもやられたか」

ジン「ウオッカ。そっちの状況は?」

ウオッカ『な、何とかメインだけはやられねぇように、死守してる状態です』

ジン「あぁ? まだやられずに済んでんのか?」

ウオッカ『へい』カタカタ…カタ…

ウオッカ『しかし、FBIが薬のデータを手に入れるつもりなら、何故ナイトバロンを……』

ウオッカ『下手すりゃ、データが全部消えちまうってのに』

ジン「…………ウオッカ。そこのまだ無事なデータ、全て本部の方に転送しとけ」

ウオッカ『は?』

ジン「早くしろ!」

ウオッカ『へ、へい!!』

ジン(本当にナイトバロンなら、とっくにメインのデータまで全て消えてるはずだ)

ジン(つまりあれは、ナイトバロンに良く似せた、別のコンピューターウィルス……)

ジン「なるほどな……」

ジン「そうやって俺達を慌てさせ、薬のデータを手に入れる時間を稼ごうってわけか」フン

コナン「!」

コナン(気付かれたか……)

コナン(でも、あのウィルスを完全に除去するまで、ウオッカもこちらには来れないはず)

コナン(そのために、わざわざ昴さんと博士に作ってもらった奴だからな)

コナン(とにかく、早いとこパスワードを突き止めねーと……)カタカタ

コナン(ホームズやポアロといった、世界中で知られている名探偵の名前でも、シェリングフォードでもない)

コナン(銃撃戦の合間に杉下警部が言ってくれたのも、全部違った……)

コナン(一体、何がパスワードになってるんだ!?)

コナン(ん? ……待てよ。そういや、前に灰原が……)


~回想・一週間前~

コナン『シルバーブレット?』

灰原『ええ。私の母が遺してくれたテープに入ってた言葉よ。母は、あの薬のことをそう呼んでいたわ』

灰原『薬を完成させるために、私と別れなければならない、とも言ってた』

コナン『シルバーブレット……銀の弾丸、ねぇ』

コナン『それって、狼男に致命傷を与えられるやつだろ?』

コナン『つまりあの薬は、組織そのものをぶっ壊しちまう可能性を秘めた薬ってことか?』

灰原『さぁね。少なくとも、私はそういう印象は持たなかったけど』

灰原『母も何を考えて、あの薬をそんな風に呼んだのかまでは分からないわよ』

コナン『ふーん……』

~回想終了~



ベルモット『――――貴方は私が長年待ち望んだ、シルバーブレットなんだから』



コナン(まさか……)





カタカタ

『 PASSWORD : SILVER BULLET 』ピッ



カチ


『 UNLOCKED(ロック解除) 』ピピッ



コナン「開いた……!」

――FBIのワゴン車内――

灰原「薬のデータは……まだ?」

昴「まだだ。工作員や関東各地のアジトについてのデータは、こっちにも送られてきたが」

灰原(――――何やってるのよ、工藤君……!)



ピッ…ピピッ

昴「……来たぞ」

灰原「!」

――実験室内――

ピッ…ピッ…

『 データ転送 : 88% 』


コナン(早く……!)


キィン! ズギュン!

ジョディ「杉下警部、バーボンを連れてこっちへ!」

右京「分かりました」

右京「……大丈夫ですか?」ヨイショ

安室「う……な、情けないな。仲間の裏切り行為すら阻止できないままとは」


ピッ…ピッ…

『 データ転送 : 93% 』


コナン(あと少し……!)


キィン! ドギュン!

コナン「く……っ!」バッ

右京「大丈夫ですか!?」

コナン「ええ。あ……パソコン!」

右京「何とか弾は直撃しなかったようですよ」


ピピッ


『  データ転送 : 完了  』


コナン「……よし、終わった!」

――FBIのワゴン車内――

ピッ

カタカタ…カタ…タン!

灰原「これで良いわ。データは全部保存できた」

灰原「後は薬の現物が手に入れば、解毒剤を作る時間も大幅に短縮できるけど……」

昴「では、ここを頼めるかい?」

灰原「え?」

昴「……久しぶりに、顔を見たい人がいてね」ニッ

――組織のアジト・地下二階・実験室内――

パキュン! カァン!

…バタバタバタ

ウオッカ「兄貴!」

ジン「……もういいのか?」

ウオッカ「言われた通り、残りのデータは本部に送りやした」

ジン「そうか。ご苦労だったな」



ベルモット「……!?」

ジョディ「ベルモット、伏せて!」ジャキッ

ドギュン! ズギュン! パァン!

ウオッカ「チッ……あの女、やっぱり裏切りやがったんですか」

ジン「構わねーさ。奴を始末する、良い理由ができた」ニッ

ジン「ところで、タイマーはセットできたんだろうな?」

ウオッカ「へい」

ピッ…ピッ…ピッ…

ウオッカ「――――あと七分です」

ジン「このアジトは捨てる。残りの奴らにも脱出させろ」

ウオッカ「了解!」





――地下街入口前の路上――

ブロロォ…キキィ! バタン! バン!

角田「全員、準備は良いな?」

大木・小松「「はい!」」

伊丹「俺達も行くぞ!」

芹沢「はい」

目暮「高木、佐藤は機動隊と向こうの入り口から回ってくれ」

高木・佐藤「「了解!」」

タタッ

――組織のアジト・地下二階・実験室前――

右京「……さぁ、こっちへ」

安室「ぐ……」

ジェイムズ「杉下警部。貴方のおかげで、重要な証人を殺されずに済みました。感謝しますよ」

安室「せ、せいぜい……僕の口を封じようとする連中に、気をつけるんだな」

右京「もう喋らないで下さい。傷に障りますよ」

ジェイムズ「拘束して、地上へ連れて行け」

ジョディ「はい」

右京「カイト君は?」

ジェイムズ「水無君やキャメルと共に、先に脱出させています」

右京「そうですか」

ジェイムズ「では、手筈通りに警察の誘導を頼みますよ」

右京「分かりました」

――実験室内――

パァン!

ベルモット「くっ!」

ベルモット(しまった、銃を弾かれた……!)

ジン「ここまでだな」フン

ジン「あの方には、お前の死に様をキッチリ報告しといてやるよ」

ベルモット「…………!」ギリッ

ジン「――――死ね」



ズギューン!!

ジン「ぐは……っ!」

ベルモット「!?」ハッ


…カツ、カツ、カツ…カツン

昴「そういうところは、相変わらずのようだな」ジャキン

昴「――――愛しい宿敵(こいびと)さん?」

ジン「…………テメェ、まさか」

ベリベリッ

赤井「久しぶりだな、ジン」

ジン「赤井秀一……!」

ジョディ「シュウ!?」

ジェイムズ「赤井君……」

ベルモット「…………生きていたのね」

赤井「あぁ。そこの坊やに、色々と協力してもらってな」

ベルモット「なるほど……有希子が変装を手伝ってたのね?」

コナン「そういうこと。母さんもノリノリだったぜ?」

ジン「チッ……」

ウオッカ「兄貴!」

ジン「ずらかるぞ。もうすぐサツも来るはずだ……!」チャキッ

ウオッカ「へい」ザッ

タタタ…

コナン「待て!」

赤井「今は深追いしない方が良い。こちらもケガ人が多すぎる」

ジェイムズ「そうだな。薬のデータも手に入ったし、撤収しよう」

ベルモット「……脱出するなら、早く行って」

ベルモット「ジンのことだから、ここの自爆スイッチを既にONにしてるはずよ」

コナン「言われなくても行くさ。だが、オメーにも一緒に来てもらうぜ」

ベルモット「残念だけど、そうはいかないわ」

コナン「何?」

ドォォン! ガラガラ…

コナン「……ベルモット!」

ガシャン!! パキッ…

ベルモット「私のことは良いから、行きなさい」

ベルモット「ここから脱出するルートは把握してるわ」

ベルモット「それに……貴方の帰りを待ってる人が、たくさんいるでしょう?」


バキバキ、ベキッ…カランカラン…

コナン「……ベルモット。オメー、何で俺を助けた?」

コナン「バーボンやジンに銃を向けた以上、裏切り者になっちまうことは分かってたはずだ」

コナン「なのに、何故……」

ベルモット「理由なんて必要なの?」

コナン「え?」

ベルモット「――――人が人を助けるのに、論理的な思考は存在しないんでしょ?」

コナン「……………………それって」

コナン(以前、俺と蘭がニューヨークで通り魔に遭遇した時に――――)

ベルモット「さ、早く。もう時間がないわ」

ドゴォン! バキバキ…グシャァ!!

コナン「わ……っ」

赤井「こっちへ!!」グイッ

コナン「赤井さん、離して! 瓦礫に囲まれたままじゃ、ベルモットが!!」

赤井「坊や。残念だが、時間切れだ」

コナン「……でも!」

赤井「心配するな。あの女は、あれぐらいで死ぬような相手じゃない」

赤井「脱出ルートは把握していると、本人も言ってただろう」

ジェイムズ「……火災もあちこちで発生しているようだな。二人とも、急げ!」

赤井「行くぞ、坊や!!」ダダッ

コナン「……くっ!」

タタタタ…





ベルモット(……良かった。これでクールガイを、エンジェルのところへ還してあげられる)

ベルモット(シェリーを葬り去れなかったのは残念だったけど、仕方ないわね)

ベルモット(彼女の頭脳がなければ、APTX4869の解毒剤は作れないんだし……)

ベルモット(こんな形で組織やボスとお別れすることになってしまったのは予想外だけど)

ベルモット(私にも、譲れないものがあるのよ。だから、ここで死ぬわけには……!)

ドガァァン! ゴオォォ…

――地下街通路――

角田「ん?」

小松「課長、どうしました?」

角田「いや……何か、地震みたいな揺れを感じなかったか?」

大木・小松「「え?」」


ゴゴゴゴゴ……


角田・大木・小松「「「……!?」」」

ドガァァン!

角田「うわっ!」

大木「課長!」

小松「危ない!!」

角田「み、店がいきなり爆発しやがった……」

伊丹「な……何がどうなってやがる?」

目暮「とにかく、一般市民を避難させるぞ! 芹沢君、消防へ連絡してくれ!」

芹沢「はい!」

――地下街西口・ファストファッション店前――

佐藤「工藤君が言ってた店は、ここね」

高木「ええ」

ダダダ……

高木・佐藤「「……ん?」」

高木「何でしょうね。防火扉の方から、足音がするような……」

バン!!

水無「抜けたわ!」

高木「えぇ!?」

佐藤「……防火扉の壁の奥が、通路に……?」

ダダッ

キャメル「ギリギリセーフですね」フゥ

甲斐「間に合った~!」ハァ…

水無「他の人達は?」

キャメル「負傷した捜査官は、先に抜けてますから。後は、ボス達が来れば……」


……バタバタバタ

ジョディ「フゥ、やっと追いついたわ」

ジェイムズ「……全員、無事のようだな」

キャメル「ボス!」

右京「さぁ、地上に辿り着きましたよ」

安室「う……っ」

佐藤「安室さん!? どうしたんですか、そのケガ!」

右京「すみませんが、救急車の手配をお願いします」

高木「分かりました」

右京「それと、地下の倉庫で爆発による火災が発生していますから、消防にも連絡を」

機動隊員A「了解」

ガヤガヤワイワイ……

赤井「やれやれ。幹部クラスで拘束できたのは、バーボンのみか」

ジェイムズ「仕方あるまい。目的のほとんどを達成しただけでも、良しとしよう」

コナン「赤井さん。転送した薬のデータは?」

赤井「茶髪の彼女が保存して、自分のUSBに移していたよ。戻り次第、解析を始めてもらうと良い」

コナン「分かった」

コナン(後は、この懐に入れてある現物を渡せば……)

赤井「これでようやく、君と彼女の枷を一つ外すことができるな」

コナン「――――うん」ニコッ

――三時間後・警視庁内・捜査一課――

蘭「有希子さんと買い物した後、阿笠博士の家で、ジョディ先生とゲームに夢中になってたら」

蘭「先生にFBIの仲間から呼び出しが掛かって、現場に向かう先生の車にこっそり忍び込んで」

蘭「あまつさえ現場までちゃっかり付いていって、そんなケガして帰ってきたってわけね?」ジト…

コナン「……う、うん……」ハハ…

蘭「もう! ジョディ先生のお仕事は、子供がホイホイ関わっていいものじゃないのよ!?」

蘭「コナン君が付いてったりしたら、FBIの人達が困っちゃうでしょ!」

蘭「腕の火傷も大したことないし、他もかすり傷だったから良かったけど……」

蘭「下手すると、死んじゃってたかもしれないんだよ……?」ウルウル

コナン「…………ごめんなさい」シュン

蘭「でも良かった……コナン君が無事に帰ってきてくれて」ギュウ

コナン「ら、蘭姉ちゃん?」ドキッ

蘭「それまで当たり前のように一緒にいたのに、突然会えなくなっちゃうなんて……もう嫌だから」

コナン(蘭……)

コナン「大丈夫だよ、そんな心配しなくても」

コナン(――――もうすぐ、本当の姿で帰ってきてやっからさ)

小五郎「ったく……毎度毎度、周りに迷惑ばっか掛けやがって」フン

小五郎「今度余計な真似しやがったら、承知しねーぞ?」

コナン「はぁい……」

右京「毛利さん。今夜はもう遅いですし、事情聴取の続きは明日ということで……」

小五郎「あ……どうも、すみませんでした」

高木「じゃあ、皆さん送っていきますので。下で待ってて下さい」

小五郎「蘭。帰り着くまでの間、そのガキ、しっかり捕まえとけよ」

蘭「……はいはい。コナン君、手、繋ごっか♪」

コナン「え……あ、うん」モジモジ


ギュ


右京「フフッ……」

蘭・小五郎「「?」」キョトン

右京「あぁいえ、失礼。非常に微笑ましい光景を目にしたものですから」

甲斐「……」クックック…

コナン「カイトさん、笑いすぎ……」ジト…

甲斐「ゴメンゴメン。それじゃ、また明日ね」

コナン「うん。さよなら」

カツカツカツ……


甲斐「これで終わり……ってわけじゃないんですよね?」

右京「ええ。むしろ、戦いは始まったばかりですよ」

右京「今後は我々も積極的に動いていくことになります。手伝ってくれますね?」

甲斐「もちろん。相棒ですからね」

――翌朝・警視庁内・特命係――

角田「しっかし、昨日はホントにビックリだったよ」

角田「情報提供してもらって、現場に踏み込もうとしたら、いきなりドカンだぜ?」

角田「間一髪で助かったけど、下手したら黒焦げだったかもしれねぇな~」コポコポ

右京「組対の皆さんも、ケガがなくて何よりです」

甲斐「一般人が何人か、爆発に巻き込まれたんでしたよね?」

角田「あぁ。地下街の中を歩いてた人達がな」

角田「今は現場検証と、FBIが取り押さえてた連中の取り調べをやってるよ」

角田「でもあいつらも、知らぬ存ぜぬの一点張りでさ」

角田「今のところ、銃刀法違反の他に、これといった罪状もないままだとよ」

角田「そうそう……安室とか言ったっけ?」

角田「あいつは重要参考人ってことで、監視付きの病室に押し込んでるそうだ」

甲斐「ま、当然ですね」

右京「ええ。彼は組織の幹部ですから、かなり重要な情報を聞き出せるはずです」

……バタバタバタ

小松「課長!!」

角田「どうした? そんなに慌てて」

大木「安室が病室から脱走しました!」

角田「何ぃ!?」

右京・甲斐「「!」」

角田「見張りの警官は何やってたんだよ! すぐに非常線を張れ!」

小松・大木「「はい!」」

角田「悪ぃけど、俺行くわ!」

右京「我々にも、手伝えることはありませんか?」

角田「そんじゃ、一緒に来てくれ!」

甲斐「はい!」

バタバタバタ…

甲斐「くそっ、せっかく奴らの尻尾を掴んだっていうのに!」

右京「おそらく、彼らの仲間が見張りの警官を気絶させて、幹部の安室さんを奪回したのでしょう」

甲斐「あ、そうだ。工藤君にも知らせないと……!」

ピッ、ピッ…prrrr…prrrr…

甲斐「工藤君!? 大変だ、実は――――!」

―― 一時間後・工藤邸・リビング――

服部『おいコラ、工藤ぉ! お前、俺に黙って何をやっとんねん!!』

コナン「オメーなぁ……こんな朝っぱらから、電話口で大声出してんじゃねーよ」

服部『阿笠のじいさんから聞かせてもろたで。例の薬のデータ、手に入ったんやて?』

コナン「あぁ。今、未使用の現物と一緒に、灰原が徹夜で分析してくれてるよ」

服部『そうか……良かったやないか』

コナン「まーな。これでようやく、二度目の小学生生活から抜け出せるぜ」

服部『ほんで? 組織の奴らのことは、どこまで捜査が進んでるんや?』

服部『新聞やTVも、ベルツリータワー周辺の地下街で爆発事故があったっちゅう報道ばっかりで』

服部『あそこが犯罪組織のアジトやったとは、一切表沙汰になってへんみたいやけど』

コナン「おそらく、奴らの隠蔽工作だろうな……俺もさっきカイトさんからの電話で聞いたんだが」

コナン「昨日の死傷者も、『爆発事故に地下街の店員達が巻き込まれた』ってことで」

コナン「強引に片付けられちまったそうだ」

コナン「それとバーボンの奴も、今朝、病院からいなくなったらしい」

コナン「たぶん、ジン達の指示で奪回されたんだろうな」

コナン「FBIも行方を追ってるけど、見つけるのは難しいと思うぜ」

服部『ベルモットとかいう奴は? お前のことを助けてくれたらしいて、じいさんも言うてたけど』

コナン「……赤井さんとジョディ先生の話だと、現場から奴の遺体は見つかってない」

コナン「だから生きてる可能性が高いだろうが……」

服部『けど、そいつ、お前を守るために仲間と撃ち合いしたんやろ?』

服部『もう組織には居られへんのと違うか?』

コナン「あぁ。今回の一件で、奴は警察だけじゃなく、組織にも追われる側になっちまった」

コナン「これから奴がどう動くつもりかは分からねーが……正直、構ってる余裕はねーよ」

服部『――――いよいよ、組織の本体を潰しに動くわけやな?』

コナン「おぅ。薬と一緒に、関東域内にいる構成員や他のアジトのデータも手に入ったからな」ニッ

コナン「特命係とも協力して、警視庁には国内のアジト潰しに動いてもらうよう誘導するつもりだ」

服部『本部がどこか、目星は付いてるんか?』

コナン「アメリカの都市にも、いくつか大きなアジトがあるみてーだから」

コナン「その中のどれかだろうとは思ってんだが……」

服部『それ以上は、向こうに行ってみーひんと分からへん……か』

コナン「そういうこと。……そんじゃ、そろそろ切るぞ」

コナン「バーボンの件も含め、今後の作戦について、FBIと打ち合わせがあるんだ」

服部『おう。元に戻れる目処が立ったら、絶対連絡せぇよ?』

コナン「わーってるって。サンキュな、服部」

ピッ

有希子「新ちゃん、コーヒー飲む?」

コナン「あぁ」

コポコポ…

有希子「はい、どうぞ」

コナン「おう」

キキィ…バタン!

コナン「?」

ガチャ

有希子「あら、優作」

優作「やれやれ。やっと編集のジェフを振り切って、日本に帰ってこれたよ」

コナン「遅ぇっつーの……」

優作「おや。結局、私の出番は無いままかい?」

有希子「残念ながら、ね」ウフ♪

コナン「……ったく」ハァ…

――三週間後・毛利探偵事務所前――

文代「長い間、この子を預かっていただいて、どうもありがとうございました」ペコ

小五郎「いえいえ。お子さんを預かるぐらい、この毛利小五郎にはお安い御用で♪」ハハハ

蘭「お父さんったら、もう……」ハァ…

歩美「…………コナン君」

元太「ホントに行っちまうのか?」

コナン「何だよ、オメーら。そんな弱気な顔して」

歩美「だって……」

光彦「コナン君が、急に転校することになるなんて……」

文代「ごめんなさいね。私のお仕事の都合で」

文代「でも、今度はママとずっと一緒だから。もう転校しなくて済むわ」

文代「向こうでも、頑張ってお勉強しましょうね♪」

コナン「うん!」ニコ

阿笠「文代さん。そろそろ行かんと、飛行機に間に合わなくなるぞい」

文代「ええ。それでは、失礼します」

小五郎「お気を付けて」

コナン「オメーら。俺がいなくなっても、探偵団は続けるんだろ?」

光彦「もちろんです!」

コナン「俺が言えた義理じゃねーかもしれねーけど、あんまり無茶しすぎんなよ?」

元太「おぅ……」

コナン「灰原にも、よろしく言っといてくれ」

歩美「……う、うん」グスッ

コナン「泣くなよ。一生会えなくなるわけじゃねーんだからさ」

歩美「ご、ごめんなさい……」ゴシゴシ

蘭「……コナン君」

ギュウゥ…

コナン「ら……蘭姉ちゃん?」

蘭「元気でね……?」

コナン「――――うん。蘭姉ちゃんやおじさんも、元気で……」

小五郎「……」ワシャワシャ

コナン「わ……おじさん。髪、ボサボサになっちゃうよ~」

文代「コナンちゃん。行きましょ」

コナン「はぁい」


バタン! …ウィィン

光彦「向こうで落ち着いたら、連絡下さいよ?」

コナン「あぁ」

歩美「手紙書くから、お返事ちょうだいね!」

コナン「……おう」

元太「絶対だぞ!」

阿笠「車を出すから、三人とも、少し下がってくれい」

歩美・光彦・元太「「「…………」」」ウルウルウル

コナン「――――ありがとな。歩美、光彦、元太」

コナン「さよなら、おじさん。蘭姉ちゃん……」

ブロロォ……

歩美「……コナン君!」ダダッ

元太「コナンー!!」

光彦「僕達のこと、忘れないで下さいねー!!」




蘭「……行っちゃったね」

小五郎「あぁ」

歩美「……ふぇ……え、うぅっ」グスングスン

光彦「……歩美ちゃん」グッ

元太「泣くなよ、歩美……」ウル…

歩美「ごめん……泣いてばかりじゃ、コナン君も安心して、お母さんと外国に行けないよね」グス……ゴシゴシ

小五郎「……お前ら、家まで送ってってやる。蘭、留守番頼んだぞ」

蘭「うん」


蘭(バイバイ……コナン君)

――阿笠博士の車内――

ブロロォ…

阿笠「三人とも、今頃は大泣きしておるかもしれんなぁ……」

有希子「お別れしなきゃいけないって分かってても、やっぱり寂しいわよねぇ……あの子達」

コナン「あぁ……」

???「結局泣かせたわね」

コナン「へ?」

ゴソゴソ…バサッ

コナン「……灰原。オメー、後部座席に隠れてたのか?」

灰原「…………」ジト…

コナン「何だよ、その目……」

灰原「ツインタワービルで、私、言ったわよね」

コナン「何を?」

灰原「――――『吉田さんを泣かせたら、許さない』って」

コナン「こればっかりは、しゃーねーだろ? 俺だって泣かせたくなかったっつーの」フン

コナン「それに、オメーだって元に戻るんだから……あいつらとお別れじゃねーか」

灰原「まぁね。でも、貴方みたいに唐突には消えないつもりよ」

コナン「……そっか」

有希子「哀ちゃん、寝てなくて大丈夫なの?」

有希子「薬のデータが手に入ってからこっち、二~三時間程度しか眠ってないんでしょ?」

灰原「平気よ。明日の朝までは、何があったって倒れないわ」

コナン「おいおい……俺が元に戻った途端、バタンキューなんてやめてくれよ? 心臓に悪ぃ」

灰原「心配ないわ。貴方が元に戻った後も、身体に異状がないか、綿密に検査させてもらうから」

コナン「それが終わるまでは、ってか?」

灰原「ええ」

阿笠「あんまり無茶をせんでくれよ?」

灰原「ご心配なく。検査が終われば、心置きなく休ませてもらうわ」

コナン「へいへい……」フゥ…

――午後九時・工藤邸・新一の部屋――

プス

灰原「……もう良いわよ。握ってた手を緩めて」

コナン「おぅ……」

灰原「注射は苦手?」フフッ

コナン「苦手じゃねーが、好きでもねーよ」

ピッ、ピッ…カタン

灰原「さっきも言ったけど、この解毒剤は、注射の効力が最大限に現れる時に服用しないとダメよ」

灰原「ここに置いたタイマーが鳴ったら、すぐに解毒剤を飲んで」

コナン「わーってるって」

灰原「それじゃ、日付が変わった頃に様子を見に来るわ」

灰原「何かあったら、このブザーで知らせてね」

コナン「あぁ。灰原……サンキュな」

灰原「……お礼なら、貴方が元の身体に戻ってからにしてちょうだい」プイ

コナン(相変わらず、素直じゃねーなぁ……)ハハ…

灰原「じゃ、後でね」

パタン

コナン(……とりあえず、服は脱いどかねーとな)ゴソゴソ


~20分経過~

ピピピピッ、ピピピピッ…

コナン「!」

ス…

コナン(やっと戻れるんだ……本当の身体に)

コナン(――――さよなら、“江戸川コナン”)

ゴク

コナン「…………」フゥ


ドクン!


コナン(来た……!)

…ドクン、ドクン

――三日後・成田空港・国際線ターミナル――

ガヤガヤワイワイ…



……カツ、カツ、カツ

右京「工藤君」

新一「あ……杉下警部。カイトさんも」

甲斐「……アメリカに行くんだね」

新一「ええ。FBIやCIAと協力して、奴らの総本山を叩き潰しにね」ニッ

新一「そちらの捜査はどうですか?」

新一「関東のアジトで潰せたのは、八ヶ所の内、二ヶ所だったと聞いてますけど」

右京「ええ。それも大した収穫は得られませんでしたが……」

右京「あの時、君がアジトや構成員の情報を持ち出したことが、彼らにとってかなりの痛手だったのは確かです」

甲斐「今は組対が中心になって、他の地域のアジト摘発に向けて、各都道府県警と協力してるとこだよ」

新一「そうですか……」

甲斐「そうそう。灰原さんは?」

新一「俺達とは別の便で渡米する予定ですよ」

新一「それと、今はもう『灰原哀』じゃなくて『宮野志保』ですからね」

甲斐「あー、そうだった。どうも『灰原さん』って呼ぶのに慣れちゃってて……」

新一「俺も未だに『灰原』って呼んじまう時があって、その度に怒られるんですよ」

甲斐「あ、やっぱ工藤君も?」

右京「ところで今回の渡米は、蘭さんには……?」

新一「一応伝えてあります。両親のワガママで、しばらく向こうに行くことになったからって」

右京「なるほど」フフッ

甲斐「破天荒なご両親がいると、そういう言い訳ができて良いよね~」ハハハ

有希子「新ちゃん、手続き終わったから行くわよ~。……あら」

優作「お久しぶりです、杉下警部。甲斐刑事も」

右京「どうも」ペコ

甲斐「こんにちは」

新一「それじゃ、俺もそろそろ……」

甲斐「うん。日本国内の方は、俺達が頑張るから。工藤君もしっかりな」

新一「頼みます」

右京「――――君は必ず生きて帰ってくると、信じていますよ」

新一「ええ」

――成田空港・展望デッキ――

ゴォォォォ…………





甲斐「行っちゃいましたね、工藤君」

右京「ええ。……では、戻って捜査を続けましょうか」

右京「工藤君が帰国した時、何の成果も挙げられなかったと報告するわけにはいきませんからね」

甲斐「はい!」

カツカツカツ…

――六週間後・東京都内(エピローグ)――

甲斐「う~、寒っ!」ブルブル

甲斐(結局、あの後も組織とのいたちごっこばかりだったな……)

甲斐(ま、国内の拠点を潰せてるだけ、まだマシか)

甲斐(もう七時過ぎ……)

甲斐(電器店の前で料理番組なんてチラ見するもんじゃないな。腹が減る一方だ)グゥゥ…

『……番組の途中ですが、ニュースをお伝えします』

甲斐「ん?」

――花の里――

右京「そうですか……今度は二人でパリに」

幸子「ええ。たまきさん、あちこち案内して下さるって仰ってましたよ」

幸子「でも、あんまり留守にすると右京さん達が困っちゃいますからね。早めに帰ってきます」

右京「そんなに急がなくても良いんですよ?」

幸子「そうですか? ……けど、私もここの仕事をしてないと、何だか調子が狂っちゃって」

幸子「早く戻りたくなっちゃうんですよね。海外にいると、尚更」フフッ

……バタバタバタ

右京「おやぁ?」

ガラッ!

幸子「あら、どうしたんですか? そんなに慌てて……」

甲斐「ハァ……ハァ…………これ、見て下さい」


ピッ

アナウンサー『今日午後三時過ぎ、成田空港に到着した飛行機の中で殺人事件が発生しました』

アナウンサー『トリックを見抜き、犯人逮捕に協力したのは、高校生探偵の工藤新一君です』

レポーター『こちらは、成田空港の到着ロビー前です』

レポーター『先程、警視庁による実況見分が終わり、逮捕された岡部竜一容疑者も千葉県警本部に移送されました』

レポーター『工藤君は現在、容疑者の取り調べに同席しているということで……』



幸子「えっ、嘘!? 工藤新一君!?」

右京「幸子さんも、彼をご存じで?」

幸子「もちろんですよ! ここ最近は音沙汰なかったから、どうしたのかなって思ってたんですけど」

幸子「また活躍し始めたんですね。やっぱカッコイイ~♪」

甲斐「幸子さん、すっげぇ浮かれてる……」

右京「まぁ良いじゃありませんか」フフッ

甲斐「……工藤君がマスコミの前に出てきたってことは……」

右京「ええ。彼の戦いも終わって、平穏を取り戻せたのでしょう」

右京「本体が潰れた以上、国内の拠点も総崩れになるはずです」

甲斐「……じゃあ、明日からまた忙しくなりますね」

右京「ええ」

幸子「ねぇねぇ。久々に工藤君を見られた記念に、三人で乾杯しましょ♪」

甲斐「へ?」

右京「良いですねぇ。是非、そうしましょう」

甲斐「――――ですね」


コポコポ…

幸子「はい、二人とも。どうぞ」

右京「工藤君が無事に戻ってきたお祝いと」

甲斐「彼が今後ますます活躍することを願って……」

幸子「乾杯♪」

カチン





【 完 】

以上で完結です
ここまでお付き合い下さいまして、本当にありがとうございました!


いくつか『相棒』本編と矛盾する点が出てきてしまい、
勉強不足で申し訳ありませんでしたm(_ _)m
HTML化までの間、感想など頂ければ幸いです

たくさんの温かいコメント、ありがとうございます。

今作は『相棒』キャラが『コナン』の世界に出張してきたような感じになったので、
機会があれば『コナン』キャラが『相棒』の世界に出張する感じの作品を書きたいと思っています。
ご指摘下さった方も居ましたように、今作後半での『相棒』キャラの活躍が今一つだったという反省もありますし、
亀山君、美和子さん、たまきさん、三浦さん、小野田官房長といった
登場させられなかった『相棒』キャラもたくさんいますので…。
(ただ、彼らを出すとなると今作の続編ではなく、全くパラレルの新作という形になりますが)

次回作は『コナン』の事件ものSSを構想中です。
四月中には書き上げて投下できればと思っていますので、興味のある方はご覧になって下さいませ。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年04月01日 (火) 12:07:52   ID: jCtADRaT

最高に面白かったです(^o^)
赤井さんが出てくる所、マジで鳥肌立ちました。
本編でも赤井さん、出てきてくれないかな〜

2 :  SS好きの774さん   2015年05月20日 (水) 21:01:05   ID: VvH_7WCD

コナン85巻を読んでみると衝撃の事実が

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