エルフ「婚期逃した」(188)
エルフ友「パンパカパーン!百歳のお誕生日おめでとー!」
エルフ「ありがとう」
エルフ友「いやーあんたも老けたわねー」
エルフ「余計なお世話よ」
エルフ友「これで彼氏いない歴がついに三ケタ突入だね」
エルフ「…覚えてなさい。あんただってあと二十年もすれば同じでしょうが」
エルフ友「八十年前に付き合ってた男のことなんて忘れたわ」
エルフ「あら?もう痴呆が始まったのかしら」
エルフ友「どうせあんたは私がこなければ一人寂しく誕生日を迎えてたんでしょ。感謝しなさい」
エルフ「はいはい」
エルフ友「十年前のあの子を引き取って自分好みに育てておけば今頃こんな哀れなことには…」
エルフ「ボケ老人の割にはよく覚えてるじゃない」
エルフ友「当り前よ。可愛い男の子は大好きだもの」
エルフ「あなたが言うと犯罪者じみてるわね」
エルフ友「それに王子様だなんて…玉の輿も狙えたかもしれないのにああもったいない」
エルフ「いい加減しつこいわよ」
エルフ友「あら、あなただって満更じゃないでしょうに」
エルフ「ノーコメント」
エルフ友「あの後一回も会ってないの?」
エルフ「そうよ、あっちはもう私のことなんか忘れているかもしれないわね」
エルフ友「こっちはいつまでも引きずっているというのに…あいたたたた!」
エルフ「しつこい」
エルフ友「…一国の王子何だしそう簡単に来れないんじゃないの?」
エルフ「十年も?」
エルフ友「うーんまあ色々とあるんじゃないの…?あんたから会いに行けばいいじゃない」
エルフ「行けるわけがないじゃない」
エルフ友「ふーん」
エルフ「別にいいのよ」
エルフ(…あの子のことだからきっと元気にやれているでしょうし)
エルフ「そういや今度帰省することになったの」
エルフ友「なんで?」
エルフ「…たまには顔を見せに来いって親から連絡があったの」
エルフ友「ふーん…きっとうだうだやってるあんたを見かねて縁談でも持ってきたんじゃないの?」
エルフ「お断りだわ。それにうちの両親はそんなことするタイプじゃないし」
エルフ友「あら残念ね」
エルフ「もう一生独りでもいいわよ」
エルフ友「負け惜しみ?」
エルフ「そうね」
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王子「さて…城を抜け出して来たもののどこへ行こうか」
王子「口うるさい警護のものはいないし普段はなかなか行けないところがいいが…」
王子「ん…あれは…」
商人「へへ…先日、偶然捕まえたものでして…」
商人「まだ幼いエルフですぜ。奴隷としては価値はないかもしれやせんが、あっちのほうでは十分だと思いますが」
貴族「ほう…エルフとは珍しい」
王子「いくらだ」
商人「へ?誰ですかあんた」
王子「客だ。それよりいくらかと聞いている」
貴族「…私のほうが先にきたのだが」
王子「ならばお前よりも金を払う。それでいいか」
商人「へっ、へえ。願ってもないことで」
王子(勢いでやってしまった…)
王子「…話せるか?」
ロリエルフ「…はい」
王子「そうか、先に言っておくけど僕は君を奴隷として買ったわけじゃないから」
ロリエルフ「…ひょっとして…ペットとしてですか?」
王子「違うよ、助けるためさ」
ロリエルフ「…え?」
王子「昔、君と同じ種族の人に世話になってね。その恩を返そうと思ってさ」
ロリエルフ「私たちに…?」
王子「もう十年も前の話だけど」
ロリエルフ「ありがとうございます…」
王子「別に構わないさ。お礼を言うべき人にはもう何年も会えてないし」
ロリエルフ「…そうなんですか?」
王子「うん、何度も行こうと思ったんだけどね。ただ君たちにに会いに行くってなったら両親に反対されてね」
王子「何度か抜け出してみたけど途中で捕まってしまって…そのうちあっちも忘れてしまったんじゃないかと思って行き辛くなったんだ」
ロリエルフ「…」
王子「会いに来てくれればうれしいんだけどそれは無理だと分かっているし」
ロリエルフ「…この国は私たちに対して風当たりが強いと聞いています」
王子「そうだね、昔の喧嘩をいつまでも引きずっている」
ロリエルフ「その人は…どんな人なんですか?」
王子「優しい人だよ。行き倒れてた僕を助けてくれた」
ロリエルフ「…」
王子「自らに危険が及ぶかもしれないのに僕をこの国まで送り届けようとしてくれた」
ロリエルフ「…そうなんですか」
王子「僕一人だったら恐らく死んでいたさ」
ロリエルフ「…また会えるといいですね」
王子「ああ…その前にやることが出来たけどね」
ロリエルフ「…?」
王子「今度は僕が受けた恩を返す番だよ」
王子「ええと…しばらくは僕の部屋に隠れてもらってていいかな?」
ロリエルフ「はい…けどまさかお城に住んでるんだなんて思っていませんでした」
王子「抜け出す算段が出来次第君を故郷に送り届けるから」
ロリエルフ「…ありがとうございます」
王子「ええと…確かここに…あった!」
ロリエルフ「…これは…服?」
王子「とりあえずそんなぼろぼろの格好じゃあ目立つし。僕のお下がりで悪いけどね」
ロリエルフ「何から何まですいません…ところで王子さん…」
王子「ん?」
ロリエルフ「王子さんは昔スカートを履いていたんですか?」
王子「…」
ロリエルフ「…すいません!世の中には色んな趣味を持つ人がいるんですよね」
王子「違うってば!それはあの人が買ってくれたものだからとっておいただけで!」
ロリエルフ「失礼なことを聞いてごめんなさい…!」
王子(完全に忘れてた…)
王子(エルフお姉さんが買ってきてくれた服が全部女物だって気付いたのはだいぶ後だったし…)
王子(てっきりスカートだけだと思ってたんだけどなあ…通りで途中まで誰にも気づかれなかったわけだ)
王子(…自分が助ける側に回るとは…何かの偶然だろうか?)
王子(あの時どんな気持ちで僕を助けてくれたんだろう…)
王子(…とりあえずどうやってここを抜け出すかを考えようか)
ロリエルフ「…おはようございます」
王子「おはよう、よく眠れた?」
ロリエルフ「はい…でも王子さんがソファで私がこんな大きなベッドで寝るなんて…」
王子「構わないよ。それに一緒のベッドなんて嫌だろ?」
ロリエルフ「王子さんは…危害を加えるような人には見えません…」
王子「僕だって過ちを犯すかもしれないさ。それに…ん?」
ロリエルフ「どうしました?」
王子「隠れて!」
ロリエルフ「はっ、はい!」
女「おはようございます」
王子「…おはよう」
女「朝食の時間になりましたのでお呼びに参りました」
王子「…そんな召使いのような真似はしないでいいよ」
女「ですが…」
王子「もう少ししたら行くから」
女「ではここでお待ちします」
王子「先に行ってて!」
女「…はい」
王子「もう大丈夫だよ」
ロリエルフ「はい…ところで今の方は?」
王子「簡単にいえば親が連れてきた嫁さん候補かな?」
ロリエルフ「綺麗な方ですね」
王子「お世辞はいいよ」
ロリエルフ「いえ…そんなわけじゃ…」
王子「僕の機嫌を損ねたくないんだろうけどね、まるで人形みたいな人だよ」
ロリエルフ「…」
王子「朝ごはんもらってくるから待ってて」
ロリエルフ「はい…」
ロリエルフ「大体このあたりです」
王子「なるほど…となると海を渡る必要があるな…」
ロリエルフ「あの…王子さんはこの国にとって大事な人だから私を送るなんて危険なことは…」
王子「君みたいな小さな女の子を一人で行かせるほうが危険だよ」
ロリエルフ「小さな女の子って…これでも二十は超えてます」
王子「うそっ!?」
ロリエルフ「本当です…!」
王子(本当に見た目と年齢が釣り合わない種族だな…彼女らからすればおかしいのは僕たちの方なんだろうか…)
王子「ともかく僕はもう決めたからさ」
ロリエルフ「…分かりました」
ロリエルフ「あの…王子さん」
王子「?」
ロリエルフ「やっぱり私だけがベッドだなんてダメです」
王子「けど君をソファに寝かせるわけにはいかないよ」
ロリエルフ「なら…その…一緒に…///」
王子「そっちのほうが余計に駄目だってば!」
ロリエルフ「私は構いません」
王子「うう…」
ロリエルフ「さあ、どうぞ」
王子「失礼します…」
ロリエルフ「ふふ、あったかあい…」
王子(…もはや二十歳児だな)
王子「ふあああ…」
ロリエルフ「すー…すー…」
王子(体型といい寝顔といい…さば読んでんじゃないのか?)
コンコン
王子「はっ、はい!」
女『起こしてしまいましたか?』
王子「なんだ…女か…起きてたから大丈夫だよ」
女『はい…お話がありますので部屋に入ってもよろしいですか?』
王子「ちょっ、ちょっと待って!」
王子(まずい…隠さないと!)
女「失礼します」
王子(とりあえず毛布をかけておいたが…起きないことを願うしか…)
王子「話って何かな?」
女「はい、実は先ほどお義父さまから『お前たちはいずれ夫婦になるのだから一緒の部屋に住めばいい』とのことで」
王子(あの糞親父め…!)
女「なので王子様にも確認をと」
王子「わっ、分かった…けど色々と準備もあるだろうしもう少し待ってもらえないかな?」
女「既に新しい部屋が用意してあるそうです。あとは王子様の荷物を搬入するだけです」
王子「なっ…」
女「朝食のあとにその作業を行いたいのですが」
ロリエルフ「んん…」
王子「わーっ!分かったから!分かったから早く朝食に行こう!」
女「…?」
ロリエルフ「ふああ…おはようございます…」
王子「ロリエルフ、今すぐ出発するから」
ロリエルフ「えっ!?いっ、いきなりじゃないですか?」
王子「僕の部屋で君を匿えなくなった。それに城に居たくない」
ロリエルフ「はあ…」
王子「準備はおそらく大丈夫だ。荷は最低限でいいしお金はなんとかなる」
ロリエルフ「ここを抜け出すことは出来るのですか?」
王子「…たぶん」
ロリエルフ「…」
エルフ「ただいま…あら?どうしたの二人とも死にそうな顔して」
エルフ父「おお…エルフか…実はな…」
エルフ母「あの子がいなくなったの!」
エルフ「いなくなった?まさかロリエルフが?」
エルフ母「ええ…この前町へ出かけた時にはぐれてしまって…」
エルフ「ちゃんと探したの?」
エルフ父「探したさ!あの子がいなくなってからずっと」
エルフ「やれやれ…」
エルフ母「もしかしたらもうあの子は…」
エルフ「馬鹿なこと言わないの、そのうちひょっこり帰ってくるかもしれないわ」
エルフ父「そうであればいいが…」
寝る
エルフ「大体どの辺りではぐれたの?」
エルフ父「すぐ近くの港だ」
エルフ「どのくらい前に?」
エルフ母「…ひと月」
エルフ「一カ月も!?どうしてすぐに連絡よこさなかったのよ!」
エルフ父「その…最初はすぐ帰ってくるかと思って…」
エルフ(この楽観的な考えはどこから…)
エルフ「まあいいわ…無駄かもしれないけど港まで行ってみる」
エルフ母「ひっ、一人で大丈夫なの?」
エルフ「あの子と違って私はもう大人よ。母さんたちはもし帰って来た時のために家にいて」
エルフ母「…分かったわ」
エルフ「…ったくあの馬鹿親が」
エルフ(無事だといいけど)
エルフ(それにしても…懐かしいわねここ)
エルフ(十年ぶりかしら…もう二度と船に乗りたくなかったからここにも来てなかったし)
エルフ(…私から会いに行けなかった理由の一つなんだけど)
エルフ(そんなことよりロリエルフを探さないと)
エルフ(一通り聞いてみたけど…)
エルフ(そりゃひと月も前に失踪した女の子のことなんて知ってる人いないわよね…)
エルフ(はあ…どこか捜索願いでもだせないかしら…)
ロリエルフ「…姉さん?」
エルフ(疲れてるのかしら…幻覚が見えるわ)
ロリエルフ「姉さんってば!」
エルフ「…ひょっとして本人?」
ロリエルフ「何と間違えてるんですか…」
エルフ「探したのてたのよ、心配したじゃない」
ロリエルフ「…ごめんなさい」
エルフ「色々と話したいこともあるけど…とりあえずうちに帰りましょう」
ロリエルフ「ちょっと待ってください、あっちで人を待たせるんです」
エルフ「誰を?」
ロリエルフ「私をここまで連れてきてくれた人です」
エルフ「へえ…優しい人もいるのね」
ロリエルフ「その人にお礼がしたいんですけど…家に招待しても大丈夫ですか?」
エルフ「むしろ私もお礼をしたいくらいだわ」
ロリエルフ「ならここで待っててください。すぐ連れてきますから」
ロリエルフ「王子さん!」
王子「どこ行ってたんだ!探したんだぞ」
ロリエルフ「ええと…ごめんなさい」
王子「心配かけさせないでくれ」
ロリエルフ「それよりもさっきそこで私のお姉さんに会ったんです」
王子「本当?それは良かった」
ロリエルフ「それで…王子さんにお礼がしたいので一緒に私の家まで来てくれませんか?」
王子「いや、遠慮しておくよ」
ロリエルフ「どうしてですか!?」
王子「せっかくの親子の再会に水を差したくないからね」
ロリエルフ「私は全然気にしません!」
王子「僕が気にするんだよ」
ロリエルフ「でも…せっかくここまで連れてきてもらったのに…」
王子「昔受けた恩を返すためだよ。なにもお礼が言われたくてした訳じゃない」
ロリエルフ「でも…でも…」
王子「大丈夫、きっとまた会えるから」
ロリエルフ「はい…」
王子「ええと…それじゃあ君の荷物を渡しておくから」
ロリエルフ「絶対…絶対会いに行きますから!」
王子「うん、楽しみにしてるよ」
ロリエルフ「…グスッ」
エルフ「…あら?どうしたの」
ロリエルフ「…なんでも…ヒック…ありません」
エルフ「そう、なら帰りましょうか」
エルフ(きっとうちに来ることを断ったんだろう。シャイな人なんだろうか)
ロリエルフ「ヒック…ヒック…」
エルフ(ちゃんとお礼がしたかったけれど本人の意思ならしょうがないわね)
エルフ父「本当に心配してたんだぞ…!」
エルフ母「良かった…本当に良かったわ…」
ロリエルフ「ごめんなさい…」
エルフ父「一体今までどこに行ってたんだ?」
ロリエルフ「ええと…悪い人に捕まって…それから親切な人に助けられて港まで送ってもらったの」
エルフ「それで、その親切な人ってどんな人なの?」
ロリエルフ「ええと、大きなお城に住んでて…凄く優しくて…あとかっこいい人…///」
エルフ「あら?ひょっとして惚れたの?」
エルフ母「いいわねえ、そういうの母さん好きだわ」
ロリエルフ「ちっ、違いますっ!その人にはちゃんと奥さんもいましたしっ!」
エルフ「あら、残念。あなたがいらないっていったら私がもらおうかと思ってたのに」
ロリエルフ「全く…姉さんってば…」
エルフ「羨ましいわねえ…私もそんな運命的な出会いをしてみたいもんだわ」
ロリエルフ「姉さん!だから違いますってば!」
エルフ母「そういやあんたまだ結婚しないの?」
エルフ「…嫌なこと聞かないでよ。下手をすればロリエルフに先を越される可能性もあるのに」
エルフ母「他のお姉ちゃんたちはみーんなお嫁に行ってるというのにねえ…どうしてあんただけ」
エルフ「何も言い返せないわ」
エルフ父「そんなどうでもいい話はさておきロリエルフが帰ってきたんだ。ごちそうでもしようか」
エルフ「どうでもいい話って…まあ、そうね。今するべき話ではないわね」
エルフ母「今から準備するから待って頂戴」
王子「さて…と」
王子「これからどうしようか…」
王子「今さら城に戻るのってのもなあ」
王子(せっかく海を越えたんだ。追手も来ないし…)
王子(エルフお姉さんに会いに行ってみようかな)
王子(…大丈夫だろうか)
王子(何年も会いに来なかった僕を…)
王子「行ってみないことには始まらないか」
女「…どこへですか?」
王子「…っ!…どうして君がここにいるんだ」
女「王子様が心配でしたので」
王子「…」
女「可愛らしいエルフの女の子ですね」
王子「…見てたのか」
女「現在、部下に彼女の後をつけさせております」
王子「…何が言いたい」
女「大人しくお帰りください」
王子「…分かった」
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