(^p^)「ぼくは ゆうしゃれす」 (178)

父親「いつもすまんな。こんな時、母さんが生きていてくれたらな」

(^p^)「それは いわない やくそくだよ おとおさん」

父親「お前だって今年で十六。遊びたい盛りだろうに」

(^p^)「だいくしごと たのしいれす」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1366547459

小さな村に、(^p^)は大工の父と暮らしていた。
母はとうの昔に亡くしていた。父はこの頃腰を痛め、半ば寝たきりになっていた。
(^p^)は畑を耕す傍ら、力仕事や、大工のまねごとをして日々の糧を得ていた。
子供一人の稼ぎである。楽な暮らしとはいえない。しかし(^p^)は不幸を感じなかった。
(^p^)に対し、村人たちの皆が皆優しかったというわけでは無論ない。
彼に石を投げる子供らがいる。若い男衆の腹いせで殴られもする。
女たちは聞こえよがしに嘲笑を浴びせ、老人たちは忌々しげに彼を睨む。
それでも(^p^)が自身の不幸を嘆いたことは一度もなかった。
彼は自分を愛してくれる人のいることを知っていた。
彼の父と、彼の幼馴染みの少女だけは、いついかなるときも彼に優しかった。
教会で神父に近況を尋ねられるたびに、彼はこう言ったそうである。

(^p^)「ぼくは しあわせれす」

貧しくとも、(^p^)は幸福であった。

(^p^)「おはよう ございます」

幼馴染み「あらおはよう! 素敵な朝ね! あんまり気持ちがいいものだから、つい早起きしちゃったわ!」

幼馴染み「なんだか空気がぽかぽかするし、春が近いのかしら? それにとっても良い天気だわ」

(^p^)「そらは くもりれす」

幼馴染み「そうだったかしら? まあいいわ。曇り空だって、よく見ればとっても綺麗ですもの!」

(^p^)「なにか よいことが あったのれすか」

幼馴染み「やっぱりそう見えちゃう? ええそうよ。そうでしょうとも! しょうがないからもう白状しちゃうわね!」

幼馴染み「今ね、わたしとっても幸せな気持ちなの!」

(^p^)「それは なぜれすか」

幼馴染み「ねえ、あなた誰かを好きになったことはある?」

(^p^)「ぼくは きみと おとおさんが すきれす」

幼馴染み「ううん。違う。違うわ。そういう『好き』じゃないの!」

幼馴染み「この気持ちあなたにもわかるかしら? いいえきっとわかるわ! そうよわかってほしいの!」

幼馴染み「胸がすっごく切なくて、締め付けられるように苦しいのだけれど、それでもとっても甘い気持ちなのよ!」

(^p^)「きみは こいを しているのれすか」

幼馴染み「あらまぁ! あなた恋がわかるの? おりこうさんね! あたし驚いちゃった! そうよ! その通りよ!」

(^p^)「こいを すると しあわせなのれすか」

幼馴染み「ええそうよ! 幸せなの!」

(^p^)「こいを すると さいこうれすか」

幼馴染み「最高です! 思わずそう叫んじゃうくらい最高なの!」

幼馴染み「見るものみんなが綺麗に見えるし。何でも出来そうな気になるの。あの人のためならあたし、魔王だってやっつけてみせるわ!」

(^p^)「それは すごい」

(^p^)「ところで だれに こいを したのれすか」

幼馴染み「お屋敷の貴族様よ! 彼があたしの愛しい人。あの人があたしを見初めてくれたの」

(^p^)「きぞくのおかた なのれすか」

幼馴染み「あら? 心配してくれるの? でも大丈夫よ。たしかに身分の違いはあるけれど、あの人が守ってくれるもの!」

幼馴染み「彼は純粋な人なの! それこそあなたと同じくらいね!」

幼馴染み「しんから誠実なものだから、結婚の約束だって、ちゃんと女神様に誓ってくれたのよ?」

(^p^)「よい おかた なのれすね」

幼馴染み「それにね、あなたにだけ教えてあげるけど……昨日の夜、何があったと思う?」

(^p^)「なにが あったのれすか」

幼馴染み「家族のみんなには内緒でね、取り持ちのお婆さんがこっそり私に言付けてくれたのよ」

幼馴染み「『明後日の夜、お屋敷に来るように』ですって!」

幼馴染み「色つきのウエディングドレスを仕立ててくれるそうよ。明後日が待ち遠しいわ!」

(^p^)「それは よかった」

幼馴染み「もう幸せすぎて死んじゃいそうよ! あなたにも分けてあげたいくらい!」

(^p^)「きみが しあわせなら ぼくも しあわせれす」

幼馴染み「まぁ! なんてこと言うの! あたしのやさしいおりこうさん!」ギュ

(^p^)「いきが くるしいれす」

幼馴染み「明日のあなたの誕生日にはとびっきりおいしいパイを焼くわね! あなた今日、とってもうれしいことを言ってくれたもの!」

(^p^)「どうも ありがとう」

幼馴染み「あなたにも女神様の祝福が訪れますように!」

その日の夜

??「……」ソソソ

(~p~)「z z z」

??「勇者よ、目覚——」

(゚p゚)「こんばんわ」パチッ

??「——なひゃぅ!?」ビクッ

(^p^)「あなた どなたれすか」

??「……おほん」

女神「私は女神です。勇者(^p^)よ」

(^p^)「いいえ ぼくは だいくのむすこれす」

女神「(^p^)よ。それは誤りです。あなたは紛れもなく勇者の血統に連なる者であり、先代勇者の正当なる後継者なのです」

(^p^)「おとおさんは だいくれす」

女神「それも誤りです。あなたの父は、先代の勇者なのです」

(^p^)「ゆうしゃは だいくも するのれすか」

女神「言い方を換えましょう。あなたのいう『おとおさん』は、あなたの本当の父親ではありません」

女神「先代勇者の胤を宿したあなたの母親が『おとおさん』と結婚し、そののちに、あなたが生まれたのです」

(^p^)「つまり ぼくは かっこー なのれすね」

女神「おりこうさんですね。しかし托卵にたとえるのはいかがなものかと思います」

(^p^)「ぼくは ゆうしゃに なるのれすか」

女神「これからなるのではありません。先ほど目覚めたその瞬間から既に、あなたは勇者なのです。勇者(^p^)よ」

女神「今ならば体のどこかに勇者の紋章が聖痕として現れているはず——なぜ服を脱ぐのですか」

(^p^)「もんしょうが ありました」

女神「服を着なさい」

(^p^)「おへその したに ありました」

女神「いいからそれらをしまいなさい」

(^p^)「もんしょうを しまいました」

女神「よろしい」

女神「では、あらためて神託を下しましょう」

数分後

女神「確認を始めなさい」

(^p^)「まず おしろへ いきます」

女神「ええ」

(^p^)「つぎに もんしょうを みせます」

女神「それで」

(^p^)「おおさまの ゆうことを ききます」

女神「最後は」

(^p^)「みんなで まおうを たおします」

女神「よろしい」

女神「今覚えたことは国王に会うまでゆめゆめ忘れてはなりませんよ。いいですか? 絶対に忘れてはなりませんよ?」

(^p^)「ところで ぼくは どこにゆけば よいのれすか」

女神「……」

一時間後

女神「ふぅ……」

女神「勇者(^p^)よ。あなたの前に私が現れるのは、これが最初で最後の機会となります」

女神「まだ何かわからないことはありますか」

(^p^)「おとおさんは かっこーを しってますか」

女神「知っています」

女神「かつてあなたの『おとおさん』は、あなたのお母さんに無償の愛を注ぎました」

女神「そして今は、同じくらいあなたを深く愛しているのです」

(^p^)「ぼくは おかあさんを しりません」

(^p^)「おかあさんは どこに いるのれすか」

女神「人間の言葉を借りるなら、天に召されたといえるでしょう」

(^p^)「それは てんごくの ことれすか」

女神「はい」

(^p^)「てんごくは あるのれすか」

女神「……はい」

(^p^)「おかあさんは しあわせれすか」

女神「天国の民は幸福です」

(^p^)「てんごくでは みんなが しあわせ なのれすか」

女神「はい」

(^p^)「もう しつもんは ありません」

翌朝

(^p^)「おとおさん おはなしが あります」

父親「おお、今日はお前の誕生日だったな。贈り物ならもうすこし待ってくれ」

(^p^)「ぼくは ゆうしゃで かっこーなのれす」

父親「……息子よ、また村の連中に妙なことを言われたのか」

(^p^)「めがみさまに あいました」

父親「よせ。冗談でも滅多なことを言うもんじゃない」

(^p^)「もんしょうを みせます」

ぽろん

父親「ほほう。しばらく見ぬうちに孫も立派に育ったものだ」

(^p^)「おとおさん ぼくは ゆうしゃなのれす」

父親「……」

父親「わかってるさ。お前がそんな嘘をつくような子供じゃないことくらい、親の俺が一番よくわかってる」

父親「嘘をついて誤魔化そうとしたのは俺だ。今も、今までもな」

父親「ベッドの下に木箱があるから出してくれ」

(^p^)「だしました」

箱の中には、旅用の服と短剣、それから一掴みの銀貨が入っていた。

父親「いつかこんな日が来るだろうとだいぶ前に行商から買ったんだ」

父親「すまないな、これくらいしか用意してやれなくて」

(^p^)「おとおさん どうも ありがとう」

父親「お前ってやつは……こんな嘘つきをまだ父と呼びやがるのか」

(^p^)「おとおさんは おとおさんれす」

ひとしきり嗚咽してから、父は言った。

父親「いいか? 村の連中にはお前が旅立つことや、お前が勇者だってことは絶対に教えるな。もちろん女神様のこともだ」

父親「ひとまず昼の間はいつも通りに過ごすんだ。お前と仲の良いあの娘にも、教えるんじゃないぞ」

父親「旅立つのは、真夜中だ。お前は誰にも見つからずに村を出なくちゃならん」

父親「それからそろそろそいつをしまえ。風邪ひくぞ」

(^p^)は父の言い付けを守った。
昼食時には幼馴染みの焼いたパイを囲み、彼と彼女と父親とで、たった三人のささやかな誕生会を催した。
誕生会はいつになく盛り上がり、父と幼馴染みの笑い声が家の外まで響くほどであった。
二人とも、それぞれ別な理由から饒舌になっていた。
そして、夜が来た。風邪は引かずに済んだ。

父親「仕上げるので遅れたがこいつは誕生祝いだ」

旅支度を終えた(^p^)の手に父は、小さな木彫りの女神像を握らせた。

父親「母さんをモデルに彫ったんだが本物の女神様に比べてどうだろう」

(^p^)「めがみさまより びじんれす」

父親「罰当たりなこったが、嬉しいよ」

父親「暮らしのほうは心配いらん。いくらか蓄えもある。この細工の腕でだって食っていける」

(^p^)「いままで どうも ありがとう」

父親「礼なんぞ言うな。たとえ血のつながりがなくたって、俺はお前の『おとおさん』だ」

(^p^)「おとおさん だいすきれす」

父親「そいつも将来の嫁さんに言ってやんな。親に告げる別れなんざ、普段と一緒で充分だ」

(^p^)「それでは おとおさん」

(^p^)「いってきます」

父親「行って来い。息子よ」

(^p^)は旅立った。

翌朝、城門前

(^p^)「おしろに きました」

門番A「なんだあいつ? こんな朝っぱらから」

門番B「おい止せ声をかけるな。あれの顔つきを見ろ」

門番A「見たところ教会施設から抜け出したというでもなさそうだが、しかし貴族の子弟にしては身なりが」

門番B「放し飼いで粗相していいよう粗末な格好ってこともあるさ。聖人サマにしろお坊ちゃまにしろ、俺らにとっちゃ面倒事にしかならんぞ」

門番B「っと、寄って来やがった」

(^p^)「ぼくは ゆうしゃれす」

門番A「兄ちゃん。勇者ごっこならよそでやんな」

門番B「おい馬鹿反応すんな」

(^p^)「もんしょうを みせます」

ぼろんっ

門番B「Oh...Utamaro」

門番A「こいつぁたしかに勇者級だぜ……!」

兵士長「おい貴様らさっきから誰と——」

(^p^)「これが ゆうしゃの あかしれす」ガオォォォン

兵士長「へ、変態だー! 引っ捕らえろ!」

門番AB「か、確保ー!」

(^p^)「うでが いたいれす」

兵士長「ええい露出狂め! この私になんてモノを見せつけてくれたのだ! くそっ! くそっ、畜生! なんて……!」

門番A「(やっぱ自信無くすよなぁ)」ヒソヒソ

門番B「(ほら。兵士長、アッチのほうは見習い兵士って噂だから)」ヒソヒソ

(^p^)「ぼくは ゆうしゃれす」

兵士長「だまれ! 私だって兵士長だ!」

王の間

国王「勇者を名乗る者が現れただと?」

大臣「はい。今朝方城門にておもむろに陰部を露出したところを門番らの手により捕縛したとのことで——」

国王「まて」

大臣「その場に居合わせた兵士長は『私は兵士長だ』などと意味不明な供述をしており——」

国王「まった」

大臣「はい」

国王「先ほどから陰部だの露出だの兵士長だのと、勇者というものにまるで関係の無い不穏当な単語が聞こえてくるが——」

国王「どうやらわしはまだ寝ぼけているらしいな」

大臣「すべて事実でございます」

大臣「視点を変えて申しますと」

大臣「勇者を名乗る者は己の下腹部にある紋章——勇者の印を見せんとした際に、勢い余って所謂男の印なるものをも露出してしまい、そのために変質者として捕らえられたのでございます」

国王「真贋についてはともかくも、そこで勢い余るような手合いが勇者を名乗ったと? その者はいったいどのような人物なのだ?」

大臣「ある教父の言を借りるのなら、『天上の民』ないし『心貧しき者』かと」

国王「抹香臭い物言いは好かん。率直に言え」

大臣「些か足りていないのでございます」

国王「ふむん」

国王「先代勇者の人柄といえばいかにも呪われたようなものであったが、息子の代でこうもあからさまになるとは」

国王「親の因果が子に報う、とまではいいとうないが」

大臣「お会いになられますか?」

国王「いや。牢で見るにしても人目がある。騙りならば我が恥だ。その者の真贋を確かめるのが先決だろう」

国王「占い師はいるか」

占い師「こちらに」

国王「勇者を名乗る者の聖痕が本物であるか確かめよ」

占い師「仰せのままに」

国王「その方法についてわしはあえて聞かぬことにする」

大臣「はて? どうも手違いがあったようですな」

占い師「はっ」



(^p^)の牢に、いかにも屈強そうな兵士たちを伴って占い師が入って来た。
兵たちは乱暴に(^p^)の服をはぎ取ると、その裸体を数人がかりで羽交い締めにした。

(^p^)「ぼくに なにを するのれすか」

兵士「何か噛ませますか?」

占い師「必要なかろう。顎は緩いようじゃからの」

兵士「悪く思うなよ。坊主」

(^p^)「ぼくは ゆうしゃれす」

占い師「それをこれから確かめるんじゃて」

言いながら占い師は、兵士に持たせた焼きごてを炎の魔法で熱していった。

占い師「手元を狂わせるでないぞ。種が入り用になるかもしれん。ようやっと見つけた跡継ぎじゃ」

兵士「悪いな。これも命令なんだ」

(^p^)の下腹の紋章に、兵士は焼きごてを押し当てた。

(^p^)「あついれす」

兵士「っ……!」

(^p^)「いたいれす」

兵士「——!」

(^p^)「やいた おにくの においれす」

兵士「占い師様!」

占い師「もうよい」

兵士が焼きごてを離すと、勇者の紋章のあった箇所はすっかり焼け爛れていた。

(^p^)「やけるように いたいれす」

兵士「早く治癒魔法を!」

占い師「わかっておる」

兵士「……すまない。本当にすまなかった」

占い師「これでも肉を削ぐよりか穏便なのじゃが。やれやれ、近頃の若者は脆いのう」

(^p^)「いたいのが きえました」

占い師「これが宮仕えの賢者の業よ。肌もすっかり元通り……と、痣も元通りのようじゃの」

(^p^)「けんじゃさま さすがれす」

占い師「どうやらお主は本当にあの男の——先代勇者の忘れ形見じゃったということか」

(^p^)「めがみさまも そういいました」

占い師「神託を受けたと? ふむ。ならば勇者殿、この老人にそのときのことを詳しく話してくれんかの?」

王の間

大臣「報告は以上になります」

王様「所詮は天国暮らしの言うことよ。神託など珍しくもないわ」

大臣「けれども謀る余地のない点に関してだけは、先代に似ず僥倖であったといえるでしょう」

大臣「占い師の言うことにもいちいち素直に受け答えたそうで、しまいにはあの不信心者をして天使のようだと言わしめたほどでございます」

国王「わしは勇者当人よりむしろその養父をこそ評価したいがな。おかげで欲深な村人どもに『勇者はわしが育てた』などとたかられずに済む」

国王「期待してるかはわからんが、勇者が国を出たらそやつに使いをやって口止めを握らしてやれ」

大臣「よろしいので? 欲に転ばぬとは限りませんよ」

国王「無闇にこちらから罪を犯すこともあるまい。どのみち哀れな男なのだ。城下に住まわせてやっても良いくらいだ」

大臣「哀れといえば、母親のほうもですな。あの村出身の小間使いが言うに、かつては聖女のような扱いであったと」

国王「先代勇者はあそこの貴族の先代と、放蕩者同士馬が合ったと聞く」

国王「あやつらのやったこと。子を成した経緯というのも、どうせろくでもないことだろうよ」

国王「現当主も親に似て健啖という評判だ。勇者の今後の功績いかんによっては、取りつぶしも考えねばなるまい」

大臣「それこそ皮算用というものでしょう」

翌日

国王「そなたが勇者か」

(^p^)「はい ゆうしゃれす」

国王「わが臣下がそなたに窮屈な思いをさせたと聞く。いくら手違いがあったとはいえ、すまなんだ」

(^p^)「おおさまは おきになさらず」

国王「おお、そうか。そなたがそう言うのでは、わしにはどうすることもできぬ」

大臣「勇者殿。感謝します」

国王「さて勇者よ。そなたの父——先代の勇者は、戦いの末、火山に落ちて亡くなったという」

国王「その父の後を継ぎ旅に出る。それがいかなる意味を持つか、そなたにはわかっているか」

(^p^)「よく わかりません」

国王「旅は過酷なものとなろう。昼夜を問わず襲い来る魔物と戦い、糧食が尽きれば、泥水を啜り、魔物の肉をも食まねばならぬ」

国王「他国へ行けば、体よく利用されるのみならず、国王その人に謀られることもあるやもしれぬ」

国王「見返りを求めるなとも、苦しみを厭うなとも、わしは言わん」

国王「しかし人びとは違う。人びとは——世界は、勇者に求め、強いるであろう」

国王「我らのために生き、我らのために戦い、我らのために死ね、と。勇者たるものかくあるべし、と」

国王「そう、勇者は万人の奴隷となることを……強いられているのだ」

国王「勇者になるとはそういうことだ」

国王「己が勇気のみを友とし、魔王を倒すというただ一つの目的のために、他の一切を諦める」

国王「その覚悟がそなたにあるか?」

(^p^)「あると おもいます」

国王「わかった。ならば王として命じよう」

国王「勇者よ。魔王を倒してまいれ!」

(^p^)「おおさまの ゆうことを ききます」

国王「では、また会おう。勇者よ」

城下町

付き添いの女兵士「では勇者様、まずは酒場で仲間を募りましょう」

(^p^)「よい なかまが ほしいれす」

酒場

色白の少年戦士「んほぉぉ、パコりてぇ! パコパコしてみてぇよぉ!」カクカクカク
雄めいた武闘家「そこな少年! わしと風呂に行こう、な! な!」グイグイ
派手な魔法使い「あーやっべさっきのキザ野郎出してやがった。垂れてきてっしマジ最悪だわ」フキフキ
目の濁った僧侶「おお神よ! 罪深き我らを許し給え……よーし許された!」グビグビ

(^p^)「ひどく おさけ くさいれす」

女兵士「……クズどもめ」

酔っ払い「んで、そのクズどもの掃き溜めに城勤めのお嬢ちゃんが何用だ?」ヒック

酔っ払い「俺の杖なら貸してやらんでもないぜ。へへっ。具合は保証してやんよ」

女兵士「旅の仲間を募りに来たのだが……この様子では見つかりそうにないな」

酔っ払い「お嬢ちゃんは公僕からクズに転職するのかい?」

女兵士「私ではない。このお方の仲間となる者を探しているのだ」

(^p^)「こんにちわ」

酔っ払い「……なるほど」

酔っ払い「社会実験か」

女兵士「勇者様である」

(^p^)「ぼくが ゆうしゃれす」

ぼろろんっ

女兵士「きゃっ」

酔っ払い「っ……」

色白の少年戦士「勇者……だと?」
雄めいた武闘家「んほっまるで天使だ!」
派手な魔法使い「うわキモっ」
目の濁った僧侶「……」グビグビ

女兵士「ゆ、勇者様お戯れを……」チラッチラッ

酔っ払い「坊主、それをしまうんだ」

(^p^)「もんしょうを しまいました」

酔っ払い「腹は冷えたか」

(^p^)「ひえて ません」

酔っ払い「お前はお前の親父を——先代の勇者を知っているのか」

(^p^)「ぼくは ゆうしゃで かっこーなのれす」

酔っ払い「……そうか」

女兵士「こ、これでわかったろう! この方こそが勇者様である!」

女兵士「冒険者たちよ! 我こそはという者は、前に出よ!」

色白の少年戦士「旅先……新たな出会い……喪失っ……!」
雄めいた武闘家「これは運命。わしはこの日、天使と出逢った」
派手な魔法使い「っしゃー! やっと運が向いてきたわ!」
目の濁った僧侶「……ジョッキが空だ」ゲップ

酔っ払い「ところで坊主。勇者の死因を知ってるか?」

(^p^)「しぬ げいいんの ことれすか」

女兵士「おい、突然何を言う」

酔っ払い「普通冒険者といえば魔物か疾病で野垂れ死ぬといわれている。だが勇者の場合はそうじゃない」

酔っ払い「勇者の死因の大多数は魔物でも疾病でも、もちろん老衰でもない」

酔っ払い「仲間さ」

酔っ払い「勇者ってのはたいていは仲間の裏切りによって命を落とす」

酔っ払い「次いで自殺と来るが、首吊りの足を引っ張るって意味じゃ、そいつも仲間による死因に数えていいかもしれねえな」

女兵士「貴様!」

酔っ払い「これは嘘でも冗談でもなく事実だ。勇者の伝記やら歴史やらを囓ったやつなら誰だって知っている」

酔っ払い「勇者の命は三十銀貨って諺があるくらいさ」

女兵士「ふん。誤用で貴様の程度が知れる。その諺は勇者様の高潔さを表したものだ」

(^p^)「どうゆう いみの ことばれすか」

女兵士「あっ、いえっ、私は決して勇者様のことを貶したつもりでは……」

酔っ払い「『たかが銀貨三十枚の謝礼でも勇者は命をかけてくれる』」

女兵士「わかっているではないか。そうとも。勇者様とは謝礼の大小で動くことのない、高潔な存在なのだ」

酔っ払い「このお嬢ちゃんのようなお利口さん向けにはこうなるが、へへっ、それとは別な解釈が二つある」

酔っ払い「『勇者のように有能で善良な者は妬みを買いやすく、たやすく裏切られてしまう』ってのが教養のない俺たち一般人向けの教訓さ」

酔っ払い「目の上の瘤ってのは逆に金を払ってでも売ってしまいたいものだ」

酔っ払い「相手の人格が善良であればなおのこと、けちのつけようのなさ自体が目障りで仕方ないってわけだな」

女兵士「そのような解釈で納得するのは、貴様のように性根の腐った連中だけだ」

(^p^)「もうひとつは なんれすか」

酔っ払い「商人向けの戒めさ」

酔っ払い「『いくら妬ましくても勇者を売って三十枚じゃ安すぎる。もっとふっかけるべきだ』」

女兵士「聞くに堪えんな」

酔っ払い「へへっ、だいぶ話がそれちまった」

酔っ払い「つまるところ歴代の勇者たちは、諺になるくらい頻繁に仲間に裏切られ売られて来たと、そう言ってやりたかったんだ」

酔っ払い「力ある勇者ってのは経験値の塊だからな。今も昔も命の買い手にゃ事欠かんだろうよ」

女兵士「いちいちくどい物言いをする」

酔っ払い「……と、そういや坊主とお嬢ちゃんはここに仲間を探しに来たんだったな」

(^p^)「ぼくは なかまが ほしいれす」

色白の少年戦士「おっと急に用事を思い出した」
雄めいた武闘家「兵士長の入浴時間か。さて征くか」
派手な魔法使い「そういや膜再生手術の依頼あったわー」
目の濁った僧侶「神よお許し下さい……おかわり!」

女兵士「貴様があのような話をするから!」

酔っ払い「へへっ、おい坊主。俺を仲間にしないか? 銀貨三十枚でいいぜ?」

女兵士「まだ言うか!」

(^p^)「これで たりますか」

女兵士「勇者様?」

酔っ払い「っと、三十枚ぴったりか。国王からの小遣いにしちゃ気が利いてる」

(^p^)「おとおさんに もらいました」

酔っ払い「……先代勇者か」

(^p^)「おとおさんは だいくれす」

酔っ払い「そうか……」

酔っ払い「銀貨三十枚、確かに受け取った。坊主、お前の仲間になってやる」

女兵士「酔っ払いがふざけるな! お金を返してあげなさい! このたかりめ!」

酔っ払い「人聞き悪い呼び名だな。俺は……そうだな、遊び人とでも名乗っておこうか」

女兵士「道化師を名乗れる知恵が、貴様のような輩にあるとでも」

遊び人(自称)「知恵はねえがちょっとした魔法くらいなら使えるぜ」

遊び人(自称)「なあ坊主。俺は役に立つぞ? 酒手をケチらん限りはな、へへっ」

(^p^)「あそびにんさん よろしくれす」

遊び人「よろしくな、勇者の坊主」

女兵士「なんということだ。上にどう報告すれば……」


酔っ払い、もとい、遊び人が仲間になった。

王の間

国王「まず雇い入れたのが酔っ払いか。あの先代でさえ第一の仲間は真っ当であったというのに」

大臣「たしか賢者でしたな。占い師の弟子の」

国王「歴代最強ともいわれた先代勇者の右腕として戦い抜き、数多の小魔王を討滅した傑物だ」

国王「先代とともに火口に消えたと聞くが、生きていたとすればその経験値からして寿命は二百を下るまい」

大臣「惜しいのは人物で?」

国王「当然よ。わしは現世よりか天国を信ずる。剣の王の有様など、あれは永遠の老いに他ならぬわ」

国王「ともあれ今は勇者のことだ。この分なら明日には夜鷹や犬猫を仲間にしかねん」

大臣「こんなこともあろうかと、適当な候補者を二人見繕ってあります」

国王「ほう」

修道院

女僧侶「あら、お絵かきしてるの?」

女性「ゆーしゃたまかいてりゅの! んーとね、んーとね。こっちまおーでぇ、こっちゆーしゃたまなの!」

女僧侶「じゃあ、こっちは?」

女性「てんてーなの! いたいのいたいのとんでけしてりゅの!」

女僧侶「私が勇者さまを助けるのね」

女性「てんてーゆーしゃたまにゆーの!」

女性「てまーかけさしぇんなうじむしやろーが。じじーのファックのほーがまだきゃいはいってりゅぞこらー」

女僧侶「ファッ!?」

女僧侶「……あ、あのね? そんな言葉、いったい誰に習ったの?」

女性「いんちょーてんてーがしんぷたまにゆってたの!」

女僧侶「まったく、あの人は……」

修道院長「ああっ先生! こちらにおられましたか」

女僧侶「院長先生。少しお話ししたいことがあります」

修道院長「そんなことよりですね、たった今お城から——」

道場?

少女『こんな下らないことのために、剣を教えたのではない』

少年『下らないってなにさ。騎士ならば名誉を守れと言ったのは姉さんだろう』

少女『君が守ろうとしたのは名誉ではない。自分の力を知らしめたいという虚栄心だ』

少年『ならどうしろっていうのさ! あのままあいつらを付け上がらせて、僕はいじめ殺されろとでも?』

少年『そうなればあいつらは後悔して改心するかな? しないよね? クズはどこまでいってもクズなんだからさ!』

少女『……』

少年『どうしたの? 言い返さないの? 言い返せない? はい論破』

少女『……私は、悲しい』

少年『ちょっ……論破されたからって泣くのはずるいよ』

少女『君があんなことを言ったのが、悲しい。そして何も言い返せぬ己の未熟が、悔しいのだ』

少女『そうとも。賢しらに剣の道と言いつつも、私自身は君のため、なんら骨を折ろうとしなかった』

少女『すべては君の未熟のせいと独り決めに決めつけて、したり顔でやり込めようとした。そんな己が浅ましくて仕方ない』

少年『僕が悪かった。悪かったから、泣き止んでくれよ。姉さんが僕のためを思って言ってくれたのはわかってるからさ』

少女『ならばもう二度とさっきのような悲しいことは言わないでくれ』

少年『わかったよ! あいつらみんなクズだ死ねとかはい論破とかもう言わないから!』

少女『もう喧嘩しない?』

少年『しない! しません!』

少女『パンケーキ焼いてくれる?』

少年『焼く! 焼くからっておいそれなんかちが——ってちょっとぉ! 僕の服で鼻かまないで!』

少女『——忘れるなよ。我らの剣は活人剣、人を守るための剣である』キリッ

少年『……えっと、ここで僕はこんなふうに言うべきなの? いつかねーさんをまもれるよーぼくつよくなりたいんだー』

少女『み、未熟者のくせに生意気な口をきくな! そそそそれではまるで求婚ではないか!』

少年『えっあっはい、その……すみません』

営倉

戦士「夢、か」

戦士「懐かしい、夢を見たな」

戦士「……」

兵士「出ろ。お勤め終了だ」

戦士「……はい」

兵士「たった二週間でだいぶ垢抜けたな。これに懲りたら二度と喧嘩騒ぎなんて起こすなよ。ハハッ」

戦士「僕は、正しいことをしました」

兵士「——天才剣士とか呼ばれていい気になってんじゃねえぞ」

兵士「正しいこと? ハハッ。ここじゃあな、てめえのやることで正しいことなんて一つもねえんだよチョーシこきが」

兵士「てめえの罪状はてめえがてめえであることだ。被害者である俺たちには謝罪と賠償を要求する権利がある」

兵士「理解したなら土下座しろ。理解せずとも土下座しろ」

戦士「……」

兵士「チッ。そうやってあんまナメた態度とってると、次の営倉入りでは汚れ専組合員のワンマン慰安所をしてもらうがいいんだな?」

戦士「……」

兵士「謝罪しろ」

戦士「……」

兵士「賠償しろ」

戦士「……」

兵士「クズが。目障りだからさっさと行けや」

通路

にきび面の兵士「あっ、あのっ!」

戦士「……君か」

戦士「あれから、また何かされたのかい」

にきび面の兵士「え、い、いえ」

戦士「そっか」

にきび面の兵士「そ、そうじゃなくてその、ちがっ、ぼ、ボクのせいで……だから、あのっ」

戦士「何もなかったなら、それでいいさ」

兵士の狼狽ぶりが面映く、戦士はすれ違いざまに彼の肩を叩いて立ち去った。

にきび面の兵士「っ……」

にきび面の兵士「違うん、です」

にきび面の兵士「ごめんなさい。ごめん、なさい」

宵の口の城下町

戦士(僕は正しいことをしたのだ)

戦士(正しくあり続ければ、いつかきっと報われる)

戦士(あの兵士の感謝はその前金だ。僕を片輪にしようとした兵たちだって、こちらが誠実な対応をとり続ければ、いつかは改心してくれる)

戦士(彼らだって人間だ。話せば分かる人間だ。人間は魔物と違い、改善し得る存在なのだ)

戦士(『今と未来に、誠実でありたい』)

戦士(そう思い続ける心こそが剣の道、活人剣の極意であると姉さんは言っていた)

戦士(剣で人を活かすとは、敵対者を退けるのみならず、人びとをより善くする、より善く生きるよう導くということだ)

戦士(活人剣の思想は間違っていない。間違っていないならば、なぜ僕は他の兵たちにああも虐げられる?)

戦士(それは僕が未熟なせいだ。未熟故に、憎まれる。小手先ばかり達者になって、心が伴っていないのだ)

戦士(もっと強くなろう、悪意に打ち勝つために。もっと正しくなろう、人をより善く導くために)

戦士(そしてもっと優しくなろう——大切な人を守るために)

女兵士「——戦士? 君なのか?」

戦士「っ!?」

女兵士「このっ……大馬鹿者! 二週間も姿を見せぬとはどういうつもりだ! 心配したのだぞ!」

戦士「ね、姉さんこそそんな格好でどうしたんだよ。ドレスなんか着ちゃってさ」

女兵士「こ、これはその、夜会に招かれてだな。私だってこのような格好、マナーだというから仕方なく……」

女兵士「……どどっ、どうだろうか。いや言わずともわかる! や、やはり似合わんよな。うん!」

戦士「いや、よく似合っ——」

貴公子「やっと追いつきましたよ女兵士さん。おや、この方はお知り合いですか?」

戦士「……誰です? 横合いから」

女兵士「こら! 会うなり失礼であろうが!」

貴公子「女兵士さんはこの方と随分親しいご様子ですが、いったいどのようなご関係で? もしや……」

女兵士「へへへ変な誤解はやめてくれ! 戦士は私のこんゃ——お、弟分みたいなものだ! 道場の弟弟子に過ぎんのだ!」

戦士「……そうだね。僕としても同感だ。色めいた関係なんて想像するだにぞっとする。いっそ実の姉弟でよくあるように、互いに不干渉でいたいくらいさ」

女兵士「何だと!? そういえば先ほどはうやむやにしかけたが、君はこの二週間、私に何の断りもなくどこへ行っていた!」

戦士「姉さんには関係ない。どこで何をしようと僕の勝手だろう」

女兵士「勝手とは何だ! 未熟者の分際で!」

戦士「姉さんだって好き勝手しているじゃないか。こないだまでスカートすらろくに履かなかったのに、今じゃすっかりめかし込んでさ」

戦士「これから大切な夜会とやらがあるんだろう? 早く行ったらどうだい?」

女兵士「いわれなくとも行ってやる! この大馬鹿者! 分からず屋!」

女兵士が走り去ると、貴公子が戦士の肩に手を回した。

貴公子「……よかったのかい? 彼女、行ってしまったよ」

戦士「初対面の相手に、馴れ馴れしいとは思いませんか」

貴公子「ハハッ、性分でね——と言いたいところだけれども」

貴公子「実のところはね、きみのことは噂で聞いて知っていたんだ。新兵でありながら兵士長とも打ち合える天才剣士と」

戦士「……それはどうも」

貴公子「性格は謹厳実直。正義感が強く、常に正しくあろうとする」

戦士「……?」

貴公子「だからこそ、にきび面のアレを、絶対に助けてくれると思ったのさ」

戦士「……なに」

貴公子「私は賭けに勝った。二週間は充分すぎる期間だった。あの手の女は褒められ慣れていないから、まったくもってちょろかった」

貴公子は戦士の耳に口を近寄せて、続けた。

貴公子「薔薇の匂いに気付いたかい? 私の贈った香水だ」

貴公子「鞘は新品だった。鯉口は私が切った」

貴公子「誰より長くそばにいながら、素肌の香りを知らぬとは」

貴公子「きみはじつにばかだな」

戦士は理解した。一切が損なわれたと確信した。
立ち去った。帰宅するなり嘔吐した。
あらかた吐くと、酒を飲んだ。
胃が満ちると、また吐いた。
繰り返した。
翌朝に目覚めると、自室の有様を見て、夢ではなかったことに気がついた。

戦士「畜生め」

戦士「どいつも、こいつも、畜生だ」

兵士長が訪れたのは、それから数刻後のことである。

戦士「うつけの勇者の仲間をやれと。命令ですか」

兵士長「あくまで推挙だ。もちろん拒否権はある」

戦士「これもあの男の仕込みですか」

兵士長「仕込み? 仕込みとは何のことだ?」

戦士(数日前に現れたという勇者について仕込みを疑う必要はない)

戦士(とりあえず鎌をかけてはみたものの、空振りか。黒なら悪党、白なら無能となるわけだが……)

戦士(今の僕にはどうでもいいか)

戦士「そのお誘い、受けましょう」

兵士長「おお! そうか!」

戦士「僕は誰かを守るために剣を振るいたい。魔王を討つことは世界中の人々を救うことでもある。ならば、僕に断る理由などありません」

兵士長「よかった。肩の荷が下りた気分だ」

戦士「僕はお荷物でしたか」

兵士長「逆だよ。お前はあまりにも強すぎたんだ。そこらの腕自慢とは一線を画する才がある」

兵士長「ほとんど経験値を持たぬ身で、この私と互角に渡り合う。それだけでも異常なことだ」

兵士長「手前味噌だが、私にはちょっとした小魔王と同等程度の力がある。仮にも兵士長だからな」

戦士(仮にも、ね)

兵士長「つまり君は、地力で小魔王に匹敵しうるということだ。それほどの才、一介の兵士にしておくにはあまりにも惜しい」

戦士「そうでしょうか? 少なくとも僕の上官は僕の手に箒以外握らせませんでしたが」

兵士長「……まさか、君が嫌がらせを受けているという噂は」

戦士「失言です。忘れて下さい」

戦士(楔は打った。相手の負い目はこちらの強み、せいぜい今は謹厳実直な大馬鹿者を演じさせてもらうさ)

占い師の書斎

占い師「大臣が嘆いておったわ、勇者が酔っ払いにたかられたと。お主ならば別な名乗りようもあったろうに」

遊び人「馬鹿の名札をつけろってのかい」

占い師「まだまだ青いの。馬鹿と鋏は使いよう、たとえば女中の尻を触っても、ほうけて見せれば免罪じゃ」

遊び人「意味が違うぞ狒々ジジイ」

占い師「で、行くのか」

遊び人「銀貨三十枚で買われちまったからな。あんたの目論見通りなのは気に食わんが」

占い師「やはり負い目を感じておるのか」

遊び人「自由意志など存在しない、ゆえに罪も存在しない。そう教えたのはあんたじゃねえか」

占い師「お主は不肖の弟子じゃからの、それでも罪の意識はある」

遊び人「何に対してだよ」

占い師「すべてに、じゃよ」

遊び人「ナンセンスだな。菜食主義のがまだ健全だ」

遊び人「っと、あまり長居しても面倒になりかねん。俺はもう行くぜ」

占い師「待て、その腕に抱えてる魔導書はなんじゃ」

遊び人「国王の野郎が路銀をケチりやがったんだ。売って酒代の足しにする」

遊び人「あばよ爺さん。さっさと往生しろよ」

占い師「またんか!」

廊下
警備兵「占い師様? どうされました?」

占い師「この廊下で、今さっき変わったことはなかったかの」

警備兵「変わったこと? そうですね。月に雲がかかったのか、さきほど影が床の上を、さぁっと走り抜けましたが」

占い師「ほう……」

警備兵「しかしまあ、なんですかね。今夜は随分と明るい。窓さえあれば、明かりなどいらぬほどに」

占い師「うん?」

警備兵「占い師様——月が、綺麗ですね」

城下町

戦士(勇者たちのいる宿屋は、たしかこの辺りと聞いたが。さて)

女兵士「……おい」

戦士(ここで待ち伏せか……昨日の今日だ。見送りというわけでもあるまい)

女兵士「その格好は何のつもりだ。私は、聞いていないぞ」

戦士「……」

女兵士「答えろ!」

戦士「……」

女兵士「なあ、なぜ君なのだ。なぜ君が旅に出るのだ」

女兵士「だって君は、約束……私を守ってくれると。ずっと一緒と。そのために強くなったと」

女兵士「私がどんな気持ちで……知ってるはず……だのになぜ!」

戦士「……」

女兵士「……そうか、理解した。ああ理解したとも」

女兵士「君は、強制されているのだな。だから何も言わぬし言えぬ。勇者と共に旅に出ろと、国王? いや、兵士長か?」

女兵士「昔からそうだ。君が断れぬことをいいことに、周りの連中は君をいいように弄ぶ」

女兵士「大丈夫だ、問題ない。今度は私が君を守る。だから、私の手を……」

女兵士が手を差し出し、戦士の手はそれに応えるかのように持ち上がる。
が、そのまま触れ合うことなく掲げられた。

戦士「兵士長、お願いします」

戦士の合図と同時に物陰から兵士長が現れて女兵士を拘束した。

女兵士「なっ!?」

兵士長「こら、大人しくせんか!」

戦士「女兵士さんは既に少し錯乱している。こんな町中で声を荒げ、危うく抜剣するところでした」

女兵士「ちがっ、さっきは君の手をとろうと、信じてくれ!」

戦士「僕の危ぶんだ通りになってしまいましたね、兵士長。言葉は聞き取れなくともヒステリックな剣幕は伝わったはずです」

兵士長「お、おう。そうだな。この暴れっぷりはたしかに気違っとと、埒明かん、な!」

言うと、すばやく手刀で女兵士を気絶させた。

戦士「このごろ妙な男性に言い寄られていた様子ですし、おそらく私生活のほうでいろいろあったのでしょう」

兵士長「色恋沙汰で思い詰めていた、か。女性だものな、ここは大目に見てやるべきかもしれんが……彼女には少々休暇が必要なようだ」

戦士「とばっちりで僕にも嫌疑がかかるでしょうが、まあどうせ旅立つ身の上ですからかまいません。僕が童貞であることにも変わりありませんし」

兵士長「はは、かくいう私も童貞でね。君の清廉潔白なのは、私が認めようじゃないか」

戦士「恐縮です」

兵士長「このような形の見送りになってすまないが。なんというか、その、達者でな」

戦士「兵士長こそお達者で。次に会うときは、手加減抜きの仕合をしましょう」

兵士長「おっかねえこと言いやがる」

戦士(謀で受けた屈辱は、謀で返してこそ晴らされる)

戦士(愛する人を寝取られた? 恋心を裏切られた? 男性として見限られた?)

戦士(否、否、三たび否!)

戦士(見限るのは……僕だッ!)

戦士(そうとも、僕自身はなんら損なわれていない。むしろ信念だの愛する人だのという下らぬしがらみから、今こそ自由になったのだ)

戦士(あえて言おう、『今と未来の自分自身に、誠実でありたい』と。他者への誠実は己自身への不誠実だということに気付かされたのだから)

戦士(これから勇者と旅をするのも、力と狡猾さを手に入れるために過ぎない)

戦士(そして僕はかの剣の王のように、剣一本でのし上がり、あらゆるものを勝ち取るのだ)

戦士(勇者とその仲間どもだって、さんざん使い倒して、ボロ雑巾のように捨ててやるッ!)

戦士は宿屋に足を踏み入れた。

宿屋

(^p^)「きれいに つるが おれました」

女僧侶「あらお上手。今度はカエルさんに挑戦ですね、勇者さま」

遊び人「安くて美味いと聞いてみりゃ、この葡萄酒鉛入りじゃねえか畜生。だが美味い」

戦士「……」

戦士(勇者はともかく、その仲間が看護修道女と飲んだくれだと?)

戦士「あー、君たち。ちょっといいかな」

(^p^)「こんにちわ」

女僧侶「はい?」

遊び人「あん?」

戦士「僕は戦士という者だ。城で兵士を務めていたのだが、剣の腕を買われてね。勇者の仲間に選ばれたんだ」

戦士「それで、ええと君が勇者かい?」

(^p^)「はい ゆうしゃれす」

女僧侶「わ、私は女僧侶です! え、えっと、修道院の方から来ました!」

戦士(托鉢詐欺師かこの女)

遊び人「俺は遊び人、プロの酔っ払いだ」

戦士(プロって何さ)

戦士「よし。これでそれぞれ自己紹介も済んだことだし——済んでるよね? うん。いきなりで悪いけれど、今後の旅について相談しようか」

戦士「勇者もそれでいいかな?」

(^p^)「ぼくは いいれす」

女僧侶「わ、私は勇者さまに従います」

遊び人「俺も坊主に買われた身だ。従うぜ」

戦士(こんなうつけが相手でも、忠誠心はあるらしい。いや、勇者がうつけだからこそ、か)

戦士(兎にも角にも、僕が主導権を握らなければ)

戦士「さて、君たちの中に、魔物と戦闘経験のある人はいるかな」

(^p^)「ぼくは ないれす」

女僧侶「わ、私も。一応の訓練は受けていますが……」

遊び人「俺はあるぜ」

戦士(ほう)

遊び人「へへっ、酒を切らすとだな。なんかこう、虫くらいな大きさをした大量の魔物どもがな、足下から頭のてっぺんまでぞぞぞっと這い上がり——」

戦士「それちがう」

女僧侶「だ、大丈夫です遊び人さん! きっと立ち直れますから!」

遊び人「っとまあ冗談だが」

女僧侶「もう! 笑えませんよ! 遊び人さんはただでさえ良いお年なんですから現実味がありすぎます」

戦士「と、ともかく、この中で魔物と戦ったことのある人間は、僕一人のようだね」

戦士「そこでなんだが、みんな。僕はこのパーティのリーダーに立候補しようと思うんだがどうだろうか」

(^p^)「りーだーれすか」

女僧侶「リーダーは勇者さまでは?」

遊び人「まあ待てお嬢ちゃん」

戦士「リーダーといってもあくまで暫定的なものだ。勇者本人が務められるようになれば、僕はすぐにでもその役目を明け渡すつもりだ」

戦士「魔物との戦闘や旅そのものに関して、言ってしまってはなんだが、今の君たちは素人同然だろう?」

遊び人「引率役を買って出るのか」

戦士「僕はそこまで傲慢じゃない。ただ無能な指揮官のせいで死にたくないと言ってるだけさ」

遊び人「へぇ」

女僧侶「勇者さまが無能だとおっしゃるんですか!」

(^p^)「ぼくは むのうれす」

女僧侶「勇者さま?」

遊び人「まあ落ち着けお嬢ちゃん。当人が認めてんだ」

戦士「自覚があってよかったよ。勇者、君は『まだ』無能なんだ」

遊び人「だから成長する余地があるってか。けっ、近頃の剣士ってのは道学者面もすんのかよ」

戦士「弱さの自覚は剣の道のみならず、あらゆる分野に通ずることさ」

戦士(尤も、コレのような生まれながらの片輪者が人並みになれるものとも思わんがね)

戦士「ではあらためて問おう。僕はリーダーに立候補するが、君たちは賛成してくれるだろうか」

(^p^)「はい さんせいれす」

女僧侶「勇者さまが言うのなら、賛成します」

遊び人「なら俺は兄ちゃんの道学者っぷりに敬意を表して、賛成だ」

戦士「ありがとう、みんな。期待に応えられるよう頑張るよ」

戦士(遊び人は僕に傾いたか……違うな、同情票のつもりで僕に媚びを売っている?)

戦士(探るか? いや、これ以上は止そう。下手を打てばぼろが出る。頭を切り換えて、優しくて頼れる仲間を演じ通すんだ)

戦士「早速だが戦力の把握をしたい。まずは勇者、君は何が出来る?」

(^p^)「だいくと りょうりが すこしれす」

戦士「……まあ、野営においては活躍するだろうが、戦闘能力については皆無といっていいだろうか」

(^p^)「ぼうりょくは つかえません」

戦士「そうかわかった。女僧侶はどうかな?」

女僧侶「回復魔法なら一通り。杖術も、初歩の護身術程度には」

戦士「なるほど、後衛としては申し分ないな。では遊び人、君は?」

遊び人「攻撃・回復・補助と、所謂魔法と名の付くものはまんべんなく使えるが……」

戦士「器用貧乏ということか?」

遊び人「いんや。貧乏どころじゃない。素寒貧だ」

遊び人「俺にゃまるっきり才能がなくてな。若い頃に手当たり次第囓ってはみたんだが、何一つものにはならなかった」

遊び人「いずれも使いこなせるのは初歩の初歩、魔物相手にゃ力不足、大道芸なら役立つがな」

戦士「期待はするなと言いたいのか」

遊び人「まあ待て、俺だってタダ酒飲もうとは思っちゃいないさ」

遊び人は数冊の魔導書を取り出した。

遊び人「昔馴染みの爺さんから餞別にくすねてきた。こいつで坊主に魔法を仕込む」

戦士「勇者に魔法を?」

遊び人「へへっ、魔法ってのは結局のところ感覚——つまり才能が全てだ」

遊び人「利口ぶった魔法使い連中や、賢者とか名乗る馬鹿どもがどう言おうと、頭の出来の良し悪しは大して影響しない」

遊び人「なあお嬢ちゃん、教会畑のお嬢ちゃんなら納得できるだろう?」

女僧侶「は、はい。理論に拘泥するのではなく、清らかな心を保てと習いました」

遊び人「なら回復魔法に関しちゃ、坊主にも見込みがある」

(^p^)「ぼくに まほうが できるのれすか」

女僧侶「でしたら私が教えます! なんといっても勇者さまは勇者さまですもの! 上達するに決まってます!」

戦士「遊び人は戦力にはならないが勇者に魔法を教えると。わかった」

戦士「さてみんな。話は逸れたが最後は僕だ」

戦士「僕は魔法は使えないが、代わりに剣が使える。実力のほうはその、なんだ、自画自賛のようで恐縮だが、兵士長と戦える程度には腕が立つ」

遊び人「はっ、自慢かよ」

戦士「じまっ……だ、だがしかし、僕は君たちにも正しく戦力を把握してもらおうと思ってだな」

遊び人「悪い悪い。からかっただけさ。しっかしあの化け物とやり合えるほどの腕か……」

(^p^)「せんしさん すごいれす」

遊び人「凄いな。たしかに凄い。で、そんな天才野郎がなぜこんなところにいる? 城の兵士と言っていたな?」

戦士「っ……」

遊び人「銀貨三十枚で売られた口か?」

戦士(銀貨三十? 裏切りの代名詞? こいつ僕を知って? いや考えすぎ? 否否否! 誰どいつ全員仕込みはめられ——)

遊び人「——落ち着け兄ちゃん。今のは単なる言葉の綾だ」

女僧侶「戦士さん?」

(^p^)「おなかが いたいのれすか」

戦士「ぼ、僕はね、誰かを守るために剣を振るいたかったんだ。魔王を討てば、世界中の人々を守ることになるだろう?」

戦士「だから、勇者の仲間になろうと思ったのさ」

女僧侶「まあ、ご立派!」

(^p^)「せんしさん かっこいいれす」

遊び人「へへっ、天才の考えることってのはわからんもんだな」

戦士「人にはよく馬鹿だって言われるよ。でもそれが僕なんだから、仕方ないのさ」

戦士「僕の紹介も終わったし、役割分担といこうか」

戦士「まず通常の魔物との戦闘は、主に僕一人が引き受ける」

遊び人「たった一人で大丈夫か?」

戦士「大丈夫だ、問題ない。それくらいの実力はあるつもりだ」

戦士「女僧侶と遊び人には、勇者に魔法の教育をしてもらう」

女僧侶「任されました!」

戦士「剣については、僕が勇者に教えよう」

(^p^)「どうも ありがとう」

戦士「言ってしまえば何だな。戦うのは僕だけで充分。あとは全員で、勇者の教育をすることになるね」

戦士「役割分担の次は、当面の方針を決めよう」

戦士はテーブルに地図を広げた。

戦士「この国は代々の勇者のおかげか、魔物の発生地が限られている。確実に小魔王を狙うとすれば、必然、国境付近の土地となる」

(^p^)「しょうまおうとは なんれすか」

戦士「えっと、勇者。君、勇者がなぜ旅をするのか、その目的は何か分かっているのかい?」

(^p^)「ゆうしゃは まおうを たおすのれす」

戦士「それは所謂大魔王のことだろう? まさかこのまままっすぐ魔王城へ向かうとでも?」

(^p^)「みんなで まおうを たおします」

戦士「無理だ」

遊び人「いいか坊主。ただの人間に魔王は倒せない。勇者にしたってそれは一緒だ。魔王ってのはちっぽけな人間の力でどうこう出来るような存在じゃない」

遊び人「剣や矢は勿論、たとえ大都市丸ごと吹っ飛ばす量の火薬を用意したとしても、倒すことは不可能なんだよ」

(^p^)「どうすれば たおせますか」

戦士「強くなるのさ。経験値を得てね」

戦士「大魔王を倒すためには強い力が必要、強い力を得るには経験値が、経験値を得るためには、小魔王を倒すことが必要なのさ」

戦士「勇者の旅というのはつまり、世界各地にいる小魔王を討滅して、経験値を稼ぐことなんだ」

(^p^)「けいけんちとは なんれすか」

戦士「そんなことも知らないのか君は。いいかい? 経験値とは——」

遊び人「その辺にしとけ兄ちゃん。一度にまとめて説明したってつまらんだろう。旅は長いんだ。話の種は残しておけ」

遊び人「ともかく坊主、俺たちの当面の目標は小魔王を倒すこと、それさえ覚えてくれればいい」

(^p^)「しょうまおうを たおします」

女僧侶「そして魔物に苦しめられる人々を救いましょうね、勇者さま!」

(^p^)「ひとびとを すくいます」

辺境の村

(^p^)「もくてきちに つきました」

女僧侶「私、馬車って苦手です。昨晩からずっと揺られたせいか、体じゅう痛くって」

遊び人「せっかく楽に来られたってのに、お嬢ちゃんはだらしねえな」

戦士「ハハッ。経験値さえ得られれば、馬車の揺れともおさらばさ」

女僧侶「どうしてですか?」

戦士「馬車に乗るより、走ったほうが楽になる。だから勇者の旅は徒歩だといわれている」

遊び人「経験値はそこまで万能じゃねえっての」

戦士「まずは宿をとり、それから酒場で情報を集めるとしよう」

女僧侶「そういえばこの辺りは沢山宿屋がありますね」

戦士「冒険者が多いからさ。隣国との緊張が緩和して、平和になったからだろう」

(^p^)「へいわだと ぼうけんしゃが ふえるのれすか」

戦士「正確には、緩衝地帯の魔物の討伐が解禁されたからだよ」

戦士「魔物のテリトリーは攻められる側にしてみればいわば天然の防衛線なんだ」

戦士「だから地続きの国々の場合、国境付近の魔物はあえて絶やさぬようにされている」

女僧侶「そんな。その魔物に苦しめられる人々もいるのでしょう?」

戦士「それが政治というものらしい。ま、お偉いさんの考えることは僕の頭では理解できないがね」

戦士「一応、解禁されていないといっても名目上完全に禁じられているわけじゃない。ただ報酬が出ないだけさ」

遊び人「ここじゃちゃんと解禁されてんだ。くだ巻いてねえで、さっさと宿を探そうぜ」

(^p^)「おさけが きれたのれすか」

遊び人「へへっ、よく分かったな、坊主」

酒場

女僧侶「大きくてその、雑多な感じの酒場ですね……うっぷ」

遊び人「素直に汚ねえと言えんのか。お嬢ちゃんが取り澄ましやがって」

女僧侶「ふぅ。まるで遊び人さんの顔のように個性的な酒場ですね」

遊び人「止せよ。照れる」

女僧侶「褒めたことにしておきます。ですので存分に恥じ入ってくださいね」

戦士「いったいどっちが皮肉ってるやら」

(^p^)「おんなそうりょさんは くちが よくないのれすか」

女僧侶「ごごご誤解です! 私は遊び人さんの口車に乗せられてですね……む?」

女僧侶「むむ? なんですかこの臭いは? 栗の花?」スンスン

(^p^)「なまぐさい においれす」

遊び人「お、おう」

戦士「……卵狩りの冒険者が来たんだ」

酒場の親父「てめえら! そいつを中に持ち込むんじゃねえ! 営業妨害だぞ!」

肥えた冒険者「デュフ、このかぐわしいスメルはもっとみなさまに嗅がれるべきでござる」

痩せた冒険者「かかっかかぎたくななないなならっ、ははやくほほ報酬をよこっよこすでござる」

肥えた冒険者「デュフ、デュフフ」

女僧侶「なんだかあの人、さっきから私のことをじっと見ていますが。それにしても不思議な臭いですね」スンスン

遊び人「目ぇ合わせるんじゃない」

戦士「よし、斬ろう」

遊び人「兄ちゃんも落ち着け」

(^p^)「でゅふ でゅふふ」

遊び人「それはさすがに笑えんから真似すんな」

酒場の親父「わかったわかった! ともかく出てけ! 取引は外だ!」

肥えた冒険者「デュフヒッ、仕方ないでござる」

痩せた冒険者「ええっえええエレクチンでござる」

戦士「卵の『芽』を持ってきたんだな。普通は臭いが漏れぬよう革袋なんかに入れるんだが……モラルのない冒険者もいたものだ」

(^p^)「たまごとは なんれすか」

戦士「『魔王の卵』というものさ。言ってしまえば魔物の元で、これがあるから魔物が生じる」

戦士「冒険者は魔王の卵を破壊した証拠に、それの芽と呼ばれる部分をギルドに持ち込んで報酬を得るんだ」

戦士「ほら、店主が戻って来たぞ……地図の上に画鋲を挿したな。つまりあの場所の魔王の卵は破壊済みということだ」

(^p^)「まものは いなく なったのれすか」

戦士「いいや。なくなったのは発生源だけだ。そこに居た魔物自体は未だに残っている」

女僧侶「残った魔物は退治されないんですか?」

戦士「冒険者にとっては金にならないからね」

女僧侶「ちょっとおかしい気がします。魔物そのものにも、賞金をかければよいのでは?」

遊び人「そういうわけにもいかねえんだよお嬢ちゃん」

遊び人「考えてもみろ? 魔王の卵があるかぎり、魔物は無限に沸いてくる」

遊び人「お嬢ちゃんの言う通り魔物そのものに賞金がかけられたとする。だがそこであえて魔王の卵を残しておけば、無限に賞金が稼げちまうだろ?」

女僧侶「たしかに、そうなりますね」

戦士「かといって魔物を野放しにしているわけではない。卵のない場所なら国から派遣された部隊が大々的に駆除を行うし、冒険者ギルドも似たようなことをやっている」

遊び人「滅多に行なわれないって但し書きがつくが、概ねその通りだ。お嬢ちゃんの心配することじゃない」

戦士「卵狩りなんかより、僕たちは僕たちにしか出来ないこと、小魔王討滅を優先しよう」

遊び人「小魔王か……あの地図には載っていないようだが、非公開か?」

戦士「ここのギルドでは公開が義務づけられているはずだ。一般冒険者の小魔王討滅が禁じられているからな」

遊び人「つうことはだ、実際にまだ小魔王が見つかっていないか」

戦士「冒険者側の独断で隠しているか、だな。店主を問い詰めてみるか」

遊び人「今は止せ。痛くもない腹を探られても困る」

戦士「僕たちの身分を名乗れば」

遊び人「むしろそっちの方が痛い。銀貨三十枚に賭けるのは、ここぞと言うときまでとっとくべきだ」

戦士「ならばどうする?」

遊び人「時間なんざ俺たちにはいくらでもある。あるようになる。今は慎重にすべきで、当面の問題は路銀くらいなもんだろうさ」

戦士「だが、しかし——」

(^p^)「ふたりの はなしは むずかしいれす」

女僧侶「先に注文のほう済ませてしまいましょうか。おじさま!」

酒場の親父「あいよ」

(^p^)「おすすめは なんれすか」

酒場の親父「牛肉と腎臓のパイだな」

女僧侶「私このパイ嫌いなんですよね」

酒場の親父「んだとコラ!」

女僧侶「ごめんなさい。言ってみたかっただけです」

酒場の親父「ったく近頃の娘っ子はっと、おお? 小僧、おめえ、前に会ったことねえか?」

(^p^)「ありません」

酒場の親父「いや待て。ありゃ十、六七年前か……小僧、おめえの親父は冒険者だったりするか」

(^p^)「おとおさんは だいくれす」

酒場の親父「おう、そうか。俺の見間違いか、そうだよな。まさかあのゆう——」

(^p^)「ちちのほうは ゆうしゃれす」

女僧侶「い、いけません勇者さま! 勇者さまが勇者さまだということは内密に……」

酒場の親父「……」

女僧侶「……あれ?」

宿屋・夜

戦士「店主が話の分かる人間で助かった。小魔王の情報提供を約束してくれたし、僕らについて口外しないとも言ってくれた」

戦士「でもこれはたまたま結果的にこうなっただけであって、今後あのような軽率な行動は控えてもらわないと困るんだ」

(^p^)「せんしさん ごめんなさい」

女僧侶「申し訳ありませんでした」

戦士「僕らは世界を救う旅をしている。それを自覚してくれ」

(^p^)「じかく します」

女僧侶「……はい」

戦士(なぜ僕が説教をさせられる)

(^p^)「あそびにんさん どこれすか」

戦士「彼なら飲み足りないと言ってどこかへ行ってしまったよ」

女僧侶「こんな夜更けにあの人も大概ですね」

戦士「店主との交渉も僕一人に押しつけて、いい身分さ」

戦士(どいつもこいつも、利用してやるどころか足手まといにしかならんじゃないか)

酒場

酒場の親父「今日は店じまいだぜ」

遊び人「寝酒くれえかまわんだろ」

酒場の親父「おめえさんは……昼間もしやと思いはしたが、やっぱその顔、賢——」

遊び人「今は遊び人で通っている」

酒場の親父「……そうですかい」

遊び人「で、酒は出してくれんのか」

酒場の親父「下戸だったんでは?」

遊び人「今じゃすっかりうわばみなんだ」

酒場の親父「酔えん体になるって噂は、本当だったわけですかい」

遊び人「それにしたって曖昧なもんさ……娘は元気か」

酒場の親父「十年も前に逝っちまいましたわ」

遊び人「そうか」

酒場の親父「どんなんだったか覚えてますかい?」

遊び人「あやとりの上手な娘だった」

酒場の親父「そう。あやとりでぎざぎざを作ってね、言うんですわ。勇者さまの剣だって。あのころはそればっか、一つ覚えだっちゅうのに」

遊び人「勇者の剣、か」

酒場の親父「それがごろつきに攫われたあげく、魔物に食われて死んじまった」

遊び人「……すまない」

酒場の親父「こっちの勝手な八つ当たりですわ。おめえさんの罪じゃあない。魔王なんていようがいまいが、悪いのはいつだって人間だ」

翌朝

戦士「小魔王の情報はまだ届かない。しかしただ待つのも宿賃の無駄だ」

戦士「よって今日は、実戦訓練も兼ねて、魔王の卵を狩ろうと思う」

僧侶「私たちの冒険はこれから始まるんですね! 早く魔物を根絶やしにして、この村に平和をもたらしましょう!」

(^p^)「まものたちを たおします」

戦士「あ、ああ。君たちの意気込みは買うが、さしあたり自分の身を守ることを優先してくれ」

遊び人「他の冒険者にも気をつけろ。酒場の親父に聞いたが、『芽』の奪い合いも少なからずあるらしい」



襲いかかってきた魔物を切り伏せると、戦士は剣を構えたまま周囲の様子をうかがった。
魔物の姿がないことを確認した後、血振りをして合図を出す。
離れたところで息を潜めていた三人が、戦士のそばに駆け寄った。

戦士「この辺りは制圧した。みんな、もう声を出していいよ」

女僧侶「あの、戦士さん。お怪我はありませんか」

戦士「この通り、無傷さ」

女僧侶「そうですか」

栗鼠と芋虫の間の子めいた魔物の死骸を、女僧侶はぼんやり見つめた。

戦士「うん? 何か腑に落ちないかい?」

女僧侶「えっと、その、思っていたのと違うといいますか、これじゃないといいますか、その……」

女僧侶「……地味ですね」

戦士「地味……だと……?」

女僧侶「い、いえ。別に貶しているわけではありませんよ」

女僧侶「襲ってくる魔物を倒すたびにいちいち周囲の安全を確認してからちまちま進むという慎重さは大変よいことだと思いますし」

女僧侶「こちらから魔物を見つけてはみみっちく全て不意打ちで倒して行くというのも念が入って堅実なことだと思います」

女僧侶「ただ、その、みんな一太刀で済んでしまいますから、剣術そのもののすごさが実感できないといいますか」

女僧侶「戦い方があまりにも地味すぎるといいますか、むしろこれ暗殺者じゃねえのといいますか」

遊び人「お嬢ちゃん、その言い様はちょいと」

女僧侶「わ、私だってわかってますよ。戦士さんのこれが一番良いやり方だと」

女僧侶「ですけれどね、勇者様とその仲間たちというのは、もっとこう、てやぁぁぁぁぁっと打ち懸かり、ぎにゃぁぁぁぁっと撫で切りにするものでしょう?」

女僧侶「なんというかいわば無双的な成分が足りないんですッ!」

(^p^)「おとめちっく なのれすね」

遊び人「嫌な乙女心だな」

戦士(この女、張り倒してやろうか)

(^p^)「なまぐさい においがします」

遊び人「酒場で嗅いだ、卵の芽の臭いか?」

(^p^)「あちらのほうから においます」

戦士「僕にはわからないが、女僧侶は?」

女僧侶「いえ、私も」

遊び人「どうする? 俺はこいつの鼻を信じるが」

女僧侶「勇者様は嘘なんてつきませんし」

戦士「わかった。僕が先頭に立つ。勇者は方向を指示してくれ」

戦士(ここまで来られたのは僕のおかげだというのに、勇者の判断が優先か)

奥地

戦士「魔王の卵が、あった……?」

戦士(まるで動物並みの鼻だな。知能が動物並みに退化した分、別の器官が発達したとでもいうのか)

女僧侶「これが魔王の卵……」

戦士「相変わらずひどい臭いだ。吐き気がする」

女僧侶「卵というわりには、すごく……お肉っぽいですね。血管みたいなのが浮いてますし、ぐぱっとめくれた天辺から透明なお汁が垂れています」

女僧侶「それにこの栗の花に似た臭いがどうも」スンスン

(^p^)「ふしぎな においれす」

遊び人「今はまだ瘴気が出ている。嗅ぐのは潰した後にしな」

戦士「壊すぞ」

戦士は魔王の卵に足をかけた。
地面に張られた幾本もの根が音を立てて千切れ、断面から粘液の糸を引いた。
卵を横倒しに安定させると、戦士は剣を上段に構えて一閃した。あざやかな切り口であった。
一拍後、殻ともいえる肉壁がだらりと弛緩し、白濁した粘液が一息に流れ出た。
もはや卵というよりも、破れた水袋のような有様であった。
その水袋の先端、元からあった裂け目に戦士はナイフを突き入れた。
幾度かえぐって引っかかりを突き止めると、ゆっくりと中のものを引きずり出した。

戦士「これが卵の芽だ。卵を潰すと引っこ抜けるようになる、いわば芯だな……ほら、勇者」

(^p^)「ふくろに いれました」

女僧侶「では運ぶのは私が」

戦士「この大きさからして結構な賞金になる。持ち逃げするなよ?」

女僧侶「そんなことしませんったら」

遊び人「ここにゃもう用は無い。さっさとずらかろうぜ」

戦士「ああ」

帰り道

女僧侶「ふむふむ……やはりこれは……むむっ」スンスン

遊び人「さっきからお嬢ちゃんは何やってる?」

女僧侶「知的好奇心です。何か問題でも?」

遊び人「お嬢ちゃんが満足ならそれでいいがな」

女僧侶「しかしこれはまた、なんだかくせになりますね」クンカクンカ

(^p^)「くせに なるのれすか」

女僧侶「勇者様もひと嗅ぎいかが?」

遊び人「やめろ。色々と申し訳が立たん」

戦士(女ってやつは……!)

ぐだぐだだけど今日はここまで

宿

女僧侶「遊び人さん、魔導書を貸してもらえますか」

遊び人「坊主に魔法を教えるのか」

女僧侶「ええ。時間に余裕があるうちに、基礎だけでもと思いまして」

女僧侶「それに誰かさんは今夜もお出かけなのでしょう? ですので、お忙しいところ申し訳ありませんが」

遊び人「お嬢ちゃんは口が悪いな」

女僧侶「そんなふうに受け取るのは、やましいところがあるからです」

遊び人「良心があるからこそ、やましく感じることができる。そうは思えないか」

女僧侶「甘噛みしかせぬ良心など、良心とはいえません」

遊び人「だったら噛み殺されろってのかい」

女僧侶「はい。それが理想です」

遊び人「神の僕ってのは徹底してんな。わかった俺の負けだ。下らん問答はもう仕掛けん。魔導書も渡す」

女僧侶「はじめから素直にそう言えばいいんですよ」

遊び人「ただ一つ、条件がある」

女僧侶「条件?」

遊び人「条件というより要望だが。お嬢ちゃんが真っ当な使い手だと前提して言わせてもらう」

遊び人「第一魔法、あれは坊主に教えるな」

女僧侶「それは、一番最初に覚えさせられる、あの魔法のことですか」

遊び人「そう。自殺の魔法、ないし自爆魔法だ」

女僧侶「ですが、あれは」

遊び人「お嬢ちゃんの言いたいことはわかる。『使わぬこと』を学ばせるに必要だと、理解もしている」

女僧侶「それだけではありません。禁忌を知り、死を傍らに置くことでしか辿り着けぬ境地もあると、私はそのように学びました」

遊び人「魔法使いの側では、それは救いであり慰めであるとされている。いずれの道を学ぶにしても、有用な理念であることには変わりない」

遊び人「だがなお嬢ちゃん。魔法を極める以前に、坊主は勇者なんだ。勇者は世界にただ一人、勇者が死んだら、死ねるようじゃ駄目なんだ」

遊び人「そうとも。死んじまったら、おしまいなんだよ」

女僧侶「遊び人さん?」

遊び人「心の強さが云々となる前に、第一魔法という気安い自殺の手段自体、与えてはならんのさ」

遊び人「仮定の話をするがな。もし悪党がお嬢ちゃんを人質にとり、勇者爆発しろと脅したらどうなる?」

女僧侶「お優しい勇者さまは、爆発するかもしれません」

遊び人「教えるなと頼むのは、そういう結末になるのを防ぐためでもある。師に恵まれたであろうお嬢ちゃんには、こんな邪道は酷だろうが……」

女僧侶「わかりました。それが勇者さまのためになるのなら、仰る通りにいたします」

遊び人「すまんな……なら、お嬢ちゃんもわかってくれたことだしな。俺はちょっくら飲んでくる」

女僧侶「は?」

遊び人「坊主を、頼む」

女僧侶「はぁっ!?」

翌朝、空き地

戦士は剣を顔の高さまで掲げた。

戦士「これが屋根の構え。他の流派では上段とも八相とも呼ばれている。この構えから——」

前方に踏み出しつつ、剣を斜めに切り下げる。

戦士「——こう斬る。これが『親父切り』、奥義の一つ。単純かつ簡単でありながら、最も威力のある斬撃だ」

遊び人「ほう」

女僧侶「ふむ」

戦士「二人とも、腕組みなんかしてるけど、剣がわかるのかい?」

遊び人「いんや。通ぶってみただけだ」

女僧侶「ぶりたくなりますよね、こういうときって」

戦士「……勇者、木剣を握って。まずは屋根の構えだ」

(^p^)「かまえます」

戦士「少し力みすぎだな……うん、それくらいでいい。その状態から踏み出しつつ——斜めに、斬る!」

(^p^)「きります」

戦士「まあ最初はそんなものだろう。ではもう一度、今度は連続してみよう。合図はなしだ」

(^p^)「かまえて きります」

戦士「よし。ほぼ完璧な動作だ。君は筋が良い」

戦士「では勇者。今覚えた親父切りを繰り返す。それが今日の訓練内容だ」

戦士「魔法の講義もあることだし、素振りの回数は問わない。君なりのペースで自主練習をやってくれ」

女僧侶「それだけ、ですか?」

戦士「ああ。それだけだ」

女僧侶「剣のお稽古なのに、ちゃんちゃんばらばらしないのですか?」

戦士「バインドのことかい? あれは主に対人戦の技術だからね。勇者が戦う相手は魔物だ。必要ないとまでは言わないけれど、優先度は低い」

女僧侶「対魔物用の剣技はないんですか? ドラゴン斬りとかゾンビ斬りとか」

戦士「……たぶんおそらくほぼ絶対僕とは認識が異なるだろうけど、異種武器戦闘術にその類いの技があるにはある」

戦士「でもそういう技は上級者向きで、技術が伴わなければ、教わったところで何の役にも立たないんだ」

女僧侶「そういうものですか……」

遊び人「お嬢ちゃん。兄ちゃんはな、技に幻想を持つなと言いたいんだ。必殺技なんていう便利なものは諦めろ」

戦士「強いて言えばさっき教えた親父切りが必殺技といえるかな。斬撃の威力だけなら最強だからさ」

女僧侶「……やっぱり剣術って地味なんですね」

戦士「じっ……」

女僧侶「技の名前もかっこわるいし」

遊び人「そのくらいにしてやれ。結局のところ戦いってのは、より速くより強く当てたやつが勝つ。つまり腕力こそすべてだ」

戦士「極論をいえばそうなる。二の太刀要らずは剣士の理想だ。殊に魔物との戦闘においては、一撃で仕留める必要がある」

(^p^)「かまえて きります」

戦士「こうして勇者に反復練習をさせるのも、剣を振るう力をつけるという点では一番合理的な訓練方法なんだ」

戦士「勇者には一日でも早く魔物と戦えるよう成長してほしいからね」

戦士(かといって対人剣術を教えるつもりは毛頭ないがな。あんまり強くなられても僕が困る)

戦士(そもそも本気で力を鍛えたいなら横木打ちでもやらせるところだ。思わせぶりに格好さえ取り繕えば、素人どもは騙される)

戦士(もし疑念を抱かれたら、僕の学んだ『剣の道』、そいつを語ってやればいい)

戦士「剣の訓練に関してはこんなものかな」

戦士「さて、昨日も言ったが、今日からはしばらくパーティを二つに分けることにする。たった四人で二人ずつ、分けるというのも大仰だがね」

戦士(僕は訓練時代、この手の班分けの際はいつも三対一で後者だった)

戦士「卵狩りと情報収集を行う僕の補佐か、勇者の訓練の手伝いか」

戦士「遊び人と女僧侶には、それぞれどちらに来るか選——」

女僧侶「私はゆ」

遊び人「坊主の世話は俺がしよう。昨日は全員無傷で済んだが、まだまだ油断は禁物だ」

遊び人「役立たずの俺より回復役のお嬢ちゃんが行ったほうが安心できる。お嬢ちゃんもそれでいいな?」

女僧侶「たしかに、そうなりますね」

戦士「……欲しかったのは警戒役としてで、回復魔法を必要とする事態にはならないと思うが」

遊び人「魔物の相手をする以上保険は必要だ」



戦士「酒場の地図の写しによれば、魔王の卵のありそうな区域はまだまだ先だな」

戦士「ここら一帯、足跡の多さからして冒険者の通り道か。魔物の危険はなさそうだ」

女僧侶「それで、何か私に言いたいことがあるんですか」

戦士「内密の話がしたいというわけじゃない。間を持たすためのちょっとした世間話と受け取ってくれ」

女僧侶「前置きを並べたうえで、勘繰るなと仰いましても」

戦士「君は僕が嫌いかい?」

女僧侶「知り合って数日で打ち解けるほど、私は人付き合いが上手ではありません」

戦士「そういうものかな」

女僧侶「なにぶん修道院暮らしでしたもので」

戦士「勇者や遊び人といるときと、だいぶ感じが違っているね。話し方からしてそうだ」

女僧侶「そうでしょうか。自覚はありませんが」

戦士「そういう態度は改めたほうがいい。勘違いのもとになる」

女僧侶「突然何を仰るんです」

戦士「男は単純かつ愚かだと言いたいんだ。ああ、警戒してるようだけどその必要はないよ」

女僧侶「自意識過剰だとでも蔑むつもりですか」

戦士「いやすまない、今のは僕の物言いが悪かった」

戦士「君は確かに美人だ。気立てだって悪くない。一男性として正直に言わせてもらえば、自分のものにしてしまいたいと思わなくもない」

女僧侶「あなた、変態ですか」

戦士「男という動物は大抵、身近な女性に対し、そうした感情をひそかに抱いているものさ」

女僧侶「勇者さまは違います」

戦士「それには同意する。が、彼がどうであれ、男性一般が性的にたわい無いことに変わりはない」

女僧侶「結局、何が言いたいのですか」

戦士「君が僕に対してだけ態度を変えることは、畢竟、僕にとっても君にとっても不利益となる」

女僧侶「不利益とは?」

戦士「僕がトチ狂って、いや、恥ずべき勘違いをしてしまい、君が迷惑を蒙ることになりかねない」

戦士「思わせぶりな態度はね、たとえそれがどのような性質のものであれ、ろくでもない結末しかもたらさないんだ」

女僧侶「ろくでもない結末になると、どうして確信できるのですか」

戦士「経験則さ……いや、そんなあからさまな表情をしなくとも、君の言いたいことはわかる」

戦士「仮にも僕はリーダーだ。だからこそ命令しよう」

戦士「君にとって僕は旅の仲間であり、仲間以下でも以上でもない。君の内心はどうあれ、上辺ではそのように振る舞ってもらいたい」

戦士「それがお互いのためであり、ひいてはパーティ全体のためになる」

女僧侶「……わかりました」

戦士「君は僕が嫌いかい?」

女僧侶「まさか。大切な仲間ですよ」

戦士「僕が気持ち悪いかい?」

女僧侶「そんなこと思うはずないじゃないですか」

戦士「そうだ。それでいい」

戦士(僕に女転がしの才がない以上、せめて女に転がされることのないようにと楔を打ったつもりだったが……)

戦士(心的外傷というやつの影響だろうか、しつこく語りすぎたな。気持ち悪い男だと敬遠されたに違いない)

戦士(まあいい。後悔したって始まらん。勢い任せだったが、結果的に不干渉の確約、ある種の共犯関係は結ぶことができたんだ)

空き地

(^p^)「かまえて きります」

遊び人「ここを、こうか」

(^p^)「かまえて きります」

遊び人「いや。これが、こうなって」

(^p^)「かまえて きります」

遊び人「ここに通し、こう来るか」

(^p^)「かまえて きります」

遊び人「よし」

(^p^)「かまえて きります」

遊び人「ぎざぎざってのは、こんな感じだったか」

(^p^)「かまえて きります」

遊び人「ふむ」

(^p^)「かまえて きります」

遊び人「なるほど、角度が重要だな」

(^p^)「かまえて きります」

遊び人「たしかにこいつはあいつの剣だ」

(^p^)「かまえて きります」

遊び人「……」

(^p^)「かまえて きります」

遊び人「さて」

遊び人はあやとりの糸を丸めて立ち上がった。

(^p^)「かまえて きります」

遊び人「俺は酒でも入れてくる。坊主も飽きたら休憩しとけ」

(^p^)「かまえて きります」



戦士「成果はないが、そろそろ戻るか」

女僧侶「帰るころには日が暮れますね」

夕方、空き地

(^p^)「かまえて きります」

女僧侶「ただいま戻りま——勇者さま!?」

(^p^)「かまえて きりました」

戦士(地面の荒れ具合に、血まみれの手。まさか、あれからずっと素振りを続けたとでもいうのか)

女僧侶「早く治療を。手の平を見せないと」

(^p^)「つかが はがれました」

女僧侶「見てるこっちが痛いです! あちこち真っ赤じゃないですか」

遊び人「よお、お二人さんも戻ったか」

女僧侶「遊び人さんはいったい何してんです」

遊び人「あやとり、かな」

女僧侶「どうせ今の今まで飲み歩いたんでしょ、ふざけないで」

遊び人「坊主、お嬢ちゃんに叱られてるぞ」

(^p^)「しんぱい かけて ごめんなさい」

女僧侶「私は遊び人さんに言っています」

遊び人「だそうだ。坊主は独りぼっちでどうだった?」

(^p^)「けんを かまえて きりました」

遊び人「剣がお友達をしてくれたから寂しくなかったみたいだな」

女僧侶「勇者さまがこんなになるまで放っておいた、その神経を疑ってんです」

遊び人「大丈夫だ。怪我をしても回復魔法がある」

女僧侶「怪我をしたら痛いんです。そんなこともわからないんですか。お酒の毒のせいですか」

(^p^)「おんなそうりょさん ごめんなさい」

女僧侶「勇者さまは謝らなくていいんです。いけないのは遊び人さんですから。さ、手の平をこちらに。回復魔法をかけますから」

(^p^)「あたたかな ひかりれす」

女僧侶「このまま、じっとしてて下さいね……」

遊び人「へへっ、叱られちまったぜ。兄ちゃんはどう思う?」

戦士「女僧侶は勇者の身を案じているんだろう。君が悪い」

戦士(あの女を思い出す。忌々しい)

夜、宿屋

女僧侶「明日からは、私が勇者さまのお側につかせて頂きます」

遊び人「兄ちゃんと二人きりは気まずいのかい?」

女僧侶「どうしてそこで戦士さんが出てくるんです。あなたが昼間にしでかしたこと、もう忘れたんですか」

遊び人「へへっ、酒の毒が回っちまってな」

女僧侶「もはやあなたになんかに勇者さまは任せられません」

遊び人「——お嬢ちゃんは坊主の母親にでもなるつもりか」

女僧侶「なっ」

遊び人「くひっ。旦那役ならいつだって歓迎だぜ」

女僧侶「……え?」

遊び人「がおー、ってか」

女僧侶「ふふふ不潔です! や! 来ないで!」

遊び人「……冗談だ、そんな怯えた目で見るな、さすがに傷つく」

女僧侶「あ、あなた方にはデリカシーというものがないんですか」

遊び人「あなた方?」

女僧侶「あっ」

遊び人「まあいい。だいたいな、お嬢ちゃんくらいの年頃なら、俺の好みからはとっくに外れてる」

女僧侶「年相応の方が好みだということですね……む? とっくに?」

遊び人「そうさ。俺ももうジジイだ。年相応に、一桁くらいな年の娘っこが好きなのさ」

女僧侶「……もちろん孫的な意味、ですよね」

遊び人「お嬢ちゃんはどう思う?」

女僧侶「……」

遊び人「これも冗——」

女僧侶「はいそうですね。いつもの下卑た笑えない冗談ですよね。私はちゃんとわかってますから」

遊び人「お、おい」

女僧侶「だからそのっ、病気は治療できますからきっと! 遊び人さんお休みなさい!」

遊び人「……行っちまいやがった」

翌朝

(^p^)「けんの けいこは しないのれすか」

女僧侶「しばらくお休みです。その代わり、今日から私と一緒に、魔法のお勉強をしましょう」



遊び人「今頃坊主は授業中か」

戦士「君たちにそれを頼んだ僕が言うのもなんだが、魔法とは、こんな短期間で使えるようになるものなのか?」

遊び人「兄ちゃんの剣と一緒さ」

戦士「どういう意味だ?」

遊び人「専門家は大仰に秘奥扱いして見せているが、使うだけなら誰でもできる」

戦士「ほう」

村の教会の地下室

勇者を燭台の前に座らせて、女僧侶は尋ねた。

女僧侶「なにがみえますか」

(^p^)「ひが みえます」

女僧侶「火とは、なんですか」

(^p^)「ろうが もえて でます」

女僧侶「燃えるとは、なんですか」

(^p^)「もえなく かわります」

女僧侶「変わるとは、なんですか」

(^p^)「いない ことれす」

女僧侶「無いとは、なんですか」

(^p^)「わからなく なります」

女僧侶は蝋燭の火を消すと、暗闇のなかで魔道書の一節を唱えた。

女僧侶「見るものは、『それ』で満ち、見えざるものも、『それ』で満つ」

女僧侶「存在はすべて、『それ』より流れ出て、『それ』から、すべてが——」

女僧侶「しかも、『それ』は変わることなし」

女僧侶「……『それ』を感じますか」

(^p^)「それを かんじます」

女僧侶「わかりますか」

(^p^)「わかります」

女僧侶「ありますか」

(^p^)「あります」

女僧侶「かわりますか」

(^p^)「かわります」

女僧侶「もえますか」

(^p^)「もえます」

女僧侶「みえますか」

(^p^)「みえます」

女僧侶「それはなに」

(^p^)「それは ひれす」

蝋燭に火が点った。

数刻後

(^p^)「ひが つきました」

女僧侶「もう三本同時に。すごいです勇者さま。本当にすごい」

(^p^)「つかれました」

女僧侶「今日はこれでおしまいにして、ごはんたべに行きましょうか」

夜、宿屋

遊び人「お嬢ちゃんは起きてるか」

女僧侶「こんな時間になんですか。非常識だとは思いませんか」

遊び人「……授業の進み具合を聞きに来た。立ち話でいい」

女僧侶「勇者さまのことですか?」

女僧侶「それだったら聞いてください! 勇者さまったら今日だけで三本も同時に蝋燭を点したんですよ!? 三本ですよ三本!」

遊び人「なるほど」

女僧侶「魔力だけでいえばおそらく私と同等、いえ、私以上かもしれません」

遊び人「何の処置もなしに本職並みとは。勇者の血というやつだな」

女僧侶「おそらく開発訓練はもう必要ありません。ですので、明日は魔導書の解説に」

遊び人「第一魔法は飛ばせよ」

女僧侶「わかってますよ。それよりもです遊び人さん。私は回復魔法は教えられますが攻撃魔法はわかりません」

女僧侶「勇者さまに攻撃魔法を教えるのは遊び人さんの役目ですよね?」

遊び人「まあ、そのうちな」

女僧侶「ほんと、頼りにならない人ですね」

翌日、宿屋

女僧侶「今日はこのくらいにしましょうか。実践訓練は明日にしましょう」

(^p^)「まだ おひるれす」

女僧侶「そうですね。天気もよくって、部屋の中にいるのがもったいないくらいですね」

(^p^)「けんを けいこします」

女僧侶「今朝宿屋の人に聞きましたが、今日は広場のほうに行商が来るそうですよ」

女僧侶「午後はお休みということにして、行ってみませんか?」

(^p^)「せんしさんも あそびにんさんも いっしょれす」

女僧侶「お二人なら今頃は森の中ですよ。魔物がいるから、私たちだけでは呼びにいけません」

女僧侶「ですから、ほら勇者さま。広場へ参りましょう」



戦士「初回以来空振り続きか。気が滅入るな」

遊び人「坊主の鼻に頼ってみるか?」

戦士「ばかばかしい、と笑い飛ばせるような心境じゃないんだ。察してくれ」

遊び人「無闇に歩き回ったおかげでこの辺りの魔物の傾向はつかめてきた。成果はあるさ」

戦士「目に見える成果がなければ、意欲には繋がらないよ」

遊び人「意欲は教えられないと言った古人もある。地道な技の研鑽に比べれば、繋がるだけでも儲けもんだ」

戦士「僕の場合、そっちで苦労したことはないからね」

遊び人「意欲とは才能である、か」

戦士「会話の流れが雑だな」

遊び人「男二人、ぶらついてりゃあこんなもんさ」

戦士「その手の脱線はむしろ女のほうじゃないか」

遊び人「女々しくなるっつうこった」

村の広場

女僧侶「あのですねあのですね。この帽子なんかどうでしょう。きっとよくお似合いになりますよ。おじさまこれおいくらですか」

(^p^)「たびの おかねは だいじれす」

女僧侶「大丈夫、私個人のお金で支払いますから……だいたい、資金はみんな戦士さんが管理してますし」

(^p^)「もっと だいじな おかねれす」

女僧侶「……そうでしたね。いざというときのためのものでしたね」

女僧侶「申し訳ありません。私、軽率でした。軽挙妄動を戒めるお言葉、感謝します。ゆう」

(^p^)「それも ないしょれす」

女僧侶「ごめんなさいごめんなさい! ほんともう、私ってどうしてこう駄目駄目なんでしょう」

女僧侶「あなたを無理に連れ出してまで、何も買えませんし、浮かれて、迷惑ばかりかけるし」

(^p^)「みるだけで たのしいれす」

女僧侶「やっぱり、あなたは優しい……ううん。きれい、なんですね」

(^p^)「きれい なのれすか」

女僧侶「はい。あなたは、きれいな人です」

夜、宿屋

(^p^)「あそびにんさん」

遊び人「どうした。坊主も引っかけに行くのか?」

(^p^)「ぼくは きれいれすか」

遊び人「……誰が言った。酒場のきたねえごろつきか。どんな野郎か教えろ」

(^p^)「おんなそうりょさんが いいました」

遊び人「お嬢ちゃんが?」

(^p^)「ぼくは きれい なのれすか」

遊び人「締まりのねえ面をしているが、見ようによっては美男子だろうよ。酒場の親父が先代と見間違えたくらいだからな」

遊び人「しかしお嬢ちゃんがそう言ったとなると……ふむ」

遊び人「お嬢ちゃんの言うことについてはあまり深く考えなくてもいい、と俺は思う」

遊び人「ただな、その質問を他の人間にするのはやめとけ。特に男相手には、絶対に駄目だ」

翌日、空き地

(^p^)「おはなさん ごめんなさい」

女僧侶「茎は私が支えます。勇者さまは切り口に集中を」

(^p^)「かいふく します」

女僧侶「癒やしとは真なる秩序の生成です。真なる秩序のなかにあって、生命とは全き安楽に他ならず、死と苦痛は否定されねばなりません」

(^p^)「おはなさんが いえました」

女僧侶「そろそろ感覚はつかめましたか?」

(^p^)「つかめました」

女僧侶「では少し早いですが、次の段階に進みましょう……今から私が、勇者さまを傷つけます」

女僧侶がナイフを取り出した。

女僧侶「先に謝っておきます。申し訳ありません」

女僧侶「でも、これは必要なことなんです。きっと勇者さまのためになりますから——我慢、して下さいますよね?」

(^p^)「いたくても へいきれす」

女僧侶「では、いきます」

女僧侶は勇者の袖を捲るとその柔肌に刃で触れた。危なっかしい手つきであった。
産毛の間隙を刃先で探るような逡巡の後、女僧侶は息を止め、押し引いた。

(^p^)「ざらりと しました」

傷口から血が滲み出た。

女僧侶「勇者さまは回復魔法を」

(^p^)「かいふく します」

女僧侶「大丈夫、落ち着いて、絶対に成功します」

(^p^)「いたいのが きえました」

腕を拭うと出血は止まっていたが、うっすらと赤い線が残っている。

女僧侶「魔法を止めるのが少し早かったみたいですね」

(^p^)「もういちど かいふく します」

女僧侶「それはいけません。初心者の場合重ねがけは時間を置かないと逆効果になりかねません。回復は私がします」

(^p^)「きれいに なおりました」

女僧侶「さて勇者さま、今日の訓練はもう終わりです。傷は治したとはいえ痛い思いをされましたし、慣れない魔法でお疲れでしょうし」

(^p^)「けんを けいこします」

女僧侶「いけません! お体はちゃんと休めないと。それに魔法の疲れは自覚しにくいものなんです。とくにはじめのうちはです」

(^p^)「やどで やすみます」

女僧侶「その前にパン屋さんに寄りませんか? いつも食事は宿か酒場で済ましちゃいますから、たまにはお外で食べないと」

女僧侶「向こうの丘なんかいいでしょう」

夜の村

遊び人「王家の次男はろくでなし、梅毒、毛虱、ばらまく落胤っと……ありゃ坊主か?」

遊び人「木剣なんぞぶら下げて、こんな夜中にどこへ行く」

遊び人「……月はある。影に潜るか」

空き地

(^p^)「かまえて きります」

遊び人「例の素振りか」

(^p^)「かまえて きります」

遊び人「ごろつきどものうろつく時間に、のんきなもんだ」

(^p^)「かまえて きります」

遊び人「……酒が空だってのを忘れてた」

数刻後

(^p^)「ちが でました」

(^p^)「かいふく します」

(^p^)「ちが とまりました」

(^p^)「かまえて きります」

遊び人「ガキの浅知恵だな」

翌朝、宿屋

遊び人「今日は俺が坊主の世話をする」

女僧侶「どういう心変わりです?」

遊び人「三日足らずで自己回復まで行けたんだ。魔法に関わる者として、手を付けたくもなるだろう?」

女僧侶「そんなの勝手に過ぎます」

遊び人「ってのは建前でな」

戦士「君が休みたいだけか」

遊び人「そういう兄ちゃんこそここんとこ休み無しだ。甲斐無い魔物の殺生ばかりで、神経を磨り減らしちゃいないかい?」

戦士「僕は訓練されている」

遊び人「訓練されてないのが俺だ。働いたら負けかなと思ってる。なのに三日も負け続きだ」

女僧侶「勤労は義務です」

遊び人「聖典には罰とあったが」

女僧侶「全身罪で出来てる方に、配慮して言ったんです」

戦士「だが、遊び人の言葉にも一理あるな」

女僧侶「戦士さんまで働きたくないでござるなどと宣いますか」

戦士「いや、徒労は不労と変わらないと思ったんだ。ここ数日頑張って、魔王の卵も小魔王の情報も得られていない。結果だけ見れば無為に過ごしたようなものさ」

女僧侶「勇者さまは成長しました」

戦士「ただの人間ならそれで慰めになる。しかし勇者の場合は事情が違う。勇者にとって成長とは、経験値を得ることだ」

女僧侶「……そんなもの、なくたっていいじゃありませんか」

戦士「君は何を言っているんだ」

遊び人「よせ兄ちゃん、皮算用で白黒言うのもあほらしい。お嬢ちゃんは坊主の仲間になってくれた、その心意気を買ってやれ」

戦士「僕は別に、彼女の思想にどうこう言うつもりはないんだが」

遊び人「お嬢ちゃんもな。潔癖なのはいいことだ。大っぴらに必要悪を肯定しろとも言わん。ただ少し、大目に見てやってくれないか」

女僧侶「……待って。そもそもこの話の口火を切ったのは遊び人さんでは?」

戦士「遊び人。君のばかげた饒舌は、いつだって話をややこしくする」

(^p^)「きょうは なにを するのれすか」

戦士「っとそうだった。脱線していた」

戦士「先ほど無為云々と持ち出したのは、行動方針を変えようと思いついたからだ」

戦士「勇者の成長はともかくも、卵狩りの成果は最初きり。よって、今後はそちらより情報収集に重点を置きたい」

戦士「僕らはこれまで、小魔王の情報に関しては冒険者ギルド——酒場の店主だけを頼りにしていた。いや、鵜呑みにしていたといってもいい」

女僧侶「あのおじさまには大変お世話になっています。なのに、疑うんですか」

戦士「すまない。誤解を招く言い方だった。店主以外からも情報を集めようと言いたかったんだ」

戦士「酒場に集まる冒険者は勿論、村人から行商に至るまであらゆる人間に直接話しかけて、小魔王に繋がる情報を探る」

戦士「ここ数日の行動のせいか、人々の僕らへの心証は悪くない」

戦士「僕と遊び人は魔物討伐に熱心な冒険者で通っている。それに女僧侶、君はちょくちょく村人の怪我を治してやってるんだろう? 昨日も通り掛かりに礼を言われたよ」

戦士「だから聞き込みも村に来たばかりの頃よりはやりやすいと思うがどうだろう」

遊び人「異議はないな」

女僧侶「計算尽くみたいな感じがちょっと嫌ですけれど、私も一応、それでいいと思います」

戦士「よし。編成は今と同様二対二だが……遊び人、君は飲兵衛だから酒場での立ち回りは得意だろう?」

遊び人「俺の得意は芸で酒をたかることだ。情報収集なら見目好いお嬢ちゃんの方が向いている」

女僧侶「どうして私が」

遊び人「酒と稼ぎとで気を大きくした連中は、まず何を欲しがるか。元兵士の兄ちゃんならわかるはずさ」

戦士「……嫌な顔一つせず自慢話を聞いてくれる美女?」

女僧侶「男の人って最低ですね」

(^p^)「ぼくも さいていれすか」

女僧侶「もちろん勇者さまだけは違いますよ」

戦士(嫌な顔一つせずたわごとを聞いてくれる少年、か)

宿屋

遊び人「兄ちゃんとお嬢ちゃんはもう行ったな。坊主、手を出せ」

(^p^)「てを みせます」

遊び人「見た目なら問題ない、が」

遊び人は勇者の手を軽く握った。

(^p^)「いたいれす」

遊び人「だろうな。指周りってのは繊細な部分だ。素人魔法じゃ痛みが残り、下手すりゃ壊死することもある」

(^p^)「あそびにんさん ごめんなさい」

遊び人「お嬢ちゃんには言わんから心配するな。両手とも出せ。治療してやる」

(^p^)「てが なおりました」

遊び人「この感じからして、しびれたみたくずっと痛みがあったろう……こんな思いをしてもまだ剣術のまねごとがしたいのか?」

(^p^)「したいれす」

遊び人「そうか。木剣をとってこい。好きにさせてやる」

酒場

戦士(村人たちの言葉から、その情報源にたどり着いたけれども)

肥えた冒険者「デュフ、魔物の群れのことでござるか」

痩せた冒険者「ききっき聞きたいななら、せせっ誠意をみせっ見せるでござる」

戦士(よりにもよってこいつらとは……!)

肥えた冒険者「もちのろんろんうぃーずりー、よもやロハなどとはゆわんデュフでござるな?」

戦士(肥えた方は早くも弱みを握ったつもりでいる。というかあれ笑い声でなく口癖なのか。痩せた方はというと——)

痩せた冒険者「せせっせ誠意っ! せせーいぃ! せっせーしぃ! うっ……ふぅ、誠意でござる」

戦士(女僧侶を胸を凝視しつつ身を揺らしていた。テーブル下に隠した手はいったい何をさすったのやら)

戦士(気どころか魂からして違っている連中だ。どう切り出したものか)

痩せた冒険者「して兄者よ。こやつら全体何者であろうか。なりを見るに一介の冒険者にあらず。また隙無き所作を見るに、いずれも達者者に相違あるまい」

肥えた冒険者「デュフヒ、拗らせた弟者の物言いはよくわからんでござる。デュフるにただの冒険者とは違うようでござる」

痩せた冒険者「もとよりそう申しておろう? およそ魔物の群れなどどっ、もも求めるぼぼっぼ冒険者わはきききっきままんまんってておおおるでござる」

肥えた冒険者「デュフフフヒッ、とまれ我らは正義の冒険者でござる。いかなる相手でデュフフとも、応えねばならぬでござる」

女僧侶「な、なら教えて下さるんですか!?」

戦士(お花畑がっ、釣られやがって!)

肥えた冒険者「……ほほう、デュフ」

痩せた冒険者「なななっなるほどう、でござる」

女僧侶「それで、魔物の群れというのはいったいどこで……」

肥えた冒険者「あらゆるデュフには対価がござる。我らの情報が欲しくば、等価交換の原則を守るでござる」

痩せた冒険者「ささっさすがににニーサンでござる」

戦士(こんなやつら相手に惜しいが、仕方ない)

戦士は銀貨を一枚置いた。

戦士「言え。魔物の群れはどこで見た」

痩せた冒険者「ここっこれっぽちじゃだ駄目でござる。せせせめてここれくらいななくば」

戦士(よし。数を示されたなら半値に値切れる)

肥えた冒険者「待てデュフ、弟者よ。先ほど我らは正義の冒険者でござるとデュフったでござる。ゆえに金で動いてはならぬでござる」

痩せた冒険者「ななっな何をももも申すでござる」

肥えた冒険者「人生は金が全てではないのでござる。始終金に振り回され生くるのは、あまりに悲しいデュフでござる」

女僧侶「そ、そうです。その通りです」

肥えた冒険者「そして世の中には、金では買えぬ、かけがえのないデュフフがあるのでござる。弟者よ」

痩せた冒険者「ままっままさかそそっそれは」

肥えた冒険者「そう——愛でござる。デュフヒ」

痩せた冒険者「おおっおう、ららららぶりぃけぇいしょーんでござるな」

冒険者二人の目が、女僧侶に向けられた。

女僧侶「ひぅ……」

肥えた冒険者「ぬふぅでござる。我らが兄弟、久方ぶりのトゥーアナ・ハメールにデュフるでござる」

痩せた冒険者「あっあっアヘアヘ平和二重奏にござる」

戦士は柄に手をかけた。
が、旅の目的を思い出し、深呼吸すると、女僧侶を見遣った。

戦士「女僧侶さん。これは、君の大切な、彼のためなんだ」

快音が響いた。

空き地

(^p^)「かまえて きります」

遊び人「お? どうしたお二人さん。青い顔したお嬢ちゃんに、兄ちゃんは紅葉面……襲い襲われでもしたか?」

女僧侶「そうですねっ、あんなのそれと一緒です……!」

戦士「まいったな。冗談だって言ってるのに」

遊び人「聞き込み中に何があった」

戦士「ちょっと揉めてね。直接の情報は得られなかったが、まあ、とっかかりはつかめた」

女僧侶「非常に不快でした。つくづくあなた方は最低だと思——勇者さま?」

(^p^)「かまえて きります」

女僧侶「……剣の稽古はしばらくお休みするようにと、私言いましたよね。たしかに、言ったはずですよね。なのになんで素振りなんかしてやってますか」

(^p^)「ごめんなさい」

遊び人「俺がやらせてる」

女僧侶「魔法の授業はどうしたんです」

遊び人「やってるだろ? 『使わぬこと』を教えてんだ」

女僧侶「ならお休みにすればいいじゃありませんか」

戦士(掛かり合いになりたくない剣幕だがまあいい。さっきの件で僕も虫の居所が悪いんだ。発散に使わせてもらう)

戦士「ちょうどいい。勇者の上達ぶりを確かめようじゃないか」

戦士は予備の木剣を手にした。

戦士「勇者、僕が相手になる。地稽古だ」

女僧侶「そんな! 乱暴です! 勇者さまが怪我でもしたらどうするんですか!」

遊び人「大丈夫だ。怪我をしても回復魔法がある」

女僧侶「怪我をしたら痛いんです。そんなこともわからないんですか。お酒のど——ってこのやりとり前にもしましたよ!?」

遊び人「魔物どもに食われるよりか痛くはない」

戦士「怪我なんてさせないさ」

戦士(技は使わない。鍔迫りで圧し潰し、力の差を見せつける)

戦士「さあ、勇者。僕も親父切りで迎撃する。打ち込んで来い」

(^p^)「かまえて きります」

勇者が動き、戦士も動いた。
木剣が交差し、木の香が散った。

戦士(遅れた!? 間合いが近っ!? 馬鹿力はやはり頭があれで剛すぎる!? 外す否巻き突く否まだ踏み込むか——ならばっ!)

木剣を巻き流しつつ相手の懐に駆け、その顔面に柄頭を叩き込む。
それからすかさず背後に回り込んで剣身で首を絞めた。瞬く間のことであった。
見ていた二人のみならず、技をかけた当人までもが呆気にとられた。
血が顎を伝って喉まで流れ、木剣の刃に滲んだ。

(^p^)「はなぢが でました」

女僧侶が悲鳴を上げた。

戦士「ちがっ、今のは体が勝手に、こっこれはギロチンカットといって——だから違う! わざとじゃないんだ!」

遊び人「騒いでんのは女だけだ。見ろ、坊主も剣を握ったままさ」

(^p^)「すごい わざれす」

戦士「そ、そうかな!? あれは巻きという技術で防御を破る、いやはじめから言うと剛い柔らかいという概念や梃子の原理が——」

(^p^)「よく わかりません」

遊び人「お嬢ちゃんもいい加減喚いてないで坊主の鼻血を止めてやれ。さっきから何言ってっかわかんねえぞ」

宿屋

女僧侶「お加減はいかがでしょうか。お鼻と、喉もそうですし」

(^p^)「みんな へいきれす」

女僧侶「それにしても戦士さんったら最低ですよね。初心者の勇者さまにいきなりあんな技をかけるなんて」

(^p^)「せんしさんは よいひとれす」

女僧侶「勇者さまはお優しすぎます。あれがもし真剣だったら、喉を切り裂かれていたんですよ」

(^p^)「あれは けいこれす」

女僧侶「……でも良かったです。勇者さまが誰も傷つけなくって」

夜の村

戦士(ごろつきどもにあしらわれ、素人相手に我を忘れた。それはいい。しくじり自体は清算できる)

戦士(許せぬのはあの後無様に狼狽した、そのしみったれた根性だ)

戦士(全てを失ったあの日、僕は変わろうと誓った。だのに未だ甘さを、心の弱さを捨てきれずにいた)

戦士(己は変わった賢くなったと、ただ言葉を並べるだけで、その実まるで成長してはいなかった)

戦士(僕は僕自身が許せない。いつか匕首を突き立てようという相手に同情する、心の弱さが許せない)

戦士「畜生が……」

戦士(強く、なりたい。何事にも動じぬ心の強さを手に入れたい)

戦士が青ざめた顔で歩いていると、あるものが視界に入った。

肥えた冒険者「デュフ、首飾りを買ったでござる」

痩せた冒険者「おおっお贈り物でござるか」

肥えた冒険者「デュフフ、この冒険が終わったら我、求婚するでござる」

戦士(あの二人は……)

戦士「……そう、か」

戦士(いくら言葉を並べようと人は変われない。成し遂げることでしか、人は変われないんだ)

戦士(何のために旅をする? 強くなるためだ。強くなるには何がいる? 経験値だ。経験値を得るには……)

戦士「なるほど、簡単なことだったのか」

戦士(もはや手段は選ばない。僕は良心を飼い慣らして、心の強さを手に入れる……!)

村はずれの小屋の前

痩せた冒険者「あああのおなおなごはここっこの中でござるか?」

肥えた冒険者「デュフヒ、ブルーカーンも乙でござる」

戦士「抵抗するから縛っておいた。例の情報は事後でいいから、手短にな」

冒険者二人が小屋に足を踏み入れた。

肥えた冒険者「デュフ?」

痩せた冒険者「どどっどこでござ——おまっ!?」

戦士は抜剣し、肥えた冒険者の両ふくらはぎを切りつけた。
斬られた当人より先に痩せた冒険者が反応した。
返す刀で狙うも、そちらは斬撃と同時に飛び退いて片腿を浅く切るにとどまった。
冒険者二人はほとんど同時に、ヒキガエルに似た甲高い声を上げた。
戦士は肥えた冒険者の背後に回り、剣身を首にかけて、その身体がくずおれるのを阻んだ。

戦士「誰も動くなっ! 真剣だ!」

肥えた冒険者が息を呑み、身じろぎした。血が流れた。

痩せた冒険者「ひひっ人殺しでござっ……」

痩せた冒険者が跛を引いて外へ逃れようとする。

戦士「兄が死んでもっ、クソっ、喉を掻っ切る人質なんだぞ! 殺す気か!」

痩せた冒険者「ひゃぁっ」

戦士「人非人めっ! 人質だと言ったろうが! この人殺し! 殺してやる!」

痩せた冒険者は逃げ出して、戦士の罵倒が空しく響いた。

戦士(どうするどうする逃がしたどうする? 失敗——いやまだだ!)

首から剣を外し、仰向けになるよう蹴倒した。
剣帯から剣を奪って遠く放ると、あらためて相手の鼻先に剣を突きつけた。

戦士「抵抗は無駄だ。僕らは信頼されてる。弟の言葉は誰も信じない」

肥えた冒険者「……デュフっ、人、来る、ござる」

戦士「正当防衛を主張する。貴様らには覆せないと考えろよな……言え、魔物の群れをどこで見た」

肥えた冒険者「デュフヒ」

剣の平で頬を打った。

戦士「笑うなよ! 死にたいか!」

肥えた冒険者「さてはお主、童貞でござるな」

戦士「……弟に見捨てられたくせ、よくも口が回る」

夜の村

遊び人は勢いよくぶつかった。

遊び人「痛えな。当たり屋かよ」

痩せた冒険者「たったたた助けっ——ひひ人殺し!?」

遊び人「あん? 往来で何ほざいてやがる」

痩せた冒険者「おおまおまお前のな仲間が、あああの小屋で兄者を、せせ拙者のあ足だだって……」

遊び人「その口調じゃ何言ってんのかさっぱりだ。足がどうした? たしかに破けちゃいるが、怪我も何もねえじゃねえか」

痩せた冒険者「えっ」

遊び人「えっ」

どこからか棒切れが飛んで来て、冒険者の後頭部に当たった。

遊び人「気絶しちまいやがった」

村外れの小屋

肥えた冒険者「——お主に我は殺せぬでござる」

戦士(……落ち着け、このままではやつのペースだ。逆に考えるんだ。『殺しちゃってもいいさ』と考えるんだ)

戦士(考えろ、考えろ。これは良心を捨て去り、成長するチャンスなのだと考えろ)

戦士(あの日の裏切りのおかげで僕の目は覚めたのだ。ならばこそ、この殺人により、僕の精神はさらなる飛躍を遂げられる……!)

戦士「まだ、言うつもりはないのか」

肥えた冒険者「デュフヒ、童貞必死でござるな」

戦士「わかった。もう何も言わなくていいよ」

戦士は笑った。

戦士「まずは目を抉ろう」

あまりに自然な動作であった。冒険者は何をされたか気付けなかった。
もし戦士の肩が叩かれなければ、言葉の通りになっていた。切っ先は頬骨の辺りを切り裂いた。

遊び人「よっ」

戦士「……何かな?」

遊び人「言われた通り、手を回しといた」

戦士(目配せなんかしてどういうつもりだ)

遊び人「おい、クズ」

怯える冒険者に遊び人が顔を近づけた。

遊び人「いいことを教えてやる。俺たちは勇者の仲間だ」

肥えた冒険者「ゆう、しゃ……?」

遊び人「この意味、わかるか?」

肥えた冒険者「だ、だから、勇者だからどうだというデュフでござる」

遊び人が冒険者の頭を足蹴にした。

遊び人「何しても許されるってことだ言わせんな恥ずかしい」

肥えた冒険者「デュ、しょんな馬鹿なことあるはずござらん」

遊び人「馬鹿はてめえだ。勇者はこの国の英雄だぞ? 貴族連中が好き勝手やって、貴族より位が上の英雄さまが同じように出来ん道理はねえだろ」

遊び人「だのにてめえはその勇者の旅を妨害し、あまつさえ卑猥な要求までしやがった。手配の理由はそいつで充分、斬り殺されても文句は言えん」

肥えた冒険者「だ、だとしてもお主らが勇者だとの証拠はないのでござる」

遊び人「兄ちゃん。小魔王討伐許可証を見せてやれ」

戦士は遊び人の言う通りにした。
冒険者は押し黙り、縋るような目つきをした。

戦士「君、まさか自分は法に守られてるなんて、思ってないよね」

夜の村

戦士「小魔王の情報は得られた。口止めも問題ない。あのような方法があるなら、始めから使っていればよかった」

遊び人「通じるのは国内だけだ。みだりに使えるものでもない」

戦士「そうなのか……だが遊び人。負傷させた足の応急処置はともかく、別れ際に渡した金子。あれはよくないぞ」

遊び人「そいつなら問題ない。野郎の弟とぶつかってな——兄ちゃんのこともそこで知ったが——そんとき掠め取ったのがあの金だ」

戦士「……盗賊のほうが向いてるんじゃないか」

遊び人「歴とした手品さ。ちゃんと返してやったろ?」

宿屋、夜

(^p^)「あやとりが できました」

女僧侶「すごく……ぎざぎざですね。何でしょうか?」

(^p^)「つるぎ らしいれす」

女僧侶「教わったのはどなたから?」

(^p^)「あそびにんさんが してました」

女僧侶「またあの人は意味不明なことを……勇者さま、そんなものは忘れてしまって、私とご本を読みましょう」

(^p^)「どんな ほんれすか」

女僧侶「『七人の冒険者』です」

女僧侶「勇者さまのもとに七人の冒険者が集い、魔物の群れから村を救うお話です。冒険者たちとの絆や、小魔王との一騎打ちが見所です」

(^p^)「じんぼうが あるのれすね」

女僧侶「勇者さまですもの」

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom