兄「妹が死んだ」 (9)
兄「……」 ガチャッ
妹の部屋は、あいつがこの世を去った日のままだった。
兄「妹」
俺は妹の名前を呼ぶ。だが返事はない。
溢れ出しそうになる涙を堪え、妹の面影を探して部屋を見回した。
動物のカレンダー。使用済みのバスタオル。それにパンツ。
兄「このパンツは、あの時の」
俺はパンツを鷲掴みにして言った。
それは、妹が死んだ日に履いていたパンツだった。
兄「妹」
形見のパンツで涙を拭い、俺は記憶を遡っていた。
あの日、俺は友達と映画に行くはずだった。
だが友達は野球部の練習が入り、映画をキャンセルした。
そして俺は、妹を映画に誘った。誘ってしまった。
兄妹二人の他愛無い日常。
少しの口論と多くの笑顔の、そんな優しい昼下がりに。
妹は殺された。倒れた妹のパンツは水色だった。
ぐぅ。腹が鳴る。
兄「こんな時でも、腹は減るんだな」
朝アニメの女の子が描かれた時計は、七時を指していた。
もう晩飯時だ。
だが、しかし。妹はもう、その食卓にはいない。
妹が物を食べる事は、もうない。
兄「むぐおっ!」
俺は握り締めていたパンツを口に突っ込んだ。
もふもふの生地に唾液が染み込んでゆく。
心なしかパンツは甘い味がする。
兄「いもうふぉ、いもうふぉぉぉ」
俺はパンツを噛み締めながら号泣した。
唾液塗れのパンツを吐き出した俺には、そのパンツが妹そのものに思えた。
兄「どうして俺を置いて行っちまったんだよ……妹」
妹「生きてるから。それと晩御飯できたよ」
兄「はいはい」
俺は妹のパンツを股間に仕舞い立ち上がった。股間も立ち上がった。
妹「おい」
兄「鬼のような顔で俺を見る妹に背を向け、俺は脱兎のごとく逃げるのであった」
妹「ふざけんな! ていうか人の部屋で何やってんの!?」
兄「妹の死を嘆いてパンツを食べるお兄ちゃんごっこ」
妹「お兄ちゃんは早く死ね! 私と世界の平和のために死ね!」
結論、うちの妹は可愛い。
大長編でしたね、おやすみなさい
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