妹「廃線になる前に」 (44)

―兄の部屋―

妹『お兄ちゃん、入っていい?』

兄「いいよ」


兄「どうした?」

妹「何でもないの。ちょっと暇だから」

妹「何読んでるの? 時刻表? どこか行くの?」

兄「いや、別に。僕も暇だから何となく読んでただけなんだけど」

妹「ふーん」

兄「そう言えば、僕たちが通学で使っていた老軽電鉄が廃線になっちゃうんだよな」

妹「え? そうなの? いつ?」

兄「今日が最後なんだよ」

妹「今日? 何だか寂しいわねぇ」

兄「だな」

妹「ねぇ、今から乗りに行かない? もう乗れないでしょ?」

兄「今から? 間に合うかなぁ。 ちょっと調べてみるね」



兄「特急列車で行けば最終電車に間に合うね」

妹「じゃ乗りに行こうよ、廃線になる前に」

―特急列車車内―

タタン タタンタタン

兄「来週の金曜日は妹の誕生日だったな」

妹「やぁね、忘れてたの?」

兄「忘れてたわけじゃないよ」

兄「バースデープレゼントのリクエストある?」

妹「そうねぇ……、プライスレスのものでもいい?」

兄「いいけど」

妹「考えとくね」

―老軽電鉄電車内―

タタン タタンタタン

妹「電車も駅も、学生の頃と全然変わらないね」

兄「レトロな雰囲気だから、テレビのCMやドラマとかにもよく出てくるよな」

妹「それにしても、結構混んでるわね」

兄「僕たちと同じで、もう最後だから乗っておこうってみんな思っているんだよ」

妹「何とかならなかったのかなぁ」

兄「しょうがないよ、利用するお客さんが減ってここ数年赤字続きだったらしいから」

妹「毎日これだけお客さんが乗っていれば廃線にならなかったよね?」

兄「まぁね、皮肉なもんだよ」

妹「明日からはどうなるの?」

兄「代わりにバスが走るんだよ。平行する道路にね。線路や駅は少しずつ撤去されていくんじゃないかな」

妹「ふーん……」

―老軽電鉄終着駅―

放送「終着駅、終着駅です。お忘れ物無いようにご注意ください」

妹「着いちゃったね……、最後の駅に」

兄「もう、終わりだね。乗って来たこの電車も、もう動く事は無いのかな」


放送「この列車の到着をもちまして、老軽電鉄はすべての営業を終了いたします」

放送「切符は記念にお持ち帰りください。皆様夜も更けておりますのでどうかお気をつけてお帰りください」

放送「長年にわたり老軽電鉄線をご利用くださいましてありがとうございました」

妹「お兄ちゃん……」ジワッ

兄「ん?」

妹「私、寂しい…、えぐっ……ひっ」

兄「ばかだな、何も泣くこと無いだろ」

妹「寂しい…、寂しいよぉ…、ぐずっ…、ひっ…、ひっ」

兄「……」

妹「えぐっ…、ひっ…、ひっ」

―帰宅後―

妹「ごめんね。終着駅では取り乱しちゃって」

兄「何てことないよ。泣きたい時は我慢しないて泣くのが一番さ」

兄(本当は結構見られて恥ずかしかったけど)


兄「妹、今時間ある?」

妹「うん、あるけど?」

兄「ちょっと座って」

妹「?」

兄「終着駅で僕の胸で泣いたのは、老軽電鉄が廃線になっただけじゃないんじゃないの?」

妹「……」

兄「妹は鉄道に興味があるわけでもないだろ? 老軽電鉄の事なんか今まで話しにも出てこなかったのに」

妹「……やっぱりお兄ちゃんにはかなわないなぁ」

兄「何か、あったのか?」

妹「……」

兄「話してごらん? 相談に乗るから」

妹「あのね、3週間前、彼と別れちゃったの」

兄「別れちゃったのか?」

妹「……」

妹「」ポロポロ

兄「ど、どうしたの!?」

妹「お兄ちゃん聞いて。別れた日、彼に誘われてホテルに行ったの」

兄「うん」

妹「初めてだから優しくしてって言ったら、彼何て言ったと思う? ぐずっ」

兄「何て言ったの?」

妹「『その歳なのに男性経験がないのか? はー気持ち悪い』って言ってそのまま部屋から出て行っちゃったんだよ」

妹「ホテル代も払わずに。 ぐずっ」

兄「そんな酷いこと言われたのか? 最低のクズ野郎だな」

妹「もう私、怖くて誰にも経験が無いなんて話せないよぉ ぐずっ」

兄「随分辛い思いしたなぁ」

妹「だからお兄ちゃん、今度の誕生日に、ううん、誕生日が来る前に私を女にしてよ」

兄「へ!?」

妹「40歳の大台に乗る前に女にしてよ!」

兄「そ、そうは言ってもなぁ」

妹「もうひとり前の彼は結婚詐欺師だったし、私もう、お兄ちゃん以外の男性なんて誰も信じられないよ……」

兄「うーん……」

妹「おばさんなのに経験がなくて、このままお婆さんになるなんてやだ」

妹「私の心も体も廃線になる前に、乗り入れて来てよ、お兄ちゃん……」

兄「廃線になるなんて言うなよ。39歳とかとか40歳なんて、まだまだ女盛りだよ」

兄「妹は美熟女なんだから、もっと自分に自信を持ちなよ。近所では『下町の藤原紀香』って言われているの知ってるだろ?」

妹「私が女になれば、自分に自信が持てると思うの。だからお願い。私を女にしてよ!」

兄「もっと自分を大切にしな」

妹「大切にしすぎたからこんな歳まで…ぐずっ」

兄「あのな妹、僕とヤっちゃえばその事でもっと気持ち悪がられるぞ?」

妹「どっちにしたって気持ち悪がられるでしょ? だったら私、唯一信頼できる男性に女にしてもらった方がいいもん」

兄「僕が誰かいい人紹k」
妹「お兄ちゃんじゃなきゃやだ!」

兄「……」

兄「まぁ僕も無精子症を理由に無理やり離婚させられて義父に酷い事言われたから、妹の気持ちは解らなくもないよ」

兄「僕たち異性運とか結婚運とかついてないよね。遺伝子が同じだと運も似ちゃうのかな」

妹「うん」

兄(こんな時にダジャレかい)

兄「だけど僕と一線越えて、その後どうするつもりなの?」

妹「今のまま、2人でずっと暮らしていけたらいいなって思ってるわ」

兄「そう、か」

兄「まぁお母さんは10年以上前に死んじゃったし、お父さんとは殆ど音信不通だしな」

兄「それじゃこうしようよ。今日はもう遅いから寝よう。酒も飲んじゃったしね」

兄「一晩寝れば頭も冷静になるから、それでも今の気持ちが変わらなければ妹の望みに応えるよ」

妹「うん。先にお風呂に入るね」

―翌朝―

兄「……」

妹「……」

兄「昨日の話だけど……」

妹「一晩寝ると、冷静になるよね本当に」

妹「でも、昨日言った事は本当の事だし、気持ち変わらないから」

兄「変わらないか」

兄「あれから色々考えたんだけど、親戚も友達もいない所で、夫婦として暮らさないか?」

妹「え?」

兄「嫌か?」

妹「ううん、全然」

兄「今日、パートは休みだったよね?」

妹「うん、そうだけど?」

兄「じゃ、今日はこれからデートしよう」

妹「お兄ちゃん会社は?」

兄「今日はサボり。会社も頃合い見て辞めるから。新しい場所で新しい仕事を探すよ」

妹「私も頃合い見て今のパート辞めなくちゃね」

兄「今日はペアリングを買うかな。付き合ってくれるよね?」

妹「もちろん!」

兄「じゃ、これから新しく始まる2人の生活へ」

兄・妹「出発進行!」

終わりです。
保守、さるよけなどありがとうございました。

年齢考えろ下さい


「老軽電鉄」や「終着駅」という名前の鉄道や駅は実在しません。
(念のため)

>>40
IDww
40歳はNOというわけですねww

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom