< 家 >
父「…………」
母「…………」
父「あいつは自分の部屋にいるのか?」
母「はい……」
父「あいつは未だに働こうとしないのか」
母「はい……」
父「困ったものだ……どこで育て方をまちがえたのだろうか」
父「毎日毎日、部屋にひきこもって同じことを繰り返す日々とは、しょうがない奴だ」
父「しかし、よくもまあこんな生活に飽きないもんだな」
父「このエネルギーを仕事に向けられればいいのだがな」
母「ええ……」
父「ハァ……」
父「ところで部屋の外には、まったく出てこないのか?」
母「いえ、そんなことは……」
母「時折、出かけることもあるんです」
父「なにをしに出かけてるんだ?」
母「さぁ……」
母「私にはなにも話してくれないので」
父「ふ~む」
父「なにか高額な商品を買ったりってことはないだろうな?」
父「いきなり何十万円の請求、とかがきても困るぞ」
母「そういうことはありませんが……」
父「FXだかなんだか知らんが、そんな訳のわからんもんで仕事した気になって」
父「世間体ってもんがあるだろうに」
母「はい…」
母「ただ……」
父「ただ?」
母「パソコンでなにかやっているようで……」
母「時折、妙な粉を通信販売で購入しています」
父「粉?」
父「今流行ってるらしい、合法ドラッグとかの類じゃないだろうな」
母「私には……分からないです」
父「働かない上に麻薬中毒にでもなられたら、大変だぞ」
父「ふ~む、仕方あるまい」
父「こうなれば、話し合ってみよう」
父「あいつももう26だ」
父「せめてアルバイトでもいいからやらせんと……話にならんだろう」
母「ええ、だけど気をつけて下さいね」
母「あの子を刺激したら、どんなことになるか分かりませんから」
父「ああ、なるべく穏便に話し合ってみるつもりだ」
父「あいつの部屋に行ってみる」スッ
< ニートの部屋の前 >
コンコン
父「オイ、話がある」
ニート「!」ビクッ
父「開けなさい」
ニート「…………」
父「開けないのなら、俺が開けるぞ」
ガチャッ……
┌┴┐┌┴┐┌┴┐ -┼-  ̄Tフ ̄Tフ __ / /
_ノ _ノ _ノ ヽ/| ノ ノ 。。
/\___/ヽ
/ノヽ ヽ、
/ ⌒''ヽ,,,)ii(,,,r'''''' :::ヘ
| ン(○),ン <、(○)<::| |`ヽ、
| `⌒,,ノ(、_, )ヽ⌒´ ::l |::::ヽl
. ヽ ヽ il´トェェェイ`li r ;/ .|:::::i |
/ヽ !l |,r-r-| l! /ヽ |:::::l |
/ |^|ヽ、 `ニニ´一/|^|`,r-|:
< ニートの部屋 >
父「久しぶりだな……」
ニート「うぅ……お、お父さん……」
父「相変わらず引きこもって、筋トレばかりやってるのか」
父「しかも、また大きくなったようだな……身長も体重も」
ニート「うん……身長は205cm、体重は180kgになったよ」ムキッ…
父「体脂肪率は?」
ニート「5%を切ったかな……」
父「そうか……」
父(昔買ってやったダンベルだけで、ここまでになるとは……)
父「ところで、母さんの話じゃたまに出かけるらしいが、何をしてるんだ?」
ニート「インターネットを通じて格闘家仲間と交流して、野試合をやってる……」
父「野試合?」
ニート「リングの上とかじゃなく、路上で格闘技戦をやることだよ」
ニート「もちろんルールなし、でね」
父「勝敗は?」
ニート「今のところ……1628勝0敗、かな……」
父「そうか……」
父「ところで……」
父「通信販売でなにか粉、を買っているそうだが……」
ニート「え、ああ……」
ニート「あれはね……プロテイン」
ニート「筋トレ後や就寝前に飲むと、筋トレの効果が増すんだ」
ニート「ただのタンパク質だから、危ないものじゃないよ」
父「そうか……」
父「お前の筋トレや格闘技への情熱はよく分かった」
父「だがな……」
父「本来、お前の年齢なら、せめて自分のプロテイン代や野試合の交通費ぐらいは」
父「自分で稼がなきゃならない」
父「それは分かるよな?」
ニート「!」ギクッ
ニート「う、うん……」
ニート「分かってる……」
父「それに、せっかく鍛え上げた筋肉も──」
父「社会のために役立てなければ、宝の持ち腐れだ」
父「もう20歳を過ぎたのに」
父「筋肉のハリやツヤはまるで10代の少年のようだ」
父「自信を持て!」
父「お前は絶対に社会や人様の役に立てる人間だ!」
ニート「お、お父さん……!」グスッ
ニート「分かったよ!」ムキッ
ニート「ボク、働くよ」ムキムキッ
ニート「ニート生活で鍛え上げたこの筋肉で、社会の役に立ってみせるよ!」ムキキッ
ニート「ありがとう、お父さん!」ムッキン
父「分かってくれて、俺も嬉しいよ」
ニート「よぉ~し、やるぞ!」ズシンッ
父「お前の腕力なら、引っ越し業者とかが向いてるんじゃないか?」
< 引っ越し屋 >
先輩「オ~イ、新入り!」
ニート「はいっ!」
先輩「このタンス、一人で運べるか!?」
ニート「任せて下さい!」
ニート「よいしょ」ヒョイッ
先輩「おいおい、あんなでかいタンスを軽々と……すげえ新入りが入ったもんだ」
客「すごい力持ちですなぁ」
ニート「そんなぁ~……照れますよ」ギュウ…
メキメキメキメキ……
バキバキバキバキ……!
ニート「あぁっ! しまった!」
先輩(タンスが新入りの両腕に抱き締められて、砂時計みたいな形に……!)
客「あわわわわ……」ジョボボ…
ニート「うわぁ~~~~~ん!」
ニート「ボクのせいでタンスがぁ~!」
< 家 >
父「そうか……」
父「お客さんのタンスを破壊して、お客さんを失禁させて」
父「一日でクビになったか……」
ニート「ごめんなさい……」
父「いや、いいんだ。仕事に失敗はつきものだ」
父「これに懲りず、次の職場で頑張れ!」
ニート「うん!」
< 工事現場 >
監督「今日はこの道路を掘り起こす!」
監督「新入り! おめえはあっちに立って、人や車が来ないようにしろ!」
ニート「はいっ!」
ニート「…………」
ニート「人も車も通りがからない……」
ニート「ヒマだなぁ……」
ニート「そうだ!」
ニート「ボクもちょっと地面を掘ってみよう!」ホリホリ…
ニート「向こうのドリルより、ボクの方がずっと早く掘れてるぞ!」ホリホリ…
ニート「ん?」
ブラジル人「不法入国デース」
ニート「しまった! ブラジルに着いちゃった!」
< 家 >
父「そうか……」
父「勝手に地面を掘った上に、ブラジルに不法入国して一日でクビになったか……」
ニート「うん……」シュン…
父「だったらいっそ、ちゃんとした格闘技界でデビューするか!」
父「俺のコネで、いきなりチャンピオンと試合をさせてやろう!」
ニート「本当!?」
ニート「ありがとう、お父さん!」
ニート「ボク、絶対世界チャンピオンになるよ!」
< リング >
カァーン!
実況『試合開始です!』
ニート(お客さんが大勢いて、緊張するなぁ)ドキドキ…
ニート(普段やってる野試合とは、全然ちがうや)ドキドキ…
チャンプ「てやっ! でやっ! とうっ!」ペチッ ドカッ パキッ
ニート(やっぱりボク……こんな大舞台は耐えられないよ……)ドキドキ…
チャンプ「だりゃっ! せいっ! うりゃ!」バシッ ビシッ ベチッ
ニート(お父さんには悪いけど……帰ろう!)ダッ
死人がでるな…
ドゴンッ!!!
チャンプ「ぎゃんっ!?」
実況『お~っと、突然走りだした挑戦者に、チャンプがハネ飛ばされた!』
ズガァンッ!!!
実況『チャンプの全身が天井にめり込んだ!』
ニート「ごめんなさいっ!」ダダダッ
実況『挑戦者、逃げてしまったぁっ!』
解説『これは悪質なひき逃げ事件ですねぇ』
< 家 >
父「そうか……」
父「満員の観客の前で緊張してしまったか……」
父「ちなみに試合は無効試合となり、チャンピオンは全治六ヶ月の重傷だそうだ」
ニート「ごめんなさい……」
ニート「やっぱり人前だとどうしてもあがっちゃって……」
父「う~む……」
父「だったら……某国の大統領警護でもやってみるか?」
< 某国 >
ニート「よろしくお願いします、大統領」
大統領「ミーはユーには期待してますヨー」
バババッ!
テロリスト「死ねっ! 大統領っ!」チャッ
大統領「ワオ!?」
ニート「むっ!」ササッ
パンッ! パンッ! パンッ!
ニート「ボクに拳銃なんか効かないぞ!」ムキッ
キンッ! キンッ! キンッ!
テロリスト「ゲェッ!?」
ニート「大統領は向こうへ逃げて下さい!」ガシッ
大統領「オ~、パワフル!」
ニート「えいっ!」ブオンッ
大統領「オ~、ミーはフライングしてマース!」ギュウゥゥゥン…
ドゴォンッ!
ニート「あっ……」
ニート(しまった、大統領を約200メートル投げ飛ばしちゃった!)
< 家 >
父「そうか……」
父「テロリストは退治したが、大統領に大怪我を負わせて」
父「やはり一日でクビ、か……」
ニート「うん……」
ニート「せっかくお父さんが紹介してくれた仕事なのに、ごめんなさい……」
父「いや……気にするな」
父「人間には向き不向きがあるからな」
父(う~む)
父(並みの仕事では、息子は筋肉を持て余してしまうようだ)
父(せっかく恵まれた肉体があるのに、もったいない)
父(なにか、息子に見合った仕事はないものだろうか)
父(こればかりは、ハローワークに頼んだところでどうにもならんだろうな……)
すると──
テレビ『突然ですが、ニュースです!』
テレビ『高さ数千メートルの巨大な波が、日本に迫っているという情報が入りました!』
テレビ『皆さん、避難して下さい!』
テレビ『避難して下さい!』
ニート「ええっ!?」
父「なんだとぉ!?」
父(高さ数千メートルの波など、どうしようもないじゃないか!)
感動した>>1乙
寝る
父「息子よ!」
父「母さんを連れて逃げるぞ!」
父「少しでも内陸に避難するんだ!」
ニート「…………」
ニート「いや……ボクが波を食い止めるよ!」
父「なにぃ!?」
父「いくらお前でもそれは無茶だ! 津波は本当に恐ろしい自然災害──」
ニート「だけど……ボクがやらなきゃだれがやるんだよ! お父さん!」
父(た、たしかに……)
< 沿岸部の町 >
ゴォォォォォ……!
町長「波がすぐそばまで迫っておる……」
町長「もうダメじゃ……この町は終わりじゃ!」
町民「あんな山のような波……逃げ切れるわけがない!」
女「全て滅んでしまうのね……」
子供「うわぁ~~~~~ん!」
自衛隊員「くそっ……俺は己の無力さを呪うぞ!」ガンッ
町長「子野町は終わりじゃ」
父「たしかに」
ニート「僕には無理じゃ」
ニート「でやあああっ!」ダダダッ
町長「あれはだれじゃ!?」
町民「波に立ち向かうようです!」
女「ムチャよ! すぐ波に押し潰されて終わりだわ!」
子供「だめぇぇぇっ!」
自衛隊員「引き返すんだ! 命はないぞ!」
ニート(いや……ボクは確信している)ダダダッ
ニート(この波を止めることができるのは……ボクしかないと!)ダダダッ
ザバァァァァァ……!
ニート「うおおおおおおおおおっ!!!」バッ
ガシィッ!
グググ……!
町長「なんじゃと!?」
町民「すごい、両腕だけで巨大な波を押さえている!」
女「なんて力なの!?」
子供「すごぉ~い!」
自衛隊員「まさか……波を腕力で食い止めるなんて……!」
ニート「これが──」
ニート「お父さんのお金とお母さんのご飯で作った……」
ニート「ボクの筋肉だァァァァァ!!!」
グンッ!
バシュゥゥゥゥゥ……!!!
町長「な、波が……」
町民「消えた……」
女「信じられないわ……!」
子供「すごいや、すごいや! スーパーマンだ!」
自衛隊員「敬礼!」ビシッ
ニート「や、やったぁ……」ドサッ…
町長「なんという若者じゃ……」
町民「ありがとう! 本当にありがとう!」
女「私たち、生きてるのね……彼のおかげで……」
子供「ボクもお兄さんみたいなスーパーマンを目指すよ!」
自衛隊員「君はこの町の──いや日本の英雄だ!」
ニート(お父さん、お母さん、ありがとう……)
数日後──
総理大臣「先日の功績を称え、ニート君を我が国公式の“守護神”に任命する」
総理大臣「これからも頑張ってくれたまえ」
ニート「ありがとうございます!」
ニート「ボクは守護神として、色々な災害から日本の人々を守ります!」
母「あの子ったら、すっかり立派になって……」ウルッ…
父(波を食い止めたことで、息子に責任感が生まれ、いい仕事にも恵まれた……)
父(そうか……)
父(これが本当の“波浪ワーク”だったというわけか)
おわり
クッソワロタwwwww
けどセンスは…
>>1乙
< 父 >
父「…………」
父「…………」
父「あいつは自分の部屋にいるのか?」
父「はい……」
父「あいつは未だに働こうとしないのか」
父「はい……」
父「困ったものだ……どこで育て方をまちがえたのだろうか」
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