友「まさか、居残りさせられるなんてねぇ」

男「宿題を忘れたお前が悪い」

男(俺は数少ない友達に、居残りの付き合いをさせられていた)

男(残念ながらその友達は男だが、まぁ腹を割って話せる仲ではある)

友「まぁそう眉間に皺をよせないで、リラックスしなよ」

友「ハゲちゃうよ？」

男「ふぅん、なら今すぐ帰らせてもらおうか？」

男「帰りにスーパーにも寄りたいし、セールに備えたい」

男(タイムセールは貧乏学生にとっては大切な戦いだからな)

男(仕方のない事だ)

友「そんなぁ、僕を置いていくなんて酷いなぁ男は」

男「ニヤニヤしながら言うな、気持ち悪い」

友「へいへい」

男「兎に角さっさとそれを終わらせろ、このアホ野郎」

男(明日の分もコロッケ買いたいからな)

友「そんな事言いながらも、やっぱり待ってくれるなんて」

友「ははっ、本当にツンデレだね、君は」

男「付き合ってるのはお前がジュースを奢ると言ったからだ」

男「決して俺はツンデレなんかじゃない」

友「あーはいはい、そういう事にしておくよ」


男「…はぁ」

友「ため息すると幸せ逃げるよ？」

男「お前に付き合わされて、俺はこれ以上ない程に不幸だよ」

男(もう6限が終わって1.5時間は経っているしな)

友「…分かった、早く終わらすよ」

男「初めからそうしてくれよ、まったく」

男(二階の教室の窓から見える景色は綺麗なものの、一緒にいるのが可愛い彼女じゃなくて腐れ縁のコイツだしなぁ)

男(誰だ、高校生活が薔薇色って言った奴は)

男(もしかしてアッチの意味の薔薇なのか…？)

男(だったら速攻辞めてやる、高校なんて)

友「…なんか、くだらない事考えてない？」

男「…うっせ」

男(その後、15分もしない内に居残り課題を終わらせた友は、図々しくも俺のチャリの後ろに乗り込み…)

友『初乗りで行ける所まで』

男(なんて言い始めた)

男(なのでとりあえず、友には料金としてスーパーでの買い物の手伝いで、セール品を奪い合うマダム達の戦争に放り込み、コロッケとメンチを取らせ、尚且つ飲み物として麦茶(2L)を買わせた)

男(首筋にキスマークがついている所からして、誰かに気に入られた様だ)

男(あぁ、羨ましい(棒))

友「…疲れたよ、男」

男「良い運動になったんじゃないか？」

友「心もすり減った気がする」

男「そうか、なら大変だな、急いで帰ろう」

友「…今、ほくほく顔の君を無償に殴りたくなったね」

友「何故だろう？」

男「何故だろうな」

男(161cmのお前から睨まれても別に怖くないぞ、友よ)

友「…とりあえずその物理的な上から目線を辞めて欲しいね」

男「腰と背中が痛くなるから嫌だ」

友「……」

男「あ、後膝も」

男(因みに俺の身長は182cm)

男(生活力と身長だけは友に絶対勝てる自信がある)

友「ふん、成績では僕に見下ろされてるクセに」

男「何か言ったか？」

友「何もー？」

男(ふい、とそっぽを向く友はまるで小学生の様だ)

男(…こんな事言ったら本気で怒りそうだな、コイツ)

友「…………あれ？」

男(必要以上に身長をいびられると、怒るのが友の特徴だ)

男(後、年上の女に好かれる)

男(まぁ、これは納得の特徴だわな)

友「なぁ、男？」

男「どした？」

友「その、いつも眠そうな眼を今から見開かさせてやるって言ったら？」

男「…何が言いたいんだ？」

友「あれ、見てみてよ」

男「あれって、どれだ…？」

男(友の指差した方向には、電柱とそれに張り付く黒髪ロングストレートの女の子が存在していた)

男(見る限り、俺らと同じ高校の制服を着ている)

友「目は覚めたかい？」

男「元から覚めてる」

友「そうかい」

友「それで、感想は？」

男「感想って、何の？」

友「とぼけないでよ」

友「今、まさにこっちを向いて僕達を見ている女の子についての感想だよ」

男「…タイプではない、かな」

友「そっか、じゃあ後はよろしく」

男「はぁ、あ、オイコラぁぁぁぁぁぁあ！！！！」

男(アイツ、いつの間にか俺のチャリ盗って、さらには逃げやがった！)

女「…ねぇ」

男「は、はいっ！？」

男(…厄介事に巻き込まれる才能は、友より俺のがあるってか？)

女「私に何か用？」

男「いや、別に？」

女「そう、なら早く何処かに行ってくれない？」




女「私、愛しの彼の事で忙しいの」

男(あ、この娘ヤバイわ)

男(だって目に光が無ぇもん、マジで)

女「人の恋路を邪魔するなら容赦はしないけど？」

男(…あれが本物なら、スタンガンなんて初めて見たなぁ)

男(あははは…)

男「……はぁ」

女「何よ？」

男「何処かに行ってあげたいけど、残念ながらできませんわ」

女「何故？」

女「理由次第では、貴方を[ﾋﾟｰｰｰ]けど…」

男「俺の家、そこなんですわ」

男(そう言って、俺は右手側に見えるボロいアパートを指差した)

男(この時程、家がスーパーに近いこの場所に建っている事を恨んだ事は無いと思う)

男(ーーこれが、彼女との出会いだったって訳だ)

男(ーーーーそして現在)

男(あの時に彼女に関わってしまったせいか、この一週間、妙にじっとりと湿った視線を時たま背中に感じる事があるようになった)

男(そんな背筋が凍る視線を直に体感するという、あまりしたくない経験をして)

男(今日(こんにち)、金曜日という乗り越えれば土日(ご褒美)が待っている日に、視線の主から嬉しくないボーナスステージ出現が言い渡された訳だ)

男「…で、今俺はこんな路地裏のカフェにいる訳か」

女「…独り言が多いのね」

男「お前が口開けねぇからだろ、おい」

男(こんな洒落たカフェにいきなり連れこみやがって)

男(帰宅部系高2男子の俺にはまだデビューするには早い場所だぞ、絶対に)

女「…貴方、ここの雰囲気に合ってないわね」

男「わかっとるわい」

男「…で、話ってなんだよ」

女「せっかちな男はもてないわよ？」

男「…殴って良いか？」

女「女の子に暴力なんて、最低よ？」

男「……」

男(うがあああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ！)