エレン「俺が、超高校級の幸運?」【※ 安価】その2(472)

前スレ エレン「俺が、超高校級の幸運?」【※ 安価】

もう落ちちゃってますが。これの続きです。ときたま安価があります。
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《これまでのあらすじ》

・エレン(俺)は『超高校級の幸運』として希 望ヶ峰学園に入学した。

・『超高校級のアイドル』で幼なじみのミカ サ、同じく『超高校級の幸運』のアルミン他。

 個性的な面々と出会う反面、学園は想像以上 に閉鎖的で――事実上、軟禁状態に陥る。

・不安を持ちながらもこの学園を『卒業』し、 未来の希望となるべく日々を過ごしていく。

・特殊な『卒業基準』が不明な中、仲間が1人、また1人と『卒業』していった――

 ある者は「卒業するな」、ある者は「焦らなくて良い」と意味深な言葉を残して。

・エレン、ミカサ、アルミン、アニ、ジャン、 サシャ、コニー、リヴァイ。

 他にはハンジ学園長だけ。広すぎてもの悲しい学園で、残された者たちの日常は続く。

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 AM 1:56――大浴場

リヴァイ「・・・遅かったな」チッ

『いやいや。私も仕事あるからさあ・・・てか・・・

 約束の時間は午前2時だよ? 早く来たんだ けど。頑張ったよね、私』

リヴァイ「呼び出した理由は・・・解るな」

『えっとー・・・わかんない』テヘペロ

リヴァイ「惚けるな・・・生徒を親元に帰せ。ここは本来の目的とかけ離れてしまっている」

『ふふ・・・自分から閉じこもってる貴方がいうのかい?

 相手に心臓に銃口を向けながら世界平和を訴えるくらい滑稽なんですけどw』


リヴァイ「・・・そうだ。そもそも、あのガキ共を学園に招く必要などなかった。

    平和ボケした壁の中で、ゆっくりと 老衰すれば良かったんだよ・・・」

『さあ・・・ここに招き入れたのは私じゃ無くて、きみの大切な人ですからー。

 ほんと、きみのご友人は無茶をなさる・・・まあお陰で退屈しなくて済んでるけどw』

リヴァイ「大切じゃねぇよ、あんな汚物。とはいえ、これでも長年の腐れ縁がある・・・

     ついでに・・・そいつも、いい加減 返してもらおうか・・・」


『いやいや。勝手に学園長を名乗って、キミをそそのかした罪は贖って貰わないと』ケラケラ


リヴァイ「・・・・」

リヴァイ「・・・こうなっちまったってのも、俺の選択が招いたってことか・・・」チッ


『ははw いゃあ・・・面白い。こんなガキみたいに眼の揺らぐ男が、戦場の死神w

 ま、実際に今は17歳のガキなんだけどさぁwww』


リヴァイ「・・・」スッ


 ーー ガ チ ャ リ


『ああ・・・殺るの? 私はぬいぐるみだし、痛くも痒くも無いけど・・・』


リヴァイ「ここじゃあ、お前くらいしか本気で削げねぇからな・・・・」


『キミ承知してるよね。私とキミじゃ、決着つかないってこと。やめとけってw』


リヴァイ「だが・・・断る・・・」


『・・・チッ 糞が。進歩のねぇ奴』


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ミカサ「――なんで・・・・・・」


 ん・・・ミ カ サ・・・・・・?

アルミン「・・・そういえば、そうだね。エレンは昔っこら――」


 あれ、アルミン・・・昔っからって、お前、なに言ってんだ・・・?


アルミン「1人で突っ走って行くんだ――僕らを置いて」クス

エレン「おい、何言ってんだよ。置いてくのはいつもお前らのほうだろ?」

ミカサ「・・・・・・・・・・」ニコ

アルミン「ああ、そうだったかな?」フフ

エレン「そうだよ・・・なんで、なんで・・・いつも」


 い つ も 、 俺 を 。


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『――ブッハww ウケるww イイ歳こいて泣いてやんのー』ゲラゲラ


エレン「・・・・・・・・??」グス


『ごめんねー、夢でお楽しみ抽選のところを邪魔してw』


エレン「ハンジ・・・学園長・・・?」ポカン


『うん。ヒロインじゃねぇ点につきましては重ねて心よりお詫び申し上げます(棒)』


エレン「・・・・・」

ミカサ「・・・・・・・・・・」ニコ

アルミン「ああ、そうだったかな?」フフ

エレン「そうだよ・・・なんで、なんで・・・いつも」


 い つ も 、 俺 を 。


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『――ブッハww ウケるww イイ歳こいて泣いてやんのー』ゲラゲラ


エレン「・・・・・・・・??」グス


『ごめんねー、夢でお楽しみ抽選のところを邪魔してw』


エレン「ハンジ・・・学園長・・・?」ポカン


『うん。ヒロインじゃねぇ点につきましては重ねて心よりお詫び申し上げます(棒)』


エレン「・・・・・」

すみません。規制でいつもの回線から書き込めないのでスマホから晒してますが、

不慣れすぎで…明日か明後日あたりネカフェであげようと思います


『いや、ちょっと頼み事があって。まだ朝の四時だから誰に頼もうか迷ってたんだよね。

 そしたら、ちょうどキミが夢見が悪そうだから、起こして、ついでにお願いしようかと』


エレン「俺・・・泣いてる・・・」ボー


『アニも酷いけどキミも大概夢見悪いよねえ。まあ・・・仕方ないか。

 ところで。起きたついでに、ちょいと大浴場行ってくれない?』


エレン「え・・・・・・なんすか?」


『行けば解るよ。いろいろあって今回は私が手を貸す訳にはいかないのよ』


エレン「・・・俺、貴方の話を聴いて独りで行動するのは、さすがにイヤなんですけど」


『うーん。リヴァイがね、潰れてるから。酔っ払いの介抱よろしく』ノシ


エレン「・・・・・・はいぃ?」




 クリスタ――もとい、ヒストリアとベルトルトが卒業して、また何日か経った。

 その間、意味があるのか解らない中間考査試験があって・・・

 俺はちょうど真ん中の順位だった。アルミンは一番で、ミカサは僅差で次席。

 人数も少ないし順位は当てにならないけど、故郷いたときより点数は上がった。


 ――そんなことはどうでもいいか。


 あんまり覚えていないけど、今夜はミカサとアルミンが夢に出てきていたと思う。

 覚えていないのに、なぜだか胸がぽっかりと空いた虚無感に包まれて。

 そして、だんだんと冴えてきた意識を携えて、俺は大浴場へ向かっていた。




 AM 4:18――大浴場


エレン「なんだ、これ・・・・・・」


 ユミルが事件を起こした時以上に、壁には無数の切り傷が。

 せっかく、先日ハンジぐるみが書き直した銭湯絵も滅茶苦茶になっていた。


エレン「わ・・・絵が・・・・」


 どこだかしらないけれど、大草原と大樹の森をモチーフにした不思議な絵で、

 なぜか、芸術に疎い俺の心を締め付け、掴んで離さない・・・希有な絵だったのに。


エレン「・・・・・・・リヴァイさん」


 そうして、俺はやっと。

 だだっ広い浴場の真ん中で、仰向けに大の字になって寝転がるリヴァイさんに声を掛けた。


エレン「・・・どうしたんですか、ハンジと喧嘩したって・・・」

リヴァイ「・・・喧嘩? 俺1人しかいないのにどうやって喧嘩するってんだ・・・あ?」

エレン「(うわ、声に凄みがある・・・)ちょっと、ホントに酔っ払ってんですか。

    学園長が、貴方が酔っ払ってるから保健室に連れて行けって・・・」


リヴァイ「・・・お前呑むか?」


 リヴァイさんがむくりと起き上がって、手に持っていた小瓶をちゃぷちゃぷと振った。


エレン「そんなものどこで見つけたんですか」

リヴァイ「俺の私物だ。持ち込んだ・・・」

エレン「え・・・ダメでしょう。未成年の飲酒はちょっと」

リヴァイ「いんだよ。17歳って言ってるけど実は25なんだよ・・・チッ」

エレン「あ、これマジで酔ってるわー」

リヴァイ「ここなら・・・クソ不味いラム酒だろうが・・・ある程度は呑める」ブツブツ

エレン「だから、呑んじゃダメですってば・・・あ」


 よくみると、先輩はあちこちに青あざを作っていた。

 喧嘩――とは聴いていたが、どうにも、退っ引きならない事態だったようだ。


エレン(・・・この感じだと。リヴァイさんがどんな形であれ『負けた』のか・・・?

    そりゃあんなムカつく面のぬいぐるみに負けたら屈辱的だけど・・・)


 俺の印象では、リヴァイさんとハンジぐるみは結託しているわけではない。

 だけど、リヴァイさんはリヴァイさんの事情で動いているだけで、

 あのメガネに反抗的というわけでもない――真ん中の立場にいる人間、という印象だ。


 どっちつかずさが、俺たち生徒が遠巻きにする原因なのだろうが。


エレン「ま、まあ、とりあえず。早く保健室でエタノールつけましょう」

リヴァイ「・・・・・」


 随分呑んだらしく足下もおぼつかないリヴァイさんを抱える。


 ずん。


エレン「・・・・ぁ!? ぉ、重っ・・・!?」ギョッ


 正直ちっさ・・・klein・・・控えめな身長なので侮っていたが、

 見た目に反してかなり重たかった。普段、なにを喰ったらこうなるというのだ。

 プロテインか。アニの好きなプロテインコーヒーなのか。


エレン(くせー。よくある蒸留酒のにおい・・・ほんと何があったんだか・・・)


 ひと瓶がほとんど空になっている。今夜だけで呑んだなら尋常じゃ無い。

 保健室についた俺は、表情こそ、いつもの能面だが僅かに酒臭いリヴァイさんを見る。

 そして片手間程度で治療道具を用意しながら思案した。


エレン(今なら・・・問いただせるか・・・?)


 今ならば、あの時――3階の探索の時、『誰』と『何』を話していたのか。


エレン「・・・訊いてもいいですか」

リヴァイ「・・・・・・・・?」


 消毒液を直接首へかけようとするリヴァイさんを慌てて制止しながら、訊いた。


エレン「ハンジさんは普段どこにいるんでしょう」

リヴァイ「ぬいぐるみなら年がら年中どこでもいるだろうが。ハエみたいに飛んでくるぞ」

エレン「いいえ。操っている本体のほうですよ」

リヴァイ「・・・・・・俺に訊くのか」

エレン「貴方はよく知っているはずだと、勝手に思ってます。

    学園長はこの学園では神様みたいなものだ・・・まあ邪神ですが。

    居場所が俺たちに解ったって、問題ないくらいの対策はしてると思うんです」

リヴァイ「・・・それは、前にアルミンにも言われたな・・・」

エレン「アルミンが?」

リヴァイ「ああ。それを話して不都合になるくらいなら、ハンジはその程度の奴だと――

     あいつは一対一だと、随分と小憎たらしくなるらしい・・・」


 リヴァイさんもどこか挑発的な顔をしていたが、話に出てきたアルミンは確かに、

 俺の想像の範疇を超えるくらい――挑発的な奴だと思った。

 そもそも、アルミンはリヴァイさんに進んで絡んだりしていないのに・・・。


リヴァイ「・・・お前の想像通り、ハンジ本体はちょくちょくツラを見せていた。

     俺が締めてやらねぇと、あいつ風呂に入るのも忘れるからな・・・」

エレン「ツラを見せて『いた』ということは」

リヴァイ「・・・・・・」

エレン「貴方は俺に教えてくれました。卒業条件ひとつは、友達との絆を誇れる者だって

    ・・・つまり、貴方はハンジさんとの絆を誇れていない」

リヴァイ「・・・随分と冷静な脳みそになったもんだ。育ちがまともだと、そうなるか」

エレン「沈黙は肯定・・・少なくとも学園長とは友達なんですね・・・」

エレン(そして、それを拒否しているのは、リヴァイさん。という印象だ)

リヴァイ「・・・そんな甘ったれたモンじゃねぇが・・・八方塞がりだからな。ポツリ

     ミカサは手遅れ・・・せめてお前は足止めしたいところだが・・・」

エレン「え・・・どうしてミカサの名前が」

リヴァイ「・・・悪い、俺も久々に酔っ払ってなぁ・・・

     何を言ってるのか、俺にも解らん・・・肩を貸してくれたことは礼を言う」

エレン「ま、待ってください。ミカサがダメって、どういうことですか!?」

リヴァイ「・・・・もう、帰れ。俺はこっちで寝る――かえれ」

エレン「・・・一応、こっちも介抱を頼まれたのですが」

リヴァイ「後は寝るだけだ、必要ねぇ・・・」フイ

エレン「・・・・・・・・くそ・・・わかりました」ムス


 酔っ払いの相手って難しい――我ながら、もっと上手く訊けないものか。

 寮に帰る途中、徐々にぶり返す眠気に辟易しながら、俺は溜息をついた。


エレン「なんで・・・ミカサが出て・・・」


 そういえば、ミカサ。最近、俺と目を合わせることが、少なくなったな。






第四章「エウカリスは哀しまない」(非)日常編



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おーやらかした。空白いれたかっただけです



 朝――食堂。


エレン「・・・・・・・・・」モクモク

アニ「・・・あれ、エレン。早いね」

エレン「ごくん。ああ。アニおはよう。お前いつもこの時間なのか?」

アニ「まあね。朝の方が、ウォーミングアップに勉強・・・色々はかどるし」

エレン「いっつも寝坊気味な俺にはとうてい出来ねぇなあ・・・」

アニ「あんた、珍しいじゃないか。こんな時間に起きてさ」

エレン「ああ・・・まあ。色々あってな・・・寝不足。ふあぁぁあ」ムニャ

アニ「そうなんだ。いつもより眼力がふやけてるよ」

エレン「お前はすっきりした顔してるな・・・俺にも何か打ち込めるものがあればな」



 そのとき、食堂に3人目の生徒が現われた。――>>23だ。


 * ミカサ、アルミン、ジャン、サシャ、コニーの中から選んでください。

アルミン


そのとき、食堂に3人目の生徒が現われた。――アルミンだ。


アルミン「ふわあぁあ・・・おはよ・・・」ムニャムニャ

エレン「おはよう・・・眠そうだな」

アニ「おはよう、アルミン」

アルミン「あれ・・・エレン・・・幻術・・・?」

エレン「失礼な、ちゃんと本物だっつの」

アルミン「そっかあ。初めてじゃ無い? あ、また欠伸でそ・・・」

エレン「なんだ、寝不足か?」

アルミン「まあね、僕は夜勉強とかしてるし・・・今日は身体が重い・・・」

アニ「ほんと、いつもより気怠そう。大丈夫?」

アルミン「大丈夫だよ、アニ。昨日は調子が良かったから張り切りすぎちゃって」ムニャ

エレン「お前らいっつも朝早いの?」

アニ「まあね」

アルミン「ま、ベルトルトが来ると僕はミカサの所に行くんだけどね」コソ

エレン「・・・・あー・・・なるほど」

アニ「?」


 リヴァイ『ミカサは手遅れ・・・せめてお前は足止めしたいところだが・・・』


エレン「・・・なあ。ちょっと相談があるんだけど」

アニ「ふうん?」

エレン「ミカサが最近元気ないじゃん」

アルミン「あー、うん。【絶望病】の事件からそんな感じだね」

エレン「うん。確かにあれはショック大きいけどさ。サイコパスの言動が怖すぎて。

    でも・・・それから、あいつ、俺に隠し事してるんだ」

アルミン「へえ? 案外そういうの解るんだ、キミって」

アニ「確かに」

エレン「え、解るよ。あいつの表情、ころころ変わって解りやすいからなあ」

アニ「・・・え」

アルミン「そう思ってるのは多分キミだけじゃない?」

アニ「・・・ジャンの奴、ほんと分が悪い・・・相手が悪すぎる」

アルミン「ほら、キルシュタイン氏は、ミカリンのファンとしては王者だから・・・」

アニ「――で、あんたはどうしたいの?」

エレン「ミカサが俺に話をしないのは、すっげぇモヤモヤするけど・・・

    まあ、それはいいんだよ。でも、あんな何日も沈んだ表情されるのは・・・」

アルミン「・・・大事な人が元気ないって、気を揉むだろうね、たぶん」

アニ「なんだ・・・結局あんたってあいつが・・・」

エレン「ん、なに?」

アニ「まあいいや。そうだね・・・じゃあ何かに打ち込ませてあげたら?」

エレン「どういうことだ」

アニ「私は身体を動かすのが好きだから、それだけで多少のストレスは発散できる。

   ミカサが好きなことをやらせてあげたら、ちょっとはマシになるんじゃない」

アルミン「僕は本を読んだりすることが大好きだから、割とやってけてるなあ」

エレン「あいつが好きなことか・・・」

アニ「ミカサ、テレビで聴く限りじゃ、けっこう生歌うまいね」

アルミン「そうなんだ」

エレン「うん。ミカサは演技とかは不評らしいけど、歌は確かに・・・

    まあその、声が綺麗なほうなんだよ、けっこう」

アルミン「へぇ・・・ふーん・・・」

アニ「歌は好きそうだったね。特にバラードが上手かった」

アルミン「じゃあ、歌わせてあげたら? 思いっきり」

エレン「確かにしばらく歌ってないみたいだけど。そ、それがストレス発散になるのかよ」

アニ「・・・と、思うよ・・・聴いて欲しい相手が聴いてくれるってのなら」

アルミン「であれば、ミカリン周りに聡い適任者がいるね。

     この上なく可愛そうだけど、彼には協力して貰おう」ニコ

エレン「お、おう・・・(なんか話が勝手に進んでる?)」

ジャン「ゥーっす・・・・」スタスタ

ジャン「おは・・・え、わ、なんか変なのが沸いてる!! キモッ!」ドンビキ

エレン「人をウジ虫のようにいってんじゃねぇよ!」

アニ「いいところに・・・・ジャン、話がある」

ジャン「いや、キモいだろ。夜行性が朝行動するとか・・・。ん、なんだアニ」


 話をしていると、やがて他の生徒が集まってきた。

 ミカサも来たため、今の話は一度切り上げられることになった。


ミカサ「エレン、早起きえらいね」

エレン「ん、たまにはな・・・」

ミカサ「・・・・・・・・うん」フイ・・・スタスタ

エレン「・・・・・・・・・・」



アルミン「・・・ふあぁぁ・・・ところで、時期的にそろそろだと思うけど」


 全員がそろった食堂で、アルミンがぽつりと言った。


エレン「何が?」

アルミン「これまでからして、そろそろ学園の上階が開放される頃合いじゃないかな」

ジャン「あー。だな。4階ありそうだもんな」

コニー「『卒業』の条件について手がかりとか、あったりしないもんかねぇ。

    これで普通の学科試験とかだったら、俺一生卒業できねぇけどw」

ミカサ「・・・難しいと思う。結局は個々の問題だから」

コニー「ん? どういうこと?」

ミカサ「結局は・・・自分がどれだけ向き合えるか、なので・・・」

エレン(・・・・・・・・・)

リヴァイ「・・・・・・来る。」ポツリ


『やあ、みなさん、おはよう・・・』


 ハンジぐるみの声は、少し冷えていた。


『いやあ・・・まんまとしてやられたよ。ここに来て正面から喧嘩売ってくるなんて』


エレン「・・・・・・・?」


『私は怒ってるよ・・・ものを盗むなんて言語道断じゃないか』


 変声で男とも女ともとれない・・・でも確かに、怒気を含んだ声音だった。


『なんとなく検討はついてるけど、敢えて名前を伏せるよ。

 今すぐ返してくれないかな・・・今であれば私も水に流そう』


アルミン「ごめん・・・僕には学園長が何に怒ってるのかよく解らないんだけど・・・」

ジャン「俺もだ・・・朝からどうしたんだよ」

サシャ「・・・・・・・・」ガチガチ

コニー「サシャ?」

サシャ「け、今朝に限ってなんであんなに怒ってんですか・・・?」ガクブル

ミカサ「・・・」


『いいか・・・さっさと返せ・・・』


ミカサ「・・・・たぶん、サシャの仕業です」

サシャ「ご、ごめんなさあああぁあぁい!!!」

生徒「!!!!??」

サシャ「ごめんなさい、夜中に朝食分の食材をちょろまかしてましたぁあ・・・

    つまみ食いなんてレベルじゃないくらい盗みましたあ・・・グスグス

    でももう胃の中だから返せませんーっ」

アニ「確かに・・・最近ビュッフェの量が減ったなと思ってたけど」

ジャン「つうか食材ちょろまかすって、まさかナマで喰ったのか!?」

サシャ「だってえ・・・夜中は火を使えないから・・・」

アルミン「あはは、サシャは仕方ないなあ。もういっかい反省文書いてきなよw」

サシャ「笑顔が黒く眩しいっ!」


『サシャ・・・キミは後で反省文だよ。

 とにかく・・・売られた喧嘩は買うからねえ、私は・・・』


 随分おかんむりなハンジぐるみは、てちてちとサシャに歩み寄り、

 彼女の膝をカックンさせてから立ち去った。


リヴァイ「・・・男子小学生か、あいつ」

エレン「・・・・・・・」

エレン(・・・なんだろう。最後のひとことが、引っかかる・・・・)

ミカサ「・・・この、おばか」

サシャ「でもね、でもですね、乙女は夜中に腹ぺこになり、激情に駆られるモンですよ」

アニ「いくら乙女でもナマで食べるとか・・・え、肉とか? うわぁ・・・」

コニー「うわぁ・・・」

ジャン「サシャの野生化は今後、深刻な環境問題になるだろうな。

    それはともかく、残念だ。4階開放はおあずけかよ」

アルミン「ハンジぐるみは気分屋だしなぁ。でもゆっくりのんびり行こうよ。

     焦りは精神衛生上よろしくないし、ある程度『適応』することも大切だ」

エレン「でも、自発的に卒業条件に気付き必要があるなら、さっさと探索を・・・」

アルミン「焦っちゃダメダメ」クスクス

エレン「焦るよ・・・」


 だって――実は、3階・美術室にあった誰かの日記。

 次に捜したときはもう無くなっていた――すごく、歯がゆい。

 おそらくハンジぐるみあたりが回収したと踏んでいるが・・・。

 けっこうな手がかりだったと思う。全文を暗記するまで読み込んでおけば良かった。


サシャ「ミンミンの言うとおりですよー。のんびりいきましょ」

コニー「わー殴りてーw」ウフフ


ミカサ「・・・だめだ。このままでは・・・」ポツリ


リヴァイ「・・・・・・・・・・」



 俺たちはそのまま授業に出た。

 外国語の授業中だったのだが――やはり探索への欲求が捨てきれない。

 頃合いを見て、俺は手を挙げた。


『ん? どうしたんだい、エレン』


エレン「学園長、4階を探索させて欲しいです」

ジャン「おま・・・」


『いきなり、なんだい? 今は授業中だよ。授業に関係ない発言は賢明じゃないね』


エレン「いいえ。『卒業』の条件を自分で捜す必要があるというのに、

    探索をなかなか許可しないのは、アンフェアそのものです。

    ・・・4階を調べさせてください」


『ええ・・・そういう気分じゃ無いなあ・・・』ピク


エレン(およそ学校と聴いて思いつく教室は、普通教室、各科の特別教室、体育館――

    そして、職員室・・・校長室、すなわち『学園長室』)

アルミン「そうですね・・・僕も4階みたいなあ」チラ


『アルミン・・・ここぞとばかりに便乗しないでくれるかな?』ニコ


ミカサ「・・・・・・・授業中・・・」

コニー「はい! 俺も見たいです!!」ガタッ

サシャ「そうですね・・・私も見たいです! 今すぐ!」ガタッ


『いきなり、なんだい? 今は授業中だよ。授業に関係ない発言は賢明じゃないね』


エレン「いいえ。『卒業』の条件を自分で捜す必要があるというのに、

    探索をなかなか許可しないのは、アンフェアそのものです。

    ・・・4階を調べさせてください」


『ええ・・・そういう気分じゃ無いなあ・・・』ピク


エレン(およそ学校と聴いて思いつく教室は、普通教室、各科の特別教室、体育館――

    そして、職員室・・・校長室、すなわち『学園長室』)

アルミン「そうですね・・・僕も4階みたいなあ」チラ


『アルミン・・・ここぞとばかりに便乗しないでくれるかな?』ニコ


ミカサ「・・・・・・・授業中・・・」

コニー「はい! 俺も見たいです!!」ガタッ

サシャ「そうですね・・・私も見たいです! 今すぐ!」ガタッ

ジャン「てめぇらは単に授業を中断させたいだけだろが!!」

アニ「・・・うるさい。ちょっと静かに」


『ふーむ・・・』チラ


リヴァイ「・・・ったく・・・」


『そうだねえ・・・いいだろう。ただし、条件があるよ』


アニ「条件?」


『今からちょっとした数学のテストをしようか・・・

 出来が良かった者、上位に2名のみ、4階の探索を許可しよう』


サシャ「なるほどなるほどー。って、私脱落決定じゃないですかー☆」

コニー「あはは、バカに人権はない!!」ドン!

エレン「・・・必然的に、アルミンとミカサが有利だな」


『っと、条件がもう一つ。アルミンだけは、ちょっとだけ難易度を上げた問題にするよ』


ミカサ「・・・・・どういうこと」

アルミン「そうきたか・・・ハァ」


『物事を面白くするため、そして、つまり成績下位者にもチャンスをあげるためだよ』


アニ「ちょっと、今エレンが不公平の話をしたばかり・・・」

アルミン「いいんだ、アニ」

アニ「・・・・?」

アルミン「ありがとう・・・いいよ、それで行こう。誰か2名は上へ行けるんだ。

     それが僕で無くてもいい・・・僕らは仲間だから、全てを共有できる」

エレン(・・・そうだ、今夜辺り、リヴァイさんのことをみんなと話して・・・)


『さてと、じゃあ始めようかな・・・ああ、大丈夫、君たちなら簡単な筈だから』



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 カチ コチ カチ コチ


エレン「・・・・・・・・」


 ――時計の秒針だけが、教室の音だった。


エレン(・・・なんだこれ、とても高校レベルの問題じゃ・・・!!)


“――以上の性能を持った砲弾を用い、1km先の目標を砲撃する。

 下記の外的条件を踏まえ弾道計算を行い、最も適切な斜角を算出せよ。”


エレン(・・・なにが数学だ・・・? 思いっきりこれ・・・軍事学じゃねぇか・・・!)


 手はもう数分以上止まったままだった。

 俺は思わず、廊下側に座るリヴァイさんを盗み見た。


リヴァイ「・・・・・・・・」

エレン(涼しい顔して何もしてない・・・解く気がないのか?)


『エレーン。こらこら、キョロキョロしちゃダメだよ。疑われるよwww』


リヴァイ「・・・・ん・・・」チラ

エレン「っすみません・・・」サッ

エレン(この中じゃリヴァイさんにだけ解ける筈だ。けど、あの人は白紙だろう。

    アルミンだって解けるかもしれないから、制約があったんだろうし・・・)

コニー「えー・・・・・」

エレン(俺もムリだし、ましてやコニーやサシャなんて絶対・・・

    最初から出来ない問題を駆け引きに出してきやがって・・・!)

コニー「・・・・・・・あ・・・・?」

エレン(・・・んだよ、コニー。さっきから独り言がうるせぇな)


 俺は少し呆れつつ、俺は左隣に座るコニーを見た。


コニー「・・・あれ、わかる・・・」ポツリ

エレン「?」

コニー「お・・・・・?」カリカリカリカリ


 そこからコニーは、たどたどしくも紙面にペンを走らせた。


エレン(・・・コニーがペンを動かしてる・・・)ゴクリ


 次にジャン、アニ、サシャ、アルミン・・・そして、リヴァイさんが。

 ペンを持つ手を動かしはじめた。


エレン(・・・いや、こんなん俺には・・・・っ)



 ???『――だから、エレン。運動現象って意外と単純なんだよ』

 エレン『そっか・・・さっすがだな、座学首位! 頼りにしてるぜ!!』

 ???『うん、頑張って、エレン!』ニコ



エレン(・・・そうだ・・・これは、慣れれば意外と簡単な計算で・・・)カリ・・・


 実戦デ使ッタコトハ、ツイゾ無カッタケレド――・・・。


エレン「・・・・・・・・・」カリカリカリ


 頭の中をよぎった記憶の断片に突き動かされたように、俺は問題に没入した。



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『――さて、採点も終わったし、それじゃ4階探索メンバーを発表します』


エレン「・・・・・・・・」

コニー「俺、結構自信あるぜ」フフン

サシャ「ブラフもいいところですね、まあ私もいつもよりは頑張りました」

アルミン「みんな凄いな、僕ひらめきがなくて最後まで悩んだよ」

アニ「・・・・・・アルミンは難しいみたいだから仕方ない」

ジャン「俺も、意外と手応えあったな」


『ちなみに、正確性、途中式、解を導き出すのに掛かった時間――色々考慮して選定したよ』


ミカサ「・・・・・・・・・・」


『唯一、白紙で出しやがったミカサさんは除外として・・・』


エレン「え・・・え!?」

ミカサ「学園長、もったいぶらないでください」

エレン「え、ミカサ。お前何してんだよ・・・?」

ジャン「ミカサ・・・!」


『はいはい、不真面目ちゃんの説教はまた後にしてね。

 ・・・で、エレン君。キミがまず、一人目の探索メンバーだよ』


エレン「・・・・・・」ポカン

『ま、正解数最多だしね。さすが・・・やれば出来る子だと思ってたよ』


エレン「え・・・正解って・・・え、俺が?」

アニ「ふぅん・・・やるじゃないか」


『ん。解も最低限の式だったし。こりゃ日頃勉強を教える人が優秀なのかな?』


アルミン「・・・・・こっちを見るということは、恐縮ながら僕のことでしょうか」


『どうかな?w さて・・・次は2人目だけど・・・>>45、キミだよ』


 * アニ、ジャン、コニー、サシャ、リヴァイの中から選んでください。

ジャン


『どうかな?w さて・・・次は2人目だけど・・・ジャン、キミだよ』


ジャン「あ、俺か・・・」パアアァ


『正答数も上々だし、計算時間は短い――火事場でつかえる捌き方だったからね。

 他のみんなも、評価した点はそれぞれあったんだけど・・・、

 今回はジャン、エレン。この2人ということ、ひとつ頼むよ』


エレン「アルミンがいないのは・・・びっくりした・・・」

アルミン「僕が及ばなかっただけだよ。エレン、すごいじゃないか」

エレン「あ・・・なんかさ、最初はさっぱりだったんだけど、

    途中から思い出したようにペンが動いてさ」

ジャン「こいつと一緒ってのも癪だが、まー俺もおんなじだな。

    なんつうか・・・身体が覚えてるって感じだった」

コニー「俺もっ」ニコニコ


『そんなコニーさんの正答数は1です。しかも直感です』


コニー「え」

リヴァイ「ほう・・・それはそれで・・・悪くない」

サシャ「なーんだ、大したこと無いじゃないですか」フフン

ジャン「どうせお前も似たり寄ったりなんだから」

エレン「ミカサも・・・どうしたんだ、白紙なんて。お前らしくない」

ミカサ「解らなかった・・・それに・・・えっと・・・今日はお腹が痛いから」

エレン「え、大丈夫か?」アワアワ

ミカサ「大丈夫。ちょっと苛つくだけ」

エレン(あれか・・・お、女の子の日ってやつか・・・?)ソワソワ

ミカサ「・・・・・・エレンが思ってることではない、ので、大丈夫」

アニ「・・・ミカサ、保健室行きな。送ってくから」

エレン「あ・・・俺も」

アニ「あんたは探索。2人だけなんだから、しっかりね」

エレン「え・・・・」シュン

ジャン「いくぜ・・・ちょっと話もあるしな」ボソ


コニー「え」

リヴァイ「ほう・・・それはそれで・・・悪くない」

サシャ「なーんだ、大したこと無いじゃないですか」フフン

ジャン「どうせお前も似たり寄ったりなんだから」

エレン「ミカサも・・・どうしたんだ、白紙なんて。お前らしくない」

ミカサ「解らなかった・・・それに・・・えっと・・・今日はお腹が痛いから」

エレン「え、大丈夫か?」アワアワ

ミカサ「大丈夫。ちょっと苛つくだけ」

エレン(あれか・・・お、女の子の日ってやつか・・・?)ソワソワ

ミカサ「・・・・・・エレンが思ってることではない、ので、大丈夫」

アニ「・・・ミカサ、保健室行きな。送ってくから」

エレン「あ・・・俺も」

アニ「あんたは探索。2人だけなんだから、しっかりね」

エレン「え・・・・」シュン

ジャン「いくぜ・・・ちょっと話もあるしな」ボソ

エレン「・・・おう」スタスタ




『ふぅ・・・エレンはほんと、育ちがまともだと性能を発揮するなあ』ポツリ


リヴァイ「・・・満点の俺を探索に行かせないってのは、先生としてどうなんだ、てめぇ」


『キミは4階知ってるし、必要ないでしょう? せいぜい腐っててよw

 私に喧嘩を売るなんてアホなこと、もう考えないことだね、ウジ虫くんw』


リヴァイ「・・・・・」


『でも驚いた、キミが試験を受けたことにね。ただ、どっちつかずな態度は嫌われるよ?

 キミの翼は・・・もしかしなくても、コウモリの翼なのかな?』ニヤニヤ


リヴァイ「さぁな・・・そんなもの、とっくに・・・」




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 ――校舎 4階



ジャン「ここが・・・」

エレン「よんかい・・・」


 元々日の差さない学園内は明るいわけでは無いけれど、

 それでも、この階はどこか・・・不思議なほの暗さを持っていた。

 本当なら、距離としてはより太陽に近い場所にあるというのに。


ジャン「マップは・・・いつもとは仕様が違うな」ピッピッ

エレン「ああ。教室の名前が書かれてない。全部『???』だ」

ジャン「とりあえず。手早く捜索するが・・・どうする、別れるか?」

エレン「今日の午後いっぱいは時間を貰ってるんだ。

    面倒だけど、同じ教室を手分けして捜すことにしようぜ。ミスも減る・・・」


 ――そのほうが、隠し事をしなくなる。

 今まで、小くて不確かなことを、俺は少しずつみんなに隠してきた。

 1人での行動で、ついそうしてしまうなら、いっそ最初から晒すほうがいい。


エレン(リヴァイさんに関することを隠してる俺は卑怯だ。

    やっぱり最初の印象が良かったからか、贔屓してるんだろうか・・・)ハァ

ジャン「・・・・・・・・」フン

ジャン「・・・オーケー、いいだろ。で、死に急ぎ野郎。

    せっかく、『絶対に誰も邪魔立てしない』機会だ・・・腹ァ割って話そうぜ」

エレン「・・・具体的には」

ジャン「リヴァイ先輩に、ミカサ・・・何とかしたいんだろ、お前」

エレン「な、なにが」

ジャン「それからアルミン・・・あいつの記憶のことも、いよいよ何とかしたい」

エレン「・・・ああ。そうだ。あの3人は特に・・・」

ジャン「今回小テストで、ちょっと解っちまったよな」


 俺たちは話しながら、まず4階のトイレと普通教室を調べた。収穫はない。


エレン「ハンジが俺たちの入学前後の記憶を抜き取る中、アルミンだけは全て・・・

    それはきっと、アルミンの頭の良さが警戒されてたから、ってことか」

ジャン「そ・・・アルミンは確か『超高校級の幸運』――お前と同じだよな」

エレン「ああ。くじ引きで、一般の満15歳から選出するって奴だ」

ジャン「ま、嘘だろう。アルミンには絶対に、傑出した本来の才能があるはずだろ?」

エレン「だろうな。そして、封じるためにほとんどの記憶を奪われた」

ジャン「・・・確かシガンシナ区出身だったか。一応お前と一緒だよな」

エレン「ああ。シガンシナ関連のことを結構話したのに、ちっとも思い出さなかったけど」

ジャン「もっと強烈なキーワードがいるのか・・・」ブツブツ

エレン「――なぁ、無理矢理思い出させようとしてるなら、それは賛成しねぇ」

ジャン「・・・なんでだ?」

エレン「だって、本人の問題だろ・・・思い出すか出さないかは・・・

    アルミンは、気長にやろうと思ってるみたいだし。利用するようなこと、は・・・」


ジャン「・・・ハハッ情けねぇな。俺もお前も」


エレン「・・・?」

ジャン「俺は自分が卒業したいからアルミンの頭の良さが欲しい。ムリにでも。

    お前は日和見で、駆逐だなんだと言ったところところで現状に胡座を掻いてる」



 ヒストリア『あなたは追い求めるべき夢や希望から、離れようとしている。

       情熱を忘れて、今は休憩をしていたいって願望がとても強い』



 ――いつか、クリスタが占いで言っていた言葉を思い出した。


エレン「何から、逃げたいんだろう・・・」ポツリ

ジャン「・・・おい、あったぜ」

エレン「『職員室』・・・か」


 そして、職員室にたどり着いた。




 ――職員室。


ジャン「――リヴァイは利用できるかもな」

エレン「おい。呼び捨てはやめろよ」

ジャン「いいんだよ。先輩扱いなんて・・・ダブりにするのも失礼だろ」

エレン「・・・一理ある」

ジャン「あいつが卒業できないのはおかしい・・・エレンに助言したくらいだ、

    条件だってすでに把握しているだろうし・・・」

エレン「だな・・・」


 職員室は8席分のデスクと、大きな書棚、あとはコピー機が設置され、

 ごく普通の――ごくごく当たり前の内装だった。

 そこに人だけがいないことを除いては。


ジャン「さも、普段使われていますって光景だな。どこから捜す?」

エレン「教師の机って漁っていいのかよ」

ジャン「いいだろ。ハンジだって、だから開放したんだろう?」

エレン「じゃあ、お前は廊下側、俺は反対な」


 出てきたのは、教師が授業に用いるであろうノートやプリント、ファイル。

 そういったタメになるものから、ちょっとした私物、授業計画――

 そして、ある席で、俺は生徒名簿を見つけた。


ジャン「はぁ!? 学校に3DS持ち込んでやがる、この席の奴――」ブツブツ

エレン「・・・・・」ペラ


そこには。






 【第100期生 生徒名簿】

 ブレチェンスカ=リコ ――

 ―――― ディートリッヒ=イアン

 ―――― ―――― ――――

 ―――― ゾエ=ハンジ ――

 ―――― ―――― ――――



 【第101期生  生徒名簿】

 ―――― ジン=エルド ―― 

 ―――― ―――― ――――

 ―――― ―――― ――――

 ナナバ  ―――― ――――

 ―――― ―――― ――――

 ザカリアス=ミケ  ――――


 【第102期生 生徒名簿】

 ―――― ボザド=オルオ ―

 ―――― ―――― ――――

 ―――― ―――― ――――

 ―――― ―――― ラル=ペトラ

 シュルツ=グンタ  ――――



 【第103期生 生徒名簿】

 ―――― ― カロライナ=ミーナ

 ―――― ―――― ――――

 ―――― ―――― ――――

 ―――― ―――― モブリット

 ―――― ゾエ=ハンジ ――

※すみません、リコさんの姓に誤字がありました・・・
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 割愛するが、次の第104期生が――俺たちのことだ。


エレン「ちょっと待て・・・ハンジは・・・しかも2回も載ってやがる・・・」

ジャン「あ? ・・・ちょっと見せろよ」スタスタ


 思わず叫んだ俺に反応してジャンが近づいてきた。

 手元の名簿をさっと取り上げて、文字を追う馬面が、だんだんと険しくなる。


ジャン「ハンジ・ゾエ。100期と103期で同じ人間だな。

    この“性別(・)”ってなんだよ。そこは書けよ気になるだろ・・・。

    ・・・ああ。それともうひとつヤバい点があるな」

エレン「・・・なにが」

ジャン「どこにもいない。リヴァイはどこにもいねぇんだよ」

エレン「・・・・あ。そうだ、ない・・・」


 パラ パラ


 どこを見ても、リヴァイさんの名前はない。


ジャン「これが、でっち上げってなら楽なんだが、あいにくハンジは、

    嘘はつかないって断言しやがったしなあ・・・」


 『――探索を許可する以上、ありのままのものを見せるよ。

  ただし、情報不足だったとしても、そこは責めないでほしいねw』


ジャン「後は俺たちが信じるのかってとこだが」

エレン「卒業生が母校の教師や理事になるってことは、否定できねぇよな・・・」

ジャン「ああ・・・だから、この情報は『アリ』だとする。

    ま、逆に言えば、ハンジにとっては特に痛くないカス情報ってか」

エレン「なあ、あの人は生徒で間違いないんだよな?」

ジャン「生徒手帳がある以上、リヴァイも生徒なんだろ、たぶん。

    ・・・あの人はいつやって来たんだ?」

エレン「どういうことだ・・・?」

ジャン「いや、だってハンジでさえ記録があるのにリヴァイがないのは・・・。

    マルコの話じゃ、リヴァイが軍部で噂になったのは何年も前からだ」

エレン「生徒手帳には17歳って書いてあるけど・・・」

ジャン「・・・おかしい。いや、少年兵だっているにはいるけどよ。

    リヴァイの存在はマジで『何回か留年した人』で片付けれるモンなのか」

エレン「・・・・・・・・」


 ユミル『――そのオッサンは話さねえよ。

     絶対に話さねえと確信して罪を被せようとした――』


エレン(確か、ユミルは色々と事情を知ったうえで生徒に紛れたんだよな・・・

    『オッサン』ってヤツお得意の罵倒だと思ってたけど)

ジャン「・・・ただ、可能性としては、ハンジが昨年度まで生徒だったなら、

    リヴァイに生徒として接してたってことは考えられるな。

    なあ、エレン。てめぇ思い当たる節があるだろ?」

エレン「ああ・・・・・・」

ジャン「今更トボけんなよ? お前にミカサ・・・知ってて隠してる事がある。

    俺だって、そりゃお前らが言うのを待ちたいと思ってんだよ。

    だが・・・これ以上口を噤むのは、リヴァイ以上の裏切りだぜ」


 そうだ。言わなきゃ。なんで俺は今まで、言えなかったんだ。

 言わなきゃ。だって、リヴァイさんが怪しいのは今に始まったことじゃない。

 暴かなきゃだめなんだ。この学園を。俺は、何を拒んでるんだ。


エレン「・・・ハンジとリヴァイさんは、かなり仲の良い友達だと思う」

ジャン「へえ」

エレン「前、美術準備室でリヴァイさんが誰かと話してたんだ。

    ハンジが説得して、リヴァイさんがそれを拒んでるようだった」

ジャン「他には」

エレン「今朝ハンジと喧嘩したみたいだ。あの人、ちょっと擦り傷があるのはソレだよ」

ジャン「え、ぬいぐるみと喧嘩って」ドンビキ

エレン「相手は本体かもしれねぇよ。その辺りは知らない・・・。

    でもさ、なんだか、リヴァイさんはハンジから逃げてるように見えた」

ジャン「・・・それぽっちのことを、なんで黙ってたんだよ」

エレン「リヴァイさんになんとか聞き出してから・・・ってのと・・・」

ジャン「?」

エレン「・・・なんか、俺が言いたくなかった。日和見ってのは、否定できねぇ」

ジャン「・・・いや、正直お前の気持ちも解るんだ。

    暗いトンネルの前に立ってるみたいだよな、俺たち」


 暗い。道が続いているのは解ってる筈なのに、先が見えないから足がすくむ。

 『卒業』していったあいつらは、みんなそこを歩いて行ったのだろうか。


ジャン「・・・案外、コニーたちの方が早く卒業しちまうかもな」

エレン「あいつら?」

ジャン「俺はうじうじ考え過ぎるし。お前もなんだか・・・らしくねぇし。

    ミカサは・・・結局お前がダメなときはダメなヤツなんだよ、あいつ」

エレン「・・・」

ジャン「でも、アニたちが言ってた『ミカサに歌わせる』ってのは良いかもな。

    調整してやるよ・・・これでもマネージャー代わりだかららな」

エレン「ジャン、お前・・・」

ジャン「次・・・行こうぜ」


 俺たちは特に会話もせず、『教諭用情報端末資料室』へ向かった。

 入り口へ立つと、狙ったかのような機でハンジぐるみが出てくる。


『ここは教諭専用の電子図書館だよー。授業の準備はここでするんだけど、

 機密性が高いから私の見張り付きでどぞーw』
 

ジャン「で・・・? どういうことですか、ハンジ先輩」


『んー?w どうもこうも、一度卒業して再入学して、それから卒業して

 ――それで、学園長になったってだけだよ。ハンジ・ゾエはね』


エレン「それに何の意味が?」


『それはプライベートだからなあ・・・禁則事項です』


ジャン「チッ さっさと開けろよ」


 ッピピ――ガシャリ

 重苦しい電子錠の解錠音。


エレン「なんだ・・・これ」


 部屋自体は暗いのだが、壁一面がディスプレイになっている。

 様々な言語がふよふよと画面の中を泳いでいた。

 情報の海――とは言い得て妙だ。


『さてと・・・一部を除いて、君たちに情報のアクセス権限を付与しよう。

 制限時間は5分。何を選択し、どこまで知るかは君たち次第だ――どうだ?』


ジャン「・・・わかった」

エレン「――ああ。」


『一見なんでもないような内容でも、重要な謎があったりする。

 精々惑わされないように。私は買ってるんだよ、君たちの認識能力をね』ニコ


 そうして、俺たちはそれぞれディスプレイ前に佇んだ。

 どうやら実際に画面に触れて情報を捕まえる必要があるらしい。


『どこかの国で使われてる、企業プレゼン用のディスプレイ技術だよ・・・

 さて、後輩諸君。準備はいいかな――?』


エレン「こい!」
ジャン「いいぜ」


『じゃあ・・・はじめようか』


ジャン「・・・頼むぜクソ野郎、マジで!」

エレン「てめぇこそなっ!!!」


エレン(情報量からして、せいぜい1つか2つってトコか・・・

    俺が今認識しているタイトルから、どれを選ぶ・・・!?)キョロキョロ



* 次の中から、エレンが参照する情報を選んでください。

1. エレン=イェーガー及びミカサ=アッカーマンの調書
2. 議事録:Rの処遇について
3. 104期 寮生活日誌
4. 協力者Yの報告書
5. 議事録:コニー=スプリンガーの入学に際する嫌疑について
6. 『GNドライブのようなもの』制作記録
7. 生徒Pによる日記
8. 美術部活動誌
9. 物理室利用記録
10.理事会議事録(映像記録分)


エレン(っしゃ・・・>>68>>70に絞り込むぜ・・・!)

2

10


エレン(まずは、こいつからか・・・・・・)


 俺は、議事録を開いた。会議の日付は、俺たちが入学する2ヶ月前のことだ。




【議事録:Rの処遇について(推敲前)】


 場所:希望ヶ峰学園 4階会議室

 主席者:学園長、甲理事、乙理事、丙理事、丁理事


 要旨:

①生徒ライナー・ブラウンの次年度の入学を許可することを決定

②生徒リヴァイは次年度以降、エレン・イェーガー等が接触した場合、

 学園長自らが行動を無効化するとしたうえで、行動権限の継続を決定。


①について:

・次年度入学生候補のうち、ライナー・ブラウンのみ入学が承認されていない(甲理事)

・ライナー・ブラウンの入学について拒否を提案(乙理事)

・ブラウンは人間性、中学の実績共に本校の学生像と一致するため拒否は不適切(丁理事)

・先日の検討会では、彼の精神性が他の生徒に著しく影響を及ぼす可能性があり、

 彼の牽引力が発揮されず、周囲に負の影響を与える側面が問題視された(乙理事)

・先日の検討会で入学を認めたコニー・スプリンガーと、ヒストリア・レイスは、

 ブラウンの牽引力を発揮させる要素を持っている(丁理事)

・同生徒と同じコミュニティに属させることで、彼の精神性の安定化を図る(丙理事)

・リヴァイと接触した場合、衝突に発展する可能性あり。

 アニ・レオンハートと共に最大の懸案事項であることは揺るぎない(乙理事)

・リヴァイの行動制限については次項で検討する。

 ブラウンはベルトルト・フーバーと共に入学を許可(学園長)


②について:

・リヴァイは依然、本校随一の行動権限を有する(丙理事)

・104期の入学に際し、リヴァイの行動に制限を加えるべきか(丁理事)

・不要を支持。前年度以前において最大の障害と懸念された、

 ペトラ・ラル、ハンジ・ゾエもリヴァイを妨げることは出来なかった(甲理事)

・ハンジ・ゾエは在校中より不穏な動きを見せていた。

 今後何かしらの行動が予測される。備えとしてリヴァイは封じるべきである(乙理事)

・現状、彼が卒業せず本校に留まっている今こそが、最大の封殺となる(学園長)

・リヴァイが『卒業』しないよう、我々が『配慮』するほかない(丙理事)

・今後の障害となりえるエレン・イェーガーが接触した場合の想定が必須(丁理事)

・彼の入学は勿論承認していないが、外部からいつ接触するとも限らない(甲理事)

・リヴァイの行動権限に変動は加えない。しかし、

 リヴァイが特定の人間に感化された場合は、私が直接無効化を働きかける(学園長)



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エレン(・・・・・・・・・・・・・)

エレン(ライナーとアニが、リヴァイさんと衝突・・・?)

エレン「・・・・・何で俺の名前が・・・」ゴクリ

エレン(いや、時間は無い。次の情報を・・・)


 俺は、今度はひとつの映像データを再生した。

 わざとなのか、どうなのか・・・・映像は若干乱れている。

 それは、ある会議室の映像だった。白いマスクで顔を隠した面々が円卓を囲む。


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【理事会議事録(映像記録分)】


甲理事: どういうことだ、×××・・・

???: やっほ。お仕事中お邪魔します!

乙理事: お前は『卒業』したはず・・・どうやって我が学園に戻ってきた

???: そう。またよろしく頼みますよ、お歴々

丙理事: 出戻ってきやがった・・・失礼、戻って来たのかい?

???: ああ、そうだよ。

乙理事: 何が目的だ・・・? 同窓会を開くにはいささか尚早ではないかね

???: まあ、誰だって自分の研究成果は披露したいよね・・・

     『GNドライブのようなもの』、ずっと使ってみたかったんだよ

丁理事: だから、何をしに戻って来たのかと訊いているのですがね、こちらは

???: 解ってるだろ? リヴァイが万年留年してるからさあ・・・

     友人として、彼を心配してるんだよ

学園長: ・・・・・・・・・・・・・・・

甲理事: 俺たちは次年度の準備で忙しい、とっとと壁の外へ帰れ――

     学園長はそうおっしゃっておられる

???: 出来ないですよ、がくえんちょー先生

丙理事: ハンジ、君はあまりに行動的過ぎる。卒業してからも手を焼かせるのかい

ハンジ: 簡単さ。研究成果を披露するために参上したんだよ、私は

     見てくれるよね? だって私は『超高校級の研究者』なんだから――

丁理事: 懸念されていたハンジ・ゾエの狂気的な行動力・・・ですね

ハンジ: 問題児扱いですか、私。それじゃあ・・・『最後の理事会』は、

     みんなで幸せな殴り合いをして終了、ってことでwww

学園長: ・・・・・・・・・・・・・・・

甲理事: ・・・ここにあって、俺の夢をジャマするとは。とんだ害悪だな――

     学園長はそうおっしゃっておられる

ハンジ: それはお互い様だよ・・・


 がしゃ がしがし ブ ツ ン ―― ッ




----------------------------


エレン「・・・・・・・・」


 映像記録分は、本当に短かった。意図的に削除したのだろうか・・・。


『――っはい、終わり。情報は是非に、生徒間で共有してくれ。

 ただし、君たちの伝達が正確であるか否かは、私は一切応えられないからね。

 情報の有用性は伝達が左右するんだ、頑張ってねw』


ジャン「・・・もう終わりか」チッ

エレン「・・・みたいだ」


 俺とジャンは早々に部屋を追い出された。


ジャン「・・・どうだった」

エレン「ああ・・・」


 俺はジャンに、自分が確認したことを話した。

 ハンジぐるみの言うとおり、正確に言えたどうか不安で仕方が無い。


ジャン「ライナーが入学の可否で懸念されていたってのか・・・

    にわかには信じがたい話だぜ」

エレン「ああ。それに、ライナーと、あとアニはリヴァイとの衝突が云々って」

ジャン「過去に因縁があったかのような言いぐさだな。あいつら知り合いじゃねえだろ」

エレン「そのはず・・・だけど」

エレン(そのはずだ、が・・・胸がつかえてる。釈然としない・・・)

ジャン「・・・ま、ハンジが理事会を強奪したのは確からしい。

    で、その理由もリヴァイに起因している可能性がある・・・

    あいつがどんなことを考えていようが、俺たちに手は貸せないだろうな」

エレン(ハンジが卒業後、理事会を牛耳ったことはリヴァイさんが動機)

エレン「でも、今は・・・? 今あいつがやってることは・・・?」

ジャン「・・・考察は後だ。じゃあ、次は俺の番だな」

エレン「・・・・・・」


ジャン「俺が見たのは、『学校の改修計画』だ」

エレン「・・・改修計画?」

ジャン「ああ。理事会、というよりはハンジぐるみが行った改修工事。

    俺も覚えてる部分しか言えねえけど――メモしろよ?」

エレン「ああ・・・」


ジャン「3月09日、103期生全員『卒業』後より、改修計画開始。

    3月16日、校舎2階に屋内プールを設置。

    3月18日、別校舎を解体、寮2階部分閉鎖。

    4月01日、寮2階にハンジぐるみ工場設立。

    4月02日、『壁』を5メートル高度削減。

    4月09日、コニーが破壊した食堂の机を修繕。

    4月15日、校舎3階より別棟、遊園施設を竣工。

    4月26日、寮1階大浴場の損傷部を修繕、改装。

    4月28日、『壁』の高度を5メートル削減」


エレン「・・・は!?」アングリ

ジャン「まだ終わってねぇよ――」


ジャン「5月09日、『壁』の高度を5メートル削減。

    5月14日、『壁』の高度を5メートル削減。

    5月26日、『壁』の削減工事を中止。

    6月03日、遊園施設『びっくりハウス★ウトガルド城』完成」



 ジャンの記憶力に驚いたこともあったが、それよりも内容に驚愕した。

 だって、俺たちが入学したのは・・・


エレン「なんで、4月7日以降も改修しまくってんだよ・・・?」

ジャン「・・・記録したか?」

エレン「したけど」

ジャン「っしゃ、今の情報もう忘れたから。もうムリ、次だ次!」

エレン「変だぞ・・・いつ、この学園でトンテンカンテンやってたってんだ」

ジャン「だから! 考察は後だっつってんだろ? もうひとつあるからよ・・・」


 ジャンが次に報告したのは、『超高校級の研究者』のメモ・・・らしい。


エレン(『超高校級の研究者』――つまり、卒業前のハンジのことだ!!!)

ジャン「これは、ちょっと、流石にうろ覚えなんだけどよ・・・。

    研究者が研究していたのは主に3つのことらしい」


ジャン「ひとつは、『肉体と精神の関連性』」

ジャン「ひとつは、『矛盾の解消』」

ジャン「ひとつは、『壁の削減方法』」


エレン「・・・何言ってんのかさっぱりなんですが」

ジャン「ああ、正直『メモ』だからな。あとは意味不明なミミズ文字が続くだけだ。

    だがよ・・・この『壁の削減方法』ってのは気になるだろ?」

エレン「そっか、改修工事の大部分が『壁の高度を削減』するモンだからな」

ジャン「ハンジの大きな目的は『壁を壊すこと』なんだよ」

エレン「『壁』っていうと・・・学園を囲んでるってバカでかい壁のことか」

ジャン「だな。まあ、俺たちは実際に見たことはねぇけど」

エレン「・・・情報が確かなら、大浴場なんて、ユミルがぶっ壊して1日で直してる。

    こんな驚異的な建築技術をもってんなら、壁なんてぶっ壊せるだろ?」

ジャン「ああ・・・」


エレン(・・・・・・壁は、通常じゃ壊せない代物ってことなのか?)


 ――その後、俺たちは、「会議室」へ向かった。

 円卓と、5つの空席があるのを確認するが・・・情報は特になかった。

 そして――


『学園長室は。だ、め』


エレン「なんでだよ!」


『私のプライベート空間だからなあ・・・ダメだよ』


ジャン「なんか、やましいことでもあるのか」ハッ


『やましいというか、誰だってさらけ出したくないことはあるだろう?

 まあ、ここだけは、いやなんだよねぇ・・・勘弁してくれないかな。

 そもそも4階開放だって予定外だった、現時点で最大の譲歩なんだよ・・・』


エレン(なんか、そんな哀しそうに言われると・・・ちょっと・・・)ムム

ジャン「」チッ

エレン「・・・そういや、音楽室とか、ないんだな」


『んー・・・それくらいなら教えようかな。

 音楽の授業は、1クラスしかないし教室で行えるだろう?

 前に特別教室が多く入った別棟を遊園施設に造り替えたからね、今はないよ』


ジャン「化学室とかもか」


『そうだね。一部は別の場所に移設してるだけだけど。

 ま、君たちが仮に一生卒業しなくても、退屈しないように――

 施設の増改築については多少の便宜を図ろうと思っているよ?』


ジャン「おちょくってんのか? 好きこのんで学園に居座るわけねぇだろ」

エレン「俺たちは卒業するために調べてるんですよ、学園長」


『私には、キミたちは卒業する気がないように見えるなあ・・・

 別に良いんだよ、ここでモラトリアムに浸り続けたとしても。

 それを責める人間なんていない、責められるはずが無いんだから』


エレン「・・・?」



 4階の施設は、他に、ほこりを被った『生徒会室』があっただけ。

 過去の生徒会メンバーを確認したが、ハンジやリヴァイさんはいなかった。

 これをもって、時間を掛けて行った4階探索は終了した。




----------------------------


 夕方――校舎1階、廊下。


エレン(報告会は、夜、食堂でって話だ――まだ時間あるな)


 勉強、しようかな。身体、動かそうかな。いっそ、寝てしまおうかな。

 ――ジャンとは4階から降りた後、すぐに別れた。

 今朝のミカサに「歌って貰う」話を取り付けるためだ。


エレン(気付けば――もう6月)


 外は、しとしと雨の季節だろうか。

 2ヶ月、母さんたちとは連絡を取っていない。元気だろうか。

 ミカサんちのおばさんたちも、元気かな。


エレン(きっと元気だろう・・・)


 だって、俺たちがこの学園でもがいていたとしても、

 世界はずっと、穏やかで、平凡で、広大なままなんだから。

 ずっと、ずっと続くのだ。


エレン(それをイヤじゃないと思ってる俺は・・・なんなんだ・・・?)


 その時――俺に話掛けてきた生徒がいた。>>89だ。


 * ジャン、リヴァイ以外の生徒から選んでください。

サシャ


エレン「・・・サシャか」

サシャ「探索終わってたんですねぇ。私暇だからさっきまで泳いでました!」ニコニコ

エレン「そっか。サシャも、身体動かすのが好きだよな」

サシャ「そですね。頭動かすよりは好きですよ」


 俺とサシャは自然と食堂に向かって歩き始めていた。


エレン「ずっと、太陽の光を浴びてないよな、俺たち」

サシャ「そうですね。でも、そんな気持ちにならないのが不思議です」

エレン「うん」

サシャ「私、いつだったかコニーと訊いたことがあるんです、ハンジぐるみに」

エレン「何を」

サシャ「ここに長くいるほど、焦りがなくなってくのは、なぜですかって」

エレン「・・・・・・・・」

サシャ「そうしたら――」


 『君たちが、ずっと前から知っているからだよ。

  ここが楽園だと知っていて、それでもいつか卒業することを知っているからさ』


サシャ「――って。意味が解らないなって思ってたんですけど」

エレン「サシャも、同じこと考えてたんだな」

サシャ「外は穏やかだって解っているから、安心しちゃうのかもしれません」

エレン「おまえんちの父さん母さんは今頃心配してるかもしれねぇよ」

サシャ「ありませんよ。もともと留守の多い2人です。

    ま・・・便りが無いから元気だろう、とでも考えてるでしょうね」

エレン「そっか。俺んちも、俺が男だし、それくらいの気構えなのかも。

    実際、俺は元気だし、気にせず過ごしてくれてりゃいいけど・・・」

エレン(母さん、怒ったら怖い人だし、ずっと笑ってくれてりゃいい。ずっと)クスリ

サシャ「この中で、家族の心配を一番してるとしたら、コニーでしょうね」

エレン「ああ・・・あいつ、弟や妹を随分かわいがってたみたいだしな」

サシャ「でも、彼はそもそも最初からあんまり焦ってませんでしたしね」


 いつの間にか食堂にたどり着いた。珍しく、夕暮れ時のこの時間に誰もいない。


サシャ「あとはですねー。アニも結構家族のことを気にしてるかもしれません」

エレン「あいつが?」

サシャ「ええ。どうも喧嘩別れしたみたいで・・・ちょっとヤキモキしますよね」

エレン「それは、気まずいな」

サシャ「それでも、落ち着いてますよ。父さんは元気だろうからって。

    さてと。おやつは、牛乳ぷりんです」ドヤ

エレン「てづくり?」

サシャ「もち。ヒエヒエだも・・・特別にひとくちあげましょうか?

    その代わり、国語の宿題みせてください」

エレン「お前はタダって言葉を知らないやつだなぁ・・・いいよ。俺でよければ」

サシャ「よし! 目の前の問題がひとつ解決しましたよ」

エレン「いいのか、いつもはアルミンに教えて貰ってるのに」

サシャ「あー・・・ええ、たまには別の人に教えて貰おうかと」ヘラッ

エレン「?」

サシャ「アルミン、調子が悪そうだし。しばらくはそっとしておこうかなと」

エレン「あいつ? この前よりは元気になったと思うけど」

サシャ「えーと、何て言うたらいいんか・・・ぬーん・・・

    とにかく、調子悪そうな気がするんです、私はそう思うんです」

エレン「? 俺にはそうは見えないけど、そうなんだ?」

サシャ「そうですよ、私の直感は3割当たりますから!」ドン!

エレン「そっか、そりゃ普通に頼りないなあ」クスクス

サシャ「でしょー」クスクス

エレン「でも3割はあたるんだから、試験でヤマ張ってみたらいいのに」

サシャ「ヤマ張りは得意ですけど名前を書き忘れて、物理0点だったんですよ」

エレン「最下位の真相それかよw お前はほんとおバカだなぁww」

サシャ「そうなんですよ、名前なんですよwwさすがに恥ずかしかったwww」

エレン「飽きないヤツだなほんとww」

サシャ「あははwww・・・・・ねぇ、エレン」

エレン「はは・・・ん、なんだ?」

サシャ「ミカサにも、それくらい遠慮無く突っ込んであげたらいいじゃないですか」


 サシャは、普段の調子から比べるととっても穏やかな声色で。

 大きな瞳を少しだけ上目遣い気味にこちらを見てきた。不覚にも動揺した。


サシャ「こうやって、笑うことはないんですか、彼女と」

エレン「そりゃ・・・あいつそんな、おおっぴらに笑う性格じゃねぇし」

サシャ「アニから聴いたんですけど、アイドルとしてのステージを用意するんでしょう?」

エレン「ま、まあ本人が歌いたいってんならな。気晴らしにもなるだろ」

サシャ「そういった気遣いは素敵ですよね、うんうん」


 サシャは立ち上がり、棚からハーブティの茶筒を取り出して支度を始めた。


サシャ「・・・でも、もっと単純なことでもいいと思うんですよ」

エレン「っていうと」

サシャ「エレンはなかなかすごい人だと思います。男子達は大体当てはまりますけど、

    その辺の同い年と比べると、ちょっっっとだけ、大人っぽいですよね」

エレン「そ、そう?(・・・なんだろ、照れる)」

サシャ「エレンも、あれこれ考えるのが上手で、私には出来ないから羨ましい」

エレン「む、ずがゆ・・・//」ソワソワ

サシャ「でも、エレンの場合は、考えるよりも、動く方が似合ってると思うんですよね」

エレン「動く?」

サシャ「コニーとかとは違うんですけど、気持ちに従って動く方が、似合ってるなって」

エレン「・・・サシャって難しいことを言う」

サシャ「うーん。私も感じたままを話してるので・・・

    そうだ、こう考えては? エレンはミカサにどうあってほしいですか」

エレン「どうって・・・」


 あいつが最近笑っていないことがイヤだ。ちょっとでも笑って欲しい。

 あいつの静かな笑みが、嫌いじゃないから。


エレン「わらってて・・・ほしい」ポツン

サシャ「うん、そうですよね・・・そしてそれは・・・」

サシャ「――ミカサも、貴方に対して同じように思ってるかもしれないですよ?」

エレン「・・・俺に? ミカサが?」

サシャ「そうですよ? 彼女は貴方に笑っていて欲しいと思っているかも。

    ね、単純でしょ? 人の幸せなんて、ごく簡単ですよ」

エレン「・・・俺が・・・」

サシャ「私はご飯をもりもり食べたい。そう言う意味では今、とても満たされてます。

    エレン、もっと何も考えずに、ミカサと接すればいいんじゃないですか」

エレン「・・・・・・」

エレン「お前が・・・・お前にそんなこと言われるなんて思わなかったよ」

サシャ「ひどいなぁ。でも全部直感なんですけどね・・・ただ」


 サシャは煮出した茶を手際よくカップに注ぎ、俺に差し出してきた。


サシャ「忘れてるだろうから教えてあげますけど、私これでも、

    あなたたちよりちょっとだけ、おねえさんなんですから」クス


エレン(単純に・・・か)

エレン「サシャ、お姉さんってんなら、普段もうちょっと落ち着いてほしいね」ニヤ

サシャ「むむむ」プクー


 その後、牛乳ぷりんを、ずいぶん美味しそうに食べるサシャを見て――、

 いつかのクリスタ占いのとおり――彼女が自分の欲を満たす瞬間は、

 確かに見ていて、不思議と心があたたまるものだと気がついた。


 ――そして夜、夕食の際に4階探索結果の報告が行われた。


生徒「・・・・・」


 ひとつの机に窮屈に集まって、俺とジャンが情報を提供する。

 意外にも、今回絶対に追及されるであろうリヴァイさんが、

 この場に粛々と座って寄り合いに参加していた。


コニー「・・・俺、むつかしいことは、解らんが・・・」

エレン「・・・」

コニー「他の人間はともかく、エレンの入学は、

    ハンジぐるみが勝手に決めちゃったってことか?」

アルミン「そうだね。リヴァイさんと、理由あって接見させたくなかった。

     理事会の議事録からはそう読み取れるよ」

ミカサ「・・・この、『リヴァイの行動権限』というのは」

リヴァイ「例えば、不良行為をしても罰されない、留年で済んでいる今の状況だな。

     俺には、入学までに様々な背景事情があり、そしてここにいる。

     行動権限とは、他の生徒より少し上乗せされた優遇措置だ――」

アニ「優遇措置、ねえ・・・」ジロ

アルミン「ベタだけど、学園理事会などの親類縁者――それゆえ措置がある。

     ・・・そんな漫画みたいな実情ってことですか?」

リヴァイ「・・・そのようなものだ。

     ただし、俺から何かを働きかけることができるわけではない。

     特に、ハンジが理事会を乗っ取ってからはな・・・」

ジャン「ハンジはあんたのために動いているようにもとれる。

    それでもあんたは――ハンジとは関係ないって言い張るんだな?」

リヴァイ「ああ・・・卒業後、あれが勝手に戻って勝手にやったことだ。

     俺には、あいつがなぜそこまでするのか・・・」


 リヴァイさんは、俯きながら、静かに、だが力強く呟いた。


リヴァイ「わかんねえんだよ・・・あいつの考えることは・・・」


エレン(リヴァイさん)

サシャ「――リヴァイ先輩、入学はいつしたんです?」

リヴァイ「・・・・・・・さあな」

ミカサ「それも言えないの・・・ですか」

サシャ「・・・そっか、覚えてないんですね?」ピコン

リヴァイ「・・・・・・・・・・ああ、そうだ」

エレン「えっ?」

アルミン「まあ、僕たちの多くも入学前後の記憶を、機密上奪われているしね」

リヴァイ「・・・気付けば入学していた、それは事実だ」

アニ「・・・・嘘じゃないんですね」

サシャ「元々嘘はついていませんよ、この人。ただ『言わない』だけで」

エレン(そうだ・・・)

アルミン「その通りだねえ・・・」

ジャン「・・・ってことは、ハンジの行動の真意は、先輩にも測れん、と」

リヴァイ「・・・・・・・・・・」

コニー「・・・・・・。ん、じゃ、次いこうぜ」キッパリ


ミカサ「理事会の映像は、ハンジが乗っ取る前の、最後の会議」

エレン「だろうな。どうやったかは知らないけど」

アルミン「この『改修工事計画』はハンジが乗っ取った後の計画だよね」

ジャン「ああ。竣工までが異常な早さだけどな」

アニ「私たちの中で、この計画について心当たりのある人はいるかい」


 全員、首を振った。


エレン「そう・・・大規模な改修だって含まれているのに、

    俺たちはみんな気づかなかったんだ」

アルミン「あえていうなら・・・以前、ユミルがライナーを襲った時、

     壁の修繕も含めて、いつの間にやら大浴場は使えるようになってたね」

ミカサ「・・・確かに」

ジャン「正直、ハンジ側の勢力を疑わざるを得ないな・・・

    単独なんてありえねぇだろ。やっぱり」

アルミン「どうかな・・・少なくとも僕たちの監視は独りでやってる気がするな」

コニー「なんで、そう思うんだ?」

アルミン「なんとなく? 勘かな」ニコ

ミカサ「・・・ひとつ、言えることは。

    ハンジの目的のひとつは『壁の高度を削減すること』」

アニ「そうだね・・・これが『卒業基準』と関連している可能性はあるかもしれない」

ジャン「それって、いよいよ意味解らんけどな」


 ひとまずは、今回得た情報を1人1人、自身で咀嚼してみようということになった。

 得た若い知識だけでは、話し合いも詰まってしまう。

 みんなが散り散りになり、俺とミカサは自然と2人になった。


ミカサ「・・・・・・」

エレン「調子はどうだ?」

ミカサ「大丈夫。もうへいき」

エレン「なあ」

ミカサ「ジャンに聴いた。私が無愛想だから、エレンが気にしてるって」

エレン「あの野郎・・・・・・いや、あの、うん」

ミカサ「解ってる。ごめんなさい、私、いつも可愛げが無い。

    アイドルとしてだったら、もうちょっと、がんばれるのに」

エレン「・・・いいよ、あんなの仕事じゃん。そのまんまでいいから――」


 なんで、そんな泣きそうな顔するんだ。やめてくれよ。


ミカサ「エレンは、ここを『卒業』したら、何したい」

エレン「俺は・・・俺は・・・」


 俺には、ミカサと違って夢がない。

 目標がない。


エレン「ここを出たら、そりゃシガンシナに帰るだろうけど」

ミカサ「・・・その後は?」

エレン「わかんねぇ。でも、とりあえず母さんのメシが喰いたいかな。

    あと、たまにはお前と、どこか遊びに行ってみたいな。シーナとか」

ミカサ「・・・・・・・っ」グッ

エレン「まあ、ここのメシも結構好きなんだけどさー」

ミカサ「・・・エレン、私の歌、聴きたいの?」

エレン「ん? まあ・・・な(お前が好きなことしてくれたら・・・)」

ミカサ「じゃあ、うたう。私の歌、聴いて欲しい」

エレン「ほんとか? そりゃ楽しみだ・・・」クス

ミカサ「うん・・・」

アルミン「エレン、ミカサ」

エレン「あ、アルミン。まだいたのか」

アルミン「ひどいなw あのさ・・・『お風呂に入らない?』」

エレンミカサ「!!」


 『大浴場』への誘い――つまり、監視カメラがない場所での密談が目的らしい。




 ――大浴場


ミカサ「アルミン。・・・話って」

アルミン「ハンジ側の勢力は単独じゃ無いかって、僕の発言についてなんだけど」

エレン「・・・あれ、まさか根拠があるのか」

アルミン「まあね。今日、きみとジャンが4階にあがってる間、

     僕個人でも、ちょっとだけ3階を調査してたんだ」

ミカサ「3階を・・・?」

アルミン「報告しようと思ったけどあの場ではリヴァイさんもいたことだし・・・

     とりあえず、きみたち2人に相談しようと思って」

ミカサ「アルミン、私たち2人に、1番に話してくれるの・・・?」ポカン

アルミン「? そうだけど。ミカサ、それがどうかした?」

ミカサ「し、信じてくれて?」

アルミン「当たり前じゃ無いか。なんでそんなこと言うんだい」クスクス

ミカサ「う・・・うれしい」ポツリ

エレン(? ミカサ、ほんとに嬉しそうだ。どうしたんだ・・・?)

アルミン「・・・・・・・」

アルミン「ま、とにかく話しておきたいんだ」

エレン「おう」

アルミン「3階にある女子トイレ・・・僕あそこに入ったんだよね」

エレン「おう・・・」ゴクリ

ミカサ「そ、そんなことしたら、不純異性交遊などに厳しいハンジぐるみが、」


 過去、オシオキを経験した俺たちは肩を震わせた。


アルミン「――そう、黙っちゃいないさ」

ミカサ「・・・でも、アルミンが今ここに無事でいるということは」

アルミン「察しの通りさ、ミカサ。つまり、僕は監視を外れていたってこと」

エレン「・・・ああ、そうか」

アルミン「うん。正直お咎め覚悟で調べていたから、拍子抜けだったんだよ。

     ・・・でも、エレン達の話を聴いて腑に落ちた」

ミカサ「同時刻、ハンジは、エレンとジャンの探索につきっきりだった」

アルミン「監視が独りだから。エレン達が『教諭用情報端末室』の探索中、

     ハンジぐるみはそちらに付きっきりだったから、僕はスルーされたんだ」

エレン「そっか・・・で、アルミン。何か発見したのか」

アルミン「ああ。3階女子トイレの個室、1番奥・・・

     そこに隠し部屋があるのを発見したよ」

エレンミカサ「隠し部屋!?」

アルミン「そう――ただ、時間がなかったから中はあまり調べていない」

エレン「や。お前が見つからなかっただけ僥倖ってもんだ」

ミカサ「危ないことを・・・でもありがとう」

アルミン「僕、以前からあちこち調べ回ってるだろ?」


 俺たちは同意した。顕著な例だと、以前、

 『裁判場』に続くエレベーターのところに、外へ通ずる扉があるのを、

 彼がひとりで暴いてしまったことだろう。


アルミン「自意識過剰かもしれないけど、

     どうもハンジぐるみに目をつけられてる気がするんだ」

ミカサ「過剰じゃない。少なくともコニー達よりは目を光らせてるはず」

アルミン「そうかな・・・でも、だとしたら、やっぱり、

     あらためて僕が調査するとなると難しいと思うんだよね・・・」

エレン「・・・あ、だったら」

ミカサ「うん」

エレン「な」コクリ

ミカサ「私たちが、代わりに調べる」コクリ

アルミン「ほんと?」パアァァア

エレン「おう。頑張ってみるよ」

ミカサ「アルミンが頼ってくれたことが、嬉しい。頑張る」

アルミン「そう・・・ありがとう」


 アルミンは朗らかに笑った。




 夜時間直前――食堂


ミカサ「・・・」ガチガチ

ミカサ「・・・・・・・」スゥ・・・


ミカサ「ハンジぐるみいいいぃぃぃィィィィ!!!!」


『――、な・・・なに、大声だして、なに!!?』バッ


ミカサ「話がある」


『なに、大事なこと?』


ミカサ「こっ・・・・・・・・」カチンコチン


『? どうしたんだい、かたまっちゃってwww』


ミカサ「こ、恋を実現するには、どうしたらいい/////」ムスッ


『はいー?』ポカン


ミカサ「リヴァイ先輩とか、年上に話を、き、聴きたい」

『なになにー恋バナー? い~じゃ~んww』


ミカサ「そう。大事な話だ、真剣に聴いて欲しい。

    ジャンも誰かに恋をしてるらしい。相談に乗ってやってほしい」


『それはwうんww でも、ふぅん。女の子だねえ・・・』


ミカサ「さっそく、リヴァイ先輩のもとへ行こう」スタスタ


『いいねぇ。男子だからこそ話せることもあるしー?www』スタスタ





 同時刻――校舎側


エレン(ミカサのやつ、うまく引きつけてるかな・・・よし、行こう)ササッ


 ミカサがハンジとリヴァイさんを引きつける役目を担うことになり、

 俺はその間、アルミンの行っていた隠し部屋へ侵入する算段だった。


エレン(最初は俺が囮役でいいと思ったが・・・

    やっぱり、ミカサに危険な役目は負わせられない)


 あいつは口べただけどバカじゃない。

 何らかの方法で、あの人達の眼を逸らさせることはできるだろう。


エレン(見つかっても、オシオキされるのは俺だけだろうし。

    この配役が順当だろうな・・・)


 そうして俺は、把握している監視カメラの死角を意識しつつ、

 目的の場所へそろそろと足早に向かった。




 ――校舎3階・女子トイレ



エレン(学校のトイレなのに化粧台がある・・・)


 ちょっとだけリッチな造りをした女子トイレに驚きながら、

 俺はすぐに目的である「1番奥の個室」へ向かった。


エレン(アルミンの話では・・・)コンッ


 個室に入るとすぐ、コンコンと壁を叩いた。

 確かに、奥の壁は、壁・・・というには軽い、不自然な音が鳴る。

 壁はタイル張りだが、色違いをまばらに混ぜた、色彩豊かなデザインになっていた。


エレン(あとは。)


 俺はアルミンに教えられた通り、特定の色のタイルを順番に触れた。

 ガ コ ン。 


エレン(開いた!!)


 奥の壁を押す――扉となったそこが、ゆっくりと開かれ、

 現れた石畳の階段が下へと伸びていた。

 俺は寮の倉庫から持ち出したペンライトを構えつつ、

 暗い、くらい奥へと降りていった。


エレン(なんというか・・・昔の城みたいな? 不気味だ・・・)


 空調が回らない、じとりとした湿っぽさと、石畳を叩く踵の音。

 終点は、木製の安っぽい扉だった。


 手早く済ませなければ逝けない。俺はすぐにそこを開けた。



エレン「・・・」


 こぢんまりとした隠し部屋は、ところどころに本棚が配置され、

 机には開きっぱなしのノートや筆記用具、本が散らかっていた。

 誰かがつい最近まで使っていたような、


エレン「冷てぇ・・・さむ・・・」ブルリ

エレン「・・・とっとと、探ろう」


 ――まずは本棚だ。


エレン(教科書、参考書、童話集、小説、詩集、古典文学、楽譜、伝記物――)


 2階の図書室にあるラインナップを、さらに尖らせた揃え方だった。

 俺は次に、机のノートたちをぺらぺらとめくる。

 普通の数学の授業ノートなのだが、学生らしく、落書きの類いが散見される。


エレン「あ」


 既視感を覚える似顔絵が書かれていて(絵は上手だ)、横に添え書きがあった。


 “リヴァイの変顔www今年一番の出来www”

 “死ね”

 “人のノートに書き込むんじゃねー。あとタヒねとか言っちゃダメですw”

 “やっぱ生きとけ”


 次のページには、今度は違う、メガネが特徴的な人の似顔絵が(正直拙い)。

 その下に、また添え書き。


 “↑蝉の抜け殻を収集するハンジ”

 “リヴァイの画力www”


 よく見たら、暖房器具やら、古いオーディオシステム、電気魔法瓶、

 ・・・そんなちょっとした家具が揃っていた。

 プリントで作られた紙飛行機、電池の切れた携帯ゲーム機。空の菓子袋。


エレン(なんだっけ、こういう感じ・・・)


 気安いやり取りが、この部屋であったのだろうか。

 リヴァイさんと、ハンジの間に。まるで、


エレン「秘密基地っぽい」ポツン


 散らかった机上の中で、ノート類を漁る。

 多くはハンジの私物と思われる『研究者』のメモばかりだったが、

 唯一、読める記述があった――以前美術準備室で見た、誰かの日記だ。


エレン「ここにあったのか・・・!」


 俺はページを進めた。落書きが多かったが、

 ページの中頃から、ようやく日記らしい記述が始まっていた


エレン「これだ!」

エレン「・・・・・・・・・」






---------------------------


 “卒業したら、ここには戻れない。その法則を壊すにはどうすればいい?”

 “美術部のモブリットを抱き込んだ。彼は優秀だ。しかも超優しい。”


 “モブリットに泣かれた。でもしょうがないんだよね、私は私だし。”

 “キース先生が辞職した。そう、生徒の『卒業』と同義だと私は思ってる。”


 “最近、ここに来る以前のことを思い出してきた。

  リヴァイは忘れたって言い張るけど。ねえ、そんなことないだろう?”


 “ペトラは相変わらずリヴァイにお熱だ。とてもかわいらしい。”

 “卒業の時が来た・・・が、入学しなおすことにした。”


 “理事会のジジイども! 豆鉄砲くらった顔して、ざまぁみろ!!”


 “正直、リヴァイくらいしか友達いないんだよね。うん。”

 “モブリットは最後には笑って卒業していった。ありがとう、私の右腕”


 “エレンはまだこない? あとは彼ぐらいしか残っていない”

 “エレン、なんでこないんだ”


 “もう、キミしかいないのに!!!”


---------------------------




 ――ひとこと日記、というのだろうか。

 短く、日付もあったりなかったりと散漫な内容だったが、

 こうやって流し読みするだけでも、血の気が引いていくのがわかった。


エレン「卒業したら・・・ここには戻れない・・・?

    つうか・・・なんで、俺の名前を卒業前のハンジが書いて・・・」


 ガ ツ ン !!!!!!!


エレン「・・・・っ・・・・・・・」フラリ

エレン(誰か、背後、に。い)フッ


 ド サ リ


エレン「・・・・・・・・・」

???「・・・・・・・・・」



---------------------



ミカサ『エレン・・・貴方を助ける。だから・・・』

エレン『ミカサ、もうやめてくれ』

ミカサ『いいの。貴方は私の希望だから。だから、』

エレン『やめてくれ、お願いだ、アルミンみたいになる気か!?』

ミカサ『・・・いつか、私が貴方にとっての希望になれたら・・・』

エレン『・・・・・・・・あ』


ミカサ『だから・・・私は、いく』ニコリ


エレン『違う、俺は、ただ、母さんの。っお前を・・・・っ』




エレン「ミカサ!!!」バッ

ミカサ「エレン!」ウルウル

エレン「み・・・・か・・・?」ポカン

ミカサ「エレン、まだ動かないで」

エレン「・・・・ここ」

アルミン「きみの部屋だよ、エレン」

ミカサ「覚えてる・・・?」

エレン「・・・・・・・」

エレン(ああ、俺、ベッドに寝てるんだ。気絶して・・・・)

エレン「不甲斐ねぇ。小部屋で、誰かに後頭部を殴られたんだ」

ミカサ「ううん。私たちの見通しが甘かった・・・」

アルミン「危険な目に遭わせちゃってゴメン・・・」シュン

エレン「そう落ち込むなよ、お前ら・・・」

ミカサ「私、あの時確かに、ハンジぐるみとリヴァイ先輩を呼び出した」

エレン「じゃあ俺を殴ったのは他の人間ってことかよ・・・。

    何とか調べることはできねぇのか?」

ミカサ「これ以上はダメだ!! エレン、ただでさえ頭を怪我してる」

アルミン「まあ、そこは男の子だし大丈夫でしょ」

ミカサ「アルミン!!!」

アルミン「冗談だよ。不味いのは、あの隠し部屋の重要度が高すぎたってことだ。

     厳重な4階部分より、僕たちは情報を得ることが出来たかもしれない。

     少人数で調べたのが仇になったね・・・僕の責だ」

エレン「あらためて確認は――」

アルミン「できない。きっと、今行けばもぬけの殻さ」

エレン「――だろうな」

アルミン「エレン、本当にごめんよ・・・」

エレン「いや、いいんだ。お陰で、大事な情報を知ることが出来た」


 俺は、ハンジがつけたであろう日記の内容を話した。


アルミン「『卒業』したら、ここには戻れない法則・・・?」

エレン「学園に戻れないってことだよな・・・」

アルミン「ハンジも、エレンのことを知ってたみたいだね」

エレン「俺は知らねぇよ!! なあ、ミカサ!?」

ミカサ「・・・・・・・・」

エレン「ミカサ?」

ミカサ「そう、そんな知り合いはいない」

アルミン「ふーむ・・・エレンはミカサと違って、特別なことはしてないよね」

エレン「ああ。俺は平凡に生きてきたし、誰かから恨みを買うようなことは」

アルミン「では・・・・が・・・・という・・・」ブツブツ

ミカサ「アルミン、考察は確かに大切。でも、エレンのこともあるし、

    今夜は寝よう。監視の目が複数ある可能性も出てきた。

    しばらくは大人しくした方がいい・・・」

エレン「ん・・・そうだな。正直、ちょっと寝たいかも」

アルミン「・・・わかったよ。じゃあ、おやすみ」

ミカサ「エレン・・・おやすみなさい」


 正直、寝覚めが悪くて気分が悪かった。

 俺はおとなしく、そのまま寝ることにした。



エレン「・・・・・・・・」

エレン「気絶したときに夢・・・覚えてる」

エレン「ミカサ・・・なんで血だらけだったんだ・・・」

エレン(こんな夢をみる俺自身が。気持ち悪くて仕方が無い)


 冷や汗が、こめかみを伝って枕元に零れた。




 寮――廊下


 パタン


ミカサ「よかった・・・エレンの顔色、倒れてた時より戻ってた」

アルミン「ああ、ほんとうに・・・」

ミカサ「アルミン、私たちが探索しているとき、貴方はどこにいたの?」

アルミン「僕? 当初の予定通り、寝室か食堂で、普段と同じく過ごしてたよ」

ミカサ「そう・・・おやすみなさい」

アルミン「? おやすみ、ミカサ」ニコ


ミカサ「・・・・・・・」スタスタ

ミカサ「・・・やっぱり・・・もう・・・」ポツリ


---------------------

本日ここまでです。
このペースだと年内に終わらない予感がしますが、まったり方針で。



 翌日。ミカサに起こされた俺は、引っ張られるように食堂へ向かった。

 昨夜の出来事をみんなにどう話すか――アルミンと話し合わなくてはいけない。


エレン(頭がまだ、時々ごわごわするぜ――)トロトロ

ミカサ「・・・・・・・」スタスタ

エレン「・・・・う゛~」トロトロ

ミカサ「・・・・・・エレン」ピタ

エレン「ん?」チラ

ミカサ「今朝の放送、聴いていた?」

エレン「・・・放送?」

ミカサ「今日は、授業は中止、朝食を食べたら速やかに体育館へ集合――。

    ハンジがそう言っていた。だから、ごはんは早く食べよう」スタスタ

エレン「あ、うん・・・(なんだ・・・)」スタスタ

ミカサ「私には・・・もう、わからない・・・」ポツリ

エレン「??」

エレン(・・・体育館に集合か。授業を休業してまで臨時集会があるってことは・・・)


 ――ハンジ側に動きがあるか、以前の感染症のように異常事態が生じたとき。

 そう考えると、自然と肩に力が入った。



 食堂


コニー「――あ、おはよう、エレン」ニコ

エレン「おはよ」

コニー「相変わらず目がトロけてんぞ! 俺はもう喰っちまったし、

    先に体育館いっとくからな~」

エレン「ん」

ジャン「おはよう、ミカサ」

ミカサ「おはよう」

ジャン「あとはお前らだけだ。ちょっと駆け足で頼むぜ。・・・おい、てめぇ」

エレン「あ?」

ジャン「ジー・・・どっか悪いか?」

エレン「は・・・? いや、別に」

コニー「寝ぼけてるんだろ、まだ」ケラケラ

ジャン「てめぇ、もうちょっと早く起きれねぇのかねえ。先行くぜ」スタスタ

エレン(・・・野郎、いらん時だけ察しがいいというか。俺が判りやすいのか?)


 俺とミカサで朝食をとる。心なしか、いつもよりメニューが手抜きだと思った。

 作る時間が無かったのか、ビュッフェの品数はいつもの半分以下だ。

 食欲がなかったから問題は無かったけど、

 ミカサの食べる量まで、いつもと比べると少ないのは気になった。



 ――AM 8:49 体育館


 だだっ広い体育館。ただ棒立ちして待機していた俺たちの前に、

 ハンジぐるみは壇上をとことこと歩いて登場した。


『昨日も言ったばかりだと思うが・・・人の部屋を荒らすなと言ったよねww』


 ハンジぐるみはにこにこと笑っている。


『お前らと秘密を語り合うような友達になった覚えもないしねwww』


エレン「・・・・・・」
ミカサ「・・・・・・」
アルミン「・・・・・」

アニ「また、ハンジぐるみに喧嘩売ったヤツがいるの・・・?」


『正直、この学園を紐解くことと、君たち個人が『卒業』することは関係ない』


アルミン「どういうことです?」


『そのままの意味だけど・・・だって、今まで卒業した君たちのクラスメイト、

 探索に熱心じゃなかった人も含まれてるよねえ。マルコなんてほら、すぐ卒業しただろ?

 全て暴いたところで、君たちの卒業に繋がるわけじゃないの』


ジャン「・・・」ピク

コニー「そ、そりゃそうかもしれねぇけど」

サシャ「いきなり説明的ですね・・・怒ってます?」


『ああ、怒ってるさ・・・!!! 大いに怒ってるよ!!!

 そんなに私のことを暴きたいなら、チャンスをやろうじゃないか』


リヴァイ「・・・おい、何する気だ・・・」


『てめぇは黙ってろ、腰抜け野郎。

 ・・・さて、予てより、遊園施設内で準備中のアトラクションがありまして。

 その施設にご案内して差し上げよう・・・そこで、もう一度チャンスをやるよ』


ジャン「準備中のアトラクション? んなモンより、昨日みたいにちゃんと、

    俺たちに4階を探索させるとかあるだろ――」

アルミン「まあ、いいじゃないか。チャンスって言うことは、僕たちにとって朗報だろ」

ジャン「あ、ああ・・・」

アニ「ねえ、授業は?」


『その間休みだね。勉強しなくて良いよ。ついでに遊園施設で遊べる!!!

 ほら、最高の余暇にしようじゃないか』


エレン(いや。絶対おかしいだろ・・・あの中に準備中のなんて――)

エレン(・・・いや、ひとつだけあった。箱物の施設の中で、

    俺たちが、絶対に入れなかったアトラクションが・・・)

ミカサ「・・・そう来るか」


『遅いよ、ミカサ。残念だが、ちょっとの間、おやすみなさーい☆』


コニー「・・・ん?」

サシャ「! どこかで空気が流れる音が・・・それに」クンクン


 シュウウウウウゥゥゥゥ・・・


エレン「なんだ・・・この臭い・・・」クラァ


『一番最初に効くのはエレンかあ・・・。疲れてるからだろうねえ』


リヴァイ「・・・・・・」ギロ


『大丈夫、ちょっと眠って貰うだけだからwww

 ・・・あんただけは、象でも眠っちゃうコイツを用意してるしね』


 ハンジぐるみの丸い手が、大きめの注射器を掲げるのが見えた。

 ――それが、俺が気絶する前に捉えた、最後の光景だ。


ミカサ「エレン・・・エレンしっかりして!!!」

エレン「はは・・・さいきん、こんなのばっか・・・」フッ

ミカサ「エレ――」




------------------------------




 目を開けたとき、しばらく視界の焦点が泳いだままだった。


エレン「・・・・・・・・」ボー

サシャ「あ! お目覚めです!!!」

ミカサ「エレン・・・」

コニー「寝てるヤツの耳元で大声出すなよ、バカだな・・・」

エレン「・・・校舎じゃない・・・」


 辺り一面、石煉瓦で作られた質素な部屋だった。例に漏れず窓はなく、

 何故か全体的に青白い照明の寒々しいのに、床だけは違った。


エレン「・・・花のにおいだ・・・」


 辺り一面、すみれ色の小さな花が咲いて、俺はその中に横たわっていた。

 そして俺は、咄嗟に把握した。ここはいつもの校舎や寮ではないと――。


アニ「おはよう・・・一番遅いけど」

アルミン「僕たち、みんな眠らされたあげく、目隠しをされてたよ。

     キミと同じように、目が覚めたときはここだった」

エレン「みんな、無事か・・・・・・」

ジャン「お前が変なとこなけりゃあな」

ミカサ「エレン、身体に変なところは?」ギュウ

エレン(昨日誰かにぶん殴られたこともあって、こいつ心配してるんだな)

エレン「だいじょうぶだ、だから・・・手ぇ、離せよ」

ミカサ「う、うん」パッ

ジャン「よく眠れたぜ、まったく・・・確かに『良い余暇』ってヤツだな」ケッ

コニー「喉渇いたわあ・・・今何時だ?」

アニ「さあね・・・つけてた腕時計は取り上げられたよ」

サシャ「ここが、ハンジぐるみの言ってた『アトラクション』なんですか?」

ミカサ「・・・おそらくは。私たちは閉じ込められたのか・・・」


 じろり、とミカサが一点を見つめた。

 その先には、何か思案顔で空を見つめ佇む――リヴァイさんがいた。


リヴァイ「・・・そうだな」

ミカサ「なぜ、そんなことを・・・」

リヴァイ「俺に訊いてどうする・・・そんなことはヤツに訊け」

ミカサ「・・・・・・」

エレン「ミカサ・・・そうだよ、まずはハンジぐるみに話を聞かないと」

アルミン「くるよ」


『よし、揃ったね・・・』


 にょきっと、花畑の中からハンジぐるみが顔を出した。

 全員分の冷ややかな目線を浴びながらも、ハンジぐるみは活力ある声で話す。


『さて、ここは箱物アトラクション――』


 「どっきりハウス★ウトガルド城」


 それが、俺たちがいる建物の名前、らしい。

 ヒントはそれだけ。


エレン「・・・学園の、さらに奥に閉じ込めたってことか・・・?」


『あながち間違いではないね。君たちには外観を一切知って欲しくなかったから、

 こうやってお休みいただいたうえで招待したってわけ』


ジャン「おい。ってことは出入り口は・・・」

リヴァイ「隠されているか。いずれにせよ、中から出ることが難しい造りなんだろうな」


『その通り。ただじゃ出さないし、だから出入り口一つ無い。学園の奥の奥へようこそ』


コニー「えっ」

アニ「その造りを明かさないために、私たちは気絶させられたってことだね」

アルミン「それで・・・今度はどんな遊びを思いついたの?」ニコ

サシャ「アルミンの声にちょっとしたブラックさを感じます」


『簡単に言うと、別にびっくりもどっきりもない、ただの建物なんだけど。

 ここは最上階ね。で・・・階下には君たちの寝室も用意してある。個室だよ』


ミカサ「・・・・・・」


『学園の話について、ただ単に明かすのは勿体ないだろう?

 だから、条件を設けさせて欲しいんだ』


 いやな・・・いやな空気だ。そう、ろくな事にならないぞと、俺は知っている。


『ここから出たかったら、あるゲームに参加してもらう。

 それは、そこのリヴァイ君でもクリアできるか判らない・・・

 最高に滾る “命がけのゲーム” ってヤツだよ』


ミカサ「命がけ・・・?」


『そう、結構な難易度のゲームだ。内容は、挑戦する意志を見せたら明かしてあげる。

 失敗したところで、死にはしない。ただただ、学園の在籍年数が加算されるだけだ』


リヴァイ「死にはしないって言い方は・・・なかなか小賢しいな。

     無事じゃ済まねぇと・・・素直にそう言えばいい」


サシャ「え・・・えええ・・・」オロオロ


『・・・まあ、そういうことだね』


エレン「お前は・・・俺たちをどうしたいんだよ・・・!!!?」


 確か、こいつは学園で俺たちに切磋琢磨させることが目的だと入学式で言った。

 何か事件が起これば学級裁判で解決し、そして人類の希望となることが目的で。

 つまり、最終的には一応、卒業させることが目的のはずなんだ、こいつは。


『まあ。簡単には外に出せないよ。これ以上卒業してもらったら困るもんでね』


エレン(――だけど、今、こいつがやってることは何だ?)


『ほら、オマエラざわざわし過ぎ。静粛に、静聴したまえよw』


エレン(この先に用意されているのは、きっと危険な『アトラクション』だ。

    わざわざ、さらに狭いところに閉じ込めて、何をさせる気だ・・・

    こいつは十中八九、俺たちを『ずっと閉じ込めておきたい』と考えている)


『その代わり、ゲームをクリアしたあかつきには、ちょっとした特典を上げよう』


エレン(いつから、こいつは『閉じ込めておきたい』とハッキリ言うようになった・・・?

    最初から目的だったなら、何故、入学当初はあんな言い方をしたんだ・・・)


『――ご明察だよ、アルミン。クリアした者には、ここから脱出する権限と、

 そして、条件付で、学園に関する情報を開け渡そうと思う』


エレン(それとも・・・途中で、ハンジぐるみの目的がすり変わってしまったのか・・・?)


『言っておくけど、チームプレイは厳禁だ。たった独りで挑み、たった独りで知るがいい』


ミカサ「・・・お前がやっていることは、本末転倒そのものだ」ポツリ


『・・・何か言ったかい、ミカサ?』


ミカサ「本当に・・・愚かだ・・・」ポツン

ジャン「ミカサ?」

ミカサ「・・・・・・っ何でもない」

ジャン「・・・・・・。そうか。悪ィ、聞き間違えたみたいだ」

アルミン「・・・」ジー

アルミン「・・・ねえ学園長。それ以外にアトラクションを出る方法はないんですか?」


『ああ。と言いたいところだけど、単純に脱出だけを目的とするなら。無いってわけでもない』


コニー「っそれって――」


『ああ、言わないよ? 正攻法で来て欲しいから、ぜひ、ゲームに挑戦してくれ。

 仲間たちのことなんて気にせず、出たいヤツだけ、向かってくれば良いのさ』


コニー「っなんだよ、教えろよ!!!」ムカムカ

アニ「・・・ってことは正攻法じゃないのか・・・」

アルミン「ああ、そういうこと・・・困ったねえ」ヘラッ

アニ「あんたは、余裕そう」

リヴァイ「今、何時何分だ。食事はどうなる。最低限の情報を寄越しやがれ」


『さて、しばらく探索の時間をあげる。ちなみに、寝室については特に指定は無いからね』


リヴァイ「おい、まだ話は・・・・・・チッ。行きやがった」

アニ「さすがに、これは学園の『手厚い庇護』とは言えないだろうね・・・」

コニー「これから歩くのか? 腹減ったんだけど、マジで・・・」

サシャ「ほんとですよ。ちなみに私の腹時計的には、」ぐるるうぅぅきゅるる

サシャ「――多分、昼食を抜いてますね、きっと黄昏時です」

コニー「俺、お前のこと嫌いじゃねえけど、お前の言うことは8割方信じないことにしてるんだ」

アルミン「ま、こんな綺麗なお花畑にいても仕方ないし。ちょっと頑張って歩こうか」

ジャン「そうだな・・・コニー、やろうぜ」

コニー「ああ。ところで、さっきから、エレンは静かすぎじゃねえか」

エレン「・・・・・・・・・」

ジャン「そういや。いつもの騒音がねえな・・・おい、死に急ぎ野郎!!」

エレン「・・・・・・・・・」

ミカサ「エレン」

エレン「・・・・・・ぁ。ごめん、考え事してた」

サシャ「この状況で?」

エレン「ああ。そういやハンジぐるみの話きいてねぇや」

ジャン「しっかりしろよ・・・」

アルミン「はは。まあまあ。あとで教えるからさ。それじゃ探索しようか」

エレン(ハンジ・・・)


 俺はその後、聞き逃したハンジぐるみの話をアルミンから聞き、

 その理不尽さに憤慨しつつ、みんなといっしょにアトラクション内を探索した。

 そして、ソレを終えて、もう一度、開始地点である、この花園に戻ってきた。


エレン「・・・じゃあ、この建物の構造を推測しようぜ」

アルミン「ここは、ずばり、<塔>のように縦長の構造になってるはずだ」

ミカサ「うん。広さはあまりなく、階は螺旋階段で移動する。塔やビルの形」

サシャ「私たちのいるこの花畑がはじまりだとすると・・・ここが塔の最上階ですね」

アニ「階下とあわせると、階数は4階だね」

ミカサ「2階には連絡橋があって、そこを渡ると・・・」

ジャン「同じ構造の、反対側の建物に渡ることが出来る」

エレン「じゃあ、2つの塔が向かい合って建ってるって認識で、間違いないな?」

リヴァイ「ああ。塔の構造は対になっている。それぞれ、便宜上の呼称がほしい」

アルミン「そういえば、反対側の3階には太陽が沈むような絵が飾ってあったな」

アニ「じゃあ仮に、そちらを<西塔>、花園のあるこちらを<東塔>と呼んだらどう?」

コニー「え、なんで?」

ジャン「太陽が沈む方が西側だからだろ」

コニー「ああ、そういう・・・あ。そうだ。西塔の最上階に怪しい部屋があったな」

ミカサ「うん」


 みんなの表情が僅かばかり、曇った。

 <西塔>の最上階にあったのは、『デッドエンドルーム』と書かれた、開かずの扉。

 ただそれだけだ。 


サシャ「あれ、完璧に怪しいですよね」

アニ「なんとも重々しい鉄扉だったね。あそこが、つまりゲーム会場なんだろ」

リヴァイ「今の段階で、挑戦するなんて阿呆はいないな」

エレン「危険だって言いたいんですよね?」

ジャン「俺は出てやるぜ!!」

アルミン「え」

ジャン「――といいたい所だが、もう少し調べようと思う。明らかな罠だからな」

コニー「せいちょうしたな、ジャン・キルシュタイン」


 さらに検討し、1から3階は<西>と<東>それぞれ以下の構造になっているとした。


 1階。通称『貧民部屋』という、壁が薄くて寒くて家具も少ない寝室が1部屋ある。

 2階。通称『中流部屋』という、ごく一般的なレベルの寝室が2部屋ある。 

 3階。通称『富豪部屋』という、もう全てが便利でオシャンティーな寝室が1部屋ある。


サシャ「それより、皆さんに重大な情報を提供せねばなりません」バッ

エレン「どうした、サシャ。改まって」

ミカサ「なに? また放屁でもしたの?」

アニ「唐突に何ほざいてんだい、おのれは」

サシャ「各部屋に、ペットボトルの水がありました」

エレン「ああ、そうだな。冷蔵庫にあった」

サシャ「でも食料が、ありません。お水しか、ありませんでした!!!!」

コニー「・・・あれ、ほんとにヤバい情報じゃね、これ」

ジャン「確かに・・・なかったな、食料庫だとか、食堂だとか・・・」

アルミン「空腹におとしいれ、是が非でもゲームをさせたいってことかあ」

エレン「学園長!!!」


『やあ。待ちくたびれたよ、何時間探索したら気が済むんだか』


エレン「食料がないってのは、どういうことですか」


『ああ、何か食べたかったら食堂に戻ればいい。もちろん寮の食堂にね』クスリ


リヴァイ「・・・っそれをこいつらに強いるのか。他でもねえ、お前が!!」

生徒「」ビクッ

エレン(・・・リヴァイさんが、大声をだして)


『ふふ。君たちなら飯抜きくらいどうって事無いだろうけど、それでも何日持つかなあ。

 大丈夫、餓えても殺しはしない。私に刃向かうなと、ごく一部の人間に伝えたいだけなんだ』


エレン「・・・・・・・・・・・・・・」

リヴァイ「・・・斜陽の時だな」


『なにがだい? リヴァイくん』


リヴァイ「俺もお前も、終わってる・・・何もかも・・・」


『そうかもしれないねえwww ――それじゃあ、ゲームへの挑戦、待ってるよw』


 ハンジぐるみは、消えていった。それを止める者は誰もいない。

 みんな、唖然としていた。言葉が出なかったのだ。


エレン(これまで、なんだかんだ衣食住の保証はされていた。

    俺たちには、機密上、外界との接触を禁止する不自由だけがあった)


ジャン「・・・これは、相手がマジになってるってことだぜ」ハァ

サシャ「ごはん・・・」

アニ「そうだね。『食』っていう、生きる上で大切な行動を制限する――

   紛れもなく。私たちに対する『恐喝』だよ」

サシャ「ごはんん・・・ぅぅっ」グスン

コニー「え、お・・・!!!」ギョッ

サシャ「うう・・・ぐすっ・・・・ぐす」

コニー「だ、大丈夫だって、お前。全員でさっさとクリアしようぜ。な?」ヨシヨシ

アルミン「・・・コニー。あんまり無責任なことは言わない方が良いよ」

コニー「・・・」ビク

アルミン「それはきみの希望的観測だ。学園長は何て言った?」

ミカサ「『たった独りで挑み、たった独りで知るがいい』・・・と」

アルミン「そう。学園長は、僕たちに独りで行動させる腹づもりだ」

エレン「チームプレイの厳禁・・・俺たちの団結力を削ぐことが目的なのか?」

ジャン「リヴァイ先輩は、これに意味があると思いますか」ジロ

リヴァイ「・・・・・・」

アニ「何か知ってるなら教えてください」

リヴァイ「『ゲーム』がどんなものかは判らねぇが・・・」ボソ

リヴァイ「ある程度のリスクを匂わせて、挑戦を躊躇させる。

     空腹も手伝って、俺たちにはフラストレーションがたまるだろう。

     そんな中、独りで挑戦するヤツが現れたら・・・」

リヴァイ「失敗して、そのリスクを目前にすれば生徒への多大なプレッシャーになるし、

     仮に成功したとしても、残された者へ精神的負荷となる」


 今までは、他の生徒が『卒業』していっても、なんとか我慢できた。

 だって、メシが無くなることなんて、1日たりともなかったからだ。


リヴァイ「ヒトは、理論上だが、水だけでも数週間から2、3ヶ月は生存できる。

     ・・・そしてお前達はたぶん、『なかなか死なない』だろう。

     だからこそ、時間をかけてゆっくり、俺たちに教え込むことが出来る」


 “団結は必要ない、卒業も必要ない、この箱庭で、生き続ければいいんだよ”

 ハンジぐるみが、俺たちにそう語りかけてくるようだった。

大変遅くなりましたが明けましておめでとうございます。
元ネタのほうで6章構成であるのに対し、この話は5章くらいにまとめたいことから、
この章は4章ぶん、5章ぶんをくっつけた、といった感じになります。
少々長いですが、なるべくサクサクあげるよう努めます。


コニー「っでも、俺たちはまだ捜してない。俺たちが全員で出る方法ってヤツを・・・。

    それに、学園長は、確か、脱出する方法なら他にもあるって・・・」


 ――『単純に脱出だけを目的とするなら。無いってわけでもない』


アルミン「それについては・・・ひとつ検討がついてるんだよね、僕」

エレン「ほんとうか!?」

アルミン「ああ・・・『学級裁判』の性質を利用するんだよ」

ミカサ「アルミン!」

サシャ「・・・それって・・・」グス

アニ「『学級裁判』は、クラス内で事件が生じたときに、裁判場で議論しあう制度。

   つまりは――何か、事件を起こすことで、強制的に脱出するってことかい」

エレン「・・・・・・」ゴクリ


 これまでの『学級裁判』の内容を思い返した。


 1番最初は、偶然に起こった事故だったが、状況的に俺が冒したと疑わざるを得なかった。

 世間的には、事件としてそのまま扱ってもおかしくない『下着泥棒』の件だ。


 2番目は、学園について何らかの事情を知っている者が、『卒業させない』ことを動機に、

 誰かを襲い、違う誰か犯人に仕立て上げた。紛れもなく事件だ。


 3番目は、病によって人格に変化のあった者が猟奇的な犯行に及び、人を殺そうとした。

 世間的には精神鑑定などで無罪となるケースかもしれないが、怖気の走る事件だった。


ジャン「・・・ハンジぐるみの出方が変わってる。自らの規則を守るか、眉唾モンだ」

エレン「それに。誰かが、誰かの身体、或いは心をを傷つけなきゃいけない。

    ・・・じゃないと、学園長にとっては『事件』にならねえんだ」

コニー「絶対・・・ダメだ!! そんなのぜってーダメだからな!!!

    もっと捜そうぜ、なあ。俺バカだけど、頑張るから・・・」

アルミン「そうだね。あまり良い手段じゃないよねえ。ごめん」

ジャン「というか、この場にいること自体が事件だろ?

    俺たちが進んで事を大きくしてやる必要なんざねえって」

ミカサ「そう・・・ジャンの言うとおり」

アニ「でも、気になるね・・・」

サシャ「・・・?」


 サシャの嗚咽もかなり収まってきた。

 両横で、コニーとミカサが背中をさすっていたから、気が落ち着いたのだろうか。


アニ「そろそろ白状したらどう?」

アニ「どこの馬鹿か知らないけど。ハンジぐるみがこれだけ態度を豹変させたんだ。

   あいつを本気で怒らせたって自覚がある奴・・・いるんだろう?」

エレン「」ビク

ミカサアルミン「・・・・・・」

アニ「ねえ、正直に言いな」

エレン(アニ・・・俺のことみてる・・・コワイコワイ)

ミカサ「・・・私とエレンで、ハンジの隠し部屋に侵入した」

サシャ「隠し部屋?」

ミカサ「正確には、アルミンが以前たまたま発見した隠し部屋を、エレンが調べた。

    私が、学園長とリヴァイ、先輩をおびき出している間に」

リヴァイ「・・・ああ。そういえばそうだったな。俺は昨夜ミカサにおびき出された」

エレン(・・・・・・ん?)

ジャン「で、エレン、何を見つけたんだ?」


 俺は話した。校舎3階女子トイレから隠し部屋へと繋がっていたこと、

 ハンジが生徒だったころ、どうやらリヴァイと過ごしていたらしいこと、

 そして、ハンジは『卒業したら学園には戻れない法則』を打ち破りたかったらしいこと。


エレン(ハンジが俺を知っていたこと・・・それを皆に話すべきか)


 ハンジが学園の生徒だった頃から、俺を知っていたかも知れない。

 ――いや、エレンなんて、俺以外の他のヤツかも知れないし。


エレン(でも、このことを話したら、また、俺が疑われるんじゃ?)


 最初の学級裁判の時のように。あの氷のような目を一瞬でも俺に向けられたら?


エレン(・・・いや。俺は俺だ。万が一、疑われたら、また証明すれば良い)


 一時の躊躇を振り切って、俺は、ハンジが俺を知っていたかもしれない、と話した。


ジャン「・・・なあエレン。お前は、本当に学園のことを何も知らないんだよな?」

エレン「当たり前だ」

ジャン「・・・信じるぜ」グッ

エレン「・・・ああ」

アニ「で・・・昨夜のあんた達の行動が、ハンジぐるみを怒らせたってこと?」

アルミン「それについては、僕が・・・慎重に考えるべきだったよ」

ミカサ「アルミン、気に病まないで。私とエレンが侵入を買って出た」

エレン「そうだよ。俺たちが勝手にやったことなんだから・・・」

アルミン「ごめんよ、ありがとう」

アニ「・・・でも。だとしても、ハンジが怒る理由にはならない気がする」

コニー「なんでだ?」キョトン

アニ「だって、隠し部屋ったって、カギ一つ掛からないような部屋だよ? ですね、先輩」

リヴァイ「そうだな・・・あそこは、扉のカギを壊して、ハンジと俺が使っていた。

     授業をサボるのにな。監視カメラもねぇからちょうど良かった」

アニ「そこで秘密を見られたからって、それは前もって処分なり閉鎖なり、

   きっちりと対処しなかったハンジぐるみの自業自得じゃないか。

   今更そこを荒らされたからって、こんなことをするとは思えないね」

エレン「いや、俺の行動には怒ってたよ・・・言っただろ、後ろから殴られたって」

リヴァイ「・・・・・・」

アニ「エレンよりさらに危ないことをして・・・それを黙ってるヤツは、いないね?」


 つまり、俺たち以上に危険なことをして、それでハンジぐるみに睨まれている。

 さらにはそれを俺たちに隠している、そんな奴がいないかアニは疑っているのだ。


サシャ「アニ・・・やめましょうよ・・・エレン達がちゃんと話してくれたのに・・・

    これ以上仲間を疑うようなことを言わないでください・・・」

アニ「ここで追及して、精算することは必要だと思うけど」

コニー「アニ! あるかどうか判らないことを疑うのはやめろってことだろ。

    そんなことを考え始めたら、お前がムダに疲れるだけだ」

ジャン「まあ、原因になった奴が、土下座のひとつでもすれば、ここから出られるかもな」

エレン「じゃあ、俺がハンジぐるみに土下座するよ。俺が悪いんだから」

リヴァイ「必要ない。土下座ごときで解放するくらいなら、こんなことをしないだろう」

アニ「・・・・・・わかった。空気を乱すようなことを言って悪かったよ」

エレン「と。とりあえず、部屋割りを決めようぜ。まずは休息を取って、

    それから、あの『デッドエンドルーム』について考えよう」


 ハンジが用意したという・・・『ゲーム』について。

 アニも含め、皆本当は疲れていた。だから俺の提案に反対する者はいなかった――。



 その後の部屋割りは難航した。まず<東塔>が男子、<西塔>が女子と大まかに決めた。

 だが、男子の数が多く、どうしても1人は<西塔>の寝室を使わなければならなかった。


エレン「<貧民部屋>・・・俺は遠慮したいかな・・・正直」

コニー「ベッドがなあ。廃品で作ったガラクタにちょいと干し草敷き詰めただけだもんな・・・」

サシャ「せめて、某アルプスの少女が使用したベッドみたいだったら、いいんですけど」


 そう、これから怖いのは体力の消耗という点だ。そういう意味では、

 どう考えても休息が取れないようなところで過ごしたくはない。


エレン(でも、誰も候補者がいなさそうだし、仕方ない、俺が・・・)

ジャン「・・・俺が、<西塔>の貧民部屋で。いい。大丈夫だ」キリッ

ミカサ「・・・・・・」ハァ

ジャン「え」

ミカサ「ジャン、ありがとう。だけど、体力なら私の方がある」

アニ「まあ、うん」

ミカサ「女子を優先的に考えてくれたその気持ちを受け取っておこう。

    やはり、当初考えたとおり、私が。貧民部屋で、いい」

サシャ「え、いいんですか? かなり汚いですよ」

ミカサ「大丈夫。汚いところも寒いところも・・・そんな中で眠るのは慣れているから」

アルミン「そうなの? アイドルなのに」

ミカサ「・・・大変な仕事だから。どんなに心地悪くても寝る。大丈夫・・・」


 俺も名乗りを上げたものの、結局ミカサが「自分が適している」と譲らなかった。


ジャン「わかった・・・お前が言うなら、悪いけど、頼む」

ミカサ「」コクリ

コニー「で? えーっと、次は<東塔>の貧民部屋だけど」

リヴァイ「それは、俺でいい」

エレン「いいんですか?」

リヴァイ「この中で体力が一番あるのは、おそらく俺だろう。・・・俺も慣れてるからな」


 中流部屋と富豪部屋の部屋割りも、話し合いの末、じゃんけんで決めて――。



 <東塔>
 富豪部屋:アルミン
 中流部屋:エレン、コニー
 貧民部屋:リヴァイ

 <西塔>
 富豪部屋:サシャ
 中流部屋:アニ、ジャン
 貧民部屋:ミカサ


アルミン「――と、こういう部屋割りなんだけど、みんな異存はない?」

生徒「なし」


 いったん解散しよう、となった。いつまで、といった取り決めは出来なかった。

 今のところ、時刻を確認するものが見つかっていないから。

 気を紛らわそうと、コニーとサシャは雑談し、ジャンはリヴァイさんに何か詰問していた。

 アニとアルミンはさっさと場を退き、俺とミカサは自然と会話を交えていた。


エレン「とんでもないことになったな。ミカサ。ここは何にもねえし。

    せっかく、ジャンとかがお前のリサイタルを開こうって気合い入れてたのに」

ミカサ「歌なんて、道具がなくても、歌える。問題ない。

   ・・・エレン。ここで過ごすことは、ある意味、逃げずに戦うこと、と思う」

エレン「・・・(そうだろうか。ハンジには、学園を出る気が無いと誹られたことがある)」

ミカサ「エレン。私は・・・貴方にとっての希望でありたい」

エレン「・・・」ドクン

エレン(何処かで聴いたことがある。あれ。どこだったっけ・・・)

ミカサ「だから、きっと。皆を助け出す道を、見つけてみせる」

エレン「お、俺だって! 一緒に頑張ろうな!!」

ミカサ「うん。私・・・頑張って、考えるから。見つけてみせるから」ニコ

エレン「・・・ミカサ?」


 ミカサは、確かに朗らかに、はにかんで見せたんだ。身内の欲目で見ても、綺麗だった。

 なのに、俺は、ミカサの名をか細く呼んでいた。


ミカサ「エレン。じゃあ、私は<西塔>なので・・・もう、行く」

エレン「あ・・・」

ミカサ「? エレン、おやすみ」

エレン「いや。おやすみ。うん、またな」

エレン(ミカサが、自発的に前向きなことを言ってるんだぞ、良い兆候じゃねえか)

エレン「それを何で、俺は・・・こんなに・・・」



 ――<東塔>2階。中流部屋。

 先ほどまでいた『始まりの花園』(命名:たしかアルミン)の階下に、俺の寝室はある。

 広さは寮の寝室と大差なく、シャワー室とトイレもあった。

 家具は寝具の他に、机、ソファ、ミニ冷蔵庫、鏡台、小物が入ったタンス、

 マガジンラック(雑誌は4ヶ月前のバックナンバーばかりだ)があった。


エレン(充分だな。ま、メシが無いんじゃ意味ねえけど・・・)


 俺は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して喉を潤すと、

 面倒なので、簡単にシャワーを済ませてさっさとベッドに潜り込んだ――が、眠れない。


エレン(ミカサ、本当に眠れてんのか?)


 ミカサは貧民部屋のはずだ。雑魚寝と変わらないような寝具だ。

 何が「自分が適してる」だ。あいつみたいなすげぇ奴が寝るべきところじゃねえだろ。


エレン(って俺こそなんだよ。ミカサの厚意にケチつけて、これじゃただの僻み――)


 ――コンコンッ

 入口をノックする音がする。ドアを開けると、そこには>>179がいた。

 * 生徒を1人から2人、お選びください(1人でも2人でもいいです)

ミカサとアルミン


アルミン「」ジー
ミカサ「」ジー

エレン「えっと・・・どうした、お前ら」ニコ


 とりあえず、訪ねてきたミカサとアルミンを部屋に招き入れ、ソファやベッドに座らせた。


アルミン「ほら、寝てるだろうからやめなさいって、だから言ったのに」コソ

ミカサ「大丈夫。エレンは起きてた」コソ

エレン「気にしなくていいから、何しに来たんだっての」

アルミン「えっと。えへへー、僕連れてこられただけだから、わかんないや」

ミカサ「エレン、あ、アルミンが、家族のことを思い出したってっ」ムフー

エレン「え、マジか!?」

ミカサ「」コクコク

エレン「良かったなー。何思い出したんだ?」

アルミン「えっとね・・・優しそうなご老人と、よく、ご飯を食べてたかな」

エレン「ってことは・・・えっと、お前のじいさん?」

アルミン「うん。多分ね・・・花園にあるお花、よくおじいさんが食卓の花瓶に挿してたんだ」

ミカサ「よかった・・・思い出して」

エレン(つうか、ミカサ、また自分のことのように喜んでるな・・・)

ミカサ「だから、言った。アルミンは独りじゃないって」クス

アルミン「・・・最近、ミカサの微笑み加減ってのが判ってきたよ」

ミカサ「アルミン、貴方にもちゃんと家族はいるし、私や、エレンもいる」

アルミン「・・・そうだね・・・うん」

エレン「まあ、よかったじゃん。この調子で、記憶を拾っていこうぜ」

アルミン「ま、まずはこの状況を打開するよう考えるのが先だけどね・・・」

エレン「・・・・・・あー」

ミカサ「・・・ハンジぐるみは、今、私たちを恐れてる、と思う」

エレン「?」

アルミン「ああ、確かに・・・途中から経営方針に変化があったしね」

エレン「けいえいほうしん? ・・・そっか、そうだな。ハンジぐるみの言動だ」

アルミン「そう。僕たちを困らせたい、たちの悪さは入学当時から変わらないけれど、

     最終的に『卒業』できていた最初とは違って、今は、新たな卒業生を出したくない、

     ととれる行動をしていると思うんだ。つまり――」

ミカサ「目的が変わった。何か、まったく違う物に」

エレン「そうだ。・・・そう、経営方針、変わってるんだよ。だって、情報端末室で調べた、

    『壁の高度の削減』ってやつ――」

ミカサ「学園を囲む巨大な壁だよね。あれも途中から工事が行われていない。」

アルミン「あとね、ハンジぐるみが理事会を乗っ取る前の議事録あっただろ」

エレン「ああ。確か何人かだったんだよな、理事会は」

アルミン「その中に、こんな記述があったはずだ」


“リヴァイが『卒業』しないよう、我々が『配慮』するほかない”


エレン「――あっ!」

ミカサ「学園側が、率先してリヴァイ・・・先輩を留めていた」

アルミン「そう。で、今の状況は・・・?」

エレン「より窮屈な状況で俺たちを留めている、その中には、リヴァイさんもいる・・・」

アルミン「うん。だから思うんだ、今の状況は『従来の学園へ回帰している』ってね――」


 やっぱり、アルミンはすごい。俺が心の中で呟いたことを、ミカサも口に出していた。

 ただ、ミカサの表情が僅かに苦々しいものに見えたのは、俺の錯覚だろう。




 2人が部屋に戻ってから、どれだけ時間が経ったのかわからない。


エレン「ふあぁあ・・・結構寝過ごした感があるな。ミカサが起こしに来ないからか?」


 浅い眠りから覚めた俺は、取り決め通り、上階『始まりの花園』へ向かった。

 寝室以外に、みんなで集まれそうな場所はここだけだ。


エレン(俺、この花の香り好きだな・・・実家のリネンの香りに似てて)くんくん

アルミン「おはよう」ニコ

サシャ「おはようございます!」


 先に座っていたのはアルミンと、向かいの塔で休んでいたサシャ。珍しい組み合わせだ。


エレン「おはよー・・・って、今が何時かなんて判んねぇけど」

サシャ「朝ですよ!」ニコ

エレン「まーた、お前お得意の『勘』か? 適当なこと言うなよなw」

アルミン「いや、サシャの言ってることは本当だよ。エレン」

エレン「? どういうことだ」

アルミン「実は僕たち、それぞれの寝室で、いいものを見つけたんだ!」


 花の陰になってよく見えなかったが、よく見ると、小さな木箱が6つあった。


エレン「なにこれ」

サシャ「むふ。みんなが集まったら見せますよっ」


 やがて、眠そうな様子のみんなが続々と集まり、木箱の正体はあっさりと明かされた。


エレン「――アナログ表示の電波式置き時計?」


 先に座っていたのはアルミンと、向かいの塔で休んでいたサシャ。珍しい組み合わせだ。


エレン「おはよー・・・って、今が何時かなんて判んねぇけど」

サシャ「朝ですよ!」ニコ

エレン「まーた、お前お得意の『勘』か? 適当なこと言うなよなw」

アルミン「いや、サシャの言ってることは本当だよ。エレン」

エレン「? どういうことだ」

アルミン「実は僕たち、それぞれの寝室で、いいものを見つけたんだ!」


 花の陰になってよく見えなかったが、よく見ると、小さな木箱が6つあった。


エレン「なにこれ」

サシャ「むふ。みんなが集まったら見せますよっ」


 やがて、眠そうな様子のみんなが続々と集まり、木箱の正体はあっさりと明かされた。


エレン「――アナログ表示の電波式置き時計?」

アルミン「そう、ウォークインクローゼットを漁ってたら、サシャと僕の部屋に、

     それぞれ同じ数だけあったんだ。きちんと探してよかったよ」

ジャン「そういえばお前達ふたりは、『富豪部屋』で寝てたんだっけか」

リヴァイ「電波式――ということは、およそ正確な時間が表示されるな」

アルミン「そ。でね・・・ちょうどいい、見ててね」


 アルミンがその中のひとつを取り出した瞬間――


 くるっぽー! くるっぽーっ くるっぽー!
  くるぽっぽー くるっぽっぽー くるっぽーっ


生徒「!?」ビクゥ

エレン(!! びびった・・・鳩の鳴き声・・・? てか、うっせーよ!!)


 大音量で、鳩の鳴き声が響いた。しかも複数。俺たちはとっさに手で両耳を覆った。

 しばらくすると、鳴き声が収束した。20秒くらいだろうか。


コニー「っうるせーな、なんだよぉ」ハァ

サシャ「ずばり、『時報』ですよ」

アルミン「0時から3時間置きに時報が鳴る設定があるんだ。今は朝の9時ってこと」

アニ「・・・なんで鳩」

アルミン「さあね。個数は限られてるからさすがに全員の部屋におくわけにはいかない。

     せめて、皆が見ることが出来る各階の廊下部分に、設置するのはどうだろうって」

ジャン「たしかに、およその時刻は知っておきたいし、共用部分に置くのはいいな」

    あと・・・そうだ、朝9時と夜6時は必ずこの場に集合しようぜ」

リヴァイ「点呼か」

ジャン「そッス。状況確認、気付いたことの共有。それはやっぱりやった方が良い」

ミカサ「誰かが体調不良なら、点呼で確認できる・・・ということ」

コニー「体調不良って・・・」

ミカサ「最悪の場合、動けなくなるだろうから」

エレン「っそうならないように!! また色々考えるんだろ!!」

リヴァイ「・・・ミカサは正しい。最悪の事態は想定すべきだ」

エレン「・・・それを最前に据えて行動するのは、気持ちが下がるだけです」

コニー「・・・あのさ、みんな。俺が気になるのは『ゲーム』の事だけどよ」

アニ「『デッドエンドルーム』だろ? あんな不穏な名前・・・何かあるとしか思えない」

サシャ「きっと、あそこにアトラクションの出入り口があるんでしょうねえ」

コニー「かもな。だけど、中身は挑戦する意志を見せないと知ることが出来ねぇ。

    結局、挑戦は自由だ。大きな博打だろうしな・・・だけど」


 コニーは一息ついて、そして、珍しく神妙な顔つきをしながら言った。

 誰に対して言っているかは、俺も彼も、判らない。


コニー「父ちゃんが言ってたことだけど・・・。

    本当の博打ってのは、かける大切なモンが無くなったときに打つんだって。

    挑戦しようって奴がいるんなら、考えてくれよ。ちょっとはビビってほしい」

生徒「・・・・・・」

コニー「俺が言うのも変だけど・・・俺は、ビビることがおかしいとは思わねえから」

サシャ「・・・ど、どうしたんですコニー。なんか変なモンでも食べましたか?」

コニー「お前と一緒にすんな! だから、えっと・・・、

    ああもう、言いたいこと忘れちまったじゃねえか!!!」

サシャ「お、私のせいですか! ボケやすいのはコニーのスペックの問題ですから!」

アルミン「確かにね・・・博打を打つ前に、僕たちは正攻法を貫くべきかも」

エレン「・・・そういうことか。コニーが『っぽい』こと言うと、逆に混乱するなw」

アルミン「もう失うものがないってときに、あの『ゲーム』のことを思い出すってことで」


 俺たちは、満場一致で、まずは、改めて<塔>を調べることにし、意気込んだ。

 だが・・・。


 ――同日 午後6時。

エレン「なんにも無かったなあ・・・ハンジはあれから応答しないし」
アニ「壁、私の蹴りくらいじゃどうにもならないね。当たり前だけど」


 ――翌日 午前9時。

ジャン「色々ガラクタを使って壁を壊そうとしたがダメだったな・・・」
サシャ「もう動けん・・・お腹と背中がくっついちょる・・・」くぎゅううぅ


 ――同日 午後6時。

コニー「絶対あるはずだけど隠し扉が見つからない。もっとよく捜さねぇと」
リヴァイ「・・・あいつ。このまま姿を見せないつもりか・・・」


 ――さらに翌日 午後6時。

エレン「・・・・・・」
生徒「・・・・・・・」シーン


 成果は得られなかった。変化といえば、俺たちが日に日に無口になっていったことと、

 前日の午後3時頃、量産型ハンジぐるみが数匹、無言で俺たちの前に現れ、

 2階連絡橋の両側に、出入り口となる重い鉄扉を取り付けたくらいだ。


 -----------------

リヴァイ『――ここはどこぞの洋館じゃねぇんだぞ、無駄な仕掛けを作るんじゃねえ』


『ハンジぐるみが監視しやすい環境を整えるためさ。扉を開け閉めするたびに、

 こちら側の監視システムが反応するってわけ。あとは、一気に行き来できないよう、

 制限があるよ。かといって、今更デメリットにはならないだろうから大丈夫w』


 何処から来たのか誰も目撃の無い状態で、ハンジぐるみ達は日曜大工を終えて消えた。

 この扉の制限とは、『一方の扉が開いている時は、もう一方の扉は開けられない』。

 扉を開けた側から、人間が反対側のセンサー設置場所まで動くか、あるいは、

 一度くぐって元の<塔>に戻るかしないと、扉は完全に閉まらないそうだ。


リヴァイ『・・・それで、俺たちをいらつかせるつもりか?』

『うん! できる限りギミックは増やしとこうと思ってwww』

 -----------------


エレン(――なんのタメのギミックだよ・・・馬鹿じゃないのか・・・?)


 しかし、確かにハンジの言うとおり、この扉は生徒の邪魔にならなかった。

 もう3日以上、メシを食べていない。俺たちは、頻繁に塔を行き来出来るほど、

 気力も体力も残っていなかった――。


ミカサ「・・・運動したい」

アニ「だね」

コニー「お前ら筋金入りだな・・・まずはメシだろ普通・・・」ゼェ・・・

アルミン「あの扉・・・・・・これは不味いよね・・・」

エレン「ああ。わざわざ改築したんだ。これから当面は、俺たちを閉じ込めるって。

    暗にそう言ってるってことだろ。最悪だ」

サシャ「・・・・・・」シン

ジャン「お前が無口だとこっちが怖いんだが・・・」

サシャ「さやか・・・はるか・・・ドロシー・・・ロザンナ・・・」ブツブツ

コニー「? どうしたんだ」ギョ

サシャ「ルーシー・・・ヨナ・・・マチルダ・・・シンシア・・・」ブツブツブツブツ

ミカサ「じゃがいもの品種名」ボソ

ジャン「呪詛を呟くんじゃねえ、この芋女!!」デコピンッ

サシャ「あだあっ・・・痛いじゃないですかぁ・・・ジャンいものバカ・・・」

ジャン「ジャンいもって何だよ、ジャンいもって」


 俺は離れたところで独り佇むリヴァイさんに歩み寄った。

 それに気付いたミカサとアルミンが、なぜか追随してくる。


エレン「リヴァイさん・・・は、まだ元気そうですね・・・」

リヴァイ「まあ。丈夫なだけが取り柄だからな」

エレン「ハンジは、どうしてこんなことをするんでしょう・・・」

リヴァイ「・・・・・・」

アルミン「何か知っているなら、明かすべきです。それとも何か弱みでも?」

リヴァイ「またお前らか」チッ

ミカサ「こんなことになるなんて・・・」

リヴァイ「予想できなかったか? ああ、俺もだ」

エレン「前に俺たちで話してたんですけど・・・俺たちは、今・・・。

    ハンジぐるみを・・・黒幕を追い詰めているんじゃないでしょうか」

リヴァイ「・・・何故そう思う?」

エレン「当初と言動が違っていて、やっていることにも冷静さを感じないし。

    俺たちのこの状況が、少なからずハンジぐるみを焦らせている」

アルミン「そうだね・・・僕もここ最近で、だんだん、そう思えてきた」

リヴァイ「お前達の影響だろうな・・・今なら、揺すれるかもしれん」


エレン「リヴァイさん・・・は、まだ元気そうですね・・・」

リヴァイ「まあ。丈夫なだけが取り柄だからな」

エレン「ハンジは、どうしてこんなことをするんでしょう・・・」

リヴァイ「・・・・・・」

アルミン「何か知っているなら、明かすべきです。それとも何か弱みでも?」

リヴァイ「またお前らか」チッ

ミカサ「こんなことになるなんて・・・」

リヴァイ「予想できなかったか? ああ、俺もだ」

エレン「前に俺たちで話してたんですけど・・・俺たちは、今・・・。

    ハンジぐるみを・・・黒幕を追い詰めているんじゃないでしょうか」

リヴァイ「・・・何故そう思う?」

エレン「当初と言動が違っていて、やっていることにも冷静さを感じないし。

    俺たちのこの状況が、少なからずハンジぐるみを焦らせている」

アルミン「そうだね・・・僕もここ最近で、だんだん、そう思えてきた」

リヴァイ「お前達の影響だろうな・・・今なら、揺すれるかもしれん」

ミカサ「まずは、外に出ないと。こんなところ『楽園』とは言わせない・・・」ギリ

エレン「それだ。正攻法がダメなら、もう1人ずつ『ゲーム』に挑むしかないのか・・・?」

エレン(なんの手がかりも無いまま、あのドアを開ける。誰だってやりたくないことだ)

リヴァイ「――いや。正攻法はまだある」

アルミン「へぇ・・・どんな?」

リヴァイ「いや・・・正攻法ではないか。だが・・・あがくってのは重要だ」


 リヴァイさんは、俺たち3人を順々に、その鋭利な眼差しで見つめた。


リヴァイ「思えばお前達とも、ずいぶん長い付き合いだ・・・」ポツリ

エレンアルミン「え?」

リヴァイ「・・・いいか、お前ら。今の状態では『全員』の脱出は不可だ、しかし。

     『変化』は作れる。それでどんな状況に陥っても、躊躇せずに利用しろ。いいな」

エレンアルミン「・・・・・・」

ミカサ「はい」ジッ

リヴァイ「良い返事だ・・・ミカサ」


 ほのかに、リヴァイさんの口角が上がった気がした。

 そして、右手に拳を作り、それをぐっと・・・自らの左胸にあてた。


リヴァイ「――俺はようやく、捧げるべき相手を思い出した」


 その言葉の意味を、俺はちっとも理解できなかった。

 なのに、気付けばミカサはリヴァイさんと同じポーズをとっていて、

 俺もアルミンも、同じように、右拳を左胸に力強くあてていた。


リヴァイ「・・・俺は戻る。部屋の片付けが必要だからな」

エレン「ああ・・・リヴァイさんの部屋って・・・」

エレン(『貧民部屋』で、ソファとかがタイヤとかで出来てるんだよな・・・

    廃品集めたような部屋だったっけ・・・確かに片付けが必要かも)

リヴァイ「エレンよ」

エレン「はい」

リヴァイ「お前は何か自己認識を間違えているようだが・・・お前は凡庸でもなんでもない」

エレン「!? い、いきなり何言って・・・」

リヴァイ「そこの2人と同じく、平凡であることを世界に許されなかったクチだ」

エレン(? ?? この人何言ってんだ、マジで・・・)

リヴァイ「悪いが、平凡になりたいんなら、住む世界を変えることだな」


 リヴァイ先輩は、頭に疑問符を浮かべる俺を置いて、花園を去って行った。


アルミン「たまに話すと思ったら変なコト言うんだな、あの人・・・あはは」

アニ「・・・ねえ、何話してたんだい?」スタスタ

ミカサ「ハンジが焦ってるかもって」

アルミン「脱出さえ出来れば、僕たち、あいつを追い詰められるかもしれないんだよ」

アニ「・・・なんで追い詰めるって話になってるの」

エレン「え、だって。あいつさえいなけりゃ学園なんて出て行けるだろ?」

アニ「そんなことしなくたって・・・他の奴らは順当に『卒業』しているんだ。

   私らも、それに倣って大人しく、卒業の機を待てばいいだけじゃないか」


 アニは淡々と喋っていた。だが、心なしか、いつもより少し早口だ。


アニ「どうして、規律から外れようとするんだ。今回、ハンジがこんなことをしたのも、

   あんた達が勝手な行動に出たからだろ。大人しくしていれば何も問題ないじゃない」

アルミン「それは。おっしゃる通りだね。僕もなるべく穏便に『適応』したいかな」

エレン「・・・それじゃダメだ。俺たちは知らなきゃだめだ、この場にいる意味を」

アニ「だから、『卒業』を待って大人しくしていれば、なんの諍いもなく過ごせるだろ」

エレン(こいつは何を怖がってるんだ。ハンジのいう学園生活なんて、もう壊れてるのに)

エレン「アニ、ただ飯を食って、勉強して、指標ない『卒業』を待つ・・・。

    俺たちは、柵に囲われて考えることをやめた『家畜』なのか?」

アニ「!! ・・・エレン・・・」ギリ

エレン「じゃあ。俺は、明日『ゲーム』をする。それなら、ルールに反さない。そうだろ」

アニ「それは・・・」

ミカサ「・・・エレン。危ない」

エレン「もちろん、それまでに進展がなかったらの話だ。誰かが先陣を切らなきゃ、

    いい加減みんなおっ死んじまうぞ・・・それで、学園の謎も明かしてやる」


 俺は、言い切ったことを、他の生徒にも伝えるべく、踵を返した。


アニ「・・・大人しく、中で過ごせば良い。そうすれば、無駄な争いは起きないのに・・・」

アルミン「・・・ミカサ、行こう。少し独りにした方が良い・・・」スタスタ

アニ「ライナー・・・ベルトルト・・・あんた達、なんで先に・・・」ポツン

ミカサ「アニ。・・・・・・っ」スタスタ


 説得に、最後まで嫌がったのはコニーだった。入学時より日を追うごとに増していく

 不穏さを目の当たりにしていれば、怪しい場所に独りで挑むなんて許せる筈も無い。


エレン「――な? やって痛い目みるのは仕方ない。とにかく、明日だ」

コニー「・・・わ、わかった・・・じゃあ・・・二番目は・・・俺だ・・・」フルフル

エレン「コニー。膝が笑ってるぞ、ムリすんなよ?」

コニー「してねぇよ。俺が2番目だ。絶対、俺も外に出る。そんで、ウマいもん喰う」

ジャン「あれだけ嫌がってたのに。もう死に急ぎ野郎の影響受けてんのか」

コニー「るっせーな。自分で決めたんだよ!」ムキー


 俺とコニーが『デッドエンドルーム』に挑戦する。全員が納得したうえで解散した。

 ――解散後、ミカサが何気なく紡いだ鼻歌に、(耳ざとい)ジャンがすぐさま絡み、

 結局、朗らかで優しいアイドル曲のアカペラを、彼女は皆の前で披露することとなる。

 そんなエピソードがあった。(ジャンは完全にドルオタモードでクソ気持ち悪かった)


エレン(ミカサの奴、声可愛いじゃねえか・・・珍しくサービス旺盛だし・・・)


 馬面が俺を鈍感だと罵るのも判る気がする。ミカサの『変化』に俺は気づけなかった。


 ------------------------------------


 日付が変わってしばらく時間が経った。寝室にいるから正確な時間は把握していない。

 夜更けだがいつもの『夜時間』だとかは定められていないから、寝るのも自由だ。


エレン(俺は単純に、目が冴えてて眠れないクチだけどなあ・・・)


 緊張して手汗の量がおかしかった。コニーも同じ状態だろうと勝手に思っている。


エレン「――ひつじが59匹。にく喰いたい」きゅうるるる


 コンコンッ


エレン(・・・誰だ。こんな時間に訪ねてくる奴)ノソノソ

エレン「・・・はいー?」ガチャ ガチャン

ミカサ「・・・・・・」ジー

エレン「ミカっっ~~~!モゴモゴ」

ミカサ「シッ・・・静かに。少し話がしたい」コソ


 ミカサに口元を抑えられた俺は、素直に従った。何か相談事かもしれない。


エレン「ソファ、座れよ」パタン ガチャリ

ミカサ「ありがとう」

エレン「で? どうしたんだ・・・今更止めても、俺はやるって言ったからには――」

ミカサ「エレン。違うの、ちょっとお喋りがしたい。だけ」

エレン「なんだよ・・・(まあいいか。こいつが自分で喋るなんて滅多に無いし・・・)」

ミカサ「・・・エレン、私の夢、覚えてる?」

エレン「? アイドルだろ。マジで叶えてるんだから凄いよ、お前。悔しいけど・・・」

ミカサ「うん。でも、ほんとは、もっとあった」

エレン「そうなのか? お前欲張りだなw」

ミカサ「お母さんの刺繍と、絵本の題材を見て、服屋さんになりたい。とか。

    保育園の先生が優しかったから、保母さんになりたい。とか」

エレン「はは(・・・案外、女の子らしい。)」

ミカサ「でも、いつか、エレンがテレビを見ながら、アイドルを指さしながら」


“たのしそうだなー。なあミカサ、おまえも、あれぐらい笑えよ!”

“・・・・・・できない”

“できるって! おれ、おまえがもっと、あんなふうに笑ってるとこみたい!”


ミカサ「――しきりに、そう言ったことがあって。笑うのが下手な私に。

    それから、私はいつの間にかアイドルを目指していた」

エレン「なにそれ、ガキの言葉なんか間に受けんなよ・・・」

ミカサ「ううん。あくまできっかけでしかない。今ではやりがいを感じている。

    ・・・思えば、私は、昔エレンの家の隣に越してきたときから、

    不思議と、貴方のことを目で追っていた、と、思う」

エレン「まあ、小さい頃は俺もやんちゃしてたし? お前はお目付役だったよ、完璧に」

ミカサ「出会った時からずっと、貴方の願いを叶えてあげたいと、甘やかしたいと思ってた」

エレン(その割には、昔から母さん的な手厳しさがあったような・・・)

ミカサ「どうして出会って間もない人に、そんな気持ちになるの、と疑問だった」

エレン「ガキのやんちゃ振りに痺れたとか? あ、そんな馬鹿があと1人くらいいたな確か」

ミカサ「この学園に入学して・・・やっと、判った」

エレン「よかったな。ところで、お前いっつも会話に脈絡がねえな。まあいいけど」

ミカサ「エレン、私、貴方が、何より大事。貴方が夢そのものといっても、間違いじゃない」

エレン「え? あ、え、うん」


 ミカサは、俺の手を優しく包むように握った。手入れの行き届いた綺麗な手だ。


ミカサ「エレン、私に、夢を与えてくれて、ありがとう」

エレン「・・・・・・」

ミカサ「私と一緒にいてくれて、ありがとう」

エレン「・・・・・・」

エレン(あれ、なんだろこれ。感謝されるのは、嬉しい。嬉しいんだけど・・・)


 なんで別れ話みたいになってんだ――?


ミカサ「エレン。さよならを、言いにきた」


ミカサ「私、『卒業』するの」

エレン「・・・・・・ごめんっ、意味がわかんねえ」ニコ

ミカサ「本当は、もっと、ずっと前に『卒業』することは、できた。

    でも、エレンの側を離れたくない。ので、ここまで来た」

エレン「いや、だから面白くねえって」ボソ

ミカサ「でも、私は逃げてた。だから、『卒業』する。ちゃんと」

エレン「・・・・・・」


 ミカサは、『卒業』のシステムは潰えていないだの、だから卒業条件に達したら、

 ハンジはこの状況下でも外に出してくれるだの『わけのわからない』事を言っている。


ミカサ「――あの、でも、必ず、必ず戻って、くるから・・・」

エレン「戻ってくるって?」

ミカサ「エレン――」


 俺は、静かな動作で、包んでいたミカサの手をほどいた。


エレン「学園を『卒業』したらここには戻れない法則――ってのがあるんだろ。

    どうやって戻って来るっていうんだ、あ?」

ミカサ「・・・それは言えない。でも、私、このままじゃいけないと、思って」

エレン「ふざけんな!!!」

ミカサ「エレ」

エレン「なにが、逃げてただ。離れられるんならさっさと離れろよこんなトコ!

    それが今になって、こんなどうしようもない状況で、一足早く『卒業』します?

    お前、この場で腹空かせてる奴らをおちょくってんのかよ!!」

ミカサ「エレン、声が大きい。体力も奪われるし、やめたほうがいい」

エレン「なんで、こんな時に。こんな時に・・・っ離れるだなんて言えるんだよ!!」

ミカサ「・・・今だから、やる。もう決めたこと」

エレン「ああ、そうかよ。『卒業』のシステムなら、『ゲーム』にも参加せずに、

    壁の外へ行ける。お前はアトラクションの攻略法を知ってたってわけだ」

エレン(いや、そんなことはどうだっていい! 俺が嫌なのは、お前を許せないのは・・・!)

ミカサ「・・・騒がないで、皆がくる・・・」

エレン「! なんだそれ・・・。お前、俺が怒らないと思ったのか、今の説明で」

ミカサ「・・・っエレンが怒るのは仕方ない。でも、聴いて」

エレン「なんだよ!」

ミカサ「私は、エレン、貴方を必ず迎えに行く。そのために、情報を得るために、

    『デッドエンドルーム』に挑戦する。エレンは、挑戦しなくてもいい」

エレン「は・・・!?」

ミカサ「あれを利用する、必ず、戻って来るから。少しだけ、皆と待っていて欲しい」

エレン「ちょっと待て、お前。わざわざ、あんなのに挑まなくてもいい――」

ミカサ「大丈夫、きっとやってみせるから」

エレン「やめろ・・・っ本当にやめてくれ。しなくてもいいことをするなよ」

ミカサ「・・・する。エレン、しなくてはいけない。皆を救うためにも」

エレン「もし・・・もしお前に何かあったら・・・!」

ミカサ「っ何もかも! 今は話せない。エレンはアルミンとここで待っていて」

エレン「待つ? ・・・嫌だ、そんなことをしていたから、今こうなってる。

    機会なんて待つんじゃなかった、自分で作らなきゃいけなかったんだよ!」

ミカサ「・・・っ・・・ごめんなさい、でも、これだけは信じて」

エレン「ミカ――っ」


 と ん 。


エレン「っあ、お・・・ま・・・・」クラッ



ミカサ「私は、貴方が何より大切で、貴方が大好きだ――」


  -- ------- ------------ -----
    ---- ------- ----------
 -- ------- ------ ----- -------- --
 


 <ポッポー クルッポー ポッポー クルッポー


エレン「 ――――っ ! ! ! !」パチッ

エレン「・・・ハッ ミカサ!!!」


 目が覚めたとたん、全身から汗が噴き出した。見渡してもミカサはいない。


エレン(時報が聞こえた・・・いま何時だ!!?)


 外に出て慌てて確かめると、午前3時になったところだった。


エレン(あれから、結構時間が経ってる・・・!)


 俺はすぐさま、今いる<東塔>から、連絡橋を通じて<東塔>へ渡った。

 途中、アニを見かけた気がするが、余裕の無い俺は気にも留めなかった。
 
 螺旋階段を下って、<西塔>の貧民部屋へ。そこに行けば会える、から。


エレン「ミカサ!!! ミカサ!!!」ドンドン


 今にも外れそうな扉を激しく叩いた。返事は無い。一応カギがついているから、

 勝手に中に入ることもできない。ノックを続けると、ガチャリと解錠の音が聞こえた。


エレン「ミカサ・・・!」

ジャン「チッ あんだよ、うるせえなあ?・・・」

エレン「・・・・・・」ポカン

ジャン「はあ、エレン・・・? どうした?」

エレン「なんで、お前が・・・ミカサの部屋に? ・・・え」

ジャン「・・・ちょっと様子がおかしいな。とりあえず、部屋入れ」グイッ

アニ「――ちょっと、ジャン・・・」スタスタ

アニ「さっきからうるさい。少し寝るから、もうちょっと静かにしてもらえるかい」

エレン「ミカサ、は・・・どこに・・・」ブツブツ

アニ「・・・?」チラ

ジャン「あー、アニ。煩くして悪い。ちょっと『オトコの話』をな。自重するわww」

アニ「はあ? ・・・もういい。おやすみ」プイッ スタスタ

ジャン「おやすみーw」パタン ガチャ


 ジャンは、廃品ベッドに腰掛けた俺に未開封のミネラルウォーターを投げて寄越した。


ジャン「その1、ここはすでにミカサの部屋じゃ無い」

ジャン「その2、なぜなら貧民部屋で寝ると言い出した俺が、意地になってしまい、

    ミカサに部屋を替えて貰うよう頼んだ。ミカサは渋々了承したってワケだ」

ジャン「その3、なんかウジウジしてるゴミをみると、死ぬほどツバを吐きたくなる」

エレン「・・・・・・」

ジャン「――で? 何があったんだ、アホみたいにミカサミカサーって。

    一部のミカリン狂信者(俺以外)みたいに目が血走ってたぞ、てめぇ」

エレン「ミカサが・・・」


 ミカサが、『卒業』して、いなくなった。

 誰が告げてきたわけでもないのに、俺は、心の底で確信していた。


ジャン「――まじかァ・・・」フー


 要領の得ない俺からの説明を黙って聴いたジャンは、間を置いて、そう呟いた。


ジャン「やっぱりなあ」

エレン「やっぱりって・・・なんだよ・・・」

ジャン「最近様子がおかしかっただろ? 何か『知った』んじゃ、って思ってた」

エレン「・・・・・・」

ジャン「まあ、お前は鈍感クソ野郎だから。それはそれでいいんだよ」

ジャン「だけどお前は判りやすいな。なんていうんだっけ、こういうの・・・

    あ、『依存』ってヤツだ、うん。お前はやっぱミカサがいないと駄目だった」

エレン「ミカサは、今、どこにいるんだろうな・・・」

ジャン「てっとり早く確認すればいいじゃねえか。聴いてるんだろ、ハンジぐるみ」


『はーい。ふわあああ。徹夜続きで眠いわー・・・。

 朝になったら全員にに話すつもりだけど、ご期待通り、元々条件を満たしていた

 ミカサ・アッカーマンは絶好のタイミングで学園を『卒業』しました。おめでと!』パチパチ


ジャン「チッ・・・で、あいつ、『デッドエンドルーム』には挑戦したのか?」


『挑戦したかは否かは黙秘しますが、一応彼女の情報を明かしておくと、

 多少の怪我は負っていますが、全く問題ない状態で、卒業しましたねっっw』


ジャン「・・・あっそ、もう帰れ、うぜぇ」シッシッ


 ハンジぐるみを部屋から追い返し、ジャンは、俺を肘で小突いた。


ジャン「暗に挑戦したって言ってるようなモンじゃねえか。他の奴と情報共有するか様子見だな」

ジャン「チラッ ・・・なっさけねーな。まんまと気絶させられて。ミカサも容赦なさ過ぎだけどよ」

エレン「・・・お前、ミカサのファンだろ? 何とも思わねえのかよ」

ジャン「俺が何ともないように見えるのか? 馬鹿かよ。そんなわけねぇだろ」

エレン「・・・・・・」

ジャン「俺なんかマルコに何も告げられずに『卒業』されたんだぞ、少しは理解できたか」

エレン「うん」

ジャン「あのなあ。俺だって今かなり混乱してるぜ。ただ、俺よりぎゃーぎゃー喚いたり、

    わたわた慌ててるような奴が周りにいたら、頭が冷えるのも早くなるってだけ」

エレン「悪かったな・・・」

ジャン「カメラがあれば撮っとくのになあ。くっそ汚ねぇお前の面をよぉ!ww」

エレン「・・・・・・」

ジャン「・・・ま、まあ、とにかく。ミカサが、お前から離れるなんて余程のことだ。

    それは、お前が一番よくわかってるよな、エレン?」

エレン「・・・ああ、そうだ。そうだった・・・」ハァ

ジャン「何か俺たちのために機会を作ろうとしている。そう思って俺たちも行動するしかない」

エレン「ミカサ・・・大丈夫かな・・・」グッ

ジャン「今となっては『卒業』した全員に言えることだ。けどよ、まずは自分の身だ。

    もう四日目だ。待てない奴も出てくる。挑むかどうか・・・俺も考えるぜ」


 ジャンに、少し仮眠をとれと部屋に帰されたため、俺は少しだけ眠ることにした。

 案外、寝ることは容易くできたのだが、夢に出てくるのは、予想通りミカサばかり。

 ユミルやライナー、ベルトルト、ヒストリア――彼らと違って、どうして、

 俺たちは、あんな別れしか出来なかったんだろう。馬鹿な自分に反吐が出る。


エレン「俺・・・ほんと・・・なんっにも出来ない・・・」


 起きたとき、俺は、せき止めていた水が溢れたように、体力の衰えを感じていた。

 ミカサは、『ゲーム』には挑戦せず、ただ待て、と言った。


エレン「俺は、お前のことずっと待ってやれる・・・最後まで信じてやれる」

エレン(だけど、残った奴らにとって、お前は『卒業』していった奴でしかないんだ。

    奴らにとっての停滞状況を打破するためには、)

エレン「やるしかない。お前みたいにチャンスを作るために――」


 俺は、水分を補給して、それから外に出た。


コニー「あ・・・」

エレン「・・・コニー?」


 共用部分のスペースに座していたのは、同じ<中流部屋>のコニーだ。少し顔が蒼い。


エレン「早いな、おはよう・・・」

コニー「おはよ・・・お前、目が腫れてるぞ、寝てないのか?」

エレン「え・・・あ、まあな・・・」

コニー「まあ俺も眠れなかったんだけど。お前とミカサが夜中に痴話げんかしてたし」

エレン「っ聴いてたのか・・・?」

コニー「きかねーよ、そんな元気ねえもん。冗談だって。緊張して起きただけw」

エレン「ああ・・・」ホッ

コニー「・・・今から行くのか? 『デッドエンドルーム』に」

エレン「うん。まあな」

コニー「頑張れ。俺、何があっても、絶対続くからさ。また、後で会おうな」ニコ

エレン「・・・ああ」ニコ


 コニーに見送られながら、置くの連絡橋に進み、扉を開けようとドアノブに手をかけ――

 ガチンッ


エレン「え、あれ・・・」ガチャガチャ

コニー「? どうした?」キョトン

エレン「ん? 開かない・・・」ガチャ

コニー「どれどれ・・・スタスタ ・・・あ、ほんとだ」ガチャガチャ

エレン「・・・誰か橋の向こう側にいるのか?」


 この扉は、確か、片方が開いているともう片方が開かない性質になっていたはずだ。


コニー「んー・・・かもなあ。ガチャガチャ ガチャン ! あ。開いた。

    単純に、立て付けが悪かったんじゃね? じゃあ行ってこいよ」ノシ

エレン「ああ」ノシ


 そのまま、俺は<西塔>に渡り、他の人間の邪魔にならないよう、そっと階段を上った。



 ―― 西塔4階、デッドエンドールーム前 ――


エレン「・・・」


 重厚な両開きの鉄扉。色彩は下に向かって白から黒へ変わるグラデーションで、

 下部には、床にごちゃごちゃと『ナニカ』を山のように積んだ絵が描かれている。


エレン「・・・これ・・・嫌な絵だな・・・」


 あらためてまじまじと観察し、『ナニカ』が判って少しぞっとした。

 全部、ぼろぼろに傷ついた糸繰り人形だ。人形を糸でつないだ先に、すすけた手板がある。


『・・・いらっしゃい。出来ればエレンだけは来て欲しくなかったけれど』


エレン「・・・どういうことだ」


『いいや。一応、訊くけれど。きみは、この部屋のリスクを一切知らない。

 きみは何かを知るかもしれない、きみは傷つくかも知れない。

 きみは痛みだけを負うかもしれない、何かを諦めるかもしれない』


 それでも、いいんだね?


エレン「・・・ああ」


『嫌な目だな・・・まあいい。エレン・イェーガー、進みたまえ』


 扉が開け放たれる。暗いくらい、先の見えないトンネルの中に、俺は進んだ――。



エレン「・・・・・・・」


 しばらく、真っ暗で、無音の空間に佇んでいた。

 本当に何にも俺の五感を刺激してこなくて、不思議と、少しだけ心が落ち着いた。


『来たか――名前と出身を言え』


エレン「!? え」


『きこえないのか?』


エレン「っ・・・ウォールマリア、シガンシナ区出身、エレン・イェーガー」


『よろしい。ここは、とある特殊技術を用いた、バーチャルリアリティの世界だ。

 ゲームというのは、実際にきみの五感を使って体験してもらう必要がある。

 いいか? ここは夢の中だとでも思えば良い。ただし、99%が現実の夢だけど』


『ゲームなんだから、ルールに則ってきみは内容を進め、クリアする、これが目標だ。

 ところで訊きたいのだが、きみはステージ制は好きか?』


エレン「俺、テレビゲームはやったことない・・・です」


『あ、そう。これはステージ制だ。といっても、1ステージしかないがね。

 クリアすればボーナスステージもある。そっちは成績に応じて報酬があるよ。

 それから、99%現実の夢だからには、痛みや悲しみも99%現実だ。肝に銘じろ』


エレン「・・・わかった」


 正直わからなかった。簡潔すぎる説明に、俺はついていけていなかった。


『ゲームだから、失敗してもやり直しは利くさ・・・きみが諦めなければね』


エレン「・・・・・・」グッ


『じゃあ、ステージ1。ミッション開始だ――』



 ---------------




 ---------------


 目を開けたとき、誰かと一緒に原っぱを歩いていた。からっとした晴天下だ。


???「・・・どうした、エレン。歩き疲れたか?」スタスタ

エレン「・・・? ・・・っ父さんっ!?」

グリシャ「どうした、エレン」

エレン(!? なんで、俺父さんと歩いて、ていうか――)


 俺の身体は明らかに縮んでいた。せいぜい10歳かそこいらの身長だ。


グリシャ「往診先の家はこの先だ。なあに、さほど遠くないから我慢しなさい」


 俺は、医者である父――グリシャ・イェーガーをまじまじと見つめた。

 面持ちは変わりないが、服がいつものスーツじゃなくて、古くさいアウターだった。

 そよ風、青草の香り、日光の暖かさ――それは、紛れもなく俺にとっての『現実』だった。


エレン「・・・父さん、患者さんって?」テクテク

グリシャ「怪我の処置を頼まれてな。お前は、お子さんの話し相手になってくれないか」

エレン「ふーん・・・(これのどこがゲームなんだろ?)」


 父さんと俺は、そのまま舗装もままならない小道をたどって小さな家を訪ねた。

 今時珍しい、木で出来た家だ。俺たちは戸口の前に佇む。


グリシャ「さっき言ったこの家のお嬢さんだがな、名は、ミカサという」

エレン「ミカサ・・・ミカサ!?」ハッ

グリシャ「そうだ、お前と同い年の女の子だ」


 心臓がざわめいている。ずっと小さかった頃の、俺の心臓が。


グリシャ「このあたりは子供がいないからな、仲良くするんだぞ」

エレン(滅茶苦茶うさんくさい展開だな・・・警戒したほうがいい・・・)

エレン「うん・・・そいつの出方次第だけど・・・」

グリシャ「エレン・・・そんなんだから、1人しか友達できないんだぞ・・・」コンコン

グリシャ「・・・ん? 留守かな? アッカーマンさん・・・イェーガーです」ガチャ

エレン(・・・血のにおい・・・?)

グリシャ「ごめんください――」キィ


 扉を開けてすぐ、俺は見てしまった。血だらけで倒れる2人の男女――、

 ミカサの父さんと母さんの姿を。


エレン「ちがう・・・これは・・・ゲームだ・・・」

グリシャ「…カサ! ・・・ミカサ!!! ミカサ、いないのか!!!」

エレン「――!!!」ハッ


 気付けば、父さんが、ミカサの名を呼んでる。そうだ。捜さなきゃ。


エレン「俺、捜してくる・・・」ダッ


 おじさんとおばさんの、顔を見てしまった。目が合った気がする。

 周囲をぐるりと捜し、後ろの小さな森も少しだけ捜したが、ミカサは――


エレン「・・・いなかった」

グリシャ「そうか・・・父さんは■■■を呼んで――」

エレン「え・・・」

グリシャ「・・・父さんは警察を呼んで捜索を要請する。お前は麓で待ってるんだ」

エレン「・・・ミカサ・・・捜さなきゃ」ボソ


 この『ゲーム』のミッション内容を、俺は本能的に理解していた。


グリシャ「! ・・・・・・わかったか、エレン?」

エレン「・・・・・・」


 父さんがどこかに走って行った。警察を呼ぶなら電話を使えば良いのにと思ったが、

 ともかく、これで俺を留める人間はいなくなった。俺は家の中をざっと調べた。


エレン(金品が荒らされていないってことは、ミカサはマジで誘拐されたってことか?)


 俺は森の中へ向かった。来た道は見通しが良く、誰かが歩いていれば見つかってしまう。

 誘拐したのなら森の方に移動するはずだと考えた。


エレン「ミカサっ・・・今行くから・・・っ」タッタッタッ


 この時点で、俺の中では、『現実』と『夢』の境目が、本当に判らなくなってしまった。


エレン「ごめんください・・・」
エレン「俺と同い年くらいの女の子が・・・」
エレン「いえ・・・おじゃましました・・・」


 何軒か森の小屋を訪ねたが、全て空振りに終わった。

 小道をたどってかなり奥に進んだとき、煙突から煙の出る家を見つけた。


エレン「ごめんください!」コンコン

「・・・・・・・」ギィ


 陰気な表情の小汚いオヤジがドアを開けてきた。異常な警戒心を振りまいている。


「なんだ・・・? ガキか・・・」

エレン「えっと、人を捜しているんです。俺と同じくらいの背丈の女の子で、

    黒髪で・・・いなくなってしまって。どこかで見かけませんでしたか?」

「・・・・・・・・・」ユラァ

エレン「あの・・・・・・」


 男の背後で人影が動いた。手足を縛られ、別の男に担がれているのは、

 間違いなく・・・幼い頃のミカサだ。どこかに連れていかれるその時だったのかもしれない。


エレン「!! ミカ」


 ―― グ サ


エレン「・・・え? あ・・・」


 脇腹が熱い。おそるおそる触れると、ぬめりとした生暖かいものに触れた。

 力なく跪き、目の前のオヤジは俺をえぐったモノをぐちゅりと引き抜いた。


エレン「・・・ぁ・・・ぃ・・・ミ、かっ・・・・・・・・」


 痛い。なんだ、刺された? なぜ、母さん。ミカサ。痛い、痛いよ。

 視界がぐらりと、暗転した。


 ---------------


『ゲームオーバーだ、エレン』


エレン「・・・・・・・・・・」コヒュー ヒュー


『痛いか? 痛いだろう。痛覚もしっかり再現されているからな。

 でも、それは致し方ない。ここは、現実に近い夢だから』


エレン「・・・み・・・」ゼェ ゼェ


『どうする。察しの通り、クリア条件は誘拐された女の子を救うこと、だ。

 失敗するたび、お前は、現実と変わりない苦痛に耐えねばならない』


エレン「・・・もう・・・っいち、ど・・・」


『・・・承知した。リトライだ』


 ---------------

エレン「――ごめんください!」コンコン

「・・・・・・・」ギィ

エレン「えっとボクは・・・森で・・・迷って・・・小屋が見えたから・・・」


 場所は特定できているので、2回目は目当ての小屋までまっすぐに走った。

 中から出てきたオヤジに、今度は嘘を言って小屋の中へ入れて貰う。

 ミカサは、今度は奥の部屋に転がされていた――と、喉元に鋭利なものをあてられた。


エレン「!!!!」

「おおっと、おとなしくしていろよ、坊主・・・まあ小銭程度にはなるだろ・・・」

エレン「・・・・・・っ」ビク

「ほら、さっさと縛っちまえよ。ビビって大人しいうちになw」


 後ろ手に縛られている最中、ぼーっとしていたミカサと目が合った。


ミカサ「・・・・・・・・」

エレン(なんでそんな・・・何にも関心の無い目をしてるんだ・・・?

    いや、今は集中しなきゃ。こいつらは油断してる。今なら・・・)


 状況は、俺にはナイフが突きつけられている。だがミカサはそうじゃない。

 ミッションの内容はミカサが救われればそれでいい。で、あれば――。


「さてと、出来た。良い子だな、坊主。じゃあ次は足だ――っ!?」

 ガン!

エレン「っのクソ野郎!!!!!」

「あっっっがああああああ!!!」


 俺を縛っていたオヤジに頭突きをかまして、続けて、股間を思い切り蹴り上げた。

 オヤジは悲痛な声を上げ倒れた。奥にいたもう1人の男が、慌てて警戒態勢に入る。


「!? って、てめぇ、よくも!!!」

エレン「ミカサ!!! ここは、俺が食い止めるから、這ってでも外に出るんだ!!!」

ミカサ「・・・・・・・・・・・」

エレン「ミカサ!! 聞こえないのか、逃げろってんだ!!!」

ミカサ「・・・・・・どこ、に?」ポツリ

エレン「!? なんで逃げねぇんだよ・・・はやく!!!」


 ミカサは、一向に動かなかった。それは全く想定していなかった。

 違うんだ、このミカサは怯えているわけじゃない。最初から生きようとしていないんだ――。


「――クソガキ、舐めたマネを!!!!」

エレン「ミカサ!!! ミカ――っ」


 男は後ろに立てかけていた斧を掴むと、ミカサを急かそうと手を伸ばした俺を、

 ミカサと一緒に

 斬り捨てた。



 ---------------

 ――それから、何回も挑戦した。

 裏口から入ってみたり、あえて捕まってみたり、男たちが出入りするタイミングを待ったり。

 結局は、俺が殺されるか、ミカサが殺されるか、遠くに連れて行かれるのを見送るか。

 いずれにせよ、ゲームオーバーになり、ハンジの元へ戻る。

 俺はすでに、足は折れ、腹の傷は開き、顔は打撲でふくれあがっていた。

 生気の無いミカサの死体を見るたびに、俺は何度も何度も、胃液を吐いた。

 でも、止めるわけにはいかない。たとえ夢だとしても、あれはミカサだった。

 俺が生かさなきゃいけない、大切な幼なじみだった。

 ---------------


エレン「ッグ・・・ぁ・・・」ヒュー ヒュー

 
 幼いミカサと何度か目が合った。生気を感じさせない瞳が、脳裏に焼き付いて離れない。


『わかったか、エレン? 壁の外に出るには、こんなに痛い思いをしなくてはいけない。

 外で生きるためには、どうしようもなく理不尽な目に遭わされなくてはいけない』


エレン「・・・み・・・」ゼェ ゼェ

エレン(たとえ理不尽でも・・・戦わないと、生きられないっていうなら、)


『嫌だろう? 滅茶苦茶だろ? あんまり自分を虐めるものではないよ』


エレン(生きることが、痛みを知ることだっていうなら、)


『壁の中は穏やかだ。ゆっくりと暮らしていこう。そうすれば、哀しみなんて――』


エレン「・・・たた・・か・・う・・・」ゼェ


『ん? なんだと』


エレン「・・っ・・・にげねぇ、と・・・決めた・・・っ!!」ギリ


『・・・はあ・・・リトライ開始だ』



 ---------------


エレン「・・・・・・・・・・・」


 父さんと何十回目かのやり取りをして、ミカサん家の中で一人きりになった。

 不思議と、心が、地に根をはるように、ずっしりと落ち着いていた。


エレン「・・・・・・・・・・・」


 ゆっくりと深呼吸した。俺は、おばさんたちの死体を跨いで、

 ナイフを数本、その他諸々の道具を拝借した。本当に、穏やかな心地だった。


エレン(俺はなんて思い違いをしていたんだ・・・ミカサを助ける、助けない以前に)


 あいつらは、頭の足りないクズで、俺にとって対極の考え方を持つ敵なんだ。

 人間とも思えないような奴らに、なぜ手加減なんてしてやる必要があるんだ?


エレン「助けてやるからな、すぐに・・・あんな獣は、駆逐してやる」クスリ





 ・・・次に気がついた時、俺は、絶命して床に横たわる男に、馬乗りになっていた。

 男は喉元をメッタ刺しにされている。赤く染まったナイフを握っていたのは俺自身だった。


エレン「・・・・ハァ・・・ハァ・・・」チラ

ミカサ「・・・・・・・・・・」ビク 

エレン「・・・もう・・・大丈夫だ・・・安心しろ・・・」


 俺はミカサに近づいて、涙と血でくしゃくしゃの顔を向けてそう言った。


エレン「俺は、俺たちは。生きるために、戦うんだ」


 ---------------



『――チッ いいだろう、ステージクリアだ・・・』


エレン「・・・・・・・・」ヒュー ヒュー


 視界が明るくなっていく。今まで暗くて全く判らなかったが、

 『デッドエンドルーム』の中は、元々、中世を連想させる陰気な拷問部屋だったらしい。

 と、共に、俺を支配していた各部の致命傷が消え去っていった。


エレン「・・・・・・・・っ」ズキズキ

エレン(っまだ・・・感覚が残ってやがる・・・実際には怪我なんてねぇのに・・・)


『エレン・イェーガー。きみはこのアトラクションからの脱出を約束された。

 一応、ボーナスステージがあるけど、どうだ?』


エレン「元々それが目当てだ・・・報酬は」


『ランクに応じて、学園について情報を明け渡す。アトラクションから出られれば、

 報酬は煮るなり焼くなり好きにしろ。挑戦はいつでもいい。内容だけ説明しておこうか』


 どういう仕掛けなのか、壁の一部が動いて、奥から台に載った宝箱が出現した。


『箱を開けて』


エレン「・・・・・・」ガチャ

エレン(リボルバー式拳銃・・・?)


 中には銀色の綺麗な拳銃と、同じく銀色の銃弾が5発あった。


『ロシアンルーレットって、知っているね? それ・・・実弾だよ』


エレン「実弾・・・!?」


『そう、こちらも命に等しい情報を渡すかもしれない。きみたちにも、ぜひ、

 己の運命に対し、心臓を捧げるくらいの覚悟で挑んで欲しいと思っていてね』


エレン「・・・・・・っ!!!」


『念のため説明しようか? 実弾を何発込めるかはきみ次第だ。

 目を固く閉じて、シリンダーを適当に、トランプをまぜる要領で回転させる。

 自分のこめかみに銃口を向け――引き金を引け。ダミーなら、きみの勝ちだ』


エレン(1発なら1/6、5発なら5/6の確率で・・・俺は・・・)

エレン「・・・・・・」ガチャ


 初めて手に取った拳銃は、思ったより重たいものだった。

 俺は、弾のうち1発を手に取り、手の中でころころと、もてあそんだ。


エレン「失敗しても死にはしないってのは・・・ボーナスステージは適用外なんだな」


『そうだね。あれ、説明してなかったかな。・・・ちょっと、ずるかったね』


エレン「いいんじゃねえの。あくまで、ボーナスだからな。確かに『滾る』ゲームだ」


 俺は、1発をリボルバーに装填した。目を閉じて、チャキチャキと回転させる。


エレン「・・・・・・・・・・・」


 俺は死にたくない。生きたい。今やろうとしていることは、それに反していないだろうか。

 でも、たった1発に当たりさえしなければ、何かを得ることが出来るはずなんだ。


エレン「・・・・・・・・・・・」ガチャ


 こめかみに銃口を向けて、引き金に手を掛けようとした、まさにその時だった。


 ―― ドオオオ オ オ ン ッ !!!!


エレン「っっ!!!!?」


 すさまじい爆音が階下から聞こえ、それと共に微かに地面が揺れた。


エレン「な、なんだ、爆発!!?」


『・・・ああ、たぶんねー』シレッ


エレン「たぶんねって、何をのんきに・・・っくそ、後で挑戦する!!!」バッ


 俺はリボルバーを宝箱に戻すと、すぐさま扉を開けて外に出た。


エレン「何があった・・・!!?」ダッ


 すでに限界で、体力はない。しかし目一杯駆け足で降りる。3階は特に何も無かった。

 2階へ降りると、いよいよ嗅ぎ慣れない火薬の臭いが鼻孔をついた。


エレン「・・・・っ」ダダッ

ジャン「!! エレン・・・」

エレン「ジャン、何が――」


 見ると、塔をつなぐ連絡橋の扉と、周辺の壁などが破壊され、一部ががれきになっていた。


ジャン「わかんねえ。鳩時計の音を聞いて、部屋の外に出たとたん、爆発音がした」

エレン「っ向こうは? <東塔>の奴らは」

ジャン「ダメだ・・・爆発のせいでセンサーが壊れちまって、あっちの扉が開かない」

エレン「点呼をとろう。サシャとアニは」

ジャン「まだ見てない。アニの部屋、すぐ後ろだから・・・ちょっと見てくる」 

エレン「俺はサシャを捜してくる」


 3階のサシャの部屋までいくと、俺はドンドンと乱暴にドアを叩いた。


エレン「サシャ! サシャ! いるのか!?」ドンドン

エレン(ここにいるってんなら、むしろ無事だろうが。くそっ返事がねえ・・・ん?)


 その時になって俺は初めて、扉の脇にインターホンのボタンがあることに気づいた。

 この際迷惑でもいいかと、ピンポンも連打しつつ戸を叩いた。するとすぐに、

 ガチャ


サシャ「っうるせーですよ、てめえ! 訴えますよ!!?」ムキャーッ

エレン「サシャっ」パアァァア

サシャ「なんですか、ほんとピンポンピンポンピンポンピンポンって・・・

    私もうヘロヘロなんです、勘弁してくださいよ、エレン~~」

エレン「悪いな。下で爆発が起こったんだ。ちょっと集まってくれ」

サシャ「は? ばくは・・・?」ポカン

エレン「いいから」グイッ


 俺はサシャを連れて2階へ戻った。


ジャン「・・・サシャは無事か。アニは部屋にはいなかった」

エレン「え・・・」

ジャン「あと、<東塔>のほうからアルミンの声が聞こえるんだが、内容が判らない」

エレン「・・・・・・?」


 < ・・・・・・・・・・・・・!!

 耳を澄ませた。・・・確かに、アルミンが何かを叫んでいるが聞き取れない。
 

サシャ「・・・アルミン、アニ、コニーは無事、君たちは大丈夫か」ボソ

ジャン「!? お前聞こえるのか?」

サシャ「ええ、まあ。・・・聞こえたら返事してくれって」

エレン「アルミン!! エレン、ジャン、サシャは無事だ!!!!」

サシャ「・・・あ、あっち(東塔)何も言わなくなりましたね」

ジャン「その場を離れたのか? だがアニは無事みてぇだし、よかったぜ」

サシャ「ん? いや、よくないですよ、ミカサは・・・!?」

エレン「あいつ、は・・・・・・」

ジャン「それも含めてハンジぐるみに話を聞こうぜ」


 だが、呼びつけてもハンジぐるみは一向に出てこなかった。


ジャン「こういう時だけ出てこねえとか、あいつ舐めてんのか? 真綿引き抜くぞオラ!」

サシャ「頼むから説明してくださいよう。テロですか? テロなんですか?」ガクブル

エレン「ほんとだ。どういうことだ、マジで――」

エレン(嫌な予感がする。それをぬぐって欲しいんだけどな・・・)



 <東塔>からの声も聞こえなくなってしまい、どうしようもない。

 俺たちが途方に暮れていると、唐突に――そのアナウンスは響き渡った。





 キーンコーン カーンコーン


『事件が発生しました! 一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます!!!』



ジャン「な・・・っ!?」

サシャ「!? !?」

エレン「・・・・・・っ!!」ギリ





第四章「エウカリスは哀しまない」 (非)日常編 END



四章日常編終了です。捜査パートはまた後日。

数ヶ月放置して申し訳ない。長らく待ってくださった人がいて嬉しいです。


はじめに。うっかり書き忘れていたのですが、

今回のアトラクション『どっきりハウス★ウトガルド城』は、遊園施設内であることから、

第三章に続き、電子生徒手帳のマップで生徒の所在地を追跡することができません。



 俺たちは、ただただ塞がった連絡橋を見つめることしか出来なかった。

 事件発生アナウンス――その唐突な報せに、途方も無く立ちすくむしか。


エレン「・・・・・・・・」

ジャン「・・・どういうことだ?」

サシャ「・・・えっと・・・爆発が起きたから・・・?」キョロキョロ

エレン「ちがう・・・爆発じゃ無い・・・」ポツリ

サシャ「え――」

エレン「だって、向こう側にいるアルミンは、『爆発』そのものを認識していただろ」

ジャン「そうだな。爆発が事件の焦点なら、アナウンスはとっくの昔に流れたはずだ・・・」

エレン「俺たち3人が集まって、しばらくしてから、アナウンスが流れた。タイムラグがある」

サシャ「・・・えっと、じゃあ、何が・・・」

エレン「事件現場は、この<西塔>じゃねえってことだ・・・」

サシャ「・・・とりあえず、私たちはどうしましょう」

ジャン「ハンジぐるみ・・・そろそろ出てこいよ」


『・・・ん、おはよー・・・マジ眠い。ほんと寝てないわ-2時間しか寝てないわー』


エレン「・・・何があったんですか?」


『それは自分の眼で確かめたらいかがかな? ま、まずはこいつを渡しておくよ』


 どこからともなく現れたハンジぐるみが、俺たちそれぞれにあるモノを渡してきた。


ジャン「なんだよ? この紙袋」キョトン

サシャ「くんくん・・・・この、この匂いはっ!!!!」カッ

エレン「開けていいんですk――」

サシャ「コッペパアアアアアアアアアアアン!!!!」バリィィッ

エレン「!!」ビクッ

サシャ「ぱん・・・ぱあん・・・・ハァハァ」ガサゴソ

ジャン「・・・・・・」

サシャ「もぐもぐもぐ・・・・ぱうぱくもぐもぐごくごく」

エレン「コッペパンに紙パックの牛乳か・・・」ガサガサ

ジャン「サシャ。口に白いひげが出来てるぞ」

サシャ「うへへぇええ・・・おいしいよぉ」グスン グスッ

ジャン「・・・はは。おまえ、ほんと・・・」ククッ

エレン「・・・・・・メシだな」

ジャン「とりあえず、喰おうぜ・・・」ガサガサ

エレン「アルミンの言ってた通りだ・・・」

サシャ「むぐむぐ もくもく ごくんっ ――何がですか?」ケプ

ジャン「もっと上品に喰えや。あ、いやお前のキャラじゃなかったな、それは」モグ

エレン「ここから出られるってことだよ。『学級裁判』をする必要があるから」

ジャン「・・・・・・だな」

サシャ「ともかく、私たち飢え死にしなくて、よかったですよぉ・・・」ヘロヘロ


 ここに来てようやく、サシャは安堵したように地べたに座り込んだ。


エレン(あの頭のおかしい『ゲーム』に他の皆が挑戦しなくていいのは幸いだけど・・・

    あとちょっとで、何か掴めそうだったのに・・・あの引き金を引いてさえいれば)

ジャン「・・・・・・」チラ

ジャン「てめぇもとっとと喰え。人間、糖分が足りてねぇとまともな思考にならねえ。

    頭がおかしくなっちまうからな・・・ちゃんと食えよ。もぐもぐ」

サシャ「えへへ、これ小学校の給食で出とった脱脂粉乳より美味しい・・・」ホッコリ

ジャン「お前の田舎は、そんなにも財政赤字だったのか・・・?」

エレン(とにかく、喰わないと・・・)


 そう思って俺はパンの袋を開けたが、ひとくち食べたきり、食事が進まない。


エレン「・・・・・・・だめだ、食べたくねぇ」

サシャ「何言ってるんですか。胃が小さくなっただけですよ、ムリにでも食べなきゃ、です」

エレン「いや、ムリだ・・・腹いっぱい・・・」ウプ

エレン(喰いたくない・・・いやだ・・・)


 腹の中が、頭が、ぐらぐらする。

 きもちがわるい


ジャン「お前、顔蒼いぞ。俺たちも大概だけどな」

サシャ「そうだ。私の部屋からお水もってきましょうか」

ジャン「ああ頼む。おい、バカ。ちょっと座れ、お前フラフラしてきてんぞ」

サシャ「じゃあ待っててくださいねえ」


『なに、エレン調子悪いの?』


ジャン「どうでもいいから、さっさと寄越せよ。いつもの奴」イライラ


『はいはい。どーぞどーぞ』


 ハンジは俺たちにタブレット端末を手渡して、さっさと消えてしまった。

 今回は<東塔>と<西塔>を行ったり来たりで忙しいのだろうか。


エレン(・・・ほんと、いつもどこから現れたり消えたりしてんだか・・・)クラクラ

ジャン「・・・・・・・・・・・・なあ、死に急ぎ野郎」

エレン「・・・? なに」

ジャン「タブレットを見る前に・・・やっぱりメシは喰え」

エレン「それかよ。いや、ほんと胃が・・・」

ジャン「ああ。お前は休め。休んだ方が良い。絶対だ。今夜はいろいろあり過ぎた」

エレン「?」


『・・・っああ、そうそう。きみたち。きみたちだから言っておくけど――』


 俺はタブレットを手に取った。


ジャン「っだから、後から見ろってば――」


『もしクロがこの場にいないとしても。例えば・・・そう。『卒業』したとしても。

 ――私はきっちり、『オシオキ』するからね? 罪の深さに応じて、ね』クスリ


エレン「・・・・・・な、んだよ。これ」

ジャン「・・・・・・」ギリ

エレン「リヴァイさんが・・・? なんで、なあ!!?」

ジャン「知らねぇ・・・わかんねえよ・・・あっち側で何が起こってるかなんて!」

エレン「・・・は。あ。っああ、・・・だめだ、キモチワルイ」

サシャ「――お待たせしましたあ、ってエレン、大丈夫ですか!?」スタタタッ

ジャン「悪い。色々限界っぽいぜ、この軟弱野郎は。サシャ、『ハンジさんファイル』は?」

サシャ「貰いましたけど、怖くてまだ見てないです。と、とにかくエレンを。

    一度、横にさせないと・・・今にも吐きそうな顔してますよ!?」

エレン「それは、大丈夫。さっき、たくさん吐いた・・・」フラリ

エレン(・・・『ゲーム』で)

ジャン「2階はこんなだし、俺の部屋はボロいし・・・」ムム

サシャ「あ、私の部屋! そこまで頑張りましょう、エレン」

ジャン「ああ。連絡橋はどうにか俺たちで通れるようにするから、お前は休め、いいな」

エレン「あ、でも」

サシャ「でもじゃない!!! やめてくださいよ、貴方がそんな調子だと、すごく怖いです・・・」


 サシャの声が震えていた。尋常じゃ無いほどに。

 俺はサシャの言っていることをあまり理解できなかったけれど、こいつを怖がらせている、

 その事実にたじろいで――加えてジャンの無駄な怒気に気圧されて。従わざるを得なかった。


 サシャの部屋はさすがの<上流>。調度品なんて校舎や寮のものより造りがいい。


ジャン「いいか。ちょっと寝るだけでいい。起きたらメシは腹に詰めとけ。いいな」

エレン「なんだよ、うぜぇ・・・」

ジャン「お前の為じゃねえ。ミカサの為だ。ああ、割にあわねえな、ほんと・・・

    いいか死に急ぎ野郎。後々倒れるくらいなら、今ぶっ倒れといてくれ。そんだけだ」

エレン「・・・・・・」


 サシャが少しだけ身の回りの世話をしてくれて、そして俺は1人になった。

 階下の喧噪はまったく耳に入らず、静寂の中で、俺はぼんやりと、何かを思いだしていた。


 ・・・―― ねえエレン、ミカサ。いつか壁の外を、たんけんしよう。

 ・・・―― もちろん! ぜったいだ、約束だぞ。

 ・・・―― ふふ。でも本当にかないそう。ふたりなら、きっと。

 ・・・―― なに言ってんだ、ミカサ。さんにんだろ!!!


 そして、ぷつん、と。
 




第四章「エウカリスは哀しまない」 非日常編




 ――AM 6:44 <東塔>2階 連絡橋前



アルミン「――コニー。あっちは何て言ってる?」

コニー「・・・エレンは体調を崩して少し寝るってさ。ジャンとサシャで瓦礫を退かすって」

アニ「・・・・・・エレン大丈夫なの」

コニー「寝不足だろうな・・・心配だ・・・」シュン

アルミン「思うに、エレンは知ってたんじゃ無いかな。ミカサが『卒業』したってこと」

アニ「そうかもね・・・だったら、動揺しても仕方ないかも。こんな状況だし」


 今朝6時、突如大きな爆発が起きた。

 僕――ことアルミン・アルレルトと、アニ・レオンハート、コニー・スプリンガー。

 この3名は2つの塔のうち<東塔>に閉じ込められてしまったというわけだ。


 <西塔>には、エレンとジャンとサシャがいる。幸い、3人とも無事だ。

 そして残るミカサとリヴァイ先輩だけど・・・。

 ミカサが『卒業』したと僕たちが聞き及んだのは、つい今し方、ハンジぐるみからだ。


アルミン(まあ。当然、エレンだけじゃなく、みんな動揺しちゃうよね。まいったなぁ・・・)

アニ「・・・とにかく、しばらく<西塔>にはいけない。私たちは私たちで、捜査しないと」

コニー「なあ。やっぱり、リヴァイ先輩の部屋に、行かなきゃダメなのか?」フルフル

アルミン「・・・しかたないよ。今回は・・・彼が被害者なんだから・・・」

コニー「えぇえ・・・血だらけだぞ。あの部屋は・・・」オドオド

アニ「ったく・・・じゃあ、今回は私が現場を見張る。コニーは他を調べれば?」

コニー「あ・・・っその、ゴメン。みんな嫌だよな、うん。俺もちゃんとやるよ・・・」

アルミン「コニー。エレン達がいない間、僕たちが頑張らないと・・・乗り切ろうね」


 今回の『クロ』をなんとしても見つけ出して、『学級裁判』で追い詰める――。

 僕がやらなくてはいけない使命だ。そう、外に。壁の外に出るための。


アルミン「――じゃあ。各自、はじめようか」




「 捜 査 開 始 」




アルミン(さてと・・・まずは・・・)

アニ「こいつ――『ハンジさんファイル』を確認しよう」サッ

コニー「あ、ああ・・・」ササッ


 僕たちは受け取っていたタブレットにようやく手をつけた。

 正直、僕たちは『事件』の発見者として色々と大変だったし、ハンジぐるみに、

 「ミカサが『卒業』したよ☆」なんてふざけた宣告を受けたモノだから、

 これをじっくり確認する余裕なんて皆無だったんだ。


アルミン「ええっとー・・・?」マジマジ



【ハンジさんファイル4】

 1.被害者はリヴァイ。娯楽遊園施設内「どっきりハウス★ウトガルド城」東塔1階、

  自身が寝泊まりしていた通称<貧民部屋>にて、意識不明の状態で発見される

 2.発見者は、コニー、アニ、アルミン。本日午前6時、西塔からの爆発音を契機に、

  被害者を捜索。現場は内側から鍵が掛かっており、コニーが鍵を壊して侵入、発見

 3.被害者は腹部を複数回に渡り鋭利な棒状の凶器で刺されており、失血が著しい

 4.現時点で意識不明の重体。学園長により、仮死状態とされる

 5.被害者を仮死状態にした者を『クロ』とする




アルミン「――コニー、よかったね。『死んではいない』みたいだよ・・・彼」

コニー「いや、仮死状態って、つまりどういうことだよ???」

アルミン「その辺りは、診察した学園長に確認を取った方がいいかもしれない」

アニ「・・・いま、リヴァイ先輩はどうなってるの」


『えっと、一時的に学園内のコールドスリープ装置に収容してます』ヒョコ


 ・・・ああ。出てきた出てきた。やあ、学園長。


アルミン「コールドスリープ装置って・・・?」


『すなわち、仮死状態をそのまま保存してるってこと、装置の外側からなら彼を観察できるよ。

 あとは、すでに被害者の写真を撮影してるので、端末にうpしとくね。グロ注意ねww』


コニー「よくわかんねぇけど、ちゃんと助けろよ! えっと、緊急手術? とかしろよ!?」


『だいじょうぶだいじょうぶ、任せて。絶対に死なないから・・・絶対にね!』ニコニコ


コニー「信用できねぇ!! 俺たちを飢え死にさせようとしたくせに」

アニ「 コ ニ ー 。 とっとと始めよう。突っかかってる間に、時間は過ぎてくよ」


 ハンジぐるみはコニーの当然の抗議をさらりと交わし、迅速にその場を去ってしまった。

 僕の予想では、きっと<東塔>の連中にも顔出しをしていて、忙しいのだろうと思う。


アルミン「じゃあ、現場に行こうか」


 僕たちは、今回『事件』の舞台とされている、リヴァイさんの寝室へと向かった。



 
 ――AM 6:52 <東塔>1階 貧民部屋


 ガチャリ、とドアノブを引いて、僕たちはリヴァイ先輩の部屋に入った。

 すぐに、独特の鉄くさい匂いが鼻につき、僕たちは思わず手で顔を覆う。


アルミン「・・・何回嗅いでも慣れない匂いだな・・・・」ウプ

コニー「ああ・・・リヴァイ先輩が・・・リヴァイ先輩が・・・」フルフル

アルミン「そ。呼吸をしていない。僕はエレンと違ってこういうのは詳しくないけど。

     リヴァイ先輩の状態は、植物人間だとか、そういうものに近いんじゃないかな」

コニー「そっか。お医者の道具とかで、先輩は『生かされている』ってことなんだな」

アニ「絶対に死なせないと、そうハンジぐるみが言った。今は信じるしかないね」

アルミン「・・・僕たち側で、今朝6時頃に何が起こっていたか、振り返ってみる?」

アニ「それがいいだろうね・・・爆発やら何やらで、今でも状況がよく判らないよ」

アルミン「オーケー。皆まいってるだろうし、僕もちょっとぶっ倒れたい気分だけど、

     今朝のこと、しっかり思い出していこうか――」


 ここいらで、この部屋みたいに散らかった僕の頭も、整頓してやらなくちゃね。



アニ「午前6時前、私は軽い睡眠の後、いつも通りロードワーク代わりの軽い運動を。

   ちょうど<東塔>の最上階――花園から引き返して下に降りようとしていた時に、

   あの爆発の音を聴いた。3階に差し掛かるぐらいの、螺旋階段でね」

すいません、ミスりました。>>276 は飛ばしてお読みください

アニ「・・・これが、コールドスリープの装置?」


 廃品で適当に作られたベッド。そのすぐ傍らの床面は血だまりが出来ていた。

 鮮度はさっき発見したときよりも少し落ちていて、赤黒さが増している。

 もともと<貧民部屋>はガラクタ置き場のような乱雑な部屋だったけれど、

 それを鑑みても、尋常ではない部屋の散らかりようだった――いいや、荒れてるのかな。

 そして、当初、ベッドにもたれるように、その床面に座していた渦中の人は。


アニ「ただ、単に眠っているようにしか見えないけど――」


 僕たちどころか、人智すら到底及ばないような、不思議な透明の装置の中に入ったまま。

 ベッドの上で、ただ眠っていた。いつもは深く刻まれている眉間の皺がとれていて、

 不思議と僕たちには、常日頃より、彼が随分と安らかな表情をしているように思えた。


アルミン「アニ。よく見てごらん。胸部が上下に動いていないだろう」

アニ「? ・・・ええと・・・・・・・あ」

アルミン「そ。呼吸をしていない。僕はエレンと違ってこういうのは詳しくないけど。

     リヴァイ先輩の状態は、植物人間だとか、そういうものに近いんじゃないかな」

コニー「そっか。お医者の道具とかで、先輩は『生かされている』ってことなんだな」

アニ「絶対に死なせないと、そうハンジぐるみが言った。今は信じるしかないね」

アルミン「・・・僕たち側で、今朝6時頃に何が起こっていたか、振り返ってみる?」

アニ「それがいいだろうね・・・爆発やら何やらで、今でも状況がよく判らないよ」

アルミン「オーケー。皆まいってるだろうし、僕もちょっとぶっ倒れたい気分だけど、

     今朝のこと、しっかり思い出していこうか――」


 ここいらで、この部屋みたいに散らかった僕の頭も、整頓してやらなくちゃね。



アニ「午前6時前、私は軽い睡眠の後、いつも通りロードワーク代わりの軽い運動を。

   ちょうど<東塔>の最上階――花園から引き返して下に降りようとしていた時に、

   あの爆発の音を聴いた。3階に差し掛かるぐらいの、螺旋階段でね」


コニー「俺はずっと部屋にいなかった。2階の踊り場に座って、色々考え事をしてたから。

    あとはアニと同じように、鳩時計が6時になって時報が鳴ったと思ったら――

    ドカンと<西塔(あっち)>で爆発音がして、ビビって固まっちまってた」


アルミン「僕は部屋で寝ていたけど爆発音で飛び起きて、いまいち、

     音の発生源が判らなかったから、まず上階から順に調べてたよ。

     で、3階に戻ったところで、きみたちと合流したよね――」




【3人の回想:午前6時、爆発直後―】


アルミン「・・・うーん。誰もいないな・・・?」キョロキョロ

コニー「――あ!!! アルミン、よかった、無事か!!」トコトコ

アニ「アルミン! ・・・ねえ、大丈夫? 怪我は?」

アルミン「みんな! ああ。僕は大丈夫だけど・・・あのさ、さっきの轟音は・・・?」

コニー「わからねえ。多分<西塔>だと思う。あっちで何か爆発したか壊れたんだ」グッ

アルミン「・・・え、っとどういうことだい?」

コニー「とにかく、何かヤバいことが起こってるんだよ。連絡橋の扉が開かねぇんだ」

アルミン「・・・僕たち閉じ込められたって、こと?」

アニ「・・・」コクリ

アルミン「・・・まずは点呼を取ろう。エレンは?」

コニー「エレンはいねえ・・・あいつ明け方に<西塔>に行ったきりなんだ!!」

アルミン「っ・・・じゃあ、リヴァイ先輩を捜そう」

コニー「リヴァイ先輩っ・・・そうだ、あの人全然起きてこない。変だ。変だよな?」

アニ「・・・上の階は?」

アルミン「『花園』なら今見てきたところだけど、誰もいなかった。やっぱりまだ部屋だ」


 そうして僕たちはすぐに階下へ向かった。1階の<貧民部屋>へと――。


アルミン「――リヴァイ先輩!! リヴァイ先輩、開けてください!!!」ドンドン

アニ「・・・反応しないね。お寝坊にも程がある」イラッ

コニー「えええ。この人、無駄に眼も耳もいいだろ? 

    こんなボロ屋じゃ、絶対、爆発の音聞こえてる筈だしっ」

アニ「この人は凄腕の軍人だろう? 爆音にはすぐに反応しそうなものだけど」

アルミン「・・・・・・」ドンドン!

アルミン(アニの声に焦りがある。コニーも僕も。みんな、悪い方向に「予感」してるんだ)


 ハンジぐるみを皆で呼んだけれど、ちっとも反応しない。

 いつもなら頼んで無くても出てくる癖に、なかなか天の邪鬼な人だよね、あの人も。


コニー「・・・こうなったら、いっちょ」

アニ「蹴り壊す? いいけど」サッ

コニー「ちっげーよ、ナチュラルに構えんな!! 誰か、針金持ってねぇか?」

アルミン「それなら、僕の部屋に手芸セットがあったから、その中にリール状のものが・・・」

コニー「ちょっと、それ貸してくれ」

アルミン「いいけど・・・待ってて」タタタッ


 コニーが珍しく自発的に提案してきたものだから、僕はすぐに自室に戻って、

 数センチの長さに切った針金を、予備用を含めて3本用意した。


コニー「ありがとう。よし、ちょっと待っててな」

アルミン「・・・ええっと(読めたぞ)」

コニー「ふふん。村の小屋の鍵と形状が似てるんだよな。こじ開け慣れてんだよ、俺」ニヤ

アルミン「うわあ・・・悪いなあ」

コニー「俺のせいで弟達がいじ・・・怒られて閉じ込められたら、こっそり出してやってたんだ。

    いわゆる、生きていくのに必須のスキルって奴だぜ。就活には使えねえけど」

アニ「ブチ壊した方が早いのに・・・・・・はやいのに・・・」ショボーン

アルミン「あからさまに備品を壊したら、ハンジぐるみに難癖をつけられかねないからね。

     ちなみにコニー。壊れないよね・・・? 壊さないよね・・・??」

コニー「――ん。いける。まかせときな」カチャカチャ

アニ「我慢するよ・・・」

アルミン(思い切り蹴りたいだけだよね・・・アニ・・・)

コニー「・・・・・・」ガチャガチャ

アルミン「僕は、<東塔>の人たちに呼びかけてみる。開いたら呼んで」

アニ「わかった」


 それから、僕は2階へ戻った。

 こちら<東塔>の連絡橋はただ閉ざされているだけだ。

 爆発源は、<西塔>でほぼ間違いない。


アルミン「あちらの扉が壊されてエラーになっているか、開きっぱなしの状態になっているから、

     扉の性質でこちら側が開かないか・・・さて、どっちだろ」

アルミン「・・・・・・」スゥッ

アルミン「<東塔>のみんな!!!! 聞こえるか!?

     僕はアルミン。アルミン、アニ、コニーは無事だ!!! もう一度言う、

     アルミン、アニ、コニーは無事だ。聞こえているなら返事をしてくれ!!」


 かつて無いほどの大声で何度も呼びかける。なんども、なんども。

 やがて、少しだけ声が聞こえた。多分、この声はジャンだ。だけど内容が判らない。


 <‥・ ・・アル・・・・・・・・・・・!!


アルミン「くそ、なんて言ってるんだ? この調子じゃ向こうも聞こえてないかも。

     もう1回。アルミン、アニ、コニーは無事だ!! 伝わっているかい!?」


 <・・・・・・ン! エ・・・、・・・サシャ・・・は無事だ・・・!!!


アルミン「!!!! エレンの声だ」

アルミン(ということは、エレンとサシャ、ジャンは、少なくとも現在は無事・・・)

アニ「――アルミン、コニーがもう開くって」タッタッタ

アルミン「! ほんと、さすが、早いなあ!!」

アニ「一緒に来て。・・・そっちはどうだった」

アルミン「たぶん、少なくともエレン、サシャ、ジャンは無事だ」タッタッ

アニ「そう・・・・・・ミカサは?」タッタッ

アルミン「ミカサ・・・はまだ判らない。ちょっと、声がお互いに遠すぎて・・・」グッ

アニ「・・・大丈夫、ミカサは強い女だから」

アルミン「あ・・・うん・・・そうだよね」ニコ


 僕たちが1階に戻ると、コニーが慎重にカチャカチャと鍵穴を針金で掻いていた。


アルミン「もう開くの?」

コニー「・・・・・・・・」ガチャガチャ

アルミン(っとと、集中してる。黙っとかなきゃ)

コニー「・・・・・・・・」ガチャ ガチャン

コニー「っしゃあ、開いたあ!!」ヒャッホウ!

アニ「はっや」ビク

コニー「開けただけだ、壊してねぇからな」

アルミン「ふふ、さすがだね」
 
アルミン(・・・とはいえ・・・開けるのを躊躇してしまうなあ・・・)ゴクリ


 だって僕たちは、全員気付いているから。この塔で、ナニカが起こってしまったことに。


アルミン「・・・っリヴァイさん、入りますよ!!!」ギュッ


 ガ チ ャ リ


アルミン「・・・・・・」

アニ「っう・・・なに、このにおい」

コニー「・・・・・・? なに、よく見えねえ・・・」

アニ「! コニー見るな!!!」

コニー「え――」

アニ「・・・見るな・・・」ポツリ

アルミン「・・・・・・」


 僕たちが見たのは、散々に荒らされた形跡のある部屋と、

 床一面に広がった血だまり、ベッドの傍らで座っている、血の主――リヴァイさんの、

 真っ白い顔、青白い唇、開いたままのガラス玉のような黒い瞳――。


アニ「なに、これ・・・なんなの・・・・?」

アルミン「・・・・・・う。ぷ」クラァ


 ああ。それから。何本か細い金属の棒が刺さって――ぐちゃぐちゃにされた先輩の腹部。


コニー「あ、あ・・・・・・うわああああぁぁああぁああ!!!!」



 キーンコーン カーンコーン


『事件が発生しました! 一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます!!!』



コニー「――せんぱい、せんぱい!!!? ああああっ、せ、せんぱっ」

アルミン「・・・う・・・げぇ・・・・ゲホッ」ゼェゼェ

アニ「アルミン、そこにあったゴミ箱・・・こいつに出しな」サスサス

アルミン「ぐ・・・ぇ・・・うぅ・・・・うう」ハァハァ

コニー「あ、わけわかんねえ・・・爆発は<西塔>で、先輩は<東塔>で・・・!?」


 僕はその時、あまりに頭が真っ白で、あまりに「忙しすぎ」て。

 だから、あの耳障りなアナウンスが鳴り響いたことも、僕は気付かなかったのさ。


 それからハンジぐるみが出てきて、パンとミルクを手渡されて。

 そんな気分じゃなくたって、飢えないために食べた。

 そして、学園長が何を言い出すかと思ったら――。

 ミカサは『卒業』しました、この場にはいませんよ、なんて素っ気ないお知らせだった。


アルミン「・・・卒業・・・そう。卒業・・・」

アニ「嘘だろ・・・このタイミングで・・・?」

コニー「・・・・・・」ボーゼン


 僕たちは、しばらく、取り残された自分たちの立場を噛みしめていた。

 ようやく全員の情緒が戻ったころには、30分近く時間が経過してしまっていた――。


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 ――そして、午前7時現在、僕たちはエレン、ジャン、サシャが無事であることを確認の上で、

 再び、リヴァイ先輩の部屋に戻ってきたのだ。


アルミン「以上が、午前6時頃、僕たちのいる<東塔>で起こった出来事。間違いないね?」

コニー「間違いねえ。俺がベソかいて、お前がゲロ吐いたところまで・・・全て事実だ」

アルミン「ちょ、そこはオブラートに包んだというのに、きみって人は・・・」

アニ「うん、あの時の行動について、私たちの認識は一致しているね」

アルミン「・・・よし、端末に簡単な記録はとっておいたよ」


 >言弾『午前6時頃の東塔』を入手


コニー「こんなのって、ねえよな・・・リヴァイ先輩がこうなったお陰で、俺たちは、

    やっと何日ぶりにパンをかじって・・・こんなのってねえよ・・・」

アルミン「・・・コニー・・・」

コニー「俺、捜査は苦手だけど。今回は頑張るよ。早く先輩起きるといいのに。

    そうしたら、パンだって食わせてやれる・・・」

アニ「・・・そうだね」

コニー「よ、よし、次はなんだ、何を確認する?」

アルミン「あ、えっとね。お次はリヴァイ先輩の発見時の様子だけど」

アニ「私は、発見時に、一応、意識の確認はした。でも反応は無かったし・・・

   ちょっと言いづらいけど、まず、この人は死んだんだな・・・と思ってしまったよ」

コニー「お前、ドライだなあ・・・落ち着いた奴がいてくれると助かるけどよぉ」

アニ「どうも・・・。ま、あの先輩については、色々思う所もあるし・・・」ボソ

アルミン「?」

アニ「とにかく、当時のリヴァイさんは、この、血だまりの真ん中に座っていて、

   背はガラクタベッドにもたれてた。で・・・お腹は色々刺さりまくってたね」

アルミン「ああ、すごくブスブスと刺さりまくってましたねえ・・・(遠い目)」


 当然と言えば当然だけど、リヴァイさんが座っていたところだけ血が滴っていないから

 床には割と綺麗に、座った痕が残っていた。まあつまり、ただただ気色悪いよね・・・。


コニー「端末に、画像がきてるぞ・・・見るか・・・」ハァ

アルミン「・・・・・・」ピピッ


 リヴァイ先輩が、学園長が言うところの『装置』に収容される前に撮影されたものだ。

 僕たちは重体のリヴァイ先輩に直接触ってはいけないし――、

 そういった捜査上の不利を考慮してあるのか、様々な角度から画像は、あまりに高精細過ぎた。


アニ「・・・・・・当たり前だけど、モザイクとかはないんだね」

アルミン「うん・・・何度見ても慣れないね・・・」ハァ

コニー「・・・腹や胸の辺りを何カ所もぶっ刺されてるんだよな。細い金属の棒で・・・」

アルミン「背中側から撮影した写真を見て。いくつかの凶器が背中まで貫通してるよ」

コニー「発見した時も凶器が刺さってたのが、下っ腹が4カ所、右の胸に1カ所。

    刺さった痕があるのが・・・えーと。判るだけでも腹のあたりが3カ所か?」

アルミン「コニー、目が良いね。・・・記録しておくよ」メモメモ


 >言弾『リヴァイの身体』を入手


アルミン「! ねえ、写真の、リヴァイ先輩の手元を見て」

コニー「あ。右手に何か持ってるぞ」

アニ「・・・細い金属棒を束にしてる?」

コニー「結構強く握ってるけど・・・つうか、べっとり血が付いてる!」

アルミン「よく見たら、先輩の腹部に刺さってる棒も、いくつか細いのを束ねてあるんだね」

コニー「なんで、自分で握ってるんだ・・・?」


 >言弾『ワイヤーの束』を入手


アニ「・・・・・・ふん・・・」

アルミン「? 何か気付いた?」

アニ「これだけしつこく刺された割には・・・心臓、喉元、顔面、股間、肝臓――

   いわゆる、急所らしい急所の損傷はほぼ免れているなと思って」

アルミン「そうか、なるほど・・・」

アニ「刺した奴は、逆に急所に詳しいのかもね。格闘技をやってると、急所には詳しくなる」

コニー「って、その言い方だとお前が怪し・・・いや、信じてるけど」ブツブツ

アニ「そうね・・・まあ、とにかく。急所は意図的に避けてあるのかと、そう思っただけさ」

アルミン「ふうん・・・」メモメモ


 >言弾『外された急所』を入手


アルミン「改めて、リヴァイ先輩が座り込んでいたところを調べてみようか」

コニー「座ってた場所の周りに、小さいけど充分な血だまりが出来てるな」

アルミン「かなり刺されていたからね。派手に失血したみたいだ・・・」

アニ「でも、切り傷じゃ無くて刺し傷だよ。傷の表面積は斬るよりずっと少ない」

コニー「? どういうこと?」キョトン

アニ「細い棒で突いてるんだろう。しかも身体に刺しっぱなしの凶器もある」

アルミン「・・・ああ。つまり、体感で、出血量が傷に見合っていないってことかい?」

アニ「いや。私は医学的なことはあまり詳しくないけど・・・」

コニー「あ、なんか判るかも。なんつうか、派手? というか。映画みたいな出血量だよな」

アルミン「ふむふむ。なるほど・・・アニ。きみって、なかなか鋭いなー」パチパチ


 >言弾『小さな血だまり』を入手


コニー「しっかし、<貧民部屋>のフローリングはガッタガタだなあ」

アルミン「フローリングというか・・・不揃いな板をつないだだけって感じだよね」

アニ「板と板の隙間が広すぎて、流れた血がぽたぽた滴ってるね・・・かなりの量が」

コニー「うげえ・・・ほんと、先輩大丈夫かよ・・・」チラ


 コニーの視線を追うと、学園長の言うところの『装置』内で静かに眠る先輩の姿があった。


アニ「――ここはちゃんとした医者もいない。

   ハンジがなんとかしてくれるって、思うしかないよ」

コニー「そうだけどさあ・・・」

アニ「いいから、とっとと捜査をするよ。・・・この部屋の床、

   いくら質が悪いって言っても、あまりに造りが雑じゃないかい?」

アルミン「んー・・・というと?」

アニ「隙間だらけでガタガタ。下手したら足を引っかけて転ぶような隙間だ」

アルミン「<貧民部屋>というだけあるし、そういうコンセプトなんじゃないかな」

アニ「建物自体、私たちを閉じ込めることが目的だろうけど、この部屋だけ異質。

   まるで部屋として認められない材料で作り上げていて、なにもかもガタガタ」

コニー「んー。わざとだよな、これ」

アルミン「え?」

コニー「この部屋って廃品ばっかりだろ。床もそうだけど、怪我に繋がりそうなのばっかり。

    ハンジぐるみはそういうの判ってて作ってんだろ? だってハンジしか作れねえよな」

アルミン「えっと・・・つまり、この部屋は、『ゲーム』に挑戦する以外の方法として、

     『アクシデントを生じさせる』、そのための舞台装置ってこと?」

アニ「そう」コクリ

アルミン「そうか・・・そうだな、偶発的でも『人為的でも』、ナニカが起こるかもしれない。

     なぜならば、僕たちが求める衣食住の安定性を、取り除いているから・・・」


 >言弾『ガタガタの床』を入手


アニ「アルミン、あんたの言ってたことは、あながち間違いじゃないってことだね」

アルミン「・・・・・・」


 アニが何を指してそう言ったのか、僕にはすぐに判った。

 僕は以前、ここから脱出するために、『ゲーム』に挑戦するほか、『事件』を発生させる、

 という手段を提案したことがあった。あくまで手段の一つとして。


アルミン「そうだね・・・実際僕たちは、『事件』が起きたからパンを食べられたし、

     この後の学級裁判が終われば、いちおう学園には戻れるはずだから。

     ハンジの思惑と僕の考えはすごくマッチしてたってわけだ、不本意だけどさ」

アニ「そうね・・・」

コニー「そうなると・・・エレンの決意は無駄ってワケかなあ・・・」シュン

アルミン「あ・・・エレンは確か、今日、『ゲーム』に挑戦するはずだったんだっけ」

アニ「あいつは・・・いや、あんたもか。よく決断したと思うけど、結果的に無くなったね」

コニー「ちがうよ・・・あいつ、もう挑戦したかもしれないし・・・」

アニ「え?」

アルミン「・・・どういうこと?」

コニー「俺、夜は眠れなくて起きててさ。夜中の間はずっと2階の廊下にいたんだ。

    明け方の、4時とか5時くらいかな。エレンはその時会ってて――

    あいつは、『ゲーム』に参加してくるって<西塔>へ行ったから」

アルミン「そういえば、きみ。爆発が起こった時『エレンは西にいる』って言ってたね!」

アニ「ちょっと、エレンは、皆に黙って挑戦しようとしたの? いくらなんでも・・・」

コニー「いや、なんかもう決めた! って感じだったし・・・留めるほど俺も野暮じゃねえよ」

アルミン(エレンは午前6時前、比較的明け方の時間に『ゲーム』に挑戦したってことか)

アルミン「でも、なんで僕たちに言わずに・・・いや、それは後で本人に訊けばいいや。

     コニー。コニーが起きていたとき、爆発が起こる前までに他には誰か見かけた?」

コニー「いいや。エレンだけだよ。しかも部屋から出てきて、そのまま西に行ったし」

アルミン「それは重要な証言だよ。ありがとう」


 >言弾『コニーの証言』を入手


アルミン「・・・もう一度、この部屋の造りをざっと確認しておこうか」


 一応、最低限、質素だけど、古い型のユニットバスと、飲料用の保冷庫はついていた。

 さらに、この<貧民部屋>固有の家具として、以下の物がある。


 タイヤで出来たソファ。ビニールシートの掛け布団と、

 空き缶を敷き詰めて板を乗せたベッド(ある意味凝った造りだ。結構丈夫だね)。

 ちなみに、ほんの少しだけ、飲み物の腐った匂いが取れていない。

 ダンボール製のカーペット、壊れたブラウン管テレビのテーブル。サバイバルゲームの雑誌。


コニー「どれも一応、家具と見立てて使うことは出来るな。い ち お う」

アニ「虚栄心を捨てて、なおかつ忍耐を会得していればね」

アルミン「食べ物以外は一通り揃ってた僕たちとは大違いだね・・・」

コニー「色々散らかってるけど、1番すげぇのは、ソファ代わりのタイヤが崩れてるとこだな」

アニ「そうだね。タイヤは自動車用、バイク用、自転車用――色々あるけど、

   そいつらが根こそぎ崩されてる。・・・うん、ここだけ派手に崩れてるね」


 >言弾『事件現場の状況』を入手


アルミン「まさか、誰かと争った痕ってことになるのかな・・・」

アニ「よくよく考えればそれはおかしい。だって今回は内鍵がしっかりかけてあった。

   コニーも人を見てない・・・言うなれば『密室』ってことだろ、アルミン」

コニー「おお! そういやそうだよな。誰も出入りしてねぇもん」

アルミン「敢えて言うなら、解錠をやってみせたコニーが怪しいよね」サラリ

コニー「え、ええぇええぇ・・・?」

アルミン「嘘だよ、きみがそんなことする筈ないじゃない」

コニー「うおおおお・・・」ホッ

アルミン「今回は施錠が内側からのみできるんだよね」

コニー「皆、部屋の鍵なんて持ってねえし、鍵穴はあるけど外鍵はかけられなかったよな」

アニ「コニー。鍵穴やドアにおかしなところはなかったかい?」

コニー「いんや、綺麗に鍵を掛けられてたからな、普通に」

アニ「じゃあ、やっぱりリヴァイ先輩が内側から掛けたものと考えるべきか・・・」


 >言弾『閉ざされた部屋』を入手


アルミン「・・・」ピク

アニ「どうしたの」

アルミン「いや。えっと・・・。転がってるタイヤだけど」

アルミン「あの細いタイヤは、自転車のタイヤで間違いないよね」

アニ「・・・? ああ、そうだね」

アルミン「いくつかのタイヤは・・・ほら、タイヤの中にある『アレ』がないよ」

アニ「アレって」

コニー「・・・あ、ほんとだ、アレがない!」ピコーン

アニ「?」キョトン

コニー「なんだっけ、あの棒・・・」ムムム

アルミン「あ! そうだ、スポーク!!! 『スポーク』がないよね」

アニ「すぽーく・・・」

アルミン「ほら、タイヤの円の中にある支柱だよ、強度をあげるための!」


 スポーク。耐久性を高めるという意味で、タイヤに欠かせない部位だ。

 自転車のスポークは、オーソドックスなワイヤースポークが有名だ。

 そしてその部位のほとんどが根こそぎ奪われている。そう、何十本も。


アニ「細いけど、金属製のワイヤー。こいつが無くなってるってことは・・・」

アルミン「うん。おそらく先輩を貫いたのは――」


 >言弾『スポークのないタイヤ』を入手
 

アニ「――この部屋で調べられることはこれくらい?」

コニー「ああ・・・俺、<東塔>がどうなったか、いったん見てくるよ」スタスタ

アニ「・・・じゃあ、私はこっちに残ろうかな。リヴァイ先輩を看とくよ」

アルミン「いいの? きみは結構、あちこち調べて回る性分だろう?」

アニ「・・・コニーがやる気出してるから。誰かがここは見張らないとね」

アルミン「わかったよ・・・」

アニ「まあ、こんな頑丈なケースの中にいる先輩に、誰が何をするってわけでもないけどさ」

アルミン「そんなことないさ、アニ」


 僕は、常々、ときおり暗い表情をする彼女に、励ます方法は無いかと思っていた。


アルミン「ハンジぐるみがどうやるのかは、僕みたいな凡人にはおよそ見当がつかないけれど、

     でも、きっと彼は目覚めてくれると思うんだ」


 というより、目覚めてくれないと困る。


アルミン「きみが見守ってくれていてくれれば、それは少なからず先輩の後押しになるよ」

アニ「わかった・・・じゃあ、私がこの場に残るから、捜査、あんたも頑張ってね」

アルミン「ああ! 僕たちを、この閉じられた世界から解放するためなら、僕は手を抜かないよ」

アニ「・・・そう。ねえ、アルミン」

アルミン「うん?」キョトン

アニ「あんたは・・・何か、『思い出した』りした?」

アルミン(・・・あんた『は』?)

アルミン「どういうことかな」

アニ「・・・ううん。なんでもないさ。引き留めてゴメン、行きなよ。時間も無いしね」

アルミン「う・・・うん。じゃあね」ノシ


 僕はアニに急かされるようにして、事件現場を立ち去った。

 僕は体力が無いから、螺旋階段を上る足取りは緩慢だった。それでも動けはするから不思議だ。


アルミン「・・・・・・・・・・・・・・」スタスタ



 ――<東塔>2階 連絡橋前


コニー「――ジャンとサシャが頑張ってるみたいだけど、

    もうちょっとだけ、瓦礫の撤去に時間が掛かるってさ」

アルミン「ハンジぐるみの手は借りられないの?」

コニー「一応、ぬいぐるみは手伝ってくれてるけど、あいつも忙しいらしいからな。

    いつもみたいな、トンデモ能力とかは使ってくれねぇんだとさ」

アルミン「そう・・・。おーい、ハンジぐるみ~」


『・・・はい・・・?』ゲッソリ


コニー「なんか痩せたな。みりょく的なぽちゃ腹が無くなってるぞ」


『だってね・・・最近の私ときたら、問題児の更正に勤しむがあまり、自身の体調管理が疎かなの』


アルミン「ちょっとは休んだらどうです?」


『アルミンこそ、少しは休んだら・・・? ちょっとクマが出来てるクマ』


コニー「とうとつなキャラチェンジだ」

アルミン「そんな、捜査中に寝るだなんて出来ないよ・・・さて、本題ですけど」


『なんだい? ハァ キミから提案だのを受けるのは何回目かなあ。いやあ、懐かしい』クスクス


アルミン「戯れ言は受け流していきますね。今回、捜査時間はどれくらい割り当てられますか」


『んー。特に決めてはいないけど。毎度の事ながら、私の気分次第っつうか』


アルミン「連絡橋が使えるようになるまで時間がかかる。僕は<西塔>も捜査したい。

     当然、アクシデントに伴うロスタイムは、『たっぷり』考慮してもらえますよね」


『・・・ええ。それじゃ面白くないじゃん・・・』


アルミン「いいえ。当然の権利です。僕たちは、このアクシデントの被害者なんだから。

     考慮していただいたうえで、僕たちも全力で捜査させてもらいますよ」

コニー「まあな。ジャンたちは捜査どころじゃないし。今回はたくさん時間がほしいな」


『・・・はは。アルミン、仕方ないなあ。じゃあ捜査はいったんストップ。

 連絡橋が通ったら、そこから、カウントダウンを再開しよう』


アルミン「ありがとうございます」


 これで、時間の確保は出来た。時間は重要だよね。


アルミン「・・・残された時間で、全力を尽くさないとね」

コニー「ん? ああ、そうだな」ニコ


 その後、結局、連絡橋を人が通れるようになるまで、30分近くかかってしまった。

 僕は、開通後、真っ先に4階の『デッドエンドルーム』へ向かった。

 不気味な扉の前で、一瞬だけ立ちすくむ。


『・・・来たか。いらっしゃい、アルミン』


アルミン「やっぱり・・・ここは調べとかなくちゃね――・・・」 





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以上でアルミン視点の捜査パートおわりです。
また明日、続きをあげます。




 AM 8:12 <西塔>3階、サシャの部屋



アルミン『――も~。エレン、いつまで、ふてくされてるの』

エレン『べつに・・・』プン

アルミン『ミカサはあした、ウォール・シーナにいっちゃうんだよ。

     いじはってないで、ちゃんとあいさつに行こうよ』

エレン『・・・・・・』ムス

アルミン『あーあ。ミカサさびしがるだろうなあ~』チラ

エレン『しらねえ、あんなやつ・・・おれにだまって、シーナに行くなんて』

アルミン『ほんとは寂しいんでしょ、かずすくない、ともだちが減るから』

エレン『は!? いやいや、あいつはともだちじゃねえし』

アルミン『家族みたいなもんなんでしょ、知ってるよ』

エレン『っ~~~! ・・・だってさ、急にアイドルになるなんて言い出して・・・』

アルミン『ぼくのおじいちゃんが言ってたけど、ミカサは上昇志向がつよいんだって』

エレン『じょうしょう・・・じょう?』キョトン

アルミン『昔は消極てきだったのに、きっかけがあったのか、変わったねって』

エレン『?? ? おまえのじいちゃん、難しいこというな』

アルミン『おうえんしてあげようよ、ミカサががんばるって、じぶんから言ったんだから』

エレン『・・・そりゃ、おうえんしたいけど・・・いなくなるのは』ゴニョゴニョ

アルミン『いやなんだ』

エレン『う・・・いや、かな? ちょっと』

アルミン『やっぱりね。ほら、ミカサ、ぼくの言ったとおりだ』

エレン『!!?』

ミカサ『・・・えれん・・・』スッ

エレン『おまっ! いつから!!?』ギャー

アルミン『はじめからだよ、エレンはどんくさいなあ』クスクス

エレン『おまえが言うな!!!』

ミカサ『あのね。エレン。わたし、ここからずっと、いなくなるわけじゃない。

    わたしが、これから、がんばるばしょは、ここからとてもはなれてる』

エレン『・・・・・・』フイッ

ミカサ『でも。わたしの、帰るばしょは、エレンと、アルミンと・・・

    みんながいる、このばしょ、だから。だから・・・まっていて、ほしい』

エレン『・・・勝手にすれば』

ミカサ『・・・!』ガーン

エレン『しょうがねえから、まっててやるよ。ほんと、しょうがねぇなあ・・・』

ミカサ『・・・!』パアァァ

アルミン『ミカサをまってるあいだ、ぼくらもひまだから、なにかがんばる?』

エレン『えー。あ、五軒先のデブのクソがき、あいつぶっ倒そうぜ。こんどこそ』

アルミン『ちょ、あのひとはいちおう年上でしょ・・・(クソがきはどっちだよ)

     というか、ミカサがいないと、ぼくたちだけじゃ返りうちにあうからね』

エレン『じゃ、なにすんの』

アルミン『そうだなあ。ぼくはね、壁の外に、きょうみがあるんだ』

ミカサ『シガンシナの外がわ?』

アルミン『そうそう。がいこくとせんそうしてるから、子どもは外に出られないだろう』

エレン『かべのうちがわは、あんぜんだからな。・・・おれも、外のせかいは見たい。

    たいくつだもんな、まいにち、まいにち』

アルミン『ぼくのゆめは、写真やテレビで見た、外の世界を、じぶんの足であるくこと』

ミカサ『そうなんだ・・・アルミン、かっこいいね』

アルミン『ぼくだけじゃない、エレンも、あるいてみたいと思わない?』

エレン『みたい!! それに、アルミンはひょろいから、まもってやらねえとな』

ミカサ『じゃあ、外のあらそいが、おわらなくちゃいけないんだね』

アルミン『うん、おっきなゆめだよ! でも、考えるとわくわくするだろ!』

エレン『だな!!!』
ミカサ『うん・・・!』

アルミン『だから・・・ねえエレン、ミカサ。いつか壁の外を、たんけんしよう』

エレン『もちろん! ぜったいだ、約束だぞ』

ミカサ『ふふ。でも本当にかないそう。ふたりなら、きっと』

エレン『なに言ってんだ、ミカサ。さんにんだろ!!!』


 ――俺は、これまで夢らしい夢が無かった。誰かの夢が、俺の夢だったから。



 -------------------------
      ------------------
         -------


エレン「・・・・・・」グス

エレン「ミカサ・・・・っ・・・アルミン・・・っ!!!」

ジャン「お、起きたか」

エレン「・・・?」グス

ジャン「きたねぇ面してんなあ・・・顔洗えよ」

エレン(・・・あれ、おれ・・・ここ・・・?)

ジャン「・・・いまは、『学級裁判』に備えた捜査中だ。起きたんなら、とっとと出るぞ」

エレン「っあ、悪ィ!!! いま何時だ!?」

ジャン「外の時計で8時過ぎだったな。そのまま起きないかと思ったぜ、お前」

エレン「・・・・・・」


 思い出した。ああ、思い出せたんだ。

 アルミンは、俺とミカサのたいせつな、

 たいせつな幼なじみなんだってことを。


エレン「っなんで、いま・・・? ていうか、俺はなんで忘れて・・・っ」ギリッ

ジャン「おい、お前大丈夫か?」

エレン「!!! ああ・・・大丈夫だ・・・」

エレン(ああもう、しっかりしろ俺!! 思い出せた、大丈夫、それはプラスになることだ。

    だからといって、この状況は変わらない。休ませてもらった俺がすべきことは)


 信じられないけれど、リヴァイさんが、自室で意識不明の重体になった。

 起こってしまった『事件』について捜査して、『クロ』を見つけ出すことだ・・・!

 俺はすぐさま、サシャの部屋にある洗面台で顔を洗う。ジャンはその間ソファで寛いでいた。


エレン(つうか、こいつ起こしに来ただけのくせに、なんでまだいるんだ・・・?)

ジャン「・・・ちょっと、お前と打ち合わせしときたいことがある」

エレン「は?」

ジャン「この場にいない、ミカサのことだ」

エレン「あ、ああ・・・」

ジャン「俺たちがおおやけに聴かされているのは。ミカサが『卒業』した、この1点のみだ」

エレン「そうだな」

ジャン「そして、それとは別に、俺たち2人が知っている情報がある。そうだな?」

エレン「・・・ミカサが、『ゲーム』に挑戦したであろう、ってことだ」

エレン(たぶん、いや絶対、挑戦したんだろうけど・・・)


 そういえば、俺は『ロシアン・ルーレット』に挑戦できていない。

 ミカサは、あれすら、やすやすとクリアしていったのだろうか。


エレン(まさか死んだなんてことは・・・ねえよな?)


 一瞬、余計なことを思い浮かべたあとに、すぐに胸中で首を振った。


ジャン「・・・あれは、みんなに言うべきか、言わないべきかってことだ」

エレン「・・・・・・・・・」


 『事件』の手がかりになるべきなら、言うべきなのだろう。だけど。


エレン「わからない。ハンジの、『卒業した人間であってもオシオキをする』って言葉、

    アレが胸につっかえて釈然としねえんだ。あいつの言葉に含みがあると思うのは、

    俺の深読みのしすぎなんだろうか、ってな・・・」

ジャン「ああそうだな、俺もそれは思ったな。わざわざ言ってきやがって、あいつ」

エレン「俺はミカサを信じてる」

ジャン「そりゃ俺もだ。まあ、俺はミカサと最後のやり取りなんざしてねぇし、

    この情報を『学級裁判』で使うかどうかは、お前に任せようと思ってな」

エレン「・・・わかった」

ジャン「使わずに解決するなら、それでいいんだから。ということで、そんだけな」

エレン「そういえば『連絡橋』は?」

ジャン「ちょっと前になおったからな。アルミン達もこっちに来てたぜ」

エレン「よかった・・・悪かったな。色々任せて」

ジャン「そういうのはいらねぇ。お前はこっから休まず働け。じゃあな」スタスタ

エレン「・・・チッ 相変わらず・・・まあいいや」


 食べかけのパンを胃へ流し込むように食べ、部屋を出、直ったという扉を見に行った。

 そこには、アニの部屋の脇に積み上げられた瓦礫をがさごそと漁るサシャの姿があった。


エレン「・・・これが。なおった・・・?」


 正直なおっていない。人がひとり通れるように空間が空けられているだけだ。


サシャ「おはようございます。まあ文句言わないでください、撤去作業は大変なんです」

エレン「いや、別にせめてねえよ、ありがたいんだけどさ・・・。

    これ、あっち側(東塔)はちゃんと通れるのか?」

サシャ「連絡橋のシステムがぶっ壊れているので、なんとか学園長に奮闘してもらって、

    東側のロックを解除して貰ったんです。けっこう大変だったらしいですけど、

    こっちのが大変な思いしてますから、知ったこっちゃないですよねー」

エレン「まーな。」キッパリ

サシャ「んー・・・爆発の原因ってなんだったんでしょうね」ガサゴソ

エレン「ああ。爆発の発生源はここで間違いないんだよな」

サシャ「うん。間違いないと思いますよ。幸い、限定的な範囲で、誰も被害は被ってないです」

エレン「それは、ほんと良かったな。でも、お陰で互いの塔に行き来できないのは困った」

サシャ「そうですね、お互いの事情も確認しづらいですし、時間も取られちゃいましたしね」

エレン(連絡橋を堺に、俺たちは分断された。それがココでの被害か・・・)


 >言弾『連絡橋の分断』入手


サシャ「まあ、リヴァイ先輩がどうして仮死状態? なのかは判りませんけど」

エレン「・・・えっと、」


 俺は、もういちどタブレット端末の『ハンジさんファイル4』を見直した。

 リヴァイさんは自室で倒れていた。確かに、規模からして爆発とは関係ないはずだ。


エレン(だとして・・・この爆発は『事件』と切り離すべきなのか・・・)

エレン「・・・いや違う。『事件』と関係ないなら、ハンジから何らかの説明があるはずだ。

    リヴァイさんに直接は関係ないとしても『事件』には関わりがあるはず」

エレン(それが人の手による物か、偶然の事故かは置いておいて、だ・・・)

サシャ「じゃあ、爆発の原因を捜してる私は、間違いじゃないって事ですよね。よかった」

エレン「爆発の原因か・・・まあ、爆発してたら、素人には判らないよな」

サシャ「事故だとしてもこの規模で救われましたねえ。

    連絡橋のドア付近が崩れただけですし、近づいたらさすがに危なかったですけど」

エレン「ピンポイントで、ドア付近だけ・・・この、特別、物もない、この場所で?」


 それは・・・あんまりに出来過ぎってものじゃないだろうか。


ジャン「――ま~だ漁ってんのか、芋女」スタスタ


 階下からジャンがやって来た。一度自身の<貧民部屋>に戻っていたらしい。


ジャン「だから、残骸なんてそうそう見つからねえって。諦めろってん・・・だ・・・」ポカン

サシャ「やです。確かに、出てくるのは筒やら、よくわからないコードやらばっかりですが」


 サシャが、黒こげの筒状のナニカを持ち上げ、興味深そうに中をのぞき込んでいる。


ジャン「そう言ってお前、先輩の死た――は言い過ぎか、先輩を見たくねえだけだろ」

サシャ「うー・・・」

ジャン「伝統的マタギの娘のくせに・・・」

エレン「そう虐めてやんなよ、誰だって嫌だろう。画像だけで腹いっぱいだって」

ジャン「一応、検証してほしいんだがな。お前は眼も耳も良いし・・・。

    あー・・・ま、仕方ねえか・・・。詫びと言っちゃなんだが、サシャ」

サシャ「なんです・・・?」

ジャン「ここの爆発・・・思うにマジで爆薬を使ったんじゃねえか」

サシャ「え!?」
エレン「え!?」

ジャン「昔、マルコから聞いた話で・・・。俺は詳しくねえけど、

    爆薬って量を調節するだけなら、ドア破壊だけにも使えるらしい」

エレン「・・・それで・・・?」

ジャン「確か・・・そうだ。破壊工作で使われる、なんか粘土みたいな爆薬があるんだよ」

エレン「ねんど? 爆薬って粘土なのか?」

ジャン「どこにでも設置できて、粘土みたいに、ぐにぐに曲がるんだよ。

    で、威力の調節もしやすくて、起爆パターンもいっぱいある便利な爆薬があって・・・」

???「――それって、プラスチック爆薬のこと?」

エレン「あ・・・あ・・・アルミン!!!」パアアァァ


 窮屈そうな連絡橋の出入り口から出てきたのは、

 俺のよく知る・・・俺がずっと前から知っている奴だった。


アルミン「あれ? エレン、起きたんだ。顔色も悪くないね、よかっ――」

エレン「アルミン、無事なんだな? 無事なんだな!?」


 思い返せば、ずいぶん気色悪いことをしたもんだとは思う。

 でも俺は、一回り小さいアルミンの、華奢な肩をポンポン触り、なぜか熱を測る仕草をし、

 困惑したアルミンなんてお構いなしに、最後には軽く抱擁をしていた。


アルミン「は? ・・・え、は!? エレン? あの、どういう?」カチンコチン

エレン「・・・・・・っ」ジワ

アルミン「え、え、なんか泣きそうになってない?」アセアセ

サシャ「? ?? やたら大げさな再会ですね。映画化でも狙ってるんですか?」キョトン

ジャン「つ う か マ ジ で 気 色 悪 い ん だ が 。お前ら失せろ!!!」イライライライラ

アルミン「ええっ、なんで僕も!!?」ガーン

エレン「あ、ごめんつい・・・ パッ 何でもねえから・・・なあ、怪我してねえよな」

アルミン「え? あ、うん・・・爆発は免れてるし、無事だよ?」ニコ

エレン「じゃあ。じゃあ、いいんだ・・・」

アルミン「? う、うん」

エレン(俺が思い出したことは、この『事件』を解決してから・・・話すんだ)

ジャン「・・・・・・・・・」

ジャン「本題に戻らせて貰うが。思い出したぜ。アルミンの言うとおり、

    俺が話してるのは、俗に言う『プラスチック爆薬』って奴のことだ」

アルミン「可塑性があって、工兵には欠かせないって言うよね。まあ僕は本の知識だけど」

ジャン「そう。メインの爆薬は安全に使うために、ちょっとやそっとじゃ爆発しねえから、

    強いエネルギー・・・振動、圧力、衝撃だとかを与える必要がある。

    メインの爆薬が炸裂する『切っ掛け』として必要なのが、『雷管』ってやつだな」

サシャ「ははっ、小難しい単語を並べちゃってもー、ほんと冗談はよしこちゃんです☆」クスッ

ジャン「こちとらニワカだしな。お前レベルでも判る解説をするつもりなんざねぇよ?」イラ

エレン「ソレはほっとけ」

ジャン「『雷管』にも爆薬があって、こいつはサブだ。まずサブを点火して起爆させる。

    で、それがメインに衝撃として伝わると初めてドカンと爆発する、らしい」

アルミン「『雷管』はメインより爆発しやすい造りになっているけど、それが爆発しないと、

     鈍感なメインの起爆に必要なエネルギーが、発生しないってことだね」

ジャン「ん。そんでさらに、雷管が決められた条件下だけで爆発するようにだとか、

    いわゆる安全装置を取り付けたものが『信管』だったっけ。雷管の完成形だ」

アルミン「安全装置としての信管と、粘土こねこねのお陰で微調整ができるガワ。

     これらのお陰で、バリエーションが豊富で安全な爆破ができるってことだね」

エレン「なるほど・・・」

ジャン「次に。俺が、今回の爆発がプラスチック爆薬かと思ったのにはワケがある」


 ジャンは一息ついて続けた。


ジャン「ひとつは、めちゃくちゃ限定的な範囲での爆発だったってこと。

    部屋側ではなく殺風景な連絡橋側の、しかもドアの周辺だけだ。不自然だろ」

エレン(それは俺も思ったな・・・)

ジャン「もうひとつは、爆発が起こった時刻。

    判る奴には判ると思うけど、朝6時の時報がなったとたん爆発した。不自然だろ」


 アルミンが頷く。ちなみにサシャは話に参加せず、ガラクタで手遊びに勤しんでいる。


ジャン「そして、最後。そこの芋女が手に持ってるアレ。メーカー名の刻印がある。

    俺がさっき言った『信管』の残骸かと思う。信管といっても色々あるけど、

    ありゃマルコの軍で配給されてる、一般公開もしている軍備だ。」


 サシャの手元には、焦げてかろうじて残っている、筒状の何かが。幅は握り拳くらいだ。


サシャ「・・・・・・」ソッ


 サシャは、話半分でしか聴いていなかった筈だけど、そっと、ソレを地面に置いた。


アルミン「あー・・・なるほど。ドアの内部機構にあんなものがあるとは思えないし。

     大きさとしても考えられる。でも、そうそう残るものかな?」

ジャン「普通は木っ端みじんだろう。だから俺が言ってるのは、根拠といっても薄いモンだ」

エレン「・・・そもそも、じゃあ爆薬はどうやって手に入れたって話になるしな」

アルミン「リヴァイ先輩くらいじゃないかな。扱えるのは。

     それにしても、ジャン。爆薬の知識はやっぱりマルコ先生から?」

ジャン「・・・俺が言えるのは、軍人とFPSゲームはすんなってことかな・・・」

サシャ「ジャンの眼がすわってます・・・」

エレン(けど・・・ジャンの話は、一考に値するな)


 >言弾『プラスチック爆薬?』を入手


アルミン「・・・あ、エレン。ねえ、コニーから聴いたんだけど。

     今朝、爆発が起こるまで『ゲーム』をしていたの?」

エレン「・・・あ、ああ。ごめんな、勝手に挑戦して・・・」

アルミン「!! もしかして、クリアしたの!?」ビックリ

エレン「まあ、な・・・はは」

サシャ「マジですかっ」ビックリ

アルミン「じゃあ、エレンがクリアした人第一号なんだね。中はどんな感じだった?」

エレン(一号は・・・違うと思うけど)

ジャン「・・・・・・・」

エレン「『ゲーム』を連想させるオブジェクトはあった・・・。拷問器具とか」

ジャン「え」

エレン「でもあれは飾りだし。たぶん取り外せないと思う。それくらいかな。変わったところは」


 あとは、あの意味不明なゲームのための装置しかない部屋だから。


アルミン「ふむふむ・・・そうか。僕も――」

エレン「やらなくていい・・・あんなクソみたいなアトラクション・・・」

アルミン「あ、うん」タジタジ

ジャン「『ゲーム』の内容って結局なんだったんだ?」

エレン「・・・ホラーゲームだったよ、間違いなく」

サシャ「ああ、そういう系・・・うわああ・・・ぜったいいやです・・・」ガクブル

アルミン「んー。僕はもう一度<西塔>全体をを調べておこうかな」

エレン「俺は・・・いったんリヴァイさんのところに行く」

サシャ「それにしても、今回は捜査時間がなっがいですね・・・」

アルミン「当然だよ」ニコ

エレン「?」

アルミン「あ、そうだ。エレン。キミは1番現場の状況を知らないから、これを贈っておくよ」


 アルミンは手元のタブレット端末を操作した。すると、数秒後に俺のタブレットが更新される。


エレン「これ・・・」

アルミン「きみは『学級裁判』で上手に発言できるからね。ぜひ役立ててよ」

エレン「あ・・・ああ・・・」チラ

アルミン「・・・・・・・・」

アルミン「ねえ、エレン」ソッ


 アルミンは困ったような顔で、俺の肩に少しだけ触れた。


エレン「なんだ」

アルミン「・・・きみは何事にも一生懸命だよ。だけど、無茶をし過ぎる嫌いがある」

エレン「えっ」ギク

アルミン「僕ときみは出会って『日が浅い』けれど・・・これだけは言いたいんだ。

     くれぐれも『無鉄砲にならないでほしい』。お願いだよ」

エレン「っあ、アルミン!!!」


 制止する俺に手を振って、アルミンはジャンの部屋がある階下へ消えていった。


エレン「・・・・・・・」


 >アルミンの集めた『言弾』を全て入手しました。


ジャン「さてと・・・俺も本格的に東を調べるかなあ・・・」


 アルミンが残した捜査記録をざっとみる。どういうことなんだと、首をかしげるほかない。

 とにかく・・・残された時間で、俺は続きを記録していくしかないのだが。


エレン「やらなきゃ」ボソ

サシャ「わ、私は部屋で休ませてもらいたいでーす」ヘラヘラ

ジャン「お前はいつの捜査でも消極的だな。らしいっちゃらしいけど」ハァ


 ――ミカサ。動かなきゃ。


エレン(アルミンは、ここの爆発のことはまだ詳しく捜査していないらしい)


 仮に、ジャンの言う、ここの爆発には爆薬を用いた説を肯定してみよう。


エレン(まず、この連絡橋の性質をおさらいしておこう)


 ハンジぐるみが、きっと思いつきで取り付けた連絡橋の扉。こいつには面倒な枷がある。


エレン(東と西。2つの扉は片方のみ開く。開いた扉は反対側のセンサーで人体が反応するか、

    あるいは一度くぐって、元の<塔>に戻らないと完全に閉まらない・・・。)


 単純に考えて、互いの塔から同時に橋を渡ることは出来ない、ということだ。


エレン(普通の扉じゃ無いことは確かだ。メモはとっておこう)


 >言弾『連絡橋の性質』を入手


エレン(爆発が故意だったとして、動機は何だ。これも単純に考える。

    ――このしち面倒くさい橋の通行を遮る。俺たちに行動制限を加えたかった)


 そう考えるのが、妥当では無いか。


エレン(馬面も、きっとそう思ってるからああやって発言した)チラ

ジャン「おい芋女、お前、顔がすすけてんぞ」

サシャ「え、わ!」フキフキゴシゴシ

エレン(・・・じゃあ、お手製でも無い、既製品の爆薬かもしれないなら、どこから入手した)


 俺たちが利用してる、<富豪部屋>、<中流部屋>、<貧民部屋>。

 それから、<東塔>4階の、はじまりの花園。

 ここにはそんな代物は置かれていなかった。それは初日に確認済みだ。


エレン(唯一、アトラクションの外にいるハンジが使ったか、手渡したか、ということになる)

 
 とはいえ、せっかく作った仕掛けを、自分でわざわざぶっ壊す動機が、ハンジにあるのか。

 ハンジ以外の者が使ったとして、入手方法は、こっそり手渡されるほかに、ひとつ考えられる。


エレン(・・・俺はまだ知り得ていない。『ゲーム』のおまけを)


 あの部屋の中は、俺たち全員が確認できていない、未知の領域なのだ。


エレン「・・・いかなきゃな、『デッドエンドルーム』へ・・・」ポツリ


 >言弾『デッドエンドルーム』を入手


ジャン「それにしても・・・んー・・・」

サシャ「どうしたんです?」

ジャン「いやあ。さっき一応、俺の部屋を調べてたんだが」

サシャ「あ、そういえば! ジャンったら、なんでミカサの部屋を『俺の部屋』だなんて。

    婿気取りですかめちゃくちゃ気持ち悪いんですけど近寄らないでください!」

ジャン「さすがの俺もそこまで自惚れてねーわ!!!」グスッ

エレン(そういや、<西塔>の事件前後の行動も確認しねえとな)


 ジャンは、ミカサと夜中に部屋を交換したことを話している。


ジャン「俺からミカサの部屋を訪ねて、説得して交換して貰ったんだよ。

    いくらあいつが丈夫だからって、たまにはまともなベッドで寝ないとってな」

サシャ「ミカリンは、そこのところ頑固そうなのに、よく聞き入れてくれましたね」ホエー

ジャン「まあな・・・あ、そういや。あいつあの時、変なコト言ってたな――」


 ミカサ『どう転がるか判らないけど、できる限りの情報を蓄えてもらうには、いいかもしれない』

 ジャン『・・・は?』

 ミカサ『・・・・・・いいや、わかった。じゃあ、しよう。部屋の交換』

 ジャン『???』


ジャン「――ってさ」

エレン(どういうことだ、また何か思惑があって交換に応じたってのか、ミカサ・・・)

エレン「お前、ミカサと部屋を交換したってのは・・・具体的に何時だ」

ジャン「あー・・・ええ・・・ああ、夜中0時前だな。部屋交換してから時報を聴いた」


 >言弾『部屋の交換』を入手


エレン「サシャはその時なにしてた」

サシャ「体力温存を目的として惰眠をむさぼってましたね・・・」

ジャン「大丈夫だ。そういうのは惰眠って言わねえから」

エレン「俺もまあ、寝てたよ。日付が変わってから時間が経ってから、

    ミカサが部屋を訪ねてきて。・・・・・・・・色々話をした」

サシャ「あ、あ、逢い引き?//」キャー

ジャン「・・・・・・ブラウスさん、ちょっと黙ってような。」

エレン「その時、ミカサは『卒業』するって話をしたもんだから、ちょっと喧嘩になった。

    ミカサはその後で。多分午前3時前後かな、『卒業』したんだと思う」

サシャ「3時くらいは寝てました。やっぱりぐっすりと」

ジャン「俺は正直寝られなかったな。なんつうか。ずいぶんうるさくてな・・・」

エレン「うるさかった?」

ジャン「いや、騒がしいってほどでもねえけど。<貧民部屋>の床下って、

    造りが悪いのか、空気は流れてくるわ、ときおり変な音は響いてくるわ、

    神経質なつもりはねえけど、気になって眠れなかったんだよ」


 よくもまあ、リヴァイとミカサは堪えたもんだ、なんてジャンは呟く。


エレン「変な音?」

ジャン「ああ。他の人間の足音とかが、響く感じだな。あとは、時々ゴォンゴォンって」

エレン「なるほど。床下の音ね・・・」


 >言弾『ジャンの証言』を入手


エレン「他に気づいたことは?」

ジャン「・・・ねえな」

サシャ「そういえば、みなさん爆発の時って何をしてたんです?」

ジャン「俺は、少し早く目覚めて、軽い体操をしてたな。

    次の時報は6時だろうから、その音がきこえたら起き出そうって思ってた。

    で、鳩時計の音を聞いたから部屋の扉を開けた瞬間――ドカン。だ」

エレン「俺は――さっきも言ったけど――『ゲーム』に挑戦してた。

    ・・・ハンジぐるみから色々説明を受けていた時に爆発音をきいて、

    中断してここまで下の階へ駆け下りた。すでにジャンがいたよな?」

すみません、また明日あげます。

ジャン「ああ、そうだ」

サシャ「私は、寝てましたね。いやあ、ノンレム睡眠? ってやつですねー」

エレン「むしろ尊敬の念すら覚えるわ」

サシャ「エレンが(近所のくそガキみたいに)ピンポンしまくってきて、

    寝覚めは悪いんですけどー。こんな状況だから仕方ないですね」

エレン「いや、悪かったけど。お前が無事だったから俺は満足した」

サシャ「そうですか、なら良しっ」

ジャン「本題に戻るぞ。爆発により連絡橋は通行不可になっていた。

    サシャと合流した時点で、あっち側にはコニーと、アルミン、アニ。

    この3人はいるって情報を掴んだよな」

エレン「俺たちはしばらく学園長にも放置され、情報を掴めないまま座って待機した・・・

    今思えば、学園長は『事件発生アナウンス』を流す機会を伺ってたんだ・・・」

サシャ「アナウンスが流れたのは何時ぐらいでしたっけ」

ジャン「午前6時34分。確認したから間違いねえ」

エレン「俺は直後に、気分が悪くなったから。休ませて貰ったんだよな」

エレン(・・・・・・)


 原因はわかってる。ふと、『ゲーム』から現実に戻って来たはずなのに、

 はずなのに、現実の方に異質さを感じて、どっと疲れてしまったんだ。


エレン「なんでなんだろうな・・・ル・・・」ポツリ

サシャ「アルミンがどうかしたんですか?」

エレン「え・・・ああ。独り言(ほんと耳が良いなこいつ・・・)」

ジャン「俺とサシャは1時間以上、ひたすら連絡橋の修復作業。

    その間、捜査らしい捜査は<東塔>の連中に任せた・・・」

エレン「俺が目を覚ましたのは8時より後だった」

ジャン「ああ、橋も8時を目処に通れるようになった。俺たちはそこから捜査を開始。

    現在・・・午前8時44分だな」

サシャ「おっけー。流れは確認できました。こんなもんでしょう」


 >言弾『午前6時頃の西塔』を入手


 >言弾『午前6時頃の西塔』を入手


ジャン「・・・よし。俺は・・・アルミンにもうちょい話でも訊こうかな」

サシャ「私は・・・リヴァイ先輩のそばにいようかなー」

エレン「ああ。いいんじゃねえの。じゃあ一緒に行くか」


 そしてジャンと別れた。


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 俺とサシャは不自由極まりない、壊れた連絡橋を渡って東塔へ移動した。

 そこでは、まずコニーとばったり出会い、随分と心配されてしまった。

 『ゲーム』は無事クリアしたこと、それからお前の方が顔色が悪いぞってことを教えた。


コニー「よかった。怖いめに遭わなかったか・・・?」

エレン「大丈夫だって、ちょっぴり悪趣味テイストだったけど・・・戻って来られたしな」

コニー「・・・訊かない方が、『かしこい』のか?」

コニー「・・・うん、わかった」

コニー「でも。それじゃあ、案外、時間の掛からないモンだったんだな、『ゲーム』って」

エレン「ん?」キョトン

コニー「いや。だって、『ゲーム』のプレイ時間はせいぜい1時間ってトコだよな?

    爆発の前に俺たちがここで話したのって朝5時くらいだったと思うし・・・」

エレン「そういやそうだな・・・」

エレン(いいや、それっておかしくねえか・・・?

    俺は何回、あの『ゲーム』でミカサを助けに向かったってんだ。

    10回、20回どころじゃない・・・おかしい。絶対おかしい)

サシャ「まーた考え込んじゃって」

コニー「俺たちよりは頭良いからな。邪魔しちゃ悪いだろ」

エレン(あそこはバーチャルリアリティだ・・・現実との境界が、霞む、ような)


 体感時間が現実より変化して、そしてソレは著しく加速しているのだとしたら?


エレン(極端な話・・・短い時間でも多くの情報を得ることが出来る空間ってわけだ)

サシャ「エレーン」
コニー「エレーン」


 >言弾『ゲームの時間』を入手


エレン「・・・・・・・・・」

サシャ「エレンってば、最近むっつり考え込むことが多くなりましたね」ヒソ

コニー「せやな」ヒソヒソ


エレン「コニー。お前はいつからこの場にいたんだ?」

コニー「え? えっと・・・朝の・・・4時は回ってたかな。

    その時はアニも運動してなかったし、西塔で人の出入りはなかったぜ」

エレン(俺がミカサに気絶させられたのは3時よりずっと前・・・ってことは、)

エレン「やっぱり。ミカサは3時頃に『卒業』したと考えられるよな。

    それ以降だと、ちょくちょく起きてるアニやコニーが気づくはずだ」

サシャ「そうなんですか?」

コニー「ああ。確かに。ミカサが『卒業』したのって、そのくらいなんだろうな」

サシャ「コニー。他に見かけた人は?」

コニー「明け方、5時を回ったくらいにエレンと会って話して、6時前にアニとすれ違ったな。

    あとは。んー・・・正直、俺はあんまり周りが見えてなかったし・・・

    ! そうだ。何回かへんな音を聞いたな。ごうんごうんって」

エレン「!! ど、どんな感じだよ!?」

コニー「えっと。リフトとかが動くような音。ほんの少しだけきこえた。気がする」

サシャ「確証はないんですか?」

コニー「だって。こんなハイテクな建物なら、そういった機械音は何でもないように思えるぜ。

    それに、腹減って頭がいつもよりバカだったし・・・アテにしたくねえ」

サシャ「いいんですよ。コニーの頭は頼りにしてません、貴方の耳だからいいんですよ!」キラッ

コニー「ありがと。でも、なんでお前に言われたら腹立つんだろうな?」ニコニコ

エレン「いつ頃きいた?」

コニー「エレンと会う前だから・・・やっぱり4時過ぎかな。あ、エレンと別れた後も何回か」


 >言弾『機械音』を入手


エレン「ほかには?」

コニー「えーっと・・・あとはなあ・・・」

サシャ「が、がんばって」

コニー「いやあ・・・ちょっとひねり出せねえな。また思い出したら言うよ」

エレン「わかった」

コニー「あ、あぶねえ。忘れるとこだったっ」

エレン「どうした?」

コニー「さっき。ハンジが、もうそろそろ飽きてきたって言いに来た!!」

エレン「捜査時間もそう長くは無いか。今回はたっぷり貰ってるしな」

コニー「お前、先輩の部屋以外で他に調べたいところあるの?」

エレン(『デッドエンドルーム』)

エレン「<西塔>で後回しにしてる場所があるな」

コニー「じゃあ、そっち行った方が良いかも。俺、上の『花園』を調べといたぜ」


 コニーが、タブレットに何かを送信してきた。


エレン「花畑の写真?」

コニー「そう。ほら、よく見ろよ。なんか不自然に踏みつけられたような跡がある」

エレン「ほんとだ」


 足跡とかがちょくちょく残ることはあるけれど、これは壁に面した一部だけ、

 真四角の跡がついてしまっている。花は踏みつけられたとしても、元に戻ろうとするから、

 このような鮮明な跡であれば、出来たのはごく最近、ということになる。


エレン「・・・大きさは、縦横1メートルもないな。これはどの当たりで?」

コニー「入口から見て、右手の一番奥。一応壁になにかないか調べて見たけど、

    こっちからは、そういうのが見つかんなかったよ・・・上で怪しいのはそんだけ」

エレン「そっか。ありがとな」


 >言弾『踏まれた花』を入手




 <西塔>へ移動すると言うコニーに挨拶をし、俺たちはついに現場へ向かった。


エレン「――リヴァイさん!!!」


 ――<東塔>1階、『貧民部屋』


エレン「リヴァイさん・・・生きてるのか・・・?」

サシャ「うう・・・血の臭い・・・私、鼻がいいもんでキッツいです・・・」クラァ

アニ「ほら、しっかりしな。・・・生きてるよ。どうやら人工的にね」


 見張りをやっているらしいアニが、座っていた軽トラのタイヤから腰を上げた。

 リヴァイさんは、俺もよく知らないカプセル装置の中に横たわっていた。

 眉間に皺こそ寄っていないけれど、生来の顔つきからか、腑抜けた表情でもない。


アニ「仮 死 状 態 ・・・だから、植物人間って感じなんじゃ?」

エレン「・・・・・・」


 どこか、決意をたたえたような、冷たい寝顔に、俺はゾッとした。


エレン「リヴァイさんは、何を考えてるんだと思う?」

アニ「・・・今は半分死んでる状態だよ。何も考えられないんじゃない」

サシャ「・・・そうでしょうか・・・」

アニ「?」

サシャ「何にも考えてないなんて、ありえないと。勝手にそう思えてしまうんです」

エレン「・・・・・・時間が無い、検証しよう」


 俺は、アルミンの集めた捜査情報をタブレットで確認しつつ、室内を手短に調べた。

 おおむね、アルミンの情報と一致する。しかし、まだ何も見えては来ない。

 ひとつ、アルミンの情報についてサシャが追記したことがあった。


サシャ「この、『ガタガタの床』ですけど」

エレン「・・・なにしてんだ、お前」


 タイヤを調べていた俺が振り向くと、サシャはしゃがんで、耳を床にすりつけていた。


サシャ「・・・・・・」ペロ


 サシャは自分の人差し指をぺろりとひと舐めすると、それを床板同士の隙間部分によせた。


サシャ「風が・・・」

アニ「かぜ?」

サシャ「かすかですが、空気が動いてます」


 俺たちがサシャをまねると、たしかに、湿った指先を小さな風が撫でてゆくのが判った。


エレン「なるほど。床下にはそれなりの空間があるってことだ。血もそこに滴ってる」


 俺はコンコンと床を指で叩いた。


エレン「軽くて、音が響く・・・」

エレン(下には大きな空間があるってことなのか・・・?)


 >言弾『ガタガタの床』の情報が更新されました


エレン「・・・リヴァイさんは、いつ、こういった状態になったんだろう」

アニ「さあね。推定時刻を調べる方法なんて、私たちは持っていないし」

エレン「・・・なあ、アニ。どうせお前、ちょくちょく運動というか徘徊してたんだろ」

アニ「まあね。体力を温存しなきゃとはおもうけど。動かなきゃ精神的にクるもので」

エレン「いつも、どういったルートを通ってた」

アニ「歩くときは、<東塔>と<西塔>の、2・3階を行ったり来たりだね」

サシャ「1階は?」

アニ「1階は造りがボロいだろう。不要な音は立ててないつもりだけど、

   うるさくしたら悪いしね。あまり近寄ってはいないね」

エレン「今日、日付が変わってからお前が部屋を出たのは?」

アニ「午前0時前、それから、午前3時前。あとは、午前6時前」

サシャ「きっちり3時間ごとに運動してるんですか」

アニ「時報を合図に運動を止めるようにしてるから、だいたいその30分前に動いてる」

サシャ「時計もないのによくきっちり動けますね」ホエー

アニ「学園に入る前もやってたからね。習慣になって身体が動くのさ。早起きも継続だよ」

サシャ「ですって、エレン」

アニ「あんたにも言ってんの。時々危ないから」

エレン「・・・人の話し声とかは。まったく耳にしなかったってのか」

アニ「特に――あ、いや」ピコン

アニ「そうだ、3時くらいの時・・・疲れてボーッとしてて、私、

   一度だけ、降りたんだよ。ココ(東塔1階)に」

エレン「本当か」

アニ「うん。正確には螺旋階段で半分くらいくだって、それで、ハッとした。

   そのとき・・・そう、あの時、先輩の声を少しだけ聴いた」

エレン「リヴァイさんの声?」

アニ「そうだ。ここでは就寝時間なんてないし、誰かが起きてても気にも留めてなかった。

   あの時、先輩は少し大きな声で、『誰かと話していた』」

エレン「相手は誰だ?」

アニ「・・・ごめん、そこまでは。誰かと話していたってことは判る」

サシャ「いつものボソボソした喋りじゃ無かったってことですか」

アニ「そう。それだよ。・・・・言い争うって感じではなかったけど、

   独り言じゃない。誰かに語りかける感じだった」

エレン(誰に、)

アニ「それに、生活音も。音は下からだから、先輩の部屋だ」

サシャ「つまり、リヴァイ先輩は少なくとも3時前後は元気だったってことですよね」

アニ「そうだね、あんた冴えてる」


 >言弾『アニの証言』を入手


エレン「・・・俺は次いくよ。サシャは残るんだっけ」

サシャ「はい」


 俺は、一瞬だけ先輩を見た。何が起こっているのかハンジは教えてはくれないだろう。


エレン(ただ、俺は調べることしか出来ないんだ)

エレン「わかった。頼む――」

エレン「・・・?」


 俺はリヴァイ先輩と、タブレットの画像を見比べた。

 裸に剥かれたリヴァイ先輩の傷口のうち、背中に近い脇腹の3カ所についてだ。


エレン(傷口・・・なんだろう。ただ刺しただけにしては)


 傷口の一部が、ふにゃりと、皮膚が少しただれていた。例えればそう。


エレン(火傷のような・・・? いや、でもほんの数カ所だし・・・)


 >言弾『傷口の違和感』を入手


エレン「・・・じゃあな、お前ら・・・」

アニ「えらくあっさり移動するんだね」

エレン「ああ。お前やアルミンの検証を信じるよ。まだ捜査していないところもあるからな」


 俺は、あいさつも手短に、その場を去った。



 ----------------------------



サシャ「――アニ、本当に先輩は大丈夫なんですかね」

アニ「学園長の言い分だと、本当に無事なのか、疑わしいところだろうけど。

   たぶん。大丈夫。先輩って、なかなか、しぶといから」

サシャ「そうですかね・・・まあ、リヴァイ先輩はしぶとそうですけど」

アニ「なにせ人類最強らしいからね、いけるんじゃない?」

サシャ「? ふっ、なんですか、それ。人類最強って。かっこわるいです」クスクス

アニ「・・・いろいろあだ名の多い人っているよね」



 ----------------------------




エレン「・・・・・・っ・・・」ゴクリ


 もちろん、全部、あちこちを捜査して回りたい気持ちはあった。

 けれど、ハンジはそれを許してはくれないだろうし、そうなると、

 残り僅かな時間で俺がするべきことは、最初から決まっていた。



 ――<西塔>4階、『デッドエンドルーム』


『・・・おかえり』


 扉を開け、俺を招き入れたハンジぐるみは、けだるげに体育座りをしていた。


エレン「・・・・・・まだ、『ゲーム』は出来るんだよな」


『だいじょうぶだよ。でも捜査中でしょ、大丈夫? もう時間も無いけど』クス


エレン「捜査の一環だからいいんだ。俺におまけをやらせてくれ」


『いいけど。言っておくけど・・・ガチだからね?』


エレン「ロシアンルーレットだよな。いいぜ・・・判ってる」ギリ


『そんなエレンくんにもまだ、『人の子』としての感覚が残っているのか、

 声はか細く震え、玉のような汗が、思春期らしからぬタマゴ肌を伝うのでした』


エレン「判ってんなら、茶化さずにさっさと出してくれよ!」イライラ


『お~こわwww オーケイ、いいよ』パチン


 指(前足?)を鳴らすと、今朝と同じように壁の仕掛けが動き、拳銃と弾が出てくる。


『まずは、本物の弾を自分で込めて。そうしたら、私が残りにダミーを装填するよ』


エレン「・・・・・・」


 アルミン『僕ときみは出会って『日が浅い』けれど・・・これだけは言いたいんだ。

      くれぐれも『無鉄砲にならないでほしい』。お願いだよ』


エレン「判ってるよ、アルミン。判ってるから・・・」


 俺は1発の銃弾をリボルバーに装填した。


『ふむ、1発か・・・いいんじゃない。すでに真っ当じゃないよ、キミの覚悟は』


エレン「・・・・・・早く装填してくれ」

エレン「・・・・・・・・・・・・・・」


 ――違う。足りない。タリナイ。


エレン「何か言ったか?」


『え? いやあ、なんにも? ほら、出来たよ』ポイッ


エレン「っと!? おい、投げて寄越すなよ、アブネーな!!」


『キミのタイミングでやっちゃいな。あんまり遅いと、マジで捜査時間終わるぜ?』


エレン「・・・・・・・・・・・」


 そっと。言われた通りに撃鉄を外し、こめかみに銃口を向けた。


 どくん


エレン「・・・・・・」グッ


 どくり ドクリ どく どく どくどくどくドクどく


エレン「・・・・・・・」

  
 どく どくどく どくドクどくドクドク


エレン「・・・・・・っ」


 ――なあ、たりない。タタカウんだろ?


エレン「・・・・なに、が・・・っ?」





 ――タリナイ。もっと、モット。タタカエ!!


エレン「~~~~~~~~っ!!!!!」



 ガ チ リ ッ



『・・・・・・・・・・・・・・・』




エレン「・・・・・・・・・っ」ハァ ハァ


『――おお。よかったねえ。死んでないよ』パチ パチ パチ


エレン「・・・・・・」ハァ ハァ


『ん? 返事がねえな。生きてるよね?』


エレン「・・・あ。よかった、生きてる・・・」ボーゼン

エレン「・・・ハァ・・・っハンジお前、なんで話掛けてきたんだよ・・・」ギロ


『ん? はあ? いやいや、私は邪魔してないよ。終始、絶を使ってましたしー』


エレン「・・・・・・」ポカン

エレン「・・・? ??」キョロキョロ


『ともかく、キミは初級ボーナス獲得した。さあ、案内するからついてきて・・・』


 もう時間なんて残ってないしね、ハンジがそう言うと、

 壁に立てかけられた拷問具らしき物体がパカリと左右に開いた。


エレン「・・・・・・」


『アイアン・メイデンだよー。もしかして、見たことある?www』スタスタ


 ハンジがからかい混じりに拷問具の説明をするのを無視して、

 そこから続く、人1人がギリギリ通れるような通路を進んだ。

 ようやく広い空間に出たと思えば、作業場で使われるような簡素なそれがあった。


エレン「・・・エレベーター・・・?」


 操作盤には、はっきりと、俺の知らない階層が示されていた。<B1>と。


『さあ、早くのってのって♪ あ、ここからは小声でよろしくたのむよ』トコトコ


 とてもじゃないが安定性のないものだった。4階から一直線に「B1」へ

 運転中、ずっと「ごうんごうん」と鈍い機械音がとどろいていた・・・。

 そして、目的地にたどり着き、踊り場から道が左右に分かれていた。


エレン「・・・・・・なにこれ」ボソ


 ・・・そして、エレベーターの正面には、『宝物庫』と札が掲げられた鉄扉が。


『実はそれ自動扉。入ってごらん』


 開閉した扉の中に足を踏み入れると、次に『レベル1』という扉。

 開くと、物々しい空間が広がっていた。

 俺には全く縁の無い外国語や数字がボックスに書かれ、それが幾つも両脇の棚に並ぶ。


エレン「・・・爆弾。ナイフ。銃・・・本物か」


『飾ってあるだけならただのオモチャだねえ・・・たかだかレベル1だしね』クス


エレン「なるほどな」チッ


 奥に『レベル2』と書かれた扉があったが、俺はそれを開けることができなかった。

 調べて判ったことがあるのは・・・何個か数の減った『C-4爆薬』の保管ボックスには、

 ちょっと難しく書かれた解説書が付いていたということ。


『ココはいつでも自由に出入りできるけど、どうする? 早くしないと時間がなくなるよ♪』


エレン(なんだ? やけに急かすな・・・)

エレン「ああ判ってる・・・戻ろう」


 『宝物庫』を出る。そして、左右に広がる通路を見渡した。

 左右は先ほどよりももっと小さい通路で、ほふく全身を余儀なくされる。


『むかって右は<東塔>、左は<西塔>に続いてるよ。もう勘づいた?』コソコソ


エレン「・・・・・・・・」ゴクリ


 ゆっくりと、ゆっくりと進む。ハンジの言うとおり、俺にはよく判っていた。

 造りは単純だ。しだいに、アニとサシャの話し声が聞こえてくる。

 とはいっても、ほとんどサシャが喋っているようなものだが・・・


 ――ソレデ、・・・・だったんです

 ――そうかい。


エレン「・・・・・・・・・・」

エレン(ああ・・・そういう、ことか・・・)


 静かに理解した。

 俺は『ボーナス』である、塔の構造を確認して『デッドエンドルーム』へ戻った。


『・・・無口だね。』チラ


エレン「東と西の貧民部屋の床はガタガタだ。下から、隠し通路から丸見えなくらい。

    当然、お前が考えついた構造なんだよな?」


『ただの設計ミスかもよ? それはそれで訴訟もんですけど』


エレン「何の意味があるんだ。これが報酬? いったい何のご褒美なんだよ」


『地の利・・・シチュエーションを与えてあげたんだよ。

 現にほら、事件がおこったじゃない? 貧民部屋で、ちゃんと事件が』


エレン(・・・・・しまった。そうか、そういうことか)


『焦ってるね。誰の顔を思い浮かべてるの? 当ててあげようか』


エレン(おまえ・・・どういうことだよ。ミカサ・・・!!!)


『ふふ。『ゲーム』の時は、ちょっと危ぶんだけれど・・・。

 きみはまだ、人の子だったみたいだから安心したよ。ずっとそのままでいてね』


 そう言い残して、ハンジぐるみは唐突に姿を消した。


エレン「弾1発で、貧民部屋の床面へ通じる通路と、宝物庫『レベル1』が解放される。

    弾2発なら、そして3発なら・・・」


 予想はできる。『事件』を起こすための素地を与える。

 するか、しないかの選択を『ゲーム』の成功者にさせるのだ。


エレン「これが、『ルーレットの報酬』ってわけか・・・」


 >言弾『ルーレットの報酬』を入手




 キーンコーン カーンコーン


『ふふふ、もういいよね? 充分お時間は与えたよ? ああ楽しみだなあ。

 みんな自信あるかな? 間違えたら留年しちゃうよ、それはそれで愉しいね!

 ・・・それじゃあ。<東塔>4階の花園へ集合してくれ・・・裁判場へ行こう』


 ゾロゾロと、みんながはじまりの花園』へ集まった。


アルミン「あ、エレン・・・遅かったね」

エレン「ああ・・・」

アルミン「・・・エレン、実はね」コソ

エレン「ん?」

アルミン「僕、さっき捜査中に『ゲーム』に挑戦してたんだ」ヒソヒソ

エレン「・・・え」

アルミン「あれは。気分が悪くなるものだよね・・・」ヘヘ

エレン「バっお前・・・!!」

アルミン「エレン。僕は後悔していない。お陰で、この塔の構造を知ることができた」

エレン「・・・ボーナスステージ、やったんだな」

アルミン「うん・・・何発撃った?」

エレン「1」

アルミン「そう、僕も同じだよ・・・エレン、『事件』を解き明かせるかわからないけど、

     僕も頑張るから。だから、エレン」

アルミン「・・・・・・・・・」ヒソ

エレン「・・・・・・・・ああ」



『あーい、みんな目隠しと耳栓してね。手足は錠を掛けます。

 なあに、アトラクションを完全に脱出すればすぐ外しますからーはい従ってー』


 塔の構造を悟らせないための措置と、直感的にわかった。

 俺はハンジぐるみに手足を拘束されながら、アルミンの言葉を思い出していた。



 “――信じているからね、エレン”


 そこからは、何か乗り物に乗せられて、移動したということしか判らない。

 気づけば俺たちは、随分あっさりと、校舎の娯楽室へ戻っていた。


エレン「・・・・・・・・・」ホッ


 ずいぶん、懐かしい感覚だった。少し冷たい廊下と階段をたどって、

 一行は、1階のエレベーターに乗り込んで――裁判場へと向かった。


 ――リヴァイ先輩。

 口が悪く、掃除が大好きで、でも卒業はしたくなくてサボりも大好き。

 結局、今の今まで、先輩とは腹を割って離せていない。哀しいことに。
 


 リヴァイ『――俺はようやく、捧げるべき相手を思い出した』



 思えば、彼はいつも堅い決意を鋭い眼光にたたえていた。

 あの時、貴方は何を思って、そんなことを話したんだろう――。


エレン(ミカサ。お前は、なんだか判っているようだったな・・・)


 誰も、何も言わなかった。

 気づけば、俺と、馬面と、アニと、サシャと、コニーと、アルミンと。

 裁判場の証言台に立つ生徒は、6人になっていた――。



『――やあ、裁判場へいらっしゃい。恒例だが、学級裁判のルールを説明するよ。

 君たちには、今回の事件について『クロ』が誰なのかを議論して貰います』


 ハンジぐるみが、まばらに佇む生徒達ひとりひとりを見渡す。


『最終的に、一人一票を持ち、クロが誰かを投票します。

 多数決で決まった者が『クロ』であった場合、『クロ』には厳しい量刑を。

 『シロ』であった場合は、『クロ』以外の人間の在籍年数が5年付与されます』


『――それはつまり、私たちが楽園で暮らせると。そういうことでもあります』


ジャン「・・・どういうことだよ、え?」

アニ「学園長の煽りにすぐに乗せられるのはどうなんだい」

ジャン「・・・・・・」チッ

サシャ「がんばって、乗り切らないと、ですね!」キュルルッッルルルゥゥゥ

コニー「お前の胃袋大丈夫か。乗り切れるのか」

アルミン「絶対に、『クロ』を追い込もう」

エレン「・・・・・・ああ」


 まだなにか、裁判をする上で掴み切れていない。ざわざわと、不安が胸をよぎる。

 しかし、この場に立った以上、俺は、やるしかないんだ。


『ふふ。さあて、私は高みの見物といこうかなあ・・・それじゃ諸君、健闘を祈るよ』



 俺は裁判場を眺め、そして、生徒全員の顔を見た。

 はじめて、ここに来た時とは、誰も彼も、面差しが変わっていた。

 それは、きっとほんの些細な変化だけれど。


エレン(――導ける。俺たちは、正しいと思うことを、導き出せるはずだ)


エレン「・・・!!」ギリッ




 「学 級 裁 判 開 廷」



ちょいとご飯食べたら、学級裁判も一気にあげます。

これも恒例のお願いですが、クロがわかっても、バラさないでやってくださいませ



コニー「・・・さて、じゃあ、まずは『ハンジさんファイル』に目を通そうぜ」

アニ「その通りだね。」

エレン「被害者はリヴァイさん――」



【ハンジさんファイル4】

 1.被害者はリヴァイ。娯楽遊園施設内「どっきりハウス★ウトガルド城」東塔1階、

  自身が寝泊まりしていた通称<貧民部屋>にて、意識不明の状態で発見される

 2.発見者は、コニー、アニ、アルミン。本日午前6時、西塔からの爆発音を契機に、

  被害者を捜索。現場は内側から鍵が掛かっており、コニーが鍵を壊して侵入、発見

 3.被害者は腹部を複数回に渡り鋭利な棒状の凶器で刺されており、失血が著しい

 4.現時点で意識不明の重体。学園長により、仮死状態とされる

 5.被害者を仮死状態にした者を『クロ』とする



エレン「――彼を仮死状態に追い込んだ者。そいつを捜さなきゃいけない」

ジャン「何かが因果になって、先輩はあんな人形みたいになっちまったのか。

    いずれにせよ『事件』であることに変わりはねえ・・・」

アルミン「まあ、そうだろうね。判りやすい例えが、最初の『事件』の時だ。

     結局、誰1人として故意に関わった者はいなかったけれど・・・

     偶然が『誰か』に接触したことで『事件』が成立した」

サシャ「?? つまり・・・えー・・・誰かがこの事件にタッチしてるってことですか」

アルミン「そう・・・今回も絶対に、人災なんだ。人が災いを起こしてるんだよ」

コニー「俺は、人災だろうがなんだろうが、そこに悪意がないことを祈るぜ・・・」ハァ

アニ「・・・少し訊きたいんだけど」


 すっと、アニが手上げをした。


アニ「ミカサは『卒業』したけど――」

エレン「」ピク

アニ「――でも、事件の渦中にいてもおかしくないのに学園長は『卒業』させた。

   それは・・・なぜなんだい?」

アルミン「それは僕も思ったな。ある意味、優遇措置だともね。悪く言えば贔屓」

エレン「あ、アルミンっ?」


『んー。別段、深い理由はないさ。彼女は随分と前から『卒業』できる状態だった。

 そうだねえ。クリスタ、じゃないね、ヒストリアよりも随分はやかったかなー』


エレン「そう・・・なのか・・・」


『そんな彼女がなぜ、今の今までこうしていたのか、判るかな、キルシュタイン君』


ジャン「・・・チッ そんなの決まってら。

    そこの死に急ぎ野郎のお守りで忙しいんだよ、あいつは」


『おお、さすが。よく判ってるじゃん。ま、そういうことww

 彼女は自分の意志で、わざわざ学園内に留まっていただけ。

 たまたま、今回のタイミングで出て行っただけだよ。彼女の、強い意志で』


コニー「な、なんだよ。じゃあ、あいつはここにいる必要なんて・・・」


『そうだよ。彼女は、きみたち残された生徒の中で唯一の勝者だった。もとより勝ってたの』


アニ「・・・ふー・・・少々気にくわないけど、それはいいさ。

   でも、ミカサは今朝までここにいた。ということは・・・

   例えいない人間だろうと、裁判の争点になる可能性はゼロじゃない」


『まあ、そういうことだね、彼女の存在は忘れず、勘定に入れて話し合いなよ』


アニ「オーケイだ・・・では、何から始める?」

エレン「一番重要なのは、リヴァイさんがいつ、あの状態になったかってことだろう」

サシャ「仮死状態になった時間ってことですね」

アルミン「誰か、捜査中に、直結するような手掛かりを見つけた人はいたかい?」


 アルミンが、ぐるりと輪になる証言台を見渡した。誰も反応しない。


アルミン「――そう、ちなみに僕もだ」

サシャ「犯人が自首すればいいんj」

コニー「言 わ せ ね ー よ っ」

サシャ「・・・・・・」ショボーン

アニ「さて。手始めに、『事件発見アナウンス』がかかった辺りを振り返るかい」

エレン「それがいいんじゃないか」


 <言弾『午前6時頃の西塔』を提示


エレン「『事件発見アナウンス』が鳴ったのは、午前6時34分頃――だったな、ジャン?」

ジャン「そうだ。ミカサがいた部屋の時計で確認した。

    『事件』を発見したのは、その時点で<東塔>にいた――」

コニー「俺と、アルミンと、アニだな」

エレン「爆発が午前6時ちょうどに起こってる。この辺りの認識は、全員共通してるな」

サシャ「はい」

アニ「爆発により連絡橋の西側が大破。東側は扉が開かなくなり、行き来が出来なくなった」

エレン「そう。西側では、ミカサがすでに『卒業』していたから、サシャとジャン。

    そして、4階の『ゲーム』に参加して戻って来た俺の3人が、立ち往生していた」

コニー「そもそも、その爆発もなんで起こったのかって話でもあるな」

アルミン「うん。そこは大いに議論する必要があるだろうね」

ジャン「爆発当時の俺たちの話からするか」

エレン「俺は『ゲーム』に挑戦中だった。爆発音を聞いて階段を駆け下りた」

ジャン「俺は時報を聴いたと思ったら爆発がしたから、すぐに扉の前へ。後からエレンの野郎が」

サシャ「私は寝てたんですけど、エレンに部屋まで起こしに来て貰いました」

アルミン「3人は、少なくとも爆発前後に、先輩の部屋には近づいていない、と?」

ジャン「そういうことになるな」

エレン「爆発は、2階の連絡橋付近で起こった。同じ階の中流部屋は特に被害がないけど、

    瓦礫なんかのお陰で汚くなってた・・・ってとこだ。怪我人や死人はなし」


 <言弾『午前6時頃の東塔』を提示


エレン「次に、お前たち<東塔>の様子だが・・・これはお前らが話してくれ」

アニ「そうだね・・・私はロードワークというか散歩中に爆発音を聞いた」

コニー「俺は、エレンは知ってるけど、ずっと起きてたし、音はよく聞こえたぜ」

アルミン「僕は音と地響きでベッドから飛び起きたよ。すぐにアニたちと合流したけど」

コニー「で、リヴァイ先輩が部屋からでてこないってんで、鍵穴をこじ開けて・・・」

アニ「写真にあるような、変わり果てたリヴァイ先輩の姿を発見した」

アルミン「そのタイミングで・・・アナウンスが鳴ったんだよ」

サシャ「血だらけでしたよね・・・お腹とか・・・。誰かと・・・

    部屋で口論にでもなったんでしょうか。し、【侵入された】とか」ガクブル


 <言弾『閉ざされた部屋』をぶつける


エレン「それは違うな」

エレン「少なくとも正面の侵入はありえない・・・そうだな、コニー?」

コニー「ああ。部屋には鍵が掛かってた。俺が針金で開けたし、開けたとき、

    中にはリヴァイ先輩しかいなかった。アルミンやアニも見てる」

アルミン「うん。あの中にはすでに仮死状態に陥ったリヴァイ先輩だけだったよ」


『コニーが犯罪者まがいのことをやった点については、この際スルーしておいてあげる』


コニー「」ギク

コニー「ひ、必要だったんだよ・・・だって、開かなかったし・・・心配だろ」


『私を呼べばよかったじゃなあい? ・・・さて、続きをどーぞ』


ジャン「気を取り直して・・・コホン つまり、いわゆる密室だったってことだな」

サシャ「推理小説的にいうと王道ですね!(まあ読んだことありませんけど!)」

ジャン「(知ってる。)で、そうなると、一番可能性があるのは・・・。

    ・・・先輩の自殺未遂だと思うぜ、俺は」

エレン「・・・・・・」

アニ「・・・まあ。それは、そうだろう。今回の場合は」

エレン「そんなことをする人には見えない」

ジャン「じゃあ、誰が先輩をぶっ刺すってんだ?」

コニー「そうだぜ。もっかい言うけど、鍵は閉まってた。内側から!」

アルミン「・・・一番可能性の高い『自殺』を仮定に、話をしようか」

エレン「! アルミン・・・」

アルミン「可能性の高い選択肢を潰せば、みんな判ってくれるんじゃないかな」クス

エレン(! こいつ、やっぱり『ゲーム』をやったから・・・)


 ――気づいている。アルミンは知ってる。俺が恐れている展開を。


アルミン「さあ。こんな裁判はとっとと終わらせてしまおう・・・手短にね」

アニ「じゃあ。まずは『仮死状態』になった直接の原因だけど・・・」

サシャ「身体のあちこちにある・・・【小さな刺し傷】ですよね・・・?」


 <言弾『リヴァイの身体』をぶつける


エレン「それに賛成だ」

エレン「何か鋭利な凶器で身体中が刺されていた。失血はかなり大きな原因と思える」

エレン「・・・だけど。」


 <言弾『外された急所』を提示
 <言弾『小さな血だまり』を提示


エレン「急所が外されてるってのは、俺もタブレットの画像を見て感じたことだ。

    ・・・ぐさぐさと刺されまくってるにしては出血も少ない。

    傷口は綺麗に、全部。あらゆる急所という急所を外れているからだ」

アニ「そう。だから刺し傷が致命的な原因となりうるかというと、すぐに判断は出来ない」

コニー「・・・だからこそ、自殺未遂なのかなって、俺はそう思う」ポツリ

サシャ「な、なんで?」

コニー「自分で自分を刺したとする。俺だったら・・・死のうって思ってても、

    いざというときは、結局ためらっちまう気がする。上手く言えないけど」

ジャン「・・・本能的に、反射的にってことか」

コニー「そうだよ、それそれ。ヒトってそんなモンじゃねえか? 

    全部外れたんじゃ無くて、全部外したんじゃねえか・・・って」

アニ「コニー。ほんと、今日は冴えてる」ボソ

アルミン「うん。全部が全部急所を外れてるってのは、偶然にしてはおかしい。

     誰かがやるにしても、先輩が抵抗するだろうし・・・」

ジャン「【抵抗していない】から、逆に、綺麗に急所を外せているってことか?」


 <言弾『事件現場の状況』をぶつける


エレン「それは違うな」

エレン「まったく何も抵抗のない状況かというと、それもまた疑問に思う」

アルミン「・・・現場の状況だね?」

エレン「そう。知っての通り<貧民部屋>は廃品ガラクタでこしらえた部屋だ。

    リヴァイさんの部屋は、あちこちが崩れてすっかり荒れていた」

サシャ「誰かがあの部屋にいて、先輩が抵抗した可能性もあるってことですね」

ジャン「・・・だとして、じゃあ先輩はいつ襲われたってんだ」

アニ「先輩は昨夜、早めに部屋に籠もった筈だね」

ジャン「案外、周りが騒がしくて気づかないって意味で・・・。

    【日付が変わる前】、みんなが起きてた時間だったりしてな。」


 <言弾『アニの証言』をぶつける


エレン「それは違うな」

エレン「日付が変わってからリヴァイさんの声を聴いた人がいる。なあ、アニ」チラ

アニ「そう・・・私は、だいたい時報の前後に軽い運動をするんだ。

   午前3時前だったか・・・確かに先輩と誰かが話しているのを聴いた」

コニー「そ、それって誰だよ・・・!」

アニ「相手の声が聞こえたってわけじゃないんだ。<東塔>の1階までは降りてないしね」

ジャン「つまり、先輩が誰かに語りかけていたってことか?」

アニ「・・・そう。ごめんあんまり注意していなかったから・・・。

   先輩の部屋がボロいせいでもあるけど、あの人、普段は声が小さいだろう」

サシャ「それなのに、上の階のアニにまできこえたってことですよね」

アニ「そう。誰かに話し掛けていた・・・あの時先輩は、誰かと一緒にいたんだと思う」

ジャン「てめぇの憶測も入っているが、少なくとも3時頃は、まだ元気だったってワケだ」

アニ「・・・うん」コクリ

アルミン「それ以降にとなると、午前3時から6時の間。ここで先輩はあの状態になった」

サシャ「うんうん、そうなりますね。爆発までの間です」

アルミン「爆発の件も気になるけど、まずは現場に絞って考えてみようか」

サシャ「凶器ってなんです? 刺したってことは【ナイフとかですよね】?」


 <言弾『ワイヤーの束』をぶつける


エレン「それは違うな」

エレン「切り傷じゃない。どちらかというと、先の鋭利な物で『突いた』って感じだったんだ」

アルミン「その通りだ。そしてリヴァイ先輩は自分の手に持ってのさ・・・。

     細いワイヤーを何本もしっかりと束ねた『凶器』をね」

ジャン「そいつが凶器で間違いねえのか」

アニ「・・・多分ね。傷口の大きさと、ワイヤー束の直径に差は無かったから」

サシャ「あ。捜査終了間際に、アニがなにかガサゴソやってると思ってましたが、

    なるほど、それを調べていたんですね・・・ほほう」

アニ「裏付けになるといいけど」

アルミン「なるよ。ありがとう」ニコ

ジャン「ワイヤーってなんだ。そんなものどこから・・・」

コニー「アレじゃね。部屋ん中の散らばった【ガラクタ】でも使ったんじゃねえか?」


 <言弾『スポークのないタイヤ』をぶつける


エレン「それに賛成だ」

エレン「あの部屋は、凶器に出来るって意味では素材に事欠かない。

    ガラクタの中で一番多かったのは『タイヤ』だ」

コニー「ああ。クルマ用とかチャリ用とか、いっぱいあったな」

エレン「その中でも、チャリ用のタイヤからスポークがごっそり外されていた。」

ジャン「ピク ・・・自転車のスポークだって?」

エレン「そうだ。一本だけだとしなやか過ぎるが、束になれば、ある程度の強度になる。

    リヴァイさんが持っていたのは、こいつの束で間違いない」

サシャ「先輩が手に持っていたんだとすると・・・やっぱ・・・じ。じ」

アニ「自殺未遂って考え方は間違っていないと思うけど」

ジャン「根拠は?」

アニ「密室という状況と・・・あとは彼が軍人で兵士長だってこと」

生徒「「「は?」」」」

アニ「紛争地で現場の指揮をするくらいなら、実力も精神力も相当だろう。

   例えば、合理的な理由で自害することだってある・・・」

ジャン「マルコも言ってたな・・・奴はちっとも賛同してなかったけど。

    確かに、状況にもよるが、命の扱い方は一般とかけ離れてるだろう」

アニ「先輩は、ここを『卒業』する気がなかった。私たちからはそう見えていた。

   でもそれが、私らが想像できないほど『したくない』って強い思いだったのなら。

   あるいは、ユミルのように『してはいけない』という観念を持っていたのなら」

エレン「――それが自殺未遂の動機になりえるっていいたいのか?」

ジャン「だが、やっぱりてめぇの憶測に過ぎねえなあ。先輩の考えなんて誰も知らん」ケッ

アルミン「堂々巡りだねえ」ハァ

エレン「・・・・・・・・」


 言ってしまおうか。言ったら・・・言ったら、どうなってしまうのだろう。


アルミン「――エレン、何か気づいたことはある?」

エレン「ハッ ・・・いや」

アルミン「そう? ねえ。先輩の自殺未遂だったとして、僕には不可解なことがあるなあ」

サシャ「なんです?」

アルミン「6時の爆発・・・あれ、偶然の事故とは言えないよね」

ジャン「ああ。アレは何だったんだって話になるな」

アニ「ちょっとまって・・・それこそ何か根拠があって言ってるの・・・?

   あんなの事故じゃなかったら、どうやって・・・ねえ、【事故だろう】?」


 <言弾『プラスチック爆薬?』をぶつける


エレン「それは違うな」

エレン「根拠はあるんだ。アニ。ジャンとサシャが爆発のあった辺りを調べていたんだが」


 俺は、プラスチック爆薬と思しき断片が見つかったことを話した。


コニー「爆薬って・・・え、え。そんな単語が出てくるなんて思わなかったぞ・・・」

アルミン「そういうのも無理はないよ。ジャン、爆薬の特徴を教えて」

ジャン「ああ・・・」


 ジャンが、捜査中に俺たちに話した、プラスチック爆薬の話を証言する。


アニ「なるほど・・・何かしらの事故じゃないって言うなら、話は変わってくるね」

ジャン「ま。あんなの、あの中ではリヴァイ・・・先輩しか使えねえけどな」

コニー「爆発の原理云々は意味不明だけど、とにかく爆発は道具を使って行われたってことだよな」

アルミン「その可能性があるってことだ。これはかなり憂慮すべきことだと思うよ」

サシャ「??????」 

ジャン「お前は話聞くの初めてじゃねえだろ、ばか」

エレン「つまり、『クロ』がやったかは別として、人間の手で行われたのだとしたら、

    誰がどうやって入手し、やったのか・・・突き詰める必要が・・・」

コニー「? えらく歯切れが悪いな、エレン。お前らしくもない」

エレン「いや・・・」

エレン(・・・まずい)


 俺には、何をどう証言していいのか、もうわかってしまっている。

 だが、証言した先には何がある? はっきりとは見えていないけれど――


エレン(・・・・・・)


 あいつの背中が脳裏をよぎる。あいつの、細いのに、しっかりとした、あの肩。

 黒くて、ちゃんと手入れの行き届いた、あの髪。


 “――必ず、戻って来るから。少しだけ、皆と待っていて欲しい”


 あいつの言葉を信じてしまうことは容易い。曲がりなりにも、そうするに値するほどの、

 長い付き合いってモノがある。俺とあいつ・・・そしてアルミンには。


エレン(だけど『今の』アルミンは? ほかの連中は・・・?)

ジャン「・・・・・・」

ジャン「俺には解せないぜ」

アニ「なにが」

ジャン「仮に誰かがやったとして。その意味はってな」

アニ「そりゃあ、事件を起こしたいからじゃないの。

   実際、事件が起きたことによって、私たちはあの場所から出られた」

エレン「それは、俺もそう思う・・・」

コニー「そうか、つまり、ドカンと派手にやって、

    【爆発で誰かを怪我させるのが目的】ってことだな?」


 <言霊『連絡橋の分断』をぶつける


エレン「それは違うな」

エレン「コニー。爆発の規模は極めて小さかった。しかも取り付け場所は『連絡橋の扉』なんだ」

サシャ「人を怪我させようとするには・・・たりないってことですか?」

エレン「まあ、言いたいのはそれだ。もちろん、一歩間違えれば大変だった。

    だけど、人に怪我をさせたいなら、連絡橋を設置場所にする必要はないだろう」

アニ「そうだね。熟睡中のサシャの部屋に仕掛けたほうが、確実」サラリ

サシャ「oh... あ、でも、確かに知らないうちにあの世ゆきでしょうね・・・」ガクブル

ジャン「それな。それこそ<貧民部屋>に使ったほうが賢いぜ。なにせガラクタだらけで、

    小さな爆発でも手りゅう弾みたいに破片が飛び散るだろうしな」

アルミン「殺意がどれほどのものかはともかく。

     ポイントは『連絡橋』に設置したこと。あの時、何が起こった?」

エレン「・・・そう、連絡橋が壊れたことで、<西塔>と<東塔>は分断されてしまったんだ」

コニー「たしかに。上手いこと壊れて、かなりの時間、俺たちは塔を行き来できなかったな」

アニ「学園長も修理で手が離せなくなる程度に、連絡橋だけは被害が甚大だったね」


『そうなんだわ。まじでカンベンっすよ。あれ、基幹は私が構築したシステムじゃないから、

 マニュアル本読みあさって、脇目も振らず修理させられたんだっての、あー疲れた』


ジャン「うるせえんだよ、てめぇの苦労なんざ知るか」

エレン「・・・俺が、サシャの部屋で寝ている間の話か」

サシャ「そうですよ」

エレン(ハンジが目を離せない状況だった? 何か、ひっかかる・・・)

コニー「でさ、エレン、続きを話してくれよ」

エレン「あ、ああ。あの爆発に誰かの目的があるとするならば・・・。

    それは、『連絡橋の分断』なんじゃないか?」

ジャン「俺たちがあそこで右往左往したこと。それが狙いってか?」

エレン「ドアを狙っているわけだから、その可能性は高いと思うぜ」

コニー「いや、でもさ。何のために? それに、こんな事言いたくねえけど、

    下手すれば人が大怪我してた、いや、し、死んでたかも。

    単なる通行止めが目的なら、そういった危険性は無視なのかよ」

アルミン「僕はエレンの言うことに賛成だな」

コニー「なんで」

アルミン「爆発の起こった事件当時、確かにあそこに人はいなかった。

     ・・・だけど、それって偶然なのかな」


 アルミンが首をかしげる。


アニ「偶然じゃないっての?」

アルミン「今回、アトラクションに閉じ込められている間、僕たちに時間の概念はなかった。

     例えば、就寝時間の制約である『夜時間』がなかったよね」

エレン「ああ。そうだな。確かに自由だった」

アルミン「でも、僕たち、案外、時間に忠実だったよね。廊下にある鳩時計の時報を元に、

     昼間は全体で建物の探索。そこで疲労が溜まって、

     結局、夜中は、大体の人が自室で規則正しく寝ていたはずだ」

サシャ「たしかに、朝6時より前に起きてる人なんていませんでしたね。アニくらいです」

アニ「あんたは決まってお寝坊だったね。インターホンを連打してやらないと絶対起きない」

サシャ「あう」

アルミン「その唯一活発なアニも、やっぱり時計の時報を元に動いていた」チラ

アニ「・・・朝6時の時報が鳴ったら部屋に戻る算段で、<東塔>最上階の花園で運動。

   確かに、ここ数日間、私は規則正しく行動していたね」

アルミン「フェアじゃないから、あらかじめ言っておくけど。

     僕はアニと雑談をする中で、彼女の日程について、ある程度把握していたよ。

     でも、アニの行動は、観察していれば予測できるよね、きっちりしてるから」

ジャン「なるほどな。つまり、午前6時前後は<西塔>側の連絡橋付近に人がいない、

    その確率が充分に高いってわけだ」

アルミン「うん。だから、コニーの言うとおり、人が怪我しない可能性はゼロじゃないけど、

     しない可能性の方がかなり高いってことは、すぐに考えつくんだよ」

アニ「ふうん。だから、怪我をさせることが目的の爆発ではないって?」

アルミン「少なくとも、主目的ではないと思う」

ジャン「でも、それだけじゃ、【連絡橋の分断が目的とは言えない】んじゃないか」


 <言弾『連絡橋の性質』をぶつける


エレン「それは違うな」

エレン「もういっちょ、根拠はある。それは連絡橋の仕組みなんだが」

コニー「仕組みって、えーと、なんだっけ」

サシャ「片側が開いてる間はもう片方の扉が開かないって言う、よくわかんない設定です」


『設定いうなや。私なりに監視の効率化を目的とした策なんだわ、一応』


エレン(・・・今のハンジなら、『事件』の発生も織り込み済みなんだろうな)

エレン「補足すると、開いた扉は反対側のセンサーで人体が反応するか、

    あるいは一度くぐって、元の<塔>に戻らないと、完全に閉まらない」

ジャン「東と西、それぞれの人間が連絡橋ですれ違うことは出来ない仕組みだな」

エレン「今回は扉が綺麗に崩れていたが、人が通れる程度の損傷に収まる場合も考えられる」

アニ「!・・・そうか。開いてると、センサーの仕組みから東側には通れない。

   仮に西側から橋を渡れたとして、あのややこしい仕組みで、今度は東の扉が開かない」


『君たちには、ある程度連絡橋の仕組みを話してるし、そこまで考えつく人もいるだろねw』


ジャン「万一、西側が崩れなかった場合も、東側が開かないことで保険になるってことか?」

エレン「最低限の爆発で、あの連絡橋を不能にすること。それが目的なんじゃないか」

ジャン「なるほど。ってことは・・・」ブツブツ

コニー「わかんねえ・・・ますますわかんねえ、何のために!?」

アルミン「あの爆発が起こったことによって、僕たちが一番困ったのは何かな?」

コニー「えっと。リヴァイ先輩がああなっちまって、『事件』が起こったのに、

    なかなか、捜査を開始できない人間がいたってこと・・・人手不足だった」


『私的にはとっとと裁判に持って行きたかったのに、捜査時間を長く与えてしまったとこだね』


アニ「すみません、ややこしくなるので控えてもらえないですか」

アルミン「――コニー、ソレが目的なんじゃない? 事件の捜査に支障を与えることが」

ジャン「タイミング的にも、やっぱり関連があるものと考えるべきなんだよな」

アルミン「アニの主張してる、先輩の自殺未遂説だとしても、

     捜査の攪乱を目的として今回の爆発を起こす意味はあると思うんだ」

サシャ「んー。そもそもどうやって、プラスチック爆弾? なんてものが手に入るんです。

    こんな何も無いところでどうやって。あ、こねこね手作りとかできるんですか?」

ジャン「技術があれば可能だろうが、言うとおり材料がねえ」

エレン「・・・・・・・」

サシャ「ん~。 ! あ、そうだ【デッドエンドルームに隠されていた】とか?」ピコン


 <言弾『デッドエンドルーム』をぶつける


エレン「それに賛成だ」

エレン「俺たちが通常、出入りしていない部分は、あの『デッドエンドルーム』だけ・・・。

    『クロ』がもし、あの中を掌握していれば話が変わってくる」

アルミン「その前に。学園長、『デッドエンドルーム』の議論をするにあたって注意事項は?」


『あるよ。あの部屋で報酬を得た者が『いたら』その内容については明かしても問題ない。

 しかし、ゲームの内容については一切、非公開とする。ネタバレ禁止に留意してくれ』


アルミン「やっぱりね。では、捜査中に『ゲーム』に参加した僕からの報告だけど――」

コニー「え、なにサラリと言っちゃってんの!?」

サシャ「やったんですか、やってしまったんですか!?」

アルミン「したよ。でも、もう絶対やりたくないかな。色々と危なすぎるからね」ヘラッ


 コニーとサシャは驚愕していたが、ジャンとアニはあまり動揺していなかった。

 驚いてはいるはずだが、アルミンの性分を理解して早々に納得したのだろう。


アルミン「――結論から言うと、『報酬』の中に『爆薬』はあったんだ。

     素人ながらの判断だけど、プラスチック爆薬も含まれてる」

ジャン「・・・物騒なモン用意してくれたなあ。お膳立てはバッチリってわけか?」


 ジャンが壇上に寝転がるハンジぐるみを睨み付ける。声は僅かに震えていた。


サシャ「ということは、挑戦した人間が怪しいってことじゃないですか・・・」チラ

エレン「・・・・・・」

アルミン「・・・・・・そうだね、僕も怪しいってことになる」

ジャン「そう言う意味では・・・エレンもだな」

アニ「判らない。言っていないだけで、他の人間が挑戦しているかも知れない」

コニー「なんだよ・・・またそう言う奴がいるなんて、カンベンしてくれよ・・・」

サシャ「そうですよ。ほんと・・・頭の良い人の考えることは判りません・・・」

エレン「・・・・・・」


 しばらく、沈黙が続いた。常に誰かからの視線を受ける俺は、何も言えない。

 自分ではないと自信を持って言える。アルミンだってそのはずだ。

 そうしたら、次に矛先が向くのは、誰なのかと、そう考えたとき――、


『ほいほい。みんな、ちょいと休憩でもとろうかね。お手洗い行きたい奴は行ってらっしゃい』


 ハンジが提案し、みんなの視線が俺から逸れた。

 少しだけ、心臓の締め付けられる感じが和らいだ。



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ジャン「――お前、先輩の自殺未遂を推す割には、面倒なことを言いやがったな」

アニ「なんで? ただ考えたことを言ったまでだよ」

ジャン「いや。その通りだな、疑うのが正しい。裁判場はそういうところだ」

ジャン「正直、先輩が覚悟の上で自殺を選んだってのなら、俺も、まだ呑み込める」

アニ「・・・人間なんて、一皮むけばただの化け物なんだ。

   そういう当たり前のことを、私は最近思い出した。再認識したよ。

   もし、誰かこの場の人間が『クロ』だとしても、私はたぶん、驚かない」

ジャン「俺も頭ではそう考えてはいるが、結局、誰かに入れ込んでしまうんだろうな。

    俺は・・・お前の側には立てそうにない。少なくとも、今は――」


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 少し離れたところで、水の入ったカップを片手に、馬面とアニが話している。

 ジャンは少しだけ顔色が悪いなと思ったが、いつもあんなものだったな、とすぐに考え直した。


アルミン「――エレン。どうしたの。歯切れが悪いよ」

エレン「アルミン」

アルミン「今回、僕たちは『デッドエンドルーム』のクリア報酬を受け取ってる。

     きみが議論の中心になってるのに、どうして、情報を小出しにするんだ」

エレン「・・・そんなつもりはない」

アルミン「僕だってまだ『クロ』の目星はついていないよ。でも、いつもなら、

     きみは、集めた情報をすぐに話してた。しかも。今回は状況証拠が多い方だ」

エレン「さあ、つい数時間前は空腹でぶっ倒れたからな。頭が回らねえのかも」

アルミン「エレン。僕はきみを信じているよ。もし、きみが言わないなら僕が言う」


 アルミンは、大きな目を僅かに細めた。碧い瞳には非難の色が滲んでいる。


エレン「・・・・・・」


 俺は何も言えなかった。

 このまま終わってしまえばいいのに。

 とっとと考えることをやめたかった。




「 学 級 裁 判 再 開 」




アニ「――さて。爆発を仕掛けた奴は、『デッドエンドルーム』の挑戦者ってことになるけど」

アルミン「まとめようか。この中で、あの部屋に挑戦した人は?」


 俺とアルミンが挙手をする。


サシャ「・・・まあ、そうなりますよね、うん」

アルミン「予想はしていたよ」

コニー「えーっと・・・とりあえず、俺も判らないところがあるから、訊いても良いか?」

サシャ「今回のコニーは裁判に積極的ですよね」

コニー「まーな。それで、爆弾は『デッドエンドルーム』から持ってきたんだよな?」

エレン「・・・ああ」

コニー「じゃあさ、リヴァイ先輩がその『デッドエンドルーム』に挑戦した可能性は?」

ジャン「・・・ない、とは言い切れねえな」

コニー「だよな、だって現場には鍵がかかってた。【誰も部屋の中の先輩とは会えない】し、

    そう言う意味では・・・先輩自信が『クロ』なのかなって、思っちゃうんだよ」


 <言弾を『ガタガタの床』ぶつける


エレン「それは違うな」

エレン「あの部屋。完全な密室かというと、そうとは言い切れないぜ」

サシャ「・・・あ、確かに。床は隙だらけでした、隙間だけに!」


 シン・・・


サシャ「・・・あ。なんでもないです。」モジモジ

ジャン「言い切ってから照れてんじゃねえよ、こっちが恥ずかしいわ」

エレン「・・・サシャの言うとおり、貧民部屋の床は、ガタガタでお粗末な造りだ」

コニー「ん~? 確かに、隙間だらけだったけど、それがどうしたんだ」

エレン「あの床下には、充分な空間がある。叩けば音が響くし、風も隙間から入ってくる」

アニ「床下に空間って・・・! まさか、人が入れるほどの空間って言いたいの?」


 俺は頷いた。


エレン「ああ・・・俺たちは、アトラクションの構造を全部理解しきれていない」

アニ「確かに・・・未だに何処からあの建物の中に入ったのかすら、判らない」

エレン「そう、そして・・・・・・」ゴクリ

ジャン「? おい、さっさと言えよ」

エレン「――」グッ


 <言弾『ルーレットの報酬』を提示


エレン「構造を知ること自体が、『ゲーム』の先にある報酬なんだ」

ジャン「どういうことだ、アルミン」

アルミン「・・・よかった、エレン」ボソ

ジャン「?」

アルミン「ううん。エレンの言うとおり。『ゲーム』については詳しく言えないけれど、

     きっちりと報酬が用意されてる。そのひとつが『塔の構造を把握すること』さ」

エレン「あのアトラクションには、隠してある通路や部屋が存在する」

ジャン「あ・・・。俺も<貧民部屋>だが、時々床下から音が聞こえていた。

    ということは『デッドエンドルーム』と1階は【通路で繋がっている】ってことか?」


 <言弾『ジャンの証言』をぶつける


エレン「それに賛成だ」

エレン「そう。ジャンが夜中に聴いたっていう音は、まさに床下の空間を裏付けるものだ。

    <貧民部屋>の下には、<西塔>4階から続く、隠された通路がある。

    ――少し窮屈だけど、間違いなく、人が通れる大きさだった」

コニー「じゃ、じゃあ。床下からどんな方法であれ、先輩にちょっかい掛けることは出来るのか?」

アルミン「そういうことじゃないかな。先輩の自殺未遂説は依然有力だけど、100%じゃない」

アニ「なるほど。もし床下から動いたとすると内鍵をかけたまま、先輩が倒れることもあるんだ」

サシャ「・・・いやいや。床下から何ができるんですか?

    他の人が何かしたいうなら、アニが言ってた、夜中に先輩と話していた相手が怪しいです」

コニー「そいつは確かに。でも、判るわけねえよなあ。みんな、腹減って注意力もなかったし」

ジャン「・・・・・・」

アニ「ねえ、隠し通路が1階下に繋がってるとして、じゃあそれまでの移動方法は?」

エレン「」チラ


『んー。まあ、言っても良いよ~wwww』


エレン「エレベーターだ」

アニ「なるほどね。用意周到だ」

サシャ「夜中に動いてるっていうのに【他に誰も気づかなかったんですか】?」


 <言弾『機械音』をぶつける


エレン「それは違うな」

エレン「なあ。コニー。お前はそれらしい音を聞いたはずだ」

コニー「ん?」

エレン「明け方、何回か機械音を聞いたんだよな」

コニー「そうそう。何回かゴウンゴウンって。2階の廊下にいる時、4時から6時の間にな」

ジャン「エレベーターの昇降ってことか」

アニ「じゃあ、そこで『デッドエンドルーム』へ向かった奴がいるかもしれないってこと?」

コニー「ちなみに、エレンは5時くらいに『ゲーム』に挑戦するって言ったんだ。な?」

エレン「ああ」

サシャ「じゃあ、誰が・・・」


 しばらくの間、沈黙が流れる。

 それを打ち破ったのは、


アルミン「――ハァ」


 アルミンの溜息だった。


アルミン「じゃあ、少なくとも僕とコニーは候補から外れるってことじゃないかな」

サシャ「え、なんで?」

アルミン「だって、コニーはその時間帯からずっと<東塔>連絡橋の前にいたんだ。

     その間に隠し通路を行き来しているなら、連絡橋から戻った時に見つかるよね」

ジャン「そうか・・・<西塔>の人間と、あとはエレンのどれかってことになっちまう」

サシャ「私は違いますよ?」

アニ「とは言っても、あんたは『デッドエンドルーム』から直近の寝室だし、

   一番やりやすいって意味では怪しいんだよね・・・残念だけど。あーあ」コソッ

サシャ「あああアニぃぃぃぃぃ」ウワーン

ジャン「となると・・・・・・」チラ

エレン「ッ!!!」ビク


 ジャンが俺を見る。意味は判っていた。


エレン(お前の名前を、出しても良いのか、ミカサ)


 心臓が跳ね上がった。


エレン(ミカサ、いいのか? お前じゃないって、信じてるけど、言い切れないんだ。

    謝るしかないんだけど、俺は捜査中に、結局見つけてやれなかったんだ・・・)


 ミカサが最後に<東塔>を後にしたのは午前3時より前――。

 最初はその頃に『卒業』したものと思っていた。

 だけど、もし――もしも。


エレン(その時<西塔>で『事件』に関わり、成し遂げた上で『卒業』したのなら・・・?)


 3時過ぎに『卒業』した、というのはハンジの言と、状況から判断した結果だ。

 その前にゲームに挑戦し、報酬を利用したのだとしたら・・・

 俺だって報酬を全て知っているわけではない。

 ミカサ側で利用できることなんて、いくらでもあるのではないか。


エレン(お前は、俺に待てって言ったんだ。何処で待てば良いんだ?

    お前がもし『クロ』だとして、それを暴くのは、『待たない』ってことになるのか?)


 ジャンは俺の判断を待っている。案外、馬鹿じゃないから、俺の迷いを察しているだろう。


 ド ク ン ―― ッ


 『卒業』したお前は今、どこにいる。

 『卒業』したお前がクロなら、どうなってしまう。


エレン(今のハンジは怖い。入学当初とは様子が違う。ミカサに何をしでかすか判らない――)


 でも、お前がクロだとしたら、この場で必死になって堪えてきた、こいつらはどうなる?


エレン(アニ、サシャ、コニー、ジャン・・・リヴァイさん・・・)


 選ばなくてはいけない。


エレン(ミカサ・・・!!)


 なにを、どう信じていくのか、選択しなくちゃいけないんだ。


エレン(俺は――・・・>>419



 * 以下からエレンの行動を選択して下さい。

  ・ミカサを信じ、彼女がゲームの挑戦者であったことを皆に【告げる】

      or

  ・ミカサを信じ、彼女がゲームの挑戦者であったことを皆に【告げない】

告げる

【告げる】



エレン「・・・ひとり」ポツリ


エレン「・・・1人いるんだ。『ゲーム』に挑戦すると明言した奴が・・・」


 ジャンの細長い眼が、ほんの少しだけ見開かれた。


エレン「――ミカサだ」

コニー「え・・・み?」

アルミン「ミカサが・・・?」

エレン「・・・あいつは、『卒業』前に、俺に告げていったんだ。

    『デッドエンドルーム』に挑戦すると・・・」

アニ「エレン、アンタも挑戦者だ。それを踏まえて、嘘は言ってないんだね?」

ジャン「・・・俺が、保証する」

サシャ「?」キョトン

ジャン「ミカサがいなくなった後、俺がハンジぐるみに裏付けをとったんだ。

    どうも、『ゲーム』に挑戦した可能性が高い」

エレン「それは、おそらく3時前の話だし、コニーの聴いた『機械音』

    に関連するかは疑問なんだけどな・・・」

ジャン「そうでなくても、俺だって何度か床下の音を聞いてる・・・」

アルミン「何らかの形で関わってる可能性はあるんだ」

アニ「なんで黙って・・・ああ、あんたたち2人だからね。いい、判った。

   私も、学級裁判の足を引っ張ったことはあるし、人のことは言えない、ごめん」 

エレン「いや、俺こそ、ごめん」

コニー「気持ちは判るけど・・・頼むから早く話してくれよ・・・」

エレン「悪い。ミカサがこの場にいない以上、弁護出来る人間がいないんだ。

    だから・・・本当にごめん」


身内に甘いところは、俺もミカサも同じかもしれない。


アルミン「なるほどねえ・・・でも。ミカサだったら辻褄が合うなあ」

エレン「え?」

アルミン「『クロ』はミカサかなって・・・」

ジャン「なっ」

エレン「なんでだよ、3時より後は、ミカサは学園から『卒業』してた。

    【エレベーターを操作できない】はずなんだ」


 <アルミンが、言弾『隠しエレベーターの制御権』をぶつける


アルミン「それは違うよ」

アルミン「あれ・・・エレンは『ゲーム』の報酬で見落としてるみたいだね」キョトン

エレン「え・・・」


 血の気が引く。


アルミン「ほら。あのエレベーターに関するご褒美がきちんと宝物庫――、

     もとい、武器庫にあっただろう?」

サシャ「ごほうび・・・?」

アルミン「エレベーターはリモートコントロールだよね。それの操作権限を与えるって、

     たぶん、こういった『事件』に利用してほしいハンジの画策だろうけど――、

     ――報酬である武器庫の中に、説明書きのファイルがあったよね?」


 一瞬、頭が真っ白になった。


エレン「・・・・・・」

エレン「・・・ごめん、見逃し、てた・・・」ボーゼン

アルミン「そ、そうなんだ。きみほどの人が、珍しいね・・・。

     とにかく、当然だけど、遠隔でエレベーターの運転も操作できるんだ」

コニー「えっと・・・つまり、遠くからエレベーターで動かしてたってこと? か?」

アルミン「操作権限を与えられた人間なら、片手でできるよ。時間設定もできる」

エレン「・・・あ・・・い、いや、それだったら、俺だって、アルミンだって操作出来る」

アルミン「それがね、できないんだ」

アニ「どういう?」

アルミン「だって、肝心のコントロールパネルは、遊園地の外・・・校舎側にあるんだって」

ジャン「ちょっとまて、じゃあ、操れるのは・・・」

アルミン「うん、あの時間、『デッドエンドルーム』に人がいないと仮定した場合、

     できるとすれば、あの時点ではミカサだけなんだ」

エレン「おい、本当かよ・・・?」


『――うん、そうだね、コントロールパネルは、アトラクションの外側にあるよ』


アルミン「・・・もちろん、ミカサだって思う根拠は他にもあるよ」


 <言弾『部屋の交換』を提示する


エレン「部屋の、交換のことだな・・・?」

アルミン「うん。ジャン、昨夜は一晩だけ、ミカサと部屋を交換したんじゃなかったっけ」

ジャン「・・・ああ」

アルミン「おかしいよね、最後の最後に交換なんて。頑ななミカサの行動としておかしい」

アニ「・・・確かに。あいつは早々、譲りそうにないのに」

アルミン「うん。部屋の交換によって手に入りやすくなるものがあるよね」

ジャン「!!」

コニー「<貧民部屋>でってことだよな? ん~」ムム


 ああ

 そうか。


エレン「・・・凶器のスポークってことか・・・?」


 気づけば、俺は力なくそう答えていた。


アルミン「そうさ・・・。つまり、凶器を手に入れたミカサが、

     リヴァイ先輩の部屋の床下に潜み、隙を見て・・・突き殺そうとした」


 アルミンの声は、からからに乾いたものだった。


サシャ「ミカサは力があるし・・・」

アニ「すこし頼りないスポークを凶器として扱うことは、出来たかも知れないね。

   女子でも、私とあいつなら、出来る可能性がある」

アルミン「――そして、密室の空間を作り、先輩の自殺未遂に見せかけた」

エレン「・・・っ・・・」

サシャ「ミカサが・・・?」

ジャン「――フゥ 悪いな・・・」ポツリ

ジャン「スポークの件なら、俺もひとつ。思い出したことがある」

エレン(ジャン・・・?)


 <ジャンが、言弾『消えたスポーク』を提示


ジャン「事件の後、捜査中に、いったんミカサの寝室――つまり、元・俺の部屋を調べた」

サシャ「そういや、捜査中、寝てるエレンを起こしてから、部屋に戻ってましたね」

ジャン「ああ・・・。正確なことは判らない。

    あの部屋のタイヤから、確かにスポークが何本か抜けていた」

コニー「無くなってたのか・・・?」

ジャン「もちろん、留守にしたら誰でも出入りできるから、根拠には乏しいが・・・。

    元々ぶっ壊れてて、違いなんか普通判らないような部屋だ。

    だけど・・・確かに・・・綺麗に数本ずつタイヤから抜かれてた」


 どうしよう。ミカサ。


アニ「それは、ジャンにしか気づけない程の違いなのかい?」

ジャン「ああ。一応、使用前に備品のぞうきんで細かく掃除してたから、ようやく判った」

アニ「そう・・・一瞬、他の人間がミカサに濡れ衣を着せるためって可能性を考えたけど」

アルミン「そのための工作だとしたら、判り難すぎて、素人の僕たちは見逃してしまうね」

アニ「うん コクリ。他人の部屋に出入りするリスクを考えると、メリットが小さい」

サシャ「あれ、確かリヴァイさんはスポークの束を握ってたんですよね・・・」

ジャン「・・・自分で、身体から抜いた状態で意識が飛んじまったじゃないかと、思う」

サシャ「あ、なるほど・・・」

アニ「そうか・・・今回、アリバイを立証できない生徒がほとんどだけど、

   そういう場合に優先される状況証拠や証言が、ミカサに合致しているんだ」

コニー「じゃ、じゃあ。マジでミカサが・・・?」

アルミン「いや、ただ、そこはもう少し、他の生徒のアリバイも含めて検討をした――」


『さあて、結構、深い議論が出来たんじゃないかな?』


エレン「――!!」ハッ

ジャン「え? ちょ、」

アルミン「・・・学園長。まだ、早いんじゃないですか?」イラッ


『ううん。今回、実はすでに、今までで一番、時間を与えてるんだよねえ。

 あれだけ捜査時間もあげたでしょう、アルミンwww

 まだ、我が儘言ってくれるのかな、このハナ垂れ小僧。』


アルミン「なっ――!!?」カチン

ジャン「あ、アルミンの言うとおり、まだ疑問点が」

エレン「そ、そうだよ・・・」


『エレンは面白いなあ。自分からミカサのことを話して、

 膠着状態の裁判を動かしてくれたじゃない。つまりそういうことでしょ?www』


エレン「まってくれ、まだ、何か・・・」


 俺は手元のタブレットを見直した・・・。


エレン「 あ、れ ? 」


『ほらほら、まだ何かあるの?www』


エレン「・・・っ」


『ないよね? ないでしょ。てめぇは幼なじみを、家族に等しい存在を売った。

 心の何処かでそう思ってるから、もう弁護の言葉なんて出てこないよwww』


エレン「 違 う !!! 俺は、俺はミカサを信じて、だから・・・」


コニー「でも・・・」

サシャ「・・・・・・」


エレン(空気が、呑まれてる・・・ああ、ダメだ・・・)


 俺の中の何かが、崩れ去る。

 ジャンが、アルミンが、みんなが俺から視線を逸らした。


エレン「待ってくれ、お願いだから、な あ !!!!」


『ほーら、じゃあ、始めるよ、投票ターイム!!!!』


 ハンジの声が、高らかに響いた。



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    -----------------------





 ――あの裁判から、数ヶ月が過ぎた。

 俺は自分に、それ以外の生徒はミカサに投票して・・・。


 “はーい、みなさん、大 正 解 !!”

 “今回の『クロ』は、卒業生ミカサ・アッカーマンちゃんでした~~~~!!”


 ハンジぐるみは『卒業』したミカサに相応のオシオキをすると告げた。

 不思議と、ミカサより後に『卒業』した人間はいない。


サシャ「・・・最近、アルミンを見ませんね」

アニ「あいつ、どうもコソコソ学園長の周りを嗅ぎ回ってたみたいだしね」

サシャ「え、オシオキを受けてるとか・・・? バカですねえ、アルミン・・・」ハァ

コニー「・・・・・・なあ、俺たち、いつ卒業出来るんだろ」

サシャ「さあ・・・?」

エレン「いいんじゃないか、急がなくても」

ジャン「お前らなあ・・・」チッ


 リヴァイさんは、ずっと眠ったまま。

 
エレン「ジャン、お前は最近、本当に、卒業卒業って言わなくなったな・・・」

ジャン「ああ。こうなったら、最後まで付き合ってやろうと思ってな・・・」

エレン「そうだな。急がなくていいんだから」

ジャン「・・・・・・ああ、そうかよ・・・」


 だって、ミカサが待っていて、と俺に頼み事をしたんだ。

 俺は、あいつを信じて、ここで待ち続けている。


エレン(そうだよ、俺は別に、信じなかったわけじゃない。信じたから、あの時、告げたんだ)


 信じていた。俺はお前を信じている。

 だから、今も信じて待つんだ。

 平和を獲得した、この、小さな楽園の中で。











 この学園の中だけの平和。俺たちだけの平和。


 それが俺たちの希望・・・。


 希望・・・


 希望・・・


 希望・・・?


 ・・・これが?


エレン「――いいや! 違うっ!!!」


 俺は叫んで。裁判場で、ありったけの声を出して。


エレン「・・・あ・・・れ・・・?」ポカン



 みんなが、怪訝そうな眼を俺に向けていた。


ジャン「おい、何、いきなり叫んでんだよ、頭大丈夫か?

    お前、何か発言したそうだったが、早く言えよ」


エレン(発言・・・?)


 ――ああ、そうか、確か俺は・・・。

 ミカサが『ゲーム』の挑戦者であったことを、告げるか、告げないか、

 そこで悩んでいたのだ。


エレン(よく、考えないと・・・。)


 なにを、どう信じていくのか、選択しなくちゃいけないんだ。


エレン(俺は――・・・)


【告げない】



エレン(決めた。ミカサを信じよう)


 そうだ。ミカサが、リヴァイさんを手に掛けるワケがない。

 絶対に、何か理由があってあの場で卒業したのだ。


エレン(ミカサに不利なこの状況。黒幕だか『クロ』だかが作り出しているんじゃねえか?)


 ミカサがいつでも『卒業』できる状態だったというなら、

 俺たちの知らないところまで、あいつは把握していた可能性が高い。


エレン(元々、このアトラクション自体、ハンジぐるみに刃向かう要素を取り除く、

    『ペナルティ』としての側面があったんだ・・・)


 ミカサを信じて待つ。そのためなら、俺は――、


ジャン「――おい、エレン。何か言うことは無いのか?」

エレン「・・・いいや、俺からは何も」

ジャン「・・・判った。それじゃあ――」

アルミン「それじゃあ、エレン、ジャン、アニ、サシャ。君たちのアリバイを証明するんだ」

サシャ「アリバイですか・・・? アリバイ・・・?」

アルミン「部屋にいたって証拠だよ。示すことができるなら、言って欲しい」

アニ「・・・私は、自分ならともかく、ジャンのアリバイならある程度証明できる」

ジャン「俺の?」キョトン


 <アニが、言弾『ジャンのアリバイ』を提示


アニ「そう。午前3時くらい、あんたは<貧民部屋>でエレンと一緒にいた」

ジャン「ああ・・・エレンがミカサの部屋と勘違いして訪ねて来た時だな」

アニ「そこから、私が運動しようと外に出るどのタイミングでも、あんたは部屋の中で起きてた」

ジャン「・・・そうだな、俺はあんまり寝てない。なぜ知ってる?」

アニ「あの部屋は音が2階の廊下まで響いてしまう。足音もよく聞こえるし、

   あんたさ・・・シャワーを浴びてたよね」

ジャン「へ?////」カアァァァ

エレン「シャワー?」

アニ「部屋のシャワーのお湯が出なくて、ハンジぐるみを呼びつけてた。違う?」

ジャン「ん・・・まあ・・・」


『確かに。5時過ぎくらいは、ジャンと話をしていたねえ。

 こいつ坊ちゃんなのか知らないけど、湯の出し方に四苦八苦してんの!!www』


サシャ「判りますよ。古いのだとコツがいるんですよね」ウンウン

コニー「あー、故障と思ったらてめぇの使い方の問題だったってヤツだなww」

ジャン「うるっせーな! 仕方ねえだろ!!?」ギャンギャン

エレン(俺が、ジャンの部屋から戻って一眠りしてる間か・・・)

ジャン「・・・そんなに響くのか、俺の声・・・」ブツブツ

サシャ「で、5時の時点でエレンが『デッドエンドルーム』へ向かった、と」

ジャン「俺もしばらくはハンジと故障かどうか言い争ってたな、それからベッドに戻った」

エレン「俺が<西塔>に行った時は、誰も見かけていないぜ」

アニ「あんたは? サシャ」

サシャ「んー? 私は寝ていましたよ、ずーっと部屋で。誰とも会ってないし喋ってないです」

アニ「だから、それを証明することは出来そう?」

エレン(そうだな・・・こればっかは自分で言うしかないぞ、サシャ・・・)ゴクリ

サシャ「で・・・できませんよぅ!! 信じて貰うしかないです・・・!

    誰かが【私のいびきを聴いてくれてたら】話は違いますけど!!!」


 <アルミンが、言弾『熟眠アプリ』をぶつける


アルミン「それに賛成だ」

アルミン「じゃあ、同じ<富豪部屋>である僕が、証明してあげるよ」ニコ

サシャ「? ??」キョトン

アルミン「<富豪部屋>のベッドが、かなり高性能でさ。

     宮台に、快適に寝ることを目的とした機能が取り付けてあるんだ」

サシャ「確かに、ベッドは色々よくわからないスイッチが取り付けてありましたけど・・・」

アルミン「リクライニングも出来るし、間接照明の調節もワンタッチ。

     で、面白い機能が、不眠症を改善するためにの『熟眠アプリ』なんだ」

アニ「熟眠?」

アルミン「寝ている人の呼吸を録音し分析、その人が起きやすい時間にアラームを流したり、

     録音したものをソフトで視覚化して、自分が抱える睡眠障害を確認できるんだよ。

     部屋にあった取説によると、元々、医療研究に使われる機能らしいよ」

エレン「そうか! その録音機能が使えるんだな」

アルミン「うん。学園長に許可をもらって、録音内容をデータ化してもらったんだ」


 『12倍速で再生するね。ポチッとな』


サシャ「え」


 俺たちはしばらく、裁判場で流された音声に聴き入った。

 確かに、寝息(と、時々いびき)が絶え間なく聞こえる。

 サシャの呼吸音をしっかりと捉えていた。


アルミン「――どう? サシャは部屋から一歩も出ていない、って証拠になるかな?」ニコ

エレン「いや・・・お前よくあんな環境で寝られるなあ」ホッ

サシャ「私のいびき、結構かわいいもんですね」ホッ

コニー「俺だったら恥ずかしくて死んじゃうな、こんな公開処刑・・・」

コニー「・・・何か思い出せそうなのに・・・」ボソ


『なーんか進まないなあ。この場の人間なんて、ほとんどアリバイがないだろう?w

 いい加減、確信になることを言って欲しいものだけど。』


アルミン「アニは、3時前、それから5時台と出歩いている、それを証明してくれる人は?」

アニ「いないね。強いて言うなら、5時くらいの出歩きは、コニーが見てたはず」

コニー「そうだけど・・・」

アルミン「じゃあ、エレンは」

コニー「『ゲーム』に挑戦する前に俺と会ってる」

サシャ「・・・それなんですけど、エレン、貴方は5時過ぎてから、挑戦したんですよね」

エレン「ああ」

アニ「・・・はじめて?」

エレン「・・・どういう意味だよ」

アニ「・・・・・・」


『うぷぷぷ。そろそろ何か話したらどうなんだい』


 ハンジぐるみが、目線を下にしばらく黙りこくっていたジャンを見る。


ジャン「――フゥ 悪いな・・・」ポツリ

ジャン「俺は、あのプラスチック爆薬を設置した時間が重要だと思ってる」

エレン(ジャン・・・?)


 <ジャンが、言弾『爆薬の設置時間』を提示


ジャン「・・・俺が瓦礫の撤去をしている時、ハンジもまた、現場検証に来ていた」

サシャ「そうですね」

ジャン「そのとき、こいつはうっかり呟いたことがある」


『え。え? な、なんのこと・・・?』


ハンジの眼が泳いでいる。


ジャン「確かこう呟いたんだ・・・。

    『あれ、前のトレースでは検知しなかったのに、いつの間に?』って」

アルミン「トレースっていうのは・・・?」

ジャン「その時は俺も何を言っているか判らなかった。でも今ならその意味に見当が付く」

エレン「トレースって、まさか・・・」

ジャン「ああ・・・なあ、ハンジぐるみ。お前はこういう意味で言ったんじゃ無いか。

    『前に危険物の検査をした時は反応が無かったのに『クロ』はいつの間に設置したんだ』」


『・・・・・・』


アルミン「ああ。爆発物の検出方法のことか・・・」


 アルミンが納得したように拳をうつ。


サシャ「検出・・・?」

ジャン「爆発物が隠されていないか、確立された方法で捜すんだよ。俺も詳しくは判らん」

アルミン「なるほどね・・・」

ジャン「どうなんだ、ハンジぐるみ。お前は監視の一環として、検知していた――違うか」


『・・・・・・・・まあ、否定はしないね。ジャン、きみは結構周りを見てる』


ジャン「・・・じゃあ言えよ。最後に爆発物の設置検査を行った時間は・・・?」


『・・・しょうがないなあ。方法はイオンモビリティースペクトル法。

 いつ、誰が、『ゲーム』の報酬を持ち出してやらかさないか・・・。

 私はね、この塔で起こりうる危険を想定して、定期的に調べてたんだよ。


 最後は――午前4時44分に、塔内の主立った場所を・・・ね』


エレン「4時・・・44分・・・」

ジャン「・・・つまり、その時間以降に爆発物を設置した人間が怪しい。

    <東塔>にいたアルミンとコニーは外れる。サシャは部屋で爆睡。

    俺は部屋でシャワーを浴びてた。アニはそれを知っていて・・・

    その後すぐ、コニーがアニの存在を確認している」

エレン「・・・おい、ちょっと待て」

ジャン「・・・・・・」ゴクリ


ジャン「――お前は<西塔>での挙動、僅かでも証明してくれる人間がいるのか、エレン」


エレン「・・・・・・俺?」

アニ「・・・・・・」


 しばらく、俺は止まった時間の中にいた。


エレン「俺は、ずっと『ゲーム』に挑戦してた、それは事実だ。

    設置する時間なんてなかった、何度も何度も挑戦していた」


 まるで、自分が喋っていないような、他の誰かがペラペラと喋っている感覚だ。


『まあ事実、エレンくんが挑戦してたせいで、誰もあの部屋には入れないからね』


エレン「!?」


『ほらー。黙ってるだけで結構な手がかりを見つけた生徒もいるでしょ?

 ちゃんと言わなくちゃあ、ダメなんじゃない・・・?』


エレン(――なぜ、この状況でハンジが口出ししてくるんだ!?)

コニー「そんな・・・でも、こいつは・・・くそ・・・」ギリ

サシャ「コニー? どうしたんです・・・」

コニー「・・・今回俺は、いつも以上に自分なりによく調べたんだよ。

    ハンジぐるみに許可をもらって、あちこち調べたんだ・・・ごめん」

アニ「うん。あんたが積極的だったのは知ってるよ、そこは誰も怒らない」

コニー「・・・俺、これは絶対ウソだろうって思って・・・その・・・黙ってた。

    だって、こんなの分かり易すぎて、俺だってひっかからないって・・・」

エレン「・・・なんだよ、コニー。言えよ・・・」

コニー「・・・・・・」


 <コニーが、言弾『エレンの部屋』を提示


コニー「だって、こんなの、誰かがエレンに濡れ衣着せようとしてるだけだよなあ・・・?」


 コニーが見せたのは、俺の部屋の画像だ。

 部屋のゴミ箱から出てきたと添え書きがある。

 画像に映るのは先に血の付着した――自転車のスポークだった。
 

エレン「は・・・!?」

アニ「これ、本当かい?」

エレン「俺なワケがねえだろ!!?」

コニー「そうだよなあ? 『デッドエンドルーム』に隠した方があたまいいよな?」


 コニーの声は震えている。


エレン(こんな。ここまでされるなんて・・・)

ジャン「エレン、お前が最後にゴミ箱を見たのはいつだ?」

エレン「ジャンの部屋に向かう前だ・・・それ以降は、ろくに周りを見ていない」

ジャン「他の人間がお前の部屋に侵入する可能性はあるか。

    ・・・だが、お前がやってないという保証はないぜ」

アニ「・・・ミカサの部屋なら、あんたは自由に出入りしてたよね。

   スポークの入手だって、ジャンたちが部屋を交換する前に可能なんじゃ・・・」

エレン「俺がミカサの部屋を漁ったとでも!?」

アニ「まあ・・・そのミカサもね・・・あんたとだったら喜んで共謀するだろう。

   ミカサとグルだったら・・・・・・色々と辻褄が合ってくる」

エレン「ふざけんな・・・あいつは、例え俺が誘ったって、

    自分が本当に正しくないと思ったら、絶対に乗ってこない」

アニ「だろうさ。じゃあ、ちゃんと説明してもらわないと・・・」ギロ


 『クロ』が俺だった場合。『クロ』がミカサだった場合。

 状況証拠が、その仮定を濃厚にさせる。そう、生徒それぞれが見つけた状況証拠が。


エレン(決定的じゃない・・・だからこそ議論が困窮する。これは偶然か・・・?)


 きっと違う。誰かが、この空気を作り出している。

 一体、誰が。

 
ジャン「・・・そもそも、ゲームに挑戦した時間だって、こうなりゃ疑わしい・・・」ギッ

アルミン「・・・確かに、今回のエレンは、裁判中の様子がおかしいよ。

     何か、僕たちに隠しているように思う――」

エレン「それは・・・!!」


『・・・・・・・・・』


ジャン「ああ。そうだろうとも。だから、俺はこうやって追及してるんだ。

    お前がクロじゃないってんなら、お前が何か言うしかねえだろ!!」

アルミン「でも・・・ちょっと気が早いんじゃない、ジャン?

     爆薬を持ち出すタイミングも、スポークを捨てるタイミングも――」



『はい! タイムアップでーす!!!』



エレン「・・・え?」


『学級裁判の議論はこれにて終了! だからもう喋らなくていいんだよ』


アルミン「・・・どういうことだ。タイムアップなんておかしいだろう!!

     だって、今まで一度もそんなこと・・・」


『アルミンが捜査時間を露骨に要求したせいだよ!! そのせいで時間が押してんの!!

 忘れてるだろうけど、私には糞リヴァイの治療もあるんだからねっ!!』


サシャ「え? え、わかんない、わかんないですよー!!」コンラン


『――と、いうわけで、そろそろ投票タイムといきましょうか!

 君たち、お手元のスイッチを使ってさっさと投票してやってくださーい』


エレン「ちょ、ちょっと待てよ・・・!!!」


『こっちはこんな裁判終わらせてしまいたいんだよ、何せこれから忙しいから!!』


エレン(な、どういうことだ・・・!!?)

アルミン「・・・・・・くそ・・・っ!!!」

ジャン「ふざけんな!!! 明らかに議論の途中だろ!!?」

コニー「そうだ!! 口出しすんなよ!!!」

アルミン「きみたち黙って!!! ・・・学園長は本気だろう。

     言いたくは無いけど・・・こういう流れには逆らうな・・・」ギリ

ジャン「・・・ッ・・・」ゴクリ


『賢しい子だよ、きみは。そのとおり・・・さあ、とっとと先に進めようか』ニコ


エレン「・・・誰が・・・っ」

エレン(――だれが、仕組んだんだ?)


 こんなのは、おかしい。今の状況は、異常すぎる。

 だが、こんな状況だからこそ、俺は頭の隅で気づいていた。


 他に犠牲があったとしても、あいつをこのまま逃がす事は、正しい。

 今、一番『自由』に近いあいつを信じることは、正しい。

 ハンジの行動が裏付けてくれた。


 やっぱり、ミカサは『クロ』じゃないんだって。


『さあ、はりきっていきましょーう!!! レッツ、投票タイム――!!!』




 「投 票 結 果」


  エレン・・・6票



サシャ「そ・・・そんなぁ・・・私だけじゃない・・・全員一致?」オロオロ

ジャン「・・・・・留年覚悟だ、それでいいんだろ、エレン」

コニー「・・・・・こんなの不正解だ、絶対」ポツン

アニ「・・・・」


エレン「・・・・・・」


 不思議と穏やかな気分だった。


エレン(次にお前が言うことなんて、判ってるぜ・・・ハンジ)


『はい、 大 正 解 !!! 』


コニー「え」

アルミン「・・・やっぱり・・・」

エレン「・・・・・・」

ジャン「・・・は? 正・・・解・・・!?」

アニ「・・・・・・おかしい」

サシャ「こ、こんなのおかしいです。私は頭良くないけれど!!!

    今回の裁判が、なんだか中途半端だってことは理解できてます!!」

コニー「そーだよ!! そもそも、あの<塔>自体がおかしいんだ、そうだろ!?

    絶対、ハンジぐるみの野郎は何か隠してやがる!!!!」


『なにもおかしくないよ・・・いつもと同じ学級裁判さ。

 お前達が選んだ『クロ』は正しくて、そしてお前達が裁くんだよ。

 だから、いつもどおり事を進めてやるよ、ね、エレン』


エレン「・・・・・・くそやろう・・・」

アルミン「ごめん、エレン・・・」


 アルミンは、眼を潤ませていた。


アルミン「・・・許して貰おうとは思わない。全ては僕の責任だ・・・」

エレン「・・・よおく、判ったぜ、ハンジ・ゾエ――」


『オシオキしてあげるよ、エレン・イェーガー。

 てめぇが二度と、この楽園に対してキバを向かないように・・・。

 お前は失敗こそしたが人殺しだからな、地の底に蹴落としてやる』ニッコリ


エレン「・・・・・・・・・」

エレン「なあ、お前ら――」


 震えるコニーを、冷や汗を垂らすサシャを、険しい顔をするアニを。

 今にも激高しそうなジャンを、涙しながらもまっすぐ俺を見るアルミンを。

 俺はひとりひとり見つめながら、静かに声を出した。


エレン「お前ら。そろそろ、こんなとこ、出ようぜ・・・」ポツリ


 俺たちはきっと、長い悪夢を見ている最中なんだ。

 ただただ、夢であるが故に、ぬるま湯に浸かったまま眠り続けていたんだ。

エレン「俺たちは・・・何に怯えているんだろうな・・・?

    ここは、単に勉強するってだけなら、快適で、良い暮らしだった。

    どんよりした世間のイヤな空気とはオサラバできる・・・」


 いつの間にか俺たちは、箱庭な飼われることを歓び享受していたよな。


エレン「でも・・・やっぱり、こんなのは、生きてるって言わないんだよ・・・

    心の中で、最期は喰われるだけと散々見下してきた――畜生どもと同じだ」


アニ「・・・・・・そう・・・・・」


『お前達のための学園だというのに、随分と舐めた口をきくもんだ・・・』ハァ


アルミン「・・・畜生だって、頭はあるさ・・・」

エレン「どこに蹴落とされようが、必ず這い上がってやる・・・

    この事件を、学園を暴いてやる。お前の背後にいる『黒幕』を・・・

    一匹残らず、駆逐してやる・・・!!!」


『――何度、その覚悟が打ち砕かれたことだろうか。願わくば、これ以上見たくない。

 ま・・・きみの眼は嫌いじゃないよ・・・・・それじゃあ、行ってらっしゃい。』


 俺は、突如出現した量産型ハンジぐるみに首輪をつけられ、

 繋がる鎖の先まで引きずられた。着ている服はボロボロになり、皮膚が切れる。

 どれだけ引きずられたのだろうか。


 動きが止まり、瞑っていた眼をおそるおそる開いた。


エレン「・・・・・・・・・・?」


 扉の前に立たされていた、先には何も無い。そう、『床さえも』。

 冷たい空気に背筋が震える中、ハンジぐるみが俺の耳元でささやいた。


『本当はミカサから始末しときたかったんだけどねえ・・・。

 ――まあ、てめぇの場合もそろそろ、黙らせねえととは考えてたしな』


エレン「・・・!?」


『お前のことは買ってるんだ・・・だからこそ、あえて仕置きしてやる。

 そうだな・・・しばらくクソにまみれて頭を冷やせ』


エレン「っどういう・・・っ!?」


『それじゃーねえええっ、エレ~~~~ン!!!!』



 俺は、絶叫していた。

 そうして、文字通り蹴落とされて、奈落の底に沈んでいった。




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 ――直後、裁判場



アルミン「・・・学園長、予定を狂わされて苛立っているんですか?」


『なんのこと? 学園の頂点はこのハンジだよ? 依然変わりなくッ!!!

 エレンはしばらく出てこれられないよ、アルミン。

 地下の地下のそのまた地下で、彼は孤独にキバを抜かれるのですwww

 ・・・きみも、この現状を見て少しは大人しくなったらどう?』


アルミン「・・・・・・・・・」


 ハンジぐるみは不気味な笑い声を上げながら去って行った。

 残されたのは、蒼い顔をした生徒達だけ――。


ジャン「どういうことなんだ・・・なんでエレンがクロになってんだよ!?」

アニ「ジャン。私たちは証拠が不揃いなまま、我が身可愛さにエレンを裁いた・・・。

   ここにいる奴らは全員、頭の何処かでは不正解だと思っていたさ・・・。

   だって、あいつならちゃんと反論してた筈だから」

ジャン「・・・ああそうだ・・・ハンジの奴・・・気が触れやがって・・・!!!」

アニ「とはいえ選んだのは事実。今さら喚き散らすのもおかしいだろう」

サシャ「・・・・・・どうしよう・・・っ」グス

コニー「何処に行っちゃったんだ。今までのオシオキとは全然違う・・・っ」

ジャン「・・・っ」

アルミン「いいや。大丈夫だ、追い詰められているのは黒幕の方だよ」

ジャン「・・・どういうことだよ、アルミン」

アルミン「すぐに判るさ・・・すぐにね」



アルミン(・・・きみのお陰で、事は動き出してるからね・・・)




第四章「エウカリスは哀しまない」 非日常編 END


  生徒数 残り07人


以上で非日常編が、終了です。

次の五章が最終章なので、もうしばらくお付き合いいただければと思います。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年02月26日 (水) 22:39:54   ID: VssZkeZj

続き、楽しみにしてました!これからも頑張ってください!!

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