女「私すごく不器用ですしっ、つ、つつつ付き合うとかそんにゃっ」(385)

友「あ、やばっ。今日バイト……! あーもう、HR長すぎ」

女「大丈夫? よかったら掃除当番代わるよ?」

友「え……、いいの?」

女「もちろんだよ。友ちゃんバイト始めたばっかりでしょ? 遅刻したらまずいんじゃない?」

友「……うーー、……ごめん。甘えていいかな? お礼はちゃんとするから」

女「気にしないでいいって。それよりバイト、がんばってね」

友「ありがとっ、いってくるね!」

女「うん、また明日~」

放課後

 「あれ? 今日女さん掃除当番だっけ?」

女「友ちゃんの代わりなの」

女「……あ、友ちゃんこの前代わってくれたからさ。それで」

 「だから友さんいないんだ。またバイトとか言ってサボったのかと思った」

女「あ。たぶんそれ、いけないの私だ……」

女「友ちゃんに掃除当番頼まれてたのに、忘れてて帰っちゃったりして」

女「ほんと、ごめんね。次から気をつけるから」

 「ふーん……」

女「えっと、……雑巾、洗いにいってくるね」

女「(うう。冬の水、冷たい……)」

女「(でも私がやらなかったら、他の人が雑巾絞らなきゃいけないし)」

女「(ううっ……)」

 ギュゥゥゥッ

女「(手の感覚が麻痺してくる……)」

先生「おっ、女。いいところに」

女「え、あ……ど、どうも」ペコリ

先生「おうおう。お前だけだよ……先生におじぎのひとつでもしてくれるのはさぁ」

女「えっと、その」

先生「いい、いい。先生は分かってるから。うんうん」

女「はぁ」

先生「……で、だ。頼みごとがあるんだけど」

女「何でしょうか」

先生「もう年末だろ? 教頭が大掃除しろって煩くてさー。社会化準備室を整理するから手伝ってほしいんだ」

女「これからですか?」

先生「何か用事でもあるか?」

女「特には……」

先生「じゃあ、頼むよ」

女「分かりました」

先生「おぉっ。助かるよ! 社会科準備室で待ってるから」

女「はい」

先生「じゃあ、後でな。いやーいい生徒を持って俺は幸せだよ……!」

女「……」

女「…………えへへ」

女「(…………先生。何も、分かってないよ……)」

社会科準備室

女「し、失礼します」

女「……あれ。先生……?」

女「(……机の上にメモが)」

 『すまん! 先生用事が出来た! 悪いけど机と書棚を適当に整理しておいてくれ!』

女「……えへへ」 

女「(机の上は書類の山だし)」

女「(書棚はよく分からない本ばっかり積んであるし)」

女「(整理っていっても……何が要るもので、何が要らないのか)」

女「……ふ、ぅ」

女「こういうとき、どうすればいいんだろ」

女「似たような書類を一緒にまとめて、要らなそうなのはヒモでしばっておけばいいかな」

女「うじうじ悩んでてもだめだから、頼まれたからにはやらないとね」

女「うん、うん」

女「(……掃除、好きじゃないのにな)」

女「(断っちゃえばよかった)」

女「う、う。ほこりっぽい……」

女「ケホッ、ケホッ。……マスク欲しい」

女「(きっと仕事机じゃなくて、物置みたいにして使ってたんだろうなあ)」

女「(じゃなかったら、こんなに埃っぽくならないし)」

女「……あ」

女「これ、ずっと前の小テストの……。返ってこないと思ったらこんなところに」

 ガラッ

男「失礼しゃーっす」

女「つっっ!?」ビクッ

男「え? あれ? ……女……さん?」

女「あ、あはは」

男「先生、知らない?」

女「こっ、これは違うからっ。違うのっ、そのっ、たまたまここにテストがあって」

男「?」

女「じゃじゃじゃじゃなくてっ、先生!? 知らないっ……あ、知ってる!」

男「っぷ。どっち?」

女「し、知ってる!」

女「よ、用事っ。あるからって。帰ったみたい」

男「あーー……またか……」

女「どうしたの?」

男「部室の鍵、先生持ってるんだよね」

男「はぁ……今日はもう部活休みだな」

女「そっか。災難だね」

男「じゃ、帰ろうかな。また明日」

女「うん、また明日ね」

女「…………」

女「…………ふぅ」

女「あやうくカンニングとか点数操作とかと勘違いされるとこだったよ」

女「てへへ」

 ガラッ

男「そういえば女さん、こんなとこで何してるの?」

女「~~~っ!!!?」ビクビクッ

女「い、いやそのあのええええっとその」

男「ごご、ごめん。びっくりさせちゃって、ごめん」

女「わわわわたしこそっ、あのっ、別に怪しいとか後ろめたいとかそういうんじゃっっっ」

男「俺が言うのもなんだけど、落ち着いて」

女「う、うんうん。落ち着く。うんうんうん」

女「……というわけでして」

男「くっそどこまで勝手なんだよあいつ。ほんと教師って器じゃねーな……」

女「せ、先生は悪くないよ。軽く受けちゃったのは私だし」

男「それにしたって、このメモ。『整理しといて』はないだろ」

男「いくら先生だからって、頼む態度ってものがある」

女「わ、悪く言わないでいいよ。私は大丈夫だから。なんかごめんね。ほんと、大丈夫だから」

男「……まぁ、女さんがいいならいいけど」

男「手伝おうか?」

女「い、いいって。大丈夫。こう見えてもね、結構掃除好きなんだ」

男「へぇ」

男「掃除好きな人なんて居たんだな」

男「俺は母ちゃんに言われないと絶対自分の部屋掃除しないよ」

男「すげぇな」

女「ま、まぁそんな分けだから。大丈夫!」

女「これだけ汚いと、逆に遣り甲斐があるしね」

男「そういうもんだんだなぁ」

女「(男君帰っちゃった)」

女「(……また、強がっちゃったな)」

女「(でも、同じ部屋で男の人と二人きりとか、何話していいか分からないし)」

女「(これでよかったんだよね、うん)」

女「……うん。うん」

女「がんばろ」

女「んしょ、んしょ」

女「この書類、これと一緒でいいかな。……いっか」

女「っ、けほっけほっ」

女「うーー……」





男「(ちょっと心配になって覗いてみたけど)」

男「(ほんとに一人で掃除してら)」

男「(ふぅん……)」

 次の日

友「おはよ!」

女「友ちゃん。おはよう」

友「昨日ありがとね。マジ助かったよ。おかげでバイトギリ間に合った」

女「ほんと? よかったあ」

友「もー女ってばマジ大親友! これからもよろしくね!!」

女「そんな。大したことしてないよ。でも、ありがと」

女「…………えへへ」

先生「いやーー、昨日はすまんなぁ」

女「いえいえ。先生こそ急用で大変だったんじゃないですか?」

先生「ん~~まぁ、そう、うん。大変だったよ昨日は。本当に助かった」

先生「おかげで教頭にイビられないで済みそうだ」

女「そうですか。よかったです」

先生「ただもうちょっと、あ、いや、すごく綺麗に整理してくれてたのは嬉しいんだけど」

女「?」

先生「あーいや、うん。なんでもない。勝手に頼んだ先生が悪い。ありがとうな」

先生「また頼むよ!」

女「あ、……はい。これくらいでよければいつでも」

女「…………えへへ」

先生「あー、それじゃ始めるぞー。日直ー」

先生「……って、日直担当の奴、休みか」

先生「しょうがねえな。女、代わりに今日日直やってくれ」

女「え? あ……はい」

女「き、きりーつ」

女「礼」ペコリ

先生「……よっし、授業はじめんぞー」

女「……」

 休み時間

女「……」カキカキ

友「あれ? 日誌書いてんの? 今日日直だっけ?」

女「ほら。先生に代わりにやってって言われたし」

友「えー。そんなん適当でよくない? 日誌まで代わりにやる事ないよ」

女「そうかな」

友「そうだよ。絶対そう! そんなことよりさー、バイト先の話聞いてよ! もう最悪なの」

女「なになに? どうしたの?」

友「店長の野郎がさー、最近の子はどうとかいちいち説教たれてきやがってさー。お前は親かっってーの」

女「えー……それは嫌だね。めんどくさそうだね」

友「でしょでしょ!?」

友「……ってな分けでさー。もうほんと辞めたい。でもお金ないしなー」

女「でも友ちゃん頑張ってて偉いよ。私バイトなんかする勇気ないもん」

友「え? えへへ。そっかなぁ。でもやってみると案外遊びみたいなもんだよバイトなんて」

先生「おらー、授業はじめんぞー」

友「あーもう。糞教師が来ちゃった。また後でね」

女「うん」

女「(……あー)」

女「(日誌、どうしよ)」

 放課後  帰り道

女「(結局、日誌途中までしか書かないで帰ってきちゃった)」

女「(いいのかな……、怒られないかな)」

女「(先生がっかりしないかな。代理だし、しょうがないって思ってくれるかな)」

女「(戻って続き書こうかな。でも、めんどくさいな)」

女「(はぁ……)」

女「……わっ」

女「綺麗な花。毎日通ってる道なのに、こんなに群生してるの気づかなかった」

女「(……そういえば、教室の花瓶の花、もう枯れてたな)」

女「(少し、もらっていっても、いいよね)」

 教室

女「(きっと、花瓶の花が代わってても、誰も気づかないんだろうな)」

女「(ほっとくと誰も水をかえてくれないし)」

女「(……でも、いいんだ。私がしたいからしてるだけだし)」

女「よし、こんなのでいいかな」

女「うんうん。名前は知らないけれど、かわいいぞ、キミ」

女「キミのおかげで、教室がちょっとだけ明るくなったよ」

女「……」

女「……なんて、ね」

女「…………えへへ」

女「ついでだし」

女「日誌、書いてこ」

女「うん。教室に帰ってきたついでだから」

女「別にいいよね」カキカキ



女「(………はぁ)」

女「(…………なにしてんだろ、私)」



男「あれ? まだ残ってたの?」

女「~~~っっっ!!!!!?」ビクビクビクッ

女「うぉっおおおっうおお男くんっ!?」

女「どどどどどうしたの!???」

男「あー……どうも俺は女さんを驚かせちゃうみたい」

男「なんか、ごめん……」

女「いいいいっ、いやいやっいやっ、私がびっくりしやすいだけっ、だけだからっ」

男「こんどは登場の仕方、もうちょっと考えてみるよ」

女「わ、私もっっ。この癖直す、ねっっ…………ふ、う。……えへへ」

男「落ち着いた?」

女「うん……な、なんとか」

男「先生しらない?」

女「ごめん、今日は分からない……。また部室の鍵?」

男「そう。部室を開けてもらったはいいけど、閉めてもらわないといけないんだけど」

男「なんか行方不明で。また管理室行って用務員さんにやってもらわないとなぁ」

女「それはまた昨日に続いて不幸ね……」

男「女さんは?」

女「ん?」

男「どうして残ってるの?」

女「い、……いやあ、私としたことが日直なのに日誌書き忘れちゃって」

女「あわてて戻ってきて、今書いてるの!」

男「……」

女「ほんと、私ドジでさ。笑っちゃう」

男「……あ、代わってる」

女「え?」

男「花」

男「花瓶の、花。……変わってる」

女「……!」

男「やったの誰だろ? 放課後になるまでは枯れてた奴がささってたのに」

男「もしかして、女さん?」

女「え、ち、違うよ。私はそんなことしないよぉ」

男「そっか」

女「……う、うん」

男「じゃあ他の誰か献身的で心優しい人がやってくれたのかな」

女「献身的で心優しい……かぁ。花瓶の花変えただけだよ?」

男「'だけ'?」

女「う、うん」

男「そうかなぁ……、すごいと思うけど。俺には出来ない」

女「それでいいんだよ。だって、こんな花瓶の花が変わってたって、誰も気づかないし」

男「うーん……そうかなぁ。2週間にいっぺんくらい、花が変わってるのは俺気付いてたけど」

女「え」

男「誰がやったとか、全然気にしなかった」

女「……そ、そっか」

女「じゃあ、きっと先生が……ってそれはないか」

女「……えええっと、ほら、もしかしたら用務員さんとかが」

男「女さんだったんだね」

女「変えてくれて……」

男「ごめん、さっき、見ちゃってた。変えてくれてるところ」

女「…………………え」

女「……えへへ」

女「たまたまね、今日は、たまたま、そんな気分で。お恥ずかしいです」

女「…………えへへ」

男「そっか」

女「うん、そうなんです」

男「ありがとうね」

女「へ? あ? …………い、え、あー…………?」

女「え、っと……ぉ」

女「ど」

女「どういたしまして」

男「日誌、律儀に書いてるんだ」

女「ま、まぁ。律儀っていうか、なんというか」

男「うっわ。しっかり1時間目から何があったとか書いてるんだ」

女「何書いていいか分からなくて。箇条書きにしてたら、なんかいつのまにか長くなっちゃってて」

男「分かるわー」

女「……え?」

男「俺もさ、結構書いちゃうんだよね。うまくまとめらんなくて」

男「ずっと前のページに俺が書いたのあるんだけど…………ほら」

女「わ。……ほんとだ。すごい」

男「字、汚いけどな」

女「そんなことないよ。頑張って書いたって、すごく分かる」

女「すごいよ」

男「別に頑張ったつもりはないんだけどなー。勝手にこうなってたっていうか」

女「……あ!」

女「そうそう、勝手になっちゃうんだよね!」

男「俺としては別に当然の事なんだけどさ、他の奴らが俺の日誌見たら」

男「やれ真面目だなんだって……」

女「そんなつもりじゃないんだよね」

男「そうそう。いたって、普通」

男「褒められるのも悪い気しないんだけど、なんだか腑に落ちなくってさ」

女「うんうん。それも分かる!」

女「なんか褒められると逆に疲れちゃう、っていうか」

男「褒められても『お前は俺とは違うわー』とか言われてるみたいで」

女「自分が人と違うんじゃないかって、疑っちゃう」

男「そうそう」

女「やっぱり」

男「なんか、俺」

女「なんか私」

男女「「不器用」」

男「なんだよね」

女「なんだぁ」

男「……ぷっ」

女「……ふふっ」

男「あ、ははははっ、そっか。……そっか不器用か」

女「ふふっ、男くんこそっ。不器用って。そんな風に見えないよ」

男「あれだろ、テスト前とかはりきって徹夜して逆にケアレスミスで点数落とすだろ?」

女「え? なんで知ってるの?」

男「俺もそうだから」

女「う、嘘ーーっ!」

男「嘘じゃないって。なんせ俺も不器用なんだから」

女「……にわかに信じがたいです」

男「いやいやいや。今、こんだけ気軽にしゃべってるけどさ」

男「ほんというと…………」

女「?」

男「あ、、えええっと。やっぱなんでもない」

女「ずるい。気になります」

男「いや、ほんとなんでもない。下らないことだから」

女「……私不器用だから、そういうのがずっと心にひっかかって、不安になって、夜寝る時とか考えすぎて寝れなくなっちゃったりして」

女「お風呂入ってる時とかそればっかり考えてのぼせちゃったり、授業中ボーッとしててその時に限って当てられちゃったりしちゃうんです」

男「……う、なんか俺もそういうの身に覚えある」

女「本当に、男くんが不器用だったら」

女「嘘、つけないはずです。嘘つくの下手っぴーなはずです」

男「……いやでも、本当になんでもないんだって。だから気にしないでいいんだよ」

女「嘘、つくんですね」

男「別に嘘じゃないし……嘘じゃ、ないけど……」

女「じゃあ、なんなんですか?」

男「……こ、こういう時だけ敬語はずるい」

男「女さん、本当に不器用なのか」

女「……正直なところ、こんなに強気になるなんて私もびっくりしてます」

男「じゃ、じゃあ……その……強気の女さんに免じて、嘘……というか、黙ってるのはやめにする」

女「いい心がけです」

男「……んー……コホッ」

男「えっと、だな……その……女さんが、花瓶の花を変えるのをね」

男「教室のドア窓から見かけたときにですね、すぐに声をかけようとしたんですわ」

女「……ふむ」

男「で」

女「?」

男「でだ。…………で、その、お、おお俺が、不器用、というか、あがり症だもんだからですな」

男「………え…………れなくって」

女「ご、ごめん。もう一回!」

男「…………声っ! かけれなくって!!!」

女「え」

女「ええぇぇぇぇぇぇっ!?」

男「な、なんかドキドキしちゃって。そ、その……女の子に話しかけるとか普段しないし」

男「馴れてないってのもあるけど……なんか、やけに時間かかっちゃって、教室入るまで、ほんとすっごく時間かかっちゃって」

男「き、昨日もっ。……2回目に社会科準備室に入るとき、心の準備が……準備室だけに、ってうわあああつまんねえええええ」

女「そ」

女「そ、そっか……」

女「あはは、それは、うん。大変だったねぇ」

男「そう、大変だった」

女「そっか、そっか」

男「……うん……それだけ。うん。ほんと、なんでもないでしょ? どうでもいいっていうか」

女「いやいやいや、……いやいや」

男「あーーーもう、ほんと、こんな話するつもりなくってぐうううううう」

男「不器用体質な俺を恨む……」

女「いやあ、なんでかなー。こんな私なんかの為に、遠慮しなくていいからね」

女「遠慮し損だよ、うん」

男「……遠慮」

女「そうそう。気軽に話しかけてよ。せっかくの不器用どうしなんだしさ」

男「うん」

女「私も今度から気兼ねなく話すから」

男「不器用どうし……ってことは、俺の事、不器用って認めてくれたんだね。へへっ、嬉しいや」

女「えっ!? そこ!?」

 ……それから。
 ちょっとずつ、男くんと私は話すようになっていきました。

 教室の中では恥ずかしいから、ゆっくり話すのは放課後とか。たまに。
 お互い狙ったように教室とか、廊下とか、帰り道とか、なぜか体育館とかで会ったり。

 わ、私は、たまのたまーーーに。どうしても話したいときに、ほんの数回。数回だけ男君を待ち伏せしたりとかして。
 でも、そういう甲斐があってか、少しずつ自然に話せるになってきました。
 たぶんもう私たち「お友達」っていっても差し支えないんじゃないでしょうか。
 
 ……そんな男君と、初めてお出かけすることになりました。
 なっちゃいました。

女「……どうしよう」

女「………………どうしよう」
 

女「どうしようお母さん!」

母「んー……何? おかあさん眠たい」

女「寝てる場合じゃないよぉ」

母「寝てる場合じゃないのは仕事がある時だけなの! …………くー」

女「うわあん……お出かけに着る服がない……」

女「お化粧とかしたほうがいいのかな……」

女「でもわかんないし……絶対失敗するし……」

女「うわあん!」

母「くー~……」

女「もう制服で行っちゃおうかな」

女「でもそれじゃ益々服がないって言ってるようなものだし」

女「ううううううううううう」

女「こういう時、普通ならおしゃれ雑誌とか見てコーディネートとかして服買っちゃうんだろうなぁ」

女「……お小遣いつかって、服買いにいこうかなぁ」

女「でもお母さん居ないと、不安だし……店員さん怖いし……私、あしらえない」

女「そういえば、髪もだいぶ切ってない……お出かけ前に美容室行きたいけど、やっぱり一人じゃ怖くて行けない……」

女「どうしよう……こんなの私の人生で想定外だよ!」

女「男の子と二人っきりでお出かけなんて……未知との遭遇だよぉおお!!」

  おでかけ当日  最寄駅前

女「……」ドキドキドキ

女「……」ドキドキドキ

女「(結局小学校の時に買ったシャツとか、中学校の時に買ったブラウスとかスカートとかだけど)」

女「(こんなのでよかったかなよかったのかな。幼いよね。絶対。子供っぽいとか思われたらどうしよう)」

女「(ににににに逃げ出したい。早く来るんじゃなかった……待ち合わせ時間までまだ30分くらいある)」

女「(あと30分もドキドキしっぱなしとか不安でああぁ、もう駄目……どうしようどうしようどうしよう)」

男「はやっ!」

女「ひに゛ゃあああっ!!?」ビクビクビクビクッ

男「まだ30分もあるのに早すぎない?」

女「ふ、ぇぇ……お、男くんこそぉ……」 

男「お、俺は……ば、バスがちょうどいい時間に出る奴がなくってだな」

女「じゃあ待ち合わせ時間もうちょっと遅くすればよかったね……」

男「い、いや。ほら、早く着けばそれだけ良い映画の席取れると思うし」

男「げんに女さんも早く着いてたし……結果オーライ。……な!?」

女「う、うん……」

女「(正直なところ、あと30分も耐えられなかったし)」

女「(すごく助かっちゃった)」

女「ところで」

女「……また、ビックリしちゃったじゃない」

男「逆にどう登場すればビックリさせないのか知りたいぐらいなんだけど」

女「ど、努力ぐらいはしてください!」

男「へいへい」

 電車の中


女「……」

男「……」

女「(電車の中だと、なんか話しかけづらい……)」

女「(ちょっと周りの視線も気になるし)」

女「……」チラッ

男「……」ジーッ

女「(なんか男くん、ずっと窓の外の景色見てるし)」

女「(どうしよ。何か話したほうがいいのかな。話題……話題……)」

男「あ」

女「ふぇ?」

男「鳥。鳥が……あ~……」

女「どこどこ?」

男「ご、ごめん。ただ鳥、ってか……まぁ、可愛い鳥が川に居ただけっていうか」

女「まだ見える?」

男「いやその、一瞬で見えなくなっちゃって」

女「そっか……」

男「うん……」

女「見たかったなあ」

男「鳥、好き?」

女「えっと。どうだろ」

男「そっか」

女「うん」

女「(なんだろうこの会話……すごく、不自然)」

女「(会話って、うまくできないとなんかすごく悲しくなる)」

女「(はぁ……こういう時、器用な人どうしたらいいんだろ)」

女「(鳥が好きとか都合のいい嘘とかついて、適当に話盛り上げた方がよかったのかな?)」

男「あー……なんか、ごめん」

女「ふぇ。 どうしたの?」

男「いやその。うまく喋れなくって」

男「なんか他の人に見られてる気がするっていうか……なんかいつもとちがくって」

女「……あ。なんか私もちょうどそんな感じかも」

男「降りる駅、あと15分位だから。だから、……えっと」

女「だ、大丈夫。気にしないで。私も、だから」

男「……そっか。うん。」

男「……」

女「……」

男「……」

女「……」チラッ

女「(やっぱり、男くんずっと景色見てる)」

女「(……なんか、申し訳ないな)」

女「(男くんすごいよ。私なんて、引っ込み思案だし。うまく気持ち伝えられないっていうか)」

女「(できないこと『できない』なんて言えない。なのに、男くんは)」

女「(一生懸命話そうとしてくれて。失敗しても、素直に気持ちを話してくれるし)」

女「(すごいな……)」

男「……あ」チラッ

女「……っ///」フィッ

女「(……じ、じっと見つめてたのバレちゃった……)」

女「(はずかしぃぃ……穴があったら埋まってしまいたいよぉ……)」

 駅改札

男「っはぁ~。なんか緊張した」

女「そ、そうだね。なんだろうね」

男「電車とか、エレベーターの中とか。なんか苦手。なんでかよく分からないけど」

女「なんか気まずいよね。会話とかしずらい。これも、不器用のせいかな」

男「そうかもね」

女「…………えへへ」

男「もしかして、まだ緊張してる?」

女「や、やだ。なんで分かるの?」

男「なんとなく。……ってか、俺も絶賛緊張中だし。なんか、とにかく何かを喋らないとっていうか、そんな気持ち」

男「うまくいえないけど」

女「私は何話したらいいか分からないくらい緊張してるかも」

女「自分から話しかけられないくらい……」

男「そっか」

女「……ごめんね」

男「じゃあ、俺が話すからさ」

男「適当に盛り上げてよ。……あ、無理にやらなくていいから。相槌うってくれるだけでも嬉しいし」

男「お互い歯車合わなくっても、でも、お互い不器用なんだし、それが当然みたいなもんだろ?」

女「……ふ、ふふっ」

女「うんっ。そうだね。不器用だもんね」

男「映画よく見るの?」

女「うん」

男「じゃあ映画館いくんだ?」

女「そうでもない……かも」

男「週末にTVでやってる洋画劇場とかロードショーとか?」

女「えっと、ね。お母さんが、借りてくる」

男「レンタル?」

女「そうそう。それでね、お母さんの付き合いで見るの」

男「へぇ……」

女「結構私、泣いちゃうんだよ。あ、普段泣いた事とかないんだけど。映画とか本とかではなんかね、泣いちゃう」

女「あ、でも、泣いちゃうとか、……あーなんか私可愛こぶってるかな」

男「そう? 普通じゃない?」

女「そうかな」

男「俺も泣くよ。わんわん泣く。今日も多分泣くと思う」

女「うっそ。男くんが?」

男「上映中に声出して泣いてたらごめんな」

女「ちょっと想像できないよ」

男「いつも一人で映画館行って、一人で泣いてるからさ」

男「今日は女さん居るし。正直なところ俺もどうなるかさっぱりかも」

男「女に涙は見せられない、ってよく言うし」

女「男くんが泣くとこ見てみたいから、思いっきりないていいからね」

女「あー、なんか映画みるよりもそっちの方が楽しみになってきたかも」

男「いやいや、今日観る奴はお勧めだから。しっかりと見てください。お願いします」

女「お願いされちゃった。ちぇ」

男「でも今日観る映画、もしかしたら女さんには合わないかも」

男「特段エンターテイメントってわけでもないし。眠くなっちゃったりとかするかも」

女「うーん、多分大丈夫。お母さんも静かな映画好きだし……って、お母さんはそれで途中でよく寝ちゃうんだけど」

女「私は最後までしっかり見れちゃう」

女「(それに……男くんの隣で座ってる状況なんて、ドキドキしすぎて寝れちゃうはずないしね)」

男「そっか…………、あ……」

女「どうしたの?」

男「いやぁ、なんか普通に喋れてるなぁ、と思って」

女「そういえば」

男「ちょっと、ほぐれた?」

女「ふふっ。……うん。おかげさまだよ」

男「……っあ! やっべ……やっぱ俺緊張してたみたいだ」

女「どどどどうしたの?」

男「道間違えた……」

チケット売り場

 「ご希望のお席ございますか?」

男「えっと、真ん中ぐらいで」

 「申し訳ありません。今そのあたりは混み合ってまいりまして」

 「お二人さま並んだお席ですと、やや前の方か後ろより……あとは、通路側になってしまうんです」

男「え? えっと……ど、どっちがいいかな?」

女「ふぇっ? ど、どどっちかな。わかなんないや」

 「ふふ。では、通路側のお席などいかがでしょうか?」

男「あ……そ、それでお願いします」

女「お願いします」

 「学生様、お二人で3000円になります」

 「学生証のご提示、お願いします」

男「俺としたことが学生証忘れちゃうなんて……」

女「でも、受け付けのお姉さんいい人、次回からで良いって言ってくれたし。良かったよ」

男「けど、ちょっと、笑われちゃったなぁ」

女「……ね」

男「俺が道間違わなければ、真ん中の良い席とれて、チケット買うのももっとスムーズだったかも」

女「そんな。あんまり気にしないほうがいいよ。ポジティブにいこうよ!」

男「ポジティブ……」

女「私たちが不幸な分だけ、誰かが幸せになってたりするんだよ!」

女「ほら、私たちが狙ってた席を、別の誰かが座れたってことでしょ? 良かったじゃん♪」

男「……うん。大変脆そうな論理でポジティブかどうかは疑問だけど」

男「ちょっと励まされたかも」

 2時間後

男「うっ……うぐっ。ひぐっ……うううう」ポロポロ

女「(ほんと声だして泣いてる……)」

女「(まさか本当に……ど、どんな顔して泣いてるんだろ)」

女「(泣き顔とか見ちゃっていいのかな……うーん……ちょっとだけ見ちゃおうかな)」

女「……」チラッ

男「うう……ぐすっ」ポロポロポロ

女「……え」ドキッ

女「(わ……ぁ)」

女「(なんてやさしい目、してるんだろう)」

男「ひぐっ……ずずっ」ポロポロ

女「……」ジッ

男「……面目ない」

女「しょ、しょうがないよ。すごくいい映画だったし。無理もないよ」

女「(途中からスクリーンより男くんばっかり見てたから、ストーリーあやふやだけど)」

男「うん……よかった。すごく良かった。今日のは収穫だったかもしれない」

男「こんなに感情移入させられる映画は初めてだった」

女「そっか。よかったねぇ」

男「付き合ってくれて、ありがとうね。映画」

女「え、そ、そんな。私なんか居て逆に集中できなかったんじゃない?」

男「そんなことない……とは言えないか。最初、やっぱり緊張してたよ」

男「いつも一人で映画館にきてるのに、いきなり女の子と一緒になんて、ちょっとハードル高かったし」

男「でも、だんだんさ……映画に集中してきて、それで、劇中の台詞とかが心に刺さってきてさ」

男「感動したんだ」

男「それで、ちょっと……ちょっとだけ、女さんの方見たら」

男「すごく真剣にスクリーン見ててくれてて。もしかしたら、今その時、女さんも俺と同じように感動したかもしれない」

男「って……そういう風に思えて」

男「そしたら、なんか、もう……止まんなくて。涙とか、その……スクリーン見続けるのが精一杯になっちゃったっていうか」

男「あーー……またなんか俺恥ずかしい事言ってる。ってかうあーーー言い訳にもならねぇかっこわりぃ……」

女「う、ううん。大丈夫大丈夫。なんか一緒に来た甲斐があったみたいで良かったよ」

女「だから、その…………よかったら、また……」

男「?」

女「また、誘って、欲しい、……な」

男「う、うっそ。まじ? いいの?」

女「え? な、なんで?」

男「また俺同じように一人で盛り上がって、勝手に泣いちゃうかもしれないし」

男「起伏の少ない情緒ぐらいしかない映画見せちゃうかもしれないし」

女「いいよ」

男「……いいの?」

女「しつこいですよ?」

男「敬語キタ」

女「……男くんは、ずるいよ。なんでも正直に言えちゃって」

男「うぇ? ご、ごめん。そんなつもりじゃ」

女「正直で、真っ直ぐで……それは不器用には違いないんだろうけど」

女「……あぁ、もうっ。私まで、言いたくないこと言っちゃいそうになる」

女「今日の映画、ちょっと難しかった。でも、時々心に響いたりして」

女「それでね、泣いてる男くん見て、ちょっと羨ましかったの」

女「私の見方と男くんの見方はきっと違うんだろうなって」

女「男くんの見る世界は、きっともっと、別の次元なんだろうなって」

男「……」

女「だから、……う、うまく、いえないけど」

女「言葉選び、悪いかも……っていうか、他意は無いんだけど」

女「男くんの事、もっと知りたくなった………………ん、だ」

女「…………な、なんてね。ふへへ」

男「俺も」

女「ん?」

男「俺も女さんの事、もっと知りたい」

女「そ」

女「そっか……。そかそか」

女「需要と供給がいい具合なんだねぇ私たち。よかったよかった」

男「ほんと言うとね、こんなに素の自分が出せる相手って、女さんくらいかも」

女「……私も、なんだかんだ、男くんと居ると、素が出ちゃう」

女「緊張もするけど、それと同じくらい安心してて」

女「お母さんぐらいだよ。こんな気持ちで話せる相手って」

男「俺は、なんだかんだ母ちゃんにも父ちゃんにも見栄張っちゃうから」

男「家族以上かも」

女「……へへ、素直にうれしいかも」

男「俺も。一方通行じゃなくて、安心した」

男「よかった……」

 それから私たちは、ご飯を食べにファーストフード店に入りました。
 はじめはおしゃれなカフェとか、レストランに入ろうとしたけど、敷居が高かったり混んでたり値段が相応じゃなかったりで。

 何件もあーでもないこうでもない、と探し回った挙句、二人同時にお腹の虫が鳴って、その時目の前にあったのがMのマークでお馴染みのお店。
 とはいえ、ジャンクフードをめったに食べない私にとっては、ハンバーガーとポテトで十分ごちそうでした。
 
 野菜っ気の無いバーガーを頬張りながら、私たちはお互いの事を聞いて、お互いの事を話した。しまくった。
 好きな本とか、好きな音楽とか、好きなアニメとか、好きな俳優とか、好きな食べ物とか、好きな動物とか、好きな色とか、好きな家電とか、好きな科目とか、好きな時代とか、好きな武将とか、好きな武将とか、好きな武将とか。

 好きなものが共通してたり、逆に苦手だったり。男くんが好きなものに興味もったり。
 妙に話が合ったのは、……うん。おわかりの通り、歴史についてでした。


男「いやぁっ、IFを語りだすとやっぱ切りがないけどロマンがあるよなぁっ!」

女「男君、詳しすぎ。私なんて中学校の時たまたま熱心な社会科の先生がいたから……ってだけなのに」

男「よかったら今度本貸すから。司馬とか吉川とか海音寺とか宮城谷とか!」

女「ほんと? じゃあ、読みやすいやつからがいいかも」

男「おうおう、任せとけって」

女「(なんか、不思議)」

女「(友ちゃんとかに、お勧めの本とか音楽とか言われても、全然ピンとこないのに)」

女「(男くんから言われると、なんか、すごく興味が湧いてくる)」

女「(やっぱり、これも……男くんの事を『知りたい』からかなぁ)」

男「あ、そうだ。聞いときたいことまだあった」

女「ふふっ、なんか思った以上にキリがないよね。何かな」

男「女さんの家族って、どんな感じ?」

女「あー」

女「別に、普通だよ?」

男「家族に普通とかあるのか」

女「わかんない。でも、まぁ、普通? かな」

男「普通じゃわからんなー。具体的に知りたいな」

女「えー。まぁ、いいけど」

女「えっと、わたしはねー。大事な大事な、箱入り一人娘でね」

男「へぇー」

女「こらこら、感情がこもってないぞ?」

男「つづきはやくー」

女「もー。……それから、両親は共働きでね。お母さんは、看護士さん」

男「ふむふむ」

女「お父さんは……、ふつーのサラリーマンさん」

男「どんな仕事?」

女「えー、なんだろ。私も良く知らない。なんとか証券? とか」

女「ほとんど家に帰ってこないしね」

男「共働きか……、家に一人で居ること多いんだ?」

女「うーん、まぁ、そう言われればそうかな」

男「さびしくないの?」

女「馴れちゃったっていうのが正直なところかも」

男「なら、いいけど」

女「まぁうちの事はいいからさ。男くんの家族の話。聞きたいな」

男「そんなに聞きたいなら話すけど。うちも普通だって。女さんのところ以上に」

女「いいからいいから。聞かせてよ」

女「もしなにか話せないような事でもあるなら、無理には聞かないけどね」

男「いやそんなことは無いけど……まぁ、いいか」

男「うちは、姉と妹がいて。二人に頭あがんなくてさ……」

女「うんうん」

 最寄り駅 改札出口

男「……じゃ、俺バスだから」

女「うん……。今日は、ありがとう」

男「こっちこそ。また学校で。みんなが居る所だと、まだなかなか話せないかもしれないけど……」

女「だ、大丈夫。放課後とか、会えたら。いつも通り」

女「そうだ。今度お姉さんと妹さんに会わせてね。話聞いたら会ってみたくなっちゃった」

男「げぇ。……それは勘弁願いたい」

男「願いたい、けど……」

男「でも、俺は、俺の家族に女さんを紹介したいなって気持ちもあるかも」

女「ほんと? じゃあ今度は男くんの家に遊びに行っちゃおうかな」

男「まぁ、うん。いいよ。でもその代わり、女さんの家にも行っていいよね?」

女「……え?」

男「女さんの家族、見てみたいかも」

男「特にお母さん。映画好きみたいだし」

女「そ、そうだね……。いつかね」

男「うん。楽しみにしとく」

女「あはは、うちの家族なんてそんな楽しめるもんじゃないよ~」

男「そんな事ないって。女さんの事知る上で、女さんの家族ってすごく重要でしょ?」

女「それは、まぁ……そうだけど」

男「ね? ……じゃあ、そういうことで」

女「うん。……また、明日」

男「また明日」

 自宅

女「……ただいま」

女「お母さん、いる?」

女「……あ、今日夜診かぁ」

女「休日なのに」

女「…………どしよかな」

女「テスト近いし、勉強、とか」

女「……は、めんどくさいや。TVでもつけ……」

女「………………『さびしくないの?』だってさ」

女「そういうの、忘れちゃってたなぁ」

女「……男、くん……」

女「もっと、話したかった……もっと…………」

女「さび………し………ょ……………」

寝る



陰毛もじゃもじゃ

 翌早朝

母「ただいまー」

母「……ふー、布団が恋しいわー」

母「寝よ寝よ♪……って、女?」

母「ソファーなんかで寝て。布団もかけずに……ちょっと起きて。そこで寝ていいのはお母さんだけよ!」

女「ふぇ……あ、やだ……。私、寝ちゃってた……」

母「もうすぐ学校行かなきゃでしょ? 自分の部屋戻りなさい」

女「うーん…………もうちょっと……」

母「あれ、あんたパジャマに着替えないで寝ちゃったの? しかし随分子供っぽい格好してるわね」

女「……っ!!!」ガバッ

女「ややややっぱり子供っぽいかなあああっ!!?」

母「もう何年も前に買って上げた服着ちゃって……あー……そっか、ごめん」

母「そういえば最近、一緒に服買いに行ってあげれてないね」

女「しょ、しょうがないよ。お母さんお仕事急がしそうだし」

母「……ごめん」

母「やっぱり片親が責任ある役職なんかにつくんじゃないねぇ」

母「給料は良くなってるんだけどね……使う暇が無きゃ、か……」

女「……やっぱり私、バイトぐらいするよ」

母「駄目よ。服がほしいなら、お金あげるから。遊びたいなら、ちょっとくらいお小遣い上乗せするから」

母「しっかり勉強してほしいってお母さん思ってるから」

女「うん……」

母「服、そろそろ一人で買いにいけない?」

女「どうだろ……難しい、かも」

母「……そう」

女「あ」

母「?」

女「ううん。買いにいく。明日か……も、もしかしたら明後日とかになるかもだけど」

女「放課後、行っていい?」

母「……ん。じゃあ、お金はあとで封筒に入れてテーブルにでも置いとくから」

母「もう少し、ちゃんとベットで寝ておきなさい。あ、あと起きたらちゃんとシャワー浴びるのよ? どうせ昨日お風呂はいってないでしょ」

女「言われなくてもわかってるよぉっ」

母「ならよろしっ」

女「おやすみなさい。……ありがと」

母「ん」

女「あ、そうだ。……ひとつ聞きたいこと、あった」

母「何?」

女「……答えたくなかったら、いいんだけど」

母「もう何よー、言って御覧なさいよ」

女「そのぉ、お、……お父さんの、事、何だけど」

母「……」

女「だ、だめかな。ひとつだけ、聞きたくて」

母「……いいよ。言って」

女「あのね……お父さんって」

女「不器用」

女「……だった?」

母「…………」

女「あ……」

女「ご、ごめん。変なこと、聞いて」

女「寝るね。き、気にしなくていいから」

女「今度こそ、おやすみ……なさいっ」



母「…………」

母「…………はー」

母「そっか……もう、そんな年頃か……」

母「あいつと私が出会ったのも、そういえば、あれくらいだったかな」

母「ふふ、駄目ね。こんな事考えちゃ。……ちょっと、疲れちゃったかな」

母「寝よ寝よ。寝て忘れよっ」

 『男くんへ おはようございます。はじめてのメールですね。 普段男の子とメールなんかしないから、ドキドキしながら打ってます』

 『昨日はありがとう。すごく楽しかったです。映画ももちろんだけど、いっぱいお話とかできたから』

 『それで……昨日の今日で申し訳ないのですけれど』

 『もしよかったら、放課後、お買い物に付き合ってくれませんか』

 『今日でも、明日でも、空いている時で大丈夫です』

 『もし難しいようなら、遠慮せずに断っていいからね。……ほんとに、断っていいんだからね。ほんとのほんとだよ?』

 『それじゃあ今日も、学校でよろしくね』


女「……送信」

女「……しようか」

女「……文章変じゃないかな……しつこく書いたらやっぱり逆に断りづらいかなぁ……」

女「……いいやっ、悩んでもしょうがない! ……あ、でも……やっぱり……もうちょっと直し……」ポチッ

女「あひゃっ!? 間違えて送信ボタン押しちゃったぅああああぅぁうあ!」

男「……あ」

男「わ。女さんからだ」

男「うわ」

男「うわぁ…………」

男「くぅぅうううぅぅっぅぅぅぅぅうううぅっ」グッ

男「思わず、ガッツポーズしちまう……」

男「やべぇ……なんて返信しよ」

 「男ーーっ! 早くご飯食べちゃいなさいよまた遅刻するわよーーーっ!」

男「へーーーいっ」

男「やっべ。とりあえず返信はあとあと」

友「おはよーっ、女ぁ~」

女「おはよう、友ちゃん」

友「ん~~、女ってば、何かいいことあった系?」

女「え? あった系?」

友「あった系じゃない? カンだけど……あ、今日ちょっと顔赤いかも」

女「わ、ほんと? ソファーで寝ちゃったからかなぁ」

友「大丈夫?」

女「うんっ。むしろピンピンしてるくらいっ」

先生「おーーっし、授業なー。やんぞおまえらーー」

女「(男くんから返事来ないなぁ……やっぱり朝にあんな重いメール送って迷惑だったかなぁ)」

女「(男くん……どう思ってるんだろ。昨日一緒に遊んだばっかりなのに、また誘っちゃったりとかして)」

女「(迷惑になってないかなぁ)」

女「(……不安、だよ……)」

女「……」チラッ

男「……」カキカキ

女「(男くん、真面目にノートとってる)」

女「(……今まで男くんの事、あんまり視界に入ってなかったけど)」

女「(この前話して以来、なんか、ついつい、見ちゃう……)」

先生「墾田永年私財法は、まぁみんな当然中学でやったと思うけどー。大学受験で出るのは―――」

男「(好きな歴史の授業なのになんか集中できねぇ……)」

男「(女さんへの返信どうしようかとかそればっか考えちまう)」

男「(今日の放課後にでも、買い物付き合ってあげたいけど、返信のタイミングが……)」

男「(まさか授業中に打つわけにもいかんし)」

男「(うううう~~…………あ、そうだ! ノートに返信分の草稿を書いておこう!)」

男「(そうすりゃあとで返信するとき楽だしな)」

男「(俺ってあったま~い~☆)」

男「……♪」カキカキ

男「(ぬぬぬ……あーでもないしこーでもないし)」

男「(なんか書いてく度に変になってくし、長くなってくし……)」

男「(こういうのは、男ならこう、スパッと『OK!』のみぐらいの勢いで書いたほうが)」

男「(あいやでもそれはさすがに心がこもってなさすぎで……)」

男「(ぐぬぬぬぬぬ、メール貰うのって嬉しいけど、考える時間がいくらでもあるから、練りに練っちまって気軽に送れぬ)」

男「(はー……女さんは、どうなんだろ)」

男「(スパッと送っちゃったのかな。俺なんかよりもよっぽど男らしく)」

男「(……別に、俺の返信なんか全然まってなかったりして……)」

男「(女さん、今どうしてるんだろ)」

男「……」チラッ

女「……!」ビクッ

男「……!」ビクッ

女「~~~っ」フィッ

男「っっっっっ」フィツ

男「(めめめめめめめ目が眼がメガ合っちゃったあっちゃあっちゃあっちゃくぁsdfhっ!!!?)」

女「(めめめめめめめメガ眼が目が合っちゃったよぉおおおおおおっっっっっ)」

女「(ばれちゃった……見てたのばれちゃった……どうしよどうしよどうしよおおおっ)」

女「(恥ずかしい……きっと変な娘だって思われた……やだもう……最悪……)」

女「(う、ぅ…………ぐす)」

女「(……でも)」

女「(なんで、私の方見たんだろ)」

女「(たまたま……そりゃ、まぁ、そうだよ。たまたまだよ)」

女「(あれだけずっと授業中に見てれば、一回くらい目が合うよ。当然だよ)」

女「(そう、うん。偶然。偶然なんだよ……私が男くんの方みてたのも、偶然)」

女「(そういう事にしとこ。しとこうしとこう。……あーーーーーやっぱ無理っっっっっ!!!)」

女「(顔から火がでるぅぅ……っ!! 熱い……)」

女「(……男くん)」

女「(……返事、早くほしい……よぉ……)」

 昼休み

 brrrrrr brrrrrr

女「(あ……! 来た……! やっと来た!)」

友「何~? 女が学校で携帯開くとか珍しいじゃん」

女「えへへ、ちょっとね」


 『女さんへ メールありがとう。 俺も昨日はすごく楽しかったです。』
 
 『誰かと一緒に映画館なんて初めてだったけど、女さんも楽しんでくれたみたいで、誘った甲斐がありました』

 『それから、もちろん買い物には付き合うよ。いつでもいいけど、今日とかどうかな? 人があんまり居ないから裏門で待ち合わせようか』

 『もし大丈夫なら、「OK」とか「NO」だけでいいので返信下さい。学校だとメールしずらいかもしれないしね』

 『あ、心配しなくても俺にはいつでもメールしてくれよな。これでもメールの早見早打ちには自信があるんだぜ』

 『もしこのメール読んでなかったり、返信できなかったりしても、放課後までに、……ちょっと恥ずかしいけど、女さんに声かけてみるから。安心して』

 『なんだか長くなってごめん。 午後はご飯食べた後でちょっと眠いけど、頑張ろうね』


女「~~~~~~~~っ!」

女「(……やった!)」

 brrrrr brrrrr

男「(……来た。はやい!)」


 『OK、です。 ありがと。』


男「(『です』と『ありがと』がくっついてるだけで全然ちがう……)」

男「(あーー、なんか気使ってくれてるなぁ……)」

男「(ってかむしろ俺がやたら気を使いすぎちゃって長い文になっちゃって)」

男「(女さんに変とか思われてねぇかな……やぼったい男だと思われたらどうしよ)」

男「(ぬぁ~、でも嬉しいや。昨日に続いて今日も……)」

男「(へへっ……やべぇ、放課後待ちきれねぇ)」

 放課後 裏門

女「えへへ……」

男「あはは……」

女「い、いく?」

男「う、うん」

女「駅、のね。デパート、行こうと思うの」

男「う、うん。分かった、じゃあバスで行こうか」

女「あの……よかったら、なんだけど」

女「歩いて、行かない?」

男「え? 別にいいけど」

女「ご、ごめんね。駅まで歩くと20分くらいかかっちゃうのにね」

男「全然だよ。俺歩くの嫌いじゃないし。ってかむしろ好きかも」

女「ほんと?」

男「ほんとほんと」

男「っていうか……逆にちょっと安心した」

男「駅行きのバスって、うちの学校の生徒みんな乗るからさ」

男「その……なんか、気まずいじゃん?」

女「うん……そうなんだよね。実は私もそう思って」

女「昨日の電車での事とかあったし。……それと、えっと……」

男「?」

女「歩いてけば、男くんと、ゆっくり話せるし……」

男「そ…………そう?」

女「あ、あいや、えっと……なんか昨日からちょっと話足りなくて」

女「不完全燃焼っていうか……それで……あーもう、何言ってるんだろう私」

男「ぷっ……ははっ」

女「あっ、ひどい。笑った。笑いましたね?」

男「ごめんごめん。馬鹿にしてるっていうより、その……嬉し笑い? あ、そんな言葉ないか」

男「俺も、あれから話し足りないなーって思ってたから」

女「……え」

女「…………ほんと?」

男「不器用は嘘つけないんじゃなかったっけ?」

女「だ」

女「だったらっ、嬉しいけど……ほ、ほらっ。何か話したいんでしょ? 聞きたいことあるんでしょ? なんでも聞きなさいよねっ!!」

イケメン「うぃーすw女ちゃん俺っちと帰らないwwww」
女「えっ・・・と・・・男くん・・・」

お前ら「うわァァァアア亜アアアアやめろぉぉぉおおおおおお!!!!!!」

イケメン「淵・・・?!ってうっわなんだこいつら!!」

お前ら「今日だけはっ!!今日だけはァァァアア亜アア!!!」

イケメン「気持ちわりい逃げろ!!!」

お前ら「見せてくれよ頼んだぜ、俺らにとびっきりのハッピーエンドってヤツをさぁニカッ」

男「なんだこいつら・・・」

男「ぷっ……ぷぷぷっ」

女「あっ、また笑った! 今度のは絶対馬鹿にしてるーっ」

男「ごめんこれも嬉し笑い。女さんの新たな一面が見れて、つい」

女「ちょ、あ、新たな一面って……むにゅるるるるる」

男「ところで今日は何買うの?」

女「い、いきなりさりげなく普通の会話にもどらないでくださいっ」

男「いやぁ、女さんの希望通り質問させてもらってるだけだけど」

女「うーーー、口がうますぎです。本当に不器用なんですかっっ?」

男「敬語敬語」

女「むがっ」

結局ね、現実はね、顔の良い奴が勝者なんだよ
顔さえ良ければあとはおまけなんだよ

>>227
そんな女ばかりじゃないさ

>>229
女だけじゃないよ?
君みたいな「良い女」を知ってる男はみんな顔が良いのさ
なんだろうが顔が良くなければもう来世に賭けるしか無いんだよ
来世なんてものも俺たち負け組が勝手に作った幻想だけどね

女「きょ、今日はね。服を買いたいの」

女「最近買ってなかったから、いい機会かなーって思って」

男「そういえば昨日の服」

女「あっ、わ、わわわすれて?」

男「?」

女「き、昨日どんな服着てたとか、そういうの、もう忘れていいからね? ね? お願い」

男「なんで? 普通に似合ってたと思うけど」

女「だだだって、子供っぽかったでしょ? 高校生にもなって……ってかんじだったでしょ?」

男「そりゃおせじにも大人っぽくはなかったけど」

女「やっぱり……」

男「あーそっか、……子供っぽい服って思ってるのを、似合ってるとか言っちゃまずいか」

男「でも可愛かったと思うんだけどなぁ」

女「……へ?」

>>230
どう考えてもお前がモテない理由はその卑屈な態度にあると思われる

男「女心ってムズいなぁ。今度姉ちゃんにでもその辺詳しく聞いてみる」

女「ね」

男「ん?」

女「今、可愛い、って……?」

男「うん。言ったよ」

女「そ、そっか。そかそか。にはは」

女「聞き間違いかと思いましたです」

男「今日は口調が不安定だね」

女「緊張のせいです……きっと。なんか、昨日よりテンション高いかも」

男「そういえば、ちょっと顔赤い」

女「テンションあがりすぎちゃって、沸騰寸前だったりして。ごめんね。無理して会話のテンポ合わせなくてもいいんだよ?」

男「いやいや、面白いからこのまま行こう」

女「ぬあ~~……男君、結構手ごわいのね……」

 駅ビル ヤングレディスフロア

女「も、目的地に着いたはいいけど……ど、どうしよっか?」

男「好きなブランドとかないの?」

女「え? ブランド? ないない」

男「じゃ、適当にフロア歩いてみて、よさそうな服見つけたら店に入ってみようぜ」

女「う、うん」

男「急にテンション落ちたね?」

女「……ごめん。こういう場所久しぶりで。何していいんだか……」

女「私ね。初めてとか、久しぶりとか、苦手なんだ……」

男「不器用だから?」

女「うー……ご名答だよ……」

男「あ、ほら。あれなんてどう? Aラインのコート」

女「え? ……い、いいかも」

男「これからの季節、やっぱコートないとな。入ってみようぜ」

女「う、うん」

男「気乗りしない?」

女「そんなことないっ。可愛いと思う。着てみたい!」

男「じゃ、決まり」

 「いらっしゃいませー」

男「すんません。このコート、試着させてもらいますね」

 「どうぞお試しくださ~い」

男「だってさ。ほら、カバン持ってるから羽織ってみなよ」

女「……わ、分かった!」

女「……んっしょ」

女「ど、どうかな?」

男「いいじゃん。制服の上からでも似合ってるし、型がすっきりしてるからスマートに見えるよ」

女「す、すまーと……」

 「わー、とてもよくお似合いでいらっしゃいますー」
 
 「そのタイプ、今年のハヤリなんですよー、いちおしです。もうだいぶ数少なくなっちゃってますので~」

男「そうですか。まぁ、適当に勝手に悩んで決めちゃいますので」

 「そ、そうですか~。何かあったらお気軽にお声がけくださいね~」

男「どうも」

女「……」ポカーン

男「?」

女「……なっ」

女「馴れてる……!? 男くん超馴れてる……!」ガビーン


男「う、えっ!? あっ!……ご、ごめん……」

男「女性服売り場に場慣れしてる男とかって、き、キモい……よな……ははは……」

女「き、キモくないよ! 全然だよ! むしろ頼りになるし頼もしいしお頼み申すよ!」

男「日本語おかしいフォローありがとう。……あのな、これにはな、関門海峡よりも深い訳があって」

女「……い、言い訳は後でゆっくり聞かせてもらうよ」

女「それより、店員さんがこっちを……!」

 「……」ジーッ

男「そそ、そうだな。うん。ちゃっちゃと作戦を遂げようか」

女「お願いします軍曹……っ」

男「せ、折角だから他のも羽織ってみなよ!」

女「了解っっ」

女「コートって高いんだね……」

男「羽織ものは、どうしてもな。良かったのか? 普通のダッフルコートで」

女「うん。あんまり高い服はやっぱり不相応だし。それに……」

女「か、可愛かったでしょ?」

男「ま、まぁ。俺はフードが着いてるタイプの服が好き……ってか、可愛いし」

女「うんうん、ならいいや」

女「大人っぽくはないかもしれないけど、私が背伸びしても、変なだけだしね……」

男「そんなことないよ」

男「なりたい自分が居るなら、ちょっとずつ、変わっていけばいいよ」

男「色っぽい女さんってのも、ちょっと見てみたいしな」

女「あー、なんかそれ、悪意感じます。確かに色っぽくは無いですよ? 無いですけどー?」

男「……で、他にほしい服は?」

女「もうっ。話ずらすのは卑怯ですよ~」

 某ファミレス

女「えっへへ。久しぶりにお洋服いっぱい買っちゃった♪」

女「ありがとね、付き合ってくれて。お礼、っていったら変かもだけど、好きなもの頼んでいいからね」

男「いやいや、むしろ俺も楽しませてもらちゃったよ」

男「着せ替えショーみたいで」

女「男くんって、言い方を少し気をつけるだけで、すごくいい人になると思うんだけど」

男「そうそう、いい人なんてとんでもないからね。奢ったりしちゃだめだよ」

女「えー……」

男「お互いまだお金稼げてないしさ」

女「……男くんが、そういうなら」

男「好意はすごくうれしいし。俺はこうやって女さんと話せる時間ができるだけでも、結構嬉しいって言うか」

女「な、ななな……男くん直球すぎ」

男「会話のキャッチボールで変化球投げてもしょうがないでしょ?」

女「それもなんか違うと思う~」

女「あ、そうだ。これは聞いとかなきゃ」

女「どうしてあんなに場慣れしてたの?」

女「……私の女子力の低さはどうしようもないの分かってるけど」

女「なんかちょっと悔しかったよ」

男「ドーバー海峡よりも深い理由があってさ」

女「あれ? ドーバー?」

男「細かいことは置いておいてね、まぁ実際すごく単純な話なんだけれどね」

女「うんうん」

男「姉ちゃんとか妹の買い物に、よく連れまわされてるからってだけなんだけどね」

女「……はー、道理で」

男「んぁー、ごめん。これ、実は俺のコンプレックスなんだ」

男「男友達とか少ないの、多分このせいなんだ……」

女「どういうこと?」

男「女姉妹に囲まれてるせいか、小さい時は女の遊びばっかり覚えちゃって」

男「……あやとりとか、それから、シール集めたりとかビーズで指輪作ったりとか」

女「なにそれ可愛い……!

女「ビーズで指輪なんて私やらなかった」

男「あのなぁ、本人にとってみたら、結構深刻なんだぜ? 同じ年代の奴らがサッカーとか野球に精を出してる中」

男「俺だけが姉ちゃんとかクラスの女子たちと……」

女「あぁ……」

男「中学とか高校になったら、なんか恥ずかしくて女子とはつるみ辛くなったし」

男「かといって、男らしいスポーツとか得意ってわけでもないし……」

女「はぁー。それはそれは……」

男「頑張って男子の輪の中に入ろうとしても、いや、実際入れるんだけど」

男「会話が上手くいかねぇ、っていうか……共通の話題とかで上手く盛り上がれないっていうか」

女「うん……うん。それはちょっと、分かるかも」

男「ほんと?」

女「私も、友ちゃんとかとは、そんなかんじ」

女「輪の中にいるし、よく絡むけど……それだけっていうか」

女「むしろ、男くんの方が私の中に踏み込んでくれてるくらい」

男「それは、うん。俺もだわ」

男「クラスの男子よりも、女さんの方がよっぽど……付き合い短いのに」

女「……なんでだろうね?」

男「やっぱりアレじゃね? お互いに」

女「不器用」

男「そうそう」

男「……ははっ、なんだろうね。あの時出会ってからさ、まだひと月くらいだよね?」

女「そういえば、そうだね。……なんだかここ最近毎日が長いような気がして」

女「もっと経ってると思ってた」

男「……これまで色んな事聞いてきたし、話したけど」

男「まだまだ、そういうの、いっぱいある」

女「……うん」

女「不思議だね。……ほんと、そういう気持ちまで、一緒だもんね」

男「何か、話したい事とかない?」

女「話したい、こと?」

男「うん。いつもどっちかが質問したりすることが多いでしょ?」

男「だから、話したい事とかあるのかなって」

妹「……じゃあ、ちょっとだけ」

妹「私も、男くんにならって、不器用になった理由っぽいの話してみちゃおうかな」

男「お? 興味あるある」

妹「両親、共働きって言ってったでしょ?」

男「うん」

妹「だからね、小学校に上がるまではお母さんと一緒にいた記憶よりも、保育園に居た記憶の方が多くて」

妹「知ってる? 保育園って幼稚園に行ける年齢になっても、通い続けられるところがあるの」

男「へぇ……」

妹「私ね、幼稚園には行けなくってね。お母さんの職場が近い保育園に、小学校へ上がるまで預けられてた」

妹「……保育園に居た記憶が多い、とか言っちゃったけど」

妹「実はぼんやりした記憶ばっかりで。うまく思い出せない」

妹「たぶん、嫌な記憶だったんだと思う」

男「……」

女「なんてね。暗い話になっちゃったけどね。……でも、ごめん」

女「男くんに今……話したいかも」

男「気にしないでよ。続けて」

女「ありがと」

女「……私が幼稚園に行ける年になったらね、保育園の子達はみんな年下ばっかりになっちゃって」

女「そのうち、友達がいなくなっちゃって。先生とばっかり話すようになっちゃって」

女「それからお昼寝が上手くできなかったりとか……、自分でも良く分からないけど急に泣き出しちゃったりとか」

女「さっき言った見たいに、はっきりと良くは覚えてないんだけどね、どうもそういう……問題児だったみたいで」

女「それで……それから……小学校にあがって」

女「あがったら」

女「…………えへへ。やっぱりやめよっか。こんな暗い話」

男「聞きたい」

女「…………あはは、困ったなぁ」

女「いやぁ、良くある話だよぉ」

女「上手く馴染めなくて……それで、人に嫌われるのが怖くって」

女「まぁそれだけの話。うんうん」

男「くやしい」

女「……え?」

男「もし、さ。子供の頃に女さんと俺に接点があったらさ」

男「もっと、俺たち……ううん、女さんに、違う人生が待ってたかもしれない」

女「え、えへへ……そりゃうれしいけど。でも、ほら。そういうの考えても仕方ないっていうか」

女「うん……うれしいけど。まぁ、今となっては不器用なお陰で……ってのもあるし」

男「……そっか」

男「不器用なお陰で、俺と女さん……意気投合してるっていうか……」

女「そうそう、そうだよ。これもきっと、なにかの運命なんだって」

男「運命」

女「そ、そんな大それたものじゃないかもしれないけどね」

男「……あのさ、これ、俺のお願いなんだけど」

女「?」

男「女さん、俺に嘘とか、見栄張ったりとか。しなくていいから」

男「気を使ったりとか、その……女さんすごく優しいの知ってるし、でもだからこそ、気楽にしてほしいっていうか……」

男「あーーなんかうまく言えないけどっ。つまりは正直で居てほしいっていうかーーーこれも違うか」

女「……もう、十分すぎるくらいだよ」ボソッ

男「え?」

女「う、ううん。そうだね……嬉しいよ。ほんとに、嬉しい」

女「私なんかの為に。そこまで言ってくれて。本当に嬉しい」

女「……ありがとう」

 帰り道

女「すっかり日が暮れちゃったね。遅くまで付き合ってくれてありがとう」

男「ここから家、近いんだっけ?」

女「え? まぁ、そうかな。歩いて10分くらい」

男「送ってくよ」

女「いいの?」

男「送りたいから」

女「……男くんって、大学生になって、飲み会の後とかにそうやって……」

男「誰にでもは言わないよ」

女「それも皆にきっと言うんだ」

男「でも、初めて言ったよ。これは本当」

女「う、うー」

男「信じるか信じないかは、女さん次第かな」

女「わかったよ。信じてあげる」

男「ありがたきしあわせ」

女「そ、そりゃあ私が何か言う権利とか無いけどさ」

女「私以外の人に、そういうの気安く言っちゃ駄目なんだからね」

女「そういうのも、全部ひっくるめて……信じてるってことだからね?」

男「……うん、分かった」

女「ほんとに分かってる? 男くん、案外色男かも」

男「色男? 俺が? どうして?」

女「だ、だって……普通さ、そういうの、女の子って勘違いしちゃうんだよ?」

女「気があるとかさ。やたらめったらそういうの振りまくのって、良くないと思う」

男「……そっか。そういうもんか」

女「分かってくれたならいいけど」

男「じゃあ、さ。女さんは」

女「?」

男「女さんは…………、」

男「ごめんやっぱ。なんでも、ない」

女「あー、そういうの無しって言ったよね? 前に」

男「ぐぐ。 そのだな。えっと……あー、ほら。大学の飲み会といえばさ」

男「俺は進学するつもりなんだけど。……女さんは?」

女「怪しい。それくらいの事なんで躊躇うかなー」

男「いいからいいから」

女「むー、……私はどうかな……。まだ、悩んでる」

女「ただお母さんに迷惑かけちゃうから、あんまり学費の高いとこいけないなぁ」

男「お母さん?」

女「あ、……う、うんそう。共働きしてるくらいだからね。お金大変なんだー、うち」

男「そっか……」

女「で、でもたまに遊びにいくぐらいのお金はあるからね? 遠慮なく誘ってね?」

男「いいの? 気つかってない?」

女「使ってないよ。疑りぶかいなぁ~」

男「だって、女さんほんと気使い屋さんだし。俺も気なんて使うどころか、こうやってズバズバついつい言っちゃうし」

女「大丈夫。さっきの男くんの『お願い』は受け取ったから」

女「私だってズバズバ正直に……」ポロッ

男「あ」

女「ふぇ?……あ、っれ?」ポロポロ

女「へ、変だな……おかしいな」ポロポロポロ

女「ごめんっ……目から……ちょ、ちょっと待って」

女「…………………お願い、見ないで」

女「ご、めんっ……こんな……」

女「っ、う……す、すぐ、終わるっ……からっ……」

女「あっち……向いてて……お願い」

女「うぐっ……え、えぅ……………っ」

女「うぁ……………ぁあ……」

女「ごめん……ごめんだよぉ…………!」

女「男くん、ごめんんだよぉ……ごめんなさい……ごめんなさいぃ……ごめんなさい!」

女「わた、し……っ、うそつきっ、でっ……。嘘、ばっかり、で……っ」

女「ほんとは、ほんとはぁ……」

男「……こういう時、どうしたらいいかって。姉ちゃんの受け売りだけど」

 ギュッ

女「……ふぁ」

男「な、何言ったらいいか、わ、わから……無いから」

女「(……あったかい)」

女「(男くん。……こんなに。あったかい)」

女「(でも)」

男「涙とか、鼻水とか、こすりつけてもいいから」

女「そ、そ゛んなことしびゃいょ……」

男「いいのに」

女「…………ごめ。もう、……いいから」

男「う、うん……」

女「ずずずっ」チーン

女「うー、お気にのハンカチが……ぐちょぐちょ」

男「……大丈夫?」

女「大丈夫って言葉かけられて、大丈夫って返せばいいのかな」

男「う」

女「……ごめん。意地悪なんてしていい立場じゃないのにね」

女「私ね、男くんに怒ってる」

男「えっ、あ…………勝手に抱きしめたりとかして、そのっ」

女「そういうんじゃないの、あっ、ううん。そういうのももちろんあるんだけど、あるんだけどさ」

女「もっと問題は深いの!」

男「え……? ごめんちょっと……その、なんで怒ってるかしっかり教えてほしい」

男「直すから」

女「もーーばかぁっ!!」

男「え? 馬鹿?」

女「あのね、私は嘘をついてたから、男くんには何も言えないよ!? 言えないんだけどね!?」

女「だからもうね、嘘なんか止めたよ! 本当の事を言うよ!!」

男「う、うん……」

女「私っ、本当は、……ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずーーーーーーーぅっっっっと!!!!!」

女「寂しかった…………!!」

女「男くんに『さびしくないの?』って聞かれて、すごく見透かされた気分になった」

女「でも『さびしい』なんて言って、男くんが埋めてくれるの?」

女「私の寂しさ、埋められるの?」

女「ちがうよね……違うんだよ……分かってるよ、求めたって無駄だって」

女「言ったって、無駄だって」

女「でもさぁ……やっぱり、私男くんの前で素直になりたいから……でも、言ったって無駄だから」

女「そういうの、もうごちゃまぜになって、ぐるぐるぐるぐる回っちゃって、苦しくって……っ!」

女「やっぱり私不器用だから……そういうの上手く処理できないんだよ。ヒートアップしちゃうんだよ」

女「耐えられないんだよぉ……!」

男「俺に、女さんの寂しさ。埋められないの?」

女「そうだよ……! 私が欲しい寂しさは……っ、もう、もうっ……」

女「どこにも――――」フラッ

男「……っ!? 女さんっ!!」

女「……」クテッ

男「急に倒れて……、っ!? 熱が……?」

女「……かえ、って……いいから……」

男「送る。送ってくから。あ、……病院っ!」

女「いい……びょういん、きら、ぃ」

女「おか、……さん、…………こゎ、ぃ……」

男「え……?」

女「いえ……かえ、……る……」

男「なら、おぶってくから。帰ろ。女さんの家に」

女「や、……だ。きちゃ、や、だ……こなぃ、で」

男「こっちの道でいいんだよね?……んっしょ」

女「……ぁ」

男「ちょっと、どばすから。揺れて気分悪くなったら言ってよ」

男「(女さん、すごく軽い……)」

男「(こんなに細くて、華奢で。でも、すごく暖かくて)」

男「(こんな時に不謹慎だけど。背中の温度が…………幸せだ)」

女「…………ん」ギュッ

男「女……さん?」

女「……と……ん」

女「おと……さん」

女「……ぅぅ」

女「ゃだぁ……」

男「このマンション?」

女「……ん」

女「鍵、ポスト、に……」

男「う、うん」

女「男くん」

男「ん?」

女「なにがあって、も、せめて、友達で……いて、ね」

男「……」

女「おねがいだよ」

男「うん」

男「おじゃまします」

 マンションの中に入って、女さんをベットに寝かせた。
 女さんの(であろう)部屋は、飾りっ気のない質素な雰囲気。
 ただ、大きなペンギンのぬいぐるみが1つ、ベットの脇に転がっていた。
 抱きしめながら寝てるのかな、とか想像したら、思わずにやけてしまう。

 タオルを見つけて、濡らしてから女さんの額に当ててあげる。
 お約束の、身体を拭いてあげる云々をやる勇気は俺にはない。

 でも、女さんは、くるしそうに息を吸ったり吐いたりして、時折「寒い」とか「苦しい」と声をもらしていた。
 そんな女さんを助けたくて、僕は居間にあった電話帳を手に取り、電話をかけた。


 『はい、市立VIP病院コールセンターです」

男「看護士の母さんをお願いします」

男「娘さんの事で、急ぎお伝えしたい事があるんです」

母「女っ!!!」

男「……あ」

母「女は?」

男「ベットで」

母「……っ、ごめん悪いんだけど、水汲んできて」

男「あ、は、はいっ」

母「熱っ。……あーっ、もう! これ、40度近くあるよ……」

男「水ですっ」

母「ん。……いい子だから飲んでね……飲まないと、熱下がらないよ」

女「ん、っ……う……」ゴクゴク

母「うん。いい子だ。……ほんと、女は昔から素直でいい子だ」

男「……」

母「薬飲ませたから、多分だいじょうぶだと思う」

母「これで下がらなかったら、明日無理やりにでも病院連れて行くから」

男「そうですか……」ホッ

母「……あ、ごめん。まぁ、分かってると思うけど、女の母です。電話の……男くんだよね?」

男「あ、はい」ペコリ

母「いきなりで失礼だけど、女とは……」

男「友達です」

母「友達?」

男「え、えぇ」

母「嘘じゃないよね? ただのクラスメイトとかじゃなくて?」

男「クラスメイトでもありますけど、今日一緒に買いものにいったりもしましたし」

母「あ!」ピーン

母「キミかぁ!!」

男「え?」

母「いやあ、なんでもないのさ。なんでもねーっ」

男「はぁ」

母「でもさーでもでもっ、実際のところどうなのさ?」

男「え? といいますと?」

母「どこまですすんでんの?」

男「?」

母「かーーーっ、分かってる癖に分かってないフリたぁあんた分かってるねーーっ!」

母「エロゲの主人公かってーの!」

男「えっとその……決してそういうつもりは」

母「好きなんでしょ?」

男「え」

母「女の事が」

男「あの……そういう質問に上手く答えられないんですけど……」

母「そうなの? 好きじゃないんだ?」

男「あ、その、決して嫌いじゃないですけど」

男「まだ、しっかり話すようになってからひと月位しかたってないですし」

男「気持ちを定めるには、早いというか、ちょっと失礼っていうか……」

母「ふーん」

男「えー、その……」

男「なんかすいません」

母「私があの人と出会ったときはね、それこそ一瞬だった」

男「……と、いいますと?」

母「話の流れから察しなさいって。女の父親のことに決まってるでしょうがっ!」

母「女は、父親のこと……なんか言ってた?」

男「えっと……なんとか証券に勤めてるとか」

男「家に殆ど帰って来ないだとか」

母「そう」

男「……違うんですか?」

母「違う」

母「でも、どう違うかは、私の口からいえない」

男「そう、ですか」

母「ごめんね。私は嘘つきなんだ」

母「素直で、正直なことも大切だけど。大人は……親は、嘘をつかなきゃいけない生き物なんだよ」

母「今、私は男くんに、嘘は言えない」

母「だから、黙っておくことにする」

 私はお父さんと一緒に公園で遊んでいた。
 私は、今よりもうんとうんと、背が小さかった。
 お父さんは、私の何倍も大きい体をしていた。

 ブランコを押してくれて、私の作った泥だんごをたべてくれて、滑り台で私を乗せてすべってくれた。
 ひとしきり遊んで、日が暮れきったころに、怒ったお母さんがやってきた。

 だめだよ、お母さん。
 お父さんは私と遊んでくれたんだから。
 怒るなら、私を怒って。

 お願い、お母さん。
 お父さんを怒らないで……


女「…………男くん」

男「あ……起きた?」

女「わたし……あれ……?」

男「大丈夫。寝てていいから。のど乾いたよね。水もってくるから」

女「……ん」コクコク

男「お母さんは、今夕飯の買い物に行ってる」

男「女さんの好きな桃買ってきてくれるって言ってたよ」

女「こんな季節に桃なんか……」

男「桃缶よりも喜んでくれるから探す、って言ってた」

女「……そう」

男「いいお母さんだね」

女「ちょっと怒りっぽくて、だらしないけどね」

男「でも、女さんの事をすごく大切にしてくれてる」

女「……うん、それは、…………そうかも」

男「調子はどう?」

女「まだちょっと、ボーッとするけど……」

男「布団、かぶってたほうがいいよ」

女「うん……」

男「ほら。タオル、さっきぬらした奴」

女「ありがと」

女「……ん。きもちー」

男「そっか」

女「えへへ」

女「男くん、やさしーんだ?」

男「病人に優しくしない奴がどこにいる」

女「ふーん……」

女「ねぇ……いつまで、いるの?」

男「さぁ」

女「今日、このまま泊まっちゃったら?」

男「さすがにそれは……、明日も学校あるし」

女「そっか」

男「でも、女さんがどうしてもって言うなら」

女「ううん、ちょっと言ってみただけ。そしたら少し面白いかなって」

女「もし男くんが泊まっちゃったら、わくわくしすぎて、身体治すどころじゃなくなっちゃうし」

男「そっか」

女「そうだよ」

男「じゃあ、お母さんが帰ってきたら帰ろうかな」

女「……うん」

女「でも……でも、帰っちゃう前に」

女「ひとつ、男くんに言わなきゃ。」

女「嘘、もう一個ついてたから」

女「今ならきっとね、静かに言える」

男「なにかな」

女「……言っても、嫌わないでね」

女「友達で居てね」

男「絶対だ」

女「私、お父さん居ないの」

女「私が小さい頃に事故で死んじゃったらしくて」

女「ほんとは、共働きじゃなくって、片親ってだけなんだ」

女「どうでもいいことだけどね……でも、みんなにこの嘘、ついちゃうんだ……」

女「理由はね、わかってるの」

女「クラスメイトの子が……小学校の頃の話だけど、私と同じ片親の娘を馬鹿にしてた」

女「それだけなんだ」

女「ほんと、理由なんてそれだけ。それだけで、怖くて……」

女「バレるの怖くて」

女「だれにも、家に呼べなくなっちゃって」

女「ふふ」

女「あー、すっきりした」

男「俺は女さんの事を、そんなことで絶対に馬鹿にしないよ」

男「絶対。絶対だから。信じて」

女「……男くんはいちいち優しいなぁ、もう。……ふふ」

男「……俺さ、思ったんだ」

男「今までの人生で、……起伏のない、それこそなんとなく過ごしてた人生だったけど」

男「俺の貧弱なこれまでの十数年間で、一番、……一番だよ?」

男「強く思ったんだ。願ったんだ」

男「女さんの、寂しさを埋めたいって」

女「……私の……寂しさ……」

男「女さんを抱きしめて、背負って、感じたんだ。確信したんだ」

男「ほんとは、俺……ちゃんと話すようになってからひと月足らずでこんな事言うの、無責任だってずっと思ってたけど」

男「つまり、その……」

男「……えっと」

女「ねえ男くん」

女「私は時々、分からなくなるの」

女「私が、男くんに、何を求めてるのか」

女「私はすごく勝手なんだよ」

女「自分に足りないものがなんなのか、すごく明確に分かってるのに」

女「それを男くんで、埋めようとしてる」

女「でもそれは、絶対にはまらない……そう、パズルのピースみたいなものなの」

女「もうね、これは、私に決定的にかかってる、呪いなの」

女「たぶん、一生、この呪いを解くことはできないの」

女「不器用だから」

男「俺に、女さんの父親の代わりはできないかもしれないし」

女「―――っ」

男「女さんが俺の事を、男としてみてくれてるかも分からない」

男「でも、これだけははっきりと言えるんだ」

女「いっちゃ、だめっ」

男「女さんが、誰よりも」

女「やだ!」

男「好きだって」

男「呪いなんて、知らない。パズルなんて、無理に完成させる必要ない」

女「そんなの分かってるよ! でもこればっかりはどうしようもないんだよ……」

女「なのに、なんでそんな『好き』だとか言うの?」

女「男くんは両親がしっかりいて、姉妹もいて、円満に暮らしてるから分からないんだよ」

女「私の気持ちが……」

男「……うん、ごめん。分かってあげれてないかもしれない」

男「でも、寄り添うことはできると思う」

男「女さんに」

女「…………え、へへ」

女「あのね、男さんにおんぶしてもらった時、お父さんを思い出したんだ」

女「おんぶしてもらった記憶なんて、ちっとも無いのにね」

女「これって、おかしいよね。……おかしいんだよ。私は、おかしいんだ」

男「おかしくなんかないよ。これから、少しずつ……」

女「ごめん」

女「今日は、帰って欲しいな」

男「わかった」

女「……ごめんね、悪いのは、私だから」

女「でも、友達で居て欲しいのは本当なの……」

女「男くんといると、すごく、幸せだから」

男「……ペンギンってさ、鳥なんだよね」

女「……え?」

男「鳥が好きかって、昨日、聞いたよね?」

女「……」

男「そのペンギンのぬいぐるみ、どうしたの?」

女「わからない……。ものごころつく前からあったから」

女「よく抱いて寝てるけど」

男「そのぬいぐるみをプレゼントしてくれた人は、きっと女さんの事をすごく大切に思ってくれてるはずだよ」

男「きっと」

母「ただいま」

男「お帰りなさい」

母「悪いね、待たせちゃって。桃はちゃんと見つかったよ」

男「きっと、女さん喜びます」

母「……帰る? 夕飯食べてってもいいけど」

男「遠慮しておきます。その……女さんに追い出されちゃいましたし」

母「……まさか、手ェ出したんじゃないだろうね?」

男「そんな。俺にそんな甲斐性ないですよ」

母「また心にもないこと言って」

男「信じて下さいってば!」

男「ひとつだけ、聞いてもいいですか?」

男「あのペンギンの人形、お父さんからじゃ……?」

母「ん? あー、まぁ、そうだわな。あいつの置き土産……みたいなもんかな」

男「だとしたら、お父さんは立派な人です」

母「ぷっ」

男「え?」

母「いやいや。なんでもない。どうしてそう思った?」

男「あのペンギン……コウテイペンギンです」

男「世界で最も過酷な子育てをする、っていう」

母「そういう話もあるねぇ」

男「コウテイペンギンは、卵がヒナになるまで、オスが極寒の中じっと卵を温め続けてるんです」

男「だから……きっと、お父さんはコウテイペンギンのオスと自分を重ねて……」

母「おしい。……けどね、考え方がアマちゃんだよ」

男「え……?」

母「現実は、そんな夢物語みたいにして動かないんだ」

母「飛び越えたくても飛び越えられない、持ち上げたくても持ち上がらない」

母「どうしようもなく理不尽にできてるんだ」

男「……」

母「だから」

母「あんたがどんなにこれから努力しても」

母「……オリンピックで金メダルとろうが、ノーベル賞を総舐めにしようが」

母「あの子に……女に、父親が居ないっていう事実はどうしようもないんだよ」

男「……そう……です、けど……」

母「お願いだから、あの子に夢を見せないでやってほしい」

母「ピースの足りないパズルである自分を、どうか女に受け入れさせて欲しい」

母「勝手なお願いだって分かってるけどね。こんなこと頼めるの、あんたくらいしか居なくて」

 それから、複雑な想いを胸に、俺は女さんの家を後にした。
 
 片親なんて、めずらしくない。
 割と、普通のことなんだ。

 ……昨日まで、そう思っていた自分が恥ずかしい。

 想像してみた。
 自分の父親が、居なかったら。
 父親の記憶が殆ど無かったら。

 それでも、……女さんの気持ちの1%も理解できた気分になれない自分が、堪らなく悔しかった。


男「……コウテイペンギン、か……」

男「(妹さんのお父さんって、いったい……?)」

妹wwwww

ちょっと疲れたごめん

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