ベルトルト「白い声」(15)
・LUNKHEADの『白い声』を題材にしたssです
・ベルトルトが語ってるだけ
・ネタバレ注意
僕のとなりにはいつもライナーとアニがいた
僕らはいつも3人一緒だった
でも
「自分は独りなんだ」
そういうふうに思っていないと
ふたりに頼りすぎてしまいそうで怖かった
だからあの日から
僕らが故郷に帰れなくなったあの日から
僕は独りぼっちで生きていける
生きていけなきゃいけないんだ
そういうふうに思い込もうとした
強くなろうと心に決めた
ねえライナー
君は僕がアニに対して恋愛的感情を持っているって
そう思ってたみたいだけど
それは君の勘違いだ
いや、半分は間違っていないかもしれない
確かに僕は故郷にいたころアニのことが好きだった
それが友だちとしての好きとは違うことも自覚していた
でもね、5年前
はじめて壁を壊した時に思ったんだ
僕には人を好きになる資格なんてないんだって
だからあの時
壁と一緒にアニへの気持ちも壊したんだ
今だってアニのことは好きだし、信頼してる
でもそれは仲間として、友だちとして
誰かを本気で想うことや
心の底から笑うこと
そういうことと引き換えにしても
僕は強くなろうと心に決めた
本当は誰かに伝えたかった
叫びたくて
わかってほしくて
でも
そういう気持ちを隠すことが
強さだとずっと思っていたんだ
だから僕は誰の心にも触れないで
透明なように生きようとした
あの頃の僕はエレンが言うように
ライナーの腰巾着でしかなかったんだ
でもこんなふうに生きることが
怖くない日なんてなかった
迷わない日なんてなかった
みんながあまりにも優しかったから
どんなに僕が心に厚い壁をつくっても
君たちはその壁を壊してきた
ライナーの後ろに隠れる僕にも
優しく明るく接してくれた
嬉しかったよ
でも苦しかった
どうして僕はみんなと普通に出会えなかったんだろう
僕が、僕らが、普通の人間だったなら
考えても無駄だとわかっていたのに
そうしてついにその日がやってきて
僕は再び壁を壊した
それは世界でひとり自分だけが
あまりにも無力に思えた日だった
おかしな話だ
僕は人々の生活を、平和をこんなにも簡単に奪ってしまえるほどの
大きな大きな力を持っているのにね
僕が過ごしたこの街は
僕が壊したこの街は
あまりにキラキラまぶしすぎて
何もかもがキレイに見えた
故郷に一歩近づけたはずなのに
嬉しいはずなのに
どうしてあんなに涙が溢れたんだろう
ライナーは覚えてるかな
その日の夜、君がはじめて僕に弱音を吐いてくれたこと
「そうやって独りで生きてきたんだ」
君は笑いながらちょっと泣いた
僕はなんだかほっとしてしまった
僕だけじゃなかったってほっとしたんだ
世界でひとり自分だけが
無力だと思ったあの日
この目にうつってたほかの誰かも
同じことを思っていたのかな
もう冷たく、動かなくなってしまった君は
それでもとてもいい顔をしている
君は最期まで立派な戦士だった
僕も最期まで立派な戦士でいられたかな
そして、君と僕は
“人生"という名の扉をひとつぬけたみたいだ
僕が唯一持っていた自分の意志
たったひとつだけ願ったこと
「3人で故郷に帰る」
もう叶うことはないみたいだ
そしてこれは僕の最期の願い
どうかアニ
君だけはどうか、どうか、
無事でありますように................
fin
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