五十嵐響子「大丈夫、大丈夫!」 (36)
モバマス短編SSです
完結させているのでどんどん落としていきます
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弟「おねーちゃーん!ユニフォームどこー!?」
響子「タンスの左の棚の中―!」
私、五十嵐響子は家事好きの女の子です。
今日も家のお仕事をひとつひとつこなしていきます。
弟「いってきまーす!」
響子「あ、お弁当持ったー?」
弟「もったー!」
弟は私のお手製のお弁当をもってクラブの練習へと向かいます。
響子「ふぅ、洗濯にお掃除、ご飯は炊いたし…。お夕飯の買い物に行こうかな。」
そういって私はエプロンを脱ぎ、お買い物に行く準備をします。
響子「ふっふー、今日のお夕飯は何にしようかなー♪」
私は頭の中のレシピをめぐらせながら地元の商店街へと向かいました。
響子「あ、お魚が今日は安いなぁ、お魚の煮付けとか…」
なかなかお料理が決まらず、私の頭は混乱していきます。
響子「あぁ、ひき肉…ハンバーグ?うみゅぅ……きゃっ!」
あまりにも頭がいっぱいで、私は道行く男性にぶつかってしまいました。
男性「あっ!ご、ごめん。大丈夫かい?」
響子「はい、大丈夫です。こちらこそごめんな…っ」
しりもちをついたときでしょうか、腕を少しすりむいてしまったようです。
男性「大丈夫…じゃなさそうだね、えっと、絆創膏は…」
響子「あ!いえいえ、本当に大丈夫ですから!そ、それでは失礼します!」
突然起こった出来事と周りの視線からくる恥ずかしさで、私は一刻も早くこの場を去ろうとします。
男性「ちょっと待って、やっぱり何かあると心配だからさ。これ、連絡先。名刺で悪いけど。」
そういって彼は手慣れた様子で内ポケットから名刺を一枚取り出して手渡します。
男性「ごめんね、呼び止めて。」
響子「は、はい…」
もはや脳の容量を超えています。
男性「それではお互い忙しいみたいだから、僕はこれで。」
そして彼は走り去っていきました。お目当てのお魚はもうすでにケースにはありませんでした。
弟「お姉ちゃん、その手どうしたの?」
響子「あはは、ちょっと転んじゃって…」
私の腕にはピンク色の絆創膏が貼ってあります。転んだ、というのは間違いではありませんし。
弟「へー、お姉ちゃんがドジするなんて珍しいねー。」
響子「もう、そうやってからかわないの!あとでちゃんと洗濯物はだしておいてね。」
少しだけさっきの光景がよみがえります。ああ、恥ずかしかったなぁ。
響子「そういえば、さっきの名刺…。」
ポケットに入った名刺を取り出します。そこには彼の名前と電話番号が書いてありました。
響子「連絡…しておこう。なんともなかったって事を、一応ね。大丈夫、大丈夫。」
私は携帯電話を取り出し、彼に電話をかけました。
……………『留守番電話サービスに……』
繋がりません。メッセージを残しておけばいいよね。
響子「もしもし、昼間のぶつか『はい、Pです。』っひぇ!?」
『えっ!?だ、大丈夫ですか?』
響子「は、ひゃい…。あの、商店街でぶつかった五十嵐です。」
『ああ、あのときの、痛みはもう引きましたか?』
響子「はい、もう大丈夫です。」
『そうですか、よかった。』
響子「いろいろとご迷惑をおかけしました。ありがとうございました。一応無事との連絡をしようと思いまして。」
『それはどうもご丁寧にありがとうございます。…すみません、今週中に少し時間を取っていただけないでしょうか?』
響子「今週中ですか?予定はありませんしいつでも大丈夫ですが…。何でですか?」
『お詫びもかねて少しお話がしたいのです、よろしければ、ですが。』
響子「い、いえ。そこまでしていただかなくても。」
『これはほんの気持ちですので、ぜひさせてください』
響子「そういうなら…わかりました。明後日の3時ごろでもいいですか?」
『明後日の3時、ですね。ではその日程で。また後日によろしくお願いします。』
響子「はい、じゃあ失礼します。」
その言葉を最後に電話の声は途切れました。そういえば彼、敬語だったなぁ。
約束の日、いつも通り家事をひと通り終わらせました。
いつもなら今からお買い物、なんですが…
響子「これで髪型、きまってるかなぁ…」
大丈夫、大丈夫、自分に言い聞かせます。
響子「服も整えたし、よし、いってきます!」
彼との待ち合わせは、ぶつかったときのお店の近くの小さなカフェになりました。
私が着いたときには彼はすでに待っていました。
響子「こんにちは、待たせちゃいましたか?」
男性「今来たばかりですよ、さあ中に入りましょうか。」
男性「改めて、先日はどうも失礼いたしました。」
響子「こちらこそ、不注意で…ごめんなさい。」
お互いに頭を下げます。初対面ではないとはいえ、変な感じがします。
男性「自己紹介がまだでしたね。私はPと申します。」
響子「五十嵐響子です。15歳です。」
P「いがらし、きょうこ、さんですね。いい名前だ。」
響子、という名前は気に入っています。かわいらしいじゃないですか。苗字に比べて。
響子「今日は敬語なんですね、ぶつかったときは違ったのに。」
P「あぁそういえば、今は仕事モードだからでしょうか。」
仕事モード…?そこに妙に引っかかりました。
響子「お仕事、なら何で私をこんなところに呼び出したんですか?」
ちょっと高圧的にせめてみます。
P「はい、他でもありません。五十嵐響子さん。」
フルネームで呼ばれたことに対して、むしろ私が引いてしまいます。
P「私はあなたを、アイドルにしようと思っているのです。」
はじめて会ったあの時のように、私の頭はフリーズしてしまいました。
響子「えっ、えええっ!?」
P「お、落ち着いて下さい。とりあえず自分の話を聞いていただけますか?」
響子「ちょ、ちょっと、まっ、待ってください……はい、大丈夫です。」
私は暴走する脳をなんとか冷やして、話に耳を傾けました。
P「私と響子さんがぶつかったあの日、私は街頭でスカウトをしていました。」
P「しかし何分周りの目も厳しいものでして…なかなか話を聞いてくれる人はいませんでした。」
P「あまりにも収穫がなかったので、今日のところは諦めようとしていたとき、私は響子さんとぶつかったのです。」
P「あの時は自分も気が動転していまして、スカウトのことなんて忘れていたのですが、そのあとすぐに、なんで勧誘しなかったのか、と後悔しましたね…」
響子「それで私が電話をかけて、これはチャンスだ、ということだったんですね?」
P「そういうことです。運命を感じましたね。あの女の子は絶対にトップアイドルになれる、そう感じました。」
響子「運命、ですか。」
女の子は運命という言葉に弱いのです。そんなこと言われたらその気になっちゃうじゃないですか。でも、
響子「本当に私なんかがアイドルをできるんでしょうか?」
P「なんか、じゃありません。響子さんだから、響子さんにしかできないのです。」
響子「私にしか…できない事…」
いったいそれはなんなのだろう。少なくとも家事ではないよね。
響子「…大丈夫、ですか?」
P「はい?それは…」
響子「私は家事が好きなごく普通の女の子です。そんな女の子は日本中どこにでもいると思うんです。それでも、私で、大丈夫なんでしょうか?」
心配事だらけです。全く知らない世界に足を踏み入れることになるのかもしれないですから。
P「もちろん、大丈夫です。私が全力でサポートしますから。」
P「そして私は、絶対に響子さんをトップアイドルにできると確信していますから。」
その一言に、私は今までと違う、まったく新しい道へ進むことを決めたのです。
これも、運命、なんでしょうね。
その夜、私は両親に相談しました。もちろん不安な点は多々ありましたが、自立はしているということで許可してくれました。日頃の家事の成果でもあるんでしょう。
響子「大丈夫、大丈夫…」
大丈夫と2回唱えること、これは私を見失わないための呪文です。心の中でこう唱えると不思議と落ち着くのです。
Pさんとはまた後日、今度は両親を交えてお話をすることになっています。それが終わったら私は晴れて正式にアイドルとなります。
響子「…まぁ、アイドルの卵ってところかなぁ、あ、卵が安い。」
…どうやら日頃の習慣は抜けないようです。
P「それでは、大切な娘さんを預かることとなりますが、全力でサポートさせていただく所存ですので、どうぞよろしくお願いします。」
話し合いはスムーズに終わりました。契約書にサインをし、簡単な今後の予定を聞きました。
P「本格的な活動はまだもう少し先になりますので、また連絡を差し上げますので。」
手続きがいろいろあるようで、私のアイドルとしての活動は1週間後となりました。
それまでに私もやるべきことができました。
今までは春休みでしたから時間はあったのですが、単身上京することに決めたのでその準備をしなくてはいけません。
響子「あれとこれと、あぁあとあのエプロンと…」
次々と荷物をトランクに詰めていきます。必要なものとそうでないものを慎重に考えながら。
響子「よし!これでいいかなっ。」
準備はできました。あとは出発を残すのみです。
響子「それにしても、ずいぶん片付いちゃったなぁ…」
私の部屋にあった小さなテーブルやいす、お気に入りのチェストなどは先に送ってもらいました。そのせいで日焼けのしていない床がまぶしく見えます。
響子「今日でこの部屋ともいったんお別れ、だね。」
明日はこの部屋に感謝をこめてお掃除してから家を出よう。そう心に決めて私は寝ることにしました。
響子「それじゃ、いってきます!」
翌日、出発の時がやってきました。
弟「お姉ちゃん、がんばってね!」
響子「うん、ありがとう。きっと大丈夫、大丈夫!」
魔法の呪文を声にだし、家を後にします。
私のアイドル生活、スタートです!
それからの毎日はものすごい勢いで過ぎていきました。
はじめての東京での生活、はじめてのお仕事、こっちに来てからのはじめての友達…、私にとってはじめての経験の連発が待っていました。
そんなとき私が唱えるのはあの呪文。大丈夫、大丈夫。
この呪文がある限り、私はアイドルで居られるのです。そう、それはまるでシンデレラのように。
もっとも、この魔法は12時で終わることはないですけどね。
P「響子、今日はライブだ、落ち着いていこうな。」
響子「はい。…ふふっ、今日は敬語じゃないんですね。」
P「最近はもうずっと敬語じゃないだろう、そりゃ響子にやめてくれって言われたらやめるさ。」
響子「そうですね、Pさんは敬語じゃないほうが似合いますよ。」
P「それはどうも。その様子じゃ緊張はあまり無いようだな。」
響子「そんなことないですよ、今にも心臓がはりさけそうです。」
P「よし、響子、あれだ。大丈夫、大丈夫、か?」
ああそうか、響子ちゃん鳥取出身だったな。
響子「もちろん、大丈夫、大丈夫。です!」
以上で投下終了です。ありがとうございました。
響子ちゃんみたいな女の子がアイドルになるってこんな感じなのかなっていう妄想でした
乙乙
出来れば1行ごとに行空ければ見やすくなったかなーと
読んでくれた方ありがとうございます、あとでHTML化依頼出しておきます
よろしければ旧作
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もどうぞお読みくださいな
Pが鳥取になにしにきてたのか気になる鳥取県民
1です、携帯から
鳥取にきてたのは地方スカウトということでひとつ…
御都合主義でPさんを鳥取に召喚しました!
あとタイトルは書いてたら大丈夫って言葉を多用してたので
むしろ利用してやれってことでこんな感じにしてみました
読んでくれた方本当にありがとうございました!
…乙!
すげーよかった!
乙乙!
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