近年奴隷法が改定されるに伴い、一般的な労働奴隷以外の項目がいくつか追加され、その一つこそが『食用』奴隷。
飽食にも更に飽いたこの国で、長年じわじわと需要が主張され続けて来たこの新たな種類の奴隷は、まごう事なき『死』が確定されている。元々奴隷には様々な権限が存在しないが、生命としての最低ライン、生存権までも決定的に剥奪されていることになる。
とは言え、彼ら彼女らに同情的な民衆は最早この国では少数派だ。食用奴隷を購入する場合、購入者にも様々な決まりが課せられる。
一つ、決して解放せず、逃亡させないこと。
一つ、生命の危機以外の理由で食べることを放棄しないこと。
一つ、最長でも必ず購入から三年以内に食すること。
これらの内どれか一つでも破った者は財産の没収を余儀なくされて最悪極刑となり、最低でも超長期刑を負うことになる。買う側にも、それ相応の覚悟が要求されているのだ。実際奴隷法改定後、その覚悟に欠いた者が容赦なく吊るされていたし、没収された財産は公共の機関に回される為、交通の無償化や医療費の軽減が現実味を帯びて来ている。
食用奴隷への反対を謳う連中も、バスには乗るし医者にもかかる。全てを拒否した者だけが石を投げろ、と言うのが現在の世論としては強いのだから、世も末と言うやつだ。
まあ、それは良いとして。
「さて」
食用奴隷を買って来た。
専用の拘束具であらゆる抵抗を封じられた『それ』は、しかし自分に買い手が付いたことも、購入者の家へと既に『納品』されていることも理解しているようだった。小刻みに震える肩、ひっきりなしに流れる汗と涙、荒い呼吸。とうの昔に奪われている『生きる権利』を今からでも手に出来ないかと、必死に考えているであろう小さな頭。こちらの短い発声に、痙攣するように体を震わせた『それ』は、ただただ無力だった。
「メニューは何が良いかな」
購入の際渡された書類に目を通す。種族、年齢、性別がある場合は性別、病や毒素の除去済みである証明書、使用の際の注意点や拘束具の説明、おすすめの調理方法等が記されている。
今回購入したのは
種族>>5 年齢>>9 性別>>12
遠すぎる
性的な意味で食べると信じてエルフ
18(実年齢68)
20
a
女
「エルフの女……ん、二十歳か。通りで小さい」
長命種であるエルフの二十歳と言えば人間、トールマンの年齢で言えば大体十歳前後と言ったところだ。ふくふくとした頬と蔓のようにしなやかな手足はいかにも柔らかそうで、解体は比較的容易に済むだろう。それにしても随分と若い──幼い身空で食用奴隷などになってしまったものだ。同情するつもりはないけども。
まあ年長のエルフは食べすぎると内包する魔力が濃すぎて中毒を起こすことがあるから、お腹いっぱい食べたいならこのくらい若くても良いのだろう。拘束具ごと持ち上げると台車に乗せ、解体場へと連れて行く。
「えーと……?おすすめは……」
おすすめの調理法はシンプルに肉はステーキ、骨はスープの出汁などに、とされているが、この辺りは大抵お決まりなので参考にはあまりならない。生食が可か不可かだけはきちんとチェックしておくが、エルフやトールマンは基本的に無毒で生食が可能だ。年嵩でもないのでやはり中毒の可能性は「極低い」にチェックがついていた。
生か、加熱か。臭みは少なそうだけれど。
ちら、と視線をやると、拘束具が稼動し、きっちりと折り畳まれた手足を曲げ伸ばししている所だった。あの店はこう言うところがいい。下手な所で買うと拘束しっぱなしで死んだり味が悪くなったりする。ちょっと高いけれどそれだけの価値はある店だ。何やらもがいているようだが、たとえ屈強なトロールでも抜け出せるような代物ではない。
取り敢えずどこから食べようか。
部位>>10
性的な意味で食べるんじゃなくてカニバリズムの方かよ
食べるって言っといてセックスするやつばっかりだなぁって思って立てたやつだから
食べる部位>>13
もも肉
塩ラーメン
三色チーズ牛丼
では、と解体用具を手にしようとしたところで──お腹が鳴った。
「うーん……」
思ったより空腹のようだ。肉だけでは寂しいかもしれない。
「……あ、そうだ」
手にしかけた大型の刃物を置き、キッチンへ移動する。戸棚の中に確か、先日友人から譲り受けた食品があった筈だ。しばらく探して、目当てのものを見つけ出す。
「あった、『塩ラーメン』セット」
麺類らしい。塩と海産物から取った出汁に浸して食べる物で、一度食べれば本場の店に出向かずにはいられなくなると言う。自信満々に差し出された日のことをほのぼのと思い出しつつ、調理法のメモを読む。軽く麺を茹でて、付属のスープをお湯に入れる──だけ。
「すごい」
こんなに簡単に美味しいものが作れるのか。友人の国はとても冴えているのだなあと思いつつ、持ち運べる火種と水を張った鍋を持って解体部屋へと戻る。
本来はちゃーしゅーと言う豚肉の加工品を入れるらしいが、エルフ肉でもまあ食べられなくはないだろう。
拘束具の内、口枷に相当する部分を外す。
「ぁ゛、あぁあ゛……った、たす、たすけ」
「君、治癒術は使えるかい?」
「助けて!!助けて、たすけてぇええっ!!」
「助けは来ないよ、君食肉奴隷だし……」
「いや、やだ、かえして、おうちに……やだ、やあぁ……」
「……うーん」
随分怯えているようだ。まあこの国で食肉奴隷になったと理解してはいても、生物としては仕方がないのだろう。
「ねえ、君がちゃんと話を聞いてくれれば、すぐ殺さなくても良いんだけど」
「ぅ、うぅ゛……!!っふ、ぐす……」
びく、と肩を震わせながらも、どうやらわかってくれたらしい。泣き喚くのを止め、こちらの言葉を聞こうとしているように見える。流石エルフ、幼いと言っても賢くてありがたい。
「治癒術は使えるかな?他の術は?」
「つ、っつかえ、ます……ち、治癒だけ……で、でも、すぐ、すぐ使えるようになります、します、すぐ、だから、役に立ちますから……!!」
「ああいや、治癒だけで良いんだよ。もう使えるんだ、えらいね」
エルフは自然の中で生きることを好み、無用な殺生を嫌う種族であるらしい。となるとやはり普段使いとしては治癒術が一番役に立つのだろう。実際こちらとしてもありがたい話だ。
「じゃあ、君の魔術拘束を外すね」
「あっ、あ、ありが、」
「これから君の足を切断するから、その後治癒術を使ってくれるかな」
「…………、……ぇ」
大型の鉈を手に取る。これなら小さい子供の足一本くらいさっくりと落とせるだろう。
「ま……まって、まって、やだ」
「もうお湯を沸かし始めてるからあんまり時間がないんだけど……」
「あ、あ、あし……」
「え、腕の方が良い?」
個人的には足を食べたいのだけど、と思いつつ尋ねるとぶんぶんと首を振られる。良かった、取り敢えず意見は一致したようだ。
脚部の拘束具を一部外す。膝を伸ばさせて再度固定すると、取り敢えず左足の付け根辺りに狙いを定めた。
「あぁ、あっ、ひ……っ!」
「じゃあ行くね。ちゃんと治癒しないとすぐ出血で死んじゃうから気を付けて」
今すぐ死なれると少し困る。こちらでも止血の用意はあるけれど、薬品や手間をかけなくて済むならそれが何よりだ。
一応念を押して、鉈を振り上げ、
振り下ろす。
「あ゛ぁあ゛ああああああ!!!!」
「……うん、綺麗に切れた」
平らな切断面を見て満足しつつ、天井から吊り下がっているフックに足首を引っ掛けて逆さまに吊るす。きちんと血抜きをした方が美味しいのだろうけど、今日はまあ簡単にで良いだろう。何しろらーめんが待っている。
「ぎっ、ひ、ひぃ、あ゛ぁ、あッ」
「……あれ、治癒は?」
「は、あ゛、ああ゛ッ」
「死んじゃうよ、ほら深呼吸して。大丈夫、傷を塞ぐだけだから難しくないよ、ね」
「ひ、ぅ゛、ぐ……ッふ、ふー、っふー」
そばにしゃがみ込んで促すと、言われた通り素直に呼吸を整えようとし始める。素直で良い子だ。
程なくして、切り口が淡い光に包まれ始め、ゆっくりと傷が塞がっていった。自然に治ったものよりも肉の盛り上がりが少なく、あまり厚くない皮膚に覆われただけのようだが充分だろう。
「えらいえらい」
肩で息をしている少女の頭を撫でてから、両手で使う骨ごと切断出来る鋏を持って吊り下げた足の元へと戻る。取り敢えず十センチほどの所を刃で挟んで軽く固定し、一気に力を入れてばつん、と切り落とした。受け皿を用意していなかったのでべちゃりと血溜まりに落としてしまい、こう言う所よくないなと反省しつつ適度なブロック肉になったそれを拾い上げる。
骨は細く、肉は薄い。皮には幸いまるきり毛が生えていないので、そのままでも大丈夫そうだ。ありがたい。包丁で簡単に骨と肉を切り分け、三枚ほど薄くスライスする。残った分は大きめの一口大に切り、どちらにも軽く塩と酒を振る。解体場にも簡単な調理施設を置いておいたのは正解だったなぁと思いつつ、鉄板を熱して肉に軽く火を通した。
鍋の方もしっかりお湯が沸いていたので、まず器にスープの素を入れてそれを割る分のお湯だけ別にすると、麺を落としてほぐしながら茹でる。柔らかく解ける程度で良いらしいそれを鍋からあげ、お湯を切って器に移す。最後にスライス肉を麺の上に置いて、
「しおらーめん、完成」
満足感と共に呟く。とても良い匂いがする。
ごろごろに切った肉もついでに摘もうと皿に乗せ、麺の器と一緒に簡素なテーブルへと運ぶ。いただきます、と呟いて、まずはらーめんから手をつける。
「あ、おいしい」
つるりと口の中へ滑り込んでくる麺。コシのある食感と小麦の味にスープが絡み、大変に心地よい。海産物と言うから魚の味がするのかと思ったが、想像していたよりもずっと上品で、口の中から鼻へふんわりと香りが抜ける。柔らかい風味が塩でシンプルにきりりと引き締まっていて、スープだけでも延々と飲んでしまいそうだ。
と、そこへエルフ肉の油が入り込んでくる。甘味のあるそれは意外にもスープによく合っていた。エルフは菜食主義で臭みが少ないらしいと聞くけど、そのおかげだろうか。
肉を一枚、口の中へと運ぶ。やはり若いからなのか、新鮮だからなのか、とても柔らかい。舌の上で解けるように無くなっていくそれは肉自体も仄かに甘く、上品な香りがする。スープとも喧嘩せずに調和を保っていて、山の幸と海の幸は案外相性の良いものなんだなぁと感慨深く味わった。
麺とスープを楽しみつつ、一口大で焼いた方の肉も一つ。これも溶けそうなほどに柔らかいが、厚みがあるからか先ほどより歯応えがあり、噛む度に肉汁と香りが口いっぱいに広がった。皮と肉の間にはうっすらと脂肪の層があり、その部分は特に甘く香ばしい。皮も薄いため、二、三度噛んだだけであっと言う間に無くなってしまった。脂にしつこさが全くなく、もう一つ、あと一つ、と食べている内にお皿は空になってしまっていた。
麺が伸びてしまう前に、それでもしっかりと味わってらーめんを楽しむ。肉をもう少し厚く切れば良かったかなぁとか、いやこの位の方が麺を邪魔しないのかもしれないとか考えつつ、最後にはスープの一滴までしっかり飲み干していた。
「ご馳走様でした」
今度友人にはお礼を言っておこう、と機嫌よく思いながら、軽く視線を巡らせる。
「君もね、ご馳走様」
声をかけられた少女は、すっかり青くなった顔でびくりと体を震わせた。
翌日。
解体場に降りていくと、エルフの少女はぐったりと床に倒れ伏していた。確かめた所脈はあるので、死んではいないようだ。部屋はちゃんと掃除したので血塗れなのが気持ち悪いとかではなく、単に足と幾らかの血が無くなって疲れたのだろう。青白い顔で微かに寝息を立てている。
さて、今日は何処を食べるか。
あるいはさっさと解体してしまって加工に移っても良いかもしれない。
また回復をさせつつ部分的に食べるか、屠殺してしまうか。
部分的に食べるか屠殺か>>24
なんかもう可哀想だし、早く楽にしてあげた方が良いのでは……
というわけで屠殺
腕を食べてるところ見たいので部分的に食べる
やはりもう少し回復させつつ食べてみよう。解体はいつでも出来るのだし。
棚からポーションを一つ取り、泥のように眠っている少女へ歩み寄り、手の届く距離でしゃがみこむ。
「おはよう、起きて」
「ぅ、う……? おは、よ……っひ、あ、ぁあ……っ!!」
軽く揺さぶりながら声をかけると、少女はゆるゆると目を開いた。ぼんやりと視線をさまよわせ、反射のように挨拶を返しかけて、それが途中で引きつった悲鳴に変わる。無理もない。
「これ、体力回復用のポーション」
「くす、り……?な、なんで」
「死にそうな顔色してるから。君の治癒だと傷は塞がっても体力までは戻らないみたいだからね。はい、飲ませるから口開けて」
拘束はしたままなので、必然彼女に口を開けてもらってそこへ流し込む形になる。気道に入らないように気をつけなきゃな、と思いつつ、薬瓶の蓋を開けた。
暫した迷ったように少女はこちらを見ていたが、やがて薬瓶の中身へ視線を向け、それが確かにポーションらしいと思ったのだろう、大人しく口を開いた。素直でありがたい。
「ゆっくり入れるから、変なとこに入りそうだったら口閉じてね」
「……はい……」
小さい口の中へ向け、そっと瓶を傾ける。他人のペースで液体を注がれるとのはいくら少量ずつと言えど大変らしく、小さな舌が四苦八苦するように動きながらポーションを飲み込んで行くのを見るともなしに見た。牛の舌のように焼いて食べるには少し小さすぎるかもしれない。
数回の中断を挟みつつも、無事瓶は空になった。確認すると、薔薇色とまでは行かないまでも起こす前より遥かに顔色が良くなっている。これなら大丈夫だろう。
「あ、ありが、とう……ござい、ます……」
拘束具でほぼ自由にならない体の内、首だけを前に倒すようにして礼を言う少女に「どういたしまして」と答える。食材には健康でいて欲しいというこちらの都合なのだが、律儀な子だ。
さて、今日は何処を食べよう。
食べる部位(命に関わらない部位)>>28
ミミガー
ふと、少女の耳に目が行く。絹のような髪から顔を出す、エルフ族特有の尖った長い耳。ここなら出血も体力の消耗も少なそうだし、手軽に食べられそうだ。
「よし」
呟いて立ち上がる。今日は耳を食べてみよう。軟骨だし、小型の刃物で大丈夫だろう。
部屋の一角、解体用具を纏めてあるへと足を向けると、ひっと息を飲む音がした。察しの良い子だ。ナイフを一本手に取り、少女の元へと戻る。先程良くなったばかりの顔色はまた真っ青に血の気が失せてしまい、視線はこちらの手元に釘付けになっていた。
「あ、ぁ……」
「今日は耳を切るから、昨日と同じ要領で治癒してね」
「っ!!い、ぃや、やだ……!!」
「治癒しなくてもまあそんなに激しく血は出ないと思うけど……病気とかになったりしたら困るから、すぐ殺さなきゃいけなくなるよ」
実際処置が雑で感染症を起こし、それをこれまた雑に調理して食べた者が腹を壊す、最悪死亡する、などの事故は時折起こっている。薬効の強いポーションは値段も高いし、飲ませすぎると薬臭くなるとか何だとか聞くので、出来れば多用はしたくない。
まあ今回に限って言えばその危険性は極めて低いと言えるだろうから、これは単に治癒をしようという気になってもらう為の方便のようなものだ。
治してもう少し生きるか、すぐ死ぬか。
悲痛に顔を歪ませて震えていたが、その二択であることは理解出来たらしい。涙でぐしゃぐしゃに濡れた目の中に決断したらしい色を見えた。聞き分けの良い子だ。
「じゃあ行くね」
左手を伸ばし、まず周りの髪を退けてから尖った耳を軽く摘む。外側へ引っ張るようにして、耳と頭の繋ぎ目辺りにナイフの刃を乗せた。刃が冷たかったのか、びくりと小さい肩が震える。
ぐ、と力を入れて。
「ぎぃッ──!!」
ナイフを前後に動かし、薄い肉と軟骨を切り取って行く。さほど抵抗なく、さくさくと頭から耳は離れていく。
「あ゛っ、あぎ、ぅああ゛……!!!」
「もうちょっと……よし、取れた。治癒して良いよ」
「は、は、あ゛ぃい……ッいだ、ッひ……っぐぅぅ……!!」
悲鳴と呻き声を上げつつ、それでも何とか術を発動したらしい。昨日より素早く傷口が光に包まれ、あっという間に出血は収まった。
「えらいえらい。あと一回だから頑張ってね」
「ふぅ゛ーっ、うぅうう゛……ッいや、やだ……もうやだ……」
「治癒しないなら、こっちで止血することになるよ。熱した鉄で傷を焼いて塞いだりとかになるから、治癒の方が良いと思うけど……」
「っ、っ……う゛ぐ……っひぐ……っ」
納得したのかしてないのかは兎も角、静かにはなったので、残った方の耳へと手を伸ばす。と、首を大きく振ってその手を振り払われてしまった。
「危ないよ」
「うるさいうるさいッ!!!やだやだやだもういや!!!痛い、いたいの!!いたいの!!!」
「まあ切ってるからね」
「何でっ!?なんでこんなことするの、どうして、助けて、助けて助けて助けてよぉ、こんなのやだああ!!」
何で、と来るのか。
ナイフを一旦床に置き、激しく振られる頭へそっと両手を伸ばす。酷く抵抗を受けながらも、その小さな頭を捉えることに成功した。
ぼろぼろと涙を流す碧眼を覗き込み、諭すようにゆっくりと、声をかける。何で、と言う、その問いへの答え。
「君は『食用奴隷』だからだよ」
「しょ…………」
「本当はわかってるでしょ?この国で食用奴隷になったら、それでおしまいだって。しかも君には買い手がついた訳だから、長くても三年の命。これもわかってるよね。君を生かしたまま解体してるのは僕に『その権利があるから』で、君がそんな目に遭うのは『それを拒む権利がないから』だよ」
生きる権利がない。抵抗する権利がない。哀れまれる権利すらも剥奪されている。生物におけるありとあらゆる権利が消え去った、それが『食用奴隷』。いきの良いまま保存したいと思う者に買われれば生きたまま解体されるのが当たり前、奴隷という言葉すら生温い、生かされる食肉。
それがこの国での常識だ。
「大丈夫、三年もかける気はないよ」
「………………」
呆けたように反応のなくなった少女の残りの耳を削いで、結局そちらの止血は自分がした。
「さて」
本日の食材、新鮮なエルフ耳、二枚。豚の耳を加工したものは食べたことがあるが、あれは作り方がわからないし、取り敢えず焼いて食べてみよう。
まずしっかりと洗浄する。外耳部分のみなのでそれほど手間は掛からない。血を洗い流して、内側の汚れを綺麗にし、水気を拭き取る。これを両耳に繰り返す。
鉄串を取り出し、焼いた時に反ったり丸まったり(するのかわからないが)しないよう縫うように串を通す。一本の串に二枚とも刺せそうだったのでそうしてしまう。
あとは、火種を入れた鉢ものに鉄串をかけて火を通すだけ。味付けはとりあえず塩と胡椒で良いだろう。
焦げ付かないように時折くるくると串を回していると、良い香りがしてきた。
焼き色の付き始めた耳に、塩と胡椒と振る。そう言えばキッチンにレモンがあったから、それを少しかけても良いなと思い立ち、少しだけ火から串を遠ざけてレモンを切って持って来た。焦げてはいないようだ。くし切りにしたレモンを乗せたテーブルに置き、また暫く耳を焼く。
パリパリになるまで焼くか、レアくらいの方が良いか、悩んだ結果今回はパリパリにすることにした。こんがりと狐色になったそれに満足して火を消し、串ごとテーブルに運んで皿の上に耳を落とす。
「いただきます」
まだ湯気の立つ焼耳を、ふーふーと軽く冷ましながら口に運ぶ。まずは尖っている方から歯を立てると、薄い皮がパリッと割れ、更に歯を食い込ませると軟骨特有のこりこりした食感が返ってくる。塩と胡椒も良い具合にきいていて、噛む度旨味と食感を楽しめた。真ん中辺りはほぼ軟骨だったが、薄いためいつまでもゴリゴリと口の中に残っているということもない。エルフの耳は殆ど耳たぶらしきところがないのでもちもち感はないが、それでも充分に美味しい。
二枚目はレモンをかけて。絞った途端柑橘系の爽やかな香りがぱっと周囲に広がった。一枚目と同じように尖った方から食べていくが、うん、これは良い。パリパリコリコリの食感にさっぱりとした酸味が加わって食べやすさが増し、これなら器いっぱいでも食べられそうだ。お酒にも合うかもなぁと思いつつ味わっている内、あっという間になくなってしまった。感覚としてはおやつに近いが、満足感はなかなかある。
ふう、と小さくため息をこぼし、手を合わせる。
「ご馳走様でした」
二枚目はレモンをかけて。絞った途端柑橘系の爽やかな香りがぱっと周囲に広がった。一枚目と同じように尖った方から食べていくが、うん、これは良い。パリパリコリコリの食感にさっぱりとした酸味が加わって食べやすさが増し、これなら器いっぱいでも食べられそうだ。お酒にも合うかもなぁと思いつつ味わっている内、あっという間になくなってしまった。感覚としてはおやつに近いが、満足感はなかなかある。
ふう、と小さくため息をこぼし、手を合わせる。
「ご馳走様でした」
先日切り落とした足をブロック肉に加工し終わり、次は何処を食べようかなと思案しながらお茶をいれる。同じく食用奴隷を買っている友人からもらった、ドライアドの花を加工したものだ。あれはそろそろ二年半くらいになるのかな、と暦付き時計を眺めて感慨深くなる。長くてもあと半年でこのお茶とはさよならか、あるいはまた新しくドライアドを買うのかもしれないけれど、まあ残りを大事に飲むことにしよう。
近々解体することを考えると固形物はあまり食べさせられないけど、水分は大事だしあの子の分も入れようか、と思った時、玄関の呼び鈴が鳴った。
「はい、どちら様ですか?」
訪ねて来たのは>>39
その友人が来た
「ハーイ、久しぶりぃ」
「あれ、本当だ、久しぶり」
扉の向こうに立っていたのは、つい先程思い起こしていたドライアド茶の友人だった。前回会ったのは確か最後に茶葉をもらった時だから、二ヶ月ほど前になる。
「珍しいね、街まで出てくるなんて」
「ちょっとネー。あ、コレ君にお土産」
「わ、ありがとう」
友人が手渡してくれた袋には、いつもお茶の葉を入れてくれる紙袋が一つと、何かの果物のパイが入っていた。
「これは?」
「うちのが実をつけたんだよネェ、折角だから美味しく頂こうと思ってさぁ」
どうやら件のドライアドの実で作ったパイらしい。わざわざ持って来てくれたということは自信作なのだろう、思いがけず良いお茶請けが出来た。
「ありがとう、折角だから上がって行かない?丁度お茶にするところだったんだよ」
「そうネー、じゃあそうするよ」
お邪魔しまーす、と言いながら入ってくる友人を迎え入れ、キッチンテーブルの席をすすめる。お茶は丁度いい蒸し具合だ。カップを二つ用意し、貰ったパイを切る。濃い緑をした爽やかな香りのそれを皿に乗せ、お茶を注いだカップと共にテーブルへ向かった。
「最近どう?何か新しいことあった?」
「相変わらずだよ。あ、でも食用奴隷を買った」
「へぇ!いいねえ。何買ったの?」
「エルフ。小さいやつ」
「あー。初心者向けだネェ」
バターのたっぷり使われたサクサクの生地にあっさり目のクリーム、惜しみなく乗せられたドライアドの実が瑞々しい甘酸っぱさがとてもよく合う。お茶とお菓子を楽しみながら談笑している友人は、
友人の種族>>42
エルフ
そう言えばエルフだったな、とその長い耳を見て思う。
「自分と同じ種族の食用奴隷って複雑?」
「いやあ別に。そんなセンチメンタルだったらこの国に住んでないヨ。そもそも自分でも食用奴隷買ってるしネェ」
「それもそうか」
「で、どう?おいしい?」
「おいしいよ」
エルフは基本菜食だが、それは実際肉がまるで食べられない、と言うのではなく、彼ら彼女らの教義のようなものらしい。目の前の友人はそれを「おいしいものをおいしく食べないなんて馬鹿馬鹿しくってやってらんないヨ」と全否定し、里を飛び出して一人でこの国に移民を果たしたのだと言う。野菜が嫌いな訳でなく、食べられるものは何でも好きなのだそうだ。
そんな友人なので、
「ところで君、お裾分けをしたい気持ちになったりしないかい?」
「丁度そんな気持ちになってたところだよ」
もも肉を一塊分けることにした。
それからまた暫し談笑し、ついでにミートパイや肉料理のレシピを幾つかメモしてもらい、お茶の時間は楽しく過ぎた。
「また来るネ。何か処分に困るようなことあったら相談してヨ」
「うん、ありがとう」
見送りに出ると、友人は機嫌良くそう言ってくれた。迎え入れた時は気が付かなかったが、玄関先で待たされていた馬の蔵には何やら色々と荷物が結び付けられている。香辛料でも買い込んだのだろうか。
よっこいしょ、と何やら年寄りじみた掛け声で馬の背に跨り、軽く手を振ってくれるのに此方も同じ動きで応えた。のんびりと家路を行く友人の馬には、乗り手と同じ種族の肉が入った袋が括り付けられている。
「持つべきものは友かなぁ」
それも何かにつけ理解のある友人であればなお良い。自分もそう言う友人でありたいと思いつつ家に入り、その日は教えてもらったレシピに目を通して過ごした。
友人の性別迷ってるんだけど男と女どっちが良いかな……どっちでも良いかな……
それこそ安価取ればいいのか
友人エルフの性別>>47
男
>>47 さんくす
昨日はのんびりとしすぎてしまった。まあ久し振りに友人とゆっくり話せたし、お土産ももらったし、ついでにレシピも──うん、思ったより有意義に過ごしているかも知れない。
半日ぶりに、解体場へ入っていく。相変わらず少女はぐったりと血の気の失せた顔で縮こまっていた。簡単に水分補給をさせ、此方で止血した方の耳が化膿など起こしていないかチェックする。幸い無事に血は止まっているようだ。
さて、今日は何処を食べよう。
食べる部位>>51
肝臓でキドニーパイしよう
昨日はのんびりとしすぎてしまった。まあ久し振りに友人とゆっくり話せたし、お土産ももらったし、ついでにレシピも──うん、思ったより有意義に過ごしているかも知れない。
半日ぶりに、解体場へ入っていく。相変わらず少女はぐったりと血の気の失せた顔で縮こまっていた。簡単に水分補給をさせ、此方で止血した方の耳が化膿など起こしていないかチェックする。幸い無事に血は止まっているようだ。
さて、今日は何処を食べよう。
食べる部位>>51
ごめん間違えた↑
キドニーパイ調べたら腎臓だったから肝臓じゃなくて腎臓でも良い?
ID変わってそうだけど>>52どうぞどうぞ
さんきゅさんきゅ
「そうだ、あれ作ってみたいな」
昨日友人が置いて行ってくれたレシピの一つ、キドニーパイ。腎臓なら──少なくともトールマンの場合──二つあり、片方がなくなっても即座に死ぬ訳ではないし、丁度良いだろう。
切れ味と取り回しやすさを重視し、比較的小振りのナイフを用意して少女の元へ歩み寄って声をかけた。
「今日はお腹を開くね」
「ひ……ッ」
「無くなっても大丈夫な所を取るけど、流石に耳と違って治癒術使わないと死んじゃうと思うから出来れば頑張って欲しいな。あ、あと、手を抜く前に術は使わないで。腕巻き込んで傷口が閉じちゃうと、多分抜く時中がぐちゃぐちゃになっちゃうと思うから」
「う、ぅ゛……っ」
ぐちゃぐちゃ、を想像したのか、少女がえずく。固形物はもう摂らせていないので出たものはほぼ胃液だった。
吐瀉物を洗い流し、拘束具を操作して仰向けに固定する。痛みで暴れて舌を噛まないよう轡をして、自分の手と解体用具、少女のお腹周りを消毒。準備は完了だ。
ナイフの刃を当て、く、と力を入れるとすんなりと肉が裂ける。
「う゛ッ、うう゛う゛ぅうぅぅッ!!!」
「なるべく早く済ますから頑張って」
「ん゛んーーー!!!んんん゛ん゛!!!」
くぐもった悲鳴が響く中、臓器を傷つけないよう気を付けつつ肉の薄い腹を開いていく。こう赤いとどれがどれだかわからないのでは、と一瞬危惧するも、何とか腎臓を見つけることが出来た。トールマンと同じく二つあるようだし、これなら大丈夫だろう。まかり間違って一つだったら「無くなっても大丈夫」と言うのは大嘘と言うことになってしまうので少しばかりほっとしつつ、丁重し切り取っていく。
「よし、取れた。もう治癒して良いよ」
「ぅ、お、うぅ゛……っ、ふ、う……ッ」
朦朧としている少女の頬を軽く叩いて声をかける。手を拭うのを忘れていたので、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったそこに血まで加わって大変なことになってしまった。後でちゃんと洗ってあげなければ。
「閉じやすいように押さえてるから頑張って」
「う、ぅう゛……っふ、ふ、っ」
ぐらぐらと揺れていた目が何とか焦点を結び、軽く押さえた傷口がほわりと発光し始める。血塗れでわかりにくいが、ぱっくりと裂けていた腹部は徐々にナイフを入れる前の状態に戻っているようだった。
光が消えるのを待って血を拭うと、薄らとした痕だけを残して傷は綺麗に消え去っていた。恐らく体内の傷もきちんと治っているだろう。ありがたい能力だなと思いつつ少女の口から轡を外し、お疲れ様、と小さな頭を撫でた。
さて。キドニーパイは食べやすさで言えば挽肉の方が良いらしいのだが、生憎我が家には挽肉機がない。今回は塊肉で作ることにする。
まず、取り出して来た腎臓を綺麗に洗う。本当は一晩ほど塩水につけておくのが良いらしいが、今回は省略しよう。腎臓はもう一つあるのだし、どのくらい臭みに差が出るか検証出来るかも知れない。とは言え臭すぎても困るので、下処理として一口大に切った腎臓を塩で丁寧に揉み洗いする。
次に玉葱とマッシュルームを賽の目に切り、次いでに残っていた足の肉も少し切る。鍋にバターを入れ、先に腎臓と肉を炒めておく。軽く火が通ったら肉を器に避け、バターを足して玉葱とマッシュルームを炒めていく。バターを奮発するのは大事なことだ、と友人が言っていた。バターを惜しんでは美味しいものは作れないらしい。
玉葱とマッシュルームに色が付いたら、再度肉を投入する。そこにソースとハーブを加えて煮込み、最後に塩胡椒で味を整えたら具の完成。
パイシートを敷いた容器に具を盛り付け、もう一枚のパイシートで蓋をする。後は、オーブンで焼くだけだ。
昨日新しく貰ったから、とドライアドティーをたっぷり入れて、オーブンが鳴くのを待つ。焦げ目がつくくらいが良いらしい。
良い匂いに満ちたキッチンでそわそわしながら、大体二十分。チン、と軽やかな音がした。ガラス越しに覗くと、焼き目も良いように見える。キッチンミトンを着けて取り出し、お茶の用意されたテーブルへとパイを移動させた。パイによってはしっかり冷ましてから食べるのが良いものもあるらしいが、キドニーパイは熱々で食べるべきらしい。レシピをくれた張本人がそう言うのだから、きっとそうなのだろう。
「いただきます」
切り分けて、まず一口。焼けるような熱さを口の中ではふはふと息を逃して抑えながら噛み締める。
「ん、……おいしい」
やはり手抜いた分だけ臭みは残るが、内臓部位らしさが感じられて個人的には悪くない。ごろごろとした塊は食べ応えがあり、バターとハーブが肉の臭みに負けずふわりと心地よく香る。サクサクのパイ生地、しっとりとした玉葱、肉とはまた別の弾力を持ったマッシュルーム。時々お茶を挟んで、あっという間にお皿は空になってしまった。
「ご馳走様でした」
パイを食べ終わり、お茶などを乗せたお盆を持って解体場へ向かう。
「やあ」
「ひっ……!あ、あ、も、きょうは、もう……!!」
「大丈夫、今日はもう取らないよ。お茶でもどうかと思って」
怯え切った顔の少女にお茶と体力回復用ポーション、皮を剥いた果物をいくつか入れた器を見せる。果物くらいならまあ食べさせても大丈夫だろう。エルフの教義的にも問題はない筈だ。ドライアドのお茶はグレーゾーンかも知れないが、まあ実際エルフの友人が好んで飲んでいるのだし体に悪いと言うことはないと思う。
取り敢えずポーションから、瓶の蓋を開けて少女の眼前へ持っていく。
「はい、どうぞ」
「ぁ……ぁり、がとう……ござぃ、ます……」
礼儀正しい子だ。
ゆっくりと時間をかけてポーションとお茶を飲ませ、少しずつ果物を食べさせると、少女は幾分顔色が良くなったようだった。左足と両耳、腎臓の片方をなくして尚平然と──というのには少し怯えすぎているが、普通に起きていられるのは流石にエルフの治癒術だと言える。とは言え体力消耗も激しいだろう。ポーションで補いはしたものの、それはあくまで肉体に作用するのであって、精神的疲労を消し去るものではない。
明日は何処も食べず、少し休ませておこうか。少女以外の食材もない訳ではないし。
少女の休養、何をするorさせるか>>63
マッサージしつつ塩とハーブをよくすり込んでおこう
食べた部位と同じ場所を自分も欠損させる
乙
「……ふむ」
ふと気になったことがある。ついでに彼女の憂さ晴らしにもなるかも知れないし、試してみても良いかもしれない。明日突然死んでしまうかも知れないのだし、気になることは積極的にやっておいた方がいいだろう。
「ねえ君」
「ひっ、は、はい……」
「ああ、今日は何処も取らないから安心して。今日はおやすみの日」
「え……」
おやすみ、と言う言葉に、少女の目が見開かれる。不安が消え去った訳ではないようだが、安心したような、微かな希望を見付けたような表情。やはり精神の休養も大事だ。
「だから今日はこっちの番にしてみようかと思って」
「……、は、ぃ……?」
簡単に人体を模した絵を描き、その左足の付け根、耳と顔の境、腹部にマークを付けたものを少女に手渡す。
「これ、今まで君から取った所。今日は反対の立場になってみよう」
「は?え……?ど、ういう、……」
「うん、君がこの体を切って開いて、取られたのと同じだけ取ってみてってこと」
「…………は……?」
拘束具を数カ所解除し、一本だけ残った足に付けられた枷に鎖を繋げ、部屋の壁に鎖の反対側を固定する。ある程度自由に部屋を動き回れるようにしつつ、外へ通じる扉までは届かない長さ。治癒以外の術が使えない彼女なら充分逃亡は防げるだろう。そもそも足が片方しかないのではまともに移動が出来るかも怪しいのだが。
「はい、これ持って。重いから気を付けてね」
「え、え」
「最初は左足ね。君は根元から取ったけど、まあ大体で良いよ。君の足よりは太いから大変かも──」
「ちょ、……っと、待って、まって、なに……」
取り敢えず鉈──彼女の足を切断した時に使ったもの──を受け取りはしたものの、どうやら状況が把握出来ず混乱しているらしい。さてどうしたものか、と考えながら、ゆっくりと言葉を並べて行く。
「君にしたのと同じことをして、と言うのはわかった?」
「……わ、かり、ません、なんで……」
「興味があるから」
「興味?」
「まあ、なんて言うか……食べ比べ?」
首を捻りながら口にした言葉に、彼女は呆けたような顔をした。
「味がどう違うのか、実際食肉として扱われる……まあこれは擬似的なものだけど、その感覚がどう言うものか、どのくらい痛いものなのか、心身の消耗度合い、そう言うのを一回経験してみようかなって。大体そう言う感じ」
説明を付け足して行く度に、少女の顔は徐々に歪み、理解出来ない君の悪いものを見ているような表情へと変わっていく。
「ぉ、おか、しい、よ……あなた、おかしい、変だよ、異常だよ」
「まあそうかもね。でも君も運動になるし、憂さ晴らしにもなるだろう?」
「い、いや、やだ、そんなこと、したくない……っ」
「……?あ、そうか、エルフって殺生が嫌いなんだっけ。大丈夫だよ、殺される気は全然ないし。まあ仮に殺せたとしても、多分ここにいるより酷い死に方をすることになるよ。食用奴隷の反抗は重罪だから……脳だけ生かして苦痛を与え続ける技術も最近開発されてるらしいしね」
「う゛……ッ」
「まあいずれにしろ、君に選択肢はないんだ。楽しむのが一番楽で良いと思うよ」
「ゔ……っぅ、あぁ゛……」
かたかたと震えながら、少女が持つには少々大きすぎる鉈の柄を小さな手がきつく握る。どうやらやる気になったようだ。
下着を残して下衣を脱ぐ。左足の付け根付近に簡単な目印となる線をペンで引き、足が動かないようベルトで固定すればこちらも準備は終わりだ。
「はい、どうぞ」
「ふ、っふ、っ……はあ、……っ」
ゆらゆらと頼りない動きながら鉈がゆっくりと振り上げられ、
振り下ろされる。
「──ッぐ、ぅ……ッ!!」
「ぅあ、あっ、ひ……ッ」
「あ゛ー……、ッ、は、やっぱり、一回じゃ……無理かぁ……」
少女の腕力では一度ですとんと、と切り落とすのは難しかったようだ。しかし骨に半ばまで食い込んでいるし、多くてもあと二、三回で何とかなるだろう。刃を掴んで引き抜き、次を促す。
冷や汗を流す少女を励ましつつ、鉈が数回振り下ろされ、左足は無事切断された。
「うぐ……ぅ、あ゛ー……ふー……っ」
「ぁ、あ、い、だい、じょぶ、ですか」
「うん、痛いけど……まあ。あ、治癒をかけてくれると助かるな」
「は、はい……」
自分の足が切断された時より余程迅速に少女の術が発動する。荒い切断面が柔らかな光に包まれ、新たな皮膚が形成されると同時に、痛みがすぅと引いて行った。ここまで大きい怪我の治癒は初めてだったので新鮮な感覚だ。
「ありがとう、楽になったよ」
「あ、は、はい……」
「じゃあ次は耳だね」
ひゅ、と息を飲む音を響かせ、少女の顔が歪む。まだやるのか、と言わんばかりだが、足に比べれば重労働でもないだろう。鉈を置くよう指示しつつ、小振りのナイフを手渡す。
「はい、どうぞ」
「い、ぃや、いや……」
「……うーん、命に関わる部位じゃないし、まだ他にもやることあるんだから頑張ろう?」
何故そこまで躊躇するのかよくわからない。自分がされたことの報復と思って少しは溜飲が下がるかと思ったのだが、どうもそうは行かないようだ。とは言え今更止めるのもなんだし、と先を促す。暫くの間慰め、なだめて促して、を繰り返し、少女はやっと決意したようにナイフの柄を握りしめた。
「は、っはっ、……!」
「大丈夫、ここに当てて、下に下ろして行けばいいよ。頑張って」
「っぅ゛ゔ……っ!!」
「い゛、……っそう、その調子」
ナイフが震えながらゆっくりと耳をそぎ落として行く。思い切って一気に下ろしてくれれば早いのだが、まあ慣れないことをさせているのだろうから仕方がない。
足より簡単だろうと思ったのだが、かかった時間は思いがけずこちらの方が長かった。トレーに乗せた両耳をためつすがめつしながら治癒をかけてもらい、本日最後の課題をこなすべく我が家で最も切れ味がよく軽い刃物を持つよう指示する。やっと状況に慣れてくれたのか、少女は虚な目をしつつも素直に従ってくれた。
「この辺りね。こう言う形の器官が二つあるから、片方取って」
「はい……」
「腕を抜いたら治癒をかけてくれると助かるな」
「はい……」
簡単に腎臓の形を描いた図を見せて説明し、上着を脱ぐ。簡単に消毒を済ませて横になると、機械的な返事をしていた少女が大分小さくなった震えを抑えつつ、腹部にそっとナイフの刃を当ててきた。
「ぃき、ます……」
「どうぞ」
「っふ……ッ!」
ずぶ、と刃先が入り込んで来る感覚。痛みが点からゆっくり線になり、ある程度の長さが引かれて止まる。
小さい手が腹の傷を押し広げようとして二度失敗し、これは自分でやった方が早い、と自身の指を傷口に押し込んで左右に無理矢理広げる。流石にきつい。出来たら急いで欲しい、と伝えると、血塗れになった白くて柔らかそうな手が腹部に潜り込んで来た。
「あ、った……こ、これで……」
硬い声で呟きながら、少女が手を動かす。痛みでじわじわと霞がかってきたような視界の中、ずるりと肉塊が引き摺り出され、即座に傷口が光に包みこまれた。耳を置いたのとは別のトレーに半ばはみ出すように乗せられたものが間違いなく腎臓であることを確認し、安堵の息を吐く。
「ぃき、ます……」
「どうぞ」
「っふ……ッ!」
ずぶ、と刃先が入り込んで来る感覚。痛みが点からゆっくり線になり、ある程度の長さが引かれて止まる。
小さい手が腹の傷を押し広げようとして二度失敗し、これは自分でやった方が早い、と自身の指を傷口に押し込んで左右に無理矢理広げる。流石にきつい。出来たら急いで欲しい、と伝えると、血塗れになった白くて柔らかそうな手が腹部に潜り込んで来た。
「あ、った……こ、これで……」
硬い声で呟きながら、少女が手を動かす。痛みでじわじわと霞がかってきたような視界の中、ずるりと肉塊が引き摺り出され、即座に傷口が光に包みこまれた。耳を置いたのとは別のトレーに半ばはみ出すように乗せられたものが間違いなく腎臓であることを確認し、安堵の息を吐く。
「お疲れ様、頑張ったね」
「……はい……」
自分の内臓が取られた時と同じかそれ以上に疲弊したような少女の様子に首を傾げつつ、労いの言葉をかける。こちらとしては随分と貴重な経験が出来たのだが、彼女はあまり実りある時間とは行かなかったようだ。難しい。
その後四苦八苦しつつ最低限の片付けを済ませ、切り取った肉を血抜きだけ済ませて、一日は無事終了した。
乙あり
「いや~、君も相当無茶するよネェ。もしかして生き急いでる?」
「そんなつもりはないんだけどね」
少女の『おやすみ』の翌日、我が家に訪れた友人は前日の話を聞き終わって開口一番そう言った。まあ確かに危険ではあったと思うが、それでも今回した経験の貴重さは得難いものだとも思う。
「それは否定しないけどクレイジーなのも否定出来ないよネ」
「まあそうなんだけど。……それより注文した物は?」
「ハイハイ、ちゃんとありますとも。生体ゴーレムの義足と付け耳、あとスライム内臓生成キット」
「ありがとう」
ゴトゴトとテーブルに置かれた品を改め、問題ないことを確認して取り敢えず義足の装着を始める。これで歩行はかなり楽になるだろう。馴染むのを待って膝の曲げ伸ばしをし、きちんと義足が機能していることを確かめる。
「スライムは腎臓代替の術式書き込んであるからそのまま飲めば一月くらいで定着すると思うけど、あんまりバカスカ使うのはおすすめしないヨ」
「バカスカは使わないと思うよ。お友達価格でも結構なお値段だしね」
「まあ普通欠損の激しい冒険者とかが使うやつだからネ。その分稼いでるやつ向け」
「だよねぇ……」
義肢とつけ耳は比較的一般的だが、あくまで比較なだけで値段が張るのは変わらない。やってみたいことをやってみるのはこれからも変わらないだろうが、これからはもう少し懐具合と相談するべきだなと思いつつそろそろと立ち上がり、転ばないよう気をつけながらゆっくりと歩いてみる。問題なさそうだ。
「はい、これ。『お友達価格』のお礼」
「おや!ヤダなーそんなつもりじゃなかったんだけど!断るのも悪いよネ!!」
「はいはい」
食べたことのない食材が相当嬉しいらしく、満面の笑みを浮かべて彼は昨日取ったばかりの足肉のブロックを一塊受け取った。
「それで?次はどこ食べるかとか決めてるのかい?」
「んー、まだかな」
「新鮮な内にレバ刺しとか食べるのも良いと思うヨ!」
「うーん……」
食べる部位>>81
梅
もうだめぽいかな お付き合いありがとやした
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