主人「食用奴隷を買ってきた」【安価】(81)

 近年奴隷法が改定されるに伴い、一般的な労働奴隷以外の項目がいくつか追加され、その一つこそが『食用』奴隷。
 飽食にも更に飽いたこの国で、長年じわじわと需要が主張され続けて来たこの新たな種類の奴隷は、まごう事なき『死』が確定されている。元々奴隷には様々な権限が存在しないが、生命としての最低ライン、生存権までも決定的に剥奪されていることになる。
 とは言え、彼ら彼女らに同情的な民衆は最早この国では少数派だ。食用奴隷を購入する場合、購入者にも様々な決まりが課せられる。
 一つ、決して解放せず、逃亡させないこと。
 一つ、生命の危機以外の理由で食べることを放棄しないこと。
 一つ、最長でも必ず購入から三年以内に食すること。
 これらの内どれか一つでも破った者は財産の没収を余儀なくされて最悪極刑となり、最低でも超長期刑を負うことになる。買う側にも、それ相応の覚悟が要求されているのだ。実際奴隷法改定後、その覚悟に欠いた者が容赦なく吊るされていたし、没収された財産は公共の機関に回される為、交通の無償化や医療費の軽減が現実味を帯びて来ている。
 食用奴隷への反対を謳う連中も、バスには乗るし医者にもかかる。全てを拒否した者だけが石を投げろ、と言うのが現在の世論としては強いのだから、世も末と言うやつだ。

 まあ、それは良いとして。

「さて」
 
 食用奴隷を買って来た。
 専用の拘束具であらゆる抵抗を封じられた『それ』は、しかし自分に買い手が付いたことも、購入者の家へと既に『納品』されていることも理解しているようだった。小刻みに震える肩、ひっきりなしに流れる汗と涙、荒い呼吸。とうの昔に奪われている『生きる権利』を今からでも手に出来ないかと、必死に考えているであろう小さな頭。こちらの短い発声に、痙攣するように体を震わせた『それ』は、ただただ無力だった。

「メニューは何が良いかな」

 購入の際渡された書類に目を通す。種族、年齢、性別がある場合は性別、病や毒素の除去済みである証明書、使用の際の注意点や拘束具の説明、おすすめの調理方法等が記されている。
 今回購入したのは
 種族>>5 年齢>>9 性別>>12

18(実年齢68)

「エルフの女……ん、二十歳か。通りで小さい」

 長命種であるエルフの二十歳と言えば人間、トールマンの年齢で言えば大体十歳前後と言ったところだ。ふくふくとした頬と蔓のようにしなやかな手足はいかにも柔らかそうで、解体は比較的容易に済むだろう。それにしても随分と若い──幼い身空で食用奴隷などになってしまったものだ。同情するつもりはないけども。
 まあ年長のエルフは食べすぎると内包する魔力が濃すぎて中毒を起こすことがあるから、お腹いっぱい食べたいならこのくらい若くても良いのだろう。拘束具ごと持ち上げると台車に乗せ、解体場へと連れて行く。

「えーと……?おすすめは……」

おすすめの調理法はシンプルに肉はステーキ、骨はスープの出汁などに、とされているが、この辺りは大抵お決まりなので参考にはあまりならない。生食が可か不可かだけはきちんとチェックしておくが、エルフやトールマンは基本的に無毒で生食が可能だ。年嵩でもないのでやはり中毒の可能性は「極低い」にチェックがついていた。
 生か、加熱か。臭みは少なそうだけれど。
 ちら、と視線をやると、拘束具が稼動し、きっちりと折り畳まれた手足を曲げ伸ばししている所だった。あの店はこう言うところがいい。下手な所で買うと拘束しっぱなしで死んだり味が悪くなったりする。ちょっと高いけれどそれだけの価値はある店だ。何やらもがいているようだが、たとえ屈強なトロールでも抜け出せるような代物ではない。
 取り敢えずどこから食べようか。
 部位>>10

もも肉

「……ふむ」

 ふと気になったことがある。ついでに彼女の憂さ晴らしにもなるかも知れないし、試してみても良いかもしれない。明日突然死んでしまうかも知れないのだし、気になることは積極的にやっておいた方がいいだろう。

「ねえ君」
「ひっ、は、はい……」
「ああ、今日は何処も取らないから安心して。今日はおやすみの日」
「え……」

 おやすみ、と言う言葉に、少女の目が見開かれる。不安が消え去った訳ではないようだが、安心したような、微かな希望を見付けたような表情。やはり精神の休養も大事だ。

「だから今日はこっちの番にしてみようかと思って」
「……、は、ぃ……?」

 簡単に人体を模した絵を描き、その左足の付け根、耳と顔の境、腹部にマークを付けたものを少女に手渡す。

「これ、今まで君から取った所。今日は反対の立場になってみよう」
「は?え……?ど、ういう、……」
「うん、君がこの体を切って開いて、取られたのと同じだけ取ってみてってこと」
「…………は……?」

 拘束具を数カ所解除し、一本だけ残った足に付けられた枷に鎖を繋げ、部屋の壁に鎖の反対側を固定する。ある程度自由に部屋を動き回れるようにしつつ、外へ通じる扉までは届かない長さ。治癒以外の術が使えない彼女なら充分逃亡は防げるだろう。そもそも足が片方しかないのではまともに移動が出来るかも怪しいのだが。

「はい、これ持って。重いから気を付けてね」
「え、え」
「最初は左足ね。君は根元から取ったけど、まあ大体で良いよ。君の足よりは太いから大変かも──」
「ちょ、……っと、待って、まって、なに……」

 取り敢えず鉈──彼女の足を切断した時に使ったもの──を受け取りはしたものの、どうやら状況が把握出来ず混乱しているらしい。さてどうしたものか、と考えながら、ゆっくりと言葉を並べて行く。

「君にしたのと同じことをして、と言うのはわかった?」
「……わ、かり、ません、なんで……」
「興味があるから」
「興味?」
「まあ、なんて言うか……食べ比べ?」

 首を捻りながら口にした言葉に、彼女は呆けたような顔をした。

「味がどう違うのか、実際食肉として扱われる……まあこれは擬似的なものだけど、その感覚がどう言うものか、どのくらい痛いものなのか、心身の消耗度合い、そう言うのを一回経験してみようかなって。大体そう言う感じ」

 説明を付け足して行く度に、少女の顔は徐々に歪み、理解出来ない君の悪いものを見ているような表情へと変わっていく。

「ぉ、おか、しい、よ……あなた、おかしい、変だよ、異常だよ」
「まあそうかもね。でも君も運動になるし、憂さ晴らしにもなるだろう?」
「い、いや、やだ、そんなこと、したくない……っ」
「……?あ、そうか、エルフって殺生が嫌いなんだっけ。大丈夫だよ、殺される気は全然ないし。まあ仮に殺せたとしても、多分ここにいるより酷い死に方をすることになるよ。食用奴隷の反抗は重罪だから……脳だけ生かして苦痛を与え続ける技術も最近開発されてるらしいしね」
「う゛……ッ」
「まあいずれにしろ、君に選択肢はないんだ。楽しむのが一番楽で良いと思うよ」
「ゔ……っぅ、あぁ゛……」

 かたかたと震えながら、少女が持つには少々大きすぎる鉈の柄を小さな手がきつく握る。どうやらやる気になったようだ。
 下着を残して下衣を脱ぐ。左足の付け根付近に簡単な目印となる線をペンで引き、足が動かないようベルトで固定すればこちらも準備は終わりだ。

「はい、どうぞ」
「ふ、っふ、っ……はあ、……っ」

 ゆらゆらと頼りない動きながら鉈がゆっくりと振り上げられ、
 振り下ろされる。

「──ッぐ、ぅ……ッ!!」
「ぅあ、あっ、ひ……ッ」
「あ゛ー……、ッ、は、やっぱり、一回じゃ……無理かぁ……」

 少女の腕力では一度ですとんと、と切り落とすのは難しかったようだ。しかし骨に半ばまで食い込んでいるし、多くてもあと二、三回で何とかなるだろう。刃を掴んで引き抜き、次を促す。
 冷や汗を流す少女を励ましつつ、鉈が数回振り下ろされ、左足は無事切断された。

「うぐ……ぅ、あ゛ー……ふー……っ」
「ぁ、あ、い、だい、じょぶ、ですか」
「うん、痛いけど……まあ。あ、治癒をかけてくれると助かるな」
「は、はい……」

 自分の足が切断された時より余程迅速に少女の術が発動する。荒い切断面が柔らかな光に包まれ、新たな皮膚が形成されると同時に、痛みがすぅと引いて行った。ここまで大きい怪我の治癒は初めてだったので新鮮な感覚だ。

「ありがとう、楽になったよ」
「あ、は、はい……」
「じゃあ次は耳だね」

 ひゅ、と息を飲む音を響かせ、少女の顔が歪む。まだやるのか、と言わんばかりだが、足に比べれば重労働でもないだろう。鉈を置くよう指示しつつ、小振りのナイフを手渡す。

「はい、どうぞ」
「い、ぃや、いや……」
「……うーん、命に関わる部位じゃないし、まだ他にもやることあるんだから頑張ろう?」

 何故そこまで躊躇するのかよくわからない。自分がされたことの報復と思って少しは溜飲が下がるかと思ったのだが、どうもそうは行かないようだ。とは言え今更止めるのもなんだし、と先を促す。暫くの間慰め、なだめて促して、を繰り返し、少女はやっと決意したようにナイフの柄を握りしめた。

「は、っはっ、……!」
「大丈夫、ここに当てて、下に下ろして行けばいいよ。頑張って」
「っぅ゛ゔ……っ!!」
「い゛、……っそう、その調子」

 ナイフが震えながらゆっくりと耳をそぎ落として行く。思い切って一気に下ろしてくれれば早いのだが、まあ慣れないことをさせているのだろうから仕方がない。

 足より簡単だろうと思ったのだが、かかった時間は思いがけずこちらの方が長かった。トレーに乗せた両耳をためつすがめつしながら治癒をかけてもらい、本日最後の課題をこなすべく我が家で最も切れ味がよく軽い刃物を持つよう指示する。やっと状況に慣れてくれたのか、少女は虚な目をしつつも素直に従ってくれた。

「この辺りね。こう言う形の器官が二つあるから、片方取って」
「はい……」
「腕を抜いたら治癒をかけてくれると助かるな」
「はい……」

 簡単に腎臓の形を描いた図を見せて説明し、上着を脱ぐ。簡単に消毒を済ませて横になると、機械的な返事をしていた少女が大分小さくなった震えを抑えつつ、腹部にそっとナイフの刃を当ててきた。

「ぃき、ます……」
「どうぞ」
「っふ……ッ!」

 ずぶ、と刃先が入り込んで来る感覚。痛みが点からゆっくり線になり、ある程度の長さが引かれて止まる。
 小さい手が腹の傷を押し広げようとして二度失敗し、これは自分でやった方が早い、と自身の指を傷口に押し込んで左右に無理矢理広げる。流石にきつい。出来たら急いで欲しい、と伝えると、血塗れになった白くて柔らかそうな手が腹部に潜り込んで来た。

「あ、った……こ、これで……」

 硬い声で呟きながら、少女が手を動かす。痛みでじわじわと霞がかってきたような視界の中、ずるりと肉塊が引き摺り出され、即座に傷口が光に包みこまれた。耳を置いたのとは別のトレーに半ばはみ出すように乗せられたものが間違いなく腎臓であることを確認し、安堵の息を吐く。

「ぃき、ます……」
「どうぞ」
「っふ……ッ!」

 ずぶ、と刃先が入り込んで来る感覚。痛みが点からゆっくり線になり、ある程度の長さが引かれて止まる。
 小さい手が腹の傷を押し広げようとして二度失敗し、これは自分でやった方が早い、と自身の指を傷口に押し込んで左右に無理矢理広げる。流石にきつい。出来たら急いで欲しい、と伝えると、血塗れになった白くて柔らかそうな手が腹部に潜り込んで来た。

「あ、った……こ、これで……」

 硬い声で呟きながら、少女が手を動かす。痛みでじわじわと霞がかってきたような視界の中、ずるりと肉塊が引き摺り出され、即座に傷口が光に包みこまれた。耳を置いたのとは別のトレーに半ばはみ出すように乗せられたものが間違いなく腎臓であることを確認し、安堵の息を吐く。

「お疲れ様、頑張ったね」
「……はい……」

 自分の内臓が取られた時と同じかそれ以上に疲弊したような少女の様子に首を傾げつつ、労いの言葉をかける。こちらとしては随分と貴重な経験が出来たのだが、彼女はあまり実りある時間とは行かなかったようだ。難しい。
 その後四苦八苦しつつ最低限の片付けを済ませ、切り取った肉を血抜きだけ済ませて、一日は無事終了した。

乙あり

「いや~、君も相当無茶するよネェ。もしかして生き急いでる?」
「そんなつもりはないんだけどね」

 少女の『おやすみ』の翌日、我が家に訪れた友人は前日の話を聞き終わって開口一番そう言った。まあ確かに危険ではあったと思うが、それでも今回した経験の貴重さは得難いものだとも思う。

「それは否定しないけどクレイジーなのも否定出来ないよネ」
「まあそうなんだけど。……それより注文した物は?」
「ハイハイ、ちゃんとありますとも。生体ゴーレムの義足と付け耳、あとスライム内臓生成キット」
「ありがとう」

 ゴトゴトとテーブルに置かれた品を改め、問題ないことを確認して取り敢えず義足の装着を始める。これで歩行はかなり楽になるだろう。馴染むのを待って膝の曲げ伸ばしをし、きちんと義足が機能していることを確かめる。

「スライムは腎臓代替の術式書き込んであるからそのまま飲めば一月くらいで定着すると思うけど、あんまりバカスカ使うのはおすすめしないヨ」
「バカスカは使わないと思うよ。お友達価格でも結構なお値段だしね」
「まあ普通欠損の激しい冒険者とかが使うやつだからネ。その分稼いでるやつ向け」
「だよねぇ……」

 義肢とつけ耳は比較的一般的だが、あくまで比較なだけで値段が張るのは変わらない。やってみたいことをやってみるのはこれからも変わらないだろうが、これからはもう少し懐具合と相談するべきだなと思いつつそろそろと立ち上がり、転ばないよう気をつけながらゆっくりと歩いてみる。問題なさそうだ。

「はい、これ。『お友達価格』のお礼」
「おや!ヤダなーそんなつもりじゃなかったんだけど!断るのも悪いよネ!!」
「はいはい」

 食べたことのない食材が相当嬉しいらしく、満面の笑みを浮かべて彼は昨日取ったばかりの足肉のブロックを一塊受け取った。

「それで?次はどこ食べるかとか決めてるのかい?」
「んー、まだかな」
「新鮮な内にレバ刺しとか食べるのも良いと思うヨ!」
「うーん……」

 食べる部位>>81

もうだめぽいかな お付き合いありがとやした

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