サンタクロースは悪夢と戦う。 (1)
「こりゃ珍しい、『明晰夢』じゃな」
88代目聖ニコラウスは、たっぷりと蓄えたふかふかの白髭を撫でた。
でっぷりとした身体に誰もがよく知る赤いコスチュームに身を包んだ彼は、とあるの夢の中に存在している。
「おじさん、だれ?」
「うン?」
怯えた顔の男の子が、ニコラウスの袖を引っ張った。
短く切った黒髪に、まつ毛のかかる茶色の大きな瞳。
歳は5つか6つといったところだろう。
身に着けている薄汚れたボロ布を見て、ニコラウスは小さくため息をついた。
「ハロー、坊や。ワシはサンタクロースという者じゃ。聞いたころはあるかの?」
「ううん」
男の子は首を振った。
「なに、君の心配するようなもんじゃない。ちと夢の中にお邪魔させてもらうぞい」
「夢……?」
「そう、ここは君の夢の中。随分と悪い夢を見てしまったようじゃから、ワシが助けに来たのじゃ」
ニコラウスは優しく微笑んだ。
男の子は少し安心した様子だったが、すぐに前を向いて怯えた顔つきに戻った。
「じゃあ、あれ、あれ、あれも夢?!」
二人から数mほど離れた場所には、黒いスライムのような化け物がいた。
目はなく、人の口のようなものが体中に見え隠れしている。
「そうじゃ、アレを倒すためにワシは来たのじゃ」
ニコラウスは一歩前に出た。
彼は徐に袖をまくり、右腕につけた時計をあらわにした。
「『時空』のサンタクロース、スレイヴ・ニコラウス。坊やの悪夢に神の慈悲を」
――『サンタクロース』。
子どもから発生し、現実世界に凶悪な影響を及ぼす『悪夢』を倒す力を持つ人間の総称である。
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