二宮飛鳥「約束を歌に乗せて」 (45)


【事務所】


姫川友紀「た、ただいまぁ……」ヨロ

二宮飛鳥「戻ったよ……」

大槻唯「おっかえり~☆ 遅かったねぇ」

飛鳥「……大分、押してしまったか」

友紀「新曲の合わせがねぇ……あれ、唯ちゃんだけ?」

唯「今はねー。誰か来たら、お留守番替わってもらおうかと思って!」

友紀「そっかぁ…」

唯「……なーんか、ふたりともグロッキーじゃない?」

友紀「うん……疲れたぁ」

唯「そんなに?」

友紀「かなり絞られたよ……」

飛鳥「本番目前だからね……」

唯「あっちゃー、大変だったんだぁ」



唯「……ゆっきーは、大丈夫なん?」

友紀「へ? あたし?」

飛鳥「……」

友紀「まぁ、そりゃー練習はキツかったけど。なんで?」

唯「……そっか。ううん、何でもない! ゆい、今日レッスンじゃなくて良かったなぁ~」

飛鳥「明日は我が身だぞ……」

唯「ワガミ? 何の紙?」

飛鳥「そうじゃなくて」

友紀「次は唯ちゃんの番だぞー! ってこと」

唯「まじで? こわ~…」

友紀「ふぅ~……今日はもうくたくただよ」ドサ


飛鳥「……こら、ソファに寝るな。ボクの座るスペースが無くなるだろう」

友紀「あー、あー。キコエナーイ」

飛鳥「全く…」

唯「飛鳥ちゃん、ゆっきーの上に乗っちゃえば良いんじゃね?」

友紀「げっ」

飛鳥「断る」

友紀「ほっ…」

唯「んじゃーゆいが座っちゃおーっと。どーんっ!」

友紀「のわっ?!」

唯「へへーん、ゆっきーそふぁーだぜーぃ♪」

友紀「やー!」

唯「うりうり~」

友紀「やーめーてー♪」

飛鳥「充分元気じゃないか」


友紀「いーやー! 重いよーっ!!」

唯「なんだとーぅ? 失礼だなー!」ぷんすか

友紀「どいてよ唯ちゃーん! 超重い、5千キロくらいある!」

飛鳥「ゾウか」

唯「むー。女の子に向かってそんなこと言うゆっきーは……こうだ☆」こちょ

友紀「ふぇ……あはっ、ちょ、ゆいちゃ やめ、……あっはははは!?」

唯「それそれー! こちょこちょ~♪」

友紀「くふ、やめて……いひ、にゃはははは」

唯「参ったかー! 重くないって言えー☆」

友紀「ひっ、ひ、ふひひ、ギブ、ギブ……息できない、助けてぇ……」



飛鳥「……やれやれ」ハァ


飛鳥「午後は、アーニャたちと合流する予定じゃなかったのかい」

唯「うん、そだよ?」

飛鳥「なら……」

唯「行くけど、こっちを倒すのが先!」

友紀「か、軽い、唯ちゃん軽い! だからさ、降りて…、」

唯「ホントー?」つん

友紀「ひゃんっ!? ほ、ほんとだって! 5キロくらいまで落ちたよ?!」

飛鳥「ネコか」

友紀「そうそう、猫ちゃん!」

唯「マジかー! ゆいにゃんだにゃーん☆」

友紀「キャッツとねこっぴーと、ついでにみくちゃんに免じてここは……ね?」

唯「うーん……しょーがないにゃあ。よっと」

友紀「っはぁー、解放感……」


唯「次言ったら、ガチでおこだかんね?」

友紀「ごめんなさい……って、なんで乗られたあたしが謝る羽目に……」

唯「座り心地良かったから、許してあげる☆ また座らせてね!」

友紀「えぇ」

唯「へーんーじーはー?」

友紀「はいぃ…」

唯「はーいオッケー! それじゃゆい、アーニャちゃんとこ行ってくるから! じゃーねっ♪」

飛鳥「ああ。また」

唯「ゆっきー、飛鳥ちゃん、まったねー!」



バタバタ……



友紀「た、助かった……」

飛鳥「お疲れ様」

友紀「うん……疲労度3割マシだよ……」

飛鳥「口は災いの元、ってね」

友紀「そうだね、気を付ける。助けてくれてありがと、飛鳥ちゃん」

飛鳥「別に、そんなつもりじゃないさ」

友紀「それでもだよ。ありがとね」

飛鳥「……そう」


飛鳥「まぁ、元気なようで何よりだ」

友紀「……いやいや、今のですっごく疲れたんだけど?!」

飛鳥「ああいや、それだけではなく」

友紀「へ?」

飛鳥「……えぇと、その。最近のキミは、どうも気が張っていたようだったから」

友紀「あー…」

飛鳥「LIVEも近いし、会場が会場だ。レッスンに気合が入るのも理解るけど……あまり根を詰めすぎるのも、見ていて忍びない」



飛鳥「……と、ボクは勝手に思っていたわけだが。どうやら杞憂だったみたいだね」

友紀「……ん」

飛鳥「さっきの唯も、きっと、そうした気持ちの現れだったんじゃないかと思って。勿論、これはボクの憶測に過ぎないが」

友紀「そうだね、……うん。みんなに心配かけちゃってたかも。ゴメン」

飛鳥「謝るようなことじゃあない。ボクが勝手に気になっていただけ」

友紀「んじゃ、あたしも勝手に謝る! ごめんね、ありがとっ」

飛鳥「む……」

友紀「へへ」


飛鳥「それにしても……相変わらず、凄まじいコミュニケーション能力だな」

友紀「唯ちゃん?」

飛鳥「あぁ」

友紀「うんうん、すっごいよね。びゅーんって投げて、ばしーん、ばしーん、ストライク! バッターアウト! みたいな」

飛鳥「さっぱり伝わらないんだが」

友紀「勢いがすごいってこと! グイグイだよ、ぐいぐい!」

飛鳥「……ああ、そういう」

友紀「でもそれでいて、離れるタイミングも絶妙なんだよね、あの子」

飛鳥「それは理解る気がするな」

友紀「こう、絶対嫌な気分にならないっていうか。心地いい距離感? みたいな」

飛鳥「一種の才能だろうね……」


友紀「友だち作るの、きっと上手なんだろうなぁ。すぐ打ち解けて仲良しになっちゃう!」

飛鳥「……確かに。ボクなんかとは大違いだ」

友紀「んー……それは、そうかもしれないけど」

飛鳥「彼女ほど激しい接触を試みた記憶、ボクには無いな……」

友紀「まぁまぁ。そういうタイプの子だっているよ」

飛鳥「ああ。親睦の深め方、歩み寄り方なんて人に依るさ」

友紀「そうそう、人それぞれ……」


友紀「…」

飛鳥「……」

友紀「………」


飛鳥「……何か?」

友紀「ふふ」

飛鳥「な なんだ急に」ぎょ

友紀「あー、ごめんごめん。へへへへ」

飛鳥「突然笑い出すなんて、気味の悪いヤツだな……」

友紀「だからゴメンって。ちょっとね」

飛鳥「はぁ」

友紀「飛鳥ちゃんとはどんなだったかなーって思ったら、昔の事思い出しちゃった」

飛鳥「昔?」

友紀「ほら、ちょうど事務所でさ。こんな具合に」

飛鳥「……あぁ、成る程」

友紀「ね? なんか、久しぶり!」

飛鳥「そうだね。……フフ、そうだった」

友紀「あー! 飛鳥ちゃんも笑ってるじゃん!」

飛鳥「はは、これは失礼。つい、ね」



飛鳥「この部屋も、最初はボクらだけだったな」


友紀「いつの間にかメンバーもいっぱい増えて、賑やかになっちゃったけどねー」

飛鳥「フッ。あの頃が、1番静かだったよ」

友紀「ふたりきりで話すってのも、結構ご無沙汰じゃない?」

飛鳥「そんな気がする」

友紀「飛鳥ちゃんと一緒に練習して歌って踊るの、もしかしたらすっごい久しぶりなんじゃないかなーって。あたし、ちょっと思ってたんだ」

飛鳥「……実は、ボクも。少しだけ」

友紀「やっぱり? へへ、奇遇だね」

飛鳥「まあ……立つ舞台を同じくするのであれば、当然の帰結だろう。普段通りのスケジュールなら、こうはならないさ」

友紀「そうだねぇ……すっかり忙しくなっちゃって」

飛鳥「忙しさだけじゃない。適材適所、それぞれの仕事に得意分野、それぞれの領域。能力も需要もまるで違う」

飛鳥「駆け出しだったあの頃のように、いつまでも同じレッスンを受けているような初心の段階でもない、ということ」

友紀「最初の頃かぁ……」


友紀「レッスン帰りとか、よくふたりで鉢合わせてたよね」

飛鳥「あぁ。たまに一緒になった日は、此処でこうして、」

友紀「こうやって、ソファでぐだー……っと」

飛鳥「……寝転がっていたのはキミだけだったろう」ジト

友紀「あ、あれ? そうだっけ」

飛鳥「そうさ。ボクは座って休んでいただけ、一緒にしないでもらいたいね」

友紀「ちぇ、そっかー」

飛鳥「そのまま寝オチして、此処で一晩過ごす羽目になった人が過去に居たらしいけれど。一体、何川の誰さんだったのかな」

友紀「うわわっ、その話はナシ! やめ! チェンジで!」

飛鳥「ふふ。そうかい」


飛鳥「……最も。以前は、こんなに和やかに話をしていた間柄でもなかったような気がするけれど」

友紀「だねー。飛鳥ちゃん、さっきまで本読んでるかと思ってたのに、気付いたら居なかったりするんだもん。話しかけるタイミングがなぁ」

飛鳥「事務所に着いたかと思えば、やれ球場だ公園だと出かけるようなヤツにだけは言われたくない」

友紀「おっと、そうでしたそうでした」

飛鳥「お互い様さ。向いてる方向が真逆すぎたんだ、あまりにも」


飛鳥「趣味も趣向も、見ているセカイは別次元。噛み合うハズが無い」

友紀「あはは。否定はできないや」

飛鳥「当時は平行線だと信じて疑わなかったのに。一体いつの間に、こんなに近しくなってしまったのやら」


友紀「あたし、飛鳥ちゃんとはそんなに仲悪いつもりじゃなかったけどなぁ」

飛鳥「え?」

友紀「確かにさ、もしかしたら避けられてるのかなーとは薄々感じてたけど。……キャッチボール、全然付き合ってくれないし」

飛鳥「だから、興味が無いだけだと何回言えば」

友紀「でもいざ話してみれば、すっごい良い子だったし! きっと仲良くなれるなって、あたしは思ってた!」

飛鳥「……そうかい」

友紀「うん、そうだ♪」

飛鳥「仲良く、か……」


飛鳥「そうだね……そう。キミはそういうヤツだった」

飛鳥「押しが強いだけかと思えば、引き際の見極めも案外早い。どこまでも平等で、壁が無くて。唯とはまた別のベクトルで、距離を保つのが上手くって」

友紀「そ、そうかな」

飛鳥「……たまに鬱陶しいけれど」

友紀「えっ」

飛鳥「だがそれすらも、程良いアクセントに昇華できている。きっとキミの人柄故なのだろうな」


友紀「……褒められてる?」

飛鳥「それなりに」

友紀「う、うーん……面と向かってそんなこと言われると、なんか恥ずかしいんだけど……」

飛鳥「おや。姫様は御羞恥であられるか」

友紀「ちょ、やめてよ! そういうの、マジで向いてないんだからさぁっ?!」

飛鳥「フフッ……まぁ、こんな時でも無ければ、伝える機会なんか無いだろうからね。2度は言わないぞ?」

友紀「1回で十分だよぅ……」

飛鳥「これっきり、今日だけさ。明日からはまた平常運転だ」

友紀「そ、そうだよね! あと1週間、LIVEに向けてラストスパートかけなきゃいけないし!」


飛鳥「ドーム公演、だね。キミの念願の」

友紀「そう! ついに、ようやくここまで来たんだ! 我らが聖地、ドーム球場!!」

飛鳥「……その"我ら"って、ボクまでカウントしてるのかい……?」

友紀「当然でしょ!」

飛鳥「おいおい、当然って」

友紀「みんなで頑張ろうねっ」

飛鳥「ボクは別に聖地だなんて思ってないんだが……やれやれ」

友紀「えー。そこは、頑張ろー! ってなるとこじゃないのー」

飛鳥「やるよ、やるけど」

友紀「あー……」


友紀「……やっぱ飛鳥ちゃんは、あたしと一緒じゃ嫌だったかな。たはは……」

飛鳥「ッ……いや、その」

友紀「ゴメンね勝手に。こういうとこがウザがられるんだろうなぁ、あたし」

飛鳥「待て、違う。そんなつもりじゃないんだ」

友紀「ううん、良いんだよ気を使わなくても」

飛鳥「確かに、キミとは色々合わないさ。だけど……いや、そうじゃない。そんなことを言いたいんじゃなくて、ボクは……えぇと」



飛鳥「……少し、言葉を探したい」

友紀「う、うん」

飛鳥「…」



飛鳥「……正直、よく理解らないんだ。次のLIVE、ボクはどんな顔をして出ればいいのか」

友紀「へ? きゅ、急に何言って……」

飛鳥「ドームLIVE。凄いことなのだとは理解している」

飛鳥「これまでとは比べ物にならない規模、収容人数。ひと回りもふた回りも広くなる会場。演出も機材も、きっと何から何まで今まで以上のモノなのだろうね」

飛鳥「パフォーマンスをする舞台としては、相当な大舞台さ。クォリティへの意識も自然と高まるし、心も踊るというもの」


飛鳥「だが一方で。今一つ意気込みに欠けているんじゃないかと、客観的に自分を見てしまう冷静な自分もいる」

友紀「意気込み?」

飛鳥「勿論やる気が無いわけじゃない。それだけは誤解しないでほしい」

飛鳥「でも、キミを見ていると。……キミを見ていたからこそ、どうしようもなく感じてしまうんだ」


飛鳥「LIVEに注ぐ情熱が、意思が。ボクには足りないんじゃないか、って」

友紀「そんな……」


飛鳥「『ドームでLIVEをする。あのマウンドに立つ。それが夢』…。キミは前に、こう言っていた」

友紀「…うん。言った」

飛鳥「夢、叶ったじゃないか。良かったね」

友紀「……まだだよ、まだ。あと1週間」

飛鳥「そう、1週間。あと1週間すれば、キミがずっと口にしていたドームとやらに、ボクらは足を踏み入れる」

飛鳥「どんな想いを以て、あの日のキミは夢を語ったんだろう。其処に立つと決めた経緯は? きっかけは? ドームに立つ為に、此処に至るまでに、キミはどれほどの努力と想いを積み重ねてきたんだろうか」

友紀「…」

飛鳥「残念ながらボクには、キミの全ては理解らない。理解るハズもない。キミほど野球、好きじゃないから」


飛鳥「理解らないけれど……それでも、多少なりとも感じるものはあるつもりさ。公演が決まった瞬間から今日までのキミを、ずっと見ていたから。あんなに鬼気迫る様子、初めて見た」

飛鳥「1人の人間が夢を叶えるまでの過程とは……こんなにも強く動的で、熱くて、血生臭いモノなのかと。感動すら覚えた」

友紀「……え、そんな血とか吐いてそうな感じだったのかな、あたし……」

飛鳥「さっきも言った通りさ。……多少心配になるくらいには」

友紀「そっかー……うぁー、マジかー……」

飛鳥「恥じることではない。キミにとっては、それ程までに特別な場所なのだという証明なのだからね」

飛鳥「野球人として、想いを叫ぶ舞台として。ドームは正に聖地なんだろう? それは揺るがない事実さ」



飛鳥「……羨ましいよ。そこまで思えることが」

友紀「そんな、飛鳥ちゃんだってさっき、」

飛鳥「ああ。規模としてこの上ない会場、それもまた事実」

飛鳥「でも、それだけ。ボクにとっての其処は、ホールやアリーナよりも少し大きいステージ。言ってしまえば、普段の延長に過ぎないんだ」

飛鳥「特別な場所だなんて、どうしたって思うことができない」


飛鳥「キミのその大きな声は、きっと会場中に響き渡るんだろうな」

飛鳥「普段は応援する側として足を運ぶ場所で、その日はキミが歓声を受けるのだろう? それはきっと、キミにとっても、キミのファンにとっても、素敵な光景なのだろうね」

飛鳥「……では、ボクは? 夢を掲げるキミを見てきて、そんなキミと新しい曲まで貰って、その上でボクは、何の為に歌えばいい?」

飛鳥「理解らないんだ……ボクには理解できない。ドームって何だ? ただいつもより広い会場という訳じゃないのか。魂を震わせる何かがあるって言うのか? どうしてキミは、そこまで必死になれる? 野球か? 野球の何が、キミにそれほどの熱意をもたらしているっていうんだ?!」

友紀「あ、飛鳥ちゃん? ちょっと落ち着いて……」

飛鳥「落ち着いているさ……! 落ち着いているからこそ、自分の想いの弱さに嫌気が差すんだよ」


飛鳥「1度気が付いてしまったら、知る前のボクにはもう戻れない。目を背けることなんてできない」

飛鳥「こんな感情、できれば気付きたくなかった……LIVEを前に嫉妬だなんて」

飛鳥「ここに来て、今になって、妬ましくなったんだ、キミのことが。ドームに懸けるその覚悟も、キミを動かすその原動力も、心の在り方も! どうやったって、ボクには手に入らない!」

飛鳥「……誰かを励ます為に歌うなんてこと、ボクはしてこなかったから」


友紀「だ、だから、あたしと一緒じゃダメって……?」

飛鳥「そんなことは言ってない」

飛鳥「……でも。今のボクに、キミと並ぶ資格なんか無いんじゃないか……そんな気はする」

友紀「ちょっと待ってよ……そんな」

飛鳥「……すまない。こんなこと、言うべきじゃなかった」

友紀「…」

飛鳥「忘れてくれ……だなんて、無理な話だな。都合良く記憶を消去だなんてできるわけがない、痛い程知ってる」

飛鳥「……ごめん」


友紀「……」

飛鳥「……何をやってるんだ、ボクは……。全然冷静なんかじゃ無いじゃあないか」

飛鳥「少し、頭を冷やして来る……」

友紀「……待って!」

飛鳥「?」


友紀「言いたいことは、それだけ?」

飛鳥「それだけって……」

友紀「他にも言いたいことあるんならさ、今のうちに吐き出しちゃった方が良いんじゃない?」

飛鳥「……別に。これ以上なんて、もう何も」

友紀「そか! じゃあ、スッキリして、またやり直せるね」

飛鳥「…」

友紀「よかったー。あたしと歌うのが嫌! とかだったら、どうしようかと思ったよ……」


友紀「そういうモヤモヤ~ってしたやつはさ、早めに出しちゃった方が良いんだ。ほら、お酒飲んだ時とかそうじゃない?」

飛鳥「……ボクは未成年だ」

友紀「あ、そうだったそうだった。じゃあ、将来の為にも覚えておいてね!」

飛鳥「もしかして、ふざけてるのか?」

友紀「ふざけてない」

飛鳥「…」

友紀「そんなにたくさん、たっくさん考えてたなんて知らなかった。やっぱりすごいよ、飛鳥ちゃんは」

友紀「ゴメンね、あたしのせいだよね……。ドーム、ドームって、あたしが自分のことばっかりだったから……」

飛鳥「……これはボクの問題だ。謝罪を受ける筋合いでは無い」

友紀「原因はあたしなんでしょ? 迷惑、かけっぱなしでさ」

友紀「謝らせてよ。……ごめんなさい」

飛鳥「謝ったからって、どうなるわけでも無いのに」

友紀「うん。だから、謝るのはもうおしまい。次に進まなきゃ」

飛鳥「次……」


友紀「あたしさ。ドームLIVE、すっごく楽しみにしてたんだよね」

飛鳥「……知ってる」

友紀「いっつも野球観に行ってるあの球場で。憧れだったグラウンドに、今度は自分が立てるんだ」

友紀「……昔のあたしじゃどうしたって叶わなかった、立つことすら許されなかった、あのマウンドに」

飛鳥「…」

友紀「今回だけは、本当に特別なんだよ。絶対、大事な日になるって思ってる。確信してる」

友紀「ファンのみんなにいつも応援してもらってる分を、何十倍にも、何百倍にもしてお返ししたい。それができるのが、あそこなの」

友紀「あたしにとってドームって、そんな場所」


友紀「アイドルになって頑張って来て、みんなと一緒だったからこそ、ようやく来れた舞台なんだよ? なのに……」

友紀「なのに、並ぶ資格が無いだなんて……そんなこと、言わないでよ……」


飛鳥「でも、ボクには……」

友紀「ドームを特別に思えだとか、あたしが強要することなんてできない。そんなの分かってる」

友紀「それでも、行くからには少しでも良い思い出になってほしいよ。あたしの好きなもの、みんなにも好きになってもらいたいもん」

友紀「あたしだけ楽しくても、それじゃダメなんだ。あたしだけのLIVEじゃないんだから」

友紀「みんなで声掛け合って、ドキドキしながらスポットを浴びて、全力出し切って、ずーっとワクワクしていられるような、そんな時間にしたい」

友紀「こんなに熱くて、キラキラしたところなんだ、またドームに来たいなって。その場に居る全員に感じてもらえたら良いと思ってる」

友紀「勿論、飛鳥ちゃんにも」


友紀「……歌ってよ、飛鳥ちゃん」

友紀「別に、一緒に曲を貰ったからってわけじゃない。あたしの事情なんて、全然考えなくてもいいから」

友紀「特別な場所だなんて、無理して思う必要もないっ。誰にとっても特別じゃなきゃいけないなんて、そっちの方が間違ってる!」

飛鳥「…ッ」

友紀「さっき言ってた、何のために歌うのかってヤツも。普段通りで良いんだ、変に意識することなんて無い」

友紀「いつもの延長だっていうんなら、それだって良いじゃん。いつも通りで良いんだよ」

友紀「ステージ終わった後に、良い場所だったな……って。ほんの少しでも感じてくれればそれで充分だから」


友紀「そしたらさ、また連れてくるから」

友紀「LIVEでも野球観戦でも。あたしが、いつでも連れてってあげるからさ」



友紀「だから、一緒に歌ってよ……」

飛鳥「友紀……」


飛鳥「……キミには非道いことを言った」

友紀「そう、なのかな」

飛鳥「言ったさ、キミの夢を否定するような言葉を」

友紀「……気にしてないよ」

飛鳥「放ってしまった言葉は、もう戻せない。あんなこと、口にするべきじゃなかった」

飛鳥「それでも……それでもキミは、こんなボクと一緒に歌ってくれると。そう言うのかい」

友紀「勿論っ」

飛鳥「………そうか」

友紀「うん、そうだ」

飛鳥「……」


飛鳥「……敵わないな」

友紀「え?」

飛鳥「今回ばかりは、本当に敵わないよ。敵うハズがない」

飛鳥「……最初から、勝負にすらなっていなかったか」

友紀「べ 別に、勝負なんてしてないんだけど……」

飛鳥「気持ちの問題さ。キミの想いの強さに、熱に当てられて……知らずの内に、見失っていた。見誤っていた」

飛鳥「ボクはボクであればいい、ただそれだけのことだったのに」


友紀「ごめん……」

飛鳥「謝らなくて……って。これ、さっきから何度目だ……?」

友紀「……あは、確かに」

飛鳥「と、とにかく。悩むのはもう、これっきりさ」

友紀「! じゃあ……っ」

飛鳥「ああ。あと1週間、だったね?」

友紀「……うん!」


飛鳥「結局のところ、ボクはただ、理由が欲しかっただけなんだ」

友紀「理由、かぁ」

飛鳥「キミにはキミの、歌う理由がある。それが羨ましかった……。突き詰めれば、実にシンプルな解答だ」

友紀「……こんなの、あたしぐらいだよ」

飛鳥「そう。キミだけの理由、キミだからこそ理解る、譲れないもの。素晴らしいじゃないか」

友紀「でもそのせいで、変に悩ませちゃった」

飛鳥「ボクが勝手に僻んでいただけ。それだって、キミの言う通り吐き出したら、幾分かすっきりした。悪かったよ」

友紀「……みんな、勝手なんだね」

飛鳥「勝手に主張して、勝手に影響を受けて。勝手に苦しんで、勝手に救われて……。人間なんて、そんなものじゃないかな」

友紀「おぉ、深い」

飛鳥「言ってしまったことは、もう取り返せない。ならば、改めて上書きさせてくれないか。今一度、キミへ放つ言葉で」

友紀「よっしゃ、ばっちこい!」



飛鳥「……2つ、見つけたよ。ボクの歌う理由」

友紀「ふたつ?」

飛鳥「1つは簡単だ。ボクの歌を待っててくれる誰かがいる、そんな彼ら彼女らに届けたい。……いつも通りだね」

友紀「……うん。飛鳥ちゃんらしいんじゃない? それで良いと思う!」

飛鳥「こんな当たり前なことも見逃していたとは。全く、なんて遠回り……」

飛鳥「……もう1つは」


飛鳥「…」じっ

友紀「え、な 何?」

飛鳥「……どうやったって、ボクはキミのようにはなれない。歩いて来た道が違いすぎる。それは、変えようのない事実だ」

飛鳥「でも、キミが共に歌おうと言うのなら。こんなボクとでも、共に並び立ってくれるというのなら」

飛鳥「ならばこの声は、キミに捧げよう」

友紀「!」


飛鳥「言っておくが。許してもらおうだとか、罪滅ぼしだとか。これはそんなチャチなモノじゃないよ? キミの力になりたいと、純粋にそう思えたんだ」

飛鳥「姫川友紀、親愛なる我が隣人。誰よりも何よりもその日を待ち望むキミの為に、ボクは歌おう」

友紀「……うん」

飛鳥「そうしてキミの特別な場所を、新たな色で描き上げることができたなら、その時は」

飛鳥「その時は、ほんの少しで構わない。キミの瞳に映るその景色を、感情の高鳴りを、ボクにも魅せてはくれないだろうか」

友紀「うん、うんっ」

飛鳥「どう、かな」

友紀「良いに決まってるよ! ありがとう!」

飛鳥「……よかった」


友紀「嬉しいなぁ。誰かにそんなこと言ってもらえたの、初めて!」

飛鳥「ふぅん……そんなものかな」

友紀「そうなの! すっごく嬉しい!」

飛鳥「そう」

友紀「じゃあ……決めた! あたしも、飛鳥ちゃんに向けて歌うね」

飛鳥「え?」

友紀「お返し! あたしも、飛鳥ちゃんの為に歌うよ」

飛鳥「……ボクの為に、ね」

友紀「お互いにやるの、なんかエール交換みたいで良くない? フレー、フレーってさ!」

飛鳥「おかしい。確かに『キミの為に』とは言ったが、それだとニュアンスがどうにも違ってくるような気が……」

友紀「細かいことはいいの! やろう?」

飛鳥「……好きにしたまえよ」

友紀「オッケー!」


友紀「約束だよ? はい、小指出してっ」

飛鳥「お、おいおい……指切りなんて、コドモじゃないんだから」

友紀「ん!」

飛鳥「……理解ったよ。約束だ」

友紀「ゆーびきーりげーんまん、嘘ついたら……うーんと……千本ノックする!」

飛鳥「ちょっ」

友紀「ゆーび切ったっ!」

飛鳥「……やれやれ。これじゃ、絶対に破れないじゃないか……フフ」

友紀「へへ。改めて、本番までよろしくね♪」

飛鳥「本番も、だろう? こちらこそ」

友紀「うん!」

飛鳥「……ありがとう」




P「……戻りましたー」



友紀「あ! プロデューサーだ、おかえり!」

飛鳥「やぁ」

P「おっす、お疲れ様。レッスン終わり?」

友紀「うん!」

P「そっかそっか。……あれ、唯は?」

友紀「唯ちゃん? アーニャちゃんたちのとこ行っちゃったけど」

P「は?」

飛鳥「それも、だいぶ前にね」

P「うっそ、マジで? 結局1人で行っちゃったのかぁ……」


友紀「一緒のつもりだったの?」

P「だって、連れてけって言うから」

飛鳥「あまり遅いから、置いて行かれてしまったんじゃないかい?」フフ

友紀「ねー。今来ても、って感じ」

P「しゃーないな………っと。あー、もしもし? 唯、お前今どこ……え、着いてる? はやっ……それじゃ今から……」

飛鳥「さて。果たして彼は、プラネタリウムの上映に間に合うのかな」

友紀「うへー……お迎えにも上映にも遅刻とか、サイアクだよ」

飛鳥「フフ。早く向かわないと、またふらりと何処かへ往ってしまうかも」

友紀「ヤバいよヤバい! 走れー、プロデューサー♪」

P「……あの、ちょっと静かにしててくれない? 一応電話中なんすけど」



………。


P「さて……。お前さんたちも、一緒に来る?」

友紀「うーん……今日は、もう休んでよっかな」

飛鳥「ボクも」

P「おっけ。んじゃ、俺もそっち行ってくるから」

友紀「行ってらっしゃーい!」

飛鳥「アーニャとみくにも、よろしく」

P「あいよー」



P「……なあ。2人、何かあった?」


友紀「へ?」

飛鳥「随分ざっくり聞いてくれるじゃないか。何かって?」

P「いや、なんて言うか……。こう、柔らかいっていうか」

飛鳥「……キミも発言には気を遣った方が良い。社会的な立場というものがあるだろう」

友紀「うわ、やらしー」サッ

P「ばっかちげーよ、そうじゃなくて。うーんと……」

P「……いつもより雰囲気が丸っこいような気がしてさ。何か良いことでもあったのかなって」

飛鳥「良いこと、ね」

友紀「……えへへ。あたしは、良いことあったよ!」

飛鳥「ボクは……さあ、どうだろう」

友紀「えー! そこは、ちゃんと教えてよー!」

飛鳥「今日、また1つボクは学んだのさ。言い過ぎないのが良い時だって世の中にはある。何事も控え目に、時に大胆に……ってね」

友紀「つまり……?」

飛鳥「ふふ、秘密」

友紀「そんなぁ?!」


P「……ふーん? ま、気のせいかな。これはこれで、いつも通りか」




おわり


担当がイベントで共演しました 
今世紀最大級の事件です

事件すぎて半狂乱になりながらコミュを開いてました。デレステありがとう


2人の昔の話もいつか形にできたらなぁとか思いつつ、今回はこれにておしまい



姫川友紀「サニー・ブルース 7inch.」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1497693598/)

ドーム直前ということで、姫川さんとドームのお話もついでに再掲してみたりする
繋がってたり、繋がってなかったりするのかもしれません


エロじゃないやんけ

かこつ、イベ最高だったな

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