【ミリマス】秋雨とハーモニカ (9)

ちょっとだけ季節は早いけど。可奈と秋雨とハーモニカの短いお話です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1534521541

「はぁ……止まないなぁ」

 雨宿りしたお店の軒先からはひっきりなしに雨粒が垂れてくる。

 私はシャッターにぴったりとくっついて誰も通らない道を眺めていた。

 かなり時間が経ったように感じるけど、腕時計の針は数字一つ分しか進んでいない。

「折り畳み傘、ちゃんと入れてたはずなんだけどなぁ」

 また一つため息が増えた。

「ううん、ダメダメ。こういう時こそ元気出そ!雨ぽつぽ〜つ♪傘はない〜♪濡れたくない〜♪」

 右手をマイクにして即興で歌を作る。そう、こうやって歌っていればどんな時だって……。

「きゃあっ!」

 目の前を走っていったバイクが私に水しぶきを飛ばした。

「あ、危なかった〜。ギリギリセーフ〜♪でも〜♪足がひんやり〜♪」

 カバンからハンカチを取り出して足を拭く。幸いにも濡れたのは膝のあたりだけ。靴下までは濡れていない。ハンカチをカバンに戻そうとすると、奥のほうで何か硬いものが指先に触れた。

「あ、返しそびれちゃってる……」

 見つけたのはハーモニカ。銀色の磨かれた表面は街灯を反射し鈍く光っている。

ぷ〜♪

 口に当てて息を吸うと気の抜けた音がする。

ぷ〜ぴ〜ぴぴ〜ぷ〜♪
 
 でも、その音色が私の心を少し明るくしてくれた。

 顔を上げる。雨はまだシトシトと降り続いている。

 ぶるりと身体が震えた。同じ雨の日なのに梅雨の雨とどうしてこんなに違うんだろう。

 梅雨はもっと生暖かくて、ジメッとしてて、なんだかカタツムリになった気持ちになる。

 でも、秋の雨は空気がひんやりして、さらさらしていて、まるで冷蔵庫の中にいるみたいだ。

「プリンにケーキにチョコレート〜♪ゼリーにヨーグルトにシュークリーム〜♪」

ぷ~ぷ~ぴぴ~♪

 路上でハーモニカ片手に歌っていると、ストリートミュージシャンになったみたいだ。

「えへへ、ジュリアさんもこんな感じで歌っているのかなぁ?」

ぷ~ぷぷぴ~♪

「でも……ジュリアさんだったらお客さんがいて、独りじゃないんだろうなぁ」

ぷひゅ……

 ハーモニカをくわえたまましゃがみこんだ。誰にも踏まれることのない水たまりが目に映る。

ぷ~ぴぴ~ぷ~……

ぷひゅ……

ぴぴ~ぷ~ぷ~……

ぷひゅ……

 口元のハーモニカから冷たさが入り込んでくる。気付けば私は、ギュッと両腕を抱え込んで俯いていた。

『何やってるの、可奈?早く戻るわよ』

 聞き覚えのある声がする。さっき電話した時に聞いた声。ゆっくりと顔を上げる。

『!?ちょっとどうしたの!!誰かに何かされたの?怪我はない?』

 私は袖で顔を拭く。自然と笑みがこぼれる。

「えへへ、志保ちゃんが来てくれたから、もう大丈夫だよ!ジャノメでお迎え嬉しいな〜♪」

 志保ちゃんはまだ心配そうな顔でこちらを見ている。私はすっと立って、志保ちゃんの傘の中に入った。

「さ、帰ろ!」

 私は志保ちゃんの手をギュッと握る。

「そうだ!返すの忘れててごめんね、ハーモニカ」

『別にいいわ。私はもう使わないし、弟も自分のを持っているから』

「じゃあ、もう少し借りてるね!」

ぷ~ぴぴ~ぷぷ~♪

雨のパーカッションに合わせてリズムよくハーモニカを鳴らす。

『……傘を忘れて、寒い所にいたわりには随分とご機嫌ね』

「だって、志保ちゃんが迎えにきてくれたし、それに……」

……あっ、だから、秋の雨って……

『それに……なに?』

「それに、志保ちゃんの手がとっても暖かいから!」

 私は握る手にギュッと力を込めて、ハーモニカを口につけた。

ぷ~ぴぴ~ぷ~♪

 冷たいハーモニカから気の抜けるような音が道に響く。

 志保ちゃんの暖かい手が、私を離さないようにと握り返してくれた。

そんなわけで、可奈と志保のお話はおしまいです。

可奈と雨の取り合わせっていいですよね。

2年ぐらい前に書いた話なので、あめにうたおう♪が発売された時はちょっと嬉しかったです。

可奈にへの志保の優しい感じが良かった
乙です

>>2
矢吹可奈(14)Vo/Pr
http://i.imgur.com/xxLSEVa.jpg
http://i.imgur.com/Nv3qYyi.jpg

>>6
北沢志保(14)Vi/Fa
http://i.imgur.com/iMWFGDP.png
http://i.imgur.com/ZhetECD.png

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom