【ミリマス】秋雨とハーモニカ (9)
ちょっとだけ季節は早いけど。可奈と秋雨とハーモニカの短いお話です。
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「はぁ……止まないなぁ」
雨宿りしたお店の軒先からはひっきりなしに雨粒が垂れてくる。
私はシャッターにぴったりとくっついて誰も通らない道を眺めていた。
かなり時間が経ったように感じるけど、腕時計の針は数字一つ分しか進んでいない。
「折り畳み傘、ちゃんと入れてたはずなんだけどなぁ」
また一つため息が増えた。
「ううん、ダメダメ。こういう時こそ元気出そ!雨ぽつぽ〜つ♪傘はない〜♪濡れたくない〜♪」
右手をマイクにして即興で歌を作る。そう、こうやって歌っていればどんな時だって……。
「きゃあっ!」
目の前を走っていったバイクが私に水しぶきを飛ばした。
「あ、危なかった〜。ギリギリセーフ〜♪でも〜♪足がひんやり〜♪」
カバンからハンカチを取り出して足を拭く。幸いにも濡れたのは膝のあたりだけ。靴下までは濡れていない。ハンカチをカバンに戻そうとすると、奥のほうで何か硬いものが指先に触れた。
「あ、返しそびれちゃってる……」
見つけたのはハーモニカ。銀色の磨かれた表面は街灯を反射し鈍く光っている。
ぷ〜♪
口に当てて息を吸うと気の抜けた音がする。
ぷ〜ぴ〜ぴぴ〜ぷ〜♪
でも、その音色が私の心を少し明るくしてくれた。
顔を上げる。雨はまだシトシトと降り続いている。
ぶるりと身体が震えた。同じ雨の日なのに梅雨の雨とどうしてこんなに違うんだろう。
梅雨はもっと生暖かくて、ジメッとしてて、なんだかカタツムリになった気持ちになる。
でも、秋の雨は空気がひんやりして、さらさらしていて、まるで冷蔵庫の中にいるみたいだ。
「プリンにケーキにチョコレート〜♪ゼリーにヨーグルトにシュークリーム〜♪」
ぷ~ぷ~ぴぴ~♪
路上でハーモニカ片手に歌っていると、ストリートミュージシャンになったみたいだ。
「えへへ、ジュリアさんもこんな感じで歌っているのかなぁ?」
ぷ~ぷぷぴ~♪
「でも……ジュリアさんだったらお客さんがいて、独りじゃないんだろうなぁ」
ぷひゅ……
ハーモニカをくわえたまましゃがみこんだ。誰にも踏まれることのない水たまりが目に映る。
ぷ~ぴぴ~ぷ~……
ぷひゅ……
ぴぴ~ぷ~ぷ~……
ぷひゅ……
口元のハーモニカから冷たさが入り込んでくる。気付けば私は、ギュッと両腕を抱え込んで俯いていた。
『何やってるの、可奈?早く戻るわよ』
聞き覚えのある声がする。さっき電話した時に聞いた声。ゆっくりと顔を上げる。
『!?ちょっとどうしたの!!誰かに何かされたの?怪我はない?』
私は袖で顔を拭く。自然と笑みがこぼれる。
「えへへ、志保ちゃんが来てくれたから、もう大丈夫だよ!ジャノメでお迎え嬉しいな〜♪」
志保ちゃんはまだ心配そうな顔でこちらを見ている。私はすっと立って、志保ちゃんの傘の中に入った。
「さ、帰ろ!」
私は志保ちゃんの手をギュッと握る。
「そうだ!返すの忘れててごめんね、ハーモニカ」
『別にいいわ。私はもう使わないし、弟も自分のを持っているから』
「じゃあ、もう少し借りてるね!」
ぷ~ぴぴ~ぷぷ~♪
雨のパーカッションに合わせてリズムよくハーモニカを鳴らす。
『……傘を忘れて、寒い所にいたわりには随分とご機嫌ね』
「だって、志保ちゃんが迎えにきてくれたし、それに……」
……あっ、だから、秋の雨って……
『それに……なに?』
「それに、志保ちゃんの手がとっても暖かいから!」
私は握る手にギュッと力を込めて、ハーモニカを口につけた。
ぷ~ぴぴ~ぷ~♪
冷たいハーモニカから気の抜けるような音が道に響く。
志保ちゃんの暖かい手が、私を離さないようにと握り返してくれた。
そんなわけで、可奈と志保のお話はおしまいです。
可奈と雨の取り合わせっていいですよね。
2年ぐらい前に書いた話なので、あめにうたおう♪が発売された時はちょっと嬉しかったです。
可奈にへの志保の優しい感じが良かった
乙です
>>2
矢吹可奈(14)Vo/Pr
http://i.imgur.com/xxLSEVa.jpg
http://i.imgur.com/Nv3qYyi.jpg
>>6
北沢志保(14)Vi/Fa
http://i.imgur.com/iMWFGDP.png
http://i.imgur.com/ZhetECD.png
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