飛鳥「帰り道の気持ちになるのかい?」 (15)
〜夜、道ばた〜
仁奈「ゆーやけこーやけーでひーがーくーれーてー!」
飛鳥「……?」
仁奈「飛鳥おねーさん、ほらっ!」
飛鳥「ボクが続きを歌うのかい?」
仁奈「よろしくおねげーします!」
飛鳥「もう、夜なんだけどなあ」
仁奈「はやく、はやくー!」
飛鳥「……やーまのおーてーらーの、かーねーがーなーるー♪」
仁奈「おーててーをつーなーいーでー、かーえりーまーしょー!」 ギュッ
飛鳥「!」
飛鳥(仁奈の手は小さいな。……だけど、とてもあたたかい)
仁奈飛鳥「「かーらーすーとーいーっしょに、かーえーりーまーしょー」」
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〜ちょっと前〜
飛鳥「ふぅ、喉がカラカラだ」キュッ、ゴクゴク
P「飛鳥、お疲れ様」
飛鳥「あぁ。ありがとう、プロデューサー」
P「ちょっとお願いがあるんだけど、いいか?」
飛鳥「構わないよ。ボクにできることなら」
P「実は仁奈を家まで送って欲しくてな」
飛鳥「収録が終わってからでも大丈夫かい?」
P「あぁ、助かるよ」
飛鳥「このくらいお安い御用さ。キミはこれから会議かい?」
P「よくわかったな。この後打ち合わせなんだ」
飛鳥「……お疲れ様、だね。プロデューサー。しかし、大変だなキミの業務は。もう日は暮れるというのに」
P「こればっかりは先方に合わせないといけないから、どうしてもなぁ。ま、よろしく頼むよ」
飛鳥「任された。はい、スタドリだ。あまりキミも根を詰めすぎないようにね」
P「ありがとう、気を遣わせてすまないな」
〜時は戻って夜、道ばた〜
飛鳥「懐かしいね。小学校以来だ」
仁奈「飛鳥おねーさんも、帰り道の気持ちになるですよー!」
飛鳥「帰り道の気持ち……?」
仁奈「今日一日であった嬉しいことを思い出していると、心がわぁああって、弾けて仁奈も楽しくなるんだー♪」
飛鳥「へえ。それはいいな。仁奈は今日良い事があったのかい?」
仁奈「うん!写真のさつえーで『仁奈ちゃんは元気だね』って!」
飛鳥「なるほど。仁奈はすごいな」
仁奈「仁奈、すげーですか?」
飛鳥「ああ。ボクは元気の良さで褒められることはないからね」
仁奈「でもでも、飛鳥おねーさんはかっこいいですよ?」
飛鳥「かっこいい……ボクがかい?」
仁奈「仁奈のしらねー言葉をいーっぱいしってて、仁奈が考えたことないこといーっぱい考えてて、すげーです!」
飛鳥「フフフッ。ありがとう、仁奈」ナデナデ
仁奈「えへへー♪」
飛鳥「フム……。互いに褒め合うってのもなかなか良いモノだ。気持ちが晴れやかになるな」
仁奈「じゃあもっとやるです!えーと、えーっと」
……
〜河原の近く〜
仁奈「クンクン……なにかいい匂いがしやがりませんか?」
飛鳥「確かに。甘い匂いがするね」
仁奈「あー!カステラ屋さんだー!」
飛鳥「ほう、屋台か。風情があって良いね」
仁奈「チーターの気持ちー!うおー!」ダッ
飛鳥「駄目だよ仁奈」ガッシ
仁奈「何しやがるです、はーなーせー!」バタバタ
飛鳥「今お菓子を食べたらお腹ぽんぽんになって晩御飯が食べられなくなるだろう?」
仁奈「うう、カステラ……」
飛鳥「きっとカステラ屋さんだってまたきてくれるさ」
仁奈「仕方ねーです……ガマンすr」グゥー
仁奈飛鳥「「あっ」」
飛鳥「……」
飛鳥「……少しだけなら、すぐ消化されるかもしれないね」
仁奈「食べても、いーですか!?」
飛鳥「晩御飯も残さず食べるってボクと約束できるね?」
仁奈「うん!仁奈、約束するです!」
飛鳥「だったら構わないよ」
仁奈「やったぁ!カステラカステラ〜♪」
仁奈「そうと決まれば……ダーッシュ!」ダダダッ
飛鳥「フフ……やれやれだ」
〜カステラ屋さん〜
仁奈「ふんふんふーんカ・ス・テ・ラー♪」
飛鳥(フレデリカみたいだ)
店主「ラッシェイ!」
飛鳥「カステラ300円分ください」
店主「アイヨッ!」ガッシガッシ
仁奈「すげー!動物の形だー!」
店主「嬢ちゃん動物好きかい?」
仁奈「仁奈、大好きですよー!」
店主「じゃあ特別に選ばせてあげよう!」
仁奈「え!?いいでごぜーますか?じゃあじゃあ、わんちゃんとー、おさるさんとー、うさぎさんとー、あっ!」
仁奈「飛鳥おねーさんは何か入れたいのありますか?」
飛鳥「ボクは何でも構わないよ」
仁奈「そしたらー、ひつじさんとキリンさんとー……」
店主「ハイヨッ」ガッガッ
仁奈「わー、袋ぱんぱんだー!」
店主「一丁上がりィ!」
飛鳥「どうも、ありがとうございます」
仁奈「ありがとうごぜーました!」
店主「まいどあり。お嬢さん方は姉妹かい?」
飛鳥「あ、ボクたちは……」
飛鳥(ボク達の何処を見出して姉妹だと思ったんだろう)
飛鳥(髪の毛の色が少しだけ似ているといえば似ているけども)
飛鳥「……はは、そんなところです」
店主「そうかそうか。嬢ちゃんもお姉さんみたいなべっぴんさんになれるといいな!」ハッハッハッ
飛鳥「はぁ……それはどうも」
店主「ありがとうございあした!」
仁奈「ばいばーい!」
飛鳥「さて、座って食べたいところだけど……」
仁奈「あ、あそこベンチがありやがりますよ!」
飛鳥「良いね、あれに座ろう」
仁奈「それじゃあ競争だー!うさぎとカメー!」
飛鳥「ちょっと仁奈、」
仁奈「えっほ、えっほ」
飛鳥「……」
飛鳥(これまた随分と遅いな)
飛鳥「仁奈はカメなのかい?てっきりまた駆け出すと思っていたよ」
仁奈「だって、飛鳥おねーさんはカメっぽくねーですし……」エッホエッホ
飛鳥「別に良いけど、ボクが先に座ってしまったらカステラ全部食べてしまうかも知れないよ?」
仁奈「……あっ!」エッホエッホ
飛鳥「ボクは『うさぎ』だからね……行かせて貰うよ!」ダッ!
仁奈「あー!ずりーです、はえーです!」
飛鳥「このキャスティングをしたのは仁奈の方だからねー!」ダダダッ
飛鳥(もう圧倒的な差が開いてしまったかな。このまま駆け抜けるのもいいが……)チラッ
仁奈「カメは勝つんだー!ぶぉおーーん!」ダダダッ
飛鳥「なんだって!?」
飛鳥(全力疾走してきた!クッ、すぐ後ろに……!)
仁奈「ぎゅうーーーん!!」ダダダ
飛鳥(速い、追い抜かれて──)
仁奈「やったー!仁奈が1番のりです!」
飛鳥「か、カメが全力疾走、なんて……」
仁奈「フッフー、仁奈カメはジェットエンジン付きでごぜーます!」
飛鳥「童話の教訓、全否定じゃないか」
仁奈「ちげーです、仁奈カメは自分の努力でジェットエンジンを身につけたです」
飛鳥「努力の方向性が先進的すぎるよ」
〜木の下のベンチ〜
飛鳥「真ん中にカステラを置いておくから、好きなように食べるといい」
仁奈「わーい!何が出るかな、何が出るかな〜♪」ガサゴソ
仁奈「あ!いぬだ!いぬのきもち……」
飛鳥「?」
仁奈「うぅ〜……ばうっ!ばうっ!」
飛鳥「わんわん、ではない辺り、仁奈の拘りを感じるな」
飛鳥「ほら、早く食べないとカステラが冷めてしまうよ」
仁奈「はっ!そうでした!いただきまーす!」パクッ
仁奈「はふっ、あ、アツアツでうめー♪」
飛鳥「フフ、それは良かった」
仁奈「飛鳥おねーさんも、食べてくだせー!」
飛鳥「ああ。それじゃあひとつ貰おうかな」ガサゴソ
飛鳥「……うさぎだ」
仁奈「仁奈ももうひとつー!」
飛鳥(寂しさを感じると死んでしまうとはよく聞くけれど)
仁奈「ぞーさんだ!パオパオー!」
飛鳥(どうもアレはガセネタらしいな)パクッ、モグモグ
仁奈「あーん」パクッ
飛鳥(ん、美味しい……)
仁奈「甘くて、ほくほくで……くぅ〜」
飛鳥(……)
飛鳥(仁奈は、元気だな……)
仁奈「このふわふわがたまんねーですよー!」
仁奈「もういっこー!」
飛鳥「ほどほどにしときなよ。……ボクにも食べさせてくれ」
仁奈「ふぅー、おなかぽんぽんでやがりますよー」
飛鳥「まさか、あんなに早く無くなるとはね。育ち盛りというものは末恐ろしいものだ」
仁奈「どーしてカステラはすぐなくなっちまうですかね」
飛鳥「仁奈が次から次へと食べるからだろう」
仁奈「カステラ……もっと食べてーです」
飛鳥「それはどうだろうか。モノは無くなるからこそ大事なんだ」
仁奈「どういうことでごぜーますか?」
飛鳥「ボクらは好きなモノを幸せを感じるからという理由で無くならないで欲しいと願う。だけど、現実には全てのものは朽ちてゆく運命にあるし、カステラは食べるとなくなってしまう」
仁奈「うーん……仁奈には飛鳥おねーさんの言ってること、よくわかんねーですよ」
飛鳥「じゃあこうしよう。もし、カステラが食べても食べても無くならなければどうだい?」
仁奈「おなか、いーっぱいになるです」
飛鳥「確かにそうだね。じゃあお腹いっぱいになれなくて、カステラを食べ続けなければならないとしたら?」
仁奈「飽きちゃう、ですか?」
飛鳥「そのとおり。カステラは無くなるから、程々で止められるからこそ『美味しかった、次もまた食べたい』って思えるんだ」
仁奈「むぅーそうでごぜーますか……」
飛鳥「まぁ『カステラは大事に食べましょう』って話だよ。さあ、夜も更けてきた。そろそろ帰ろうか」
仁奈「飛鳥おねーさん……」
飛鳥「ん、なんだい?」
仁奈「それって仁奈のきもちもそうでやがるのですか?」
飛鳥「それは……」
仁奈「ほどほどじゃないとダメでやがりますか?毎日いっぱい、いーっぱい楽しんじまうと『楽しい』に飽きちまうですか……?」
仁奈「仁奈は今日、飛鳥おねーさんとおしゃべりができて楽しかったです。カステラもおいしかったです。でもこの気持ちはいつかなくなっちゃうのかなって思ったら仁奈、さみしくって……」
飛鳥「フム……そうだね。確かにいつかなくなってしまうかもしれない。ヒトはモノを忘れるようにできているのさ」
仁奈「だったらもう、『気持ち』に意味なんてねーじゃないですか……」
飛鳥「だからこそ、この思い出を。ボク達は大切にしなくてはならないんだ」
仁奈「思い出を大切に……でやがりますか?」
飛鳥「この話の重要なところはね、『大切だからこそ無くならないで欲しい』って願うところにあるんだ」
飛鳥「つまり、仁奈が寂しいと思ったのなら、今日の出来事は仁奈にとって良い思い出だったということになる。良き思い出はたとえ忘れてしまっても、仁奈の心の糧となり、キミの心に生き続けるだろう」
仁奈「思い出が仁奈の心に……」
飛鳥「そうだ。だから遠慮なんて要らない。キミは色とりどりの感情をたくさん貰って、善い人間になれば良い」
仁奈「そっかー。じゃあ仁奈、また飛鳥おねーさんと遊びてーです!」
飛鳥「ボクとかい?」
仁奈「だってー、今日楽しかったじゃねーですか!お歌もうたったでしょー、あと、かけっこもやりましたよね!それに、色んなおしゃべりをしたです!仁奈はこの帰り道だけでいーっぱい、思い出ができたんだー♪」
飛鳥「フフ、そうか……。ボクで良ければまたお供しよう」
仁奈「やったー!それじゃあ約束ですよー!」スッ
飛鳥「小指?」ツナグ
仁奈「ゆーびきーりげんまん♪」
飛鳥(なるほどな。これまたノスタルジックだ……)
仁奈飛鳥「「うそついたらはりせんぼんのーます!ゆびきった!」」
飛鳥「ククク……これでキミとボクは一連托生、運命共同体というワケか」
仁奈「あー!やっぱり飛鳥おねーさんの言うことはむずかしいですー!」
飛鳥「ああ、すまないすまない。本当にそろそろ帰ろうか。もう夜も遅いだろう」
〜市原家前〜
仁奈「じゃあねー、ばいばーい!」
飛鳥「ああ。ばいばい」
ガチャ、ギィー……バタン
飛鳥(さて、と。ボクもそろそろ家に向かうとしようか)
クルッ、テクテク……
仁奈「飛鳥おねーさーん!約束ですからねー!」
飛鳥(窓から顔を……)
飛鳥「ああ、勿論だともー!」
<ニナー、ゴハンヨー
仁奈「あっ、はーい!……飛鳥おねーさん、またねー!」ブンブン
飛鳥("またね"か……なんとも嬉しい響きだ。……フフ)
テクテク
飛鳥(満月、か。今宵は月の反照が眩しいね)
.。o○(仁奈「仁奈はこの帰り道だけでいーっぱい、思い出ができたんだー♪」
仁奈「飛鳥おねーさん、またねー!」)
テクテク
飛鳥(なるほどね。これが"帰り道の気持ち"というワケか。なかなか良い気分じゃないか)
テクテク
飛鳥「明日もいい日にしよう。なあ、仁奈」
おわり
以上になります。ありがとうございました。
事務所は静岡のどこかにあると脳内補完しておいてください……。
良い
乙ー
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