江戸っ子「てやんでえ! べらぼうめえ!」女「ステキーッ!」男「ちくしょう……!」 (34)

江戸っ子「てやんでえ! べらぼうめえ!」



女A「あっ、江戸っ子さんだわ!」

女B「キャーッ、ステキーッ!」

女C「江戸っ子さんっていつも粋で、かっこいいわよねえ!」



男(……ちっ!)

男(江戸っ子がやってくると、女の子はみんなそっちに振り向きやがる!)

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カンカンカン… カンカンカン…

「火事だっ!」 「どこだどこだ!?」 「ボヤらしいぞ!」



江戸っ子「おっと火事だ! 見に行かねえと!」スタタタタッ



女A「走っていくわ!」

女B「それはそうよ! 江戸っ子さんは火事が大好きなんだもの!」

女C「粋よねぇ~」

チンピラ「やんのか、てめえ!」

ゴロツキ「ああん!?」



江戸っ子「おおっ、喧嘩かい!? いいねえ、いいねえ! 血がたぎるねえ!」グイッ



女A「まぁっ、腕まくりしてはりきってるわ!」

女B「江戸っ子さんって、喧嘩も大好きだものねえ~」

女C「なんて粋なのかしら……」

江戸っ子「さぁて、女どもにサービスしてやらねえと!」

江戸っ子「オレっち宵越しの銭は持たねえ! みんな、パーッとやってくんな!」チャリンチャリン



女A「ありがとうございます~!」

女B「江戸っ子さんのお金の使い方って豪快よねぇ~」

女C「粋すぎて……イッちゃう!」ビクンビクン

江戸っ子「あばよーっ!!!」スタコラサッサ



女A「江戸っ子さん、さようなら~!」

女B「キャーッ、サイコーッ!」

女C「去り方も粋だけど、行かないでーっ!」



男(ちくしょう……! 今日も女の子の心をわしづかみにしていきやがった!)

江戸っ子「さぁて、帰(けぇ)るとすっか!」スタスタ



男(くそぉ~、江戸っ子め! いつもいつもモテやがって!)

男(だけど、粋っぷりや漢っぷりじゃ、とてもあいつには敵わねえ……)

男(だったら、こうして後を付け回して、なにか欠点の一つでも探ってやる!)

世界観が知りたい…

江戸っ子「はぁ~……」



男(あれ? 深いため息をついてるぞ)

男(あんまり江戸っ子らしくないな……)

男(だけど、江戸っ子だってたまにはため息つきたくなる時くらいあるか)

男(ところで、江戸っ子ってどんなとこに住んでるんだろう?)

男(きっと昔ながらの長屋みたいなとこだと思うけど……)

江戸っ子「……」スタスタ



男(え、マンション!?)

男(うーん、これまた意外だ)

男(でも、江戸っ子はマンションに住んじゃいけないなんて法律はないしな)

バタン…



男(部屋に入っちゃったぞ……ってそりゃそうか)

男(どうしよう……? 出てきそうもないし、俺も帰るか……?)

男「……」



ピンポーン…



男(押しちゃった! 何やってんだ、俺!?)

江戸っ子「……はい」ガチャッ

男「あ、あの……」

江戸っ子「なにかご用ですか?」

男「えぇと俺、町であなたのことよく見かけてたんですけど……」

男「それで、えと、ちょっと聞きたいことがありまして……」

男(あぁ~……きっと『おとといきやがれ! ドサンピン野郎!』って殴られる……)

江戸っ子「そうですか。よかったら、どうぞ」

男「え!?」

男(部屋の中も……なんだか普通だなぁ)キョロキョロ

男(てっきりちゃぶ台くらいあるかと思いきや、普通のテーブルだ)

江戸っ子「今、飲み物入れますね」

男「あ、おかまいなく」

男(プライベートだとずいぶん腰低いんだな……かなり意外だ)

男(飲み物は……やっぱり日本茶が出てくるんだろうな。それもあつ~いやつが)

なんで男はここまで来てイメージで固めているの?
察しが悪いのかな?

江戸っ子「コーヒーです」

男「あ、どうも……」

男(コーヒーかよ……)ゴクッ

男(あ、でも、温かくておいしい……)

江戸っ子「ところで、聞きたいこととは?」

男「えーと……」

男(こうなった時の質問ぐらい考えてくりゃよかった……)



カキーン…



男「……あ、テレビで野球中継やってますね! 巨人対阪神、伝統の一戦だ!」

江戸っ子「……」

カキーン… ハイッタァー! ホームラン!



男(野球にはあまり興味ないけど……他に話題ないし……)

男「巨人強いなぁ~! これで5-0ですよ!」

江戸っ子「……くそっ!」

男「え?」

男「あの、もしかして……」

江戸っ子「?」

男「あなた、阪神ファン?」

江戸っ子「ええ、そうですが」

男「そ、そうですか」

江戸っ子「阪神が負けてるとイライラしちゃうんで、チャンネル変えましょう」ピッ

江戸っ子「今、料理もお出ししますね」

男(なんだろ……何が出てくるんだろ。深川丼とか?)

江戸っ子「ゴーヤチャンプルです」

男(わぁ~お)

男「……」パクパク

男「これは……程よい苦みでおいしいですね!」

江戸っ子「これだけじゃ物足りないですよね。せっかくなんでお酒もお出しします」

男「す、すみません。色々してもらっちゃって」

江戸っ子「いいワインが手に入ったんですよ」トクトク…

男「……」

男(てっきり日本酒が出てくるかと思いきや、ワインか……)

男「……」グビッ

男「うまい!」

江戸っ子「ありがとうございます」

ちっとも江戸っ子じゃないやんけ

江戸っ子「……」

男「……」

江戸っ子「ガッカリしたでしょう?」

男「え?」

江戸っ子「普段の私が、“江戸っ子”とは程遠い性質をしているから……」

男「いえ、そんな!」

男(しまった! 顔に出てたか!)

江戸っ子「いいんです。ですが、私も一度こうして本当の自分を打ち明けてみたかったんです」

男(本当の自分……)

江戸っ子「本当の私は……火事や喧嘩なんて大嫌いなんです」

江戸っ子「熱いのも血を見るのも苦手ですから……」

男「そ、そうなんですか」

江戸っ子「あと、“宵越しの銭は持たない”ってパーッと散財してるように見えるかもしれませんが」

江戸っ子「あれだって無理のない範囲でお金を使ってるだけです。しっかり貯蓄はしてますし」

江戸っ子「飲む・打つ・買うもやらないですしね。まぁ、お酒は嗜む程度には飲みますが」

>>19
プライベートと外は分けているんだろう

江戸っ子「好きなおやつは八つ橋ですし、好きなラーメンはとんこつラーメン」

江戸っ子「好きなスポーツはウィンタースポーツ、好きな武将は長宗我部元親、好きな湾は駿河湾」

男「……失礼ですが、お仕事は?」

江戸っ子「民族文化の研究をしており、本を出したりもしてます」

江戸っ子「今はアイヌの方々と交流させていただいております」

男(マジで江戸要素ねえな……)

男「しかし、どうして……そんなあなたが江戸っ子のフリを?」

江戸っ子「私は元々社交的な方ではなかったのですが……」

江戸っ子「ある日、たわむれに江戸っ子のマネをしてみたら、それが大ウケしてしまいましてね」

男「ああ、なるほど……」

江戸っ子「それで私もついついその気になってしまい」

江戸っ子「≪違う自分になったようで楽しい≫≪みんなの期待を裏切りたくない≫という二つの理由で」

江戸っ子「“江戸っ子”をやめられなくなってしまったんです……」

男(冗談みたいな話だけど、分かる気もするな……)

江戸っ子「あなたはきっと、“江戸っ子”の私と話してみたいと訪ねて下さったんでしょう?」

江戸っ子「それなのに、本当の私はこんなつまらない人間で……」

江戸っ子「本当に申し訳ありません!」

男「いえいえいえ! とんでもない! こっちこそいきなり訪ねるなんて非常識でした!」

男「それに、俺はあなたをつまらない人間だなんて思ってませんよ」

江戸っ子「え……?」

男「だって――」

男「みんなの期待を裏切らないために、江戸っ子でい続けるなんて並大抵のことじゃない」

男「俺はあなたのことを心から尊敬します」

江戸っ子「尊敬だなんて、そんな……」

男「ですが、これからどうするつもりです? ずっと江戸っ子でい続けるんですか?」

江戸っ子「まだなんとも……」

男「もし、きつくなったり、やめたくなったら……俺に話して下さい」

男「何ができるってわけじゃないけど……愚痴ぐらいはいくらでも聞きますから」

江戸っ子「ありがとうございます……」

男「いやー、しかし驚いたな」

男「結局、あなたの江戸っ子要素は、出身地が東京ってことぐらいですか」

江戸っ子「あ、実は私……出身も東京ではないんです」

男「これは失礼。ではどちらのご出身なんです?」

江戸っ子「はい……私、カリフォルニア生まれのアメリカ人なんです」







―おわり―


てか、みんな日本人とか判別できないとか……
アメリカ人と日本人はすぐわかるだろうに……

Oh、アメリカン江戸っ子!

アジア系なんじゃろ

なんでやねーん

カリフォルニアっ子だったか
おそれ入谷のグランドキャニオン

落語っぽくて好き

いい話だった乙

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