女「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいぃぃ!」(386)

男「うわあああ!?なんだお前は!?」

女「こんにちわですか?はじめましたよ?」

男「な、なんだ?」

女「好きか嫌いかどっちだぁぁぁ!?」

男「な……何が?」

女「お前!私!l」

男「あ、もしかしてこれって告白なのか?」

女「恥ずかしいことを言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!乙女心は繊細に!優しく!」

男「なんなんだよお前はいったい!」

女「突然ですが、私って可愛いか?」

男「え、いや、まあ、顔はかなり」

女「じゃあ、体型は好みか?木の実食うか?」

男「えっと、木の実は食わないが、小さくて細くて可愛いと思う」

女「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁホームラァァァァァァァァァァァン!!」

男「うわあああ!」

女「史上初!10割打者の誕生だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

男「……えっと、なんで打率?」

女「初恋!実りまくり!禁断の果実を飽食ぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

男「待て、俺は可愛いとは言ったが、好きとは言ってない」

女「え……え……ごめんなさい、ぬか喜びでしたか?地球は終わりますか?」

男「地球は終わらないと思う」

女「もしかして私、撃沈したのか?不沈艦の異名は失われたのか?」

男「告白が未経験で不沈艦を名乗っていいなら俺も不沈艦なわけだが」

女「お前かぁぁぁぁぁぁぁぁ!お前が不沈艦なのかぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

男「うわあああ」

女「た、た、大鑑巨砲主義は古いと思います」

男「突然なんだ……」

女「じ、じ、時代は高機動、小型化ですと思うか?思えよ?」

男「ま、まあそうなんじゃないのか。その方がエコとかっぽいし」

女「私の体型は地球に優しいぃぃぃぃぃぃ!私はエコロジィィィィィィィィ!」

男「微妙に言ってることがわかるのが対応に困るな」

女「高らかに灯った初恋はカゲロウのように短い命を終えました。しょぼんです」

男「えっと、別に嫌いでもないぞ。最初は驚いたけど」

女「敗者復活戦きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!FIFAはやり方上手いよな!?」

男「あー、えっと、うん。あんまりワールドカップとか興味ないけど、多分そうなんだろうな」

女「み、南アフリカは危険だ。わ、私と逃げよう」

男「落ち着け、まだ何も始まっていない。どうなるにせよこれからだ」

女「下手に希望を持たせるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!殺すなら今すぐ殺せぇぇぇぇぇぇ!」

男「いや、なんか不思議と嫌いになれないんだ。本当に、心底不思議なんだが」

女「体かぁぁぁぁ!?このツルペタな体が目当てなのかぁぁぁぁぁ!お前はロリコンかぁぁぁぁx!」

男「いや、体型は確かにちっさいが、お前よく見たら隣のクラスの女だよな?同年代だからロリコンではない」

女「覚えててくれやがりましたか?暮れなずむ街の光と影の中ですか?」

男「お前が喋ってるところを初めて見たが、こんなナイスなキャラだったんだな。驚きだ」

女「結局お前はまな板の恋をどうするんですか?」

男「わざとなのか誤字なのか判断に迷うが、まあ、それはいい
  どうだろう、お前みたいな奴は嫌いじゃない。色々な意味で」

女「じゃあ手を繋ぐのか?人目を気にせずスキップまでしちゃうのか?」

男「展開が急すぎる。まずは友達から始めないか?お前さえ良ければだが」

女「ともだち、ち、ち……?」

男「どうした?」

女「私、ち○こ付いてないんだが、なんでだ?」

男「いや、付いてたら困るだろ。俺もお前も」

女「お前!私!友達?」

男「うん、とりあえず」

女「私!お前!友達?」

男「うん、そう」

女「あー……引き分けか?」

男「よくわからんが、むしろ延長線じゃないだろうか?」

女「ビクトリーゴォォォォォォォォォォォォルゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

男「だからそれは気が早いってば」

女「あ……あ?」

男「俺がお前を好きになって、その時お前も俺のことを好きなままで初めてそうなるんだろ?」

女「満塁さよなら逆転ランニングホォォォォォォォォムラァァァァン!!」

男「だから落ち着けと」

男「というわけで今日は帰っていいか?
  明日から一緒に昼飯とか食おうぜ」

女「い、一緒に還らないのか?土とかに」

男「土に還るのは数十年後の予定だが、なんとなく区切りとして明日からじゃ駄目か?」

女「駄目って言うなぁぁぁぁぁ!やる前から諦めたらそこで終わりだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

男「そうか、そうだな。じゃあ、明日からは一緒に帰ろう」

女「おぉぅ……」

男「わかってくれたか」

男「……早まったかな」

妹「どうしました兄さん?食事中に考え事とは珍しいですね」

男「あー、いや、今日学校で告白されてな」

妹「……なんですと?」

母「まあまあ、男ちゃんってモテるのね!」

父「私も若い頃にはモテモテだったからな。男もそれはモテモテだろう」

男「いや、そういうのはいい。別に俺は普段モテてない。告白されたのも初めてだ
  第一、不特定多数にモテてもまったく意味がないだろうに」

母「さすが男ちゃんね!」

男「まあ、今回のは動機もわからなければ、相手のこともよくわからないわけだが」

妹「そ、それで兄さんはなんと返事を?」

男「あー、なんか面白そうだから、とりあえず友達から始めることにしたんだが……」

母「まあまあ、じゃあ今度うちにも連れてきなさいな。母さん、どんな子か見てみたいわ!」

男「そうだよな、そういう社会的な問題が今後発生しそうなんだよな……」

家族「??」

男「ちーっす」

隣のクラスの雌「んー、隣のクラスの男くんじゃない、どうしたの?」

男「いや、女いるか?」

雌「うん、いるけど……女ちゃんに用事って珍しいね。そういう人、初めてかも」

男「あいつ、やっぱりクラスでも全然喋らないのか?」

雌「うん、こっちの言うことに頷いたり首振ったりして反応してくれるから
  特に困らないけどね。大人しい子だし、小さくて可愛いしね」

男(……あの実体を知るのは今のところ俺だけなのか?)

雌「おーい女ちゃん、隣のクラスの男くんが来てるよー」

女「……(コクン」

男「おいっす」

女「……」

男「お、おい、袖を引っ張るなって」

雌「あらあら、女ちゃん、なんだか顔真っ赤ね」

女「うぉまえはぁぁぁぁぁぁ!私を殺す気かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
  私の静かな学校生活を壊滅に陥れて何を得る気だぁぁぁぁぁぁ!?」

男「すまん、配慮が足りなかったことは謝る」

女「……もうしないか?羞恥プレイを強制ないしは強行しないか?」

男「ああ、しない。次からはもっとこっそり呼び出してもらう」

女「日陰ですか?私は日陰の女か?」

男「どうしろというんだお前は」

女「あ、アンビバレント私!」

男「なるほど、わからなくもない」

女「……うぉまえ、私のことがわかるのか?わかりすぎて愛しくなるのか?」

男「わかりすぎるってことはないが、なぜか保護欲のようなものが芽生えつつある」

女「新事実!幸せの青い鳥は籠の中の鳥だったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

男「さすがにそれは何が言いたいのかわからん」

女「サ、サンジェルマン伯爵食うか?」

男「サンドゥイッチのことなんだろうな、多分」

女「そ、そうとも言うかもしれない。カモシカ肉は入ってないですが」

男「入ってたら怖いわけだが。じゃあ、俺の弁当もつまむか?少し交換しようぜ」

女「ス、スワッピングは高度すぎるですよ?」

男「うん、そういうことじゃないよな。弁当の中身を少し交換するだけだな」

女「おぉぅ……新しい」

男「物々交換が新しいとなると、貨幣制度とかどうなるんだ?」

女「……2001年宇宙の旅?」

男「うん、もう2001年は過ぎてるよな」

女「……おぉぅ?」

男「待て、お前は今が何年かわかってるのか?」

女「馬鹿にするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!皇紀2669に決まっているぅぅぅぅぅぅぅ!」

男「なんで皇紀なんだよ、あってるのかどうかわからん」

すげえ、Lでも小文字打てるんだ!凄いねIT!IT関係ないけど!

女「ごちそうさまでしたよ。地球の皆さんありがとう。毎日美味しく頂いています」

男「清々しいくらい正直だな」

女「お、オージーに狙われますか?」

男「クジラとかイルカ食べてないなら平気じゃないか?」

女「おぉぅ……お前、賢いのか?インテリゲンチャなのか?」

男「残念ながら違うようだ」

女「……」

男「なんだ、なぜ慰めるように俺の頭を撫でる?」

女「うぉれは馬鹿でもうぉまえが好きだぞ?」

男「待て、俺はインテリではないが、べつに馬鹿でもない」

女「うぉぅ……マッハ合点だったか?誤射で済んだら戦争は起きないか?」

男「いや、ツッコミを入れただけだ。戦争とかにはならないぞ、この程度では」

女「男は度量?女は貧乳?」

男「前者はともかく、後者は好みが分かれるところだな。俺は好きだが」

男「くくく…お前の素性を明かされたくなかったら大人しくするんだな」

友「なー、男?」

男「なんだ」

友「お前、さっきの昼休みどこ行ってたんだ?」

男「ああ、ちょっと他のクラスの奴と飯食ってた」

友「へえ、珍しいこともあるもんだな」

男「多分、明日からもそうなると思う。すまんが仲間にもそう言っといてくれ」

友「……彼女か?彼女ができたのか?」

男「いや、友達だよ。最近友達になったばかりだから、お互いのことを色々と知りたくてな」

友「ふーん、まあいいや、頑張れよ。上手く行ったら紹介しろよ?」

男「可能なら善処する」

友「なんだ?政治家みたいな返事だな」

男「対象も未来も今のところ不確定すぎるんだ。予想が不可能に近い」

男「お待たせ」

女「待ってない!ちっとも待ってなんかないぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

男「そ、そうか。なら良かった。約束通り、一緒に帰ろう」

女「おぉぅ……」

男「それ便利だな。イントネーションの違いで驚きなのか肯定なのか判別できる」

女「私言語は利便性高いか?エスペラント語を越えて銀河系言語に到達しましたか?」

男「よくわからんが、俺に通じれば今のところ困らないんじゃないか?」

女「おぉぅ……」

男「ああ、そういえば色々と聞きたいことがあるんだが、どっかに寄っていかないか?」

女「制服でホテルは駄目だろぉぉぉぉぉぉぉ!国家権力に抹殺されるからぁぁぁぁぁぁぁ!」

男「違うよな、こういう時は喫茶店とかファーストフードとかだよな」

女「おぉぅ……」

男「納得してくれたか」

男「さて、困ったことが判明した」

女「……(コクン」

男「お前、他に人がいると喋れなくなるんだな。学校に限らず」

女「……(コクコク」

男「ふむ、しかし公園とかじゃ熱いしなあ……」

女「……」

男「なんだ、自分を指差して……ああ、自分の家に来いって?」

女「……(コクコク」

男「うーん、でもいきなり男の友達なんか連れ帰って平気なのか?」

女「……(コクコク」

男「ふむ、じゃあそうしようか。聞きたいことの一部がそれで端折れるし」

女「??」

女「うぉれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!帰りましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

祖父「おお、おかえり女……ふむ?」

男「あ、初めまして。俺、女さんの学校の友達で、男と言います」

祖父「ほうほう、ほうほうほうほう」

男「な、なんですか?」

祖父「いや、この子が友達を家に連れてくるなんて初めてのことだったからね……ふむ」

女「お茶ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!入れるから上がれぇぇぇぇぇぇ!!」

男「えっと……」

祖父「いやいや、遠慮なんてしなくていい、上がりなさい。歓迎するよ」

男「は、はあ、ではお邪魔します……」

女「うぉまえは邪魔じゃないのに……いらない子なんかじゃないのに……」

男「うん、わかってる。そういうつもりで言ってるわけじゃないんだ」

祖父(……会話が成立している)

女「そ、そ、蕎麦ですが。い、粋に食べろ」

男「粗茶にかけてるとかでなく、本当に蕎麦なのな」

女「お、お、お茶もある。あ、ありすぎて泳げるかもしれない」

男「ありがとう。でもそんな大量には要らないよな」

女「ほ、程々を知れと言うことですか?発育不良に恋愛なんかまだ早いと?分を知れと?」

男「そういうことじゃないな、お茶の量に限った話だな」

女「おぉぅ……」

祖父(会話が成立するだけでなく、教育もできるとは……)

祖父「この男なら・・・!」

そして濃厚なホモ展開へ

男「突然お邪魔してしまってすいません。夕飯までご馳走になって……」

女「うぉ、うぉれが呼んだ。じゃ、邪魔じゃない」

祖父「うんうん、遠慮しないでくれたまえ」

男「はい、ありがとうございます」

女「うぉれ、うぉれの部屋に来い。来ても輝けないかもしれないですが……」

男「うん、大丈夫だ。別に俺は輝きたいとか思ってないから」

女「一番星を目指してないのか?夜鷹の星は悲しいか?」

男「うん、別に目指してないけど、夜鷹の星は悲しいな」

祖父「後で珈琲を持っていくよ、女は何か見せたいものがあるようだ、行ってあげてくれないかね?」

男「はあ、わかりました」

女「うぅーふぅーうぅーふぅー」

男「待て、袖を引っ張るなと。つか不思議な鼻歌だな。いや、鼻歌と言うか、吐息歌か?」

女「ど、どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」

男「おお、凄いな、全部お前が描いたのか?」

女「絵は好きですか?大好きですよ?」

男「そうか、絵が好きなんだな。俺も好きだぞ、自分じゃ描くのは下手だけどって、あれ、これ?」

女「うぉまえ!うぉれが描いた!」

男「へー、凄いな。つか、これはあれか、去年、学校に犬が迷い込んできた時のか
  この犬覚えてるよ、飼い主が上級生にいて、付いてきちゃったんだよな
  最初に俺が見つけて、少し遊んだんだ。可愛かったな」

女「ま、前に、見た。うぉれは家政婦ではないけど、見てしまいました」

男「悪いことをしたわけじゃないよな。でも、そうか、そんな時から俺のことを?」

女「ち、違う。こ、この日、この時、この場所で」

男「ん?この時に俺のことを知ったのか?」

女「は、は、恥ずかしながら惚れてしまいましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

男「おおう、突然来るとさすがにびびるな」

女「こ、怖いか?うぉまえ、うぉれ、怖いのか……?」

男「いや、単純に大音量にびびるだけだ、大丈夫だぞ」

女「うぉ、うぉまえ、犬と喋ってたですが?犬語を解するですが?」

男「いや、犬語がわかるとかじゃないけど、なんとなくか?
  たぶん、人間の勝手な解釈の押しつけなんだろうけどな」

女「ち、違う。うぉまえ、あの犬と、い、い、い、医者は何処ですか?」

男「意思の疎通か?」

女「そ、そうとも言うかもしれない。そ、それ、できてた
  子供はまだだが、か、飼い主を追ってきてのわかってたですよ?
  み、みつけてあげたですよ?そ、それ、ぜ、全部言葉にしてたですが?」

男「ああ、それはなんか犬が嬉しそうな反面、なんか探してるみたいだったからなあ
  うーん、動物と意思の疎通か……どうなんだろうな、犬くらい人間に身近で
  その感情表現が理解されている動物なら、多くの人がそれなりにはできるんじゃないか?
  怒ってる時とか悲しそうな時とか、嬉しそうな時や期待してる時とか、だいたいわかるもんな」

女「そ、そういう腿肉は好きか?モノリスですか?」

男「うん、多分そういうものだろ。犬好きな人とか、本当に犬と心を通わせてる感じあるもんな
  子供の可愛がり方とか、ファッションで飼ってるだけの人はまた違う気がするけど」

女「おぉぅ……」

展開読めた
さる防止して寝る

男「ああ、もしかして話ができると思って俺のことを?」

女「そ、それもある。あ、ありがとう」

男「ふーむ、怒らないで聞いて欲しいんだが、それって誤解じゃないか?
  俺より犬と意思の疎通ができる人なんていっぱいいるし、犬とお前はまた違うだろ」

女「そ、それも。桃。か、風邪の時、買ってもらえる」

男「ああ、他にも理由があるのか」

女「き、きっかけ。そ、それ以来、うぉれはうぉまえを、を、を……ストーキング?」

男「ちょっと違うだろ。観察とかじゃないのか?」

女「そ、それ。見てた。見ちゃいました」

男「ふーむ」

女「うぉまえ、面白い。いい年して犬と笑顔で喋れる。気取りがない。優しい」

男「う、うーん、自分ではあんまりそう思えないんだが、お前にはそう見えたんだな?」

女「おぉぅ……惚れた」

男「うーん、お前のイメージする俺と、俺のイメージする俺に差異がある気がしなくもない」

祖父「……言葉にするからですな」

男「おおう!?」

祖父「ああ、驚かせてしまってすまないね。珈琲を持って来たんだが
   話が弾んでいたので入るタイミングを見計らっていたんだ」

女「じ、じじいは見たか?壁にじいさんがいて、障子にじいさんがいるのか?でも障子ないぞ?」

祖父「すまないね、盗み聞きをするつもりはなかったんだが」

男「いえ……でも言葉にするからというのはどういうことですか?」

祖父「ふむ、字面通りさ。この子が言葉にしたのは君で、君が言葉にするのも君だ
    元々は同じ一つのものを、違う人間が言葉にするから差異が出てしまう」

男「でも、言葉にする前に、それぞれの感じ方、捉え方に違いがありますよね?」

祖父「それはそうだ」

男「だったら、言葉にする以前の問題な気がするのですが」

祖父「ほう、なかなか論理的な思考力を持っているね」

女「インテリか?やっぱりインテリゲンチャなのか?」

祖父「知識ではないよ、知恵の問題さ。高校生にしてはなかなか聡明だ」

女「孔明!逃げろじじい!うぉまえも逃げろ!罠だ!」

男「違うよな、そういうことじゃないよな、話を戻していいか?」

女「おぉぅ」

祖父「確かに感じ方の違いは、表現としての言葉に先駆けて存在する。それは君が正しい」

男「はあ」

祖父「だが、互いに感じたイメージをぶつけるフィールドとして、言語空間が存在する
    単純な感情は表情に表れるし、それを互いに読み取ることができるがね」

女「い、犬の人だ。たまに食われる時代や場所がある」

祖父「そう、犬相手なら言葉はいらないね。単純な感情や欲求なら態度だけでやり取りが可能だ」

男「なるほど、人間が互いに抱くイメージの詳細や、感情の理由は言葉でしかやり取りできないわけですね」

祖父「そう、先ほどの君とこの子のやりとりのようなレベルでのイメージの交換
    意志の交感は言葉がなければ難しい。だから言葉の規格性が問題になる」

女「英語はわからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!日本に来たら日本語喋れぇぇぇぇぇ!!」

祖父「あまりに規格が違い過ぎるとこうなるね。これが大げさだとしても別の言語扱いになる」

男「なるほど、ちょっと難しくなってきましたが、わかる気がします」

祖父「で、見てのとおりこの子の言語規格は、若干の違いがある
    専門性というレベルではなく、我々が普通に、日常的に使っているレベルでだ」

女「時々ドキドキ困る」

男「えっと、確かに色々と逸脱気味ですが、だいたいわかりませんか?」

祖父「文字にして、抑揚やその場の空気を消してしまえばそうかもしれないね
    でも、実際にこの子が自由に喋りかけると、相手は大体嫌な顔をするね」

女「私はうちう人ですか?皆はちきう人ですか?外人などいないですか?」

男「あー、そうかもしれません。俺も最初はちょっと困りました」

女「アウトォォォォォォォォォォォォォ!青春とか幻想でしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

男「落ち着け、最初はと言っている。すぐ慣れただろ」

祖父「私みたいな身内や、仕事柄慣れている人はそうやってすぐ適応できるのだがね
    もしかして、君は身内に何か障害を持った人がいたりするかね?」

男「いえ、特には」

祖父「ふむ、それはなかなか珍しいことだ。きっとこの子も君を観察しているうちに
    君のそういうところを感じ取ったんじゃないかな」

女「うぉれはハンタァァァァァァァァァ!!海賊王になるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

男「なんか混ざってるぞ」

祖父「まあ、無理にとは言わないし、そもそも私は何もお願いをしないよ」

男「え?」

祖父「私の口からこの子と仲良くしてやってくれなんて、そんな傲慢なことは言わない」

女「私は人間ですか?思春期ですか?胸はないですか?」

祖父「そう、この子は一人の人間だし、もう小さい子供でもない
    君がこの子とどう付き合って行くのかは君達の問題だし、それぞれの自由だ」

男「なるほど……」

祖父「だから君は自由にしなさい。必要以上に責任を感じることはない
   普通に、男として最低限の常識さえ持ってくれれば良い」

男「わかりました。って言うか最初から特に意識はしてないです」

女「うぉれは意識しているぞぉぉぉぉぉぉ!顔真っ赤になるぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」

男「そういう意味じゃなくてだな。まあ、なんか保護欲はそそられますけど
  なんか、妹の小さい頃を思い出します」

女「い、妹いるのか?それ、美味しいか?」

男「残念、人肉を食べる習慣はないぞ」

女「そうか、安心したぞ。うぉれも食べたくない」

祖父「……とにかく、また来る気になったらうつでも来たまえ。私は歓迎するよ」

男「言葉……か」

妹「言葉がどうかしましたか兄さん?」

男「うん、考え事をしている時にいきなり後ろから声をかけるのはやめような
  兄ちゃんの心臓が止まったら大変だから」

妹「ごめんなさい、でも、夕食を外で食べてくるなんて珍しいし、どうしたのかなーって」

男「ああ、昨日言ってた子の家に行ってた」

妹「な゛」

男「なあ、お前さ、いきなり外人に英語でベラベラ話しかけられたらどう思う?」

妹「う、うーん、そうですね、大きい男の人だとちょっと怖いですね」

男「「ああ、そうか。じゃあ、自分の好みのイケメンに片言の日本語で口説かれたらどうだ?」

妹「……どうでしょう。片言だとちょっと怖いかもしれないです」

男「そうか。女の子は怖いって感情が強いのかな?」

妹「私の例だけで女の子全体を見ちゃ駄目だと思いますけど、男の人よりはそうかもしれません」

男「……うーん」

女(どうしたんでしょう兄さん……)

男(適切な例が浮かばないなあ……)

友「おーっす」

男「……おいっす」

友「なんだ、眠そうだな?」

男「あー、なんか考え事してたらなかなか眠れなくてな」

友「へえ、思春期か?」

男「まあ、そんなことかねえ。ところでさ、お前さ、犬と喋れるか?」

友「残念、俺は猫派だ」

男「ああ、じゃあ猫でいいや。喋れるか?」

友「喋るってわけでもないが、家の猫ならだいたい何を言ってるかわかるぞ
  餌くれー、なでなでしろー、構えー、遊べー、ほっとけー、うざいー、とかなら」

男「ふむ、じゃあ子供はどうだ。こう、まだちゃんと喋れない子供」

友「ああ、兄さんの子供がそんな感じだな。可愛いけど、時々困るよな
  何を言ってるかわからない時とか、こっちがどう伝えればわかってもらえるか悩む時とか」

男「ふーむ」

友「なんなんだ?本当に大丈夫か?」

男「いや、すまん、大丈夫だ。参考になった」

女「昼だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!太陽がうぉれを照らしてる!うぉまえも照らしてる!」

男「そうだな、サンシャインだな」

女「……な、なんかテンション低いのか?うぉれのせいか?」

男「いや、違うぞ。いや、違わないんだが、なんというか、意識してみると色々わからなくてな」

女「昨晩の過ちか?」

男「何も過ちは犯していないが、そうだな、昨日お前のじいさんと話して、なんか色々思うことがあってさ」

女「……き、嫌いになったか?鷹ですか?」

男「それは本当に違うぞ。そういうことじゃなくてさ……ああ、じゃあ、お前はなんで俺を好きになったんだ?」

女「昨晩の過ちをもう一度?」

男「うん、今度は口を挟まないから、よければ教えてくれないか?
  俺達、まだこうやって話すようになってまだ何日も経ってないし、お前のことをもっと知りたいんだ」

女「あー、あー、照り付けてるぞ、太陽が」

男「す、すまん、改まって言うとさすがに照れるか」

女「サンシャインのパートナーは阿修羅マンだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

男「追い討ちだったか、本当にすまん」

女「うぉ、うぉまえ、ふ、普通だ。ふ、普通に大地の恵みっぽい」

男「……ふむ」

女「お前、犬と喋ることを変だと思わない。私も思わない」

男「うん」

女「す、素直。か、固くない。ね、粘土好きか?不思議な踊りは困るです」

男「ふむ」

女「なんか……あ、あ、温かい。気化はしませんが」

男「そこまでいくと熱いだし、困るな」

女「そ、そう。困る。で、でもお前は、な、なんか、困らない。わ、私も困らない」

男「ふーむ」

女「だ、だから、もっと近づきたいと思ったんですぅぅぅぅぅ!!イカロスの翼は溶けるけどぉぉぉ!!」

男「ありがとう、お前が俺をどう思っていたのか少しわかった気がする」

女「届いたか?郵便は届くものなのか?フランスか?イタリアか?」

男「ああ、ちゃんと届いたぞ」

女「ま、ま、マタンゴが表れました」

男「うん、待ってないぞ、大丈夫だ」

女「そ、そうか。でも新興宗教は嘘臭い」

男「そうだな、営利目的の宗教はなんか違うよな」

女「し、信仰は頼るものじゃなくて、つ、貫くものだ」

男「ん、良いこと言うな」

女「おぉぅ?私良い子だ?お前良い子か?」

男「そうだな、俺もお前も良い人間でいられたら本当に良いと思うぞ」

女「おぉぅ……」

女「葛西」

男「?」

女「火災」

男「??」

女「が、が、がががががががが」

男「落ち着け、ゆっくりでいいから」

女「が、が、画材」

男「ああ、絵を描く道具か。買いに行きたいのか?」

女「そう、必要なのです。ガイアが求めているのです。囁くのです」

男「よくわからんが、わかった。いいぞ、寄っていこう」

女「輝け大地!」

男「へー、画材屋って初めてだ。色々あるんだなあ」

女「……(コクコク」

男「ふむ、絵の具も死ぬほど種類があるんだなあ」

女「……(コクコク」

男「喋らないお前もそれはそれで面白いな」

女「……」

男「ああ、大丈夫だぞ。『も』だから。元気なお前も面白い」

女「……(ポッ」

男「言っておくが、面白いと好きは別だからな?」

女「……」

男「すまん、涙目にならないでくれ。でも、適当なこと言うよりいいだろ?」

女「……(コクコク」

男「それにお前が俺に幻滅する可能性もあるし、それもお前の自由だろ?先のことはわからないさ」

女「……」

男「あああ、すまん、泣かせたいわけじゃないんだ……」

男「目当ての物は買えたか?」

女「目も当てられない?」

男「違うぞ、欲しかった物はあったのか聞いてるんだ」

女「おぉぅ、あった、ありました。有史以前から」

男「そうか、古代の壁画とかあるもんな。絵ってそう考えると凄いな」

女「す、凄いです。絵もお前も、や、やっぱり、思った通り魔だった」

男「うん、魔は余計だよな。でも、そうか。俺は嫌じゃないのか」

女「うぉれの三つ目は世界一ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

男「そうか、俺は自分を見る目に自信がないから、ちょっと羨ましい」

女「……泣きたい時は思いっきり投げろ」

男「いや、そこまで悲しいとかじゃないから大丈夫。ありがとうな」

女「うぉぅ」

チャララ~チャララララ~

男「うう……携帯か……休日の朝っぱらから誰だ……」

ピッ

女「起きてるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

男「……はい、起きました。瞬間的に」

女「そ、そうか。き、急激なニューロンの発火は、の、脳に良くないかもしれなくもない」

男「うん、そう思うなら今度からは電話の第一声はもう少し小さな声で頼む」

女「おぉぅ……」

男「へえ、いい公園だな、ここ。木陰といい池といい、ちょっとした避暑地だな」

女「秘書の血文字か?ホーソンの緋文字ですか?」

男「どっちも違うぞ、暑さを避けるのにいい場所だってことだ」

女「こ、高原地帯の少数民族の独立を!」

男「そうだな、中国は酷いよな」

女「絵を、絵を、描きに来ます。来たりします。来ちゃったりすると迷惑ですか?」

男「うんうん、俺のことか公園のことかはわからないが、どっちも大丈夫だぞ」

女「今日はうぉまえを描こうと思います」

男「俺か?モデルやるのか?」

女「……じ、時給800円じゃ安いか?安宿過ぎて初体験は嫌か?」

男「いや、時給はいらないし、モデル初体験は嫌じゃないぞ」

女「そか。そうか。そうですか。ありがとう。ありがたい。蟻が行列を作っています。連れ去られないで」

男「大丈夫だ、蟻に捕食されるほど小さくないからな」

女「それじゃあ描くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

男「うん、描くのはいいけど、声のトーン落としてな」

男「……なあ、喋ってもいいのか?」

女「は、発言の許可を申請……許可が下りました、ど、どうぞ」

男「なあ、お前って絵を描く時、凄く真剣な顔するのな」

女「わ、私は常に全力です。あ、諦めたらそこで試合終了だから」

男「うん、それはわかってる。だけど、何ていうか、絵を描く時の集中力なのかな
  いつもより何割マシで真剣な顔してる。なんかオーラを感じるくらい」

女「絵は、絵は、私の、私の……」

男「うん、ゆっくりでいいぞ」

女「私の……武器だから」

男「ふむ」

女「絵なら、絵なら誰もうぉれに脅えません。普通みたいです。伝わるみたいです」

男「ああ、なるほど。それはそうだな。でも、普通ではないぞ」

女「え……え……駄目ですか?私の夏は終了ですか?」

男「ああ、すまん、そういう意味じゃなくて、普通よりも上手いって意味だ。凄く上手いぞ」

女「インターハイは可能ですか?トップを狙えますか?全国制覇ですか?」

男「俺は素人だけど、絵画にそういう大会があったらきっと狙えるし、できると思うぞ」

祖父「やあ、いらっしゃい」

男「お邪魔します」

女「邪魔じゃない、邪魔じゃない、頂きます、頂きます」

男「ああ、そうだな。頂きますみたいなものだな」

祖父「お茶と珈琲、アイスとホット、どれがいいかね?」

女「紅茶、紅茶。レモン。冷たいの。マンモスを未来に送れるくらい」

祖父「ああ、紅茶がいいのか、わかった。君は?」

男「すいません、じゃあ俺もそれでお願いします」

祖父「わかった、ソファーにでも座って待っててくれ」

男「ありがとうございます」

女「マンモス氷ティーレモン入りは好きですか?」

男「マンモスが入っていると困るけど、アイスレモンティーは好きだぞ」

女「私は!お前が!好きだ!」

男「うん、ありがとう。俺もお前は嫌いじゃないぞ。面白い」

女「ごちそうさまでした。地球の皆さんありがとう。今日も紅茶をありがとう」

男「植物も皆さんの中に入っているんだな」

女「お風呂が私を呼んでいます。呼ばれたので行ってきます」

祖父「ん、まだ沸かしてないからシャワーだけどいいかい?」

女「シャワーの人も好きです。このヌルヌルした何かを退治することが可能な人です」

祖父「そうか、じゃあ行ってきなさい」

男「えっと、じゃあ俺はこのへんで……」

女「え……え……」

祖父「ふむ、この子がシャワーから出てくるまでちょっと私に付き合わないかね?」

男「えっと、じゃあ、はい」

女「ではうぉれは逝ってくるぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」

男「行くのはいいが、逝くのはまずいな」

女「おぉぅ」

祖父「どうだい、また来てくれたところを見ると、あの子が気に入ったかい?」

男「えっと、まだ好きとかそういうのはわかりませんが、面白いと思います」

祖父「そうだね、あの子は面白い。面白いというのは個性だ。それに蓋をしてはいけない」

男「あ、すいません……失礼な場合もありますね、こういう言い方は」

祖父「うん、引け目を感じている場合、面白いという言い方は傷つける場合があるね
    だが、私やあの子はそういう気遣いはいらない。むしろその方が傷つくね
    だから君の自然な在り方で構わないよ。君は君の好きにやりなさい」

男「……はい。おじいさんは俺を聡明だと言ってくれましたが、やっぱり馬鹿です
  あんまり難しいことを考えるのは向いてないみたいです
  だから自由にやります。都合のいい方の言葉だけ貰います」

祖父「はっはっは。そうだ、それでいい」

男「って言うか一緒に居て思ったんですが、あいつなんだか喋ることがあれなだけで
  特に何も問題がない気がするんですが。TPOを弁えているし、勉強も問題ないですし」

祖父「そうだね、特に何か知能の面で障害があるわけではないからね
   器質的な障害は一切ないよ、医学的には」

男「ええ、だから、その、気を使うとか使わないとか、そういうのを考えてもよくわからなくて」

祖父「……そうだね、でも、あの子の両親はそう思えなかったんだろうねえ」

男「え?」

祖父「私や君があの子を思うようには、あの子の両親には思えなかったんだよ」

男「……俺が聞いていい話なんですか?」

祖父「重く考えることはない。どこにでもある、ありふれた家庭の話だ
   あの子は元気に生きている、あの子の両親もここではないが元気に生きている
   交通事故で自分以外の家族を失ったケースの方が客観的にはよほど悲惨さ
   ま、こういうのは当人達の感じ方の問題だから、比較に意味はないんだがね」

男「……確かに」

祖父「あの子の両親は音楽家でね。と言ってもバイオリンとピアノの演奏者なんだが」

男「はい」

祖父「それで当然、娘達にも楽器を教えようと思ったんだね」

男「……達?」

祖父「ああ、あの子には姉がいたんだ。あの子が十歳の時に死んでしまったがね」

男「……」

祖父「これもよくある話さ。あの子の姉はとてもピアノが上手くてね
    十歳になる頃にはその筋では名前の売れた、将来を有望視されるピアニストだったんだ」

祖父「だけど中学校に入ったあたりから伸び悩んでね、自殺してしまったよ
    私は音楽のことはよくわからんが、あまり早い時期に完成してしまったのかもしれないな」

男「……」

祖父「まあ、本当の理由はわからないし、この話には関係ない
    関わりがあるのは、あの子の姉が自殺してから、両親はあの子に音楽家の夢を託したんだなあ
    私は娘に画家の道を強要しなかったのだが、あの子の両親は自分の娘の道を限定したんだねえ」

男(ああ、あいつが絵を描くのはおじいさんの影響だったのか)

祖父「しかしねえ、あの子の両親は言ってはなんだが、あまり賢くない方法であの子を縛った
    『お前は姉さんみたいに失敗しちゃいけない』なんて言葉は子供に言っていい言葉じゃない」

男「……」

祖父「あの子の両親はあまり私の所に顔を出したりしなかったから
   姉妹仲がどうだったのかはわからないが、それにしたって酷い言葉だ」

男「そうですね、そう思います」

祖父「死んだ姉の人生を失敗の一言で片付け、自分もピアノで大成しなければ失敗作の仲間入り
   これでどうにかならない方が変な話だ。案の定、あの子も中学に入ったあたりで参ってしまってね」

男「……」

祖父「精神のバランスが狂ったんだな、言葉は今よりも支離滅裂で、心も明らかに変だったよ、あの頃は」

祖父「それでここからが今に繋がる話なんだが、あの子の両親は
    あの子がそうなった途端、それまでほとんど顔を出さなかった私の所に来た」

男「……どんな理由ですか?」

祖父「娘がおかしくなった、一緒に暮らしていたら自分達までおかしくなってしまう
    こちらで引き取ってくれないか、ってな」

男「……」

祖父「そうだね、責任という概念がないんだろうな
   恥ずかしながら、私の教育も悪かったのかもしれない」

男「いえ、それは……」

祖父「まあ、半分半分だろうな。私も絵のことにかまけて娘を自由にさせすぎた
    私を見て責任という言葉は出てこないだろうさ。妻の死に目にも会えなかった男だ
    私は私で親としても夫としても失格だったんだ。娘を批判できるような人間じゃない」

男「……」

祖父「罪滅ぼしというわけではないが、それで私はあの子を引き取った
    最初は大変だったがね、幸い私の絵のファンに精神科医がいてね
    その人のアドバイスや手助けもあって、なんとか娘は心のバランスは取り戻したんだ」

男「ただ、言葉にだけ……」

祖父「そう、言葉にだけ少しだけズレが残った。だが、私はそれを残念だとは思わない
    これも比べることに意味はないが、あの子は私達と違う領域にいるわけじゃない
    もっと酷いことだって起こりえたんだよ。可能性を持ち出した比較にも意味はないがね」

男「えっと……家庭の事情については俺からは何も言えません
  でも、話してくれてありがとうございました」

祖父「最初に言ったが、重く考えんでくれよ
    これはどこにでもある、珍しくもない話だ。不幸ですらない」

男「はい、この話を聞いても、大変だったのかなとは考えますが
  憐れむ気にはなりません。あいつが俺にそう思って欲しいなら話は別ですが」

祖父「そうだ。大事なのはそこなんだ。人は人を勝手に憐れんではいけない
    人の人生を成功だ、失敗だと勝手に断ずることが酷いことであるように
    勝手な同情や憐憫の押し付けも同じように酷いことだとわかってくれればそれでいい」

男「……さっきも言いましたけど、俺、馬鹿ですから
  あいつに気を使うとか、そもそも無理です」

祖父「……そうだね、お礼を言いたいが、これは言うべきではないんだろうな」

男「はい、言うのは自由ですが、俺にはぴんと来ませんね。好きにやっているだけですから」

祖父「……ありがとう」

女「殺す気かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

男「シャワーでのぼせるのは一種の特技だな」

女「熱くないお湯なんてお湯ではありません。それはぬるま湯です」

男「うん、珍しく正論だな」

女「お前も入るか?シャワー気持ちいいぞ?井戸の底は暗いぞ?」

男「いや、俺は帰ってから入るよ。お前も夏だからって風邪引くなよ?」

女「パジャマ姿で出歩かない。国家権力に捕まる。捕まるとアカだって言われて殴られます」

男「いつの時代のいつの話だ」

女「そうか。そうですか。気を放ちながら帰れですか?」

男「うん、俺は男だし、大丈夫だぞ。また明日、学校でな」

祖父「気をつけて帰りたまえ」

男「はい、レモンティーご馳走様でした」

女「こんにちは明日が?」

男「ああ、また明日な」

男「ふーむ」

妹「どうしたの兄さん?また食事中に考え事?」

男「ああ、すまん。母さん、このハンバーグ美味しいね」

母「でしょう?タイムセールでいつもよりちょっと美味しいひき肉買っちゃったのよ」

父「母さんの料理の腕が良いからだよ」

母「まあ、お父さんったら」

妹「もー、パパもママも倦怠期とかないのかしら?お腹一杯になっちゃうわ」

兄「……」

祖父『重く考えんでくれよ。これはどこにでもある、珍しくもない話だ。不幸ですらない』

兄(……勝手に憐れんではいけない)

祖父『そうだ。大事なのはそこなんだ。人は人を勝手に憐れんではいけない
    人の人生を成功だ、失敗だと勝手に断ずることが酷いことであるように
    勝手な同情や憐憫の押し付けも同じように酷いことだとわかってくれればそれでいい』

兄(……あの時はああ言いましたけど、なんか、難しいです
  憐れんでいるわけじゃない。それは事実なんです。事実なんですが……)

祖父『……そうだね、お礼を言いたいが、これは言うべきではないんだろうな』

兄(……)

祖父『……ありがとう』

兄(……そうか!)

女「太陽が黄色かったから!眩しかったからついかっとなった!」

男「わかった。わかったから落ち着いて食べような」

女「テンションを下げると死ぬ。何かが失われた」

男「マグロみたいだな」

女「トロ?井上?」

男「井上さんは知らないが、マグロは泳いでないと死ぬって俗説があるんだ
  真偽のほどは知らないが」

女「おぉぅ……ランナー……」

男「なあ、そういえばこの前さ、公園で描いた絵あるだろ?
  あれって続き描きにいかないでいいのか?」

女「スケッチは終焉を迎え、世界は色取り取りの祝福を絶賛募集中!」

男「うーんと、またモデルやらないで描けるのか?」

女「バーゲンセール状態のハッピーエンドで約束される明るい未来なみに安心が約束された!」

男「ふーん、そういうものか」

男「ここじゃ喋れないだろ?良かったのか?」

女「……(コクコク」

男「そんなにここのアイス食べたかったのか?」

女「……(コクコク」

男「じゃあ、注文してやる。バニラがいいのか?」

女「……(フルフル」

男「ストロベリー?」

女「……(フルフル」

男「チョコミントか?」

女「……(コクコク」

男「そうか、じゃあ注文してくる。席とっといてくれ」

女「……」

男「うん、すぐ戻るからハンカチは振らないでいいぞ」

女「……(コクコク」

女「うぉれは気がついたぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」

男「……何にだ」

女「一部では犯人が明らかにならないことをぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

男「おそらく何かの壮絶なネタバレなんだろうが、元の話を知らないぞ俺は」

女「続編を希望!お前!書け!」

男「深夜に携帯で叩き起こして言うことがそれか」

女「すまん?謝罪と賠償を請求する?」

男「そんな迷惑な国みたいなことはしないが、本を読み終わった感動を電話で伝えるのは
  時間を考えてからにしような」

女「おぉぅ」

男「……ふと思うんだが、お前こういうのわざとやってないか?」

女「……(フルフル」

男「ほんとか!?電話越しに首振ってるみたいだけど、お前常識は持ってるだろ!?」

女「……うぉぅ」

男「わかってくれればいい。別に怒ってない。ツッコミたかっただけだ」

母「そういえば男ちゃん?」

男「なに?母さん」

母「前に言っていた、男ちゃんに告白した子とはその後どうなったの?」

妹「……(ピクッ」

男「ああ、相変わらず友達として付き合ってるよ。最初の印象通り、面白い奴なんだ」

父「可愛いか?」

娘「……(ピクピクッ」

男「えっと、うん、まあ」

妹「……(ピキッ」

友「なあ、男?」

男「なんだ?」

友「この前さ、隣のクラスの雌が、お前を見たって言ってたぞ」

男「ふむ、どこで?」

友「駅前のアイスクリームショップで」

男「……ふむ、それで?」

友「女ちゃんと一緒だったって」

男「……そうか」

友「お前が言ってた友達になった子って女ちゃんのことだったんだな」

男「ああ、そうだ」

友「へー、あんな大人しい子をよく口説き落としたなあ」

男「えっと、いや、まだ友達だぞ?」

友「ふーん、そうなのか。まあ、頑張れよ」

男「お前こそ隣のクラスの雌ちゃんと交流があるなんて初耳なわけだが」

友「……藪蛇だったか」

男「……」

雌「あれ?男くん?」

男「ん、ああ雌ちゃん。奇遇だね、今帰り?」

雌「男くんこそ一人で帰るの珍しいね、女ちゃんは?」

男「ああ、あいつは今日ちょっと家で用事があるからって先に帰った」

雌「ふーん、それでファーストフードですか」

男「たまに食べたくならないか、こういうの」

雌「そだねー、ラーメンとかもそうだよね。って、一緒いい?」

男「ああ、いいよ」

雌「へっへー、実は色々と聞きたいことがありましてー」

男「友の話しようぜ!」

雌「げっ」

男「二人揃って迂闊だな」

雌「あー、友の馬鹿め……」

男「でも、丁度良かった、聞いてみたいことがあったんだ」

雌「なんで付き合っていることを隠すのかって?」

男「ああ」

雌「いや、隠しているわけじゃないんだけど、大っぴらに言って周ることでもないかなーって」

男「あー、それはそうか」

雌「男くんこそ、最初はあんなに堂々とこっちに来たのに、最近はご無沙汰じゃない?どして?」

男「いや、携帯あるしな。メールで」

雌「あ、そっか。そりゃそうだよね」

男「あいつ、恥ずかしがるしな……つーかさ、別に俺と女は付き合っているわけじゃないんだが」

雌「はあ?」

男「いや、マジで」

雌「え?どゆこと?遊んでるとか?」

男「違う。人聞きの悪いことを言うな」

雌「えっと、でも女ちゃんの様子見る限り、完璧に気があるよね?」

男「あー、まあ、それはそうなんだが……」

雌「詳しい話を聞かせてもらいましょうか」

雌「極悪人」

男「え?マジで?」

雌「そうでなきゃ、無神経」

男「……そ、そうなのか?」

雌「だってまだ返事してないんでしょ?告白されてからもうどれだけ経つの?」

男「いや、まだ一ヶ月くらい……だぞ?」

雌「待たされる方の気持ち、考えたら長いと思うんだけど」

男「あー、まあ、普通なら……そうか?」

雌「女ちゃんが普通ではないと?あんな可憐で大人しい子が?」

男「いや、そういう意味ではなくて、なんつーか、友達として上手くやれてる気がしてたんだが」

雌「わかってない。女心を全然わかってない」

男「……」

雌「そういう中途半端な状態が一番辛いに決まってるじゃない
  駄目なら駄目で、すぱっと振ってくれた方がさっさと次にいけるでしょ?
  あー、でも女ちゃんの場合、あんまりきつい振られ方するときつそうね……
  でも、やっぱり白黒はちゃんとするべきよ!」

男「う、う~ん、でも嫌いなわけじゃないんだよ。一緒にいて面白いし」

雌「なら尚更じゃない。少なくとも好意はあるんでしょ?
  なら付き合いなさい。区切りをちゃんとつけてあげるべきよ」

男「区切り……か」

雌「そう、別に付き合ったから一生責任持たなきゃいけないとか、そういうことじゃないでしょ?」

男「……そうだな、ありがとう雌ちゃん。言われるまで全然気がつかなかった」

雌「そうそう、女ちゃん大人しいんだから、男くんが主導権握ってあげないと駄目よ?」

男「……そうだな、そうだよな」

男「そういうわけで、すまなかった」

女「おぉぅ」

男「あれだ、お前の想いと同じものかどうかはわからないし
  正直まだ愛とか恋とかはよくわからないけど、お前のことは好きだ」

女「……うぉぅ」

男「だから、相変わらずスローペースだけど、付き合おう。お前さえ良ければ、だけど」

女「……こ」

男「?」

女「こんにちわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!元気ですか?生きてますか?春ですか?夏ですよ?」

男「そうか、そう来るよな」

女「周回遅れの大逆転!超時空エンジンの開発は終了していたのですか!でしたね!」

男「うん、さっぱりわからないぞ」

女「私!お前!好きか!」

男「そうだな、ありがとう」

女「お前!私!好きか!」

男「若干と言うか、温度差はあるが、好きだぞ。恋とか愛とかはよくわからんが」

男(これで……良かったんだよな?)

女『こんにちわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!元気ですか?生きてますか?春ですか?夏ですよ?』

男(あいつ、嬉しそうだったもんな)

女『私!お前!好きか!』

男(最初からテンション変わらないんだなあ)

女『お前!私!好きか!』

男(好き……だと思う。好きって言っていいんだと思う……)

男「そんなわけで、付き合うことになりました」

女「……(ポッ」

雌「女ちゃん、良かったねー!でも男くん鈍感だから、苦労するよー?」

女「……(フルフル」

男「いや、でも鈍感なのは本当だぞ?」

友「……男は尻に敷かれそうになくていいなあ」

雌「何かしら~?何か不満があるのかしら~?」

友「いえ、わたくし何も不満はございません!今日も雌さんは奇麗ですね!」

男「……友」

友「すまん、そんな悲しそうな目で俺を見ないでくれ……」

祖父「ふむ、いや、私からは特に何もというか、君が選んだことだ
   君とこの子が良いなら、それが何よりだよ」

女「じじい、ありがとう?蟻の行列に気をつけろよ?」

男「はい、こいつはハイスピードみたいなんで
  俺のスローペースと齟齬が出るかもしれませんが」

祖父「いや、この子の場合、君を密かに想う時間が長かったからだろう
   君の想いが強くなったのならば、すぐに追いつくさ。そういうものだよ」

女「か、か、か……あれ?ないですが?」

男「読んだことはないが、抜かせないと言いたいんだろうな
  それは頭文字と書いてイニシャルと読ませるんだ。いで探そうな」

女「おぉぅ……」

仁Dのことか

女「ウィィィィィィィン!」

男「まて、手を繋ぐのにその効果音が必要なのか?」

女「ドッキング!手と手で触れ合うエイリアンとの奇跡!自転車は飛びません!」

男「よくわからんが、興奮していることはわかった
  俺もこの年になって女の子と手を繋ぐのは初めてだから緊張してるぞ」

女「踊るぞぉぉぉぉぉぉぉ!!愛のフォークダンスを一緒に踊れぇぇぇぇぇぇぇ!!」

男「フォークダンスなのか……」

女「が、がっかりか?も、もっと暗く悲しく激しいのが良かったか?」

男「いや、それは余計に嫌だ」

男「……まさか、これを一緒に食べるのか?」

女「……(コクコク」

男「カップル用ジャンボパフェ……スプーンは一つだと……?」

女「……(アーン」

男「うぐっ!?」

女「……?」

男「な、なんだこの感情は?可愛いという気持ちと共に、何か耐え難い感情が……」

女「……(アーン」

男「ごめんなさい、俺には無理です。スプーンをもう一つ頼ませてください」

女「……(ショボーン」

男「あああ、わかった、わかったから落ち込むな、食べる、食べるから……」

女「……(アーン」

男「くっ!ま、負けるか!」

女「うぅーふふぅー」

男「楽しそうだな、ボート乗るの好きなのか?」

女「お、お前、い、一緒なら、な、なんでも、嬉しい。椎名」

男「りんご?」

女「へ、へきる」

男「誰だそれ?」

女「……(フルフル」

男「ん?なんかまずいこと言ったか俺?」

妹「ところで兄さん、例の人とはどうなったのですか?」

男「ああ、今付き合ってる」

妹「な゛」

父「ほほう」

母「まあまあ、じゃあ是非とも家に招待しなくちゃいけないわね!」

父「楽しみだな!」

母「その子、何か好きな食べ物とかお菓子とかあるかしら?
  母さん腕によりをかけて頑張っちゃうわ!」

男(さて、来るべき時が来たわけだが……)

男「さて、お前と出会った時から懸念していた最大のミッションが発生したわけだが」

女「……うぉぅ?」

男「お前を俺の家族に紹介することになった」

女「おぉぅ!?」

男「だが、お前にもわかるように、喋らずに済ますことは難しい」

女「無理か?無理が通れば道理は潰れて死なないか?」

男「残念だが、一言も口を聞かないということは無理だ」

女「む、無情だな。人間五十年間も泣き叫び続ける」

男「だが、この際だからぶっちゃけるが当然お前が喋るのもアウトだ
  自慢じゃないが、あの人達は絶対にこういうことは理解しない
  引きつった顔が目に浮かぶ。そして俺とお前の交際は反対される」

女「……うぉぅ」

男「すまん、このことでは俺も随分と迷った。だが、避けては通れない道だ」

女「……」

男「大丈夫、何があっても俺はお前の味方だ。付き合うと決めたからには全力を尽くす
  だからお前も一緒にこのミッションをいかにクリアするか考えよう」

女「さ、三人集まれば豚に真珠」

祖父「……ふむ、それで私に相談かね」

男「すいません……何も浮かびませんでした……このままでは……」

女「うぉぅ……」

祖父「ふーむ、まあ、家族のことだ、君が言うならそうなのだろうねえ」

男「すいません、時間をかけてゆっくり伝えていくべきかとも思ったのですが……」

祖父「まあ、決まったことは仕方がない。遅いか早いかの問題なのだろう?」

男「はい……俺はどうすれば……」

祖父「ふーむ……」

女「じじい、む、無駄に年だけ捕食してないところを頼もう?」

すまん、ちょっと休憩を……一服しながら読み返して整理しないと頭が……

サンクス。もう少しで終わりか区切りかどっちかがつきそう。再開

祖父「では、今度の日曜日にこの子を家に招待することになっているんだね?」

男「はい、あと四日です……」

祖父「ふむ、時間はあるな」

女「たいむあふたーたいむ?すとっぷざたーいむ?」

祖父「よし、では私とこの子は準備に入ろう。明日明後日は学校も休ませる」

男「ええ?」

祖父「君は土曜日にまた来なさい。大丈夫、必ずなんとかするから」

男「は、はあ……」

女「白亜紀よりジュラ紀が好きだ」

雌「ねー、男くんいる?」

友「ん、いるぞ」

男「どうした?」

雌「女ちゃん今日来てないんだけど、何か聞いてる?」

男「あ、ああ、家の用事で今日と明日は学校休むって言ってたぞ?」

雌「そうなんだ。わかった、ありがと」

友「そういえば、あれから上手くやってるか?」

男「ああ、喧嘩とかは全然しないな」

友「そか、良かったな、女ちゃんも嬉しそうだったし、大事にしろよ?」

男「そうだな、頑張るよ」

母「ねえ、男ちゃん?女ちゃんに苦手なものってあるの?」

男「んー、基本的になんでも食べてる気がするね」

母「うーん、じゃあ何か好きなものは?」

男「デザートだけど、アイスとか甘い物が好きだな」

妹「……太ってたりして?」

男「いや、背も小さいし、お前より細いぞ」

妹「な゛」

父「ふむ、身体は丈夫なのか?孫を産む時大変じゃないか?」

男「身体は丈夫だと思う。あと、気が早すぎ」

父「いやあ、父さん色々と想像したら楽しくてなあ」

母「まあ、お父さんったら」

男(女……大丈夫かな……)

女『じじい、む、無駄に年だけ捕食してないところを頼もう?』

祖父『君は土曜日にまた来なさい。大丈夫、必ずなんとかするから』

男(おじいさん、何を考えたんだろう……)

男「さて、土曜日なわけだがどうなったかな……」

カタ

男「あれ?チャイム壊れてる?」

カタ、カタ

男「ふむ、困ったな。電話してみるか」

『おかけになった電話番号は、現在使われておりません。おかけに……』

男「えっ?」

男「携帯も……繋がらない?え?どういうことだ?」

ドンドン!ドンドン!

男「あの!おじいさん?女?いないんですか!?」

ドンドン!ドンドン!

隣のおばさん「あら?どうしたの?」

男「あ、あの、この家に何かあったんですか?チャイムは壊れてるし、電話は繋がらないし
  ノックしても誰も……」

隣「そりゃそうでしょう」

男「えっ」

隣「昨日引っ越したみたいよ」

男「なっ!?」

隣「なんだか急な事情で引っ越すことになったって昨日挨拶に来たのよ~」

男「い、行き先は!?どこに!?」

隣「さあ~、なんだか外国に行くみたいなことを行っていたけど、詳しくは……」

男「……」

男「……」

妹「あ、兄さんおかえりなさい」

男「あ、ああ……」

妹「ちょっと!兄さんどうしたの!?顔色真っ青よ!?」

男「……」

妹「ママ!兄さんが大変!」

母「どうしたの?」

――男のモノローグ

どうやって帰ってきたのかは覚えていない。記憶はない。現実感もない
ただ代わる代わる襲ってくる眩暈と震えの感覚だけが俺の存在を証明している
何があったのだろう?
何を間違えたのだろう?
何が失われてしまったのだろう?
……わからない。何も考えられない
残響のような痛みと激しい動悸だけが確かだった

男「……ここは」

妹「兄さん!」

男「……妹?」

妹「ママ、兄さんが!」

母「大丈夫!?急に玄関口で倒れるなんて何があったの!?」

男「……ああ、そうか」

妹「……兄さん?」

男「……いなくなった、のか」

母「??」

――男のモノローグ

それからの日々は虚ろだった
機械的に家族と喋り、事務的に学校生活をこなし、時々夜は一人で泣いた
何があったのかと煩く問い詰めてくる雌を怒鳴りつけたこともあった
友に殴られたが、身体も痛くなかったし、心も何も感じなかった
夜中に襲ってくる強烈な感情の照射に感情が焼かれてしまったのだろうか?
わからない。俺にわかることは、女はもういないということだけだった
本当に好きだったのかもわからない
なぜ自分がこうなっているのかもわからない
わからない。わからない。わからない……

――男のモノローグ

夏はいつの間にか姿を消し、秋の訪れを感じさせる乾いた風が吹くようになっていた
現実感が断片的だ。けれど時間というものは俺の意識とは無関係に進んでいるらしい
妹が俺を泣きそうな顔で見ている。何故だろう?俺の意識は何も力を持たないのに

妹「兄さん……」

男「……」

妹「手紙と……何か大きな荷物が兄さん宛に来てたわ」

男「……」

妹「……ここにおいておくね?」

男「……」

――男のモノローグ

手紙……手紙は届くものなのだろうか?
それは誰が言った言葉だったろうか?
……わからない。わかる必要もない
心が死んでしまえば人は案外楽に生きられるものらしい
全てを事務的にこなすこと。何にも心を動かされないこと
それだけで人は生きられる。だから俺は事務的に手紙を開き……

――祖父の手紙1

元気にしているだろうか?
突然いなくなって君は驚いただろう
済まないと思っている

だが、事前に説明をすることは難しかったのだということは理解して欲しい
君のあの子への想いが定まりを見せないあの状況ではこうするしかなかったのだ
これは君を責めているのではない。仕方のなかったことなのだ
だから君も自分を責めることなく、冷静にこの手紙を読んで欲しい

――祖父の手紙2

君は自分の家族にあの子の在りのままを見せることを躊躇した
そのこと自体は構わない。あの子も世間体というものを理解している
だからそのことであの子は君のことを恨んだりはしていなかった

そもそも私はまだ学生の君に全てを背負わせようとは思っていない
思っていなかった。だからこそ、私はこういう選択肢をとったのだ
このことで私を恨んでくれても構わない。その覚悟はできている

――祖父の手紙3

想いの定かでない、自らの意志に、感情に確信を持てない君
自らの意志に、感情に、想いに確信を抱きつつも、言葉で伝えられない女
君達があのまま友に過ごしていても、亀裂や歪みが大きくなるだけだと私は判断した
あの子もそれはわかってくれた。だから、あの子はもういない。君の所にも、私の許にも
悲しいことだが、それが事実だ。受け入れざるを得ない、厳然たる事実だ

――祖父の手紙4

あの子は今、パリで絵の勉強をしている
私の知り合いが開いている私塾に通っているのだ

一緒に送った絵は、彼女がそこで完成させたものだ
私の許に君宛の手紙と一緒に送られてきた

私の手で君の許へ送って欲しいということかもしれないし
この絵を私にも見せたかったのかもしれないが
正確なところは私にはわからない
夫としても親としても祖父としても失格な私にはわからないことばかりだと自嘲しているよ

だが、君ならあの子の気持ちがわかるだろう
そして、今の君ならば、おそらく自分の気持ちにも

何も要求はしない。私は私で、君は君でやりたいことをすればいい
最初に交わした約束だね?私はその通りにした、後は君の自由だ

――女の手紙1

うぉい、元気ですか?元気でしょうか?生きていますか?生きてください
私は生きています。お前も生きろ。力強く。自分の為に。そして、私の為に

相変わらず言葉は微妙な使い方しかできない自覚はありますか?
あるようです。でも文章だと少しだけマシかもしれません
ゆっくりと、自分の中で整理整頓をしながら書けるからでしょうが?

…あれ?なんだろう
目から汗が…

――女の手紙2

読めてますか?理解してくれやがりますか?しろ。してください。お願いします
こんな私ですが、じじいの人は、男が好きになってくれたと言いました。ほんとか?

私はお前の温かさに、優しさにラッピングされて窒息しそうなくらい幸せでしたよ
でも、近ければ近いほどわからなくなることがあると、じじいは言いました。ばばあは既に死んでいます

だから、脱腸の思いで断腸してお前の許を一度離れることにしました
最初は毎日が涙でした。洪水が起きそうでした。ノアの子孫は元気ですか?

しかしだな、日本から持って来ました描きかけのお前の、男の絵を見ていたのだった
だから、描いてみた。描くことで、お前に何かを伝えられるんじゃないかとか勘違いしてみた
あと、私の絵でお前の定まらないとかいう謎な精神体に何か影響を与えられないかと欲をかいた

だから、見ろ。心の目で見ろ。そして私を想い出してくれ。想い描いてくれ
どうだ?好きか?好きですか?私は好きだ。お前が
だから。お前も。私を好きだと。嬉しい。

返事くれ。定まったようなら、休み貰って会いに行くから。行くよ?

――男のモノローグ

その絵はあの夏の瞬間が、そしてあいつの想いの全てが込められていた
絵は武器だとあいつは言った。その通りだった
それは俺が現実感を取り戻すのに充分な破壊力だったのだ

夏の公園。木陰で涼しむ、はにかんだ俺と、隣で笑う女
スケッチをしていた筈のあいつが俺の横で心の底から嬉しそうに笑っている

俺は急速に取り戻される時間の感覚と共に、強い決心を抱いた
手紙を書こう。あいつに少しでもこの想いを伝えられるように、精一杯考えて
短く、そして一番届けたい想いを

女「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいぃぃ!」

男「うん、相変わらずなのな。元気だったか?」

女「私!元気!お前!元気!」

男「ああ、寒いけどお前に会えるから元気だぞ」

女「うぉれもだぁぁぁぁぁぁぁぁ!寂しかったか?うぉれは寂しかったですよ?」

男「ああ、寂しかったぞ。でも、揺るがなかったから、平気だ」

女「固いか?硬いと幸せか?」

男「お前この場面でそういうシモな方向に持っていくのか」

女「おぉぅ……?」

女「なあ?最初の手紙、なんで一言だけだったですか?私が馬鹿だからですか?」

男「それもある」

女「あぅぅ……」

男「いや、すまん、嘘だ。つーかお前は別に馬鹿じゃないだろ?
  ちょっと言葉が辛いだけなんだよな。辛かっただけなんだよな?」

女「私……失敗?」

男「俺はそうは思わない。だからお前もそう思うな」

女「……うぉぅ」

男「じいさんと違って、押し付けるぞ、俺は
  お前が後ろ向きな想いに染まったら、俺が染め直してやる」

女「男らしいか?アマゾネス田嶋と戦うのか?」

男「うんうん、それは御免だぞ」

女「そか。そだな。私も嫌だ」

男「勝てそうにないもんな」

男「なあ、改めて言わせてくれないか?」

女「私!お前!好き!」

男「うん、それは百篇くらい聞いたよな。電話でもメールでも」

女「嫌か?好きって言われると幸せな気持にならないか?温かくなって春になりませんか?」

男「ああ、なるぞ。お前にそう言われると嬉しい」

女「おぉぅ……」

男「でも、言葉じゃないんだ、大事なのは。言葉にしなくてもいいんだ」

女「??」

男「俺もお前が好きだ。でもそのことが伝わらなければ、言葉は意味を持たないだろ?」

女「おお、だから『会いたい』なのか?一期一会の精神で!」

男「そうだ。会ってこうして抱き合えば……」

女「ぴっ」

男「な?温かいだろ?」

女「……ぅん」

男「好きだって伝わるだろ?」

女「……(コクン」

男「……絵、ありがとう」

女「……(コクコク」

男「良かった……また会えて……本当に良かった……」

女「な、なんで……嬉しいと涙出るですか?」

男「言葉じゃ言えない」

女「おぉぅ……」

         ,. --─── 、         / 7 /77

       ,. -─── <   \     /ニ ニ7
     /         \   ',      /_// /
    ////| ,.イ ハ    丶. l        /_/ /77
      \ |´  ヽ| \ト、  | \    y――ー┐

     //イ●   、___\  ト、____\    ̄ ̄/ /
    し{⊃     ●  ん\. \  ̄ ̄ .___ /_/

   (⌒)-ゝ、__    ⊂⊃ノ-'  \ \_ ///__
     /   ̄ ̄ ̄Ⅴて⌒ヽy/⌒、   ̄   ∠/

バッドの誘惑に負けそうになりつつもなんとかハッピーEND。あと、噛まないで

俺こういうの初めてで
くやしけど目から汗が
(´;ω;`)ブワッ

>>1乙ですか?

>>267
たぶんエピローグある

ありゃ、すいません、終わりです
なんかいつも終わり方あっさりしすぎでしょうか?

それはそれとして読んでくれた方には感謝を
バッドを期待した方には謝罪を
物足りない方にはすいません、俺の精神もそろそろ焼き切れそうです

寝たいです!寝ないと死ぬから!人間だから!死んじゃうから!

>>269
>>1さん乙でした!
これマンガ化てかドラマ化できないかなって思いました。
あと、昔好きだった女の子が「女」ほどじゃないけど個性的な言葉遣いだったんで「お前の言うことはよくわからん」て言ってたら、いきなり音信不通になった。
5年後に偶然身串で再開したら「私アスペルガーだったんだよー」って。
当時不登校気味のJKだったその子は今イラストレーターに。
俺はニートに。

ああ、目が汗だくだお…。

   /.   ノ、i.|i     、、         ヽ
  i    | ミ.\ヾヽ、___ヾヽヾ        |
  |   i 、ヽ_ヽ、_i  , / `__,;―'彡-i     |
  i  ,'i/ `,ニ=ミ`-、ヾ三''―-―' /    .|

   iイ | |' ;'((   ,;/ '~ ゛   ̄`;)" c ミ     i.
   .i i.| ' ,||  i| ._ _-i    ||:i   | r-、  ヽ、   /    /   /  | _|_ ― // ̄7l l _|_
   丿 `| ((  _゛_i__`'    (( ;   ノ// i |ヽi. _/|  _/|    /   |  |  ― / \/    |  ―――
  /    i ||  i` - -、` i    ノノ  'i /ヽ | ヽ     |    |  /    |   丿 _/  /     丿
  'ノ  .. i ))  '--、_`7   ((   , 'i ノノ  ヽ
 ノ     Y  `--  "    ))  ノ ""i    ヽ
      ノヽ、       ノノ  _/   i     \
     /ヽ ヽヽ、___,;//--'";;"  ,/ヽ、    ヾヽ

>>518
男と女が
出会って
ぴっ

是非ともログを残しておきたいので、

深夜まで誰か保守しててくだぁぅぅおおおいっ!

>>335
ぴっ

ぴっ

>>338です
絵ができました。下手くそでふ…すまん
http://uproda.2ch-library.com/146243syc/lib146243.jpg


このSSは優しい気持ちにする

ぴっ

おはようですか?おはようですね?スレが生きてて嬉しいですよ
読んでくれてありがとうですよ。嬉しいですよ

ところで>>349の絵が予想以上に上手くびびったですよ。ありがたく保存しました
最近は絵描きさんの全体的なレベルが高くなった気がしますか?
VIPでギャルゲが作れそうなIT時代です。凄いね!凄いですねIT!

>>1
過去作品のタイトルどんなんある?

ありがとうございます
でもプロットの練習も兼ねているので、書き殴りですいません……

>>365
速攻で挫折したのを除けば、新しい順に

女「私は光速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる女騎士 」
女「もうやだ死にたい……」
妹「結局お兄ちゃんはどんな妹が好きなの?」
女「男くん!あたし処女なんです!」
妹「なぜ兄はこんな朝早くから2ちゃんをやっているのですか?」
妹「う~、いってらっしゃいお兄ちゃん」
女「付き合ってくれないと死にます!死んでやるんだから!」
ロボ子「マスターは何故ロボットのワタシに欲情するのですか?」
男「さて、捨て猫を拾ったわけだが……」
姉「……ああ!可愛いな!もう!」
娘「パパ!あたし大きくなったらパパのお嫁さんになる!」
弟「ねえ、お姉様?」
妹「んしょ!んしょ!おにーちゃんのおふとん、よいしょ! 」

みたいです
最初のが6月21日のログなので、短期間にどれだけ入り浸ってるんだという話だね!死ねよ俺!

保守「ぴっ」

おかえりなさい
ありがとうございました

というわけで懲りずに新スレを立てる俺の明日はどこでしょう。見失いました

保守「おぉう」

保守「マンモスぴっ」

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