盗賊「勇者様!もう勘弁なりません!」 (235)
――――――
何を考えているんだ!どうしてそうなるの!?くたばれ勇者!勘弁してください!
勇者を追う旅を続けて早一年
俺たちは、幾度この言葉を吐き出したことか
俺は、『勇者課勇者補助係』の一員、まあいわゆる公僕ってやつだ
虚飾を一切排した、実にお役所的で素敵な部署名だろ
お役所のネーミングセンスってのは、世間一般とちょいとずれている
一言で言うならば名は体を表すの極致ってやつだ
この部署、名結構気に入っているんだ
何故かって?
そりゃあ、『勇者』って言葉が入ってるからさ
だれだって、幼いころは英雄に憧れたことがあるだろう?
俺だってそうさ、今でこそ木っ端役人だがな
この俺が可愛い幼子だった頃、いや嘘だ、すまない
俺に、そんな時期は無かったな
正しくは「憎たらしい糞ガキだった頃は」だ
鼻水たらしながら、正義の味方になることを目指したもんさ
そんな俺がさ、仮にも勇者の名が入った部署にいるんだ
まるで俺も勇者パーティーの一員みたいじゃないか
ちょっとだけ、誇りを持つぐらい許されて然るべきだろ
まあ、素敵な部署名のことはさて置き、残念なことが一つある
『勇者』という素敵な響きと比べて、実際の業務内容は家畜の糞尿にも劣るってことだ
糞にも劣るもんなんて、俺は知らねえが、つまりは想像を絶するってことだ
お役所的に言えば、俺たちの仕事は『勇者の管理及び指導』
これじゃあ、ちょっとわかりにくいよな
勇者が魔王討伐の旅のさ中に、やらかした、しでかした物事を
適切な行政手続きに則り、解決に導く
要は、勇者の後始末部隊というわけだ
これが、実に憎々しい
この一年、俺たちは勇者にフルスイングで振り回され続けた
奴は手加減と言うものを知らないし、社会常識を知らないし、俺らの苦労も知らねえ
常に全力、常にクリティカルヒット、そして行き着く暇もなく次の問題を巻き起こす
しかも、無意識にだ
おかげで俺たち勇者補助係の目は、ぐるんぐるんに回っており
酔い覚ましに熱い蒸留酒をかっ込み、ゲロと勇者の悪態を吐き出す装置と化してしまった
ただ一人、最初からに勇者に心酔しきっている盗賊ちゃんを除いては
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1509874173
――――――
プロローグ
商人「勇者が、魔王に寝返りやがった!」
――――――
商人「おいおいおい!勇者は、魔王と和睦したって話だったじゃねえか!」
商人の怒気を含んだ声が辺りに響き渡る
魔王城を臨む小高い丘、索敵は既に済ましてあり
更に賢者によって張られた結界により、その声が魔物に届く心配はない
それを知ってか知らずか、商人は自身の感情をストレートに声にのせる
商人「勇者が魔王に寝返った!?俺たちを裏切ったってことか!?一体、どうなってるんだよ!」
商人「勇者め!世界を救うって約束したじゃないか!俺たちを要職に押し上げてくれるって約束したじゃないか!」
騎士「落ち着きなさい、商人くん。私たちは、そんな約束を勇者とした覚えは一切ないし」
騎士「なにより出世は、自力で頑張るものだよ?」
ひときわ大人びた声で、まるで子供を諭すかのように商人を諫めるのは騎士
頑強な肉体と、ガラスの心を一つの器に宿す最年長者にして勇者補助係の係長、言い換えれば現場責任者だ
その内ポケットには、彼のストレスとの戦う術
彼の精神を体現したかのような、繊細な胃を癒す薬が無数に蓄えられている
騎士「とりあえず詳細を聞こう、盗賊さん頼むよ」
盗賊「はい。魔王城は警備も固く、盗み聞きできたのはホンの一部ですけど」
盗賊の仕事は、情報収集だ
彼女は、義賊であった父親から数多の盗賊スキルを伝授されるものの
盗みを働いたことは無く、彼女の持つ盗みや殺しの技術は日々の生活に全くの不要で
あまつさえ、持て余していたほどだ
その宝の持ち腐れという盗賊にとっては何とも皮肉めいた状況を、ひっくり返したのが大臣である
彼女のスキルを見出した大臣は、あろうことか囚われた彼女の父親、義賊の開放を条件に
その忠誠を得、果たして盗賊は穏やかな生活を飛び出し勇者補助係の一員となった
盗賊「はい。魔王城は警備も固く、盗み聞きできたのはホンの一部ですけど」
商人「魔王城に忍び込むだけでも、相当なものだよ」
盗賊「鍛えてますから」
盗賊「―――勇者様ですが、どうも王国への不信感を魔王にケシカケられちゃったみたいです」
盗賊「結論を言うと、魔王軍に勇者一行全員が参入する形になっちゃいました」
騎士「王国への不信感か・・・あちゃー、心当たりが多すぎて何の反論もできないなあ」
商人「は?心当たりなんて何もないんですけど。王国への不信感ですって?あのバカ勇者が、そんな人並みな考え持てるわけないでしょう」
商人「魔王が、実は可愛い幼女で、幼女趣味の変態勇者が一目惚れちまったってのほうが、まだ納得できるぜ」
盗賊「かぁ!!!!!」キッ
威嚇の声と同時に盗賊の目がカッと見開かれ、瞳孔が大きく広がる
手はカタカタと小刻みに震えながら、少しずつ腰の小刀へと伸びていく
勇者を冒涜した商人への殺意と同時に、一年を共にした商人への仲間意識、その二つのせめぎ合い
盗賊の葛藤が、その震える手からうかがえる
幸いにもその異常な姿は、商人に勇者への暴言を思いとどませるに至った
商人「ひぃ!すみません!言いすぎました!」
盗賊の勇者への心酔
彼女のそれは、既に信仰の域に達していた
賢者「―――商人君、心当たりが無いって言いました?貴方も一枚どころか二枚も三枚も噛んでるんですよ?」
商人「・・・?はっきり言ってくれ、どういうことだ?」
この旅の中、勇者の行動が要因となって起こった事件や、問題は
商人の悪知恵、突飛なアイディアによって打開されてきた
では、勇者補助係のエースは商人であるか?そう問われると、疑問である
なぜならば、商人ひねり出すアイディアは手続きの隙間、法の穴に針を通すものであり
これらを実現できたのは、あらゆる行政手続きを修め、その偉業をもって称される
勇者補助係の頭脳、賢者の力が大きかったからである
賢者「では、はっきり申し上げましょう」
賢者「平和のために邁進する勇者に、奴隷承認の肩書を押し付けたり」
騎士「あ・・・」
賢者「妙齢?の侯爵家の娘さんと、勇者を本人の同意なく結婚させちゃったり」
商人「う・・・」
賢者「挙句の果てには、本来ならば勇者に追いつき共に魔王に立ち向かうべき立場にありながら
賢者「職務放棄して合流を拒否しちゃったり」
盗賊「んむぅ・・・」
賢者の言葉が、皆に旅の思い出を想起させた
勇者に起因したとは言え、勇者を貶めかねない解決方法をとってしまったことへの罪悪感が
彼らから、反論の言葉を奪っていた
賢者「私たちの数々の悪行が、勇者に不信感を与えた。そんなところじゃないですかね?」
商人「さ、最後のはスピーディーに世界の平和を実現するために必要だったんだから不可抗力だ!」
賢者「不可抗力の意味はきちがえてますけど、まあ勇者からしたらそういうことでしょう?」
騎士「ぐうの音も出ないねえ」
盗賊「ぐぅ」
騎士「しかし―――まずいことになってしまったな」
騎士が空を仰ぐ、手にはロケットが握られている
その中には王国に残してきた、妻と娘の肖像画が入っていることを皆は知っていた
賢者「そうですね。非常にまずい」
盗賊「ああ・・・人類の救世主である勇者様が魔王に寝返ったなんて国に知れたら」
盗賊「多くの人々が希望を失ってしまうことは明らかですもんね・・・」
商人「いや、そうじゃあねえな盗賊ちゃん、ちょいとズレてるぜ」
商人の言葉に、盗賊が首をかしげる
盗賊「どういうことですか?」
騎士「私たちの仕事の結果が、勇者離反を招いたと大臣に知れたら・・・」
賢者「私たちは希望どころか、職を失いかねませんね」
商人「ああ、なんてことだ・・・。この仕事が終わったら、それなりの褒賞がもらえると思ってたのに・・・」
盗賊「み、皆さんはこの期に及んで、まだそんな保身のこと考えているんですか!」
盗賊「もっとほら、こう!あるでしょ!いろいろと考えることがっ!」
商人「大事な話だぞ、俺たちの生活が懸かってるんだ」
賢者「私たち独り身は、まだマシですよ。子持ち妻持ちの騎士さんを見てごらんなさい」
騎士「アワアアアアア」
盗賊「・・・むぅ」
騎士の狼狽ぶりに、盗賊が口を噤んだとき
その声は、4人に等しく届いた
『 政令207号に基づき 』
賢者「ん?商人くん何か言いました?」
商人「いや、俺は何も・・・」
騎士「こ、ここここれは・・・・」
盗賊「この声・・・」
抑揚が抑えられ、録音された機械音声のような無感情なそれは
対照的に、騎士と盗賊に多大な緊張感を与えた
二人は、声の主に心当たりがあった
かつて、職場でよく聞いた声
『 勇者課勇者補助係4名に速やかな出頭を要請する 』
商人「なんだ!今の声!頭の中に直接っ・・・!」
盗賊「あれ!?なんか光が!体中から光の粒が出てきてます!」
賢者「これは、召喚魔法!?」
騎士の顔から、赤みが消える
あらゆるところから、汗が吹き出し、涙がこぼれ、目は泳ぎ、足は震え、口は開き
遂には、職長足らんとするプライドまで放棄され、心の底から張り裂けんばかりの叫びが飛び出た
騎士「うわああぁぁああああ査問だ!ばれたんだ!勇者の件が、ばれてたんだあああああ!」
『 召喚魔法 サモン !! 』
瞬間、溢れた光の粒が最高潮に達し
魔王城を臨む小高い丘から、騎士の叫びと共に、4人の姿は忽然と消えた
盗賊♀「ゆ、勇者様!もう勘弁してくださいっ///」
魔王「もし儂の味方になれば、有給をやろう」 勇者「ゆうきゅう」
上記SSの続きです。ゆっくり頑張ります。
今日はこれにて、失礼します。
乙
勇者一行より補助係一行のほうが勇者してるように見える不思議
ぶっちゃけ、勇者に最初から特権とか与えとけば補助係は要らなかったというね。
勇者絡みの予算の大半は大臣が着服してるし。
一番の問題は国家そのものだったと彼らが気付く日は来るのか、期待
>>11特権なんぞ与えたら、それを行使した勇者一行に批判が集中する。それを回避して押し付けるためのクッション課がこいつらなんだよ。
査問と、サモンが架かってんのかw
>>13
民衆とか勇者とかに特権の存在を隠しときゃ良くね?
伝説の剣なんて王命使ってでも勇者に渡さないといけない代物だし。
結局は上の杜撰さが原因というね。
――――――
第一章
騎士「縁故採用はほどほどに!」
――――――
光が収まり、4人に視界が戻る
大臣「よくぞ、戻った諸君」
高く、筋の通った鼻、あご一杯に蓄えられた白いひげ
齢60を超えてなお、年齢を感じさせられない力強い声
行政府の長にして、4人の直属の上司である大臣そのひとである
騎士「ひぃっ!だだだだ大臣!ご機嫌麗しゅうごごごご」
盗賊「え?ここは、王城・・・?どういうことですか?何が起こったんですか?」
賢者「召喚魔法ですよ盗賊ちゃん」
商人「召喚魔法?なんじゃそりゃ」
賢者「貴方も知らないんですか。まあ、召喚魔法が行使される機会なんて滅多にないですし、知らなくて当然か」
賢者「召喚魔法は、その名の通り支配下にあるものを強制的に召喚する魔法です」
騎士「し、召喚魔法は王国議会か行政の長である大臣の承認がないと使えない・・・つまり」
商人「俺たちは大臣に呼び戻されたってわけか」
大臣は4人のやり取りを、黙ってみていた
もともと厳格な人間ではあるが、そこには普段以上の剣呑な雰囲気を漂わせている
大臣「お勉強は、それぐらいでよろしいかな君たち」
騎士「はっ!し、失礼しました」
大臣「さて、早速だが要件を伝えよう」
商人(勇者の離反の件だよな・・・ばれるの早すぎじゃないか?)
賢者(そうとは限りません・・・ま、まずは、話を聞いてみましょう)
大臣「実はな、昨晩、城内にある宝物庫が荒らされているのが見つかった」
大臣は続ける
大臣「昨晩と言ったが・・・実のところ賊が、いつ城内に侵入したのか不明なのだ」
賢者「つまり、発覚したのは昨晩ですが、犯行は更に以前に行われていたと・・・」
騎士は、大臣の様子から、勇者離反の件の叱責を受けることを予想していた
結果、思い過ごしであったことから、少し余裕を取り戻していた
騎士「それは城内を警備している近衛兵団も面目丸つぶれですね」
大臣「ふん、近衛兵団の無能共め。王の直属だからと言って調子に乗っていたんだろう」
盗賊(うわあ、辛辣・・・)
大臣「まあ、多少は考慮すべき事情もあるがな」
騎士「それで、その事件と私たちが呼び出されたのは関係があるんですか?」
大臣「うむ、それなのだ」
大臣「とにかく時間との勝負でな、詳細については省かせてもらうが、どうもこの事件」
大臣「勇者の関与が疑われる」
商人「ははあ、どおりで勇者の後始末部隊の俺たちが呼び出されるわけだ」
大臣「事態は急を要する。諸君らには、早速だが現場を抑えてもらう」
盗賊「そ、その前に大臣!ご報告したいことがあります!」
大臣「ん?」
商人(うわあああああ!こいつ!この良い子ちゃんっ!!!!勇者の件、ちくる気だ!!)
騎士(あ・・・終わった・・・妻よ、娘よすまない・・・お父さん無職になっちゃった・・・)
賢者(させませんっ!沈黙魔法 サイレントっ!)
盗賊「むっ・・・むぐぐ」グギギギギギギ
沈黙魔法、言葉の通り相手に沈黙を強いる魔法である
抵抗もむなしく、一言も声を発することができなくなった盗賊は商人を睨みつけている
保身のために、勇者の裏切りを隠蔽しようとする3人への怒り
その矛先は、ほぼすべて商人に向かったのだ
商人(うわあ!こっち睨んでる!魔法をかけたの俺じゃねえよ!ちょっと考えればわかるだろ!)
騎士「大臣、私から申し上げましょう!」
何が起こっているのか、ただ一人理解していない大臣は
その不審さに疑問を抱きながらも、騎士に答えた
大臣「こちらも急いでいる、手短に頼む・・・」
騎士「現在、勇者一行は魔王城内に侵入したことを確認しております!おそらく、魔王との最終決戦となっているでしょう」
騎士「我ら勇者補助係としても、すぐにでも勇者の援護に向かいたいと思います!」
大臣「そうであったか。そちらの、現状を把握していなかったのは申し訳ない」
大臣「だが、残念なことに呼び出してしまった以上、諸君らを魔王城に送り返す術は無い」
大臣「それこそ、伝説の勇者が用いたという転移魔法でも使わない限りはな」
大臣「仮に転移魔法が使えたとしても、今回の事件は最重要案件だ。最優先で取り掛かってもらう」
賢者(勇者と魔王の決戦、人類と魔族の頂上決戦以上に優先されることなんてあるんですか・・・?)
賢者の疑問を察してか、騎士が大臣に問いかけた
騎士「・・・理由をお聞かせ頂けますか?」
大臣「『ただただ職務に忠実たれ』、騎士である君が忘れたとは思わないが・・・?」
騎士がその教育の過程で、みっちり仕込まれる騎士三訓のひとつ
『ただただ職務に忠実たれ』
大臣が、騎士の疑問に答える必要はないという意思の表れであった
騎士「・・・なるほど、わかりました。では仕方ありませんね」
騎士「こちらの仕事を片付けてから再度、魔王城へ向けて出立します」
大臣「そうしてくれ」
騎士「とりあえず、現場に向かいますけど。仕事はどこですれば?できればデスクが欲しいんですけど・・・?」
勇者補助係は、発足以来このかた一つ所に留まることなく職責を果たしてきた
それゆえに、彼らは王城内に机を持っていなかったのだ
大臣「当然だな、よし現場の宝物庫にデスクを運び込ませよう」
商人「はい?宝物庫の中で仕事しろって言ってるんですか?」
大臣「説明している暇はない、必要なものはすべて用意する」
大臣「盗賊、君には私と騎士君たちの連絡役になってもらう」
大臣「辞令だ、現時点を持って大臣付き秘書官に任命する」
盗賊「え、あ、はい」
盗賊(あ、いつのまにか、魔法解けてた・・・)
騎士「ちょ、ちょっと大臣!タダでさえ人手不足なのに、いま盗賊さんを引き抜かれたら!」
常にオーバーワークに晒されてきていた騎士の必死の懇願である
しかし、その願いは大臣には届かない
むしろ話を遮られたことによって、大臣の顔がみるみる赤く赤く染まっていく
大臣「いい加減にしろ騎士っ!先ほどから、自身の立場も忘れ!口をはさみおって!」
大臣「時間がないと、何度言ったらわかるのだ!」
大臣「必要なものは全て用意すると言ったろう!人員は随時、補充する!」
上司の突然の叱責に、4人は圧倒され唖然としてしまっていた
その様子を感じ取った大臣は、再度、檄が飛ぶ
大臣「いつまで、だらだらしている!さっさと自分の仕事に取り掛からんかぁっ!」
騎士「はっはいっ!!!」
ひとり盗賊を残して、3人は回れ右で、場所も知らぬ宝物庫へと歩を進めた
賢者は、その明晰な頭脳で大臣の不審な態度について考えをめぐらせ
同様に商人は、その明晰ではない頭脳で事態の分析をはかろうとして
明晰ではないながらも自らの限界を悟り
とりあえず、考えることをやめた
――――――
騎士「ここが、そうなのか?」
近衛兵「・・・はい」
近衛兵の案内によって、3人は迷路のように入り組んだ王城の廊下を進み
遂に、宝物庫へとたどり着くことができた
赤く巨大な扉に閉ざされた、その部屋は
いかにも、大事なものが閉まってありますと自己主張するかの如く様相であった
商人「うむ、案内御苦労!というか、俺は宝物庫の場所は知ってたんだけどな」
賢者「酒保勤めだった商人君が、なんでまた宝物庫の場所なんて?」
商人「賢者、知らないのか?この宝物庫な王城で唯一、魔法で封印された部屋なんだぜ」
賢者「魔法で?それは、また厳重ですね」
商人「ああ、なんでも専用の魔法の鍵でしか開くことができないそうだ」
賢者「へえ、それはすごい」
商人「なんでも、王家に伝わる伝説の装備の数々が保管してあるとか」
商人「俺も噂で聞きつけてな、一回見学に来たことがあるんだよ」
賢者の知らないことを自身が知っていたせいか、商人は自慢げである
賢者「しかし、そうなると疑問ですね」
商人「なにがだ?」
賢者「だって、専用の魔法の鍵でしか開かないわけでしょ?」
賢者「当然、そのカギは担当部署もしくは、王自身が持っているわけですよね」
賢者「しかし、結果として宝物庫は暴かれてしまった」
賢者「まっさきに疑われるのは、鍵を持っていた人物では?」
商人「まあ、ここからは噂をもとに当時の俺が調べたことだ」
商人「この宝物庫を唯一開ける、魔法の鍵な」
商人「実は、数十年前から行方がわからなくなってるらしい」
賢者「あらら」
商人「というわけで、この大事な大事な宝物庫は王城の中でその名の通り開かずの間となっていた」
商人「というわけだ」
騎士「つまり、だれが魔法の鍵を持っていてもおかしくないってことだね」
賢者「へえ・・・そうだったんですか」
賢者「しかし、商人君。やけに詳しいですねえ・・・?噂をもとにそこまで調べ上げたんですか?」
騎士「まさか、忍び込もうなんて考えたわけじゃないよね?」
商人「ままま、まさか!興味本位ですよ騎士さん」
商人の狼狽ぶりは、その言葉とは裏腹に真実を雄弁に語っていた
賢者「なるほど。合点がいきました」
騎士「なにがだい?」
賢者「事件の発覚が遅れた理由ですよ。魔法で封印されているなら、常に近衛兵を配置する必要もないですからね」
騎士「なるほど、大臣の言っていた考慮すべき事項というのは、そのことか。近衛兵団も災難だったねえ」
近衛兵「では、我々は部屋の外におりますので」
賢者「ところで、中には誰もいないようですが?捜査は進んでいないのですか?」
近衛兵「はい・・・宝物庫の中に近衛兵が入ることは禁じられています」
商人「それまたどうして?」
近衛兵「城内に賊の侵入を許し、あまつさえそれに昨日まで気づかなかった我々に行政府は不信感を抱いています」
賢者(行政府が不信感・・・大臣がお怒りってことですね)
近衛兵の言葉に、騎士は大臣の叱責の様相を思い出し、近衛兵への同情を深めた
近衛兵「故に、この事件の捜査については行政府直轄の者を充てると・・・大臣からの要請で」
騎士「なるほど、本来ならばあなた方の管轄に我々が呼ばれたのは、そうした理由からか」
騎士「心中お察しする」
近衛兵「・・・」
騎士の同情からの言葉に、近衛兵は沈黙で答えた
賢者(勇者の関与については、大臣管轄の行政府で内々に処理したいということでしょうか?)
騎士(うーん、それはちょっと早計かな)
商人「では、失礼しまーす」
商人「さて、まずは何から始めましょうか」
騎士「まずは、現場をあらためよう」
賢者「・・・結構、広いですねここ。水道に、かまど、クローゼットにベッドまで置いてある・・・とても宝物庫とは思えない」
賢者の言葉通り、部屋には宝物庫とは思えないほど設備が充実している
騎士「いざというときには、王族のシェルターとして使う予定があったのかもな」
商人「お、宝箱はっけーん」
商人「・・・ま、当然カラか」
賢者「元から、カラだったのかもしれませんよ」
騎士「うん、もともと何が保管してあったのか知る必要があるね」
賢者「近衛兵さんに管理簿を持ってきてもらいましょうか」
騎士「そうだね、我々の最初の仕事は管理簿と現状を照らし合わせることから始めよう」
騎士「何が盗まれたかわからないと、仕事にならないしね」
近衛兵に声をかけようと、騎士が後ろを振り返える
しかし、そこにはあるはずの近衛兵の姿はない
あるのは、真っ赤な巨大な扉だけであった
いつの間に閉めたんだろう、疑問に思いながら騎士は扉に近づいた
商人「ん、どうしました騎士さん?」
騎士「宝物庫の扉が、開かない」
――――――
え?私が考える理想の勇者像かい?
そりゃあ何より、常に冷静で理性的にあることだな
勇者の伝説は、国民のほぼすべて老若男女が知っている
だから、どうしてもその一挙手一投足のすべてを人々は目で追ってしまう
まあ、言ってしまえば勇者にはプライベートってものがないわけだ
ちょっと同情しちゃうね
でも、そこは勇者だから致し方ない事さ
勇者には特権も一杯あるんだから、それぐらいは我慢してもらわないとね
おっと話がずれそうだ
そうそう、人々は常に勇者を見ている
もちろん、見ているだけじゃあ済まない
子供たちは、強く優しく何物も等しく救う勇者に憧れ
大人たちは、何物にも縛られず正義を貫く勇者の姿に自分自身を正す
つまり、人々は勇者の模範的な正義を
自らに取り込むことによって、更なる善性を得
そうして、できあがった社会倫理は親から子へ、子から孫へと受け継がれ
後の世をさらに良くしていく
いわば、正義のスパイラルさ
だからこそ、今代の勇者には怒りすら覚える
確かに、彼は彼なりの正義に基づいて行動している
しかしその、正義の執行の仕方がよくない
私たち、4人が、勇者補助係の私たちが
この一年で、どんな酷い目にあったことか
私の胃は、この一年間で酷く痛めつけられたんだよ
彼は、国を出て最初の関所でいきなり大問題を引き起こした
信じられるか?勇者は、たった子供二人を通す為に、関所の扉を魔法で打ち破ってしまったんだ
もちろん、然るべき理由があったことは推測できる
でもね、やり方が手荒すぎる
ちゃんと関所の人間と話し合って、お互い理解したうえで関所を超えるべきなんだ
たとえ、それに多少の時間がかかったとしてもだ
だけど、彼はそうしなかった
ただ感情的に、関所の人間と口論して
挙句の果てに、門を破った
それじゃあ、だめだ
人々の模範には成り得ない
だってそうだろ?
勇者のやり方を子供たちが覚えたら
自分のわがままを押し通す為に、暴力に頼ることになってしまう
うん、だからこそ私は思うんだ
勇者は常に理性的でなくちゃ
――――――
商人「・・・おらっ!どりゃあああああ!ごんがああああああ!・・・・開かない!」
商人「おいっ!近衛兵!扉の後ろにいるんだろっ!わかってるんだぞ!」
商人「おいおいおい!冗談で済むうちに、さっさと開けろ阿呆!」
商人の怒りようは尋常ではなかった
商人「そうか!開けないか!わかった!てめえ、覚えていやがれ!」
商人「俺が外に出た暁には!てめえの鼻に口に耳にへそに、けつの穴まで含めた全ての穴を栓でふたしてやるからな!」
賢者が扉に駆け寄り、扉の外にいるであろう近衛兵に呼びかける
賢者「おーい!近衛兵さーん!ちょっと外に出たいんですけど!」
返事はない
しかし、賢者は扉の後ろに人の気配があることを感じ取っていた
賢者は、扉の前であらゆる悪態を吐き出す商人を押しどけ、二度ほど扉を押してみる
そしてふと思いついたかのように、扉の隙間から外の様子をうかがった
賢者「いや・・・これ、外から閂がされてますよ・・・開かないわけだ」
商人「なんだと?おい!こら近衛兵っ!いい大人がイタズラか!?」
商人の悪態に根負けしたかのように、扉の外から声が届いた
近衛兵「・・・皆さんを、外に出すわけには参りません」
商人「はいー???」
近衛兵「陛下からの勅令です。宝物庫より何物も持ち出すことなかれ、と」
商人「馬鹿言ってんじゃねえぞ!俺たちは何も、くすねちゃいねえよ!」
宝物庫から何物も持ち出すことなかれ
賢者は、一瞬でその答えを導き出す
賢者「いや、そうではないです」
賢者「宝物庫から何物も、ということは宝物庫に入った私たちも・・・出すわけにはいかない、と」
商人「な?そんな理屈が通るか!」
騎士「近衛兵さん!冗談はよしてくれ!このままじゃ、仕事が進まないじゃないか!」
苛立ちからか、騎士の言葉も荒くなる
しかし、近衛兵からの返答は無かった
賢者「対話する気は無いようですね・・・」
商人「まじかよ」
騎士「・・・どうも、我々のあずかり知らぬ所で何か大きな事が起こっているようだね」
商人「くそっ・・・厄介なことになってきやがった」
商人は、まるで己が子をなでるがごとく、少し張ったお腹を優しくさする
そして、僅かではあるものの、しかし確かにそこにある便意を感じながら
自らに訪れるであろう少し先の不幸を慮ることしかできなかった
――――――
一方、大臣と盗賊の二人は長い長い廊下をゆっくりと歩いていた
盗賊「大臣、どちらに向かっているんですか?執務室とは逆方向ですが」
大臣「うむ、盗賊よ。貴様、隠していることがあるな?」
盗賊「・・・」
思い当たることはあった、勇者の裏切りの件である
先ほどは、大臣にまっさきに報告すべきと思ったものの
いざ大臣と二人きりになってしまうと、まるで告げ口をするような罪悪感に苛まれてしまっていた
大臣「答えぬか」
大臣は大仰にため息をついたものの、そこに怒りは感じられない
盗賊は察する。この人は全てを知ったうえで問いかけているのだ
自らが試されているということを
盗賊「・・・勇者が魔王軍に寝返りました」
大臣の頬がゆるむ
大臣「であるか。ふむ、盗賊よ貴様の忠誠心は未だ残っているようだな」
大臣「てっきり、自らの実父が囚われていることを忘れたのかと思うたぞ」
盗賊の父は、長きにわたって、その名に恥じぬ働きをしてきた
すなわち、盗人稼業に精を出してきたのである
しかし、年のためか遂には官憲によって捕まり王城地下牢獄に囚われるに至った
盗賊が、大臣のもとで粉骨砕身職務に励むのも、その父への恩赦を願っての事だった
盗賊「ご存知とは思いませなんだ」
大臣「勇者の監視役は、貴様だけではないということだ盗賊」
大臣「なに、隠す必要は無いのだ」
盗賊「・・・?」
大臣「今より、陛下に謁見し、貴様が見た勇者の顛末を語ってもらう」
盗賊「勇者の裏切りを・・・?陛下に直接ですか」
大臣「ああ、その通りだ。ただ一つ、注意してもらいたいことがあってな」
大臣「そこで、貴様の忠誠心をはからせてもらった」
盗賊「・・・何を隠して、何を伝えればよろしいですか」
大臣「ほお、察しが良くて助かる。一年間、き奴らに良い指導を受けたと見える」
大臣「よい役人になったではないか、盗賊よ」
盗賊「お褒めいただき光栄です」
大臣「言葉遣いも良い。陛下の前にも十分に出せそうだな」
大臣「話して良いのは、事の顛末だけだ。勇者が裏切った事実のみを伝えろ」
大臣「私ら・・・いや貴様らの仕事ぶりについては黙っていろ」
盗賊「わかりました。」
盗賊「ところで・・・」
一瞬、盗賊の目に殺気がやどる
大臣は、それを察しながらも意にも返さず答える
大臣「案ずるでない。もう少しなのだ、この件が片付けば必ず約束は守る」
――――――
王「そうか勇者が・・・」
王「まあ奴には奴なりの正義があるのだろう、致し方ないことだ」
盗賊の報告に、王は意外なほど冷静であった
大臣「勇者一行は、魔王軍の協力を得、王都に戻ってくるでしょう」
大臣「勇者が戻ってきたら最後、彼はその特権である陛下への奏上を行うことが予想されます」
勇者には、世界を平和へと導く行ううえで様々な特権が与えられている
王への奏上は、その最たるものの一つである
ひとたび、勇者の奏上が始まれば
何人たりとも、それを妨げることができない
この特権は、かつて己が財産を増やすことに邁進し政治を疎かにした王に
時の勇者が、その武力を誇示することなく対話により王を諫め
勇者の言葉に心打たれた王が、改心したことに由来する
大臣「勇者は、魔族の賃金是正を訴えることでしょう」
大臣「もし、奏上の内容が国民にしれれば・・・」
大臣「勇者の名声を鑑みるに、国民が勇者の考えに同調する可能性もございます」
大臣「そうなれば、民によって構成される衆民院の議員共も黙ってはいないでしょう」
王「魔族の賃金是正か・・・そもそもの今回の魔王討伐の発端はこれであったな」
大臣「魔王が悪いのです。もともと、この国の制度に基づいて労働力を提供を申し出たくせに」
大臣「それが、相場より安いと分かった途端。賃金是正の交渉を行うなど、言語道断でございます」
その言葉に、盗賊は耳を疑った
なぜならば、盗賊を含めた多くの国民は魔王を悪の根源と認識し
それを勇者が打倒すことで、平和が訪れると信じていたからである
大臣の言葉は、魔王にも魔族なりの道理があることを示唆していた
つまり、盗賊が信じていた勇者による平和のための戦いは
実のところ国家間の利益の奪い合い、すなわち戦争であったのだ
王「魔族すら救うか、傲慢ではあるが聞こえは良い。さもあらん」
大臣「ですので、陛下に置かれましては勇者を即刻、その任から解いていただきたく」
王「ふむ・・・」
王の歯切れの悪さに、大臣は明らかに苛立ちを見せていた
大臣「何を悩まれるのです!勇者が王国へ戻ってくるまで、半年もかかりますまい!」
大臣「陛下、いまのうちに先手を打ちましょう。勇者から、その奏上の権利を奪うのです!」
近衛兵長「大臣、口がすぎるぞ!いま貴様の目の前に、おわすは王陛下なるぞ!」
王の間の脇に控えていた、近衛兵長が敵意をまるだしに大臣へと歩み寄った
6尺にも及ぶ長身の近衛兵長が詰め寄るも、大臣は物怖じもせず続けた
大臣「なにを逡巡されているのですか、陛下!?」
王「のう、大臣よ」
王「儂は、国民がそう願うのなら身を引く覚悟はできておるのだ」
王「この国は儂がおらずとも回るよう儂自身の手によって作り替えた、そのための行政府や議会なのだ」
王「国民が勇者の志に供にし儂に退陣を求めるならば、それはこの国の国民が真に自立したことを意味する」
王「それは、儂も望むところなのだよ、大臣」
大臣「し、しかし陛下!私や陛下が居なくては国は回りませぬ」
近衛兵長「傲慢であるぞ!控えろ大臣よ!」
大臣「近衛風情が、口をはさむな!」
近衛兵長「ふん、陛下に異議を唱えるならば貴様自身の手で勇者を罷免すればよい!」
大臣「勇者の指名が陛下の専任事項であることは貴様も知っておろう!その解任もまた同様だ!」
近衛兵長「わかっている!だから口を出すなと言っているのだ!」
二人の応酬から、盗賊はそこにある確執を感じ取っていた
王直属である近衛兵団、行政の長である大臣、仕事を行ううえで
これまでも幾度となく両者はぶつかり合ってきたのであろう
しかし、それは両者の間に留まるだけのものであろうかと、盗賊はふと疑問に思った
近衛兵長は、王に最も近しい人物と目されている
その近衛兵長と大臣の対立は、言い換えれば陛下と大臣の対立に置き換えられるのではないだろうか
だとしたら、今の自分はどうなのだ
大臣の部下である、私や勇者補助係の皆は?
身の振り方を考えようにも、父の存在が、盗賊にそれを思いとどまらせるのであった
王「はっはっは、そのへんにしておけ二人とも」
王「勇者の件については、先に述べたとおりだ。これ以上の議論は必要あるまい」
大臣が苦虫を噛み潰したように顔をしかめる
大臣「承知いたしました。陛下・・・」
大臣「しかし、勇者が王都に嵐を巻き起こすことは必至。私は私の権限において、それを防ぐ手立てを講じます」
近衛兵長「何をする気だ?」
大臣「しれたこと。魔王軍に寝返った勇者を、王都にたどり着く前に迎撃する」
王「よいよい、好きにせい。軍の運用は行政府の管轄、儂に物言う権利はないは」
近衛兵団「しかし、勇者の力は人間による軍程度で止められるとは思えんがな」
大臣「ほう。ならば、王国でも勇者に劣らぬとされる貴様の兵を貸してくれても構わんのだぞ近衛兵長」
近衛兵長「ならぬな。我ら近衛兵団は、王の下を離れ職責を果たすことなどできぬ」
大臣「わかっておるさ。だから、口を出すなと言っておる」
先ほどの、近衛兵長の言葉を真似て大臣は逆襲を果たす
今度は、近衛兵長が苦虫を噛み潰す番となったようだ
大臣の顔には、少しの満足感が浮いて出ていた
王「ところで大臣、そこにおる盗賊は勇者課の一員であったな?今は、勇者課を離れ大臣付きの秘書官と聞いたが?」
突然の指名に、盗賊は驚き顔をあげた
大臣「はい、さようでございますが・・・?」
大臣(なんだ?なぜ盗賊に興味を抱く、何の意図をがあるんだ?)
王「ふむ、ということは勇者課に欠員がでたわけであるな?」
大臣(狙いは盗賊ではなく、勇者補助係のほうか・・・!)
大臣「はい、しかしすぐに人員を補充・・・」
大臣の言葉を遮り、王は続けた
王「実はな、かねてより我が友人の娘の就職先を頼まれておってな」
王「勇者課に欠員ができたなら、ぜひ、そこに置いてやってほしいのだ」
大臣「し、しかし、勇者課の仕事には専門的な知識と経験が必要になります!」
王「安心せい。優秀な娘であることは間違いない。儂のお墨付きだ、問題なかろう」
大臣「陛下!なにより勇者課は、行政府でも最たる過酷な仕事量を持っております!とても陛下のご友人のご息女を置くような場所では!」
大臣「別の部署にも空きはございます!是非、そちらに!」
王「いやいや、その娘はな、勇者に憧れと言うか、恋というか、そういった類のものを抱いておってな」
王「書類上だけでも、勇者に触れる機会がある場所に勤めたいと言うのだよ」
大臣「し、しかし!」
大臣の必死の抵抗に、王は業を煮やし、一気にまくし立てた
王「大臣、儂はその権力を行政府や議会に委譲したがな、それでも人事権の一部を行使する程度の力は残っておるのだよ」
王「だが、権力の乱用と言うのはどうも儂は苦手でのう」
王「まあ、大臣が駄目だと言うなら仕方ない。どれ、久方ぶりに権力を押し通してみるのも良いかと思うのだが、どう思う?」
大臣「・・・っ!畏まりました!陛下の仰る通りに・・・」
王「ははは、すまんな」
この日、盗賊は多くの役人がその経験から学ぶ一つの事柄を
僅かな時間から習得するにいたった
盗賊(権力者って恐ろしい・・・)
そう、権力者とは恐ろしいものなのである
――――――
近衛兵「皆さん、お届け物です」
商人「普通にドア開けるやがったな近衛兵・・・あんだけ開けろって言っても無視しやがったのに」
開かれた扉の向こうには、近衛兵が5名
いずれも屈強な肉体であることが、見て取れる
そして彼らは、部屋には一歩も入ろうとしない
近衛兵「出ることは叶わんが、入れる分には問題がない」
賢者「お届け物だと言いましたね?何を持ってきたんですか」
近衛兵「盗賊と言う娘が持ってきた。頼まれていた仕事机と、宝物庫の管理帳簿、それとメモだそうだ」
商人が扉に近寄り
部屋から出ることなく、近衛兵からメモを奪い取った
商人「どれどれ」
みなさんお疲れ様です!
先ほど頼まれた机と、あと必要だと思って宝物庫の管理簿もさらってきました
みなさんの状況は、近衛兵さんに伺いました。大臣にどうにかならないか相談してみます。
商人の横からメモを覗き込んでいた賢者がためいきをついた
賢者「さすが盗賊ちゃんですね、察しもいいし、何より仕事も早い」
商人「まったくの同意見だな」
騎士「ん、商人君。裏にも続いているぞ」
追伸
ひとつ忘れていました!追加の人員もお連れしましたので、仲良くしてあげてください!
騎士「・・・いくらなんでも仕事が早すぎないか」
賢者「大臣の手回しでしょ?さすがに、そこまでは盗賊ちゃんでも無理でしょう」
商人「で、追加の人員はどこに?」
商人の問いかけに、近衛兵の脇から一人の少女が飛び出し答えた
???「ここにいますわ!みなさん、初めまして!遊び人と申しますの!」
遊び人「よろしくお願いしますわ!」
騎士「」
商人「」
賢者「」
遊び人「あ、あれ?皆さん、どうしました?」
――――――
第一章 騎士「縁故採用はほどほどに!」 完
バニーかな?
乙
――――――
第二章
賢者「し、死んでる・・・!」
――――――
大臣「陛下の勅命で、宝物庫を閉鎖だと!?」
大臣の怒りの籠った声が、執務室に響いた
盗賊「はい、中にいる補助係の皆さんとは面会することすらできませんでした」
大臣「近衛兵を締め出し、なんとか直属の補助係で現場を抑えたというのに」
大臣「肝心の、宝物庫内部の情報を持ち出せないとは」
大臣「何が国民が望めば退陣するだ!しっかり隠蔽工作図ってるではないか、あの狸おやじめ!」
盗賊「・・・大臣、よろしければ。現在の状況を教えていただけないでしょうか」
大臣は、盗賊の言葉に一時怒りを忘れ頭を働かせ始める
以前より、大臣は信頼のおける部下というものを持たなかった
それは、彼が非常に優秀であり。そして完璧主義者であったからだ
部下にやらせるぐらいなら、自身でやったほうが質の高い仕事ができる
その自信は彼を周囲から孤立させるものとなったが、彼が意に介すことは無かった
しかし、ここにきて手駒の少なさを大臣は痛感する
信頼のおける仲間、志を同じくする者、情報の漏洩、裏切り
ありとあらゆる可能性を、目まぐるしく計算し
そして大臣は一つの答えを弾き出した
大臣「よかろう。貴様には、しっかり働いてもらわなねば困る。事の次第を知っていた方が、動きやすかろう」
大臣「ただし、貴様の父のこと忘れるでないぞ。これは、貴様のこれまでの仕事ぶりを信頼してのものだと知れ」
大臣の結論は、『脅して使う』
盗賊を信頼してのものでは無いことは、明らかであった
――――――
~少し前
「陛下!おられますか!?」
王の書斎に、一人の男が飛び込んできた
ろうそくの明かりに照らされた男の顔には、びっしりと汗が浮かんでいる
その表情が、由々しき事態が起きていることを物語っている
王「そのように声を張らずともよい近衛兵長、儂はここにおる」
王「一体、どうしたというのだ?酷い汗だぞ」
近衛兵長「あの開かずの間の宝物庫が・・・暴かれた」
王は、ゆっくりと目を閉じ
大きく息を吐いた
王「・・・犯人はわかっておるのか?」
近衛兵長「まだだ・・・だが、ひとまず部屋は封鎖しておいた」
近衛兵長「一般兵に中を調べられたらまずい、俺の兵にも俺が行くまで決して部屋に入らぬよう厳命した」
近衛兵は、まるで知己と話すがごとく口ぶりである
しかし、王がそれを咎めることはない
王「そうか・・・鍵が失われて幾十年。いつかは来るものと覚悟はしていた」
王「王家終焉の時が・・・遂に来たか」
近衛兵長「まだだ!まだ終わりではない!」
王の言葉に、近衛兵長は強く反発した
近衛兵長「この国には、まだアンタが必要だ!終わらすわけにはいかない!」
近衛兵長「捜査は、俺が直々に行う!必ず、犯人を捕らえてみせる!」
「・・・しばし待て近衛兵長よ」
近衛兵長はギョッとして、声の先を探る
声の主である大臣は、書斎の扉を押して部屋の中に入ってきた
近衛兵長「大臣!?貴様いつからそこに!?」
王「・・・聞いておったのか」
大臣「申し訳ありません陛下!」
大臣「血相を変えた近衛兵長の姿を見たものですから。何事かと、馳せ参じた次第」
近衛兵長「それで、私たちの話を立ち聞きしていたと申すか!?貴様は礼儀も知らんのか!」
大臣「礼儀ね・・・よくぞそのような言葉が吐けるな」
大臣「近衛兵如きが、陛下に対してあの口の利きよう。如何に信厚き者と言え許されることではないぞ!」
近衛兵長「ぐ・・・」
大臣「ところで、宝物庫が暴かれたそうですな。それは一体、いつのことですかな近衛兵長?」
近衛兵長が視線を王に向ける
王「構わん、申せ」
近衛兵長「・・・まだわかってはおらん」
大臣「なるほど、この王城の警備は貴公ら近衛兵団の仕事であったな」
近衛兵長「あぁ・・・」
大臣「怠慢であるとは思わんか?宝物庫を暴かれただけでなく、その日時もいつかわからんと申すか」
近衛兵長「・・・!だからこそ、汚辱は自らの手で晴らして見せる!」
近衛兵長「必ずや、犯人の首を陛下の御前に!」
大臣「陛下、捜査は我が部下にお任せください」
近衛兵長「な、なにを申すか大臣!」
大臣「いや、先ほどはああ申したが。私は近衛兵団の精強さを以前から評価していたのだ」
大臣「近衛兵団の一兵卒ですら、かの勇者に届き得る力を持つとすら考えている」
突然の賛辞に、近衛兵長は困惑した
大臣「その近衛兵団を出し抜くほどの賊、そうありましょうか?」
王「まるで、賊に心当たりがあるかの言いようだが・・・?」
大臣「その様なことができる者は、この国にただ一人・・・勇者にございます」
近衛兵長「なっ!?」
王「なるほど・・・」
大臣「勇者のしでかした事件の後始末は、私直属の勇者補助係の主要業務」
大臣「彼らは、この一年勇者を追い続けておりました。現状において、勇者に最も詳しい者どもでございます」
大臣「捜査も迅速に行うことが可能です」
大臣「それに加えて、私直属であるがゆえに情報の機密性は非常に高い」
王「わが懐を探るつもりか・・・」
大臣「そのような気は毛頭ございません!」
大臣「陛下には、いえ王家には何やら重大な秘密がある様子」
大臣「しかし、私もまた国を守る者。どのような事実があれど、口外するようなことは誓ってありませぬ」
近衛兵長「王っ!捜査は我々にお任せください!」
近衛兵長が、大臣を押しやり王に縋りつき声を荒げた
もはや論理の欠片もない、それは懇願としか言いようのない叫びであった
大臣「なりませぬ!近衛兵団は一度とはいえ失態を犯しました!故に、この捜査に近衛兵が関わるようなことがあってはなりません」
王「・・・なるほどな。一理ある」
近衛兵長「陛下っ!」
王「よい、まずは犯人を特定する。それが先決だ」
王「大臣、お主に任せることとしよう」
――――――
ギィ、、、バタンと扉が大きな音を立てて閉まる
騎士と賢者の2人は、その音に正気を取り戻した
騎士「はっ!・・・いやあ、すまなかったね。まさか新人が、君のように可愛い女の子だとは思っていなかったものだからさ」
賢者「つ、ついつい驚いちゃいましたよ。いやあ、まいったなあ」
商人「」
遊び人「あらあら、見かけほどは若くはありませんわよ?」
ウフフと笑いかけながら、少女は商人へと近づき
大きく振りかぶって、商人の背中を平手で叩いた
遊び人「先輩!起きてくださいまし!今は、業務時間内ですよ!」
商人「はっ!・・・おっと、これは新人の前でダラシナイところを見せちゃったなあ、はっはっは」
正気を取り戻したものの、商人の目に生気は宿っていない
期待した新人が遊び人と知れた今、それも致し方のないことであった
騎士「じ、じゃあ、新人教育は賢者くんに任せようかな」
賢者「よおし!お兄ちゃんがビシビシ鍛えるからね!」
取り繕った二人の言葉に、遊び人は大きな大きなため息をついた
遊び人「・・・まあいいでしょう、お手柔らかにお願いいたします」
商人は、その様子を見て新人の太々しさに不安を募らせる
賢者「で・・・とりあえず、どうします?」
遊び人「はい?早速、業務に取り掛からないのですか?」
騎士「そうだった!」
騎士「遊び人さん、この部屋は近衛兵によって完全に封鎖されているんだ!」
騎士「うかつだった!遊び人さんが部屋に入るのは、なんとしても阻止しなくちゃならなかったのに・・・私としたことが」
遊び人の表情には、まだ少女特有のあどけなさが見て取れる
幼い子をもつ騎士であるが故の、遊び人への気遣いであった
遊び人「あらあら、私も侮られたものですね」
商人「おいおい、遊び人ちゃん。ちょっと上司への口の利き方がおかしかないか?」
騎士の好意を、まるで気にも留めない遊び人の答えに
商人が、苛立ちを抑えることなど出来るはずも無かった
いつになく険しい、その表情に遊び人はたじろいだ
遊び人「あっ!これは、失礼しました。なにぶん、まだ慣れていないものでして・・・」
遊び人「失礼いたしましたわ。騎士様」
先ほどの佇まいとは打って変わって、その姿に見合った裏表のない返しに
遊び人の正直さがにじみ出ていた
騎士「・・・構わないよ。それより『侮られた』と言ったね?」
遊び人「はい騎士様。新人として、皆様の置かれている状況は事前に勉強してきましたのよ」
遊び人は自慢げに答える
賢者「部屋に入ったら、出られないということは知っていたと?」
遊び人「その通りですわ、先輩」
商人「おいおい、本当に状況を分かっているのか?」
遊び人「社会には往々にして、こういったことがあると聞いております」
商人(・・・そ、そうなのか?)
賢者(少なくとも、私は初めてですけど)
遊び人「仕事が終わるまで帰れない。つまりこれは!一般社会で言うところの『缶詰』というものですわ!」
商人「遊び人ちゃんは、一体どこで社会について勉強してきたんだ・・・?」
賢者「さて・・話が一巡したようですね。で、どうしましょうか」
騎士「・・・仕事しようか」
商人「えー、まじすか」
騎士「外からの情報も得られない、こちらの情報も持ち出せない」
騎士「つまり、私たちに現状を打開する手段はないということだ」
騎士「ならば、やることは一つ『仕事』だ」
遊び人「業務時間内ですしね!社会人は仕事してナンボです!」
商人「遊び人が社会人を語るのか・・・」
賢者「騎士さんの仰る通りですね」
賢者「では、さっそく盗賊ちゃんが持ってきてくれた資料と部屋の状況を照らし合わせてみましょうか」
遊び人「応っ!」
騎士「・・・賢者くん」
賢者「・・・言葉使いは、仕事しながら覚えてもらうこととしましょう」
遊び人「あら・・・///私、また言葉遣いを間違いました?」
――――――
知性。勇者に求められるものは、それに尽きますね
そう、現勇者が持ち得ていないものです
だからと言って彼が勇者の資質を持ち得ていないとは思えません
足りない部分は、パーティーメンバーで補えばいい
しかし残念ながら、現勇者パーティーには武闘派しかいない
会ったことはありませんが、この一年間彼らの行動を追ってそう感じました
言ってしまえば、脳筋パーティーですね
とある砂漠の国で、勇者が王家の墓地から勝手に聖剣を持ち出してしまったことがありました
あの時、私たちが事後処理を怠っていたらどうなったでしょうか
旧砂の王家である侯爵家と、中央政府の対立軸が生まれていた可能性すらあります
偏った力の使い方をすると、どうしても世界に歪みが生まれます
そして、その歪みはは正さねばならない
つまるところ私たちのような別パーティーで、バランスをとる必要があるということです
勇者が勇者足り得ているのは、私たちのおかげと言っても過言ではない
私たちのサポートなしでは、勇者は各所で軋轢を生む害悪となっていたでしょうから
もし勇者パーティーに、勇者の暴走を抑えるブレーキ役が一人でもいれば
私たちは必要なかったことでしょう
まあ武力が必要と言うのもわかります。魔族と戦うのに口ばかりでは、どうにもなりませんからね
しかし、現勇者には是非とも知性を身に着けていただきたい
もしそれが無理なのであれば、次代の勇者に期待することとしましょう
――――――
騎士「それじゃあ、管理簿を読み上げるから。保管庫の現状と照らし合わせてね」
騎士「えーまずは・・・何だこれ?」
賢者「ちょっと見せてもらえますか?」
騎士から管理簿を受け取り、目を落とす
「ん?」声にもならない、音が喉から漏れる
終いには首を傾げ、ため息まで漏れた
賢者「これは、旧字で書かれていますね・・・」
騎士「旧字かあ・・・この管理簿も、相当古いものだし当然か」
騎士「じゃあ、悪いけど賢者くんに読み上げてもらおうかな」
賢者「えっと、期待してもらって申し訳ありませんが・・・旧字はちょっと」
騎士「ええっ!?賢者くん旧字読めないのかい!」
賢者「すみません・・・読めないことは無いんですが、ちょっと時間がかかりそうです」
騎士「いや、謝る必要は無いよ。読めないのは私も同じだ」
騎士がチラリと商人に目をやった
それに気づき、商人が胸を張って答えた
商人「ふふん、当然私も読めません」
騎士「だろうね・・・」
遊び人「では、僭越ながら私が読み上げましょう」
商人「ん、よろしく!」
商人「ってなるかボケ!」
賢者「遊び人ちゃん・・・旧字を読めるんですか?」
遊び人「ええ、わたくし詩歌も嗜むものですから。旧字も扱えますのよ」
商人「あ、遊び人のくせに?」
賢者「ちょっと気になっていたのですが、遊び人さん言葉遣いがちょっとアレですよね」
遊び人「あら、ごめんあそばし」
賢者「もしかして、どこかの貴族の御子弟なのでは?」
遊び人「・・・まあ、そうです」
遊び人の表情が陰る。探られたくない腹であることは明らかであった
騎士は、その表情を見逃さない
急な人員の削減、にもかかわらず同日中に補充される人員
幼い容姿に、その仰々しい言葉遣い、そして役人にあるまじき遊び人の採用
全てが、遊び人の採用が縁故によるものだと物語っていた
なれば、世渡りに長けた騎士のとる手段は一つであった
それは、『藪はつつかない』ことである
騎士「け、賢者くん親族に関する詮索は失礼だよ」
騎士の思惑を察知し、賢者も同調する
賢者「これは、私としたことが。失礼しました」
商人「しかし貴族の娘が、遊び人とはなあ。厳格な教育に反発して、グレちゃった感じか?」
空気を読まない商人に、賢者は顔をしかめた
しかし、遊び人の表情から陰はとれていた
「バレたら、もうしかたない」の心境なのだろう
遊び人「定職に就かず、遊び惚けている者は世間一般に遊び人でしょう?」
遊び人「私は詩歌を詠んだり、あとは花を生けたり、茶を嗜んだりして日々を過ごしてきました」
遊び人「まさに遊び人ではございませんか!」
騎士&賢者&商人(み、雅な遊び人だーっ!)
――――――
大臣「遊び人か・・・どう思う、盗賊よ」
盗賊「申し訳ありません。探ってみましたが、彼女に関する情報は一切出てきませんでした」
盗賊「少なくとも、ここ10年は王都付近に住んでいたとは思えません」
大臣「そうであるか、だが・・・私は彼女に会ったことがあるような気がするのだ」
大臣は、記憶を探るように頭を掻いた
会ったことがあるなら思い出せ。盗賊は強く念じるが
その思いは届かなかった
大臣「いや、忘れてくれ」
大臣「王の友人の娘とは言っていたが、王の間者と見るのが筋であろうな」
盗賊「ではどうして、彼女が勇者補助係に加わることをお許しになったのですか?」
大臣「断っても、王が捻じ込んだであろうよ」
大臣「なれば、無理をする必要はない。いまはまだ、陛下との対立が表面化するのは避けたいのだ」
盗賊「大臣は・・・陛下をどうされるおつもりなのですか?」
大臣の鋭い眼差しが、盗賊に突き刺さる
盗賊(あまり調子にのるなよ・・・ってとこかな)
盗賊の沈黙に気をよくしたのか、大臣は雄弁に語り出した
大臣「陛下は、衆民議会の設置による権力の分散や、行政府を設け官僚制を導入する等、国の政治構造の改革に力を注いできた」
大臣「確かに、権力の分散は一人の愚かな権力者を抑制し、官僚制の導入は合理的な行政を我々にもたらした」
大臣「しかし、弊害もある」
大臣「議会では日々終わらぬ権力闘争が行われ、官僚共は規則に縛られることに快感を覚えたのか、その志を失った」
大臣「いまや国政の滞りは著しいものなのだ」
大臣「国政の滞り、それはすなわち国にとっての大きな損失だ。損失は常に回避すべきであると、私は考える」
大臣「あの宝物庫にはな、この国の政治体制を変える大きな大きな火種が眠っているのだよ」
盗賊「つまり、陛下の弱みを握って傀儡と・・・?」
大臣「私を、侮るなよ盗賊」
大臣「権力が、行政府や議会に分散している昨今。陛下を傀儡と化したところで何になる」
大臣「仮に意のままに陛下を操る術を手に入れたとしても、何のメリットもない」
盗賊「しかし、陛下の発言は議会にも強い影響を持つと聞いております」
大臣「まあ、半分正解だ。陛下がその影響力を発揮できるのは、議会の内の衆民院においてのみだ」
大臣「陛下がこれまで行ってきた改革は、臣民の意見をより多く取り入れるもの。当然、衆民院からの支持を得られるのも当然だ」
大臣「だが一方で、権力構造の変革を望まない貴族たちにとっては陛下は疎ましい存在なのだよ」
盗賊「つまるところ、大臣は何を為すおつもりなのですか?」
大臣「私は、ただな。ただ、この国をより良くしたいだけなのだ。」
大臣「私自身の手によってな」
はぐらかされたか、滑らかになった舌から何か真意が出てこないものか
盗賊の淡い期待は、あっさりと裏切られた
実のところ、自身の父親のことは気にもかけていない
盗賊(父さんなら、そのうち飽きたら牢を破って逃げ出すだろう)
彼女に盗賊のスキルを授けた、張本人である父を信頼してのことである
では、彼女は何故大臣の手駒に甘んじているのか
それは、宝物庫に閉じ込められた勇者補助係の仲間を思っての事であった
盗賊「宝物庫には、一体何が隠されているのですか・・・?」
大臣「それはまだわからん。だが、王家が終焉を迎えるほどの何かがあったことは確かなのだ」
大臣「そして、その手掛かりは今、我が配下である勇者補助係によって押さえられている!」
大臣は再び、盗賊へと眼差しを向ける
その目には、炎のように熱く強い意志がメラメラと宿っていた
大臣「盗賊よ!何としても、中と連絡をとる手段を考えるのだ!」
――――――
遊び人「次はA-301棚ですね。宝箱が三つあると思いますが」
賢者「ああ、これですね。全部開けられています」
遊び人「そこには、王国金貨300枚と魔力回復剤、あと王者の剣があったようです」
賢者「あちゃー根こそぎですね」
遊び人「次は、書架に行きましょうか」
商人「そちらは調べておいたぜ。どの本も、埃を被ったままだ」
商人「勇者が手を付けた様子はない」
遊び人「あら、それを確認するための読み合わせでは?先輩」
騎士「もっともだな、面倒だが商人君。書架も照らし合わせてくれ」
商人「えーまじすか」
遊び人「ほら先輩、子供みたいに駄々をこねない!いい男が台無しですよ!」
商人「へえーい・・・」
賢者「・・・いいですね彼女」
騎士「まったくだ。どうやら我々は、二年連続で当たり新人を引いたらしいな」
賢者「商人君の扱いにも手馴れてます、とても少女とは思えませんよ」
騎士「お母さん気質なのかもなあ。どことなく盗賊ちゃんを彷彿させるよ」
賢者「ところで、騎士さん。宝箱を調べてわかったことですが・・・」
騎士「ほとんどの箱が荒らされている中で、手が付けられていない物がいくつかあったようだね」
賢者「黄金のツメ、聖者の短剣、黒檀のブーメラン・・・」
騎士「勇者パーティーは、勇者、戦士、魔法使い、僧侶の4人だったね」
賢者「いずれも、彼らには装備できない物ばかりです」
賢者「対して、剣や錫杖、大杖、その他消耗品は一切合切持っていかれています」
騎士「まあ、断定はできないけど、人の者を黙って勝手に持っていく感じは勇者そのものだね」
遊び人「はい、次の棚です『サルでもわかる 女の堕とし方講座 上中下巻』」
商人「あっ!遊び人ちゃん!下巻だけ無くなってる!」
遊び人「あらあら、犯人は助平に違いありませんわ」
遊び人「次は、『名画 裸婦画集 上下巻』」
商人「ぐへへ・・・って!函だけ残して上下巻ともに中身が抜かれてる!!」
賢者「・・・」
騎士「・・・まあ、勇者も年頃だし」
賢者「盗賊ちゃんには黙っておきましょう」
騎士「そうしよう・・・」
遊び人「黙っておくも何も、連絡手段がないですけど」
商人「あ、腹案ありまーす」
――――――
『うわああああああ!もう駄目だ!もう駄目だああああああ!』
宝物庫を中心に、王城全てに響き渡らんほどの叫び声が広がった
長時間の番を強いられ、意識がとびかけていた近衛兵は一瞬で臨戦態勢へと切り替わった
『お、落ち着いてください!商人くん!』
『何かちょうど良いものは無いのか!あ!これなんてどうだ!空の宝箱!』
『商人先輩!これです!これに出してください!』
『い、いやだあああああ!みんなの前で、うんこ垂れるなんてプライドが許さねええええ!』
『ほら!尻に魔法かけますから!沈黙魔法サイレント!はい!これで、音は漏れません!!』
『そういう問題じゃねえええええ!!!・・・・あっ』
『商人くん!?どうした!返事をしろ!』
一転して、沈黙が降りる
『し、死んでる・・・』
近衛兵「」
ほぼ丸一日閉ざされていた、宝物庫の大きな扉が
近衛兵の手によって開かれた
近衛兵「お、おい!一体何をしてるんだ!」
遊び人「あ!近衛兵さん!助けてください!商人さんが商人さんが!!」
商人「も、もう駄目だあ・・・近衛兵が勅命を守らねえわけがねえ・・・」
商人「おれたちは・・・一生この中で暮らすんだ、おれのうんことともに・・・」
遊び人「いやああああああああ!」
商人「いっそ、殺してくれえ・・・」
近衛兵「わ、わかった!しばし待て!近衛兵長に相談してくる!」
開かれた扉を、力強く締め
念入りに閂を差し込み
近衛兵は、自身の上司への相談へと走り出した
商人「・・・行ったか?」
賢者「そのようですね」
商人「おい!盗賊ちゃん居るんだろ!?」
商人「まどろっこしいのは抜きだ!機会は今しかない!」
商人は扉の向こうに、わずかながら気配を感じ取った
盗賊「・・・まだ漏らしてませんよね?」
商人「演技だよ!いや!このままが続けば演技じゃなくなるが!」
盗賊の登場に、一堂に安堵の息が漏れた
しかし、職長としての責任感故か騎士には焦りが見えた
騎士「盗賊さん!情報をくれ!一体、外はどうなってるんだ!?」
盗賊「ちょっと手短には話せそうにないです。こちらの状況は、なんとかお知らせする方法を考えます」
盗賊「先に中の情報をもらえますか?」
賢者「・・・帳簿と照らし合わせた結果、持ち出された品々から犯人が勇者である可能性は高いです」
盗賊「それだけですか?えっと・・・宝物庫の中に帳簿に載ってない品々なんかは、ありませんでしたか?」
盗賊の物言いに、商人の頭に疑問符が浮かぶ
騎士「いや、今のところはそれだけだ」
盗賊「わかりました。引き続き、調査をお願いします」
盗賊「ところで、遊び人さんは居ますか?」
遊び人が扉へと一歩近づき答えた
遊び人「お話は伺っております。貴方が盗賊さんですね」
盗賊「・・・貴方がどのような方かは存じ上げませんが、仲間を裏切るような真似だけは為さらないように」
騎士「・・・?」
遊び人「あらあら、見くびられたものですね」
盗賊「それと、商人さんには気を付けてください。何かされたら、すぐに大声を出すんですよ」
商人「どういう意味だ!失礼だぞ!」
遊び人「ふふふ、気を付けるのは商人さんの方かも知れませんわよ」
商人「えっ・・・///」
賢者「頬を染めないでください。気持ち悪い」
騎士「盗賊さん、私や賢者くんも居るから安心しなさい」
盗賊「ふふっ、そちらは楽しそうでいいですね・・・」
騎士「それはどう言う・・・?」
盗賊「おっと、近衛兵が戻ってきたみたいです」
盗賊「これにて失礼、にんにん!」
扉の向こうから、盗賊の気配が消えた
賢者「どうも様子がおかしいですね・・・」
騎士「無理をしているようだね・・・」
商人「たく、これだから真面目ちゃんは。手の抜き方も教えておくべきだったな・・・」
騎士の眉が、片方だけすこし吊り上がったところで
再び、扉の外に人の気配が現れた
近衛兵長「おい!まだ漏らしてないよな!?」
賢者「・・・」
商人「・・・」
賢者と商人が、視線をあわせ
そしてうなずいた
商人「あああああああああ!ああああああああ!」
賢者「ああ・・・プライドと便意の狭間で揺れているのですね商人くん・・・っ!」
近衛兵長「すぐに厠に連れて行ってやる!ただし、外部と接触など許さんからな!」
近衛兵長「逃げ出そうともするなよ!近衛兵を甘く見るなよ!」
商人「ああ!ありがとう!ありがとうごじゃいますううううううう!」
――――――
商人「ふう・・・今回は、まじでやばかったな」
商人「危うく、人としての尊厳を失うところだった」
用を足しながら、商人は頭を回す
外には監視役、さすがに垂れてるところは見られてないが)
ついでに盗賊ちゃんと接触できたら良いと思ったが、そう甘くはないか
いやいやいや、糞垂れてる最中に接触なんてできるか・・・
そう思いなおし、紙に手をのばしたところで商人は気が付いた
紙にはびっしりと小さい文字がしたためられていた
それは盗賊からの手紙であった
そこにはことの経緯と、大臣の不穏な様子
そして遊び人のことが書かれていた
商人「へ、ヘビィな話になってんなあ」
誰にも届かぬほどの小さい子で、商人はつぶやいた
――――――
商人「たーだーいまーっと」
賢者「・・・」
騎士「・・・」
遊び人「・・・あ、お帰りなさいませ」
明らかに空気が重い
3人は宝物庫に一つ置かれていたキングサイズのベッドを取り囲んでいる
商人「おいおい、みんな辛気臭い顔してどうしたんだ?」
賢者「これを・・・見つけてしまいました」
商人「お、犯人の尻尾でも捕まえたのか?遂に勇者も年貢の納め時だな」
おどけた商人が、賢者の肩越しにベッドを覗き込んだ
商人「って、なんじゃこりゃあああああああ!」
ベッドには、既に事切れた男が一人
紛れもない、国王その人であった
――――――
第二章 賢者「し、死んでる・・・!」 完
!?
そっちかーい!
宝物庫を開けるのに魔法の鍵が必要で
開いてた宝物庫を近衛が閉めて再度開けれるってことは近衛が鍵もってるの?
それとも封印そのものは一回といてしまうと魔法をかけなおさない限り宝物庫はあきっぱってことなのかしら?
頭が悪くて申し訳ない
近衛兵は鍵がないので、閂で扉を閉じています
地の文が、会話のテンポを邪魔してる気がする
前向きに検討させていただきます
地の文は無いほうが私もいいかな?
テンポで言えばだけど
ただ書き手がどっちがいいか変更しようか迷っててアンケとってるわけじゃないし好きなように書けばいいさ
善処します
俺は地の文有っても全く気にならないから今まで通りで良いです
今までどおりでよい
気にならないから今まで通りで良い
全く聞く気なくてワロタ
読者の意見を適度に聞き流す作者の鑑
戦士「首尾はどうだ勇者・・・?」
勇者「ああ、上々だ」
魔法使い「こんな短期間で、陛下への奏上原稿を暗記するなんて信じられない・・・」
僧侶「ほ、本当に勇者様なんですか?人が変わったようです」
勇者「・・・魔王軍に入隊して変わったのさ。俺はもう、かつての馬鹿な冒険者なんかじゃない」
勇者「職務を遂行し給与をもらう。今の俺は一端の社会人さ」
戦士「成長したな勇者」
魔法使い「見違えたわ・・・」
僧侶「やっと私たちの将来のことを考えてくださったんですね・・・」
勇者「さあ行こう皆!目指すは王都、俺たちの旅が始まった地へ!」
勇者が、虚空を払いその右腕を高く高く掲げる
まるで一枚の絵画のごとき、その美しき姿勢に3人の目はくぎ付けとなった
しかし、その握られた拳に奏上原稿の全文が、びっしりと書き込まれていることには
誰一人として気づきはしなかった
――――――
第三章
商人「今晩はお楽しみといきましょう!」
――――――
――――――
宝物庫の片隅に、そのベッドは置かれていた
天蓋とカーテンで仕切られたそれは、まるで一つの部屋のようであった
王の遺体は、ベッドに深く沈み込んでいる
上質な羽毛で作られているのであろう、柔らかさと温かさが約束されているはずのその中で
王の体温は冷めきっていた
商人「し、死んでんのか・・・?」
賢者「確認しました。脈もありません、瞳孔も開いています」
商人「なんで、今まで見つからなかったんだ・・・」
賢者「マットに埋もれていた上に、幾重にもブランケットが重ねられていました・・・まさか、人がいるとは」
遊び人「陛下・・・一体なぜこのようなことに?」
商人の疑いの眼差しが、遊び人へと向けられる
騎士「ととととりあえず、落ち着こう。このままじゃまずい、まずは死体を布団の中に隠そう」
賢者「そそそうですね、このままじゃ私たちが疑われかねない」
商人「いやいやいや、ちょっとまて。事件発覚直後から、この部屋は陛下直属の近衛兵が封鎖してたんだろ」
商人「俺たちが、いつ陛下を部屋に連れ込んで殺害するって言うんだ」
商人「どう考えても、勇者の仕業だろう!」
騎士「いや、そもそも陛下は殺害されたのか?病気や事故って線は」
遊び人「賢者先輩、陛下をお隠しになるのをお待ちください。もう一度、ご遺体を確認してみましょう」
賢者「・・・そうですね」
――――――
賢者「結論から言うと、他殺で間違いないですね。何者かと争った形跡があります」
賢者「首に致命傷がありました。死因はこれでしょう、つまり失血死です」
騎士「勇者と争ったと考えるのが妥当か・・・しかし、武器も持たない相手をあの勇者くんが殺せるかなあ?」
商人「正義のそろばん」
遊び人「?」
商人「陛下の右手に握られている物だ・・・あれは時に盾、時に矛となる最強の装備のひとつだ」
賢者「これが、そうなんですか?ただの大きなそろばんに見えますけど」
騎士「つまり、陛下は素手ではなかったと・・・」
商人「俺は長年、こいつを探し求めてきたんだ。ああ・・・こんな所で、相まみえることになろうとは」
商人は、王の右手からソロバンを持ち上げると滑らかに自らの懐へと運んだ
しかし、百科事典ほどの大きさがあるソロバンが懐に収まりきれるはずもなく
その半分以上が、顔を出している
遊び人「横領はだめですよ!」
商人「なっ!違うわい!これは横領なんかじゃない!」
騎士「・・・」
商人「いやだって!保管簿にもソロバンなんて記載はなかったじゃないですか!ということは、これは国有財産とは呼べない!」
商人「だから、横領ではない!」
賢者「記載がないのは、陛下の装備品だったからでしょうに・・・その場合だと、横領ではなくても窃盗になりますね?」
遊び人「王家所縁の品を窃盗ですか、ただじゃすまないでしょうね」
商人「ぐぬぬ」
商人は、しぶしぶ王の懐へとソロバンを差し込むも
やはり収まりきれず半分顔を出しているソロバンから視線が外れることは無かった
騎士「・・・勝手に持ち出したらクビだからね」
商人の羨望の眼差しを見逃さなかった騎士がくぎを刺し、ようやく商人はソロバンから視線を離した
賢者「・・・話を戻しましょう。陛下は正義のそろばんで、何物かと戦い、そして負けた」
騎士「争った現場は、ここではないだろうね。あの傷の深さだ、相当な量の血が流れただろう」
騎士「しかし、ここには血痕が見られない。つまり、陛下は息の無い状態でこの部屋に運び込まれた」
遊び人「犯行時刻はどうでしょうか?賢者先輩、陛下は亡くならられてからどれくらい経っていますか?」
賢者「・・・それが、さっぱりわかりません。体温は既になく、瞳孔も濁り切っていることから一日以上が経過していることは間違いありません」
賢者「それなのに、腐敗が進んでいる様子が一切ない。まるで防腐剤でも使っているみたいに・・・」
騎士「ちょっと考えづらいな・・・陛下が一日以上、姿を見せなくて近衛兵が黙っているわけがない」
商人「確かに妙ですね」
遊び人「すみません賢者先輩。私どうしても死後一日以上という見立ては間違いだと思いますの」
賢者「確かに私は医者ではありませんが、見立ては間違ってないと思いますけど・・・何故です?」
遊び人「今朝」
商人「ん?」
遊び人「私・・・陛下に、初出勤の御挨拶申し上げましたの」
商人「・・・死体に?」
賢者「面白くも無い冗談ですね」
賢者「さて・・・参りましたね」
賢者「遊び人ちゃんの言葉が事実なら、一つの仮説が成り立ちます」
賢者「陛下は二人いた・・・」
遊び人「・・・今朝、私が会った陛下と」
商人「いま俺たちの目の前にいる陛下ってわけか」
賢者「仮に、目の前の陛下が本物だとした場合」
賢者「遊び人ちゃんが今朝会った陛下」
賢者「いったい何処のどなた何でしょう?」
――――――
王の書斎
机に向かう王に、近衛兵長が背後から声をかける
近衛兵長「お前は、一体何を考えているんだ?」
近衛兵長の問いかけに、王は振り向くことなく答えた
王「勇者の件か?それとも、あの封じられた魔法の部屋の件か?」
近衛兵長「その両方だ!」
近衛兵長「勇者の件に関しては大臣も言った通りだ。魔族に寝返った勇者の帰還はこの都に大きな災いをもたらすぞ」
王「ほう?勇者が災いをもたらすか・・・まるで魔王の所業だな」
近衛兵長「冗談を言っている場合か!保管庫の件だってそうだ」
近衛兵長「なぜ、大臣の部下が部屋に入るのを許した!?」
近衛兵長「俺が勅命だと偽って部屋を封鎖していなければ、全てが白日の下に晒されていたんだぞ!」
王「隠したところで、部屋に侵入した犯人からいつかは情報が漏れただろうよ」
近衛兵長「そ、そうかもしれんが!」
王「まったく余計なことをしてくれたものだな、せっかく大臣に嘯いたものを台無しにしおって」
ため息をひとつ吐き出した王は、姿勢を改め近衛兵長へと向き直った
その顔は真剣そのものであり、近衛兵長も釣られて姿勢を正す
王「・・・儂はな、もうそろそろ王を退きたかったのだよ」
近衛兵長「だったら退けばいい、穏便に退位を申し出ればよかったじゃないか」
王「ふふっ、どうせ退くのなら派手にやりたいと思ってな」
近衛兵長「くそったれ・・・せめてあの時、30年前に奴が死んだ時に証拠を全て燃やしてしまえばよかったものを」
近衛兵長「お前が部屋の鍵を無くしてさえいなければ・・・」
自身の言葉に違和感を覚えたのか、近衛兵長は言葉に詰まる
近衛兵長「いや違う・・・そうじゃない。この危機を作り出したのは、お前自身・・・」
近衛兵長「・・・今のこの状況に至るために・・・お前、もしかして故意に証拠を残したのか?」
王「ま、その通りじゃ。鍵も実は無くしてはおらん、とある場所に隠しておいた」
王「いつか、儂達のやらかしたことが露見することを期待してな」
打って変わって、にこやかな笑顔を見せた王に
近衛兵長は呆れながらも、怒る気にはなれなかった
近衛兵長「なら、犯人にも検討がついているんじゃないのか?」
王「まあ、勇者であろうな。あの部屋の鍵を見つけられるとしたら勇者ぐらいしかおらん」
近衛兵長「・・・ったく、昔から破滅願望の強いやつだとは思っていたが。ここまでとはな」
王「なんじゃ、長い付き合いなのに未だ儂の好みを理解していなかったのか」
近衛兵長「長い付き合いか、そうだな」
王「初めて会ったとき、儂が望んだことを覚えておるか」
近衛兵長「・・・『人の営みは面白い、できればずっと眺めていたい』だったな」
王「そこまで正確に覚えておられると、逆に引くわ」
近衛兵長「・・・殺すぞ」
王「すまんすまん」
王「そう、儂の願いは人々の生活を、営みを傍目から眺め続けること。しかし今の儂はどうじゃ?」
王「人間たちの王。儂の立ち位置は本来ここではないのだ」
近衛兵長「そうか・・・俺は、お前に甘えていたのだな」
近衛兵長「だが、あの頃、あの悲惨な世界を救う知識を持っていたのはお前だけだったんだ。俺はお前を頼るしかなかった」
王「なら、もう良いじゃろう?儂の役目は、もう終わった。好きなようにやらせてもらうだけじゃ」
近衛兵長「そうだな・・・今まで、ありがとう陛下」
王「それで、お前はどうする?」
近衛兵長「うーん、そうだなあ」
近衛兵長「・・・まあ、今までお前に力を借りてきたわけだし。今度は、お前の望みを叶えるために尽力してみようかな」
王「・・・うん?できれば一人気ままにして欲しいんじゃが」
近衛兵長「何言ってんだ?このままだと、お前ギロチン台まで一直線だぞ」
王「む・・・老いたとは言え、そこらの連中に後れを取るとは思えんが」
近衛兵長「俺の近衛兵団だって敵に回るかもしれんぞ?この俺が丹精込めて育て上げた兵たちだ、勇者にだって引けはとらねえ」
王「お前の部下だろうに、どうにか宥められんのか?」
近衛兵長「残念だったな、奴らが真に忠誠を誓っているのは俺やお前じゃない。この国自身だ」
近衛兵長「俺達のやらかしたことがばれたら、容赦なしに殺しにくるだろうよ」
王「む、むう・・・」
近衛兵長「それに、当代の勇者だって帰ってくる。噂通りの男なら、そうとう手ごわいぞ」
王「・・・儂を守ってください。よろしくお願いします」
近衛兵長「よし!任された!」
――――――
遊び人「遺体を調べていて、もうひとつ気づいたことがありますの」
賢者「どうぞ」
遊び人「この遺体の陛下、仮に『遺体王』としましょう」
商人「酷いネーミングセンスだな」
遊び人「この遺体王ですが、『生存王』より大分若く見えませんか?」
商人「生存王どっからでてきた。いや何となくわかるけども」
賢者「うーん、あまり陛下に拝謁できる立場ではありませんからねえ。騎士さんにはどう見えます?」
騎士「私も似たようなものだよ。直接お会いしたことはほとんどない、が確かに若く見える」
商人「実の弟説に一票」
騎士「そんな話は聞いたことはないなあ、陛下の実弟は大臣一人だし」
商人「大臣が陛下の実の弟!?」
商人「初耳なんですけど!」
賢者「あまり知られてないですけど、そうですよ。陛下は御子が居られないので、大臣は王位継承権1位の王族です」
商人「じゃあ、遺体王影武者説に一票」
賢者「悪いですけど、この遺体の正体を探る意味はないと思いますよ。何にせよ生存王が、偽物である可能性が高いですから」
商人「なんでだよ?遺体王が偽物って可能性は否定できないだろ」
賢者「それなら、遺体を隠す必要がありませんからね。隠すということは後ろめたいことがあるからでしょう?」
商人「何か特異な事情があるとか」
賢者「そこまで考えていたら先が見えませんよ?」
商人「それもそうか」
騎士「現在の王が偽物だと仮定すると、犯行時刻は極めて膨大になるなあ」
遊び人「そうでしょうか?死体が腐っていない以上、それほどは日にちが経っていないのでは?」
騎士「さっき保管物を一通り調べた際に、ひとつ思い至ったことがある」
騎士「ここの保管物の状態はすこぶる良い、いや良すぎると言っていい」
騎士「ここの物がいつからあったかは知らないが、手入れがされることも無く最低でも30年近く部屋は閉ざされていたことになる」
騎士「にも関わらず、この状態の良さ。まるで時間が経過してないみたいじゃないか」
商人「たしかに、いくら密閉されていたとはいえ30年前の消耗品がそのまま使えるわけないか」
商人「勇者たちが、劣化した薬品を盗んでいくとも思えないし・・・」
賢者「・・・なるほど、保管庫自体に保管物の状態を維持する魔法が張ってあった可能性は否定できませんね」
騎士「そう、だとするならば。部屋が最後に閉ざされた30幾年前から、死体はここにあったと考えてもおかしくないわけだ」
商人「・・・その魔法って、まだ効いてるんですかね」
賢者「!」
騎士「・・・どうだろう?」
遊び人「死体の状況を経過観察できれば分かると思いますけど・・・」
商人「ばっかやろう!それじゃ遅すぎる!腐った死体と同じ部屋に居続けるなんて俺には無理だぞ!」
賢者「氷魔法 フリーズ!」
賢者「と、とりあえずこれで凌ぎましょう」
商人「だいたいさぁ、遊び人ちゃん。この遺体のこと、何か知ってるんじゃないの?」
遊び人「どういう意味ですの?」
商人「さっき便所に行った時、盗賊ちゃんから情報を受け取ったんだ」
商人「遊び人ちゃん、陛下側の人間なんだろ?」
騎士「陛下側・・・?」
商人「俺たちが閉じ込められている、この状況」
商人「どうやら俺たちは、この部屋にある何かを見つけたい大臣と、それを隠したい陛下側の政争に巻き込まれているみたいです」
騎士「ああ、やっと合点がいったよ・・・しかし、なんで一役人の私たちが政争に巻き込まれるかなあ・・・」
賢者「私たち、大臣の直轄部署ですからね。陛下側からしたら、私たちも大臣の犬に見えてるんでしょう」
騎士「えええ・・・大臣も、そういうことなら信頼のおける自分の手駒を使えばいいのに」
賢者「孤独な方ですから、動かせる手駒が少ないんでしょう。もしくは私たちは捨て駒なのかも」
騎士「勘弁してくれよぉ・・・」
商人「そういうわけで、遊び人ちゃん。入ったら出られないこの部屋に何の躊躇もなく入ってきたのは」
商人「君が、陛下側の人間で近衛兵と通じているから何じゃないかな?」
遊び人「なるほど、そういう疑いが私には掛かっているのですね。では質問にお答えしましょう」
遊び人「残念ながら、私は何も知りません」
遊び人「陛下の遺体の件はもちろんのこと、その政争云々の事も全くです」
――――――
「私の一族は、王国内でも最たる歴史をもつ名家の一つですの」
「当然、私は幼いころより貴族としての教育を受けてきました」
「今でこそ、遊び人と呼ばれますが」
「当時は、神童と称されるほどでしたのよ」
「本当ですよ?」
「私は、長い年月を自身の研鑽に費やしました」
「そして、数多の家庭教師からお墨付きをもらうどころか」
「彼らを遥かに上回る知識と礼節を身に着けるに至りましたの」
「自他共に一人前と認められてからは、当主である父の手伝いを任されました」
「非常にやりがいがある仕事でしたわ」
「父のスケジュール管理から、社交界への参加、対外折衝と」
「私が、身に着けた全てを十全に活用いたしました」
「そして、20年ほど前に父が亡くなりましたの」
「新しい当主には、年の離れた私の弟が就くことになりました」
「弟は、昔はお姉ちゃん子だったのですが当主となってからは男振りを上げまして」
「私が仕事を手伝おうとすると、嫌がるようになりました」
「弟曰く『姉さんは、これまで十分すぎるほど働いたんだ。困ったときは相談するから、しばらく遊んでいると良いよ』ですの」
「生まれてこのかた、学問と仕事に囲まれてきた私にとって」
「初めて与えられた余暇でした」
「正直、生活に張り合いが無くなってしまいましたわ」
「まだまだ体は若いのに、生き甲斐であった仕事を奪われてしまったのですもの」
「かと言って、独り立ちした弟の邪魔はしたくありませんでしたので仕事に復帰したいとも言い出しにくくて」
「そんな退屈な生活を送っていたある日」
「戯れに、勇者の絵巻物を手にしたのです」
「そう、あの伝説の先代勇者様の絵巻物です」
「ただただ人々の平穏を願い、その為なら自身すら犠牲にするその姿に」
「平和のためなら、あらゆるしがらみを超えるその破天荒さに」
「生まれて30幾年、初めての恋でした」
「当時はまだ、先代の勇者様も健在で」
「魔王を討ち果たした後は、王城にて剣術の指南役を務めていました」
「私は、あらゆる人脈を使って先代勇者様にお会いしようと努めましたわ」
「しかし結果として、その願いは敵いませんでした」
「若き国王の、民を顧みぬ悪政に憤怒した勇者が」
「その奏上を以て、王を諫め改心を促した」
「この逸話を、皆さんもご存知かと思います」
「知らない?勉強不足ですね商人先輩」
「でも良かった。これでまた一つお利口になりましたね」
「ええ、それで実は、その奏上を行った日以降」
「先代の勇者様の姿を見たものは、誰一人としていないのです」
「王への無礼を諫められ秘密裏に暗殺されたとか、故郷に帰り隠居したとか」
「噂は様々ですが、真偽はわかりません」
「ま、ありていに言って。私は失恋いたしましたの」
「それからは、また退屈な日々に逆戻り」
「名家の娘と言うこともあって、男どもが群がってきたりもしましたが」
「勇者様以上のお方は居ないと、全てお断りしていました」
「ただ昨年、新たな勇者が魔王を打倒すべく旅立ったと聞いたときは久々に心が躍りましたわ」
「勘違いしてもらっては困りますが、若き勇者に恋心を抱いたわけではありませんわよ」
「新たな勇者が生み出すであろう冒険譚、かつて私を湧き上がらた伝説の続編に期待を膨らましましたの」
「そうしたらまあ、私が住んでいた領内に勇者が来たというではありませんか」
「そのうえ、我が一族の先祖が眠る墓を荒らして伝説の剣を持って言ったとか」
「更には、どういうわけか私に勇者との縁談話まで舞い込んできて」
「先代の勇者様には、あんなに努力しても会うことすら敵わなかったというのに」
「まあ、私もいい年して独り身を貫いてきましたし」
「弟に、あまり心配をかけるのも悪いかと縁談を了承しましたの」
「恋心を抱いたわけではないと、先ほど申しましたが」
「いざ、結婚するとなると現代の勇者様は一体どのような方なのか?」
「その人となりに興味が湧いてきましたの」
「なれば、勇者様に近しい方々から話を伺おうと」
「弟から陛下に口添えを頼み込み、素性を隠してこの勇者補助係に参ったというわけです」
遊び人「というわけで」
遊び人「勇者に恋焦がれて、コネを駆使し勇者課に配属された世間知らずのお嬢様」
遊び人「それが私の正体ですわ」
――――――
騎士「ん?」
商人の口が、あんぐりと開きっぱなしになり
賢者が首を傾げ、騎士が頭の上に疑問符を浮かべた
商人「いやいあいやいやいや!おかしいぞ!なんか話がおかしいぞ!」
口火を切ったのは商人であった
賢者「ああああの、遊び人ちゃん・・・じ女性に、こんなことを聞くのは失礼と知りながら申し上げます」
賢者「貴方は一体幾つなんですか!?」
遊び人「あらあら、本当に失礼な殿方ですこと」
遊び人「そうですわね。生まれて半世紀ほど経っていることは間違いありませんわ」
賢者「そ、そうか!変化魔法で若作り・・・」
遊び人「怒りますわよ!決して変化魔法なんて使っておりませんわ!」
遊び人「・・・我が侯爵家には、時より私のような超常の者が生まれると聞きます」
騎士「不老不死なのかい?」
遊び人「いえ、それほどのものではありません。エルフ並みの長寿と考えていただければよいかと」
商人「てことは、てことはだよ?話を整理すると、もしかして遊び人ちゃんって・・・侯爵家の?」
遊び人「いかにも、あなた方が勇者様に了承をとることなく婚姻関係を結ばせた」
遊び人「侯爵家娘とは私の事ですわ」
騎士「」
商人「・・・本当に?」
遊び人「もちろん」
賢者「い、いや、遊び人ちゃんが自身の疑いを誤魔化す為に大ぼらを吹いている可能性も否定できません」
商人「ま、まあそうだな。だいたい、知り合って半日そこらの俺たちに自分の来歴をこうペラペラ話すわけがない!」
遊び人「まあ!聞いたのは商人先輩ではありませんでした!?」
商人「そうだけども!・・・い、いや、そうですけども!」
遊び人「あら、言葉遣いは変えていただかなくて結構ですのよ。この職場では、貴方の方が先輩なのですから」
賢者「先ほどの言葉に嘘偽りはないと証明できますか?」
遊び人「証明は出来ませんが、誓って真実ですわ」
騎士「二人ともそこまでだ」
遊び人「騎士様・・・」
賢者「しかし、騎士さん」
騎士「そこまでだと言ったはずだよ賢者くん」
騎士「素性がどうであれ、君たちは私の部下だ」
騎士「そうである以上、私たちは一つのパーティーとして一致団結して事に臨んでもらう」
騎士「そうでなければ、とてもこの困難な仕事を打開できるとは思えない」
騎士「だいたい、寄ってたかって新人をいびるなんて社会人としてどうかしていると思わないのかい」
賢者「ま、まあ仰る通りですね・・・」
商人「そうだな、揉めてる場合じゃないか」
遊び人「あら、意外と素直」
商人「社会人として、上司に逆らうのはどうかと思うしな」
遊び人「前言撤回ですわ、素直でない方。まるで、思春期の男の子みたいで可愛いですね」
商人「な、なにおう!」
賢者「遊び人さん、言葉遣い!」
遊び人「あら、失礼いたしましたわ」
騎士が手のひらをパンパンと二回鳴らした
騎士が一日の締めに入ったのを察し商人と賢者が姿勢を正した
騎士「さて、そろそろ就業時間だね」
騎士「今日一日、本当にみんなお疲れさまでした」
騎士「たった一日で、これだけ懸案事項が増えることなんて滅多にないよ」
遊び人(あることはあるんですのね・・・)
商人(いや、ねえだろ)
賢者「残業はよろしいので?」
騎士「情報は出尽くした感もあるからね、今日はここまでにしよう」
騎士「ただ明日からは、一気に処理していくよ!」
商人「お!遂に、俺たちの逆襲が始まるわけですね!」
賢者「へえ、商人君がこんなに仕事に意欲的なのは初めて見ましたよ」
遊び人「なんだか、わくわくしてきましたわね」
賢者「それで、何か策はあるんですか騎士さん?」
騎士「う、うん」
騎士「ど、どうしようか・・・みんな?」
遊び人(台無しですわ・・・)
皆の白い目に晒され、騎士の額から青い汗がにじみ出した
騎士「し、商人君・・・なんか良いアイディアある?」
商人「もちろんです!と言いたいところですが、明日にしましょう」
賢者「何故です?」
商人「もう、五時です。アフターファイブと行きましょうや!」
声を上げた商人の右腕には、どこから取り出したか蒸留酒が握られていた
――――――
盗賊「大臣、補助係と二回目の接触に成功しました」
大臣「手際が良いな、あの厳重な警備をどうやって掻い潜っているのだ」
盗賊「一回目の接触と同様に、厠で手紙のやり取りを行いました」
大臣「二度、同じ手が通じたのか・・・近衛兵も大したものではないな」
盗賊「同じ手は通じませんでした。厠にて賢者と接触を図ろうとしましたが、近衛兵の監視の目が離れず失敗しました」
大臣「なれば?」
盗賊「今回接触に成功したのは、接触者が遊び人だったからです」
大臣「・・・そういうことか」
大臣「自らの手の者なら、監視する必要すらないであろうからな」
盗賊「と言うより、女性の厠までは流石に近衛兵も着いてきませんでした」
大臣「しかし、情報元が遊び人となると意図的に情報が捻じ曲げられている可能性も・・・」
大臣「まあいい・・・何か新しい情報はあったか?」
盗賊「お耳を」
盗賊(保管庫の中に、陛下の御遺体が隠されていたそうです)
大臣「!」
大臣「なにか、証明できるものは受け取っていないのか・・・?」
盗賊「ここに」
大臣「よく部屋から持ち出せたものだな」
盗賊「あら大臣、御存じないのですか?女性には体の至る所にポケットが付いているんですよ」
大臣「貴様も冗談を言うのだな。それで?物を見せてみろ」
大臣「王家の指輪!」
大臣「・・・そうか、そういうことだったのか!」
盗賊「?」
大臣「兄王は既に天に召されておった!ならば、私がやることは一つだ!」
盗賊(兄王・・・?)
大臣「盗賊よ!貴族院議長及び衆民院議長の下へ走れ、行政府令に基づいて緊急に両議会を開く」
盗賊「こんな時間にですか?」
大臣「国家の存亡に掛かる事態である!急げ」
盗賊「議題は如何に?」
大臣「国家存亡に掛かる喫緊の課題についてとでも言っておけ、詳細は追って知らせるともな。日時は明日、正午より」
大臣「場合によっては緊急動議も発する。全議員の3分の2を招集する!」
大臣「必要なら召喚魔法を使い議員を呼び出す、召喚魔法の行政府令も用意しておけ」
盗賊「はっ!」
大臣「ふはははは、勇者め!やってくれたな!奴が帰ってくる頃には、この国は私の物だ!」
大臣「王も無警戒に過ぎたな、魔法で封印していたとはいえ自身の弱みを城内に隠しておくなどと」
大臣「結果、勇者に部屋を荒らされてこのザマだ!」
大臣「ん?」
大臣「勇者に部屋を荒らされて?」
大臣「奴は、この国から最も離れた魔王城にいるというのに、一体いつ部屋を荒らしたのだ?」
大臣「王都を出発した頃か・・・?いや、そんなに長期間。部屋が荒らされたことに気づかないわけがない」
大臣「部屋を荒らしたのは勇者ではない?」
大臣「だが、騎士たちの報告では勇者の疑い強しと・・・あやつらも無能ではない。報告は信頼に値する・・・なれば・・・」
大臣「・・・っ!」
大臣「伝説の勇者・・・っ!転移魔法っ!」
大臣「だ、だとしたら勇者は、その気になればいつでも王国に帰ってこれる!」
大臣「ま、まずい!」
――――――
教会が朝の鐘を鳴らす
王都の人々が、窓を開け朝を部屋に迎え入れるさ中
常に街の入り口に居る一人の男が、声を発した
王国民A「ここは、王都。この国の中心だよ」
???「知ってる」
勇者「 た だ い ま ! 」
――――――
第三章 商人「今晩はお楽しみといきましょう!」 完
乙
更新お疲れ様です
エルフ並みの美貌の才色兼備とくりゃ
生涯の愛をつらぬくわなぁ
前作末尾で勇者が本当の意味で勇者だと思っていたが
ちくしょうめぇww
勇者の熱い手のひらクルーが見られるのかな?
さては公務員だろ
商人「もう、五時です。アフターファイブと行きましょうや!」
商人の右手には、何処から取り出したものか蒸留酒の瓶が握られていた
賢者「いったい、どこにそんなもの隠し持っていたんですか」
商人「さて、どういうわけかデスクの裏側に隠してあった」
騎士「盗賊さんからの差し入れと言うわけかな」
遊び人「気の利く方なのですね、しかし仮にも職場で飲むってのは気が引けますわ・・・」
商人「さて、これを見ても同じことが言えるかな」
商人の左手には、これまた何処から取り出したものかビーフジャーキーが握られていた
商人「これぞ、我ら勇者補助係の最強装備!これに抗えるかな遊び人ちゃん!?」
遊び人「それも机に隠してあったのですか?」
商人「いや、これは俺たちの持ち込み品」
賢者「旅先から呼び出された挙句、旅支度を解く間もなくここに放られましたからね」
騎士「と言うか、近衛兵達は食事も持ってきてくれないね・・・私たちを飢えさせるつもりなのかな」
賢者「私たちの持ち物を把握しているとは思えませんし、ただの嫌がらせだと良いんですけど」
賢者「ただ万が一に備えて、食料は節約したいんですね」
騎士「このまま、保管庫に一生閉じ込められるなんてことにはならないよね・・・」
遊び人「最悪の場合、あり得るかと思いますわ」
商人「まったく、悲観的だなあ。奴らだって、人死にまでは出しやしませんって」
商人「それに、今日は新たな仲間を迎え入れたんです。年齢的には先輩なんでしょうけど、社会人としては俺たちが先輩なんですから」
商人「祝ってやらな、男がすたりますよ!」
騎士「いいのかなあ・・・」
商人「まあまあ、これは作戦の一つでもあるんですよ」
賢者「と、言いますと?」
商人「この保管庫には厠がない、近衛兵も監視付きでなら厠に行くことは許してくれている」
商人「厠に行けば、外部との接触、まあ盗賊ちゃんと情報のやり取りができる機会が増える」
商人「しかし、奴らの目は生半可な演技じゃ誤魔化せない。そこで、この酒ですよ」
賢者「たらふく飲んで、厠へ行こうってことですか?」
商人「そうそう」
遊び人「ただ、飲みたいだけじゃないかしら?」
商人「そりゃあ、遊び人の台詞じゃあねえな。それとも高貴な遊び人は酒も嗜まんのかい?」
遊び人「あらあら、安い挑発ですが乗って差し上げましょう」
賢者「騎士さん、どうします?」
騎士「まあもう、業務時間外だし好きにやろうよ。私もちょっと疲れたし少しだけ飲みたい気分だ」
商人「さっすが騎士さん!話がわかる!」
遊び人「ほら、さっさと栓を開けなさい。遊び人の本領を見せて差し上げますわ」
賢者「グラス出しますから、ちょっとお待ちください」
賢者が、いそいそと旅荷物の中からグラスを取り出し皆に配った
それとほぼ同時に、商人が瓶の蓋を開ける
しゅぽん、まあまあまあ、とっとっと、おっとっと
賢者「騎士さん、みなさんの飲み物が揃いました。よろしくおねがいします」
騎士「えー、こほん。では手短に。まずは遊び人さん、ようこそ我が勇者課補助係へ」
騎士「慣れないことも多いだろうけど、間違いを恐れずに大いに失敗して大いに学んでほしい」
騎士「そして、いま我々は非常に困難な状況に置かれているわけだが」
商人「・・・」
騎士「思い返せば約1年前、勇者を追いかけr」
商人「かんぱーい!」
遊び人「かんぱーい!」
賢者「・・・か、かんぱーい!」
騎士「・・・かんぱい」
――――――
商人「で、どうしますよ今後の方針。決めておいた方がよくないですか?」
騎士「酒が入った状態でやる話かい?おじさんとしては遊び人さんの話がもっと聞きたいなあ」
蒸留酒のビンは既に空となっており、これまたどこから取り出したものか騎士の手にはワインが握られていた
騎士「おっ!これすごいよ!このワイン!私が生まれた年の物だ!」
賢者「・・・ん、あっ騎士さんそれ」
商人「いやいや騎士さん!酒が入った今だからこそ、腹を割って話そうじゃありませんか!」
商人「ほらほら、遊び人ちゃんも忌憚ない意見を述べちゃいなよ」
遊び人「んー、まあとりあえず状況の整理から始めませんかあ?」
騎士「ん、賢者くんよろしくう」
賢者「・・・まあいいでしょう、では順序良くいきましょうか」
賢者「まず懸案事項その一、保管庫荒らし犯人について。まあ、これは我々の通常業務ですから粛々と進めましょう」
遊び人「具体的にはどうしますの?正直、手詰まり感がありますがあ」
賢者「そうですね、あとは容疑者さんから直接話を聞けると良いんですが」
騎士「まあ、あの勇者くんのことだ。問いただせば、悪びれもせず答えてくれるだろうよ」
商人「厄介だなあ。奴が自白なんかしやがったら、また尻拭いをしなくちゃいけないってことか。俺はもうやだよ」
賢者「その程度、我々なら軽くこなせますよ。その後に控えていることを考えればね」
商人「ん?」
賢者「まあまあ、順序良く行きましょう。懸案事項その二、遺体王の件です」
賢者「これは、我々の本来の業務とはかけ離れています。正直、この件には関わりたくないのですけど」
騎士「そういうわけにもいかんさ。言葉には出してないとはいえ、大臣が我々をこの部屋に送り込んだ狙いはそれだろう」
騎士「大臣の考えを忖度して行動すべきだ。つまるところ、証拠の保全ってやつだねえ」
遊び人「つまらない答えですこと、騎士君はそれでも男ですか!?股にぶら下ってるものが泣いていますわよ!」
商人「この糞ガキ、騎士さんになんて口の利き方しやがる!謝れ!あーやーまーれー!」
騎士「まあまあ、ここは無礼講でいこうじゃないか。彼女は、ああ見えて私たちより一回りも二回りも上なんだからさ」
商人「騎士さんがそういうなら」
遊び人「ちょっと聞き捨てなりませんことよ!二回りは言い過ぎではありませんか!」
賢者「まあまあ、落ち着いてください」
騎士「まあ、さっきのは建前だよ・・・私としては、大臣の狙いより私たちの立場を守るほうを優先したいもんだね」
商人「そりゃあ、俺だって同じですよ。王側と大臣側、うまく立ち回って是非とも上手い汁を吸いたい」
遊び人「あら、甘い考えですこと」
商人「わかってるよ!そんな立ち回りができるなら、そもそもこんなことになってねえよ」
賢者「要は、大臣側と陛下側どっちにつくかという話ですよね」
商人「現状、判断できん!」
賢者「ごもっともで」
遊び人「・・・私たちは大臣の直属ですよ?しかも、陛下には何やら重大な秘密がある様子」
遊び人「そこにある、ご遺体が全てを物語っているではありませんか。『正義は大臣にあり』ではなくて?」
言葉とは裏腹に、遊び人の表情は重い
感情的には王側につきたいのであろうが、社会人としての理屈、状況証拠、全てが大臣に傾いていることに
一人の大人として、目を背けることができないのであろう
賢者「そりゃあそうなんですけど、私はどうも今の陛下を嫌いになれないんですよね」
遊び人の心情を察してか、賢者は感情論を振りかざした
それは、この場が社会人としての公の場ではなく一私人達の酒席であることを遊び人に伝える意図があったのであろう
遊び人「それはまたどうしてですの?」
賢者「今の政治体制を築き上げたのは陛下ですよ?自らの特権の多くを、議会や行政府に委譲し」
賢者「国民の意見を多く取り入れるため、衆民院まで設立した。身を切る改革とはこのことです」
遊び人「陛下の政を評価してらっしゃるのですね」
賢者「その通りです」
騎士「まあ、そんな陛下もかつては自身の懐を肥やすことに執心していたんだけどね」
商人「へえ、そうなんですか」
騎士「なんださっきの遊び人さんの話を聞いていなかったのか?勇者の奏上以来、人が変わったように政治に熱心になられたんだよ陛下は」
商人「・・・人が変わったようにですか」
騎士「人が変わったようにさ」
遊び人「では、ここにある遺体王は・・・」
賢者「そういうことなんでしょうねえ・・・」
騎士「まあ・・・生存王が一体誰なのかは置いておいて、彼の行った改革は人民のためになっている」
騎士「複雑な心境だなあ・・・懸案事項その二については、どういうスタンスで臨むべきだろうか・・・」
遊び人「私としても、陛下に味方したいところですけど・・・」
自身の言葉に、遊び人はハッと表情を曇らせた
遊び人「・・・失礼、今のは聞かなかったことにしてください」
遊び人が不意に見せた言葉に、商人の目が新しいイタズラを思いついた子供のように怪しく光った
その怪しい光は、線となってその意図と共に賢者、そして騎士の目に届いた
「遊び人ちゃんの本心を引き出してみようぜ」
賢者が「やれやれ」と言わんばかりにため息をついたところで、一際大きな声を商人があげた
商人「この遺体、焼き払っちゃいましょうゼ」
賢者「隠蔽しちゃうってことですか、気が進みませんねエ」
商人「そうか?俺たちで事件を握り込むのは初めてじゃないだろ、今なら事が大きくなる前に揉み消せル」
遊び人「この遺体の事、大臣や議会・・・いやこの国の国民全てから隠匿するということですか?」
商人「そうなるナ」
賢者「王側は私たちの行いを高く評価してくれるでしょうね、大臣に捨てられたとしても将来は安泰でス」
騎士「いやいや、言葉が悪いよ賢者クン!それじゃあ、まるで私たちが保身に走っているようではないか!」
騎士「私たちは勇者課、仮にも勇者の名を冠する者たち。国民たちの事を思えばこそ王側につくのが正義に違いなイ!」
遊び人「陛下側につくということですの・・・?」
商人「まあ、結果的にはそうなるな」
遊び人は、違和感を覚えていた
三人の言葉を額面通りに受け取れば、彼らは陛下の味方になってくれるように見て取れる
しかし、どこか芝居がかったその口ぶりから感じられるものを一言で表すならば
「マゾヒストの挑発」
自らを縄で縛り上げ、三角木馬の上に三人がかりで跨り、振り降ろされる鞭を待っているようなそれに
上流階級で育った身として、できれば目を背けスルーしてしまいたかったが
酒が回ったせいだろうか、はたまた生来のS気質がそれを許さなかったのか
遊び人は、彼らの挑発に抗うことが出来なかった
遊び人「まったく、呆れた人たちですわ!私が、陛下可愛さにその下卑た動機を見逃すとでも思っているのですか!」
待ってましたとばかりに、騎士の顔が綻ぶ
遊び人「なんとも汚い男たち!乗って差し上げます!あなた方は間違っています!」
遊び人の振り上げられた右手には、どこから取り出されたものか既に空のビンが3本握られていた
その空ビンのラベルを、賢者だけが涼やかな目で読み取っていた
――――――
商人「それじゃあ遊び人ちゃんの御高説を賜りましょうか皆さん」
賢者「お、いいですねえ」
騎士「遊び人さん、ここは無礼講だ。遠慮は不要だよ」
遊び人「申し上げますわ!」
遊び人「まずなにより!陛下側も大臣側もありません!私たちが尽くすべきは国民でしょうに!」
遊び人「真実は全て白日の下に晒されるべきです!行政府に、議会に、そして国民すべてに知らせなくてはなりません!」
遊び人「そのうえで判断がなされるべきことを、何をもって私たちの職場内だけで片付けようとしているのですか!?」
遊び人「まさか、勇者課なんて呼ばれているうちに自分が勇者であると思い違いをしてしまったのではありませんか!?」
賢者「むう、確かに私たちの言動は独善的に過ぎたかもしれませんねえ」
遊び人「そもそも、勇者は何でもかんでも好き放題にやっていいなんて法はありません!」
騎士「おおぅ、だいぶ支離滅裂になってきたぞ」
商人「でもよお、今の勇者はそうだぜ。好き放題にやって、俺たちをいつも困らせる」
遊び人「貴方たちの知る勇者は、確かに自分勝手なところがあるようですわね!しかし、あれは私の知る真の勇者とはかけ離れたものです!」
遊び人「真の勇者とは、常に周囲の人々に寄り添って然るべきなのです!」
遊び人「商人さんは、かつて伝説の冒険商人に憧れたそうですね!?」
商人「む、昔の話だ!」
遊び人「その気持ちが僅かにも残っていないと言えますか?勇者と呼ばれるものへの憧れが、貴方自身の目を曇らせているように私には見えますわ」
商人「どういうことだ・・・?」
遊び人「貴方は勇者に憧れるあまり、勇者に近づきつつある!しかし、それは貴方の忌み嫌っている独善的な偽物の勇者にです!」
商人「ああ?おちょくってんのかお前」
遊び人「いや、仕方ありませんね。あなた方はみな、真の勇者のことを。先代勇者のことを物語の上でしか知らないのですから!」
賢者(それは、貴方もでしょう・・・とは言い辛い雰囲気ですねえ)
遊び人「よろしいでしょう!あたくしが語って進ぜよう!ああー、あれは、えっといつのころ・・・あ」
遊び人「むかしむかしあるところに・・・に・・・い・・・」
電池が切れたように、遊び人があおむけに倒れた
先ほどとは打って変わって、涼やかな寝息が宝物庫に流れ出た
騎士「え?あれ?この娘、いつのまにこんなに酔っちゃったの?」
賢者「飲ませちゃあいませんよ、一人でハイペースで飲んで、勝手に酔っぱらっちゃいました」
商人「乗せたのは俺たちだがよ、ここまで好き放題行って逃げられると癪にさわるなあ」
商人「まったく、遊び人を名乗るにはちいっと情けねえな」
商人が、遊び人を抱え上げ宝物庫に唯一置かれているベットに投げ込んだ
衝撃の一切を受け止めたベットが、遊び人を深く優しく包み込む
商人「まったく、しょうがないババアだな」
商人の言葉に反応してか、ベットの奥深くからうめき声があがった
商人「悔しかったら一人でベットから這い出してみろ!」
騎士「発言には気を付けてね商人くん、レディはいくつになってもレディのままなんだから。それ相応に扱わないと」
賢者「しかしあれですねえ。だいぶ、支離滅裂でしたけど。なかなか興味深いお話でしたね」
商人「要は、俺たちに真の勇者たれってことだろ?何だよ、真の勇者って」
騎士「まあ、年の功だろうか。何となくだけど、私たちが向かうべき道は見えてきたかな」
賢者「具体的には?」
騎士「いや、それを皆で考えようか・・・」
商人「結局、振出と変わらないじゃないですか!」
賢者「さて、落ち着いたところで懸案事項その三にいっていいですか?」
騎士「ん?まだ、何かあったっけ?」
商人「宝物庫荒らしの件だろう、遺体王の件だろう・・・まだ何かあるって言うのか?」
賢者「お忘れですか?」
賢者「 勇者の裏切りの件ですよ 」
――――――
うわあ、飲みすぎた
俺はいつもこれだ、嫌なことがあると酒に逃げるきらいがある
それが、世間一般的に褒められたことがないってのはわかってる
でも、それしか手段を知らねえんだよ
くそ、遊び人の奴め。言いたい放題嫌がって
俺が勇者に憧れているだあ?んなわけあるか、俺が憧れているのは伝説の冒険商人だ
むしろ先代勇者にしろ、今の勇者にしろ俺からしたら彼の方がよっぽど勇者だわ
平和のためではなく、金のため、自身の利益のために動き
公共の福祉なんざいざ知らず、自分勝手に生きながらも周囲に安寧をもたらす
平和だとか安っぽい言葉を並び立てる輩なんか信用成らねえ
商人が信じるのは、なにより自分に優しい。そんな伝説の冒険商人なんだよ
ああ、柔らけえなあこのベッド
さすが、王侯貴族様のベッドだ。いつか、俺の部屋にもこいつを設えたいものだ
ん、なんだ、人の気配がする
なんで、俺のベッドに他のやつが潜んでやがるんだ
ああそうだ、思い出した
俺が、あいつを投げ込んだんじゃねえか
可愛らしい少女のなりをしながら、中身は50幾つを数えるクソババア
あ、いい匂いがする
そういえば、久しく女を抱いていねえや
長旅だったもんな、パーティー内には盗賊ちゃんもいたし
あ、これはやばい、胸がどきどきしてきたぞ
ちょ、ちょっとだけ、手ぐらいなら握っても問題ないよな
どなたか、どなたか異議申し立てはございますか
うん、異議なし
どうせ相手は、中身ババアの妖怪みたいなもんだ
誰も文句は言うまいて
ん、意外に骨ばってるな、というか骨と皮みたいに細いぞ
しかも冷たい、まるで氷に触れているみたいだ
ああ、でも逆にその冷たさが心地いい
気持ちいい
意識が薄らいできた
ああ、心配事も薄らいでいく
眠れそう
zzz
――――――
賢者「おはようございます、商人くん」
商人「ん、ああもう朝か」
騎士「きみ・・・何してるの・・・?」
商人「あ、こ、これは違うんです!なんか冷たくて、気持ちよくて・・・あ」
商人が慌てて繋がれていた手を放した
しかし、その先にあったものは
細く、冷たく気持ちよかったその手は、物申すことのない王の腕から伸びていた
遊び人「ぷっ、ふっふっふははは!いくら寂しいからって陛下の遺体と手をつないでナニをしていたのですの?」
商人「」
――――――
最終章
遊び人「昨晩はお楽しみでしたね!」
――――――
もう最終章かー
――――――
近衛兵長「陛下!大臣が緊急に会議を行うと宣言いたしました!」
王「うむ、既に聞いておる」
近衛兵長「くそっ、遂にばれたか。これはいよいよ、逃げ出すしかねえな」
王「そうしたいところは山々なんだがな、大臣から儂にも出席願いたいと申しだされておる」
近衛兵長「そんなの無視しろよ!それどころじゃねえぞ!」
王「いや、儂は応じるつもりじゃ」
近衛兵長「な、なぜ!?」
王「まあ、立鳥跡を濁さずと言うしな。王としての最後の仕事、果たしてからトンずらしようかと」
近衛兵長「この期に及んでまだそんなことを!」
王「それに言ったじゃろ、最後は派手に締めくくりたいと」
――――――
大臣「遂にこの日が来たな・・・」
盗賊「ほぼ全ての議員の招集が完了しています。緊急動議の件も、貴族院の方々にお伝えしておきました」
盗賊「一部、特に衆民院議員からは反抗もあるかと思いますが、大勢はこちらにあるかと」
大臣「うむ、よい働きぶりだ盗賊よ。お主の父も、きっと喜んでおるであろう」
大臣「これが終われば、晴れて自由の身だ。それまでは裏切るでないぞ」
盗賊「・・・はい」
――――――
商人「」
賢者「ほらほら、元気出してください。決して口外したりはしませんから」
遊び人「賢者先輩、そんな阿呆に付き合ってる暇はありませんことよ。私たちには大事な業務があるのですから」
騎士「それも、手詰まり感あるんだけどね・・・さて今日は、何に取り組もうか」
――――――
勇者「よし、いくぞみんな!俺たちは、これから真の英雄となる!最後までついてきてくれるか!?」
戦士「ああ、もちろんだ勇者」
魔法使い「何をいまさら、地獄の果てまでついていくわよ」
僧侶「ああ、遂に私たちの旅も終わるのですね!ゴールイン、これからは勇者様との安らかで落ち着いた日々が待っている・・・」
――――――
九つの鐘が鳴る
人々を労働に導く鐘だ
多くの店が扉を開け、喜び勇んで客を招き入れる
王国城内にある大議場の重い扉も開かれる
しかし招かれるのは、喜ばしい客だけとは限らない
鐘は鳴る
まるで物語のファンファーレを告げるかのように
厳かに、そして盛大に、その音を都中に響かせた
――――――
王国城内には、その広さを利用し
国政に関わる多くの組織が居を構えている
王国議会の全ての審議が執り行われる会議場も、かつてダンスホールとして使われていたホールを改装したものである
その広さは城内でも随一で、中央ホールにはその広さを贅沢に使い壇上が置かれ
壇上を取り囲むように議員たちの席が設けられている
この日、全ての議員席が埋まっていた
大臣の招集に基づき、王都に在する議員は馬を走らせ、遠方の議員は召喚魔法によって呼び出されたためである
ホールの二階、バルコニーの一部は解放され、多くの国民が議会の進行を眺められるように配慮されている
そのバルコニーの一角、壁で仕切られ驕奢な椅子が置かれた区画に王はいた
王国の新たな時代を見据えて、ただ黙って議会を見守っている
貴族院議長「貴族院及び、衆民院議員のみなさま、おはようございます」
貴族院議長「本日は、大臣の緊急の申し入れに基づき両院合同での緊急議会を開催いたします」
貴族院議長「事の重要性から、陛下にもご参列いただいていることを付け加えて申し上げておきます」
貴族院議長「それでは、大臣より今会議の重要議題についてご説明いただきます」
大臣が壇上に立ち、声を張り上げた
大臣「みなさま。この忙しい年の暮れに、緊急にお集まりいただき申し訳ございません」
大臣「しかしこの度、看過できぬ事態が王城内にて起きております。議会及び、行政府ともに立ち向かわなくては、この国の根幹すら及ぼしかねない事態です」
大臣「慣例にそぐわずに、陛下にご列席頂いておりますのも、その故でございます」
王「・・・」
大臣「いえ、この際はっきりと申し上げましょう。この国難の事態にあって、その中心にあるのが陛下ご自身なのでございます」
「だ、大臣は何を言っているんだ?」
「陛下自身が国難だと!?」
大臣「先日、王城内の宝物庫に賊が侵入し王家ゆかりの品々を盗難されました」
大臣「私は、行政府の庁として部下に捜査を命じ。とあるものを発見したとの報せを受けたものでございます」
大臣「こちらをご覧いただきたい」
大臣が右手を掲げる、その人差し指には赤く気高い光を放つ指輪がつけられていた
大臣「いま、我が手に収まっている指輪。これは、陛下が紛失されたとされる王家の指輪にございます」
「なぜおまえが指輪を付けている!不敬だぞ!」
「それがどう、国の緊急事態に結び付くのだ!むしろ紛失されていた指輪が見つかって喜ばしいではないか!」
議員たちからの声も、大臣は意に介さず続ける
大臣「わたくしの部下が、この指輪を宝物庫内にて発見いたしました。この指輪は、宝物庫内のとても意外なところにあったそうです」
大臣「そう、宝物庫内には姿かたちが陛下と寸分たがわない遺体があり。そしてこの指輪は、その遺体の指にはめられていたのです!」
大臣「わたくしは常々思っておりました。陛下は、いえここは敢えて兄と呼ばせていただきましょう」
大臣「およそ30年前、兄王は私利私欲に溺れる愚かな人間でした、しかしある日を境に政治に関心を持ち、民を愛し、国に献身を捧げる真人間と変わりました」
大臣「私は、何事が起ったのか理解できませんでした。しかし、変わられた兄王によって政治制度の改革の推進を命じられ、その繁忙さから違和感に目を背けざるを得ませんでした」
大臣「しかしここにきて、現れた陛下の遺体が全てを語ってくれているのです!陛下、お尋ねいたします!」
大臣「かの遺体は、いったい何者なのですか!いえ、それ以上に貴方は誰なのですか!?」
王「・・・」
大臣「お答えください!」
大臣「 陛下!陛下!陛下!!!! 」
王「・・・」
大臣「お答えいただけないようですね!納得のいく説明があれば、とホンの少しだけ期待したのですが・・・致し方ありません」
大臣「それでは、これより緊急動議を発しさせていただきます!」
大臣「私は、王の退陣を要求し政治制度の転換を要求する!」
大臣「いま、私たちの目の前にいるものは誰とも知れぬ偽りの王である。正当な王家の血を持たずして、我らを欺き国を支配してきた」
大臣「何物やもしれぬ存在を、私たちは奉ってきたのだ!これは、王家への侮辱に他ならない!」
大臣「兄王には子がなかった、今現在、正当な王家の血筋は私にのみ流れている。よって王の退陣ののちは私が王の座へと座ろう」
大臣「そして、この偽の王が生み出したものもまた淘汰されなくてはならない。なぜならば、偽王がどういった意図をもって政治改革を断行したかがわからないからだ」
大臣「国民のためになっている、政治体制まで変える必要はないと人々はのたまうであろう。しかし、しかしだ」
大臣「偽王がその意図を語らない以上、いや語ったとしてもその真偽が確かめられない以上、私たちは一度原点に立ち返り」
大臣「私たち自身の手によって、新たな政治体制を作り出す必要があるのだ」
大臣「具体的には、王権の復古、そして衆民院の解散!」
「衆民院議会を解散するというのか!横暴だ!」
「ふざけるな、国民を馬鹿にするな!」
大臣「はやまるでないぞ、これは後退ではない!」
大臣「王家の政党後継者である私によって、この国は改めて生まれ変わるのだ!」
大臣「これは私の政治生命をかけた動議である。賛同を得られないなら、私は潔く政治の世界から去ろう」
大臣「しかし忘れるな、それはすなわち偽りの王と歩みを同じとすることだ!」
大臣「審議の時間など必要ない!いまここで!議員の皆さんには各々の信念にそって、投票願いたい!」
大臣のむき出しの権力欲に、盗賊は表情を歪ませる
しかし、それに抗う術を盗賊はもっていない
例え持っていたとしても、勇者補助係の仲間をこの政争から救い出すには、大臣に身を寄せるしかない盗賊に為す術はなかった
大臣はほくそ笑む
政治生命をかけるという重い言葉を発しながら、大臣の心は安心感につつまれていた
なぜならば、衆民院議会の台頭に快く思わない貴族院議員に
更には、贈賄によって一部衆民院議員すら飼いならし動議の通過は確実であったからだ
大臣「議長!すみやかに投票に移っていただきたい!」
がああああああああああああああああん!
大きな音をたて、議場の扉が開かれる
扉の向こう側から陽光が漏れ、それを背に人影が現れた
逆光のせいで、その表情のみならず体格もはっきりとしないが
ただ、その纏ったオーラから只者ではないことがうかがい知れた
???「失礼!」
声の主と共に、複数の人間が議場内に足を踏み入れる
扉が閉じられ、議員たちの目が男の容姿をとらえた
そこには、聖なる装備を身にまとい
伝説の剣を携えた一人の男
勇者であった
大臣「勇者!やはり、伝説の転移魔法を覚えていたのか」
大臣「しかし、このタイミングを邪魔されるわけにはいかん!」
大臣「盗賊!」
控えていた盗賊が、大臣に耳打ちをする
盗賊「残念ですが王国軍は裏切り者の勇者討伐の為、昨日出立いたしております」
盗賊「伝令を走らせてありますが、戻るまでにはまだ時間がかかるかと」
大臣「くっ・・・ならば致し方ない。気奴らの力を借りるのは癪だが・・・!」
大臣「神聖なる議場に、武装して乗り込むとは!勇者よ乱心したか!?近衛兵、狼藉者を捕らえよ!」
近衛兵長は考えを巡らす
近衛兵長(これは、全てをうやむやにするチャンスか・・・!?)
近衛兵長(いや、陛下の正体が知られたら勇者が何をしでかすかもわからん!)
近衛兵長(ここは大臣の言葉に乗って、まずは勇者にご退場願うとしよう)
近衛兵長「全近衛兵に命ずる!勇者をとらえよ!」
近衛兵長の言葉に、議場内の近衛兵たちが反応する
また同時に、王城内に控えている全ての近衛兵に伝令するべく一人の兵が議場から走り出した
城内の全兵力をもってあたらなければ、勇者を捕えることなど不可能
近衛兵長の指示に基づいての行動である
盗賊(近衛兵長の命令・・・!おそらく、城内の全ての近衛兵につたわるはず!)
盗賊(大臣の動議が通れば、たぶん宝物庫の皆を助け出すことができる・・・でも通らなかったら・・・?)
盗賊(城内の近衛兵がここに集中する今なら!宝物庫内の皆を出してあげることができるかも!)
伝令に追随する形で盗賊が走りだした
その素早さは風のごとく、あっさりと伝令を追い抜き議場を抜け出した
議場内を一瞥し、脇を駆け抜けていく兵を意にも介さず勇者が歩を進める
しかし、それを許さない近衛兵が勇者に迫り、取り囲むように陣形を組む
歩を止めた、勇者が近衛兵をけん制してか声を上げた
勇者「勇者でござい!そうじょおおおおおおおおおう!勇者のそうじょうにございます!お控え為すって!」
戦士(なんかちがうぞ勇者、時代錯誤もいいところだ!!)
魔法使い(いったい、どこであんな言葉を学んだのかしら)
僧侶(勇者様ったら、おちゃめ///)
勇者の言葉を無視し、近衛兵長が勇者の背後から忍び寄る
勇者「おおっと!近衛兵長、俺が気づいていないとでも思ったか?剣を修め、そこで止まるんだ!」
近衛兵長「ちっ・・・」
勇者「わたしがこれから行うのは、陛下への奏上にござる!法律によれば奏上は何人たりとも邪魔できんのだよな!」
王(法律ではなく、慣例なのじゃが・・・)
勇者「ほら、近衛兵長下がれ!奏上が始まるから、もっと下がれ!」
近衛兵長「いらん知恵をつけやがって・・・」
勇者「あんたの仕事は王の警護だろ!王の下へ帰った帰った!」
近衛兵長は剣を収め、王の下へと素早く戻った
勇者「それでは、みなさんご清聴ください!これから、わたくしの奏上がはじまります!」
――――――
「ぐぎゃ!」
宝物庫の固く閉じられた扉の向こうから
悲鳴ともとれぬ声が聞こえた
商人「お?なんだなんだ?」
賢者「外からですね、近衛兵の声のようですが」
何事かと扉に近づいた商人に、聞きなれた声が投げかけられた
盗賊「みなさん!助けに着ました!」
騎士「盗賊さん!」
遊び人「あら、いったい何事ですの。というか、近衛兵さんは大丈夫ですの?」
盗賊「少し眠ってもらっただけです。みなさん、それより急いでください!」
盗賊「いまなら、宝物庫内から逃げ出せます!ひとまず、城内から出て身を潜めてください」
賢者「お急ぎの用ですね、とりあえず盗賊さんに従いましょうか?」
商人「だめだ。状況が分らなすぎる。盗賊ちゃん、昔教えたこと覚えてるか?」
盗賊「なんのことですか!私を信じて、ついてきてください!お願いします!」
商人「報告は、詳細にかつ正確に・・・教えたよな」
盗賊「・・・わかりました」
盗賊「本日、城内の大議場にて両議院を集めた大臣が陛下の退陣を求めて議会を開きました!そこに、勇者が現れ奏上を始めました!」
盗賊「近衛兵長は勇者を止めるべく、城内の近衛兵に召集をかけました!逃げるなら今です!」
遊び人「あらあら、大臣が緊急動議をするって話は聞いていましたが。そんなことになっているとは」
商人「えっ!俺聞いてないんだけど!」
賢者「君が言い出した作戦でしょうに」
商人「?」
賢者「たらふく飲んで厠へ行って、盗賊ちゃんと接触しよう作戦ですよ。君が、眠っちゃった後。目覚めた遊び人ちゃんに実行してもらったんですよ」
賢者「ちなみに、私がやろうとしましたが監視ががっつりついて失敗しました」
盗賊「とにかく、報告は以上です!わかったら、私についてきてください!」
商人「だ、そうです。どうしましょうか騎士さん」
騎士「まず、みんなの意見を聞きたいかな」
賢者「城外に逃げるのは反対ですね。職務放棄ととられかねない」
賢者「大臣の執務室に行きましょう。あそこなら近衛兵も手出しが容易ではないうえに、私たちは大臣の部下、勝手に部屋に入ったとしても問題ないはずです」
遊び人「いえ、私たちの処遇は議会の結末にあるとみました。それに私たちの見たものが、この国の行く末を左右することにもなるでしょう」
遊び人「この国の事を思うなら、議場に向かうべきです」
盗賊「先が分らない以上、陛下と大臣の両方から身をひそめるべきです!」
盗賊「仮に大臣が政争に勝利したとしても、大臣は・・・信用成らない人です。勇者裏切りの件もありますし、みなさんの安全のほうが優先です!」
遊び人「勇者の裏切り!?」
賢者「ああ、言ってませんでしたね。端的に言うと、勇者が魔王に懐柔されました」
遊び人「あんのクソガキ!」
賢者「こ、言葉遣いは丁寧に」
騎士「・・・まったく、何もかも急すぎて困ってしまうなあ。さて商人君、君はどう思う?」
商人「盗賊ちゃん・・・勇者が戻ってきてるんだよな?」
盗賊「・・・はい」
商人「だったら、俺がやりたいことは一つです」
商人「・・・勇者に一発ゲンコツをたたき込みに行きましょうや」
盗賊「な、なにを!」
賢者「へえ・・・」
賢者「なるほど、それは楽しそうだ」
遊び人「ああ、いいですわね。ちょっと、締め上げて勇者の何たるかを教授してさしあげなくてわ」
遊び人「しかも、世界最強に殴り込みですって?血沸き肉踊る提案ですこと」
騎士「うん、決まりだな」
騎士「それでいこうか!」
盗賊「ま、待ってください!みなさん、何を考えてるんですか!?」
商人「賢者!」
賢者「お任せください、ご説明いたしましょう遊び人ちゃん!」
賢者「現在の私たちの仕事は、宝物庫内の捜査です。勇者は、その最重要容疑者。ちょうど捜査にも行き詰まり、容疑者からの聴取を行いたいと思っていた矢先に」
賢者「なんと、向こうから王城内に飛び込んできてくれたというわけです。これは、私たちとしては黙って見過ごすわけにはいきません」
盗賊「し、しかし、勇者様は今は奏上中です!何人たりとも、勇者の奏上は妨げられないんじゃ!?」
騎士「いや、私たち勇者課勇者補助係のの本来の仕事は勇者の管理指導。彼がやらかした際は、その後始末をする」
騎士「そして彼が何かやらかさないように、指導するのが私たちの仕事だ。つまり」
遊び人「勇者の行動を制限する権限を、わたくしたちは持っている。ということですわね」
盗賊「で、でも、いまは仕事なんてしてる場合じゃ!皆さんの身の安全のほうが!」
商人「それだけじゃあないさ」
盗賊「・・・」
商人「この一年間、俺たちが勇者の野郎から受けた仕打ち。そして、やつが宝物庫を荒らしたことで政争に巻き込まれた事実」
商人「なにより、あんな阿呆が英雄とたたえられている現状が俺は気に食わねえ!」
商人「それこそ、ゲンコツ一発いれるぐらいじゃ収まらねえんだ!」
賢者「公私混同甚だしいですねえ」
盗賊「勇者様は強いですよ・・・それでもですか?」
商人「なあに、今の俺にはこれがある」
商人の手から、光のオーラが零れる
盗賊「な、なんですかそれ?」
商人「俺が、長年探し求めていた伝説の一品」
商人「正義のそろばん」
騎士「あっ!駄目だよ商人君!そんなもの持ち出して!」
遊び人「まあまあ、騎士さん。保管簿に乗ってないものですし、どうとでも誤魔化しきれますわ」
騎士「そういう問題じゃないよ!道義上問題あるって言ってるの!」
頑なな態度をとる騎士に、賢者が諭すように語り掛ける
賢者「・・・昨晩、開けた酒瓶」
騎士「・・・ん?」
賢者「止める前に、騎士さんが手を出してしまったので黙ってましたが・・・最初の一本以外の酒ですが」
賢者「全部、保管簿に記載されている王家秘蔵のお酒でしたよ・・・」
騎士「!」
遊び人「あらあら・・・」
盗賊「つまり、業務上横領・・・」
賢者「左遷・・・」
遊び人「減給・・・」
商人「・・・解雇」
騎士の肩がプルプルと震え出す
騎士の内面では、騎士のモラルの権化である正義の心と保身の権化である悪の心が刃を散らしているのだ
騎士「・・・ゆ、勇者許すまじ」
騎士「 勇者許すまじ! 」
騎士「魔王討伐のための武具ならいざしらず!王家秘蔵の酒にまで手を出すとは!」
軍配は悪の心にあがったようである
商人「えっと騎士さん、このソロバンなんですけど・・・」
騎士「この忙しい時になんだ!保管簿に記載されていない物など、私はあずかり知らん!」
賢者「と、いうわけですが」
盗賊「もう・・・わかりましたよ!皆さんだけでは心配ですから、私もお手伝いします!」
遊び人「それは、心強いですわ」
商人「憧れの勇者様に、盗賊ちゃんが一発入れれるかなあ・・・?」
盗賊「私より弱い人は黙っていてください!」
商人たちは決戦の場へと、走り出した
――――――
議場中央の演台に、勇者が立つ
その眼には、熱い使命感と高揚感がやどっている
勇者「私、勇者はおよそ一年前主命を以てして魔王討伐の旅えと赴きました」
勇者「そして先日、遂に魔王城に到達、魔族の長にして魔王城の城主である魔王に対峙致しまして候」
勇者「我ら勇者一行は、意気軒高その戦意高くして魔王との一戦を願い出るも魔王からは対話の申し出があり」
勇者「最期の言葉、陛下にお伝えすることもあらんと申し出を受け入れたところでございます」
勇者「然れども、まことに残念なことに魔王から語られた事実はわたくし共が把握していた事態とは大いに齟齬がございました」
勇者「その結果、悪しき者討たんとする我ら勇者一行の戦意は大いにそがれることととなりまして候」
勇者「まず、この国の北部及び東部における魔族と地方都市との戦況におかれましては、敵軍の指示系統に魔王軍が関与していない事実がございました」
勇者「魔王軍は、我ら人類と同等程度の知識を有しており軍事組織としての体を十分に為すものでございます」
勇者「されど地方都市における魔族による侵略の様相をきくに、戦略性乏しく、とても知性あるものの戦い方ではございませんでした」
勇者「また、こちらにおわす議員の皆様方もご存知の通り、我が王都において魔族は一労働力として受け入れがなされており」
勇者「その危険性の低さは、すでに王都内にて認識がなされていることは事実でございましょう」
勇者「そのような認識を我らに知らせることなく魔王討伐の主命を下された事実、甚だ遺憾にて候」
勇者「我ら勇者一行は、軍隊に非ず。暗殺者に非ず。人々の希望となるべき、一筋の光にございます」
勇者「なれば我ら勇者が為すべきことは、人民に広まる魔族に対する認識を改め。知性ある者同士、友誼を交わしたることと信じ」
勇者「我ら、魔王と和解するに至ったところにございます」
「なんと、あれが噂の勇者様か・・・」
「地方での戦闘が、魔王軍の指示ではないだと・・・?王国の利益のために、隠蔽されていたということか」
「あの勇者様の凛々しく、堂々とした様を見てみろ。あれこそが人類の希望か」
戦士(おおっ、議員たちが勇者の言葉に耳を傾けているぞ)
僧侶(あたりまえです。あれこそが真の勇者様の姿!)
魔法使い(本当に奏上文を暗記できていたのね)
バアンっ!
大きな破裂音が、議場内に響いた
勇者が拳を振り下ろし、演台を平手で叩いたのだ
その衝撃で、演台に置かれていた水差しが倒れ勇者の手のひらにかかる
勇者「皆様、奏上中にございます!お静かに願います!」
議員たちの反応は、勇者の予想以上に良いものであった
いままで、魔族との戦いで人々の注目を浴びてきた勇者にとって
剣を抜くことなく、弁論を以てしての称賛は初めての事である
勇者(ああ、普段偉そうにしている議員連中がこんなにも畏まってる・・・)
勇者(こんなに気持ちの良いことは初めてだ!)
勇者は、これまで感じることが無かった優越感に浸り
奏上を続けるべく、その拳に書き込まれたカンペをみつめた
勇者「」
そこに奏上文は無く、代わりに滲んだインクがまるで汗のようにヒラリと流れ落ちた
――――――
側近「勇者さん、大丈夫ですかね」
魔王「不安か?」
側近「思ってた以上に、頭が残念な子でしたからね。脳筋バカってのは、ああいうのを言うんだろうなあ」
魔王「人前で、そういうことを言うなよ。あれは、いまや我ら魔王軍の一配下なのだ」
魔王「それに、あの奏上文は勇者にも理解できるよう我らが力を尽くしたではないか」
側近「そうですけど。不安だなあ・・・」
――――――
――――――
「どうしたんだ、勇者様?突然黙り込んで」
「奏上は終わったのか?結論として、何が言いたかったんだ?」
勇者「・・・」
勇者「ああ!しゃらくせえ!」
戦士「お、おいどうした・・・?」
勇者「違う!こんなものは俺の言葉じゃねえ、魔王が作った文章が議員たちに響くわけがねえ!」
魔法使い「えっ、えっ何がどうしたの?」
勇者「すまねえ議員の皆、それに陛下!こっからは俺の魂の言葉だ!こっからが真の奏上のはじまりだ!」
僧侶「流石勇者様・・・」
勇者「俺はなあ、この一年間国中を走り回って戦ってきた。なのに何だお前らは!こんな暖かい所でぬくぬくしやがって」
勇者「俺も昔、議会を傍聴したことがあるから知ってるが!あんたら、小難しい言葉ばかり使って!」
勇者「そうやって国民を欺いているんだろう!俺には、議会がまっとうに話し合いをしているとは到底思えないね!」
勇者「そのくせ政治家ってやつは、いつも偉そうにしやがって!」
大臣(何か急にレベルが落ちたな・・・)
勇者「それに国のためにとか、きれいな言葉を抜かしている割に全然国はよくならねえじゃねえか」
勇者「誰の税金で食ってると思ってるんだ!」
勇者「そうだ、税金だってそうだ。新しい道路を作るだの、新しい施設を建てるだのに使ってばっかで国民のためには全然使ってねえじゃねえか」
王(いや、国家予算の大半は福祉関係に使ってるけど・・・)
勇者「俺を馬鹿だと思うなよ!知ってるんだぞ、役人たちだってそうだ!」
勇者「すぐに窓口を閉めやがって!あんなに早く窓口閉めやがって!人の税金で食ってるくせに、国民を馬鹿にしてるんじゃないのか!」
近衛兵長(窓口閉めてからが忙しいんだが・・・)
勇者「あのーそれに、あれだ!実家の近所に済んでる婆ちゃんも言ってたぞ、昔はよかったって!」
勇者「これって、国が年々悪くなってるってことだろ!あんたら政治家の怠慢のせいじゃないか!」
勇者「高い給料もらってるくせに、国はどんどん悪くなっていってるんじゃねえか!」
勇者「あんたらはもっと国民の声に耳を傾けるべきだ!」
大臣(これはひどい)
近衛兵長「・・・」
王「あれが勇者か・・・多少馬鹿でも真っすぐな信念を持った男だと思っていたが・・・」
勇者「政治家たちの給料を減らすべきだと思うね!あと役人どもの給料も!」
勇者「というか国の為を思うならタダでやるべきじゃないのか!そうだ、そうすれば税金の無駄だって減らせるじゃないか!」
王「ただの阿呆ではないか・・・」
王「ああもう・・・誰か、あの阿呆を止めてくれ。あれを倒した奴は、新しい勇者に指名してやっても良いぞ・・・」
勇者に過大な期待をしていたせいか、その感情をただ垂れ流し、理論も根拠もない言葉に
王は怒りすら覚えることなく、ただ呆れるばかりであった
そんな王の口から、ぽつりとこぼれ出た言葉に何処からか答えが返ってきた
「そいつはマジすか・・・?陛下」
返事などあるはずもない独り言に、応じる声に近衛兵長が一瞬で抜刀し王を庇う
近衛兵長「だ、だれだ!?」
騎士「失礼しました。勇者課の者です」
近衛兵長「大臣の手の者か、何用だ!」
賢者「いえ、用があるのは勇者の方にです」
遊び人「それより陛下、先ほどの言葉確かですね」
王「遊び人ではないか・・・ああ、もし勇者を止めれるなら勇者にでも何でもしてやるさ」
「よっしゃあ!」
商人「 俄然やる気が出てきたぜ! 」
――――――
勇者「だから、そのーあのー、つまりはだ!役人たちは窓口を夜まで開けて・・・」
商人「どおりゃああああああああああ!」
二階のバルコニーからの商人の強襲
世界一の硬度を誇るオリハルコン製のソロバンに、商人の全体重をのせた渾身の一撃である
しかし、勇者は滑らかに剣を抜き一見緩やかに受け流してしまう
軌道をそらされた商人の一撃は、勇者正面にあった演台を砕いた
勇者「なんだてめえ。いまは、勇者の奏上中だぞ!奏上は誰も邪魔しちゃいけないんだぞ!」
商人「残念ながら、その理屈は俺には通用しないんだなこれが、それ次いくぞ」
どっせいと言う気の抜けた掛け声とともに
砕かれた演台の木片を勇者に向かって投げつける
さながら散弾となったそれに、勇者は両腕をクロスさせ急所をかばった
勇者「くっ・・・お前は誰だ!勇者の奏上を止めるのは法律違反だぞ!」
商人「そんな法律はねえよ、法律と慣例の区別もつかない阿呆だとはな」
商人「それに俺は、お前の同僚さ。悲しいな、この一年間ともに頑張ってきたじゃねえか」
勇者「お前の事なんぞ知らんわ」
戦士「勇者!いまいく!」
勇者に駆け寄ろうとした戦士の喉に、騎士のレイピアが一直線に伸びる
戦士は身をよじり回避する
騎士「おっと、君の相手は私だ」
避けはしたが、その剣の鋭さに戦士は表情を強張らせ
そして宝飾の散りばめられた、美しい剣を鞘から抜いた
騎士「あ・・・王者の剣、ああ・・・やっぱり君たちの仕業か」
戦士「俺の剣を知っているのか、おっさん」
騎士「まあ仕事だからね。えっと君は確か、国一番の剣士だったな。よし、ここは一手ご指南いただこう!」
魔法使い「どいて戦士、そいつの狙いは時間稼ぎよ。私たちに勇者の援護をさせないつもりだわ」
魔法使い「そうはさせない、焼き尽くせ!炎魔法 ファイアー!」
賢者「氷魔法 アイシクル」
魔法使いの生み出す炎が、氷の壁によって遮られる
氷の壁はみるみる大きくなり、議員席と中央ホールの間に巨大な壁を築き上げた
魔法使い「へえ、まるでコロシアムね」
僧侶「時間稼ぎしたところで、あんなみすぼらしい男が勇者を倒せるわけないでしょうに!」
遊び人「はいはい、貴方はこちらで一緒に遊びましょうね。封印魔法 サイレント!」
遊び人が軽やかに舞い、僧侶の耳元で囁いた
それと同時に、僧侶の金切り声が封じられる
僧侶「むぐぐ!」
賢者「魔法使えるんですね・・・」
遊び人「あはは、もちろんですわ」
仮初の闘技場に勇者パーティー4人と勇者補助係の4人が対峙する
その光景を見て、近衛兵長は湧き上がる衝動を抑えられずバルコニーから身を乗り出した
近衛兵長「だめだ・・・彼らだけでは!」
王「行くな近衛兵長」
近衛兵長「しかし!手練れには見えるが彼らだけでは、とても勇者一行を捕えきれない!」
近衛兵長「俺が、助けなければ!」
王が立ち上がり近衛兵長を制する
王「彼らは、筋を通している。今お前が手を出すのは野暮ってもんだろ」
王「それに見てみろ、強大な敵に立ち向かう彼らの姿を。実に楽しい、ラストシーンにはもってこいではないか」
近衛兵長「下手したら、彼らが死ぬぞ・・・それでもいいのか?」
王「そうはならんさ」
勇者の必殺の一閃を商人がソロバンで受け止める
ソロバンの珠から火花が散った
勇者「見たところ、冒険商人のようだな。たかが商人が、この俺を、世界中をたった4人で旅したこの俺たちを止められると思っているのか!?」
勇者「俺の姿を見てみろ、この鎧を、この兜を、この剣を!知らないだろうから教えてやるが、これらはすべて伝説級の装備だ!」
勇者「対してお前の武器、なんだそれは。俺の剣を受け止めるところタダのソロバンじゃないようだが、そんなもので俺と戦えるわけがないだろ」
商人「お前のつけている装備はよく知ってるさ!だがなあ、伝説級の装備を持っているのはてめえだけじゃあないんだぜ!」
商人の魔力がソロバンに流れる
ソロバンが、光を放ち梁がぐんぐんと巨大化していく
その大きさは勇者の身長をも凌駕し、その圧倒的質量で勇者の剣をはじき返した
商人「だありゃあ!」
商人の追撃に、勇者はタイミングをあわせカウンターを放つ
かろうじて避けた商人は大きく、体勢をくずした
勇者「いっちょうあがりだ!少しの間眠ってな!」
勇者が剣を上段に構えると、どこからか風を切る音と共にナイフが飛んできた
ナイフは鎧の隙間を縫い、勇者の右上腕へと突き刺さった
勇者「ってええなあ!まだいやがるのか!」
姿も、殺気もみえない中、声だけが勇者に届く
「勇者様、お命ちょうだいします」
その声に、慌てた商人が声を荒げた
商人「な!なにやってるんだ!お前は、もう勇者課じゃねえんだぞ!」
商人「サポートに徹するならまだしも、直接手を出すのはダメだろうが!」
「大臣、お受け取り下さい!」
今度は大臣の頬をナイフがかすめ、壁へと突き刺さった
ナイフにはメモが括りつけられており、大臣はすばやくメモに目を落とす
メモ紙には殴り書きで「転属願ひ」としたためられていた
大臣「許す!たった今、この時をもって貴様は勇者課に再異動だ!」
盗賊「ありがとうございます!」
感謝の言葉と共に、盗賊が姿を勇者の目の前に現れた
勇者の剣が横薙ぎに盗賊を払うが、すでに盗賊の姿はそこにはなく残像だけがゆらめいている
再び気配を消した盗賊が、勇者の隙を伺い
先ほどとは違い、ナイフに渾身の殺気をのせて勇者へと放つ
勇者は簡単にナイフあしらうが、何処からともなく発せられる殺気に集中力を乱されてしまう
勇者「ああもう!!うっとうしいぞ!お前はハエか!」
盗賊「そうかもしれません!では勇者様はさしずめ、ハエに集られるうん子です!」
勇者「うがああああああああああああああああ!」
商人「俺の事を忘れてくれるなよ!どっせい!」
――――――
戦士「どうしたどうした!あんたの剣はそんなものか!?」
騎士「ちょっ・・・す、少しはおじさんを労わって!」
戦士「だったらさっさと剣を収めろ!さもなくば倒れろ!俺の仕事は勇者のサポート、早く勇者の下に行かせてくれ!」
騎士「い、いや、でも、お、おじさんの仕事はまず君たちを拘束することだから」
戦士「ほら、これで終わりだ!くらえ!火炎斬り!」
遊び人「ほいっと、防御魔法シールド!」
戦士の目前数寸のところに、突然遊び人が現れその剣を魔法で防いだ
戦士が顔を赤らめ、騎士達から距離をとる
戦士「な!?てめえ僧侶の相手をしていたはずじゃ!」
遊び人「あらあら、頬をそめちゃって。かわいいですわね」
遊び人がひらりと舞う
すると、遊び人が居た場所に僧侶のスタックが降りおろされた
スタックは床を砕き、その衝撃が騎士のところまで届いた
僧侶「・・・むう!」
遊び人「さすが勇者一行の僧侶、魔法を封じられてなお戦力となりますのね」
軽やかにステップを踏み、遊び人は戦士の周囲をくるくると舞う
まるで酒場の踊り子のような様な姿に、僧侶が苛立ちを隠さず、歯をむき出しに遊び人を追いかけた
僧侶のスタックがまた振り下ろされる、しかし今度はそれだけにとどまらない
僧侶の背に隠れ戦士の突きが遊び人を襲ったのだ
しかしそれすらも遊び人は、「知っていました」とでも言わんばかりに悠々と避けてみせた
遊び人「あらあら、せっかちですこと。そんなことだと乙女に嫌われますわよ」
騎士「さすが年の功・・・」
遊び人「はい・・・?」
遊び人の殺気が騎士に飛ぶ
騎士「し失礼しました・・・」
騎士「よ、よおし戦士くん!私のことも忘れてもらっては困るよ!私の奥義受けてみろ!」
場を誤魔化すような騎士の叫びに、戦士が剣を正眼に構え応じた
騎士「 王国騎士団秘技 !」
騎士「 騎士団召喚! 」
騎士「ほら、後ろをみてみろ戦士くん!君の相手は、私たちだけではない!国を守るべく鍛えられた300の騎士達だ!」
戦士「なんだと!?」
その言葉に、戦士が振り返る
しかし、そこには氷の壁越しに勇者たちの戦いを見つめる議員たちの驚嘆の表情しかなかった
戦士「 うそじゃねえかああああ! 」
ほんの一瞬の隙
それを見逃さず、遊び人と騎士が同時に動いていた
遊び人が、怒りに一歩踏み出した戦士の足を引っかける
よろめいた戦士のあごに、騎士の必殺の肘うちがあたった
騎士「ごめんね・・・おじさん、体力限界だったから。嘘ついちゃった」
僧侶(いけない!戦士さん!回復魔法!)
白目をむき、ゆっくりと前のめりに倒れる戦士に向け
僧侶が手を向ける
ほぼ条件反射的に、戦士の回復を図ろうとしたのだ
しかし、僧侶の魔法は封じられており回復魔法の光が発せられることは無かった
僧侶(しまった・・・!)
気づいたときには、遊び人の拳が僧侶のみぞおちへと突きささっていた
遊び人「ふう・・・二鳥あがりですわ」
――――――
魔法使い「ああもう!しゃらくさいわねえ!光魔法 シャイニング!」
賢者「闇魔法 ダークネス」
魔法使い「もう!さっきから私の魔法を打ち消してばかりじゃないの!時間稼ぎ以外はするつもりはないってこと!?」
賢者「いやあ、時間稼ぎというか職業病ですね」
賢者「この一年、問題の事後処理ばかりでしたので先手の打ち方を忘れてしまったんですよ」
魔法使い「そんな話聞いてないわよ!」
魔法使い「睡眠魔法 スリ―プ!」
賢者「・・・」
魔法使い「あら?これは打ち消さないのね、というか効いてない・・・?」
賢者「あなた方のおかげで徹夜仕事にも慣れてますのでね、睡魔には耐性がついちゃったんですよ」
魔法使い「私たちのおかげ?さっきから、わけのわからないことを言って私を惑わすつもりね!」
魔法使い「水魔法 ウォータースプラッシュ!」
賢者「雷魔法 サンダーランス」
水の奔流と、雷の槍が交錯し
一帯が蒸気に包まれる
魔法使い「へえ、雷って高温なのね・・・私の水魔法を蒸発させるとは」
魔法使い「でもね、こんな魔法の応酬もそう長くは通じないわよ!」
賢者「え?なぜです?」
魔法使い「だって、あなたと私じゃ魔力量に絶対的な差があるもの!こう見えても、私たちはたった4人で魔王城に到達した猛者よ!」
魔法使い「王都でぬくぬくと研究している学者連中とは、レベルが段違いってわけよ!」
賢者「私とあなたとは、そうレベル差があるとは思えませんけどねえ」
魔法使い「だったら、試してみる!?さあ、ちょっと魔法のレベルをあげるわよ!」
魔法使い「大火炎魔法 ファイアーバード!」
魔法使いの手から生まれた小さな炎が、徐々に大きく燃え上がり巨大な炎の玉ができあがる
そして、その大きさに限界を迎えたのか今度はみるみると形をかえ、遂には大きな巨鳥となって羽ばたいた
賢者「あらら、もう幕引きですか。極大封印魔法 ビッグシールド!」
賢者の結界が、賢者を覆う
魔法使い「あら流石に、この魔法を打ち消すのは貴方でも無理だったのかしら?」
魔法使いの問いかけに、賢者は答えない
それどころか、さらに呪文を重ねる
すると賢者を覆っていた緑色に光る結界の一部が、うねうねと動き出し魔法使いに迫る
殺気の込められていない魔力に、魔法使いは怪訝に思いながらもそれを受け入れた
例え、知らない攻撃魔法であったとしても対応しきれる自信があったからだ
しかし意外にも光る緑色は、優しく魔法使いを包み込んだ
魔法使いは困惑する
なぜならそれは、本来なら仲間に向けられるはずのただのサポート魔法であったからだ
魔法使い「これは・・・なんのつもりかしら?」
賢者「いえ、貴方も結界で守らないと。貴方が死にかねないので」
魔法使い「馬鹿にしているの!?いきなさいファイアーバード!」
巨鳥がキエエッと泣き声をあげ賢者へと突進する
しかし、巨鳥は魔法使いの手から離れた瞬間に
どおおおおおん!
轟音と共に弾けさり
その衝撃に、魔法使いは目を回しひっくり返ってしまった
魔法使い「きゅう・・・」
賢者「魔法以外の知識はからっきしのようですね、先ほどの水魔法は高温で蒸発したわけではありません」
賢者「電気分解により、この周囲には水素と酸素が充満していました。火を扱えば、こうなることは自明の理です」
賢者「まあ、大した量じゃないので派手な音を出す程度ですが」
魔法使い「うぐぐ、純粋な魔法勝負なら・・・私が勝ってた・・・」
ひっくり返って、頭に大きなタンコブをつくった魔法使いが
かろうじて意識を保ちながら、負け惜しみを吐き出す
賢者「無知は罪ですね、貴方は知らなすぎる」
魔法使い「・・・なによ」
賢者「そうですね。まずは、自然科学を学ぶといいでしょう」
賢者「理学の応用は、貴方に更なる力を授けるでしょう」
賢者「それともうひとつ、魔力量でも私は貴方に負けていませんよ」
賢者「たった4人で魔王城に到達した猛者は、あなた方だけでは無いということです」
今日はここまでです
一件訂正がございます。文中「スタック」と出てきますが「スタッフ」の誤りです。
一体何時になったら補助係は、今回の勇者に特権どころか子供の小遣い程度の金しか与えられてない事に気付くのだろうか?
正直、勘違いしたまま勇者叩いてるから滑稽にしか見えないんだよな。
読みやすい文章でいつも楽しく読ませていただいております
そしてまさかの作中も年末進行
次回もお待ちしております
いくらなんでも勇者PTと実力差がなささぎる
どんだけ勇者達弱いんだって商人とか瞬殺されないといけないだろ
確かに
よく考えたら勇者一行も勇者課も被害者なのに可哀想
議場には、剣とソロバン、そしてナイフがぶつかり合う音に満たされている
議員たちは誰一人として席を立とうとせず、3人の戦いを見つめている
その緊張感に耐えられなくなったのか、一人の議員が呟いた
議員「何故だ、何故渡り合えているんだ・・・」
その一言に、周囲の議員たちも同調する
「彼らは一体何者なのだ?勇者パーティーと実力差が無いなんておかしいじゃないか!」
「あんな冒険商人、勇者様なら瞬殺だろ!何故なんだ!」
「た、たしかに・・・」
「勇者様は、神託を受けたこの国の切り札だぞ。あの冒険商人は、それほどの腕なのか・・・!?」
屈強な議員「その疑問お答えしよう・・・」
「な・・・!あんた、彼らの強さがわかるのか!?」
屈強議員「ああ、私はかつて格闘家として大陸中を回った者だ。今、彼らに起こっている状況を私なりに説明できるだろう」
屈強な議員の頬に、一筋の汗が流れ落ちた
歴戦の強者風の屈強な議員
その男すら緊張を隠しきれない様相に、周りの議員は目の前で繰り広げられている戦いの
レベルの高さを、改めて認識した
屈強な議員は、戦いから目をそらすことなく静かに語り出した
屈強議員「まず勇者一行の強さからいこう。彼らは膂力のみならず集中力、魔力そして対応力、戦闘において必要な全てを高いレベルで習得している」
「ではなぜ勝てないんだ?」
屈強議員「勇者一行に足りない物、それは経験だ」
「そんなわけがあるか、勇者様達はこの一年、各地の魔物を倒してきたんだぞ」
屈強議員「そう、勇者殿たちがこの一年相手にしてきたのは魔物達ばかりということだ」
「つ、つまり対人戦闘における経験値がないということか?」
「いや勇者様は旅立つ前に剣の訓練を積んでいると聞く、それにかの戦士だって王都一の道場に勤める者だぞ」
屈強議員「対人経験値が無いとは言わんさ、だが短期間での訓練では、その経験値も骨身にまで染み込まないものさ」
屈強議員「戦士殿だってそうさ、道場剣術など実戦の経験値に比べれば屁にも劣る。そのうえ、まる一年も知性無き獣とばかり戦っていたら腕だって訛るさ」
屈強議員「先ほどの戦士殿の戦いぶりがまさにそれを物語っている」
「と、いうと?」
屈強議員「言葉で惑わされ戦闘中に相手から目をそらす、そんな過ちはそこらの兵士ですら犯さんよ」
「しかし、それだけのことで勇者様が、どこの馬の骨と知れぬやつに手こずるなど」
「そ、そうだ!例え剣で遅れたとしても、勇者様には魔法があるだろう!」
屈強議員「それについては私たちが原因だ」
「な、なぜだ?私たちが原因だと」
屈強議員「周りを見てみろ、議員たちが誰一人として逃げ出そうとせず戦いの行方に魅入られている」
屈強議員「勇者殿の魔法は、天を穿ち、地を裂くと聞く」
屈強議員「議員たちに被害を出さないために、勇者殿は魔法が繰り出せないのだ」
「なるほどお・・・」
――――――
勇者は焦っていた
奏上を邪魔されただけではなく、たかが冒険商人に手こずる自身の姿を
多くの目に晒してしまっている恥辱の心が、そうさせるのだ
勇者(くそっ!剣の稽古は、旅立ったあとも戦士との稽古で散々積んできた!)
勇者(どんな奴にだって負ける気がしねえ!だが・・・)
勇者(ソロバンとの戦い方なんて俺は習っちゃいねえぞ!)
事実、勇者は現時点において人類最強の剣士と言って差支えがないであろう
しかし、勇者の目の前にいる男が握っている物は巨大なソロバンであり
更に言えば、魔力を込めることによって伸縮する間合いが定かにならない変則的な武器であった
勇者(だが、それだけなら問題ねえ。大振りで振り回したり、勢い余ってよろついたりと隙だらけだ・・・)
勇者(そのうえ、間合いをとって魔法でぶっとばせば一発で決着は済む・・・だが)
勇者の頭上を、巨大なソロバンが素通りする
商人の横薙ぎを、危なげなく勇者が身を低くして躱したのだ
勇者(胴ががら空きじゃねえか・・・)
勇者が剣を地面と水平に構え、突きの姿勢をとった
その瞬間、何処からともなくナイフが飛んでくる
勇者(これだ・・・!商人の隙を突こうとしたり、魔法の詠唱をしようとすると、すぐにコイツが飛んでくるっ!)
勇者(俺の最大の敵は、目の前の糞ザコ商人なんかじゃねえ!サポートに徹して姿を見せねえ陰気野郎だ!)
――――――
今年はこれで失礼します。
皆さん良いお年をお迎えください。
更新乙です
読者の疑問にきちんと作中で答える作者の鏡
作者様も良いお年を
仕事が早いな、お役所仕事とは思えんぐらいにw
まさかの大晦日更新乙
乙&あけおめ
乙
とはいえ、流石に苦しい言い訳になってるな。
よく読んだら屈強な議員の解説、何一つあってなくてワロタ
いやぁそれでも無理ありすぎるだろ…
人間と魔物との戦闘の経験だろうがなんだろうが勇者達の速度や動きに付いていけてる時点でさそれに王様達を倒す側にいるのに周りの大臣とか気にする必要ないだろ
主人公補正だから
まあ、これまで勇者の強さの描写がなかったし、後付けで何とでも言えるよなあ
さすがにどんな動きしてくるかわからない魔物相手に戦ってきたのに人間相手に苦労するわけないよなぁ簡単にアドリブってか対応できると思うんだが
急になんか下手こいたssになってしまったこのシリーズ好きなのに
後付けで取り繕うとか見苦しいにもほどがある
100%善意で言うけど、もうやめたら?
勇者信者ワラワラで草
勇者的に器物破損はセーフなんだろうけど、無関係の人間を傷つけるのはNGなんでしょ
いい感じに上がってきたじゃないの。自分の期待した展開にならなかったくらいで癇癪起こしてるクソガキなんぞほっとけよ
――――――
賢者「回復魔法キュア、防御魔法シールド、肉体強化ストロング」
遊び人「魔法防御マジディフェンド、瞬発強化アキレス」
商人「おぉ、力が溢れてくる!」
勇者「くそっ、補助魔法か!?」
商人の体から、光のオーブが淀みなく溢れ、その体を包み込んでいく
明らかに増した力を確かめるように、商人は拳を握りなおす
やれる
これだけの力があれば、勇者だって倒せる
戦士「・・・あんた達の負けだよ」
騎士によって縛り上げられながら、戦士が恨めしそうに呟いた
騎士が訝し気な表情を見せた
騎士「逆でしょう?商人君は二人掛かりとはいえ、勇者くんと渡り合えていたんだ」
騎士「補助魔法もかけてもらって、更に4人がかりなら猶更だよ」
騎士「まあ、私も君を縛り上げたら参戦するから5人がかりになるけどね」
戦士「いや、それでもお前たちの負けだ」
騎士「負け惜しみかい?君らしくもない・・・抵抗はしないでくれよ君たちにケガをさせたくない」
戦士「・・・それはこちらも同じだ。俺たちだって彼にも勇者一行だ」
戦士「魔王側に寝返ったからといって、この国の国民であるお前らにケガは負わせたくなかった」
戦士「だが、それももう敵わない」
騎士「?」
戦士「あんた家族はいるのか?」
騎士「・・・ああ、嫁に娘が一人いるけど」
戦士「へえ、俺と同じだな」
騎士「意外だなあ、てっきり独身かと思っていたよ」
戦士「・・・同じ子持ちのよしみで忠告してやる。五体満足でいたいなら、ここで戦いの行方を見ることだ」
――――――
勇者「補助魔法の重ね掛けか・・・そうか・・・」
商人「お、どうした?降参するか?」
勇者「それなら死ぬことは無いだろう。こちらも本気でやらせてもらおう!」
勇者「降参するなら早めに言え」
勇者「 カミナリ !!! 」
勇者が叫ぶと同時に、剣先を天に向ける
一瞬の静けさの後、ゴロゴロと低く響く音に議場が包まれる
どおおおおおおおおおおおおん
轟音とともに、議場のドーム状の天井を突き破り雷が現れ
勇者に直撃した
商人「か、雷魔法の撃ちそこないか!?何やってるんだ勇者は」
盗賊「・・・きます」
勇者「死んでくれるなよ、冒険商人!」
商人が慌ててソロバンに魔力を込める
しかし、勇者の正拳を防ぐには至らなかった
勇者の拳は、商人の腹部に大きなへこみを作りながらも、なお止まること無く振りぬけられる
商人は、その勢いで賢者の作り上げた氷壁まで飛ばされ打ち付けられてしまった
商人「あ・・・がっ・・・」
賢者「補助魔法越しで、あの威力ですか!?回復魔法キュア」
遊び人「お手伝いします、回復魔法」
騎士「あれはなんだ、勇者の体が雷を纏っているぞ」
戦士「対魔王用に勇者が習得した身体強化魔法だ・・・雷を自らに落とし、その力を自分のものとす」
勇者「そう、今の俺は、剣の一振りで山をも切り崩す!」
勇者「まさに『神に成る』魔法だ!」
遊び人「ひどいセンス」
盗賊「・・・同感です」
勇者「」
――――――
何が起こったか理解できなかった
ただ唯一確かなことは、勇者が勇者と呼ばれる所以
その圧倒的な武力の前に、自身の力が如何に非力であるか
その一点においてのみであった
商人(だ、だめだ・・・さっきの一撃で体中がたがただぜ)
商人(というか、素手で殴られてこのザマかよ・・・勇者強すぎじゃね)
勇者「まだ意識があるのか、タフな野郎だ」
勇者が商人へと歩を進める
当の商人は、賢者と遊び人からの回復魔法を受けてもなお立ち上がることができないでいた
商人(回復魔法が追い付いてねえ・・・時間を稼がないと)
商人「・・・お、おいおい、勇者様よ」
商人「いくら婚約者の前だからって張り切りすぎじゃあねえか・・・?」
勇者「・・・婚約者だと?」
商人(食いついた・・・)
商人「おっと、お前はまだ知らなかったけな」
勇者の肩が震え出す
目じりが上がり、歯を食いしばり、人類の救世主とは思えぬ鬼の形相を浮かべている
勇者は、地獄の底から湧き出すような声を絞り出して答えた
勇者「しししし」
勇者「知っているぞ、このボケカス!!!」
勇者「この俺を!人類の希望と祭り上げておきながら、裏では年増の婆と政略結婚させやがって!」
勇者「ぜぜぜぜったいに許さんぞ国王!」
商人「国王・・・?」
商人「おっと、残念ながらそれは恨む相手が違うわな・・・」
勇者「なに?」
商人「その結婚、画策したのはこの俺さ」
勇者「なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
勇者「こおおおおおろおおおおおおすううううう」
勇者が床を踏み抜くほどの力を込めて、一歩を踏み出す
商人「お、おいおいおい、落ち着け落ち着け」
商人「・・・怒り狂うのは、自分の婚約者を見届けてからにしたらどうだ?」
勇者「うが?」
商人「ほら、そこにいるだろうが」
商人が勇者の後方を指さした
勇者は躊躇したものも、動けない商人を一瞥し
油断なく振り返った
遊び人「お初にお目に掛かります勇者様。わたくしが侯爵家娘。貴方のフィアンセですわ」
商人の意図を察した遊び人が
勇者の気を引くべく、勇者にウインクを飛ばす
勇者「」
遊び人「あら、どうなされましたの?」
遊び人が首をかしげる
そのかわいらしい仕草からは、齢50という年齢は感じられず
まるで野に咲く一凛の百合の花のように、白く、澄んだ美しい娘が佇んでいた
勇者「うが・・・」
勇者「・・・」
そのあまりの可愛らしさに
勇者の目じりは下がり、口元もほころぶ
肩の力は抜け、腰も抜けそうになるが、そこは勇者としての意地か
なんとか持ちこたえることができていた
勇者「あーえー・・・俺を騙そうと・・・?」
遊び人「あら、心外ですこと。何なら、陛下にお尋ねになっては如何でしょうか」
勇者「・・・」
議場二階のテラスから事の行方を見守っていた王が声を張る
王「その者の申す事、事実である!」
王「例え、貴様が魔王側に寝返ったとしても侯爵家との約束違えるつもりはないぞ」
勇者「!」
耐えきれなくなった勇者が遂に片膝をつき
右の手のひらで、自身の顔を包み隠した
僧侶「あれ・・・勇者様?」
勇者(ま、まじか///え、まじ?これ?)
勇者(えーまじでー///めっちゃ可愛いやん・・・///)
勇者(あーまじか、まじか、まじか)
勇者「ゆゆゆ、許そう!侯爵家娘との結婚については、俺に何の憂慮もない!」
魔法使い「あ・・・最低」
僧侶「」
勇者「え、いやいやいや、陛下もああ言ってるし・・・陛下には恩もあるし・・・」
勇者「とととというか、嘘じゃないよね。まじで?」
遊び人「まじです」
賢者「・・・初々しい反応ですね」
――――――
商人(よし・・・体は回復した、あとは隙さえあれば)
勇者は、自身の婚約者に見惚れてか
体をくねらせ、見悶えている
商人(ありゃあ童貞だな・・・)
商人の見立てに誤りはなかった
勇者は若く、女に耐性が無かった
しかしそれは男なら、誰もが通る道
だからこそ、こと女性がらみにおいては何を考えているか読みやすい
しかし、勇者には年頃の男の子と違えることが一つだけあった
それは、その使命感とそれを達成するために自らを制する力を
勇者は人並み以上に備えていたのである
勇者「・・・」
その誤算が、徐々に表に出てくる
旅のさ中で貯めに溜め込んだリビドー、この時勇者はそれを再び手中に収めつつあった
勇者「よし、この話はここまでだ。俺は、侯爵家の娘さんと結婚する!」
勇者「だが、これ以上、奏上を邪魔されてはたまらん。冒険商人とその仲間たち、そこに侯爵家の御令嬢も含めたとしてもだ」
勇者「申し訳ないが、少し間眠っていてもらうぞ」
しかし商人は、それを許さない
彼が見抜いた、勇者の思考回路、羞恥心、プライド
全てを考慮した作戦を、このわずかな時間に練り上げた
商人「王者の剣!」
勇者「ん?」
突然の大声に、勇者が立ち止まる
商人「狂信者の錫杖」」
勇者「それが何だ?」
商人「運命の杖、奇跡の鎧!」
勇者「だから、それが何だって聞いてるんだよ!?」
賢者「・・・貴方たち勇者一行が、城内の宝物庫より盗み出した品ですよ」
勇者「盗み出したわけじゃない、平和のために使わせてもらっているだけだ!」
勇者の反応を意に介さず、商人は続ける
商人「世界樹の葉、大賢人のポーション、力の豆」
勇者「なんだ、何が言いたい」
騎士「王家秘蔵のワイン!それにブランデー!」
勇者「それは記憶にないぞ!」
賢者(流石、騎士さん強引に紛れ込ませた・・・)
商人「・・・」
勇者「気が済んだか?」
勇者「それじゃあ、終わりにしようか、冒険商人」
商人「『サルでもわかる 女の堕とし方講座 下巻』」
勇者「!」
僧侶「勇者様、どういうことですか!?」
白目をむいていた僧侶が、商人の声に呼応するかの如く
跳ね起き、そして勇者に問いかける
魔法使い「いつのまに・・・勇者最低・・・」
勇者「ち、違う、あれは戦士が」
戦士「・・・い、いや、その」
勇者、戦士、その両方の目が泳いでいる
心当たりがあるのは誰の目にも明らかであった
商人「そして」
商人「 『名画 裸婦画集 上下巻』 」
遊び人「あらまあ///」
僧侶「いやああああああああああああああああああああああああああ!!!」
魔法使い「 最低! 最低! 最低! 」
勇者「ちょちちちち違う!それは本当に知らないマジで知らない!」
勇者「俺じゃない俺じゃないんだ!・・・そうだ」
勇者「戦士、お前だろ!正直に言ってくれ!」
戦士「・・・」
勇者「戦士!」
騎士「・・・勇者くん、待ちなさい」
勇者「いやだから、違うって!戦士、正直に言ってくれよ!」
騎士「なにも恥ずかしがることはない、若い男の子ならその衝動を抑えられない時もあるさ」
戦士「!?」
勇者「ち、違う・・・違うんだ・・・」
騎士「それに、戦士くんはこう見えて奥さんも子供もいる既婚者だ」
戦士「 !!!??? 」
騎士「家庭を持ち落ち着いた戦士くん、まだ若くリビドーを持て余している勇者くん」
騎士「誰の目からも、犯人は明らかじゃないかな?」
勇者「た、ただの決めつけじゃないか!証拠は何もない!」
勇者「おい、戦士答えろ!答えてくれ戦士!」
戦士「・・・」
戦士「勇者がやりました」
勇者「 せんしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!! 」
商人「はい、隙あり」
ごおおおおおん
まるで戦いの終結を歓迎する鐘のような音が議場に響く
商人の魔力を吸って巨大化したソロバンが、勇者の脳天に直撃した音だ
商人「よくなる頭だな、中身空っぽなんじゃねえの?」
勇者「」
戦士「すまない勇者・・・お前が人類を守ることを宿命づけられたのと同様に」
戦士「俺は、どんな手段を使おうと幸せな家庭を守らなくてはならないんだ・・・」
戦士「他ならともかく・・・エロ本万引きはまずい・・・」
戦士の心からの懺悔である
しかし、その言葉は勇者には届かなかった
――――――
商人「さあて、一仕事終わりだな」
王「その戦いぶり、久方ぶりに魅せられたぞ勇者補助係の諸君!」
騎士「へ、陛下・・・過分なお言葉にございます」
王「そう畏まるではない騎士よ・・・そういえば、約束であったの」
王「勇者を打倒した商人。貴君のその働きぶり、実に見事であった」
王「ゆえに貴君には、新たなる勇者の称号を与えよう」
商人「あ、ありがとうございます」
騎士「いやあ、思えぬ報酬貰っちゃったなあ」
賢者「陛下は退陣を要求されているんですよ、その称号もいつまで保つものか・・・」
商人「わかってるよ、ちょっとは浸らせてくれよ」
盗賊「納得いきません・・・勇者の称号は、商人さんには相応しくありません・・・」
商人「残念でしたー。物言いがあるなら、陛下に直接言うんだな」
騎士「さて、しかし大変なことになったねえ商人くん」
商人「何がです?」
騎士「いやあ、仕事の話だよ。今や君は、新しい勇者だ」
騎士「つまり補助係の業務と、勇者としての業務を兼務しなくてはいけないわけだ」
盗賊「兼務・・・仕事が増えるってことですか?」
賢者「名誉職で、実務はないのでは」
遊び人「何を馬鹿なことを、勇者は大変な激務ですよ」
遊び人「なぜなら、勇者は世界に平和をもたらすのが仕事なんですから」
商人「なんだ、そんなもんか」
遊び人「そんなもんだ、とは何ですか!」
商人「なあに」
商人「それなら、これまでもやってきたことさ」
商人がシニカルに笑う
遊び人「はあ?」
遊び人「・・・なら、そうですね。うん」
遊び人「それでは早速、手始めに世界に平和をもたらしていただきましょうか」
商人「う、うん?」
――――――
大臣「何をごちゃごちゃ言っている。騎士よ、貴様の仕事はまだ終わっていないぞ!」
大臣「早く勇者一行を議場から連れ出して、聴取にうつれ」
大臣「勇者の乱入で、どれだけ審議が遅れたことか。時間の浪費は、国民の血税の浪費に他ならないのだぞ!」
大臣「議長。審議の時間など必要ない、さっさと採決にうつれ!」
議長「最低限の審議は行わなくては、国民の理解が得られませぬぞ?」
大臣「それは、衆民院の理屈であろう。いまこの国が、どれだけの危機に瀕しているか」
大臣「短時間とは言え、それを理解できないものどもが審議などしたところで何になる」
大臣「だが、知識豊かな貴族院議員の皆と一部賢しい衆民院議員の一定の理解は得られよう。いまはそれで充分なのだ」
議長「しかし議会の運営は、議会によって・・・」
大臣「わからぬ男であるな、審議の時間がとれないのは私にとっても不利なことなのだ。だがそれを差し引いても、この動議を早急に通す必要があると言っている」
大臣「構わぬから採決にうつれ。偽の王を引きずりおろし、この国をあるべき姿に変えるのだ!」
遊び人「 おまちくださああああああああああああああああい 」
議長「 あ!? 」
大臣「邪魔をするな遊び人。貴様も議事進行を遅らすというなら牢屋にぶち込むぞ!」
遊び人「新勇者様の奏上にございます!」
大臣「は!?」
商人「え!?」
遊び人「議場に御集りの皆々様、お聞きください」
遊び人「いま、この場には多くの疑問があるにも関わらず、拙速な議会進行を行うことはこの国のためになりましょうや」
遊び人「陛下の正体、前勇者が奏上を行ってまで私たちに伝えようとした何か、そして大臣が拙速な議会進行を求める理由」
賢者(あ、大臣を無理やり巻き込んだ感・・・)
遊び人「これらの真実をすべて明らかにするのは、この王国議会において他なりません!」
遊び人「そして新たな勇者の力は、その真実を明らかにする一助となることでしょう」
盗賊(もういっそ、遊び人さんがそのまま続ければいいのに)
遊び人「それでは、新勇者様!どうぞこちらに!」
商人(こんのロリばばああああああああああ)
商人(何さらしてくれとるんじゃわれえええええええええ)
遊び人(ほら勇者としての初仕事ですよ、手始めにこの国の未来を明るいものにしてみてください)
遊び人(なあに、これまでもやってきたんでしょう?これぐらい簡単ですよ)
商人(ぐぬぬ・・・)
商人の脳裏に、先ほどまで行われていた勇者の奏上が駆け巡る
商人(あんな無様な姿を晒すぐらいなら死んだほうがましだ)
だが一方で、社会人として、うまく立ち回り遂には勇者と言う地位にまでたどり着き
また、これまであらゆる局面をほぼ思いつきに近いアイディアで乗り越えてきた経験が商人を鼓舞する
商人(俺ならうまくやれる・・・俺は勇者とは違う)
不安と自信、二つの異なる心が商人の中で激しくぶつかり合う
商人(陛下にも大臣にもいい顔をしつつ、この動乱をうまく収めるような提言をする・・・?)
商人(俺なら、やれるか・・・いやでも・・・)
盗賊「商人さん!」
盗賊が心配そうに、声を投げかけてきた
「やめとけ」
盗賊の目が、商人にそう訴えかる
しかし後輩からの、それも社会人になって1年目の新人からの思いは逆効果であった
商人「なめんなよ新人如きが!やってやろうじゃあねえかあ!!」
――――――
商人「皆様、まずは議場内をお騒がせして申し訳ありません。私は、勇者課勇者保護係の商人と申します」
商人「私共、勇者補助係の主要業務は、勇者の管理指導。その職責を以て議事進行を妨げる勇者の軽挙を止めさせていただきました」
商人「しかしながら、私もまた先ほど陛下の任命により勇者の名を冠するに至った者」
商人「ならば勇者としての責務を果たすことになんら躊躇はございません」
商人「この国に平和を導く一人の国民、いえ勇者として、陛下に申し上げたいことがございます」
王「ふふふ・・・面白い展開ではないか。なあ近衛兵長」
近衛兵長「・・・」
王「許す、好きに申してみるがよい!」
商人「ありがとうございます」
商人「まずは、陛下。先ほどの勇者の奏上、私共の指導不足もありその論点定まらず」
商人「結果として、見苦しい姿をお見せすることになりました。しかし、かの者もまたこの国の未来を憂う者」
商人「僅か4名で、各地の魔族を討伐し遂には魔王城まで到達したほどの男です」
商人「これまでの国への献身を考慮し、勇者の主張を今一度、確認したく思いますが如何でしょうか」
王「よろしい、許す」
商人「勇者よ、陛下のお許しが出た。お前の主張を端的に申し上げろ」
大臣(なんだこれは・・・これは奏上なんて物ではない・・・)
大臣(審議の真似事をするつもりか・・・?しかし、奏上と言われては止める術はない・・・)
奏上とは、本来であれば法律によって明文化された手続きに則って執り行われ
読み上げられる奏上文は、王家付きの奏上文官によって厳しく精査される
また奏上を行うことができる立場、役職も決められている
それは、かつて王が最大権力者であった時代、奏上が政治闘争の場として利用されることを防ぐために定められた法であった
先代の勇者の奏上は、それら一切の手続きを省いたものであり本来であれば大罪人として処断されてしかるものである
しかし、それを王自身が許してしまったが故に勇者の奏上は法に則らない
それこそ、制限のないものとなってしまっていた
商人(だからこそ、なんでもやれる!本来の奏上とはかけ離れても、うまいこと回して乗り切ってみせる!)
大臣(商人の目的は何なんだ?何故この期に及んで、奏上なんかを始めてしまったのだ・・・)
大臣(いや、奴は賢しい。自身が誰の部下であるかは、忘れていまい・・・)
勇者「・・・」
商人によって一度は昏倒されたものも、勇者はすぐに目覚めていた
戦士たち同様に、縛り上げられこそしていたが、勇者の膂力をもってすれば縄を引きちぎることも容易であった
しかし、それをしなかったのは勇者が冷静さを取り戻しつつあったからである
勇者(俺は何で、あんなに興奮してしまっていたのだろう・・・奏上も台無しにされてしまった)
勇者(魔王から引き受けた仕事も半端のままじゃないか・・・)
その思いが故に、勇者は商人の問いかけに落ち着いて答えることができた
勇者「俺は・・・」
勇者「俺は、魔王との対話で魔族にも知性と礼節を持つ者があることを知った」
勇者「そして、王国内で魔族が安い給料で働かされていることもだ」
勇者「王都内の魔族は俺と同じだ。僅かな資金で、労働を強いられている」
勇者「ろくに資金も与えられず魔王討伐に送り出された俺と同じなんだ」
勇者「その姿に同情した。だから、彼らを救おうと思った・・・」
商人「ろくな資金も与えられず?」
勇者「俺たちが、旅立つ前に与えられた資金は僅か50Gだ」
大臣「・・・っち」
商人「はあ?それで、どうやって旅を、あの強行軍を成し遂げたというんだ?」
勇者「野宿と、食料の現地調達で凌いだ」
商人(・・・まじかよ)
王都にまで届く勇者の冒険譚
その物語とは、大きくかけ離れた勇者の旅の真実に
商人のみならず議場に居る全ての人間が絶句していた
商人「み、みなさんお聞きになられましたとおり、勇者は困難な旅を成し遂げました」
商人「それでもなお、魔族の境遇に憐憫の情を抱く。とても優しい男なのです!」
商人「ぜひ、その寛大な心で勇者の申し上げたことに幾何かの心を傾けていただきたい」
商人「陛下!陛下は、魔族の低賃金労働について如何に思われますか?」
王「ふむ、残念ながら商人よ。魔族の賃金については、我が国の外交局通商部が魔王との合意の下で算定しておる」
王「行政府の管轄で、私には何ら権限は無い」
勇者「な、なんだって!じゃあ俺は何のために帰ってきたんだ!あの奏上は一体何だったんだ!」
魔法使い(あ、やっぱりわかってない)
戦士(奏上の名を借りて、議員たちに問題を認識してもらうって筋書きだったのを全く理解してない・・・)
王「まあ、その上で儂の意見を申すならば・・・」
王「『なんら問題は無い』である」
勇者「はあ!?」
王「魔王との合意は文書にもしてある。魔王も一度は合意したことなのだ」
王「それをいまさら、自身の都合で変えようなど外交を馬鹿にしている」
王「それに加え、儂は王。この国の王である。寄り添うのは国民の利益にこそある」
王「何故いまさら、魔族に利することに加担せねばならんのだ」
勇者「くそっ、何が王だ!他人に思いやりの心を持たない、そのやり口!」
勇者「それこそ魔王の所業ではないか!」
王「・・・・ふふっ、魔王か。勇者よ、儂が魔王であると申すか」
近衛兵長「不敬であるぞ!勇者!」
商人(まずいまずいまずい、勇者にしゃべらせすぎた!これじゃあ、俺までとばっちりが及びかねん!)
商人「陛下の仰ること、尤もにございます!」
商人「ただ幾何か、かつて国を思い旅立ち、各地にて無法の魔族を討伐して歩いた彼に幾何かの温情をご期待申し上げるものにございます」
商人の顔は青ざめていた
口上が思いつかず、時間を稼ぐべく勇者に話をふったものの
勇者の不敬罪に問われかねない言動、それを導いた責任を指摘されかねないと思ったからだ
商人(勇者に話をふったのは失敗だった!話を逸らさなくては!)
商人はフルスピードで思考をかき回し、遂には勇者の言葉から次の話題を導き出すことに成功した
商人「しかしながら、先ほどの勇者の口上において。一つ不可解な点がございました」
商人「大臣、勇者が旅の支度金僅か50Gで旅立ったというのは事実でございますか?」
大臣「・・・貴様の質問に答える義務はない」
王「大臣。答えてやれ」
大臣「くっ・・・」
大臣は、想像だにしていなかった
古来より勇者には、僅かな資金と頼りない装備を支給するのが慣例となっていた
それは、決して支出をケチっているわけではなく、勇者の旅の道中での成長を促す思いから生まれたものである
それ故に、勇者関連事業に巨額の予算がつくとは考えもしなかったのである
かねてより、自らが王座につきかつての王政の復古を目論んでいた大臣は一つの策を思いついた
多くの権力を議会や行政府に委譲した昨今でも、勇者の任命権は、王がもつ数少ない特権の一つである
例えその業務の執行を行政府が担ったとしても、王の任命責任は免れようがないほど重いものであった
勇者の失敗は、それすなわち王の失敗
大臣は、最初から勇者の旅の失敗を目論んでいたのである
そして保険として、行政府が勇者関連事業に誠実に取り組んでいることを見せるために
勇者の出立後に、僅か4名(内1名は新人)から成る勇者課勇者補助係が立ち上げられたのであった
更に言えば、古来よりの慣例であることを理由にすれば
勇者からの不平を封じ、慣例に不慣れな衆民院議員の関心も忌避できる
誰からも、関心を持たれなければ問題が発覚することはまずありえない
不明瞭な予算の執行を指摘されずに乗り切れる自信が大臣にはあった
そして、本来勇者関連事業に使われるべきであった巨額の資金は
王側に近い衆民院議員の切り崩しのためにばらまかれたのである
すなわち王の力をそぎ、自らの力をます一石二鳥の一計であった
大臣「・・・」
大臣「申し訳ないが、急に質問されても困るのだ商人よ・・・」
大臣「財務局に問い合わせ、どのように予算管理がなされていたかを確認しないことには正確な答弁はできん」
大臣「ただ私の記憶だと、勇者はかねてより僅かな資金で国を立つという慣例があったと記憶している」
勇者「魔王ならわかる!俺は、俺たちにわたるはずの金がどこかに流れてるって話を魔王から聞いたんだ!」
大臣「愚か者が!魔王なんぞに籠絡されおって、そんな何の根拠もない話を貴様は鵜呑みにしたのか!?」
勇者「魔王なら!魔王なら・・・わかるんだ!」
王「ふむ、では呼んでみるか」
大臣「陛下、一体何を仰るのですか・・・!?」
王が錫杖を構え、議場中央の壇上に向けて呪文を唱える
王「 召喚魔法 」
王「 魔の者よ我が召喚に応じよ !」
演壇を中心とした魔法陣が、光を放つ
――――――
魔王「側近ー、今日の晩御飯はアレがいいな」
側近「はいはいハンバーグですね、料理長に申し付けておきます」
大臣「は」
商人「へ」
魔王「ん・・・?」
側近「え、え、え、あれ?ここどこ?」
王「・・・魔王だけを呼んだつもりだったが、余計なものまで付いてきおったわ」
魔王「あ、ああああああああああああああ!」
魔王「国王!それに大臣!お前ら、よくも儂に暗殺者なんかよこしやがったな!」
王「・・・あ、ああ、その話はあとじゃ」
壇上に突如現れた魔王に、多くの議員が戸惑う中
勇者が、芋虫のように体をよじらせ魔王の傍まで這いずっていく
勇者「魔王!俺たちの金が、勝手に使われてるって話を証明してくれ!」
魔王「おお、勇者ではないか。なんで縛られているんだ・・・いや、それよりも奏上は終わったのか?」
勇者「ああ、魔族の労働問題についてはちゃんと王に伝えた。それより魔王!」
魔王「わかったわかった、何となくではあるが状況は理解した。」
魔王「よし、側近出してやれ」
側近「はい、召喚魔法 出でよ魔法のキャビネット」
演壇脇に、王の作り出したものより遥かに小さい魔法陣が形成され
光り輝く陣の中から、キャビネットが浮かび上がる
側近がキャビネットに近づき、引き出しをあけいくつかの書類を取り出した
側近「えーはい、こちらですね。魔王様」
魔王「うむ・・・よおく聞け人間ども、今我が手に握られている紙は王国の補正予算案」
魔王「それも勇者関連事業に関するものである!」
魔王「ここには勇者関連事業に5000万Gもの巨額の予算が組まれていることが書かれている!」
魔王「そしてこちらの用紙には、その決済の領収書がとりまとめてある!」
大臣「な!?何故貴様がそのようなものを持って居る!?」
魔王「領収を精査したところ、その予算の大部分が大臣所縁の商会に支払われているな、それも使途が曖昧で領収の体を為していない!」
大臣「わ、わかったぞ!貴様、何かしらの違法行為に手を染めたな!」
大臣「どのような改竄が為されているかも知れぬ!そんなもの証拠にはならんぞ」
側近「いえ、普通に窓口で資料請求したらもらえました」
大臣「この国の情報公開制度はどうなっているのだ!?情報出しすぎだろ!」
勇者「大臣!答えろ!俺たちの金、何に使った!」
大臣「くっ・・・私は知らん、何も知らんぞ!担当部署に問い合わせろ!」
商人(うわあ、藪蛇じゃねえか・・・これじゃあ大臣からも恨まれかねないぞ、というか絶対恨まれるだろこれ)
商人(いや、この調子だと大臣も失脚か・・・いやいやいや、大臣の政治力なら乗り切る可能性も捨てきれない!)
商人(よし!話を逸らしたうえで、バランスをとろう!)
商人「みなさま!私の奏上は、まだ半ばにございます!」
魔王「え、誰だあいつ?」
勇者「新しい勇者だ・・・」
魔王「はあ?」
商人「奏上中ですぞ、お静かに願います!」
魔王「む・・・すまぬ」
商人「それでは勇者関連予算の使途不明金については、以後精査がなされることを期待するものにございます!」
商人「最期に陛下御自身にお尋ねしたいことがございます」
王「・・・続けよ」
商人「私は先日、魔王城より召喚魔法により王城に帰還し。宝物庫内の調査において、陛下のお姿に相違ない遺体を発見いたしました」
商人「お答えいただきたい!彼の者は、何者でありましょうや!?」
王「・・・」
しばしの沈黙の後、王は口を開く
王「彼の者は、かつてこの国を治めていた王」
王「そう自身の懐を温めることにのみ注力していた愚王その者である」
商人「で、では!?陛下は、神話の時代よりこの国を治めてきた血族に連なるものでは無いのですか!?」
王「そうだ」
商人の問いかけに、王の口角が上がっていく
その表情は、笑顔を通り越し諧謔みすら帯びたものへと変わっていく
王「ふふふ・・・ふひっ」
王「 ふはははははははははははは !」
王「我が名は『魔王』。かつては魔族を治めし者だ」
大臣「!?」
魔王「!?」
王「ふふふ笑えるではないか、そこに縛り上げられた勇者が何気なしに吐き出した戯言」
王「先ほど、私の事を魔王と呼んだな」
王「ふははははははは、つまり勇者ただ一人が、真実にたどり着いていたというわけだ」
勇者「・・・お前が、真の魔王だと!?」
王「いかんいかん、この言い方では語弊があるな。今や私は息子に職を譲った身、言うなれば元魔王」
魔王「ち、父上なのですか?」
魔王「そのお姿はいったい!?」
側近「先代勇者によって倒されたのでは!?」
魔王「それよりも父上!貴方は魔の者でありながら、魔族を虐げるようなマネをしていたということですか!?」
王「ははははは、悪く思うなよ魔王よ。いまや儂は人類の味方、魔族すら恐怖に陥れる儂は言わば『大魔王』である!」
魔王「あ、あくまめ!」
王「いや、悪魔じゃし」
王「よろしい、せっかく役者もそろっておる。皆に真実を聞かせてやろう」
~~~~~~
魔王「人の営みは面白い、できればずっと眺めていたい」
勇者「ならなぜ、魔族は人々に害をなす?人と寄り添う道だってあろう!」
魔王「我々は人とのコミュニケーションの取り方を知らなかったんだ」
魔王「魔族とは互いの力をぶつけ合うことで、お互いを知り信頼を得る」
魔王「人のように言語を使用しての接触を会得していないのだ」
魔王「言語を解する私は、魔族からしてみれば突然変異なのだよ」
勇者「よくそれで魔族の統治ができていたものだな」
魔王「統治など、ほとんどできておらぬ。この強大な魔力をもって無駄な争いが起きぬようコントロールするのがやっとだ」
魔王「まあ、それでも。貴様ら人間には多大な迷惑をかけているようだがな」
魔王「だが、一部魔族には知性と呼ぶべきものが生まれつつある」
魔王「今後は、そのような新世代の魔物達がぞくぞくと生まれてくるであろう」
魔王「そうなれば、人と魔族との調和の兆しが見えてくるかもしれぬ」
勇者「・・・」
魔王「どうした?私を打倒すのではないの?」
勇者「気が変わった、お前は魔族にとって必要な存在だ。殺すわけには行かない」
勇者「お前なら、魔族を新しい道に導けるかもしれない」
魔王「ふむ、残念だが。それは断る」
魔王「私も、もう疲れたのだ。そろそろ隠居したいと思っていた」
勇者「だめだ。王無くして、国は統治できない。魔族には魔王が必要だ」
魔王「魔王の座は、我が息子に譲る」
魔王「我が息子は、新世代の中でも特出して言語の習得が早い。それに人間の文化に非常に興味を抱いておるから、人間に対して悪いようにはせんだろう」
魔王「それに奴は、私に匹敵するほどの魔力を有しておる。魔族共をうまく抑えることもできるであろう」
勇者「貴様の息子、信頼してもいいのか?」
魔王「奴は私以上に人間よりだよ。私には、いまだ旧世代の魔族の血が流れている。時折な、何もかも破壊してしまえと血が騒ぐのだよ」
魔王「しかし、我が息子であれば大丈夫だろう」
勇者「だが、若き王では旧世代の魔族をコントロールしきれないのでは?それで人類に被害が及ぶなら、俺は勇者として見過ごせない」
魔王「なれば、力の強い魔族、それこそ人々の集落を攻め滅ぼすほどの力を持つ者たちを魔王城に集めよう」
魔王「そのうえで、魔王城ごと封印するのだ」
魔王「いつかは破られるであろうが、まあ時間は稼げるだろう」
魔王「その間に、魔族は大いに学ぶであろうよ。貴様ら人間の事を」
勇者「それで、貴様はどうする?」
魔王「言ったろう隠居すると。人の街に居を構え、人の営みを眺めながら余生を過ごすさ」
魔王「だが、貴様の立場上それを許すわけにもいくまい?」
勇者「人に危害を加えないというのなら、手を下す必要はないが?」
魔王「国王の命を受けてここにきているのだろう。ならば貴様は何らかの成果を国に示さなくてはならない」
魔王「我が首持っていくがよい」
勇者「・・・人の話を聞いていなかったのか」
魔王「安心しろ、私が作り出した精巧な分身の首だ」
勇者「死んだふりか・・・だが、王国を欺くことは難しいぞ」
魔王「なれば、徹底して隠匿を図ろう」
勇者「具体的には?」
魔王「王国だけではなく、我が魔族たちをも欺くのだ」
勇者「息子にも黙って行くつもりか・・・」
魔王「なに、魔族の寿命は長い。いつかはまた、会えるであろうよ」
~~~~~~
勇者「魔王、魔王はいるか?」
魔王「おお、勇者ではないか久しいな。我が新居を見てみろ、人の作った調度品を揃えてみた。なかなかに洒落ておるであろう」
勇者「む・・・俺は、そういうのはよくわからん」
魔王「残念な奴だな。で、何か用が会ってきたのではないのか?」
勇者「お前に相談したいことがある・・・」
魔王「話してみろ」
勇者「俺が、お前を倒す為に旅をしている間に国王が崩御した」
勇者「いまは、新しい王が国を治めているが・・・あまり良い王ではない」
魔王「ふむ・・・噂は聞いている。税が増え、国民が飢えているらしいではないか」
勇者「俺は、いまから国王に苦言を呈しに行く。だがあの王の事だ、聞き入れてはもらえないであろう」
勇者「俺は勇者だ、人々の安寧を守る責任がある。なのに俺は、その術を持たない・・・」
勇者「俺が持っているのは圧倒的武力ぐらい・・・頼む魔王、知恵を貸してくれ」
魔王「それだけ人の世を思うなら、貴様が王になればよい」
勇者「馬鹿を言うな・・・王は神話の時代より続く正統な血筋でなければ勤まらん」
勇者「血筋だけの問題ではない、俺には人々を統べる力はない」
魔王「血筋か・・・人間どもは何とも下らないものに縛られておるな」
勇者「いや、おまえんちも息子が魔王やってるじゃないか」
魔王「まあ、そうなんだけど」
魔王「そうだな・・・では王になりすますか」
勇者「なりすます?」
魔王「つまり、王を殺し・・・入れ替わる・・・」
勇者「・・・」
魔王「ほお、闘争を嫌う貴様なら怒り狂うと思ったが・・・それほどに酷い王なのか」
勇者「魔王・・・魔族を治めていたお前なら、この国を治めることも・・・」
魔王「私は、隠居した身なのだが」
勇者「頼む!対価はいくらでも支払う!」
魔王「そこまで信頼されても困るな。私は人の統治などしたことないからな」
魔王「それに、旧世代の魔族の血が突然騒いで大問題を引き起こすやもしれんぞ?」
勇者「俺が、付き添おう。俺を側においてくれれば、可能な限りサポートをする」
魔王「万が一ばれるたら国に大混乱をもたらすぞ」
魔王「勇者が、それに加担したとなればなおさらだ」
勇者「ならば俺も顔を変えよう・・・元には戻れなくなるが、究極の変化魔法を使えば可能だ」
魔王「家族や友人を捨てるつもりか?」
勇者「この国の現状を思えば、芥程の後悔もない」
魔王「ふむ、それほどの覚悟か・・・よかろう、長い余生だ。人間の王ぐらいやってやろう」
魔王「・・・対価はいくらでも支払うと言ったな」
勇者「ああ、俺が払える限りでだが」
魔王「ならば、貴様には私の余生に付き合ってもらおう。互いに家族や友を捨てた身、新たな友を得るのは良いことであろう」
勇者「・・・ああ!それぐらいなんてことはない!」
魔王「ふむ、しかし人間の寿命は短すぎる・・・お前の体、すこしいじらせてもらうぞ」
勇者「?」
魔王「なに、魔族寄りの体に改造して。ちいっとだけ寿命を延ばすのさ」
~~~~~~
――――――
大臣「大魔王!貴様が兄王を殺した張本人か!」
王「ははははは、その通りだ大臣」
王「正体を明かした以上、取り繕う必要は無いか」
王の体が、闇のオーラに包まれ
角が生え、羽根が生え、肌の色は浅黒く染まり
その姿はみるみるうちに、魔族のそれへと変貌を遂げていく
大魔王「さあ人間どもよ、我が名は大魔王。人間の王を暗殺せし者よ!」
大臣「こ、殺せ!近衛兵長!大魔王を殺すのだ!」
近衛兵長「友は殺せぬ」
大臣「何を言っている!やつは王殺しの男ぞ!」
近衛兵長「我が真の名は勇者。大魔王と友情を交わし、共に王を殺したものだ!」
大臣「先代勇者か!陛下の怒りを買い姿を隠したとばかり思っていたが、こんなところに隠れていようとは!」
魔王「大魔王!息子である私すら殺そうとしたのか、そうなのだな!」
大魔王「あははははは、なあに現に貴様は生きているではないか」
魔王「許さぬ、もう父とは思わんぞ!極大闇魔法 ダークネス」
近衛兵長「極大光魔法 シャイニング!」
商人「ほら、勇者御一行様。お前らも行ってこい」
商人が勇者の縄をほどく
勇者「俺たちの拘束を解いてもいいのか・・・?」
商人「お前たち以外の誰が、あの化け物同士の戦いを止められるというんだ?」
商人「悪いが、俺に期待されても困るぜ。もうお前との戦いで体力もすっからかんだ」
勇者「そうか、そうだな・・・俺ももっと暴れたい気分だったんだ」
勇者「魔王と大魔王の戦いを止めるか・・・!面白そうじゃねえか!」
勇者「おい、みんな準備は良いか!?」
騎士達によって、拘束を解かれた戦士、魔法使い、僧侶が勇者に駆け寄る
戦士「もちろんだ、勇者!」
魔法使い「大魔王と戦うなんて、ようやく勇者一行らしい仕事じゃない」
僧侶「あんなやつぶん殴ってやりましょう!」
勇者「よし!いくぞ!」
勇者「大臣!かくごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
戦士「ば、ばか!そっちじゃねえ!!」
極大魔法の応酬に、加えて勇者の乱入は賢者の形成した氷壁すらあっさりと打ち砕き
魔力同士のぶつかり合いから生じる衝撃によって議場内に強風が吹き荒れる、議員たちは我一番と席を立ち
もはや、議場は正常に機能せず大混乱に陥ってしまった
大魔王「ふはははははは、せっかくの余生だ。殺されてはたまらぬ!逃げるぞ先代勇者!」
魔王「ほざけ、そんなの許すわけが無かろう。冥途に送ってくれるわ!」
近衛兵長「大臣、貴様は前から気に食わなかったんだ!最後に一発だけぶん殴らせろ!」
大臣「こっちの台詞じゃ、先代勇者!」
勇者「戦士!さっきはよくも裏切ってくれたな!」
戦士「お、俺にだって家族がいるんだ!それより大魔王をどうにかしろ!」
僧侶「勇者様!私と言うものがありながら、遊び人なんかに籠絡されて!この浮気者!」
魔法使い「ちょっと、あんた達いい加減にしなさい!敵は大魔王でしょう!」
議長「閉会!ひとまず議会を閉会とする!議員諸君は、早急に退避!へいかあああああああああああああああああああああああい!」
騎士「ありゃりゃ、これじゃあ大臣の緊急動議もご破算だなあ」
賢者「もしかして、これを最初から計算していたんですか?」
商人「まさか・・・成り行きに身を任せただけさ」
盗賊「・・・どういうことです?」
遊び人「結果として、商人さんは大臣の不正、国王の正体を明らかにし。そのうえ、国民の政治参加の要である衆民院議会を守ったということですわ」
遊び人「私としては、奏上を使ってうまくまとめ上げてほしかったのですけど・・・」
商人「無茶言うなよ、あんな急に振られてそんな真似できるか。こっちは恥を晒さないようやるのだけで必死だったんだ」
賢者「まあ、この大混乱じゃあ商人君の奏上なんてみんな忘れてしまうでしょうしねえ・・・ん、ああこれも計算ずくですか」
盗賊「まさか、勇者の拘束をといて混乱を加速させたのも・・・この大混乱を引き起こすため?」
商人「さあ、どうだろうな」
商人「で、どうよ遊び人ちゃん、盗賊ちゃん。君たち憧れの新しい勇者様の初仕事は?」
盗賊「ぎりぎり可」
遊び人「落第点」
商人「そっかあ・・・」
商人「勇者になるってのは、難しいなあ・・・」
――――――
あれから半年
この国は、一時大混乱に陥ったものの
少しずつ平静を取り戻しつつあります
勇者様と魔王の力をもってしても、大魔王と先代勇者様のタッグは強力で
その逃亡を阻止することは敵いませんでした
ただあの日の言いぶりから考えると、どうも王都に姿をかえて潜んでいるような気がしてなりません
まあ、極悪非道の人たちというわけでもなさそうですし、のんびりと人々の生活を並べて将棋でも指しているんじゃないでしょうか
大臣は、逃れようのない証拠が揃っていたため
あっさりと罷免されたうえに、業務上横領、贈賄の罪で起訴
同時に、自身に権力を集中しようとした緊急動議は審議不十分のままお蔵入りとなりました
ただ噂だと、王国の政治改革に尽力した功績を背景に特赦を求める貴族院議員が多く
実際、大臣がどうなるかは未だわからないいう話だそうです
きっとあの人の事だから、また政治的工作を企むだろうけど
裁判と言えば、勇者様一行は、やはり背任の罪で起訴されました
ただ、宿屋も借りられず、野草を食べて飢えをしのいでいたりとその凄惨な旅路に絶句した裁判所が
情状酌量の余地ありと言うことで、勇者の名をはく奪されたうえで猶予付きの判決になるそうです
それに、その絶大な力を野に放つわけには行かないということで
全員、然るべき行政部署にて雇い入れることが決まりました
一部、貴族院議員の中から犯罪者を雇い入れるのかという声もありましたが
役人や政治家から嫌われているのとは裏腹に、各地で魔族を遊撃して回っていた勇者様は民から絶大の人気を得ており
衆民院からの後押しで、事なきを得ました
あ、ちなみに私の実父
義賊は、案の定脱獄を果たしていました
王城警護の近衛兵が、議場に集まったあの日に決行したようです
相変わらず悪運の強い人です
国王の座は、いまだ空席のままです
暗殺された愚王、収監されている大臣共に、子を持たず王家の血筋が途絶えてしまったからです
そのため現在、議会によって王政廃止の手続きが進められています
とはいっても、大魔王によって王の特権のほとんどは既に議会や行政府に委譲されていたため
国政の在り方が、大きく変わるということにはならないようです
新しい行政府長、すなわち大臣は
名門貴族である侯爵家の力と
あと言いにくいですけど・・・・年功序列的に最適だろうという運びになり
なんと、遊び人さんが
議会の信任を得る形でに就任されました
ただ遊び人さんとしては、さっさと引退したいらしく
今は、超法規的に行われたこの議会の信任による大臣の選出を前例にし
以後も同様の手続きがとれるよう、法整備を進めています
私たち勇者課勇者補助係はというと
組織図的に大臣直轄の唯一の組織と言う理由で、遊び人さんにこきつかわれています
賢者さんは相変わらず有能で、大臣付き次官に任命され大臣をサポートしています
騎士さんは、元部下である賢者さんに追い越されたことですこし複雑な心境のようです
ただ賢者さんも負い目からか、騎士さんへは特に気を回してくれていて
結果として仕事がスムーズに進んでいます
そして
新しく勇者となった商人さんは・・・
商人「ぐえー、頭痛が痛いいいいいいい」
盗賊「まったく、始業時間ギリギリですよ。なにやってるんですか!」
商人「んなこと言ったって、勇者ってのは彼方此方に御呼ばれするんだよおお」
商人「昨日も、遊び人と一緒に北の商会のパーティーで笑顔を振りまいてきたんだぞ」
騎士「まあ、それも勇者の仕事と思ってあきらめなさい」
商人「騎士さんー、午前中だけでも休ませてもらえないでしょうか・・・」
騎士「だめ。事務仕事も溜まっているんだ、これだって立派な勇者の仕事だ」
商人「勇者になっても、事務仕事からは逃れられないのか・・・」
賢者「ただ酒がたらふく飲めると思って耐えてください」
商人さんは、偽りの王からの拝命ということで
一度は勇者の称号を取り消されたものの
結果として、議会の進行を妨げた前勇者を抑え
不正を行った大臣を退陣に追いやり、偽りの王の自白を引き出した功績から
議会によって新設された『勇者叙勲』を受け
一役人でありながら、勇者の名を冠するに至りました
商人「あれ・・・そういえば遊び人は?」
騎士「商人君、ちゃんと敬意を以て大臣と呼びなさい。彼女は今や私たちの上司なんだから」
商人「へーい」
遊び人「みなさん、おはようございまーす」
盗賊「あ、大臣!もう始業時間過ぎていますよ!何考えているんですか!?」
遊び人「申し訳ありません。昨晩、ちょっと盛り上がりすぎちゃって・・・つい、朝まで」
賢者「まったく、自分の立場を弁えてください」
商人「というか、約束通り勇者と結婚してさっさと寿退職してしまえばよかったのに」
騎士「こらこら、いま大臣にやめられたら私たちが困るんだからね」
遊び人「だれが、あんなへなちょこ勇者と結婚するものですか。あんな婚約、破棄ですわ破棄!」
商人「そんなこと言ってると、売れ残りますよ。いや、年齢的に既に売れ残りか」
商人「あ・・・」
盗賊「・・・」
賢者「・・・」
騎士「・・・」
遊び人「・・・」
遊び人「そういえば、商人さん・・・」
商人「は、はい・・・」
遊び人「昨晩は、お互い楽しみましたわね!」
商人「な!?いやいやいや誤解を招く!その言い方は誤解を招きます大臣閣下!」
盗賊「」
賢者「うわあ・・・」
騎士「く、くわばらくわばら」
盗賊「こんの、はれんちおとこめええええええええええええええええ!!!」
「 勇者様!もう勘弁なりません! 」
――――――
おわり
ご指摘いただいた点は、今後のSSに生かしていきます
ご意見ご感想お待ちしております
乙姫
見事な大団円
意見なんか下手に入れて面白くなくなっても嫌だわ
このまま一直線にお進み下さい、楽しめました
シリアス場面の誤字で思わず吹いてしまったのは内緒
乙
話の焦点が散らかってたのを、こじつけとキャラsageで無理矢理纏めた形になったのは残念かな。
とはいえ、話を引き延ばして、個々の要素を一つずつ丁寧に片付けるだけでもっと良くなると思う。
次回作に期待。
アニメ見てるかのようなテンポの良さだったし、何も文句はない。最後まで小気味良く楽しませてもらったので満足です。
乙乙乙
すごく面白かった
次回作も楽しみにしてます!
ご感想ありがとうございます。
某所でぼっこぼこにされておりますが、次は皆を唸らせられるよう励みます。
上がってたのでなんとなく開いたけど
某所ってエレ速でしょ?ww
あそこは初めの1~2コメが批判しだしたら全員で批判しだす変な所だから気にしたら負け
マウントとりたいだけの連中しかいないから
自分はほんと、楽しくよめたし落語の方も楽しませていただいたので
やりたいようにやられて下さい、次回作もお待ちしてます
不満言ってる人に満足いくラスト聞いたら唸ってくれるよ
まとめで暴れてる奴らなんてどうせ「作品叩く俺かっけー」なキッズなんだろ
そんなバカは何やっても文句しか言わないんだから無視でおk
一つ学んだことは、展開ありきで話をつくるとキャラが定まらないということですね。
単発ならそれでも問題ないですけど、話が長くなると齟齬が出てしまう。
次は、キャラクターを練ってからやってみます。
完結おつです!
前作同士の繋がりがすごくて読んでて楽しかったです!
次回作も楽しみに待ってます!
誰が何と言おうと面白かった、ありがとう
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません