二宮飛鳥「甘く切なく、穏やかに愛おしく」 (14)

とある日 事務所にて


飛鳥「ふむ……今回の撮影、テーマは『スイートオータム』か」

飛鳥(秋という季節は、落葉をはじめ『生命の終わり』『衰退』を彷彿とさせる時期だ。だからこそ、人は甘さを求めるのかもしれない)

飛鳥「さて、どういったスタンスで撮影に臨もうか……バレンタイン関連の仕事は経験済みだけど、あれとはまた甘さの趣が異なるだろうし」

飛鳥「甘さ、スイートか……何か、参考になるものでもあれば」



心「………」←無言で飛鳥を見つめている



飛鳥「………」

飛鳥「MAXコーヒーで甘さに触れてみようか……」スクッ

心「目背けんな☆ さらっと逃げようとすんな☆」

飛鳥「バレた。捕まった」

心「こんなブリリアントなAngelに捕まるなんて幸せだぞ~♪」

飛鳥「大魔王からは逃げられない」

心「誰がサタンだ☆ Angelだよ、Angel♪」

飛鳥「なぜエンジェルだけネイティブチックな発音なんだい」

心「他の単語は正しい発音知らないから」

飛鳥「リアルな理由だね」



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心「とにかく、はぁとがいるからにはもう安心♪」

飛鳥「なぜ」

心「ふっふっふ……いるじゃないかここに、スウィーティーの才能を持つ女が!」

飛鳥「それで」

心「だからぁ、はぁとを参考にすればスウィーティーオータムだって楽勝ってこと♪」

飛鳥「スイートオータム」

心「スウィートオータム」

飛鳥「拘るね、ウィに」

心「ウィ☆」

飛鳥「どこかのプロダクションの社長のようだ」



心「それで? 具体的にはどんな写真撮るの?」

飛鳥「前半は森の中で落ち葉に囲まれながらのシチュエーション。後半は、スイーツに囲まれてさながら貴族のような格好での撮影になるそうだ」

心「へえ~、飛鳥ちゃん貴族の格好似合いそう☆ 終わったら写真見せて♪」

飛鳥「それはかまわないけど」

心「テーマは『スウィートオータム』だけなの? ほかに煽り文みたいなのは?」

飛鳥「副題は……『あま~い秋、見つけた♪』だ」

心「ぷっ……あ、ごめん♪ 飛鳥ちゃんが言うとめっちゃかわいい……普段とのギャップがヤバい☆」

飛鳥「まあ、普段は語尾に『♪』なんて意地でもつけない性格だからね……似合わないかな、これは」

心「ううん、それとこれとは別☆ 普段やらないのと、似合わないのは全然違うから♪ 飛鳥ちゃんならバッチリ決められるって♪」

心「女はいくつか顔を持ってるほうが魅力的、なんてね☆」

飛鳥「いくつもの顔……アナタが言うと説得力が違うね」

心「はぁとに裏表があるみたいな言い方に聞こえるけど気のせいだよね?」

飛鳥「被害妄想だよ、きっと」フフ

心「きっと……引っかかるなぁ」ジトーー



梨沙「おはようございまーす」ガチャリ


心「あ、間違いなく裏表がない子だ」

飛鳥「父親に対してだけ態度が違うのは?」

心「それ、裏表じゃなくて自分の欲求に忠実なだけ☆」

飛鳥「なるほど」

梨沙「ちょっと! アタシが来るなりなんの話してるのよ」

心「褒めてるだけだから心配しないでいいぞ♪」

飛鳥「本能に忠実、思い立ったら一直線……まさしく豹、パンサーさ」

梨沙「本当に褒めてるんでしょうね……」

梨沙「へー、スイートオータムね。スイーツに囲まれるって、どんな感じなの?」

飛鳥「詳しいところまでは聞いていないな。おそらく当日、スタッフが撮影しながら詰めていくんだろう」

心「貴族っていうんだから、豪華な椅子に女王みたいに座って周りにケーキとかいろいろ置いてる感じになるんじゃない?」

梨沙「あー、ありそう」

飛鳥「Pは、パンケーキなんていいんじゃないかって言ってたけど」

梨沙「パンケーキ! いいわね、それ!」

心「梨沙ちゃんパンケーキ好きだもんね」

梨沙「自分で作れるしね。ていうか、飛鳥もいっそ作ってみれば?」

飛鳥「作る? ボクがかい」

心「それ、いいかも♪ 撮った写真って雑誌に載るんでしょ? そこで『パンケーキは飛鳥ちゃんの自作です!』とか載せてもらえば、女子力アピールで評価アップ間違いなし☆」

飛鳥「女子力、ね。あまり関心のあるワードではないんだけど……」

心「甘っちょろいこと言ってると、人気アイドルになれないぞ?」

飛鳥「一応、甘さを見つける撮影なんだが……」

梨沙「フッ、ヒニクなものだね。このセカイは」

飛鳥「それ、ボクの真似?」

梨沙「似てるでしょ?」

飛鳥「まあまあだね。65点といったところか」

心「反応に困る点数だな☆」

梨沙「それで、どうするの? パンケーキ、作ってみる?」

飛鳥「そうだな……まあ、練習だけはしてみようか。人前に出せるレベルのものができなければ、撮影以前の問題だしね」

心「おっ、やる気じゃん♪ はぁとも手伝ってア・ゲ・ル♪」

梨沙「パンケーキならパパに何回か作ってあげたことあるから得意よ! アタシもアドバイスしてあげるから感謝しなさいよね!」

飛鳥「いいのかい? 今回の撮影、ふたりには関係ないけれど」

心「んもう、寂しいこと言わないの♪ 自分の仕事に関係なくても、マブダチの力になれるならやるってば☆」

梨沙「マブダチ? 魚の名前?」

飛鳥「魚の名前ではないよ」

梨沙「じゃあなんて意味?」

飛鳥「……あー、その。うん、ボクは知らない」

梨沙「え、そうなの? でも魚の名前じゃないってわかるんだから意味も知ってるんじゃ」

心「にやにや」

飛鳥「そこのニヤニヤしてる人、梨沙に説明してやったらどうなんだ」

心「えぇ~~? でも、いつも梨沙ちゃんに難しい言葉の解説入れてるのって飛鳥ちゃんだし~~」

飛鳥「むぅ」

梨沙「もう、なんなのよ! いいから意味を教えなさいよー!」



翌週


P「ただいまー」

飛鳥「あぁ、おかえり。いいところに来てくれた」

P「ちょうどいいところ?」

飛鳥「少し、付き合ってくれないか。時間もちょうど3時だし、午後のティータイムとしゃれこもうじゃないか」





P「おおー。このパンケーキ、飛鳥が作ったのか?」

飛鳥「かしましいツインテール二人組に指導を受けながら、ね。一応、最初から最後まで直接手を動かしたのはボクだけだ」

P「生クリームにイチゴが盛りだくさんだな。おいしそうだ」

飛鳥「この前話してくれた撮影の話だけど、自作のパンケーキを用意してみたらどうだと提案されたんだ」

P「へえ、いいじゃないか。あとで俺も向こう側に伝えてみるよ」

飛鳥「あぁ。でもその前に、味が保証されているかどうかを確かめたくてね。キミに味見を頼みたい」

P「俺でいいのか? 手伝ってくれた人には」

飛鳥「甘い憂鬱を味わいたくないのだそうだ」

P「甘い憂鬱?」




心『食欲の秋ってさ。ついつい糖分取りすぎてお腹周りがぷくーってなってさ……スウィーティーだけどスウィーティーじゃないよね……』



飛鳥「………」

飛鳥「まあ、甘くて切ないというヤツさ」

P「?」

飛鳥「紅茶を淹れよう。キミは座っていてくれてかまわない」




P「では、いただきます」

飛鳥「どうぞ、召し上がれ」

P「………」モグモグ

飛鳥「………」ソワソワ

P「………なるほど」

飛鳥「……どうかな」


P「うん、甘くておいしいよ。俺好みの味だ」

飛鳥「そうか……やった」グッ

P「はは、ガッツポーズが出るほどうれしかったのか」

飛鳥「………コホン。ともかく、お気に召したならなによりだ」

P「そうだな。ははは」

飛鳥「なぜ笑うんだい」プク

P「なんでもないよ、なんでも」

飛鳥「………ふっ。まあ、キミの前で下手に取り繕っても仕方がないか」

飛鳥「実を言うとね。キミに味見をしてもらいたかった理由は、もうふたつあるんだ」

P「ふたつ?」

飛鳥「当ててみる?」

P「うーん、難しいな……俺なら仮にパンケーキがとんでもない失敗作でも大丈夫だと思ったとか?」

飛鳥「キミ、ボクがそういうことを考える人間だと思っているのかい」ジトー

P「ごめんごめん、冗談だ。ちょっと思いつかないな」

飛鳥「ひとつめの理由は、日頃世話になっていることへのささやかな恩返しをしたかったから。そして、もうひとつの理由は………単純に、キミとふたりきりの時間が欲しかった。それだけ」

P「……そういえば、最近はあまり飛鳥とふたりだけになる状況がなかったか」

飛鳥「ここの部署も、ずいぶんと人数が増えたからね。そうなるのも自然な流れさ」

P「ごめんな。昔より、飛鳥を気にかけられる時間が減ってしまって」

飛鳥「謝ることはないよ。ボクだって、以前よりは手がかからないアイドルに成長しているんだから。求めることがあるとすれば……今この時間を、大切にしてほしい。それでいい」

P「……わかった。飛鳥とのティータイム、楽しむよ」

飛鳥「あぁ、その意気だ。………ねえ、P」

P「なんだ」

飛鳥「食べさせて、あげようか」

P「え?」

飛鳥「だから……ほら。あーん、というヤツだ。はい、あーん」

P「きゅ、急だな」

飛鳥「時間は限られているんだ。生き急がなくてどうする」

P「そういう問題かな……」

飛鳥「いいから、ほら」

P「じゃあ、お言葉に甘えて……」

飛鳥「………」



飛鳥「ぷっ」

P「待て。どうして今笑ったんだ」

飛鳥「いや、その。餌を待っている魚みたいに見えて……ぶふっ。あはははっ!」

P「君なあ……自分で提案しておいてツボるのはどうなんだ」

飛鳥「す、すまない。でも、アレだ。ボクとキミとに、こういうのは似合わないね。あははっ」

P「まあ、それはそうかもしれないな」

飛鳥「出会った当初なら、また違っていたのかもしれないけどね。最初はキミのことを、崇高に捉えすぎていたから。まさに理想の存在だとね。ある意味、キミこそがボクにとっては偶像だった」

P「じゃあ、今は?」

飛鳥「そうだな……まず、ヒゲが濃い」

P「ちゃんと剃ってるだろう」

飛鳥「剃った跡が青くなっている。ヒゲがもともと濃い証拠だ」

飛鳥「それと、たまに会議に書類を忘れかける。ありすや梨沙に叱られているね」

P「面目ない……理想の存在からかなりランクダウンしたなあ」

飛鳥「まったくだ。でも、ボクはそれでいいと思っている」

飛鳥「担当アイドル達に真摯に向き合い、寄り添うことができる。キミは間違いなく、ボクらのプロデューサーだよ」

P「ありがとう。うれしいよ、そう言ってもらえると」


飛鳥「昔は、キミとふたりでいる時間が愉しかった。ボクが言葉を投げかけ、キミがうなずく。静かだけれど、有意義な時間だと思っていた」

飛鳥「そのうち、他の子と一緒に過ごす時間が増えていき……だんだんと、彼女たちと紡ぐ会話も楽しめるようになった」

飛鳥「そうしたら、どうなったと思う?」

P「………」

飛鳥「キミと過ごす時間が、もっと楽しくなった。不思議なことにね」クスッ

P「そうか」

飛鳥「うれしそうな顔をしているね」

P「実際、その通りだと思うから。飛鳥、自然に笑うようになった」

飛鳥「キミの少々バカっぽい笑顔がうつったのかもしれないね」

P「おいおい、梨沙みたいなことを言うな」

飛鳥「ふふっ、冗談さ。紅茶のおかわり、いるかい」

P「もらうよ」

飛鳥「よし」



飛鳥(少女として、アイドルとしていられる刻は限られている。いつかは、この日々も終わりを告げる。それは、どれだけ足掻こうとも変えられない)

飛鳥(だけど。それでもボクは、キミとこうしてなんとはなしに過ごす、穏やかな時間がたまらなく愛おしいんだ)

飛鳥「だから……刹那の休息くらい、許しておくれよ。甘く切ない、ボクの願いだ」




おしまい

おまけ


ファミレスにて


心「今ごろ飛鳥ちゃん、プロデューサーとイチャイチャしてるのかなー」

梨沙「せっかくアタシ達が空気読んで抜けてきたんだから、そうなってないと困るでしょ。イチャイチャっていうか、仲良くしてるだけだと思うけど」

心「さすがのはぁとも、パンケーキを少しも食べられないほどカロリー制限かけてるわけじゃないもんね♪ あくまで空気を読んだだけ☆ 友情パワーってやつ☆」

梨沙「飛鳥、プロデューサーのこと大好きだもんねー」

心「はぁとのおかげでパンケーキもスウィーティーに仕上がってるはずだし、作戦大成功だな☆」

梨沙「ちょっと待ちなさいよ。パンケーキがおいしくできたのはアタシのアドバイスのおかげでしょ」

心「いやいやはぁとのおかげ」

梨沙「アタシのおかげ!」

心「………」

梨沙「………」



心・梨沙「ありす(ちゃん)、どっちだと思う!?」

ありす「どっちでもいいと思います」

ありす(飛鳥さんの代打、私には荷が重いです……)



おまけおわり

おわりです。お付き合いいただきありがとうございます
今回の月末飛鳥、特訓前後ともに魅力的でいいですね(毎回言ってますが)。一緒にケーキ食べたい

シリーズ前作:的場梨沙「オトナの女は黒で決めるの!」
昔の飛鳥とPのお話:二宮飛鳥「さあ――」

などもよろしくお願いします

よーし、橘さんよ。そのパンケーキの上にいちごパスタを乗せるのです!

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