村上巴「八月のツキ」 (60)
巴「ついにこの日がきたのう」
ありす「はい、巴さん。ついに…ですね」
巴「姉御は強いからのぉ~。うちでは相手になるかどうか…」
ありす「巴さんだって強いです。きっと勝てます!」
巴「そうじゃな…勝負は結局、うちの今日のツキしだいじゃ!」
コンコン
「どうぞ」
ガチャ
巴「お邪魔します」
レナ「来たね、巴ちゃん」
巴「村上巴、まかり越しました」
巴「レナの姉御、本日の『花札勝負』どうぞよろしゅうお願いします!」ぺこり
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レナ「こっちこそよろしく、巴ちゃん。良い勝負にしましょうね」
巴「はいっ!」
ありす「あ、見学の橘です。私もよろしくお願いします」ぺこり
レナ「うん。是非とも勉強していって!」
レナ「そうしたらありすちゃんともいずれ勝負できるし、ねっ!」
ありす「はい!」
巴「そいじゃあ、早速ですが『こいこい』…勝負といきましょうか」
レナ「ええ。受けて立つわ!」
巴(一月目の勝負はうちが親。先手番じゃ)
巴(…手札は一見悪くない。しかし、場札との噛み合いが今ひとつじゃのう)
巴(最重要の“菊に盃”も所在不明。場札はカス札基調…とくれば)
巴(先手の優位を利用した『カス』狙いの速攻じゃ!)
巴(花札は先手の親が圧倒的に優位なゲーム。レナの姉御のような強者相手に、この優位は活かしたい…)
巴(先手で場札を取り、場を枯らす……!!)
ぺしっ
レナ「……」
巴(山札…)めくりっ
巴(よしっ!これもカス札で場札とそろうた!!)
巴(初手でカス札4枚…!これはツキが来とるかもしれん!)
巴(そして、先手番の優位はここからじゃ)
巴(うちの初手では8枚の場札があったが、うちが2枚取り残り6枚)
巴(同じく初手のはずの後手番。子のレナの姉御はすでにうちと比べてチャンスは75%に減っとる)
巴(先手は高い役を作る見込みが無かったら、即座に『カス』狙いに限るのう)
レナ「……」ぺしっ
“菖蒲のカス”
巴「!!」
巴(初手から…菖蒲?)
巴(菖蒲は本来なら最も取る優先順位が低い花のひとつ。それも手札のカスで場札のカスを取った…)
巴(つまり、レナの姉御はうちの『カス』狙いにもう気付いとる…!!)
巴(どうせ場のカス札を取るのなら、花の優先順位などほぼ無意味)
巴(そんならいっそ、相手に見せても自身の手の内を読まれにくい…本来ならさほど優先的ではない札から言うことか)
巴「ははっ、やはり手強いのう。レナの姉御は…ッ!!」
レナ「フフッ♪」ニコッ
一手目 親【巴:カス4】
二手目 子【レナ:カス3短冊1】
[場札:4枚]
巴(三手目じゃ。姉御も場のカス札をさらいに来たとなると、早さ勝負がさらに加速するのう)
巴(しかし、先手の優位は変わらん。幸いうちの手札にはまだカス札が残っとる)
巴(姉御の手の内は読めん。が、先にあがってしまえば問題無い!)
巴(カス札取りじゃ!)ぺしっ
巴(姉御ほどのお方なら、この流れからだとうちの手札を2枚も晒せば、残る手札もおおよそ読まれとるはず…)
巴(じゃけえ、より速攻が有効じゃ!!)めくり
巴「よしっ!」グッ
巴(二手で、カス札8枚目……!!最速ペースじゃ!!)
三手目 親【巴:カス8】
[場札:2枚]
レナ「……」
巴(姉御の四手目。もうすでに場札は少ないし、カス札も出てない)
巴(カス札を場から枯らすのには成功じゃ!)
巴(『こいこい』は相手に役を作らせないよう妨害する手を打ち合う…言うなら防御が基本の戦術)
巴(だが上級者はそんな妨害・防御がそのまま自身の攻撃に転じる!)
巴(しかし、先手の速攻の『カス』は、そんな防御の暇さえ与えない…!)
巴(これぞ先手番の優位じゃ!)
巴(…さすがにここまでカス札の枚数に差がつけば、よほどの事がない限り追いつかれはしない)
巴(じゃが……姉御にそんな油断は禁物じゃ)
レナ「……」しゅっ
“芒に月”
巴(“芒に月”…?光札に切り替えて来たか…ッ!)
巴(確かに、姉御が速度で今のうちに太刀打ちしようとなると、最短の2枚札で役になる『月見で一杯』を狙うしかない)
巴(場の“芒に雁”と共に手中に収め、“菊に盃”を取る機会を狙う気じゃ!)
巴(やはり姉御はまだ闘う手を下ろしてはおらん、か…)
四手目 子【レナ:カス3タネ1短冊1 “月”】
[場札:2枚]
巴(うちの五手目。実は勝負自体はほぼ決着しておるんじゃ)
巴(うちの手札には“藤のカス”が2枚ある)
巴(この五手目で1枚場に出し、次の七手目で自ら取れば…カス札10枚。『カス』完成じゃ!)
巴(後は場の状況しだい。姉御が“菊に盃”を手にする前に、どれだけさらに追加のカス札を取って文数を伸ばせるか…)
巴(どこまで欲張れるか。どこで退くか。花札の『差し引き』じゃな)ぺしっ
レナ「……」
五手目 親【巴:カス8】
[場札:4枚]
レナ「……」
巴(姉御の六手目。事実上の姉御の最後の手番じゃ)
巴(姉御ならチャンスはもはやここしかないと察してそうなもんじゃが…事態を打開する手札はあるのか…)
レナ「……!」ぺしっ
巴「なっ!?」
“菊のカス”
巴(“菊”じゃと!!?)
巴(そいつは…そいつは虎の子じゃないんか!?)
巴(いや、これは……!)
巴(姉御はうちと同じことをしようとしている……っ!)
巴(すなわち、自分の手札から同じ月の札を出し、次手に合わせて取る…!!)
巴(つまり、姉御の手札には“菊に盃”が存在している!!)
巴(そして…うちにそう思わせて、うちを安手で『降ろす』ための……)
巴(ハッタリじゃ!!!)
レナ「……」
巴(十中八九、姉御の手札に“盃”は無い)
巴(しかし、ここであえて菊のカス札を出す事でうちにそれを警戒させる…)
巴(うちが七手目で『カス』を作ってしまった場合、『こいこい』で手を伸ばされるのを防ぐため…)
巴(うちのこいこい中に『月見で一杯』なんかで勝負に来られてみい。10文じゃぞ)
巴(うちが1、2文を欲張って…無茶な『こいこい』しない事を見越してのハッタリ…!)
巴(あるいは…もしや、本当にわざとうちに『こいこい』させた上で潰す気…か?)
巴「ハハ……ッ!!」にっ
レナ「……」ニコッ
巴(嬉しいのう!!)
巴(レナの姉御は本気じゃ!!)
巴(本気でうちと勝負をしてくれとる!!!)
巴(花札は、こいこいは…場札を介して相手と勝負をする)
巴(故に対戦相手を場の一部のように見なす場合が多い)
巴(ゲームの肝も、場の状況判断…自分が進むか退くかの判断が重要。うちはこれを『差し引き』と呼んでいる)
巴(じゃがレナの姉御は違う!!)
巴(『場』を飛び越えて…本来花札ではほぼない、対戦相手への直接の心理戦を仕掛けてくる!!)
巴(勝負の…『駆け引き』を仕掛けてくるんじゃ!!!)
巴(楽しいのう!楽しい勝負じゃ!!)にこにこ
巴(…さて、ここで改めて冷静に)
巴(うちはここ、姉御のハッタリと思しき“菊”をどう判断するか、じゃ)
巴(幻の“盃”に怯え、安い手で退くべきか?)
巴(それとも姉御の手をハッタリと舐めて欲をこくべきか…)
巴(正直、姉御の手は盃さえ警戒しなければてんでバラバラ。今は最大のチャンスかもしれん)
巴(確率で考えるなら『こいこい』で続行じゃ)
巴(けれども、それで稼げる文数はせいぜい1~3文)
巴(姉御の手がハッタリじゃなければ、逆に10文じゃ…)
親【巴:カス8】
子【レナ:カス3タネ1短冊1“月”】
[場札:6枚]
巴(場のカス札はうちが今から取る“藤”、姉御のハッタリの“菊”。そしてうっかりと姉御が山札から“萩”を出してくれた)
巴(……うちには、もうこのカス札たちが姉御がうちをハメる為に撒いたエサに思えてきた)
巴(姉御のハッタリ…乗った方がリスクが少ない!)
巴(姉御に10文差つけられたら追いつける気がせん!降りじゃ!!)
巴(弱気でもええ。『カス』で勝負して、次の月でまた親をやった方が得じゃ!)
ぺしっ!
巴「『カス』、1文。勝負じゃ!!」
レナ「フフ…やっぱりそうなったかぁ」
巴「ここで欲をかくよりか、次の勝負に持ち越しじゃ!」
レナ「そうね。良い判断だと思うわ…」
ありす「ふ、ふはぁ…っ!すごい緊迫感ですねっ」
巴「ありす。今の駆け引き…わかったか?」
ありす「なにやら、長考していたことだけは…」
巴「そうか…あとで教えてやるけえの」
ありす「はい。お願いします」
レナ「良いお師匠さんねぇ」シャカシャカシャカシャカ
巴「まずは1文…レナの姉御から取った!ここからじゃ!」ふんすーーっ
ありす「頑張ってください!巴先生!」
レナ「あらあら♪」
巴「さぁ!次の勝負じゃ姉御!」
レナ「ええ。まだまだいきましょう」ニコニコ
・
・
・
巴(しかし、その後もレナの姉御の絶妙な妨害に阻まれ、安手での勝負が続く)
巴(うちも負けじと姉御の手を防ぐのじゃが…どうにも姉御の手筋は霞がかったように読みづらい)
巴(逆に、姉御にはうちの情報…手筋のクセや思考の方向性を盗まれている印象が強かった)
巴(互いに安手と流れを繰り返し、迎えた後半。ついに事態は動いた…)
中断
八月
十五手目
親【レナ:カス8タネ4短冊1“月雨鳳”】
子【巴:カス7タネ2短冊3“鶴幕”】
巴(やれやれ…あわや『雨入り四光』を食らうかと思ったわ)
巴(光札が全部出た。大勝負じゃったが、どっちも役無しじゃ)
巴(姉御の十五手目。どの役もあと一歩じゃが、どうにか防いだか…)
巴(うちは最終の十六手目で何が来てもほぼ役が作れん)
巴(このまま『流れ』か…姉御が1文役くらいなら作れるかいのう?)
レナ「……油断禁物よ、巴ちゃん」ぺしっ
巴「えっ…?」
ぺしっ!
“菊に盃”
巴「なっ……!?」
巴(“菊に盃”!?そんな…最後の最後まで手札に入れておった言うんか!?)
巴(いや、それよりも……ここで“盃”っちゅうことは…ッ!!)
レナ「『カス』『タネ』『月見で一杯』…7文以上は倍付、14文よ!!」
巴(直前まで『役無し』だったのに!!)
巴(一気に…3役!!)
巴(倍付14文じゃと!?)
巴(最後まで手札に忍ばせた…“菊に盃”!!そのたった一つで一気に持っていかれた!!)
巴(姉御は序盤に“芒に月”を取っておった。そして、中盤からは場にずっと“菊のカス”があった)
巴(あがろうと思えばいつでもあがれた…うちは姉御に泳がされとったわけか…ッ!!)
巴(“菊に盃”は『化け札』…カス札としてもタネ札としてもカウントしてええ札)
巴(その“盃”で場の“菊のカス”を取れば、カス8枚はカス10枚に、タネ4枚はタネ5枚に)
巴(そしてあらかじめ取っていた“芒に月”と合わせて5文役の『月見で一杯』も完成…!!)
巴(ピッタリ7文!倍付で14文じゃ!!)
巴(うちを泳がせたんは、万が一にでもうちが『こいこい』をすればさらに倍付になるから…!)
巴(あえて『ギリギリで役が作れない』風を演じておったんじゃ!)
巴(『こいこい』でゲームを続行するのは、自身の得点を伸ばせる反面、非常にリスキーな行為)
巴(相手の得点が倍付になるからじゃ)
巴(上級者は…滅多に『こいこい』をせん。する必要が無い)
巴(相手をコントロールして、自分のタイミングで一気に役を作り上げて、あがり切るからじゃ!!)
巴(姉御は…うちの油断を誘い、一度に3役を作り上げた!!)
巴(14文……この勝負で初めて大差が付いてしもうたわ!!)
巴「……やはりレナの姉御は強いのう」
レナ「貴女こそよ、巴ちゃん。まだ中学生なのにすごいわ。私、全力で勝負してるわよ?」
巴「それはもう。姉御の本気は感じてます。本当に嬉しい限りじゃ」
ありす「巴先生!まだまだ逆転できますよ!まだツキに見放されてはいません!」
巴「そうじゃのうありす。札の引きが悪いわけでもない。ツキはまだあるかもしれん」
レナ「そうね…それじゃあ、私も『運』に関しても全力出しちゃおうかな?」
巴「?」
レナ「いえね、巴ちゃんが助手?見学?にありすちゃんを連れて来るって言うから…私も助っ人を呼んでおいたの」
レナ「そろそろ来る頃よ」
巴「…はぁ」
コンコン
巴「!」
ありす「!」
レナ「どうぞ。いらっしゃい」
ガチャ
茄子「こんにちは~♪」
巴「だっ!?」
ありす「え゛ッ!」
レナ「私の助っ人、茄子ちゃんよ!」
茄子「見学に来ちゃいましたー♪」にこにこ
巴「あ、姉御…アンタっちゅうお人は…」
レナ「フフフ。言ったでしょ?私は全力だって」
巴「しかし、茄子の姉御が、その、いや、隣におったからって…」ちらっ
茄子「?」パァァァ
巴(後光が差しとる!気がするっ!)
巴(いかん。戦意が削がれる…っ!!)
ありす「レナさん…いくらなんでも、」
ありす「こ……」
レナ「こ?」
ありす「幸運バフはズルいですよっ!!」
中断
これはズルいって言われてもしゃーない
ほたるも呼んだら無効になるからセーフ
レナ「あははっ!幸運バフかぁ…ありすちゃん面白いこと言うわねっ」
茄子「ふふっ♪」
ありす「巴先生っ!向こうはLUKに補正をかけてきましたよ!!」
巴「なんじゃありすの言うことはようわからんが…む、向こうに茄子の姉御が居たところで…」
巴「だ、だだだ大丈夫じゃ!」あせあせ
ありす(声が上ずってるーーっ!!)
巴「ただでさえ、レナの姉御に腕前で負けているっちゅうのに、幸運まで味方に…」くらくら
ありす「ああっ、どうしたら…」
巴「じゃ、じゃが…どうにかしてみせるわ…ッ!!」
ありす「は、はいっ!がんばってください、巴先生!」
レナ「フフフ。茄子ちゃんを味方につけた今の私に死角は無いわ!」
巴「う、うぐぐ…」
茄子(やれやれ。レナさんも勝負事になるとイジワルなところがありますね)
茄子(レナさんは、本当は自分の運と実力しか信じていない。私に『幸運バフ』なんて期待していない)
茄子(でも、巴ちゃんにそう思い込ませて、プレッシャー。精神攻撃を仕掛けることには意義がある)
茄子(言うなら、私の幸運キャラを使ったハッタリ…)
茄子(つまりは、レナさんの勝負への執念!徹底していますね…)
巴「ありす!こうなったら、うちらも茄子の姉御の幸運にあやかるんじゃ!」
ありす「はい!で、でもどうやってですか…?」
巴「とりあえず、茄子の姉御を拝んでおくんじゃ!御利益があるかもしれん!」
ありす「わかりました!」
巴・ありす「ありがたや、ありがたや…」ナムナム
茄子「あらあら♪」
レナ「面白い子たちだ」クスクス
巴「こ、これでレナの姉御とツキは同じ…はずじゃ!」
巴(しかし、茄子の姉御の御利益は虚しく。レナの姉御の実力もあってかキッチリとあがりを防がれ続けた)
巴(勝負は姉御のリードのまま、ついに最終戦にもつれ込んだ)
巴(最終・十二月目の勝負)
巴(姉御との文数の差は15文)
巴(逆転には倍付け8文。16文以上の役で勝負しなくてはいかん)
巴(逆に姉御は1文でも役が出来ればええ。『流れ』でさえそのまま姉御の勝ちじゃ)
巴(よりにもよって、うちが子か…厳しいのう)
巴(せめて、手札だけでも何か良い札を…)
ぺらっ
巴「……っっ!!!」ぞわっ!
巴(なんじゃ…この手札は!!)
“菊に盃” “桜に幕” “桐に鳳凰”
巴(“盃”に…光札が2枚!!)
巴(しかも…)
“芒に雁” “太鼓に鬼の手(柳のカス札)” “松に赤短”
巴(光札系統の月札が軒並みそろっとる!!)ゾクゾクっ!
巴(これは、茄子の姉御の御利益か!?)
巴(ツキはまだ、うちを見放してはおらん!)
巴(逆転の目、見えてきたかもしれんのう!!)
巴(しかし、この爆弾のような手札…)
巴(いささか重い!!)
巴(高得点の役は当然、姉御も警戒しとる。最優先で潰す対象…)
巴(おまけに、うちは姉御が1文の役さえ作らせないように妨害しながら8文以上の役作りをしないといかん)
巴(うちが仮にこの手札だけでも作れる『花見で一杯』を作れたとしても、それで5文…)
巴(姉御のことじゃ。残る“芒に月”を取っての『月見で一杯』はなんとしてでも防いでくるじゃろう)
巴(“桜に幕”でうまいこと“桜に赤短”を拾えれば、手札の“松に赤短”と合わせて『赤短』絡みも…?)
巴(いや、手札に“梅”が無い。不確定要素が多すぎる)
巴(となると、姉御が役を作る前に、『三光』の5文も狙わないといかんことになる)
巴(…かなり厳しいのう)
巴(じゃが、うちのツキと、立ち回り次第じゃな…!!)ふんすっ
レナ「巴ちゃん。手札、良いのが入った?」
巴「はいっ!?」
レナ「いや、場札を全然見てないみたいだったから…」
巴「あっ、い、いえ…」あせっ
巴(うちはアホウか!場札もよく見んうちから作戦考えるなんて…)
巴(どれ、場札は…)
“柳に小野道風(雨)” “桜に赤短” 菊のカス” “芒のカス”
巴(茄子の姉御ーーッ!!あんたの御利益は本物じゃーーーーッッ!!)ゾクゾク!
巴(“菊のカス”!!あれで“盃”を取りたい!!)
巴(おまけに、本当に“桜に赤短”まで場に出とるけえ!!)
巴(”雨”も光札…取れれば『雨入り四光』の7文と、何か1文役で8文になるかもしれん!)
巴(逆転の可能性…本気で見えてきおった!!)ドクン、ドクン…
最終・十二月
親 【レナ】
子 【巴】
一手目
親 【レナ】
[場札:8枚]
巴(“菊”は~~!“菊”は取らんでくれ~~っ!!)
レナ「……」シュッ
“菊のカス”
巴(取られたーーッ!!)がくっ
巴(いや、と、当然じゃ…場に“菊”があって手札にもあったなら…カス札だろうと最優先で取るのは基本じゃ)
巴(うちは“盃”が取れないとかなり厳しい状況じゃ。この菊取りでの妨害は痛い…)
巴(さらに姉御はカス札が2枚。『カス』での早いあがりはマズイ…)
一手目
親 【レナ:カス2】
[場札:8枚]
二手目
子 【巴】
[場札:8枚]
巴(“盃”を取り損ねたうちとしては…作戦をどの方向に持っていくかが重要じゃ)
巴(いや、まだ完全に“盃”を取れる可能性が無いわけではないが…)
巴(とは言え、この二手目でうちには大きく二つ選択肢がある)
巴(手札の“太鼓に鬼の手”で場の“雨”を取る『光札役』狙い…)
巴(あるいは、“盃”取りに望みを残しつつの、手札の“桜に幕”で場の“桜に赤短”を取る『花見で一杯』狙い)
巴(どっちを狙う…?ははっ、どっちも狙わんと勝てないか?)
巴(決めた!赤短も付く“桜”じゃ!)
巴(先制で“菊”を取られて、“桜”まで潰されたら目も当てられんしのう!)
巴(やや場の“雨”を軽視し過ぎの感はあるし、手の内を晒してしまうが…)
巴(“桜に幕”が無いとうちの逆転の目は途絶える。この場はこの手に決まりじゃ!)ぺしっ!
二手目
子 【巴:カス1短冊2“幕”】
[場札:6枚]
三手目
親 【レナ:カス2】
[場札:6枚]
レナ「……」
巴(姉御の三手目。うちの“桜に幕”取りを受けてなら…姉御はどう出るか?)
巴(場の光札、“雨”よりも、ここは“芒に月”を警戒してのカス札“芒のカス”取りの方が有効と見ることもできる場面)
巴(それなら速攻の『カス』でのあがりも目指せるし、のう…)
レナ「……」シュッ
“柳に燕”
巴(“柳”!!“雨”の方を取りにきたか!!)
巴(…やはり場の“雨”を軽視し過ぎたかいのう)
めくりっ
レナ「…あら」
“松に鶴”
巴「ッッ!!!」ゾクッ!
巴(姉御が、山札から場に……光札“松に鶴”を出してくれた!!)
三手目
親 【レナ:カス2タネ1“雨”】
四手目
子 【巴:カス1短冊2“幕”】
[場札:6枚]
巴(うちはこの場面、当然“鶴”を取る)
ぺしっ!
“松に赤短”
巴(これで光札2枚目!『赤短』にもリーチじゃ!幸先が良いのう!)
レナ「あらら…“雨”を取りにいって、相手に“鶴”を差し出してしまっては形無しね…」
巴「ツキが向いとりました」にっ
レナ「フフ…ツキは私にもあるかもしれないわよ?山札をめくって、巴ちゃん」
巴「はいっ!」めくりっ
巴「お?」
“芒のカス”
巴(“芒のカス”…場とそろうたの)
巴(同じ“芒”でも“芒に月”が欲しいところじゃ)
巴(いや、もし“月”が場に出たら、うちが確定で取れると思えばええか…)
レナ「……」
四手目
子 【巴:カス3短冊3“鶴幕”】
[場札:4枚]
五手目
親 【レナ:カス2タネ1“雨”】
[場札:4枚]
巴(姉御の五手目。場の危険札も処理し終わって、枚数も半分…どう立ち回ってくるか)
レナ「……」シュッ
“牡丹のカス”
巴(場のカス札を手札のカス札で取りにきたか…!やはり『カス』あがりに切り替えてきた!)
レナ「山札からは…んー、そろわないかぁ」ぺしっ
“桐のカス”
巴(なっ!!?)
巴(茄子の姉御…ッ!姉御の御利益、効きすぎて怖くなってきおった…!!)ゾクゾク
五手目
親 【レナ:カス4タネ1“雨”】
[場札:4枚]
六手目
子 【巴:カス3短冊3“鶴幕”】
[場札:4枚]
巴(うちのツキは来とる!!)
巴(また姉御が山から掘り出してくれた!)
巴(場の“桐のカス”で、手札の“桐に鳳凰”を取れば…)
巴(『三光』完成!!!)
巴(5文役じゃから8文には足りんが…)
巴(うちの手札にはまだ、虎の子の“菊に盃”がある!)
巴(姉御があがり切る前に…“盃”さえ取れれば『花見で一杯』の5文が加わる!!)
巴(勝ち目…!本気で手の届くところまで来たわ!!)
ぺしっ!!
“桐に鳳凰”
レナ「豪運……ッ!!」ぞわっ
巴「“松に鶴” “桜に幕” “桐に鳳凰”での…『三光』じゃ!」
レナ「…わずか3回の手番で、『三光』を完成…!!凄まじい豪運だわ!」
レナ「本当に良い手札がきていたのね…!」
巴「はい。ようやく姉御の喉元に爪が届きそうです!」
レナ「あはは。それは怖いなぁ…」ニコニコ
巴「しかし、喰らいつくにはまだ一歩足りんのです」
レナ「そうね」
巴「じゃけえ、勝負続行させていただきます!」
レナ「ええ。相手になるわ!」
巴「『こいこい』!!」
六手目
子 【巴:カス4短冊3“鶴幕月”】『三光』こいこい中
[場札:4枚]
中断
再開の前に訂正です
>>42
六手目終了時の巴の取り札に“鶴幕月”と書いてありますが、“鶴幕鳳”の間違いです
“芒に月”ではなく“桐に鳳凰”を取っています
巴(その後、六手目までにほとんどの光札が出つくしたために、主にカス札を集める勝負となった)
巴(姉御は自身の役の完成のため、うちは姉御の妨害のためにカス札を集めた)
巴(うちも山札に1枚残る“菊”の札が出ることを願ったが…“菊”はそう簡単には来てくれんらしい)
巴(うちのツキもそこまで叶えてはくれん、か…)
巴(そのまま互いに役を作り切れずに、ついに勝負は後半までもつれ込んだ)
十三手目
親 【レナ:カス8タネ1短冊2“雨”】(手札:残り2枚)
子 【巴:カス7タネ1短冊3“鶴幕鳳”】(手札:残り2枚)『三光』こいこい中
[場札:6枚]
“菖蒲に八つ橋” “桐のカス” 紅葉に鹿”
“松のカス” “牡丹に青短” “梅にうぐいす”
巴(姉御は『カス』完成間近。それに、別に『流れ』でも姉御の勝ち)
巴(うちは“菊に青短”か“芒に月”が場に出れば勝ち…)
巴(一応の可能性として、うちは“萩に猪”を取っとる)
巴(場の“紅葉に鹿”と、もし“牡丹に蝶”が出れば『猪鹿蝶』も低い確率じゃが考えられる…か?)
巴(ほとんど五分の勝負じゃ…!)
巴(どっちにしろ、姉御の出方次第じゃな…)
レナ「……」シュッ
“梅に赤短”
巴「クッ…!」
巴(最後の“赤短”!姉御に握り潰されとったか!!)
巴(場の“梅にうぐいす”は…確か中盤には場に存在しとった)
巴(うちは八、十、十二手目、うちは『タン』や『赤短』でのあがりも考慮していた)
巴(そして、まだ山札に短冊が残っとる月の札を優先して手札に残した)
巴(その間の隙を突くように、姉御にはカス札を多く取られてしもうた…)
巴(うちは姉御に幻の『赤短』を追わされとったっちゅうわけか…!)
巴(本当に幻術のような手を使うお人じゃな!)
レナ「……」めくりっ
“牡丹に蝶”
巴(マズイ…!)
巴(『猪鹿蝶』もこれで潰された!)
巴(さらに、場の“牡丹に青短と合わせて…姉御は短冊札4枚目!)
巴(『タン』完成にリーチじゃ!)
十三手目
親 【レナ:カス8タネ3短冊4“雨”】(手札:残り1枚)
十四手目
子 【巴:カス7タネ1短冊3“鶴幕鳳”】(手札:残り2枚)『三光』こいこい中
[場札:4枚]
“菖蒲に八つ橋” “桐のカス” 紅葉に鹿” “松のカス”
巴(うちの残る2枚の手札…)
巴(“菊に盃”と“芒に雁”)
巴(通常であれば、場札を取れないこの場合には“芒に雁”を場に捨て、より価値の高い“盃”を手札に残す)
巴(しかし、姉御のあの場面でのあの立ち回り…やはり妙じゃ)
巴(それに、今のうちを泳がせての“梅に赤短”取り)
巴「ここは…賭けに出るしかないようじゃな!!」
ぺしーーん!!
“菊に盃”
レナ「手札が2枚残っていて、先に“盃”を捨て出し!?」
レナ「その“盃”は…巴ちゃんにとって逆転の、勝利への切り札じゃないの!?」
レナ「それを…むざむざ場に捨て出しだなんて!」
巴「いいや姉御。これで良いんじゃ。残るうちの2枚の手札から、この順番で出さないといけないんじゃ!」
レナ「巴ちゃんの最後の手札…いったい“菊に盃”を上回る何を持っていると言うの!?」
巴「その説明の前に、山札めくらせてもらうけえの」
巴「ここで“菊”を引ければ言うこと無しなんじゃが…」めくりっ
“梅のカス”
巴「残念。場にカスを増やしてしもうた…」
レナ「……」
十四手目
子 【巴:カス7タネ1短冊3“鶴幕鳳”】(手札:残り1枚)『三光』こいこい中
[場札:6枚]
レナ「巴ちゃん。あなたには何が見えているの?」
巴「そうじゃなぁ。お互い残り手札を1枚出すだけ。隠す必要もないのう」
巴「うちの最後の手札は“芒に雁”じゃ」
レナ「!!」
レナ「それが…巴ちゃんが“盃”より優先した切り札だと言うの…?」
巴「ん。そうじゃ」
レナ「いったいどうして…?」
巴「うちが違和感を感じたのは三手目。場に“雨”と“芒のカス”があり、姉御が“雨”を取った場面じゃ」
レナ「…それ程おかしな選択じゃないわ。普通は光札を優先するものよ」
巴「そうじゃ。じゃが、うちが“桜に幕”を持っている場面で、姉御はあまりにも即座に“雨”を取った」
巴「“芒”に一瞥もくれずに“雨”を取ったんじゃ」
レナ「……」
巴「それと合わせて、姉御の手筋」
巴「さっきの“梅に赤短”を手札で握り潰しての…うちに幻の『赤短』を追いかけさせる。相手に無駄な手を使わせる戦法」
巴「今日の勝負で何度も見てきた」
巴「姉御があえて場に“芒”を残した理由」
巴「姉御はうちに幻の“月”を追わせたかったんじゃ」
巴「何故なら、うちが“芒に月”を取れないことを姉御は知っていたからじゃ!」
レナ「……」
巴「のう姉御。姉御のその最後の手札…最後の最後までうちに取らせないように握っておったそれ…」
巴「“芒に月”なんじゃろう?」ニヤリ
レナ「……本当に末恐ろしい子ね」
レナ「私に読み合いで勝つだなんて」くるっ
“芒に月”
巴「ハハッ!やっぱり持っておった!」
レナ「今にして思えば、序盤の私の作戦は大失敗ね。まさかここまで巴ちゃんの手札が良いなんて…」
レナ「完全に想定外よ」
巴「茄子の姉御の御利益じゃな!」
茄子「ふふふ。運も巴ちゃんの実力の内ですよ」
ありす「巴先生!すごい!すごいです!あのレナさんに読み勝つだなんてっ!」
巴「ああ、じゃがまだ勝負はついておらん」
レナ「そうね。勝負はまだついていないわ…ッ!!
十五手目
親 【レナ:カス8タネ3短冊4“雨”】(手札:残り1枚)
[場札:6枚]
“菖蒲に八つ橋” “桐のカス” 紅葉に鹿”
“松のカス” “梅のカス” “菊に盃”
レナ「この十五手目。私の最終手番。まず手札から“芒に月”を出す」シュッ
レナ「そして、次に山札から札を引く…!」
巴「そう。場の6枚の札…!そして山札の残る10枚の札じゃ…!!」
レナ「場の3種のカス札はすべて山札にカス札が残っているわ。カス札をあと2枚で『カス』であがり」
レナ「さらに、山札には“菊に青短”と“紅葉に青短”も残る。これを取っても『タン』であがりよ」
巴「すなわち、山札10枚中、5枚が姉御の当たり札!」
巴「二分の一の確率の勝負!ツキで決まる勝負じゃ…!!」
レナ「面白い!面白い勝負よ巴ちゃん!」
巴「うちもです、レナの姉御!」
レナ「それじゃあ、山札めくるわよ…?」ごくっ
巴「お願いします、姉御…!!」
巴(“芒”は花札において八月の月札…)
巴「『八月のツキ』は、うちの上に昇ってくれるかのう…?」
レナ「勝負の、行方は…!」
巴「ツキ次第!」
シュッ!!
“藤にホトトギス”
ありす「“藤”!場札のどれともかみ合いません!」
茄子「と、いうことは…?」
レナ「……ああ。負けちゃったか」ふぅ
巴「や、やった……っ!!」
巴「姉御に!姉御に勝ったーーーーっっ!!!」グッ
ありす「やったー!やりました!巴先生ーー!」ぴょんぴょん
巴「ああ、ああっ!あの、あのレナの姉御に……!勝利……ッ!!」うるっ
レナ「ほらほら巴ちゃん。勝利はあなたの手番を終えて、『勝負』を宣言してからよ?」
巴「は、はいっ!そうでした…!」
巴「では…」
巴「手札の“芒に雁”で、場の“芒に月”を取らせて頂きます!!」
ぺしっ!
巴「これにより、うちの出来役は」
巴「“松に鶴” “桜に幕” “芒に月” “桐に鳳凰”の光札4枚による…」
巴「『四光』ッ!!!!」
巴「8文の倍付けで16文となり…!うちの、逆転勝利です!!」
レナ「私の完敗よ、巴ちゃん」
巴「ありがとうございます!ありがとうございます姉御っ!」うるうる
レナ「勝利して涙するほどの名勝負。私こそお相手できて光栄だったわ」なでなで
巴「うっ、うっ、勝手に、溢れてきよるんでず…」ぐすぐす
レナ「真剣勝負だったからこそよ。泣いていいのよ?」
巴「うぐっ、ううっ、姉御ぉ~~っ!」ポロポロ
ありす「うわーーん!巴先生ッ!感動じまじだっ!ずごがっだでず~~っ!!!」びえーん!
茄子「あらまぁ♪」
巴「ぷっ、ははっ!ありす!うちの涙が引っ込んでしもうたわ!」くすっ
ありす「ずびばぜーん!」ぐすぐす
レナ「よしよし。ありすちゃんも修行して、いつか巴ちゃんみたいになりましょうね」
ありす「はい゛っ!」べそべそ
茄子「それにしても、花札って面白そうなんですね~」
レナ「面白いわよー」
茄子「そうだ、巴ちゃん!」
巴「はい。なんでしょうか、茄子の姉御」
茄子「今度、私とも勝負してくれませんか?」
巴「え゛っ!」
巴「い、いやぁ、姉御の幸運のうちで太刀打ちできるかどうか…」
茄子「だから面白いんですよ!」
茄子「レナさんを打ち負かした『実力』の巴ちゃんと、『運』だけの素人の私」
茄子「面白い対戦カードだと思いませんか?」
巴「う、う゛……」たじっ
巴「姉御方!きょ、今日のところはお暇させていただきますーー!」ぴゅーん
ありす「あ、待ってください巴先生ーーっ!」バタバタ
茄子「いつか勝負しましょうね~♪」ニコニコ
レナ「ははは、『運』で勝負…か」
レナ「……私も茄子ちゃんに拝んでおけば良かった、かな?」
終
花札、こいこいは楽しいので多くの方に遊んでもらいたいです
(前作・ありすvs巴 編)
村上巴「短冊たくさん」
村上巴「短冊たくさん」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1499422360/)
(今作・巴vsレナ 編)
村上巴「八月のツキ」
村上巴「八月のツキ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503001547/)
今回はここら辺で終わります
乙
お嬢スレイイゾ
乙乙
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