村上巴「短冊たくさん」 (22)
紗枝「こいこいやー♪」ぺしっ
ありす「またこいこい……良いんですか?せっかく短冊が6枚もあるのに」
紗枝「ええんよ~ありすはん。あんな、うちの取り札に青短が二つあるやろ?」
ありす「そうですね」
紗枝「うちな、まだ『青短』であがった事ないからあがってみたいんや」
紗枝「せやから、もう少しこいこいして続けてみようてなぁ」くすくす
ありす「なるほど…そうでしたか」
ありす「まぁ、最後の青短は私の手札にあるんですけどね」ぺしっ
紗枝「へっ!?」
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ありす「菊に盃いただきました。あがりです。『月見で一杯』『花見で一杯』……ええと、40文ですね」
紗枝「よ、40文!?」
ありす「こいこいで倍付、7文以上で倍付のルールです。40文ですよ」
紗枝「そんなぁ……」がくっ
ありす「欲張ってこいこいばかりするからですよ」
紗枝「だって、なるべく高い役であがりたいんやもん」
ありす「だとしても限度があります」
紗枝「もう。ありすはんはいじわるどすなぁ」むすーっ
ありす「いじわるじゃありませんよ…」
ガチャ
巴「おはようさん」
巴「おっ、なんじゃ。二人とも花札やっとったんか?」
ありす「おはようございます。巴さん」
紗枝「あっ、巴はーん!」とたた
巴「なんじゃ。紗枝はどうしたんじゃ?」
紗枝「あんな?ありすはんが手加減してくれへーん!」ひーん
ありす「しませんよ。勝負は勝負ですっ」ふんすっ
紗枝「あんなこと言うんや~」ぎゅっ
巴「あははは!ありすは強いからのー!」
巴「そんじゃあ、ここは一つ…」のしっ
ありす(そう言って巴さんは私の前に座る)
巴「うちが相手じゃ!」にっ
ありす(この人絶対強いじゃないですかっ!!)
ありす(こうして始まった巴さんとの花札)
ありす(まずは私の先手番)
ありす(手札はあまり良くない。が…それ以上に場札が平坦!)
ありす(優先して取るべき危険な札が無い…)
ありす(だとすれば、巴さんの手札に良い札が固まっている可能性もある?けど)
ありす(場札に危険が無い以上、即あがられる可能性も無い)
ありす(それなら、私の最速は…)
ありす(場に出ている牡丹と蝶。手札には猪もある!)
ありす(『猪鹿蝶』をからめたタネ札系でいくべき!)
ありす(花札は短冊の札が多い。『タン』と『タネ』なら短冊を集めて『タン』でのあがりを目指す方が効率的)
ありす(でも今回は紅葉のカス札やホトトギスまである!)
ありす(この手札なら『タネ』系統でいくしかない!)
ありす(即効で狙いはバレるでしょうけど、場の萩のカス札で手札の猪を取りましょう)ぺしっ
ありす(『猪鹿蝶』は運しだい。あくまで『タネ』でのあがりを目指します!)スッ
ありす「えっと、山札を…」めくり
ありす「!!」
ありす(“紅葉に鹿”が出た!!)
巴「……」すっ
ありす(巴さんはどう出るだろう…?)
ありす(私は初手で猪を取ってしまった。ここで鹿が出たとなると、もし巴さんの手札に紅葉があれば向こうに取られる)
巴「ほいっ」ぺしっ
ありす(菖蒲!場の八つ橋を取って『タネ』を潰しにきた!!)
ありす(しかし、巴さんの手札に紅葉は無い!!)
ありす(これは…もしかすると『猪鹿蝶』いけるかもしれません!!)ふんすーっ!
巴「……」
ありす(…あの後、紅葉で鹿を取り、ホトトギスも取れた)
ありす(なのに、手が伸びない…!!)
ありす(場には依然として蝶があるのに!)
ありす(その上で巴さんはというと)
巴「これじゃな!」ぺしっ
ありす(短冊、4枚目…!!)
ありす(あと一つであがられてしまう!!)
巴「……」めくりっ
ありす「くっ…!」
ありす(最悪だ。場に花札で最も危険な札、“菊に盃”が出てしまった)
ありす(手札に菊が無い。私は取ることができない…!)
ありす(場には芒まである。巴さんに菊や月まであるなら、あっという間に高得点の役が出来上がる)
ありす(この手番でなんでも良い!役が作れなくても、なにか危険札を除去する札を…!)めくりっ
ありす(来ない…っ!!)がくっ
巴「…そろそろかいのう」
ありす「うっ、まさか…」
巴「これじゃ」ぺしっ
ありす「ああっ…!」
ありす「“牡丹に青短”」
ありす(はじめから『猪鹿蝶』は巴さんの手の中で握り潰されていた…!!)
巴「ははっ、もう一枚短冊が来よった。こいこいはせん。『タン+1』で2文じゃ!」
ありす「ううっ。でも、まぁ、軽微な損害と捉えましょう…」
巴「今のはお互いに場札も手札も悪かったようじゃしの。まだまだこれからじゃ!」にこにこ
ありす「はいっ!負けませんよ!」ふぬっ
巴「ん!うちの先手番じゃの!」
ありす(しかし、その後も私の手は巴さんにあっさりとかわされ続けた)
ありす(あと一枚で役ができそうなところで巴さんにあがられたり、高得点の役を潰されて流れる月が続く)
ありす(一度は光札二つに雨、さらには盃まで手にしたのに、肝心の月と桜を潰されて流れになった時まであった)
ありす(私はじわじわと文数を喰われていった)
紗枝「巴はんはほんに強おすなぁ」しゃかしゃか
ありす「まったくです」
ありす(横で札を切る紗枝さんがそう言う。実際問題、私は巴さんから一度もあがれていない)
ありす(…そして、場札は危険な匂いのする札ばかりが集まっている)
巴「ありすこそかなりの腕前じゃ。小学生とは思えんくらいじゃ!」ぺしっ
ありす(うっ!先手で即“菊に盃”を取られた!)
ありす「でも…勝てません」
ありす(手札は悪くない。けど、なるべく早く逃げ切りたい!)ぺしっ
巴「んー。ちょっとの差じゃとうちは思うんじゃがの」ぺしっ
巴「確率や期待値の計算はしっかりしとる」
ありす「…やはり、そのせいでしょうか?」ぺしっ
巴「そうじゃな。その場その場での確率の高い手を狙ってるのがわかるからこそ」ぺしっ
巴「何を欲しがっているかバレバレじゃ……潰すんは容易い」めくりっ
巴「こいこいじゃ!」
ありす「うっ」
ありす(『月見で一杯』をこいこい…これはまさか)
巴「こいこい」
巴「こいこいじゃ!」
ありす「あぁ……」がくっ
ありす(巴さんは『月見』と『青短+2』)
ありす(対する私は巴さんが手をこれ以上伸ばさないようにと思ううちに翻弄され、てんでバラバラ)
ありす(さらに今…)
巴「“桜に幕”、『花見で一杯』じゃな」
ありす(また5文役!)
ありす(これで17文の倍付で34文。終わった…)はぁ
巴「こいこいじゃ…!」
ありす「…えっ?」
巴「まだ続ける言うとるんじゃ、ありす」
ありす「ほ、本気ですか…!?」
巴「本気も本気じゃけえ」にっ
ありす(たしかに、このあとも私の後手番の次にあと一回の手番はある)
ありす(でもその一回で何も役を作れなければこの34文はまるまる無し。0文になる)
ありす(なにより私にだってまだあがりの目が無い事もない)
ありす(それなのに、こいこい…!?)
巴「ありす。花札において確率や期待値の計算は大切な基礎じゃ」
巴「けど、うちは花札は差し引きの判断こそが大事じゃと思う」
ありす「差し引き……」
巴「そうじゃ。行けると判断した場面、差すべき場面でどこまで行けるのか?退がると判断した場面、引くべき場面でどう退くか?」
巴「それが花札というゲームの醍醐味じゃ!」
ありす「……」
巴「今のこの状況。ありすはこの後手番であがれる可能性は限りなく低い。その次の手番では何かしら役を作れそうじゃがの」
ありす「まぁ、そうですね…」ぺしっ
ありす(そして、実際にここでは私はあがれなかった。もし次の手番があれば、運しだいで何か作れるかもしれないが)
巴「相手があがれそうにない場面。ここは“差す”べき時じゃ!」
ぺしぃん!!
ありす(巴さんがひときわ強く札を場に叩いて出した)
ありす「これは…!」
ありす(巴さんの出した最後の手札は、場札のどれとも噛み合わなかった)
ありす「“松に鶴”」
ありす(一月の光札。その瞬間、私は巴さんの狙いを察してしまった)
巴「そうじゃ。松の札はまだ1枚も場に出ておらん」
巴「つまり、今からめくる山札10枚の中に3枚ある」
巴「そして、そのうち1枚は“松に赤短”!!」にやり
ありす(巴さんの取り札。青短3枚の他2枚…どっちも赤短だ!!)
ありす「『赤短青短』……!!」
ありす(札6枚がかり、10文の特大役だ!)
ありす(さらに言うならば、“松に鶴”は光札)
ありす(残る3枚の松のうち、どれでもいいから引けてしまえばすでに2枚持っている光札と合わせて5文の役ができる)
ありす(“松に鶴”“桜に幕”“芒に月”での『三光』だ!)
ありす(賭ける価値のある勝負…!!)
ありす「すごい…!!」
ありす(これが花札の差し引き…!)
ありす(そして、村上巴という人の勝負の仕方!!)
巴「それじゃあ、山札めくるけえの」
巴「3割か、1割か。はたまた7割が来るか……!」
しゅっ!
・
・
・
巴「『赤短青短』『花見で一杯』『月見で一杯』『三光』」
巴「しめて50文じゃ!!」にっ
ありす「ま、参りました…っ!」がくーっ
紗枝「やった~!巴はんが勝った~♪」ぴょんぴょん
ありす「なんで紗枝さんが喜んでるんですかっ」
巴「かかっ!ええ勝負じゃった!!」
ありす「こっちはボロボロですよ…」
巴「ははは。ありすが差し引き覚えたらまた遊ぼうな!」にこにこ
ありす「はい…ぜひリベンジマッチを!」ぐぬぬ
紗枝「ありすはんは負けず嫌いやなぁ」なでなで
巴「さて、花札で短冊集めるのもええが…」
紗枝「そうやなぁ。そろそろええ時間やし」
ありす「あ、そうでしたね」
巴「今日は七夕」
巴「『月見で一杯』とはいかんが、星を眺めながら短冊に願い事をする日じゃ!」
紗枝「こっちの短冊の方が今日の主役やね」
ありす「はい。みんなでお願い事をしましょう」
紗枝「縁日もあるんやて。ありすはんもいっしょに行こなー?」
ありす「ええ。引率よろしくお願いします」
巴「そうじゃあこのまま3人で短冊書きがてら縁日見物じゃな!」
紗枝「ふふっ。ありすちゃんは何をお願いするん?」
紗枝「やっぱり、今日は『巴はんに勝てますように』とかなんかなぁ?」
ありす「そうですね…私のお願い事は…」
ありす「『巴さんが次の勝負で手加減してくれますように』、でしょうか?」
巴・紗枝「あははっ!」
終
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