鷺沢文香「一番大きな向日葵は」 (18)


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「さて!文香ちゃん、到着しました!!」

「ふぅ……長い道程でした。ですが、ついに……」

 本日の天気は快晴中の快晴。
 雲一つない一色の空は、何処までも広がっていて吸い込まれてしまいそうです。
 七月に入って初めての屋外での撮影でしたが、雨が降る事無く終わらせる事が出来て良かったです…が。
 梅雨の湿気とバトンタッチしたかの様に、火傷しそうな猛暑と日光が私達に降り注いでいます。

 日焼け対策の日傘を畳み、私は木陰に座り込みました。
 葉の間から漏れた陽の光は、私の足元まで降り注ぎます。
 風の心地よい涼しさと足元からの温もりは、少しずつ私の体力を回復させてゆきました。
 茜さんは、立ちっぱなしどころか今にも走り出しそうな表情をしていますね。



 
「暑いですね……」

「暑いですね!ですから私達ももっと熱くならなければいけません!!」

 そんなプラス思考の茜さんと私が来ているのは、現場から少し(茜さん談)離れた向日葵畑です。
 撮影が終わり、午後は何も予定が無かったので折角という事で訪れてみました。
 都会では見られない様な風景を眺め、普段の疲れを癒そう……と、思っていたのですが。
 思った以上に道程は長く、到着する頃には私の体力は底を尽き掛けていて。

 そして……

「……まだ、満開には程遠かったですね……」

「残念ですね、折角来たからには一面満開な風景を見たかったのですが!」

 向日葵は、まだその花を開いていませんでした。
 夏の蕾が開ききるのは、まだ少し先だった様です。





「……はぁ……」

 向日葵の開花期間は約1週間で、それは向日葵畑によって七月上旬から八月下旬にかけて大きく幅があります。
 残念ながらこの向日葵畑は、この期間はまだ咲いていませんでした。
 ほぼ緑一色に広がる畑に、私達が求めた風景は見つかりません。
 買い求めていた本が売り切れてしまっていた時の様な落胆が、私に襲い掛かりました。

 ここまでの道程が、全て徒労に終わってしまった気がします。
 こう言った場所に訪れるのであれば、事前にこの向日葵畑の開花期間を調べておくべきでした。
 茜さんも、明るく振舞ってはいますが内心がっかりしているかもしれません……
 そう思うと、私の心は疲れた足以上に重くなります。

「すみません……きちんと、調べてから……」

「溜息はいけませんよ文香ちゃん!幸せが逃げてしまいます!!」





 ここで、また1.2週間後に訪れましょう、などといった気の利いた言葉を言えれば良かったのですが……
 残念な事に、私も茜さんもスケジュールが詰まっていてその余裕はありません。
 他の向日葵畑なら別の期間にも咲いているかもしれませんが。
 アイドルと言う仕事の関係上、いつ空くかも分からずそれが重なる保証もないので…

 考えれば考える程、悔しさが胸を埋めてゆきます。
 溜息をついたところで、これ以上逃げる幸せも無いくらいに。
 そんな迷信を信じている訳ではありませんが、もし本当なのだとしたら私は今までどれほど溜息をついて今を迎えているのでしょう。
 それくらいには、心は重くて。

「ええと、あまり私は気の利きそうな言葉を考えるのは苦手ですが……っ!」

 それでも! と。
 茜さんは続けました。




「私は文香ちゃんと一緒にお散歩出来て、とても楽しかったですから!」

 ……そう、ですか。
 満開の笑顔を咲かす茜さんを見ていると、自分が何故沈んでいたのかすら忘れてしまいそうなくらいです。

「……やはり、迷信じゃないですか……」

 ふふっ、と。
 思わず笑みが溢れてしまいました。

「では、少し休憩したら……のんびりと、園内を巡りましょうか」

「おや、急に笑顔になりましたね!笑顔はいい事ですし素敵ですが、何かありましたか?」

「新しい事に……茜さんが、気付かせてくれましたから」

 頭上に疑問符を乗せたままの茜さんと、途中で買ってきたサンドイッチで軽食をとりました。
 疑問に対する回答は、もう少し秘密にしておきましょう。








 軽食を食べ終え、私達はまだ咲いていない向日葵畑をのんびりと巡り始めました。
 私は日傘を差してのんびりと歩いているので、一番大きな向日葵の茎や葉を探して走り回る茜さんとは少し離れていますが。

「見て下さい文香ちゃん!すっごくおっきいです、これは咲けばこの向日葵畑で一番大きくなるに違いありません!!」

 そんな満面の笑みで此方を向く茜さんが、眩しくてたまりません。
 向日葵が咲く前だからこそ、咲いた時に思いを馳せて楽しむ事が出来る。
 ついさっきの私では、決して思い浮かぶことなんてなかったでしょう。
 そんな彼女の笑顔は眩しすぎて、日傘からも睫毛からも漏れて私の目を眩ませました。

 彼女がステージに立った時、ファンの皆さんはいつもこんな風景を見ていたのでしょうか。
 燃え盛る太陽にも負けないくらい、今を謳歌している茜さんは。
 きっと、満開を迎えたこの向日葵畑のどれよりも……



「そう言えば、さっきは何に気付いたんですか?」

「……なんだと思いますか?決して、難しい物事ではありませんが……」

 駆け寄ってきた茜さんは、思い出した様に疑問符を浮かべました。
 とても簡単な事ですが、もしかしたら。
 彼女自身では、気付けないかもしれませんね。

「ええと……溜息を吐いたら、幸せが逃げる事でしょうか?!」

 そのくらいは元から知っています。
 そして……

「ふふっ……その逆です」

「逆、ですか?」




「溜息を吐いたら幸せになれる、だなんて……本のどこにも、書いていませんでしたから」

 溜息を吐いたら、茜さんが元気を分けてくれましたから。
 一緒に散歩出来て楽しかった、と言ってくれましたから。

「難しい事は分かりませんが、それで文香ちゃんが幸せになれたなら私も幸せです!」

 そう言って一瞬照れたような、そして直ぐに満開の笑顔を咲かす茜さん。
 ……ふふっ、どうやらこればかりは本人ではどうしても気付けないかもしれませんね。

「向日葵が咲いてても、まだ咲いてなくても!満喫しようとする気持ちが大切ですよ!!」

「いえ……向日葵は、もう咲いていましたよ」




 それも、きっと一年中。
 それに気付けず再び疑問符を浮かべる茜さんには。
 今度一緒に、満開の向日葵畑を訪れた時に教えてあげます。

 貴女の笑顔が、一番大きく咲き誇っていますよ、と。
 


最近かなり暑いです
向日葵の種を食べてみたいです
お付き合い、ありがとうございました

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てす

奇も衒いもないストレートな優しい話で良かった
こういうお話がふみあかにピッタリだと思います

良い

ふみあかはイイゾ

百合SSの作者って注意文書かないよね

書く必要が無いからな

これは百合なのか?

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