鷺沢文香「ふみふみ」 (49)

文香「…おはようございます」ガチャ

・・・

文香「(珍しく誰もいない……? ちひろさんも出かけたのでしょうか)」

ギュムッ

文香「ひゃっ…?!」ビクッ

P「んっ…!」ゴロン

文香「Pさん! ごめんなさい…下にいるとは知らずに……」


P「……」Zzz

文香「…寝ている?」

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P「…ぐぅ…」

文香「(ソファの下のPさん、身体に半分かかった毛布……ソファの上で寝ていたけど、寝相が悪くて落ちたのでしょうね)」

文香「Pさん…こんなところで寝ていたら身体を痛めますよ」ポンポン

P「…うぅ」

文香「Pさん、Pさん…ったら」ユッサユサ


P「うぅ……や、やめてくれぇ…これ以上暴走する気はない……」Zzz

文香「(蘭子ちゃんみたいな寝言を言っている……相当お疲れのようですね。全く起きる気配がない)」

文香「(時間になるまでソファに座って本を読もうと思ったのですが……これでは…)」

P「…」Zzz

文香「(…そう言えばさっき気付かずに踏みつけてしまいましたけど……)」

P「…ううぅ、許してください…ひろ…さぁん…お願いですから肝…だけは…」ウゥウ

文香「(足で触れたPさんの身体って、堅過ぎず、柔らかすぎず……何だか不思議な感じ)」


文香「…」キョロキョロ

・・・。

文香「(まだ誰も来る気配は…ありません…よね?)」

P「…」

文香「…」ゴクリ

文香「(さすがに靴のままでは行けませんし)」コトッ

文香「(私……一体、何を考えているのでしょうか。でも、無防備なPさんの背中を見ていると何だか…)」ドキドキ

P「…ぐう」Zzz


文香「(でも…このままではソファで本が読めない……靴も脱ぎましたし、そうです……これは仕方のない事なんです、仕方のない事…)」ポスン

P「…」Zzz

文香「…それでは、失礼…しますっ」フミッ


P「…んぅ?」

文香「!」

P「…」

文香「あの…Pさん?」

P「…ぐぅ」Zzz

文香「…眠りは相当深いようですね」


文香「……では引き続き…」フミフミ

P「…」Zzz

文香「…」フミフミ


文香「(靴越しで踏んだ時からそう思っていたのですが……やはりこの感触……)」フミフミ

P「…んぅっ」Zzz

文香「(くせになりそう…)」ゾクゾク

P「…ふぁああ…」ムクッ

P「あれっ?! ここは……」

文香「あ、起きましたね、Pさん…」


P「文香? な、なんだ…俺、ソファから落ちてたのかぁ……」

文香「ごめんなさい、何度も起こそうとしたのですけど、全然起きなくて……かと言って、私の力ではPさんを動かせなかったので」

P「あはは…気にするなよ。でも、それだと俺、相当疲れていたみたいだなぁ……ところで文香、どうして靴脱いでんの?」


文香「っ! …そ、その、ソファに座りたかったのですが、このままだとPさんを踏んでしまうので…っ」

P「ん、そうだよな。ごめんよ、変な気を使わせてしまって」

文香「い、いいんですっ……(思いきり踏みつけていただなんて…い、言えない…)」ドキドキ

次の日

文香「ただいま戻りました」ガチャ

P「同じく」

ちひろ「お帰りなさい」


こずえ「ぷろでゅーさーとおねえちゃん…おしごと、どうだったー…?」

文香「こずえちゃん。どうにか終わりましたよ。久々のライブは緊張しましたけど…Pさんのフォローもありましたから」

P「文香なら、もう一人でも十分じゃないか? 初めの頃に比べれば、だいぶ緊張しなくなったと思うぞ…ふあぁ…」

文香「!」

ちひろ「あら…」

こずえ「ぷろでゅーさー、おねむなのー?」

P「ん……まあ一日中立ちっぱなしだったからなぁ……ちょっと昼寝でもしてくるかな」

ちひろ「仮眠室ですか? 今、きらりちゃんに杏ちゃんが使ってますよ?」


P「本当ですか……そりゃ使うわけにはいかないか。じゃあ他の皆には悪いが、ここのソファ借りますね」ドサ

P「…」

P「Zzzz」スピー

ちひろ・文香「(寝るの早ッ)」

こずえ「ぷろでゅーさー、こずえもおねむー」ギシッ

文香「こ、こずえちゃん…」

こずえ「もうねちゃったのー?」ギシギシギッシ


ちひろ「こずえちゃん…ダメですよ、プロデューサーさんが起きちゃいます」ヒョイ

こずえ「だってこずえもおねむだもん…」パタパタ

ちひろ「でも、そろそろお家に帰る時間……って送り届けるプロデューサーさんがこんな状態じゃ、帰れませんよね」

文香「…では、私が送ってきましょうか?」


ちひろ「いえいえ、こずえちゃんの家までは車が要る距離ですから……今日の所は私が送って来ますね。ちょうど、こちらの仕事もひと段落しまいたので」

文香「!」

ちひろ「プロデューサーさんの事は文香ちゃんにお任せします。目が覚めたら、送り届けは大丈夫な事、教えてあげてくださいね」ガチャ

こずえ「おねえちゃん、ぷろでゅーさー、またね~」フリフリ

文香「え、ええ…また明日…ね」

文香「(図らずもまたPさんと二人きりに…)」

ドサッ

文香「!」

P「…」Zzz

文香「Pさん…またソファから落下…」


P「あ痛タタ…よくも、こんな罠で俺を…」ムニャムニャ

文香「(落とし穴に落ちた夢でも見ているのでしょうか)」

文香「…落ちた……と、いう事は……」

文香「…」

シュルリ…パサッ

P「…んんっ」Zzz

文香「ちひろさんが戻ってくるまでは時間がある。今日は……裸足で……試してみましょうか」ドキドキ

P「…」Zzz

文香「…」フミッ


P「んっ」ピク

文香「…!」

P「…」

P「うぅ…ま、またかよぉ……」ムニャ

文香「…」

文香「…ふ、ふふっ…♪」フミフミ

文香「…Pさん、肩がこっている……最近お仕事が…大変ですものね」フミフミ

P「……相変わらずだなぁ」Zzz

文香「(……夢で誰かとお話しているようですね。知り合いでしょうか、それとも……)」フミフミ

P「――でもさ…頼むからどいてくれないか」ムニャ

文香「えっ」

文香「Pさん…まさか起きていて――」

P「こずえ……マジで上に乗っかるのはやめるんだ……そんな『なんで?』って顔するんじゃあありませんッ」ムニャァ

文香「!」

P「ほらあそこ…早苗さんが…うぅ……そこの角から…半分顔を出して見ているんだよぅ……もうあんな思い…二度としたくないんだ…頼むどいてくれェ……」ウォオォ…


文香「…(一体何があったのでしょうか。それにしても……こずえちゃんですか……こずえちゃんが……ね)」

文香「…」ギュウゥッ

P「グエッ?!」


P「れれっ?! …もしかしてまた俺、落ちたの?」ガバァッ

文香「…そうみたいですね」

P「ふ、文香……って何で機嫌悪そうにしてるんだ。……ひょっとして、またソファに座る邪魔したからか?」

文香「……知りませんっ」プイ

P「?」

・・・

ちひろ「プロデューサーさん、調子良さそうですね。ここのところ疲れ切った顔をしていたので、元気になって何よりですよ」

P「そう見えます? 確かに今の仕事も落ち着きはしましたけど…
でも、その少し前から、どういうわけか身体の疲れが綺麗さっぱり無くなる日も増えたんですよねー」

文香「…」ピク


ちひろ「もしかして、仮眠を取っているから、とか?」

P「ええ。特にそこのソファで寝ると、けっこうグッスリ眠れるみたいなんです……でも、俺…寝相悪いみたいで、必ず下の床で目覚めちゃうんですけどねっ」

ちひろ「あらあら」クスッ

文香「…」


莉嘉「Pくん疲れてるの? じゃあそこに寝た寝た! 莉嘉がPくんの身体を癒してあげちゃうよ~☆」グイグイッ

P「り、莉嘉、今は元気だから…」

莉嘉「えーっ☆つまらないのーっ。せっかくお姉ちゃんからマッサージ教わったのにー」

P「はいはい……じゃあ今度また疲れた時にでも頼むから、な?」

文香「…」

・・・

P「んー、やっぱりこの時間帯のデスクは眠いなぁ。残りの分は後回しにしておいて…」ノビノビ

P「それじゃ、いつも通りソファで寝るとしますかぁ……」ドサッ

P「…」

P「Zzzz」スピー

ガチャ


文香「…」

P「…おお感謝するぞ、池袋博士…」ムニャムニャ

文香「(相変わらず訳の分からない夢を見ているようですね……)」

P「…ムニャ」

文香「(あれ……いつもならすぐに落ちるはずなのに……今日は微動だにしない?)」

・・・

P『最近何故か身体の調子が良いんですよねー』

・・・
・・


文香「(まさか、それで寝相が治ったとでも……?!)」

文香「ううっ……(確かに仮眠そのものを取らない日もありましたけど、ソファから落下しないだなんて今日が初めて…)」

文香「…」


文香「…したい…」ボソリ

文香「ふみふみしたい……踏みたい……Pさんの背中……も、もう我慢…できないっ……」ソワソワ


文香「こ、こうなったら――ごめんなさいPさん……でも痛みは一瞬ですから」ガッ

P「ぐふっ?!」ドサッ

文香「…(どうか! どうか……そのまま起きないでください…!)」

P「…うぅ」ピクピク

莉嘉「この時間帯だったら寝てるかも、ってちひろさんが言ってたよ☆」

梨沙「それでいつもより早くレッスン切り上げてきたの? 莉嘉もモノ好きよねー」

莉嘉「あれ、リサリサもPくんにマッサージしてあげるんじゃないの?」

梨沙「アイツのためじゃないっての…そりゃパパのために決まってるじゃない。Pはそのための練習台よっ」フン


莉嘉「ふふっ、素直じゃないなーって…あれ? 事務所の扉が半分空いてる……」

梨沙「マジで? 不用心ねぇ。泥棒にでも入られたらどうすんのよ」

莉嘉「Pくんはいるかな? 起こしちゃまずいからそーっと」キィイ…


文香「んっ……ふぅ……んっ…♪」フミッフミッ

P「んんぅ…っ」グガー


莉嘉「(Pくんが何故かソファの下に)」

梨沙「(それをソファに座って楽しそうに踏みつけている文香…)」

梨沙・莉嘉「な、なにこのシチュエーション?!」ガチャ


文香「あっ…り…梨沙ちゃんに莉嘉ちゃん?!」ビクッ、ギュムゥウウウッ

P「~~アオウウッ?!」ガバッ

文香「きゃっ?!」

P「何だ何だ…また俺、床で寝ていたのかぁ……っていうか、この足は…」チラ

文香「あっ……P…さん…これは……///」カアア


P「ふ、文香?! …これは一体どういう」

文香「ご、ごめんなさいッ! 私……帰ります!」ギュムッ

P「アォウッ?! また踏まれたァ~ッ?!」

文香「~!」ガチャバタン!


…。

梨沙「…」

莉嘉「一体何がどうなってるの?」

P「…いてて……俺が聞きたい方だよそんなの……」ムクッ

梨沙「――なるほど、大体わかったわ」

翌日

文香「今日が休みで良かった……でも月曜日、Pさんにはどういう顔を合わせたらいいのか……」

フミカァ…

文香「あ、叔父さま……はい、こちらの本を……向こうの棚に…ですね、承知しました」

文香「ええと…台は……え、壊れたんですか? そうですか…古かったですものね、アレ」

文香「では、ここの書架は後回しにして……おや」


P「」orz

文香「(えっ…あれは…Pさん、どうしてあんな格好を…)」

Porz「文香」

文香「はっ、はい…?!」ビクッ

Porz「何故見ている……どうした、ふみふみしないのか?」

文香「わ、私は……別にそんな…」

Porz「梨沙から聞いたところによると、ここ数日俺が寝ている間にふみふみしていたそうじゃないか…」


文香「ご、ごめんなさい、私、どうしても我慢できなくって……」

Porz「良いんだよ、文香、お前が謝ることなんてない……むしろ感謝しているさ。

疲れも取れたし、何よりも、普段引っ込み思案だったお前が、初めて俺を頼ってくれたんだからな」

文香「ッ…P…さん、でも、だからって何もこんなところで……」オズオズ

Porz「――それで本当にいいのか?」

文香「えっ」

Porz「踏み台、壊れたんだろう? 使えよ、今の俺はそう……言わば、お前だけの踏み台だ!」

文香「…Pさん、い…良いんですかっ」ドキドキ


Porz「ふふ…何を躊躇っている……プロデューサーを踏み台にする……アイドルなら、ごく自然の営みじゃあないか。本を在るべき場所に戻したい…叔父さんのそんな願いを、今こそ叶えてやるんだッ」

文香「で、でも…」

Porz「気にするな文香……お前に踏まれるなら、俺は本望さ」ニッコリ

文香「! で、では……遠慮なく……」

シュルリ…

Porz「……脱ぐのか、タイツを」

文香「は、はい…だって」

Porz「踏み台に変な気を使わなくても良いぞ、何だったら靴のままでも」

文香「……滑ったら危ないので…」モジモジ

Porz「…」

Porz「ごめん、さすがにちょっと調子乗りすぎました」

文香「い、いえ……それでは失礼します…ね」グッ

Porz「ん…!」

――ある国の大統領はこう言った。

「『もっと軽い荷物にしてください』と祈ってはならない。

    『もっと強い背中にしてください』と祈りなさい」…と。


Porz「(あの言葉、今なら分かる気がする……

文香の体重45kg+ハードカバー500g×3冊分の重みが、実際のそれ以上に俺の心に重く圧し掛かってくるよ……だけど)」

文香「…Pさん…?」


Porz「文香……お前の為なら、俺はどこまでも(背中を)鍛えてみせるよ……約束しよう」


~めでたしめでたし~

・・・

ちひろ「…それで」

文香「~♪」パラリ

Porz「…」

莉嘉・梨沙「…えぇ…っ?」


ちひろ「それで人間椅子に…?! うッわぁ……」

Porz「失敬なっ。確かにちょっと変態っぽいですけど、これもある意味プロデューサーの務めなんですよきっと」

ちひろ「っぽいんじゃなくって……本物の変態なんですよ」

文香「――Pさん」ギュムッ

Porz「アウッ…ふ、文香?」

文香「Pさんは椅子なんですよね…椅子がしゃべっちゃいけないと思いませんか…?」フミフミッ

Porz「…いや、その…まあ……」

文香「鷺沢文香の”サ”の字は…?」

Porz「さ、サドのサー!」ビシッ

文香「もう一度聞きます…鷺沢文香の”サ”の字は…?」フミッ


Porz「さ、最高…」ゾクゾク

文香「聞こえませんね…もう一度、大きな声で」フミッ

Porz「さ、鷺沢さんは最高です! ボクを椅子にして下さい!!」ウオオオ!!

文香「よろしいです…ふふっ♪」フミフミ


ちひろ・莉嘉・梨沙「(もう駄目だこのプロデューサー)」


 その後、PのCGプロダクションにおける肩書きがプロデューサーから椅子に変わったり、 
千川がPの体型をベースに考案した椅子が世界的大ヒット商品となったり、
梨沙の結婚式に向かう途中、Pがたまたま通りかかった花屋でひったくりに刺されたりしてしまう。

……が、幸いにも背中を刺されただけで致命傷にはならなかったそうな。

<こんどこそおしまい>

訂正

>>16
×:ちょうど、こちらの仕事もひと段落しまいたので
○:ちょうど、こちらの仕事もひと段落しましたので

>>22
×:どういうわけか身体の疲れが綺麗さっぱり無くなる日も増えたんですよねー
○:どういうわけか身体の疲れが綺麗さっぱり取れる日も増えたんですよねー

>>30
×:どういう顔を合わせたらいいのか
○:どんな顔を合わせたらいいのか


短いながらもここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
HTML化も依頼しておきますね。

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