楓「卯月ちゃんマジシンデレラガールでした」 (15)

※初デレマスSSです。キャラ口調に違和感がある場合はご容赦を。
※一人称ですが、ちょくちょく視点が入れ替わります。
※デレマス、アニメ、デレステ設定を混ぜて使っています。

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〈楓の問いかけ〉

司会「第5代シンデレラガールはァァァァ、島村卯月ィィィィィィ!!」

ちょっと癖のあるアナウンスが会場に鳴り響けば、たちまち歓声が上がる。

スポットライトを浴びるのは、その年のプリンセスに選ばれた、誰よりも笑顔とピンクのチェック柄が似合う女の子。

島村卯月ちゃん。
新世代のセンター、クイーン・オブ・スマイル、今世界で一番輝いてる「普通の」女の子。

彼女は狐につままれたような表情をふと見せ、かと思うと驚きと興奮の涙を目に溜めている。もちろんクシャクシャになりそうな笑顔付き。


とっても眩しいわ。卯月ちゃん、マジシンデレラガール。


もっと軽ガールと表彰式の時計台に向かう階段を登っていいのよ、なんて駄洒落が出てしまう私は、ガールと呼ぶにはちょっとお年を召したお姉さん。今度からファンの皆さんにはレディって呼んでもらおうかしら、デレマスならぬレデマス、なぁんちゃって。

シンデレラガールの戴冠式は、ベタだけれどちょっとお洒落な演出付き。ガラスの靴を担当プロデューサーが穿かせ、前回のシンデレラがティアラを授ける。私、いつも楽しみなんです。運良く上の順位につければ、舞台上の近いところでその様子を見ることができる。ひょっとすると、てっぺんより眺めがいいかもしれませんね。式を長~めに観れるし。

歴代の子達の表情を幾度となく観てきました。ふと素の言葉になっちゃう蘭子ちゃんとか、責任感と自負が滲み出てた凛ちゃんとか、のらりくらりとしながらもちょっと本気モード入った周子ちゃんとか。ほら、周子ちゃん、今もティアラを卯月ちゃんに授けるときに「はー肩の荷降りたー」って顔をしてる。

少し照れ臭そうな、なんだか居心地がいいのか悪いのかわからないって感じの卯月ちゃんの顔。おめでとう。貴方が取り戻した笑顔が、また多くの人の笑顔を生み出しますように。

ふと、私があの時計台の前に立つことは無いのかしら、という思いがよぎる。いつも近くの麓にいながら、登ることのないあの場所。



ねえ卯月ちゃん、そこから見える景'色'はどんな'色'をしているのかしら?



ーー

〈響子の決意〉

私、卯月ちゃんが「違うステージ」にいるなっていうことを、最近になってわかってきた気がします。

ピンクチェックスクールで卯月ちゃん・美穂ちゃんとまた一緒に活動できるようになって、お家にお邪魔してアルバム見せてもらったりして。これまで以上に二人のことを知れた気がして、本当のクラスメイトみたいですっごく嬉しかった。もちろんその思いは変わりません。

でも、『ラブレター』が大きなヒットになって、P.C.S.の三人でテレビや雑誌に出る機会が増えて、インタビューやトークをしていくうちに、徐々に気づいてきたんです。

卯月ちゃんが喋るときだけ、周りの空気が柔らかくなる。

すごくしっかりしたコメントをしたかと思ったら、時折びっくりするほど天然なところを出してきたり。その瞬間、インタビュワーさんもスタッフのみなさんもおもいっきり表情が緩む。場が暖かくなる。たまに見せるあたふたした表情なんか、絶対に誰にも嫌われないような感じが出ていて、思わず素なのか狙っているのかわかんなくなっちゃいます。

そしてあの笑顔。『ラブレター』の振り付けは卯月ちゃんの満面の笑みでないと〆る事ができません。いつだって満点。正直ズルいなって思っちゃうときだってあります。

お泊りのとき、美穂ちゃんがP.C.S.のコンセプトとしてあげてくれた「みんながクラスメイトのようになれるユニット」というテーマを、卯月ちゃんが先導して作ってくれてる。美穂ちゃんがコンセプターなら、卯月ちゃんは実践者。そんな安心感があるからこそ私たちは一つのユニットとして団結ができる。それって、とってもすごいことだなって思ったり。

なので、一度思い切って聞いてみたことがあるんです。卯月ちゃんは、どうしてみんながふと柔らかくなるような魔法を持っているんですか?って。

ええっ、そんなことないよ!なんて言いながらあたふたしてたけど、きっかけがあるとしたら楓さんのサイン会での様子を見たからかなって教えてくれました。なんでも、大きな仕事を蹴って、デビューライブをした小さなステージで恩返しをしたかったみたいです。その時の場の空気を和ませる茶目っ気のあるアナウンス、その声を聞いて「私もこうなれるかな」って思ったんですって。

そう、魔法を持つ人は、あこがれの人の魔法を真似して見るところから始めていたんです。まるで、お母さんがキッチンで料理しているのを手伝い真似る女の子みたいに。


私も、そんな風にして、いつの日か魔法が持てるようになりたい。

卯月ちゃん、私も、いっぱい真似して、「頑張ります」よ!


ーー

〈早苗の深読み〉

最近、飲みの席での楓ちゃんの様子が変わった気がする。

他のメンツは大して変化はないのに。美優ちゃんは相変わらず泣き上戸だし、瑞樹ちゃんはアンチエイジングを話しの種にわかるわ連発体制、心ちゃんは常にしゅがってるし、菜々ちゃんは全く飲まないかヤケになって墓穴掘るかのどちらか。

でも、楓ちゃんの飲み方は前と結構違う。ダジャレの数こそ減らないものの、以前より熱燗の消費本数が減ったし、何よりゆったりと何かを考え込みながら味わっている。あれは翌朝の献立を考えている目じゃない。宵乙女最年長の早苗さんの目を見くびってもらっちゃ困るわよ。

「え?それは、ダジャレよりオシャレについて考えるようになったからかもしれませんねぇ」

はい、そーやってダジャレでごまかさない!

「切れが悪かったですかねえ、徳利の中も切れてるだけに…」

「でも、前より自分がどう見られてるか考えるようにになったのは本当ですよ」

楓ちゃんは自分の今の立ち位置について考えているようだった。歌もダンスもファンへの対応も、なんでも完璧な高垣楓さん。そんな周囲の期待に無意識のうちに答えようとする自分。時折、素の自分とのギャップの間をフラフラしてしまうという。ラジオなんかで酒飲ダジャレおねえさんの面はだいぶ広まったけど、それすらも飲み込んでしまうオーラと度量の広さが彼女にはある。そういえば、前に「どうしようもない人」に見られるのが好きって言っていたわね。

でもどうしよう。そんな彼女の言葉に答えられるだけの全うな言葉を、私は持ってない。

私と同じく成年になってからこの業界に入ってきた楓ちゃんは、他とは比較にならないくらい早いスピードでトップまで上り詰めた。そんな彼女でもフラフラと戸惑う環境がある。わかってはいたけど、その光景はおそらく私には見えていない。おんなじようでいて、全く違うステージの上に彼女は立っているのだ。

ううん、ダメよ早苗、ここは最年長の矜持を見せなきゃ。まずはなぜそんなふうに考え出したのか、きっかけを聞いてあげましょ。

「そうですねぇ、卯月ちゃん…の様子が気になってきたからかしら」

ああ、そっかー。いま、楓ちゃんは彼女を一番近いところから見守っているのねー。手に届きそうで届かないところにいる卯月ちゃんは、果たしてシンデレラと云う名の冠を重く感じてはいないだろうか。かと言って、その重圧は楓ちゃんでさえ知らない。助けてあげられそうな位置にいながら、絶対条件をクリアしていないこのもどかしさ。嫌になっちゃうくらい私と楓ちゃんの関係性とそっくりである。早苗さん傷ついちゃうわぁ。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、偉大な25歳児はこうかわしてきた。

「卯月ちゃんを見ていると、『う~、ツキが私たちにも来ないかなあ』なんて思ってしまうんです」

ーー

〈武内Pの業務日誌〉

午前10時

島村さんと業務打ち合わせ。
目の下に自分と似たクマができているのを発見してしまう。
彼女のモチベーションを保つために仕事を入れるスパンを早くしすぎたようだ。要調整。
依頼があったものの、イメージにあうか考えあぐねていた「T.M. Revolutionとのタイアップ」の仕事を、手持ちのファイルから発見される。
予想以上に「これ、やってみたいです!」と食いついてこられたのには驚いた。目指す位置にまでたどり着いた今の彼女は、更にその先の道を枝分かれするかのごとく発掘しようとしていた。
要検討します、と返すと「頑張ります!」の声。

いい、笑顔です。

(中略)

古いの持ち出してきたな

午後6時

とときら学園の収録後、数年ぶりに担当復帰となった高垣さんとスケジュール合わせ。
私の先輩に当たる元担当の方が俳優部門の筆頭次長に抜擢されたのを受けての人事異動。
業務引き継ぎを兼ねた会合は高垣さんの提案でそのまま飲みへと流れ込む。

高垣さんは2年前と比べ遥かに人懐こくなり、また遥かに駄洒落のセンスが向上していた。
自分がスカウトしたときと比べ、人見知りというヴェールに守られていた彼女はより自由に見えた。
高垣さんの才能を見出したのが自分ならば、高垣さんの人柄を引き出したのが元担当氏だ。
果たして今、高垣さんに自分が与えることのできるものは何かを考えてしまったが、彼女の意思表明によって覚悟を決めた。
ここに、その言葉を記しておく。


「プロデューサー。一度でいいから、私を時計台の前まで連れて行ってください」


ーー

〈卯月の返答〉

司会「第6代シンデレラガールはァァァァ、高垣楓ェェェェェェ!!」

ちょっと癖のあるアナウンスが会場に鳴り響くと、たちまち歓声が上がります。

スポットライトを浴びるのは、その年のプリンセスに選ばれた、誰よりも緑色のボブと泣き黒子が似合うお姉さま。

高垣楓さん。
絶対的エース、無冠の女王、世紀末歌姫、そして、私の「憧れ」。

楓さんは感慨深げな表情を浮かべながら、目にうっすら浮かんだ涙を拭い、集まってくださったファンの皆さんに手を降っている。

ああ、私もあんな風になりたいなぁと、今でも思ってしまいます。

この一年間、シンデレラガールとして走ってきて、本当にふさわしい活動ができたか今でも自信がありません。P.C.S.をみんなに知ってもらえたり、今までやったこともなかったお仕事で西川さんと知り合ったり、今までとは違う世界を見てきました。でも、本当にその場所に自分がいていいのか、いつも悩んでいた気がします。シンデレラの魔法がとけたら、私はまたただの「島村卯月」。でもそんなことはないって皆が支えてくれたから、どうにかこうにか乗り切ってきました。

時計台を優雅な足取りで楓さんが登ってきます。でも、この距離だと足が少し震えているのがわかる。
ああ、楓さんも緊張するんだ。なんだか少しだけほっとする。
プロデューサーさんがガラスの靴を楓さんに履かせている。そう、去年は私が履かせてもらったんでした。

私がティアラを取ろうとすると、楓さんは突然手を握ってきて、私にこう告げました。


「卯月ちゃん、一年間お疲れ様。マジ、シンデレラガールでした」


ズルいですよ、楓さん。そんなこと言われたら、泣いちゃうじゃないですか。

楓さんの一言で、私の肩にかかっていた重荷が一気に消えてしまいました。ああ、私のやってきたことは間違っていなかったんだって。それまでの笑顔の料金かってくらいに泣きはらしたあと、わたしはもう一度、笑顔を取り戻した気がします。

やっぱり私、もう一度この場所に立ちたい。ほんとうの意味で大きくなって、もう一度この景色の色を知りたい。
そう思わせるだけの魔法を、この人は持っている。楓さんは、そんな人です。


私の授けたティアラが、楓さんの頭上に輝きます。

「こんな景色だったんですねえ、ファンの皆さんのサイリウムで、『景』気のいい『色』」

楓さん、マジシンデレラガールです!

以上で終わりです。
卯月ちゃん、一年間本当にお疲れ様でした。
そして楓さん、少し遅れましたが、6代目シンデレラガール&誕生日おめでとうございました。

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