【ガルパン】逸見肛門抄 (86)

──長野県茅野市・八ヶ岳稜線『硫黄岳山荘』まで後100mの距離──



しほ「ふぅ、ようやく小屋が見えてきたわね」

エリカ「はい」

しほ「小屋に付いたら、きちんと体を休めなくてはね。明日は、一気に南まで縦走をするわよ」

エリカ「はいっ」



 ざっ、ざっ、ざっ……!


しほ「はっ、はっ、はっ」

エリカ「ふぅ、はぁ、ふぅ」

エリカ(……私の前を歩く師範の、そのおしり……細めのストレッチパンツをはいているから、とてもよく形が分かる……)

エリカ(私なんかよりもずっと引き締まってる。だけどそのくせ形はいいのよね。……アラフォーのおしりだなんて、とても信じられない)

エリカ(まるで師範の高潔な魂が、おしりにまでも宿ってるみたい。力強くて、凛々しくて、研ぎ澄まされていて。いいな。どうやったら、こんな形の良いおしりになれるんだろう。)

エリカ(こんなふうに凛として、すこしの穢れも想像できないようなきれいなおしりに──)

しほ「ふぅ、段差が激しくて、嫌になるわね……ふんっ!」




 ──ぶびっ!



しほ「──っ!?」

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エリカ「……!?」

エリカ(え……師範、今、おならを……!?)

しほ「ああもう……はしたない事をしてしまったわね」

エリカ「い、いえ……」

しほ「ごめんなさいね、貴方がすぐ後ろを歩いているというのに。岩場に踏ん張って変に力が入ってしまったみたい。許して頂戴」

エリカ「気にしないでください。生理現象ですから」

しほ「私としたことが……いやだわ」

エリカ「しょうがないですよ」

エリカ「……。」

エリカ(……そっか、やっぱり師範も、おならをするんだ……)

エリカ(……。)

エリカ(……幻滅をした? ……ううん。違う。なんだろうこの感じ。なんだか、師範を身近に感じられて、嬉しいような……)



 ……もわん



エリカ「……!」

しほ「ん……」

エリカ(これが、師範のおならのにおい臭い。……私のおならと、同じように、臭い……)

しほ「もう、エリカ、しばらく息を止めていなさい。まったく……恥ずかしいわね……」

エリカ「あはは……」

しほ「……エリカ」

エリカ「はい?」

しほ「この事、まほやみほにげ口してはいけないわよ。貴方の胸の中だけに、とどめておきなさい」

エリカ「え……?」

しほ「私はこれまで、あの子達の前で、今のようなはしたない音を出したことはないのだから」

エリカ「一度も、ですか?」

しほ「そうよ」

エリカ「ですが、おならぐらい……人間なのですから……」

しほ「……エリカ。」

エリカ「は、はい」

しほ「私はね、人間である以前に西住流の家元。一個の『象徴』なのです」

エリカ「象徴……」

しほ「そう、象徴。──そして、イメージというものは、貴方が思う以上に大切なのですよ。人前で──たとえわが子であろうと、夫であろうと──放屁の音などを他者に聞かせてはなりません。」

エリカ「……なるほど」

しほ「貴方も黒森峰の隊長なのだからね。それくらいの心構えはあってしかるべきよ」

エリカ「わかりました。肝に銘じます」

しほ「よろしい」

エリカ(まぁ……たしかに私も、『師範はおならとかしなさそう』って、思っていたものね……。ついさっきまでは)

エリカ(……だけど、そっか……)

エリカ(……肛門……)

エリカ(この人にも、ちゃんと、肛門があるのね)

エリカ(あんな湿った音をたてて、師範もオナラをするのね)

エリカ(……。)

エリカ(なんだろう、とても、変な感じがする)



しほ「さぁ、くだらない事で時間を無駄にしてしまったわね。行きましょう」

エリカ「あ、は、はいっ」



 ざっ、ざっ、ざっ……

しほ「はっ、はっ、はっ。足もとがザレている。エリカ、小屋が近くなったからと、油断をしないように」

エリカ「はいっ」

エリカ「……。」

エリカ(師範は、威厳に満ち溢れていて、怖いくらいにいつも冷徹で、誰よりも厳しくて、黒森峰の戦車道メンバーには神様みたいな人なのに)

エリカ(……それなのに、肛門が……あるんだわ……この人にも……)

エリカ(この人も、あんなは汚らしい音をたてて、オナラをするんだわ。こんなに威厳に満ちた人なのに)


 ざっ、ざっ、ざっ……


しほ「ふぅ、はぁ、ふぅ……傾斜がきついわね」

エリカ「ええ」

エリカ(……。)

エリカ(肛門がどのあたりにあるのかって、あんまりよく確認はしたことないけど……あのあたりにあるのかしら?)

エリカ(……。)


 ざっ、ざっ、ざっ……


エリカ(おしりのあな、か)

エリカ(私にも、ついているのね。排泄のための、そういう部位が)

エリカ(──そしてまた、この人のおしりにも──)

エリカ(やっぱり、なんだかそれって、すごく……可笑しい。だってこんなに、立派な人なのに。それなのに、この人にも、おしりのあながあるんだわ)

エリカ(……。)

エリカ(……やだ、何を考えてるんだろ、なんだか私、変態みたいじゃない)

エリカ(でも、師範がいけないのよ。アラフォーのくせに、こんなきれいなおしり……)

エリカ「……おしり、か」

しほ「え?」

エリカ「っ……!? 、い、いえ、なんでもありません」

しほ「そう」

エリカ(……いけない、うっかり口にだしてた……)ドキドキ

エリカ「……。」

エリカ(……同じ人間だものね。そりゃ、おしりもあればうんちもするわよ。当たり前よ。……馬鹿ね、私って)

エリカ(……こんなバカな事を考えるのは、あ~あ、やっぱり、悩んじゃってるせいなのかしらね……。)

しほ「エリカ」

エリカ「あ……はい、なんでしょう」

しほ「小屋についたら、もちろんゆっくりと体を休めることは必要だけど──」

エリカ「はい」

しほ「今晩は、ゆっくりと貴方の話を聞くつもりです」

エリカ「……師範……」

しほ「……。」

しほ「黒森峰の隊長として──あなたは見事にチームを率いてみせた。大会では正々堂々と大洗を打ち破り去年の雪辱を晴らした。そうして黒森峰はあなたのもとで再び王者と返り咲いた──」

エリカ「ッス」

しほ「その恩賞としての、私と2人での登山旅行──どうしてあなたがそんなものを望むのか──それは分からないけれど」

エリカ「……。」

しほ「ともあれ、今晩は、いくらでも話を聞くつもりです。……山小屋の消灯は夜8時よ。その後、たっぷりと、時間はあるでしょう。」

エリカ「はいっ……ありがとうございます、師範……!」

はよはよ

ほう?
続けたまえ

いいですねぇ!!

 ──八ヶ岳稜線2384m『硫黄岳山荘』 その、五右衛門風呂──


しほ「フゥ……まさか、こんな山の上で、お風呂に入れるだなんてね」

エリカ「本当ですね。ですが、このお湯、本当に大丈夫でしょうか」

しほ「大丈夫、とは?」

エリカ「小屋の人は、お湯はきれいだと言っていましたけれど……なんだか濁ってるし、ぬるぬるしてるし……雑菌がいっぱい湧いてそう……ちゃんと交換してるのかしら……」

しほ「……エリカ。こんな場所で暖かい湯につかれているのだからね。それ以上の贅沢をいう物ではないわ。無粋な詮索は控えなさい」

エリカ「あ……申し訳ありません」

しほ「恵まれた環境ばかりを求めるのはやめなさい。これは、戦車道にも通ずる心構えです」

エリカ「はっ。」

しほ「…………まぁ、せいぜいでお湯のくみ汲たしをしているだけでしょうね。雨水を利用しているそうだし……お湯の張り替えなどをする余裕はないでしょう」

エリカ「……ですよねぇ~……」

エリカ(……まぁけど……たしかに、お湯につかれるってだけで十分ありがたいわよね……)


 ちゃぷん


エリカ「ハァァ~……やっぱり、気持ちがいいです」

しほ「早めに小屋に到着をしてよかったのね。おかげで、このお風呂も貸し切り」

エリカ「はい。女性の利用時間帯に、ちょうど始まったところみたいで。ついさっきまでは男性の時間帯だったそうです」

しほ「……。私のようなオバさんになれば、さして気にはならないけれど──」

エリカ「え?」

しほ「不特定多数の男性が使ったのと同じ湯ぶね──あなたくらいの年頃なら、いくらか抵抗もあるのかしらね」

エリカ「どうですかね。まぁ、気にならないわけではありませんが」

エリカ(……ていうか……そんなことより)

エリカ(……)

エリカ(師範の身体、ほんと、スタイルいいわね……)

エリカ(本当に子供を二人産んだ後なの? 何が「おばさん」よ。腹筋は引き締ま照癖に、お尻はすごくぷるぷるしてるし、いっそうもうなんだか、卑怯なくらい。同じ女としてさぁ)

しほ「……? エリカ?」

エリカ「あ……い、いえ……なんでも……」

エリカ(鎖骨からおっぱいへのなだらかな隆起に見とれてました、だなんて言ったら……どんなお叱りを受けるやら……)

しほ「おかしな子ね。脱衣所からこっち、ヒトの身体ばかりみて」

エリカ「……ひぇ!?」

しほ「……ふ、冗談です」

エリカ「……お、おかしなことを言わないでください……」

エリカ(もう、やめてよね。……。ばれてたのかと思った……)

エリカ「……あの」

しほ「何?」

エリカ「その……師範も、冗談を言うのですね。なんだか……意外でした」

エリカ(意外だし、なんだかそれに少し……嬉しい。冗談を、私に言ってくれた……あの、師範が……)

しほ「まぁ……そうね。あまり、貴方たちの前で冗談を言ったことはなかったかもしれないわね。」

エリカ「あまりというか、一度もなかったと思いますが。」

しほ「そう? まぁ、ともあれ、こうして、裸を突き合わせている時くらいは、冗談の一つくらいは、いいでしょう」

エリカ「はぁ」

エリカ(嬉しいけど……うーん。裸って言葉、やめてほしいな。なんだか、意識しちゃうわよ……)

しほ「意外というなら──」

エリカ「?」

しほ「私が、貴方のような年頃の娘と、こうして二人ではるばる本州まで旅行にきている。私を知る多くの者にとっては、そのことこそ、よほど意外でしょうね。」

エリカ「た、たしかに……あ」

エリカ(師範……笑ってくれている……?)

エリカ(……。)

エリカ(……っ)

エリカ「あ、あの……!」

しほ「?」

エリカ「今日は、本当にありがとうございます。私なんかのために、師範の貴重な時間を割いていただいて……家元は、忙しい方なのに」

しほ「……まぁ、そうね。スケジュールを調整するのには、いくらか苦労はしたけれど」

エリカ「無理なお願いをして、申し訳ありません」

しほ「とは言え──よい気分転換にはなったし、新鮮な驚きも、たくさんあった。高山の景色に、稜線上のこの五右衛門風呂、なりより──」

エリカ「……?」

しほ「──貴方との時間を思いのほか楽しんでいる自分にたいする驚き」

エリカ「え」

しほ「そんなワケだからして、総じて価値ある一日だったと、言えるのでしょうね。来てよかったと──思っています。私はね」

エリカ「~~~き……恐縮です! 本当に、そんな風に言っていただけるなんて……」

しほ「……ふ、これもまた、裸のつきあいの妙なのかしらね?」

エリカ「え?」

しほ「たしかにいくらか、私は口が軽くなっている。自分の思うところを、こんなふうにざっくばらんに誰かに言って聞かせるだなんてね。……まほや、いわんやみほにも──滅多にしないことでしょうに」

エリカ「~~~ッ……」


エリカ(……うわ、なんだろこれ……すごく、照れる……)

エリカ(ていうか……普通に光栄だし……う、なんか涙でそうなんだけど……)

しほ「……ふぅ……」

エリカ「……。」

エリカ(……あ、なんか喋らなきゃ……せっかく師範が、肩の力をぬいて会話をしてくれているのだから……)

エリカ「……あ、の、えと……い、いいお湯ですねー……」

しほ「ん……少し、ぬるいような気もするけれど」

エリカ「あ……そ、そうかもしれません……」

エリカ「……。」

エリカ(──ちょっと! もっと建設的で中身のある事を言いなさいよ!)

エリカ「……」

エリカ(……ぐぬ、な、なんで? 考えれば考えるほど話題が浮かんでこない……!?)

エリカ「……っ、……ぐ」

しほ「まぁ、思い返してみると──」

エリカ「っ!? は、はい……?」

しほ「……馬が合う、と、いう事なのかもしれないわね」

エリカ「……え?」

しほ「似ているのかもしれない、と言ってるの」

エリカ「えと、誰が、誰に、でしょうか……?」

しほ「……。ふぅん。日常生活における『察し』は、あまり良くないのかしらね」

エリカ「!? え? あの、、も、申し訳ありません……?」

しほ「……。……ふふ」

エリカ「あ、う……。えと……」

エリカ(……!?)

エリカ(なに!? なにこれすごく、恥ずかしい……!? 師範が、横目で私をみて、笑っている……。それだけなのに、私は、いったい何を、こんなに恥ずかしく思っているの……!?)

しほ「……。」

エリカ「……っ、……っ」

エリカ(……か、考えろ! 『誰かが、誰かに、似てる』……師範の言葉の文脈から、それを考えなさい……!)

エリカ(えと、えと……)

エリカ(……。)

エリカ(……あっ)

エリカ(え、ええ……?)

エリカ(似てるって、つまり──)

エリカ(だ、だけど、これって……間違ってたら、すごく恐れ多いというか……うぬぼれていると思われるというか……)

エリカ「……」チラ

しほ「……。」~♪

エリカ(ダメだ。この人、目をつむってすっかり湯舟を堪能しちゃってるじゃない! これ、私が答えるまで一言もしゃべらないパターンだわ……そういう人だもの……)

エリカ(……うーっ……)

エリカ(言うしかない……っ)

しほ「……ふぅ……」

エリカ「……。」

エリカ(……あ、なんか喋らなきゃ……せっかく師範が、肩の力をぬいて会話をしてくれているのだから……)

エリカ「……あ、の、えと……い、いいお湯ですねー……」

しほ「ん……少し、ぬるいような気もするけれど」

エリカ「あ……そ、そうかもしれません……」

エリカ「……。」

エリカ(──ちょっと! もっと建設的で中身のある事を言いなさいよ!)

エリカ「……」

エリカ(……ぐぬ、な、なんで? 考えれば考えるほど話題が浮かんでこない……!?)

エリカ「……っ、……ぐ」

しほ「まぁ、思い返してみると──」

エリカ「っ!? は、はい……?」

しほ「……馬が合う、と、いう事なのかもしれないわね」

エリカ「……え?」

しほ「似ているのかもしれない、と言ってるの」

エリカ「えと、誰が、誰に、でしょうか……?」

しほ「……。ふぅん。日常生活における『察し』は、あまり良くないのかしらね」

エリカ「!? え? あの、、も、申し訳ありません……?」

しほ「……。……ふふ」

エリカ「あ、う……。えと……」

エリカ(……!?)

エリカ(なに!? なにこれすごく、恥ずかしい……!? 師範が、横目で私をみて、笑っている……。それだけなのに、私は、いったい何を、こんなに恥ずかしく思っているの……!?)

しほ「……。」

エリカ「……っ、……っ」

エリカ(……か、考えろ! 『誰かが、誰かに、似てる』……師範の言葉の文脈から、それを考えなさい……!)

エリカ(えと、えと……)

エリカ(……。)

エリカ(……あっ)

エリカ(え、ええ……?)

エリカ(似てるって、つまり──)

エリカ(だ、だけど、これって……間違ってたら、すごく恐れ多いというか……うぬぼれていると思われるというか……)

エリカ「……」チラ

しほ「……。」~♪

エリカ(ダメだ。この人、目をつむってすっかり湯舟を堪能しちゃってるじゃない! これ、私が答えるまで一言もしゃべらないパターンだわ……そういう人だもの……)

エリカ(……うーっ……)

エリカ(言うしかない……っ)

>>12 連投ミスです。失礼いたしました。

エリカ「──あ、あのっ」

しほ「ん?」

エリカ「ええと、似ているというのは、その、つまり──」

エリカ「その、私が、元隊長に──まほさんに──似ている……という事でしょうか?」

しほ「……。」

エリカ「……。……あ、あの、」

エリカ(な、何か言ってよ……目をつむってないで……)

しほ「貴方は、どう思う」

エリカ「……へ?」

しほ「似ていると、思う?」

エリカ「え……」

エリカ「……。」

エリカ(私と、まほさんと……。)

エリカ(……。)

エリカ「……いえ、少しも、そうは思いません」

しほ「そう?」

エリカ「私はまほ隊長ほど沈着冷静でもなければ、西住流に精通できてもいません」

エリカ「そんな私が──まほさんに似ているなどと。……そんな風には微塵も思えません」

しほ「……。」

しほ「そうですか。」

エリカ「……はい」

しほ「そう思うのなら──似るように、精進すればいい。もしもあなたがそれを望むのなら──ね」

エリカ「……はっ」

しほ「──さて、そろそろ上がりましょうか?」

エリカ「え、あ、はい」


 ──ざばぁ


エリカ「……!」

エリカ(立ち上がった師範の、おしり……綺麗……。皺ひとつなくて、くたびれた感じんなんか少しもなくて、張りがあって……)

エリカ(……あ)

エリカ(五右衛門風呂からお風呂場の床に上がるときって、片足ずつ、かなり足をあげないと──)

エリカ(ということは、つまり──)


しほ「よいしょ」


 ──ざばぁ!


エリカ「──!!!!!」

エリカ(師範の、肛門……!!!!!!)

しほ「──ふぅ。……? エリカ、どうしたの。貴方も、もう上がるでしょう?」

エリカ「……えっ」

エリカ「あ、は、はい……! すぐに上がります……!」


 ──ざばざばざば!


エリカ(……うぅ。)

エリカ(本当に見えちゃった……)

エリカ(師範の、肛門……)

エリカ(……うぁぁぁ、見ちゃった……)

エリカ(なにこれ、感情をどう処理していいのか、わかんない……)

エリカ(背徳感? 嫌悪感? 興奮? ゾクゾク? わけわかんないわよ……。どうして私、こんな動揺を……)





──脱衣所──

しほ「──そういえば、エリカ」


エリカ「……はい」

エリカ(……師範の肛門……)


しほ「あなた、明日下山をした後、まっすぐ熊本には帰らず、大洗まで足を延ばすと言っていたわね?」


エリカ「はい」

エリカ(……肛門……)


しほ「みほに、会うのでしょう?」


エリカ「ええ」

エリカ(……おしりの穴……)


しほ「なら、ついでにあの子に確認をしておいて頂戴。大学はどうするつもりなのかと──ねぇ、エリカ、聞いてるの?」


エリカ「はい」

エリカ(……肛門って、なんで存在するんだろう……?)


しほ「……。じゃあ、よろしく頼むわね」


エリカ「はい」

エリカ(……私の肛門も、あんなふうに、すこしくすんだ色をしているのかしら……)

しほ「さて、では食堂へでも行きましょうか。食堂の窓から、外の景色が見えたはず」

エリカ「はい」


 ……ぎぃ……(しほが、薄暗い脱衣所のドアを開ける音)


 ……ぱたぱたぱた……(二人が、夕日の差し込む明るい廊下を歩く音)


しほ「──あぁ、ところでエリカ、さっきの貴方の答えは不正解よ」

エリカ「はい」

エリカ(……もう一度、みたいな、師範の生のおしり。そうだ、下山したら、改めてふもとの温泉に──)

エリカ「──……え?」

エリカ「はい? え? 不正解……?」

しほ「まほに似ている、といったのではないわ。貴方がまほに似ているとは、私も思っていない」

エリカ「えと、おっしゃる通りです、私などは、まだまだ未熟ものですから……あの、では、いったい誰と……?」

エリカ(……あ。)

エリカ(みほ?)

エリカ(……。……ええー……? 私と、みほが……?)


しほ「……。まぁ、いいわ。答えてあげましょう」

しほ「……私に似ている、と言ったのよ」

エリカ「……、……へ!?」

しほ「けれど、私の思い違いかもね。やはり貴方は察しが悪い。……ふふ」



 ……ぱたぱたぱた……(硬直して立ち止まったエリカをほって、さっさと廊下を歩いていってしまうしほの足音)



エリカ「……。」

エリカ(いや……師範と私って……それこそ、全然似てないですよね……!?)

つまりしぽりんも肛門フェチ・・・

こういう互いにおねろりとは言えない年の差レズって何て呼べば良いんだろう……。

まあとにかく検索かけたいくらい大好物です。

 ──山小屋の食堂・晩御飯──


 ……わいわいガヤガヤ……


エリカ(やっぱり気になる。私と師範と、一体どこが似ているというの?)

エリカ(良い評価してもらえた、と、そう判断していいのかしら……)


しほ「──食堂、満員ね。人気があるのね。登山って」

エリカ「はぁ」

しほ「それにしても、晩御飯にお魚を食べられるだなんて、驚いた。こんな山の上だというのに」

エリカ「そうですね」

しほ「小屋のご主人に伺ったのだけれど、物資は全てヘリで荷揚げをしているそうよ」

エリカ「なるほど」

しほ「……。……エリカ、私と二人で食事をするのが、そんなにツマラナイ?」

エリカ「あ、いえ……そんなことはありません」

エリカ(しまった、ぼけっとしすぎた……)

しほ「そうですか。それなら良かった。だけど、なら、もう少し楽しそうになさい。こんな素晴らしい景色を眺めながら、おいしい食事をいただけるというのに」

エリカ「……わかりました」

エリカ(……けど、食事とか景色とか、それが何だって言うのよ。そんなことよりも……ああ、もう嫌、はっきり言ってしまおう……)

エリカ「──ですが、師範が、おかしなことをいうから、私は戸惑っているのです」

しほ「おかしなこと? そんな事を、私は言ったかしら」

エリカ「……。」

エリカ(……何よ、からかうみたいに、はぐらかして……)

エリカ(……っ、ああもう、悔しいなぁ)

エリカ(こんなふうにからかわれたら、普通なら、絶対に腹が立つのに)

エリカ(だけど相手が師範じゃ、素直に腹がたてられない。そんな自分に、なんだか腹立つ)

エリカ「私が、その……師範に似ているだとか……さっき、いってたじゃないですか」

しほ「あぁ、あれね……だけど、戸惑うほどのこと?」

エリカ「そりゃ、戸惑いますよ」

しほ「そうかしら。だって、考えてごらんなさい。たんに私がそう感じたというだけで、それ以上の深い意味はないわ。であれば、貴方がいちいち気にすることは無いでしょう?」

エリカ「……っ」

エリカ(……さすがにむかついてきたっ)

エリカ「いや、だからですね、師範は、私達にとって尊敬すべき相手なんですよ? そういう相手から、「自分に似ている」だなんていわれたら、それはどういう意味だろうって、私は気にせずにいられると思いますか?」

しほ「気にせずにいられようがいられまいが、それがどうだというの? あなたのすべきは目標を見定めて精進すること。他人の戯言に耳を貸して心を乱すのは、単にあなたが未熟なだけでしょう」

エリカ(……っ、このっ、肛門ババァっ……!)

エリカ「だ、か、らっ、私達にとってはその目標が、『貴方』なんでしょうっ! 目標たる師範の言葉を、他の凡百の連中のたわごとと一緒くたにできるわけないじゃないですか!!」

しほ「……。ふむ」

エリカ(……あ……いくらなんでも、ぶしつけに言い返しすぎた……)

エリカ「すみません。……口が過ぎました」

しほ「……」

エリカ(怒ったかしら……)

しほ「……ふ」

エリカ(!?)

エリカ「なにか、可笑しいですか」

しほ「いえ、まほやみほが──もう少し、貴方の様に生意気であってくれれば、もっとシゴキがいがあったのかしら、とね」

エリカ「どういう意味でしょう」

しほ「まほは──そうね、一応、私の望むように育ってくれている。けれど、もう少しわがままでもよかった──と、思うのはそれこそ親のワガママなのでしょうね」

エリカ「は、はぁ……」

エリカ(何なのよ、急に……)

しほ「みほ、は……まぁ、とにかく、私には似なかったわね」

エリカ「……。」

しほ「あなたの、私を見つめるその吊り上がったような目。それに、あなたのそのフグのような気質」

エリカ(フグ……?)

しほ「やはり、なんだか──昔の自分を見ているような、そんな気分になるわね」

エリカ「……っ!?」

エリカ(だっだから……何なのよ、本当に……もうっ)

しほ「私は──まほやみほに、「自分に似たところ」を、求めていたのかもしれないわね。今日一日、貴方と一緒にいて──ふと、そう思った。」

エリカ(っ……そういう事を言われて、私にどう反応しろっていうのよ……!?)

エリカ「き、今日の師範は……どうかしていますよ……っ」

しほ「あら、そう?」

エリカ「そうですよ。いつもの師範は、理路整然と──丁寧に整備された完璧な機械みたいに、たんたんと順序立てて物事を言う人なのに」

エリカ「それなのに、さっきからの師範のお話しぶりは、正直にいって話の芯がさっぱり見えてきません……だからこそ、私は戸惑うんです」

エリカ(今の師範は、なんだかまるで──そうよ、みほ、みたいよ!)

エリカ(自分の頭の中の思い付きを、相手への説明もなしに、ぽんぽんぽんぽん……)

エリカ(つきあわされるこっちの身にもなれってのよ……)

しほ「ふむ……なるほど、貴方の言う通りかもね。だけど、勘弁なさい」

エリカ「勘弁、だなんて……」

しほ「こんな遥かな山の上。下界の煩わしさもここまで届いてこない──私だって、たまにには、肩の力を抜いてみたいの。登山というのも、悪くない趣味ね。よく誘ってくれた」

エリカ「……はぁ、どうも」

エリカ(……ほんと、なんか、調子が狂う)

エリカ(……ふん、『自分は象徴だ』とか、人前ではどうこう、とかと、言ってたくせに……)

エリカ(……。)

エリカ(──『肛門』)

エリカ(汚らしくて、恥ずかしくて、普通は絶対人には見せたくない部位。……すごく、恥ずかしい部位……。)

エリカ(……。)

エリカ(私は今、師範の、肛門をみているのかな)

エリカ(……だとしたら、まぁ光栄に思うべきなのかしら)

エリカ(西住流家元の、肛門……。)

エリカ(……。)

エリカ(頭に焼き付いてる。さっきお風呂場で見た、……師範の、お尻の穴……綺麗だった……)

エリカ(色の濃さから皺ののび方まで、たぶん、目をつむればはっきりと思い出せると思う)

エリカ(肛門だなんて、汚らしいはずなのに、だけど……)

エリカ(師範の肛門は、何か、すごく、特別なものに思えた……)

エリカ(……。)

エリカ(ねぇ、梓──たしかに、あんたの言う通りだったのかもしれないわね)




 ──梓『登山とかいいんじゃないですか? 登山って、なんだかすっごく気持ちが素直になれるんですよ。……いや、どういう理屈だかだなんて、そんなのはどうでもいいじゃないですか。それに、どうせ私が何を説明しても、エリカさんは鼻で笑うだけでしょ。だから、やってみてください。そしたらきっとわかります。まぁ、エリカさんは、素地金のはいった頑固モノですから、どうだかわからないですけど』




エリカ(……ふん、喧しいわよ。生意気な子。)

エリカ(……とは言え、たしかに──)

エリカ(梓、今回はあんたに感謝してやってもいい)

エリカ(私は、師範に、師範の肛門を見せてもらえた)

エリカ(なら……)

エリカ(打ち明けるなら、いまこそ、チャンスなのかも)

エリカ(機嫌よさそうに、肛門をさらしてくれている、今こそ──)

エリカ「──あの、師範」

しほ「なに?」

エリカ「私が、師範に相談したかったことなのですが──」

しほ「あら、いきなりね。まぁ、いいわ。聞きましょう」

エリカ「……その……」



エリカ「……私……」

エリカ「このまま戦車道を続けていて、いいのだろうかと、悩んでいます」



エリカ(──……)

エリカ(……あぁっ)

エリカ(見せちゃった──)

エリカ(師範に)

エリカ(私の肛門を──)

エリカ(私の弱いところ、情けないところ、恥ずかしいところ、隠すべきところ)

エリカ(他の誰にもみせたことのない、私の、一番汚いところ……)

エリカ(師範に、失望、されてしまうかしら──)

しほ「──エリカ」



 ──ぞくッ



エリカ(……っ!?)



しほ「──それはいったい、どういう事?」

エリカ「っ、あの……ですね……」

しほ「──エリカ、貴方の弁解を聞く前に、一つ確認しておく」

エリカ「っ! (弁解……!?) は、はい、なんでしょうか……」

しほ「あなたのその考え──私意外の誰かにも、すでに打ち明けているの?」

エリカ「え……?」

しほ「どうなの。正直に答えなさい」

エリカ「い、いえ……まだ、師範以外には、誰にも話いませんが……」

しほ「本当に?」

エリカ「っ、は、はい、誓って……」

しほ「そう。ならば、いいわ」

エリカ「……は、はい……」

エリカ「……っ」


エリカ(な、なに……?)

エリカ(……あぁ……だけど……)

エリカ(──これだ!)

エリカ(師範の、この刺すような瞳!)

エリカ(地響きのような重たい声!)

エリカ(ティーガーの巨体が迫るような圧迫感……!)

エリカ(これが、私の知っている西住流の家元──師範!!)

エリカ(なんて鋭い気配なんだろう!)

エリカ(もう、肛門なんて、影も形も見えない────!)

乙です
面白いんだけど電車の中でスマホで読むには開き辛いスレタイだった

笑った拍子に屁が出たら危険だからね

エリカ(師範の雰囲気、さっきまでと全然違う。威圧感で、今にも押しつぶされてしまいそう)


しほ「エリカ、一応、確認をしておくけれど──」

エリカ「は、はい」

しほ「今のバカげた発言は、冗談? もしそうだとしたら、この上なく不愉快な冗談だったけれど──今ならばまだ、許しを与えます。二度と口にしないと──誓いなさい」

エリカ「……っ」

エリカ(おお、……虎に睨まれた蛇……ああ違う、蛙だったっけ……)

エリカ「師範、私は……冗談でこんな事を口にするほど、愚かではありません」

しほ「そうですか、ということは──」

しほ「──本気でそういうたわ言を口にするような、救いようのないの愚か者だったということなのかしらね」

エリカ(っ……こっわ……)

しほ「貴方、自分の立場と自分の発言の政治的意味を理解しているの」

エリカ「政治的意味……ですか」

しほ「我が校の隊長──その者課せられる責任と義務を、よもや軽々しく考えてはいないでしょうね」

エリカ「それは──当然ですです。」

しほ「ならば理解しているはず、貴方に求められるものは、単純な戦車道の技量だけではないということを」

エリカ「……。」

しほ「戦車道の発展に寄与しうる人物たるか、その思想や人間性において西住流の歴史と伝統に関与する資格を有しているか──私達は審査に審査をかさね、貴方という人間を黒森峰の隊長として認めた──」

しほ「そんな貴方が、『戦車道を続けるかどうかを悩む』などと──それがどれだけ無責任な発言であるか──ねぇ、本当に理解しているの?」

エリカ「……。」

エリカ(……あぁ、なるほどね……)

エリカ(今──ようやく少しだけ理解できた)

エリカ(みほは、これが、嫌だったのね──)


しほ「──。」


エリカ(師範のこの、冷徹な眼差し、無機質で重たい声……)

エリカ(『私の気持ち』がどうだとか、『なぜそう考えているのか』だとか、そういう個人的な事柄には一切関心はなく──)

エリカ(師範の思慮にあるのは、一個の人格を超越した、『流派』だとか『家』だとか……そういうことだけ)

エリカ(私の人格なんか、まったく二の次で……)

エリカ(……。みほ)

エリカ(もし、二年前のあの時──)

エリカ(師範がもっとあんたに優しくしてくれていたなら、あんたの気持ちに寄り添ってくれていたなら──あんたは──)

エリカ(──……。……ふんっ)

エリカ「ま……私の知ったこっちゃないけど」

しほ「……は?」

エリカ「……あっ!?」

エリカ(やばっ、声にだして、言っちゃた)

しほ「いま口にしたことを──もう一度言ってみなさい」

エリカ「……っ……い、いえっ……今のは、全然違う話についての言葉でして……!」

エリカ(みほの事についてであって……!)

しほ「違う、話、ですって? …………………………………………………………………………。


しほ「お前は──今、自分がどれだけ大事な事を話し合っているか──それすらを理解できていないの──?」

エリカ「!!!」

エリカ(『お前』なんて、初めて……は、は、は……マジ切れ寸前ってところかしら)

エリカ(……うわぁ、師範の握りしめたわり箸、なんか折れそうなんだけど……)

エリカ「あの、師範、どうか、私の言葉を聞いていただけないでしょうか」

しほ「……。」」

しほ「……端的に、かつ明確な発言を心がけなさい。さもないと──」

エリカ「……さもないと……?」

しほ「今後、私があなたの発言に注意を向けることは二度となくなるでしょう」

エリカ「……っ」

しほ「その瀬戸際であることをを理解した上で──弁解があるのなら、述べなさい」

エリカ「……し、承知しました……」

しほ「……。」


 ……わいわい、がやがや……


エリカ(これだけ賑やかなら──私達の会話に、あえて聞き耳建てて人なんていないわよね)

エリカ「……。」

しほ「……。」

エリカ(すぅ──はぁ──)

エリカ(うぅ、……試合の時よりも、今この瞬間のほうが、よほど緊張してるわね)

エリカ(ふぅー……わにっ!)

エリカ「師範──さきほどああは言いましたが、けれど、第一の目標としてはやはり、この先も戦車道を続けたいと、思っています……もちろん、西住流として」

しほ「……。貴方にその資格があるのかどうか、私はもう一度真剣に検討をする必要がありそうですが」

エリカ(おお、怖……)

エリカ「ぜひ、検討をよろしくお願いいたします。」

しほ「……。」

エリカ「そうお願いしたうえで、なおもう一点、どうしても、師範にご相談させていただきたいことがあります」

しほ「……。」

エリカ(……っ。あぁ、背中、もう、滝汗よ……せっかくお風呂にはいったのに……)

しほ「いいわ──甘んじて聞きましょう。これが、最後になるのかもしれないものね」

エリカ「……ありがとうございます」



しほ「……。」

エリカ「……。」



 ……わいわい、がやがや……

エリカ(……すぅ……はぁ……)

エリカ「……師範」

しほ「ええ」

エリカ「もし──」

エリカ「もしも、私のこれまでの努力を、師範は認めてくださるのなら──」

しほ「……。」

エリカ「私の、この一年間の務めを評価してくださるのなら、どうか、私を──」

エリカ「師範の娘として、養女として、法的に認めていただけませんか」

エリカ「そうして、どうか私に──西住流の後継者たらんとする実際的な資格を、与えてください」




エリカ(…………。)

エリカ(……あーあ……。)

エリカ(……本当に、言っちゃった。)

エリカ(……。)

エリカ(黒森峰の隊長になった後の、はじめて聞いた試合開始の号令。あの時も──こんな気分だった)

エリカ(もう、どうあがいても、以前の時間には戻れないんだって──)

エリカ(前進することしか自分にはもう、許されていないんだって──!)



しほ「……。」

エリカ「……師範、冗談とかじゃ、ありませんから」

しほ「……。」



エリカ(……。)

エリカ(……頭がおかしいって、思われたかな)

エリカ(今まで積み重ねてきた師範からの評価も、最悪、全部失うかもね)

エリカ(けど……それがなによ……!)

エリカ(……これぐらい言ってやらなきゃ、私は、気が済まないんだから……)

エリカ(……今のままじゃいくら頑張ったって、私は──)

エリカ(……あーあ、もしやっぱりだめだったら──島田流にでも今から入門してやろうかしら)

エリカ(って……馬鹿ね、それじゃ結局、何も変わってないじゃない……)



しほ「……、エリカ。」

エリカ「……、はい。」

しほ「私は、あなたがまほの後を継いで依頼、貴方と、それなりに長く付き合ってきたつもりです」

エリカ「……感謝してします。こんな私なんかと」

しほ「正直に言って貴方とは気が合ったし、わざわざ熊本の家にまで押しかけてきて戦車道の教えを請いにくるような貴方のその姿勢は、いささか無礼ではあれど、嫌いではなかった」

エリカ「……。」

しほ「だから──どうしても納得がいかない」

エリカ「……?」

しほ「貴方が、こんな──「バカバカしい」としか言いようのないようなことを、言うだなんて。」

エリカ(……………………そっか、『バカバカしい』……かぁ)

エリカ「……そう、ですか。」

エリカ(……あーあ)

エリカ(全部──無駄、だったのかしらね……私の今まで……)

しほ「呆れたという言葉では言い合わらせないくらいに、今、貴方に呆れているのだけれど──」

エリカ(……。)

しほ「ただ、それでもなお私は──」

エリカ(え……)

しほ「あなたが馬鹿だとは、思えない」

エリカ「……。」

エリカ(……師範……)

しほ「あなたの、戦車道に対してのひたむきな心を。この一年間、私が見てきたものが偽物だったとは──どうしても思えない。──思いたくない」

エリカ(……っ)


エリカ(師範の瞳……大きい、です──)


エリカ(……見つめないで、くださ──)


エリカ(──!? あれ!? やば! ちょっと……なんで私、目頭があつくなんのよっ!?)

エリカ(だめ、だめ……! かってにぶちまけて、勝手に泣いたりしたら──それこそバカじゃない!)

しほ「……。……。……ねぇ、エリカ……」

エリカ「は、はい」

しほ「……。これは──なんの脈絡もない思い付きというか、勘なのだけれど──」

エリカ「へ……?」

しほ「……。」

エリカ(……何……? 急に考え込んで──)



しほ「もしかして──あなたが突然に今のような事を言い出したのは、あの子──みほの、影響……?」



エリカ「──!」



エリカ「あ、の……それは……」


エリカ(あぁ……さすが、というか……大した勘だわ、家元……いえ、母親の、勘……?)


しほ「……図星?」

エリカ(……YES、と答えるのは……すっごいシャクだけど……)

エリカ(でも……)

エリカ(こうやって俯いて黙ってりゃ、YESって答えているようなもの、か……)



しほ「……。」

しほ「…………ハァー…………」

エリカ(深いため息……)

しほ「まったく…………あの子は…………どこまで私を……」



エリカ「……。」



エリカ(……ごめん、みほ。もしかすると今──師範の中で、あんたの評価がまたまた爆下がりしたかも)

エリカ(恨まないでよね。)

エリカ(けど、悪いけどそんなことよりも、私、今……)

エリカ(……すごい喜んじゃってるわ……)


 ──この一年間、私が見てきたものが偽物だったとは──どうしても思えない──


エリカ(私、さっき、これまでのどの瞬間よりも、師範に認めてもらえていた気がする)

エリカ(はぁ~……うぇっ!? やばっ、なんかまた涙がのぼってきそう……)

エリカ(くそっ、絶対、泣いて、たまるもんですかっ……)

エリカ(でも、本当にやばい、ちょっとこれ、やばい、気をそらさないと……マジで泣いちゃう……)

エリカ「……あ、あのう、師範」

しほ「なに」

エリカ「師範は……どうして私を、師範の娘として産んでくださらなかったんですか……?」

しほ「……。」


しほ「…………………………。」


しほ「…………………………………………………………。」




エリカ(……あはは)

エリカ(師範、すっごい能面ヅラだわ。よくわかんないけど、『ドン引き』って感じなのかしら)

エリカ(ふぅ……よかった。とりあえず……一応、涙引っ込んだわ……)

エリカ(……はぁ~……けど、そうよ、思い出しなさい、私)

エリカ(師範がどんなに恐ろしい相手だろうが、神様みたいな人だろうが──)

エリカ(──肛門っ)

エリカ(そう、この人にも、肛門がついているんだわ)

エリカ(私と同じ、人間なのよ。おならもするし、うんちもする)

エリカ(だから──気圧されるな、負けるんじゃないわよ、私……!)


しほ「……。」

エリカ「……。」

エリカ(師範の出方を、今はみるべきかしら)

エリカ「……。」

しほ「……」


しほ「──とりあえず──」

エリカ「……。」

しほ「食事を終わらせてしまいましょう」

エリカ(……こんな時でも、この人は、取り乱さないのね)

エリカ「そう、しますか?」

しほ「続きは、部屋にもどってから。それに……少し、気を静める間を、私に与えなさい」

エリカ「わかりました」

エリカ(動けないときは、動かない。……ふん)



 ……もぐもぐ……



しほ「……お魚。美味しいわね。少し、冷めてしまったけれど」

エリカ「……はい、おいしいです」

エリカ「……。」



 ……もぐもぐ

エリカ(どうすれば、娘に──迎えてもらえるかしら)

エリカ(私の要求をぶつけるだけじゃあ、だめよね)

エリカ(師範にとっても、何かこれがメリットであるように──)

エリカ(……。)


エリカ(──そっか……私、今……それなりにこの時間を楽しんでるのね。)

エリカ(戦況はさっぱり分からないけど──それでもなお、自分にとって良いようにしてやろうって、そう思えてる)

エリカ(……。)

エリカ(やるじゃん、私)


しほ「ねぇ、エリカ」

エリカ「あ、はい……?」

しほ「私、少し、自分に驚いているのよ」

エリカ「え……?」

しほ「考えてみたのだけれど、私はどうやら──貴方を、切り捨てようとはしていないみたい」

エリカ「……どういう、意味でしょう」

しほ「『こんなトチ狂った事をのたまう人間は、今すぐに私の人生から追い出すべきだ』『関係を断つべきだ』──私の頭の一方は、そう主張している」

エリカ「……。」

しほ「けれどそのもう一方では──『どうしてこの子はこんな事を言うんだろう?』『この子が何かを悩んでいるとして、私はこの子にどうしてあげられるのだろう?』──そうも考えている」

エリカ(……! 嬉しい……)

しほ「不思議ね。私はいつの間に──貴方にそこまで心を許したのかしら」

エリカ「……。」

エリカ「……あの」

しほ「……?」

エリカ「私も、自分自身、少し、不思議なことがあって──」

しほ「何……?」

エリカ「さっきまで言っていたようなめちゃくちゃな事、私──師範以外には言わないと思います」

しほ「……。」

エリカ「……。」


 ……もぐもぐもぐ……


エリカ(──。)

エリカ(……あれ?)

エリカ(今の言葉こそが……私の『肛門』……?)

エリカ(あれ……? あれ……? じゃあ、さっきまでの言葉はなんだったの……?)

エリカ(娘にしてくれたのなんだのと──)

エリカ(私、全力で自分の肛門を、師範にさらしていると思っていた。)

エリカ(けど……そうではなかった……? 今までの言葉はせいぜい──『おっぱい』──? ……おっぱいなの……?)

エリカ(じゃあ──いったい何なの? 私が、師範に聞いてほしかったことって──。私にとっての、本当の、『肛門』って──いったい──)

面白い
凄くいいい

素晴らしい。
しかし、早くしほエリアナルレズプレイが読みたい

レズとかそういう話なのかはわからないけど
普段人には見せず自分でも把握できてない素の自分の暗喩に「肛門」を使うあたりセンスを感じる
どこか文学的だ

 ──食後・二人の個室へ向かう廊下──


 とた、とた、とた……


エリカ(……。)

エリカ(……18年間も生きてきて、私は、自分のお尻の穴を一度も見たことが無い……)

エリカ(小さかったころ、幼心と興味本位で股の間を鏡で観察したことはある。もちろん、お尻の穴も見えていたはずだけど……それほどしっかりとは見なかった。前のほうにばかり、興味がいって……)



 ──さっきまで言っていたようなめちゃくちゃな事、私──師範にしか言わないと思います──



エリカ(私がそう呟いた時、師範は『ああ、そう』って、あたりまえに頷いてくれた──)

エリカ(……すごく幸せな気持ちがした……お尻の穴から頭のテッペンまで、じわっと暖かくなった)

エリカ(……私の肛門は、いったいどうなっているの?)



しほ「──。」


 ぷり、ぷり、ぷり……


エリカ(師範のおしりが、目の前で揺れてる)


 ぷり、ぷり、ぷり……


エリカ(……やっぱり、綺麗、下着売り場のマネキンみたいに完璧なお尻、……)


 ぷりん、ぷりん、ぷりん……


エリカ(……もう一度、見たい。師範の肛門。師範のお尻を、軽く押し広げて──じっくり観察してみたい)

エリカ(まぁ……そんな事をしたら破門じゃすまない、か……)

エリカ(──あぁ、馬鹿な事を考えてる間に、もうお部屋についちゃったじゃない)


 ガタ、ガタン、


しほ「? 部屋のドアが開かない……」

エリカ「あ、たぶんレールが悪くなってるんですよ。ちょっと、いいですか?」

しほ「ん」

エリカ「こうやって、ドアを少し持ち上げながら──」


 ……ガラガラガラ……


しほ「あぁ……なるほど、ありがとう」

エリカ「いえ」

エリカ「……。」

エリカ(ふふ……このちょっぴり不器用な感じ、まほさんみたい。やっぱり、親子なのね)

エリカ(……。)

しほ「登山靴、部屋の前においておけばいいのかしらね」

エリカ「あ、はい。そうですね」

 ぬぎぬぎ……。

エリカ「靴、入り口のすぐ脇に、一緒に並べておきますね」

しほ「ありがとう」

エリカ(……、そっか、靴のサイズは、私も師範も、一緒くらいか)

エリカ(……。)


 どたどたどた、

 
しほ「ふぅ──窓の外、山なみが綺麗ね」

エリカ「そうですね」



エリカ(……。)

エリカ(……今日一日……この人と一緒にいて、実感したことは……)

エリカ(この人は、神様じゃない。私と同じ……生の人間……おならもするし、肛門だってある……)

エリカ(この人の裸を全部みて、私の裸も全部見せて、それで、お互い裸でゆっくりお話しをして)

エリカ(そうして、改めて、心から思った。)

エリカ(この人の娘として……生まれてみたかった……)

エリカ(母さん、父さん、ごめんね、二人の事はもちろん好きよ。ただ……私は、私なりに、人生の半分を西住流にささげてきた。ものすごく、真剣に)

エリカ(私は私の時間を中途半端に使いたくない。何かに時間をささげるなら、とことんまで本気になりたいと思うの。)

エリカ(……。)

エリカ(……みほ、アンタは、ズルいわ)

エリカ(私にないもの、いっぱい持ってるクセに──)



 あれ……

 私、……なんで急に……みほの事を──




エリカ(………………あ)




エリカ(あぁ──そうか。)

エリカ(これが、私の本当の肛門か)

エリカ(……なんだ、こんなものか……)

エリカ(私は、みほに、嫉妬してるのね)

エリカ(なるほど。私は大会でみほに勝って、その嫉妬を振り払おうとした……)

エリカ(なのに、みほは、私にそうさせてくれなかった)

エリカ(アンタは、私に負けたくせに、ちっとも悔しそうじゃなくて──)

エリカ(おまけにあんたは試合の時もう、隊長ではなかった)

エリカ(私は隊長同士、対等の立場で、あんたに、私の価値を認めさせたかったのに……)




しほ「──さぁ、エリカ。貴方も座りなさい。話の続きをしましょう」

エリカ「……。」

しほ「みほと、何かあったの?」

エリカ「……。」

エリカ(みほのせいよ)

エリカ(アンタのおかげで私は──もう、師範の娘になるしかなくなってしまって──)

エリカ(……。)

エリカ(……。)

エリカ(……。)

エリカ(違う。私いま……すごく情けない事を言ってる……)

しほ「……エリカ?」

エリカ(自分の願いがかなわなかった責任を、誰かに押し付けて──)

エリカ(ハァ……私って、バカね、本当に、バカ……)

エリカ(はぁー……)

エリカ(……けど、ちゃんとそれに気づけてよかった)

エリカ(……。

エリカ(……よっしゃ)

エリカ(後は──自分でなんとかしてみせる)

エリカ(これ以上、師範に失望されたくないし──)

エリカ(すぅ、はぁ)

エリカ(……っ)

エリカ「──師範、申し訳ありませんでした」

しほ「……何がです」

エリカ「もう、大丈夫です。すっきり、しました」

しほ「……は?」

エリカ「師範がお話しを聞いてくださったおかげで、自分の課題がはっきりみえました」

しほ「……私はまだ、貴方から何も聞いてはいないのだけれど」

エリカ「いえ、師範はもう十分に私の話を聞いて下さいました。これ以上、師範のお手を煩わせる必要はありません。先ほどの私の馬鹿な言葉も、忘れてください。後は──自分のお尻は、自分で、拭きます」

しほ「……。」

エリカ「本当に、申し訳ありませんでした」

しほ「……。忙しい中、本州まで引っ張り出されて、訳の分からないたわ言を一方的にきかされて──あげく、勝手に満足をされて……私はたまったものではないのだけれど」

エリカ「言葉もありません。ただ、本当に──今日は感謝しています。私と一緒にいてくださって、ありがとうございました」

しほ「……………………。」

エリカ「私にとって、この上ない恩賞旅行でした……どうか、ご容赦願えないでしょうか」

しほ「……………………。」

エリカ「それと、ずうずうしいかもしれませんが……、どうかこれからも、師範の元で、戦車道を続けさせてください」

しほ「……………………。」

しほ「……………………。」

しほ「……………………。」

しほ「……。ちょっと待ちなさい」

エリカ「え、あの……お許しいただけないのでしょうか……」

しほ「とにかく、いいから、待ちなさい。それと──」



しほ「──その癇に障る敬語を、今すぐ止めて」

しほ「エリカ……あなた、また悪い癖がでてる」

エリカ「え……」

しほ「貴方は、甲と決めると、もう乙の事が目に入らなくなってしまう」

エリカ(……私が隊長に就任したころ、よく師範から指摘されていた事……)

エリカ「……。修正できていたつもりですが──私、また、やっていますか」

しほ「ええ」

エリカ「……。というと、その……」

しほ「自分で考えなさい。己で気付きなさい」

エリカ「え……」

エリカ「……。」

エリカ「……え、えと、あの……やはり、あれだけ好き勝手言っておいて、すっきりしたので何事もなく今まで通りに西住流を、というのは……虫がよすぎたでしょうか……」

エリカ「その、まさか……破門、ですか……」



しほ「……………ハァ~~~~~~~」



エリカ(ええええええき、聞いたこと無いくらいの深いため息……)

エリカ「し、師範……」

しほ「貴方の察しの悪さには……まったく、ホトホト……」

エリカ「え、あ、う……えと……」

エリカ(ど、どうしようどうしよう……)

しほ「……私が言いたいのは、つまり──」

エリカ「は、はい……?」

しほ「──少しは、私の気持ちを考えてちょうだい」

エリカ「……へ?」

エリカ(……師範の、気持ち……?)

エリカ(……。)

エリカ(……『気持ち』!?)

エリカ「……あの、き……気持ち、ですか……?」

しほ「……。」

エリカ(おぉ……眉間の皺が、すごい……)

エリカ(……で、でもでも、だって……)

エリカ(『気持ち』だなんていう個人的なものを考えろだなんて師範の口から──まして、師範自身の──。)

エリカ(それに、こう言っちゃ失礼だけど──師範の『気持ち』を理解している人なんて──)

しほ「……エリカ」

エリカ「は、はい……?」

しほ「私は──少しだけ、嬉しかったのよ」

エリカ「……は……え……?」

エリカ(……『嬉しかった』……?)

しほ「私のような不寛容な人間の……母親としてはとても水準にみたない人間の……娘になりたいなどと」

エリカ「……え……」

しほ「貴方が、何を考えているのか……私は知りたい」

エリカ「師範……」

エリカ(え……これって……)


エリカ(──肛門?)


エリカ(いつの間にか、目の前に、師範の肛門が──)


エリカ(……あ、違う、これは──肛門どころの話じゃなくて……?)


エリカ(肛門の──その、さらに奥……?)


エリカ(乾いて、くすんで、色素の沈着した疲れた肛門ではななく──その、もっと奥──?)


エリカ(師範が、自分の肛門をおもいきり指で広げて、そのさらに中をみせてくれている? 師範が、あの師範が……!?)

エリカ(──待って、どうしよう!? どうして急に!?)

エリカ(肛門の奥、想像していたよりもずっと綺麗で、血が通ったピンク色の壁は、若々しくてらてらと光を反射させていて──)

エリカ(でも、そんなものをいきなり見せられても、私は、どう答えたら──)


 ──私も、見てほしい──


エリカ(……え……)


 ──お尻の穴の更に奥──


エリカ(……!?)


 ──自分では、見ようと思っても見れない。穴を広げて、誰かに底を覗き込んでもらわないと知ることのできない、そんな秘密の部分──


エリカ(……で、でも、そんなの恥ずかしい。お尻の穴を開いて、その奥を、誰かに見てもらうだなんて、──お母さんに座薬を入れてもらった時だって、そんなところまでは──)


 ──……だけど──


エリカ(……だけど……師範になら──)

エリカ(私が誰よりも尊敬する、この人になら。)

エリカ(自分の肛門を私に見せてくれた、この人になら)

エリカ(……私は……っ)

エリカ(私は……っ)

エリカ(──奥の奥まで、見てもらいたい……!)

エリカ「……あ、あの、師範!」

しほ「……。」

エリカ「私……師範とまた……裸で、お話しをしたいです」

しほ「……。」


エリカ(お風呂で一緒につかっている間──私は師範をすごく身近に感じられた)

エリカ(あんな時間をまた、師範と共有したい。ゆっくりと、いろいろなことを語り合いたい──)

エリカ(──下山をしたら、近場の温泉を探そう)

エリカ(いえ、小屋の人に聞けば教えてくれるかもしれない。下山をしてすぐにいける温泉、ありますかって!)



しほ「……わかりました」

エリカ「ありがとうございます! じゃあ──」

しほ「──では、部屋の鍵を閉めなさい」

エリカ「……へ?」

しほ「窓のカーテンも、閉めなければね」

 しゃっ……

エリカ「え、え」

しほ「さぁ、早く。戸締りをして、貴方も服を脱ぎなさい。私の気が変わらないうちに」

エリカ「……。」

エリカ「……。」

エリカ「……。」

エリカ「……はい」

エリカ「わかりました」

 ──カチャン

エリカ「……。じゃあ、私も服……脱ぎますね」

しほ「ええ」

 ……しゅるしゅる……

エリカ(……。)

エリカ(……どうしよう、私今、すごく……幸せ……)

エリカ「あ、あのう、師範……」

しほ「ん……」

エリカ「電気、消しますか……?」

しほ「……バカね、何を言っているの」

エリカ「す、すみません……」

エリカ「……あ、じゃあ、……つけたままで?」

しほ「裸で語らうために裸になるのでしょう? だったら、お互いの身体を良く見なくてどうするの」

エリカ「そ、そうか、そうでしたね……」

エリカ(さすがね、師範は、こんな時でも堂々としてるのね……)

エリカ(……。)

エリカ(私の目の前で、師範が服を脱いでいく。……なんだか、すごく、ドキドキする。……)

エリカ(変なの。さっき、脱衣所で師範が服を脱いでいた時は、別に……)

エリカ(……。)

エリカ(……ああ、そうか、そうよね、だってここは脱衣所じゃないもの……)

私の本当の肛門というパワーワード

なんだこの状況…

 ……ぬぎ、ぬぎ……

エリカ(こんな事になるなんて……まほさんやみほが聞いたら、なんて言うだろう……)

しほ「エリカ」

エリカ「は、はい」

しほ「言うまでもないけど──今日この小屋で起こったことは、決して他言無用です」

エリカ「も……もちろんです! もちろん」

エリカ「……で、ですが……師範はどうして……こうまでしてくれるのですか?」

しほ「脱げと言っておいて、今更そんな事を聞くの?」

エリカ「それは、そうなのですが……なんだか、信じられなくて」

しほ「……。」

しほ「……説明は──しません。したくありません」

エリカ「へ」

しほ「ただの気まぐれ──それでいいでしょう。余計なことを考えずに、目の前にある状況を活用なさい」

エリカ「は、はぁ……」

エリカ(……屁理屈、よね、今の。……本当に、可笑しな師範……)

エリカ(でも、師範の言う通りよ。こんな事は、きっと、もう、二度とない──)


 ……しゅる──ふぁさ……


エリカ(パンツも……ブラも……本当に、全部脱いじゃった……私も、師範も──)


 ……おず、おず……


しほ「……。」

エリカ「……っ……」


エリカ(私、師範と、裸で、向かい合ってる。……山小屋の、こんな狭い一室で──)

エリカ(こんなのって、こんなのって──)

エリカ(っ……ええいっ! しっかりしろ、逸見エリカ!)

エリカ(目の前の今を、大事になさい!)


エリカ「あ、あのっ……」

しほ「ん」

エリカ「私、今日一日、師範のお尻を見ていて……すごく、見事だなと思いました」

しほ「どうもありがとう」

エリカ「せっかく、ですから、その──しっかりと、拝見させていただいてもよろしいでしょうか……!?」


エリカ(……うわああああああああ!!!)

エリカ(これ……現実!?)

エリカ(私、今、言ったのよね!?師範に──お尻をみせてくださいって!!!)

エリカ(ば──ばっかじゃないの!?)

しほ「……私のお尻をみたいから、私に裸になれと言ったの?」

エリカ「──い、いえ、決して! 決して、そういうわけではありませんが……」

しほ「……まぁ、いいでしょう。中途半端は、わたしも好みません」

エリカ「え……」


 くるっ


しほ「お尻です」

エリカ「──!!!」


エリカ(────お父さん、お母さん────神様────生きてるっていうのは、本当に……)


エリカ「──あ、あの……綺麗なお尻です……」

しほ「まぁ、多少の自信は、有るわね」

エリカ「多少だなんて……私も、それなりに体を鍛えてはいるつもりでしたが、こうまで綺麗には」

エリカ(あぁ、信じられない。師範のお尻が、今、私の前に)

エリカ(盗み見でもない、お風呂のチラ見でもない。今、『私に見られるため』に、このお尻は、今、お尻として私の目の前にある──)

エリカ(……ただ、肛門はさすがに…・・・・見えない、か)

エリカ(……。)



エリカ(もし私が今手をのばして、師範のお尻にふれて、臀部を少しだけ広げて、そうして私が──ひざまずけば──そうすれば、そこには──)

エリカ(……だめ、自制なさい! 師範はもう十分に肛門をさらしてくれている。その上、そこまでしていはずがないわ……)

エリカ「何か、特別なトレーニングをされているのですか?」

しほ「そうね。理想形を維持するための努力は、行っているわね」

エリカ「象徴たるイメージのために──ですか?」

しほ「個人的な自尊心のためでもあるけれど──ええ、動機としては、そちらのほうがより大きいでしょう」

エリカ「さすがです。わたしも見習わないと……」

しほ「骨盤の形や、大腿骨の接続部の形にもよるけれど──ふむ、エリカ、後ろを向きなさい」

エリカ「へ?」

しほ「貴方の下体の具合を、見てみましょう」

エリカ「え!?」

エリカ「い、いや、そんな、恐れ多いですし……!」

エリカ(師範に、私のお尻を、じっくりみられるだなんてっ! 恥ずかしい!)

しほ「人のお尻を見ておいて、自分のお尻は、見せないつもり?」

エリカ「うっ、ぐ……。……わ、わかりました……」


 ……くる……


しほ「……、……そうね、少し、余分な脂肪が多いか──」

エリカ(……っ、ヒィィィィィィ……師範が、かがんで、私のお尻を……)

エリカ(師範の声が、私のお尻のすぐ近くから聞こえる……!)

しほ「足、触るわよ」

エリカ「え、ちょ──」


 ……さわっ


エリカ「ひゃあああああ!」

しほ「静かになさい。山小屋の壁なんて、薄いに決まってるんだから。ふざけてやっているのではないのよ」

エリカ「す、すみません!」

エリカ(だだだだけど! うわあああああ! 師範の手が、私の骨盤骨を! 私の太ももの外側と内側を! ていうか、結構、足の付け根まで!!)

エリカ(ふああああああああ……)

しほ「骨格は──そうね、それほど悪くないと思う。」

エリカ「そ、そう、ですか……」

しほ「ただ内側の筋肉に改善の余地が多くある。内転筋系──膝から股間にかけて伸びる──」


 もさっ── 


しほ「あ──」

エリカ(ッッツッ!!<ブビっ>!!! し、師範の指が、毛の先端に──!!!!」

エリカ(……って……え?)



エリカ(……<ブビ>……って……?)

エリカ(……あ──肛門に感じる──この暖かさ──)


しほ「──ク、ム……もう、ちょっと……貴方……」


エリカ「────!!! ぎゃあわああああ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」

しほ「だから、騒がないでちょうだい。けれど今のは私も悪かった。ふれるつもりはなかったのよ」
 
エリカ「がっ、……ぎっ……!」

エリカ(──!!!!!!)


 ぼふっ!


しほ「エリカ、なぜ枕に顔を──」


エリカ『あーーーーーー! あーーーーーー! ああーーーーーーーー!!!!!!』

エリカ(なんてことを! 私はなんてことを!!!!! 師範の指先におけけを触れさせて、その上、師範の顔に──おならを──!!!!)

エリカ『むぁああああああああーーーーーーーーーー!!!』


しほ「……気がすむまで叫びなさい。まったく……大げさな……」


エリカ(大げさでもなんでも、ありませんよ!!!)

エリカ『ぶあぁああああああーーーー!!』

面白い
タイトルからお下品ギャグみたいなのかと思ったら当人達は真剣そのものでこれはいい

もしちがっていたら申し訳ないが以前戦車乗りが妊娠する話を書いてた人だろうか?
あの時もタイトルと中身の乖離っぷりに驚いたものだが

>>47
恥ずかしながら、その通りです。

エリカ『うぅあおぉ……』

しほ「いい加減に落ち着きなさい。……それにしても、裸だと、少し寒いわね」

エリカ「むぁ……寒いですか……服、着ます……?」

しほ「ふむ……私は、あなたの屁の匂いを嗅ぐために裸になったのかしらね」

エリカ『ぐぎぃ……』

しほ「違うというのなら、まだ服を着る時ではないわね」

エリカ「……ですが、師範が体調を崩されては」

しほ「では、布団をかぶりましょう」

エリカ「え」

エリカ(布団をかぶるのはいいけれど……この部屋の布団、『二人部屋』のはずなのに、備え付けてあるのは一枚だけ……大き目敷布団と軍隊毛布が一式……山小屋って、どこもこうなのかしら……)

しほ「貴方も入りなさい。貴方こそ、風邪をひかれては困る」

エリカ「あ……は、はい……」

エリカ(……うう、師範と同じ布団、しかも、裸同士で……)


 ごそごそ……。


エリカ(ほとんど肩が触れ合う距離で……緊張する……)

しほ「まさか、裸同士で、寝るとはね」

エリカ(……っ……)

しほ「……こんな事をしたのは貴方が初めてでしょう──主人以外の相手には、ね」



エリカ(……あ……。)



エリカ(……。)



エリカ(……旦那さんも……──師範のお尻の穴……見たのかな)

エリカ(……。)

エリカ(夫婦なら、そういうことも、あるのかな。……でも、『そういうこと』をするにしても……お尻の穴なんて見るものなのかしら)

エリカ(……。)

エリカ(まぁ、とにかく……『師範のお尻の穴を見たのは世界で私一人』──だなんて……それこそ、思い上がりか)



エリカ(……………………………………………………。)

エリカ(……っ、ええい、逸見エリカ! くだらない感傷で時間を無駄にするなて、師範にも言われた!!)

エリカ「あはは……師範、いきなりそんな生々しい事を言わないでください。どう反応をすればいいのか、分かりません」

しほ「ん……そうね、そうだったかもしれない」

エリカ「そうですよ……あの、そう言えば、御主人とはお見合いで……?」

しほ「……。」

エリカ(あ、……さすがに、ふみこみすぎたかしら……)

しほ「──それは、私が恋愛結婚をするようには見えない、という意味?」

エリカ「へ!?」

エリカ「い、いえ……! そうではなくて! 師範は西住流のご令嬢だったわけですから……やっぱりそうなのかなって……」

しほ「……私と主人は恋愛結婚です。私から交際を申し込んだ」

エリカ「……!!! そう、なんですか……」

しほ「そうよ」

エリカ「……。」

エリカ「あの、私……自分が恋愛とかできる気、少しもしなくて」

しほ「そう?」

エリカ「それで、師範は私以上に戦車道に打ち込まれてる方ですから……なんとなく、師範もそうだったらいいなって、変な願望があったみたいです……正直に言えば、……なんていうかお見合いであってほしかったっていうか……」

しほ「ふぅん……? まぁ、私の場合は跡継ぎを産む事はどのみち義務であったわね。たしかに、私は西住流の長女なのだから」

エリカ「義務……ですか」

しほ「ええ。大学を卒業した後はどのみち見合いをさせられていたでしょう。私の母はそうだったようにね。……主人にアプローチをしたのは──母への精一杯の反抗だったのかもしれないわね」

エリカ「……。」

エリカ(反抗?)

エリカ(……師範にも……いろいろな過去があったのかしらね……そうね、人間だもの……)

しほ「主人はもともと顔見知りだったし──それに、ちゃんと尊敬できる人でもあった。私にとっては、恋愛をする唯一のチャンスだったでしょう。だから、容赦なく、どんどん積極的に交際を求めたわ」

エリカ「……さすが、西住流です」

しほ「まぁ……関係を急いてばかりの私は、男の人には、きっと、鬱陶しいところが多々あったでしょう。けれどあの人は、最終的にそれらすべてきちんと受け止めてくれた……」

エリカ(……。)

エリカ(この一年間、そして今日一日、ずっと師範と一緒にいた私だから分かる。師範の声の、微妙なほてり……。……やっと少しは、師範に近づけたのかと思ったけど……)

エリカ(……結局私は、他人なのよね。……ふん、当たり前でしょ。馬鹿ね──)

しほ「──それで?」

エリカ「え……」

しほ「今度はあなたが話をする番」

しほ「『私の娘になりたい』などと、貴方はどうして、そんなおかしな事を言ったの?」

エリカ「あ……」

エリカ「それは──その……」

エリカ(……っ、!)

エリカ「えと……」

エリカ(う、うああ、何これ、──今更になって……!!! すごく恥ずかしい……!!!)

エリカ(私はいったい、何を思いあがっていたんだろう!?)

 ばっ……!

しほ「……エリカ。布団に顔を引っ込めてないで、きちんと説明をなさい」

エリカ「わ、わかっています……いるのですがっ……」

エリカ(……ああああああっ……)

エリカ(師範と二人きりで長野に旅行へ来て、結構楽しく一緒に登山も出来て──結構いい感じに、関係を構築できてるんじゃないかと思った。だから今日なら! 今日なら無茶なお願いも聞いてもらえるかも──っって、あほか! 馬鹿か!! 何を思いあがってんのよおっ!!)

しほ「……。」

しほ「ねぇ、エリカ。少し、マジメな話をしておくけれど──」

エリカ「え……は、はい?」

しほ「キチンと説明をするまで、私は貴方を、寝かすつもりはありません」

エリカ「へっ」

しほ「私には貴方を監督する責任がある」

エリカ「責任……」

しほ「さっきもいったけど──黒森峰の隊長という立場を軽く考えてもらっては困る。貴方の精神状態を把握しておくことも、私の責務の一つです。だから、仮に貴方が錯乱しているのなら、えらいことです」

エリカ「……そ、そうですね……。」



エリカ(……。)

エリカ(私の、個人的なバカさ加減で、師範にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないわ……)

エリカ(……すぅ、はぁ……)

エリカ「……師範、取り乱して、申し訳ありませんでした」


しほ「ん」


エリカ「私の話は……やっぱり、みほと、関係する話になります」

しほ「そうですか」



エリカ(……)

エリカ(話し終わった後……やっぱり師範には、『情けない奴』と、思われるのかしらね──)




エリカ「──みほ、3年になってすぐ、あっさりと隊長を辞めたじゃないですか」

しほ「ええ、そうだったわね」

エリカ「隊長役は後輩にゆだねて、自身は副隊長として指導役に徹して──」

エリカ「師範は、それを、どう思いましたか……?」

しほ「私は、もうあまり、深くは考えなかった」

エリカ「そうなんですか?」

しほ「今更もう、口出しをしてもしかたがないわ」

エリカ(……口出しはしない、か……どういう意味なのか、もう少し深く聞いてはみたいけれど……止めておこう。今は、本題ではないもの)

しほ「まほは、『あれが、みほの見つけた戦車道なのですよ』と、分かったような事を言っていたわね」

エリカ「あぁ……私にも、似たような事を話してくれましたね……まほさんは、みほの話をするとき、以前にもまして嬉しそうです」

しほ「で、貴方は? 貴方はどう感じたの?」

エリカ「私は……」

エリカ「私は──やっぱり、腹が立ちました」

しほ「そうでしょうね」

エリカ「大会であの子を打ち負かしてやると決めていたのに。あの子は、二年生に隊長の座を譲って……」

しほ「今年度の大洗の隊長──『澤梓』。まずまず、頑張っていたわね」

エリカ「そうですね。特別に秀でた所はありませんが──指揮能力も根性はあるし、負けん気も鬱陶しいくらいで──……そう考えると、なんだか、みほよりもよほど西住流らしかった」

しほ「必死に、貴方とはりあおうとしていたようね」

エリカ「ええ」

しほ「ん、話しがそれたかしら?」

エリカ「あ、そうですね。……みほは──自分は指導役に徹して……。まるで、私との対決なんかどうでもいいんだと、馬鹿にされているように感じました」

しほ「……。」

エリカ「ですが結局、大洗は今年も決勝まで勝ち上がってきました。それで私、決勝に勝った後、みほに勝ち誇ってやろうと思ったんです。『アンタの戦車道は、結局、西住流には勝てなかったわね』って」

しほ「あまり褒められた姿勢ではありませんが──で?」

エリカ「……大洗の連中のところへ行くと──梓や、他のメンバーは、悔しそうにしていたり、悔し泣きしていた子もいました。だけど、みほは──きっと、師範も見ていたのではないですか。」

しほ「……まぁ、ね……」

エリカ「……みほは笑ってましたよね。優勝を逃したことなんか、少しも気にしていない様子で……」

しほ「……ええ」

エリカ「メンバーひとりひとりに、『よくやったね』『惜しかったね』『どこが悪かったか、みんなで一緒に考えようね』とか──」

エリカ「まるで、ただの練習試合かなにかの後みたいに……」

エリカ「私が来たことになんか、少しも気付かず」

しほ「……。」

エリカ「しばらくして、みほはようやく私に気がついて──駆け寄ってきて、ニコニコ笑いながら『さすがはエリカさんだね。すごいね』って……」

しほ「……。」

エリカ「私、なんだか……力が抜けて」

しほ「どうして?」

エリカ「……。」

エリカ「結局私は、中学のころからずっと、みほと──西住流の西住みほと、張り合ってきたんです」

エリカ「だから今年は、ようやくあの子と、対等になって戦えると──それが、とても誇らしくて──」

エリカ「……それだけじゃなくて、この先もずっと、あの子に、勝ち続けたかった」


エリカ(……………………あれ……?)


エリカ「なのに、あの子、いつのまにか違う道を進みだしていて──」


 ──何も考えていないのに、言葉が──ひとりでに──口から……


エリカ「負けた癖にニコニコ笑ってるあの子をみて──ああ、この子は本当にもう、西住流じゃないんだって……」


エリカ「そう考えたら、私──」


 ──あぁ……


エリカ「──これから私は──どんな風に西住流を何を目指せばいいんだろうって──」


 ──なるほどこれが私の──


エリカ「……。師範、私は、師範のために、西住流のために、これからはまほさんと競います。人生をかけて、真剣に後継者を目指します」


エリカ「だから、どうかお願いです」


エリカ「私を、まほさんと対等にしてください、……師範の娘にしてください。……私、今……とても寂しいんです……」


 ──………………これが私の……肛門の奥………………──


エリカ(──バカねぇ……せっかく自分の課題を見つけられたはずなのに……何勝手に一人で、感情的になってんのよ……師範にこんな……汚いモノばかり見せて……)




しほ「………………………………。」

原作での出番に反比例してなぜか薄い本の多い師範

>>48
やっぱりそうだったのか
いつも楽しませてもらってるわありがとう

>>50について、修正

<しほ「ふぅん……? まぁ、私の場合は跡継ぎを産む事はどのみち義務であったわね。たしかに、私は西住流の長女なのだから」 >
から以降の全行を下記の通りに書き直し。(日本語(特にしほの)があまりにアレだったので)
まとめていただけるようでしたら、まとめサイト様、置き換え願います。


<以下:修正後の内容>

しほ「ふぅん……? まぁ、私の場合、子どもを産む事は義務でもあった」

エリカ「義務……ですか」

しほ「ええ。貴方の言う通り、私はたしかに西住家の長女。大学を卒業した後は見合いをさせられていたでしょう。私の母が、そうだったように」

エリカ「……家を、背負う……ということですか」

しほ「そういう事です。……ただ、それでも……今考えてみると──主人にアプローチをしたのは、私の、精一杯の反抗だったのかもね。……彼女に対しての……」

エリカ「え……」

しほ「……。」

エリカ(……反抗……)

エリカ(……師範にも……きっと、色々な事情があるのよね……)

しほ「……主人はもともと顔見知りの人だったし、何より、私にとってちゃんと尊敬できる男性だった。だから、私が恋愛を試みる唯一のチャンスだったでしょうね。『この人』と決めて……積極的に交際を求めた。後が無いもの」

エリカ「なんだか、師範らしいです」

しほ「……関係を急いてばかりの私は、あの人にはきっと、鬱陶しくも感じられたでしょう。それでもあの人は……最終的に、全ての重みを、きちんと受け止めてくれた……」

エリカ(……あ……師範、今……)

エリカ(……。)

エリカ「羨ましいです、師範も、御主人も」

エリカ(……この一年間、そして今日一日、ずっと師範と一緒にいた私だから分かる。師範の声にこもった、かすかな火照り)

エリカ(……。嫉妬しちゃうわね。……やっと少しは、師範に近づけたのかと思ったけど……)

エリカ(私なんか、全然だわ)

エリカ(結局私は、師範にとては他人でしかない。……ふん、当たり前でしょ……馬鹿ね──)

しほ「──それで?」

エリカ「あ、え……?」

しほ「今度はあなたの番。私の質問に、ありのままに答えなさい」

エリカ「は、はい」

エリカ(……『ありのまま』……そうか、師範は……私のぶしつけな質問に、真摯に答えてくれたんだ……)

しほ「では、改めて尋ねます。……『私の娘になりたい』などと、貴方はどうして、そんなおかしな事を言ったの?」

エリカ「……っ、はい、それは、つまり、その……」

エリカ「えと……」

エリカ「……っ!」

しほ「?」

エリカ(う、うああ、何これ、──今更になって……!!! すごく恥ずかしい……!!! 私も真剣に答えなきゃけないのに!!)

エリカ(でもでも──私はいったい、何を思いあがっていたんだろう!?)

エリカ(師範と二人きりで長野へ来て、思ったよりずっと楽しく一緒に登山も出来て──結構いい感じに、関係を構築できてるんじゃないかと思った。だから今日なら! 今日なら無茶なお願いも聞いてもらえるかも──っって、あほか! 馬鹿か!! 何を思いあがってんのよおっ!!)


 ばっ……!


しほ「……エリカ。布団に顔を引っ込めてないで、きちんと説明をなさい」

エリカ「わ、わかっています……いるのですがっ……」


エリカ(うううううううっ……!)

<以上:修正終わり>

しほ「──エリカ。貴方の心情はおおよそ理解した」

しほ「それをふまえた上で──家元として、貴方に告げる」

エリカ「……。」

しほ「貴方が西住流の養子になる──そんな事は起こりえません。絶対に」



エリカ(────……あぁ……。)



 ──……。



しほ「そんな事をすれば家督争いの種になる。少し考えれば明らかな事でしょう」

しほ「そも、貴方のご両親に対して私はいったいどのようにご説明を?」

しほ「ともかく──貴方が現状のままではどうしても戦車道を続けられないというのなら──」

しほ「──いいわ、戦車道を止めてくれて結構です」

しほ「あるいは、西住流から去ってもらう。その時は、未練が残らないようこの私が直々に、貴方の破門を言い渡します」



エリカ「……破門、ですか……。」

しほ「貴方の思い付きは──西住流にとって。有害です」

エリカ(……っ)

エリカ(ほんと……この人の言葉は、相手を暗闇の底に突き落とす……容赦なく、徹底的に、弱いところをついて……)

エリカ(……。)

エリカ(みほも、こんな風な言葉を浴びせかけられたのかしらね)

エリカ(だとしたら……少し、腹が立つ)

エリカ(どうして貴方は、こういう言い方しかできないのですか)

エリカ(もっと他に、いくらでも言いようがあるでしょうが……)

エリカ(……。まぁ、でも、関係ない、……私は──)



エリカ(──負けて、たまるものですか……!!!)



エリカ「……師範、ご心配はありません」

しほ「……」

エリカ「私は、今日一日……師範のおかげで……自分の甘さを自覚することができましった。だから、大丈夫です。本当に、こんな機会を設けていただけて、感謝をしています」

しほ「……。そうですか。なら、いい」

エリカ「……はい……。」

エリカ「……。」

エリカ(良い、一日だった、そうでしょう?)

エリカ(西住流の家元に……私の汚いところを見てもらえた。そのうえで、きちんと判断を明らかにしていただけた。……光栄なことよ……)


エリカ(……けれど……)


エリカ(この胸の奥の重さ、ずんとくる痛み)

エリカ(これ……いつか、ちゃんと消えるのかな……明日の朝目が覚めれば、消えているのかな……)


エリカ(……みほ……また、アンタみたいに私もちゃんと──)


エリカ(心から笑って、戦車道をできるかしらね──)



 ──……。



エリカ(──……下山をしてから考えよう。師範と別れて、一人になってから、たっぷりと感傷に浸ればいい。)


エリカ(今は──師範と一緒にいるのだから。何か、師範と、話をしないと。)


エリカ(一門下生としては……それが礼儀)


エリカ(目上の人には……失礼のないように、しなくではね)


エリカ(……。)


エリカ(……でも何を、話せばいいのかしらね)


エリカ(この人は……私が頑張っている限り、私を評価してくれるでしょう)


エリカ(戦車道を頑張ってさえいれば、私は、それでいいんだわ)


エリカ(……だったらもう……)


エリカ(……別に……)


エリカ(この人と素っ裸になってまで……話すような事はもう……何も──)






しほ「………………………………。んっ」


 つまッ!


エリカ「ぷぇツ!?」





しほ「……。」

エリカ「……。」




エリカ(は?)

エリカ(……え? へ? 師範が──私の唇をつまんでる)




しほ「エリカ」

エリカ「ぷぇ……?」

しほ「隊長ともあろうものが、人前で、メソメソと涙を流すものではありません」




エリカ「──!?」

エリカ「ぷおぁっ、な────泣いてません!」



 バフッ!!!



エリカ(この私が、こんなことで、泣くはずない! こんなことで──)


 ごしっ……


エリカ(げっ……なんか勝手に涙でてる!? うそ……!? ……っ、っもぉぉおぉ何やってんのよぉ私ぃ……!!)

エリカ(ああもう、ホントに情けないったら……!)



しほ「エリカ」 ぐいっ



エリカ「!?」

エリカ(え、師範が、毛布をはがそうと──)

エリカ「ちょ……待って! 止めてくださいっ、今は、駄目ですっ」

しほ「いいから。顔を出しなさい……命令よ」

エリカ(……っ!)

エリカ「ぐ……」


 ……ぱっ

 ……ファサァ……



エリカ(っ、見られ、たくない! きっと無様に充血してる、こんな情けない顔……!)



しほ「……。」



 ……つまッ



エリカ「ぷぇぁっ!?」

エリカ(また、唇を! もう! この人は何がしたいのよ!?)




しほ「……。」



しほ「……もし日本戦車道の西住流家元がカーネギーの『人を動かす』を読んだら──」

エリカ(……?)

エリカ(……ケンタッキー……?)



しほ「……まぁ、別に、何も変わりはしない」

しほ「私はこれまでの自分を後悔してはいないし、現状に不満を感じてもいない」

しほ「……ただ──」



エリカ(? 独り言……?)



しほ「もしもあの時、あの子に、──もう少し違う言葉をかけてあげられていたとしたら。……。」



エリカ(……???)



しほ「……。……エリカ」

エリカ「ヴぇ、 ぷひ?」

しほ「貴方の人格と自尊心にとって戦車道が重要なアイデンティティであるという事、そしてまた、戦車道を努めるにあたりみほとの存在が良きにつけ悪しきにつけ重要な要素になっていたという事、それはおおよそ理解ができた。」

エリカ(……!?)

しほ「そのみほの存在圧が急に消えてしまって、貴方は今なんとなく気落ちをしている。分からなくはないけれど、そんなことはよくある話です。戦車道に限ったことでもない。競技者には起こって当たり前の出来事」

エリカ(……う……)

しほ「だから、グダグダ言っていないで、さっさと次の目標を探しなさい。ただし、現実的な、ね」

エリカ(な、なによ、ポンポンポンポン──!)

しほ「伝わった? 私の言っていることは納得できる?」

エリカ「……ぷ、ぷい……」コクコク

しほ「そうですか、ならいい」

エリカ「……。」



エリカ(……!? !? !!??)

エリカ(なんだったのよ、今の……!)



 ……くにくに

エリカ(あ……? 師範の指が私の唇を……こねこね……。)

エリカ(あ、これ……すごく気持ちいい……)

しほ「ともかく、エリカ」

エリカ「ぷぁ……?」

しほ「貴方はまだ──戦車道の経験が、浅い」

エリカ「ぺ……!?」

エリカ(経験が……浅い……!?)

エリカ(生涯の半分以上を──思春期と青春のその全てを戦車道にささげたこの私の経験が……浅い……!?)

しほ「不服そうな顔ね。けれど──たかだか十数年。実績にしろ、経験にしろ、貴方より上は大勢いる。それは紛れもない事実でしょう?」

エリカ(……! あぁ──そうか、師範はもっと高い視点から、しかも、相対的ではない絶対的な基準で──)

しほ「貴方はまだまだ井の中の蛙。だから──これからも頑張りなさい。いつか私を、追い越せるくらいに」



エリカ「──!!!」

エリカ(……師範……)

エリカ(……。)

エリカ(──私は……師範が何を言わんとしているのかを……完全には理解できていないと思う──)

エリカ(……ただ、それでも……)

エリカ(師範は今──真心から……私を……!)


 
 ──ぴるんっ!



エリカ(あっ……師範の、指が……)

エリカ(──もっと……私をつまんでいてほしかった──)

エリカ(……っ)



エリカ「……師範、えと……」

エリカ「あ……ありがとうございます。私……頑張ります」

しほ「……。よろしい」


しほ「……ふぅ……」


エリカ(……よく、分からないけど……でも……。……このよく分からない時間に、もっと続いていてほしいと思う……)


エリカ「……あの、師範……」

しほ「?」

エリカ「今日は一緒に、このまま……寝て頂けますか」

しほ「……。」

エリカ(服を着てしまったら……なんだか、夢が覚めてしまうような気がする……)

しほ「……まぁ、いいでしょう。……しっかりと、風邪を引かないように布団をかぶりなさい」

エリカ「……はい……!」






 ──……。

エリカ(電気を消して、暗くなった部屋……)

エリカ(……町の音は何も聞こえない。ここれは上空2400メートルの山の上……)

エリカ(時々聞こえるのは、師範の吐息だけ……)

エリカ(こうやって、師範と裸で、狭い部屋で一緒に……)

エリカ(……あぁ……本当に……いい一日──)










 ──……。



 ──この後に起こった一連の出来事は、いったい、夢なのか現実なのか。それを確かめる勇気は、私にはない。もしも夢だったのなら、私は自分の正気を疑うし、万が一、もしもこれが現実だったのなら、私はとんでもない不誠実に師範を巻き込んでしまったことになる。ならいっそ、何もかもを、曖昧なままにしておけばいいんじゃないの。そう考えてしまう私は、あまりに自分勝手なのかしら──

次回の投稿で終わりです。

しほ「──エリカ、さっきは悪いことをしたわね」

エリカ「んぅ……?」

エリカ(ぁ……半分、寝てた。一日登山をして、なんだかんだで疲れてたのかしら……)

しほ「あぁごめんなさい、もう眠っていた?」

エリカ「あ、いえ……大丈夫ですよ」

しほ「そう」

エリカ(こんな風に、裸で枕を並べる機会なんて二度とないかもしれない。もったいない……)

しほ「先ほど……もう大丈夫だと貴方は言うのに、私は強引に説明をもとめて、結果、貴方を感情的にさせてしまった」

エリカ「いえ、それは私が勝手に……」

しほ「そのうえ、こちらから説明を強要しておきながら、私は偉そうに『有害だ』『破門だ』などと……立場上、はっきりとそう告げなければならなかったとは言え……思い返すと、申し訳ないわね」

エリカ(まぁ、それは確かに、少し腹がたったけれど……)

しほ「水に流して、西住流を続けてほしい」

エリカ「それはもちろん、これからもよろしくお願いします」

しほ「そう、よかった」

エリカ「はい」

エリカ(……。)

エリカ(師範とお話ししていると、時々二面性を感じることがある。……私はむしろそのギャップが好きなんだけれど……)

エリカ「……あの、師範、こんな事をあえて聞くのは、失礼ではあると思うのですが……でも、どうしても聞いておきたくて……」

しほ「ん?」

エリカ「私を娘にしてくださいと食堂で伝えた時、師範は『少し嬉しかった』とおっしゃいました。……どうして嬉しいと感じてくださったんでしょう……」

エリカ(その後で、私の思い付きは有害だと、そう言ったくせに)

しほ「……。」

しほ「それについてはもう、説明はしたはずだけれど」

エリカ「え……」

エリカ(説明、してもらったっけ……?)

エリカ(……。)

エリカ(……あ)


 ──私のような不寛容な人間の……母親としてはとても水準にみたない人間の……娘になりたいなどと──


エリカ(……)

エリカ(──うーん……)

エリカ(……まぁ、言葉が不十分なところも──師範らしいけれど)



 ──私のような……母親としてはとても水準にみたない人間──

 ──私はこれまでの自分を後悔してはいないし、現状に不満を感じてもいない──

 ──あの子に、──もう少し違う言葉をかけてあげられていたとしたら──



エリカ(…………え?)

エリカ(さっきは、自分の事で一杯いっぱいで気がつかなかったけれど──)

エリカ(……それって……。)

エリカ「……あの、師範」

しほ「ん?」

エリカ「師範は、もしかして、みほとの事……少し後悔をしています……?」

エリカ(……あ、また……いくら裸で向かい合ってるからって、……遠慮がなさ過ぎたかしら──)



しほ「…………………。」



エリカ(……えっ)

エリカ(否定、しない……?)


しほ「……。」


エリカ(……うそ……)

エリカ(どうしよう……和式トイレのドアを開けて、うっかり師範のうんちしてる背中をうっかり見ちゃったような──そんな気分……)

エリカ(目の、やり場が)

エリカ(……。)

エリカ(だけど、師範の顔は、やっぱり綺麗……お尻だけじゃなくて、顔面まで、マネキンみたい……。)

エリカ(少し物憂げな表情に見えるのは、横たわって筋肉が弛緩しているからなのかしら──)



しほ「──エリカ」

エリカ「! は、はい……?」

しほ「この部屋で、共に裸でこうして床を共にしているその意味、貴方は理解しているでしょうね」

エリカ「……え、と……」

しほ「旅の一夜の秘め事──朝になれば、お互いすべて忘れましょう、そういうことです」

エリカ「……はい……」




エリカ(……明日になれば、お互い、すべてわすれる……一夜の、秘め事……。)

エリカ(……なんだか、ドキドキする……)

エリカ(私と師範は……忘れなければならないようなことを……するの?)



しほ「……。」

しほ「……言葉はなくとも、自分の気持ちを分かってくれる」

エリカ「え……」

しほ「そんな相手が──いるのではないかと、子どもじみた夢を見たことがある。」

エリカ「……。」


エリカ(──明日になれば、すべて忘れる──)


エリカ「──それは、師範が、ですか?」

しほ「そうです。私が22歳の頃。」

エリカ「……結構、大人になってからですね。」

しほ「……。」

エリカ「あ……その相手というのは、ご主人、ですか」

しほ「……いいえ、違う。」

エリカ「では……」

しほ「……。」

しほ「……私の乳房に、懸命に吸い付くあの子達──」


エリカ(──! みほ……)


エリカ「……。自分の子どもなら、何も言わなくても全部わかってくれる、……という事ですか」

しほ「……。」

エリカ「……っ、あの師範、生意気を言う事、お許しください。」

しほ「……ええ」

エリカ「現役の一娘としては、やっぱり、……言葉にしてもらわなきゃ、わからないです……」

しほ「……。」

しほ「私は──」

しほ「私に課せられた諸々の責任を、あの子にどう理解してもらえばよかったのかが、よくわからない」

エリカ「諸々の責任……」

しほ「私はその伝え方を、もっと真剣に考えるべきだったかもしれない。」

エリカ「……。」

しほ「けれど私という人間には、どうしても、それを深く考えるだけの寛容さが無い。それを育むだけの余裕が、私には──無いのよ」




エリカ(……。)

エリカ(やっと、少しだけわかったような気がする──なぜ師範が、私と一緒に、この部屋で裸になってくれたのか──)

エリカ(……。)

エリカ(私って本当に……察しが悪いんだわ。今日、こんなにも師範の肛門を見ていたはずなのに)



 ──私に似ている、と言ったのよ──

 ──少しだけ、嬉しかった──


エリカ(……師範……)


エリカ「……一言だけでも、褒めてあげれば、変わるのではないでしょうか……よくやっているって」

しほ「それはまほがやってくれている。私があの子に示すべきは、家元としての威厳であって──」

エリカ「……。」

エリカ(……面倒な人……。)

エリカ(だけど私だって……あの子に──梓に──言われたことがある)

梓『沙織先輩なら、みほ先輩とケンカをしても三秒で仲直りできます。だけどエリカさんは半年以上もかかる』

エリカ、(……。)

エリカ(いいお母さんになれなかった分、この人は必死に、家元であろうとして……?)

エリカ(ううん、家元であろうとしたから、いいお母さんにはなれなかった……?)

エリカ(私の勝手な想像かもしれない……だけど、もし、少しでもそういう面があるのなら……)

エリカ(私……この人のそういう不器用な所……みほには悪いけど、すごく……)


 ……ぞくっ……


エリカ(……興奮する……)

 ……ぶるるるっ……



エリカ(私、この人の事──お母さんにしてあげたい──)



エリカ(……!)



 ……ぶるぶるぞくぞくっ……



エリカ(そうか、『私のために、私を娘にしてもらう』のではなく……)

エリカ(『師範の為に、師範をお母さんにしてあげる』……!)

エリカ(……私になら、私だったら……師範が望む在り方で、師範をお母さんにしてあげられる……!!)


 ぞわぁっ……


エリカ(っ……、背筋が……!)



 ──一夜の秘め事── 

 ──明日になれば、お互いすべてを忘れる──!



エリカ(体が……熱い……!)

エリカ(もう……我慢できない……!)


 ごそ……


しほ「……? エリカ、何を──」

エリカ(……師範……朝になれば忘れると──師範が、そう言ってくれたんです──)


 ……ぎうゅっ


しほ「え──」


エリカ(どうか、師範のオッパイを──)

エリカ(私に、ください──!)


 ──ちゅうううううう!!!!


しほ「あっ……!? ちょっと貴方一体──」


 ──きゅむ、きゅむ、きゅむっ……!


しほ「ん、くっ……!?」

エリカ(……っ、これがっ、師範のっオッパイ──すごく、柔らかくて、暖かくて……て、っあれ!?)

エリカ(……無い!? 師範のおっぱい、乳首が無い──!?)

エリカ(──あ! そうか! 『陥没乳首』────!)

エリカ(じゃあっ、こっちなら……!)


 ……ちゅぽんっ……ちゅ、ちゅうううううう!!!


しほ「……こらっ……ちょっと本当に、離れな、さい……んっ……」

エリカ(……あった! こっちはちゃんと乳首が──ある!)

エリカ(柔らかくてグニグニしてて……こんな感触……今まで、知らない……!)

しほ「エリカっ、いい加減にっ……、こんな事をして許されると──」

 ぐいっ

エリカ「ぐ……!!」

エリカ(……離されるな! 私のほうが、若いんだ、力は……強いんだ……!)


 ぎゅうううう!!!


しほ「ぐっ……!?」

エリカ「ちゅぷぁ……お母……様!」

しほ「な──」

エリカ「お母様……お母様!」

 ちゅううううううう!!!

しほ「────っ……」

 ……ぶるっ……

エリカ(──今、師範の身体……震えた……!?)

しほ「この……馬鹿、者っ……何を考えて……っ」

エリカ(あ……抵抗する力が、少し、弱く──)

しほ「……はぁ……ぁ……」

エリカ(! 師範の吐息が……震えて────)



 ──『薬莢、捨てるとこ』──



エリカ(──!)

エリカ(──梓が得意げに自慢してきた武勇伝──格上の相手をいかに倒すか──)

エリカ(そうか、これが──)

エリカ(──師範の、薬莢、捨てるとこ──!)


しほ「エリカ……あなたいったい、……何を考えているの……」

エリカ「……っ」

エリカ「ちゅぷぁ……師範、もう、謝っても許してはいただけないかもしれませんが──」

しほ「……覚悟、しておきなさい……」

エリカ「……っ、どうか今晩だけは……私のお母様でいてください……」

しほ「……あなた、まだそんな事を……」

エリカ「師範が戦車道の家元だからではありません」

しほ「……。」

エリカ「師範のような人に、私の母親であってほしいと思うからです……っ、今日、お話しを聞いて、より強く、そう思ったんです……」

しほ「……っ」

しほ「……。」

エリカ「……師範……おっぱい……吸いますね……」



 ……ちゅ、ぅぅ……きゅむ、きゅむ……



エリカ(……抵抗が……こない……?)



しほ「……。」

しほ「……ふざけないで」

エリカ(……!)


エリカ(……っ、何を言われても、今晩だけは……離れないわ……っ)


しほ「……その程度の力では──おっぱいは出ない……」


エリカ(──え……?)


しほ「オッパイというのは──」

しほ「生きたい」

しほ「成長をしたい」

しほ「大きくなりたい」

しほ「──そういう決心で、全身全力で私の命を吸って──ようやく、得られるものなの」

エリカ「……師範……」

エリカ(……。)


エリカ(……。)

エリカ(……っ)

エリカ(そうだ──)

エリカ(……全力で……吸わなきゃ……師範に、失礼だ……!!)


 ……──ぎゅむぅっ、ぎゅむぅっ、ぎゅむっ……!


しほ「……んっ……」

エリカ(……はぁ、あ、……師範、師範……師範……っ)


エリカ「……ちゅぷぁ、師範……!」

エリカ「私、師範の身体から生まれたかった、師範の、命の、一部から、この世に産まれたかった……っ」


しほ「……っ」


エリカ(っ……私、頭のおかしい事を言ってる、気持ち悪い事を言ってる……でも! この人に、貴方は私の理想のお母さんだって、……どうしても分かってほしい……!! この人は誰よりも厳しくて、強くて、でも、本当はちゃんと弱いところもある……けれどこの人はどうしてもその弱みを他人には見せられない……私の、理想の人……!)


エリカ「全部、私が悪いんです。ごめんなさい。ごめんなさい。夜が明けたら、もう二度と、こんなことはしません。言いません。だからどうか……今だけは……」

エリカ「私のお母さんで……いてください……」


 ……ちゅぷぁ……


しほ「……。」

エリカ(抵抗、やっぱり、無い……)

エリカ「……っ、師、範……!」


エリカ(違う!)


エリカ「──お母……さん……っ!」

しほ「……ッッ」

 ……ぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっ──





 ──────────。





 ──ぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっ、ぎゅむっ……



エリカ(──……もう、1時間は経つかな──)

エリカ(……オッパイ、でない……)

エリカ(顎、もう、疲れ切って、感覚がない……頭も、ぼやけてきた……)

エリカ(でも……止めたくない……)


エリカ(師範の味、触感、暖かさ、におい……ずっと離れたくない、ずっと感じていたい……赤ちゃんって、こんな気持ちなのかしらね……)


しほ「……。」


エリカ(師範は何にも言わずに、ずっと、私のオッパイを吸わせてくれている……)

エリカ(……お母さんに、なってもらえたのかな……)

エリカ(それとも私は……ただ我慢を強いただけ? 頭のおかしい女学生の、その頭を抱かせるという……我慢を……)

エリカ(……どっち、なのかな……。……師範の声が、聴きたい……)



しほ「……。」

しほ「……昔、思ったことがある」


エリカ(……あ、師範の、声……嬉しい……)


エリカ「んく、んく、んく……」

しほ「私の身体から生まれたこの子を、私の乳房を精一杯にほおばるこの子を──もう一度、私の体の中に戻るくらいに、だきしめてしまいたいと──そういう衝動を覚えたことが、ある」

エリカ(……。)

しほ「だけどそんな事はできない。そんな力で抱きしめたら……か弱いこの子達は苦しんでしまう。可哀想だ。……そう考えて、出来なかった……」

エリカ(……。)

エリカ「……いい、れすよ……」

エリカ(……あぁ、顎も舌も付かれはてて、力が入らない……)

エリカ「……わたしを身代わにに、してくらさい……私を、みほやまほさんの、身代わにに……娘にしてもらえるのなら、身代わにへも、なんれも」

しほ「……っ」

エリカ「それに、私はヤワじゃありあせん。どれだけきびしくされへも、めちゃくちゃにされても、わらしは……へこたれないれすから……」

しほ「……っ!!」


 ぶるるるる!


エリカ(あ、師範の身体が、震え──)


 ──ぎゅうううううううう!!!


エリカ(──!!!????)

エリカ(何、これ、力──凄──……!!!!)

エリカ(顔が、おっぱいに──息が、出来な────!!!!)


しほ「ふぅぅぅう!! ふぅううぅうう……!!!」


エリカ(……!? 師範が! 私の頭の匂い! いっぱい嗅いでる!)


しほ「はぁっ……はぁっ……はぁぁっ……!!!」


エリカ(凄く……! 興奮してもらえてる……!!! こんな師範、みたことない。師範がしたくてしたくてしかたなかったことを……私は今、させてあげられてる……!!! 嬉しい……!!!)

エリカ(……吸いたい、ほしい、この人のオッパイを……飲みたい……!!!!!)


 ──ちゅうううううううう!!


しほ「……はぁあぁっ──私の、子──私の、娘──!!!!」

 ぎゅううううう!

エリカ(──どういう意味なのだろう、師範は、誰を想っているんだろう──でも、いい、師範が悦んでくれているのなら──)

エリカ(私はもう──それでいい──)


 ──じわぁ……


エリカ(────!!!???)

エリカ(今、舌に、不思議な味が──)


 ──じわぁ……じわぁ……

エリカ(──!!)

エリカ(間違いない、出てる……出してもらえてる! 師範の、お乳──!!)

エリカ(もっと欲しい──もっと……飲みたい!!)


 ──ぎゅむぅ! ぎゅむぅ! ぎゅむぅ!

 ──じわぁ……じわぁ……じわぁ……


エリカ(あぁ──師範の命の味──おいしいかどうかは、分からない──でも……嬉しい!)

エリカ(この人の身体からつくられた、子供を生かすための液体……私、今、それを与えてもらえている──!!!)

エリカ(嬉しい、嬉しい……嬉しい……!!!!!!)

エリカ(私は、今──この人の娘──)

エリカ「……んく、んく、ちゅっ……お母、さんっ……んくっ……」

しほ「……っ、はあぁあ……はぁあぁっ……エリカ……っ」



 ──────────。


















 ──翌日・午前──

 ──長野県茅野市・八ヶ岳稜線『二十三叉峰』──



 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、


しほ「エリカ、午前のうちに、赤岳を越えるわよ」

エリカ「はいっ」


 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、


しほ「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ……」

エリカ「はっ、はっ、はっ、はっ……」

 ──ひゅうぅう


エリカ(冷たい風が心地よい。それに……青空、とてもきれい……)


しほ「気持ちいいわね」

エリカ「ええ、本当に」


エリカ(……師範、すごく満たされたような顔をしてる……)

エリカ(……よかった……)



 ──……。



エリカ(──尿意と共に目覚めた今日の朝──)

エリカ(私が目を覚ました時、師範はすでに起きていて、ウェアに着替えていた──窓の外、遠くの山並みをジッと眺めて──)

エリカ(私は師範に「おはようございます」を言って、自分も服を着て、トイレにいった──それから二人で朝食をとり、そして山小屋を出た)

エリカ(昨晩の話は……一切無かった。)

エリカ(……。)

エリカ(それでいい。一夜の夢は、もう、終わったのだもの)

エリカ(こうして、前を歩く師範のお尻を、ウェアの上からながめているだけで……今はもう、十分)


エリカ(私の心は、昨日まで比較にならないほどに晴れている。)


エリカ(明日か明後日か、私は大洗でみほに会う。)

エリカ(あの子に言ってやろう。たまには、熊本に帰ってこい。師範に、あなたのお母様に、顔をみせてやれと──)

エリカ(ついでに、少しだけお節介を言ってやろう。アンタが寛容になってあげなさい、と。あんたのお母様は、あんたやまほさんに似て……すごく、不器用なんだから──)


エリカ(段差を昇る師範のお尻を見つめながら、ぼんやりとそんな事を考える)

エリカ(──次の瞬間、突然、師範の体が大きく揺れた)




 ──ガラっ!!、





しほ「あ!?」

エリカ「!!??」


エリカ(──師範が、浮石を踏んで──)



 ぐらっ──


エリカ(師範の身体が、バランスを崩し──)


しほ「っ──!!!」

エリカ(危ない、師範が、私の方に倒れ──)

エリカ「──師範!!!」



 ──がしっ!



エリカ(……っふぅぅぅ……危なかった……。私がとっさに、両手で師範のお尻を支えて……)


エリカ「師範、大丈夫ですか」

しほ「え、ええ……はぁぁ……今のは肝が冷えた。……ありがとう。エリカは命の恩人ね」

エリカ「あはは……それは、少し大げさですよ。……多分」

しほ「急な岩場でなくてよかったけれど……でも、打ちどころが悪ければ骨折くらいはしていたかもしれない」

エリカ「……そうですね……気を付けないと。えと、師範、お尻、もう手を放しても大丈夫ですか?」

しほ「あぁ、もう大丈夫よ、ありがとう」

エリカ「はい、では──」



エリカ(──その時、私はふと気が付いた──」


エリカ「……。」


エリカ(師範のお尻を、下から突き上げるように支える私の手)

エリカ(その親指のすぐそばに──師範の肛門がある──)

エリカ(だって、私にはもう、ウェアの上からでも手にとるようにわかる……師範の──肛門の場所が──」


エリカ(──だめよ、止めなさい──)


エリカ(と、心の中で呟くのと同時──私の親指は、吸い込まれるように──)



 ……くにっ



しほ「きゃっ──!?」

エリカ「──!!」


エリカ(師範の、らしくない可愛い声が、二千数百メートルの空に広がっていく)

エリカ(師範が、振り返って、ぎろりと私を睨む。私はひっしに首を振って、違うんです、わざとじゃないんです、と、うそぶく)


しほ「……。」

エリカ(師範は不満そうな視線をぬぐい切れぬまま、けれど私を許し、そうして再び、前に向かって歩きを始める)

エリカ(青空へ向かう長い長い稜線──私は師範のお尻を目指して、一歩一歩、師範の後を追いかけていく──)

しほ「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ」

エリカ「は、は、は、は、」


エリカ(たとえ二度と口にすることが無くとも、誰にも話すことができないのだとしても──私はこの旅の出来事を一生忘れない)

エリカ(十八歳の秋──故郷からと遠くは離れた、遥か彼方の空の下)

エリカ(私は──あの人の肛門に触れた──)




ガールズ&パンツァー ~逸見肛門抄~

ありがとうございました。

肛門が見たかったのか、あるいは屁をこく姿がみたかったのか、
本当の願望はいったいどちらなのだろうかと、今だに自分の真意を図りかねています。

乙です
>>70の「身代わに」はその時の呂律をイメージしたんだろうけど、笑っちゃいけないシーンなのにクスッとなってしまった(エリカ=ワニのイメージがまだ残っているのですよ)

乙です
力作にして怪作、登場人物の選択と内容がえらくマッチしてる
共に気位が高く似たもの同士のしほとエリカが、穴があったら入りたい程の恥ずかしい経験を経て心の深奥を曝け出していく様が秀逸

何だこの言い得ぬ読了感乙
しほ本探してまうやろ!既に探したわ!

山では変わったことが起きるんだなあ

マタニティ・ウォー書いてた人か
他に過去作ってあるのかな?

ほぉうこれは面白かった
正直なところエリカの肛門目当てで開いたけど良い意味で期待を裏切られて大満足

しゅごい…
読み進めるほどに満たされて、でもどこか乾いて足らなくなっていくような…そんな心理描写と官能の絶妙な匙加減でした

乙です
>>1さんは登山好きなの?
地蔵尾根からの赤岳だけなら登ったことあるけど、硫黄岳からの岩稜って難しいの?

コメントありがとうございます。
なんだこの糞SSはっつって酷評されるか、あるいははまったく感想がつかないんじゃないか、と心配をしていたので、ほっとしました。


>>80
他の作品は、ごめんなさい、紹介するほどには面白くないです。

>>83
登山好きです。ただ、[ピザ]ってからは足が遠のいてます。

<硫黄岳~地蔵尾根の間の岩稜帯について。>
その一帯はいわゆる「横岳」と呼ばれるエリアなのですが、アップダウンが連続する険しい岩場です。
とは言え、経験の浅いジジ様ババ様も普通に通過してますので、赤岳に登れた方でしたら問題無いはずです。何かしらの登攀テクニックだとか、そういうスキルを要求されるような場所ではありません。しぽりんやエリカなら余裕です。

それとすみません、硫黄岳山荘の描写は正確ではありません。>>1は硫黄岳山荘には入ったことがありません。

食堂から景色が見えるのが間違いないのは『赤岳天望荘』と『赤岳頂上山荘』
五右衛門風呂があるのは『赤岳天望荘』です。
また、布団が一体型なのは『赤岳天望荘』の二人部屋です。三人部屋はちゃんとベッドが三つあります。というか大抵の小屋は二人部屋でもちゃんと布団が分かれてます。『天望荘』がレアケースだと思います。でも天望荘の毛布はとっても肌ざわりがいいです。しぽりんの肌くらいすべすべしてます。正直勃起します。

乙!面白かった
エリカはしほにされたこと全部やり返してるなww

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