滅亡寸前の王国があった。
魔王率いる軍勢の進撃は執拗にして苛烈であり、国の主力部隊は瞬く間に壊滅した。
もはや人々は抵抗する気力を失い、王都が落ちるのも時間の問題であった。
しかし、そんな中、一人だけ諦めていない者がいた。
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絶望しうなだれる国王に、若く美しい姫が進言する。
「お父様!」
「なんだ……? とうとう魔王軍がやってきたのか……?」
「まだ諦めてはいけないわ!」
「なにをいっておる。我が軍はなすすべなく壊滅し、戦える者はもうほとんどいない。
我々に残された道は、魔族に殺されるか、自害するか……」
「いいえ、まだ手は残されているわ! みんなで祈るのよ!」
「祈る……?」
姫は毅然とした口調でいった。
「白き衣をまとい聖剣を振るい月を操る勇者様の伝説に賭けてみるのよ!」
王国に伝わる古い伝説――
『国滅びし時、王と民は天に祈る。
祈りは通じ、白き衣をまとい聖剣を振るい月を操る勇者が降臨す。
勇者、たちまち魔を打ち払うであろう』
平和が長く続いたため、半ば忘れ去られていた伝説ではあるが、今はまさに王国存亡の時。
この伝説が現実のものとなるには絶好のシチュエーションである。
姫の勇ましさが伝染したように、王は玉座から立ち上がる。
「分かった……あの伝説に賭けてみよう。生き残ってる者たちを集めるのだ!」
国王と姫をはじめ、生き残った人々は天に祈った。
「天よ! 神よ! どうか勇者様を降臨させたまえ! 王国を救い給え!」
祈りは不眠不休で三日三晩行われた。
もう魔王軍は目と鼻の先に迫っている。
やはり伝説は伝説に過ぎなかったのか、と誰もが思ったその時であった。
巨大な落雷とともに、人々の前に白き衣をまとった逞しき男が現れた。
「ここは……?」
怪訝とした表情をする男に、皆を代表して王が語りかける。
「おお、勇者様! よくぞ降臨して下さいました!
どうか……どうか我が国をお救い下さい! 魔王を倒して下さい!」
姫もそれに続く。
「私たちの国には聖剣を振るい月を操る方が、魔王を倒すという言い伝えがあるのです。
それはあなたのことなのでしょう?」
すると、男は――
「うむ、その言い伝えは私のことで間違いないようだ」
姫の言葉を肯定し、さらに詳しく事情を聞くと、
「一つの国を滅亡に追いやろうなど、私としても魔王を許してはおけぬ。
安心しろ、私が魔王を倒してやろう」
と決意を表明した。
この力強い言葉に、その場にいた全員が感激し、涙を流したのはいうまでもない。
善は急げとばかりにさっそく勇者は出陣した。
驚異的な脚力で魔王軍に肉薄すると、その鍛え抜かれた四肢で次々と魔族をなぎ倒していく。
魔族も強力な爪や牙、あるいは魔法で男を攻撃するも、それらは全て男の手足によって
迎撃されてしまった。
攻めも守りも申し分なし。
勇者という肩書きに相応しい、獅子奮迅の戦いぶりであった。
やがて勇者は、魔王軍の首領たる魔王と対峙する。
「貴様が魔王か! 私の技で叩きのめしてくれる!」
「おのれ勇者! わしの世界征服を邪魔しおって! かくなる上はわし自ら相手になってくれるわ!」
人と魔の頂上決戦が始まる。
魔王は強かった。
灼熱の炎を吐き、数々の高等呪文を使いこなし、さしもの勇者も何度も追い詰められた。
だが、勇者はさらに強かった。
勇者の打撃が幾度か魔王をとらえ、魔王がひるんだところへ、渾身の拳が叩き込まれた。
「ぐほっ……! このわしが、人間如きに……!」
魔王は激しく血を吐き、どうっと音を立てて崩れ落ちた。
残る魔族は蜘蛛の子を散らすように逃げ去り、かくして王国は救われたのである。
人々は国を挙げて勇者に感謝し、祝福した。
勇者もまた、その海よりも広い心で、人々の喜びに応えた。
姫にキスされた時には、さしもの勇者も顔がゆるんでいたのはご愛嬌。
さて、大歓声が勇者を包み込む中、すっかり勇者に惚れ込んでしまった姫が、ある質問をする。
「勇者様、一つだけよろしいかしら?」
「なんだい?」
「勇者様はみごと魔王を倒して下さったけど、結局聖剣を振るったり月を操ったりはしなかったわね。
使うまでもなかったということかしら?」
「なにをいってるんだ? 私は正拳を振るい、突きを操って魔王を倒したぞ」
そういうと、勇者は白き衣に巻かれている黒い帯をあらためて締め直した。
― 完 ―
乙
成る程
やっぱカラテ鍛えてないとダメかー
見事なカラテだと感心するがなにもおかしくないな
タツジン!
カラテは全てを超えるんだな…
聖剣も月だろ…
魔王がお辞儀中に攻撃しない紳士でよかった
空手とは武器を持たないので空手か…なるほど
おつ
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