姫「私の勇者殿!」 (37)
勇者「お早うございます」
王様「おお、勇者よ。どうかね、城の住み心地は」
勇者「はは……まだちょっと慣れないかもしれません」
王様「何、直になれるとも。これからはそれが当たり前になるのだから
勇者「だといいのですが……ところで、姫を見ませんでしたか?」
王様「姫か?いや、私はまだ今朝はあれを見てはいないが」
勇者「そうですか……いえ、部屋に行ったのですがすでにもぬけの殻で。侍女の方に聞いたら起床したとのことで」
勇者「ならと思い朝食の席に行ったがそこにもおらず、どうせなら一緒にと探しているのですが」
王様「……」
勇者「そこまで不安な顔をされずとも」
王様「いや、あれに対してのこの手の予感は残念ながら外れたことが無いのだ。おそらくそろそろ―――」
兵士1「大変だー!姫様が城の屋根のてっぺんに何故か上ってるぞー!」
兵士2「はぁ!?何でそんなとこにいるんだよ!」
兵士1「知るか!姫様だぞ!?」
兵士3「くそ、夜番終わってこれから寝るとこだったのに……!」
勇者「……」
王様「……」
勇者「……行ってまいります」
王様「……頼んだ……」
中庭
兵士3「姫は何処だ!?」
兵士4「あそこだ!あの一番上!」
兵士3「マジかよ!どうやっていったんだよあんなとこまで!!」
兵士3「知らねえよ!!姫様だぞ!?」
兵士5「城中のシーツと布団ありったけ持ってこーい!落ちそうな場所に敷き詰めろ!!」
屋根の上
姫「うむ!今日はまことによい天気だ!!」
姫「日に照らされた様はまるで我が国を祝福しているようではないか!」
姫「よきかなよきかな!今日も我が子たる国民が幸福で平和な日常を送れるますよう」
兵士6「姫様ー!」
姫「ん?……おお、どうしたのだ。皆そのように集まって」
兵士6「そりゃこっちの台詞ですって!何やってんですか!」
姫「何、朝起きたらあまりによい天気だったのでな。この中で国民が住む街を眺めたらさぞ美しいだろうと思ってな」
姫「そう思い立ちいい場所を探していたら、いつのまにやらこんな場所に」
兵士7「こんな場所に、じゃないですよ!早く降りてくださいってば!!」
姫「ふむ、そうまで言われては仕方ない。だがその前にお前たちもここに来て景色でも眺めてはどうかと」
兵士7「いーから早く!」
姫「やれやれ、皆せっかちだな」
姫「……」
姫「……ふむ」
兵士8「どうしたんですかー!早く早く!!」
姫「なぁ」
兵士7「何ですか!?」
姫「どうやって降りたらいいんだ?」
全兵士「知らんわー!!」
姫「たまに思うのだが、皆私に対して砕けすぎではないか」
兵士9「ならもうちょっと畏まらせて下さいよ!てか何で降りられないんですか!登ったんでしょ!?」
姫「いや私はいい景色が見られる場所を探していただけで、具体的にどうここまできたとか正直覚えてない」
兵士10「ほんっとにあの姫様は……!!」
兵士11「誰かあそこまで行けるか!?」
兵士12「一応他の奴が道を探してるが……ホンとどう登ったんだよっていうレベルで」
兵士13「とにかく、絶対落ちないようにしてくださいよ!足滑らせたりとか」
姫「ははは、まさかそのような真似私がするわけ」
ズルッ
姫「お?」
全兵士「わー!!」
ガシッ
勇者「……ホント、気をつけてくださいよ」
姫「おお、勇者殿ではないか。今日は実にいい天気だな」
勇者「そうですねぇ、でもその前にご飯食べませんか?」
姫「む、そういえばまだ食べていなかったな」
勇者「じゃあ一緒に食べましょう、二人のほうがおいしいですし」
姫「ああ、是非そうしよう」
兵士14「おお、勇者様だ!」
兵士15「さすが勇者様だ!いつの間にあんな場所へ」
兵士16「あの人がいてくれればもう姫様に悩まされなくてすむぞ!」
兵士17「勇者ばんざーい!次期国王ばんざーい!!」
ワーワー!!
姫「ほら勇者殿、皆があなたを讃えている。手でも振り返してはどうか」
勇者「素直に喜んでいいのか悩みどころなのですが……」
姫「何を言う、民が泣く時には共に泣き、喜ぶときには共に喜ぶ。それこそがまず国を預かるものの大前提よ」
姫「喜びも悲しみも理解できぬものに国を動かすことは出来ん」
姫「だから笑うのだ、まずはそれでいい」
勇者「……そう、ですか。分かりました、姫様」
姫「うむ。さぁ、では下に行こうか。私を降ろしてくれ」
勇者「仰せのままに、お姫様」
姫「……」
通りがかった兵士1「ん?……おい、あんなとこに姫様がいるぞ」
通りがかった兵士2「ああ、本当だ。何してるんだろうな」
通りがかった兵士1「さぁ」
姫様「……」
通りがかった兵士1「しかしまぁ……ホント、黙ってれば美人だよな、うちの姫様は」
通りがかった兵士2「聞こえるぞお前……、まぁ分かるけどさ」
通りがかった兵士1「普段はまぁいろいろ振り回されるけど……でもやっぱ美人だよなぁ、勇者殿が羨ましい」
通りがかった兵士2「そうだなぁ、とはいえ俺たちには高嶺の花だ。羨むこと自体がお門違いだぜ」
通りがかった兵士1「それは分かっちゃいるがな」
通りがかった兵士2「……と、噂をすればだ」
勇者「姫」
姫「……ああ、勇者殿か」
勇者「何をしていらっしゃるんですか」
姫「ああ、少し見ていた」
勇者「何をです?」
姫「あれを」スッ
犬1「はっはっはっは」
犬2「きゃうーん」
勇者「……」
姫「生命の営みというのは中々凄いものだな。そうは思わないか、勇者殿」
勇者「そうですね、一応同意はしておきますが……とりあえず、熱心に見るのやめませんか?」
姫「何故だ?興味があるぞ、私は。いずれ我らも通る道ではないか」
勇者「え、そういう意図で?」
姫「問題が?」
勇者「有り有りだと思いますが」
姫「根拠は?」
勇者「犬ですよ、あれ」
姫「しかし古来より男は獣のようと言うのだろう?」
姫「知識としては知っているが、やはり実戦に勝る経験は無いという。その断片でも知れればと思うのは自然ではないか」
勇者「さすがにあそこまで毛深くは無いのですが」
姫「それは私も……いやしかし私が知っているのはせいぜい湯の世話をしてくれる侍女くらいか。それもあまり熱心に比べたことは無い……」
姫「……ふむ」
勇者「辞めましょう」
姫「何をだ?」
勇者「今頭の中で考えてることをです」
姫「分かるのか?」
勇者「ええまぁ」
姫「ふふ、さすが勇者殿。私の考えてることなど手にとるようか。これは些か照れてしまうな」
勇者「あははは、大丈夫ですよ。照れるような内容じゃありませんから」
姫「そうであったな!私が勇者殿に惚れている等周知であった、これは一本とられてしまったな」
勇者「ええ、ええそうですとも。ちなみにお茶の準備が出来たとのことで呼びにきたのですが」
姫「すぐ行こう」
勇者「ではお手を」
姫「お手……成る程。犬だけに?」
勇者「もう何でもいいですから行きましょう、一刻も早く」
姫「勇者殿は私とよほど一緒にいたいと見える。安心しろ、私もそれは一緒だぞ、はっはっは!」
通りがかった兵士1・2「……」
通りがかった兵士1「見回りに戻るか……」
通りがかった兵士2「ああ……何か疲れたな……」
姫「トイレに行きたい」
勇者「……行ってくればいいのでは?」
姫「しかし、一緒にいられるのは一時間ほどでまた勇者殿は他国への用事に随伴するのだろう?」
姫「この時間もようやく作れた時間だというのに、一秒すら無駄にするのも惜しい」
勇者「だからといって……我慢できますか?」
姫「無理だな。行かなければ漏らす」
勇者「……ちなみにどちらの方で」
姫「大き
勇者「分かりましたもういいです。今すぐ行ってきましょう」
姫「しかしだな」
勇者「姫様」
姫「……勇者殿は、私と一緒にはいたくないのか?」
勇者「そんなことはありません。私だって出来るならずっと一緒にいたいです」
勇者「しかし、こんな状況では姫様も落ち着かないでしょう」
勇者「一緒にいるときに重要なのは時間の多寡ではなく、どう過ごすか」
勇者「例えそれが数秒でも互いが思いあっていると伝われば十分ではないですか」
姫「勇者殿……」
姫「そうだ、その通りだ。ふふ、勇者殿には教えられてばかりだな」
勇者「そんなことはありませんよ。私も姫に色々教えてもらいました」
姫「そうか!では行ってくる!すぐに済ませるので待っていてくれ!」
勇者「ええ、何処にも行きませんのでどうぞゆっくり落ち着いて済ませてきてください。お願いですから」
姫「何、私とて王族!緊急事態に備えすばやく用を足すことなど朝飯前よ!では!!」
姫「と、先日の私と勇者殿の絆の深さを父上に話したのだが」
勇者「話したんですかそれ」
姫「ああ、父上も泣いていたぞ。よほど感動したのだろうな」
勇者(王様……)
姫「勇者殿は、乳の大きい娘と小さい娘どちらが好きなのだ」
勇者「……好きになった人がどちらでも私はあまり気にはしませんね」
姫「魔王を倒し、世界を救った勇者ともあろうものがなんと謙虚な」
姫「もっとたわわに実らせた果実を無防備にぶら下げた女子を獣のように蹂躙するのが趣味だとか、蕾のような膨らみを咲く前に散らすのがたまらない等と言ってみてはどうか」
勇者「姫様は私に何を求めているのでしょうか」
姫「あなたがあなたであること以外、私は何も望まない。だから、我慢していることがあるのなら素直に言ってほしいと思ってな」
勇者「そのいい言葉の結果が前述の通りなら、もう少し誤解されないような言い方のほうがいいんじゃないかと」
姫「ふむ、検討しよう。で、どうなのだ」
勇者「続けるんですか?この話」
姫「私はまだ答えを聞いていない」
勇者「言いましたってば」
姫「あれは私に対しての言葉だろう。私ではなく己に問うた結果を聞いているのだ」
勇者「考えたこと無いですって、そんなの」
姫「むぅ……」
姫「よし、しばし待て」
胸の大きな侍女「……あの、何か御用でしょうか」
胸の小さな侍女「わ、私何か粗相をしてしまったでしょうか……?」
姫「さぁ」
勇者「さぁ、じゃないです。帰してあげてください」
姫「ええい、往生際の悪い」
胸の大きい侍女「あの……」
姫「ああ、勇者殿が胸は大きいほうがいいか小さいほうがいいか確かめているのだ」
胸の大きな侍女「……」
胸の小さな侍女「……え、ええええええええ!!」
姫「さぁどうなのだ勇者殿。女に恥をかかせるものではない」
勇者「恥かかせてるのはあなたですからね、ホント」
姫「ちなみにこの二人、中々の器量良しでもある。もし側室を取るならこれくらいの者を取ると良い」
勇者(リアクションに困る発言をよくもここまでぶっこんで来るなこの人は)
胸の小さな侍女「ええ!?そ、そのあの、わ、私など勇者様に好かれるような、その、そんな立派な者では、あ、ありませんので。お、恐れ多いです……」
胸の大きな侍女「……私も同じ意見です。姫様、戯れもほどほどになさって下さい」
姫「お前たちこそいい機会ではないか、二人とも勇者殿を憎からず思っているのは知っているぞ」
胸の小さな侍女「!?ひ、姫様!そ、それは……な、何でそのことを……!?で、ではなく!そそ、そんなことあるわけ無いじゃないですか!」
胸の大きな侍女「……侍女が、いずれこの国を統べるお方のことを憎く思うはずもないではありませんか」
胸の小さな侍女「そそ、そうですよ!その通りですよね!ね!!」
姫「主、勇者殿の掃除の際にベッドに潜り込んで数分過ごすのが日課であるな?」
胸の小さな侍女「!!??!?!?!?」
姫「そしてこっちは、以前勇者殿に怪我を見てもらったときに貸してもらったハンカチを汚したといって新しいものを渡し、もらったハンカチは常に肌身離さず持ち歩いている」
胸の大きな侍女「……!!」
姫「ふ、これくらい知らねば王族とは言えぬのだよ」
勇者「関係ないでしょうそれ」
姫「よし、いい機会だ!お前達思いのたけを存分にぶちまけるといい!何、嫉妬でどうにかなるほど私は安い女ではない!」
姫「何なら三人まとめて―――」
ゴッ
姫「―――」
ドサッ
勇者「あ、世話係さん」
世話係「どうも勇者殿……このたびは姫がまたご迷惑を……」
勇者「いえ私はいいんですが……」
胸の大きな侍女「……では私は仕事に戻りますので……」スッ
胸の小さな侍女「え、あ、わ、私もその……し、失礼しますー!」ピュー
世話係「後は私にお任せを……ついでに姫に関してもこちらに」
勇者「ああ、はい。……優しくしてあげて下さい、姫もあの子達にも」
世話係「ありがとうございます……勇者殿はお優しい……。姫もどうしてこう……うっ……」
スタスタ
勇者「……」
勇者「部屋に戻ろう」
姫「昨日の記憶が無いのだが……何があったか知らないかな勇者殿」
勇者「さぁ、皆目見当もつきません」
姫「ふぅ……こんなものか」
勇者「お疲れ様です」
姫「おお、勇者殿」
勇者「どうぞ、水です。汲んできたばかりなので冷たいですよ」
姫「これはありがたい……ぷはぁ、おいしいな」
勇者「しかし、見事なものですね」
姫「ああ、手入れは大変だが、その分やりがいもある」
庭師「姫様ー、こちらも終わりました」
姫「おお、ご苦労だったな」
勇者「お疲れ様です。これ、水ですのでどうぞ」
庭師「ゆ、勇者様から直々に……!はは、ありがたく……!」
勇者「あはは……」
スタスタスタ
勇者「……ん、誰か……」
姫「おや、あれは」
王妃「……」
姫「おや母上ではないか、どうかされましたか」
王妃「……何をやっているのです?」
姫「見た通りですが」
王妃「……」
勇者「……」
庭師「……で、では私はまだ仕事がありますので……」
王妃「姫ともあろうものが、土いじりなど……みっともないとは思わないのですか?」
姫「?おかしな事を言う、花でも愛でてみてはどうかと私に言ったのは母上ではないか」
王妃「私は!部屋に花の一つでも置いて女らしくしてみてはという意味で言ったのです!!」
王妃「誰が城の中庭を一面の花畑にしろと言いましたか!!」
姫「妥協するのは趣味ではないので、やるなら徹底的にやらせていただいたのだが」
姫「良いではないですか、花畑。ああちなみにこちらの花、実は食べられたりします。今日の夕食にでもいかがですか?」
王妃「……」プルプル
勇者(煽るの辞めましょうよ姫様)コソコソ
姫(煽る?今日は風は強くないが)
勇者(そういう意味ではなくですね)
王妃「何をコソコソ話しているのです!勇者!あなたもあなたです!このような真似をしているのを黙って見ているとは情けない!!」
勇者「はぁ、面目ありません」
姫「母上、私のことは私のことだ。勇者殿には関係ない。この花畑は私の結果であり、一部だ」
姫「勇者殿も今や私の一部だが……それはあくまで私の中にあるものだ。だから、言うなら私にしてくれ」
王妃「またあなたは訳の分からない……!!」
ブーン
勇者(!)
勇者「王妃様、蜂が―――」
王妃様「蜂が何ですか!」ヒュン
蜂「」ポト
勇者「oh……」
王妃「大体あなたは……」
姫「母上こそ……」
勇者(……親子)
勇者「あれはあれで、仲良いのかなぁ」
終わり
終わり、もう書き溜め分消えた
設定は気に入ってるからまた書く、かもしれない
>>35
一時間やるから切りのいいところまで書こうぜ
終わり方唐突すぎてもやもやする
>>36
元から日常のオムニバスみたいなもんだったから切りが良いとこも無いと思うで
切りがいいちゃんとした話は長くなりそうだし、悪いがこんなもんや
もっとちゃんとしたのを書く、かもしれないからまぁそういうことで
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