姫「お父様が“裸の王様”なら、私は半裸で勝負!」 (117)

< 城 >

国王「どうだ、ワシは全裸か?」

大臣「はい、みごとな全裸でございます」

大臣「もし、陛下が全裸でないというのなら」

大臣「もはや全裸という言葉は辞書から消えるしかない、というほどに全裸です」

国王「うむ……それほどにワシは全裸か」

国王「では行ってくる」ザッ…

大臣「行ってらっしゃいませ」



姫「…………」

姫(お父様は週に一回、必ず城下町を巡回する)

姫(国民の生活ぶりを自分の目でたしかめるために……)

姫(……全裸で)

< 城下町 >

国王「フンフ~ン」

国王(うむ……今日も町は活気にあふれておるな)

国王(商人や職人は生き生きと働き、女性は買い物や噂話に花を咲かせ)

国王(子供たちは元気に町を走り回っている……)

国王(こうして町を全裸で歩いていると──)

国王(国民の活気を、肌で感じることができる!)

国王(なんという快感……! なんという高揚感……!)

国王(ワシは今、とても幸福だ……)

子供「王様のおちんちん、ちっちゃ~い。ボクと同じぐらいだ!」

母「これ!」バシッ

国王「ほほう、なかなか正直な子供だ」

母「申し訳ありません!」

国王「いや、かまわぬ。その正直さに免じて……10ポイントッ!」ババッ

子供「やったぁ!」

国王「もし100ポイント溜まったら、城に来なさい」

国王「素敵な景品と交換してあげよう」

母「ありがとうございます……!」

子供「わぁ~い!」

青年(100ポイントで景品か……だったら俺も……)ニヤッ

青年「王様、おちんちん小さいですね!」

国王「むっ!」ギロッ

青年「えっ!?」ギクッ

国王「二番煎じは感心せんな……マイナス10ポイントッ!」ババッ

青年「ええっ!?」

国王「もしポイントがマイナス100ポイントになってしまったら、城に来るがいい」

国王「微妙な粗品と交換してあげよう」

青年「ははーっ! 恐れ入りましたっ!」ガバッ

< 城 >

国王「ただいま」

大臣「お帰りなさいませ、陛下」

大臣「いかがでしたか、城下町は?」

国王「なかなか活況だったぞ。この国のさらなる発展を予感させてくれた」

大臣「それはようございました」

国王「ではさっそく、この格好のままで本日の政務にとりかかる」

国王「政務室に、重臣たちを集めよ!」

大臣「ははっ!」

< 政務室 >

国王「──うむ、予算についてはこんなところであろう」

国王「なにか報告がある者はいるか?」

大臣「……陛下、隣の帝国が軍備を整えているとの情報が入っております」

大臣「新しい将軍を軍に迎えたとも……」

国王「なに?」

国王「ふう~む、我が国と帝国は現在のところ、関係は良好だが……」

大臣「しかし、帝国はつい先日、皇帝が代替わりしたので」

大臣「これを機に方針を転換する可能性もあります」

国王「ふむ、新しい皇帝はまだ若い。たしかまだ、姫と同じぐらいの年齢だったはず」

国王「権力を手にしたことで我が国に対し、野心を持ってもおかしくはないな……」

国王「分かった。警戒を怠るな、大臣!」

大臣「はっ!」

ギィィ……

姫「お父様!」

国王「おお、娘よ。いったいどうしたのだ?」

姫「質問があるの」

国王「なんでもいってごらん」

姫「お父様……お父様はなんでいつも全裸なの?」

国王「!!!」

大臣(おお……いつだったか詐欺師に騙されて以来、全裸に目覚めた陛下……)

大臣(もはや陛下の全裸に突っ込む者は私を含めいなくなっていたが)

大臣(まさか、今さら実の娘である姫様がご指摘されるとは!)

大臣(さァ……どう答える、陛下!?)

国王「…………」

国王「愚問だな……娘よ」

国王「王というのは卑屈であってもならぬし、虚勢を張ってもならぬ」

国王「ありのままでなくてはならない」

国王「ゆえに全裸なのだ!」

国王「これほどありのままなファッションは他にあるまいッ!」

姫「…………」

国王「それに、王というのはいうまでもなく非常に多忙だ」

国王「しかし、全裸であれば服を着替える必要がなくなる」

国王「その時間を国民を想う時間に回せるというわけだ」

国王「ゆえに全裸なのだ!」

国王「全裸こそ王、王こそ全裸! 全裸はキング・オブ・ファッションなのだッ!!!」

姫「ふうん……」

姫「でも恥ずかしくはないの?」

国王「全然」

姫「そんなに小さいおちんちんなのに?」

国王「娘よ、お前はここから出てきたのだぞ? むしろこれはワシの誇りだ」

姫「風邪ひくかもよ?」

国王「バカは風邪をひかぬと相場が決まっておる」

姫(たしかに……お父様は風邪をひいたことがない)

姫「お父様、全裸の素晴らしさ……よく分かったわ!」

国王「うむうむ、分かってくれたか。ワシは嬉しいぞ」

国王「去年、自分探しの旅に出た我が妻である王妃も、きっと喜んでくれるであろう」

姫「だから──」

姫「私も全裸になるわ!」

国王「ならんッ!」

姫「なぜ!?」

国王「決まっておろう……全裸の希少価値が下がるからだ!」

国王「なぜ、ダイヤモンドが高価なのか分かるか? 貴重だからだ!」

国王「なぜ、王が偉いか分かるか? 一人しかないからだ!」

国王「もしダイヤが大量にあったり、王が沢山いたりしたら、価値は大暴落だ!」

国王「もしお前まで全裸になったら、単純計算でワシの値打ちは半額になる!」

国王「全裸はワシ一人で十分! ワシ以外にいてはならんのだ!」

姫「まあ、ひどい! まるで独裁者ね!」

国王「なんとでもいうがよい!」

姫「ぐぬぅ……」ギリッ…

姫「じゃあ許してくれなくていいわ。私、勝手に脱ぐから!」シュル…

国王「遅いっ! 大臣、新たな法律を制定せよ!」

国王「“国王以外の者、公共の場で全裸になることを禁ず”とな!」

国王「な、いい考えだろう? 実にいい考えだ! よし、決定!」

大臣「はっ、制定いたしました!」バババッ

国王「ナイス!」グッ

姫「ずっ、ずるい……自分ばっかり……」グスッ

姫「お父様なんか大嫌いっ!」タタタッ



国王「……大臣、ワシは間違っているのだろうか?」

大臣(……私に聞かれても困る)

< 姫の部屋 >

姫「ただいまっ!」

執事「おやおや姫様、ずいぶんご立腹ですのう。顔に青筋が立ってますぞい」

メイド「ヒヒッ……どうされました?」

姫「聞いて、二人とも! お父様ったらひどいのよ!」

姫「私が全裸になろうとしたら、ダメだっていわれたの! ひどいでしょ!?」

執事「なんですとォ!?」

メイド「そりゃひどいですねえ……イヒヒヒ……」

姫「私、どうすればいいの!?」

執事「クレーターじゃ! この三人でクレーターを起こしましょうぞ!」

メイド「クーデターの間違いでしょ、おじいちゃん」

執事「はうっ!」

姫「じいや、クーデターは最後の手段にしておきたいわ」

姫「メイド、なにかある?」

メイド「そうですねえ……ヒヒッ」

メイド「全裸がダメなら、半裸という手もありますねえ……」

姫「!」ハッ

姫「そうよ、それだわ!」

姫「お父様が“裸の王様”なら、私は半裸で勝負!」

姫「というわけで、さっそく上半身だけ脱ぐわ!」バサッ…

メイド「いさぎよい脱ぎっぷりですねぇ~」

姫「ありがと、メイド」

姫「じいやは男のくせに、私の半裸を見てもなんの反応もないわけ?」

執事「ほっほっほ、ちゃんと反応しておりますぞ」ムクムク…

姫「へえ、じいやもまだまだ若いのねぇ~」

メイド「おじいちゃんは今も、たまにおばあちゃんとプロレスごっこしてますから……」

執事「余計なことをいうでないわ、この根暗孫め!」

メイド「ヒヒヒッ」

姫「でも、これじゃ乳首が丸見えだわ」

姫「首は急所、すなわち乳首も急所よ。どうにかして隠したいわね」

メイド「だったら……胸にサラシを巻きましょう」シュル…

メイド「こうして、こうして、こうすれば……」グルグル…

メイド「ほら、完璧です……ヒッヒッヒ」

姫「おお……これは素晴らしいわ! 胸をいい具合に圧迫されて、胸キュンって感じ!」

姫「半裸こそまさに、プリンセス・オブ・ファッションだわッ!!!」

執事「サラシを巻いたことで、かえってエロさが増しておりますのう」ブッ…

メイド「おじいちゃん、鼻血拭いてね」サッ

姫「よっしゃあ! じゃあさっそく、お父様のように町を歩くわよ!」

姫「メイド、じいや! ついてらっしゃい!」ババッ

メイド&執事「はぁ~い」

< 国王の間 >

国王「……ほう」

国王「娘が、半裸になって町へ……?」

大臣「いかがいたしましょう?」

国王「放っておけ。半裸ならば、法律違反というわけでもないしな」

大臣「かしこまりました」

国王「あやつも……成長したものだ」

大臣(間違った方向にね……)

国王「ん、鼻の下が冷たいな」タラ…

大臣「鼻水がたれてますよ、陛下」

< 城下町 >

姫「フンフ~ン」

ザワザワ……

「おお……!」 「姫様だ!」 「下はスカートで、胸にサラシを巻いてる!」

「ワイルドだなぁ」 「すごくかっこいいです!」 「ステキ~!」

姫(ウフフ……)

姫(みんなの注目が、さらけ出した肌に突き刺さるわ)

姫(心地いいわぁ……)

メイド「イヒヒ……おじいちゃん。姫様、嬉しそうだね」

執事「生き生きしとるのう……まるで水を得た魚のようじゃ」

姫「おじさん、アイスちょうだい」チャリン…

店員「あいよ!」

姫「はい、メイドとじいやの分」スッ

メイド「ヒヒ……どうも」

執事「かたじけないですじゃ」

姫「半裸で食べるアイス……悪くないわね」モグモグ…

メイド「冬に食べるアイスっておいしいですもんねえ」ペロペロ…

執事「夏に食べる鍋もうまいぞよ」ベロンベロン…

すると──

ザワザワ…… ドヨドヨ……

姫「あら?」

メイド「ヒヒッ、どうやらあっちでなにか事件があったようですねぇ……」

執事「しかも……あまりいい事件ではなさそうじゃな」

メイド「どうします?」

姫「行くっきゃないでしょ! 名を上げるチャンスだわ!」ダッ

執事「ほっほっほ、お元気なことじゃ。若い頃の陛下を思い出しますなぁ」

姫「どうしたの!?」

町民「あっ、姫様! ……山賊が町にやってきたんです!」

姫「なんですって!? いったいどんな悪事を働いているの!?」

町民「採ってはいけないはずの高山植物を、皆に見せびらかしているんです!」

姫「なんですって!?」



頭領「これはコウザンアサガオだ! どうだ、羨ましいだろう!?」

「ちくしょう……!」 「なんて奴だ!」 「俺も欲しい……」

頭領「ハハハッ、ざまあみやがれ! さてお次は──」

姫「そこまでよ!」ザッ

頭領「む……アンタは姫!? なんで半裸なんだ!?」

姫「それは私が姫だからよ!」

姫「あなたたちの悪事はお城にも届いてるわ……」

姫「高山植物を採る! 山で登山者に会っても挨拶しない! 木に立ち小便する!」

姫「頂上に積んであるケルンを蹴る! 紅葉狩りとかいってホントに紅葉をむしる!」

姫「遭難者に板チョコと見せかけて固形のカレールーを渡す!」

姫「──許せないッ!」

頭領「だったら、どうするというんだ?」

姫「今日ここでやっつけてやるわ!」

姫「“半裸の姫様”の名にかけて!」

頭領「面白い……姫の実力、見せてもらおうか!」



メイド「イヒヒッ、“半裸の姫様”なんて誰も呼んでないよねぇ」

執事「ま、異名や二つ名なんてもんはだいたいそんなもんじゃ」

頭領「みんな、剣を抜け! 相手が姫だからって容赦するな!」チャキッ

「へいっ!」チャキッ 「もちろん!」チャキッ 「泣かせてやりますよ!」チャキッ

頭領「姫様よ、手ぶらでいいのかい?」

姫「執事、あれをちょうだい」

執事「どうぞ」サッ

頭領(……スプーン!?)

姫「あいにく私、スプーンより重いものを持ったことがないの」

姫「だからこれで相手するわ!」

山賊A「ふざけんな! スプーンで何ができ──」ダッ

姫「むんっ!」シュッ

ズボッ!

山賊A「げほっ……!」ドサッ…

メイド(スプーンをノドに突き刺した。えげつないねえ……)

ズボッ! ドスッ! ドッ!

「ぐえっ!」ドサッ 「ぎゃあああっ!」ドザァッ 「ひぃぃっ!」ドッ

山賊B「くそっ、剣がスプーンなんかに負けてたまるか!」ブンッ

姫「土をスプーンで掘って……プレゼント!」パサッ…

山賊B「うわっ、目に入った!」ゴシゴシ…

姫「そこっ!」シュッ

ドズッ!

山賊B「ぐわっ……!」ドサッ…

執事(土で視界を奪い、スプーンでミゾオチに突き! おみごとですじゃ!)

姫「さらに──」グイッ

頭領「う、うわぁぁぁっ!?」

ドガァンッ!

メイド「スプーンで人間を持ち上げて投げ飛ばすなんて、姫様らしいねえ」

執事「一国の姫にふさわしい、実にエレガントな攻撃じゃ!」

そして──

頭領「ま……参りましたァ!」ガバッ

姫「反省してるようだし、許してあげるわ」

メイド「人に頭下げられるってのは……気分がいいねぇ~」ニタァ…

執事「同感じゃ」ニタァ…

姫「でも……ここで野放しにしたら、また何かやらかすかもしれないわ」

姫「──というわけで、あなたたちは私の親衛隊に任命するわ!」

姫「ね、いい考えでしょ? 実にいい考えだわ! よし、決定!」

頭領「ははーっ! 心を入れ替えて、全力で姫様をお守りします!」ガバッ

姫「あなたは今日から親衛隊隊長よ、頑張ってね」



メイド「おじいちゃん、守る対象より弱い親衛隊って意味あるの?」

執事「ほっほっほ、捨て駒ぐらいにはなるじゃろ」

< 姫の部屋 >

姫「やったわ! 城下町は『半裸の姫様が山賊を成敗する』のニュースで持ち切りよ!」

メイド「イヒヒ……やりましたね」

執事「ほっほっほ、初日から絶好調ですなぁ」

隊長「自分がやられたニュースなのに、なぜだか誇らしいですね!」

姫「ありがと、みんな」

姫「さあ、これからもバンバン半裸の姫様を売り込むわよ!」



< 国王の間 >

大臣「お聞きになられましたか? 山賊退治のニュース……」

国王「うむ……どうやらワシもうかうかしてはおれんようだな」クシュンッ

しかし、その頃──

< 帝国城 >

皇帝「将軍!」バサッ…

甲冑将軍「お呼びでしょうか、皇帝陛下」ガシャンガシャン…

皇帝「時は来た」

皇帝「もうまもなく、我が帝国軍は隣の王国に侵攻を開始する」

皇帝「指揮は将軍、あなたにお任せしよう」

甲冑将軍「了解いたしました」ガシャ…

皇帝「王国の姫には大きな借りがあるからな……」

皇帝「今こそ、ぼくの実力を思い知らせてやる!」

皇帝「帝国の威信と、この幾枚も重ねて身につけたマントにかけて!」バササッ…

一週間後──

< 姫の部屋 >

姫「盗賊退治に、炊き出し、農作業のお手伝い……いっぱいやったわ。半裸で」

姫「この一週間で、だいぶ私の評判も上がったわね!」

メイド「姫様がお喜びになると、私もメイドとして嬉しいですねえ……ヒヒ」

執事「ワシも執事として鼻高々ですじゃ」

隊長「親衛隊長として光栄であります!」

姫「でも、気をつけないとね」

姫「“ハンラーハンター”に目をつけられるかもしれないわ」

メイド「なんです? ハンラーハンターって」

姫「この世のどこかにいるといわれる……伝説の半裸ハンターよ」

姫「狩るか狩られるか……楽しみだわ」

メイド「絶対いないよねえ」ボソ…

執事「姫様は毎年のサンタも、ワシの変装じゃとまだ気づいておらんしのう……」ボソ…

すると──

バタバタ…… ガヤガヤ……

姫「あら、城内が騒がしいわね。どうしたのかしら?」

大臣「こちらも兵を出して応戦せねば……」ブツブツ…

姫「大臣、なにかあったの?」

大臣「大変です、姫様!」

大臣「つい先ほど、30万もの帝国軍が国境を突破したとの報告が!」

姫「なんですって!?」

姫「突破されたってことは、国境の兵士はどうなったの!?」

大臣「全員、体中に鼻くそをつけられる“人間チョコチップ”の刑にされたそうです」

姫「なんてひどいことを……!」ギリッ…

大臣「今から重臣たちで緊急会議を開くところですが……」

姫「会議なんて開いてる場合じゃないわ! お父様はどうしたの!?」

大臣「前々から兆候はあったのですが……ついに風邪でダウンされました」

姫「んもう、こんな時になにやってるのよ! バカなんだから!」

姫「いや、風邪をひいているということはバカじゃないか」

大臣「とにかく、姫様はすぐお逃げ下さい!」

姫「イヤよ! こうなったら……帝国軍は私たちで迎え撃つわ!」

大臣「ワオ!?」



メイド「私“たち”ってことは……私らもメンバーに入ってるんだろうねえ」

執事「じゃろうな」

隊長「まさか親衛隊になって一週間で、帝国軍と戦うはめになるなんて……」ガタガタ…



半裸の姫様、出陣──

< 王国領 >

ザッザッザッ……

皇帝「将軍、国王のいる城までは、あとどのぐらいだ?」

甲冑将軍「あと半日といったところかと……」

皇帝「この辺りの地理には詳しいのか」

甲冑将軍「ええ、お任せ下さい」

皇帝「フフフ……あの姫が目を丸くするさまが目に浮かぶようだ」

皇帝「さぁ、急ごう」グイッ

白馬「ヒヒィ~ン」ブルルッ



帝国兵(まだ若いのに父君に代わって帝国トップとなった皇帝陛下と)

帝国兵(誰も素顔を知らない凄腕の甲冑将軍……)

帝国兵(こりゃあ……帝国に新たな時代がやってくる予感がするぜ……)ゴクリ…

ザッ……!

姫「待っていたわ!」

メイド「ヒヒッ、お待ちしておりましたぁ……」

執事「ここから先には行かせんぞい!」

隊長「ま、待っていたぞ……帝国軍!」ガタガタ…



皇帝「む!? ──まさか、姫!?」

甲冑将軍「あら……」

帝国兵(半裸だとッ!?)

皇帝「これはこれは、姫自らやってきてくれるとはね……しかも半裸で」

姫「半裸の姫様よ。ちゃんと覚えておきなさい」

皇帝「覚えておくよ」

姫「そっちこそ、昔はよく遊んだ仲だけど、ずいぶん偉くなったじゃない」

姫「一人だけ、そんな上等な白馬に乗っちゃってさ」

皇帝「父上が腰痛で皇帝を辞めたからね……今ではぼくが帝国皇帝だ」バササッ…

姫「それにいくらなんでもマントつけすぎよ! いったい何枚つけてるのよ!」

皇帝「マントとは高貴の証。皇帝たるぼくなら、これぐらいつけて当然だろう?」

皇帝「これぞ、エンペラー・オブ・ファッションッ!!!」バササッ…

姫「むう……やるじゃない」

皇帝「……で、まさか、たった四人でこの30万を止める気かい?」

姫「そうよ。この親衛隊長がね! さあ、ファイト!」

隊長(マ、マジですかァ~!?)

メイド「イヒヒ……頑張れ」

執事「お前、すっごい楽しそうじゃのう。ワシも楽しいけど」



隊長「山賊生活で鍛えたパワーで勝負!」ダッ

帝国兵「来い!」チャキッ



王国帝国戦争、勃発──

隊長「や、やられました……」ボロッ…

姫「もう終わったの!?」

皇帝(なんて早さだ……信じられない!)

甲冑将軍「3.52秒……世界最速記録更新ですね」

姫「それじゃ、私が出るしかなさそうね」ズイッ

皇帝「へえ、もう君が出てくるのかい」

姫「だって、親衛隊を守るのが姫の務めですもの!」

隊長「ひ、姫……」グスッ…

皇帝「だけど、君一人でどうやってこの30万を食い止める気だい?」

姫「あら……皇帝陛下ともあろう者が、そんな弱い者いじめをする気?」

皇帝「え?」

姫「下はスカート、上は胸にサラシを巻いただけの私に、30万をけしかける気?」

皇帝「ぐぬぬ……」

甲冑将軍「安い挑発です。乗ることはないかと」

皇帝「将軍、ぼくがなぜ白馬に乗っているか知ってるかい?」

甲冑将軍「馬が好きだからでは?」

皇帝「ちがうよ……ぼくはなにかに乗るのが好きなんだ」バササッ…

皇帝「だから、挑発にも乗るッ!」スタッ

甲冑将軍「さすがです、皇帝陛下」



執事「“半裸の姫様”VS“マントの皇帝様”! こりゃ女房を質に入れても見ねば!」

メイド「あとでおばあちゃんにいいつけちゃお……」ヒヒッ

皇帝「君とぼくとで、一対一だ」バサッ…

皇帝「ぼくはね、ずっと君と対決したかったんだ」

姫「どうして?」

皇帝「子供の頃、ぼくと君は国同士の会議で会うたびによく遊んでいたけど」

皇帝「ぼくはいつもいじめられ、泣かされていた……」

姫「まさか、この国に攻め込んだのは……」

皇帝「そう、君にあの時の借りを返すためだ!」バサッ…



メイド「でかい国の皇帝のわりに、やることが小さいねぇ~」

執事「世の中そんなもんじゃろ」



姫「うん、その小ささや良し! この勝負、受けてあげるわ!」

皇帝「それでこそ君だ!」

甲冑将軍「ではこの勝負、この私が仕切ります!」バッ

皇帝「頼んだよ、将軍」

皇帝「いっておくが、贔屓などはしないでくれよ」

甲冑将軍「無論です」

甲冑将軍「では此度の二人の一騎打ち、“ダジャレ”にて勝負を決するものとします!」

姫(ダジャレ!?)

皇帝(ダジャレ!?)

帝国兵(ダジャレ!?)

隊長(ダジャレ!?)

メイド「ダジャレをいったのは?」

執事「誰じゃ?」

メイド「イェーイ」パシッ

執事「イェーイ」パシッ

甲冑将軍「先攻は皇帝陛下、後攻は姫君ということでよろしいですね」

皇帝「ああ、かまわない。先手必勝だ!」

姫「いいわよ」

甲冑将軍「では、皇帝陛下……“皇帝”でダジャレを一つ作っていただきましょう」

皇帝「分かった」

皇帝「…………」

皇帝「“皇帝が校庭で遊んだ”」バササッ…

オォ~……!

メイド「イヒヒ……やるねえ~」

執事「ふむ、なかなかじゃのう。少々あなどってたわい」

甲冑将軍「では続いて姫君──」

姫「ちょっと待って」

皇帝「ん?」

姫「今のダジャレの意味を、きちんと説明してちょうだい」

ザワッ……!

皇帝「説明……だって……!?」

姫「そうよ」

ザワザワ…… ドヨドヨ……

メイド(ギャグの意味を説明させるだなんて……なんて残酷な!)

執事(ワシまで胃が痛くなってきたわい……!)キリキリ…

皇帝「わ、分かった……説明しよう」

皇帝「今のは“皇帝”と“校庭”という」

皇帝「同じ“こうてい”という音を持つ、二つの単語を使って作ったダジャレなんだ」

姫「ちなみに……どこの校庭で遊んでいたの?」

皇帝「え!? そりゃ学校だよ……」

姫「あなたの国って皇帝はお城で教育を受けるから、学校に通わないはずだけど」

皇帝「そ、それはその……えぇっと……」オロオロ…



帝国兵(皇帝陛下……今にも泣きそうだ! おいたわしや……)

「頑張れっ!」 「皇帝陛下、ファイトーッ!」 「負けるなぁっ!」

「泣いちゃダメだ!」 「まだいける!」 「我々がついてます!」

皇帝(そ、そうだ……! ぼくには30万の軍勢がついてるんだ!)

皇帝「たしかにぼくは学校には通わなかったけど……」

皇帝「そういう現実との相違点はダジャレだから、で納得してもらうしかないッ!」バサッ

姫「!」ドキン…

オォ~……!

姫「へぇ、あの泣き虫が成長したわね。今のはちょっぴり心に響いたわ」

皇帝「ありがとう……!」

甲冑将軍「では後攻! 姫君、“姫”でダジャレを作ってもらいましょうか!」

姫「分かったわ」

姫「…………」

姫「“姫がひめった”」



シ~ン……



皇帝「!」ハッ

皇帝「姫……今のダジャレの説明をしてもらおうか、説明を!」

姫「説明する必要──無しッ!!!」

皇帝「うぐぅっ!?」

皇帝「わ、分かった……認めよう……」

甲冑将軍「よろしいんですか?」

皇帝「かまわない……!」



メイド「すごい力技だねぇ……」

執事「ほっほっほ、あれこそ姫様じゃわい。お前もよく覚えておくんじゃぞ」

甲冑将軍「では皇帝陛下、ダジャレをどうぞ」

皇帝(“皇帝が肯定する”ってのはありきたりだから……少し工夫しよう)

皇帝「“皇帝はコーヒーに茶を混ぜた飲み物が好きらしいよ”」

皇帝「“名前はコーティーっていうんだって”」バササッ…

オォ~……!

姫「…………」

皇帝「説明すると、コーヒーとティーを合わせて皇帝ならぬコ──」

姫「説明しなくていいわ」

皇帝「え、ホント!?」

姫「その代わり、飲みなさい」

皇帝「え」

姫「コーティーとやらを飲みなさい、今すぐにッ!」

皇帝「は、はいっ!」

帝国兵「とびっきり苦い緑茶を、とびっきり苦いコーヒーに混ぜました」

皇帝(よりによって緑茶とは……しかも、量が多い!)

帝国兵「どうぞ」スッ…

皇帝「いただきます」ゴクッ…

皇帝「う!」

皇帝(うおっ……二つの苦みがクロスしたすごい味だ! ──だけど全部飲む!)グビッ

皇帝「全部飲みました!」プハァッ

オォ~……!

姫「えらいわ、合格よ」ニコッ

皇帝「ありがとう……!」

甲冑将軍「では次は姫君の番です」

姫「分かったわ」

姫「“姫がひめった”」



シ~ン……



皇帝「え、さっきと同じ──」

姫「姫がひめった」

皇帝「いやだから、さっきも同じネタを──」

姫「姫がひめったッ!!!」

皇帝「!!!」

ガーンッ!



皇帝(な、なんてド迫力……!)ヨロ…

皇帝(やっぱり……こうなることは最初から分かってたよ)フラッ…

皇帝(君はぼくなんかが勝てる相手じゃないってことは……)ガクッ…

~ 回想 ~

幼皇太子『うわぁっ、ヘビに噛まれちゃったよぉ~!』

幼姫『そんな毒もない子供ヘビなんかにビビってんじゃないわよ、泣き虫!』ポカッ

幼皇太子『うえぇ~~~~~ん!』

幼姫『もう……しょうがないんだから』

幼姫『ヘビはこうやって首根っこをつかまえちゃえばいいのよ!』ムンズッ

幼皇太子『あ、ありがと……』

幼姫『いいってことよ!』ニコッ



皇帝(君はいつもぼくをいじめてたけど、いつも助けてくれた)

皇帝(やっと思い出せた……あの頃の気持ちを……)

皇帝(ぼくは君のことが──)

皇帝「ぼくの……負けだ」

姫「へ?」

皇帝「ぼくはこれ以上、この国と──いや、君と戦えない」

皇帝「みんな、この戦争……我が帝国の負けだッ!」

ワアァァァァァ……!

「お気になさらず!」 「皇帝陛下もよく頑張られました!」 「ドンマイです!」

パチパチパチパチパチ……!

皇帝「みんな……」グスッ…



執事「ついに決着がついたのう……姫様の勝利じゃ!」

メイド「……にしても、なんであんなに人気あるんだろ、あの皇帝」

帝国兵「国内では優秀な為政者なんだよ、皇帝陛下は」

メイド「スケールのでかい内弁慶だねぇ……」

皇帝「ぼくはずっと君に勝ちたかった……」

皇帝「君に認められたかった……」

皇帝「父が引退して皇帝になった時、ぼくはやっと君に並ぶ力を得たと思った」

皇帝「こうしてマントを何枚も身につけることで、自信はさらに高まった」バササッ…

皇帝「だけどぼくは……結局皇帝になっても君に勝てなかったね」

皇帝「煮るなり焼くなり……好きにしてくれ」

姫「…………」

姫「ねえ、子供の頃、なぜ私があなたをいじめてたか分かる?」

皇帝「そりゃあ、ぼくのことが嫌いだからだろう?」

姫「ちがうわ……ちがうのよ!」

皇帝「え?」

~ 回想 ~

幼姫『このヘビ、どうしようかしら』ギュウ…

幼姫『引きちぎっちゃう?』

幼皇太子『かわいそうだよ! 逃がしてあげよう!』

幼姫『えぇ~? だって噛まれたんだから、リベンジしなきゃ』

幼皇太子『いやいいんだ……もう痛くないから。だから逃がしてあげてよ』

幼姫『分かったわ』

幼皇太子『あ、でも……噛まれたおかえしに鼻くそつけとこう』ピトッ…



姫(私は……大帝国の後継ぎらしからぬ、あなたの優しさと小ささに惹かれてたの)

姫(だから……ついついいじめちゃったの。ごめんなさい……)

姫(いや惹かれてただけじゃないわ……)

姫「私は……私は……!」

姫「私は、ずっとあなたのことが好きだったのよ!」

皇帝「えぇ~~~~~っ!?」



甲冑将軍「ほう……!」

メイド「ヒヒヒ……30万の前で告白しちゃったよ。さすが姫様だねえ……」

執事「青春じゃのぉ……若い頃はワシもよく好きな女につきまとったもんじゃ」

隊長「これぞまさしく戦場の恋……!」

帝国兵「しかし、皇帝陛下のお気持ちはどうなんだろう?」



姫「……で、どうなの? あなたは私のこと、好きなの? 嫌いなの?」

皇帝「え……恥ずかしいって」

姫「もう一生分は恥かいたでしょ! 今さらなにいってんの!」

皇帝「た、たしかに……!」

皇帝「ぼ、ぼくも……君が好き、だっ……!」

姫「やったぁ!」

姫「じゃあ、いつ結婚する?」

皇帝「ま、まだ早いよ! ぼくたち一国の皇帝と姫だし……色々と手順を踏まなきゃ」

姫「じゃあ、いつ契る?」

皇帝「もっと早いよ!」

姫「じれったいわね。まぁ、そういう小心者なところが気に入ったんだけどね」フフッ

姫「いずれ私の胸のサラシをほどくのは、あなたよ!」

皇帝「分かったよ……ぼくの手で必ず!」バササッ…



執事「ワシとばあさんも大恋愛じゃったのう……」

メイド「見合い結婚だったって聞いてるけど」



甲冑将軍「ふっふっふ」ズイッ

帝国兵「しょ、将軍!?」

甲冑将軍「成長しましたね、姫」ガシャン…

皇帝「将軍……?」

姫「成長って……いきなりなによ、あなた!」

甲冑将軍「まだ気づきませんか? まぁ、仕方ないことですけれど」カポッ…

姫「あっ……」

王妃「ちょうど一年ぶりですね、姫」

姫「お母様ッ!?」

皇帝「なんだってぇ!?」

姫「どっ……どうして、お母様が帝国の将軍に!?」

王妃「“裸の王様”という自分を見つけた主人に嫉妬して、自分探しに出て──」

王妃「ひょんなことから、帝国で将軍になれって誘われましてね」

王妃「そこで私は“甲冑の王妃様”こそが、自分だと気づいたのですよ」

王妃「そう、これこそクイーン・オブ・ファッションッ!!!」ガシャン…

姫「さっすがお母様!」



メイド「一番大事なところを“ひょん”で済ませちゃったねぇ……ヒヒヒッ」

執事「ワシも浮気がバレた時、ばあさんに使ってみようかのう」

メイド「その日がおじいちゃんの命日になるだろうねえ」

王妃「姫……あなたは私の腕っぷしと主人の奔放さを受け継いでいたから」

王妃「きっと大物になると思っていたけど……」

王妃「まさか皇帝陛下のハートを射抜くなんて……合格ですッ!」ビシッ

姫「ありがとう、お母様っ!」

王妃「皇帝陛下、私は姫とともに国に帰ります。お許しいただけますか」

皇帝「もちろん、いいとも!」

「将軍さようなら~!」 「短い間でしたが楽しかったです!」 「ありがとう!」



王妃「あなたたち、よく姫を守ってくれましたね。ありがとう」

メイド「いえいえ……いいんですよ、イッヒッヒ」

執事「ぶっちゃけ孫としゃべってただけですしのう……」

隊長「すみません、逆に守られました」



姫「じゃあね、皇帝! 今度はデートでもしましょ!」

皇帝「うん……お手柔らかにね」バササッ…

すると──

帝国兵「みごとな戦いだった、姫」ザッ…

姫「ん、あなたはだれ?」

帝国兵「今日は皇帝陛下に免じて身を引くが、いずれ君と俺は戦う運命(さだめ)」

帝国兵「せいぜい腕を……いや半裸を磨いておくことだ」

姫「!」

姫「まさか、あなた……伝説のハンラーハンター!?」

帝国兵「…………」ニヤッ

姫「分かったわ……必ず返り討ちにしてやる!」

帝国兵「楽しみにしているぜ」ザッ…



メイド「いたんだ……」

執事「いたんじゃのう……」

< 城 >

姫「ただいま!」

王妃「お久しぶりね、あなた」

国王「おお、娘よ無事だったか! 妻よ、帰ってきたか! ハーックション!」

姫「風邪がうつるから」

王妃「近寄らないで下さいます?」

国王「そうします」トボトボ…

王妃「大臣もお久しぶりです。失踪してしまってごめんなさい」

大臣「帝国の将軍になっていたとは驚きですが、お元気そうでなによりです」

姫「さあ、これからは“裸の王様”と“甲冑の王妃様”と“半裸の姫様”で」

姫「国を盛り上げていくわよっ!」

王妃「フフフ、そうですね」

国王「ハァーックションッ!」ズルッ…

一週間後──

< 城下町 >

姫「さあ、今日は初デートよ!」

皇帝「いいのかなぁ。ぼく、こないだこの国に軍を率いて攻め込んだばかりなのに……」

姫「いいのよ、王国憲法第一条は『昨日の敵は今日の友』だし」

皇帝「そうなんだ……」

執事「変わっとるじゃろ?」

メイド「ヒヒヒ、変わってるでしょ?」

皇帝「え、ええ(あなたたち二人もね……)」

姫「ところで、“人間チョコチップ”にした国境の兵士にはちゃんと謝った?」

皇帝「帝国銘菓のチョコチップクッキーをお詫びとして手渡したら」

皇帝「喜んで食べてくれたよ」バササッ…

姫「ホント!? よかった」ホッ…

執事「よく食えるのう……便をした後にカレー食うようなもんじゃろうに」

メイド「国境守ってるだけあって、メンタルが強いんだろうねぇ~」

姫「さあ、レッツゴーッ!」ダッ

皇帝「うん!」バササッ…

執事「もちろん、ワシらもついていくぞい」

メイド「ヒヒヒッ……姫様についてくと退屈しないもんねぇ」

隊長「弱いなりに、姫のことをお守りします!」



王妃「あらあら、みんな楽しそうですねえ」ガシャン…

国王「姫と皇帝殿が結ばれれば、王国と帝国の関係はより強固になるな」

国王「あるいはいっそ国ごと合体するのもありかもしれんな。ハッハッハ……」

大臣(お二人の子が生まれたら、どうかまともに服を着る人間に育ちますように……)





~ おわり ~

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