女「手…離さないでね?」男「…うん」 (20)


「全部…壊れていきますね」

ありとあらゆる構造物が崩壊し、

世界の中心に飲み込まれていくのをぼんやり眺めて彼女が言う。

たぶん、この世界で生き残っているのは僕と彼女だけだろう。



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「壊れていくのって綺麗じゃない?」

「それ、私も言おうと思ってたんです」

今までに見たことのない最高の笑顔で笑う。

「よかった。じゃあさ、最後まで一緒に見ない?」

「それってもしかして告白ですか?」

小悪魔みたいな悪い顔をしている。

「うーん…どっちかと言えばプロポーズかな」

精一杯、冷静を装うのに苦労した。

「わぁ…それ最高です」

「指輪も何もないけどね」

彼女の方を向いて右手を広げて見せる。



「じゃあ…示してください」

「どうやって?」

「分かっているのに…意地悪…」

「あはは、ごめんごめん」

正面に立つ彼女の左手を右手で包み込んだ。

「えへ…えへへ…」

「あはは…これ、なんだか恥ずかしいね」

手を繋ぐだけでこんなに恥ずかしいなんて、いつぶりだろうか。

「誰に対してですか?誰もいないのに」

「君に…かな」

「どうして?」

「そりゃ…あんなことを言った後だし…」

「えへへ、ごめんなさい」

彼女は舌をちょっとだけ見せた。

「あぁ…結局、最後まで君に一本取られっぱなしだったなぁ」

「私たちらしいってことにしておきましょう?」

「そうだね……」

「えぇ…」

崩壊の前線を一瞥する。

「そろそろ…かな」

「みたいですね…」



風が強くなってきた。

落ちていく地面につられて空気も動くのだろう。

「あのさ…」

「なんですか?」

「いや…なんでもないよ」

「変ですよ?」

「この状況で変にならないのは君ぐらいだ」

音も大きくなってきた。

あと100メートルぐらいだろうか。もうそこまで迫ってきている。

「失礼ですね、私だって変になるんですよ?」

「へえ…たとえば?」

「むぅ…こうです…」

抱きつかれた。と同時に唇に柔らかい感触があった。

「ああ確かに…お互いに変だね」

「えへへ…ずっと……一緒ですよね?」

微かに震える彼女の手を強く握りなおす。

それは目前に迫っていた。



「うん、ずっとだよ…それも……」

轟音で声がかき消される。

地面が消えた。

一瞬、身体が浮いて自由落下。

右手だけは離してたまるか。

そう思って一層力を込める。

ほんの少し経つと背中が落下方向を向き、ほぼ水平の体勢になる。

右手の彼女を見ると笑っていた。

大粒の涙を重力に逆らって流しながら。

涙を追う。

空。

雲。

瓦礫。

文明の残骸。

ああ、こんなにも脆かったのか…。

僕は笑えているだろうか?

不安になり左手を彼女の方に伸ばして抱きつく。

周りはもう真っ暗で、空も小さくなっていく。

どこまで落ちていくのだろう…。

どこまで……。

いつまで……。




目が覚めた。

明るい。

まるで雲の中みたいだ。

地面は柔らかかったが、立つことはできた。

「起きたんですね…よかった」

後ろから声がした。

「ここは…?」

「分かりません」

「そっか」

「きっと、2人だけの世界ですよ」

「みたいだね、素敵だ」

「ね、思い出を沢山作りましょう?」

「いいね、何からしようか」

「周辺探索…とか?」

「君らしいね。ゆっくり行こうか」

「はい。時間はきっと…無限にありますから」




ね、さっきなんて言おうとしたんですか?

……恥ずかしいなぁ。

教えてくださいよ。

ずっと一緒だよ…それに誰も邪魔できない所でね、ってさ。

へぇ…。

嬉しそうだね?

それはもう。だって、願いが叶ったんですよ?




僕らは明るい世界で生きていく。

たぶん、ずっと。永遠に。







女「ねえねえ」

男「なに?」

女「もしも私が死んだらさ、後を追ってくれる?」

男「ずいぶんと唐突だね…どうかしたの?」

女「ううん、別に。ちょっと気になっただけ」

男「ふぅん…」

女「それで、どうなの?」

男「難しいね…でも、君のいない世界なんて考えられないし追うと思うよ」

女「ほんとに?」

男「きっとね」

女「わあ嬉しい…じゃあさ、私があなたを[ピーーー]のはどう思う?」

男「僕が君に殺されるの?」

女「うん」



男「どうして?」

女「どうしてだろう…好きだから、とか?」

男「好きな人を[ピーーー]の?」

女「場合によってはね」

男「どんな場合?」

女「あなたが浮気しそうになったり、私のものにならないって分かったら[ピーーー]しかないよね」

男「けっこう過激派だね」

女「えへへ。そんなことはないって信じてるけどね」

男「それはそれは」

女「なにそれ」

男「光栄だなって思ってさ」

女「大げさだなぁ」

男「そうでもないよ。あ…さっき"私が死んだら"って言ったじゃん」

女「うん」

男「それってなんで死ぬの?」

女「事故か病気か…それか自殺かな。どうして?」

男「自殺だったら追わないかもって思ったんだ」

女「なんでよ」



男「なんでかな…」

女「分からないの?」

男「ぼんやりとなら」

女「教えてよ」

男「うん…そうだね…。事故とか病気ってある意味、自分じゃどうにもできないじゃん?」

女「うんうん」

男「だからきっと君も未練があるだろうな、寂しいだろうし、ってね…」

女「自殺の方は?」

男「うん…。自殺はしたくてするものだから…場合によってはせざるを得ないかもしれないけど…。だからかな」

女「そっか…」

男「うん…」

女「………」

男「どうかしたの?」

女「ねえ、キスしない?」

男「珍しいね。そんなにはっきり言うなんて」

女「良いじゃない、たまには」

男「そうだね…」

女「ん………」

男「ふ………はぁ…」

女「えへへ……気持ち良いね」

男「よくそんな恥ずかしいことを言えるね…すごいよ」



女「それって褒めてる?」

男「半分ぐらい」

女「ひどーい」

男「ごめんごめん。あ、カモメ」

女「ほんと?……あ、いたいた」

男「海とカモメってセットのイメージない?」

女「あるある」

男「気持ちよさそうだよね。風に吹かれてさ」

女「やっぱり地面に立って吹かれるのとは違うのかな?」

男「地面で吹かれるより気持ち良いんじゃないかな?空を飛んだことはないから分からないけど」

女「空を飛べる人間って怖くない?」

男「謎の研究機関に捕えられちゃいそうだよ」

女「あはは。確かに」



男「でも本当に潮風が気持ち良いね。天気も良いし」

女「ほんとだね。もったいないぐらい」

男「そうかな?」

女「曇りとか小雨ぐらいがちょうど良いんじゃないかなって」

男「曇りなら良いけど雨はなぁ…」

女「これは不毛そうだしやめよっか?」

男「賛成。てかさ、思ったんだけど良い?」

女「なに?」

男「僕ら、よくこんな話をしてるよね」

女「私が死んだら、とか?」

男「そうそう。もっと話すことがあると思ってたんだけど…」

女「良いじゃん。現実逃避も大事だよ」

男「今から逃避するのに?」

女「予行演習だよ」

男「なるほどね…」



女「じゃあそろそろ行こっか」

男「うん。あんまり長く話しても未練が増えそうだしね」

女「未練があるの?」

男「逆に、君はないの?」

女「私はないかな。あなたと一緒だったから」

男「そっか…うん、今ので未練はなくなったよ」

女「魔法みたいだね」

男「あはは、本当だ」

女「どうやって行こうか?」

男「うーん…とりあえず手を繋がない?」

女「いいよ…わ、すっごいドキドキしてるよ?」

男「君だって」

女「この場でドキドキしない方が恐ろしいけどね」

男「それ言えてる」

女「それでどうするの?」

男「このまま」

女「このまま?あ、なるほどね」

男「分かった?」

女「うん。行く?」

男「行こう」



女「うわ…何メートルぐらいあるかな?」

男「50メートルはあるね。まさに崖っぷちって感じ?」

女「あんま面白くないよ?」

男「ごめん」

女「せーので行こうか?」

男「どっちが言うの?」

女「一緒に」

男「分かった…」

女「…待って!」

男「そんな大きい声を出さなくたって…」

女「最後に聞いておきたいんだけど…この先もずっと一緒だよね?」

男「もちろん。ずっと…ね」

女「……うん、良かった」



男「大丈夫?」

女「あなたと一緒なら地獄の果てだって怖くないよ」

男「僕はブラックホールの中だって」

女「それ、張り合う意味ある?」

男「意味があったことってあったっけ?」

女「あぁ…やられた……」

男「やったね」

女「いいやもう…行こうよ」

男「大丈夫?言いたい事とかない?」

女「うーん…大好き。宇宙で一番じゃ足りないぐらい好き」

男「照れるなぁ…うん…」

女「仕返しだよ」

男「くっそぉ…。でも僕も同じぐらい君を好きだよ」

女「お互いに宇宙一だね」

男「だね……行こうか?」

女「うん……」

男「どうかした?」

女「手…離さないでね?」

男「…うん」




男、女「……せーの!」


崖から飛び出す。

空を見る。

だんだんと遠くなる。

左側の彼を見ると笑っていた。

私は笑えているのかな…。

きっと引きつってるだろうな。

あぁ、潮の香りが心地いい。

そんなことを考えた。

次の瞬間、背中に衝撃。

冷たい。

小さな気泡が目の前を覆う。

何も見えない。

全身の感覚がなくなっていく。

意識が遠のく。

口から大きな空気の塊が出た。

沈みつつあるのか、

浮かびつつあるのか、

それさえ分からない。

もしかしたら水中をクラゲみたいに彷徨っているのかもしれない。

もう全身の感覚はない。

左手が何かを掴んでいるのかも分からない。

どうか離れていませんように、離れませんように。

最後にそう願って、僅かに残っていた意識を手放した。





「あら…手を繋いだままなんて……」


砂浜に穴を掘って、丁寧に埋葬する。


「……来世でも幸せになれますように」


女は花を一輪添えて、手を合わせて去っていった。

誰もいない砂浜。

波の音が反響している。

カモメが鳴いた。

意味もなく。

ただ空虚に、

空だけが広がって。



おしまい


お付き合いいただき、ありがとうございました。

(誰かが亡くなってしまう描写がある時って最初に注意をした方が良いのでしょうか?)

おつ
グロテスクじゃないなら注意しなくてもいいと思うよ


















































































ああ

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