男「コスパの良い幸せな生活」 (18)

俺は、昔からコスパ、コストパフォーマンスを意識して生きてきた。
さすがに小中学生の頃はそんな言葉を知っていたわけではないが、それでもお得な物には弱かった。
一言でコスパといってもただ単純に物に限った話ではなく、時間対効果だとか要するに得られる結果に対しての費用や労力が少ないというもの。
それ故に、一番の幸せを手にしようと思ったことはない。それなりに頑張ってそこそこの物が得られればいいんだ。
昔は安物買いの銭失いをしたりもしたが最近では取捨選択にも慣れてコスパの良い生活を送っていると自負している。
現在大学二年生。この大学に入るのもコスパを意識した部分は大きかった。ある程度の勉強量で入れる知名度のある大学。
特段これといった不満はない。
でも、ふとした時にこれでいいのか、という疑問が湧いてくる。
そんな疑問を無視して今日も一限に出席すべくサラリーマンたちの棺桶こと電車に乗って揺られていた。

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面白そう

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>>2
把握

俺は、昔からコスパ、コストパフォーマンスを意識して生きてきた。

さすがに小中学生の頃はそんな言葉を知っていたわけではないが、それでもお得な物には弱かった。

一言でコスパといってもただ単純に物に限った話ではなく、時間対効果だとか要するに得られる結果に対しての費用や労力が少ないというもの。

それ故に、一番の幸せを手にしようと思ったことはない。それなりに頑張ってそこそこの物が得られればいいんだ。

昔は安物買いの銭失いをしたりもしたが最近では取捨選択にも慣れてコスパの良い生活を送っていると自負している。

現在大学二年生。この大学に入るのもコスパを意識した部分は大きかった。ある程度の勉強量で入れる知名度のある大学。

特段これといった不満はない。

でも、ふとした時にこれでいいのか、という疑問が湧いてくる。

そんな疑問を無視して今日も一限に出席すべくサラリーマンたちの棺桶こと電車に乗って揺られていた。

高校に入った時も、大学に入った時も理想とはかけ離れていた。

無料で見れるアニメ、108円で暇のつぶれる古本、それらが育てた学生生活へのあこがれ。

恋愛がしたかったわけじゃない。ただ、漠然としたあこがれ。新天地へ行けば今の自分にないものが手に入るという幻想。

そもそも高校のときは彼女が居た。皆がうらやむようなきれいな女性とは言い難かったが、話が合う好みの女性だった。

しかし、別れてみて、夢から覚めて気づいたことだが恋愛ほどコスパの悪いものはない。

見栄を張るために奢ってもお洒落なところに行っても、最初は対価に見合ったものが手に入るが段々とリターンがしょぼくれていく。

意見の相違や喧嘩、終盤はもはや惰性での付き合いで幸せを削り取られている感覚だった。

だから、俺は人に惚れないようにしている。惚れるだけでも体力が削られる一種の毒状態だ。

金をかけなくても時間をかけなくても楽しいことはいくらでもあるはずだから。

大学の最寄り駅に着いた。

扉際の門番に若干の苛立ちを覚えながら電車から降りて新鮮な空気を吸った。

同じ大学か、隣の大学かは知らないが、これでもかと個性を発揮した人や小学生みたいなスニーカーを履いた人。

はたまた恋ダンスでも踊りだしそうな格好の人、髪の毛をジェルで固めてレザージャケットを着てクラッチバッグを小脇に抱えた何代目ブラザーズかの人。

色とりどりの学生と共に改札を抜けると見知った顔がいた。

「おはよー」

「桜庭だったか。うす」

こいつは一年の入学式のときに知り合った桜庭翔太。

名前だけ見るとさわやかなイケメンだが外見はというとさわやかなイケメンである。

いかにもモテそうな癖に大学に入るまで彼女がいなかったそうだ。

ちなみに現在の、こいつの初めての彼女は人妻である。トチ狂った人間だと思う。

「相変わらず死んだ目してゾンビみたいな背筋してんな鷹西」

鷹西とは俺の名前で、鷹西凛介。名前だけ聞くとこれまた整った顔立ちをしていそうだがところがどっこい可もなく不可もなくの顔。のはずだ。

「生き生きとした目はカラコンとアイプチによって作られるもんだ」

「一理ある。まあしかしいつにも増して死んでるわ」

「ちょっと、な」

大学受験を終えて燃え尽きた俺は目標もなく、何も得るものもなく何も失うことのない幸せな日々を送っていた。

気が付けばそのまま、二年生になっていた。

大学一年生の頃、周りの連中は意気込んでいた。

起業だとか、人脈を広げるとか、金を稼ぐとか、為替だとか。そんな奴らをどうせ失敗する。と冷めた目で見ていた。

案の定失敗していたな。コスパ最悪だ。費やした労力のわりに得たものはなし、そんなのは最低だ。

「ホント、大学デビューっつーかさ。環境が変わっただけで何か始めよう。変わろうなんて浅はかだろ」

「そうか?僕はそういう人たち、羨ましいしすごいと思うけど」

「あいつらの大半、99%。俺の周りでいえば100%は願望だけでなにかを始めて努力することなんて最初から考えてないんだ。凄くもなんともないだろ」

「どうすれば楽に稼げるか。そんな方法をパッと思いつくわけない。それで結局、挫折して元の生活に元通り」

「そんなもんかぁ~。変わる努力って、大事だと思うんだけどね!まあ努力できないことには始まらないか」

「俺の努力は大学受験で使い果たしたみたいだ。なんであんなに頑張れたんだろうな」

「必要に迫られたからじゃない?」

「だな」

必要じゃないから、現状維持でいい。

無理に変わろうとしても無駄に体力を消費するだけで、努力なんて確実に成功するかもわからない賭けみたいなもんだ。

それでも、変わろうと努力する人間は俺には理解できんな……

毎日時間を浪費しつづけるので精一杯なんだ。俺は。

「二年になったし何か鷹西にも新しい出会いや変化があるといいな」

「まぁ正直、心のどっかで期待してる自分は居るわ」

自分が変わるのは面倒だから周りが変わることで人生に刺激を。そんな浅はかな期待を抱いていた。

期待

きたい

英語の授業か……

桜庭とは別のクラスに振り分けられたみたいだな。うちの大学は英語だけ実力別に分かれている。

となるとひとりぼっちか~、なんてね。

こうみえてもコミュニケーション能力に問題はないんだ。凡人だからな俺は。

大学一年生の時に新歓飲みを巡って知人だけはたくさん作っておいたのだ。

名前は憶えていないが、あ、こいつどっかで見たことある。くらいの認識の友人がたくさん居る。

そういうやつのことを挨拶するだけの友達という意味でヨッ友というらしい。

大体お互い利用するために絡んでいるだけだからな。ギブ&テイクだからいいだろ。まあ俺は大体テイクしかしないからコスパ最強です。

さて、めぼしい知人は……

居ないな。参った。さすがに今から他人と仲良くなるのはハードルが高いんだよな……

きっかけがないと人は動き出せないもんだ。

まあ別に仲良く楽しく授業を受ける必要はないし、それについてはヨッ友に求めるものではないのだが……

こうなると代返ができないし授業の情報も休んだ時に回ってこない。大体寝てるだけだから出席していてもあまり意味がない。

しかしどうしようもないな。初回の授業は様子見といこう。

とりあえずぼっちで受けてる人の近くに座ろう。いや、これは別にワンチャン仲良くなれるからとか考えてないから。全然。

一人でいると考え事が多くなるんだよな。スマホいじっててもさすがに90分はつぶせない。

はぁ~、それにしてもなんのためのヨッ友だよ。one for all、all for oneだろう。

助け合いの精神というやつだよ。いや今の俺ただのoneか。ぼっちつれぇ~。

大学の友達ってそもそも関係が希薄になるのは必然だよな。

人が多すぎるがゆえに深い関係を築きにくい。なにより講義ごとに移動があるから高校のときみたいに無条件に仲良くなれるはずがない。

今思うと高校は天国だったよ。通っているだけでなかなか楽しかった。

周りを見渡すと太もも丸出しの淫猥な女子高生、パンツ見えてるやつもいたから。

友達も今よりは多かったな。まあ今ではそのなかの二、三人としかコンタクトはないが。

……ていうかこの授業地雷臭すっごい。何が地雷かって教授が英語しか喋んない。

いやもちろん大学教育においては本来そのレベルであるべきだとは思うし、俺も今更be動詞の勉強がしたいわけじゃない。

難しいとかそういう問題じゃなくて、純粋に単位とるのが面倒くさそうなタイプの教授だこれ。

まずいな……

かといって今更、授業中に誰かに話しかけるのはあまりにも無謀だ。

せめて授業の最初に話しかけておくのが得策だった。今日踏み出さなければ明日はもっと踏み出す勇気が必要になるというのは本当だった。

先が思いやられるな。

周りの女を見渡してみる。

大学の女っていうのは得てして化粧が濃い。肩を出している。臭そう。自分イケてそう。

大体そういう女に限ってデビュー勢である。

不必要に化粧が濃いのは高校のときにあまり化粧をしていなかったとか、小汚い化粧をそれとなく教えてくれるお洒落な友人がいなかったからだ。

それ故に劣等感に駆られ、マウンティング、攻撃される前に攻撃しろとでも言わんばかりにぎゃはぎゃはと大声を出して笑う。いや、さすがにこいつらも授業中は静かなんだが。

一人で授業を受けてる普通の女もいるな。あれはきっとカースト上位の女だ。顔が整っていて無駄に騒ぎ立てない。攻撃する必要なんかないからだ。

惚れないようにしなくては。万が一にでも濃厚な接点を作れば勘違いと自意識過剰の地獄に苛まれ、酔った勢いでメッセを飛ばしてしまったりするのだ。

あぁ恐ろしい……

リゼロ見なきゃだから小休止

そんなことを考えていたが、それも長くは続かず、いつのまにか眠りに落ちていた。

起きた時には講義は終わっていた。

初回の授業だから大したことは言ってないと思うがこの状態だと本当にまずいな。

留年なんてコスパ最悪だ。効率よく単位を回収するのが大学生に課せられた使命なのであるから。

二限までの休みのうちに喫煙所に向かう。

煙草を吸うようになったのは大学生になってからだ。

高校生のときはコスパが悪いし吸う意味が分からないと思っていたのだが気づいたら吸っていた。

最初はかっこつけ程度に吸っていて、友達からたまにもらうくらいで十分だったのだけれど、一箱買ったあたりから引き返せなくなったのだろう。

大学生になってぽっかりと空いた胸を何かで満たそうと手を出したのかもしれない。

吸い込んだ煙は留まることなく離れていってしまうのが分かっていたのに。

まあ一本20円と考えれば棒のついた飴よりも安いじゃないか。人生には娯楽が必要だ。

なによりこの屋上の喫煙所が好きだ。

喫煙者は世間に追いやられていてどこか同族意識がある。

火の貸し借りなんかもたまに見るし、俺もする。

そうしてできた友人もいるしな。

都会にあるこの大学の屋上から見える景色はビルと車と道を行きかう大学生たちだった。

決して景色が良いとは言えないが開放感がある。

そうして煙草を唇でくわえ手で囲みを作りながらライターで火をつけた。

ふぅ、と白い煙が浮かんだ。

二限も終わり昼休みになった

桜庭と学生ホールに集合してから昼飯を食べに行く

この辺は昔から大衆食堂が集まってて昼飯には困らない。安いし。

学生食堂も安くて旨いのだがいかんせん人が多すぎて並ぶのに時間がかかるし落ち着かない。

そういう訳で外に食べに行くのが俺たちの基本になってる。

「鷹西~!英語のクラスどうだったよ」

「知り合い一人もいなくて詰んだわ」

「それはどんまいすぎ。かわいい子いた?」

「あー。居たけど拒絶オーラみたいなのすごかったよやっぱり」

「かかわることなさそうだな!」

「うるせー。飯食い行くぞ」

今日は前から気になってた豚丼屋に向かった。


(´;ω;`)

「この豚丼結構うまいな」

「おいしいねー!」

「それより鷹西って前期の履修どんな感じ?」

「水曜が一日休みで、月火木金にちらほら。一限は今日だけだよ」

「お、僕も水曜休みにした」

「そのうち遊び行くか」

「今日はもう授業ないの?」

「そうだな。この後はもうなんもない」

「じゃあ観覧車でも乗りにいかないか」

「は?何が悲しくて男二人で観覧車乗らなきゃいけないの?ホモなの?」

「いや、せっかく大学の近くになんかでかいテーマパーク的なのあるのに一回も行かないのってもったいなくない?」

「……まあ言いたいことはわからんでもないけど今日はめんどっちいから帰るよ」

「そっか。在学中に必ず行くから覚悟しといてね」

「あいあい」

元々、決まった日に遊びに行くとか、予定を立てるのが苦手なタチで前日かその日に声をかけたいタイプなのよね。

おかげさまで基本暇してる。

家に帰っても特にやることはないんだよな。

オンラインゲームやったり掲示板見たりSNS覗くだけで。

それにしてもSNSってどいつもこいつも幸せそうで本当に腹立つ。

なにが腹立つって幸せそうな人間をみてうらやんでいる自分にも腹が立つ。

別に、彼女なんかいらない。なんて本当は強がりなのかもしれない。

自分にだけは嘘をつきたくないし、つく必要がない。

人に話す分にはいくらでも嘘は言えるけど、心の中で考えてる自問自答に嘘をついたって、なにもいいことはないはずなんだ。

でもまぁ、今の現状も悪くはないしな。帰ってネトゲしよう。

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