海未「海で見た夕日」【ラブライブ!SS】 (30)

息抜きに。
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穂乃果「ふぁっ....ぃひっ」


穂乃果の顔は見る見るうちに赤くなっていきます。

私もその瞬間を、ちょうど見ていたところです。


海未「どうしました?変な声を出して」

穂乃果「え、あ、く、くしゃみがね、出なくて」

海未「なるほど」

穂乃果「あ、笑ってるよねー??生理現象だよ〜っ!」


可愛らしくて。

そんな理由ではいけないでしょうか。

なんて少し意地悪をしてしまうのは、穂乃果は私の恋人だからです。

私はまだ家業を手伝っていて、穂乃果は穂乃果で穂むらで働きながら、洋菓子のお勉強をしています。

なんと最近は穂むらでも、特別コーナーを設置して、その名の通り特別に、穂乃果の作ったケーキやタルトを置かせてもらっているのです。

しかも毎日完売してしまうほど、美味しいと評判で、たまに顔を出しに来ることりも太鼓判です。

もちろん高校卒業後、いつか自分のお店を経営するという夢を抱きながら穂乃果は専門学校に通いました。

今は秋葉原から少し離れた所で部屋を借り、穂乃果と私の二人暮らしをしていて、金銭面は割と安定しています。

正しい理由にはならないかも知れませんが、穂乃果のお母さんが優しく支援してくださるのと、穂むら自体がとても有名な和菓子屋で、いやらしい話、売上がものすごいのです。

これに関してはお父さ....いえ、おじさんは流石ですねとしか言いようがありません。

昔から穂乃果のお父さんの事はおじさんと言った方がしっくりきます。

なぜだかは分かりませんが、多分周りの人がみんなそう呼んでるからかもしれません。




海未「それより、穂乃果」

穂乃果「なぁに?」

海未「新メニューの方、どうなんですか?」

穂乃果「あぁ、それね。ちょっと難しいかなぁ」

海未「ですが、そのノートを見てると素人の私にはどれもすごいアイデアに見えるんです。納得、いかないのですか?」

穂乃果「海未ちゃんがそう言ってくれるのは嬉しいんだけどさ、これはね、お父さんがくれた試験みたいなものだと思うんだ。これに合格すれば穂乃果は認めてもらえるの」

海未「そう、ですよね。妥協は一切できませんね」

穂乃果「うん。ほら、穂乃果は洋菓子を中心にお菓子の世界を目指してるでしょ?最近は特別コーナーで評価されてるのも嬉しくてさ。そこでお父さんが、『穂乃果、和と洋の融合した作品を作ってみてくれ』なんて言って。緊張もしてるけど、ワクワクもしてるの」

海未「確かおじさんが認めてくだされば、穂むらまんじゅうのようにお店に並ぶようになるんですよね?」

穂乃果「うん、単純に新メニュー開発だよね。うち、今まで和菓子一筋だったらしいんだけどね」

海未「やはりプレッシャーが....?」

穂乃果「えへへ、まぁ。恥ずかしいな」

海未「仕方ない、ですよね。私も跡取り娘です。境遇は違いますが、気持ちはわかっているつもりです」

穂乃果「お互い、親が師匠だもんね」

海未「はい」


穂乃果の目は、いつになく真剣で、スクールアイドルとして夢を追いかけていた頃を思い出します。

いつもはもっと優しくおっとりしているのに、今日はずっと頭の中はお菓子の事でいっぱいのようです。

期限はないようですが、毎日ノートにアイデアを書いては実際に作ってを繰り返しています。

大きく元気な丸文字に、昔から得意な女の子っぽさを感じる可愛いイラストを添えて。

ノートは既に傷んできていて、頑張りの結晶と呼ぶにふさわしい財産に見えます。

ですが、やはり難しい、そう穂乃果は言うのです。

昔から、夢にひたむきで。

諦めることもなく、誰かを責めないで自分自身と大きな壁に挑み続ける。

なので、止めることはもちろん出来ませんし、私は恋人として、全力で応援しています。




穂乃果「さて、お休みだし、一度考えるの止めようかな」

海未「いいのですか?」

穂乃果「....」

海未「?」

穂乃果「....ごめんね、海未ちゃん」

海未「はい....ん?え??」

穂乃果「最近ずっと、家事とか任せっぱなしで」

海未「い、いえ、それは穂乃果は働きに出ていますし、家事が私の仕事ですから」

穂乃果「ううん、それだけじゃなくてさ、あの、穂乃果のわがままになっちゃうのかもしれないんだけど」

海未「はい?」

穂乃果「久し、ぶりに....で、デート、しませんかっ?」

海未「っ!」


緊張しているのか、聞き手の私からも分かるほど、話が飛んでしまった気もしますが、私も今同じくらい緊張しています。

穂乃果の口から出た「ごめんね」は、本当は自分が一番わかっているのです。

最近ずっと、2人で遊びに行ったりということがなかったのが、確かに寂しく感じることもあって、でも穂乃果は頑張らないといけない時期だということも分かっているので、複雑な気分だったのです。

だから、ストレスで偏頭痛が起きたり、寂しくていつになく甘えてしまったり。

私らしくないと思いますが、穂乃果のそばに居ると、女の子としての気持ちが出てしまうと言いますか、自分で言うようなことではないですね。

とにかく、照れて耳が赤くなっている穂乃果を愛おしいと思いながら、突然のお誘いに嬉しいのに戸惑ってしまっている私。

本心に任せ、答えはもちろん―


海未「はぃ....是非」

穂乃果「ふぁぁ、やった〜」

海未「ふふ、お断りするわけ、ないじゃないですか」

穂乃果「で、でも、穂乃果が海未ちゃんなら、寂しくて死んじゃうもん」

海未「あはは....」




いえ、私自身寂しかったのは否定しませんが、穂乃果の言葉が胸を撫でて、同じ気持ちを持っているんだと安心をくれました。

やはり好きな人、ですから。

1日でも満足に話せないだけで、胸が苦しくなりました。

ならばここは、わがままを言ってもいいのでしょうか。


海未「あ、あの」

穂乃果「どうしたの?」

海未「海と、イルミネーションを見に行きたいです。ずっと行きたかったのです」

穂乃果「おお、うん!行こう。折角の連休だから、いっその事お泊まり!なんて言ってみたいんだけど....そんな貯金がなくて、情けないなぁ、はは」

海未「わぁ、穂乃果、そんなこと言わないでください。穂乃果のお陰で安定した生活を送れているんですよ?」

穂乃果「うん〜」


こうしてまた、思い出が増えていくのだと思うと、胸がドキドキして楽しくなります。

穂乃果と2人きりの休日、久しぶりのデート。

顔が、にやけてしまいますね。




― 潮風公園 ―


穂乃果「っく....んん〜気持ちぃ〜」

海未「もう夕方になりますけどね。珍しくぽかぽかしてて、お出かけ日和です」

穂乃果「うんうん。はぁ、こんないい所が東京にもあるんだねぇ」

海未「穂乃果は高尾山とか行ったことはないのですか?」

穂乃果「あ、テレビで見たことある!」

海未「昔紅葉を見に行ったのですが、とても良いところですし、観光客も多かったです。東京だってコンクリートばかりではないですよ」


寒さでストレスがたまらない、いい天気です。

私たちのお出かけのために神様が―なんて変なことを考えてしまいます。

それにしても、いくらぽかぽかしているとはいえ、真冬ですので、少しは着込まないともちろん寒いものです。

でも穂乃果はモコモコしてて暖かそうですね。

雑誌のモデルさんみたいです。


穂乃果「な、何ジロジロ見てるの?」

海未「へぁ!?ごめんなさいっ!」

穂乃果「....何か変?」

海未「そんな落ち込まないでください、私は可愛いと思って」

穂乃果「へ?」

海未「新しい服なんですよね?似合ってると思ったので、つい見とれていたといいますか....」

穂乃果「ぁぅ、そっかぁ........やば、顔熱」

海未「え、何か言いましたか?」

穂乃果「う、ううん、何でもない。行こ」

海未「あっ....ふふっ」

穂乃果「海未ちゃん手冷たくなっちゃってるじゃん。繋いで行こうね」

海未「ふふふ」

穂乃果「うぅぅ、なんで笑ってるのさぁ!」

海未「私、本当に幸せです」

穂乃果「ま、まだ何もしてないよー?」

海未「いえ、すごく楽しいです」

穂乃果「穂乃果わかんないよぅ」




引っ張られた右手が温かく、しっとりと緊張の手汗が出てるのを感じます。

私はやっぱり、穂乃果とのこの時間に酔っているのかもしれません。

この人といれば、いつまでも幸せで溢れる未来が続くのではないかと。

こんな些細な出来事ですら、その一片に思えて。

もう抱きしめたいくらいに愛おしく。

まだ、そういう恋人同士でしか出来ないようなことは、してないんですけどね。

お互い落ち込んだ時も、気持ちがいいときも、まだ恥ずかしい気持ちがあり、キスすら出来ません。

手を繋ぐだけで幸せだなんて、そう思えてしまうんですから、キスなんてしたら私―きっと壊れてしまうのでしょうか。

考えるだけでも頭が蕩けて、左胸にジワジワと痛みが生まれます。

本能が、ロマンチックなことを望む中、体は抵抗しています。

恥ずかしさのせいで、切り出せずにいる。

前に一度穂乃果が、お祭りで妙に暑苦しく寄り添ってきたことがあります。

その時は流石に弾ける胸を抑えて待っていましたのに、運悪く知り合いが来てしまった。

その後、翌日の朝まで続いた穂乃果の元気のない態度が頭から離れなくて、お互いに求めあっているのを感じました。

それはそれで幸せなのです。

でも、それ故に、余計に障壁として立ちはだかる。

付き合い始めた頃の無邪気な、欲望に心が揺れていた頃よりも敏感になり。

勢いでいくなんてこと、絶対にできなくて。

お互いに、いいムードを作り出せずにいる。

それが客観的に見た私の世界で、その二人の一人が私なのですから。

なんだか、私、破廉恥なのでしょうか。




穂乃果「....海」

海未「私ですか?」

穂乃果「海未ちゃんじゃないよ」

海未「海、ですね」

穂乃果「やっぱり、もっと見渡す限り海!みたいなところが良かった?」

海未「何故?」

穂乃果「あ....ううん、心配になっちゃって」

海未「そんな心配いりませんよ。私はただ、海が見たかったのです」

穂乃果「そっか。綺麗、だもんね、海はいつでも、どこでも」

海未「ええ。あ、そこのベンチに座りませんか」

穂乃果「うん」


手を繋いだまま、海を見ながら歩いて、たわいもない会話を繰り広げて。

ベンチに座ると、次第にお日様は、辺りをオレンジ色で満たしていく。

ああ、綺麗です。


穂乃果「ほぇ〜....こうして夕日を眺めるの、久しぶりだなぁ」

海未「穂乃果もこうしてゆっくり過ごすの、好きなんですか?」

穂乃果「んー、そうだなぁ....昔はみんなでカラオケに行ったり、ゲームセンターに行ったりするの好きだったけど、海未ちゃんと一緒なら、こうしているのが楽しいな」

海未「それは....私が活発な子じゃないから、ですか?」

穂乃果「え?そんなわけないじゃん。例えばだけど、乗馬体験に行きたいって言ったら一緒に来てくれるでしょ?」

海未「ま、まぁ、もちろん喜んでついて行きますよ。ていうか乗馬体験に行きたいんですか?」

穂乃果「それは置いておいて」

海未「すみません」

穂乃果「こほん。穂乃果、雪穂と夕日なんて見ても面白くない。きっとことりちゃんと見に来ても、綺麗だったねで終わっちゃう」

海未「はい」

穂乃果「でも、海未ちゃんといると....胸がぽかぽかするし、時間よ止まれ!って思っちゃう」




胸を押さえながら、少し寂しげな顔をしました。

私は穂乃果を寂しい気持ちにしたのでしょうか。

でも、私も話せなくて寂しかった。

頑張っている時、私が声をかけてあげられなかったのが辛かったのでしょうか。

そうでないのであれば、そう考えてみると、頭に一つ思い出すものがあります。

手を繋ぐ、その触れ合いが幸せなこと。

もっと好きな人に触れたい、そう思うんです。

それは思うだけで終わってしまう気持ちです。

一緒にいる幸せと触れ合う幸せが別のものであるならば、私はやはり、寂しいのかもしれません。

こうして頭の中で何度も繰り返していると、何を悩んでいるのかわからなくなってきます。

複雑な気持ちを抑えたいあまり、また甘えたくなってしまう。

二人に悩み、穂乃果に助けを求め、同じ思いを持つ者同士解決はできない。

分かっているのに私は、甘えてしまう。

そして隣で夕日を眺める彼女に、寄りかかるのです。


海未「....」

穂乃果「ぁっ」

海未「穂乃果」

穂乃果「....うん」

海未「寂しかったです」

穂乃果「甘えん坊さん」


できるだけ普通に振る舞いたいんでしょうけど、さっきまで気にならなかった白い息が小刻みに出ているのがわかります。

私も普通の気持ちでこうしているんじゃないんです。

顔は火照りきっています。




海未「好きです」

穂乃果「うん、穂乃果も、好き」


言葉でなら伝えられるのに。

私は何かを待っている。

そう、私だって生きているし、1人の女の子です。

破廉恥だと遠ざけていても、好きな人に望まないわけないんです。

もっと触れ合いたい。

もっともっと、穂乃果を感じたい。


穂乃果「海未ちゃん....ぎゅってしてもいい?」

海未「聞くんですね」

穂乃果「無理矢理がいいの?」

海未「ち、違、そういうわけでは―」

穂乃果「破廉恥だよ」

海未「ぅ....穂乃果ぁ」


隣から腕を伸ばし、寄りかかる私をそのまま包み込みます。

その瞬間、温もりが伝わり、お日様は沈みきってしまいました。

本当に温かくて、どこか懐かしさを感じます。

依然として私の顔は火照りきったまま。


海未「....いつも明るく元気な笑顔で、優しい笑顔は私の元気の源です....そして夕日のように、私に温かく安らかな空間をくれて、私の愛を噛み締めるように抱きしめてくれる」


小さな声で、そう優しく呟きました。




穂乃果「もしかして穂乃果?」

海未「さぁ」

穂乃果「じゃあ穂乃果も」

海未「えっ?」

穂乃果「静かで大人しくてぇ....時に穂乃果のために声を荒らげてでも叱ってくれる。広くて大きな心で、穂乃果に安心をくれて、愛をしっかり受け止めて包み込んでくれる。海とお日様かぁ、ふふっ」

海未「わ、私はもう昔みたいに叱ったりしませんよっ」

穂乃果「誰も海未ちゃんなんて言ってないよ〜?」

海未「う....意地悪ですよぅ」

穂乃果「ぅぅ....はぁ....ドキドキするなぁこれ」

海未「言わないで」

穂乃果「ごめん」

海未「でももう、暗くて顔がよく見えなくなってしまいましたね」

穂乃果「そうだねぇ、いつの間にか夜だよ。イルミネーション、見に行きたい?」

海未「ええ、それが今日の私のわがままなんですから」

穂乃果「わかったよ」

海未「とびっきりの所へ連れて行ってくださいね」

穂乃果「が、頑張る」


こんなに抱き合ったのは初めてです。

少し抱き合うくらい、学生時代はできていましたのに、恋人同士になってからはそう上手くは行かなくて。

大人になってしまったんだなぁと、実感します。

また穂乃果は、冷たくなった私の手を握り立ち上がります。

「さぁ、行こう」と微笑みながら。

また一つ、幸せの在処を求めて。


― 穂むら ―




穂乃果「ありがとうございました!」

雪穂「お姉ちゃんお疲れ様」

穂乃果「うん。雪穂もすっかり和菓子職人さんだぁ」

雪穂「まだまだだよ。まぁ、お姉ちゃんが継いでくれなかった分私が頑張らないとね」

穂乃果「ごめんね、ほんと」

雪穂「ううん、私なんてやりたいこととか無さすぎて、お店がなかったらニートになってたかも」

穂乃果「ニートって....でも雪穂可愛いから、きっとすぐ素敵な人に会えるよ」

雪穂「恋愛には興味ありませんよーだ。自分が余裕あるからってそうやって」

穂乃果「興味なくないじゃん」

雪穂「え?」

穂乃果「お母さんに聞いたよ、最近男の子を部屋に呼んだり妙におめかしして出か―」

雪穂「うわぁぁあ!」

穂乃果「な、何!?」

雪穂「ちょっとお母さん!ねぇ!」

・・・・・・

穂乃果「....行っちゃった」

海未「お二人とも元気ですね」

穂乃果「あ、海未ちゃん!来てくれたの!?」

海未「はい、久しぶりにお饅頭が食べたくなってしまって」

穂乃果「そっか、なら持って帰ろうか?」

海未「お店は?」

穂乃果「もうあがっていいよって言われたところだったから」

海未「あら、今日は早いんですね。まだ16時半ですのに」

穂乃果「そうだねぇ、なんか今日はいいんだって」

海未「では帰りますか?」

穂乃果「うん。雪穂怖いから早く行こ」

海未「怒り狂っていましたもんね」




あのお休みの日から2日。

私たちはまたいつも通り、静かな日常を送っています。

そして私はこうして、時々お饅頭を買いに来ることがあります。

そういう時は閉店時間の20時まで穂乃果を待って、一緒に帰ります。

遅い時間になるとお客様も流石に減るので、お喋りもできるのです。

それが楽しくて。

穂乃果のお母さんからは、ここで暮らしてもいいと言われていたんですけどね。

私たちは2人だけで暮らすことを決めたのです。

私だって穂乃果が家にいない間、テレビを見たり、本を読んだりして、ぐぅたら過ごしている訳では無いのです。

昼間は実家で稽古ですし、家事をしたり、買い物に行ったり。

まるで主婦みたいですね。

なんて考えると恥ずかしいのですが。


穂乃果「う〜寒い〜」

海未「今日は冷えますね」

穂乃果「マフラー二重にしようか!」

海未「それは重いでしょう....あ、お饅頭、私の手提げに入れますよ」

穂乃果「ありがとー」

海未「いえいえ。っと、財布が邪魔ですね....」

穂乃果「ん?そのストラップ!」

海未「あぁ、はい。大切なものなので、大切なものに付けようかなと、財布に付ける事にしました。可愛いでしょう」

穂乃果「うん!なら穂乃果もお財布に付けようかなぁ。これ可愛いよねぇ、イルミネーション見た所限定の名前がよくわからないストラップ」

海未「名前、本当に何なのでしょうね」

穂乃果「そうなんだよね、気になる....結構人気らしいんだけど、名前だけは不明なんだよねぇ」

海未「赤くて、がま口のような姿なので、あかガマちゃんとかどうですか!?」

穂乃果「えっ、あ、あかガマちゃん....!?」

海未「はい!いっその事自分たちでつけてしまえばいいのですよ」

穂乃果「う....あんまし可愛くないよ」

海未「なっ」




私は本気でしたのに。

センスがない、だなんて。(言ってない)

でも確かに、赤いガマだからあかガマちゃんは、そのまま過ぎですよね。

かといって私はマンガもアニメもあまり見ないので、キャラクターの名前なんて、ノラれもんやマッキーマウスみたいな有名なものしかわかりません。

ただ、男の人が見るような女の子がたくさん出てくるものは見ませんが、強いていうならば―。


海未「な、なら、リュークにしましょう」

穂乃果「確かに林檎みたいな見た目だけど、この子死神じゃないもん!」

海未「ですよね....」

穂乃果「もう、海未ちゃんは考え始めると止まらなくなっちゃうからなぁ」

海未「言われてみれば―」

チリン

穂乃果「わ!」

海未「ん?どうしました?」

穂乃果「えぇ....え、えぇ、なんか聞こえたよね?ね??なんか聞こえたよね!?」

海未「え、ちょっと待ってください、落ち着いてっ」


私にはよくわかりませんが、何故か突然、人が変わったかのように穂乃果が慌て始めました。

今の今まで普通に会話していましたのに、それが無かったかのように焦っているのです。

そしてじわじわとくっついてくる穂乃果に押されてしまい、私自身も道路の端へと寄ってしまいます。

そのまま、歩きたくないのか袖を引っ張り。

流石に様子が変だと思いました。




海未「本当に、どうしたんですか?」

チリチリン

穂乃果「ひぅぅっ!」

海未「いたたたた....腕、爪が刺さって痛いです!」

穂乃果「ぅ....こ、ここ、いつも、こんなに暗くないしっ、変な音、聞こえたしっ」

海未「あぁ、街灯の電球が切れてるんですよ、大丈夫です。それに、この近所の家から鈴の音が漏れただけですよ、きっと」

穂乃果「で、でも、そんなことあるのっ?音が高かったし、なんか近いもん」

海未「なら、小さい鈴だとしたら猫かなにかですよ。大丈夫です、帰りましょう」

穂乃果「むむむ無理っ、やだぁ」

海未「穂乃果....」


穂乃果は私の腕から離れなくなってしまいました。

ほんのり伝わる温もりに心を落ち着かされ、穂乃果と私は違うんだと、自分に言い聞かせました。

それを踏まえて、改めて周りを見てみると、この小道は真っ暗で、通行人はゼロ。

遠くに見える街灯からさらに不気味さを感じます。

静かすぎて、私たちだけが暗闇に取り残されたような感覚。

確かに怖いといえば怖いかもしれませんが、結局はただ暗いだけの道。

私の頭はそう整理して、私を冷静にさせているみたいです。


穂乃果「怖い、海未ちゃん、怖い」

海未「でも、ここにいたらずっと怖いままではありませんか?1人じゃないんですから、頑張りましょう」

穂乃果「でもぉ、でもぉ」

海未「何をそんなに怖がっているのですか?....まさかお化けとか....」

穂乃果「ちちっ、違うしっ!もう子供じゃなっ、ないからっ!」

海未「お化け屋敷だと思えば―あっ」

穂乃果「違う....もん」

海未「え....あ....」

穂乃果「うぅ、意地悪しないでよぅ....うぐっ、ひくっ」

海未「ご....ごめんなさい、そんなつもりじゃ」

穂乃果「はぅっ、ぐすっ....」




つい、泣かせてしまいました。

なるほどです。

そういえば昔から、穂乃果はお化けや幽霊の類が苦手で、小学生の頃家出をした時も、お化けが怖くなって泣いたことがありました。

高校の文化祭で入ったお化け屋敷でも、泣きはしませんでしたが、作った側からしたら嬉しいくらいのリアクションをとっていたと思います。

それを忘れて、自分との考え方の違いを考慮せず、無責任かつ冷静に対応してしまったことに、後悔しています。

恋人を泣かせてしまうなんて、私、最低です。

穂乃果自身は子供っぽいと思われるのが嫌なんでしょうけど、私はそんなこと全く思いません。

怖いものや嫌いなものって、いつになっても治らないんですよね。

例えば私が炭酸飲料を無理やり飲まされたら、凄く嫌で、もしかしたら泣いてしまうかもしれないですし。

なら今私がしていたこと、ほとんど同じような事なのでは。

軽く考え、穂乃果を普通に家まで連れて帰ろうとしていた。

どうにもならない恐怖に襲われている彼女を、さらに闇の中へ引っ張り出そうとした、そう考えられます。

やはり、最低です。

どうして私は、心に寄り添うことができなかったのか。

色々と、考えてしまいます。


海未「....」

穂乃果「海未ちゃん....ぐすっ」

海未「怖い、ですか?」

穂乃果「ぅん、怖い」

海未「私と、一緒だと....安心できませんか?」

穂乃果「....隣にいてほしいの....離れたくないのっ、近くにいてほしいのっ」

海未「そうですか....では....」

穂乃果「んぐ....海未ちゃっ」


まだパニック状態の穂乃果を、どうにか落ち着かせようと。

お互いの顔もよく見えない今なら、と。

私より少し背が小さい彼女の、柔らかい髪を撫でながら、片手で強く抱きしめます。

「大丈夫」「私がいます」なんて何度も呟いて。

段々と嗚咽する声が消えていき、背中に伝わっていた喉の痙攣も治まってきたようです。

すると今度は穂乃果も、私の背中に手を回し、必死に抱きついてきます。

撫でられるのが好きなのか、こころなしか猫のように頭を差し出しているようにも思えます。




海未「まだ怖いですか?」

穂乃果「少....し」

海未「ふふ、そうですか?体はなかなか甘えん坊さんのようですが」

穂乃果「だって、頭撫でてもらうのなんて、初めてで....気持ちよくて、好きかもしれなくて」

海未「かもしれない??....帰ったら、もっと撫でてあげますよ」

穂乃果「ぅん」

海未「さぁ、帰って温かいお風呂に入りましょう。昨日買ったプリンもありますよ」

穂乃果「....腕借りててもいい?」

海未「ふふ、もちろんいいですよ。それで怖くなくなるなら、私も嬉しいです」

穂乃果「ありがと。....ねぇ」

海未「はい?」

穂乃果「海未ちゃんは、こういう穂乃果、嫌い?」

海未「そんなわけないでしょう?」

穂乃果「よかったぁ....穂乃果はね、優しい海未ちゃん大―」

「あー」

穂乃果「ひぃぃぃぃ!!!」
海未「ななっ、なんですか!?」


急に女の人の声がはっきり聞こえて、その瞬間に眩しい光が私たちを照らしました。

よく見てみるとその光はスマホから出ていて、持ち主は私もよく知っている人―。




海未「雪、穂?」

雪穂「こんばんは、海未さん」

海未「ええ、こ、こんばんは」

雪穂「へへ、お姉ちゃんの可愛い声が聞こえたから少し隠れてました。でも何も聞こえないし、寒くなったので出てきちゃいました」

海未「いつからいたんですか!?と、それよりも、何故ここに?」

雪穂「途中からですねー、お姉ちゃんったらケータイ忘れていったので、まだ近くにいると思って来たんですよ」

海未「そうだったんですか。まさか鈴の音も雪穂が?」

雪穂「よく分かりませんけど、さっき茂みから首輪の鈴を鳴らしながら猫が出てきましたよ」

海未「あぁ、やっぱり猫ですよね」

雪穂「と、いうことで、お姉ちゃん、ケータイ」

海未「あぁ、ほら、穂乃果?」

雪穂「....あれ?お姉ちゃん?」

穂乃果「...ゆっ、ひくっ、ゆきっ、ゆきほのっ、うぐ、ぐすっ、ばかぁっ、きらっ、いっ、だいきらいっ」

雪穂「う....やりすぎた....んですかね?」

海未「んん....ややりすぎという程何かしたわけじゃないんですけど....登場の仕方が酷いですよ。心臓に悪いですし、穂乃果なんかさっき落ち着いたばかりでしたから....」

雪穂「落ち着いた?何かあったんですか?....でもごめんなさい....悪気があったわけじゃ....」


雪穂のせいで穂乃果がまた泣いてしまいました。

今日はもう、穂むらに泊まっていった方がいいでしょうね。

それにしても、なぜこうもいい時に誰か来るのでしょうか。

おかげで穂乃果の言葉も最後まで聞けませんでしたし、いつもこうして邪魔が入ってしまうのです。

もどかしくて、少し寂しいです。

でも、穂乃果にこんな弱点があるということを、再度確認することができました。

これから数日、夜1人で帰るのは―辛そうですよね。

もちろん、迎えに行くつもりですが。


雪穂「あの、今日は、うちに泊まりませんか?」

海未「ですね。はぁ、冬の夜は暗くて嫌になります」


― 穂乃果の部屋 ―




穂乃果「うー」


穂乃果はベッドに向かって座り、伏せています。

一度伏せてしまい余計に恥ずかしくなったのかは知りませんが、びくともしません。

まぁ、さっきの事がありますから、気持ちは分からなくはありません。

私は昔、泣き虫だったのでしょっちゅう家にこもってしまっていました。

実際は自分の考えすぎなんですけど、周りの目が怖くて。

それは今でも、特に失敗をした時などに結構ありますね。

どうにもならないんですよね、自分の中で考えすぎてしまったことなので、周りから何を言われようが、どうしようもなくて。

今はなるべくそっとしておいた方がいいですかね。

だとしたら私はここにいても大丈夫なのでしょうか。

でもあの時、弱虫な私を助けてくれたのは穂乃果でした。

弱かった私が「お友達」を夢見て、震えながら見ていたこともお見通し。

そんな震える手をぎゅっと、穂乃果の物だと言わんばかりの愛で、引っ張ってくれたのです。

あの出会いがなければ、私は根暗な女の子になっていたかもしれません。

穂乃果ならこんな時どうするのですか。

―またこうして穂乃果を頼ってしまう。

穂乃果が基準で、単体で何もできないなら、私は変われていません。

高校時代、自分を責めてスクールアイドルを辞めると言った時、皆に迷惑をかけたくないと夢見たラブライブに出ないと言い出したりしたことを、未だに覚えています。

その時は何故か、穂乃果の為だからと夢中になり、動くことが出来ました。

ですが、私は恋というものを知ってから、更に弱くなった気がします。

穂乃果だけの世界に生きて、穂乃果がいるだけで幸せで、自分のことは二の次で。

分かっていてもそれを肯定してしまいます。

体も心も、恋に落ちてしまっているから。


海未「ズズ....ふぅ」

穂乃果「....」


お茶を飲み落ち着きます。

横には私の大好きな穂むらまんじゅうが置いてあります。

気を抜けばこの部屋に漂う女の子の香りや、無防備に背を向ける穂乃果に、破廉恥な考えが浮かんでしまうような気がしますのに、今は少し感傷的な気分です。

なんだか何もできない自分が情けなく、涙を流してしまいそうなのです。




穂乃果「....ん」

海未「あ....」

穂乃果「....」

海未「あれ、もしかして、寝てしまいましたか?」

穂乃果「....」


穂乃果は無言で首を振ります。

反応するあたり、実は構って欲しかったりするのでしょうか。

その素振りに、自然と体が穂乃果の方へ向き、右手が宙に浮きます。

でもこれから何をするべきかわからず、言葉が出ずに口をぱくぱくさせながら、浮いたままの右手を胸に引き寄せました。

穂乃果は、待っているのでしょうか。

私なら―私なら―。

穂乃果に優しくしてもらいたい、慰めてほしいって、真っ先に思うと思います。

恋人としての触れ合いをお互いに求め合う気持ちがあるのに、どうしてこうも臆病になってしまうのですか。

欲望のままに動けたらいいのにと、こんな時は思ってしまいます。

でもこんな寂しい沈黙が続くのは嫌です。

もう、なるようになれ―です。

私の体は穂乃果に引き寄せられるように動きます。

近くへ、もっと近くへと。


海未「....穂乃果」

穂乃果「ぁぅっ」

海未「え、え?ごめんなさい!」

穂乃果「べべっ、別になんでもないしっ!」


体で包み込むように寄り、耳元で名前を呼ぶと、体を大きくビクつかせました。

もしかして、耳や首筋が、弱かったりするのでしょうか。

なんだか恥ずかしいです。

でも普通に、話せるではありませんか。




海未「ねぇ、穂乃果」

穂乃果「....うん、なぁに?」

海未「顔、こちらに見せて下さい」

穂乃果「うぅ」

海未「こんなに顔を赤くして....気にしなくてもいいのに」

穂乃果「え....海未ちゃん....泣いちゃいそう....なの?」


涙が出そうで、甘えたような喋り方になってしまいますし、私どうしてしまったのでしょうか。

眉を寄せ、口が開きっぱなしの穂乃果の顔を見る限り、お見通しのレベルではなく、顔に現れてしまっているんでしょう。


穂乃果「海未ちゃんは悪くないんだよ?穂乃果はただ、子供っぽいところ見せちゃったから、どうすればそういう所も好きになってくれるんだろうって、頭がいっぱいになっちゃってて」

海未「好きに....なってもらう?弱点をですか?」

穂乃果「それは....だって、穂乃果、海未ちゃんの事が大好きなんだよ?知ってるでしょ?だから自分の弱いところ見られちゃったら、そこも愛してもらえるように頑張らないといけないって....思うから」

海未「ぁ....」

穂乃果「恥ずかしさに勝たなきゃいけないし、でも海未ちゃんの思ってることなんて目に見えないから、余計に恥ずかしくなっちゃうし。だから頭の中こんがらがっちゃって―」


困り顔のまま、私に話してくれます。

弱点を悩むより、それごと好きになってもらえるよう、ですか。

どうして、そうやって。

私にないものを持っているんですか。

そんなこと考えることもできなかったのに。

私なんか、私なんか―。


海未「私なんかっ!」

穂乃果「海未ちゃん!?」




もう、何が何だかわからなくて。

頭を抱えて小さくなってしまいます。

嫉妬してしまいますよ、どうしてそんなに強いんですか。

子供っぽい?そんな所も当たり前にずっと好きなんですよ。

考える前にとっくのとうに好きにさせることができているんですよ。

私なんか悩むことしか出来ない。

ネガティブに、ずっと引きずって。

さっきまでも穂乃果に何もできない自分が情けないと、悔やんでばかりでした。

穂乃果みたいに、体は動かなくても頭でいい方へ向けるためにと考えることなんて出来なかった。

昔のことを掘り起こしてしまい、心が更に弱くなって。

私なんか、私なんか―。


海未「馬鹿です....私の馬鹿....」

穂乃果「う、海未ちゃん....」

海未「きっと私なんか穂乃果に相応しくないんです....気づけばネガティブに考えて....穂乃果に会えなくなれば自分勝手に寂しくて頭が痛くなってしまう」

穂乃果「....嫌....」

海未「好きなのに、こんなに大好きなのに、私は幸せになれても、穂乃果のことを幸せにすることなんてできない!不器用で、小心者で―もう―嫌―」

穂乃果「そんなこと言わないでよぅっ!!」

海未「ひっ....ぁ....」


壊れたように口が動いていたのに、穂乃果が声を裏返してまで大きな声を出して、止めてくれました。

彼女が怒ったのは初めてで、少し、怖いです。


穂乃果「何度も言ってるじゃん、穂乃果は海未ちゃんの事が大好きだって!そんな風に海未ちゃんを愛している人が目の前にいるのに、海未ちゃんの悪口を言わないでよ!」

海未「穂―」

穂乃果「そんなの、海未ちゃんでも許さない!」

海未「く....ふぅ....うぐっ」




先ほどの怒鳴り声とは違う、どこか優しい声で私を叱りつけます。

―あぁ、これが穂乃果の考えている事。

私を本気で、愛してくれている。

こんなのずるいです。

さっきも自分で考えていたことではないですか、穂乃果と私は違うんだって。

心の歯車に引っかかっていたものが壊れ、また回りだしたような感覚。

穂乃果の一変して涙を浮かべ怒った顔を見て、私は堪えていた涙が―。


海未「止まっらない....ごめんなさい、私、うぐっ....あぁぁ....ひくっ....うっ....」

穂乃果「弱いところなんて、誰にでもあるって。恥ずかしくなるのだって当たり前だって。好きな人が近くにいるんだから、そんなこと助けを求めてくれてよかったんだよ。そんな海未ちゃんも大好きなんだから」

海未「はぃっ....穂乃果ぁっ....私のこと、全部好きになってくださいっ」

穂乃果「へへ、やっぱりわがままなくらいが可愛いよ」


全然、大人じゃないですか。

好きになってくださいなんて、言葉に出して言うことじゃないですよね。

でもそれが私の本音。

穂乃果が言っていたように、弱いところも好きになってもらえたら、気持ちが楽になる。

そんな気がします。




穂乃果「はぁあ、穂乃果も悩んでたことあるんだけど、なんか恥ずかしくなくなっちゃったかも」

海未「ぐすっ....ぅえ?」

穂乃果「海未ちゃん....ずっと好きだからね」

チュッ




涙で光って見えない視界のまま、声だけが聞こえる。

そして不意に、知らない、新しい感触が伝わる。

唇に、柔らかく、温かく、それだけで涙が引いてしまいそうなくらいの喜びと、幸せと。

でも急すぎて私は穂乃果を突き放し、涙を一生懸命拭います。


海未「はぁ、はぁ....ひくっ....えっ?....えっ??」

穂乃果「嫌、だった?」


私と同じくらい顔を火照らせた穂乃果が、涙が無くなった視界に映ります。


海未「今、な、何を」

穂乃果「えへへ、無理矢理が好きって、言ってなかったっけ?」

海未「ななっ、それはこの前穂乃果が勝手に!って、あれ、私、何を?大体さっきのが何かすら―」

穂乃果「わかってるくせに」

海未「い、いえ、涙で何も見えませんでしたからっ!わわっ、わたっ、私は何もわかりません!」

穂乃果「じゃあもう一回―穂乃果はちゃんと、したい」

海未「待っ、待って!まだ心の準備ができていませ―んぅ」


2度目の心地よい感覚。

今度はちゃんと穂乃果が見える。

でも自然と瞼が瞳を覆い、真っ暗な安らぎの空間を連れてくる。

女の子座りのままの私に、穂乃果は膝立ちで、私の方に手を載せて。

この体制が辛くなり、力のままに私の体は後ろに倒れ、頭に座布団の感触が広がりました。

依然として一生懸命にキスをしてくる穂乃果が愛しくて、初めての感覚に私は気持ちが良くて。

頭が、蕩けてしまいそうです。

初めて同士ながらもリードしてくれる穂乃果は、唇を啄んできました。

するともう本当に幸せで、気持ちよくて、頭が真っ白になり、何も考えられなくなります。

じわりじわりと目尻に暑い涙が溜まり、私の上にいる穂乃果の胸が当たる感触や、更には頬にあたる髪の毛と、くすぐる鼻息もすべて心地よくて。

満足どころか、辛いくらいに幸せを感じてしまい、私は穂乃果を押します。




穂乃果「ぷはぁ....はぁ....はぁ....あぁ....」

海未「大丈夫....ですか?」

穂乃果「うん....」


穂乃果はそのまま私の横に寝転がり、緊張で息切れした胸を落ち着かせます。


海未「すごく....気持ちよかったです」

穂乃果「予想以上だったかも....えへへ....なんかおまんじゅうの味がした」

海未「なっ、台無しですよぅ」

穂乃果「でも、穂乃果幸せ」

海未「わ....私もですよ」

穂乃果「ふふっ」


自由な左手を穂乃果の右肩にのせてながら、おでこを合わせて笑い合います。

さっきまで頭が真っ白になっていたので、ほんの少し冷静ですが、もう恥じらいも何も無い、自然な笑顔で。

あぁ、もう、これ以上の幸せはあるのでしょうか。

またこれからの毎日が楽しみで、一緒に食べるご飯も、お風呂上がりに一緒に見るドラマも、休日のデートも、全部もっともっと楽しみになって。

また新しい世界が広がったみたいです。

私を引っ張ってくれる穂乃果はやっぱり、ヒーローです。


穂乃果「今日、一緒に寝ようねっ」

海未「はい、喜んで」

穂乃果「ふふ、海未ちゃんの可愛い寝顔見たらちゅーしちゃうかもねっ、ふふっ」

海未「な、なら私は―」


どこに行っても離さない、お婆さんになっても、死んでしまっても、絶対に離れたりしないと誓っていますから。

何時までも共に歩んでいきたいから。


海未「うふふ、夢の中で結婚なんてしてしまうかもしれませんね」


おしまい(?)


― ??? ―




「あれ、新しいお菓子がある」

「本当、綺麗なお菓子だねぇ」

「これが海なら、これは夕日かな?」

「うわぁ!私これ食べてみる!」

「じゃあ、私も。これ、5つください!」

「それにしてもこれ、コンクールとかに出てそうなお菓子だよね」

「うんうん、だとしたら名前どんな感じだろうね」

「うーん」

穂乃果「お待たせしましたー」

「ありがとう〜、あ、ねぇ、これなんて名前なの?」

穂乃果「名前はないんです。好きに呼んでくれていいですよ」

「そうなんだぁ」

「じゃあ行こうか、ここあ」

「うん、お姉ちゃん」

「いつも美味しいお菓子ありがとうございます!穂乃果さん!」

穂乃果「ふふ、お姉さんにもたまには来てねって言っておいてね。あ、あと、CM出演おめでとうって言っておいてね」

「はい、それでは」

ガラガラ....



穂乃果「ふぅ....大きくなったなぁ」

海未「相変わらず仲が良かったですね」

穂乃果「このお菓子の名前だってさ」

海未「そういえば決めていませんでしたね」

穂乃果「お店に並ぶものとしては、だけどね」

海未「あぁ、確かにあれは作文の題名みたいな名前でしたもんね」

穂乃果「う、うるさいなー」

海未「ふふ、みんな、きっとあなたのお菓子を美味しいと言って食べてくれますよ」

穂乃果「....うん、ありがとう。よし、発売記念で今日は家でたこ焼きパーティーしよう!」

海未「わぁ、楽しそうです!」

穂乃果「それじゃ、お財布渡すからお買い物頼んでもいい?」

海未「もちろんですよ。穂乃果はその間店番、頑張ってくださいね」

穂乃果「はーい。行ってらっしゃい、海未ちゃん」

海未「はい、行ってきます」

ガラガラ....

穂乃果「ふふっ....楽しみだなぁ」


海未「海で見た夕日」

おしまい

ほのうみの人か!乙

海のくだりで、海未のソロアルバムのやつ思い浮かんだわ…
面白かった、乙!

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