モバP「望月聖にプロポーズされた」 (126)
モバマスSSです。
地の分を含むのでご注意ください。
更新不定期。
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◇
赤茶けた色の綺麗な瞳が視界一杯に広がる。
「…………あ、あの、その……」
瞳が揺れ、今度は一房の黄金色の髮が眼前に垂れてくる。
「……あのっ」
黄金色の持ち主、赤茶色の瞳を持つ少女は更にずずいっ、とこちらに顔を近づけてくる。
近い。もう少しで鼻と鼻がぶつかりそうな距離だ。
いつもは控えめな性根の持ち主である少女はなにかの意思を秘めた瞳を再びこちらにむけてくる。
「あげますっ、……から」
なんの話だそれ。
まるで意味が分からない。
困惑する俺を余所に、少女、望月聖は真っ直ぐにこちらに向けてくる。
潤んだ瞳、赤く染まった頬。愛らしい顔つきがドアップで迫る。
「わたしの声、一番大事なもの!、あげます……から。あなたを……その、あなたの全部、……わたしに、く、ください!」
気づけば俺はプロポーズされていた。
年端もいかない、俺の半分も生きていないような少女に。
それは世間様からは冷凍ビーム的な視線を受けそうなプロポーズであった。
期待
頭の中ごと凍りついたような気分だった。
思考が回らない。
恐らくはアホみたいというか、アホそのものの顔をしているだろう俺をじぃっと見ながら、聖は真剣な顔つきを僅かに緩めて首を僅かに傾げた。
それから少しだけ興奮したようにふんすと鼻を鳴らし体をこちらに寄せてくる。
「……あの、もっと……ほしい、ですか」
「なにが!?」
条件反射に仰け反る。
なに、なんなの。えっちぃ話、えっちぃ話なのか。
1×歳相手にえっちぃ話なの。
田舎の母に涙ながらに謝罪しなくちゃいけないの、俺。
「……そう、ですよね。声だけじゃ、足りない……、かな。ぜんぶ、全部わたしも差し出すべき、ですよね」
聖が顔を伏せ、一言ぼやいた。
「俺がお巡りさんに差し出されそうなんだが、それは」
「合意の上、ですから……大丈夫です、ね?」
なぜか上目遣いでこちらを見上げてくる聖。
幼女との合意の上でお巡りさんに差し出される俺ってシチュエーションかな。
……特殊性癖すぎやしませんかね。
「……?」
なぜか彼女、望月聖は不思議で堪らないというようにこちらを見ている。
しかし、不思議で堪らないのはこっちである。
「わたしの声、すきですよね……?」
「好きだけど」
これは紛れも無い本音だ。
俺は聖の声に惚れ込んでいる。
「……じゃあ、わたしの声……欲しい、ですよね」
「そのりくつはおかしい」
俺は何者だ。他人の声を奪う悪魔かなにかか。
「……交換……しましょう?」
確かに惚れ込んではいる。
だが、だが、だ。
その声とエクスチェンジされそうになっている俺という存在とは一体なんなのだ。
「……ね?」
鈴を転がすような愛らしく、どこか安心する声。
この声となら、いや、この声ではきっと吊り合わない。俺という存在の価値がきっと足りない。
「……交換しましょ。そー、しましょ?」
子供の頃にどこかで聞いたような囁き。
気づけば俺の小指に小さく、ほっそりとした小指が絡まるというよりはくっつけられていた。
「ひどい鮫トレだなこれ」
こんなに価値のあるもの相手に差し出すものを俺は生憎持っていない。
そんな俺のぼやきは空気に溶けていく。
「……俺のこと、からかって遊んでるだろ?」
「……んと、……どうかな……?」
目の前でいたずらな笑みを浮かべる望月聖は初めて彼女を見た時とはまるで別人のようで、少しだけ面白いような気がした。
「お前も冗談が言えるようになったのか……純粋だった聖も汚れてしまって……はぁ」
聖に無言で脛が蹴り上げられて俺は痛みに膝を抱え、蹲る。
なぜかそんな哀れな俺の背中に、さも当然のように座り込む聖。
「……もしかして、怒っていらっしゃる?」
「……別に」
その声はいつになく冷たかった。
◇
住宅街を外れて少し人気の少ない路地を歩くとその先には小さな教会がある。
特に敬虔な信徒、という訳ではないのだが、日曜日の午後四時半くらい。決まって俺は協会の近く、とある場所へ赴く。
ナウなやんぐらしく、教会から少し離れた荒れ地にあるペンキの禿げたベンチに腰掛け、軽く足を組む。
手入れされない半ば荒れ地と化した場所にぽつりと取り残されたように残されたベンチ。
当然周囲には人の子一人居らず、やや背丈の高い植え込みが自己主張をしているだけだ。
午前中からお昼ごろにかけては、教会で近所の子どもたちの聖歌隊とは名ばかりのなんちゃって合唱団が好き勝手活動していたりするのだが、この時間になると静かなものだ。
―――そろそろだ。
瞼を閉じて、耳を澄ます。
小さな声が流れてくる。
鼻歌交じり、囁きのような旋律。
天使の歌声を聞ける日はきっといいことがある。そんな気がするのだ。
◇
◇
人は慣れる生き物、みたいです。
伝える努力をしなければ、人には伝わりません。
わたしの好きなものが、大事なものが、他人にとって必ずしも特別なわけでもないみたいです。
歌うことは、きっと……好き。
だけれど、そこにはなんの意味もありはしません。
最初は興味深そうに、すごいと言っていた人も少しずついつもの距離に戻っていく。
「……今日も、いる」
最後に聖歌隊のお友達とお別れしてどれだけ経っただろう。
少しだけ空の色が陰り始める。
――そろそろ、です。
教会の窓から外を覗くと、植え込みの影からひょっこりと男の人の首が生えている。
少しだけ、高い位置にある窓の縁に背伸びをして肘を掛ける。
意味なんて、ない。
吹けない口笛交じりに。
時々、苛立ちを込めて。
いいことがあった日には喜びを乗せて。
思いつきのままに、滅茶苦茶に、どこかで聞いたような歌を。
そして、途切れ途切れの、瞬間、瞬間の閃きを、歌う。
ぐちゃぐちゃのリズムに合わせるように、小さく遠くに見える首が揺れる。
何日も、何ヶ月も、もう数年繰り返してきた流れ。
わたしにとって意味のない囁きはあの心地よさそうに揺れる頭にとって心地よいものなのだという確信を持つのに長い時間が掛かった。
最初に踏み出したのはいつだった、かな。
わたしが小さく囁きながら、ぼろぼろのベンチに近づいた日。
何日も、何ヶ月も、何年も背中を向けたまま揺れるだけだった影がこちらを向いて、小さく微笑みを浮かべて初めて、わたしを見た。
きっときっと、いつか。
交換しましょう。
わたしがまだ意味を見いだせないけれどそれでも大好きな、歌をあげます、から。
そんなわたしの歌に意味を見出した、あなたの楽しそうな笑顔を、わたしに、わたしだけに、ください。
◇
一旦ここまで。
多分、きっと、続く。
おやすみ。
声(CV)をあげるから全てを差し出せという鬼悪魔の囁きかと思った…
なにそのエグそうな人魚姫
熱い吐息が手の甲に吐きかけられる。
潤んだ瞳がこちらに向けられる。
「……大丈夫、です」
なにが、なんのことを言っているのか理解出来ない。
「ずっと、わたしのこと……見てて、くれましたから」
理解、出来ないはずなのに聖の言葉はどこか心の奥底にすとん、と落ちていく。
「きっと……きっと……」
聖の表情が僅かに緩み、口元が笑みを形作る。
「日曜日の夕方……わたしだけの、お客様」
盗み聞きの常連である俺をよくもそこまで持ち上げられるものだ。
「毎週、毎週」
聖は言葉を続ける。
「大人の男の人が日曜日の大事なお休みを何日も、何年も、何年も、わたしのために、くれる。だからこの人はきっと――」
小さく息を吐くと、聖は再び口を開いた。
なぜか俺の心臓の鼓動が少しだけ早くなった気がする。
「――お休みを一緒に過ごす好きな女の人も……仲の良いお友達も居ない可哀想な人なのかなって」
すとん、どころかずどんと鋭いなにかが心の奥底に突き刺さった
俺は泣いた。
こんな穿ったものの見方をする現代っ子の現状に。
別に俺がモテないとか仲の良い友人も居ない寂しい人間であるということに関してではない。
断じて、ないのだ。
俯き、震える。
生きるのってつらい。
……虚しい……。
俺はいままでなにをやって生きてきたのだろうか。
ここ数年で一番の精神的ダメージを負っている俺の頬に小さな掌が添えられる。
「わたし、だけは……ずっとあなたを見てます、から」
見上げれば天使のような笑みをした聖が微笑みを浮かべている。
いや、やはり彼女が、彼女こそが本物の天使なのかもしれない。
「……世界中の誰もが、あなたを見放しても、わたしだけは、わたしのあなたと、ずっと、ずっと、手を繋いだまま、ですから」
「…………あぁ、あぁ……!」
天使の言うことはきっと正しい。
つまり聖、いず、じゃすてぃす。
「……わたしたちのお家に、帰ろう?」
「そうだな」
聖に優しく手を牽かれ、俺は歩き出した。
導きの先にはなにが待っているだろうか。きっと穏やかな日々が待って――。
……ん?
「いやいや、わたしたちの家ってどこだよ。俺、どこに連れてかれそうになってんだよ」
「…………」
聖が振り返り、先ほどとは打って変わって半眼の、どこか機嫌悪そうな表情を向けてくる。
「…………冗談、です」
小さな、とても小さな舌打ちが聞こえた気がした。聖がそんなことするはずがないので、きっと気のせいだろう。
一旦ここまで。
ひじりんに押せ押せでたらしこまれたい。
ワロタ
てんしーのよーうなー
てんしーのえーがおー
かーきんがくあふれてーいるよー
ちょーきーんなーいーのにー
??「貯金が無くとも臓器がありますよね?」
何やってんだよお前ら
「……勘違いしているようだから言っておこう」
俺の半分も生きていないであろう少女へ、俺は胸を張って宣言する。
真剣な光を宿しているであろう我が瞳は真っ直ぐに少女を射抜く。
そうだ。えんじぇるひじりんとはいえ、所詮小娘。
どうとでもなる。
「……」
感情の色を映さない聖の瞳が俺を捉える。
自然と喉が鳴る。
なぜだ。なぜ俺は緊張している。
違う、言ってやるんだ。
大人の男の威圧感というものを見せてやれ、俺。
「べ、別に俺だって友達が少ないわけじゃらいんらからら!」
噛んだ。畜生。
「大丈夫、です……。分かってます、から」
大人の手を包み込むには小さすぎる一対の掌。
きっと子供にしては低めの体温なのだと思う。
だが、なぜだろうか。
どうしてか悲しみに苛まれた心の痛みが少しだけ救われた気がしてどうしようもなく、情けなくなる。
「違うんだ……」
そうだ、違う。
俺にだって信頼出来る仲間たちが居る。
挫けるな、俺。
瞼を閉じて思い浮かべる。
脳裏に焼き付いたイメージを思い返すように、浮かべ、口に出す。
「俺には頼れる猫耳とか、エスパーとか、最近ロリコンっぽいのとか、永遠の十七歳とか美少女野良サンタクロースとかが居るんだ」
俯き、呟く俺の頭が聖に優しく抱きしめられた。
「……ここに居る、私は……本物、ですから……」
――チョイスにちょっと失敗しただけだから。他にもっといるから。
これは敗北じゃないから……。
俺は聖の胸の中で少しだけ泣いた。
辛辣だなぁ
これがシュールギャグか……?
「違うから。全部本物だから……」
みくにゃんもロリコンもウサミン星人もサンタさんも居るんだ。
それどころか、常日頃から接している。
そう説く俺を聖は真っ直ぐに見据える。
「……本当に……そう、かな?」
「えっ」
首を傾げ、疑問をかざす聖。
「全部、本物だって……断言出来ます、か?」
「それは……」
「嘘偽りのない、ぜんぶ、知ってます……か?」
そんなの知るわけがない。
喉元まで出かけた言葉を飲み込む。
そんなこと、知らなくて当然だ。
知っていないことが普通で、その必要もない。
「わたしは……全部教えてあげます、本物はわたしだけ、です。他を信じちゃメッ……です……」
ホンモノ……。
ホンモノってなんでニセモノってなんなんだ。
「あぁ……」
聖は俺の顎を妙に艷っぽく撫でた。
思考が凍りつき、彼女に全てを委ねたくなる。
「…………行こう?」
「……あぁ」
ベンチから立ち上がり、聖に惹かれるままに一歩踏み出す。
覚束ない足取りに足首を挫いてしまう。……痛ェ。
「……ちょっと待って、俺がちょっとチョロくてアホだからって俺で遊ぶのはやめないか」
再び舌打ちが聞こえた気がする。
天使は舌打ちをしない。
気のせいだろう。
というかマジでどこに連れてくつもりなんだろうかこの子は。お巡りさんのとこか。
このひじりん好きだわww
ほっそりとした両手を静かに胸元で組む聖。
その表情は穏やかで、祈りのような姿と相まって目を惹きつけられるものがあった。
「……お姉さんも言ってたこと、正しかった、です」
小さいながらも、澄んだ声色が周囲に響く。
「わたし、欲しいもの、見つかりました」
――笑った。
散々天使だなんだと評してきた俺だが、一瞬の混じりけのない笑顔はどうしようもなく、歳相応の、ただの少女だった。
「お姉さんって誰のことなんだ?」
「……ご近所の、お姉さん、です。優しい人で、お話、楽しいです」
「へぇ、立派な人なんだな」
「……はい」
思わず口元が綻ぶ。
幼い頃に憧れた人々、なんともまぁ、微笑ましいというか。
嬉しそうに語られる「お姉さん」像からその人がどんな人なのか想像するのが少しだけ楽しい。
「……最近になって、少しだけお姉さんの言っていたこと……わかりました」
「そうか」
その笑顔に可愛らしい、そんな感情が自然と湧いてくる。
「……赤い糸で結ばれた大切な人は、全部欲しいって」
「へ、へぇ……」
「……わたしだけに、笑って、わたしが泣かせて、わたしが、怒らせて、わたしと、仲直り。笑顔も、涙も、怒った顔も、喜びも、悲しみも、全部……欲しい。……まゆさ……お姉さんの言うとおり、でした」
愛情が重すぎる。
早期教育は内容を選びましょう
とくに13歳に対しては
「……いや、その、もうちょっと歳相応にしてもいいんじゃないか」
というより、正直反応に困るのだ。
人によっては幻想的にすら見える容貌と大人しい性根。
考え方がちょっとアレなのは別として、穏やかな性根の優しく、丁寧な子だ。
もう少し、普通にしていても良いのではないか。
「歳相応……?分かりました。やって、みます」
「いや、別にお題を振ってるとかそういう訳じゃないから――」
そもそも普通、普通ってなんだ。
なんかこの子と話始めてからしょうもないことばかり妙に引っかかる。
「分かり、ました。パパ」
「悪い。やっぱやめよう」
「……でも、子供さんいても……おかしくない歳、ですよね?」
「やめて」
聖の純粋な疑問をぶつけられた俺の声は震えていた。
「ほら、友達とか好きな男の子とかそんな感じの――っむっ――」
言葉を続けようとした瞬間。
「大丈夫、です」
俺の唇に聖の人差し指が添えられる。
なにが?という心の中で浮かんだ疑問は聖の言葉で打ち消される。
「……わたしが、あなたのお友達で……親友で……す、好きな女の子です、から。あなたのほしいもの、全部あげます、から」
聖の頬は僅かに桜色に染まっている。
……いや、でも違うから。
俺の友達と仲良くらんらん、闇に飲まれよ。
とか恋人といちゃいちゃ出来なかったような無味乾燥とした学生時代をキミには過ごさないで欲しいとかそういう悲しすぎる理由で歳相応とか言った訳じゃないから。
むしろなんでそんなところに思考が着地したんだよ。
俺は聖の胸の中で再び泣きながら心の中で吠えた。
一旦ここまで。
さらばなのじゃー
おっつおっつ
このPさっきから何回B82の中に顔埋めてんだ
そこ代われ
マジか、ひじりんってひんそーでちんちくりん(B80or81)より胸あるのか
ひじりんが巨乳巨尻なのは有名な話
◇
相も変わらず、今日も俺は教会へ向かう。
正確には教会ではなく、盗み聞きに……じゃなくて、盗聴……でもなくて、野鳥観察なのだが。
野鳥観察……便利な言葉だ。
……本当に野鳥観察が趣味の方たちにはいつかぶん殴られそうだが。
今日も俺はのぼんやりと、穏やかに時間を潰……日曜を有意義に過ごすつもりだったのだが、今日は先客が居た。
ベンチに座る一人の少女。
ちょこん、と膝に乗せられた掌。
座ったまま、時折ゆらゆらと揺れる踵。
そして、唇が時折小さな唄を紡ぐ。
彼女こそ望月聖、その人であった。
金色の髮の束が揺れ、木々の隙間から刺す太陽の光にどこか眠たそうな、眩しそうにする瞳が俺を捉えた。
「……」
「……」
俺と聖の間に降りる沈黙。
暫くして、聖は僅かに首を傾げ、右手を左の掌にポム、と押し付けた。
そして、なにかに納得したように数度頷く。
―――そして、両の掌を自らの膝にぺちぺちと数回触れさせた。
「……どうぞ」
……えっ?
俺が呆けていると、聖は再び自らの膝の上に掌をぺちぺちと叩きつける。
「……わたしの膝の上……座って、いいです、よ?」
なんでやねん。
「いや、無理だよな。どう考えても」
「……がんばり、ます」
小さく両手をぐっと握りしめてアピール。
……なんでキミはそんな無駄な所にがんばりますポイントを振ってしまっているのか。
「……座らないぞ?」
「いじめ、ですか?」
「これで平然に「おっ、今日は幼女に座っていいのか」って座ったらそっちの方が虐めだと思わないか?」
「……ようじょじゃ、ないです」
むっ、とわずかに表情を不機嫌そうなものに変える聖。
やりとりにどこか懐かしさを感じる。
子供が背伸びしたくなるのはいつの時代も変わらないものなのだろうか。
「……わたし、大人……です」
「そうか、そうか」
そうと分かれば、膨れる聖が微笑ましく見える。
「……でも、日下部若葉さんがわたしより大人の人って……おかしい、です」
まぁ、俺が子供だったらその気持ちは分からんでもない。
「……わたしのお母さんが、安部菜々さんが日下部若葉さんの歳下なのはおかしいって……」
凄く分かる。
「……わかる、わ」
わからないわ。
「……この間、ドラマで……やってました。男の人が女の人を膝に乗せて……お腹に手を、まわしてました」
「ほう」
「……だから……やって、あげます」
なぜ、俺が抱かれる方なのか。
ちょっと意味が分からない。
「……勉強、しました」
聖はふんす、と可愛らしい鼻息を一つ。
「……好きな人に抱かれるのは……嬉しい……ですよ……ね?」
「そのセリフ、他の人が居る前で言うと危ないからやめような」
この子、野放しにするには危険すぎるわ。
というか、聖のことを好きって前提で話が進んでいる気がする。
「女の人、抱かれて幸せそう……でした」
まぁ、ドラマだし。
現実じゃないしな。
「……だから、私が……抱っこして、あげます」
なんという直列の思考回路、というか所々男前すぎる。
見た目は儚げな印象なのに性根が強い。
「……はじめてどうし、です」
「……俺は!俺はっ!」
力を込めて一喝。
「俺ははじめてじゃないかもしれないだろ!」
「……やったことない、ですよね?」
「……はい」
地面に膝をついて悲しみに項垂れる俺の頭をあやすように撫でながら聖は満足気に一つ、頷いた。
一旦ここまで。
ひじりんに飼われたい
乙
まさに魔性の女
ここのひじりんはミステリアスアホかわいいな
ひじりん好きとして応援してるぞ!
このままでは某カリスマギャルと同じ暗黒面に堕ちてしまうぞ
ひじりんと今まで縁がなかったのもあって意識してなかったけどひじりんPになりそう
まっている…まっているぞ…
保守
◇
この日の朝は水滴の弾ける音で目が覚めた。
「……日曜」
寝癖の酷い髮をがしがしと撫で付け、起き上がる。
まだ、頭がぼんやりする。
「……雨、か」
カーテンを開き、窓を覗き込むと、空には薄暗い雲がかかり、雨粒が窓硝子を打っていた。
それどころか、風がごうごうと吹き荒れて、見るからに嵐だった。
「今日はおやすみかね」
俺の脳裏をよぎるのはエンジェルひじりんの姿だった。
どちらにせよ、この雨と風では盗み聞き日和とは言いがたい。
……というか、そもそも聖は最近歌ってくれないような。
それとも俺のところに直行してくるから自然と頻度が減っているのだろうか。
なにより恐ろしいのは、俺は元々彼女の歌目的だったのに、当たり前のように彼女と喋り、時々じゃれあって(合法)いたことだろうか。
……素直に楽しい、とそう思ってしまっているのだろうか?
…………まさかね。
ごうごうと勢いを増した風が窓を鳴らす。
風と雨は増すばかりだ。
今日が日曜で良かったと、淡々と積みゲーの山を崩しながらそう思う。
ふひひ★
「たーるっ!」
◇
時刻がお昼を回り、程よく小腹が空いてくる。
なにかお腹に詰めて再びゲームに戻ろうと、立ち上がると、玄関の方からドンドン、となにかを叩く音が聞こえた。
「……こんな日になんぞや」
モニターの電源を消し、玄関に向かうと再び聞こえるドアを叩く音。
「はーい。どちら様……」
ドアを開いた先に居たのは佐川でもヤマトでもなかった。
全身をすっぽりと覆う黄色のかっぱ。……ただし、なぜか泥まみれ。
そして真っ赤な色の小さな長靴。
かっぱの隙間から場違い感のある金色の髮が伸びて、雨に濡れた先端から雫を滴らせている。
「……嫁、です」
なんだ、嫁か。
……いや、なんでやねん。
目の前の髮の先端からぽつぽつ雫を落とし続けるずぶ濡れ黄色かっぱ少女を観察。
なぜかその頬には泥汚れ。そして頬はやや赤い。
「ちょっと嫁の存在に心当たりがないのですが」
「……本当……です、か?」
「残念ながら」
「……これは記憶喪失、です……ね?」
「超展開すぎてちょっと脳の理解が追いつかないんだが」
「……大丈夫、です。問題、ないです」
「むしろ障害が多すぎて問題ないならそっちの方が問題だと思うんだが」
かっぱ少女、聖は可愛らしく小首を傾げて見せた。
「……略奪モノのテンプレート、です……。関係ない女の人が……男の人が記憶喪失になった瞬間に……略奪狙い。お母さん……そういうの好きで、マンガとか……ドラマとか……ありました」
「自分のお母さんの趣味嗜好をむやみやたらにバラすのやめてあげようか?」
不憫すぎるわ。
聖は小さく息を吐き、なにかを思案しているようだ。
暫くすると、雨音にかき消されそうなほどに小さく鼻を鳴らし、ようやく口を開いた。
「……あなただから教えてあげた……だけ、なんだから……ねっ?」
ここって付け焼き刃のツンデレ使うシチュエーションじゃないよね。
……俺が間違ってる訳じゃないよな。
なんで俺はこんな幼い少女にぶんぶんと振り回されているのだろうか。
無言のまま俺の視線と聖の視線がぶつかる。
よく見ると聖の瞳はどこかとろんとしているし、頬の赤さは増している気がする。
「……んっ。はっ」
聖の額に掌を添える。
なんだか微妙に色っぽい声が聖から漏れた気がするが気のせいだろう。
掌越しに伝わる熱は熱く、聖の額についた泥のカサつきが分かる。
……熱が出てるな。
というかなんでこんな汚れてるんだ。
「どこかで転んだか?」
「……水の竜神様の生け贄……です」
「どこかで転んだか?」
「……水の竜神様の……い、生け贄……」
「どこかで転んだか?」
「……水の竜神……」
「どこかで転んだか?」
「……水……」
「どこかで転んだか?」
降りる沈黙。
目を忙しなく動かしていた聖は、やがて観念したように下を向いて顔を背けた。
「……水溜まりに……頭、から」
「そうか」
この子の恥ずかしがるポイントがよく分からない。
一旦ここまで。
また後で。
素晴らしい
聖最高
もっとだ!もっとくれ
ああ……ああ!!
さて、どうしたものか。
この娘がなぜうちを知っているのか、そもそもなんで来たのか、来たのがよりにもよってなぜこんな暴風が吹きすさぶ日なのか。
……突っ込みどころは山ほどあるが、それは一旦置いておく。
「……ふぇ、しっ」
聖が俺から顔を背けたままくしゃみを一つ。
そしてすすり上げる音。
これはいかんな。
「ちょいと失礼」
「……きゃぅっ!?」
ひょいと聖の腰に手をやって、抱えるように持ち上げる。
……ふむ。
「……意外とずっしりしている」
「みじゅがっ、服を吸ってるだけっ、ですからっ!」
落ち着け。
とりあえずは風呂にでも放り込むしかないか。
すす、と鼻を啜る音がする。
目の前の美少女は明らかにその体躯には明らかに大きすぎる俺のパジャマ代わりのスウェットに袖を通し……いや、袖まで手が届いてないけど。
ともかく、袖を垂らし、スウェットの裾を踵で踏みながらぺたりと床に座り込んでいる。
風呂上がりの全身からはふわりと湯気がわずかに立ち上っている。
そして、俺は聖の金色の髮の房に手を添えながらドライヤーをかけていく。
「……」
「……」
熱に浮かされているのか、聖はぼんやりと視線を彷徨わせている。
「……んっ」
しかし、時折気持ちよさそうに目を細めている。
「……」
「……」
淡々とごうごうと音を立てるドライヤーを用いて目の前の柔らかな髮の世話を焼く。
「……なんで俺こんなことやってるんだろ」
返事はない。
一つ、ご満悦と言わんばかりの小さな鼻息が聞こえてきただけだ。
それを聞いて、なぜかだか少しだけまぁ、いいかと思ってしまった。
スウェットの襟元から生乳がちらちらしてエロいんだろうなぁ
聖の濡れた瞳には一杯に俺が映っていた。
なにをするでもなく、その瞳は俺だけを捉えている。
「……一生……しあわせに、します」
熱に浮かされているからか、妙に迫力のあるセリフだった。
「……後悔、させません、から」
見た目の儚さとは裏腹になぜかグイグイと来るこの少女になぜか心揺らされそうになる。
着崩れて肩からずれ落ちそうなスウェット。
ダボダボな手足のスウェットとは真逆で上の露出がやたら激しい。
俺は無言で大人用の熱冷ましシートを少し小さく切って聖の額にぺたりと貼り付ける。
「……ん、ひんやり……です」
にへら、と少しだけだらしなく笑った。
それだけ。
それだけなのになぜかやたらと謎の庇護欲が湧いてくる。
まるで底なし沼にハマっていくような。
なんだこれは。
なにか、大事なものが駄目になっていく気がする。
一旦ここまで。
ひじりんに飼われた。
さすがだな
飼われたいと思ったときには既に飼われている、それでこそプロデューサー
この子確か蘭子やあずきよりスタイルいいんだっけ
なお年齢は
我が物顔で俺の安物のパイプベッドを選挙する一人の美少女。
「……頭、いたい」
目の前の少女はしかめっ面をこちらに向ける。
「さよか」
パイプベッドの端に腰掛けながら意識して興味なさげに応える。
残当というか、なんというか。
額にぺったりと熱冷ましシートをひっつけててだぼだぼのスウェットを身に纏う少女からは気力が感じられない。
「……」
「……」
無言。
とりあえずは大人しく寝ていて欲しいものだ。
「……目の前が、ぐちゃぐちゃ……」
「そりゃ、熱があるからな」
ふと、気づく。
なぜか聖は俺の顔をじぃっと見つめていた。
「……あなたの……お顔が……いえ、なんでもない、……です」
「熱が、あるからな。……熱だよ。違うよね、俺のお顔がぐちゃぐちゃって言おうとした訳じゃないよね?ね?」
俺の声は震えていた。
仮に歪んでいてもれは熱があるからだよ。
「……いつも通り、な気がしてきました」
「どう見えてるか知らないけど普段はもっとイケメンだから……」
「……、……っ!……ッ…!!」
「そんな今まで見たことないような悲痛そうな顔する場面じゃ……ないから……ないよね……!」
半身を起こし、打って変わって穏やかな目をして自身の膝を叩く聖の膝の上で俺は泣いた。
泣き過ぎww
わらうわこんなの
望月聖(13)
http://i.imgur.com/WOKGOoL.jpg
まっとっよー
朝の目覚めは突然に。
なんともなしに、手を伸ばす。
瞼が重い。
いまいち頭が回らない。
「……柔らかい」
そして温かい。
小さく握りしめるようにして触れたそれをぼんやりとした視線で追う。
おへそだった。
触れる肌色とおへそ。
どうやら俺が触っていたのはどうやらだれかのお腹らしい。
膝の上に乗せた俺を包み込むようにしてまるまってお腹が捲れ上がり、服装を乱したまま眠っている望月聖。
……どうやら、俺は散々泣かされたまま無様にも寝こけていたらしい。
この光景。
世間様から見れば俺は立派なロリコンさんに見えるだろう。
だが、誤解だ。
誤解なのだ。
今更だが、捜索願とか出てたら俺マジで捕まるんじゃないだろうか。
震える。
あれ、これって割りとマジでヤバくね。
朝っぱらからセクハラをかましたとかちょっと本気でもちもち肌とかそんなことばかり考えてしまって動揺が深刻。
救いを求めるように視線が彷徨う。
そして部屋の片隅に飾られたクールタチバナポスターが目に入る。
あぁ、朝から橘はクールだなぁ。
完全に思考回路がショートしていた。
無言でスマホをフリックしてメールを作成する。
――
To:橘ありす
件名:求ム、回答
本文
モテすぎて逮捕されそう
――
◇
メールを送信してから後悔した。
なぜ、俺は橘にメールを送ったのか。もっとまともな人選がなかったものか。
思考の泥沼で足掻いているとメールの返信が来る。
悪戯メールかなにかだと思ってながしてくれると助かるものだが。
――
From:橘ありす
件名:おすすめできません
――
件名を見て、俺は首を傾げる。
一体なにがおすすめできないのか。
本文
【デザイン】★★☆☆☆
装いは割りとしっかりしていますが、一般ラインの粋を出ないです。
姿形は世間的に微妙です。
◇勘違いしてはいけません。
【性格】★★★☆☆
優しい。それだけです。
あと、アホっぽいです。
◇それだけです。
【スタミナ】★☆☆☆☆
小学生以下。
◇私より体力ないですよね。
【メンタル】★☆☆☆☆
シャボン玉メンタル。
大人なのに情けないです。
◇なんで私が怒られてるのにあなたが泣きそうなんですか。
意味が分かりません。馬鹿なんですか。
【総評】
万が一、億が一、あなたにそういったことがあってもそれはあなたの勘違いです。
それか相手があなたを騙そうとしているだけです。
絶対に信じてはいけません。いいですか?いいですね。絶対ですよ。
――
◇
「……小学生に価格.comみたいに……価格.comのレビューみたいに罵倒された……」
布団に舞い戻った俺は毛布を涙で濡らしながら嗚咽を漏らした。
最近の子供の気性は荒い。
価格.comとか笑うわ
こんなん小学生にされたら泣けるで
よし、四年後にイチゴが好きなタブレット少女がアプローチしてきても勘違いで済ませよう
大皿に適当に重ねられたトーストを小さな掌でひとつ、摘まれる。
「……大丈夫、です」
もそり、と聖はトーストの端を齧る。
もくもくもく、と真顔のまま、聖は咀嚼を続ける。
その顔つきには前日のような、熱に浮かされたような様子もない。
どうやら、昨日よりは体調はマシにはなったらしい。
一晩で回復。
やっぱ若さって凄い。
やっぱそれなりに歳を重ねると体調というよりは、やっぱ骨とか筋肉的なダメージが長引いて――。
「……聞いてます、か?」
「あ、あぁ」
俺が在りし日の若さについて想いを馳せていると、不満気な声がかけられる。
「お母さんに……出かける前に、お話したので……。あと、電話も、しました」
友達の家に泊まっているとでも話したのだろうか。
なんにせよ、我が家に警察が踏み込んでくることはなさそうだ。
「意外としっかりしてるな」
ぼんやりとしているイメージがあったのだが、そんなこともないのだろうか。
「……お母さんにも、しっかりしてるって……言われました」
「そうか」
自慢気に話す聖は子供らしくて微笑ましいものを感じる。
「……一週間くらい、お母さんと……お話して……男の子一人と、女の子一人希望で……決定、です。名前は……まだ、です」
「ごめん、なんの話?」
「……わくわく、です……ね?」
意味は分からなかった。
だが、わくわくはしないがぞくぞくとしたなにかが背中を奔った。
聖の視線が俺の部屋を彷徨う。
彼女の視線の先にはクールタチバナポスター。
一つ、二つ。
じぃっと聖はクールタチバナポスターを凝視する。
部屋にはそれ以外にも各種アイドルグッズがゴロゴロしている。
「……すき、なんです、か?」
「あぁ」
否定すまい。というか、否定出来るはずがなかった。
「……そう、ですか」
ぼんやりとした瞳、寝起きだからか、少し眠たげな顔付き。
「……わたしも、すき、です」
「そうか。仲間だな」
「……はい。相思相愛、ですね」
「……アイドルのこと。アイドルのことだよな!」
聖はもそり、と再びトーストの端に噛みつく。
それから、再びの長い咀嚼をしてから再び開いた。
「…………黒と金、どっちが好き……ですか?」
「ん、えっ……黒かな?」
「……やっぱり、すきじゃない、です」
会話のペースが掴めない!
「……だけど、少し意外だったな」
思わずといったふうに漏らした言葉だった。
「なにがです……か?」
どうやら聞こえようで、聖は小首を傾げてみせる。
「もっと拒絶されるかと思った」
世間的に、彼女たちは大手を振って受け入れられる存在ではない。
そこから抜け出せるものも居るが、稀だ。
そして、培われたイメージと先入観というのはどこまでも強大である。
イロモノである。奇をてらっている。媚を売っている。
そんなイメージ。それは当たっていたり、ハズレていたりする。
子供は素直だ。
それでも、あるがままを受け止められることも稀だ。
気持ち悪いんだよこのロリコン野郎と言われてもしょうがないのだ。
傷つくけど。泣くけど。
「好きなものを好きって言うのも世の中難しいんだよ。それでもって恐ろしい」
「……よく、分かりません」
「盗み聞きの元常習犯が言うんだ。間違いない」
聖が一瞬だけ、目を見開いてみせた。
それから、口元が小さく笑みをかたどる。
「ちょっと……わかりました。……ズルくて……臆病者……です、ね?」
間違ってはいないが面と向かって言われると凹む。
ふぅ、と一つ息を吐く。
聖はどこか機嫌良さそうに見える。
なにを話そうと思った訳ではない。
自然と俺は口を開いて、彼女に質問をぶつけていた。
「……ああやって、きらびやかな衣装を纏って歌って踊って、とかにキミも憧れたりするのか?」
聖は面食らったようにぱちぱち、とまばたきをして見せた。
重く感じる沈黙。
今更になって、この芳しくない反応に「なにを言ってるんだろうか」と自己嫌悪に陥りそうになった。
「……」
聖はなぜかクールタチバナポスターへと瞳を向ける。
つられるように俺もポスターへと視線をやる。
「お星様みたい……ですね」
それはそうだ。
体が小さくとも、彼女はアイドル。紛れも無くスターである。
迷うことなく断言出来る。肯定以外返事は存在しない。
聖は今度は真っ直ぐに俺に向き合う。
そして、口を開いた。
「……わたしは……あんまり、羨ましいと……思いません。……あの」
落胆。
この一言に尽きる。
加えて、少しだけ悩む素振りを見せてから聖は再び言ったのだ。
「……――プロデューサーさん」
と。
「……知ってたのか」
「……お名前で……検索、しました」
なぜ検索してしまうのか。
やっぱインターネットってこわいわ。
というか、ガッカリ感が凄い。
普通すぎて深刻感が皆無だ。
「……調べたら……たくさん、殺害予告……されてました……」
深刻だ。深刻すぎる。
というか、それ……俺知らなかった……。
ウソだろ……。マジでそんな恨まれてるの俺……。俺がなにをした……。
「……冗談、です」
「タチの悪い冗談はやめよう!ねっ!」
全然笑えないというか洒落にならない。
「……ごめんなさい。……たくさんは……なかった、です」
たくさんじゃない程度にはあったのかよ。
一人悲しみに囚われていると、来客を知らせるチャイムが鳴った。
「……行ってきます」
「あぁ、ありがとう」
どうせ、勧誘やら訪問販売だ。
そんなセールスやら訪問販売の相手をしている気分ではなかった。
続けてこつこつ、とドアを叩く音がする。
というか、やつらしつこすぎる。
聖がお父さんは留守ですくらい言ってくれれば楽に追っ払え――。
「橘です。昨日のトチ狂ったメールはなんですか。開けて――あっ、おはようございま――、えっだれですかアナタっ!?」
僅かな沈黙。
俺の脳みそは未曾有の事態に完全にフリーズして思考を放り投げていた。
「―――お嫁さん、です」
畜生。神様畜生。
一旦ここまで。
ひじりんと橘にひっぱりっこされた
聖はPがアイドルのプロデューサーだと知らなくて、Pも自分の肩書を名乗ってなかったのか
最高だよ!!!!きっと大物になれる!!
橘ちゃんってそういえばCoだったなぁ……って
橘ちゃんとひじりんに振り回されてぇ…
>>71の辛口レビューは嫉妬心も含まれてるせいだと思うとキュンキュンする
>昨日のトチ狂ったメールはなんですか
貴女の返信も大概だと思うの
なーんかこのありすどっかで見たことあるなあ~?
気のせいかな~?
慌てて玄関に出た俺を迎えたのは真顔の橘だった。
無味乾燥としたその瞳を暫く聖に向けていたが、その首がぐりんとこちらへと向きなおる。
「妹です」
「はっは。面白い冗談ですね」
死ぬほどこわい。
お前低音で「はっは」とかそんな笑い方するキャラじゃないだろ。
そんなん初めて見たわ。
ゆらり。と。
聖の脇を幽鬼のように通りすぎて俺の目前まで移動する。
その手はなぜか俺のズボンのベルトを引っ掴んでいる。
「ふふ」
橘の口元から怪しげな笑い声が漏れてくる。こえぇ。
「ふふふふ……ふふ…………」
時が凍ったようだ。
実際は十秒も経っていないのだろうが、なぜか俺のズボンのベルトを引っ掴んで笑うコイツはただひたすらに恐ろしかった。
「…………ふぅ」
笑みが止まる。
橘が顔を上げ、俺の顔を見つめる。
笑顔だった。満面の笑顔だった。
美しい。とびきり・びゅーりほー!なのです。
突如笑みを湛えていた橘の表情が歪む。
おぉ、なんという……、お怒りじゃ。黒ありす様の降臨じゃ。
大地は割れ、川は溢れ、村が災禍に見舞われてしまう。
「あ、あほなんですかぁぁぁぁ!!」
ありすが怒りの咆哮をあげ、俺の脳内のファンタジー世界で髭を生やした老人が悲壮に塗れた表情で村長キャラの老人が死亡フラグを撒く。
突如、俺は前に引っ張られた。
「私と変わらない歳じゃないですか!私と変わらない歳じゃないですか!私と変わらない歳じゃないですか!私じゃないじゃないですか!私と変わらない歳じゃないですか!私と変わらない歳じゃないですか!私と変わらない歳じゃないですか!」
橘が俺のベルトを手前に引っ張っていた。
そして次はベルトを後ろに押し出され、俺は仰け反る。
引っ張られる、押し出される。……引っ張られる。
ちょっと待って、千切れる!ベルト千切れる!あと、こける!
追加分でした。
おやすみ。
おやおや
最高でしかない
おっと、そっちの姫はこちらで預からせてもらおうか
それはともかくさりげなく本音がもれる橘カワイイ
果たして橘さんはダイナマイトボデイの持ち主であるひじりんに勝てるのか!?
待て、起きて泣かされてメールして返信きて……それが前日?
既に雨の中聖が来てから二日経っているのか……
>>79
誤
「橘です。昨日のトチ狂ったメールはなんですか。開けて――あっ、おはようございま――、えっだれですかアナタっ!?」
正
「橘です。朝っぱらから、あのトチ狂ったメールはなんですか。開けて――あっ、おはようございま――、えっだれですかアナタっ!?」
>>87
誤
ありすが怒りの咆哮をあげ、俺の脳内のファンタジー世界で髭を生やした老人が悲壮に塗れた表情で村長キャラの老人が死亡フラグを撒く。
正
ありすが怒りの咆哮をあげ、俺の脳内のファンタジー世界っぽい真っ白な髭を生やした村長キャラの老人が悲壮な死亡フラグを撒く。
指摘ありがとうございます。
なんでもしまむら。
興奮に染まる頬。
強い意志の込められた瞳。
「ふぅー!ふぅーー!」
俺を勢いのままに思う存分揺さぶった橘の息は荒い。
ぜーはーと吐かれる吐息。
鋭い視線。
「……」
なぜだか橘の姿が尻尾をピンと伸ばし、全身の毛を逆立たせる猫のように見える。
なぜだろうか。どことなく愛らしい。
造形が良いとキレていてもイメージが全然違うのだから得だと思う。
「……なに笑ってるんですか」
理解しがたいものを見るような目で橘は俺を見ている。
「いや」
「……そうですか。少し、冷静になりました。きっとこの子はプロデューサーの本質を理解していないから懐いているんですね。大丈夫です。えぇ、大丈夫ですとも」
ぶつぶつ、と橘はとてつもなく失礼なこと言い出した。
橘が振り返り、聖と向き合う。
どことなくほんわかとした表情の聖に、一瞬だけ息を詰まらせてから橘は口を開く。
「そこの見知らぬ少女さん!」
「……聖です。望月、聖です」
「も、望月さん!」
「……ちょっと、待って、ください」
「えっ、あっ。はい」
――ふっ、と聖を包む空気が冷える。
真剣な瞳だった。
これまで一度も見たことのないような真摯な目。
突如纏う空気を変えた聖の様子にこくり、と橘の喉が鳴る。
「……いえ」
それだけ口にして、聖はまた黙る。
かち、かちと掛け時計の時計の針の動く音がやけに耳につく。
暫くして、聖は再び口を開いた。
「……お嫁さんなので、この苗字だと……変ですね。……聖で、いいです」
「散々悩んで言うことがそれなんですか!?」
「……法的に、変わるのは……もっと後なので、望月でも……良かったかもしれません」
「私、無意味に待たされて緊張したんですか!?」
「……どっちが……いいです、か?」
「本当に私が決めなくちゃいけないことなんですかそれ!?」
逃げ帰るように橘は再び俺に向き直る。
なぜか濡れた瞳、というか涙目だった。
「プロデューサー!この子変な子です!凄く変な子です!」
ですよね。
「……聖さん。考えなおした方がいいです」
結局、苗字ではくそっちに決めたらしい。
「この男、大人のクセに泣き虫です。みっともないですよ」
「……かわいいですよ、ね?」
「……この男、アホですよ」
「……ちょろ、かわ?」
首を傾げる聖。
こめかみに手を当てて重苦しい溜息を吐く。
「その歳でだめんずが……可哀想に……」
それは橘が聖に向けるソレは哀れみの視線だった。
人様をだめんず扱いするのはやめろ。
そもそも、だめんずって言葉が流行ったのお前の歳じゃないから。
「……違います」
すっ、と聖はそっと橘の近くに寄り、なにごとかを呟く。
その言葉が終わった瞬間、なぜか橘はずざざっと勢いよく後退する。
「プロデューサー……。いえ、その……世の中に理解の及ばないものってやっぱり……あるんですね。いえ……本当に……」
そう言う橘の瞳はなぜか濁っていた。
◇
――あのひとが、わたしの言葉で……泣いて、わたしの言葉で……笑う……。あのひとの涙はわたしのせい、笑顔はわたしの成果……どっちでも、せなかがぞくぞくってします、よね?
一旦ここまで。
おやすみ。
こええよww
あとこの橘、駄サンタで見たぞww
>>98
あの時の橘はもうちょっと素直(当社比三割増し)だったから……
>>98 駄サンタの人だったのか! なんか既視感あったけど納得したわ
橘の不満気な表情が俺を真っ直ぐに向けられている。
キッ、と暫く不機嫌そうな瞳、開きそうになる橘の口。
だが、それも途中で止まる。
澄ました顔(多分)をキープしながら背中で冷や汗を流す。
「……いいですか」
ようやく口を開いた橘はやれやれと言わんばかりの口ぶりで小さな溜息を吐いた。
そして、そのほっそりとした両足を摺り合わせ、俯きながら喋りだした。
なぜかその様子は先程までの不機嫌とは打って変わって、もじもじとしたものに見える。
「……その、寄り道をしている時間はないはずです」
むんず、とシャツの端を掴まれる。
下を向いたままの橘の頬はやや赤い気がする。
「……あなたは私のプロデューサーです……から、その……」
シャツの袖を掴んだまま、反対の手で自らの頬を掻く橘。
突然勢い良く、シャツが引っ張られてよろめく。
ようやく顔をあげた橘の顔が視界に大きく映る。
「……こう、私のアイドルとしての終着点的なものに辿り着いたらですね、何年も掛かると思いますけど……。わ、私は一人で歩けますけど!あ、あなたが時々手を引いてくれて……も、……た、沢山時間が必要です!から、その頃には私もいい感じの大人で、あなたもそろそろそういう歳じゃなくなっちゃうのも可哀想かなって、まぁ、ご、五年くらいでしょうか?五年も十年も五十年も変わらないからそれだけ一緒に居たら百年くらいちゅいかしても変わらないっていうか、いいれすよ?もうちょっと一緒に居てあげてみょっ?」
橘の瞳の中にぐるぐるうずまきが見える気がする。
どうしよう、なに言ってんだか全然分かんない。
俺は振り向いて、聖と向き合う。
「通訳頼む」
「……すきすきだいすき、愛してます。大人になったら結婚しましょう」
エキサイト翻訳と同じくらい信用出来そうだ。
ああん可愛すぎかよぉ
橘も大事なところで噛むのかよww
完璧な意訳ですね
「……ふふふ、いいです。分かってました」
鬱々とした空気を纏う橘が俺に背を向けたまま壁に指先を這わせ、なにかをなぞる。
「そうですよね。私、面倒くさいですよね。……えぇ、分かってます。分かってますよーだぁ」
「の」の字でもなぞっているのかと思えばよく見たら「乃々」の字だこれ。
森久保ぉ……。
「なんででしょうね。なんでなんでしょうね。名前で呼ばないでくださいを未だに引きずって今更言い出せなくなったところから失敗だったんですかね。……言えないじゃないですか、今更……ふっ」
穏やかな朝がぼそぼそと少女の陰鬱な声で汚染されていく。
「……だいたい私、悪くなくなくないですか。なくなくなくないですか。頑張りましたよ、私。頑張ってますよ。がんばります!じゃなくてがんばったんですよ」
ありすが勢い良く顔を上げる。
鋭い視線が俺を射抜く。
「―――もっと!甘やかして、褒めてくださいよっ!!おばかっ!」
褒めろ、甘やかせとキレられたのは人生でも初めてかもしれない。
「いえ、その……分かっててやってますよね」
「……なんのこと、でしょう、か?」
体育座りで濁った目をした橘の頭を優しく撫でる掌。
割れ物を扱うような動きで掌は髪の毛を梳くように流れていく。
「……よし、よし。がんばりました、ね?」
「……」
橘は要求通りに褒めて、甘やかされていた。
同じ歳くらいの少女に。
望月聖に。
「泣いていいですか?」
「……どうぞ?」
俺を向いてそう告げるありすと、先んじてそれに答える聖。
もう既に半泣きだった。
そこまで橘がストレスを溜めていたとは思わなかった。
確かにストレスの溜まりやすい環境と仕事だ。
それにずっと気づかなかった自分が情けなくなって自然と項垂れる。
「ごめんな、橘」
「ちょっと待ってください。そういうヘビィな方向に話を進めないでください!」
「……大丈夫、です。分かってます、から」
聖が優しい微笑みを浮かべて再び橘の頭に手を這わせる。
「そりゃそうですよね!聖さんは間違いなく分かってやってますよね!?容赦なく潰しに掛かってますもんね!?」
「やっぱり歳の近い子の方が分かり合えるもんなんだよな」
「そういう意味では言ってないですっ!」
友人っていいものだな。
羨ましいものだ。
ひじりんレベル高えな
◇
最近、週末になると決まって小さなお客さんが訪ねてくる。
金色の髪に赤茶の瞳。
見慣れた長い黒髪の少女、橘がTVモニターの向こう側で歌う。
聖はそれをただただじっと眺めている。
「お星様みたい、ですね」
どこかで聞いたことのあるセリフ。
「本人の前でそんなこと言うんですか」
呆れたように、それでも満更でもなさそうなのは橘。
もっとも、そちらの橘はTVモニターの中ではなく、聖の隣に座っているのだが。
「……手が届かないから、お星様。……ずっと、一人で輝くお星様、でしょうか……。寂しい、ですね……」
「本人の前で薄ぼんやりとした将来への不安を煽るのやめませんか!?」
「わたしたちは、地上からいつも……見上げています……がんばって、ください」
「わたしたちってプロデューサーはこっち側じゃないですか!?地上サイドなんですか!?」
聖はTVから目を外し、俺へと目を向ける。
ゆっくりと立ち上がり、俺の前まで歩いてきたかと思うと、なぜか俺の手を小さな掌でそっと包み込む。
「……お星様じゃ、できないです、ね?」
くすり、と悪戯染みた笑み。
一瞬だけ心臓が跳ねる。落ち着け、俺はロリコンじゃない。
「……お星様にはなれると思うんだけどな」
ヘラヘラとそんなことを告げて薄っぺらな笑みを浮かべてみる。
だが、どうしてだが、そんなものはとっくに見透かされている気がしてならない。
「……それなら、交換、しましょ?」
これも聞いたことのあるセリフだ。
「……わたしの、声と、あなたのぜんぶ。とりかえっこ。あなたの為に歌って、あなたが望むならお星様に……。なれます、か?」
冗談を言っている目ではなかった。
出来れば冗談であって欲しかった。
そもそも俺だけの為に歌うと言っている子がお星様(アイドル)になれるのか。
その時、果たして俺はシャバに居られるのか。
「ちょっと待ってください!」
人生について考えていると、今度は聖を押しのけるようにして、橘が俺の前に立つ。
「あなたと夢を追う相棒の立ち位置は私ですよね!?そうですよねっ!」
「……夫をよろしくおねがいします、ね?」
「なんでそこであっさり退いた上に、勝利した後のシミュレーションを始めるんですか!?」
――好きなものを好きって言うのも世の中難しいんだよ。
いつだか聖にそんなことを言った気がする。
「プロデューサーはし、しばらくは私と一緒でずっと私と一緒で忙しいので、そういうことはないんですっ」
「……むむ」
じっと視線を交わす二人の少女。
「プ、プロデューサーはずっと私と一緒に居てくれますよね?」
「……大丈夫、です。……私がずっと側に居てあげます、ね?」
頬を苺のように真っ赤にした橘。
人差し指を唇に当てて、小悪魔チックに微笑む聖。
明日はどこにあるのだろうか。
好きなものを好きと、俺は――言えるのだろうか。
俺は未だにTVモニターの中で歌声を響かせる橘へと遠い目を投げかけた。
モバP「望月聖にプロポーズされた」 END
これにて完結。
やりたいことやったのでおしまい。
超遅筆なのに根気強く付き合ってくれた方々に深く感謝。
あんたの作風ホント好き
地の文とセリフのバランスとか見習いたい
乙
いつものオチバナだったなww
駄サンタの時も思ったがキャラ立ちが強烈で可愛らしい
ついでにニコ動のSS企画に投げてきたら?
乙です。
橘の立場なし… ふふっ
新しいひじりんだったおつおつ
これはいいものだ…
乙
聖好きになった
トリップとかはつけないのかね
今回は特に乗取りみたいなのは出なかったけども
>>112
これ明日締め切りなんですね
せっかくなので投げてきます
トリップは必要そうなら昔の掘り出してくるかも
これはいいものだ…
過去作教えてもらうことってできますか?
駄サンタは読みました
ニコニコにSS企画なんてあったっけ?
素晴らしかった……
どこで着地するのか気になってたけどここで締めるのは良かったって思いました
>>119
駆け出しな武内Pのパラレル日記
モバP「橘さんな日々」
関裕美「た、短篇集?」
関裕美「プロデューサーさんの日記…?」
関裕美「菜々さんから誕生日に貰った兎のぬいぐるみが…」
関裕美「奈緒さんの誕生日?」向井拓海「おう」
関裕美「願い事手帳」
五十嵐響子「朝起きたら犬だったんです」
古いのとか多いけどこのへんはそんなに変なのはないと思います(願望)
>>122
ありがとうございます
次回作も期待してます
駄サンタ抜けてない?
犬響子、好き
>>101
ひじりんは舞城王太郎でも読んだんか
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