響「臙脂色と浅葱色の研究」 (15)

※オリジナルキャラ、オリジナル設定アリ
※タイトルの元ネタと内容はあまり関係ありません
※ゆっくり、気まぐれ更新

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わたしが初めてその娘と会ったのは、アイドルとしてデビューするよりも前のことだった。

事務所のオーディションを受けて、入所通知を受け取って、ワクワクドキドキで初めて事務所に向かっていた、あの気持ちは忘れられない。
沖縄を離れて東京に来て、まだ右も左も電車の乗り方もわからない頃だったから、内心ものすごく不安だったけど、それでもやっぱり、これから先に輝かしい、キラキラとした日々が拓けていると思うと、不安も帳消しになる、そんな天秤が不安定に揺れるような気分は、あのとき以外そうそう味わったことはない。

そんな気分だったから、その娘と会ったときのことをまざまざと思い出せるのだろう。

こういう話し方をすると、まるでわたしとその娘が初対面したのは事務所でだったかのように思われるかもしれないけど、実際のところはそうじゃない。
わたしとその娘とは、その少し前に出会ったのだ。

恥ずかしい話、わたしは初出社の日、完全に迷子になってしまった。
それもこれも、東京の駅がやけに迷路みたいになっているのが悪いのだ。
東口に行くために西口の反対方向へ進むのは当然の話で、そこには東南口があるなんて、誰が思うのだろう。

>オリジナルキャラ、オリジナル設定アリ
だったらアイマスの必要ないからオリジナルでやれよ

一部なだけで全部じゃないんでしょ
それすら分からない鳥頭には向いてないんじゃないかな

>>1
響貴最高だから頼むぞ

見通しを完全に外されたわたしは、すっかり途方に暮れてしまった。
自分はもうここから出られないのだと、そんな気持ちにもなった。
また、手近な改札から出たところで、わたしは間違いなく動けなくなっただろう。
駅から出てしまえば、そこは大都会の大海の真ん中だ。
美ら海じゃない、遊泳禁止の大時化の海だ。
わたしは東京の海で溺れてしまうのだ、と感じた。
心なしか息苦しくさえ思った。
こうなってしまうと、途端にわたしは帰りたくなってしまった。
わたしは故郷にいる家族を思い浮かべた。
想像の中の家族は、優しく微笑んでいる。
それは心の折れたわたしには残酷な笑顔だった。
「アンマー……。にいにい……」
わたしは目に涙が溢れてくるのを自覚した。
「自分、東京でトップアイドルになってくるぞ!」
そう大見得を切った自分が、一人では何もできない、それが情けなくて、泣けてきた。

そんなときだった。
「すみません」
後ろから声をかけられた。女の人の声だ。
「は、はいっ」
涙目を見られたくなくて、急いで目を擦ってから振り向く。

そこには、今まで見たことがないような人がいた。
会ったことがない、という意味じゃなく、こんな風貌の人には一度たりとも会ったことがない、という感じだった。
腰まで伸びた綺麗な銀髪に、それを強調するかのような長身。
わたしの身長が150㎝代前半だから、少なくとも170㎝近くはある。
その顔を見上げると、これまた地元では見たことがないほど綺麗だ。
女のわたしが感心してしまうのだから、よっぽど綺麗なのだろう。

いくらここが東京とはいえ、こんな人がいるとは露ほども思っていなかったわたしは、その人のことをもしや外国人なのではないかとさえ思った。
地元では外国人観光客やアメリカ軍人に出くわすことはあったけれど、面と向かって話した経験はそれほど多くない。
動物とコミュニケーションをとるのは誰よりも得意だけれど、外国人相手でもそれは通用するのだろうか。

わたしが独りで、内心あたふたしていると、
「あの……」
目の前のその人は再び口を開く。
ん? 日本語じゃないか。
というか、よく考えなくても、さっき話しかけられたときも日本語だったのだから、あわてる必要なんかないのだ。
そう考えると、途端にわたしは冷静になる。
とりあえず、こんな非凡な風貌をした人がわたしに用があるというのが不思議だったけれど、話だけでも聴いてみようじゃないか。

「……東口はどちらでしょうか?」

えっ。

>>4
よお鳥頭(笑)

「お恥ずかしい話なのですが、迷ってしまいまして……。東口、という所に行けば、一先ずはここから出られるはずなのですが……」
わたしはさいぜんのパニックから、また一つ前のパニックへとさらに遡った。
何故よりによって、そんな質問をするのにわたしを選んでしまったのか。
わたしはそんなに、親切そうに見えるのだろうか。
目の前の美女は、まるでおもちゃの隠し場所を忘れた犬のような顔をしていた。
わたしもそんな顔がしたかった。

「えーっと、ひ、東口ね! うん、あっちのほうじゃないかな! あっちのほうだと思うぞ!」
わたしは適当な方向を指さした。
自分でも、自分の指の先に東口があるかどうかなど判らなかった。
というか、むしろないと思っていた。

「……申し訳ありません」
「えっ!? な、なにが?」
突然謝られて、わたしは困惑した。
あまりにも唐突で、向こうが何に対して謝ったのか、さっぱり判らなかった。
「あなたも東口の場所をご存じでないのですね。そうとは知らず、困らせてしまいました……。とても、申し訳ないことをしてしまいました」
相手は、今度は叱られた犬のような顔をした。

改行しろよ

「そ、そんなことないぞ!」
わたしは思わず否定した。
今になってみると何故否定したのか、正確な理由はわからないけれど、多分恥ずかしかったのだ。
出口を見失って、心の折れた自分さえも見透かされてしまうのを、わたしは恥じたのだろう。

抗弁するわたしを見て、相手はしかし苦笑いのような表情を浮かべた。
「いいのです。そこまで気を遣ってくださらなくても」
気を遣っているわけではない。
それでも相手がそのように表現したのは、それこそ気遣いからなのだろう。
わたしはそう思った途端に、申し訳ない気持ちになった。
何も言えなくなってしまった。
わたしは思わず下を向いて、俯いた姿勢で止まった。

続き無いのかい

「心配しなくとも大丈夫です」
相手は言った。
その顔は慈愛に満ちていて、わたしは不思議と心の中が安心感で満たされていくのを感じた。

「あなたはどちらに向かうのですか?」
「えっ、じ、自分も東口だけど」
「なんと、あなたもだったのですね」
美女は晴れやかな顔をした。
「それでは、共に行きましょう。あなたとわたしと、二人ならばすぐにでも辿りつけるでしょう」

名案、というより当然の帰結だった。
それを自分から言う勇気のなかったわたしには、目の前の女性が後光さえ湛えて見えて、本物の女神のように思えてきた。

相手は、わたしの返答を待たずして、既にすたすたと歩き始めていた。
「あ、待って!」
わたしの声が聞こえたかは判らなかったけれど、互いの距離は縮まりこそすれ拡がりはしなかった。
わたしが後姿に向かって駆けていくと、ほんの数秒で隣に並ぶことができた。
足は速いほうなのだ。

歩きながら、
「そう言えば、あなたの名前を聞いていませんでしたね」
と相手が言った。
「わたくしから名乗るべきですね……。わたくしは四条貴音と申します」

しじょうたかね。そのとき咄嗟に漢字は浮かばなかったけれど、わたしはどこか高貴さを感じた。

「自分は、我那覇響」
いつもなら、その後に『よろしくね』だとか続けるのだけれど、今は遠慮した。
この人とどれだけの付き合いになるのか、まだわからないものを、『よろしくね』などと言ってしまったら、言葉は空虚に浮かぶだけだ。
『よろしくね』とは、相手の顔に向けて言うべき言葉だ。
直ぐに別れてしまうかもしれない相手の、背を向けて去ってしまうかもしれないその背中に向けて言うべき言葉ではないのだ。

「ガナハ……というとあなたは、琉球――沖縄の人なのですね」
貴音は、わたしの名前を聞いて、直ぐにそう察した。
本土にはこういう苗字は滅多にいないという、それは本当だったらしい。
「そうだよ。ところで、シジョウさんは、どこの人なの?」
「出身地ですか?」
そう言ってから貴音はちょっと思案したようすを見せてから、ややあって、
「……とっぷしぃくれっとです」
そう答えて、いたずらっぽく笑った。

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